(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】モノクロロアルカンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/354 20060101AFI20240425BHJP
C07C 19/01 20060101ALI20240425BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
C07C17/354
C07C19/01
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020021580
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 茂
(72)【発明者】
【氏名】藤本 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】沖田 千明
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-511344(JP,A)
【文献】特公昭49-039647(JP,B1)
【文献】特公昭42-017192(JP,B1)
【文献】特表2018-527369(JP,A)
【文献】特表2014-518872(JP,A)
【文献】特開2014-091733(JP,A)
【文献】特開平06-087771(JP,A)
【文献】特公昭49-003967(JP,B1)
【文献】特開2010-001272(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0002314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3~6のモノクロロオレフィン及び水素を含む混合ガスを、パラジウム触媒に接触させる工程を含み、
前記混合ガス中における、前記水素の体積に対する前記炭素数3~6のモノクロロオレフィンの体積の比率(前記炭素数3~6のモノクロロオレフィン/前記水素)が、0.4~3.0である、モノクロロアルカンの製造方法。
【請求項2】
前記炭素数3~6のモノクロロオレフィンが一般式(I)で表され、
【化1】
(式中、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
前記モノクロロアルカンが一般式(II)で表される、請求項1に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
【化2】
(式中、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
【請求項3】
前記混合ガスの温度が、50℃以上200℃以下である、請求項1又は2に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
【請求項4】
前記パラジウム触媒は、アルミナ担持パラジウム触媒を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
【請求項5】
前記炭素数3~6のモノクロロオレフィンが、2-クロロプロペンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
【請求項6】
前記モノクロロアルカンの収率が、2.0%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノクロロアルカンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、触媒の存在下にハロゲン化有機化合物を水素化する反応が知られている。このような水素化反応は、例えば、副生成物としてのハロゲン化有機化合物から、目的とする水素化物を得る方法として利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「2個以上の塩素を含む塩素化アルカンフィードストックを、商業的に実質的価値のある比率で、より塩素化されていないアルカンを含む反応生成物に変換する方法であって、担体上において、本質的に、元素または化合物の形での活性な水素添加性金属成分および元素または化合物の形での表面偏析性金属成分からなる担持された触媒の存在下で、気相中において、塩素化アルカンフィードストックが水素と反応することを特徴とする方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたような従来の水素化反応により、塩素化有機化合物から水素化物を得ることができる。
【0006】
しかしながら、例えば不飽和の塩素化有機化合物に対して従来の水素化方法を適用すると、塩素化有機化合物の塩素が脱離して、目的とする飽和の塩素化有機化合物を得ることは困難である。
【0007】
具体的には、本発明者らが検討したところ、従来の水素化反応によって、炭素数3~6のモノクロロオレフィンからモノクロロアルカンを製造しようとすると、モノクロロアルカンの収率が著しく低く、実質的にモノクロロアルカンの製造方法としては利用できないことが確認された。
