(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】培養システム、培養装置、および多層培養容器操作装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240425BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/02 A
(21)【出願番号】P 2020022171
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019052299
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月10日~12日に、パシフィコ横浜で開催された「再生医療JAPAN 2018」にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月20日~22日に、インテックス大阪で開催された「第5回インターフェックス大阪」にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】片岡 忠
(72)【発明者】
【氏名】中西 孝文
(72)【発明者】
【氏名】森 俊彰
(72)【発明者】
【氏名】田中 利明
(72)【発明者】
【氏名】松村 嘉之
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-139615(JP,A)
【文献】特開2017-205078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトレイを内蔵する多層培養容器を内部空間に収容する筐体
、および、前記多層培養容器を前記内部空間に収容したままの状態で操作する操作部
を有する培養装置と、
前記多層培養容器に流体材料を導入、または、前記多層培養容器から流体材料を排出するためのポンプと、を有する培養システムであって、
前記操作部は、前記筐体内において、前記多層培養容器を回転または揺動させる回転部を有し、
前記多層培養容器は送液管と連通しており、前記送液管を介して筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入、または、前記送液管を介して前記多層培養容器内から流体を筐体外部に排出することができる培養システム。
【請求項2】
前記多層培養容器と連通する前記送液管が、前記筐体に形成された単一の挿通部を通過して前記筐体の外部へと導出している、請求項1に記載の培養システム。
【請求項3】
前記操作部は、前記送液管と前記多層培養容器との連通路の開閉を行う開閉部を有する、請求項1または2に記載の培養システム。
【請求項4】
前記多層培養容器の内部と外部との間にエアフィルタを有し、
前記操作部は、前記エアフィルタと前記多層培養容器との連通路の開閉を行う開閉部を有する、請求項1ないし3のいずれかに記載の培養システム。
【請求項5】
前記筐体は、前記送液管が筐体を貫通する挿通部を有し、前記挿通部および前記送液管を介して、筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入、または、前記多層培養容器内から流体を筐体外部へと排出する、請求項1ないし4のいずれかに記載の培養システム。
【請求項6】
前記送液管が筐体外部に存在する複数の容器または装置に切り替え可能に接続する、請求項1ないし5のいずれかに記載の培養システム。
【請求項7】
前記複数の容器にそれぞれ連通する複数の個別送液管が、前記多層培養容器に連通する共通送液管と連通しており、前記個別送液管上、または、前記個別送液管と前記共通送液管との合流地点に弁が設置されており、当該弁を制御することで、前記個別送液管と前記共通送液管との連通状態が制御可能となっている、請求項6に記載の培養システム。
【請求項8】
前記多層培養容器の下側に、前記多層培養容器のトレイの内部を撮像する観察装置をさらに有する、請求項1ないし7のいずれかに記載の培養システム。
【請求項9】
複数のトレイを内蔵する多層培養容器を内部空間に収容する筐体と、
前記多層培養容器を前記内部空間に収容したままの状態で操作する操作部と、を有し、
前記操作部は、前記筐体内において、前記多層培養容器を回転または揺動させる回転部を有し、
前記多層培養容器は送液管と連通しており、前記送液管を介して筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入、または、前記送液管を介して前記多層培養容器内から流体を筐体外部に排出することができる培養装置。
【請求項10】
前記多層培養容器と連通する前記送液管が、前記筐体に形成された単一の挿通部を通過して前記筐体の外部へと導出している、請求項9に記載の培養装置。
【請求項11】
前記操作部は、前記送液管と前記多層培養容器との連通路の開閉を行う開閉部を有する、請求項9または10に記載の培養装置。
【請求項12】
複数のトレイを内蔵する多層培養容器を操作する操作部を有し、筐体内に収容される多層培養容器操作装置であって、
前記多層培養容器は、前記筐体内において送液管と連通しており、
前記操作部は、前記筐体内に前記多層培養容器を収容したままの状態で、前記多層培養容器を操作可能であり、
前記操作部は、前記筐体内において、前記多層培養容器を回転または揺動させる回転部を有し、
前記操作部により前記多層培養容器を操作することで、前記送液管を介して筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入、または、前記送液管を介して前記多層培養容器内から流体を筐体外部に排出することを可能にする、多層培養容器操作装置。
【請求項13】
前記多層培養容器と連通する前記送液管が、前記筐体に形成された単一の挿通部を通過して前記筐体の外部へと導出している、請求項12に記載の多層培養容器操作装置。
【請求項14】
前記回転部は、前記多層培養容器を回転または揺動させる回転軸として、第1回転軸および第2回転軸を有し、
前記第1回転軸および前記第2回転軸が前記多層培養容器を通過する回転軸となるように、前記回転部が構成される、請求項13に記載の多層培養容器操作装置。
【請求項15】
前記操作部は、前記送液管と前記多層培養容器との連通路の開閉を行う開閉部を有する、請求項12ないし14のいずれかに記載の多層培養容器操作装置。
【請求項16】
前記送液管を介して筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入する際に、前記多層培養容器における前記流体材料の液面を検知する液面センサーをさらに有する、請求項12ないし15のいずれかに記載の多層培養容器操作装置。
【請求項17】
