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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】冷却ジャケット及び焼入装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/667 20060101AFI20240425BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20240425BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20240425BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C21D1/667
C21D1/00 123Z
C21D1/10 J
C21D9/00 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021019805
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122519
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】堀野 孝
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-013135(JP,A)
【文献】特開平08-193216(JP,A)
【文献】特開2014-181366(JP,A)
【文献】特開2017-125225(JP,A)
【文献】特開2019-090081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/667
C21D 1/00
C21D 1/10
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却材が第1方向に通過する貫通部、及び、前記貫通部に連通し第2方向に延びる冷却液供給孔が形成された冷却ジャケット本体と、
前記貫通部内に配置され、中心軸が前記第1方向に延びる筒状であり、複数のスリットが形成された整流板と、
を備え、
前記整流板は、
前記冷却液供給孔に対向した第1領域と、
前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向に延び前記貫通部の中心を通過する仮想的な直線と前記整流板とが交差する2点と前記第1領域との間に位置する2つの第2領域と、
前記2つの第2領域間であって前記第1領域の反対側に位置する第3領域と、
を有し、
前記第2領域における前記スリットの面積の割合は、前記第3領域における前記スリットの面積の割合よりも高い冷却ジャケット。
【請求項2】
前記第1領域における前記スリットの面積の割合は、前記第3領域における前記スリットの面積の割合よりも低い請求項1に記載の冷却ジャケット。
【請求項3】
前記第1方向における前記スリットの長さは、前記整流板の周方向における前記スリット長さよりも長い請求項1または2に記載の冷却ジャケット。
【請求項4】
前記複数のスリットのうち2つのスリットは、前記第1方向において互いに離隔して配置されている請求項1~3のいずれか1つに記載の冷却ジャケット。
【請求項5】
前記2つのスリットの少なくとも一部は、前記第1領域に配置されている請求項4に記載の冷却ジャケット。
【請求項6】
前記冷却液供給孔は前記整流板に対して前記第1方向の一方側にずれて配置されており、少なくとも1つの前記スリットは、前記第1方向の他方側にずれて配置されている請求項1~5のいずれか1つに記載の冷却ジャケット。
【請求項7】
前記冷却液供給孔は2つ設けられており、前記第3方向において離隔している請求項1~6のいずれか1つに記載の冷却ジャケット。
【請求項8】
前記整流板の内側に配置された噴射リングをさらに備え、
前記噴射リングには複数の貫通孔が形成されており、
前記整流板の中心軸から見て、前記スリットは前記貫通孔と重ならない位置に配置されている請求項1~7のいずれか1つに記載の冷却ジャケット。
【請求項9】
前記冷却液供給孔は、前記貫通部に連通し第2方向のみに延びる請求項1~8のいずれか1つに記載の冷却ジャケット。
【請求項10】
加熱部と、
請求項1~9のいずれか1つに記載の冷却ジャケットと、
を備え、
前記冷却ジャケットは、前記加熱部において加熱された前記被冷却材に冷却液を噴射して冷却する焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、冷却ジャケット及び焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークに加熱部と冷却部を連続的に通過させることにより、ワークに焼入処理を施す焼入装置が存在する。冷却部の一つの方式においては、ワークの周囲から冷却液を噴射することにより、ワークを冷却する。この場合、冷却液をワークに均一に噴射するために、ワークを囲み、冷却液を分散させる冷却ジャケットが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-90081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、冷却ジャケットには、外部の一方向から冷却液が供給されるため、冷却液をワークに均一に噴射することは困難である。冷却液の噴射が不均一であると、ワークの冷却が不均一になり、焼入処理が不均一になる。近年、焼入処理の高精度化が求められているため、冷却液の噴射の均一化が要求されている。