【0008】
このような状況下、モノクロロアルカンの新たな製造方法が求められている。本発明は、モノクロロアルカンの新規な製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、炭素数3~6のモノクロロオレフィン及び水素を含む混合ガスを、パラジウム触媒に接触させる工程を含む方法において、混合ガス中における、水素の体積に対する炭素数3~6のモノクロロオレフィンの体積の比率(炭素数3~6のモノクロロオレフィン/水素)を所定の範囲内に設定することにより、炭素数3~6のモノクロロアルカンの収率が向上することを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 炭素数3~6のモノクロロオレフィン及び水素を含む混合ガスを、パラジウム触媒に接触させる工程を含み、
前記混合ガス中における、前記水素の体積に対する前記炭素数3~6のモノクロロオレフィンの体積の比率(前記炭素数3~6のモノクロロオレフィン/前記水素)が、0.4~3.0である、モノクロロアルカンの製造方法。
項2. 前記炭素数3~6のモノクロロオレフィンが一般式(I)で表され、
【化1】
(式中、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
前記モノクロロアルカンが一般式(II)で表される、項1に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
【化2】
(式中、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
項3. 前記混合ガスの温度が、50℃以上200℃以下である、項1又は2に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
項4. 前記パラジウム触媒は、アルミナ担持パラジウム触媒を含む、項1~3のいずれか1項に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
項5. 前記炭素数3~6のモノクロロオレフィンが、2-クロロプロペンを含む、項1~4のいずれか1項に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
項6. 前記モノクロロアルカンの収率が、2.0%以上である、項1~5のいずれか1項に記載のモノクロロアルカンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モノクロロアルカンの新規な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法は、炭素数3~6のモノクロロオレフィン及び水素を含む混合ガスを、パラジウム触媒に接触させる工程を含み、混合ガス中における、水素の体積に対する炭素数3~6のモノクロロオレフィンの体積の比率(炭素数3~6のモノクロロオレフィン/水素)が、0.4~3.0であることを特徴とする。
【0014】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法は、このような特徴を備えている新規な製造方法であり、炭素数3~6のモノクロロアルカンの製造方法として好適である。
【0015】
以下、本発明のモノクロロアルカンの製造方法について詳述する。なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0016】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法は、炭素数3~6のモノクロロオレフィン及び水素を含む混合ガスを、パラジウム触媒に接触させる工程を含む。
【0017】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、原料となる炭素数3~6のモノクロロオレフィンとしては、特に制限されないが、好ましくは、下記一般式(I)で表される、炭素数3~6のモノクロロオレフィンが挙げられる。
【0018】
【化3】
(式中、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
【0019】
前記一般式(I)で表される、炭素数3~6のモノクロロオレフィンからは、下記一般式(II)で表される、炭素数3~6のモノクロロアルカンが生成する。
【0020】
【化4】
(式中、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
【0021】
炭素数3~6のモノクロロオレフィンとしては、モノクロロプロペン、モノクロロブテン、モノクロロペンテン、モノクロロヘキセンが挙げられ、中でもモノクロロプロペンが好ましい。
【0022】
炭素数3~6のモノクロロオレフィンの具体的なものとしては、式(A)で表されるものが挙げられる。
【0023】
【0024】
炭素数3~6のモノクロロオレフィンは直鎖又は分岐鎖のいずれでもよく、特に好ましくはオレフィンの2位の位置に塩素が付加したモノクロロオレフィンである。