前記液面センサーは、前記多層培養容器において前記流体材料が所定量導入されたことを示す第1水位まで到達したかを検知する第1液面センサー、または、前記第1水位よりも下側の水位であり、前記流体材料が所定量に近づいていることを示す第2水位まで前記流体材料が到達したかを検知する第2液面センサーを有する、請求項16に記載の多層培養容器操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を用いて細胞を培養することができ、かつ、細胞培養と同一空間内で多層培養容器を操作することもできる、培養システム、培養方法、および多層培養容器操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型で効率よく大量の細胞を培養するために、複数のトレイを積層した多層培養容器を用いて細胞培養を行う技術が知られている(たとえば特許文献1参照)。また、このように多層培養容器を用いて細胞培養を行う場合に、作業者の負担を軽減するため、培養液などを多層培養容器に導入または多層培養容器から回収する際に多層培養容器を保持し回転させるハンドリング操作を行う装置が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-103984号公報
【文献】特開2015-505472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多層培養容器を用いて細胞培養を行う場合には、多層培養容器を操作して多層培養容器に培養液を充填し、培養器に多層培養容器を入れて細胞培養を行い、細胞培養後に多層培養容器を操作して多層培養容器から培養液を排出し、さらに、細胞剥離のために多層培養容器を操作して多層培養容器にトリプシン等の剥離液を充填し、多層培養容器を揺動する操作をして細胞剥離を行い、細胞剥離後に多層培養容器を操作して多層培養容器から細胞を含むトリプシン等の剥離液を回収するという一連の作業が行われる。
しかしながら、このような作業は作業者の負担が多いため、上述した特許文献2のように、多層培養容器のハンドリング操作を行う装置が知られているが、ハンドリング操作のためには一定の広さの空間が必要となり、コストの面から、ハンドリング操作は培養器の外で行われることが多かった。しかしながら、培養液やトリプシン等の剥離液を多層培養容器に充填及び排出する際や、多層培養容器内の細胞を顕微鏡で観察する際、細胞を含むトリプシン等の剥離液を多層培養容器から回収する際に、多層培養容器を培養器の外へと取り出してしまうと、温度が低下することによる細胞培養への影響や、多層培養装置に繋ぐ送液管を切り替える作業などによりコンタミネーションを引き起こすおそれがあるため、多層培養容器を培養器の中に入れたままの状態で、多層培養容器の操作と細胞培養とを同一空間内において一連で行うことができる装置が望まれていた。
【0005】
本発明は、多層培養容器の操作と細胞観察と細胞培養とを同一空間内で一連して行うことで、作業者の負担を抑えることができるとともに、温度変化による悪影響を防止し、またコンタミネーションを有効に防止することができる、培養システム、培養装置、および多層培養容器操作装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る培養システムは、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を内部空間に収容する筐体と前記多層培養容器を前記内部空間に収容したままの状態で操作する操作部と、を有し、前記多層培養容器は送液管と連通しており、前記送液管を介して筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入、または、前記送液管を介して前記多層培養容器内から流体を筐体外部に排出することができる。
上記培養システムにおいて、前記操作部は、前記多層培養容器を回転または揺動させる回転部を有するように構成することができる。
上記培養システムにおいて、前記操作部は、前記送液管と前記多層培養容器との連通路の開閉を行う開閉部を有するように構成することができる。
上記培養システムにおいて、前記多層培養容器の内部と外部との間にエアフィルタを有し、前記操作部は、前記エアフィルタと前記多層培養容器との連通路の開閉を行う開閉部を有するように構成することができる。
上記培養システムにおいて、前記筐体は、前記送液管が筐体を貫通する挿通部を有し、前記挿通部および前記送液管を介して、筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入、または、前記多層培養容器内から流体を筐体外部へと排出するように構成することができる。
上記培養システムにおいて、前記送液管が筐体外部に存在する複数の容器または装置に切り替え可能に接続するように構成することができる。
上記培養システムにおいて、前記複数の容器にそれぞれ連通する複数の個別送液管が、前記多層培養容器と連通する共通送液管と連通しており、前記個別送液管上、または、前記個別送液管と前記共通送液管との合流地点に弁が設置されており、当該弁を制御することで、前記個別送液管と前記共通送液管との連通状態が制御可能となっているように構成することができる。
上記培養システムにおいて、前記多層培養容器の下側に、前記多層培養容器の内部を撮像する観察装置をさらに有するように構成することができる。
【0007】
本発明に係る培養装置は、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を内部空間に収容する筐体と、前記多層培養容器を前記内部空間に収容したままの状態で操作する操作部と、を有し、前記多層培養容器は送液管と連通しており、前記送液管を介して筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入、または、前記送液管を介して前記多層培養容器内から流体を筐体外部に排出することができる。
上記培養装置において、前記操作部は、前記多層培養容器を回転または揺動させる回転部を有するように構成することができる。
上記培養装置において、前記操作部は、前記送液管と前記多層培養容器との連通路開閉を行う開閉部を有するように構成することができる。
【0008】
本発明に係る多層培養容器操作装置は、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を操作する操作部を有し、筐体内に収容される多層培養容器操作装置であって、前記多層培養容器は、前記筐体内において送液管と連通しており、前記操作部は、前記筐体内に前記多層培養容器を収容したままの状態で、前記多層培養容器を操作可能であり、前記操作部により前記多層培養容器を操作することで、前記送液管を介して筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入、または、前記送液管を介して前記多層培養容器内から流体を筐体外部に排出することができる。
