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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】無線受信器
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/30 20100101AFI20240425BHJP
   H04B 1/7093 20110101ALI20240425BHJP
【FI】
G01S19/30
H04B1/7093
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020567789
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2019064467
(87)【国際公開番号】W WO2019234009
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】1809386.4
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511247389
【氏名又は名称】キネテイツク・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マクラウド,マルコム・デイビッド
【審査官】石原 徹弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/019960(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/041493(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/107111(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/105544(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/102331(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/057722(WO,A1)
【文献】B.ホフマン・ヴェレンホーフほか著、西修二郎訳,GNSSのすべて,古今書院,2010年02月10日,78-88頁
【文献】杉本末雄ほか編,GPSハンドブック,朝倉書店,2010年09月25日,104-108頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00-5/30
G01S 19/00-19/30
H04B 1/7093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の関心のある信号を処理するための無線受信器であって、
複数の関心のある信号は、異なる送信器により送信され、アンテナにより受信され、すべてが、同じ共有される1つ以上の周波数帯域を占有し、各信号が、その信号に適用される別々の拡散コードを有し、上側波帯と下側波帯とを含み、受信器は、
a)すべての受信した信号の各側波帯を、公称ベースバンド周波数にダウンコンバートして、組み合わされた上側波帯信号、および、組み合わされた下側波帯信号を作り出すためのダウンコンバータ、
b)組み合わされた上側波帯信号を処理するための第1のチップマッチドフィルタ、および、組み合わされた下側波帯信号を処理するための第2のチップマッチドフィルタ、
c)各受信した関心のある信号に対して1つの、各チャネルが第1および第2のチップマッチドフィルタからの出力を受信するように適合された、複数のチャネル
を含み、
チップマッチドフィルタは、拡散コードがそれぞれの上側波帯または下側波帯への信号のダウンコンバージョンの後に続いて現れる際に、拡散コードのチップとマッチングされ、
各チャネルの各側波帯は、少なくともアーリー、プロンプト、およびレイトゲートを含む、少なくとも3つのゲートを含み、
各ゲート内に、
i)必要に応じてアーリー、レイト、またはプロンプトタイミング基準を使用して、チップマッチドフィルタからの信号をサンプリングするための最近傍サンプラ、
ii)(i)からのサンプルを、拡散コード生成器からの拡散コードのローカルコピーの適切な部分と乗算するための乗算器、
iii)側波帯上に存在するドップラー周波数または局部発振器オフセットの除去のために、ゲート内の(ii)からの信号を、フィードバックループ信号により乗算するための混合器であって、数値制御発振器により駆動される、混合器、
iv)ステップ(iii)から作り出されるゲート信号を積分するための積分器
を含み、
アーリーおよびレイトゲートからの積分器の出力の組み合わせから導出されるフィードバック信号が、コード数値制御発振器を駆動するために使用され、結果として、コード数値制御発振器は、最近傍サンプラのタイミングを制し、(iii)においてのフィードバックループ信号が、プロンプトゲートからの積分器の出力から導出される、受信器。
【請求項2】
各チップマッチドフィルタが、所与の側波帯のすべての信号を同時に処理する、請求項1に記載の受信器。
【請求項3】
各チャネルに対して、プロンプトゲートからの積分器の、各側波帯からの出力が、航法メッセージが抽出される複素出力を作り出すために組み合わされる、請求項1または2に記載の受信器。
【請求項4】
チップマッチドフィルタからのサンプル出力を受信するように、および、出力として、タイミング基準点への関係において、所望される理想時間に時間的に最も近いサンプルを選択するように構成されるサンプル選択ユニットを、最近傍サンプラが含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の受信器。
【請求項5】
拡散コードが、一連のチップを含み、各サンプル選択ユニットが、拡散コードの各チップに対する単一のサンプル出力を提供する、請求項4に記載の受信器。
【請求項6】
サンプル選択ユニットに提供されるサンプルの数が、平均して、チップあたり非整数の数のサンプルを有するように構成される、請求項5に記載の受信器。
【請求項7】
各チャネルに対して、アーリーゲートからの積分器出力のモジュラスが加算され、レイトゲートからの積分器出力のモジュラスが加算され、最近傍サンプラおよび拡散コード生成器と関連付けられるコード数値制御発振器を駆動するための信号が、式
【数1】
から導出される、請求項1から6のいずれか一項に記載の受信器。
【請求項8】
各チャネルに対して、各側波帯のためのプロンプトゲートからの積分器の逆正接の和を含む第1の信号が生成され、各側波帯のためのプロンプトゲートからの積分器の逆正接の差を含む第2の信号が生成され、第1の信号が、キャリアループフィルタを使用してフィルタリングされ、第2の信号が、位相差ループフィルタを使用してフィルタリングされ、第1および第2のフィルタリングされた信号の和が、一方の側波帯上でキャリアNCOを駆動するために使用され、第1および第2のフィルタリングされた信号の差が、他方の側波帯上でキャリアNCOを駆動するために使用される、請求項1から7のいずれか一項に記載の受信器。
【請求項9】
複数の関心のある信号が、GNSSシステムを形成する衛星により送信されるものである、請求項1から8のいずれか一項に記載の受信器。
【請求項10】
請求項1のa)においてのベースバンドへのダウンコンバージョンが、チャネルまたはゲートからのフィードバックループにより駆動されない、請求項1から9のいずれか一項に記載の受信器。
【請求項11】
各側波帯上で、それぞれのチップマッチドフィルタからの出力を、各々が拡散コードの全シーケンスより短い複数の時間的部分へと分けるように、および、拡散コードのローカルコピーの同様のサイズの部分とのサブ相関を実行するように構成され、複数のサブ相関の結果を高速フーリエ変換または離散フーリエ変換において組み合わせる、取得ユニットをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の受信器。
【請求項12】
複数の関心のある信号を復調する方法であって、
複数の関心のある信号は、異なる送信器により送信され、アンテナにより受信され、すべてが、同じ共有される1つ以上の周波数帯域を占有し、各信号が、その信号に適用される別々の拡散コードを有し、上側波帯と下側波帯とを含み、
a)すべての受信した信号の各側波帯を、公称ベースバンド周波数にダウンコンバートして、組み合わされた上側波帯信号、および、組み合わされた下側波帯信号を作り出すステップ、
b)組み合わされた上側波帯信号を第1のチップマッチドフィルタにおいて、および、組み合わされた下側波帯信号を第2のチップマッチドフィルタにおいてフィルタリングするステップ、
