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特許7478698飲食物の温度に基づいたフィードバックを提供する食行動モニタ装置、システム、プログラム及び方法
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  • 特許-飲食物の温度に基づいたフィードバックを提供する食行動モニタ装置、システム、プログラム及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】飲食物の温度に基づいたフィードバックを提供する食行動モニタ装置、システム、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/00 20180101AFI20240425BHJP
【FI】
G16H20/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021048471
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147290
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】若松 大作
【審査官】原 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-181436(JP,A)
【文献】特開2011-183002(JP,A)
【文献】特開2005-328962(JP,A)
【文献】特開2014-211749(JP,A)
【文献】特開2018-128818(JP,A)
【文献】特開2004-252497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得する飲食物温度取得手段と、
当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも種別に係る情報である飲食物内容情報を取得する飲食物内容取得手段と、
当該食事者の過去の食行動に係る情報である食行動関連情報であって、少なくとも当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報を含む食行動関連情報を保存した保存手段から当該食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた食行動情報を生成する食行動情報生成手段と、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報と、当該食行動情報に含まれた当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報とに基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報であって、当該食事者に合わせて調整されたタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成して提供するフィードバック手段と
を有することを特徴とする食行動モニタ装置。
【請求項2】
当該食行動情報は、当該種別の飲食物を摂取した時間に係る情報も含み、
前記フィードバック手段は、当該種別の飲食物を摂取した時間に係る情報にも基づいて、当該フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、当該食事者に合わせて調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の食行動モニタ装置。
【請求項3】
当該食行動情報は、当該食事者の咀嚼を検出可能な予め設置された筋電センサの出力から生成される、当該種別の飲食物を摂取した際の咀嚼行動に係る情報も含み、
前記フィードバック手段は、当該種別の飲食物を摂取した際の咀嚼行動に係る情報にも基づいて、当該フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、当該食事者に合わせて調整する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の食行動モニタ装置。
【請求項4】
当該食行動情報は、当該食事者についての食行動の質指標であって、提供された当該飲食物の適温性に係る指標、提供された当該飲食物を適温であるうちに摂取し終えた度合いに係る指標、当該飲食物が適温であるうちに当該食事を終了した度合いに係る指標、提供された当該飲食物の種別の数に係る指標、及び/又は当該食事者の食事環境の適温性に係る指標を含む食行動の質指標を含んでおり、
前記フィードバック手段は、当該食行動の質指標にも基づいて、当該フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、当該食事者に合わせて調整する
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の食行動モニタ装置。
【請求項5】
食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得する飲食物温度取得手段と、
当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも種別に係る情報である飲食物内容情報を取得する飲食物内容取得手段と、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報に基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成し、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報に基づいて、当該食事者の食事に係る食器に予め搭載された冷却デバイス及び/又は加熱デバイスによる、当該飲食物を冷却及び/又は加熱する動作を制御するための制御情報を生成し、当該制御情報を前記冷却デバイス及び/又は前記加熱デバイスへ送信するフィードバック手段と
を有することを特徴とする食行動モニタ装置。
【請求項6】
前記飲食物温度取得手段は、前記温度測定手段から又は別の温度測定手段から、当該食事者の食事環境の温度に係る情報である環境温度情報も取得し、
前記フィードバック手段は、当該環境温度情報にも基づいて、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の食行動モニタ装置。
【請求項7】
前記温度測定手段は、当該食事者の食事環境に設置されたサーモグラフィ、当該食事者の食事に使用される道具に搭載された温度計、及び/又は、当該食事者の食事に係る食器に搭載された温度計であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の食行動モニタ装置。
【請求項8】
前記フィードバック手段は、選択又は生成した当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報に基づいて、当該飲食物に光を照射可能な予め設置された光照射手段による、当該種別の飲食物への光の照射を制御するための制御情報を生成し、当該制御情報を前記光照射手段へ出力又は送信することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の食行動モニタ装置。
【請求項9】
前記フィードバック手段は、選択又は生成した当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報に基づいて、当該食事者の食事に使用される道具に予め搭載された光源、当該道具に予め搭載されたバイブレータ、当該食事者の食事に係る食器に予め搭載された光源、及び/又は、当該食器に予め搭載されたバイブレータによる、当該食事者への通知動作を制御するための制御情報を生成し、当該制御情報を前記光源及び/又は前記バイブレータへ送信することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の食行動モニタ装置。
【請求項10】
前記認識手段は、当該飲食物を撮影可能な予め設置されたカメラから、当該飲食物を含む画像に係る情報を取得し、当該画像に係る情報に基づいて、当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の食行動モニタ装置。
【請求項11】
前記食行動モニタ装置は、外部の前記カメラから当該画像に係る情報を受け取り可能な、前記認識手段を備えた情報処理装置、前記カメラ及び前記認識手段を備えたタブレット型コンピュータ、前記カメラ及び前記認識手段を備えたスマートフォン、又は前記カメラ及び前記認識手段を備えた拡張現実(AR, Augmented Reality)型スマートグラスであることを特徴とする請求項10に記載の食行動モニタ装置。
【請求項12】
食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段と、
前記温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得する飲食物温度取得手段と、
当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段と、
前記認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも種別に係る情報である飲食物内容情報を取得する飲食物内容取得手段と、
当該食事者の過去の食行動に係る情報である食行動関連情報であって、少なくとも当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報を含む食行動関連情報を保存した保存手段から当該食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた食行動情報を生成する食行動情報生成手段と、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報と、当該食行動情報に含まれた当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報とに基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報であって、当該食事者に合わせて調整されたタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成して提供するフィードバック手段と
を有することを特徴とする食行動モニタシステム。
【請求項13】
食事者の食行動をモニタするコンピュータを機能させるプログラムであって、
食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得する飲食物温度取得手段と、
当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも種別に係る情報である飲食物内容情報を取得する飲食物内容取得手段と、
