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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】回転電機用ステータ製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20240425BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20240425BHJP
   H02K 3/50 20060101ALI20240425BHJP
   H02K 3/52 20060101ALI20240425BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240425BHJP
【FI】
H02K15/04 E
H02K3/04 E
H02K3/50
H02K3/52 E
B23K26/21 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021051995
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149720
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘行
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-040103(JP,A)
【文献】特開2018-098937(JP,A)
【文献】特開2014-151360(JP,A)
【文献】特開2021-087309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00- 3/52
H02K 15/00-15/02
H02K 15/04-15/16
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用のステータコイルのコイル片をステータコアに組み付ける組付工程と、
前記コイル片の端部同士又は前記コイル片の端部とバスバーの端部とをレーザ溶接により接合する接合工程とを含み、
前記接合工程は、
接合対象の2つの端部の少なくとも一方における表面の第1範囲に、母材よりも電気抵抗が有意に高い抵抗層を付与する抵抗付与工程と、
前記組付工程の後に、前記2つの端部の表面同士を、前記抵抗層が付与された第1範囲と前記抵抗層が付与されていない第2範囲とが当接範囲を構成する態様で、当接させるセット工程と、
前記セット工程の後に、前記当接範囲内の前記抵抗層の少なくとも一部が残る態様で、前記2つの端部にレーザビームを照射する照射工程とを含む、回転電機用ステータ製造方法。
【請求項2】
前記抵抗付与工程は、前記少なくとも一方における表面の前記第1範囲内にレーザを照射することで、前記抵抗層としての酸化膜を形成する、請求項1に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項3】
前記第2範囲は、前記照射工程で母材が溶融して形成される接合範囲内に含まれる、請求項1に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも一方における表面において、前記第1範囲は、前記当接範囲のうちの、前記接合範囲を除く範囲の全体を含む、請求項3に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項5】
前記照射工程の後に、前記2つの端部の間の電気抵抗に関連する値を測定する工程を更に含む、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ステータ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機のステータコイルを形成するための一のコイル片と他の一のコイル片の端部同士を当接させ、当接させた端部に係る溶接対象箇所に、ループ状に照射位置が移動する態様でレーザビームを照射するステータの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-20340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載されるような従来技術は、レーザビームによる溶接後に、所望の接合面積が確保されたか否か等の溶接品質を適切に評価することが難しい場合がある。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、レーザビームによる溶接品質を適切に評価可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、回転電機用のステータコイルのコイル片をステータコアに組み付ける組付工程と、
前記コイル片の端部同士又は前記コイル片の端部とバスバーの端部とをレーザ溶接により接合する接合工程とを含み、
前記接合工程は、
接合対象の2つの端部の少なくとも一方における表面の第1範囲に、母材よりも電気抵抗が有意に高い抵抗層を付与する抵抗付与工程と、
前記組付工程の後に、前記2つの端部の表面同士を、前記抵抗層が付与された第1範囲と前記抵抗層が付与されていない第2範囲とが当接範囲を構成する態様で、当接させるセット工程と、
前記セット工程の後に、前記当接範囲内の前記抵抗層の少なくとも一部が残る態様で、前記2つの端部にレーザビームを照射する照射工程とを含む、回転電機用ステータ製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、レーザビームによる溶接品質を適切に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ステータコアの単品状態の平面図である。