c)各受信した関心のある信号に対して1つの、複数のチャネルの各々に、フィルタリングされた上側波帯信号および下側波帯信号を提供するステップであって、チャネルの各々が、両方の側波帯を別々に処理するように適合される、ステップ
を含み、
チップマッチドフィルタは、拡散コードがそれぞれの上側波帯または下側波帯へのダウンコンバージョンの後に続いて現れる際に、拡散コードのチップとマッチングされ、
各チャネルの各側波帯は、少なくともアーリー、プロンプト、およびレイトゲートを含む、少なくとも3つのゲートを含み、
各ゲート内で、
i)最近傍サンプラを使用して、必要に応じてアーリー、レイト、またはプロンプトタイミング基準を使用して、チップマッチドフィルタからの信号をサンプリングするステップ、
ii)乗算器を使用して、(i)からのサンプルを、拡散コード生成器からの拡散コードのローカルコピーの適切な部分と乗算するステップ、
iii)混合器を使用して、側波帯上に存在するドップラー周波数または局部発振器オフセットの除去のために、ゲート内の(ii)からの信号を、フィードバックループ信号により乗算するステップであって、混合器は、数値制御発振器により駆動される、ステップ、
iv)積分器を使用して、ステップ(iii)から作り出されるゲート信号を積分するステップ
を含み、
アーリーおよびレイトゲートからの積分器の出力の組み合わせから導出されるフィードバック信号が、コード数値制御発振器を駆動するために使用され、結果として、コード数値制御発振器は、最近傍サンプラのタイミングを制し、(iii)においてのフィードバックループ信号が、プロンプトゲートからの積分器の出力から導出される、方法。
【請求項13】
1つ以上のプロセッサにより実行されるときに、1つ以上のプロセッサに、請求項12に記載の方法を含む動作を行わせるように構成された命令を記憶する、非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線受信器に関し、より詳しくは、すべてが同じ1つ以上の周波数帯域を共有する多数の異なる源からの信号を、同時に受信するように適合された受信器に関係する。そのような受信器は、典型的には、衛星航法などの用途において使用される。
【背景技術】
【0002】
現在使用中の、または、後期の開発もしくは実現フェーズにある、いくつかの全地球航法衛星システム(GNSS)が存する。最も早いものは、米国全地球測位システム(GPS)であり、その後に続いたのが、ロシアのGLONASSシステムであった。これを書いている時点において、欧州のガリレオシステムが、サービスに入る準備がほとんど整っており、軌道内のいくつものサービス中の衛星を有する。これらのシステムの各々は、直接シーケンス拡散スペクトル(DS-SS:Direct Sequence Spread Spectrum)データ送信方式を使用し、そのことにより、異なる衛星が、システム内のすべての他の衛星と(および時には、他のシステムともまた)共有される1つ以上の相対的に広い帯域幅にわたって、データを継続的に送信する。受信器が所与の衛星からの信号を識別することを可能とするために、各衛星は、一意的な、(受信器に)知られているコードをブロードキャストする。受信器は、相関プロセスを実施し、そのことにより、それは、(システム内のすべてのアクティブな衛星により送信されているコードの重ね合わせである)入来する信号を、それが探している衛星からのコードの内部的に保持されるコピーと相関させる。信号が存在するならば、その信号は、適正に機能するシステムにおいて、相関利得に起因して、他の衛星により送信されている他の信号から、および、熱的ノイズから分離可能であることになり、受信器は、例えばコードのフェーズにおいて、コード化されたデータを処理することができることになる。
【0003】
受信器は、この相関プロセスを、複数の異なる衛星信号(典型的には、少なくとも4または5、および、より典型的には、最高でおよそ10または12ほど)に対して並列に実施し、この情報から、その受信器は、航法メッセージを集めて整理し、地球上の位置および現在時間を算出することができる。
【0004】
GNSSシステムのいくつかが、現在、バイナリ位相シフトキーイング変調方式(BPSK)を使用するのに対し、ガリレオネットワークは、代わりに、(スペクトル占有理由のために)バイナリオフセットキャリア(BOC)変調を使用し、そのBOC変調は、BPSK信号(すなわち、拡散コード)を取り、この信号を方形波サブキャリアによって変調して、デュアル側波帯信号を作り出すことを、この信号を送信周波数に上げて変調する前に行い、その場合、各側波帯は、実際上はBPSK信号である。他のGNSSシステムが、さらには、それらのシステムの信号のいくつかに対して何らかの種類のBOC送信を使用し、より多くのものが、やがては同様の方式を実現すると予想される。
【0005】
BOC信号の使用は、受信器に、平易なBPSK信号を上回るいくらかの面倒な事態をもたらす。これらの面倒な事態のうちの1つは、そのBOC信号の自己相関関数が、BPSK信号に関して見出だされる単一のローブよりむしろ、多数のローブを有するということである。多数のローブのある(lobed)構造は、相関関数を精査して、正確なタイミング情報、およびゆえに、正確な航法的位置を獲得することを難しくすることがある。この困難は、チップレート(chip rate)に対するサブキャリア周波数の比が増大するにつれて増大する。あるGNSSサービスに対して、その比は1であり、その場合、様々な満足のゆく解決策が実在する。しかしながら、比が2以上であるとき、そのことはガリレオ政府規制サービス(Public Regulated Service)に対するものであるが、マルチローブのある自己相関関数により引き起こされる問題は重大である。この問題に対する解決策は、QinetiQ Ltdにより出願され、引用により本明細書により含まれる、国際特許公開番号WO2015/107111、(‘111)において見出だされ得るものであり、最近傍(nearest-neighbour)サンプリングプロセス(サンプル選択ユニットを使用する)が後に続く、チップマッチドフィルタの使用が、上記で述べられた相関プロセスを実行する前に使用される。この手法は、計算的には効率的であるが、いくつかの状況においては、所望されるより大きい損失因子(すなわち、理論的最大値を超えるシステム信号対ノイズ比の低減)を有することがある。
【0006】
Thalesからの米国特許出願第US2010/0254439号(’439)は、BOC信号を復調するためのシステムおよびプロセスを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/107111号
【文献】米国特許出願公開第2010/0254439号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】「Rapid Acquisition Concepts for Voice Activated CDMA Communication」、M Sust、R Kaufman、F Molitor、およびA Bjornstor著、Globecom 90出版、1820-1826頁、1990年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
GNSSなどの用途において使用されるようなデュアル側波帯信号の受信および処理のための、より効率的な、または代替的な受信器を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、複数の関心のある信号を処理するための無線受信器であって、
複数の関心のある信号は、異なる送信器により送信され、アンテナにより受信され、すべてが、同じ共有される1つ以上の周波数帯域を占有し、各信号が、その信号に適用される別々の拡散コードを有し、上側波帯と下側波帯とを含み、受信器は:
a)すべての受信した信号の各側波帯を、公称ベースバンド周波数にダウンコンバートして、組み合わされた上側波帯信号、および、組み合わされた下側波帯信号を作り出すためのダウンコンバータ;
b)組み合わされた上側波帯信号を処理するための第1のチップマッチドフィルタ、および、組み合わされた下側波帯信号の信号を処理するための第2のチップマッチドフィルタ;
c)各受信した関心のある信号に対して1つの、各チャネルが第1および第2のチップマッチドフィルタからの出力を受信するように適合された、複数のチャネル;
を含み、
チップマッチドフィルタは、拡散コードがそれぞれの上側波帯または下側波帯への信号のダウンコンバージョンの後に続いて現れる際に、拡散コードのチップとマッチングされ、
各チャネルの各側波帯は、少なくともアーリー(Early)、プロンプト(Prompt)、およびレイト(Late)ゲートを含む、少なくとも3つのゲートを含み、
各ゲート内に:
i)必要に応じてアーリー、レイト、またはプロンプトタイミング基準を使用して、チップマッチドフィルタからの信号をサンプリングするための最近傍サンプラ;
ii)(i)からのサンプルを、拡散コード生成器からの拡散コードのローカルコピーの適切な部分と乗算するための乗算器;
iii)側波帯上に存在するドップラー周波数または局部発振器オフセットの除去のために、ゲートの内の信号を、フィードバックループ信号により乗算するための混合器であって、数値制御発振器により駆動される、混合器;
iv)ステップ(i-iii)から作り出されるゲート信号を積分するための積分器;
を含み、
アーリーおよびレイトゲートの出力の組み合わせから導出されるフィードバック信号が、最近傍サンプラのタイミングを次いで制御する数値制御発振器を駆動するために使用され、(iii)においてのフィードバックループ信号が、プロンプトゲートの出力から導出される、受信器が提供される。
【0011】
本発明の実施形態による受信器は、入来する信号を特に効率的に処理することができる。入来する信号は、典型的には、関心のある信号の帯域幅と比較して高周波数においてデジタル化される。かくして、ガリレオ航法的信号の場合、それは、50MHzから100MHzの間においてデジタル化され得る。
【0012】
GNSSシステムにおいて、各チャネルは、単一の衛星からの受信した信号と関連付けられる。かくして、チャネルの数は、一般的には、所与の時間において受信器に可視になる公算が大きい衛星の最大数を含むことになる。
【0013】
本発明の実施形態は、‘439開示を上回る有意な利益を有する。その開示において説明される受信器において、各チャネル(単一の衛星からの信号を処理するために要される回路に対応する)は、チャネルの1つ以上の出力からのフィードバックループにより制御される数値制御発振器(NCO)により駆動される、それ自体のダウンコンバータを要する。
【0014】
対照的に、本発明の実施形態において、各側波帯のための(公称ベースバンド信号に対する)単一のダウンコンバータが使用され、ダウンコンバータの出力は、すべてのチャネルの間で共有される。単一のNCOのみが必要とされ、なぜならば、各ダウンコンバータに対する信号は、互いの複素共役であるからである。これは、ハードウェアを単純化し、チャネル複雑度を低減して、電力およびハードウェアコストにおいての節約につながる。拡散コードはチップのシーケンスを含むということが、当業者により理解されることになる。受信した信号の各側波帯を、公称ベースバンド周波数にダウンコンバートすることにおいて、各チップの形態が、元々送信されたようなものから変化させられることになる。例えば、広帯域BOC信号の場合、各側波帯においての各チップの形態は、従来のGNSS BPSK信号においてのように、近似的には矩形であることになる。
【0015】
上記で言及された‘111特許において解説されるように、チップマッチドフィルタは、フィルタにおいて受信されているチップとマッチングされるマッチドフィルタであり得る。マッチドフィルタの使用は、精巧化された受信器システムにおいてありふれたものであり、マッチドフィルタは、そのインパルス応答が、知られている信号の時間反転である、フィルタである。そのようなフィルタは、典型的なDS-SS信号に対して、アナログ技術において実現するのが非常に困難である。しかしながら、ここで考察されるタイプの信号に対するマッチドフィルタの実現が、求められる信号が同一のパルスのシーケンスであるという事実を考慮に入れることにより、簡単にされ得る。マッチドフィルタは、理論的には、最初に、単一のパルスとマッチングされるフィルタを使用して、受信した信号をフィルタリングし、次いで、そのフィルタの出力をサンプリングし、それを、知られている基準シーケンスと相関させることにより実現され得るものであり、相関器内へのサンプルの間隔は、チップあたり1であるということが、次いで示され得る。そのような初期フィルタを厳密に実現することは(そのフィルタの要されるインパルス応答の矩形形状のために)可能ではないが、近い近似が実現され得るものであり、これがチップマッチドフィルタである。
【0016】
各側波帯上で動作するチップマッチドフィルタは、すべてのチャネルに対して共有され、やはり、より低い複雑度および電力要件を結果的に生じさせる。かくして、ガリレオPRS信号の場合、ただ2つのチップマッチドフィルタが、各側波帯に対して1つで、すべての信号に対して要される。チップマッチドフィルタのインパルス応答は、その拡散コードが、ダウンコンバートされた信号内に現れる際に、拡散コードの予想されるチップ特性とマッチングされる。各側波帯において、要されるインパルス応答は、矩形パルスとして近く近似され得る。
【0017】
各CMFの出力は、複数のチャネルに提供され、チャネルは、単一の衛星からの信号を処理するために使用される構成要素を含む。各チャネルは、それぞれのCMF出力からの上側波帯信号および下側波帯信号を処理する。チャネルの中で、所与の側波帯に対するCMF出力は、複数のゲートに供給される。典型的には、各側波帯上のチャネルの中に3つのゲート(一般的には、アーリー、プロンプト、およびレイトゲートである)が存するが、いくつかの実施形態は、より多くのものを有し得る。各ゲート内で、CMF信号は、最近傍サンプラに供給される。
【0018】
チップマッチドフィルタからのサンプル出力を受信するように、および、出力として、タイミング基準点への関係において、所望される理想時間に時間的に最も近いサンプルを選択するように構成されるサンプル選択ユニットを、各ゲートに対する最近傍サンプラは含む。典型的には、入来するサンプルは、平均してチップあたり4と32の間のサンプルのレート(すなわち、拡散または基準コードのチップの継続期間)で到着している。しかしながら、サンプルの入来するレートは、チップあたり非整数の数のサンプルを有するように構成され、そのことによって、‘111において説明されるような最近傍サンプリングの利益が達成される。
【0019】
最近傍サンプラからの出力は、好ましくは、各チャネルの中に記憶される拡散コードコピーまたは基準コードの単一のチップとの後続の乗算のための、単一のサンプル出力を含み、拡散コードコピーまたは基準コードは、信号が取得されたときに、入来する信号と同期している。
【0020】
GNSSシステムにおいて使用されるBOC信号において、すべてのチャネルの上側波帯は、第1の周波数帯域を占有し、すべてのチャネルの下側波帯は、第2の周波数帯域を占有するということが、当業者により諒解されることになる。
【0021】
本発明は、特に、ガリレオBOC(15,2.5)PRS信号などの広帯域BOC信号が使用され、上側波帯の中心が、下側波帯の中心からおおよそ30MHzだけ分離される、用途に適する。かくして、有利には、受信器は、2つの別個の周波数帯域を占有するBOC信号を処理するように適合される。
【0022】
BPSK信号に対して設計されるGNSS受信器において、典型的には、プロンプト相関器が存し、そのプロンプト相関器のタイミングは、それを、入来する信号内のレンジングコードチップのタイミングのものに可能な限り近くアライメントするために、追跡ループと呼ばれるフィードバックプロセスにより調整される。プロンプト相関器の出力は、それで、受信器が、受信した信号内に含まれるメッセージデータを復号するための、最良の可能な値を提供する。「遅延」(または「コード」)追跡ループが、さらなる相関器(典型的には2つ、「アーリー」および「レイト」ゲートとして知られている)の出力を使用して、この時間アライメントを行う。さらなる「キャリア」追跡ループが、プロンプト相関器からの測定値を使用して、その位相を、所望される値に至らせる。
【0023】
BOC信号の2つの側波帯が別々に処理される場合、両方の側波帯からの情報を組み合わせることが望ましく、なぜならば、そのことは性能を増大する(例えば、そのことは、追跡をより正確にし、メッセージを復号することにおいてのエラーの確率を低減するからである。それゆえに、これらの相関機能(プロンプト、アーリー、およびレイトなど)が、両方の側波帯に別々に適用される。しかしながら、後続の組み合わせプロセスにおいて困難が存するということがよく知られており、それらの困難に対する1つの方法が、‘439特許において開示されている。入来する信号に相対的なプロンプト相関のタイミングアライメントにおいての小さい誤差は、位相差が、2つの側波帯からの複素プロンプト相関出力の間で生起することを引き起こす。この位相差は、一方では、遅延誤差の測定値として有用であるが、他方では、それは、2つの側波帯からのプロンプト相関出力が、単純にそれらの出力を一緒に合計することによっては、組み合わされ得ないということを意味する。
【0024】
BPSK受信器においての典型的な遅延追跡ループにおいて、使用されるのは、アーリーおよびレイトゲート出力のモジュラス(すなわち、絶対値)である。例えば、BPSK受信器においてアーリー(E)およびレイト(L)ゲート出力を処理するための、一般的な方法は、式