【0005】
実施形態の目的は、冷却液の噴射の均一性が高い冷却ジャケット及び焼入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る冷却ジャケットは、冷却ジャケット本体と、整流板と、を備える。前記冷却ジャケット本体には、被冷却材が第1方向に通過する貫通部、及び、前記貫通部に連通し第2方向に延びる冷却液供給孔が形成されている。前記整流板は前記貫通部内に配置されている。前記整流板は筒状であり、その中心軸は前記第1方向に延びる。前記整流板には、複数のスリットが形成されている。前記整流板は、第1領域と、2つの第2領域と、第3領域を有する。前記第1領域は前記冷却液供給孔に対向する。前記2つの第2領域は、前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向に延び前記貫通部の中心を通過する仮想的な直線と前記整流板とが交差する2点と前記第1領域との間に位置する。前記第3領域は、前記2つの第2領域間であって前記第1領域の反対側に位置する。前記第2領域における前記スリットの面積の割合は、前記第3領域における前記スリットの面積の割合よりも高い。
【0007】
実施形態に係る焼入装置は、加熱部と、前記冷却ジャケットと、を備える。前記冷却ジャケットは、前記加熱部において加熱された前記被冷却材に冷却液を噴射して冷却する。
【発明の効果】
【0008】
冷却液の噴射の均一性が高い冷却ジャケット及び焼入装置を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る焼入装置を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る冷却ジャケットを示す斜視図である。
図3】実施形態に係る冷却ジャケットを示す断面図である。
図4】実施形態に係る冷却ジャケットの蓋部材及び噴射板を示す斜視図である。
図5】実施形態に係る冷却ジャケットの蓋部材、噴射板及び整流板を示す斜視図である。
図6】実施形態に係る冷却ジャケットの整流板を示す斜視図である。
図7】実施形態に係る冷却ジャケットの整流板、冷却ジャケット本体及び蓋を示す正面図である。
図8】実施形態に係る冷却ジャケットの整流板を示す正面図である。
図9】実施形態に係る冷却ジャケットの整流板を示す側面図である。
図10】実施形態に係る冷却ジャケットの整流板を示す背面図である。
図11】実施形態に係る冷却ジャケットの整流板及び噴射リングを示す断面図である。
図12】実施形態に係る冷却ジャケットの整流板の半分を示す展開図である。
図13】比較例に係る整流板を示す斜視図である。
図14】(a)~(d)は、比較例に係る整流板を用いた場合の冷却液の流速分布を示すグラフである。
図15】(a)~(d)は、実施例に係る整流板を用いた場合の冷却液の流速分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る焼入装置を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る焼入装置101においては、加熱部50と冷却部60が設けられている。加熱部50は、例えば、高周波誘導加熱装置である。加熱部50においては、誘導コイル51に配線52を介して電力が供給される。冷却部60においては、冷却ジャケット61に配管62を介して冷却液が供給される。冷却ジャケット61は、被冷却材であるワーク200に冷却液を噴射してワーク200を冷却する。冷却液は例えば水である。
【0011】
ワーク200は、誘導コイル51及び冷却ジャケット61を自転しながら連続的に通過することにより、誘導コイル51によって加熱され、その直後に冷却ジャケット61によって冷却される。これにより、ワーク200に焼入処理が施される。
【0012】
次に、冷却ジャケット61について説明する。
図2は、本実施形態に係る冷却ジャケットを示す斜視図である。
図3は、本実施形態に係る冷却ジャケットを示す断面図である。
図4は、本実施形態に係る冷却ジャケットの蓋部材及び噴射板を示す斜視図である。
図5は、本実施形態に係る冷却ジャケットの蓋部材、噴射板及び整流板を示す斜視図である。
【0013】
図2及び図3に示すように、冷却ジャケット61においては、冷却ジャケット本体10、噴射リング20、整流板30、及び、蓋40が設けられている。なお、図示の便宜上、図2においては、冷却ジャケット本体10は透明に描いている。また、図3においては、ワーク200を省略している。
