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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】工作機械用レーザ切断ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/38 20140101AFI20240425BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240425BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20240425BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B23K26/00 M
B23K26/064 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022548066
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-03
(86)【国際出願番号】 IB2021050909
(87)【国際公開番号】W WO2021156788
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】102020000002476
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】507385752
【氏名又は名称】サルヴァニーニ イタリア エッセ.ピ.ア.
【氏名又は名称原語表記】SALVAGNINI ITALIA S.p.A.
【住所又は居所原語表記】VIA GUIDO SALVAGNINI, 51, I-36040 SAREGO (VI), ITALY
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】サンビ,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】アンツォリン,ガブリエル
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/170412(WO,A1)
【文献】特開2008-233088(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017131224(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0190040(US,A1)
【文献】特開2006-088216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B23K 26/00
B23K 26/064
B23K 26/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械と連動可能なレーザ切断ヘッド(1)であって、
-レーザ発光装置からのレーザビーム(L)をコリメートするコリメートグループ(2);
-前記コリメートグループ(2)からコリメートされて出射する前記レーザビーム(L)を焦点(F)に集束させる集束グループ(5);
-前記コリメートグループ(2)と前記集束グループ(5)の少なくとも一方を支持し、調整方向(X)に沿って移動させる支持・移動手段(7);
-前記集束グループ(5)から集束されて出射する前記レーザビーム(L)を受光し、受光された前記レーザビーム(L)の集束された第1部分(L1)を反射する、少なくとも1つの光学素子(8;38);
-前記支持・移動手段(7)を操作して、前記調整方向(X)に沿って前記コリメートグループ(2)と前記集束グループ(5)の少なくとも一方を移動させるように適合された、電子プロセッサ(12)と、を備えるレーザ切断ヘッド(1)において、
前記レーザビーム(L)の前記集束された第1部分(L1)を受光し、前記集束された第1部分(L1)の波面の位相測定を行い、前記位相測定に基づいて再構成された波面を得、前記再構成された波面を前記電子プロセッサ(12)に送るように適合された少なくとも1つの波面センサ(9)、を備え、
前記電子プロセッサが、前記再構成された波面と基準波面との比較を行い、前記比較に基づいて、前記レーザビーム(L)で生じる一つまたは複数の光学収差を決定し、前記支持・移動手段(7)を操作して前記一つまたは複数の光学収差を低減させ、前記焦点(F)を変化させることを特徴とする、レーザ切断ヘッド(1)。
【請求項2】