図3】ステータコアに組み付けられる1対のコイル片を模式的に示す図である。
図4】ステータのコイルエンド周辺の斜視図である。
図5】同相のコイル片の一部を抜き出して示す斜視図である。
図6】一のコイル片の概略正面図である。
図7】互いに接合されたコイル片の先端部及びその近傍を示す図である。
図8】溶接対象箇所を通る図7のラインA-Aに沿った断面図である。
図9】レーザ波長と各種材料の個体に対するレーザ吸収率との関係を示す図である。
図10】溶接中の吸収率の変化態様の説明図である。
図11A】グリーンレーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図である。
図11B】赤外レーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図である。
図12】本実施例によるグリーンレーザによる溶接方法の説明図である。
図13】モータのステータの製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図14】径方向に視た単品状態のコイル片の先端部(酸化膜形成範囲)を示す平面図である。
図15】2つのコイル片の先端部同士を接合用に当接した状態を、径方向に視て示す平面図である。
図16】接合面積と電位差との関係の説明図である。
図17】バスバーとコイル片との間の接合部を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。なお、本明細書において、「所定」とは、「予め規定された」という意味で用いられている。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナーロータ型であり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0015】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板から形成される。ロータコア32の内部には、永久磁石321が挿入される。永久磁石321の数や配列等は任意である。変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0016】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0017】
ロータシャフト34は、図1に示すように、中空部34Aを有する。中空部34Aは、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。中空部34Aは、油路として機能してもよい。例えば、中空部34Aには、図1にて矢印R1で示すように、軸方向の一端側から油が供給され、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝って油が流れることで、ロータコア32を径方向内側から冷却できる。また、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝う油は、ロータシャフト34の両端部に形成される油穴341、342を通って径方向外側へと噴出され(矢印R5、R6)、コイルエンド220A、220Bの冷却に供されてもよい。
【0018】
なお、図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、溶接により接合されるステータコイル24(後述)を有する限り、任意である。従って、例えば、ロータシャフト34は、中空部34Aを有さなくてもよいし、中空部34Aよりも有意に内径の小さい中空部を有してもよい。また、図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、中空部34A内に挿入される油導入管が設けられてもよいし、モータハウジング10内の油路から径方向外側からコイルエンド220A、220Bに向けて油が滴下されてもよい。
【0019】
また、図1では、ロータ30がステータ21の内側に配されたインナーロータ型のモータ1であるが、他の形態のモータに適用されてもよい。例えば、ステータ21の外側にロータ30が同心に配されたアウターロータ型のモータや、ステータ21の外側及び内側の双方にロータ30が配されたデュアルロータ型のモータ等に適用されてもよい。
【0020】
次に、図2以降を参照して、ステータ21に関する構成を詳説する。
【0021】
図2は、ステータコア22の単品状態の平面図である。図3は、ステータコア22に組み付けられる1対のコイル片52を模式的に示す図である。図3では、ステータコア22の径方向内側を展開した状態で、1対のコイル片52とスロット220との関係が示される。また、図3では、ステータコア22が点線で示され、スロット220の一部については図示が省略されている。図4は、ステータ21のコイルエンド220A周辺の斜視図である。図5は、同相のコイル片の一部を抜き出して示す斜視図である。
【0022】
ステータ21は、ステータコア22と、ステータコイル24とを含む。
【0023】
ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるが、変形例では、ステータコア22は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。なお、ステータコア22は、周方向で分割される分割コアにより形成されてもよいし、周方向で分割されない形態であってもよい。ステータコア22の径方向内側には、ステータコイル24が巻回される複数のスロット220が形成される。具体的には、ステータコア22は、図2に示すように、円環状のバックヨーク22Aと、バックヨーク22Aから径方向内側に向かって延びる複数のティース22Bとを含み、周方向で複数のティース22B間にスロット220が形成される。スロット220の数は任意であるが、本実施例では、一例として、48個である。