当該食事者の過去の食行動に係る情報である食行動関連情報であって、少なくとも当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報を含む食行動関連情報を保存した保存手段から当該食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた食行動情報を生成する食行動情報生成手段と、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報と、当該食行動情報に含まれた当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報とに基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報であって、当該食事者に合わせて調整されたタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成して提供するフィードバック手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする食行動モニタプログラム。
【請求項14】
食事者の食行動をモニタするコンピュータにおける食行動モニタ方法であって、
食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得し、また、当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも種別に係る情報である飲食物内容情報を取得し、また、当該食事者の過去の食行動に係る情報である食行動関連情報であって、少なくとも当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報を含む食行動関連情報を保存した保存手段から当該食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた食行動情報を生成するステップと、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報と、当該食行動情報に含まれた当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報とに基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報であって、当該食事者に合わせて調整されたタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成して提供するステップと
を有することを特徴とする食行動モニタ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食行動に係る情報、特に摂取する飲食物に係る情報を収集し解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者の増加や健康志向の高まりによって、日頃の食行動を見直し、食生活を改善する取り組みが盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ユーザが自らの食生活を確認することを可能にする食生活管理装置が開示されている。この食生活管理装置は、箸置き上に箸が置かれたことを検知する箸検知部を有する食生活情報発信部と、咀嚼回数計測装置に設置され咀嚼情報検知部を有する別の食生活情報発信部と、これらの食生活情報発信部から食生活情報を収集して処理する制御手段を有する食生活情報処理部とを備えている。
【0004】
また、特許文献2にも、ユーザが自らの食生活を確認することを可能にする食生活管理プログラムが開示されている。この食生活管理プログラムは、カメラ部に画像データを取得させるステップと、取得された画像データから、飲食用具の画像を画像認識処理によって認識するステップと、認識された飲食用具の画像から、ユーザの食生活に関する情報である食生活情報を検知するステップと、検知された食生活情報を収集して処理するステップとを有する食生活管理処理を、カメラ部を備えるコンピュータである情報通信端末に実行させるものとなっている。
【0005】
さらに、特許文献3には、箸がどのように動作しているかを判定できる箸動作特徴判定装置が開示されている。具体的にこの装置は、固定箸加速度と作用箸加速度とから相対加速度を算出し、相対加速度の軸方向毎の違いを示す相対加速度パターンに基づき、相対加速度が算出された際の固定箸と作用箸とが予め定めた複数の動作特徴の中のどの動作特徴で動作しているかを判定する箸動作特徴判定部を備えており、これにより、箸の加速度から摂食行動を計測することができ、さらに箸の持ち方矯正も可能となるとしている。
【0006】
また、特許文献4には、食事をする際に一定の咀嚼時間を保持することが可能となる、タイマを備えた咀嚼増進用食器が開示されている。具体的には、咀嚼増進用食器としての箸において、食事を口に運ぶ際、箸等が所定の傾きとなったのを契機としてタイマを起動させ、タイマが起動している間、箸上の表示部に咀嚼を継続する意味の表示をして、ユーザに咀嚼時間を保持することを促すものとなっている。
【0007】
さらに、特許文献5には、ユーザの健康状態に従って、主に薬との食べ合わせの関係で、飲食が禁止されているデータベースから、ユーザがまさに飲食物を口に運ぼうとしている様子を画像認識技術で検出し、禁止飲食物を飲食しようとする際に報知を行う飲食物摂取管理方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、複数の食事を同時に且つ個別に機械調理する際、食事被提供者各人に提供される個々の食事の食中毒リスクを低減させる調理支援方法が開示されている。この調理支援方法は具体的に、一の配膳トレイを選択し、この一の配膳トレイ上の各食器表面の温度である食器目標温度を測定すると共に、各食器内の食材の中心温度を測定するステップと、各食器内の食材の中心温度が、調理の際の満たすべき温度条件である食物目標温度条件を満たしていることを確認するステップと、他の配膳トレイ上の各食器の表面温度を測定するステップと、他の配膳トレイ上の各食器の表面温度が、一の配膳トレイ上で同じ位置に載置される食器に関する食器目標温度に基づく所定の条件を満たす場合、表面温度を測定した食器内の食材が食物目標温度条件を満たしていると判定するステップとを有するものとなっている。
【0009】
さらに、特許文献7には、飲食店において顧客が料理を最適な温度で飲食することを可能にする情報処理装置が開示されている。この装置は具体的に、飲食店において客に提供される飲食物の温度を検出可能な温度センサを識別するセンサ識別情報を、当該飲食物が提供された客のテーブルまたは席を識別する客識別情報と対応付けて記憶する記憶手段と、上記飲食店に設けられた店舗端末、または上記テーブルまたは席に設けられたテーブル端末と通信可能であり、かつ上記温度センサの出力値を上記センサ識別情報と共に受信可能である通信手段と、上記受信された出力値の変化に基づいて、当該出力値と共に受信されたセンサ識別情報が示す温度センサに対応する飲食物の飲食を促す飲食促進通知を、当該飲食物の温度が飲食に適しない温度に変化する前に、上記店舗端末へ送信する制御手段とを備えている。
【0010】
さらにまた、特許文献8には、飲食店において人件費を低減しながら、個々の顧客の食事の進行度合いに適合するように、次の料理又は飲料を配膳することを可能にする料理又は飲料提供方法が開示されている。具体的にこの方法においては、飲食店において食卓の上に存在する料理又は飲料を撮像するための撮像ステップと、撮像手段が撮像した映像情報を、店舗側から顧客側にサービスの追加要求の有無を問い合わせるためのタイミングを決定するために使用されるべき情報として、店舗側に提供するための映像情報提供ステップと含んでいる。
【0011】
また、この料理又は飲料提供方法の一実施形態として、適温で料理を提供するタイミングを支援するため、赤外線カメラを用いて食卓の皿の温度を計測し、皿の温度が室温と同じになったら食べる意思がないと判断しウェイター等に次の皿を提供するようタイミングを支援する手法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2014-097223号公報
【文献】特開2015-146168号公報
【文献】特開2015-225277号公報
【文献】特開2000-270993号公報
【文献】特開2018-181385号公報
【文献】特開2020-010835号公報
【文献】特開2018-128818号公報
【文献】特開2004-252497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上説明したように従来、食行動を監視し、そこで得た情報に基づいて、好適な食事を実現したり食事者の健康増進を図ったりするための様々な技術が提案されてきた。しかしながら、これらの従来技術では依然、提供された飲食物の実際の内容、特に温度を適切に把握し、食事者のための的確なフィードバックを行うことまでには至っていないのが実情である。
【0014】
例えば、特許文献1や特許文献2に開示された技術では、どのような飲食物を、どのぐらいの時間をかけ、何回噛んで摂取しているかについての情報を得ることはできるが、飲食物の温度に関する情報は取得することができない。この点、特許文献3や特許文献4に開示された技術においても同様であり、食事中の箸の動きから様々な情報、例えばフィードバックするタイミング等、を収集することは可能となっているが、そもそも飲食物の温度に関する情報の取得は想定されていない。
【0015】
またさらに、特許文献5に開示された技術においても、画像認識技術を用いて飲食物の種別を識別し、主に薬との食べ合わせに関する情報を報知することはできるが、やはり、飲食物の温度に関する情報を取得することはできないのである。
【0016】
一方たしかに、特許文献6に開示された技術では、熱画像カメラを用いて飲食物の温度情報を取得し、食中毒発生リスクを軽減するための情報を生成することが可能となっている。しかしながら、提供された飲食物の温度以外の内容、例えばその種別を認識することはできず、飲食物の内容、例えば種別に合った温度管理を行うことは想定されていない。実際この技術では、食物目標温度条件にしても所与のものを使用して処理を行っているのである。
【0017】
この点、特許文献7に開示された技術においても同様であって、飲食店において客に提供される飲食物の温度を検出可能にはしているが、提供された飲食物の温度以外の内容、例えばその種別を認識することはなく、したがって、例えばメニューを考慮した飲食促進通知を行う際には、予め設定されたメニュー情報データベースの情報を必要とするのである。
【0018】
またさらに、特許文献8に開示された技術においても、飲食店において客に提供される飲食物の温度を検出可能にはしているが、提供された飲食物の温度以外の内容、例えばその種別を認識すること何ら行われていない。またそれ故、例えば次の料理又は飲料についての調理、配膳の準備、又は配膳の動作を自動的に実施する場合でも、料理データベースや各食卓別注文内容記録部からの情報を用いる必要があった。
【0019】
