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特許7478519無線中継装置およびそれを用いる無線LANシステムならびに無線中継方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】無線中継装置およびそれを用いる無線LANシステムならびに無線中継方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 36/38 20090101AFI20240425BHJP
   H04W 16/14 20090101ALI20240425BHJP
   H04W 48/00 20090101ALI20240425BHJP
   H04W 76/20 20180101ALI20240425BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20240425BHJP
【FI】
H04W36/38
H04W16/14
H04W48/00 110
H04W76/20
H04W84/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019103130
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020198518
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-02-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】川崎 浩
(72)【発明者】
【氏名】冨田 卓司
【合議体】
【審判長】廣川 浩
【審判官】圓道 浩史
【審判官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/168197(WO,A1)
【文献】特開2017-163236(JP,A)
【文献】特開2005-252981(JP,A)
【文献】特開2008-11387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
3GPP TSG SA WG1-4
3GPP TSG CT WG1,4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体で運用されて相互に情報を通信可能に構成される複数の無線中継親機と、前記無線中継親機ごとに無線接続される1または複数の無線中継子機とを備えて構成される無線LANシステムに、前記無線中継親機として用いられる無線中継装置であって、
電波状況に応じてチャンネル移行を判定する判定部と、
前記判定部で前記チャンネル移行が判定されると、前記一体で運用される他の無線中継装置の情報を、自身に接続されている前記無線中継子機に与えて該無線中継子機の接続先を切換えさせる切換部と、
前記チャンネル移行が完了すると、前記一体で運用される他の無線中継装置にその移行完了を送信する完了送信部と、
前記チャンネルの移行完了の連絡を受けると、自身に接続されている前記無線中継子機のうち、前記切換部から、自身に接続されている前記一体で運用される元の無線中継装置の前記切換部によって接続先を切換えさせられた前記無線中継子機にのみ、前記一体で運用される元の無線中継装置の情報を与えさせることで、該無線中継子機の接続先を前記一体で運用される元の無線中継装置に再度切換えさせる完了受信部と
を含むことを特徴とする無線中継装置。
【請求項2】
前記無線中継親機と無線中継子機とは、ビル間通信ユニットを構成することを特徴とする請求項1記載の無線中継装置。
【請求項3】
前記請求項1記載の無線中継装置を前記無線中継親機として用い、前記無線中継子機は、前記他の無線中継装置の情報に応じて、接続先の無線中継親機を切換える接続親機決定制御部を備えることを特徴とする無線LANシステム。
【請求項4】
一体で運用されて相互に情報を通信可能に構成される複数の無線中継親機と、前記無線中継親機ごとに無線接続される1または複数の無線中継子機とを備えて構成される無線LANシステムに、前記無線中継親機として用いられる無線中継装置における無線中継方法であって、
電波状況に応じてチャンネル移行を判定する判定ステップと、
前記判定ステップで前記チャンネル移行が判定されると、前記一体で運用される他の無線中継装置の情報を、
自身に接続されている前記無線中継子機に与えて該無線中継子機の接続先を切換えさせる切換ステップと、
前記チャンネル移行が完了すると、前記一体で運用される他の無線中継装置にその移行完了を送信する完了送信ステップと、
