(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】増加した耐用年数を伴う車両ブレーキ用電気機械式アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20240425BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20240425BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20240425BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20240425BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20240425BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20240425BHJP
【FI】
B60T13/74 G
F16D63/00 A
F16D65/16
F16H25/20 B
F16H25/20 E
F16D121:24
F16D125:40
(21)【出願番号】P 2021572427
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 FR2020050961
(87)【国際公開番号】W WO2020245548
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-02-27
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】521375151
【氏名又は名称】ヒタチ アステモ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルー,ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】デュパス,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】モリナロ,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ギグノン,セドリック
(72)【発明者】
【氏名】アヤチェ,マーク
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/082205(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0321773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
F16D 63/00
F16D 65/16
F16H 25/20
F16D 121/24
F16D 125/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ブレーキのための電気機械式アクチュエータ(6)であって、定格強度(In)の電流を引き込む電気モータ(12)と、スクリュ・ナット・タイプの移動変換器(14)とを包含し、
前記移動変換器(14)が、長さ方向に沿って延びる軸(AX)を伴うねじ(17)および前記ねじ(17)によって担持されるナット(16)のうちの一方とする駆動要素を含み、前記ねじおよび前記ナットのそれぞれが、互いに協働するねじ山を包含し、かつ、
前記移動変換器(14)が、前記ねじ(17)および前記ナット(16)のうちの他方に対応する被駆動要素を含み、前記駆動要素は、前記電気モータ(12)に回転結合され、かつ前記長さ方向に沿った平行移動が固定され、前記被駆動要素は、回転が固定され、かつ前記長さ方向に沿った平行移動が自在であり、この被駆動要素が、前記駆動要素の回転に応答して前記長さ方向に移動する構成であり、
それにおいて、少なくとも1つの特異性(27)が、前記長さ方向に沿った前記被駆動要素の前記移動に沿ったあらかじめ決定済みの位置において前記ねじ(17)上に形成され、前記特異性が、前記被駆動要素が前記あらかじめ決定済みの位置を通るときに、前記被駆動要素の進みに対する抵抗を変化させて前記モータを通って流れる前記電流の前記定格強度(In)における変化を生じさせるための手段を形成することを特徴とする、電気機械式アクチュエータ(6)。
【請求項2】
前記モータを通る前記電流の定格強度(In)における前記変化は、強度の増加である、請求項1に記載の電気機械式アクチュエータ。
【請求項3】
前記特異性(27)は、前記ねじのオーバーサイズねじ山部分である、請求項1に記載の電気機械式アクチュエータ。
【請求項4】
