(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】注射用シリンジバレルの蓋
(51)【国際特許分類】
A61M 5/178 20060101AFI20240425BHJP
B65D 39/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
A61M5/178
B65D39/00 100
(21)【出願番号】P 2020036219
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 千穂
(72)【発明者】
【氏名】西下 直希
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-533203(JP,A)
【文献】特開平10-323176(JP,A)
【文献】特開2012-140184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/178
B65D 39/00
A61J 1/05
A61J 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、該容器の開口部に装着する蓋
と、を備える蓋付きシリンジバレルであって、
前記容器は、中空筒体から構成される本体部と、該本体部の一端の端面と水平な方向に突出するフランジ部と、を有
し、
前記蓋は、前記
容器の前記フランジ部側の開口部を覆って密栓する蓋本体と、
前記蓋本体の周縁部から延出する鍔部と、を備え、
前記蓋本体は、前記容器の前記開口部に対して同心円形状であり、
前記蓋本体の中心から、該蓋本体から延出する前記鍔部の先端までの長さ(L)は、前記
容器の
前記開口部の中心から前記フランジ部の縁部までの最小長さよりも長くなるように形成され、
前記蓋本体の中心から、該蓋本体から延出する前記鍔部の先端までの長さ(L)は、前記容器の前記開口部の中心から前記フランジ部の縁部までの最大長さよりも短くなるように形成されている、
蓋付きシリンジバレル。
【請求項2】
前記蓋本体から下方に延び、前記本体部の内壁に接触して密栓するプラグ部を、さらに備える、
請求項1に記載の
蓋付きシリンジバレル。
【請求項3】
前記蓋本体の径が前記シリンジバレルの径よりも大きくなるように形成されている、
請求項1又は2に記載の
蓋付きシリンジバレル。
【請求項4】
前記シリンジバレルの前記フランジ部の縁部を保持する保持部を、さらに備える、
請求項1乃至
3のいずれかに記載の
蓋付きシリンジバレル。
【請求項5】
当該蓋は、樹脂製である、
請求項1乃至
4のいずれかに記載の
蓋付きシリンジバレル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋に関するものであり、より詳しくは、医療用液体製剤の保存容器として用いる注射用シリンジバレルに装着するための蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療等製品の細胞治療分野において、細胞含有溶液等の医療用液体製剤を凍結保存等するときの細胞保存容器としては、凍結保存バッグやバイアル瓶、クライオチューブ等が使用されている。
【0003】
ところが、その医療用液体製剤の多くは、投与時やその準備段階(輸液バックに移す場合等)に注射用シリンジを用いることが手順となっている。そのため、例えば細胞保存容器に収容されて凍結保存された細胞含有溶液を解凍した後には、注射用シリンジに移し替える操作が必要となり、移し替え操作による細胞ロスやコンタミネーション等が生じ得る可能性がある。また、医療従事者の作業量を増加させることによるヒューマンエラーも引き起こす原因となり得る。
【0004】
細胞保存容器から注射用シリンジへの移し替えに伴う細胞ロスやコンタミネーション等を考慮すると、注射用シリンジを保存容器として直接用いて凍結保存することができれば、移し替えの作業を無くすことができる。これにより、細胞ロスやコンタミネーション等を防ぐことができる。
【0005】
ここで、注射用シリンジは、中空筒体のシリンジバレルと、プランジャー(プランジャーロッド)とにより構成される。具体的には、シリンジバレルの一方の開口端から中空内部にプランジャーを挿入することにより、シリンジバレルの他方の開口端のルアー部に取り付けた注射針を介して、シリンジ内の内容物を排出できるようになっている。