ちなみに実際の食事においては、提供される各種の飲食物の温度には通常、その種別に合った適温範囲が存在する。例えば、その温度が適温範囲にある温かい飲食物を摂取することは、美味しい好適な食事を実現するのみならず、食事者の健康増進にも貢献するものとなる。すなわち、冷えた身体を温めて代謝や免疫力を向上させる効果も大いに期待されるのである。しかしながら、特許文献6~8に記載されたような従来技術においては、まさに提供された飲食物の内容、例えば種別に応じた適温範囲を考慮したフィードバックを行うことは、その内容についての知識を予め確保していない限り、不可能となっているのである。
【0020】
そこで、本発明は、提供された飲食物の温度をその内容に応じて把握し、食事者のためのより的確なフィードバックを行うことを可能にする食行動モニタ装置、システム、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によれば、食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得する飲食物温度取得手段と、
当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも別に係る情報である飲食物内容情報を取得する飲食物内容取得手段と、
当該食事者の過去の食行動に係る情報である食行動関連情報であって、少なくとも当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報を含む食行動関連情報を保存した保存手段から当該食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた食行動情報を生成する食行動情報生成手段と、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報と、当該食行動情報に含まれた当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報とに基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報であって、当該食事者に合わせて調整されたタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成して提供するフィードバック手段と
を有する食行動モニタ装置が提供される。
本発明によれば、また、食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得する飲食物温度取得手段と、
当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも種別に係る情報である飲食物内容情報を取得する飲食物内容取得手段と、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報に基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成し、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報に基づいて、当該食事者の食事に係る食器に予め搭載された冷却デバイス及び/又は加熱デバイスによる、当該飲食物を冷却及び/又は加熱する動作を制御するための制御情報を生成し、当該制御情報を前記冷却デバイス及び/又は前記加熱デバイスへ送信するフィードバック手段と
を有する食行動モニタ装置が提供される。
【0023】
また、本発明の一実施形態として、飲食物温度取得手段は、温度測定手段から又は別の温度測定手段から、当該食事者の食事環境の温度に係る情報である環境温度情報も取得し、
フィードバック手段は、当該環境温度情報にも基づいて、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測することも好ましい。
【0025】
また、食行動情報を生成する本発明の実施形態として、当該食行動情報は、当該種別の飲食物を摂取した時間に係る情報も含み、
フィードバック手段は、当該種別の飲食物を摂取した時間に係る情報にも基づいて、当該フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、当該食事者に合わせて調整することも好ましい。
【0026】
さらに、食行動情報を生成する本発明の他の実施形態として、当該食行動情報は、当該食事者の咀嚼を検出可能な予め設置された筋電センサの出力から生成される、当該種別の飲食物を摂取した際の咀嚼行動に係る情報も含み、
フィードバック手段は、当該種別の飲食物を摂取した際の咀嚼行動に係る情報にも基づいて、当該フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、当該食事者に合わせて調整することも好ましい。
【0027】
さらにまた、食行動情報を生成する本発明の更なる他の実施形態として、当該食行動情報は、当該食事者についての食行動の質指標であって、提供された当該飲食物の適温性に係る指標、提供された当該飲食物を適温であるうちに摂取し終えた度合いに係る指標、当該飲食物が適温であるうちに当該食事を終了した度合いに係る指標、提供された当該飲食物の種別の数に係る指標、及び/又は当該食事者の食事環境の適温性に係る指標を含む食行動の質指標を含んでおり、
フィードバック手段は、当該食行動の質指標にも基づいて、当該フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、当該食事者に合わせて調整することも好ましい。
【0028】
また、本発明による食行動モニタ装置において、温度測定手段は、当該食事者の食事環境に設置されたサーモグラフィ、当該食事者の食事に使用される道具に搭載された温度計、及び/又は、当該食事者の食事に係る食器に搭載された温度計であることも好ましい。
【0029】
さらに、本発明の更なる他の実施形態として、フィードバック手段は、選択又は生成した当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報に基づいて、当該飲食物に光を照射可能な予め設置された光照射手段による、当該種別の飲食物への光の照射を制御するための制御情報を生成し、当該制御情報を光照射手段へ出力又は送信することも好ましい。
【0030】
さらにまた、本発明の更なる他の実施形態として、フィードバック手段は、選択又は生成した当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報に基づいて、当該食事者の食事に使用される道具に予め搭載された光源、当該道具に予め搭載されたバイブレータ、当該食事者の食事に係る食器に予め搭載された光源、及び/又は、当該食器に予め搭載されたバイブレータによる、当該食事者への通知動作を制御するための制御情報を生成し、当該制御情報を光源及び/又はバイブレータへ送信することも好ましい。
【0032】
さらに、本発明による食行動モニタ装置において、認識手段は、当該飲食物を撮影可能な予め設置されたカメラから、当該飲食物を含む画像に係る情報を取得し、当該画像に係る情報に基づいて、当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識することも好ましい。またここで、本食行動モニタ装置は、外部に設置された上記のようなカメラから当該画像に係る情報を受け取り可能な、認識手段を備えた情報処理装置、このようなカメラ及び認識手段を備えたタブレット型コンピュータ、このようなカメラ及び認識手段を備えたスマートフォン、又はこのようなカメラ及び認識手段を備えた拡張現実(AR, Augmented Reality)型スマートグラスであることも好ましい。
【0033】
本発明によれば、また、食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段と、
温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得する飲食物温度取得手段と、
当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段と、
認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも別に係る情報である飲食物内容情報を取得する飲食物内容取得手段と、
当該食事者の過去の食行動に係る情報である食行動関連情報であって、少なくとも当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報を含む食行動関連情報を保存した保存手段から当該食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた食行動情報を生成する食行動情報生成手段と、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報と、当該食行動情報に含まれた当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報とに基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報であって、当該食事者に合わせて調整されたタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成して提供するフィードバック手段と
を有する食行動モニタシステムが提供される。
【0034】
本発明によれば、さらに、食事者の食行動をモニタするコンピュータを機能させるプログラムであって、
食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得する飲食物温度取得手段と、
当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも別に係る情報である飲食物内容情報を取得する飲食物内容取得手段と、
当該食事者の過去の食行動に係る情報である食行動関連情報であって、少なくとも当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報を含む食行動関連情報を保存した保存手段から当該食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた食行動情報を生成する食行動情報生成手段と、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報と、当該食行動情報に含まれた当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報とに基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報であって、当該食事者に合わせて調整されたタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成して提供するフィードバック手段と
してコンピュータを機能させる食行動モニタプログラムが提供される。
【0035】
本発明によれば、さらにまた、食事者の食行動をモニタするコンピュータにおける食行動モニタ方法であって、