【0025】
生成するモノクロロアルカンとしては、モノクロロプロパン、モノクロロブタン、モノクロロペンタン、モノクロロヘキサンが挙げられ、中でもモノクロロプロパンが好ましい。
【0026】
炭素数3~6のモノクロロアルカンの具体的なものとしては、式(B)で表されるものが挙げられる。
【0027】
【0028】
炭素数3~6のモノクロロアルカンは直鎖又は分岐鎖のいずれでもよく、特に好ましくはアルカンの2位の位置に塩素が付加したモノクロロアルカンである。
【0029】
炭素数3~6のモノクロロオレフィンは、モノクロロプロペンであることが好ましい。モノクロロプロペンは、(E)-1-クロロプロペン、(Z)-1-クロロプロペン、2-クロロプロペン、3-クロロプロペンのいずれを含んでいてもよく、これらのうち少なくとも2種の混合物であってよい。本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、炭素数3~6のモノクロロオレフィンは、2-クロロプロペンを含むことが好ましい。
【0030】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、原料としての炭素数3~6のモノクロロオレフィンの炭素原子に結合している塩素原子の位置と、生成する炭素数3~6のモノクロロアルカンの炭素原子に結合している塩素原子の位置とは、共通していることが好ましい。具体的には、(E)-1-クロロプロペンまたは(Z)-1-クロロプロペンを原料とする場合、生成するモノクロロアルカンには、1-クロロプロパンが含まれることが好ましく、2-クロロプロペンを原料とする場合、生成するモノクロロアルカンには、2-クロロプロパンが含まれることが好ましく、3-クロロプロペンを原料とする場合、生成するモノクロロアルカンには1-クロロプロパンが含まれることが好ましい。
【0031】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、原料となる炭素数3~6のモノクロロオレフィンとして2-クロロプロペンを用い、モノクロロアルカンとして2-クロロプロパンを生成することが特に好ましい。すなわち、本発明のモノクロロアルカンの製造方法は、2-クロロプロパンの製造方法であって、2-クロロプロペン及び水素を含む混合ガスを、パラジウム触媒に接触させる工程を含み、混合ガス中における、水素の体積に対する炭素数3~6のモノクロロオレフィンの体積の比率(炭素数3~6のモノクロロオレフィン/水素)が、0.4~3.0であることが特に好ましい。
【0032】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、パラジウム触媒に接触させる混合ガスには、炭素数3~6のモノクロロオレフィンと共に水素が含まれている。混合ガス中における、水素の体積に対する炭素数3~6のモノクロロオレフィンの体積の比率(炭素数3~6のモノクロロオレフィン/水素)が、0.4~3.0である。モノクロロアルカンの収率を向上させる観点から、当該体積の比率としては、好ましくは0.4~2.5、より好ましくは0.4~2.0、さらに好ましくは0.5~1.5、さらに好ましくは0.5~1.1、さらに好ましくは0.5~0.8、さらに好ましくは0.6~0.7である。
【0033】
また、本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、反応温度としては、特に制限されないが、モノクロロアルカンの収率を向上させる観点から、好ましくは50~200℃、より好ましくは70~180℃、さらに好ましくは75~150℃、さらに好ましくは90~140℃、さらに好ましくは120~140℃、特に好ましくは130~140℃である。
【0034】
パラジウム触媒としては、炭素数3~6のモノクロロオレフィンの水素化反応を促進する触媒であれば、特に制限されないが、モノクロロアルカンの収率を向上させる観点から、金属パラジウムが担体(または支持体)に担持されているものであることが好ましい。担体は、金属酸化物、炭素(特に、活性炭)、炭化ケイ素などであることが好ましい。金属酸化物の具体例は、酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化ケイ素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム又はこれらのうち少なくとも2種の混合物などである。担体の別の例としては、シリカ、ゼオライト、メソポーラスモレキュラーシーブ、ガラス(特に、多孔質ガラス)、クレーなどが挙げられる。これらの中でも、パラジウム触媒として、金属パラジウムが金属酸化物に担持されているパラジウム金属酸化物担持触媒を用いることが好ましく、アルミナ担持パラジウム触媒を用いることが特に好適である。
【0035】
パラジウム触媒に含まれる金属パラジウムの含有量としては、炭素数3~6のモノクロロオレフィンの水素化反応を促進する触媒であれば、特に制限されず、例えば0.1~20質量%、好ましくは0.2~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%である。