【0014】
冷却ジャケット本体10は、例えば、単一の材料からなるブロック状の部材であり、例えば、ガラスエポキシ又は金属からなる。冷却ジャケット本体10には、1つの貫通部11と、2つの冷却液供給孔12が形成されている。貫通部11は、冷却ジャケット本体10を貫通しており、その形状は略円柱形である。貫通部11内には噴射リング20及び整流板30が配置され、ワーク200が通過する。
【0015】
各冷却液供給孔12の形状も略円柱形である。2つの冷却液供給孔12は相互に平行に配置されており、冷却ジャケット本体10の側面から貫通部11まで延びており、貫通部11に連通している。冷却液供給孔12は配管62(図1参照)に接続されており、冷却液を配管62から貫通部11内まで流通させる。冷却ジャケット本体10の下面には、蓋40が固定されている。蓋40の形状は円環板状であり、貫通部11の下端の端部を構成している。
【0016】
以下、説明の便宜上、本明細書においては、XYZ直交座標系を採用する。貫通部11が延びる方向を「Z方向」とし、冷却液供給孔12が延びる方向を「X方向」とし、2つの冷却液供給孔12の配列方向を「Y方向」とする。X方向、Y方向及びZ方向は相互に直交している。なお、冷却液供給孔12が延びる方向はX方向に対して傾斜していてもよいが、少なくともZ方向に対して傾斜している。Z方向はワーク200が通過する方向であり、例えば、上下方向である。Z方向のうち、加熱部50側を「上」ともいい、その反対側を「下」ともいう。ワーク200は、冷却ジャケット61内を上から下に向かって移動する。貫通部11、噴射リング20及び整流板30は共通の中心軸Cを有する。中心軸CはZ方向に延びている。
【0017】
図4に示すように、噴射リング20の下端は蓋40の上面に結合されている。これにより、噴射リング20は貫通部11内に配置されている。噴射リング20の形状は、概ね、円錐台形の筒状である。噴射リング20の上端の直径は下端の直径よりも小さい。噴射リング20の側面には、複数の貫通孔21が形成されている。噴射リング20の側面における貫通孔21の分布は、概ね均一である。
【0018】
図4等に示す例では、噴射リング20には180個の貫通孔21が形成されている。5個の貫通孔21が、噴射リング20の母線が延びる方向(以下、「母線方向」という)に沿って一列に配列されて、列22を構成している。各列22において、5個の貫通孔21は周期的に配列されている。列22は36列あり、噴射リング20の周方向に沿って周期的に配列されている。このため、中心軸Cから見て隣り合う列22は10度離れている。隣り合う2つの列22において、母線方向における貫通孔21の位置は、相互にずれている。このずれ量は、貫通孔21の母線方向に沿った配列周期の半分である。
【0019】
より一般的に表現すると、噴射リング20に設けられた列22の数をmとし、各列22に属する貫通孔21の数をnとするとき、貫通孔21の総数は(m×n)である。また、中心軸Cからある列22に向かう方向と、中心軸Cから隣の列22に向かう方向とがなす角度は、(360/m)度である。上述の例では、mは36であり、nは5である。但し、貫通孔21の分布は、上述の例には限定されない。
【0020】
図3及び図5に示すように、整流板30は、貫通部11の内部であって噴射リング20の外側に配置されている。整流板30の形状は概ね円筒形であり、その中心軸は貫通部11の中心軸Cと一致している。整流板30の下端は蓋40の上面に結合されている。
【0021】
次に、整流板30について説明する。
図6は、本実施形態に係る冷却ジャケットの整流板を示す斜視図である。
図6に示すように、整流板30には、複数のスリット31~39が形成されている。スリット31~39は、それぞれ2つずつ形成されており、XZ平面に関して対称に配置されている。各スリットは整流板30を厚さ方向に貫通している。整流板30の厚さ方向とは、整流板30の半径方向であり、中心軸Cに対して直交する方向である。一方、各スリットは整流板30をZ方向には貫通していない。
【0022】
各スリットについて、Z方向における長さは、整流板30の周方向における長さよりも長い。すなわち、各スリットの長手方向はZ方向であり、短手方向は整流板30の周方向である。整流板30の周方向におけるスリットの分布は均一ではない。また、Z方向におけるスリットの分布も均一ではない。以下、整流板30におけるスリットの分布をより詳細に説明する。
【0023】
図7は、本実施形態に係る冷却ジャケットの整流板、冷却ジャケット本体及び蓋を示す正面図である。
図8は、本実施形態に係る冷却ジャケットの整流板を示す正面図である。
図9は、本実施形態に係る冷却ジャケットの整流板を示す側面図である。
図10は、本実施形態に係る冷却ジャケットの整流板を示す背面図である。
図11は、本実施形態に係る冷却ジャケットの整流板及び噴射リングを示す断面図である。
図12は、本実施形態に係る冷却ジャケットの整流板の半分を示す展開図である。
【0024】