食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段から、当該飲食物の温度に係る情報である飲食物温度情報を取得し、また、当該飲食物の種別及び量のうち少なくとも種別を認識可能な認識手段から、当該食事者における当該飲食物の少なくとも別に係る情報である飲食物内容情報を取得し、また、当該食事者の過去の食行動に係る情報である食行動関連情報であって、少なくとも当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報を含む食行動関連情報を保存した保存手段から当該食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた食行動情報を生成するステップと、
予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、当該飲食物温度情報と、少なくとも種別に係る当該飲食物内容情報とに基づき、当該種別の飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報と、当該食行動情報に含まれた当該種別の飲食物の摂取した際の温度に係る情報とに基づいて、当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報であって、当該食事者に合わせて調整されたタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成して提供するステップと
を有する食行動モニタ方法が提供される。
【発明の効果】
【0036】
本発明の食行動モニタ装置、システム、プログラム及び方法によれば、提供された飲食物の温度をその内容に応じて把握し、食事者のためのより的確なフィードバックを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明による食行動モニタ装置を含む食行動モニタシステムの一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明に係る飲食物温度予測部における温度予測処理結果の一例を説明するためのグラフである。
図3】本発明に係る飲食物適温データベース(DB)における内容の一態様を説明するためのテーブルである。
図4】本発明に係る飲食物食べ合わせDBにおける内容の一態様を説明するためのテーブルである。
図5】本発明に係るQoF指標の算出を含む食行動モニタ方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下では、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0039】
[食行動モニタシステム,装置]
図1は、本発明による食行動モニタ装置を含む食行動モニタシステムの一実施形態を示す模式図である。
【0040】
図1に示した本実施形態の食行動モニタシステムは、
(ア)食卓上に配膳された飲食物を撮影し、当該飲食物を含む画像(映像)情報を生成可能な可視光カメラ2と、
(イ)食卓上に配膳された飲食物を撮影し、当該飲食物を含む赤外線画像(映像)情報を生成可能なサーモグラフィカメラ3と、
(ウ)食卓上に配膳された飲食物の位置のうちで指定された位置に(飲食物を指定するスポットライト状の画像(映像)を含む)フィードバック情報を投影可能なプロジェクタ4と、
(エ)食べ物を挟む先の部分とその反対側の端部とに温度計を備えており、さらに通知用のバイブレータ及び点灯ランプが内蔵された通知機能付箸5と、
(オ)食事者の咀嚼運動を測定可能な、当該食事者の頭部に装着される筋電測定装置6と、
(カ)可視光カメラ2、サーモグラフィカメラ3、通知機能付箸5、及び筋電測定装置6からの情報を、例えばBluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)等の近距離無線通信によって又は有線通信で取得し、当該食事者の食行動に係る「フィードック情報」を提供することの可能な食行動モニタ装置1と
を有している。
【0041】
ここで本実施形態において、食行動モニタ装置1は、上記(ア)の可視光カメラ2から取得した画像情報を公知の画像認識技術によって解析し、食卓上に配膳された各飲食物の種別及び量の一方又は両方(本実施形態では少なくとも種別)を認識可能な飲食物認識部112を有している。
【0042】
また本実施形態において、食行動モニタ装置1は、上記(イ)のサーモグラフィカメラ3から取得した赤外線画像情報を公知のサーモグラフィ解析技術によって解析し、食卓上に配膳された各飲食物の温度、及びその周囲の環境温度に係る情報を生成可能な飲食物・環境温度取得部111も有している。なお本実施形態においては、この飲食物・環境温度取得部111は、上記(エ)の通知機能付箸5から、各飲食物の温度、及びその周囲の環境温度に係る情報に係る情報を取得することもできる。
【0043】
さらに本実施形態において、食行動モニタ装置1は、上記(カ)の「フィードック情報」を、ディスプレイ(DP)107での表示や、スピーカ109からの音声として、また(近距離無線通信又は有線通信を介し)プロジェクタ4に対し所定の飲食物にフィードバック情報を投影させることによって、さらには、通知機能付箸5に対しバイブレータや点灯ランプを駆動させることによって、提供することができる。
【0044】
この「フィードバック情報」の提供を実現すべく具体的に、食行動モニタ装置1は、その特徴として、
(A)食事者の食事に係る飲食物の温度を測定可能な温度測定手段(本実施形態ではサーモグラフィカメラ3や通知機能付箸5)から、当該飲食物の温度に係る情報である「飲食物温度情報」を取得する上記の飲食物温度取得部111と、
(B)上記の飲食物認識部112から、当該飲食物の種別及び量の一方又は両方(本実施形態では少なくとも種別)に係る情報である「飲食物内容情報」を取得する飲食物内容取得部113と、
(C)予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの基準又はモデルを用いて、「飲食物温度情報」と「飲食物内容情報」とに基づき、当該食事者の食行動に係る「フィードバック情報」を選択又は生成して提供するフィードバック部115と
を有しているのである。
【0045】
このように、食行動モニタ装置1は、飲食物についての「飲食物温度情報」を、それ単独ではなく当該飲食物についての「飲食物内容情報」と合せて取得することができるので、両者を考慮した「フィードバック情報」を選択又は生成することが可能となる。言い換えれば、提供された飲食物の温度をその内容に応じて把握し、食事者のためのより的確なフィードバックを行うことができるのである。
【0046】
例えば、食行動モニタ装置1は、配膳されたスープを含む各飲食物の種別及び温度を把握して、健康のため又は好適な食事のために、その温度が適温範囲にある温かいスープを最初に摂取すべき旨の「フィードバック情報」を生成し、プロジェクタ4に対し当該スープへスポットライト状の画像(映像)をフィードバック情報として投影させた上で、ディスプレイ107に「最初にスープをどうぞ」とのメッセージを表示し、さらに、スピーカ109から「最初にスープをどうぞ」との音声を出力することができるのである。
【0047】
ここで、上記(B)の「飲食物内容情報」における飲食物の「種別」とは、例えば味噌汁やステーキといったような料理名(献立名)であってもよく、または、麺類や汁物といったようなジャンルとすることもできる。例えば、飲食物認識部112において料理名(献立名)への同定が困難な飲食物にはジャンルを用いてもよい。さらに、飲食物の「量」は、各飲食物における量であってもよいが、その代わりに又はそれとともに、飲食物の数、例えば皿数や料理品数とすることも可能である。
【0048】
また、食行動モニタ装置1は、本実施形態において、上記(オ)の筋電測定装置6から取得された食行動関連情報としての筋電信号情報も用いて、QoF(Quality of Feeding behavior, 食行動の質)指標を含む「食行動情報」を生成することも可能となっている。ここで、QoF指標は、後に詳細に説明するが、本願発明者によって考案された指標であって、摂取される飲食物のまさに温度も考慮して食行動の質を評価するための指標となっている。
【0049】
なお、食行動モニタ装置1は本実施形態において、食卓上に適宜、設置することの容易なタブレット型コンピュータとなっており、例えば、このタブレットに標準搭載されたカメラを、可視光カメラ2の代わりに又は可視光カメラ2と合せて使用して、画像情報を取得してもよい。
【0050】
また変更態様として、飲食物認識部112は、可視光カメラ2内や、又は可視光カメラ2が接続された外部の情報処理装置内に設けられていて、食行動モニタ装置1は、ここから「飲食物内容情報」を受信して取得するものであってもよい。
【0051】
さらに変更態様として、食行動モニタ装置1は、(食事中の飲食物を撮影可能な)カメラと飲食物認識部112とを備えた拡張現実(AR, Augmented Reality)型スマートグラスとすることもできる。この場合、眼前に配されたディスプレイに「フィードバック情報」を、食卓上の飲食物にマッピングさせて表示してもよい。また、このAR型スマートグラスに、筋電測定装置6の機能を持たせることも可能である。これにより、食事者は、このAR型スマートグラスを装着するだけで「食行動情報」の元となる情報を提供することができ、これにより、より的確な「フィードバック情報」を享受することも可能となるのである。
【0052】
さらに、本食行動モニタシステムは、本実施形態において上記構成(ア)~(カ)を有するが、当然にその全てを必須とするものではなく、少なくとも飲食物の温度を測定可能な温度測定手段と、当該飲食物の種別及び/又は量を認識可能な認識手段とを有していればよい。なお勿論、この認識手段が当該飲食物を含む画像情報を必要とするならば、当該飲食物を撮影可能なカメラも必要となる。
【0053】
ここで、食事における飲食物の温度の重要性について、一般的な知見を述べる。医食同源と言われるように、好適な食事は健康の維持・増進に欠かせないものである。この好適な食事の基本として、温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに食べるのがよいとされている。
【0054】
また、ヒトの味覚においては、摂取する飲食物の温度が低いほど、甘味と旨味は感じられ難くなるのに対し、苦味と塩味は感じられ易くなる傾向にあると言われている。したがって、これらの味覚のバランスとして食べ物を美味しいと感じる適温範囲というものも存在し、一般に、温かいものは60~70℃、冷たいものは5~12℃が適温範囲とされている。
【0055】
さらに、温かいスープやシチュー、熱々のラーメンや豚まん、さらには、冷たい冷奴、冷えたジュースやビール等のように、所定の適温で摂取することが、美味しさを感じるための必須条件となっているものも少なくない。以上説明したように、食事の際の飲食物の温度はまさに、美味しいと感じることができ且つ健康にもよい食事を実現するためにモニタすべき重要なパラメータとなっているのである。
【0056】
[装置構成,食行動モニタプログラム]
同じく図1の機能ブロック図において、本発明による食行動モニタ装置1は、通信インタフェース101と、飲食物温度情報保存部102と、飲食物画像情報保存部103と、食行動関連情報保存部104と、飲食物適温データベース(DB)105と、飲食物食べ合わせDB106と、タッチパネル・ディスプレイ(TP・DP)107と、マイク108と、スピーカ109と、プロセッサ・メモリとを有する。
