(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】逐次成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/18 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
B21D22/18
(21)【出願番号】P 2020139051
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】三輪 紘敬
(72)【発明者】
【氏名】田代 宜之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】松田 卓
(72)【発明者】
【氏名】上原 義貴
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-192493(JP,A)
【文献】特開2003-245726(JP,A)
【文献】特開2013-215749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲を保持した金属板に工具の先端を押し付けて移動させることにより、前記金属板を厚さ方向に次第に変形させて三次元凹形状に成形する逐次成形方法であって、
前記三次元凹形状として、底部方向への下り傾斜面を成す本体部と、同じく底部方向への下り傾斜面を成す余肉部とを有する被成形部を成形するに際し、
前記本体部の成形領域に対し、前記工具を前記本体部の傾斜面横方向に移動させる横移動と、前記工具を前記本体部の傾斜面下方向に移動させる傾斜移動とを交互に繰り返し行って、前記工具の複数回の横移動により前記本体部の一部を成形した後、
前記余肉部の成形領域に対し、前記工具の押し付けを維持した状態で、前記工具を前記余肉部の傾斜面横方向に移動させる横移動により前記余肉部の一部を成形し、
その後、前記本体部の成形領域における前記工具の複数回の横移動と、前記余肉部の成形領域における前記工具の横移動とを交互に繰り返し行うことにより、前記本体部及び前記余肉部を有する前記被成形部を成形することを特徴とする逐次成形方法。
【請求項2】
前記本体部の成形領域に対して前記工具の複数回の横移動を行う際、前記工具の傾斜移動を前記余肉部の成形領域で行って次の横移動に移行することを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
【請求項3】
前記工具が、先端に加工面を有する丸棒状を成しており、
前記余肉部の成形領域において、前記本体部の成形領域との境界から前記工具の半径以上離間した位置で前記工具の傾斜移動を行うことを特徴とする請求項2に記載の逐次成形方法。
【請求項4】
前記金属板の成形前の面と前記被成形部の成形後の面とが成す角度を成形角度とし、
前記本体部の成形領域を成形する際に、前記成形角度が大きいほど、前記工具の横移動経路同士の間隔を大きくすることを特徴とする請求項3に記載の逐次成形方法。
【請求項5】
前記余肉部の傾斜角度が、前記本体部の傾斜角度以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の逐次成形方法。
【請求項6】
前記工具の移動速度を傾斜移動の際に低下させることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の逐次成形方法。
【請求項7】
前記金属板に対する前記工具の押し付け状態を維持しながら、前記工具の横移動及び傾斜移動を連続的に行うことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の逐次成形方法。
【請求項8】
前記工具の傾斜移動の経路が、隣接する横移動の経路同士を滑らかに連続させる曲線であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の逐次成形方法。
【請求項9】
前記工具の各横移動が、前記本体部及び前記余肉部の夫々の傾斜方向に高低差を有する等高線に沿って行われることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の逐次成形方法。
【請求項10】
前記被成形部において、前記本体部が、前記底部とその両側に配置した2つの下り傾斜面とを有すると共に、前記余肉部が、前記本体部の両側に配置した2つの下り傾斜面を有しており、
前記本体部の各傾斜面の成形領域に対し、前記工具を傾斜面横方向に移動させる横移動を奇数回とし、