前記チャンネルの移行完了の連絡を受けると、自身に接続されている前記無線中継子機のうち、前記切換部から、自身に接続されている前記一体で運用される元の無線中継装置の前記切換部によって接続先を切換えさせられた前記無線中継子機にのみ、前記一体で運用される元の無線中継装置の情報を与えさせることで、該無線中継子機の接続先を前記一体で運用される元の無線中継装置に再度切換えさせる完了受信ステップとを含むことを特徴とする無線中継方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線中継装置およびそれを用いる無線LANシステムならびに無線中継方法に関し、特に無線LANシステムは、無線中継親機となり、複数機が一体で運用される上記の無線中継装置と、前記無線中継親機に無線接続される1または複数の無線中継子機と、好ましくは前記無線中継子機に接続される多数の有線または無線の通信端末とを備えて構成される無線LANシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線LANシステムで使用される周波数は、混雑の回避や、より高速なデータ転送を可能にするために、当初の2.4GHzの帯域に加えて、5GHzの帯域が使用されるようになっている。しかしながら、その5GHzの帯域は、従来から、気象レーダーなどの他の用途でも、既に使用されている。
【0003】
そのため、たとえば無線LANのIEEE802.11a規格では、W53やW56と称される周波数帯(チャンネル)を使用する場合、前記気象レーダーなどの他の用途との干渉を防ぐために、DFS(Dynamic Frequency Selection)と呼ばれる制御が行われている。前記DFS制御は、前記他の用途での電波を検知すると、チャンネル移行して干渉を回避するものであり、さらに、移行先のチャンネルでも、前記他の用途での電波が検知されないかどうかを、所定期間監視して判定するCAC(Channel Availability Check)も行われる。したがって、これらの間、無線LANの通信ができなくなる。また、CACを行った際、再度、前記他の用途での電波が検知されると、さらに別のチャンネルを捜す作業を繰返すことになり、その間は引続き、通信できない。
【0004】
そこで、特許文献1には、無線LANアクセスポイントに、それぞれ異なるSSIDを持った複数の無線インターフェイスを備え、気象レーダーによって一の無線インターフェイスが使用していたチャンネルが使えなくなると、他の無線インターフェイスが、1つの無線インターフェイスで複数のSSIDを扱うことのできるマルチSSID機能によって、使えなくなった無線インターフェイスのSSIDを提供することで、配下の通信端末のセッションが途切れないようにした無線LANアクセスポイントが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-100210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術では、通信端末の接続先は同じSSIDであるが、その同じSSIDを捜すために周波数をスキャンする必要があり、再接続に時間が掛るという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、無線中継装置を無線中継親機として、その無線中継親機に無線中継子機が接続される場合に、無線中継親機がDFS、CACによって現在使用しているチャンネルが使用不可となり、無線LANの通信ができなくなっても、無線中継子機側の通信端末などの通信が可能になる無線中継装置およびそれを用いる無線LANシステムならびに無線中継方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線中継装置は、一体で運用されて相互に情報を通信可能に構成される複数の無線中継親機と、前記無線中継親機ごとに無線接続される1または複数の無線中継子機とを備えて構成される無線LANシステムに、前記無線中継親機として用いられる無線中継装置であって、電波状況に応じてチャンネル移行を判定する判定部と、前記判定部で前記チャンネル移行が判定されると、前記一体で運用される他の無線中継装置の情報を、自身に接続されている前記無線中継子機に与えて該無線中継子機の接続先を切換えさせる切換部と、前記チャンネル移行が完了すると、前記一体で運用される他の無線中継装置にその移行完了を送信する完了送信部と、前記チャンネルの移行完了の連絡を受けると、自身に接続されている前記無線中継子機のうち、前記切換部から、自身に接続されている前記一体で運用される元の無線中継装置の前記切換部によって接続先を切換えさせられた前記無線中継子機にのみ、前記一体で運用される元の無線中継装置の情報を与えさせることで、該無線中継子機の接続先を前記一体で運用される元の無線中継装置に再度切換えさせる完了受信部とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の無線中継方法は、一体で運用されて相互に情報を通信可能に構成される複数の無線中継親機と、前記無線中継親機ごとに無線接続される1または複数の無線中継子機とを備えて構成される無線LANシステムに、前記無線中継親機として用いられる無線中継装置における無線中継方法であって、電波状況に応じてチャンネル移行を判定する判定ステップと、前記判定ステップで前記チャンネル移