少なくとも1つのブレーキ・シュー(3、4)と、先行する請求項のいずれかに記載の電気機械式アクチュエータ(6)を包含し、前記電気機械式アクチュエータの前記被駆動要素が、前記シューが制動されるべき回転表面(22)を圧するブレーキング位置と、前記シューの完全な引き込み位置との間のそれの移動において前記シュー(3、4)と随伴するように備えられる、自動車ブレーキ。
【請求項5】
前記被駆動要素は、前記シューの前記引き込み方向において完全な引き込み位置にそれが到達する前に、前記あらかじめ決定済みの位置に遭遇する、請求項4に記載のブレーキ。
【請求項6】
前記電気機械式アクチュエータ(6)は、駐車および/または緊急ブレーキを提供する構成である、請求項4乃至5のいずれかに記載のブレーキ。
【請求項7】
さらに、前記少なくとも1つのブレーキ・シュー(3、4)と協働して常用ブレーキを提供する構成である油圧アクチュエータ(5)を包含する、請求項6に記載のブレーキ。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれかに記載の前記電気機械式アクチュエータの前記被駆動要素の前記位置を監視するための方法であって、
前記被駆動要素が前記あらかじめ決定済みの位置を通るときに引き起される前記定格強度(In)における前記変動に関して強度閾値(S)を設定するステップと、
前記長さ方向に沿った前記被駆動要素の前記移動の間における前記定格強度(In)の測定値を取り、これらの測定値と前記強度閾値(S)を比較するステップと、
を包含する方法。
【請求項9】
さらに、
前記電気モータ(12)に対する電流の提供を、それが引き込む前記定格強度(In)が前記
強度閾値(S)に達すると停止するステップと、
停止される前記被駆動要素の前記位置を、前記定格強度(In)が前記強度
閾値(S)に達した瞬間と、前記モータの停止が実現する瞬間との間における前記駆動要素の前記回転を考慮することによって評価するステップと、
を包含する、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械タイプの自動車ブレーキの分野に、より正確に述べれば、車両ブレーキ用電気機械式アクチュエータに関係する。また本発明は、電気機械式アクチュエータを伴ったドラム・ブレーキ、特に駐車ブレーキを適用するためのそれにも関係する。
【背景技術】
【0002】
電気機械タイプの車両ブレーキにおいては、摩擦ライニングを担持しているシューの選択的な移動を電気的に作動させることが周知である。ブレーキが装備された車両の車輪に回転可能に接続された回転表面を摩擦ライニングが圧する制動位置と、摩擦ライニングが回転表面から離れて広がる休止位置との間におけるシューの移動が、電気機械式アクチュエータによってコントロールされる。
【0003】
この電気機械式アクチュエータは、モータによって引き込まれる電流を規制する計算機によってコントロールされる電気モータを含み、このモータが、回転がロックされて平行移動自在のナットが装着されたウォームねじを回転駆動し、それが、このねじに沿って移動し、シューの移動がそれに伴う。
【0004】
ブレーキ適用/ブレーキ解放の各サイクルの間において、ブレーキが適正に動作していることを保証するために、ねじに沿ったナットの休止の位置が、位置センサおよび収集したデータの処理のための関連する系の追加を招くことなく分かることが望ましい。
【0005】
このため、回転する表面に関してねじの遠位端に備えられたストッパをナットが圧するまで、ブレーキ適用ステップの間に提供されるモードとは反対のモードでモータを動作させることが知られている。このストッパを圧しているナットは、ナットが、したがって、シューが完全に引き込まれる位置として知られる休止位置を構成する。
【0006】
この引き込み位置に到達したとき、ナットの進み抵抗が急激に増加し、ナットの力における力の増加を引き起してストッパに対する締め付けが生じ、この締め付けが、モータを通って流れる電流の定格強度における増加のピークに反映される。続いて計算機が、ナットが完全に引き込まれたことの指標に対応する、あらかじめ定義済みの閾値を超える強度値を検出し、モータに対する電力供給の停止を生じさせる。
【0007】
実際問題としては、ナットが当接した瞬間と、実際に電力供給が停止される瞬間との間に、計算機の応答時間に対応する特定の時間が経過する。この応答時間の持続期間にわたって、モータは、ねじを回転駆動し、ストッパに対するナットの締め付けを続ける。これらの、ブレーキの動作寿命全体を通じて反復されるストッパに対するナットの力の上昇は、アクチュエータの構成要素を損傷し、特にモータの早期劣化を引き起す可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、構成要素を損傷の危険に曝すことなく、ねじに沿ったナットの位置を知るための車両ブレーキ用電気機械式アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明の1つの目的は、定格強度の電流を引き込む電気モータと、スクリュ・ナット・タイプの移動変換器とを包含する自動車用ブレーキのための電気機械式アクチュエータであり、