【0024】
ステータコイル24は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイル(以下、U、V、Wを区別しない場合は「相コイル」と称する)を含む。各相コイルの基端は、入力端子(図示せず)に接続されており、各相コイルの末端は、他の相コイルの末端に接続されてモータ1の中性点を形成する。すなわち、ステータコイル24は、スター結線される。ただし、ステータコイル24の結線態様は、必要とするモータ特性等に応じて、適宜、変更してもよく、例えば、ステータコイル24は、スター結線に代えて、デルタ結線されてもよい。
【0025】
各相コイルは、複数のコイル片52を接合して構成される。図6は、一のコイル片52の概略正面図である。コイル片52は、相コイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロット220に挿入される単位)で分割したセグメントコイルの形態である。コイル片52は、断面矩形状の線状導体(平角線)60を、絶縁被膜62で被覆してなる。本実施例では、線状導体60は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体60は、鉄のような他の導体材料により形成されてもよい。
【0026】
コイル片52は、ステータコア22に組み付ける前の段階では、一対の直進部50と、当該一対の直進部50を連結する連結部54と、を有した略U字状に成形されてよい。コイル片52をステータコア22に組み付ける際、一対の直進部50は、それぞれ、スロット220に挿入される(図3参照)。これにより、連結部54は、図3に示すように、ステータコア22の軸方向他端側において、複数のティース22B(及びそれに伴い複数のスロット220)を跨ぐように周方向に延びる。連結部54が跨ぐスロット220の数は、任意であるが、図3では3つである。また、直進部50は、スロット220に挿入された後は、図6において、二点鎖線で示すように、その途中で周方向に屈曲される。これにより、直進部50は、スロット220内において軸方向に延びる脚部56と、ステータコア22の軸方向一端側において周方向に延びる渡り部58と、になる。
【0027】
なお、図6では、一対の直進部50は、互いに離れる方向に屈曲するが、これに限られない。例えば、一対の直進部50は、互いに近づく方向に屈曲されてもよい。また、ステータコイル24は、3相の相コイルの末端同士を連結して中性点を形成するための中性点用コイル片等も有することがある。
【0028】
一つのスロット220には、図6に示すコイル片52の脚部56が複数、径方向に並んで挿入される。従って、ステータコア22の軸方向一端側には、周方向に延びる渡り部58が複数、径方向に並ぶ。図3及び図5に示すように、一つのスロット220から飛び出て周方向第1側(例えば時計回りの向き)に延びる一のコイル片52の渡り部58は、他のスロット220から飛び出て周方向第2側(例えば反時計回りの向き)に延びる他の一のコイル片52の渡り部58に接合される。
【0029】
本実施例では、一例として、1つのスロット220に6つのコイル片52が組み付けられる。以下では、径方向で最も外側のコイル片52から順に、第1ターン、第2ターン、第3ターンとも称する。この場合、第1ターンのコイル片52と第2ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合され、第3ターンのコイル片52と第4ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合され、第5ターンのコイル片52と第6ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合される。
【0030】
ここで、コイル片52は、上述したとおり、絶縁被膜62で被覆されているが、先端部40だけは、当該絶縁被膜62が除去される。これは、先端部40にて他のコイル片52との電気的接続を確保するためである。また、図5及び図6に示すように、コイル片52の先端部40のうち、最終的に軸方向外側端面42、すなわち、コイル片52の幅方向一端面(軸方向外側端面42)を、軸方向外側に凸の円弧面としている。
【0031】
図7は、互いに接合されたコイル片52の先端部40及びその近傍を示す図である。なお、図7には、溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が模式的に示される。図8は、溶接対象箇所90を通る図7のラインA-Aに沿った断面図である。
【0032】
コイル片52の先端部40を接合する際には、一のコイル片52と他の一のコイル片52は、それぞれの先端部40が、図7に示すビュー(当接面401に対して垂直な方向視)でC字状をなす態様で、突き合わせられる。この際、互いに接合される2つの先端部40を、それぞれの円弧面(軸方向外側端面42)の中心軸が一致するように、その厚み方向に重ねて接合されてよい。このように中心軸を合わせて重ねることで、屈曲角度αが比較的大きい場合や小さい場合でも、互いに接合される2つの先端部40の軸方向外側のラインが一致し、適切に、重ね合わせることができる。
【0033】