上記多層培養容器操作装置において、前記操作部は、前記多層培養容器を回転または揺動させる回転部を有するように構成することができる。
上記多層培養容器操作装置において、前記回転部は、前記多層培養容器を回転または揺動させる回転軸として、第1回転軸および第2回転軸を有し、前記第1回転軸および前記第2回転軸が前記多層培養容器を通過する回転軸となるように、前記回転部が構成されるように構成することができる。
上記多層培養容器操作装置において、前記操作部は、前記送液管と前記多層培養容器との連通路開閉を行う開閉部を有するように構成することができる。
上記多層培養容器操作装置において、前記送液管を介して筐体外部から流体材料を前記多層培養容器内に導入する際に、前記多層培養容器における前記流体材料の液面を検知する液面センサーをさらに有するように構成することができる。
上記多層培養容器操作装置において、前記液面センサーは、前記多層培養容器において前記流体材料が所定量導入されたことを示す第1水位まで到達したかを検知する第1液面センサー、または、前記第1水位よりも下側の水位であり、前記流体材料の容量が所定量に近づいていることを示す第2水位まで前記流体材料が到達したかを検知する第2液面センサーを有するように構成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多層培養容器の操作と細胞培養とを同一空間内で一連して行うことができるため、作業者の負担を抑えることができるとともに、温度変化による悪影響を防止し、また、コンタミネーションを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る培養システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る培養装置を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る多層培養容器を説明するための図である。
【
図4】多層培養容器における各トレイへの流体材料の分配方法を説明するための図である。
【
図5】開閉部およびクランプの構造の一例を説明するための図である。
【
図6】第1実施形態に係る細胞培養の方法を示すフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係る多層培養容器の回転動作を説明するための図である。
【
図8】第2実施形態に係る培養システムの斜視図である。
【
図9】第2実施形態に係る培養システムの筐体内の構成を示す斜視図である。
【
図10】第2実施形態に係る培養システムの筐体内の構成を下側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る培養システム、培養装置、および多層培養容器操作装置の実施形態を図に基づいて説明する。
【0012】
《第1実施形態》
図1は、第1実施形態に係る培養システム1の構成を示すブロック図であり、
図2は、第1実施形態に係る培養装置10を示す斜視図である。第1実施形態に係る培養システム1は、
図1に示すように、多層培養容器12を収容する培養装置10と、培養液またはトリプシン等の剥離液を液送する送液ポンプ20、70と、培養液またはトリプシン等の剥離液の流量を計測する流量計30と、培養液またはトリプシン等の剥離液を供給または回収するための容器40,50,80と、遠心分離装置60とを有している。
【0013】
また、培養システム1は、
図1に示すように、各構成が送液管3a~3gを介して連通しているとともに、バルブ2a~2dにより培養液またはトリプシン等の剥離液が液送される流路(送液管3a~3g)を切換可能となっている。なお、バルブ2a~2dの切り替えは、作業者が手動で行う構成としてもよいし、機械により自動で切り換えを行う構成としてもよい。
【0014】
培養装置10は、
図1および
図2に示すように、筐体11と、多層培養容器12と、送液管13と、操作部14と、挿通部15と、温度調整部16と、ガス濃度調整部171と、pH調整部172と、制御部18と、入力部19とを有する。
図2に示すように、培養装置10は、筐体11の内部空間S内に多層培養容器12を収容している。筐体11は、開閉可能とすることができるが、細胞培養を行う際は密閉状態で使用される。筐体11の内部空間Sの大きさは、特に限定されないが、後述するように、操作部14により多層培養容器12を回転または揺動させることができるように、多層培養容器12の大きさに応じて適宜設計される。
【0015】
ここで、第1実施形態に係る多層培養容器12について説明する。
図3(A)は、第1実施形態に係る多層培養容器12を説明するための斜視図であり、多層培養容器12を、
図2に示す左側から右側に向けて見た概要図である。また、
図3(B)は、
図3(A)のIIIB-IIIBに沿う多層培養容器12の断面概要図であり、
図3(C)は、
図3(A)のIIIC-IIICに沿う多層培養容器12の断面概要図である。なお、
図3(A)では、説明の便宜のため、トレイ121の壁部1211の記載は省略している。多層培養容器12は、細胞を効率良く培養するために、
図3(A)~(C)に示すように、複数のトレイ121が積層された構成となっている。また、多層培養容器12の各トレイ121には、
図3(A)に示すように、四隅のうち二隅に、孔がそれぞれ開けられている。これにより、多層培養容器12は、
図3(A)に示すように、複数のトレイ121がそれぞれ空間的に連通するとともに、接続部122を介して送液管13と、また、接続部123を介してエアフィルタ133とそれぞれ空間的に連通している。さらに、送液管13のうち多層培養容器12の接続部122に近い部分にはクランプ131が設けられており、クランプ131を開くことで、送液管13を介して、多層培養容器12内に培養液やトリプシン等の剥離液を導入し、あるいは、多層培養容器12内から培養液やトリプシン等の剥離液を排出することができる。また、多層培養容器12は、接続部123を介してエアフィルタ133と連通している。エアフィルタ133は、空気を通過させるが、多層培養容器12への細菌の混入を遮断するフィルタであり、多層培養容器12の内部と外部との間に配置されている。本実施形態では、エアフィルタ133と接続部123との間にもクランプ132が存在し、クランプ132の開閉を制御することで、多層培養容器12への空気の取り込みや排出が可能となっている。
【0016】
多層培養容器12を用いて細胞培養を行う場合、たとえば、多層培養容器12が
図3(C)に示す状態から
図4(A)に示す状態となるように、多層培養容器12を、反時計回りに90°ほど回転させる。そして、クランプ131およびクランプ132を開き、エアフィルタ133から多層培養容器12内の空気を外部へと排出可能とした状態で、送液管13を介して多層培養容器12内に細胞を懸濁した培養液を導入する。次いで、クランプ132を閉じて、多層培養容器12を時計回りで180°ほど回転した後に、