前記移動変換器が、長さ方向に沿って延びる軸を伴うねじおよび前記ねじによって担持されるナットのうちの一方とする駆動要素を含み、前記ねじおよび前記ナットのそれぞれが、互いに協働するねじ山を包含し、かつ、
前記移動変換器が、前記ねじおよび前記ナットのうちの他方に対応する被駆動要素を含み、前記駆動要素は、前記電気モータに回転結合され、かつ前記長さ方向に沿った平行移動が固定され、前記被駆動要素は、回転が固定され、かつ前記長さ方向に沿った平行移動が自在であり、前記被駆動要素が、前記駆動要素の回転に応答して前記長さ方向に沿って移動し、
それにおいて、前記長さ方向に沿う前記被駆動要素の前記移動に沿った少なくとも1つのあらかじめ決定済みの位置において前記被駆動要素の進みに対する抵抗を変化させるための少なくとも1つの手段を、前記被駆動要素が前記あらかじめ決定済みの位置を通るときに前記モータを通って流れる前記電流の前記定格強度に変化を生じさせるために含むことを特徴とする。
【0010】
この解決策を用いれば、前記あらかじめ決定済みの位置を通るときに、それが前記電気モータによって引き込まれる前記電流の前記定格強度における変化に対応することから、前記アクチュエータの構成要素に、より詳細には前記電気モータに特定の損傷をもたらすことなく、前記被駆動要素の前記位置を知ることが可能である。
【0011】
本発明の別の目的は、このようにして定義される電気機械式アクチュエータであり、それにおいて、前記被駆動要素が前記あらかじめ決定済みの位置を通るときの前記モータを通って流れる前記電流の定格強度における前記変化は、強度の増加である。
【0012】
本発明の別の目的は、このようにして定義される電気機械式アクチュエータであり、それにおいて、前記被駆動要素の進みに対する前記抵抗を変化させるための前記手段は、前記ねじの一部に沿って延びる圧縮弾性戻し部材である。
【0013】
本発明の別の目的は、このようにして定義される電気機械式アクチュエータであり、それにおいて、前記弾性戻し部材は、ばね、好ましくはあらかじめ応力が加えられたばねである。
【0014】
本発明の別の目的は、このようにして定義される電気機械式アクチュエータであり、それにおいて、前記被駆動要素の進みに対する前記抵抗を変化させるための前記手段は、前記ねじの上に形成された特異性である。
【0015】
本発明の別の目的は、このようにして定義される電気機械式アクチュエータであり、それにおいて、前記特異性は、前記ねじのオーバーサイズねじ山部分である。
【0016】
本発明の別の目的は、少なくとも1つのブレーキ・シューと、このようにして定義される電気機械式アクチュエータとを包含し、前記電気機械式アクチュエータの前記被駆動要素が、前記シューが制動されるべき回転表面を圧するブレーキング位置と、前記シューの完全な引き込み位置との間のそれの移動において前記シューと随伴するように配される、自動車ブレーキである。
【0017】
本発明の別の目的は、このようにして定義されるブレーキであり、それにおいて、前記手段は、前記被駆動要素に、前記シューの前記引き込み方向において完全な引き込み位置にそれが到達する前に、前記あらかじめ決定済みの位置との遭遇を生じさせるべく配される。
【0018】
本発明の別の目的は、このようにして定義されるブレーキであり、それにおいて、前記電気機械式アクチュエータは、駐車および/または緊急ブレーキを提供する。
【0019】
また本発明は、このようにして定義される電気機械式アクチュエータの前記被駆動要素の前記位置を監視するための方法にも関係し、その方法は、
前記進みを変化する手段による偏りがあるときに、前記被駆動要素の進みに対するあらかじめ定義済みの抵抗によって引き起される前記定格強度内における変動に関する強度閾値であって、前記あらかじめ決定済みの部分において前記定格強度が到達するとして定義される閾値を設定するステップと、
前記長さ方向に沿った前記被駆動要素の前記移動の間における前記定格強度の測定値を取り、これらの測定値と前記強度閾値を比較するステップと、
を包含する。
【0020】
また本発明は、このようにして定義される方法であって、
前記電気モータに対する電流の提供を、それが引き込む前記定格強度が前記閾値に達すると停止するステップと、