前記基準波面が、光学収差のない理想的な波面、または事前定義された光学収差の影響を受けた所定の波面であり、前記電子プロセッサ(12)が、前記1つまたは複数の光学収差がそれぞれ、最小化、特にゼロ化されるか、または前記事前定義された光学収差以下となるように前記支持・移動手段(7)を操作するように、構成されている、請求項1に記載のレーザ切断ヘッド(1)。
【請求項3】
工作機械と連動可能なレーザ切断ヘッド(1)であって、
-レーザ発光装置からのレーザビーム(L)をコリメートするコリメートグループ(2);
-前記コリメートグループ(2)からコリメートされて出射する前記レーザビーム(L)を焦点(F)に集束させる集束グループ(5);
-調整可能な形状を有する少なくとも1つの適応光学デバイス(10);
-前記集束グループ(5)から集束されて出射する前記レーザビーム(L)を受光し、受光された前記レーザビーム(L)の集束された第1部分(L1)を反射する、少なくとも1つの光学素子(8;38);
-前記適応光学デバイス(10)の形状を調整するように適合された、電子プロセッサ(12)と、を備えるレーザ切断ヘッド(1)において、
前記レーザビーム(L)の前記集束された第1部分(L1)を受光し、前記集束された第1部分(L1)の波面の位相測定を行い、前記位相測定に基づいて再構成された波面を得、前記再構成された波面を前記電子プロセッサ(12)に送るように適合された少なくとも1つの波面センサ(9)、を備え、
前記電子プロセッサ(12)が、前記再構成された波面と基準波面との比較を行い、前記比較に基づいて、前記レーザビーム(L)で生じる一つまたは複数の光学収差を決定し、前記適応光学デバイス(10)の形状を調整して前記一つまたは複数の光学収差を低減させ、前記焦点(F)を変化させることを特徴とする、レーザ切断ヘッド(1)。
【請求項4】
前記基準波面が、光学収差のない理想的な波面、または事前定義された光学収差の影響を受けた所定の波面であり、前記電子プロセッサ(12)が、前記1つまたは複数の光学収差がそれぞれ、最小化、特にゼロ化されるか、または前記事前定義された光学収差以下となるように前記適応光学デバイス(10)の形状を調整するように、構成されている、請求項3に記載のレーザ切断ヘッド(1)。
【請求項5】
前記適応光学デバイス(10)が、前記レーザビーム(L)の伝搬方向(P)を基準にして前記集束グループ(5)の上流側に配置されている、請求項3または4に記載のレーザ切断ヘッド(1)。
【請求項6】
前記少なくとも1つの波面センサ(9)が、シャックハルトマン型である、請求項1~5の何れか1項に記載のレーザ切断ヘッド(1)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの光学素子(8;38)がビーム分離器であり、特にキューブ型ビームスプリッタ(CBS)、光学プリズムおよび半透明ガラスから選択される、請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザ切断ヘッド(1)。
【請求項8】
少なくとも前記コリメートグループ(2)、前記集束グループ(5)、前記支持・移動手段(7)および少なくとも1つの前記光学素子(8)を収容するように適合された内部空間(20)を形成するケーシング手段(15)を含む、請求項1及び2の何れか1項、または請求項1を直接または間接的に引用する請求項6及び7の何れか1項に記載のレーザ切断セット(1)。
【請求項9】
前記光学素子(38)が、前記レーザ切断ヘッド(1)の前記内部空間(20)を外部環境から分離するように適合されている、請求項8に記載のレーザ切断ヘッド(1)。
【請求項10】
前記ケーシング手段(15)が、前記レーザビーム(L)の前記集束した第1部分(L1)を外部環境に向けて伝送するための透明光学素子(11)によって気密に密閉された側面開口部(53)を備え、前記波面センサ(9)が、前記ケーシング手段(15)の外部にある、請求項8または9に記載のレーザ切断ヘッド(1)。
【請求項11】
前記レーザ発光装置が、ファイバレーザである、請求項1~10の何れか1項に記載のレーザ切断ヘッド(1)。
【請求項12】
ワークピース(100)のレーザ切断を制御するための方法であって、
-工作機械に連動したレーザ切断ヘッド(1)によって前記ワークピース(100)のレーザ切断を行うステップ;
-前記レーザ切断ヘッド(1)に、レーザビーム(L)を供給するステップ;
-前記レーザビーム(L)をコリメートし、焦点(F)で集束させるステップ;
-前記集束されたレーザビーム(L)の少なくとも1つの集束された第1部分(LI)を反射するステップ;
-前記少なくとも1つの集束された第1部分(L1)の波面の位相測定を行うステップ;
-前記位相測定に基づいて再構成された波面を得るステップ;