図4(B)に示すように、多層培養容器12を直立に戻すと、多層培養容器12の各トレイ121に培養液が分配される。そして、クランプ131を閉じ、各トレイ121で細胞培養が行われる。細胞培養時は、クランプ132も閉じた状態のままとされる(多層培養容器12の種類によっては、クランプ132を開けた状態で培養することもできる。)。なお、
図4は、多層培養容器12における各トレイ121への流体材料の分配方法を説明するための図である。また、
図4(A)は、
図3(C)と同様に、
図3(A)のIIIC-IIICに沿う多層培養容器12の断面概要図であり、
図4(B)は、
図3(B)と同様に、
図3(A)のIIIB-IIIBに沿う多層培養容器12の断面概要図である。
【0017】
また、細胞培養後には、培養液を多層培養容器12から排出する培養液排出処理、多層培養容器12の各トレイ121の底面に付着した細胞を剥離するためにトリプシン等の剥離液を多層培養容器12に導入するトリプシン等の剥離液導入処理、および剥離した細胞を含むトリプシン等の剥離液を多層培養容器12から回収するトリプシン等の剥離液回収処理が行われる。これら流体材料(培養前の培養液やリプシン液などの剥離液を含む。以下同様。)や流体(培養後の培養液や剥離した細胞を含むトリプシン等の剥離液)の処理においても、多層培養容器12を回転または揺動するなどして流体材料を導入または排出する作業や、クランプ131,132を開閉する作業が必要となる。
【0018】
作業者が手作業で多層培養容器12を操作する場合、培養液やトリプシン等の剥離液を含む多層培養容器12は重く、作業者の負担が増大してしまう。また、手作業のために、作業にばらつきが生じてしまう場合や、不必要に作業者が多層培養容器12に触れることで多層培養容器を破損してしまい細胞培養が継続できなくなる場合もある。また、多層培養容器12の回転や揺動には一定の広さが必要とされるため、培養装置(たとえば市販の培養専用装置)の外で、多層培養容器12に送液管を取り付け、多層培養容器12を操作して多層培養容器12に培養液を充填してから多層培養容器12を培養装置に入れ、また、多層培養容器12を培養装置から取り出して、多層培養容器12に取り付ける送液管を取り換えて、多層培養容器12を操作する作業が行われていた。しかしながら、培養装置の外において多層培養容器12への送液管の取り付けや取り換えを行うことで、多層培養容器12の内部の温度等が変化し悪影響を与えるおそれがあった。
【0019】
このような問題を解決するために、本実施形態に係る培養装置10では、筐体11の内部空間S内に多層培養容器12を収容し、多層培養容器12を内部空間Sから取り出すことなく、多層培養容器12を内部空間Sに収容した状態のまま、送液管13を介して多層培養容器12に培養液またはトリプシン等の剥離液を導入、および、送液管13を介して多層培養容器12から培養液またはトリプシン等の剥離液を排出することができる構成とされる。具体的には、本実施形態に係る培養装置10では、筐体11の内部空間Sに多層培養容器12を収容し、内部空間S内において多層培養容器12の接続部122に送液管13を取り付け、送液管13と多層培養容器12とを連通する。また、送液管13は、筐体11の壁部に設けられた挿通部15を介して、筐体11外部の送液管3aと接続している。なお、挿通部15は、筐体11の内部と外部とを接続する構造であれば特に限定されず、たとえば送液管13の外周と同径の孔とすることができる。この場合、挿通部15に送液管13を挿通させることで、送液管13の筐体11外部の部分が送液管3aを構成することとなる。
【0020】
また、培養装置10は、多層培養容器12を操作するために操作部14を有する。操作部14は、多層培養容器12を保持可能な回転部141と、回転部141を回転駆動させる駆動部142とを有しており、
図2に示すように、回転軸X1,X2の2軸を中心として、回転部141を回転させる回転動作を行う。回転軸X1は、
図2に示すように、X軸方向に延在する回転軸であり、これにより、回転部141および回転部141に保持された多層培養容器12をロール方向Rに回転させることができる。また、回転軸X2は、Y軸方向に延在する回転軸であり、これにより、回転部141および回転部141に保持された多層培養容器12をピッチ方向Pに回転させることができる。なお、回転動作において、ロール方向Rの回転は、±180°未満の範囲で可能であり、本実施形態においては、±120°の範囲で回転部141をロール方向Rに回転させることができる。また、ピッチ方向Pの回転も、±180°未満の範囲で可能であり、本実施形態においては、±30°の範囲で回転部141をロール方向Rに回転させることができる。なお、本実施形態において、駆動部142は、回転部141を回転軸X1で回転させる第1駆動部1421(電力モーターおよび/またはエアシリンダー)と、回転部141を回転軸X2で回転させる第2駆動部1422(電力モーターおよび/またはエアシリンダー)とを備えており、これにより、回転部141を2軸で回転させることができる。
【0021】
さらに、操作部14の駆動部142は、回転部141(多層培養容器12)を回転軸X1または回転軸X2を中心として往復回転させる揺動動作を行うこともできる。たとえば、駆動部142は、回転部141(多層培養容器12)を回転軸X1を中心としてロール方向Rに±120°の範囲で往復回転させることで、回転軸X1を中心とした揺動動作を行うことができる。また、駆動部142は、回転部141(多層培養容器12)を回転軸X2を中心として、回転部141(多層培養容器12)の上方を前方(X軸負方向)に傾けた後に、回転部141(多層培養容器12)の下方を前方(X軸負方向)に傾くように、ピッチ方向Pに±30°の範囲で往復回転させることで、回転軸X2を中心とした揺動動作を行うこともできる。
【0022】
また、操作部14は、送液管13のクランプ131,132を開閉する開閉部143を有している。ここで、
図5は、開閉部143およびクランプ131の構造の一例を説明するための図である。開閉部143は、たとえば、ピストンなど押圧部材を、エアシリンダー、電動シリンダー、ソレノイドなどの駆動部で送液管13側に押し出すことができ、押し出したピストンとクランプ131の固定部とで送液管13を挟み込むことで、送液管13の流路を閉じる構造とすることができる。また、この場合、押し出したピストンなど押圧部材を、エアシリンダー、電動シリンダー、ソレノイドなどの駆動部で送液管13と反対側に押し戻すことで、送液管13を開放し、送液管13の流路を開ける構成とすることができる。なお、開閉部143は、上記の構造に限定されず、公知の構造を適用することができる。また、クランプ131および開閉部143と同様の動作を行う構造を複数設けて、ベントに用いることもできる。なお、本実施形態において、多層培養容器12は、回転部141により回転動作し、それに付随して送液管13およびクランプ131も回転するため、開閉部143も回転部141により回転可能に設けられている。また、クランプ132を開閉するための開閉部143も、クランプ131を開閉するための143と同様の機構とすることができる。