この場合、溶接対象箇所90は、範囲D1及び範囲D2に示すように、当接面401に沿って直線状に延在する。すなわち、溶接対象箇所90は、レーザビーム110の照射側から視て(図7及び図8の矢印W参照)、範囲D2の幅で、範囲D1にわたり直線状に延在する。なお、当接面401とは、一のコイル片52と他の一のコイル片52のそれぞれにおいて互いに径方向に対向する表面のうちの、径方向に当接し合う当接範囲401A(図15参照)内の部分を指す。
【0034】
ここで、本実施例では、コイル片52の先端部40を接合する際の接合方法としては、溶接が利用される。そして、本実施例では、溶接方法としては、TIG溶接に代表されるアーク溶接ではなく、レーザビーム源を熱源とするレーザ溶接が採用される。TIG溶接に代えて、レーザ溶接を用いることで、コイルエンド220A、220Bの軸方向の長さを低減できる。すなわち、TIG溶接の場合は、当接させるコイル片の先端部同士を軸方向外側に屈曲させて軸方向に延在させる必要があるのに対して、レーザ溶接の場合は、かかる屈曲の必要性がなく、図7に示すように、当接させるコイル片52の先端部40同士を周方向に延在させた状態で溶接を実現できる。これにより、当接させるコイル片52の先端部40同士を軸方向外側に屈曲させて軸方向に延在させる場合に比べて、コイルエンド220A、220Bの軸方向の長さを低減できる。
【0035】
レーザ溶接では、図5に模式的に示すように、当接された2つの先端部40における溶接対象箇所90に溶接用のレーザビーム110を当てる。なお、レーザビーム110の照射方向(伝搬方向)は、軸方向に略平行であり、当接された2つの先端部40の軸方向外側端面42に、軸方向外側から向かう方向である。レーザ溶接の場合は、局所的に加熱できるため、先端部40及びその近傍のみを加熱することができ、絶縁被膜62の損傷(炭化)等を効果的に低減できる。その結果、適切な絶縁性能を維持したまま、複数のコイル片52を電気的に接続できる。
【0036】
溶接対象箇所90の周方向の範囲D1は、図7に示すように、2つのコイル片52の先端部40同士の当接部分における軸方向外側端面42の周方向の全範囲D0のうちの、両端を除く部分である。両端は、軸方向外側端面42の凸の円弧面に起因して、十分な溶接深さ(図7の寸法L1参照)を確保し難いためである。溶接対象箇所90の周方向の範囲D1は、コイル片52間での必要な接合面積や必要な溶接強度等が確保されるように適合されてよい。
【0037】
溶接対象箇所90の径方向の範囲D2は、図8に示すように、2つのコイル片52の先端部40同士の当接面401を中心とする。溶接対象箇所90の径方向の範囲D2は、レーザビーム110の径(ビーム径)に対応してよい。すなわち、レーザビーム110は、照射位置が径方向に実質的に変化することなく周方向に沿って直線的に変化する態様で、照射される。更に換言すると、レーザビーム110は、照射位置が当接面401に対して平行な直線状に変化するように移動される。これにより、例えばループ状(螺旋状)やジグザク状(蛇行)等に照射位置を変化させる場合に比べて、効率的に、直線状の溶接対象箇所90にレーザビーム110を照射できる。
【0038】
図9は、レーザ波長と各種材料の個体に対するレーザ吸収率(以下、単に「吸収率」とも称する)との関係を示す図である。図9では、横軸に波長λを取り、縦軸に吸収率を取り、銅(Cu)、アルミ(Al)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の各種材料の個体に係る特性が示される。
【0039】
ところで、レーザ溶接で一般的に用いられる赤外レーザ(波長が1064nmのレーザ)は、図9にてλ2=1.06μmの点線との交点の黒丸で示すように、コイル片52の線状導体60の材料である銅に対して吸収率が約10%と低い。すなわち、赤外レーザの場合、レーザビーム110の大部分は、コイル片52で反射してしまい、吸収されない。このため、接合対象のコイル片52間での必要な接合面積を得るためには比較的大きい入熱量が必要となり、熱影響が大きく、溶接が不安定となるおそれがある。
【0040】
この点を鑑み、本実施例では、赤外レーザに代えて、グリーンレーザを利用する。なお、グリーンレーザとは、波長が532nmのレーザ、すなわちSHG(Second Harmonic Generation:第2高調波)レーザのみならず、532nmに近い波長のレーザをも含む概念である。なお、変形例では、グリーンレーザの範疇に属さない0.6μm以下の波長のレーザが利用されてもよい。グリーンレーザに係る波長は、例えばYAGレーザやYVO4レーザで生み出された基本波長を酸化物単結晶(例えば、LBO:リチウムトリボレート)に通して変換することで得られる。
【0041】
グリーンレーザの場合、図9にてλ1=0.532μmの点線との交点の黒丸で示すように、コイル片52の線状導体60の材料である銅に対して吸収率が約50%と高い。従って、本実施例によれば、赤外レーザを利用する場合に比べて、少ない入熱量で、コイル片52間での必要な接合面積を確保することが可能となる。
【0042】
なお、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が吸収率が高くなるという特性は、図9に示すように、銅の場合において顕著であるが、銅のみならず、他の金属材料の多くにおいて確認できる。従って、コイル片52の線状導体60の材料が銅以外の場合でもグリーンレーザによる溶接が実現されてもよい。
【0043】
図10は、溶接中の吸収率の変化態様の説明図である。図10では、横軸にレーザパワー密度を取り、縦軸に銅のレーザ吸収率を取り、グリーンレーザの場合の特性100Gと、赤外レーザの場合の特性100Rとが示される。
【0044】