前記本体部の一方の傾斜面、一方の余肉部、他方の傾斜面、及び他方の余肉部の順で繰り返し成形を行うことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の逐次成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲を保持した金属板に工具を押し付けて移動させることにより、金属板を三次元凹形状に逐次成形する逐次成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の逐次成形方法としては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に記載の逐次成形方法は、水平にした金属板の周囲を固定する治具と、金属板の下面側に配置した成形型と、金属板の上面側に配置した工具とを用いる。治具は、昇降可能な構造である。工具は、先端を加工面とした棒状を成しており、直交する三軸方向に移動可能である。
【0003】
逐次成形方法は、金属板の上面に工具の先端を押し付けて移動させることで、金属板を連続的に塑性変形させ、工具の移動経路を変更しながら、工具及び治具を下降させる。これにより、逐次成形方法は、成形型の表面に沿うように金属板を次第に変形させ、最終的に、成形型の表面形状に合致した三次元形状の被成形部(成形品)を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した逐次成形方法では、プレス成形などに比べて成形時間が長いという問題点があり、生産性の向上や製造コストの低減を図るうえで、その問題点を解決することが課題であった。
【0006】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、成形時間の短縮を実現することができる逐次成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係わる逐次成形方法は、周囲を保持した金属板に工具の先端を押し付けて移動させることにより、金属板を厚さ方向に次第に変形させて三次元凹形状に成形する方法であって、三次元凹形状として、底部方向への下り傾斜面を成す本体部と、同じく底部方向への下り傾斜面を成す余肉部とを有する被成形部を成形する方法である。
【0008】
上記の逐次成形方法は、被成形部を成形するに際し、本体部の成形領域に対し、工具を本体部の傾斜面横方向に移動させる横移動と、工具を本体部の傾斜面下方向に移動させる傾斜移動とを交互に繰り返し行って、工具の複数回の横移動により本体部の一部を成形する。次いで、上記の逐次成形方法は、余肉部の成形領域に対し、工具の押し付けを維持した状態で、工具を余肉部の傾斜面横方向に移動させる横移動により余肉部の一部を成形する。
【0009】
その後、上記の逐次成形方法は、本体部の成形領域における工具の複数回の横移動と、余肉部の成形領域における工具の横移動とを交互に繰り返し行うことにより、本体部及び余肉部を有する被成形部を成形することを特徴としている。なお、上記の被成形部は、成形後、余肉部を除去して、本体部のみが成形品(製品)になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係わる逐次成形方法では、上記構成により、本体部及び余肉部を交互に且つ段階的に成形することとなり、最終的に、三次元凹形状の被成形部を成形する。この際、上記の逐次成形方法では、本体部の成形に要する工具の横移動の回数よりも、余肉部の成形に要する工具の横移動の回数を少なくして、工具の全体的な移動距離を短くする。これにより、上記の逐次成形方法では、工具を周回移動させて被成形部全体を成形する逐次成形方法に比べて、工具の総移動距離が大幅に短くなる。
【0011】
このようにして、本発明に係わる逐次成形方法は、成形時間の短縮を実現することができ、これに伴って、生産性の向上や製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係わる逐次成形方法の第1実施形態を説明する平面図である。
【
図2】被成形部の一例を示す斜視図(A)、及び被成形部の本体部を示す斜視図(B)である。
【
図3】被成形部の成形過程を順次説明する各々断面図(A)~(D)である。
【
図4】
図1における成形開始部分を拡大した平面図である。
【
図5】逐次成形方法の第2実施形態として本体部における成形角度と工具の横移動との関係を示す断面説明図である。
【
図6】逐次成形方法の第3実施形態として本体部の成形角度と余肉部の成形角度との関係を示す断面説明図である。
