(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】内燃機関の排気後処理の保護方法及び内燃機関の排気後処理装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/033 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
F01N3/033 Z
(21)【出願番号】P 2020110800
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 亮和
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-242711(JP,A)
【文献】特開2011-106349(JP,A)
【文献】国際公開第2017/009962(WO,A1)
【文献】特開2012-052483(JP,A)
【文献】特開2011-058407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気弁と、排気弁と、少なくとも前記吸気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構と、を有し、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタが排気通路に設けられ、前記吸気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が吸気行程に設定され、前記排気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が排気行程に設定されるとともに、前記排気弁の閉弁から前記吸気弁の開弁に至るマイナスオーバーラップ期間を有する内燃機関、に適用され、
前記フィルタにおける前記粒子状物質の堆積量と前記フィルタの温度とに応じて前記フィルタへの酸素供給を制限するとともに、
前記フィルタへの酸素供給の制限に当たっては、前記吸気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が前記内燃機関の圧縮行程
に位置するように前記可変動弁機構を制御することで前記マイナスオーバーラップ期間を拡大させる、ことを特徴とする内燃機関の排気後処理の保護方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の排気後処理の保護方法であって、
前記フィルタの温度が高いほど、前記吸気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角を前記圧縮行程上死点に近づける、
ことを特徴とする内燃機関の排気後処理の保護方法。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関の排気後処理の保護方法であって、
前記堆積量が多いほど、前記吸気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角を前記圧縮行程上死点に近づける、
ことを特徴とする内燃機関の排気後処理の保護方法。
【請求項4】
吸気弁と、排気弁と、少なくとも前記吸気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構と、を有し、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタが排気通路に設けられ、前記吸気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が吸気行程に設定され、前記排気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が排気行程に設定されるとともに、前記排気弁の閉弁から前記吸気弁の開弁に至るマイナスオーバーラップ期間を有する内燃機関、に適用され、
前記フィルタにおける前記粒子状物質の堆積量と前記フィルタの温度とに応じて前記フィルタへの酸素供給を制限する制御部を備え、
前記制御部は、前記フィルタへの酸素供給の制限に当たっては、前記吸気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が前記内燃機関の圧縮行程
に位置するように前記可変動弁機構を制御することで前記マイナスオーバーラップ期間を拡大させる、ことを特徴とする内燃機関の排気後処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気後処理に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、排気系のフィルタよりも下流側の排気絞り弁を作動させることで排気絞り弁よりも上流側の排気ガス圧を高め、これに伴う断熱圧縮により排気ガス温度を上昇させてフィルタを再生するディーゼルエンジンの排気微粒子浄化装置が開示されている。