【0057】
ここで、このプロセッサ・メモリは、本発明による食行動モニタプログラムの一実施形態を保存しており、また、コンピュータ機能を有していて、この食行動モニタプログラムを実行することによって、食行動モニタ処理を実施する。このことから、本発明による食行動モニタ装置は、本実施形態のようにタブレット型コンピュータであってもよいが、本発明による食行動モニタプログラムを搭載した、例えばクラウドサーバ、非クラウドサーバ、パーソナルコンピュータ(PC)、スマートフォンや、ノート型コンピュータ、さらには拡張現実(AR, Augmented Reality)型スマートグラスといったようなウェアラブル装置とすることも可能であり、また勿論、食行動モニタ専用装置であってもよい。
【0058】
さらに、プロセッサ・メモリは、飲食物・環境温度取得部111と、飲食物認識部112と、飲食物内容取得部113と、QoF(食行動の質, Quality of Feeding behavior)算出部114aを含む食行動情報生成部114と、飲食物温度予測部115a、通知手段制御情報生成部115b、及び飲食物温度制御情報生成部115cを含むフィードバック部115と、通信制御部121と、入出力制御部122とを有する。なお、これらの機能構成部は、プロセッサ・メモリに保存された食行動モニタプログラムの機能として捉えることができる。また、図1の機能ブロック図における食行動モニタ装置1の機能構成部間を矢印で接続して示した処理の流れは、本発明による食行動モニタ方法の一実施形態としても理解される。
【0059】
同じく図1の機能ブロック図において、飲食物・環境温度取得部111は、サーモグラフィカメラ3、及び通知機能付箸5のいずれか一方又は両方から、飲食物温度情報を取得し、さらに食事者の食事環境の温度に係る情報である環境温度情報も取得する。また、例えば食事者の食事に係る食器に搭載された温度計や室内温度計等から飲食物温度情報や環境温度情報を取得してもよい。いずれにしても、このような温度測定手段から通信インタフェース101及び通信制御部121を介して取集された飲食物の温度に係る情報や食事環境の温度に係る情報は、例えば一先ず飲食物温度情報保存部102に保存され、飲食物・環境温度取得部111は適宜、これらの情報を受け取って、飲食物温度情報や環境温度情報として調整・管理することも好ましい。
【0060】
ここで、サーモグラフィカメラ3は、例えば1秒毎の画角内の赤外線画像における各画素の温度を、時系列温度情報として出力可能となっている。飲食物・環境温度取得部111は、飲食物温度情報保存部102から当該時系列温度情報を受け取り、公知のサーモグラフィ解析技術によって、
(a)周囲の画素の温度よりも所定以上に高い(又は低い)温度の画素の塊を1つの飲食物とみなして、1つの飲食物とみなされた画素群における最高の(又は最低の)温度を当該飲食物の温度とし、さらにこの温度と当該飲食物の識別子と時刻とを紐づけた情報を当該飲食物の飲食物温度情報とし、
(b)飲食物とみなされた画素群の周囲の画素の温度(例えば食卓表面の温度)を環境温度とし、この環境温度と時刻とを紐づけた情報を環境温度情報とする
ことができる。
【0061】
なお、飲食物・環境温度取得部111は、上記情報に合わせて例えば、
(c)1つの飲食物とみなされた画素群の群数を飲食物種別数(例えば料理品数・皿数)とし、
(d)1つの飲食物を構成する画素の数を、当該飲食物の量(例えば皿に盛られた量)とする
こともできるが、これらの情報は、飲食物内容情報として後述する飲食物内容取得部113に提供されてもよい。
【0062】
また、飲食物・環境温度取得部111は、
(e)通知機能付箸5における飲食物を挟む先の部分の温度計から取得された温度のうち極大又は極小をなす温度(環境温度から最大に変化した温度)に係る情報を、当該飲食物の温度として、この温度と(ピーク又は谷の)順番や時刻に係る識別子とを紐づけた情報を、(通知機能付箸5を使って摂取しようとしている)飲食物の飲食物温度情報とし、
(f)通知機能付箸5における食べ物を挟む先とは反対側の端部の温度計から取得された温度(例えば気温に相当する温度)を環境温度として、この環境温度と時刻とを紐づけた情報を環境温度情報とする
ことも好ましい。例えば、飲食物温度情報及び環境温度情報を合わせた1つの摂取イベント情報として(摂取時刻,(摂取順位識別子,),飲食物識別子,飲食物温度,環境温度)を生成してもよい。また、通知機能付箸5から取得される温度に係る時系列情報における、極大又は極小をなす1つのピーク又は谷をもって、そこで食事者の1口の摂取行動が発生したと認識することも可能である。
【0063】
さらに、通知機能付箸5を用いた飲食物温度情報取得の好適な態様として、例えば食行動モニタ装置1のディスプレイ107に、(後述する飲食物認識部112で認識された)各飲食物を順次指定して示し、これを見た食事者が、食事の前に、指定された飲食物を順次、通知機能付箸5で触れていくことにより、各飲食物の(摂取当初の)温度を測定することも好ましい。またこの際、明らかに常温の飲食物については、温度測定をスキップする設定となっていてもよい。
【0064】
なお、通知機能付箸5から取得された飲食物温度情報(又は環境温度情報)と、サーモグラフィカメラ3から取得された飲食物温度情報(又は環境温度情報)との間で、例えば重み付き平均をとって、最終的な飲食物温度情報(又は環境温度情報)を決定してもよい。またこの場合、平均をとるべき飲食物の対応関係は、例えば後述する可視光カメラ2からの画像(映像)情報の解析結果(例えば、摂取の順番や摂取時刻等)を用いて決定してもよい。
【0065】
さらに、通知機能付箸5に搭載される温度計は、温度応答の良好な小型温度センサであることも好ましい。また、温度応答を向上させるため、通知機能付箸5の本体は、例えば一般的に熱伝導率が高い金属の中でもチタンやステンレス等の熱伝導率が比較的低い材料で作られていて、温度計には飲食物の熱が伝わりやすいが、温度計(飲食物)と箸5の把持部分との間では熱伝導が制限されるようにしてもよい。さらに、温度計を搭載した食事のための道具として、箸5の代わりに又は箸5と合せて、スプーンやフォーク等を採用することも可能である。例えば、温度計を搭載したスプーンにおいて、公知の小型歪みセンサも内蔵させ、摂取しようとしている飲食物の重量を計測してもよい。この計測された飲食物の重量は、当該飲食物の飲食物内容情報に含まれることとなる。
【0066】
同じく図1の機能ブロック図において、飲食物認識部112は、可視光カメラ2から、通信インタフェース101及び通信制御部121を介し一先ず飲食物画像情報保存部103に保存された、飲食物を含む画像(映像)情報を取得し、当該画像情報に基づき、公知の画像認識技術によって(例えば学習済みの飲食物種別識別モデルを用いて)、食卓上に配膳された各飲食物の種別及び量の一方又は両方(本実施形態では少なくとも種別)を認識する。ここで勿論、配膳された飲食物の種別数(料理品数や皿数)を認識することもできるのである。
【0067】
ここで、飲食物認識部112は、食卓上に設置された食行動モニタ装置1に搭載されたカメラで生成された、飲食物を含む画像(映像)情報を取得して、各飲食物の種別(例えば料理名)及び量(例えば料理品数・皿数や各皿に盛られた量)の一方又は両方(本実施形態では少なくとも種別)を認識してもよい。
【0068】
また、飲食物認識部112は、取得した画像情報と、サーモグラフィカメラ3から取得された赤外線画像情報とを対比し、両者の対応する画素の位置に基づいて、赤外線画像情報から決定された飲食物(とその温度)に相当する飲食物を画像情報上で特定し、飲食物温度情報と共通する飲食物の識別子を、認識された飲食物(の種別)に付与することも好ましい。
【0069】
飲食物内容取得部113は、この飲食物認識部112から、識別子の付された各飲食物における種別(例えば料理名)及び量(例えば料理品数・皿数や各皿に盛られた量)の一方又は両方(本実施形態では少なくとも種別)に係る情報を、飲食物内容情報として取得する。なお、飲食物認識部112は、各飲食物の種別のみならず(例えば予め用意された栄養成分データベースを用いて)各飲食物の栄養成分も決定し、飲食物内容取得部113は、各飲食物の栄養成分情報も含む飲食物内容情報を取得してもよい。
【0070】
同じく図1の機能ブロック図において、食行動関連情報保存部104は、飲食物・環境温度取得部111から飲食物温度情報を受け取り、また、飲食物内容取得部113から飲食物内容情報を受け取り、さらに、筋電測定装置6から通信インタフェース101及び通信制御部121を介し筋電信号情報(例えば、前処理済みの筋電信号に測定時刻を紐づけた情報)を受け取って、これらの情報を、食事者の過去の食行動に係る情報である(少なくとも飲食物温度情報を含む)飲食物関連情報として保存する。
【0071】
食行動情報生成部114は、この食行動関連情報保存部104から、食行動関連情報を受け取り、当該食行動関連情報を取りまとめた「食行動情報」を生成する。具体的に、この「食行動情報」は例えば、各食事者における食事毎の食行動の内容を整理して記録した食行動ログとすることができる。また、この食行動の内容としては、
(a)食事の環境温度、
(b)各飲食物を摂取した時刻、摂取した飲食物の順番、食事時間(食事開始時刻及び食事終了時刻)や、さらには総咀嚼回数、咀嚼ペースや、総口数、及び
(c)摂取した各飲食物における種別(料理名)、温度、摂取量や、1口摂取の時間、咀嚼回数
が記録されていることも好ましい。
【0072】
ここで、上記(b)及び(c)の咀嚼に係る情報は、取得された筋電信号情報から、本願発明者による発明である、例えば特開2020-192002号公報、特開2019-115410号公報、特開2019-107067号公報、及び特開2018-139630号公報に記載された生体信号処理方法によって、又はその他の公知の咀嚼計測方法によって決定されてもよい。また、長期間にわたる食行動ログである食行動情報から、例えば、食事者において飲食物を好んで摂取する温度範囲や、摂取する飲食物の温度と環境温度との関係、といったような情報も知得することが可能となる。
【0073】
また本実施形態において、食行動情報生成部114のQoF算出部114aは、上記のような飲食物情報から、食行動情報に含まれる情報としての「QoF(Quality of Feeding behavior, 食行動の質)指標」を生成することも好ましい。このQoF指標は、本願発明者によって考案された指標であって、摂取される飲食物のまさに温度も考慮して食行動の質を評価するための指標となっている。このQoF指標の算出については、後に図5を用いて詳細に説明を行う。
【0074】
<フィードバック手段>
同じく図1の機能ブロック図において、フィードバック部115は、予め設定された、飲食物の温度及び内容に基づくフィードバックの「基準」又は「モデル」を用いて、
(a)飲食物・環境温度取得部111から取り込んだ飲食物温度情報と、
(b)飲食物内容取得部113から取り込んだ飲食物内容情報と
に基づき、食事者の食行動に係るフィードバック情報を選択又は生成して提供する。