【数1】
から導出されるコードNCOを駆動するための信号を作り出すことであり、本発明の実施形態において使用され得る方法であり、式では|x|はxの絶対値を言及している。(この式は、「遅延弁別器」として知られている)。それは、遅延弁別器の単に1つの例である。他の式が使用され得るということ、および、さらなる相関器ゲート(EおよびLに追加的な、ならびに、例えばベリーアーリーおよびベリーレイトと呼称される)が実現され得るものであり、それらの出力が、そのような式において使用され得るということが、当業者により諒解されることになる。
【0025】
好都合には、受信器は、本発明のいくつかの実施形態において、所与のチャネル上の側波帯の両方に対してコードNCO(そうでなければ、コード遅延NCOとして知られている)を駆動するために、単一のフィードバック信号を使用するように構成され得る。これは、なぜならば、2つの側波帯の間のタイミング差が小さく、そのため、いかなる誤差も有意である傾向がないことになるからである。この場合の両方の側波帯からのコード遅延誤差の組み合わされた測定値を生成するために、受信器は、各チャネルに対して、各側波帯のアーリー積分器出力のモジュラス(絶対値)を加算し(すなわち、|E|+|E|)、レイト積分器出力のモジュラスを加算し(すなわち、|L|+|L|)、式
【数2】
から導出される、最近傍サンプラ(すなわち遅延)およびレンジングコード生成器と関連付けられるコードNCOを駆動するための信号を作り出し得る。
【0026】
代替的には、異なるフィードバック信号が、いくつかの実施形態において使用され得るものであり、2つのフィードバック信号が、コード遅延追跡ループを、2つの側波帯の平均コード遅延に、および、2つの側波帯の間のコード遅延差に、の両方で適用することにより導出される。
【0027】
他の実施形態が、コードNCOを駆動するための異なるフィードバック信号を用い得る。上記で引用されたThalesからの先行技術文献は、要件を有するようであり、それにより、そのコードNCOを駆動するために使用されるコード信号が、所与のチャネルの側波帯の各々の、プロンプト相関器出力の間の位相差から導出される、ということが留意される。コードNCO駆動信号へのそのような寄与は、本発明の実施形態において要されない。
【0028】
各側波帯のための相関器の1つ以上の出力から導出されるフィードバック信号が、チャネル側波帯のキャリアNCOを駆動するために使用され得る。これは、他方の側波帯からの信号と組み合わされ得る。好都合には、本発明のいくつかの実施形態において、各チャネルに対して、各側波帯のためのプロンプト積分器の逆正接の平均を含む第1の信号が生成され、各側波帯のためのプロンプト積分器の逆正接の半差(semi-difference)を含む第2の信号が生成され、第1の信号が、キャリアループフィルタを使用してフィルタリングされ、第2の信号が、位相差ループフィルタを使用してフィルタリングされ、第1および第2のフィルタリングされた信号の和が、一方の側波帯上でキャリアNCOを駆動するために使用され、第1および第2のフィルタリングされた信号の差が、他方の側波帯上でキャリアNCOを駆動するために使用される。フィードバック信号は、位相または周波数ロックループを駆動し得る。当業者は、それぞれの側波帯およびゲート信号を組み合わせるための他の方法が使用され得るということを諒解することになる。
【0029】
上記で言われているように、フィードバックループは、説述された先行技術とは違い、公称ベースバンドへの受信した信号の初めのダウンコンバージョンに対して要されない。好ましくは、それゆえに、本発明の少なくともいくつかの実施形態において、ステップ(a)においてのベースバンドへのダウンコンバージョンは、チャネルからのフィードバックループにより駆動されない。ダウンコンバージョン周波数は、送信された信号と完全には周波数同期していないことなどのエラーを被りやすいことがあり(および、一般的には、被ることになり)、そのことは、小さい周波数オフセットがベースバンド信号上に存在すること(ゆえに、用語、公称ベースバンドの使用)につながる。受信した信号上の知られていないドップラーシフトを引き起こす、衛星(または他の)送信器に関する受信器の相対的移動に起因する周波数オフセットが、さらには存することになる。しかしながら、これらの組み合わされた周波数オフセットのサイズは、相対的に小さく、本明細書において提示される新規の受信器アーキテクチャに対する問題をもたらさない。
【0030】
上記で説明されたような本発明は、主に、送信器からの1つ以上の信号が追跡されている間の、本発明の動作に関する。信号が追跡され得る前に、受信器が最初に信号を取得するための(すなわち、適用されていることがある、拡散コードの中の、または任意の周波数ホッピングシーケンスの中の現在の時間的ロケーションを確立するための)要件が存する。
【0031】
取得が行われてしまう前に、受信器は、受信した信号の到着の時間を知らないことになる。いくつかの用途において、受信をさらに複雑化する他の問題点が、さらには存することになる。受信器または送信器の相対的移動により引き起こされる、受信した信号においてのドップラー周波数変化は、1つのそのような問題点である。受信器局部発振器(LO)においての不完全性により引き起こされる「ドップラー似の(Doppler-like)」周波数誤差は、もう一つのものである。取得プロセスは、それゆえに、求められる信号に対する、時間、および、いくつかの用途においては周波数(ドップラー変動に起因する)にわたるサーチを含む。これは、普通、相関プロセスを使用してなされ、受信した信号が、知られている信号(「基準コード」)のローカルコピーと相関させられる。取得フェーズの間の相関プロセスは、追跡フェーズの間に使用されるのと同じ相関器構成要素を使用し得るものであり、または代替的には、別々の相関器機能が、取得目的のために使用され得る。
【0032】
かくして、本発明のいくつかの実施形態は、各側波帯上で、CMFフィルタリングされた信号を、各々が拡散コードの全シーケンスより短い複数の時間的部分へと分けるように、および、拡散コードのローカルコピーの同様のサイズの部分とのサブ相関を実行するように構成され、複数のサブ相関の結果を高速フーリエ変換または離散フーリエ変換において組み合わせる、取得ユニットをさらに含み得る。
【0033】
本発明は、主として、ガリレオなどのGNSSシステムにより送信される信号の処理に向けられる。かくして、一般的には、複数の関心のある信号は、GNSSシステムの衛星により送信されるものである。
【0034】
本発明の第2の態様によれば、複数の関心のある信号を復調する方法であって、
複数の関心のある信号は、異なる送信器により送信され、アンテナにより受信され、すべてが、同じ共有される1つ以上の周波数帯域を占有し、各信号が、その信号に適用される別々の拡散コードを有し、上側波帯と下側波帯とを含み、方法は:
a)すべての受信した信号の各側波帯を、公称ベースバンド周波数にダウンコンバートして、組み合わされた上側波帯信号、および、組み合わされた下側波帯信号を作り出すステップ;
b)組み合わされた上側波帯信号を第1のチップマッチドフィルタにおいて、および、組み合わされた下側波帯信号を第2のチップマッチドフィルタにおいてフィルタリングするステップ;
c)各受信した関心のある信号に対して一つの、複数のチャネルの各々に、フィルタリングされた上側波帯信号および下側波帯信号を提供するステップであって、チャネルの各々が、両方の側波帯を別々に処理するように適合される、ステップ
を含み、
チップマッチドフィルタは、拡散コードがそれぞれの上側波帯または下側波帯への信号のダウンコンバージョンの後に続いて現れる際に、拡散コードのチップとマッチングされ、
各チャネルの各側波帯は、少なくともアーリー、プロンプト、およびレイトゲートを含む、少なくとも3つのゲートを含み、
各ゲート内で:
i)最近傍サンプラを使用して、必要に応じてアーリー、レイト、またはプロンプトタイミング基準を使用して、チップマッチドフィルタからの信号をサンプリングするステップ;
ii)乗算器を使用して、(i)からのサンプルを、拡散コード生成器からの拡散コードのローカルコピーの適切な部分と乗算するステップ;
iii)混合器を使用して、側波帯上に存在するドップラー周波数または局部発振器オフセットの除去のために、ゲート内の信号を、フィードバックループ信号により乗算するステップであって、混合器は、数値制御発振器により駆動される、ステップ;
iv)積分器を使用して、ステップ(i-iii)から作り出されるゲート信号を積分するステップ;
を含み、
アーリーおよびレイトゲートの出力の組み合わせから導出されるフィードバック信号が、最近傍サンプラのタイミングを制御する数値制御発振器を駆動するために使用され、(iii)においてのフィードバックループ信号が、プロンプトゲートの出力から導出される、方法が提供される。