【0003】
この際、排気ガス圧の増大に伴い内部EGRが促進されると、吸気吸入量の減少により排気ガス中の酸素量が減少し、フィルタ再生能力が低下する。このため、特許文献1の技術では、吸排気オーバーラップ量を小さく切換えて内部EGR量の増大を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィルタは、粒子状物質の堆積量が多い場合やフィルタ温度が高い場合に再生されることがある。フィルタは、車両減速時に内燃機関のフューエルカットに伴い新気がフィルタに供給されることにより、これらの場合に酸素供給に応じて再生されることがある。
【0006】
これらの場合、酸素供給に応じて粒子状物質が燃焼されると、粒子状物質の燃焼によりフィルタが過昇温する虞がある。結果、フィルタに機能失陥(性能失陥、溶損、溶融等)が生じる虞がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、フィルタ再生時に過昇温によりフィルタに機能失陥が生じることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様の内燃機関の排気後処理の保護方法は、吸気弁と、排気弁と、少なくとも吸気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構と、を有し、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタが排気通路に設けられ、吸気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が吸気行程に設定され、排気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が排気行程に設定されるとともに、排気弁の閉弁から排気弁の開弁に至るマイナスオーバーラップ期間を有する内燃機関、に適用される。保護方法はフィルタにおける粒子状物質の堆積量とフィルタの温度とに応じてフィルタへの酸素供給を制限する。フィルタへの酸素供給の制限に当たっては、吸気弁の開弁時期と閉弁時期の中心角が内燃機関の圧縮行程に位置するように可変動弁機構を制御することでマイナスオーバーラップ期間を拡大させる。
【0009】
本発明の別の態様によれば、上記内燃機関の排気後処理の保護方法に対応する内燃機関の排気後処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
これらの態様によれば、吸気弁の閉弁時期を上記のように圧縮行程上死点に近づけることで、フューエルカット中でも排気側への新気の流入を抑制できる。このため、フィルタ再生時に過昇温によりフィルタに機能失陥が生じることを防止することが可能になる。また、酸素供給を制限するためにフューエルカットを禁止せずに済むため、フューエルカットの禁止に伴う燃費悪化や運転性低下も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】エンジンを排気系とともに示す概略構成図である。
【
図2】吸排気弁のバルブタイミングの説明図である。
【
図3】煤堆積量に応じたフィルタの再生時温度変化を示す図である。
【
図4】フィルタ温度に応じたフィルタの再生時温度変化を示す図である。
【
図5】酸素供給制限のマップデータを示す図である。
【
図6】コントローラが行う制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図7】酸素供給制限時の吸排気弁のバルブタイミングを示す図である。
【
図8】フューエルカットの有無に応じた車速の変化を示す図である。
【
図9】吸気弁の閉弁時期と排気流量との関係を示す図である。
【
図10】GPF温度に応じたVTC変換量を示す図である。
【
図11】煤堆積量に応じたVTC変換量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、エンジン1を排気系20とともに示す概略構成図である。エンジン1は車両の駆動源を構成する。エンジン1は内燃機関であり、ガソリンエンジンとされる。エンジン1は可変動弁機構10を有する。可変動弁機構10はエンジン1の吸気弁の閉弁時期IVCを変更可能な可変バルブタイミング機構とされる。可変動弁機構10はエンジン1の排気弁のバルブタイミングをさらに変更可能な動弁機構であってもよく、吸気弁や排気弁の作用角をさらに変更可能な動弁機構であってもよい。
【0014】
排気系20は、排気通路21と、触媒コンバータ22と、ガソリンパティキュレートフィルタ(以下、GPFと称す)23と、マフラー24とを備える。排気通路21はエンジン1の排気を流通させる。触媒コンバータ22はエンジン1の直後に設けられ、排気を浄化する。GPF23はフィルタであり、触媒コンバータ22の下流側に設けられる。GPF23は、エンジン1の排気中の粒子状物質である煤を捕集する。GPF23は触媒をさらに担持した構成とされてもよい。マフラー24はGPF23の下流に設けられ、排気音を低減する。