【0036】
また、パラジウム触媒粒子の形状は、特に限定されないが、球状、柱状、膜状などである。パラジウム触媒の粒子の平均寸法(特に、平均最大寸法)は、例えば0.1μm~5mm、好ましくは0.5mm~3.0mm、より好ましくは1.0mm~3.0mmである。パラジウム触媒は、通常の公知の方法に従って、例えば、担体を金属化合物の溶液に浸漬することによって調製できる。パラジウム触媒としては、市販品を使用することができる。パラジウム触媒の市販品の例は、クラリアント触媒株式会社製の商品名OleMax600(登録商標)などが挙げられる。
【0037】
パラジウム触媒の使用量としては、反応スケールに応じて調整され、炭素数3~6のモノクロロオレフィン及び水素を含む混合ガスがパラジウム触媒に十分に接触する量に調整することが好ましい。また、モノクロロアルカンの製造方法において、混合ガスを一方向から他方向に流しながらパラジウム触媒に接触させて連続的にモノクロロアルカンを製造する方法(例えば実施例では、常圧固定床流通式反応装置を使用)を採用する場合、炭素数3~6のモノクロロオレフィン及び水素は、通常、不活性ガス(窒素ガスなど)で希釈して混合ガスとすることが望ましく、混合ガス中の炭素数3~6のモノクロロオレフィンの流量、水素の流量、及び混合ガスの全流量についても、反応スケールに応じて調整され、炭素数3~6のモノクロロオレフィン及び水素を含む混合ガスがパラジウム触媒に十分に接触する流量に調整することが好ましい。
【0038】
また、反応圧力としては、特に制限されず、常圧で行うことも好適である。
【0039】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、モノクロロアルカンの収率については、好ましくは2.0%以上、より好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは8.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上、さらに好ましくは12.0%以上、特に好ましくは15.0%以上である。なお、モノクロロアルカンの収率の上限については、好ましくは100.0%であり、通常は80.0%、50.0%、30.0%、25.0%などとなる。特に、原料である炭素数3~6のモノクロロオレフィンが2-クロロプロペンであり、2-クロロプロパンの収率が、これらの収率であることが好ましい。この場合、副生成物となる1-クロロプロパンの収率は、1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0040】
また、本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、炭素数3~6のモノクロロオレフィンの転化率については、好ましくは30.0%以上、50.0%以上、60.0%以上、70.0%以上、80.0%以上などである。なお、炭素数3~6のモノクロロオレフィンの転化率の上限については、100.0%である。
【0041】
本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、モノクロロアルカンと共に、プロパンが生成してもよい。プロパンの収率については、特に制限されないが、例えば30.0~90.0%、40.0~80.0%が挙げられる。また、モノクロロプロパンと共に、プロペンが生成してもよい。プロペンの収率については、特に制限されないが、例えば5.0~60.0%程度が挙げられる。
【0042】
なお、本発明のモノクロロアルカンの製造方法において、各成分の収率や転化率は、ガスクロマトグラフィーにより測定される値であり、具体的な測定方法については実施例に記載の通りである。
【実施例】
【0043】
以下の実施例において本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(2-クロロプロパンの製造)
以下の実施例における2-クロロプロパンの製造には、
図1の模式図に示されるような常圧固定床流通式反応装置を使用した。反応管には石英製のものを使用し、触媒充填後、触媒位置を固定するために反応管内にできる空所に石英ウールを充填させた。原料ガスとして、2-クロロプロペン、水素を全流量90mL/minになるように窒素で希釈し反応管に通気させた。触媒として、後述するペレット状のアルミナ担持パラジウム触媒を使用した。
【0044】
2-クロロプロパンの製造の手順を次に示す。後述するアルミナ担持パラジウム触媒(クラリアント触媒株式会社製の商品名OleMax600(登録商標))を乳棒と乳鉢を用いて磨砕し、その後ペレット状へ成型(赤外のKBrディスクを成型する手法と同様の手法)した。当該ペレット状成型物を軽く粉砕し、JIS試験用ふるいとしてNo.12とNo.16のふるいを用いて、1.18~1.70mmの粒径にふるい分けして、反応に用いる触媒(アルミナ担持パラジウム触媒の成形触媒)とした。反応管の中央部分に触媒を、その両側に石英ウールを充填させ、触媒位置を固定し、反応装置に取り付けた。前処理として触媒の還元処理を行うため、窒素のみを通気させ200℃まで昇温させた後、窒素と水素を30分間通気させた。その後、窒素のみを通気させて反応温度まで冷却した。温度が安定したことを確認したのち、2-クロロプロペン、水素、窒素の全てのガスを通気し反応を開始させた。