行が判定されると、前記一体で運用される他の無線中継装置の情報を、自身に接続されている前記無線中継子機に与えて該無線中継子機の接続先を切換えさせる切換ステップと、前記チャンネル移行が完了すると、前記一体で運用される他の無線中継装置にその移行完了を送信する完了送信ステップと、前記チャンネルの移行完了の連絡を受けると、自身に接続されている前記無線中継子機のうち、前記切換部から、自身に接続されている前記一体で運用される元の無線中継装置の前記切換部によって接続先を切換えさせられた前記無線中継子機にのみ、前記一体で運用される元の無線中継装置の情報を与えさせることで、該無線中継子機の接続先を前記一体で運用される元の無線中継装置に再度切換えさせる完了受信ステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、無線中継親機と、該無線中継親機に無線接続される1または複数の無線中継子機と、好ましくは、前記無線中継子機に接続される多数の通信端末とを備えて構成される無線LANシステムに、前記無線中継親機として用いられる無線中継装置およびその無線中継方法において、たとえば無線LANのIEEE802.11a規格におけるW53やW56の周波数帯(チャンネル)を使用し、気象レーダーとの干渉を防ぐためのDFS(Dynamic Frequency Selection)制御を行う場合のように、その無線中継親機が電波状況に応じてチャンネル移行しようとすると、無線中継子機や、該無線中継子機の配下の通信端末は、そのチャンネルで他の用途の電波が検知されるか否かを判定するCAC(Channel Availability Check)の間、通信ができなくなる。また、CACを行った際、再度、他の用途の電波が検知されると、さらに別のチャンネルを捜す作業を繰返すことになり、その間、通信できなくなる。
【0011】
そこで、本発明では、無線中継親機は、複数機が一体で運用され、相互に情報を通信可能に構成されており、通常は、干渉を避けるため、互いに可能な限り離れたチャンネルを選択するように調整されている。好ましくは、一体で運用される無線中継親機同士が、特別なコントローラ無しで、互いの通信端末のトラヒック量・電波強度・通信エラー状況などを交換し、自律的に負荷分散を行い、通信状態を最適にすることができるようになっている。
【0012】
そして、判定ステップにおいて、判定部が前記電波状況に応じてチャンネル移行を判定すると、通常は無線中継子機が、スキャンによって親局となる無線中継親機を捜すことになるところ、本発明では、切換ステップにおいて、切換部が、前記一体で運用される他の無線中継親機の情報を無線中継子機に与えて、つまり紹介を行い、該無線中継子機の接続先の無線中継親機を切換え(ローミング)させる。
【0013】
したがって、無線中継親機がDFS、CACによって無線中継子機との間の無線LANの通信ができなくなっても、無線中継子機は、サーチすることなく、他の無線中継親機に接続して、自身や、配下の多数の通信端末は、連続して(切れ目無く)、ネットワークに接続できるようになる。
【0016】
また、上記の構成によれば、元の無線中継親機のチャンネル移行が完了すると、完了送信ステップにおいて、完了送信部が他の無線中継親機にその移行完了を送信し、その連絡を他の無線中継装置の完了受信部が受けると、完了受信ステップにおいて、前記切換部から、前記無線中継子機に、元の無線中継親機の情報を与えさせ、その無線中継子機の接続先の無線中継親機を元の無線中継親機に再度切換えさせる。
【0017】
したがって、一旦、他の無線中継親機に接続先を移行しても、元の無線中継親機が中継可能になると、無線中継子機に、元の無線中継親機への接続を促し、所謂切戻しの動作を行わせることで、他の無線中継親機のトラヒックが過剰になったままとなるような不具合も無い。
【0018】
また、本発明の無線中継装置では、前記無線中継親機と無線中継子機とは、ビル間通信ユニットを構成することを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、ビル間通信ユニットは、社内ネットワークなどを構成するので、接続に障害が出ないようにすることは、効果的で、好適である。
【0020】
さらにまた、本発明の無線LANシステムは、前記の無線中継装置を前記無線中継親機として用い、前記無線中継子機は、前記他の無線中継装置の情報に応じて、接続先の無線中継親機を切換える接続親機決定制御部を備えることを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、無線LANシステムにおいて、DFS、CACによる無線中継親機のチャンネル切換に伴う無線中継子機の接続先の切換えに対して、パケットを切れ目無く転送できるシステムを実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の無線中継装置および無線中継方法は、以上のように、無線中継親機となる無線中継装置において、電波状況に応じてチャンネル移行する際に、一体で運用される他の無線中継装置の情報を無線中継子機に与えて、該無線中継子機を、サーチさせることなく接続先を切換えさせる。