【0006】
例えば、特許文献1、2には、注射用シリンジに予め薬液が充填されている、いわゆるプレフィルドシリンジに関する技術が開示されている。このようなプレフィルドシリンジによれば、移し替え操作が不要となり、投与に要する時間を短縮化させることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】登実第3149156号公報
【文献】登実第3147037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、プレフィルドシリンジにおいて、一般的な使い方では、プランジャーのガスケット部が注射用シリンジバレルの中空内部に挿入されることによりその開口部が封止されるようになる。しかしながら、プランジャーは中空内部から医療用液体製剤を押し出して排出するための部材に過ぎず、保存時に収容された医療用液体製剤の漏出等を防ぐことを目的としたものではない。
【0009】
特に、注射用シリンジバレルを保存容器として直接用いて凍結保存等の保存処理を行う場合には、そのシリンジバレルの開口部を効果的に密栓して、内部に収容した医療用液体製剤が漏出することを防ぎ、適切な保存処理を行うことが求められる。また、保存処理後、移し替えることなくそのまま注射用シリンジから医療用液体製剤を投与する操作において、その操作性が損なわれないようにすることも求められる。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑み、注射用シリンジバレルを細胞含有溶液等の医療用液体製剤を保存する保存容器として用いる新規な技術において、保存容器の開口部を効果的に密栓して適切な保存処理を行うことができ、また、保存処理後に容易に取り外して効率的に操作することを可能にする蓋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、注射用シリンジバレルを細胞含有溶液等の医療用液体製剤を保存する保存容器として用いる際に、その保存容器の蓋を特定の形状により構成することで、効果的に密栓することができ、また、容易に取り外して操作できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、容器の開口部に装着する蓋であって、前記容器は、中空筒体から構成される本体部と、該本体部の一端の端面と水平な方向に突出するフランジ部と、を有する注射用シリンジバレルであり、前記シリンジバレルの前記フランジ部側の開口部を覆って密栓する蓋本体と、前記蓋本体の周縁部から延出する鍔部と、を備え、前記蓋本体の中心から、該蓋本体から延出する前記鍔部の先端までの長さ(L)は、装着する前記シリンジバレルの開口部の中心から前記フランジ部の縁部までの最小長さよりも長くなるように形成されている、蓋である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記蓋本体から下方に延び、当該蓋を前記シリンジバレルの開口部に装着したときに、前記本体部の内壁に接触して密栓するプラグ部を、さらに備える、蓋である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記蓋本体は、装着する前記シリンジバレルの開口部に対して同心円形状であり、該蓋本体の径が前記シリンジバレルの径よりも大きくなるように形成されている、蓋である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記蓋本体の中心から、該蓋本体から延出する前記鍔部の先端までの長さ(L)は、装着する前記シリンジバレルの開口部の中心から前記フランジ部の縁部までの最大長さよりも短くなるように形成されている、蓋である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記シリンジバレルの前記フランジ部の縁部を保持する保持部を、さらに備える、蓋である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、当該蓋は、樹脂製である、蓋である