図10では、グリーンレーザの場合と赤外レーザの場合における銅の溶融が開始するポイントP1、P2が示されるとともに、キーホールが形成されるポイントP3が示される。図10にポイントP1、P2にて示すように、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が、小さいレーザパワー密度で銅の溶融を開始させることができることが分かる。また、上述した吸収率の相違に起因して、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が、キーホールが形成されるポイントP3での吸収率と照射開始時の吸収率(すなわちレーザパワー密度が0のときの吸収率)との差が小さいことが分かる。具体的には、赤外レーザの場合、溶接中の吸収率の変化が約80%であるのに対して、グリーンレーザの場合、溶接中の吸収率の変化が約40%となり、約半分である。
【0045】
このように、赤外レーザの場合、溶接中の吸収率の変化(落差)が約80%と比較的大きいため、キーホールが不安定となり溶接深さや溶接幅のバラツキや溶融池の乱れ(例えば、スパッタ等)が生じやすい。これに対して、グリーンレーザの場合、溶接中の吸収率の変化(落差)が約40%と比較的小さいため、キーホールが不安定となり難く、また、溶接深さや溶接幅のバラツキや溶融池の乱れ(例えばスパッタ等)が生じ難い。なお、スパッタとは、レーザ等を照射することにより飛散する金属粒等である。
【0046】
なお、赤外レーザの場合、上述のように吸収率が低いため、ビーム径を比較的小さくする(例えばφ0.075mm)ことで、吸収率の低さを補うことが一般的である。この点も、キーホールが不安定となる要因となる。なお、図11Bは、赤外レーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図であり、1100は、溶接ビードを示し、1102は、溶融池を示し、1104は、キーホールを示す。また、矢印R1116は、ガス抜けの態様を模式的に示す。また、矢印R110は、ビーム径が小さいことに起因して赤外レーザの照射位置が移動される様子を模式的に示す。このように、赤外レーザの場合、上述のように吸収率が低くビーム径を比較的大きくすることが難しいことに起因して、必要な溶融幅を得るために蛇行を含んだ比較的長い照射位置の移動軌跡(連続的な照射時間)が必要となる傾向がある。
【0047】
他方、グリーンレーザの場合、上述のように吸収率が比較的高いため、ビーム径を比較的大きくする(例えばφ0.1mm以上)ことが可能であり、キーホールを大きくして安定化することができる。これにより、ガス抜けが良好となり、スパッタ等の発生を効果的に低減できる。なお、図11Aは、グリーンレーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図であり、符号の意義は図11Bを参照して上述したとおりである。グリーンレーザの場合、図11Aから、ビーム径の拡大に起因してキーホールが安定化しガス抜けが良好となる様子がイメージとして容易に理解できる。また、グリーンレーザの場合、赤外レーザの場合とは対照的に、上述のように吸収率が比較的高くビーム径を比較的大きくすることが可能であることから、必要な溶融幅(図8に示す溶接対象箇所90の径方向の範囲D2参照)を得るために必要な照射位置の移動軌跡(照射時間)を比較的短く(小さく)できる。
【0048】
図12は、本実施例によるグリーンレーザによる溶接方法の説明図である。図12では、横軸に時間を取り、縦軸にレーザ出力を取り、溶接の際のレーザ出力の時系列波形を模式的に示す。
【0049】
本実施例では、図12に示すように、レーザ出力3.8kWでグリーンレーザのパルス照射により溶接を実現する。図12では、10msecだけレーザ出力3.8kWとなるようにレーザ発振器のパルス発振が実現され、インターバル100msec後に、再び、10msecだけレーザ出力3.8kWとなるようにレーザ発振器のパルス発振が実現される。以下では、このようにして一回のパルス発振により可能なパルス照射(10msecのパルス照射)の1回分を、「1パス」とも称する。なお、図12では、1パス目(N=1)から3パス目(N=3)の照射がパルス波形130Gで示され、Nは、Nパス目かを表す。また、図12には、比較用として、赤外レーザの場合のパルス照射に係るパルス波形130Rが併せて示される。
【0050】
ここで、グリーンレーザの場合、レーザ発振器の出力が低く(例えば連続的な照射時は最大で400W)、深い溶け込みを確保するために必要な高出力(例えばレーザ出力3.0kW以上の高出力)を得ることが難しい。すなわち、グリーンレーザは、上述のように酸化物単結晶のような波長変換結晶を通して生成されるので、波長変換結晶を通る際に出力が低下する。このため、グリーンレーザのレーザビームを連続的に照射しようとすると、深い溶け込みを確保するために必要な高出力を得ることができない。
【0051】
この点、本実施例では、上述のように、深い溶け込みを確保するために必要な高出力(例えばレーザ出力3.0kW以上の高出力)を、グリーンレーザのパルス照射により確保する。これは、連続的な照射の場合は例えば最大で400Wしか出力できない場合でも、パルス照射であれば、例えば3.0kW以上の高出力が可能となるためである。このようにして、パルス照射は、ピークパワーを上げるための連続エネルギを蓄積してパルス発振することで実現される。一の溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合、当該一の溶接対象箇所に対して、複数回のパルス発振が実現されてよい。すなわち、当該一の溶接対象箇所に対して、比較的高いレーザ出力(例えばレーザ出力3.0kW以上)による2パス以上の照射が実行されてよい。これにより、上述の溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合でも、溶接対象箇所90の全体にわたり深い溶け込みを確保しやすくなり、高い品質の溶接を実現できる。