-前記再構成された波面と基準波面との比較を行うステップ;
-前記比較に基づいて、前記レーザビーム(L)で生じる一つまたは複数の光学収差を決定するステップ;
-前記レーザビーム(L)の前記焦点(F)を変化させるために、前記レーザビーム(L)で生じる前記1つまたは複数の光学収差を低減させるステップ、を含む、方法。
【請求項13】
前記基準波面が、光学収差のない理想的な波面であり、かつ前記低減が、前記1つまたは複数の光学収差を最小化、特にゼロ化することを含むか、または前記基準波面が、事前定義された光学収差の影響を受けたターゲット波面であり、かつ前記方法が、前記事前定義された光学収差以下となるように前記光学収差を低減させるステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記位相測定を行うステップ、および再構成された波面を得るステップが、波面センサ(9)によって実施される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記光学収差が事前設定された閾値を超えるときにエラー信号を発するステップを更に含む、請求項12~14の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断工作機械用のレーザ切断装置に関し、特に、金属板用の切断機または複合切断/パンチング機における光ファイバレーザ切断システムに使用されるレーザ切断ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板およびプレートを加工する工作機械の分野では、ワークピースの切断、彫刻、および溶接のためにレーザシステムを使用することは周知であり、広く普及している。
【0003】
周知のように、前記レーザシステムは、励起放出プロセスによって、単色光、すなわち、単一波長を有し空間においてコヒーレントで極めて高い光度(輝度)を有するビームに集中された光、を放出することができる装置である。非常に狭い領域に多量のエネルギーを集中させることができるため、レーザ装置は、金属の切断、彫刻、および溶接を行うことができる。金属材料の切断は、通常、気化、とりわけ溶融によって行われる。溶融の場合、レーザビームがワークピースの狭い領域を溶かし、溶けた金属(スラグ)は、ガスの吹き付けまたは噴射によって取り除かれる。
【0004】
前記レーザ発光装置内では、金属の切断に適したレーザビームを発生させるために、さまざまな種類のレーザ源を使用することができる。ガスレーザ(二酸化炭素、一酸化炭素、CO)、および固体レーザ(ドープガラスレーザダイオード、ファイバレーザ)が、一般的に使用される。
【0005】
板金、特に厚い板金の切断には、高エネルギーが必要なため、前記レーザ発光装置は、その寸法と重量とにより、工作機械上に直接配置することができない。この欠点を克服するために、レーザ切断ヘッド、より簡単に言えば切断ヘッドまたは集束ヘッドが、工作機械上に配置され、光学チェーン(COレーザ)または伝送ファイバ(光ファイバ、例えばYAGレーザダイオード)を介して前記レーザ発光装置に接続され得、前記発光装置によって発生したレーザビームを射出してワークピース上に集束する。前記切断ヘッドは、サイズが小さく軽量であるため、実際に工作機械によって精密かつ速く移動して、製品の切断を行うことができる。
【0006】
いわゆるファイバレーザ切断システムでは、レーザビームを切断ヘッドに伝送するために、拡散プリズムを備えた光ファイバケーブルが使用され、前記切断ヘッドは通常、光ファイバからの光ビームを、ワークピースにレーザビームを集束することができる(すなわち、その焦点をワークピースの表面上の設定点に、またはその真下もしくは真上に位置決めすることができる)集束グループ、へ伝送する、コリメートグループを備える。
【0007】
金属の溶融によって発生したスラグを除去するために使用される、ガスの吹き付けまたは噴射を集中させてスラグが前記集束グループに到達する可能性を減少させるノズルを介して、集束された前記レーザビームは、前記切断ヘッドから出射する。この目的のために、前記ノズルには、透明な要素、または保護窓もしくは保護ガラスも設けられ、これにより、前記切断ヘッドの内部が外部環境から分離され、前記集束グループから出射するレーザビームの通過が可能になる。
【0008】
材料を正確に切断するためには、レーザビームのすべてのパワーが集中する焦点の正確な位置決めが、重要である。
【0009】
しかし、レーザ切断ヘッド、特に高出力のものでは、一般に「熱フォーカスシフト」として知られる現象が発生し、焦点ぼけまたはぼやけといった光学収差、すなわち、以下に詳しく説明するように、所望の最適な点(ピースの表面上、またはその真下もしくは真上)に対する焦点のシフトが、引き起こされる。