【0075】
ここで、提供されるフィードバック情報は、予め各種のフィードバック情報を格納したフィードバックデータベースから検索によって選択したものであってもよい。この場合、このフィードバックデータベースは、飲食物の温度及び内容に係る項目毎に整理されたフィードバック情報データを格納しており、飲食物の温度及び内容に係る検索キーによって、対応するフィードバック情報データを出力可能なフィードバック提供「モデル」と捉えることができる。
【0076】
また、提供されるフィードバック情報は、飲食物の温度及び内容に係る項目毎に整理されている各種のフィードバック情報テンプレートを、読み出しの「基準」としての飲食物の温度及び内容に係る情報に基づいて読み出し、このテンプレートにフィードバックに係る該当情報を当てはめて生成したものであってもよい。さらに、提供されるフィードバック情報は、飲食物の温度及び内容から、提供すべきフィードバック情報の識別子を出力する学習済みの機械学習「モデル」を用いて、決定されたものであってもよい。
【0077】
また本実施形態において、飲食物温度情報において自らの温度が付与されている各飲食物と、飲食物内容情報において自らの種別や量が付与されている各飲食物とは、上述したように共通の識別子が付与されている。したがって、フィードバック部115は、飲食物温度情報及び飲食物内容情報から、配膳された各飲食物における種別(例えば料理名)、温度、及び量を把握することができるのである。
【0078】
(予測温度情報を用いたフィードバック)
好適なフィードバック処理の1つとして、フィードバック部115は、飲食物毎(飲食物の種別毎)に、将来の温度に係る情報を予測し、予測した当該将来の温度に係る情報である予測温度情報に基づいて、当該飲食物(の種別)を摂取すべきタイミング、時間及び順番のうちの少なくとも1つに係る情報を含むフィードバック情報を選択又は生成してもよい。ここで、この予測の際、飲食物温度情報に含まれた環境温度情報にも基づいて、飲食物の将来の温度に係る情報を予測し、予測温度情報を生成することも好ましい。以下、フィードバック部115の飲食物温度予測部115aにおいて実施される予測温度情報の生成処理の一態様について説明を行う。
【0079】
一般に、当初温度T0であった飲食物が、環境温度Teの下で、t秒経過後にとる温度T(t)は、次式
(1) T(t)=(T0-Te)×exp(-t/τx)+Te
で表される。ここで、τxは、設定された単位時間における熱時定数である。上式(1)を、この熱時定数τxを求める形に変形すると、
(2) τx=-t/ln{(T(t)-Te)/(T0-Te)}
となる。したがって、飲食物の当初温度T0及びt秒経過後にとる温度T(t)と、環境温度Teとが分かれば、上式(2)を用いて当該飲食物の熱時定数τxを決定することができる。またさらに、この決定された熱時定数τx及び上式(1)を用いることによって、当該飲食物の所定時間(例えば30分)経過後の温度を算出して予測温度情報を生成することができるのである。
【0080】
なお、熱時定数τxは、例えば飲食物の種別毎に熱時定数値を予め記録したデータベースを準備しておけば、上式(2)によらずに求めることも可能である。しかしながら実際の熱時定数値は、同じ料理でも材料の物性や盛られた食器の物性等の影響を受け、この予めの記録値から変化してしまう場合も少なくない。したがって、上記の手法で熱時定数τxを決定することが好ましいのである。
【0081】
図2は、飲食物温度予測部115aにおける温度予測処理結果の一例を説明するためのグラフである。
【0082】
図2には、環境温度(30℃)内に静置されている温かい食べ物A及び冷たい食べ物Bにおける予測温度情報、すなわち予測温度(℃)と経過時間(分)との関係が、グラフとして表されている。いずれの予測される温度も、環境温度(30℃)に漸近する指数関数的な変化を示している。ここで、冷たい食べ物Bの適温範囲は0~15℃に設定されており、一方、温かい食べ物Aの適温範囲は50~75℃に設定されている。
【0083】
したがってそれぞれの温度変化の様子から、当初、冷たい食べ物Bは適温範囲にあるが、温かい食べ物Aは適温範囲を超えて熱すぎる状態にあり、また、冷たい食べ物Bは、温かい食べ物Aが適温範囲に入るよりも先に、適温範囲を上回ってしまうことが分かる。したがってこの場合、フィードバック部115は、例えば「冷たい食べ物Bを、温かい食べ物Aよりも先に摂取するよう勧める」旨のフィードバック情報を選択又は生成することができるのである。
【0084】
なお、飲食物の温度については、例えば摂取される度に当該飲食物がかき混ぜられることで熱分布が変化して測定される当該飲食物の温度が変化したり、また、摂取される度に当該飲食物が引き裂かれて当該飲食物の量や形状が変化することで、放熱や吸熱の熱時定数が変化したりすることも少なくない。したがって、飲食物温度予測部115aは、摂取行動が起こった後、当初の温度予測結果にいつまでも頼ることなく、新たに測定された飲食物の温度から、温度予測処理を改めて実施することも好ましい。例えば、所定時間経過毎に(所定の周期をもって)その時点での飲食物の温度に基づき、当該飲食物の温度が適温範囲内にある時間の予測を更新してもよいのである。
【0085】
また、飲食物温度予測部115aは、摂取行動が検出されない場合であっても、飲食物の温度の変化について、温度測定手段の有する所定の誤差を超える「外れ値」や「変化点」を検出した際にも、新たに取得された飲食物の温度から、温度予測処理を改めて実施することも好ましい。
【0086】
ちなみに「外れ値」としては、飲食物の温度の予測値と実測値との「差」が、過去の所定期間における当該差のばらつきと比較して、所定閾値を超えて外れている場合、この「差」に係る実測値を外れ値とすることができる。例えば、過去の所定期間における当該差のばらつきとして平均平方二乗誤差RMSEを採用し、上記の「差」が所定閾値としてのRMSEの2倍の値を超えている場合に、この「差」に係る実測値を外れ値としてもよい。さらには、k近傍法を用いて過去k個分の実測値との距離の関係と、最新の実測値との距離の関係とから、「外れ値」であるか否かを判定することも可能である。いずれにしても、「外れ値」も「変化点」もともに、公知の統計的手法によって検出されたものとすることができる。
【0087】
図1に戻って、以下、フィードバック部115におけるフィードバック処理の具体的な内容について説明を行う。
【0088】
フィードバック部115は例えば、配膳された飲食物Aがその適温範囲を超えて熱すぎる状態にあると判断した場合、例えば「飲食物Aは、もう少し冷えるまで(例えば70℃未満になるまで)摂取を控えるべき、又は摂取の際に注意するべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成してもよい。このようなフィードバック情報を食事者に提供することによって、口腔内における火傷の発生や、さらには口腔内への繰り返しの熱刺激による将来の口腔癌等の発生を防止することも可能となるのである。
【0089】
またフィードバック部115は、配膳された各飲食物の適温範囲の情報を通知するフィードバック情報を選択又は生成してもよい。これにより、このフィードバック情報を受けた食事者は、各飲食物を適温で摂取することができ、美味しい且つ健康的な食事を実践することも可能となる。
【0090】
なおフィードバック部115は本実施形態において、飲食物の種別(例えば料理名・献立名やジャンル)を検索キーとして、飲食物適温DB105から、当該飲食物の適温範囲を知得することができる。ここで飲食物適温DB105は、図3に示すように、
(a)献立名毎に、当該献立名の料理のジャンルと、材料と、適温範囲とを対応付けて記録し管理した献立・材料適温DB、及び
(b)料理のジャンル毎に、当該ジャンルの飲食物の適温範囲を対応付けて記録し管理したジャンル適温DB
を備えているのである。
【0091】
ちなみに、「肉まん」のように内部の温度が外側よりもかなり高くなっていて、外からの温度測定では適温範囲であるか否かを見極め難い献立名の場合、図3の献立・材料適温DBの「予測」列に「難」と示したように、献立・材料適温DBの該当欄に「予測困難」である旨を登録しておいてもよい。また、飲食物認識部112の処理において料理名とジャンルの両方の情報が確実に得られている場合、献立・材料適温DBの適温範囲の情報は、ジャンル適温DBの適温範囲の情報よりも実際に合っている可能性が高いので、献立・材料適温DBの適温範囲の情報をフィードバック情報に採用する設定にすることも好ましい。
【0092】
また例えば、フィードバック部115は、配膳された本来温かい飲食物Bの温度と環境温度との差が所定閾値(例えば10℃)未満になったと判断した場合、冷めてしまった飲食物を摂取し続けることはストレスにもなるので、例えば「飲食物Bは、冷めてしまったので摂取を終わりにすべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成してもよい。
【0093】
さらに、フィードバック部115は例えば、配膳された各飲食物の種別に基づいて、そのうちで最初に摂取すべき飲食物を提案する旨のフィードバック情報を選択又は生成してもよい。例えば、「(食べすぎや血糖値の急激な上昇を防ぎ生活習慣病を予防するために、食物繊維を豊富に含む)野菜サラダを最初に摂取すべき」旨のフィードバック情報や、「(体を温めて代謝の一種である食事誘発性熱産生を増加させ消化、吸収や代謝を促すべく)温かいスープを最初に摂取すべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成してもよいのである。
【0094】
また例えば、フィードバック部115は、配膳された各飲食物の材料を検索キーとして、飲食物食べ合わせDB106から、当該飲食物の間の食べ合わせ情報を取得し、この食べ合わせ情報に基づいて、食べ合わせに関するフィードバック情報を選択又は生成してもよい。ここで、飲食物食べ合わせDB106は、図4に示すように、材料1と材料2のペア毎に、両材料(の飲食物)を一緒に摂取することによる効能、効果、及び予防可能な病気等を対応付けて記録し管理した材料食べ合わせDBを備えているのである。また、ここで検索キーとして使用される飲食物の材料は、当該飲食物の種別を検索キーとして、上記の飲食物適温DB105から知得することができる。
【0095】
ここで例えば、フィードバック部115は、配膳された飲食物のうち、食べ合わせのよい且つその時点でともに適温範囲にある飲食物C及び飲食物Dを特定し、「(栄養素の吸収を高めるため)飲食物Cと飲食物Dとを一緒に、しかも、まだ熱すぎる飲食物Eよりも先に摂取すべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成してもよい。
【0096】
さらに、フィードバック部115は例えば、適温範囲から所定以上に外れた熱すぎる(又は冷たすぎる)飲食物Fについて、「飲食物Fの摂取には健康上の問題がある」旨の警告に係るフィードバック情報を選択又は生成してもよい。また、飲食物の温度と環境温度とをともに勘案して、健康の観点から好ましいとされる摂取行動を促すフィードバック情報を選択又は生成してもよい。例えば「今朝は寒いので、最初に温かいスープを摂取すべき」旨のフィードバック情報や、「今日は暑いので、最初に冷たい冷奴を摂取すべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成することができる。