【0023】
それゆえ、無線中継子機自身や、その配下の通信端末が、連続して(切れ目無く)、ネットワークに接続できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の一形態に係る無線中継装置である無線中継親機を用いる無線LANシステムの構成を示すブロック図である。
図2】前記無線中継親機による無線中継子機の切換え動作を説明するための図である。
図3図2のフローチャートである。
図4】無線中継親機のDFS制御による無線中継子機の親機切換え動作を説明するためのフローチャートであり、従来の動作を示す。
図5】無線中継親機のDFS制御による無線中継子機の親機切換え動作を説明するためのフローチャートであり、本実施形態の動作を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施の一形態の無線LANシステム10のブロック図である。この無線LANシステム10は、本発明の実施の一形態の無線中継装置である無線中継親機1,2と、無線中継子機3とを備えて構成される。この無線LANシステム10は、たとえばビル間を無線通信して、社内LANなどを構築するために好適に用いられる。
【0026】
無線中継親機1,2は、有線LAN6を介して相互に通信可能に構成されるとともに、その有線LAN6から外部ネットワーク7に接続されている。無線中継親機2は、無線中継親機1と同様の構成であり、それらは無線通信エリアが相互に重なるように設置されて冗長構成を成すものであり、一体で運用され、またその同じエリアに3台以上が設置されてもよい。
【0027】
図1では図面の簡略化のために省略しているが、無線中継親機1,2の配下となる無線中継子機3は、1または複数であり、その無線中継子機3には、1または複数段のスイッチングハブ5を介して、有線、無線のネットワーク8が接続される。ネットワーク8には、図示しない多数の通信端末が接続される。無線中継子機3は、無線中継親機1,2と同様の構成の場合もあり、その場合、設定によって、親機になるか子機になるかは切換え可能である。
【0028】
したがって、ネットワーク8に接続される通信端末は、スイッチングハブ5および無線中継子機3から、無線中継親機1または2を介してネットワーク7に接続され、パケットの送受信が可能になっている。その無線中継子機3と無線中継親機1,2との間が、IEEE802.11規格などの無線LANによる接続である。また、ネットワーク8と通信端末との間は、前記IEEE802.11規格などの無線LANによる接続や、有線LANによる接続であってもよい。
【0029】
以下、無線中継親機1について説明し、無線中継親機2も同様に構成されている。無線中継親機1内では、有線LAN6側の有線LAN通信部11と、無線中継子機3側の無線通信部12との間でデータが転送されて、前記有線LAN6と無線中継子機3との間でパケットの双方向での送受信が可能になっている。無線中継親機1,2は、2機一対で運用され、そのペア親機通信部13が、有線LAN通信部11から有線LAN6を介して相互に情報を通信可能に構成されている。これによって、その対を成す無線中継親機1,2同士が、特別なコントローラ無しで、通常は、干渉を避けるため、互いに可能な限り離れたチャンネルを選択するように調整されているとともに、互いの通信端末のトラヒック量・電波強度・通信エラー状況などを交換し、自律的に負荷分散を行い、通信状態を最適にすることができるようになっている。
【0030】
そして、無線通信部12の通信には、2.45GHz帯と、前記5GHz帯とが用いられることがあり、該無線通信部12の電波状況は、レーダー検出部15でモニターされている。このレーダー検出部15が、前記IEEE802.11a規格におけるW53やW56の周波数帯(チャンネル)の使用時における気象レーダー波を検知すると、親機チャンネル決定制御部16が、干渉を防ぐためのDFS制御を実現するために、チャンネル移行を行う。
【0031】
その移行にあたっては、移行先のチャンネルでも、気象レーダー波が検知されないかどうかを判定するCACを、予め定める時間、たとえば1分間行わなければならず、またCAC中に再度レーダー波が検知された場合、レーダー検出部15から親機チャンネル決定制御部16は、さらに別のチャンネルを捜す作業を繰返すことになる。そのため、無線中継子機3自身およびその配下の通信端末は、その間、通信できなくなる。
【0032】
そこで注目すべきは、本実施形態の無線中継親機1は、無線通信部12に関連して、前記親機チャンネル決定制御部16と共に切換部を構成する子機切換先チャンネル通知送信部17が設けられている。判定部となるレーダー検出部15における判定ステップでレーダー波が検知されると、DFS制御により通信停止となるまでの猶予期間、たとえば10秒の間に、前記親機チャンネル決定制御部16は、切換ステップにおいて、前記ペア親機通信部13に予め記憶している他の無線中継親機2の情報(MACアドレスおよび使用チャンネル)を読出し、前記子機切換先チャンネル通知送信部17に与えて、無線通信部12から無線中継子機3へ送信する。つまり、無線中継子機3に、次に接続すべき先の紹介を行い、接続先を切換えさせる。これによって、無線中継子機3およびその配下の通信端末が、連続して(切れ目無く)、ネットワーク7に接続できるようにする。