【
図7】逐次成形方法の第4実施形態として螺旋に沿った工具の経路を説明する平面図である。
【
図8】逐次成形方法の第5実施形態における被成形部の平面図(A)、及び工具の経路を説明する平面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〈第1実施形態〉
図1~
図4は、本発明に係わる逐次成形方法の第1実施形態を説明する図である。
逐次成形方法は、平坦で矩形状を成す金属板(ブランク材)Wを用い、周囲を保持した金属板Wに工具を押し付けて移動させることで、金属板Wを厚さ方向に次第に変形させて、
図1及び
図2に示す三次元凹形状の被成形部Fを逐次成形する。
【0014】
被成形部Fは、
図2(A)に示すように、三次元凹形状として、底部方向への下り傾斜面を成す本体部FAと、本体部FAの反対側から底部方向への下り傾斜面を成す余肉部FBとを有する。図示例の被成形部Fは、成形後、金属板Wの周縁部E及び余肉部FBを除去して、
図2(B)に示す本体部FAのみが成形品(製品)となる。図示例の本体部FAは、自動車のエンジンフードパネルであり、工具による成形面の裏面が車体外面になる。
【0015】
この実施形態の逐次成形方法は、
図3(A)に示すように、水平状態にした金属板Wの周縁部を保持する固定治具1と、金属板1の上側に配置した工具Tを使用する。固定治具1は、上側の可動板1Aと下側の固定板1Bとで金属板Wの周縁部を挟持する。工具Tは、先端に球面状の加工面を有する丸棒状を成しており、例えば、多軸制御型の作業ロボットのハンド部に装着することにより、直交する3軸方向(X,Y,Z方向)に移動可能である。なお、逐次成形方法は、NC工作機械を使用することも可能であり、この場合には工具ヘッドに工具Tを装着する。
【0016】
本発明に係わる逐次成形方法は、金属板Wを上記の被成形部Fに成形するに際し、本体部FAの成形領域に対し、工具Tを本体部FAの傾斜面横方向に移動させる横移動と、工具Tを本体部FAの傾斜面下方向に移動させる傾斜移動とを交互に繰り返し行う。このとき、工具Tの複数回の横移動により本体部FAの一部を成形する。なお、工具の横移動とは、傾斜面横方向、すなわち傾斜面の傾斜方向に直交する方向への移動であり、その移動端で傾斜移動を行うことで、底部に向けて経路が次第に変更される。
【0017】
次いで、逐次成形方法は、余肉部FBの成形領域に対し、工具Tの押し付けを維持した状態で、工具Tを余肉部FBの傾斜面横方向に移動させる横移動により余肉部FBの一部を成形する。
【0018】
その後、逐次成形方法は、本体部FAの成形領域における工具Tの複数回の横移動と、余肉部FBの成形領域における工具Tの一回の横移動とを交互に繰り返し行うことにより、本体部FA及び余肉部FBを有する被成形部Fを成形する。
【0019】
なお、成形領域とは、厳密には、成形前の平坦な金属板Wにおいて、本体部FA及び余肉部FBに夫々成形される領域である。しかし、成形領域は、成形開始とともに次第に塑性変形して本体部FA及び余肉部Bに成形されるので、図面上では、本体部FA及び余肉部FBと同等の領域を示している。
【0020】
以下、
図1及び
図3に基づいて、この実施形態の逐次成形方法を具体的に説明する。
図1には工具Tが移動する経路を点線で示しており、被成形部Fは、図中上側の本体部FAと、ドットのパターンを付した図中下側の余肉部FBとを有する。
【0021】
すなわち、逐次成形方法は、余肉部FBの成形領域において、
図1中の太矢印ASで示す始点SPに工具Tを配置し、この工具Tを所定荷重で金属板Wに押し付けて成形を開始する。図示例の場合は、細矢印A1~A5で示すように、工具Tを被成形部Fの輪郭に沿って周回移動させて、
図3(A)に示すように、本体部FA及び余肉部FBの初期の一部を成形する。この周回移動は、本体部FA及び余肉部FBの傾斜面横方向の移動である横移動(経路P1)である。
【0022】
次に、逐次成形方法は、起点SPから工具Tを余肉部FBの傾斜面下方向に移動させる傾斜移動(経路Pr)を行った後、本体部FAの成形領域に対して、
図1中の細矢印A6~A8で示すように、工具Tの横移動(経路P2)を行い、さらに、始点SPの反対側において、工具Tの傾斜移動(経路Pr)を行う。なお、逐次成形方法は、最初の周回移動を省略して、最初の傾斜移動の位置から成形を開始することも可能である。
【0023】
そして、逐次成形方法は、本体部FAの成形領域に対し、工具Tの横移動(経路P2~P6)と傾斜移動(経路Pr)とを交互に繰り返し行う。これにより、逐次成形方法は、