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、中空筒体から構成される本体部と、前記本体部の一端の端面と水平な方向に突出するフランジ部と、を有する注射用シリンジバレルの前記本体部における前記フランジ部側の開口部を密栓させるための第1乃至第6のいずれかの発明に係る蓋の使用である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、注射用シリンジバレルに装着されて効果的に密栓でき、内容物の医療用液体製剤が外部へ漏出することを効果的に防止でき、また、注射用シリンジバレルから容易に取り外して効率的に操作できる蓋を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】蓋を装着する容器である注射用シリンジバレルの構成を示す図である。
【
図3】注射用シリンジバレルの開口部に蓋を装着したときの状態(蓋の使用状態)を示す図である。
【
図4】鍔部に保持部が形成されている蓋の態様を示す図である。
【
図5】蓋を注射用シリンジバレルに装着してシリンジバレルを保存容器として使用し、その後、収容した液体製剤を投与等するまでの操作の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0022】
≪1.注射用シリンジバレルの蓋≫
本発明に係る蓋は、容器の開口部に装着する蓋であり、例えば細胞含有溶液等の医療用液体製剤(以下、単に「液体製剤」ともいう)を収容して凍結保存等するための容器に装着される蓋である。なお、当該容器としての用途は、凍結保存するために限られず、単に所定期間に亘って液体製剤を保存するための容器であってもよい。
【0023】
具体的に、当該容器としては、注射用シリンジバレル(以下、単に「シリンジバレル」ともいう)を用いる。したがって、本発明に係る蓋は、シリンジバレルの開口部に装着される蓋である。詳しくは後述するが、蓋が装着されるシリンジバレルは、中空筒体から構成される本体部と、その本体部の一端の端面と水平な方向に突出するフランジ部と、により構成される(
図2を参照)。
【0024】
このように、注射用シリンジバレルを、例えば細胞含有溶液等の液体製剤を凍結保存する容器等として用いることで、凍結保存後、解凍したのちそのシリンジバレルの開口端から中空内部にプランジャーを挿入してそのまま注射用シリンジとして使用できる。これにより、保存収容した医療用液体製剤を投与するときに、注射用シリンジに移し替えるといった操作が不要となり、移し替え時に発生する細胞ロスやコンタミネーション等を防ぐことができる。
【0025】
このとき、本発明に係る蓋を、容器として用いるシリンジバレルの開口部に装着することで、保存時においてもシリンジバレルに収容した内容物である液体製剤の漏れを効果的に防ぐことができる。また、詳しくは後述する構成を有する蓋であることにより、効果的に密栓できるともに、保存状態において物理的な障害にもならず効率的な保存処理を行うことができる。
【0026】
ここで、
図1は、蓋の構成の一例を示す図であり、(A)は上面図であり、(B)はa-a断面図である。蓋1は、シリンジバレルのフランジ部側の開口部を覆って密栓する蓋本体11と、蓋本体11の周縁部から延出する鍔部12と、を備える。また、蓋本体11から下方に延びるプラグ部13を、さらに備える。
【0027】
また、
図2は、
図1に例示する蓋1を装着する容器である、注射用シリンジバレルの構成の一例を示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)はフランジ部を示す図である。
図2(A)に示すように、注射用シリンジバレル20は、中空筒体から構成される本体部21と、その本体部21の一方の端部21aの端面と水平な方向に突出するフランジ部22と、を有する。また、注射用シリンジバレル20は、フランジ部22とは反対側の端部21bにルアー部23を構成し、注射針が取り付け可能となっている。なお、シリンジバレル20は、その内部を目視で確認可能な透明色等であることが好ましく、これにより蓋1を装着したときでも、内部に収容した液体製剤の保存状態を外部から目視で確認できる。
【0028】