【0035】
方法は、本発明の実施形態において、元々送信された信号内へとコード化された情報を含み、次いで後続のプロセスにより使用される出力を提供する。そのようなプロセスは、GNSS用途において、航法的位置、速度、またはタイミング(PVT)情報の算出を含み得る。そのようなPVT情報の算出は、当業者に知られている。
【0036】
本発明のさらなる態様によれば、1つ以上のプロセッサにより実行されるときに、1つ以上のプロセッサに、上記の方法を含む動作を行わせるように構成された命令を記憶する、非一時的コンピュータ可読媒体が提供される。
【0037】
プロセッサは、いくつかの実施形態において、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアにおいて、または、任意の他の手段により実現される、デジタル信号プロセッサ、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、または、任意の他の適したプロセッサであり得る。プロセッサは、当業者により理解されることになるように、メモリに接続され、アンテナ、増幅器、混合器、その他を含む構成要素から信号を受信するように構成され得る。
【0038】
本発明の実施形態が、今から、以下の図を参照して、単に例として、より詳細に説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施形態のトップレベルアーキテクチャを図式的に例示する図である。
図2図1において示される本発明の実施形態の、より詳細な、ただし依然として単純化されたブロック線図を図式的に例示する図である。
図3】本発明の実施形態において用いられるフィードバック構成の単純化されたブロック線図を図式的に例示する図である。
図4】本発明の実施形態において用いられ得るような信号を取得する1つの方法を図式的に例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、本発明の実施形態による受信器のフロントエンドの基本アーキテクチャを示す。受信器100は、ガリレオGNSSコンステレーションからのPRS信号などの、複数の衛星からのGNSS信号を受信するためのアンテナ102を有する。アンテナは、その信号を(示されない低ノイズ増幅器を介して)ダウンコンバータおよびデジタル化機能104に提供し、デジタル化機能104は、信号の周波数を、サブキャリア周波数を加えた公称ベースバンド(E1帯域においてのガリレオPRS信号の場合、おおよそ15MHz)に至らせる。ダウンコンバータは、乗算器を含み得る。ダウンコンバージョンおよびデジタル化機能104からの出力が、2つのパスへと分けられる。上側パス122は、上側波帯信号を取り扱い、一方で、下側パス125は、下側波帯信号を取り扱う。上側パスにおいて、ダウンコンバートされた上側波帯信号は、混合器112において、下記でさらに解説されるように、信号を公称ベースバンドに至らせるために、数値制御発振器114からの出力と混合される。このベースバンド信号は、次いで、n個の個々のチャネルの上側波帯処理パスの中での処理のために複数の信号へと分けられる前に、チップマッチドフィルタ118においてフィルタリングされ、各チャネルは、1つの衛星からの信号を処理するように構成される。2つのチャネル、すなわちチャネル1およびnが示され、他のチャネルは、点線124により示される。下側波帯チェーンを取り扱う下側パスは、このレベルの粒度において、機能的に同一であり、下側波帯を公称ベースバンドに至らせるように、ユニット104からの入来する信号を、混合器112により使用されるものに対する共役信号と混合する混合器116を含む。これは、CMF120によりフィルタリングされ、出力が、n個のチャネルの下側波帯処理パスに給送するために分けられる。かくして、単一のCMFおよび混合器が、所与の側波帯の信号のすべてを処理するために使用される。
【0041】
各チャネルの各側波帯は、この実施形態において、各側波帯のための、アーリー(E)、レイト(L)、およびプロンプト(P)ゲートを含む3つのゲートへと分けられる。時には、いくつかの実施形態は、ベリーアーリーおよびベリーレイトチャネルなどのさらなるゲートを有し得るが、これらは、ここでは詳細に考察されない。さらなる処理が、図2について、より詳細に解説されるように、各ゲート内で実行され、各ゲートからの信号が、航法解(navigation solution)を生成することにおいての使用、ならびに、ゲートおよびチャネル処理を制御するためのフィードバック信号の両方のために、出力信号132を提供するために、130において相関させられ、処理される。これらの様々な機能および構成要素が、今から、さらに説明されることになる。
【0042】
図2において示されるのは、図1の、より詳細なバージョンであるが、それは、依然として、本発明の実施形態の受信器の部分の単純化された表現1である。それは、入来する信号を公称サブキャリア周波数において提供するために、上記で説明されたように、受信した信号がダウンコンバートおよびデジタルサンプリングされているということを仮定する。かくして、例えばガリレオPRS受信器に対して、衛星からの受信した信号は、公称で1.57542GHzの中心周波数を有し、この信号は、BOC(15,2.5)信号によって変調され、各側波帯を15.345MHzの公称サブキャリア周波数に置く。このサブキャリア周波数は、図2のアーキテクチャの入力10へ典型的には60Mspsのレートでサンプリングされる、I(同相)およびQ(直交)デジタルサンプルとして提示される。
【0043】
説明は、信号が、後で説明されるものなどの取得プロセスを通して取得されているということ、およびゆえに、信号が、チャネルにおいて追跡されているということを仮定する。
【0044】
入力においての信号は、各側波帯に対して1つ、1対のデジタル混合器内へと給送される。上側混合器12は、さらには、公称サブキャリア周波数において動作するNCO14からの複素入力を有する。下側混合器14は、上側混合器に給送される信号のものに対する共役信号を伴うNCO14からの複素入力を有する。混合器12の出力は、送信された信号の上側波帯上に存在する変調された情報を含む、公称でベースバンドにおいての信号である。同じように、混合器16の出力は、送信された信号の下側波帯上に存在する変調された情報を含む、公称でベースバンドにおいての信号である。
【0045】
公称ベースバンド周波数が0Hzに中心を定められることを妨げ得る様々な事が存する。これらは、NCOが受信器のさらなる相関要素からのフィードバック信号により制御されないということを考えると、サブキャリアNCOにおいての周波数誤差を含む。いかなるそのような周波数誤差も、NCOが、典型的には例えば結晶から導出されるシステムクロックにより駆動され得るということを考えると、些細であることになり、周波数誤差は、後続の処理への性能影響を有さないことになる、容認可能な限度の中に十分にある。別の周波数誤差源は、所与の衛星と受信器との間の、半径方向の移動、または、変化するレンジにより引き起こされるドップラー効果に起因する、受信した周波数に対する変化のものである。やはり、このことにより引き起こされるいかなるそのような周波数誤差も、後続の処理への有意な影響力を有さない。これらの理由のために、本発明の発明者は、提案されるアーキテクチャによって、サブキャリアNCOのフィードバック制御が必要とされず、それゆえに、システムは、すべての衛星をカバーする単一のものだけを要するということを見出だした。
【0046】
混合器12、16からの出力の各々は、それぞれのチップマッチドフィルタ18、20内へと給送される。各CMFは、受信しているチップの予想される形状とマッチングされるマッチドフィルタである。WO2015/107111において解説されるように、CMFは、有限インパルス応答フィルタとして実現され得るものであり、チップ信号の性質(方形波、または、それへの近似である)を考えると、非常に効率的に実現され得るものであり、そのことは、この時点においての相対的に高いサンプルレート(典型的には10MHzから80MHzの間)を考えると、電力消費を低減することにおいて有用である。
【0047】