停止される前記被駆動要素の前記位置を、前記定格強度が前記強度スレッショルドに達した瞬間と、前記モータの停止が実現する瞬間との間における前記駆動要素の前記回転を考慮することによって評価するステップと、
を包含する方法にも関係する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に従ったドラム・ブレーキの斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様に従った、長さ方向に移動するナットと、その移動に抗するばねとを包含する電気機械式アクチュエータをはじめ、ナットの進みの関数として定格強度の応答をシミュレートしたこの構造に関連付けされるグラフを示した説明図である。
【
図3】本発明の第2の実施態様に従った、長さ方向に移動するナットと、ナットの移動に抗する不規則なねじ山付きのねじとを包含する電気機械式アクチュエータをはじめ、ナットの進みの関数として定格強度の応答をシミュレートしたこの構造に関連付けされるグラフを示した説明図である。
【
図4】本発明の第3の実施態様に従った、長さ方向に移動するねじと、その移動に抗するばねとを包含する電気機械式アクチュエータを示した説明図である。
【
図5】本発明の第4の実施態様に従った、長さ方向に移動するねじと、その移動に抗する不規則なねじ山とを包含する電気機械式アクチュエータを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照すると、ドラム・ブレーキ1が表されており、図示されていないが、制動されるべきドラムの回転面に押し当てられるように半径方向に移動可能な円弧形状の第1および第2のブレーキ・シュー3および4が装備された回転プレート2を包含する。
【0023】
シュー3および4は、それぞれ、摩擦ライニング3b、4bを担持する円形リング部分の形状の平坦なシートメタル・コア3a、4aを有し、かつ互いに直径を挟んで対向してマウントされ、それらの端部が、プレート2によって担持された油圧ホイール・シリンダ5および電気機械式アクチュエータ6の両方を圧する。これらのシュー3および4は、また、2つの戻しばね7および8によって互いに向かって戻され、かつそれぞれは、いわゆるサイドばね9、10によってプレート2に押し付けられる。
【0024】
摩損調整ロッド11が、ホイール・シリンダ5に沿って延びており、ブレーキが休止しているときに第1のシュー3のコア3aを圧する第1の端部と、第2のシュー4のコア4aを圧する第2の端部とを有する。
【0025】
ホイール・シリンダ5は、油圧アクチュエータであり、第1のいわゆる「シンプレックス」動作モードに従ってドラム・ブレーキ1が使用されるときに作動されることになり、運転中の車両の制動に特に適合された漸進的なブレーキングを確保する。これは、2つのピストンによって両端が閉じられた円筒状の油圧チャンバを包含しており、油圧が増加するときにそれらのピストンが互いから離れる方向に移動して、シュー3および4の関連付けされている端部を押す。
【0026】
一方、電気機械式アクチュエータ6は、特にホイール・シリンダ5の非作動時に、いわゆる「デュオサーボ」動作モードでシューの関連付けされた端部を広げて車両の車輪の迅速かつ強力なロックを確実にすることをはじめ、それらをロック状態に維持することによって駐車ブレーキングを確保する。さらに、アクチュエータ6は、緊急ブレーキも提供する。
【0027】
図2に見られるとおり、本発明に従った電気機械式アクチュエータ6は、電気モータ12と、計算機13と、スクリュ・ナット・タイプの移動変換器14を包含する。計算機13は、モータ12が作動される間のそれへの電流の引き渡しを駆動する。この計算機13は、モータ12の端子に配置され、モータによって引き込まれる電流の定格強度Inにおける変動を検出し、この電流の提供を中断してモータを停止させることが可能である。
【0028】
移動変換器14は、ナット16と、モータ12によって直接または、モータ出力において測定される回転速度の減速を確保するモータ減速機18を介して間接的に回転駆動されるねじ17とを包含する。ねじ17は、長さ方向に軸AXを伴い、ナット16の雌ねじと協働する雄ねじを構成し、このねじによってこのナットが担持されている。特にねじ17は、平行移動が固定されており、ナットは、回転がロックされているが、ねじに沿った平行移動自在である。
【0029】
ナット16は、ブレーキ1のシュー3および4のうちの、この種の電気機械式アクチュエータ6が装備される1つに、選択的にそれを、22によってマークされている回転ドラム表面に押し付けるため、また、この回転表面22からそれを離すために、それの移動において随伴することが意図されている。
【0030】