図2(B)に示すように、シリンジバレル20のフランジ部22は、例えば略長方形状(H×W)であり、そのフランジ部22には本体部21の中空内部に通ずる開口部22aが形成されている。開口部22aは、例えば略円形状であり、中空筒体から構成される本体部21内に通じている。開口部22aの半径r
2は、中空筒体の本体部21の内部の断面径と略同一となる。本発明に係る蓋1は、シリンジバレル20におけるフランジ部22の開口部22aを覆うように装着されるものであり、フランジ部22の面の少なくとも一部に接するように装着される。なお、フランジ部22の形状は、略長方形状に限られず、例えば楕円形状であってもよい。
【0029】
また、
図3は、シリンジバレル20のフランジ部22における開口部22aに蓋1を装着したときの状態(蓋1の使用状態)を示す図であり、(A)は装着としたときの断面図であり、(B)及び(C)はフランジ部22側から視た状態図である。符号Fは、容器としてのシリンジバレル20の内部に収容した細胞含有溶液等の液体製剤を示す。
図3に示すように、蓋1をシリンジバレル20の開口部22aに装着したときには、蓋1によって開口部22aを覆うように密栓するため、蓋1を構成する蓋本体11と鍔部12とは、フランジ部22より上方に出た状態となる。
【0030】
なお、
図3でも示しているように、保存容器としての使用、例えば中空筒体からなる本体部21内に液体製剤を収容して凍結保存する等の使用に際しては、ルアー部23にもキャップ23Cを装着し、内容物のルアー部23からの漏出を防ぐようにする。
【0031】
<1-1.蓋の構成について>
[蓋本体]
蓋本体11は、蓋1の本体を構成するものであり、シリンジバレル20のフランジ部22側の開口部22aを覆って密栓する。
【0032】
蓋本体11は、装着するシリンジバレル20のフランジ部22側の開口部22aに対して同心円形状であり、蓋本体11の半径r1がシリンジバレル20のフランジ部22における開口部22aの半径r2よりも大きくなるように形成されている。これにより、蓋1をシリンジバレル20の開口部22aに装着したときに、蓋本体11がそのフランジ部22の面の少なくとも一部に接しながら開口部22aを覆うようになり、より効果的に密栓でき、シリンジバレル20の本体部21内に収容した液体製剤Fの漏れを防ぐことができる。
【0033】
なお、
図1(A)の蓋1の上面図に示した円形破線は、蓋1をシリンジバレル20の開口部22aに装着したときのその開口部22aの縁部を示し、装着時における蓋本体11と開口部22aとの位置関係を示す。
【0034】
[鍔部]
鍔部12は、蓋本体11の周縁部の一部から延出して構成され、主として、蓋1をシリンジバレル20から取り外すときに操作者の指や取り外し冶具等で摘持する部位となる部材である。
【0035】
ここで、鍔部12に関して、
図1に示す、蓋本体11の中心P
1からその蓋本体11から延出する鍔部12の先端までの長さ(L)は、装着するシリンジバレル20のフランジ部22における開口部22aの中心P
2からフランジ部22の縁部までの最小長さよりも長くなるように形成されている。フランジ部22における開口部22aの中心P
2から延部までの「最小長さ」とは、
図2に示すフランジ部22が略長方形状である例では、その
図2中に示す「r
2+a
1」をいい、あるいは「H/2」とも定義できる。したがって、蓋1は、長さ(L)>(r
2+a
1)の関係を満たす。
【0036】
このような関係((L)>(r
2+a
1))を満たすように、蓋本体11から鍔部12を延出させて蓋1を構成することで、シリンジバレル20の開口部22aに蓋1を装着したときに、そのシリンジバレル20のフランジ部22に対して、
図3(B)及び(C)の二点破線で示すように蓋1を装着させ、符号12Aに示すように鍔部12を位置させることができる。
【0037】
詳しくは後述するが、蓋1付きシリンジバレル5を容器として用いて内部の液体製剤Fを保存処理した後、その液体製剤Fを患者等に投与する際には、開口部22aから蓋1を取り外し、その開口部22aからプランジャー(
図5において符号30で示す)を本体部21内に挿入する。したがって、蓋1の取り外し操作は、その後のプランジャー30の挿入及び患者等への投与の律速となる操作であり、スムースかつ適切な操作が望まれる。
【0038】