単一の混合器、および、単一のCMFのみが、所与の側波帯の、すべての信号を取り扱うために要される。各チップマッチドフィルタ18、20の出力は、各チャネルに対する個別の側波帯の処理チェーンに入力信号を提供するために分けられる。図2において、単一のチャネルの上側波帯および下側波帯のための処理チェーンが詳細に示され、他のチャネルの上側波帯処理チェーンおよび下側波帯処理チェーンが、26および28それぞれにおいて示され、それらは、より詳細に示される上側波帯処理チェーン22および下側波帯処理チェーン24と機能的に同一である。各チャネルは、個々の衛星に対する信号を取り扱うことに専用化された信号処理を含む。かくして、所与の瞬間において受信器に可視である公算が大きい(理想条件のもとで)衛星が存するのと同数のチャネルが存する。大部分の実施形態において、少なくとも4つのチャネルが存することになるが、典型的には、およそ12個のチャネルが存することになる。各チャネルは、3つのゲート(E、P、およびL)において上側波帯信号を処理するための処理要素を有する第1の処理チェーン22と、やはり3つのゲート(E、P、およびL)において下側波帯信号を処理するための処理要素を有する第2の処理チェーン24とを含む。
【0048】
図2は、点線30(その点線の左の、すべてのチャネルに共通である機能性と、その点線の右の、単一のチャネルにおいて使用される機能性との間の分かれ目を示す)の右手側に、1つのチャネルの部分の基本構造を示す。上側波帯を取り扱い、点線33の上方にある処理要素22をともに含むゲートは、CMF18からの入力を受信する(26において示されるような、他のチャネルにおいての - 示されない - 他の上側波帯ゲートがするように)。側波帯処理チェーンの中で、入力は、各々アーリー、レイト、およびプロンプト処理のために1つ、3つのゲート23a-cへと分かれる。各ゲートにおいて、最近傍(N-N)サンプラ35が、ゲートの各々に対して、(個別のゲートに対する(各チップの開始、中間、または終了などの)各チップに関する基準点への関係において、理想サンプル時間に最も近い、(依然としてその時点において、混合器12に供給される入力信号のサンプルレートでのものである)入来するサンプルストリームからの入力サンプルを(WO2015/107111において解説されるように)選定する。各ゲートは、それゆえに、チップあたり1サンプルのレートでの、34a-cにおいて示されるようなサンプリングの後に続くサンプルストリームを含む。E、L、およびPゲートは、GNSS受信器設計においてよく知られているように、入来する信号の精密なタイミングを見出だすために使用されるということが、当業者により理解されることになる。PとEとの、および、LとPとの間の相対的タイミングは、一般的には固定されたままであるが、絶対的タイミングは、後でさらに解説されるように、遅延ロックループの部分を形成するコードNCOにより制御される。
【0049】
各N-Nサンプラ34の出力は、チップあたり1サンプルのレートでのサンプルであり、残りのサンプルは使用されない。このサンプルは、乗算器36a-cにおいて、適切なレンジング(拡散)コードチップと乗算され、そのことにより、当業者により諒解されることになる、および、後で説明されるように、レンジングコードチップ位置を入来するサンプルと同期させる取得プロセスを通して、適切なチップが見出だされる。同期させられると、レンジングコードチップを更新するクロック信号が、この実施形態において、N-Nサンプラ35の各動作からとられる。レンジングコードは、+1または-1の実数値を含むので、乗算器は、好都合には、スイッチト否定器(switched negator)として実現される。
【0050】
レンジングコード乗算の後に続いて、キャリアワイプオフが行われ、それは、上記で論考された、すなわち、相対的移動(ドップラー)により、および、元の信号ダウンコンバージョンプロセスにおいての周波数誤差により引き起こされる、周波数誤差を除去する(または、少なくとも低減する)。キャリアワイプオフは、各ゲートにおいての混合器38a-cにおいて、レンジングコード乗算器の出力を混合することにより実現される。キャリアワイプオフは、後でより十二分に説明されるプロセスにおいて、キャリアNCO構成要素39が内にある位相ロックループ(PLL)により駆動される。
【0051】
キャリアワイプオフおよびレンジングコード乗算は、どちらの順序でも行われ得るものであり、実施形態は、上記で述べられた順序に限定されるべきではないということが留意されるべきである。
【0052】
この後に続いて、信号は、積分器40(すなわち、加算器ユニット)において、適した時間スパン(典型的には、コードの1つ以上の完全な繰り返しなど)にわたって積分され、積分された値(ダンプ)は、上記で述べられた様々なDLLおよびPLLループを制御するために、およびまた、さらなる処理のために航法信号出力を提供するために、後で説明されるように使用される。これは、参照32として示され、図3を参照して下記で詳細に説明される。
【0053】
積分およびダンプ機能とともに、レンジングコード乗算が相関器を構成し、その相関器は、入来する信号をレンジングコードと相関させて、E、L、およびPと称される、E、L、およびP出力の各々に対する相関値を作り出し、ここでUは、それが上側波帯からのものであるということを意味し、E、L、およびPは、先に定義されたようなものであるということが理解されることになる。
【0054】
点線33の下方にある処理要素24は、下側波帯を取り扱い、上側波帯処理要素22のものと機能的に同一である。それは、混合器16から、上記で説明されたような、サブキャリアNCO14からの(共役)信号との混合プロセスの後に続いて、下側波帯信号を受信する。上側波帯に関してのように、下側波帯信号は、上記で説明されたように、N-Nサンプラと、キャリアワイプオフ機能と、相関機能とを有する、E、L、およびPパスを含む3つのゲートへと分かれる。下側波帯24相関プロセスからの出力は、E、L、およびPと称される3つの出力であり、ここでLは、下側波帯処理パス相関器からの出力を意味する。同様の参照番号が、上側波帯および下側波帯の両方のチャネルの中の構成要素に対して使用されるが、後者は、例えば34’と、ダッシュを伴って示されるということに留意されたい。
【0055】
図3は、本発明の実施形態の、各チャネルの中で動作するフィードバックパスを示す。当業者に明らかであることになるように、この実施形態は、フィードバック構成を実現する1つの方法にすぎないということ、および、他のものが、さらには使用され得るということが留意されるべきである。図は、点線50により、上側波帯フィードバック処理52および下側波帯フィードバック処理54へと分けられるが、上側波帯および下側波帯の両方からの信号が、下記で説明されるように、各部分52、54の中で使用される。
【0056】
コードNCO遅延ロックループが、以下のように、この実施形態において実現される。E、L、E、およびLの絶対値が、abs機能56a-bにより示されるように、正値を通過させること、または、負値の否定することのいずれかにより作り出される。EおよびE項のモジュラスが、次いで、加算器58において加算され、LおよびL項が、加算器60において加算される。
【0057】
【数3】
の値を含む信号が、次いで、62において計算され、結果的に生じる信号が、DLLフィルタ64においてフィルタリングされ、フィルタリングされた信号が、コードNCO66を駆動するために使用される。これらの構成要素は、かくして、アーリーおよびレイト信号の振幅を追跡するコードDLLの部分を構成する。|E|(これは、|E|+|E|の絶対値である)が|L|(これは、|L|+|L|の絶対値である)より大きいならば、式1の分子は正であり、DLLは、第1の方向において適切にN-Nサンプラのタイミングを調整するために駆動されることになるということがわかるだろう。逆に、式1の分子が負であるならば、DLLは、反対の方向においてN-Nサンプラのタイミングを調整する役割を果たす。式1、および、コードDLLの中でのその使用は、かくして、遅延弁別器としての役割を果たし、システムに遅延誤差の評価を提供し、ループによって、遅延誤差の最小化のための手段を提供する。
【0058】
図3は、単一のコードNCOを示し、ゆえに、単一のコードDLLが、チャネルの中の上側波帯および下側波帯の両方に対して使用される。図2において示されるコードNCO66は、それゆえに、この実施形態において、単に表現の容易さのために示される2つと同じNCOである。歪んでいない受信した信号に対して、両方の側波帯により経験される遅延は同じである。電離層歪みの最も極端な場合を除いて、2つの側波帯の間の遅延差は無視できる。これは、遅延が等しいという仮定が、一般的には容認可能であるということを意味する。これは、単一のコードNCOが、上側波帯および下側波帯の両方に対して使用されることを可能とする。
【0059】
いくつかの実施形態において、(例えば、他のシステムにより送信される信号に対する用途、または、それらの信号との互換性のために)BPSK追跡チャネルと同一のアーキテクチャを使用することを希望する理由のために、2つの側波帯チャネル各々に対して別々のコードNCOを保持することが所望されるということが実情であることがある。この場合、遅延ループフィルタ64の出力が、各チャネルに対して1つで、2つのコードNCOを同一に駆動するために使用され得るものであり、その場合、図2においてのNCO66は、したがって、別々のNCOである。