【0023】
温度調整部16は、筐体11の内部空間S内の温度を調整する。本実施形態に係る培養装置10は、筐体11外部に入力部19を有しており、作業者が入力部19を操作して、筐体11の内部空間Sの温度を設定することができる。入力部19により入力された設定温度は、制御部18を介して、温度調整部16に送信される。温度調整部16は、入力部19により温度が設定されると、内部空間S内が設定温度となるように、内部空間S内の温度を調整する。
【0024】
ガス濃度調整部171は、筐体11の内部空間S内の炭酸ガスなどのガス濃度を測定するガス濃度センサーを備える。また、ガス濃度調整部171は、筐体11の外部に設けたガス供給部と接続することで、ガス濃度センサーの測定結果に基づいて炭酸ガスなどのガスを内部空間S内に導入し、内部空間S内のガス濃度を、入力部19を介して作業者により設定されたガス濃度に調整する。これにより、多層培養容器12内に適切な濃度の炭酸ガスなどのガスを供給することができる。また、ガス供給部を筐体11の外部に備える構成に代えて、ガス濃度調整部171がガス供給部を備える(筐体11内部にガス供給部を備える)構成とすることもできる。
【0025】
pH調整部172は、多層培養容器12に充填された培養液等のpHを調整する。たとえば、pH調整部172は、多層培養容器12に充填された流体材料のpHを測定するpHセンサーを備えるとともに、筐体11の外部に設けたガス供給部(不図示)と接続しており、pHセンサーの測定結果に基づいて、多層培養容器12内を、入力部19を介して作業者により設定されたpHに調整することができる。
【0026】
入力部19は、作業者により指示が入力され、入力された指示を制御部18に送信する。入力部19は、スイッチなどのボタンであってもよいし、ディスプレイを兼用するタッチパネルであってもよい。
【0027】
制御部18は、入力部19から入力された作業者の指示に基づいて、操作部14、温度調整部16、およびpH調整部172の動作を制御する。また、制御部18は、入力部19からの作業者の指示に基づいて、バルブ2a~2dの開閉動作や、開閉部143の動作、送液ポンプ20,70の動作、および遠心分離装置60の動作を制御することができる。
【0028】
次いで、培養装置10以外の構成について説明する。送液ポンプ20は、送液管3aを介して培養装置10内部に収容された送液管13および多層培養容器12と接続している。また、送液ポンプ20は、送液管3b~3eを介して、容器40,50および遠心分離装置60と接続している。そして、送液ポンプ20は、容器40,50から培養液またはトリプシン等の剥離液を多層培養容器12に液送するとともに、多層培養容器12から容器40,50に培養液またはトリプシン等の剥離液を液送する。送液ポンプ20により液送される培養液またはトリプシン等の剥離液の量は流量計30により計測されており、送液ポンプ20は、流量計30の計測結果に基づいて、自動または手動で送液を停止することができる。
【0029】
また、細胞培養のために、容器40には、細胞を懸濁した培養液が入れられて準備される。容器40には送液管3cが取り付けられ、容器40近傍に設けたバルブ2aを開閉することで、容器40と多層培養容器12とを接続または切断することができる。たとえば、細胞培養を行う場合には、バルブ2aを開いた状態とすることで、送液ポンプ20により、容器40から培養液を多層培養容器12へと導入することができる。また、細胞培養後には、バルブ2aを開いた状態とすることで、送液ポンプ20により、多層培養容器12から容器40へと培養液が液送され、容器40に回収することができる。
【0030】
また、細胞回収のために、容器50には、トリプシン等の剥離液が入れられて準備される。容器50には送液管3dが取り付けられ、容器50近傍に設けたバルブ2bを開閉することで、容器50と多層培養容器12とを接続または切断することができる。たとえば、細胞回収を行う場合には、バルブ2bを開いた状態とすることで、送液ポンプ20により、容器50からトリプシン等の剥離液を多層培養容器12へと導入することができる。
【0031】
遠心分離装置60は、細胞剥離処理をした後の培養細胞を含むトリプシン等の剥離液を遠心分離し、培養細胞とトリプシン等の剥離液とを分離する。本実施形態において、遠心分離装置60には送液管3eが取り付けられて、遠心分離装置60近傍に設けたバルブ2cを開閉することで、遠心分離装置60と多層培養容器12とを接続または切断することができる。細胞剥離処理後に、バルブ2cを開いた状態とすることで、送液ポンプ20により、多層培養容器12から培養細胞を含むトリプシン等の剥離液を遠心分離装置60へと導入することができる。なお、遠心分離装置60は、制御部18により動作を自動制御する構成としてもよいし、作業者が手動で動作させる構成とすることもできる。
【0032】
また、本実施形態では、遠心分離装置60は、送液管3f,3gを介して、送液ポンプ70および容器80と接続している。遠心分離装置60でトリプシン等の剥離液の遠心分離及び洗浄を行った後に、バルブ2cを閉じた状態とし、バルブ2dを開いた状態とすることで、送液ポンプ70により、遠心分離装置でトリシプン等の剥離液から分離回収した細胞を容器80に回収することができる。
【0033】
次に、第1実施形態に係る培養システム1を用いた細胞培養方法について説明する。
図6は、第1実施形態に係る細胞培養方法を示すフローチャートである。また、
図7は、第1実施形態に係る多層培養容器12の回転動作を説明するための図である。なお、
図7においては、説明の便宜のため、多層培養容器12および操作部14のみを記載し、その他の構成は記載を省略している。
【0034】
図6に示すように、まず、ステップS101では、培養液を多層培養容器12に導入する処理が行われる。具体的には、まず、作業者は、細胞を懸濁した培養液が入れられた容器40を用意し、容器40に送液管3cを取り付け、バルブ2aを開ける。次いで、作業者は、入力部19を操作して、開閉部143により送液管13のクランプ131を開き、容器40と多層培養容器12とを連通する。また、クランプ132を開きエアフィルタ133から多層培養容器12内の空気を排出できるようにする。そして、作業者は、
図7(A)に示す状態または
図3(C)に示す状態から、入力部19を操作することで、培養装置10の操作部14により、
図7(B)または