このとき、(L)>(r2+a1)の関係を満たし、鍔部12の先端をフランジ部22の端からはみ出させるようにすることで、はみ出た鍔部12(12A)の先端を、蓋1を取り外す操作者の指や冶具等で摘持し易くなり、シリンジバレル20からの蓋1の取り外し操作が容易となる。また、取り外し操作が容易になることから、取り外しに際しての振動や操作者による手ぶれ等によって内容物である液体製剤Fが飛散することも防ぐことができる。
【0039】
なお、蓋1の長さ(L)に関して、(L)>(r
2+a
1)の関係を満たすことに加えて、(L)>W/2の関係も満たす場合においては、
図3(B)及び(C)で示すような略長方形状のフランジ部22の長辺から鍔部12(12A)の先端がはみ出るだけでなく、図示しないがフランジ部22の短辺からも鍔部12の先端がはみ出るようになる。そのため、鍔部12Aを摘持して蓋1の取り外しを行う操作に代え、フランジ部22の短辺からはみ出た鍔部12を同様にして摘持して蓋1の取外し操作を行うこともできる。ここで、「W」とは、
図2(B)で示したように、装着するシリンジバレル20のフランジ部22の長辺の長さである。
【0040】
また、鍔部12に関して、好ましくは、蓋本体11の中心P
1からその蓋本体11から延出する鍔部12の先端までの長さ(L)が、装着するシリンジバレル20のフランジ部22における開口部22aの中心P
2からフランジ部22の縁部までの最大長さよりも短くなるように形成されている。フランジ部22における開口部22aの中心P
2から縁部までの「最大長さ」とは、
図2に示すフランジ部22が略長方形状である例では、その
図2中に示す「r
2+a
2」をいう。したがって、蓋1は、好ましくは長さ(L)<(r
2+a
2)の関係を満たす。
【0041】
このような関係((L)<(r
2+a
2))を満たすように、蓋本体11から鍔部12を延出させて蓋1を構成することで、シリンジバレル20の開口部22aに蓋1を装着したときに、そのシリンジバレル20のフランジ部22に対して、
図3(B)の符号12Bで示すように鍔部12が位置するように蓋1を装着させることができる。これにより、保存処理する状態において、フランジ部22の端部から、装着した蓋1の鍔部12(12B)がはみ出ることを防ぎ、物理的な障害となることを防止できる。
【0042】
さらに好ましくは、略長方形状のフランジ部22の場合、蓋本体11の中心P
1からその蓋本体11から延出する鍔部12の先端までの長さ(L)が、装着するシリンジバレル20のフランジ部22の長辺の長さ(W)(
図2(B)を参照)の1/2と同一か、それよりも短くなるように形成されている。したがって、蓋1は、さらに好ましくは長さ(L)≦W/2の関係を満たす。
【0043】
このような関係((L)≦W/2)を満たすように、蓋本体11から鍔部12を延出させて蓋1を構成することで、シリンジバレル20の開口部22aに蓋1を装着したときに、そのシリンジバレル20のフランジ部22に対して、
図3(C)の符号12Cで示すように鍔部12が位置するように蓋1を装着させることができる。これにより、保存処理する状態において、フランジ部22の端部から、装着した蓋1の鍔部12(12B)がはみ出ることを防ぎ、物理的な障害となることを防止できる。なお、
図3(C)では、(L)>W/2の関係を満たす例を示している。
【0044】
より具体的に
図3の使用状態の模式図で説明すると、シリンジバレル20(本体部21)内に液体製剤Fを収容し、シリンジバレル20のフランジ部22における開口部22aに蓋1を装着して保存処理等を行うとき、蓋本体11及び鍔部12において、少なくとも(L)<(r
2+a
2)の関係が満たされる蓋1であると、
図3(B)中の実線で示すようにフランジ部22に対して鍔部12(12B)を位置させることができる。
【0045】
すると、蓋1の鍔部12(12B)がフランジ部22の面(
図2(B)で示す(H×W)の面)内に収まるようになるため、例えば所定の収納箱等に保存容器であるシリンジバレル20に蓋1を装着した蓋1付きシリンジバレル5を複数並べて保持するようなとき、その鍔部12が物理的な障害となることを防ぎ、且つ、誤って蓋1が外れることを防ぐことができる。これにより、その収納箱に密な状態で多くの蓋1付きシリンジバレル5を収納して保存処理を行うことができる。