図7及び図8に示すように、整流板30の側面のうち、冷却液供給孔12に対向する領域を第1領域71とする。第1領域71は2つある。冷却液供給孔12の形状が円柱形であり、整流板30の形状が円筒形である場合、各第1領域71の形状は、円を円筒形の側面に投影した形状である。第1領域71は、整流板30におけるZ方向の中央に対して、上方にずれている。整流板30の側面において、2つの第1領域71の中点を結ぶ線分70を設定する。線分70はZ方向に延びる仮想的な線分である。
【0025】
以下、便宜上、XY平面において、中心軸Cを始点とする方向を0度以上360度以下の角度で表し、中心軸Cから線分70に向かう方向の角度を0度とする。一方の第1領域71は、概ね、15度以上45度以下の範囲に配置される。他方の第1領域71は、概ね、315度以上345度以下の範囲に配置される。
【0026】
また、図9図12に示すように、Y方向に延び、中心軸Cを通過する仮想的な直線76を想定する。直線76が延びる方向は90度である。そして、直線76と整流板30とが交差する2つの点77と第1領域71との間の領域を第2領域72とする。第2領域72は2つ存在する。一方の第2領域72は、概ね、45度以上90度以下の範囲に配置される。他方の第2領域72は、概ね、270度以上315度の範囲に配置される。
【0027】
さらに、2つの第2領域72間の領域であって第1領域71の反対側の領域を第3領域73とする。第3領域73は1つである。第3領域73は、90度以上270度以下の範囲に配置される。
【0028】
さらにまた、2つの第2領域72間の領域であって、線分70を含み、第1領域71を除く領域を第4領域74とする。第4領域74は1つである。第4領域74は、0度以上45度以下及び315度以上360度以下の範囲に配置される。
【0029】
そして、各領域におけるスリットの面積の割合は、第2領域72が最も高く、次いで第3領域73が高く、第1領域71が最も低い。すなわち、第1領域71におけるスリットの面積の割合は、第2領域72、第3領域73及び第4領域74におけるスリットの面積の割合よりも低い。
【0030】
以下、スリット31~39の位置について具体例を挙げて説明する。なお、以下の説明においては、0度以上180度以下の範囲に配置されたスリットについて説明するが、180度以上360度以下の範囲に配置されたスリットについても、同様である。また、本実施形態において説明するスリットの数、位置及び形状は例示であり、本発明はこれには限定されない。
【0031】
整流板30の側面において、線分70から近い順に、スリット31、スリット32及び33、スリット34~39が配置されている。スリット31は15度の位置に配置されている。スリット31は、第4領域74内に位置する。
【0032】
スリット32及びスリット33は25度の位置に配置されている。スリット32とスリット33はZ方向において離隔しており、スリット32はスリット33よりも上方に位置している。Z方向において、スリット32の上端の位置は、スリット31の上端の位置と略等しく、スリット33の下端の位置はスリット31の下端の位置と略等しい。スリット32は第1領域71内に位置する。スリット33の上部は第1領域71内に位置し、下部は第4領域74内に位置する。
【0033】
スリット34は45度の位置に配置されている。スリット34は第2領域72内に位置する。スリット35は55度の位置に配置されている。スリット35は第2領域72内に位置する。スリット36は75度の位置に配置されている。スリット36は第2領域72内に位置する。Z方向において、スリット34、35、36の上端の位置は、スリット31の上端の位置と略等しく、スリット34、35、36の下端の位置は、スリット31の下端の位置と略等しい。
【0034】
スリット37は95度の位置に配置されている。スリット37は第3領域73内に位置する。Z方向において、スリット37の上端の位置はスリット31の上端の位置と略等しく、スリット37の下端の位置はスリット31の下端の位置と略等しい。スリット38は125度の位置に配置されている。スリット38は第3領域73内に位置する。Z方向において、スリット38の上端の位置はスリット31の上端の位置よりも低く、スリット38の下端の位置はスリット31の下端の位置と略等しい。したがって、Z方向におけるスリット38の長さは、スリット31の長さよりも短い。スリット39は155度の位置に配置されている。スリット39は第3領域73内に位置する。Z方向において、スリット39の上端の位置はスリット31の上端の位置と略等しく、スリット39の下端の位置はスリット31の下端の位置と略等しい。
【0035】
このように、第1領域71内には、スリット32の全体とスリット33の上部が配置されており、第2領域72内には、スリット34、35、36が配置されており、第3領域73内には、スリット37、38、39が配置されており、第4領域74内には、スリット31の全体とスリット33の下部が配置されている。
【0036】