【0060】
キャリアオフセット(上記で解説されたように、ドップラー周波数効果、および、ダウンコンバージョンプロセスにおいての周波数誤差に起因する)を低減するためのキャリアNCO位相ロックループ(PLL)が、以下のように、この実施形態において実現される。所与のチャネルにおいて、プロンプト出力UおよびLの逆正接が、66および68において算出される。第1の加算ユニット70において、これらの逆正接が加算され、その結果が、平均逆正接を作り出すために、72において2で除算される(すなわち、(Tan-1(P)+Tan-1(P))/2)。第2の加算ユニット74および除算器75において、(Tan-1(P)-Tan-1(P))/2が、平均差を作り出すために算出される。平均逆正接は、次いで、キャリアループフィルタ76に行き、一方で、平均逆正接差は、位相差ループフィルタ78に提供される。ループフィルタ76および78は、同じ、または有利には、異なる程度の平滑化を、それらのそれぞれの入力信号に提供するように構成され得る。これは、なぜならば、平均逆正接の変動は、衛星と受信器アンテナとの間の変化する距離に正比例し、一方で、平均逆正接差は、遅延ロックループの動的応答により影響を及ぼされる、遅延追跡ループにおいての遅延誤差に比例するからである。これらの信号は、それゆえに、異なる特性を有する。フィルタ76および78の出力は、加算器80において加算され、上側波帯キャリアNCO39への入力として給送される。キャリアループフィルタ76と位相差ループフィルタ78との間の、加算器82において算出される差は、下側波帯キャリアNCO39’に提供される。これは、キャリア弁別器機能を提供する。
【0061】
キャリアループフィルタ76への入力は、また、下記で説明されるように、累積デルタ位相(Accumulated Delta Phase)の計算の目的のために「キャリア位相」出力79として使用される。
【0062】
それぞれの相関器からのPおよびP信号は、後続の航法メッセージ処理において使用されるIおよびQ出力86を提供するために、加算ユニット84において加算される。
【0063】
チャネルの中の上側波帯と下側波帯との間のキャリア位相誤差が小さいならば、それらの平均が「キャリア位相誤差」であるということが諒解されることになる。それらの差が、「サブキャリア位相差」である。この位相差は、プロンプト相関ゲートの遅延誤差に比例する。その位相差は、プロンプト相関ゲートの遅延誤差がBOCサブキャリアの1サイクルの半分を経る際に、1つの全サイクル(2πラジアン)を経る。
【0064】
上記で説明されたようなキャリアループフィードバックの実施形態は、(a)2つのサブキャリア位相誤差の平均である「キャリア位相」誤差(さらには、中心キャリア位相として知られている)、および、(b)「サブキャリア位相差」77の値を計算する。「キャリア位相」は、当業者により理解されることになるように、特に、追跡フェーズの間の受信器の移動を正確に測定することにおいて価値がある、「積算デルタ位相」79、または等価的には「積算デルタレンジ」の算出を通して、航法解の精度を改善するために使用され得る。
【0065】
中心キャリア位相およびサブキャリア位相差の除去、または、それらに対する補償が、また、加算ユニット84において加算されるPおよびP信号が互いに同相であるということを確実にするために必要であり、そのことによって、IおよびQ出力86は、最良の可能なデータ復調性能が、位置、速度、および時間を計算するための後続の航法メッセージ処理をサポートして、達成されることを可能とする。
【0066】
BOC信号追跡においての「サブキャリア位相差」77は、「バーニア遅延」測定値を提供するために、先行技術システムにおいて(例えば、‘439において)使用されており、バーニア遅延は、-πからπの間のサブキャリア位相差が、-0.25サブキャリアサイクルから+0.25サブキャリアサイクルの間のプロンプト遅延誤差を示す。これは、遅延測定値精度を改善するために使用され得る。
【0067】
しかしながら、BOC変調の、(‘111特許出願において説明されるような)そのBOC変調の特有の自己相関関数に関する性質は、この手法に関する困難をもたらす。具体的には、プロンプトの遅延誤差が±0.25サブキャリアサイクルを超過すると、サブキャリア位相差は「ラップアラウンドする(wraps around)」(例えば、その遅延誤差は、0.5サイクルだけオフセットされた「誤った」位置に相対的に、-0.25から0.25サイクルのレンジの中にあるとみなされる)。これは、0.5サイクルインターバルでピークを有するBOC自己相関関数モジュラスにより引き起こされるアンビギュイティに、まさに類似する。
【0068】
この理由のために、本発明の実施形態は、遅延評価のためにサブキャリア位相差を使用しない。次のことが、本発明者により、気づかれた:
・各側波帯チャネルのBPSK似(BPSK-like)の相関関数は、単独では、多数のBOCピークの間の間隔よりはるかに広く、2つの側波帯の間の時間/遅延差は、(前に解説されたように)通常は無視できる。それゆえに、両方の側波帯において同じタイミングによってアーリーおよびレイトゲートを計算し、次いで、それらのゲートの出力をインコヒーレントに組み合わせることは、満足のゆくものである。遅延追跡を行うためにサブキャリア位相差から提供される余分な遅延追跡精度を有することは必要でない。
【0069】
・追跡器が、誤った(または等価的には、ゼロサブキャリア位相誤差を、ただし、わずかに正しくない遅延を伴う)サブピーク上へとロックされた様態になることがある場合でも、これは、ここでの関心のある事例である、サブピークが密接にスペースをおかれる場合、BOC信号の復調を有意に悪化させない。
【0070】
・サブキャリア位相差が、遅延精度を改善することの意図を伴って(または、キャリア支援において)使用される場合、アンビギュイティが克服されないならば、遅延誤差は、より良好にではなくむしろ、より悪くされ得る。ゆえに、追跡ループの中でサブキャリア位相差を使用することではなく、代わりに、図において示されないプロセスを適用することが、より良いと信じられ、そのプロセスは、遅延追跡ループに影響を及ぼすことなくアンビギュイティを評価および除去するために、図3において示されるサブキャリア位相差出力を処理し、より長期にわたって動作するものである。サブキャリア位相差の、結果的に生じる、アンビギュイティを解消された評価が、受信器においての位置、速度、および時間評価アルゴリズムへの出力のために、DLL遅延評価値と組み合わされ得る。
【0071】
当業者は、様々なフィードバックループの他の実施形態が使用され得るということを諒解することになる。上記で説明されたような方法は、‘439文献においてなど、いくつかの先行技術実施形態において行われるような、キャリアループとのコードループの混合を要さない。
【0072】
1つの代替的な手法は、上記で説明された組み合わされた手法よりむしろ、上側波帯および下側波帯上で、独立したキャリアPLL(または適切な場合には、周波数ロックループ - FLL)を使用することである。これらは、独立して、2つの側波帯信号を位相ロックされた様態に保つことになる。データベアリング(data-bearing)信号、すなわち、航法目的のために必要な情報(2つの側波帯において同じである)を含む、衛星により送信された信号が、次いで、各々から抽出され、次いで、全体的なデータSNRを3dBだけ改善するために平均化され得る。これは、しかしながら、上記で説明されたようにサブキャリア位相誤差の平均を使用してキャリア位相誤差を算出する能力を失うものであり、そのため好まれない。
【0073】
GNSS受信器が信号を追跡することができる前に、それは、信号の存在を検出し、その遅延、および、その周波数オフセットの初期評価値を算定することを必要とする。‘111特許において解説される(および、引用により含まれる)ように、これは、多くの方法のうちの1つで実現され得る取得ユニットを使用して実行される。本発明の実施形態は、ベースバンドへの各側波帯の周波数シフティング、および、各側波帯のチップマッチドフィルタリングが、すでに説明されたようなすべての追跡チャネルによってのみではなく、図1において示されるような取得ユニット123によっても共有されることを可能にし得る。
【0074】
このことを解説するために、より単純な、ただし関係付けられる技法を使用するBPSK信号について、取得プロセスが最初に説明されることになり、次いで、どのようにその取得プロセスがBOC信号に関して適用されるかに関して、解説が与えられることになる。
【0075】