【0046】
さらに、蓋本体11及び鍔部12において、(L)<(r
2+a
2)の関係が満たされることに加えて、(L)≦W/2の関係が満たされる蓋1であると、
図3(C)の実線で示すようにフランジ部22に対して鍔部12(12C)を位置させることができる。
【0047】
これにより、シリンジバレル20の開口部22aに蓋1を装着するときの鍔部12の位置範囲を広げることができる。またこのような態様でも同様に、所定の収納箱等に蓋1付きシリンジバレル5を複数並べて保持するようなとき、その鍔部12が物理的な障害となることを防ぎ、且つ、誤って蓋1が外れることを防ぐことができる。
【0048】
なお、
図3(B)や(C)に示すように、フランジ部22に対する蓋1の鍔部12の位置に関しては、蓋本体11や鍔部12を摘持して、図中矢印Rに示すように例えば45度回転させることや90度回転させることで容易に変更できる。
【0049】
[プラグ部]
蓋1においては、プラグ部13をさらに備えるようにすることができる。なお、
図3(A)に示すように、蓋1を装着したときには、蓋1のうちのプラグ部13の部分のみが中空筒体からなる本体部21の内部に位置されることになる。一方で、上述した蓋本体11及び鍔部12は、フランジ部22の少なくとも一部が重なり合う形態で、そのフランジ部22より上方に位置される。
【0050】
プラグ部13は、
図1に示すように、蓋本体11から下方に延びる部位であり、蓋本体11と一体に成形できる。
図3(A)に示すように、プラグ部13は、蓋1をシリンジバレル20のフランジ部22における開口部22aに装着したときに、その開口部22aから通ずる本体部21の内部に挿入されて内壁21wに接触しながら装着され、これにより本体部21の内部を密栓する。したがって、プラグ部13は、その断面が円形状であり、プラグ部13の径は、シリンジバレル20の中空筒体からなる本体部21の内径に対してその本体部21の内部に挿入可能な程度に僅かに小さいが、略同一である。
【0051】
このように、蓋1において蓋本体11から下方に延びるプラグ部13を備えることで、蓋1をより強固に装着することができる。また、蓋1を装着したときに、本体部21の内壁21wに接触した状態となるため、密閉性が向上し、本体部21の内部に収容した液体製剤の漏出等をより効果的に防ぐことができる。
【0052】
プラグ部13は、
図1(B)の断面図に示すように内部が空洞ではない円柱状であることに限られず、例えば中央部分が空洞となった円筒状であってもよい。また、プラグ部13において、少なくとも、シリンジバレル20の本体部21の内壁21wと接触する部分の材質をシリコン等により構成してもよく、これによりその内壁21wとの密閉性をさらに高めるようにしてもよい。なお、プラグ部13において、例えば、シリンジバレル20の蓋本体11の内壁11wと接触する部分とそれ以外の部分とで、材質を異ならせるようにしてもよい。
【0053】
[保持部]
蓋1においては、
図4に例示するような保持部14をさらに備えるようにすることができる。保持部14は、シリンジバレル20のフランジ部22の縁部を保持する部材である。
図4の(A1)~(A3)は保持部14を備えた蓋1の断面図であり、(B)は(A1)に例示した保持部14aを備えた蓋1をシリンジバレル20に装着して保持部14aによりフランジ部22の縁部を保持しているときの状態を示す模式図である。なお、(A1)~(A3)は保持部14の3つのパターン例(14a,14b,14c)を示しているが、保持部14としてはこれらに限定されるものではない。
【0054】
一例として
図4(A1)に示すように、保持部14,14aは、鍔部12の下面12aから下方に向かって形成され、その先端が水平方向であってプラグ部13の方向へ屈曲した形状となっている。このような形状であることで、
図4(B)に示すように、蓋1を装着したときに、水平方向に屈曲した部分と鍔部12の下面12aとによってシリンジバレル20のフランジ部22の縁部を保持できるようになっている。これにより、蓋1をより強固に装着できるようになり、例えば凍結保存するとき等に離脱してしまうことを防ぐことができる。
【0055】
また、他の一例として