【0052】
なお、図12では、インターバルが特定の値100msecであるが、インターバルは、任意であり、必要な高出力が確保される範囲内で最小化されてよい。また、図12では、レーザ出力は特定の値3.8kWであるが、レーザ出力は、3.0kW以上であれば、必要な溶接深さが確保される範囲内で適宜変更されてよい。
【0053】
図12では、赤外レーザの場合として、レーザ出力2.3kWで、比較的長い時間である130msec間、連続的に照射される際のパルス波形130Rが併せて示される。赤外レーザの場合は、グリーンレーザとは異なり、比較的高いレーザ出力(2.3kW)で連続的な照射が可能である。ただし、上述したように、赤外レーザの場合、必要な溶融幅を得るために蛇行を含んだ比較的長い照射位置の移動軌跡(連続的な照射時間)が必要となり、この場合、入熱量は、約312Jであり、図12に示すグリーンレーザの場合の入熱量である約80J(2パスの場合)に対して、有意に大きくなる。
【0054】
このようにして、本実施例によれば、グリーンレーザを利用することで、赤外レーザを利用する場合に比べて、コイル片52の線状導体60の材料(本例では銅)に対して高い吸収率を有するレーザビームによる溶接が可能となる。これにより、必要な溶融幅(図8に示す溶接対象箇所90の径方向の範囲D2参照)を得るために必要な照射位置の移動軌跡(時間)を比較的短く(小さく)できる。すなわち、比較的大きいビーム径による1回のパルス発振あたりの、増加されたキーホールに起因して、必要な溶融幅を得るために必要なパルス発振回数を比較的少なくできる。この結果、比較的少ない入熱量で、コイル片52間での必要な接合面積を確保することが可能となる。
【0055】
また、本実施例によれば、一の溶接対象箇所に対して2パス以上のグリーンレーザの照射を実行することが可能であり、この場合、溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合でも、溶接対象箇所90の全体にわたり深い溶け込みを確保しやすくなり、高い品質の溶接を実現できる。
【0056】
次に、図13以降を参照して、モータ1のステータ21の製造方法を説明しつつ、レーザビームによる溶接品質の評価方法の好ましい例について説明する。
【0057】
図13は、モータ1のステータ21の製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。図14及び図15は、酸化膜49の形成範囲の説明図であり、図14は、径方向に視た単品状態のコイル片52の先端部40を示す平面図であり、図15は、2つのコイル片52をそれらの先端部40同士を接合用に当接した状態を、径方向に視て示す平面図である。
【0058】
まず、本製造方法は、コイル片52を準備する準備工程(ステップS150)を含む。本実施例では、準備工程で準備されるコイル片52は、図6を参照して上述したように、絶縁被膜62が除去された先端部40を有する。
【0059】
ついで、本製造方法は、コイル片52の先端部40における線状導体60に、母材(線状導体60の材料)よりも電気抵抗が有意に高い抵抗層を付与する抵抗層(酸化膜)付与工程(ステップS151)を含む。
【0060】
本実施例では、コイル片52の先端部40における線状導体60に、かかる抵抗層として、酸化膜49を形成する。なお、他の実施例では、抵抗層として、抵抗性材料が塗布されてもよい。
【0061】
酸化膜49は、任意の方法で形成されてよいが、好ましくは、レーザ照射により形成される。この場合、コイル片52の先端部40における酸化膜形成範囲にレーザを照射することにより、先端部40の表面を変質させることで酸化膜49を形成できる。これにより、先端部40の当接面401に有意な段差や凹凸を形成することなく、酸化膜49を先端部40の表面上に形成できる。この結果、2つの先端部40を径方向に当接させて接合する際の、当接面401を介した2つの先端部40間の密着性を高めることができる。
【0062】
酸化膜49は、コイル片52の先端部40における上述した当接面401を形成する側の表面に形成される。すなわち、互いに径方向で当接して接合される2つの先端部40については、当該2つの先端部40は、互いに対して当接する側の表面に、酸化膜49が形成される。酸化膜49は、互いに径方向で当接して接合される2つの先端部40のそれぞれに同様に形成されてもよい。ただし、変形例では、酸化膜49は、互いに径方向で当接して接合される2つの先端部40のうちの一方にだけ形成されてもよい。この場合、当該一方の先端部40は、他方の先端部40に当接する側の表面に、酸化膜49が形成される。
【0063】
本実施例では、好ましくは、酸化膜49は、図14にハッチング範囲により酸化膜形成範囲140で示すように、先端部40同士の当接範囲401A内に設定される。この場合、酸化膜形成範囲140は、当接範囲401A内の一部であり、先端部40同士の接合範囲141よりも外側に延在する。換言すると、当接する2つの先端部40のそれぞれにおいて、当接範囲401Aは、酸化膜形成範囲140と、酸化膜49が形成されない範囲145とからなる。そして、酸化膜49が形成されない範囲は、接合範囲141に含まれる。接合範囲141は、溶融池が形成される範囲(すなわち母材が溶融する範囲)に対応する。なお、変形例では、酸化膜形成範囲140の一部(例えば内周部)は、接合範囲141内に含まれてもよいし、酸化膜49が形成されない範囲の一部は、接合範囲141外に延在してもよい。
【0064】
また、本実施例では、一の先端部40に係る酸化膜形成範囲140は連続した一の範囲であるが、不連続な複数の範囲の組み合わせにより実現されてもよい。
【0065】