【0033】
一方、無線中継子機3も、前述のように設定によって無線中継親機1,2となることも可能であるので、基本構成は類似しており、前記スイッチングハブ5からネットワーク8に接続される有線LAN通信部31と、無線中継親機1,2側の無線通信部32と、前述の接続先通知を受けるチャンネル通知受信部37とを備えて構成される。
【0034】
通常時は、後に詳述するように、無線通信部32内のスキャン制御部35が、予め定める周期で、無線中継親機からのビーコン信号のスキャンを行い、そのスキャンの結果に応じて、接続親機決定制御部36が、電波状況の良い無線中継親機を接続先に決定する。一方、上述のように、現在接続中の無線中継親機1から、新たな無線中継親機2の情報(MACアドレスおよび使用チャンネル)を、無線通信部32を介して、チャンネル通知受信部37が受信すると、接続親機決定制御部36が、その情報に従い、接続先の無線中継親機を参照符号1から2へ切換える。
【0035】
その様子を、図1に加えて、図2および図3を用いて説明する。図2は、無線中継親機1,2による無線中継子機3の切換え動作を説明するための図であり、図3は、そのフローチャートである。無線中継親機1,2は、2機一対で運用され、有線LAN6を介して、ペア親機通信部13が、相互に情報を通信可能に構成されている。そのため、その対を成す無線中継親機1,2同士は、特別なコントローラ無しで、ステップS11で通信(中継)を開始すると、通常は、干渉を避けるため、図2(a)で示すように、親機チャンネル決定制御部16によって、互いに可能な限り離れたチャンネルを選択するように調整されているとともに、互いの通信端末のトラヒック量・電波強度・通信エラー状況などを交換し、自律的に負荷分散を行い、通信状態を最適にすることができるようになっている。図2(a)では、無線中継子機3として、無線中継子機3A,3B,3C,3Dの4台を示しており(以下、総称する際は、前記の参照符号3で示す)、無線中継子機3A,3Bが無線中継親機1の配下となっており、無線中継子機3C,3Dが無線中継親機2の配下となっている。
【0036】
そして、ステップS12において、図2(b)の参照符号F1で示すように、レーダー検出部15がレーダー波を検出し、親機チャンネル決定制御部16がチャンネル移行を判定すると、通常は、配下にある無線中継子機3A,3Bは、通信途絶となり、スキャンによって親局となる無線中継親機2を捜すことになる。これに対して、本実施形態では、ステップS13で示すように、子機切換先チャンネル通知送信部17が、無線通信部12から、対を成すもう1つの無線中継親機2の情報を乗せたビーコン信号を送信させ、無線中継子機3A,3Bの無線通信部32からチャンネル通知受信部37に、紹介を行う。これによって、ステップS21において、該無線中継子機3A,3Bがそれを受信すると、ステップS22において、参照符号F2で示すように、使用する無線中継親機を、参照符号1から参照符号2に切換える。
【0037】
その後、元の無線中継親機1において、ステップS14で、親機チャンネル決定制御部16によるチャンネル移行(DFS)が行われ、ステップS15で、レーダー検出部15によって、空きチャンネルの判定(CAC)が終了し、該親機チャンネル決定制御部16によるチャンネル移行が完了すると、ステップS16で、完了送信部となるペア親機通信部13が、参照符号F3で示すように、有線LAN通信部11から有線LAN6を介して、対を成すもう1つの無線中継親機2にその移行完了を送信する。
【0038】
その連絡を、もう1つの無線中継親機2において、有線LAN6から有線LAN通信部11を介して、完了受信部となるペア親機通信部13が受けると、ステップS31において、親機チャンネル決定制御部16は、無線通信部12を介して、先に切換えさせられた無線中継子機3A,3Bそれぞれに、対を成す元の無線中継親機1の情報を与え、ステップS23において、参照符号F4で示すように、それらの無線中継子機3A,3Bが使用する接続先を、元の無線中継親機1に再度切換えさせ、図2(a)の状態に戻す。
【0039】
このようにして、各無線中継子機3A,3B,3C,3Dの配下の多数の通信端末は、連続して(切れ目無く)、外部ネットワーク7に接続できるようになる。また、一旦、もう1つの無線中継親機(上述の例では2)に接続先を移行しても、元の無線中継親機(上述の例では1)が中継可能になると、無線中継子機(上述の例では3A,3B)に、元の無線中継親機(上述の例では1)への接続を促し、所謂切戻しの動作を行わせることで、もう1つの無線中継親機(上述の例では2)のトラヒックが、図2(b)のように過剰になったままとなるような不具合も無い。