図4(A2)に示すように、保持部14,14bは、鍔部12の先端ではなく、水平方向においてその先端よりもプラグ部13側の箇所において、鍔部12の下面12aから下方に向かって形成されるものであってもよい。さらに、別の他の一例として
図4(A3)に示すように、保持部14,14cは、鍔部12ではなく、プラグ部13を挟んで鍔部12と対向する箇所において、蓋本体11の側面11sから形成されるものであってもよい。なお、これら保持部14b,14cも、その先端が水平方向であってプラグ部13の方向へに屈曲した形状となっており、蓋1を装着したときに、水平方向に屈曲した部分によってシリンジバレル20のフランジ部22の縁部を保持できるようになっている。
【0056】
ここで、上述したように、
図4に示す保持部14(14a~14c)は保持部の態様の一例であり、蓋1の鍔部12に形成されていることに限られず、蓋本体11のいずれの箇所に設けてもよい。例えば、
図4(A3)に示したように、鍔部12と対向する蓋本体11の所定の箇所における側面11sから保持部14cを設けることで、シリンジバレル20のフランジ部22の縁部を保持できるように構成することができる。また、保持部14は、一つであることに限られず、複数であってもよい。
【0057】
[その他]
なお、上述した実施態様においては、蓋1と、その蓋1を装着するシリンジバレル20とが独立して別体として構成されている態様について説明したが、それに限られず、例えば蓋1の蓋本体11の所定箇所と、シリンジバレル20のフランジ部22の縁部とを連結する連結部を備えるようにし、その連結部を介して一体となっている態様としてもよい。このような場合でも、上述した蓋1の構成及びその構成に基づく効果に相違はない。
【0058】
<1-2.蓋の性質について>
蓋1は、例えば樹脂製とすることができる。樹脂製とすることで、その適度な柔軟性により、シリンジバレル20への蓋1の装着やシリンジバレル20からの蓋1の取り外し等に際しての操作性が向上する。また、凍結保存により内容物である液体製剤Fが膨張しても、有効に密栓できる。
【0059】
当該樹脂としては、蓋1をシリンジバレル20に装着して液体製剤Fを液体窒素気相下(例えば-78℃以下あるいは-158℃以下の温度雰囲気下)で凍結保存するにあたっても優れた耐久性を示すものであれば特に限定されない。例えば、ポリプロピレン、環状オレフィン、環状オレフィンコポリマー等が挙げられる。上述したように、蓋1は、蓋本体11と、鍔部12と、プラグ部13とを備えているが、所定の樹脂により一体成形して製造することができる。
【0060】
また、蓋1の構成材料としては、γ線等の放射線に対して耐性を有するものであることが好ましい。液体製剤を保存容器に収容するに際しては、その容器の構成部材に対してγ線等で滅菌処理を施すことが一般的である。したがって、蓋1の構成材料として放射線耐性を有するものであることにより、変形等を生じさせることなく有効に滅菌処理を施して、液体製剤を収容する保存容器であるシリンジバレル20の蓋として使用できる。
【0061】
≪2.蓋の使用及び注射用シリンジバレルの保存容器としての使用の流れ≫
図5は、上述した構成を有する蓋1を注射用シリンジバレル20に装着し、そのシリンジバレル20(蓋付きシリンジバレル5)を保存容器として使用し、その後、収容した液体製剤を患者等に投与するまでの操作の流れを説明するための図である。
【0062】
先ず、
図5(a)、(b)は、シリンジバレル20内に液体製剤Fを収容し、シリンジバレル20(蓋付きシリンジバレル5)を凍結保存する際の保存容器として使用するときの流れを示すものである。
【0063】
図5(a)は、蓋1を、シリンジバレル20のフランジ部22における開口部22aに装着するときの様子を示す図である。上述したように、蓋1は、蓋本体11と、鍔部12とを備える。また、蓋本体11の下方から延びるプラグ部13を備える。シリンジバレル20の内部に液体製剤Fを収容し、蓋1をシリンジバレル20の開口部22aに装着するに際しては、例えば蓋本体11を操作者が摘持し、そのプラグ部13を、シリンジバレル20の開口部22aを介して本体部21の内部に挿入するように装着する。なお、シリンジバレル20のフランジ部22とは反対側の端部にあるルアー部23にはキャップ23Cが装着されている。
【0064】
次に、