【0045】
2-クロロプロパンの製造においては、反応開始時からそれぞれ0.25時間、1.25時間経過時の生成物のサンプリングおよび分析を行った。分析には、熱伝導度検出器(TCD)を備えたガスクロマトグラフ(SHIMADZU GC-2014)と積分器(SHIMADZU C-R8A)、水素炎イオン化検出器(FID)を備えたガスクロマトグラフ(SHIMADZU GC-8APT)と積分器(SHIMADZU C-R8A)を使用した。
【0046】
キャリアガスとしてTCDではヘリウムを、FIDでは窒素を用いた。カラムは、TCDではPorapak Q(Φ4×3 mm×6.0 m、使用温度40℃~150℃)を、FIDではGaskuropack55(Φ4×3 mm×2.0 m、使用温度120℃~150℃)を用いた。FIDでは、2-クロロプロペン、2-クロロプロパン、1-クロロプロパンの分析を行った。TCDではプロパン、プロペンの分析を行った。
【0047】
(原料・触媒)
・2-クロロプロペン(純度99.4%(その他、2-クロロプロパン、1-クロロプロペン、3-クロロプロペンなどを不純物として含む))
・アルミナ担持パラジウム触媒(クラリアント触媒株式会社製の商品名OleMax600(登録商標) 0.3%Pd)
・水素(ガスボンベ(一般グレード))
・窒素(希釈ガス)(ガスボンベ(一般グレード))
【0048】
(実施例1-5及び比較例1-3)
前記の(2-クロロプロパン)の製造の欄に記載された方法において、反応温度及び触媒量を固定し、表1に示す反応条件を適用し、2-クロロプロペン及び水素を含む混合ガスを、アルミナ担持パラジウム触媒に接触させて、2-クロロプロパンの製造を行った。反応開始時から0.25h経過時及び1.25h経過時における、2-クロロプロペンの転化率、2-クロロプロパン、1-クロロプロパン、プロペン及びプロパンの選択率(%)、並びに2-クロロプロパンの収率(%)を、それぞれ表1に示す。実施例及び比較例における、炭素数3~6のモノクロロオレフィンの転化率(変換率)、各生成物の選択率は、全て、前記の条件のガスクロマトグラフィーを用いた絶対検量線法による定量値を基に算出しており、モル%で表記されている。モノクロロアルカンの収率は、次式により算出される。
<計算式>
モノクロロアルカンの収率(%)=(炭素数3~6のモノクロロオレフィンの転化率)×(モノクロロアルカンの選択率)×100
【0049】
【0050】
(実施例6-13)
前記の2-クロロプロパンの製造の欄に記載された方法において、混合ガス中の水素の体積に対する炭素数3~6のモノクロロオレフィンの体積の比率を0.65に固定し、表2に示す反応条件(反応温度を変化させた)を適用し、2-クロロプロペン及び水素を含む混合ガスを、アルミナ担持パラジウム触媒に接触させて、2-クロロプロパンの製造を行った。反応開始時から0.25h経過時及び1.25h経過時における、2-クロロプロペンの転化率、2-クロロプロパン、1-クロロプロパン、プロペン及びプロパンの選択率(%)、並びに2-クロロプロパンの収率(%)を、それぞれ表2に示す。なお、実施例7と実施例8は同じ実験の再実験の結果である。
【0051】
【0052】
(参考試験1-7)
前記の2-クロロプロパンの製造に記載された方法において、触媒を使用せずに、混合ガス中の水素の体積に対する炭素数3~6のモノクロロオレフィンの体積の比率を0.65に固定し、表3に示す反応条件(反応温度を変化させた)を適用し、2-クロロプロペン及び水素を含む混合ガスを加熱して、触媒の不存在下に2-クロロプロパンが生成するか否かを確認した。反応開始時から0.50h経過時における、2-クロロプロペンの転化率を、表3に示す。
【0053】
【0054】
表1及び表2に示されるように、実施例1~13の2-クロロプロパンの製造方法は、2-クロロプロペン及び水素を含む混合ガスを、パラジウム触媒に接触させる工程を含み、混合ガス中における、水素の体積に対する2-クロロプロペンの体積の比率(2-クロロプロペン/水素)が、0.4~3.0の範囲に設定されている。実施例1~13の2-クロロプロパンの製造方法は、モノクロロアルカンの製造方法として新規であり、モノクロロアルカンの製造方法として好適であることが分かる。また、表2に示される結果から、反応温度が75~150℃である実施例7~12では、2-クロロプロパンの収率が10%を超えており、モノクロロアルカンの製造方法としてさらに好適であり、特に、反応温度が100~135℃である実施例9~11では、2-クロロプロパンの収率が14%を超えており、モノクロロアルカンの製造方法として特に好適であることが分かる。表3に示される参考試験1~7の結果から、パラジウム触媒を用いない場合には、温度を高めてもモノクロロアルカンの生成反応は進行しないことが分かる。