また、上述の如く、0度以上180度以下の範囲において、スリットの位置は、中心軸Cから見て15度、25度、45度、55度、75度、95度、125度、155度である。また、180度以上360度以下の範囲においては、スリットの位置は、中心軸Cから見て205度、235度、265度、285度、305度、315度、335度、345度である。一方、噴射リング20の貫通孔21は、中心軸Cから見て10度ごとに配置されている。すなわち、貫通孔21の位置は、0度、10度、20度、・・・、180度である。このため、中心軸Cから見て、スリット31~39は貫通孔21と重ならない位置に配置されている。
【0037】
なお、2つのスリット31間の角度は30度、スリット31とスリット32の間の角度は10度、スリット32とスリット34との間の角度は20度、スリット34とスリット35との間の角度は10度、スリット35とスリット36との間の角度は20度、スリット36とスリット37との間の角度は20度、スリット37とスリット38との間の角度は30度、スリット38とスリット39との間の角度は30度、2つのスリット39間の角度は50度である。
【0038】
本実施形態に係る冷却ジャケット61においては、配管62から冷却ジャケット本体10の冷却液供給孔12に冷却液が供給される。冷却液は、冷却液供給孔12を通過し、貫通部11内に流入し、整流板30の側面の第1領域71に衝突する。そして、冷却液は、貫通部11の内側面と整流板30の外側面との間の環状の隙間に拡がりつつ、各スリットを介して整流板30と噴射リング20との間の環状の隙間にも流入する。そして、噴射リング20の貫通孔21を介して、ワーク200に向けて斜め下方に噴射される。貫通孔21から噴射された冷却液はワーク200に衝突してワーク200を冷却し、貫通部11の下端から外部に排出される。このとき、整流板30においてスリットを上述のごとく分布させることにより、貫通孔21から噴射される冷却液の流速を均一化することができる。
【0039】
次に、本実施形態の効果について説明する。
上記のように、整流板30の側面の第1領域71に衝突した冷却液は、貫通部11の内側面と整流板30の外側面との間の環状の隙間に、時計回り及び反時計回りの両方向に拡がっていき、第3領域73内で互いに衝突する。当該両方向に拡がっていく際の冷却液の流速は速いものの、衝突した後の流速は遅くなる。そのため、当該第3領域73から冷却液が溜まっていき、第2領域72に向かう方向に冷却液が戻っていく。
本実施形態においては、整流板30において、第2領域72におけるスリットの面積の割合が、第3領域73におけるスリットの面積の割合よりも高い。
【0040】
すなわち第3領域73では、冷却液が溜まってその水量が多くなるため、スリットの面積の割合を低くして、当該スリットを通過する冷却水の水量を少なくする。一方、第2領域72では、第3領域73から流れてくるため、その水量は第3領域73よりも少なくなる。従って、第2領域72では、当該スリットを通過する冷却水の水量を増やすべく、スリットの面積の割合を第3領域73よりも高くする。この結果、中心軸Cから見て冷却液供給孔12側の領域において、冷却液供給孔12の反対側の領域よりも流速が低下することを抑制できる。
【0041】
第1領域71は、整流板30の側面において冷却液供給孔12を通過した冷却液が最初に衝突する領域である。本実施形態においては、第1領域71におけるスリットの面積の割合が、第2領域72、第3領域73及び第4領域74におけるスリットの面積の割合よりも低いため、第1領域71において流速が高くなりすぎることを抑制できる。
【0042】
本実施形態においては、スリットの長手方向をZ方向とし、短手方向を整流板30の周方向としているため、整流板30の周方向に多数のスリットを配列させることができ、周方向におけるスリットの面積の割合を細かく調整できる。
【0043】
また、スリット32とスリット33をZ方向に離隔して設けることにより、第1領域71におけるスリットの面積の割合を低減したことに起因して、第1領域71の上下の領域で冷却液の流速が低下することを抑制できる。
【0044】
冷却液供給孔12は、整流板30のZ方向中央部よりも上方にずれて配置されている。一方、スリット38は整流板30のZ方向中央部よりも下方にずれて配置されている。これにより、整流板30の上部において流速が速くなりすぎることを抑制できる。
【0045】
本実施形態に係る冷却ジャケット61においては、中心軸Cから見て、整流板30のスリットが、噴射リング20の貫通孔21と重ならない位置に配置されている。これにより、スリットと重なった貫通孔21から噴射される冷却液の流速が、スリットと重なっていない貫通孔21から噴射される冷却液の流速よりも高くなることを防止できる。
【0046】
このように、本実施形態によれば、冷却液の噴射の均一性が高い冷却ジャケット及び焼入装置を実現することができる。
【0047】