図5(b)は、蓋1を、シリンジバレル20のフランジ部22における開口部22aに装着した状態で凍結保存等の保存処理を行うときの様子を示す図である。(b)に示すように、蓋1が装着された状態では、プラグ部13がシリンジバレル20の本体部21内に位置し、蓋本体11とその蓋本体11の周縁部から延出した鍔部12とは、フランジ部22の面と重なり合うようにしてそのフランジ部22よりも上方に位置するようになる。このような状態で、シリンジバレル20の本体部21内に収容した液体製剤Fについて凍結保存する等の保存処理を行う。また、例えば凍結保存等を行った後、解凍する処理を行う際にも、(b)で示すように蓋1を装着した状態で行う。
【0065】
なお、この凍結保存の処理時には、鍔部12がシリンジバレル20のフランジ部22からはみ出さない位置としておくことが好ましい(
図3(B)の鍔部12Bや
図3(C)の鍔部12Cを参照)。これにより、鍔部12が物理的な障害となることを防止できる。
【0066】
続いて、
図5(c)、(d)、(e)は、凍結保存等した液体製剤Fを解凍した後に、シリンジバレル20内に保存した液体製剤Fを患者等に投与するために容器から排出させるときの流れを示すものである。
【0067】
図5(c)は、シリンジバレル20の開口部22aから蓋1を取り外すときの様子を示す図である。蓋1の取り外し操作は、例えば、蓋本体11の周縁部から延出した鍔部12を操作者の指や取り外し冶具等で摘持し、鍔部12を摘持した状態で上方に上げる(摘まみ上げる)ようにして行う。これにより、容易に蓋1を取り外すことができる。なお、蓋1の取り外しに際しては、蓋本体11や鍔部12を摘持して蓋1を回転させることで、その鍔部12をシリンジバレル20のフランジ部22からはみ出させた状態で行うことが好ましい(
図3(B)や(C)の鍔部12Aを参照)。
【0068】
図5(d)は、蓋1を取り外したシリンジバレル20の開口部22aから、プランジャー30を本体部21の内部に挿入するときの様子を示す図である。プランジャー30としては、本体部21の内壁21wに沿って摺動可能なものであればよく、一端にハンドル部31が設けられ、他端にガスケット部32が設けられて構成される公知のものを用いることができる。そして、注射用シリンジとしての一般的な操作で、プランジャー30のハンドル部31を押圧してガスケット部32を開口部22aから本体部21内の所定の位置まで挿入する。
【0069】
次に、
図5(e)は、シリンジバレル20のフランジ部22とは反対側の端部にあるルアー部23に注射針40を取り付けるときの様子を示す図である。注射針40の取り付けは、ルアー部23にキャップ23Cを装着させた状態でシリンジバレル20を反転させてルアー部23を上方に向け、この状態でキャップ23Cを取り外し、そのルアー部23に注射針40を取り付ける。なお、その後、本体部21内の所定の位置まで挿入させているプランジャー30(ガスケット部32)をさらに注射針40が取り付けられている方向に押し込むことによって、注射針40を介して液体製剤Fを排出させることができる。注射針40についても、シリンジバレル20に付属する公知のものを用いることができる。
【0070】
以上のような操作により、注射用シリンジバレル20は、液体製剤Fを凍結保存等するときの保存容器として用いることができるとともに、そのまま移し替えることなく、注射用シリンジとして液体製剤Fを患者等に有効に投与できる。そして、本発明に係る蓋1によれば、そのシリンジバレル20を保存容器として用いるときに、液体製剤Fを収容した内部を密栓する蓋として効果的に作用する。また、例えば凍結保存する場合においても、膨張によって液体製剤が噴き出すといった事態を防ぐことができる。さらに、保存状態において物理的な障害にもならず、複数の蓋付きシリンジバレル5を並べて効率的に保存することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 蓋
11 蓋本体
12,12A,12B 鍔部
12a 鍔部の下面
13 プラグ部
14 保持部
5 蓋付きシリンジバレル
20 (注射用)シリンジバレル
21 本体部
21a,21b 端部
21w 内壁
22 フランジ部
22a 開口部
23 ルアー部
23C キャップ
30 プランジャー
31 ハンドル部
32 ガスケット部
40 注射針