図4(A)に示すように、多層培養容器12の接続部122が下側に位置し、接続部123が上側に位置するように多層培養容器12を90°ほど回転させる回転動作を行わせる。また、作業者は、送液ポンプ20を動作させて、容器40から多層培養容器12へと培養液を導入する。容器40から多層培養容器12へと導入される培養液の液量は、流量計30により計測されており、送液ポンプ20は、培養液の送液が終了した場合に、送液ポンプ20の動作を終了する。培養液の送液が終了すると、クランプ132が閉じられ、エアフィルタ133を培養液から保護する。また、作業者は、多層培養容器12に培養液が導入された後は、入力部19を操作して、操作部14により、
図7(C)に示すように、多層培養容器12を180°ほど回転させて、多層培養容器12の接続部122が上側に位置し、接続部123が下側に位置するようにしてから、
図7(D)に示すように、多層培養容器12を直立させることで、
図4(B)に示すように、各トレイ121に細胞を懸濁した培養液を分配することができる。そして、バルブ2aおよびクランプ131を閉じる処理が行われる。
【0035】
ステップS102では、細胞培養が行われる。たとえば、作業者は、入力部19により筐体11の内部空間Sの温度を予め設定することができ、温度調整部16は、作業者により設定された温度となるように、筐体11の内部空間Sの温度を調整する。そして、作業者は、細胞が懸濁された培養液を含む多層培養容器12を、所定時間、筐体11の内部空間Sにて静置培養あるいは振盪培養することで、細胞を培養させることができる。
【0036】
ステップS103では、培養液の回収が行われる。たとえば、作業者は、入力部19を操作することで、操作部14により、クランプ131、132を開かせるとともに、
図7(B)または
図4(A)に示すように、多層培養容器12を回転させる。また、作業者は、バルブ2aを開いた状態として、容器40と多層培養容器12とを連通させた後に、送液ポンプ20により、多層培養容器12から容器40へと培養液を液送させる。これにより、培養液が容器40に回収され、培養された細胞が多層培養容器12のトレイ121に付着して残る。
【0037】
ステップS104では、トレイ121に付着する細胞を剥離するため、トリプシン等の剥離液を多層培養容器12に導入する処理が行われる。具体的には、作業者は、クランプ131,132が開いた状態のまま、バルブ2aを閉じ、トリプシン等の剥離液が入った容器50近傍のバルブ2bを開くことで、容器50と多層培養容器12とを連通させる。そして、作業者は、送液ポンプ20により、送液管3d,3b,3aおよび送液管13を介して、トリプシン等の剥離液を多層培養容器12に導入する。トリプシン等の剥離液を多層培養容器12に導入する場合、作業者は、ステップS101と同様に、
図7(A)~(D)に示すように、入力部19を操作して、操作部14の駆動部142に回転部141を回転させることで、多層培養容器12を回転させる回転動作を行わせる。
【0038】
ステップS105では、細胞剥離処理が行われる。たとえば、作業者は、入力部19を操作して指示を入力することで、操作部14に、多層培養容器12を揺動させる動作を行わせることができる。また、細胞剥離処理では、回転部141により多層培養容器12を第1回転軸X1または第2回転軸X2を中心として第1の方向(たとえば右方向)および第2の方向(たとえば左方向)に多層培養容器12を往復揺動させるよう、操作プログラムにプログラムされている。また、この操作プログラムでは、第1の方向への回転動作から第2の方向への回転動作へ切り替わる際および第2の方向への回転動作から第1の方向への回転動作へ切り替わる際に、指定された時間、多層培養容器12の移動を停止させる停止モードを備えている。停止モードを備えることにより、容器内の液体の移動よりも早い速度で揺動動作を行っても、回転動作の方向切り換え時に揺動動作を指定時間だけ停止させることで、容器内の液体によって、トレイ121に付着している細胞に確実に剪断力を加えて細胞がトレイ121から剥離することを促進することが可能となる。細胞剥離処理を効果的に行うためには、容器を高速に揺動させることが重要であるが、容器を高速に揺動させた際に生じる液体の移動の遅れ(タイムラグ)の課題を解消することが可能である。
【0039】
ステップS106では、遠心分離処理が行われる。具体的には、作業者は、入力部19を操作して、操作部14に、多層培養容器12を接続部122が下側となるように回転させるとともに、クランプ131、132を開かせる。また、作業者は、入力部19を操作することで、遠心分離装置60近傍にあるバルブ2cを開き、多層培養容器12と遠心分離装置60とを連通させる。そして、作業者は、送液ポンプ20により、送液管13および送液管3a,3b,3eを通過して、剥離された細胞を含むトリプシン等の剥離液を遠心分離装置60へと導入する。さらに、作業者は、遠心分離装置60を動作させて、細胞を含むトリプシン等の剥離液の遠心分離を行い、培養した細胞とトリプシン等の剥離液とを分離させる。
【0040】
ステップS107では、遠心分離装置60はサービスタンク、連続遠心分離装置、培養液供給タンク、細胞回収バッグ、廃液回収バッグ及びポンプ等により構成される装置を用いることができる。培養細胞を回収する処理が行われる。たとえば、作業者は、遠心分離装置60により沈殿した培養細胞を回収することができる。また、作業者は、バルブ2cを閉じて、バルブ2dを開き、遠心分離装置60と容器80とを連通することで、送液ポンプ70により、遠心分離装置60から容器80へと分離した細胞を懸濁した培養液を液送させて回収する。
【0041】
以上のように、第1実施形態に係る培養システム1では、複数のトレイ121を内蔵する多層培養容器12を内部空間Sに収容する筐体11と、内部空間Sの温度を調整する温度調整部16と、多層培養容器12を内部空間Sに収容したままの状態で操作する操作部14と、を有し、多層培養容器12は送液管13と連通しており、送液管13を介して筐体11外部から培養液またはトリプシン等の剥離液を多層培養容器12内に導入、または、送液管13を介して多層培養容器12内から培養液を筐体11外部に排出することができる。これにより、多層培養容器12の操作と細胞培養とを同一空間内で一連して行うことができるため、多層培養容器12の操作の度に培養器から多層培養容器12を取り出し、および、多層培養容器12を培養器に収容する作業者の手間を省くことができ、作業者の負担を軽減することができる。また、培養器の外で送液管13の取り換えなどを行わずに済むため細胞培養に悪影響のある温度変化を有効に防止することができる。
なお、これまでの一連の動作は、作業者の介在が無くても自動で歩進させることもできる。
【0042】
また、本実施形態に係る培養システム1では、システムを複数台構えることで、複数の多層培養容器12を用いて細胞培養、細胞剥離、培養した細胞の回収を行うこともでき、作業者の負担をより軽減することができる。