【0015】
排気通路21には、GPF23の入口排気圧PinとGPF23の出口排気圧Poutとの差圧を検知する差圧センサ31が設けられる。GPF23の煤堆積量Sは、GPF23の入口排気圧Pinと出口排気圧Poutとの差圧に基づき推定できる。
【0016】
GPF23の入口に接続する部分の排気通路21には、排気温Texを検知する排気温センサ32が、GPF23の出口に接続する部分の排気通路21には、GPF23の床温であるGPF温度Tを検出するためのGPF温度センサ33がさらに設けられる。GPF温度Tは、GPF温度センサ33からの出力信号に基づき、GPF23の温度の実温として検出することができる。
【0017】
コントローラ30は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えた1又は複数のマイクロコンピュータで構成される。コントローラ30は、ROM又はRAMに格納されたプログラムをCPUによって実行することで、可変動弁機構10を含むエンジン1等を制御する。
【0018】
コントローラ30には、差圧センサ31、排気温センサ32、GPF温度センサ33のほか、車速VSPを検出するための車速センサ34、アクセル開度APOを検出するためのアクセル開度センサ35、ブレーキペダルの踏力BPFを検出するためのブレーキセンサ36、エンジン1の回転速度Neを検出するための回転速度センサ37等の様々なセンサ・スイッチ類からの信号が入力される。これらの信号は、コントローラ30が行う制御に用いられる。
【0019】
図2は、エンジン1における吸排気弁のバルブタイミングの説明図である。
図2では、通常時(後述する酸素供給の制限が行われない場合)のバルブタイミングを示す。まず、排気弁の開弁時期EVOと閉弁時期EVCとについて説明すると、エンジン1では開弁時期EVOと閉弁時期EVCとが次のように設定されている。
【0020】
すなわち、開弁時期EVOは、クランク角度450°から540°の範囲内、つまり膨張行程後半に設定されている。開弁時期EVOは膨張行程後半の中央に設定されている。閉弁時期EVCは、クランク角度0°つまり吸気行程上死点(排気行程上死点)に設定されている。開弁時期EVO及び閉弁時期EVCの中心角ECは例えば、クランク角度630°つまり排気行程中心点を基準とした角度とされ、クランク角度630°の手前、つまり排気行程前半の遅角側の期間に設定されている。
【0021】
エンジン1では、吸気弁の閉弁時期IVCは可変動弁機構10により変更される。閉弁時期IVCは、吸気弁の開閉時期を変更することで変更される。換言すれば、閉弁時期IVCは、開弁時期IVO及び閉弁時期IVCの中心角ICを変更することにより変更される。中心角ICは例えば、クランク角度90°つまり吸気行程中心点を基準とした角度とされる。
【0022】
このように可変動弁機構10により変更される開弁時期IVOと閉弁時期IVCとは、通常時には次のように設定される。すなわち、通常時には中心角ICがクランク角度90°から180°までの範囲内、つまり吸気行程後半に設定される。中心角ICは吸気行程後半の中央に設定される。
【0023】
これにより、開弁時期IVOはクランク角度0°よりも若干遅角側、つまり吸気上死点よりも遅角側で吸気行程上死点近傍に設定される。また、閉弁時期IVCはクランク角度270°よりも若干進角側、つまり圧縮行程中心点よりも進角側で圧縮行程中心点近傍に設定される。
【0024】
結果、エンジン1では通常時に吸排気弁の閉弁期間のオーバーラップO/L(マイナスオーバーラップ)が吸気行程上死点から短期間形成され、その後吸気弁が開弁することにより、吸気が行われることになる。
【0025】
ところで、GPF23は煤堆積量Sが多い場合やGPF温度Tが高い場合に再生されることがある。GPF23は、車両減速時にエンジン1のフューエルカットに伴い新気がGPF23に供給されることにより、これらの場合に酸素供給に応じて再生されることがある。ところが、煤堆積量SやGPF温度Tに応じたGPF23の再生時温度変化ΔTは、次のようになっている。
【0026】
図3は、煤堆積量Sに応じたGPF23の再生時温度変化ΔTを示す図である。
図3に示すように、GPF23の再生時温度変化ΔTは煤堆積量Sが多いほど大きくなる。これは、煤の燃焼によりGPF23が昇温されるためである。再生時温度変化ΔTは、煤堆積量Sが多い領域では煤堆積量Sに応じて大きく変化する。
【0027】
図4は、GPF温度Tに応じたGPF23の再生時温度変化ΔTを示す図である。
図4に示すように、GPF23の再生時温度変化ΔTはGPF温度Tが高いほど大きくなる。これは、GPF温度Tが高くなることにより煤が燃焼し易くなるためである。再生時温度変化ΔTは、GPF温度Tが高い領域ではGPF温度Tに応じて大きく変化する。