【0097】
また例えば、フィードバック部115は、上述した飲食物温度予測部115aにおいて環境温度及び飲食物の温度から、飲食物の温度の時間変化を予測し、例えば「現在、室温が20℃を下回っているので、温かい飲食物Gについては15分以内に摂取を終えるべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成してもよい。さらに例えば、冷えすぎて固まったアイスクリームがあと何分で適温になるかの情報や、このアイスクリームの適温状態があと何分継続するのかの情報をフィードバック情報とすることも可能である。
【0098】
(食行動情報を用いたフィードバック)
次に、食行動情報生成部114で生成された「食行動情報」を用いて、フィードバック情報の選択・生成を行う形態について説明する。
【0099】
具体的に、フィードバック部115は、食行動情報に含まれている、食事者がある種別の飲食物を摂取した際の当該飲食物の温度に係る情報に基づき、フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、食事者に合わせて調整することも好ましい。また、この食行動情報が、当該種別の飲食物を摂取した時間に係る摂取時間情報も含む場合に、フィードバック部115は、この摂取時間情報にも基づいて、フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、食事者に合わせて調整してもよいのである。
【0100】
さらに、この食行動情報が、当該食事者の咀嚼を検出可能な筋電測定装置6の出力から生成される、当該種別の飲食物を摂取した際の咀嚼行動に係る情報も含む場合に、フィードバック部115は、当該種別の飲食物を摂取した際の咀嚼行動に係る情報にも基づいて、フィードバック情報に含まれる当該種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、食事者に合わせて調整することも好ましい。
【0101】
ここで以上に述べた、食行動情報を利用したフィードバック処理の具体例を説明する。
【0102】
フィードバック部115は例えば、食行動情報から、食事者が、適温範囲が75℃を含む温度区間となっている種別の飲食物を、65℃未満に冷めてから摂取する猫舌の傾向にあると判断した場合、当該食事者に関しては、当該種別の飲食物の適温範囲を、65℃未満の温度区間に変更して、飲食物適温DB105へ登録してもよい。また、このようなより冷めてから摂取する傾向が例えば夏季にだけ見られる場合、夏季における当該種別の飲食物の適温範囲を、65℃未満の温度区間に変更して、飲食物適温DB105へ登録してもよい。
【0103】
また例えば、フィードバック部115は、食行動情報から、食事者の食事時間の平均値が所定閾値を下回っていると判断した場合、または、食事者の1口あたりの咀嚼回数の平均値が所定閾値を下回っていると判断した場合、例えば「ゆっくりよく噛んでリラックスして食事を行うべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成してもよい。さらに、食行動情報から、食事時刻の標準偏差が所定閾値を超えていると判断した場合、例えば「規則正しい食事を行うべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成してもよい。
【0104】
また、フィードバック部115は例えば、食行動情報から、食事者が温かい飲食物(適温範囲が所定以上の飲食物)を摂取する1日当たりの回数における平均値が、所定閾値を下回っていると判断した場合、例えば「温かい飲食物を積極的に摂取すべき」旨のフィードバック情報を選択又は生成することも好ましい。
【0105】
以上、「食行動情報」を利用したフィードバック情報の選択又は生成について説明を行ったが、次に、「食行動情報」が上述したQoF指標を含む場合に、このQoF指標を利用してフィードバック情報を選択又は生成する処理について説明を行う。
【0106】
具体的に、フィードバック部115は、「食行動情報」に含まれている食事者のQoF指標にも基づいて、フィードバック情報に含まれる飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報を、当該食事者に合わせて調整してもよい。例えば、飲食物Pにおける「(この後説明する)適温摂取指標」が所定閾値を下回っている食事者について、飲食物Pに関するフィードバック情報を選択又は生成した際、このフィードバック情報に対し、「この飲食物Pについては、もう少し冷めてから(又は温まってから)摂取するように心がけるべき」旨の情報を追加することも可能となるのである。
【0107】
<QoF指標の算出>
ここで、QoF指標の具体的内容について説明を行う。このQoF指標としては、以下に示す指標のうちの少なくとも1つ、好ましくは全てを採用することができる。
【0108】
(適温提供指標)
提供された飲食物の適温性に係る指標として、
(3) (適温提供指標)=(適温で提供された飲食物種別の数)/(飲食物種別の総数(料理品数))
を採用することができる。ここで適温提供指標は0~1の範囲の値をとることになる。
【0109】
(適温摂取指標)
提供された飲食物Pを適温であるうちに摂取し終えた度合いに係る指標として、
(4) (飲食物Pの適温摂取指標)=(飲食物Pを適温範囲内で摂取した摂取時間)/(飲食物Pの総摂取時間)
を採用してもよい。ここで適温摂取指標も0~1の範囲の値をとることになる。
【0110】
(適温下食事指標)
飲食物が適温であるうちに食事を終了した度合いに係る指標として、
(5) (適温下食事指標)=Σi(飲食物iの適温摂取指標)/(飲食物種別の総数(料理品数))
を採用することができる。ここで適温下食事指標も0~1の範囲の値をとることになる。この適温下食事指標は、1回の食事における配膳された各飲食物についての適温摂取指標の平均値となっている。
【0111】
(飲食物種別数指標)
提供された飲食物の種別の数に係る指標として、
(6) (飲食物種別数指標)=(飲食物種別の総数(料理品数))/(所定の目標種別総数(目標料理品数))
を採用してもよい。ここで、飲食物種別の総数(料理品数)が所定の目標種別総数(目標料理品数を上回っている場合、飲食物種別数指標は1へ丸めてもよい。
【0112】
(環境適温指標)
ユーザの食事環境の適温性に係る指標として、
(7) (環境適温指標)=(環境温度が所定の適温範囲内であった時間)/(総食事時間)
を採用することができる。ここで環境適温指標も0~1の範囲の値をとることになる。また、上記の環境温度の「所定の適温範囲」は、その季節に応じた値範囲に設定されることも好ましい。
【0113】
また、以上に説明した指標以外のQoF指標を採用することも可能である。例えば、
(a)公知の顔画像認識技術を用いて、可視光カメラ2から取得した画像情報に基づき決定された、食卓を囲む人数に係る情報と、
(b)公知の音声認識技術を用いて、マイクから取得した音声情報に基づき決定された、食事の際に発生した会話の量に係る情報と
から、食事中にコミュニケーションを行ったか否かに係るコミュニケーション指標を決定してもよい。
【0114】
さらに、
(a)公知の音声認識技術を用いて、マイクから取得した音声情報に基づき決定された、良好な食事であることを示す(「美味しい!」等の)キーワードの出現回数に係る情報と、
(b)本願発明者による発明である特開2020-048917号公報に開示された技術を用い、筋電測定装置6から取得した筋電信号情報に基づき決定された、食事中における「笑み」であった時間や回数に係る情報と、
(c)同じく筋電測定装置6から取得した筋電信号情報に基づき決定された、摂取量の多少に係る情報と
から、食事に満足したか否かに係る満足度指標を決定することも可能である。
【0115】
なお、以上に説明したQoF指標は、上述した各指標についてのレーダチャートとして、食事終了後直ちに、例えばディスプレイ107に表示され、食事者に提示されてもよい。また、過去の所定期間(例えば1日、1週間や1月)毎のQoF指標の平均値を、例えば棒グラフや折れ線グラフにして提示し、これまでのQoF指標の変遷について食事者が認知できるようにすることも好ましい。さらに例えば、高齢者である各食事者のこのようなQoF指標に係る情報を、外部の医療機関等と共有し、特に、食事者が独居高齢者である場合、地域コミュニティ、自治体や、かかりつけの医療機関等に働きかけて、例えばオンライン会食を薦める等の提案を行わせることも好ましい。
【0116】
図5は、本発明に係るQoF指標の算出を含む食行動モニタ方法における一実施形態の概略を示すフローチャートである。ちなみに勿論、本発明による食行動モニタ方法は、同図のフローチャートで示される形態に限定されるものではない。
【0117】
(S101)配膳された飲食物の種別(料理名)及び種別数(品数)を取得する(又は更新する)。
(S102)各種別(各料理名)の適温範囲及び材料名を、飲食物適温DB105を用いて検索する。
(S103)各種別の(検索された)材料名から、飲食物間の食べ合わせを、飲食物食べ合わせDB106を用いて検索する。
(S104)各種別(料理名)の温度及び環境温度を測定し、管理する。
(S105)ステップS104での測定結果を用いて、各種別(料理名)の将来の温度を予測する。
【0118】
(S106)ステップS102~S105で得られた情報を用いて、
(a)各飲食物を摂取するタイミング、時間や順番に係るフィードバック情報、
(b)飲食物間の食べ合わせに係る情報、及び
(c)摂取に対する注意に係る情報
のうちの少なくとも1つを含むフィードバック情報を選択又は生成する。
(S107)フィードバック情報を提供する。
【0119】
(S108)各種別(料理名)の飲食物の量を測定・監視する。
(S109)摂取行動(例えば咀嚼回数等)を記録し、管理する。
(S110)(必要と判断した場合に)検出した摂取行動についてのフィードバック情報(注意等)を提供する。
ここで例えば、ある皿を手に持つとの摂取行動を検出した際に、当該皿に盛られた飲食物の温度が適温範囲を上回っている(下回っている)場合には、「この料理はまだ熱すぎる(冷たすぎる)」旨のフィードバック情報を即座に提示してもよい。
【0120】
(S111)完食したか(全ての飲食物の量がゼロになったか)否か、及び摂取が終了したか(所定時間の間、摂取行動(例えば咀嚼)が行われなかったか)否かの判定を行う。
ここで、「完食した」及び「摂取が終了した」のうちの一方若しくは両方の判定が行われた場合、最後にQoF指標を算出するべく、ステップS112に移行する。
【0121】
(S112)一方、ステップS111で「完食しておらず」及び「摂取は終了しておらず」の両方の判定が行われた場合、次に、配膳された飲食物の種別数(品数)に変化があるか否かを判定する。
ここで、(例えば新たな種別の飲食物が追加されたり、1つ又は複数の種別の飲食物が下げられたりしたことにより)「種別数(品数)に変化あり。ただし、種別数(品数)は1以上である」との判定が行われた場合、本食行動モニタ方法の最初のステップであるステップS101に移行する。また、「種別数(品数)に変化なし」との判定が行われた場合、飲食物温度情報を更新すべく、ステップS104に移行する。