図3(B)にも示すように、工具Tの複数回の横移動(経路P2~P6)により本体部FAの一部を成形する。
【0024】
なお、この実施形態では、工具Tの横移動は、水平面で交差する2軸方向の制御により行う。他方、工具Tの傾斜移動は、垂直面で交差する2軸方向の制御により行う。また、傾斜移動は、隣接する横移動経路同士の間隔(ピッチPz)を決定すると共に、
図1中の細矢印A9,A10で示すように、次の横移動に移行する折り返し部分である。
【0025】
その後、逐次成形方法は、上記の如く本体部FAの一部を成形するのに連続して、工具Tの押し付けを維持した状態で、
図1中の細矢印A11,A12で示すように、余肉部FBの成形領域に対して工具Tを横移動(経路P7)させ、
図3(C)にも示すように、余肉部FBの一部を成形する。また、逐次成形方法は、
図1中の細矢印A13で示すように、工具Tを傾斜移動(経路Pr)させてから本体部FAの成形に移行する。
【0026】
その後、逐次成形方法は、本体部FAの成形領域における工具Tの複数回の横移動(経路P8~P12,P14~P17,P19,P21,P23)と、余肉部FBの成形領域における工具Tの横移動(経路P13,P18,P20,P22,P24)とを交互に繰り返し行う。つまり、逐次成形方法は、本体部FAに対する工具Tの横移動を複数回行う度に、余肉部FBに対する工具Tの横移動を一回行うと共に、この工程を繰り返すことにより、
図3(D)に示すように、本体部FA及び余肉部FBを有する被成形部Fを成形する。
【0027】
上記実施形態で説明した逐次成形方法は、本体部FA及び余肉部FBを交互に且つ段階的に成形することとなり、最終的に、三次元凹形状の被成形部Fを成形する。この際、上記の逐次成形方法では、
図1に示す工具Tの経路から明らかなように、本体部Fの成形に要する工具Tの横移動の回数よりも、余肉部FBの成形に要する工具Tの横移動の回数が少なく、その分、工具Tの全体的な移動距離が短くなる。
【0028】
上記の逐次成形方法では、被成形部Fが、後に成形品(製品)となる本体部FAと、後に除去される余肉部FBとを含む構成である。逐次形成方法では、金属板Wを引き延ばすように次第に変形させるので、被成形部Fでは板厚が減少する。このとき、成形品となる本体部FAは、規定の強度や表面品質を確保する都合上、一定以上の板厚や良好な表面性状になるように成形する必要がある。
【0029】
他方、余肉部FBは、後に除去される部分であるから、本体部FAに要求されるほどの板厚や表面品質は不要であり、成形時の本体部FAを良好に保持し得る程度の機能があれば良い。このため、上記の逐次成形方法では、本体部Fについては、工具Tの横移動の回数を規定通りにして、規定の強度や表面品質が得られるようにし、余肉部FBについては、工具Tの横移動の回数を減らしている。
【0030】
その結果、上記の逐次成形方法では、工具を周回移動させて被成形部全体を成形する逐次成形方法に比べて、工具Tの総移動距離を大幅に短縮し得る。これにより、上記の逐次成形方法は、成形時間の短縮を実現することができ、これに伴って、生産性の向上や製造コストの低減を図ることができる。
【0031】
ここで、上記の逐次成形方法では、
図1から明らかなように、本体部FAの成形領域に対して工具Tの複数回の横移動を行う際、工具Tの傾斜移動(経路Pr)を余肉部FBの成形領域で行って次の横移動に移行する。つまり、余肉部FBの成形領域で工具Tの折り返し動作を行う。
【0032】
上記の逐次成形方法では、大半の領域では工具Tの横移動が行われるが、工具Tの無駄な移動を極力少なくするために、傾斜移動の位置を集中させざるを得ない。
図1に示す例では、余肉部FBにおいて、本体部FAとの境界に沿った帯状範囲に傾斜移動(経路Pr)の位置が集中している。この傾斜移動の際には、被成形部Fに対して工具Tの下降による負荷も加わるので、工具痕が生じ易く、さらに、被成形部Fの全体には、上記帯状範囲に沿って折り曲げるように負荷が作用する。
【0033】
そこで、上記の逐次成形方法では、工具痕や変形の原因となる工具Tの傾斜移動を余肉部FBの成形領域で行うことにより、本体部FAに工具痕や変形が生じるような事態を未然に阻止して、本体部FAの品質向上に貢献することができる。
【0034】
また、上記の逐次成形方法では、先述したように、工具Tが先端に加工面を有する丸棒状を成している。そこで、逐次成形方法では、より好ましい実施形態として、
図4に示すように、余肉部FBの成形領域において、本体部FAの成形領域との境界から工具Tの半径RS以上離間した位置で工具Tの傾斜移動(経路Pr)を行う。