このようにして、本実施例では、コイル片52の先端部40は、当接面401内の一部に酸化膜49が形成される。
【0066】
ついで、本製造方法は、コイル片52をステータコア22に組み付ける組付工程(ステップS152)を含む。
【0067】
ついで、本製造方法は、組付工程後に、各対となるコイル片52のそれぞれの先端部40同士が径方向に当接するようにセットするセット工程(ステップS153)を含む。
【0068】
本実施例では、セット工程が完了すると、図15に示すように、各対となるコイル片52のそれぞれの先端部40同士が、酸化膜形成範囲140が当接範囲401Aに部分的に含められる態様で、径方向に当接し合う。すなわち、セット工程が完了すると、図14に示すように、各対となるコイル片52のそれぞれの先端部40同士は、接合範囲141に対応する範囲141A(以下、「接合予定範囲141A」とも称する)と、酸化膜形成範囲140とが当接範囲401A全体を形成する態様で、径方向に当接し合う。なお、セット工程では、治具等を用いて、このような当接状態が実現かつ維持されてよい。
【0069】
ついで、本製造方法は、セット工程後に、上述したように溶接対象箇所90にレーザビーム110を照射する照射工程(ステップS154)を含む。なお、セット工程と照射工程は、1つ以上の所定数の溶接対象箇所90ごとにセットで実行されてもよいし、一のステータ21に係るすべての溶接対象箇所90に対して、一括的に実行されてもよい。
【0070】
照射工程では、2つの先端部40間の当接範囲401Aのうちの、接合予定範囲141A全体が溶融して接合範囲141となるように、レーザビーム110が照射される。この際、酸化膜形成範囲140は上述したように接合範囲141の外側に延在するので、酸化膜49の少なくとも一部は溶融することなく残る。
【0071】
ついで、本製造方法は、接合した2つの先端部40の間の電気抵抗に関連する値を測定する評価工程(ステップS155)を更に含む。本実施例では、電気抵抗に関連する値は、一例として、電位差である。この場合、接合した2つの先端部40の間の電位差が大きいほど、同2つの先端部40の間の抵抗が大きいことを意味する。なお、2つの先端部40の間の電位差を測定する際の測定位置は、例えば図15に示すような、非当接面上の各位置P151、P152であってよい。
【0072】
図16は、接合面積と電位差との関係の説明図であり、横軸に接合面積を取り、縦軸に電位差をとったときの、両者の関係を表す特性が曲線C15、C15Aで示されている。曲線C15は、酸化膜49が形成された場合の特性を示し、曲線C15Aは、酸化膜49が形成されていない場合の特性を示す。
【0073】
なお、接合面積は、径方向に視たときの接合範囲141の面積であり、当該面積が大きいほど接合の信頼性が高くなる。
【0074】
図16に示すように、酸化膜49が形成された場合、酸化膜49が形成されていない場合に比べて、電位差の変化に対する接合面積の変化が大きく、その分だけ、接合面積を精度良く評価できることが分かる。具体的には、酸化膜49が形成されていない場合、曲線C15Aに示すように、接合面積がΔS2だけ変化する際に変化する電位差は、およそ80μVであるのに対して、酸化膜49が形成された場合、曲線C15に示すように、接合面積がΔS1だけ変化する際に変化する電位差は、100μV以上である。接合面積の変化量ΔS1とΔS2は、略同じであることから、上述したように、酸化膜49が形成された場合、電位差の変化に対する接合面積の変化が大きいことが分かる。
【0075】
従って、本実施例では、上述したように酸化膜49が形成された2つの先端部40を接合した後に、当該2つの先端部40の間の電位差を測定することで、当該2つの先端部40の間の接合面積及びそれに伴い接合部の信頼性を精度良く評価できる。
【0076】
ところで、図16に示すような特性は、グリーンレーザによるレーザ溶接に限られず、赤外レーザによるレーザ溶接においても同様に現れる。従って、本実施例による酸化膜の形成態様は、赤外レーザによる溶接部にも適用可能である。
【0077】
なお、電位差の変化に対する接合面積の変化は、当接範囲401Aにおける接合範囲141を除く範囲に占める酸化膜形成範囲140が大きいほど大きくなる傾向がある。従って、酸化膜形成範囲140は、好ましくは、上述したように、当接範囲401Aにおける接合範囲141を除く範囲全体を含む。この場合、酸化膜形成範囲140は、接合範囲141に隣接又は重複する態様で設定されてよい。
【0078】
なお、本製造方法は、このような評価工程後に、適宜、必要な各種の工程を行うことで、ステータ21を完成させて終了してよい。
【0079】
このようにして、本製造方法によれば、上述した抵抗層(酸化膜)付与工程(ステップS151)と、セット工程(ステップS153)と、照射工程(ステップS154)とにより、コイル片52の先端部40同士をレーザ溶接により接合する接合工程を適切に実行できる。
【0080】
特に本実施例によれば、上述したように酸化膜49を付与した先端部40同士をレーザ溶接により接合するので、先端部40の間の接合面積及びそれに伴い接合部の信頼性を精度良く評価できる。これより、先端部40の間の接合部に係る信頼性の高いステータ21を得ることができる。
【0081】
また、本製造方法によれば、上述したように、酸化膜49は、当接範囲401A内の一部(酸化膜形成範囲140内)にのみ形成されるので、当接範囲401Aの全体にわたって形成される場合に比べて、酸化膜49を形成する際の効率を高めることができる。すなわち、酸化膜49を形成するためのレーザ照射範囲の低減を図り、酸化膜49を形成する際の効率を高めることができる。
【0082】