【0043】
《第2実施形態》
続いて、第2実施形態に係る培養システム1aについて説明する。
図8は第2実施形態に係る培養システム1aの斜視図、
図9は第2実施形態に係る培養システム1aの筐体11a内の構成を示す斜視図である。第2実施形態に係る培養システム1aは、観察装置101を有する点、2つの液面センサー102,103を有する点、および回転部141aの回転軸X2が多層培養容器12を通過するように回転部141aが構成されている点こと以外は、第1実施形態に係る培養システム1と同様の構成を有し、第1実施形態に係る培養システム1と同様に動作する。なお、
図8および
図9においては、説明の便宜のため、観察装置101、液面センサー102,103の視野を図示している(後述する
図10も同様)。
【0044】
具体的には、第2実施形態に係る培養システム1aでは、
図8に示すように、筐体11a内の空間Sが、仕切り板113により、上部収容部111と下部収容部112の2つに分けられており、上部収容部111に多層培養容器12を含む培養装置10aが収容されるとともに、下部収容部112に観察装置101が収容される。なお、仕切り板113は一部または全部が透光性素材(透光性樹脂やガラス)で製造されており、当該透光性素材の位置において、下部収容部112に収容された観察装置101が、上部収容部111に収容された多層培養容器12の内部を観察することが可能となっている。
【0045】
観察装置101は、
図9に示すように、カメラ1011、カメラ第1駆動部1012、カメラ第2駆動部1013、およびレンズ1014を有している。カメラ1011は、たとえばCCDカメラやCMOSカメラであり、レンズ1014を介して、多層培養容器12の下側に配置され、多層培養容器12の下側から多層培養容器12のトレイ121の底面内側を撮像するように設置されている。観察装置101により撮像された撮像画像(動画像を含む)は、図示しない表示装置へと送信され、表示装置において作業者に表示される。実施形態において、多層培養容器12は回転部141aにより保持されており、
図10に示すように、回転部141aの底面1411には、複数の切り欠き1412が形成されている。カメラ1011は、この切り欠き1412を介して、多層培養容器12内のトレイ121の底面内側を撮像することができる。なお、
図10は、第2実施形態に係る培養システム1aの筐体11a内の構成を下側から見た斜視図であり、観察装置101により多層培養容器12内の細胞を観察するための観察位置における、培養システム1aを示す図である。
【0046】
本実施形態において、カメラ第1駆動部1012には、カメラ1011が連結しており、カメラ1011を所定の第1方向に直線移動させることが可能となっている。また、カメラ第2駆動部1013は、カメラ第1駆動部1012と連結しており、カメラ1011をカメラ第1駆動部1012と共に、第1方向と直交する第2方向に直線移動させることが可能となっている。すなわち、カメラ1011は、カメラ第1駆動部1012およびカメラ第2駆動部1013により、二次元方向において自在に移動することが可能となっている。そのため、作業者は所望する位置の切り欠き1412から培養状態を観察することができる。なお、カメラ1011の二次元方向における位置は、入力部19を介して、作業者が入力することで指示する構成とすることができる。また、多層培養容器12を挟んでカメラ1011の反対側に、図示しない照明装置を設置する構成としてもよい。この場合、照明装置の光軸と、カメラ1011の光軸とを一致させることで、多層培養容器12の照度を高くし培養細胞の状態を適切な明るさで撮像することができる。
【0047】
また、第2実施形態に係る培養システム1aでは、
図8および
図9に示すように、第1液面センサー102および第2液面センサー103を有する。第1液面センサー102および第2液面センサー103は、培養液やトリプシン等の剥離液などの流体材料を多層培養容器12に導入する際に、流体材料が多層培養容器12に適量(培養に必要な所定量)まで導入されたかを判断するためのセンサーであり、CCDやCMOSなどのカメラを有し、当該カメラの撮像画像(または動画像)に基づいて、流体材料が多層培養容器12に適量導入されたことを検知し、制御部18に、多層培養容器12への流体材料の導入を停止させるための信号を出力する。
【0048】
具体的には、第1液面センサー102および第2液面センサー103は、筐体11aの内壁に固定され、多層培養容器12に導入された流体材料の液面を撮像するように設置される。多層培養容器12に流体材料を導入する場合、回転部141aにより多層培養容器12をおおよそ90度に傾けた状態で、流体材料を多層培養容器12内に導入する。第2液面センサー103は、このように流体材料を多層培養容器12に導入している場合に、多層培養容器12において流体材料が適量となる第1水位よりも少し下側の第2水位近傍を撮像する。そして、第2液面センサー103は、第2水位まで流体材料の液面が到達した場合に、培養液やトリプシン等の剥離液が適量に近いことを検知して、制御部18に信号を送信する。制御部18は、第2液面センサー103から信号を受信すると、流体材料が適量に近いと判断し、流体材料の流入量を少なくするように、送液ポンプ20の動作を制御する。
【0049】
また、第1液面センサー102は、流体材料を多層培養容器12に導入している場合に、流体材料が適量となる第1水位近傍を撮像する。そして、第1液面センサー102は、流体材料が適量となる第1水位まで流体材料の水面が到達した場合に、流体材料が適量であることを検知して、制御部18に信号を送信する。制御部18は、第1液面センサー102から信号を受信すると、流体材料が適量になったと判断し、流体材料の流入を停止するように、バルブ2a~2dの開閉動作や、開閉部143の動作、送液ポンプ20の動作を制御する。
【0050】
さらに、第2実施形態においては、回転部141aの構成が、第1実施形態に係る回転部141の構成と異なる。すなわち、第1実施形態係る回転部141では、
図2に示すように、多層培養容器12をピッチ方向Pに回転させる回転軸X2は、回転部141を通過する構成となっており、多層培養容器12はこの回転軸X2を中心にピッチ方向Pに回転する。
【0051】
これに対して、第2実施形態においては、
図9および
図10に示すように、回転部141aは、多層培養容器12をロール方向Rに回転させる第1駆動部1421と、多層培養容器12をピッチ方向Pに回転させる第2駆動部1422とを備え、第2駆動部1422の回転軸X2が多層培養容器12を通過するように、第2駆動部1422が設置されている。言い換えると、第2駆動部1422は、
図9および