【0035】
これにより、上記の逐次成形方法は、工具Tの傾斜移動の際、同工具Tの端が本体部FAに接触したとしても、工具痕や負荷が本体部FAに及ぶような事態を確実に防ぐことができ、本体部FAの品質のさらなる向上を実現する。
【0036】
さらに、上記の逐次成形方法は、より望ましい実施形態として、工具Tの移動速度を傾斜移動の際に低下させる。これにより、逐次成形方法は、工具Tの横移動を折り返す際のオーバーランを抑制し、成形精度の低下や工具痕の発生を防止することができる。
【0037】
さらに、上記の逐次成形方法は、より好ましい実施形態として、金属板Wに対する工具Tの押し付け状態を維持しながら、工具の横移動及び傾斜移動を連続的に行う。つまり、逐次成形方法では、被成形部Fの形状等によっては、成形中に一旦工具Tを離して、別の場所から成形を再開することもあり得るが、この場合、工具Tの離間に伴って金属板Wのスプリングバックが生じる虞がある。
【0038】
そこで、上記の逐次成形方法は、金属板Wに対する工具Tの押し付け状態を維持して、一筆書きの要領で連続成形するようにし、これにより、金属板Wのスプリングバックによる位置ずれや工具痕の発生を防いで、良好な表面品質を確保する。
【0039】
さらに、上記の逐次成形方法は、より望ましい実施形態として、
図4に示すように、工具Tの傾斜移動の経路Prが、隣接する横移動の経路同士を滑らかに連続させる曲線であるものとしている。
【0040】
これにより、上記の逐次成形方法では、工具Tの移動速度がゼロになる点を排除すると共に、工具Tの進行方向の急変による加減速を抑制して平均的な移動速度を維持することにより、成形時間のさらなる短縮化に貢献することができる。
【0041】
さらに、上記の逐次成形方法は、
図1に示す工具Tの経路から明らかなように、工具Tの各横移動を、本体部FA及び余肉部FBの夫々の傾斜方向に高低差を有する等高線に沿って行っている。
【0042】
これにより、上記の逐次成形方法では、工具Tの各横移動がいずれも水平方向への移動で行われることとなり、工具Tの各傾斜移動(折り返し動作)が余肉部FBの成形領域で行われることと相俟って、本体部FAの形状凍結性が向上し、成形精度のさらなる向上を実現することができる。
【0043】
以下、
図5~
図8に基づいて、本発明に係わる逐次成形方法の第2~第5の実施形態を説明する。なお、以下の各実施形態では、第1実施形態と同一の構成部位について、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
〈第2実施形態〉
図5に示す逐次成形方法は、基本的構成に関しては第1実施形態と同様である。すなわち、被成形部FAは、成形品(製品)となる本体部FAと後に除去される余肉部FBとを有する三次元凹形状である。そして、逐次成形方法は、本体部FAの成形領域における工具Tの複数回の横移動と、余肉部FBの成形領域における工具Tの横移動とを交互に繰り返し行うことにより、上記の被成形部Fを成形する。
【0045】
そして、この実施形態の逐次成形方法は、本体部FAの成形領域を成形する際に、成形角度θに応じて、工具Tの横移動経路同士の間隔(ピッチ)Pzを変更することとし、成形角度θが大きいほど、工具Tの横移動経路同士の間隔Pzを大きくする。これにより、単位面積あたりでは、工具Tの横移動回数も変更される。また、成形角度θとは、金属板Wの成形前の面と被成形部Fの成形後の面とが成す角度である。
【0046】
これにより、逐次成形方法では、経路に沿った工具痕の高さを均一にすることが可能になる。つまり、逐次成形方法では、金属板Wに対して、球面状の加工面を有する工具Tを押し付けた状態にして移動させるので、経路同士の間には、経路に沿った凸条の工具痕が形成される。
【0047】
上記工具痕は、成形不良の工具痕とは異なり、必然的に形成されるもので、傾斜面の傾斜方向に隣接する工具痕の間隔をfとし、工具痕の曲率半径をRとすると、その高さはf2/8Rで求めることができる。また、工具痕の間隔fと横移動経路同士の間隔Pzは、f=Pz/sinθの関係にある。そこで、逐次成形方法では、成形角度θに応じて、工具Tの横移動経路同士の間隔Pzを変更して、経路に沿った工具痕の高さを均一にする。
【0048】
より具体的には、
図5に示す被成形部Fの本体部FAは、成形角度θが部分的に異なり、概略的には、成形開始後の前半で大きく、後半で小さい。そこで、この実施形態では、