より正確に述べれば、Xによってマークされているナット16のストロークが、Xbfとして示されている、ナットが完全に引き込まれた位置を表す固定ストッパ23を形成するアクチュエータ6の固定部分と、Xbmとして示され、かつ破線により示されている、ブレーキング位置、すなわち、摩擦ライニング3bまたは4bが回転表面22と接触する位置を表す、いわゆる可動ストッパとの間の範囲となる。固定ストッパ23は、回転表面22に関するねじ17の遠位端の延長として配置される。一方、可動ストッパの位置は、ブレーキ適用/ブレーキ解放の各サイクルに伴って摩損する摩擦ライニング3bの厚さによって決定され、したがって、この可動ストッパは、漸進的に回転表面22に向かって固定ストッパ23から離れる。
【0031】
本発明の根底をなす概念は、少なくとも1つのあらかじめ決定済みの位置をナットが通るときにモータを通って流れる電流の強度を変化させるために、このあらかじめ決定済みの位置においてナットの進みに対する抵抗を変化させる、ストッパからある距離に配置される手段を伴う電気機械式アクチュエータ6を装備することである。
【0032】
本発明の第1の実施態様によれば、電気機械式アクチュエータ6が、ばね、例えばコイルばね26を包含し、
図2に見ることができるとおり、固定ストッパ23に取り付けられたばねの第1の端部から、固定ストッパ23からある距離で延びる第2の端部まで、ねじ17の一部にわたって延びる。この解決策を用いると、ナット16が固定ストッパ23へ向かって平行移動しているときに、そのばねの第2の端部を圧すると、ばねが固定ストッパとナットの間に挟まれ、このナットの進みに抗する力を作用させる。
【0033】
この構成を用いると、測定される強度Inは、ナット16がばねの第2の端部と接するまで概して一定であり、ナットの進みのこのレベルがXeとして示されている。ナットが固定ストッパ23へ向かって移動を継続するとき、モータ12によって引き込まれる電流Inが増加して、ナットの進みに対する抵抗を打ち消す。
【0034】
図2の例においては、強度曲線の時間経過がばねの性質の関数になり、すなわちそれのばね定数および構造に従うことを前提とすれば、この強度における増加が傾斜に追従し、言い換えると線形増加となるが、本発明がこの特徴に限定されないことは理解され得る。
【0035】
本発明は、ナットの実際の停止が、ナットが完全に押し付けられる前に、言い換えるとそれの全長に到達する前に実行されるように、ばねの性質および計算機の応答時間を考慮に入れた、計算機13が電力供給の停止を生じさせる、Sとして示されている強度閾値の設定を提供すると、理解され得る。これは、完全に圧縮されたばね26が、固定ストッパ23と同じ態様で作用することになり、それに対するナットの締め付けが生じることになるからである。
【0036】
ねじのピッチと、強度にあらかじめ決定済みの変化を引き起すばね26のばね定数と、計算機13の応答時間が、所定の応用について既知のデータであることから、したがって、停止されるナットの位置を、電流の強度Inにおける上昇以降のねじによってなされる回転の数に関して決定することが可能である。この構成を用いると、
図2に破線として見ることができるが、本発明に従ったアクチュエータ6が、このようにしてねじに沿ったナットの位置を知ることを可能にし、同時にその一方で、強度のピークおよび損傷を導く固定ストッパ23に対するナットの締め付けを防止する。
【0037】
ばね26がその第1の端部においてナット16に取り付けられ、進みレベルXeにおいて固定ストッパ23と接触する代替、またはばねがねじ17上にフローティング・マウントされる代替構成は、本発明の範囲からの逸脱を伴うことなく取り入れることが可能である。フローティング構成を用いる場合は、固定ストッパへ向かうナットの移動においてそれが進みレベルXeに到達するまで、言い換えると、固定ストッパとナットの間の測定距離がばねの長さに対応し、固定ストッパとナット両方に対するばねの接触を示すときまで、ナット16と固定ストッパ23の間においてばね26が移動自在である。
【0038】
また本発明は、より大きな抵抗をナットの進みに提供するように、ばね26の予負荷も都合よく提供する。その種の構成は、電流強度においてより迅速な増加に向かう傾向を可能にし、その結果としてより迅速なナットの停止を助け、予負荷のないばねの使用との比較において、より少ないナットの移動で強度が閾値Sに到達することを可能にする。
【0039】
第2の実施態様によれば、ナットの進みに対する抵抗における変化が、ねじの不規則なねじ山を用いて達成される。
【0040】
ばね26を除き、
図2の構造と同じ電気機械式アクチュエータを使用する