【0028】
このため、煤堆積量Sが多い場合やGPF温度Tが高い場合には、酸素供給に応じて煤が燃焼されると、煤の燃焼によりGPF23が過昇温することが懸念される。結果、GPF23に機能失陥(性能失陥、溶損、溶融等)が生じることが懸念される。
【0029】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ30が以下で説明するように酸素供給を制限する。
【0030】
図5は、酸素供給制限のマップデータを示す図である。酸素供給の制限は、酸素供給制限線Lに基づき行われる。酸素供給制限線Lは、煤堆積量SとGPF温度Tとに応じて予め設定され、酸素供給制限線L以上にGPF温度Tが高い領域が酸素供給制限領域Rとされる。
図5に示されるように、酸素供給制限線Lは、煤堆積量Sが多いほどGPF温度Tが低くなるように設定される。酸素供給制限線Lは、煤堆積量Sが少ない領域ではGPF温度Tが一定値になるように設定される。
【0031】
このように酸素供給制限線Lに基づき酸素供給の制限が行われるのは次の理由による。すなわち、エンジン1のフューエルカットはフューエルカット実行条件に基づき適宜行われる。このため、GPF23ではフューエルカットに応じてフィルタ再生が適宜行われる。つまり、GPF23のフィルタ再生は受動的に行われる。このため、煤堆積量S及びGPF温度Tの状態に応じて酸素供給を制限すべく、酸素供給の制限が酸素供給制限線Lに基づき行われるようにしている。
【0032】
図6は、コントローラ30が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ30は本フローチャートの処理を実行するようにプログラムされることで、制御部を有した構成とされる。
【0033】
ステップS1で、コントローラ30は煤堆積量SとGPF温度Tとにより規定される動作点が酸素供給制限領域R内か否かを判定する。当該動作点は、差圧センサ31及びGPF温度センサ33からの信号に基づき把握することができる。ステップS1で否定判定であれば、本フローチャートの処理は一旦終了する。ステップS2で肯定判定であれば、処理はステップS2に進む。
【0034】
ステップS2で、コントローラ30はGPF23への酸素供給の制限を実行する。これにより、煤堆積量SとGPF温度Tとに応じてGPF23への酸素供給が制限される。酸素供給の制限は、可変動弁機構10を制御して次のように吸気弁の閉弁時期IVCを設定することにより行われる。
【0035】
図7は、酸素供給制限時の吸排気弁のバルブタイミングを示す図である。酸素供給の制限時には、吸気弁の閉弁時期IVCはクランク角度360°つまり圧縮行程上死点近傍に設定される。従って、酸素供給制限時には、閉弁時期IVCは通常時よりも遅角されて圧縮行程上死点に近づけられる。閉弁時期IVCが遅角されると、これに伴い吸気弁の開弁時期IVOも遅角される。結果、吸排気弁の閉弁期間のオーバーラップO/Lが通常時よりも拡大する。そしてこの間、エンジン1の吸気が行われなくなるので、GPF23への酸素供給が制限される。
【0036】
この例では、閉弁時期IVCは圧縮行程上死点よりも遅角側で圧縮行程上死点近傍に設定される。また、開弁時期IVOはクランク角度90°から180°までの範囲内、つまり吸気行程後半に設定される。開弁時期IVOは吸気行程後半の進角側の期間に設定される。結果、この例では開弁時期IVOから吸気行程下死点までの間に吸入された空気は閉弁時期IVCまでの間に筒内から吸気通路に押し出され、実質的に吸気が行われなくなる。酸素供給制限時には、中心角ICはクランク角度180°から270°までの範囲内、つまり圧縮行程前半に設定される。中心角ICは圧縮行程前半の概ね中央に設定される。
【0037】
GPF23への酸素供給を制限するには、フューエルカットを禁止することも考えられる。しかしながらこの場合、次に説明するように運転性の低下や燃費が悪化を招くことが懸念される。
【0038】
図8は、フューエルカットの有無に応じた車速VSPの変化を示す図である。実線はフューエルカットありの場合を示し、破線はフューエルカットなしの場合を示す。フューエルカットなしの場合、フューエルカットありの場合と比較して車速VSPが低下し難くなり、車両の減速感が減少する。またこの場合は、フューエルカットを行う場合と比較して燃費も悪化する。
【0039】
本実施形態では、可変動弁機構10を制御することによりGPF23への酸素供給を制限するので、フューエルカットを禁止する必要がなく、フューエルカット中でもGPF23への新気の流入が抑制される。また、フューエルカットを禁止しないので、フューエルカットの禁止に伴う燃費悪化や運転性低下を招くことも防止される。
【0040】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0041】