更に、本実施形態に係る冷却ジャケットにおいては、冷却液供給孔12は、貫通部11に連通しX方向のみに延びている。従来の冷却ジャケットは、多方向から冷却液を供給しないとワークの外周面に対して冷却液を均一に噴射できない。このため、本実施形態でいう冷却液供給孔は、通常、X方向のみならず、整流板30の周方向全体(360°)にそれぞれ間隔が均一になるように等間隔で、当該整流板30の周方向の周面から離れる方向に複数延びている。すなわち、従来の冷却ジャケットにおいては、多数の冷却液供給孔を、中心軸Cを中心とした放射状に配置する必要がある。このため、冷却ジャケットが大型化及び高コスト化する。
【0048】
これに対して、本実施形態では、上記のように整流板30に工夫を施しているため、前記のように、冷却液供給孔12は、貫通部11に連通しX方向のみに延びていれば足りる。そのため、多数の冷却液供給孔12を設ける必要が無いため、冷却ジャケット10及び焼入装置101の小型化、簡素化、製作コストの低減化を図ることもできる。
【0049】
また、本実施形態では、上述したように、ワーク200は、誘導コイル51及び冷却ジャケット61を自転しながら連続的に通過することにより、誘導コイル51によって加熱され、その直後に冷却ジャケット61によって冷却される例を説明したが、これには限定されない。ワーク200を自転させないで連続的に誘導コイル51及び冷却ジャケット61を通過させてもよい。すなわち、本実施形態に係る冷却ジャケット及び焼入装置は、冷却液の噴射の均一性が高くなるため、ワーク200を自転させなくてもワーク200を円周上の全方向から均一に冷却することができる。また、このようにワーク200を自転させない場合は、当該自転させる機能を焼入装置に導入することが不要になるため、当該焼入装置の簡素化、製作コスト低減化を図ることができる。
【0050】
次に、本実施形態の効果を示す試験例について説明する。
上述の実施形態において説明した整流板30を、実施例に係る整流板として作製した。また、後述の比較例に係る整流板も作製した。そして、これらの整流板を上述の冷却ジャケットに取り付けて、噴射リング20の内面における冷却液の流速分布を測定した。冷却液には室温の水を用いた。測定位置は、Z方向においては、上端側、中央部、下端側の3カ所とし、周方向においては、20度ごとに18カ所とし、合計で54カ所とした。
【0051】
図13は、比較例に係る整流板を示す斜視図である。
図14(a)~(d)は、比較例に係る整流板を用いた場合の冷却液の流速分布を示すグラフであり、半径軸は冷却液の流速(m/秒)を示し、周回軸は角度(度)を示す。図14(a)は上端側の測定結果、(b)は中央部の測定結果、(c)は下端側の測定結果を示し、(d)は平均値を示す。
図15(a)~(d)は、実施例に係る整流板を用いた場合の冷却液の流速分布を示すグラフであり、半径軸は冷却液の流速(m/秒)を示し、周回軸は角度(度)を示す。図15(a)は上端側の測定結果、(b)は中央部の測定結果、(c)は下端側の測定結果を示し、(d)は平均値を示す。
【0052】
図13に示すように、比較例に係る整流板130においては、8個の貫通孔131が形成されている。各貫通孔131の形状は円形である。整流板130の周方向においては、貫通孔131は等間隔で配列されており、Z方向においては、上部と下部に交互に配置されている。
【0053】
図14(a)~(d)に示すように、比較例に係る整流板130を用いた場合は、全体的に、中心軸Cから見て冷却液供給孔12側の領域において冷却液の流速が相対的に低くなり、冷却液供給孔12の反対側の領域において冷却液の流速が相対的に高くなった。また、整流板130の下端側においては、2つの第1領域71の間に流速が突出して高くなる領域が存在した。このため、流速分布は全体的に不均一であった。図14(a)~(c)に示す比較例の測定結果については、流速の平均値が2.69m/秒であり、標準偏差が0.45であった。
【0054】
これに対して、図15(a)~(d)に示すように、実施例に係る整流板30を用いた場合は、中心軸Cから見て冷却液供給孔12側の領域と冷却液供給孔12の反対側の領域における流速の差が小さくなり、流速が突出して高い領域も出現しなかった。このため、比較例と比較して、流速分布が均一化した。図15(a)~(c)に示す実施例の測定結果については、流速の平均値が2.75m/秒であり、標準偏差が0.24であった。
【0055】
前述の実施形態は、本発明を具現化した例であり、本発明はこの実施形態には限定されない。例えば、前述の実施形態において、いくつかの構成要素又は工程を追加、削除又は変更したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10:冷却ジャケット本体
11:貫通部
12:冷却液供給孔
20:噴射リング
21:貫通孔
22:貫通孔21の列
30:整流板
31~39:スリット
40:蓋
50:加熱部
51:誘導コイル
52:配線
60:冷却部
61:冷却ジャケット
62:配管
70:線分
71:第1領域
72:第2領域
73:第3領域
74:第4領域
76:直線
77:点
101:焼入装置
130:整流板
131:貫通孔
200:ワーク
C:中心軸
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