【0040】
ここで、図4および図5を参照して、図2の無線中継親機1,2のDFS制御による無線中継子機3の親機切換え動作を比較する。図4で示す従来の切換え動作では、無線中継子機3が、接続している無線中継親機1がレーダー検出によってチャンネル移行し、外部ネットワーク7への接続が途絶された段階で、ステップS51において他の無線中継親機からのビーコン信号のスキャンを開始し、ステップS52においてチャンネル移動して、ステップS53で、そのチャンネルにおいてビーコン信号を受信すると、ステップS54において、接続を要求するプローブリクエストを送信する。ステップS55において、他の無線中継親機から、それに応答するプローブレスポンスを受信し、ステップS56において、元の無線中継親機1のチャンネル以外の全チャンネルについてスキャンを終了したか否かを判断し、終了していないときにはステップS52に戻ってスキャンを継続する。
【0041】
ステップS56において、全チャンネルのスキャンを終了しているとステップS57に移り、プローブレスポンスを受信したチャンネルの内、電波強度やトラヒックなど、最も条件の良い無線中継親機を選択して、ステップS58で、その無線中継親機に接続する。ステップS53で、ビーコン信号が受信されない場合は、ステップS59において、ステップS52のチャンネル移動から所定時間以内か否かを判断し、以内であればステップS53に戻って受信を継続し、タイムアウトであれば、ステップS56の全チャンネル完了判定を行う。
【0042】
一方、図5で示す本実施形態の切換え動作では、無線中継親機1がDFS制御によるチャンネル移行前に、ステップS61で、無線中継子機3は、切換わり先の無線中継親機2の情報を受信しており、ステップS62で、その情報に従いチャンネル移動する。ステップS63,S69では、ステップS53,S59と同様に、そのチャンネルにおいてビーコン信号を受信するまで待機し、受信するとステップS64で、そのままその無線中継親機2への接続を開始する。これに対して、ステップS59において、タイムアウトとなると、その無線中継親機2への接続は失敗したものと判定し、図4のステップS51~S59の、通常の接続手続を行う。
【0043】
したがって、図4図5とを比較すると、従来の切換え動作では、通信が途絶する無線中継親機1が使用していたチャンネル以外の全てのチャンネルのビーコン信号をスキャンする必要があるのに対して、本実施形態の切換え動作では、情報を受けたチャンネルのみのビーコン信号を受信すれば良く、通信が途絶する時間を、極めて小さくすることができる。
【0044】
このようにして、本実施形態の無線LANシステム10は、無線中継装置として上記のような無線中継親機1,2を用い、DFSなどによる無線中継親機1,2のチャンネル切換えなどに伴う無線中継子機3の接続先の切換えに対して、通信端末へのパケットを切れ目無く転送することができる。つまり、上述の無線LANシステム10は、無線中継子機3の接続先として、2機一対で運用される無線中継親機1,2を用い、たとえば、一方を常用とし、他方を非常用とするような冗長構成を実現することができる。冗長性を高める場合など、無線中継親機は、3台以上が一体で運用されてもよい。
【0045】
或いは、無線中継親機1,2は、その2機の運用で、常時は、負荷(通信端末)を分散するようにしてもよい。これによって、負荷(通信端末)の増大に対応しつつ、非常時に通信が途切れないシステムを実現することができる。
【0046】
また、無線中継装置1,2は、無線LANアクセスポイントのように屋内に設置される無線中継装置であってもよく、特に上述のように2機一対で運用される場合、ビル間通信を行うために屋外に設置される無線中継装置であってもよい。
【0047】
本発明について、実施例に基づいて説明したが、本発明は、こうした実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な形態で実施することができる。たとえば、実施例では、無線中継装置を無線中継親機1,2として、さらに無線中継装置となる無線中継子機3と通信端末とが接続される多段構成としたが、無線中継装置にそのまま通信端末が無線接続される構成としてもよい。その場合、DFS制御時には、無線中継装置は通信端末に他の無線中継装置の情報を与えて、それを受取った通信端末が、上述の無線中継子機3のように、接続を切換える動作を行うことになる。
【符号の説明】
【0048】
1,2 無線中継親機(無線中継装置)
10 無線LANシステム
11 有線LAN通信部
12 無線通信部
13 ペア親機通信部
15 レーダー検出部
16 親機チャンネル決定制御部
17 子機切換先チャンネル通知送信部
3 無線中継子機
31 有線LAN通信部
32 無線通信部
35 スキャン制御部
36 接続親機決定制御部
37 チャンネル通知受信部
5 スイッチングハブ
6 有線LAN
7 外部ネットワーク
8 ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5