【0122】
(S113)さらに、(例えば、全ての飲食物が下げられたことにより)「種別数(品数)はゼロである」との判定が行われた場合、ここまでで得られた情報に基づいて、QoF指標を算出して提示し、さらに管理を行い、以上で本食行動モニタ方法を終了する。
【0123】
図1の機能ブロック図に戻って、フィードバック部115の通知手段制御情報生成部115bは、フィードバック情報として選択又は生成した「所定種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報」に基づいて、この所定種別の飲食物(図1ではスープ)に光を照射可能な予め設置された光照射手段(図1ではプロジェクタ4)による、この所定種別の飲食物(スープ)への光の照射を制御するための制御情報を生成し、この制御情報を光照射手段(プロジェクタ4)へ出力又は送信してもよい。
【0124】
これにより、例えば「最初にスープを摂取すべき」旨のフィードバック情報が選択又は生成された際、通知手段制御情報生成部115bは、「最初に摂取すべきスープに対し、最初に摂取すべきことを推奨する内容のプロジェクションマッピング画像を投影し、この投影をスープに対する摂取行動を検出するまで継続する」旨の制御情報を生成し、これをプロジェクタ4へ送信して、プロジェクタ4に当該内容の動作を実施させることもできるのである。
【0125】
なお本実施形態において、プロジェクタ4は、食卓の上面をスクリーンと見立てて食卓上面の全範囲が投影可能領域になるように設置され調整されている。またその上で、フィードバック情報を、指定された食卓上面内の位置にマッピングさせて投影するべく、通知手段制御情報生成部115bは、フィードバック情報として投影する画像と、その投影位置とを含む制御情報を生成してプロジェクタ4に送信し、指定した投影位置に当該画像を投影させるのである。ここで、フィードバック情報を食事者にとって理解しやすい又は受け入れやすい形で演出するべく、投影する情報を、アニメーション映像や文字情報等で構成されたコンテンツとしてもよい。また好適な変更態様として、プロジェクタ4は、シンプルなスポットライトを照射するものであるが、一方で、当該スポットライトの照射位置を変更可能にするサーボモータと、指定された食卓上面内の位置を照射することができるようにこのサーボモータの駆動を制御する照射位置制御部とを備えていてもよい。この場合、最初に、
(a)飲食物認識部112は、可視光カメラ2で生成された(配膳されたスープを含む)画像情報を用いて、スープの置かれた位置情報を決定し、
(b)通知手段制御情報生成部115bは、この決定されたスープの位置情報に係る位置を照射する指示を含む制御情報を生成して、プロジェクタ4の照射位置制御部へ送信し、
(c)プロジェクタ4の照射位置制御部は、プロジェクタ4が(受信した制御情報において)指示された位置を照射できるように、サーボモータを駆動させるのである。
【0126】
また本実施形態において、フィードバック部115の通知手段制御情報生成部115bは、フィードバック情報として選択又は生成した「所定種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報」に基づいて、
(a)食事者の食事に使用される道具に予め搭載された光源(図1では通知機能付箸5に搭載された通知用の点灯ランプ)、
(b)食事者の食事に使用される道具に予め搭載されたバイブレータ(図1では通知機能付箸5に搭載された通知用のバイブレータ)、
(c)食事者の食事に係る食器に予め搭載された光源、及び/又は、
(d)食事者の食事に係る食器に予め搭載されたバイブレータ
による、食事者への通知動作を制御するための制御情報を生成し、この制御情報を上記の光源及び/又は上記のバイブレータへ送信してもよい。
【0127】
これにより、例えば「(今箸で挟んだ)飲食物は熱すぎる(その温度が適温範囲を上回っている)」旨のフィードバック情報が選択又は生成された際、通知手段制御情報生成部115bは、「熱すぎる」との警告を意味する振動を発生させる内容の制御情報を生成し、これを(まさにこの熱すぎる飲食物を挟んでいる)通知機能付箸5へ送信して、通知機能付箸5のバイブレータに当該内容の動作を実施させてもよいのである。
【0128】
また、この通知手段制御情報生成部115bが、フィードバック情報に適合した適切な制御情報を生成し、上述したような通知手段へ送信することによって、フィードバック情報を反映した様々な通知が実施可能となる。例えば、冷めるのを待つべき(熱すぎる)飲食物に対しては、予測温度情報から決定した「(当該飲食物の温度が適温範囲に入る)摂取してよい時刻」までの残り時間を示すカウントダウンタイマやプログレスバーを映すことができるプロジェクションライトを、当該飲食物(に隣接した位置)に照射することも可能となる。
【0129】
また、通知機能付箸5に搭載された点灯ランプが様々な色の光を放射可能となっている場合に、この通知機能付箸5が、
(a)熱すぎる(その温度が適温範囲を上回っている)温かい飲食物を挟んだ際、直ちに点灯ランプを赤色に光らせ、
(b)適温範囲内の温かい飲食物を挟んだ際には緑色に光らせ、
(c)常温の(環境温度と同じ温度の)飲食物を挟んだ際には、点灯ランプを点灯させず、
(d)冷たすぎる(その温度が適温範囲を下回っている)冷たい飲食物を挟んだ際、直ちに紫色に光らせ、
(e)適温範囲内の冷たい飲食物を挟んだ際には点灯ランプをシアン色に光らせる
といったように、摂取しようとしている飲食物の温度とその適温範囲との関係が一目で分かるような色提示を行うことも好ましい。
【0130】
また、その温度が適温範囲にある飲食物にはスポットライトを照射し続け、その温度が適温範囲から外れた際に、このスポットライトの照射を止めてもよい。さらに、食べ合わせがよいと判断された飲食物のグループには同色、例えば白色のスポットライトを照射し、一方、別に食べた方がよい飲食物同士は、互いに異なる色のスポットライト、例えばそれぞれ白色及び赤色のスポットライトを照射してもよい。また、食べ合わせの関係から次に摂取した方がよい飲食物へは、より強いスポットライトを照射して、次の摂取候補を指し示すことも可能である。
【0131】
さらに、(今箸で挟んだ)飲食物が熱すぎる(その温度が適温範囲を上回っている)場合に、食行動モニタ装置1のスピーカ109(又は外部に設置されたスピーカ)が、例えば「その煮物は熱すぎますよ。注意して下さい」との音声を出力してもよい。また、(赤外線画像から得られる)表面温度からは飲食物全体の温度を推定し難い「肉まん」等の飲食物に関しては、飲食物適温DB105の献立・材料適温DBに「予測困難」である旨が登録されていることを確認の上、その旨の通知を、例えばスピーカ109からの音声で行うことも好ましい。
【0132】
同じく図1の機能ブロック図において、フィードバック部115の飲食物温度制御情報生成部115cは、フィードバック情報として選択又は生成した「所定種別の飲食物を摂取すべきタイミング、時間及び/又は順番に係る情報」に基づいて、食事者の食事に係る食器に予め搭載された冷却デバイス及び/又は加熱デバイスによる、飲食物を冷却及び/又は加熱する動作を制御するための制御情報を生成し、この制御情報を上記の冷却デバイス及び/又は上記の加熱デバイスへ送信してもよい。
【0133】
これにより、例えば「(今箸を当てた)飲食物は熱すぎる(その温度が適温範囲を上回っている)」旨のフィードバック情報が選択又は生成された際、飲食物温度制御情報生成部115cは、冷却動作を実施する旨の制御情報を生成し、これを(当該飲食物の盛られた)皿に搭載された(皿面内部に格子状に配置された複数の冷却デバイスとしての)ペルチェ素子冷却器へ送信して、これらのペルチェ素子冷却器に、当該飲食物を冷却する(当該飲食物の温度を下げて適温範囲内にする)動作を実施させてもよいのである。
【0134】
ここで、上記の加熱デバイスとしては例えば、電熱ヒータや、電磁誘導加熱を行うことができるIHヒータを採用してもよい。この場合、飲食物温度制御情報生成部115cは例えば、冷たすぎる飲食物の盛られた皿に内蔵されたIHヒータに対し、加熱動作を実施する旨の制御情報を送信し、当該飲食物を加熱する(当該飲食物の温度を上げて適温範囲内にする)動作を実施させることも可能となるのである。
【0135】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、飲食物についての飲食物温度情報を、それ単独ではなく当該飲食物についての飲食物内容情報と合せて取得することができるので、両者を考慮したフィードバック情報を選択又は生成することができる。すなわち、提供された飲食物の温度をその内容に応じて把握し、食事者のためのより的確なフィードバックを行うことが可能となるのである。
【0136】
また、このようなフィードバック情報を提供することによって例えば、食事者に対し、美味しく食べられる意味でより好適な食行動への行動変容を促したり、より健康的な食行動への行動変容を促したりすることも可能となるのである。
【0137】
また、例えば子供達や高齢者を含む食事者に対し、より健康的な食行動を促すべく、本発明によって生成したフィードバック情報であって、提供飲食物の温度とその内容とを考慮しており健康にプラスとなるフィードバック情報を提示することも可能となる。すなわち本発明によれば、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進するあらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」に貢献することもできるのである。
【0138】
さらに、例えば各家庭において食事者に対し、食べ残しや栄養の偏りといったような問題の解消された食行動を促すべく、本発明によって生成したフィードバック情報であって、提供飲食物の温度とその内容とを考慮しており当該問題の解決に有用となるフィードバック情報を提示することも可能となる。すなわち本発明によれば、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することもできるのである。
【0139】
以上に述べた本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0140】
1 食行動モニタ装置
101 通信インタフェース
102 飲食物温度情報保存部
103 飲食物画像情報保存部
104 食行動関連情報保存部
105 飲食物適温データベース(DB)
106 飲食物食べ合わせDB
107 タッチパネル・ディスプレイ(TP・DP)
108 マイク
109 スピーカ
111 飲食物・環境温度取得部
112 飲食物認識部
113 飲食物内容取得部
114 食行動情報生成部
114a QoF算出部
115 フィードバック部
115a 飲食物温度予測部
115b 通知手段制御情報生成部
115c 飲食物温度制御情報生成部
121 通信制御部
122 入出力制御部
2 可視光カメラ
3 サーモグラフィカメラ
4 プロジェクタ
5 通気機能付箸
6 筋電測定装置
図1
図2
図3
図4
図5