図5に示すように、相対的に大きい傾斜角度θ1を有する前半領域では、工具Tの横移動経路同士の間隔Pzを大きくし、相対的に小さい傾斜角度θ2を有する後半領域では、工具Tの横移動経路同士の間隔Pzを小さくする。よって、前半領域における工具Tの横移動の回数が相対的に少なくなり、後半領域における工具の横移動の回数が相対的に多くなる。
【0049】
これにより、上記の逐次成形方法では、部分的に異なる成形角度θ1,θ2を有する被成形部Fを成形する場合でも、経路に沿った工具痕の高さを均一に揃えることができ、極めて良好な表面品質を得ることができる。
【0050】
〈第3実施形態〉
この実施形態の逐次成形方法では、余肉部FBの傾斜角度θbが、本体部FAの傾斜角度θa以上であるものとしている。この場合、余肉部FBの成形角度θbは、金属板Wの材料や厚さ等の条件により選択することができる。余肉部FBは、後に除去される部分であるから、例えば、金属板Wが鉄等のように比較的プレス成形性が高い材料である場合には、余肉部FBの傾斜角度θbを大きくする。これに対して、金属板Wがアルミ等のように比較的プレス成形性が低い材料である場合には、成形可能な範囲で余肉部FBの傾斜角度θbを小さくする。
【0051】
上記の逐次成形方法では、余肉部FBの範囲を最小限にすることができ、これにより、成形時間のさらなる短縮化や材料歩留まりの向上等に貢献することができる。
【0052】
〈第4実施形態〉
図7に示す逐次成形方法は、
図1に示す第1実施形態では、被成形部Fの夫々の傾斜方向に高低差を有する等高線に沿って工具Tを移動させたのに対して、工具Tを一定の降下率で降下させながら横移動させることにより、本体部FA及び余肉部FBを有する被成形部Fを成形する。
【0053】
図示例の場合、余肉部FBの成形領域において、工具Tの横移動を折り返して次の横移動に移行しているが、
図1に示す第1実施形態のように横移動経路同士の間に傾斜移動と同様の折り返し経路を設けたり、その経路を曲線状にしたりすることも可能である。
【0054】
上記の逐次成形方法にあっても、先の実施形態と同様に、工具を周回移動させて被成形部全体を成形する逐次成形方法に比べて、工具Tの総移動距離を大幅に短縮して、成形時間の短縮を実現することができ、これに伴って、生産性の向上や製造コストの低減を図ることができる。
【0055】
〈第5実施形態〉
図8に示す逐次成形方法では、先の実施形態に比べて、被成形部Fの形態が異なる。すなわち、図示例の被成形部Fは、本体部FAが、底部とその両側に配置した2つの下り傾斜面とを連続的に有すると共に、余肉部FBが、本体部FAの両側に配置した2つの下り傾斜面に分かれている。つまり、被成形部Fは、本体部FAを間にして、2つの余肉部FB,FBを有している。図示例の本体部FAは、例えば、自動車のドアパネルである。
【0056】
上記の逐次成形方法は、本体部FAの各傾斜面の成形領域に対し、工具Tを傾斜面横方向に移動させる横移動を奇数回とする。そして、この実施形態の逐次成形方法は、
図8(B)中の太矢印ASで示す始点SPに工具Tを配置し、細矢印A1,A2で示すように、被成形部Fの全周に渡る周回移動P1を行う。
【0057】
次に、上記の逐次成形方法は、細矢印A3~A6で示すように、本体部FAの一方の傾斜面を奇数回の横移動(P2,P3,P4)で形成した後、細矢印A7(経路P5)で示すように、一方の余肉部FBを成形する。さらに、上記の逐次成形方法は、細矢印A8~A10で示すように、本体部FAの他方の傾斜面を奇数回の横移動(経路P6,P7,P8)で形成した後、細矢印A11(経路P9)で示すように、他方の余肉部FBを成形する。
【0058】
その後、上記の逐次成形方法は、
図8中で下側に示す本体部FAの一方の傾斜面、
図8中で右側に示す一方の余肉部FB、
図8中で上側に示す他方の傾斜面FA、及び
図8中で左側に示す他方の余肉部FBの順で繰り返し成形を行う。
【0059】
上記の逐次成形方法では、上記各実施形態と同様の効果が得られるうえに、本体部FAの2つの傾斜面及び2つの余肉部FB,FBを順番に成形することとなり、平面視における被成形部Fの上下左右の領域を均等に成形して、成形精度及び品質の高い本体部FAを成形することができる。
【0060】
本発明に係わる逐次成形方法は、その構成が上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能であり、各実施形態で説明した構成の細部を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
F 被成形部
FA 本体部
FB 余肉部
Pz 横移動経路の間隔
T 工具
W 金属板
θ 傾斜角度