入来する信号に関する基準コードの相対的タイミング(およびまた、利用可能なものからのどの基準コードが使用されるべきか)は知られておらず、受信した信号は、ノイズの中に深く埋もれているので、相関器は、(どこかのサンプル時間、例えばmにおいて)相関器出力の大きさが、所定のしきい値を超過するまで、異なる時間シフトおよび基準コードを使用して、基準コードを入来する信号と繰り返し相関させるようにされ得る。この時点において、基準信号は、検出されたと言われ、その到着の時間は、サンプル時間mであると評価される)。
【0076】
これらの相関を、相関の計算負荷、およびゆえに電力消費を最小化するために、可能な限り低いレートで行うことが望ましい。しかしながら、レートが低減されるにつれて、相関の間の時間間隔は増大し、信号の真の到着の時間と、相関が計算された実際の時間のうちの1つとの間の最大可能時間差は増大する。これは、性能損失(検出の低減した確率)を引き起こし、その性能損失の最大および平均値は、相関の間の間隔が増大するにつれて増大する。
【0077】
よく知られているように、相関の間の時間インターバルは、それゆえに、典型的には、検出確率の十分に小さい損失を確実にするために、チップ継続期間の0.25倍と0.5倍の間であるように選定される。ゆえに、完全な相関が、チップレートの2倍から4倍の間のレートで行われるはずである。これは、前に論考されたような追跡においてのものよりはるかに大きい、計算のレートである。
【0078】
この繰り返される相関を効率的に実現するための方法は、最初に最近傍サンプラを使用して、チップマッチドフィルタ出力からのサンプルを、相関の選定されたレート(例えば、チップレートの2から4倍)に等しい平均レートで選択し、それらのサンプルをバッファ内に記憶することである。次いで、各相関を行うために、相関器は、サンプル時間がチップあたり1サンプルの間隔に可能な限り近く対応するサンプルを、バッファから取り出す。
【0079】
上記で解説されたように、受信した信号は、また、ドップラーシフトまたは発振器周波数誤差のために、周波数においてシフトされ得る。この周波数シフトが相関の前に除去されないならば、残存する何らかの周波数シフトが、相関出力の大きさが低減されることを引き起こす。これは、検出確率の追加的な損失を引き起こす。その損失が、容認可能な限度を超過しないということを確実にするために、相関器入力においての残留周波数誤差の大きさは、fLIMITHzとラベル付けられ得る限度より下に保たれなければならない。
【0080】
そのことは、各々1つが、上記で説明されたような相関器システムへの入力の前に適用される異なる周波数オフセットを有する、多数のパスを実現することにより達成され得る。パスの間の周波数においての間隔は、パスのうちの1つにおいて、残留周波数誤差がfLIMITHz以下であるということを確実にするために、2fLIMITHz以下でなければならない。
【0081】
この方法において相関器の数を単純に増大することは、より多い計算パワー、ならびにゆえに、より多い回路、および、より大きい電力消費を要するという望ましくない結果を有する。これらの不利を回避するために、必要な計算を行うための効率的な方法が規定された。「セグメント化された相関」と呼称される1つのそのような方法が、論文「Rapid Acquisition Concepts for Voice Activated CDMA Communication」、M Sust、R Kaufman、F Molitor、およびA Bjornstor著、Globecom 90出版、1820-1826頁、1990年12月、において(「スイベリングマッチドフィルタ(Swivelling Matched Filter)」という名で)説明されている。
【0082】
この方法において、基準コードシーケンスは、各々が長さBの、M個のサブセクションへと分割される(ここでMBは、少なくともL、全基準コードシーケンスの長さであるはずである)。相関プロセス(ゼロ周波数シフトを有すると仮定される信号とマッチングされる)が、次いで、各々が1つの出力を作り出すM個のサブ相関へと分解される。各サブ相関は、入力のB個のサンプルのみを、基準コードの対応するB個のサンプルと乗算する。
【0083】
これは、Sust論文からの図に基づく図4において例示される。入来する受信した信号は、例えば本明細書において説明されるように、最初にダウンコンバートおよびサンプリングされる90。サンプルは、次いで、M個のサブ相関器SC0、SC1…SC(M-1)に適用され、各サブ相関器は、複素出力を提供する。M個のサブ相関器の出力は、次いで、「複素FFTまたはDFT」とラベル付けられた組み合わせプロセス92においてさらに組み合わされる。
【0084】
組み合わせプロセスの出力r、r…r-1は、FFTまたはDFTの、各複素出力の二乗された大きさ(すなわち、I+Q)である。各相関時間においての最も大きい二乗された大きさは、次いで、選定されたしきい値との比較されるものであり、その二乗された大きさがしきい値を超過するならば、検出が宣言される。
【0085】
Sustらの論文において解説されるように、このアーキテクチャからの出力は、各々が、異なる周波数シフトfを有する、M個の別々の相関器のセットからのものと近似的には等価であり、fの値は、
k=-M/2、…(M/2)-1に対して、fAk=k(f/MB) (10)
である。
【0086】
これらの周波数シフトされた相関器の間の周波数間隔は、それゆえに、値fSTEP=(f/MB)を有する。これは、(あまりにも大に、性能損失につながる)典型的にはあまりにも大きい最悪ケース損失につながる。この問題を克服するために、機能「FFTまたはDFT」が、離散時間フーリエ変換(DTFT)と命名されたプロセスにより置換され得る。DTFTにおいて、出力の間の周波数間隔fSTEPは、随意に選定され得るものであり;特に、それは、(f/MB)より小さいように選定され得るものであり、そのことは、性能の、より小さい最悪ケース損失につながる。ゼロパディングされるFFTの使用、または、CORDICアルゴリズムの使用を含む、そのようなDTFTを実現するためのいくつもの方法が存するということが、当業者により諒解されることになる。
【0087】
本発明において、上記で説明された取得技法を、2つの側波帯のうちの1つのみに適用すること;換言すれば、図1においての2つのCMF出力のうちの1つのみを使用することが可能であることになる。取得技法は、したがって、まさにすでに説明されたようであることになる。しかしながら、2つの側波帯のうちの1つのみを使用することは、ほぼ3dBの有意な性能損失を引き起こす。
【0088】
これを回避するために、本発明の実施形態において、上記で説明された取得処理の2つのコピーが、1つが上側波帯CMF出力に、および、1つが下側波帯CMF出力に適用され、それらの出力が組み合わされる。より詳細には、取得ユニットが、図1においての両方のCMFの出力を受信する。下側波帯最近傍サンプラおよび上側波帯最近傍サンプラが、下側波帯チップマッチドフィルタ出力および上側波帯チップマッチドフィルタ出力からのサンプルを、同じ時点において、および、相関の選定されたレート(例えば、チップレートの2から4倍)に等しい平均レートで選択し、それらのサンプルが、2つのバッファ内に記憶される。
【0089】
セグメント化された相関方法は、この実施形態において、2つのバッファのコンテンツに、独立して適用される。前述のように、それは、サンプル時間がチップあたり1サンプルの間隔に可能な限り近く対応するサンプルを、バッファから取り出す。第1のセグメント化された相関器の出力は、上記で説明されたように、異なる周波数シフトにおいての相関に対応する複素数である。同様に、第2のセグメント化された相関器の出力は、上記で説明されたように、異なる周波数シフトにおいての相関に対応する複素数である。しかし、追跡についてすでに解説された理由のために、2つのセグメント化された相関器からの対応する出力の偏角(すなわち位相)は異なる。
【0090】
それゆえに、各々そのような出力のモジュラス(すなわち、絶対値)が計算される。マッチング周波数においての第1および第2の相関器からの出力のモジュラスが、次いで、各周波数に対する単一の出力を作り出すために加算される。
【0091】
それらの加算された値のうちの最も大きいものは、したがって、選定されたしきい値との比較されるものであり、それがしきい値を超過するならば、検出が宣言され、追跡フェーズが始まることができる。
【0092】
本発明は、当業者により理解されることになるように、任意の適した様式で、取り入れられて実現され得る。受信した信号がデジタル化されてしまうと、本明細書において説明される様々な機能は、1つ以上のASICチップ上などのデジタルハードウェアにおいて、1つ以上のFPGA上のファームウェアにおいて、または、例えば汎用プロセッサもしくは信号プロセッサを使用するコンピュータシステム上で走るソフトウェアにおいて、または、これらのもののうちの2つ以上の組み合わせにおいて実行され得る。
図1
図2
図3
図4