図3の例においては、ねじ17が、27としてマークされているねじ山がオーバーサイズ部分を包含する。オーバーサイズ部分27は、可動および固定ストッパからある距離に配置された2つの端部の間を範囲とし、ねじ17とナット16の間の局所的な摩擦を、後者がねじ上を移動するときに増加させ、その結果として、ナットの進みに対する抵抗を増加させる。定格強度Inは、ナット16がオーバーサイズ部分27を通るときに矩形波の形状で変化する。より正確に述べれば、強度Inは、ナットの進みの、それとオーバーサイズ部分27との係合に対応するXiとして示されているレベルから傾斜の形状で連続的に増加する。これは、この部分27に沿ってナットがさらに進み、ナットがそれとより多く噛み合うことを考えると摩擦がより大きくなることから、漸進的に増加する。非限定的な態様においては、長さ方向に沿ったオーバーサイズ部分27の長さがナットのそれより大きいとき、その結果として、所定の進み以降は、この部分にナットが完全に噛み合う。このポイントから、定格強度Inは、ナットがオーバーサイズ部分27との係合解除を開始し、傾斜の形で定格強度Inの減少を導くまで一定の変化に従う。Xfとして示されている進みのポイントにおいてこのねじ山部分27からナットが完全に係合解除された後は、電流が、この部分27の上をナットが通過する前に測定されていた値に対応する一定値を示す。
【0041】
この実施態様においては、計算機13が電力供給の停止を生じさせる強度閾値Sが、オーバーサイズ部分27のレベルにおいてナット16が回転するときに測定されるより低い値を有するように、言い換えると、計算機がオーバーシュートを検出するように定義されることが理解され得る。第1の実施態様における場合と同様に、固定および可動ストッパからある距離において停止されるナット16の位置は、電流強度Inにおける増加以降にねじによってなされた回転の数に関して決定することが可能である。
【0042】
図2および3の例においては、ねじ17が駆動要素であり、ナット16が被駆動要素であり、ねじの回転運動がナットの平行移動運動に変換されるが、ばね26またはねじ山上に形成されるオーバーサイズ部分27の追加は、逆転した構成のために適用することも可能な解決策である。言い換えると、これらの解決策は、ナット16が駆動要素となり、ねじ17が被駆動要素となる場合においても適用可能である。その構成を用いた場合が
図4および5に図解されているが、電気モータ12によって回転駆動されるナット16の回転運動が、ねじの端部に備えられたシュー3を直接移動させるために、ねじ17の平行移動運動に変換される。ねじ17が、このシューとシューに面するねじの端部の間に介挿される部品を用いてシューを間接的に押す構成は、本発明の範囲から逸脱しないことは理解され得る。
【0043】
したがって、
図4に見ることができる電気機械式アクチュエータの第3の実施態様においては、第1のモードの場合と同じ構成要素が使用されるが、異なる調整がなされており、ばね26が、戻しばね7および8の作用の下にシューが保持される端部に取り付けられることによってねじ17の部分に沿って延びている。ナット16は、ねじ17が回転表面22から離れる方向に移動するとき、すなわち、シューの引き込み方向に沿って移動するときに、ばね26が圧する固定ストッパを形成する。これに関して言えば、この第3の実施態様の場合における定格強度が、第1の実施態様の場合と同じ態様で変化することが理解され得る。その強度は、ばねを固定的に担持するねじの端部がナットに近づけば、ばねがこのナットを圧することから増加する。第1の実施態様の場合と同じ態様において、ばね26の弾性的な戻りの効果の下におけるねじ17の進みに対する抵抗の増加に応答して、この強度Inの増加が閾値Sを超えると、計算機13によってそれが検出される。
【0044】
代替実施態様においては、第1の実施態様の場合と同じ態様で本発明は、ばね26の第1の端部がナット16に取り付けられるか、またはばね26が、ナット16と、戻しばねの効果の下にねじ17を圧して保持されるシュー3または4との間のねじ17上にフローティング・マウントされることを提供する。
【0045】
最後に、第4の実施態様によれば、第2の実施態様の場合と同じ構成要素を使用するが、
図5に見ることができるとおり、異なる調整がなされており、ねじ17がナット16を通るときにねじ17の進みに対する抵抗の増加を同じ態様で引き起すオーバーサイズねじ山部分27を包含する。力におけるこの増加は、強度Inにおける増加に反映され、第2の実施態様の場合として図解されているそれに対応する。
【0046】
シュー3または4の引き込み方向において、モータを通って流れる電流の定格強度(In)の変化を導くような、ばね26またはオーバーサイズ部分27の特定の配置について本発明を説明してきた。この構成を用いると、被駆動要素の位置を決定することが可能であり、シューが完全に引き込まれた位置に到達する前に電力供給の停止を命令することも可能である。その結果として、アクチュエータの耐用年数が増加する。