また、本製造方法によれば、酸化膜形成範囲140は、接合予定範囲141Aに隣接又は重複する態様で形成できるので、接合予定範囲141A内の比較的広い範囲にわたって酸化膜49が形成される場合の不都合(例えば溶接欠陥の発生)を回避できる。このような観点(例えば溶接欠陥を低減する観点)から、上述したセット工程は、好ましくは、2つの先端部40のそれぞれにおける当接範囲401Aのうちの、酸化膜形成範囲140以外の範囲同士が重なるように実行される。この場合、径方向に視て一方の先端部40の接合予定範囲141Aと他方の先端部40の酸化膜49とが重なる範囲を最小化でき、酸化膜49に起因した溶接欠陥の可能性を最小化できる。
【0083】
なお、本製造方法では、上述した抵抗層(酸化膜)付与工程(ステップS151)は、組付工程(ステップS152)前に実行されているが、組付工程(ステップS152)後であって、セット工程(ステップS153)前に実行されてもよい。
【0084】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0085】
例えば、上述した実施例では、図6に示すように軸方向外側端面42が凸の円弧面に加工された先端部40を有するコイル片52同士を、図7に示すように径方向に当接させることで、溶接対象箇所90を形成しているが、これに限られない。例えば、このような加工がなされていない先端部40(すなわち径方向に視て軸方向外側端面42が直線状に延びて先端面につながる構成)を有するコイル片同士を径方向に当接させることで、当接面に沿って同様の溶接対象箇所90を形成してもよい。この場合、コイル片同士は、先端部40(加工がなされていない先端部40)同士が径方向に視てX字状に交差する態様又は径方向に視てC字状又はL字状をなす態様で、径方向に当接されてもよい。この場合も、酸化膜形成範囲は、上述した実施例と同様に、2つの先端部40の少なくともいずれか一方の表面おいて、2つの先端部40間の当接範囲内における一部であって接合範囲141外の範囲を含むように設定されればよい。
【0086】
また、上述した実施例では、レーザ溶接は、レーザビーム110が軸方向外側端面42に照射されることで、コイル片52の幅方向に溶接深さを有する態様で実現されるが、これに限られない。レーザ溶接は、レーザビーム110が当接面401に対して直角な方向に照射されることで、当接する2つの先端部40を貫通する溶接部が形成される態様で実現されてもよい。この場合も、酸化膜形成範囲は、上述した実施例と同様に、2つの先端部40の少なくともいずれか一方の表面おいて、2つの先端部40間の当接範囲内における一部であって接合範囲141外の範囲を含むように設定されればよい。
【0087】
また、上述した実施例において、酸化膜49は、コイル片52の先端部40における上述した当接面401を形成する側の表面に加えて、反対側の表面にも形成されてもよい。この場合、セット工程において、コイル片52の先端部40の表裏を考慮することなく、2つの先端部40同士を当接させることができる。
【0088】
また、上述した実施例は、コイル片52の先端部40同士の接合に関するが、コイル片52の先端部40と、バスバーの端部との間の接合にも適用可能である。この場合、バスバーの端部に接合されるコイル片52の先端部40は、動力線や中性点を形成する渡り部の先端部であってよい。
【0089】
例えば、図17には、端子台70に保持されるバスバーの端部80、81とコイル片52Aの先端部40Aとが互いに接合される。なお、この場合、端子台70に保持されるバスバーの一部は、端子台70内において3相の外部端子71に電気的に接続される。このようなバスバーの端部80、81とコイル片52Aの先端部40Aとの間の接合部に対しても、本実施例による酸化膜49の形成態様が適用されてもよい。この場合、溶接対象箇所は、バスバーの端部80、81とコイル片52Aの先端部40Aのそれぞれの先端面に現れる当接面の縁部に設定されてもよい。この場合も、酸化膜形成範囲は、上述した実施例と同様に、バスバーの端部80(端部81も同様)及び先端部40Aの少なくともいずれか一方の表面おいて、バスバーの端部80(端部81も同様)と先端部40Aの間の当接範囲内の一部であって接合範囲外の範囲を含むように設定されればよい。なお、図17において、L方向は軸方向に対応し、R方向は、径方向に対応し、R1側は径方向内側に対応し、R2側は径方向外側に対応する。なお、図17では、バスバーの端部80、81とコイル片52Aの先端部40Aは、径方向又は軸方向に視て完全に重なる態様で当接されているが、特定の方向(例えば周方向)に視てX字状に交差する態様又はC字状又はL字状をなす態様で、特定の方向に当接されてもよい。この場合、溶接対象箇所90は、当接面の軸方向外側の縁部に沿って直線状に設定されてよい。この場合も、酸化膜形成範囲は、上述した実施例と同様に、バスバーの端部80(端部81も同様)及び先端部40Aの少なくともいずれか一方の表面おいて、バスバーの端部80(端部81も同様)と先端部40Aの間の当接範囲内の一部であって接合範囲外の範囲を含むように設定されればよい。
【0090】
また、上述した実施例は、酸化膜形成範囲140は、当接範囲401A内に設定されるが、当接範囲401A外にはみ出す場合があってもよい。これは、セット工程では、常に一定の当接範囲401Aを実現することができない場合があるためである。
【符号の説明】
【0091】
1・・・モータ(回転電機)、24・・・ステータコイル、52・・・コイル片、40・・・先端部(端部)、49・・・酸化膜、22・・・ステータコア、80、81・・・バスバーの端部、110・・・レーザビーム、140・・・酸化膜形成範囲(第1範囲)、141・・・接合範囲、酸化膜が形成されない範囲145(第2範囲の一例)、401A・・・当接範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17