図10に示すように、多層培養容器12の側面側に配置され、これにより、多層培養容器12を通過する回転軸X2により、多層培養容器12をピッチ方向Pに回転させることができる。これにより、第2実施形態に係る第2駆動部1422では、多層培養容器12をより広い角度で回転させることが可能となる。すなわち、第1実施形態に係る培養システム1では第2駆動部1422により回転軸X2を中心として多層培養容器12をピッチ方向Pに±30°の範囲で回転させることしかできなかったが、第2実施形態に係る培養システム1aでは、第2駆動部1422により回転軸X2を中心として多層培養容器12をピッチ方向P(具体的には
図9における時計回りでのピッチ方向P)に90°以上回転させることができ、その結果、多層培養容器12を90°回転させた状態で、多層培養容器12を揺動することも可能となっている。なお、第1駆動部1421については、第1実施形態と同様に、多層培養容器12を通過する回転軸X1を中心に、多層培養容器12をロール方向Rに回転させる。
【0052】
以上のように、第2実施形態に係る培養システム1aは、多層培養容器12の下側に、多層培養容器12のトレイ121の底面から内側を撮像する観察装置101を有する。これにより、作業者は、筐体11aから多層培養容器12を取り出すことなく、多層培養容器12における細胞の培養状態を適切に把握することができる。また、本実施形態では、回転部141aの底面1411に複数の切り欠き1412を有しており、観察装置101は、この切り欠き1412を介して多層培養容器12のトレイ121の底面内側における細胞の状態を観察することができる。
【0053】
また、第2実施形態に係る培養システム1aは、培養液などの流体材料が適量に近いことを検知する第2液面センサー103と、流体材料が適量となったことを検知する第1液面センサー102とを有する。これにより、第2実施形態に係る培養システム1aでは、流体材料が多層培養容器12で適量まで導入された場合に、自動で流体材料の導入を停止することができる。
【0054】
さらに、第2実施形態に係る培養システム1aは、多層培養容器12をピッチ方向Pに回転させる第2駆動部1422の回転軸X2が、多層培養容器12を通過するように第2駆動部1422が設置されている。第1実施形態では、多層培養容器12のピッチ方向Pの回転軸X2と多層培養容器12とが離れるため、その距離分だけ回転に必要なスペースが大きくなり、培養システム1全体の大きさも大きくなるが、第2実施形態では、多層培養容器12をピッチ方向Pに回転させる回転軸X2と多層培養容器12との距離が短いため、多層培養容器12の回転に必要なスペースを小さくすることができ、その分、培養システム1全体の大きさを小さくすることができる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る培養装置および培養システムの実施形態として、培養装置10および培養装置10を備える培養システム1を例示したが、本発明に係る多層培養容器操作装置として、
図7に示すように、培養装置10に用いられる、操作部14を有する装置を提供することもできる。
【0057】
また、上述した実施形態では、培養装置10が温度調整部16、ガス濃度調整部171、およびpH調整部172を備える構成を例示したが、この構成に限定されず、温度調整部16、ガス濃度調整部171、およびpH調整部172のいずれか1つまたは2つを備える構成とすることができる。
【0058】
さらに、上述した実施形態では、
図1に示すように、バルブ2a~2cが、容器40,50,80にそれぞれ連通する個別送液管(送液管3c~3e)上に設置され、バルブ2a~2cを制御することで、個別送液管(送液管3c~3g)と共通送液管(送液管3a,3b,13)との連通状態を開状態あるいは閉状態に制御する構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、個別送液管(送液管3c~3g)と共通送液管(送液管3a,3b)との合流地点にバルブを設置し、当該バルブを制御することで、それぞれの個別送液管(送液管3c~3g)と共通送液管(送液管3a,3b,13)との連通状態を制御する構成とすることができる。
【0059】
また、上述した実施形態では、液面センサー102,103として、カメラセンサーを用いる構成を例示したが、この構成に限定されず、超音波式、静電容量式、あるいは圧力式の液面センサーを用いることもでき、そのうち、静電容量式の液面センサーを用いることが好ましい。また、超音波式や静電容量式の液面センサーを用いる場合、液面センサーを回転部141の所定の位置(第1水位や第2水位を測定可能な位置)に取り付けることで、多層培養容器12を取り替えても、多層培養容器12において流体材料が第1水位や第2水位に到達したかを判断することができる。また、上述した実施形態では、説明の便宜のため、液面センサー102,103により、培養液やトリプシン等の剥離液が第1水位や第2水位に到達したかを判定する構成を例示したが、培養液とトリプシン等の剥離液とを異なる水位まで注入する構成とすることができる。この場合、たとえば、培養液の水位を第1液面センサー102と第2液面センサー103で監視するとともに、トリプシン等の剥離液の水位を、第1液面センサー102および第2液面センサー103とは異なる、第3液面センサーおよび第4液面センサーで監視する構成とすることができる。すなわち、第4液面センサーにより、多層培養容器12においてトリプシン等の剥離液が適量となる第3水位よりも少し下側の第4水位までトリプシン等の剥離液が到達したかを判定し、第3液面センサーにより、トリプシン等の剥離液が第3水位まで到達したかを判定する構成とすることができる。さらに、多層培養容器12から流体材料を回収し、多層培養容器12が空となったことを判定するための液面センサーをさらに備える構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0060】
1,1a…培養システム
10,10a…培養装置
11,11a…筐体
111…上部収容部
112…下部収容部
113…仕切り板
12…多層培養容器
121…トレイ
122,123…接続部 13…送液管
131,132…クランプ
133…エアフィルタ
14…操作部
141,141a…回転部
1411…底面
1412…切り欠き
142…駆動部
1421…第1駆動部
1422…第2駆動部
143…開閉部
15…挿通部
16…温度調整部
171…ガス濃度調整部
172…pH調整部
18…制御部
19…入力部
101…観察装置
1011…カメラ
1012…カメラ第1駆動部
1013…カメラ第2駆動部
1014…レンズ
102…第1液面センサー
103…第2液面センサー
20…送液ポンプ
30…流量計
40…容器(培養液の供給・回収用)
50…容器(トリプシン等の剥離液の供給用)
60…遠心分離装置
70…送液ポンプ
80…容器(細胞の回収用)
2a~2d…バルブ
3a~3g…送液管