本実施形態にかかるエンジン1の排気後処理の保護方法は、可変動弁機構10を有し、GPF23が排気通路21に設けられたエンジン1で用いられる。エンジン1の排気後処理の保護方法は、煤堆積量SとGPF温度Tとに応じてGPF23への酸素供給を制限することと、可変動弁機構10を制御してエンジン1の吸気弁の閉弁時期IVCをGPF23への酸素供給を制限しない場合よりもエンジン1の圧縮行程上死点に近づけることにより、GPF23への酸素供給を制限することとを含む。
【0042】
このような方法によれば、吸気弁の閉弁時期IVCを通常時よりも圧縮行程上死点に近づけることで、フューエルカット中でも排気側への新気の流入を抑制できる。このため、フィルタ再生時に過昇温によりGPF23に機能失陥が生じることを防止することが可能になる。また、酸素供給を制限するためにフューエルカットを禁止せずに済むため、フューエルカットの禁止に伴う燃費悪化や運転性低下も防止できる。
【0043】
吸気弁の閉弁時期IVCは次のように変更されてもよい。
【0044】
図9は、吸気弁の閉弁時期IVCと排気流量との関係を示す図である。
図9では、圧縮行程下死点後の閉弁時期IVCに応じた排気流量を示す。タイミングαは通常時の閉弁時期IVCを示す。
【0045】
図9に示すように、排気流量は閉弁時期IVCに応じて変化する特性を有する。排気流量は、閉弁時期IVCが遅角により圧縮行程上死点(図示のTDC)に近づくほど、低下する傾向を有する。排気流量は、閉弁時期IVCがタイミングαより遅角されると、前述したオーバーラップO/Lの拡大に応じて大きく低下する。圧縮行程上死点近傍では排気流量は概ねゼロになり、エンジン1からの排気の流出は禁止或いは概ね禁止される。
【0046】
このような閉弁時期IVCに応じた排気流量特性によれば、フューエルカット中の酸素供給の制限度合いを閉弁時期IVCにより変更できる。従って、閉弁時期IVCを煤堆積量SやGPF温度Tに応じて設定すれば、煤堆積量SやGPF温度Tに応じた度合いでフューエルカット中の酸素供給を制限することができる。このことから、閉弁時期IVCは、煤堆積量SとGPF温度Tとに応じて次に説明するように設定することができる。
【0047】
図10は、GPF温度Tに応じたVTC変換量を示す図である。
図11は、煤堆積量Sに応じたVTC変換量を示す図である。VTC変換量は、閉弁時期IVCに応じた可変動弁機構10の吸気カムの制御量であり、閉弁時期IVCを指標する。変換量βはタイミングαつまり通常時の閉弁時期IVCに対応するVTC変換量を示す。
【0048】
図10に示すように、VTC変換量はGPF温度Tが高いほど遅角側に設定することができる。従って、閉弁時期IVCはGPF温度Tが高いほどエンジン1の圧縮上死点に近づけることができる。閉弁時期IVCは、GPF温度Tが予め設定された所定温度TA以上の場合に所定温度TAより低い場合よりもGPF温度Tの上昇に応じて大きく遅角させることができる。GPF温度Tが高い領域でGPF温度Tに応じたGPF23の過昇温が発生し易くなるためである。
【0049】
このような方法によれば、フィルタ再生時にGPF温度Tに応じて酸素供給を適切に制限することで、GPF23の過昇温を抑制しつつ煤を適切に燃焼させることができる。このため、GPF23に煤が過剰に堆積することを抑制できる。
【0050】
図11に示すように、VTC変換量は煤堆積量Sが多いほど遅角側に設定することができる。従って、閉弁時期IVCは煤堆積量Sが多いほどエンジン1の圧縮上死点に近づけることができる。閉弁時期IVCは、煤堆積量Sが予め設定された所定量SA以上の場合に所定量SAより低い場合よりも煤堆積量Sの増加に応じて大きく遅角させることができる。煤堆積量Sが多い領域で煤堆積量Sに応じたGPF23の過昇温が発生し易くなるためである。
【0051】
このような方法によれば、フィルタ再生時に煤堆積量Sに応じて酸素供給を適切に制限することにより、GPF23の過昇温を抑制しつつ煤を適切に燃焼させることができる。このため、GPF23に煤が過剰に堆積することを抑制できる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0053】
上述した実施形態では、車両がエンジン1を駆動源とする場合について説明した。しかしながら、エンジン1を搭載する車両は、エンジン1で発電用モータを駆動して発電し、発電用モータにより発電した電力で走行用モータを駆動するシリーズハイブリッド車両であってもよい。
【0054】
この場合でも、吸気弁の閉弁時期IVCを通常時よりも圧縮行程上死点に近づけることで、フューエルカット中でも排気側への新気の流入を抑制できる。またこの場合でも、フューエルカットを禁止した場合に発電用モータにより発電した電力で走行用モータが駆動される結果、車両の減速感が減少することや燃費が悪化することを抑制できる。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン(内燃機関)
10 可変動弁機構
21 排気通路
23 GPF(フィルタ)
30 コントローラ(制御部)