【0047】
必要に応じてばね26またはオーバーサイズ部分27の場所を変更できることから、本発明は、この目的に限定されないことが理解され得る。言い換えると、これらの要素は、被駆動要素の移動に対する偏りから結果としてもたらされる強度における変化が、完全な引き込み位置の直近以外の特定の位置を示すように配置され得る。
【0048】
例として、それらの配置は、引き起される定格強度Inにおける変化が、シューの摩擦ライニング3bまたは4bがほとんど完全に使い尽くされていることを示し、その種のアクチュエータが装備された車両のユーザにシューの交換を促すように定義できる。第1の実施態様に従った構造の場合においては、その種の結果が、ナット16とシューの間のねじ17に沿ってばねを配置することによって獲得される。
【0049】
特に、いくつかの特定の位置が示されるように、電気機械式アクチュエータが複数のばねを包含すること、または異なる場所に不規則なねじ山を有することができてもよい。
【0050】
第1および第3の実施態様の範囲内においては、本発明が、被駆動要素の進みに対する抵抗が、コイルばねの弾性的な戻りによって提供される場合について説明されている。しかしながら、また、任意のほかの形式のばね、または圧縮の弾性的な戻りを確保するそのほかの部材も、それが、あらかじめ決定済みの位置において被駆動要素の進みに抗する力を作用させるように取り付けられるか、またはそれの移動における範囲が設定される限りにおいて企図可能である。一例として述べるが、コイルばね26をリーフによって置き換え、それの一端をアクチュエータ6の固定された部分に取り付け、他端を被駆動要素のストローク上に配置し、弾性変形によって進みに対する抵抗を達成することが可能である。また、カスケードつなぎされて有意のばね定数を伴うばねを形成する、皿ばねワッシャとしても知られるばねワッシャの使用もまた、あらかじめ応力が加えられる従来的なばねの使用の効果的な代用である。
【0051】
第2および第4の実施態様の範囲内においては、本発明が、オーバーサイズを伴って形成されるオーバーサイズ部分27の形成によって説明されているが、その部分を、ねじ山上に材料を堆積させた薄い層によって形成できること、またはねじ17から突出する針先状の突起の範囲に限定できることは理解され得る。また、本発明は、それとは逆に強度Inに降下を生じさせるように、ねじ山のアンダーサイズ部分または窪み部分を提供することも可能である。この代替においては、閾値Sは、それを下回ると計算機13に電力供給の停止が促される最小値として定義されると、理解され得る。具体的に述べれば、第2の実施態様または第4の実施態様に従った電気機械式アクチュエータは、電気モータ12によって引き込まれる電流の定格強度Inにおける変化を引き起す特異性をねじ山に有する。
【0052】
概して言えば、本発明に従った電気機械式アクチュエータ6は、被駆動要素の進みに対する抵抗を、回転運動を平行移動に変換する駆動要素に関するそれのあらかじめ決定済みの位置において変化させるため、すなわち増加または減少させるための少なくとも1つの手段を包含し、好都合にはそれが、互いに噛み合うナットおよびねじから選択される。進みに対する抵抗における変化は、定格強度Inの曲線上に、計算機または任意のそのほかの類似のデバイスを用いて測定可能なイベントを引き起し、したがって、被駆動要素の位置を評価することを可能にする。
【0053】
シューを有するドラム・ブレーキに装備される場合について電気機械式アクチュエータ6を説明してきたが、ブレーキ・ディスクと相対的にブレーキ・パッドを移動させる駆動要素を伴うディスク・ブレーキのための応用は、本発明の範囲からの逸脱を伴うことなく取り入れることができる。概して言えば、本発明に従った電気機械式アクチュエータ6は、シューまたはパッドと呼ばれるブロックが、制動されるべき回転表面に対して選択的に移動されることを可能にする。
【符号の説明】
【0054】
1 ドラム・ブレーキ
2 プレート
3、4 ブレーキ・シュー
3a、4a コア
3b、4b 摩擦ライニング
5 ホイール・シリンダ
6 電気機械式アクチュエータ
7、8 戻しばね
9、10 サイドばね
11 摩損調整ロッド
12 電気モータ
13 計算機
14 移動変換器
16 ナット
17 ねじ
18 モータ減速機
22 回転ドラム表面
23 固定ストッパ
26 ばね
27 オーバーサイズねじ山部分
AX 長さ方向に沿ったねじの軸
S スレッショルドの強度
X ナットのストローク
Xbf、Xbm、Xe、Xi、Xf ナットの特定の位置