【0010】
周知のように、コリメート光学グループおよび集束光学グループのレンズを通過するレーザビームのエネルギーのごく一部は、主に光学素子(コーティングおよび基板)の非絶対的な透明性のため、吸収されて熱に変換される。また、レンズ表面に一般的に生じる表面層の汚染および/または損傷によって、更なる熱吸収が生じることもある。
【0011】
工作機械を長時間使用すると、特に非常に高いレーザ出力を使用すると、かなりの熱吸収が発生し、その結果、切断ヘッド全体の温度が上昇する。この温度上昇は、前記切断ヘッドを形成するすべての光学素子、すなわち前記伝送ファイバの拡散プリズム、前記コリメートグループ、前記集束グループ、および分離ガラス(特に後の2つは、ワークピースに、または非常に高い温度が集中するワークピースの溶融領域に、非常に近い)に影響を与え、レンズの屈折率とその形状の両方に変化を生じさせる。温度上昇により屈折率とレンズ形状が変化することで、焦点位置がずれる。
【0012】
「熱フォーカスシフト」現象を補正するために、レーザビームの集束を可能にするするために、レーザビームの方向と平行な調整方向に沿って直線的に移動可能なトレイまたはレンズ保持スライド上に取り付けられた集束グループのレンズを適切に移動させることによって、焦点位置を調整することができる。あるいは、前記集束グループのレンズが固定されていることが適切または必要とされる場合、ワークピース上の焦点位置の正確な位置決めは、それぞれの直線的に移動可能なトレイまたはスライド上に取り付けられた前記コリメートグループのレンズを適切に移動させることによって、達成される。
【0013】
前記集束グループまたは前記コリメートグループの移動は、ワークピースに投射されたレーザビームを目視してオペレータが手動で制御するか、または焦点のシフトを自動測定して数値制御することにより、可能である。しかし、目視や手動制御では、処理精度や再現性がオペレータの能力に依存し、質の高い処理が難しい一方、焦点シフトの測定には多大な時間と高価な装置を必要とし、工作機械におけるコストアップにつながる。
【0014】
更に、熱吸収は、球面収差、コマ収差、および非点収差などの一連の更なる収差も引き起こし、これらはレーザビームの波面、特にレーザビーム内の電磁強度の分布にも影響を与え、切断機能の低下または切断の実行不能の一因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、金属板の切断工作機械または複合切断/パンチング工作機械に使用される公知のレーザ切断ヘッド、特にファイバ光レーザ切断ヘッドを改良することである。
【0016】
他の目的は、特に非常に高いレーザ出力で、またレーザ切断ヘッドが取り付けられた工作機械を激しくかつ長時間使用した場合にも、切断精度と再現性を確保できるレーザ切断ヘッドを得ることである。
【0017】
更なる目的は、前記切断ヘッドから出射するレーザビームの波面に影響を与える複数の光学収差を、簡単かつ効果的な方法で測定し、低減することができるレーザ切断ヘッドを得ることである。
【0018】
他の目的は、コンパクトな形状および特に限定された寸法を有し、経済的で容易に製造することができるレーザ切断ヘッドを得ることである。
【0019】
これらおよび他の目的は、以下に記載する請求項によるレーザ切断ヘッドによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、その例示的かつ非限定的な実施形態を示す添付図面を参照することにより、よりよく理解され、実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態による本発明のレーザ切断ヘッドの簡略化した断面図である。
図2図1のレーザ切断ヘッドの変形例の簡略化した断面図である。
図3】他の実施形態による本発明のレーザ切断ヘッドの簡略化した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明によるレーザ切断ヘッド1の第1実施形態を示し、これは、切断用の切断工作機械または複合切断/パンチング工作機械、および例えば板金の機械ピース100と連動可能である。
【0023】
前記レーザ切断ヘッド1は、図示しないレーザ発光装置により、光チェーンまたは伝送ファイバなどの光伝送手段4を介して、駆動可能である。特に、前記発光装置は、例えば高出力の固体ファイバレーザ誘導発光装置であり、前記光伝送手段4は、前記発光装置で生じたレーザビームLを前記レーザ切断ヘッド1に伝送するための光ファイバケーブルを備え、前記レーザ切断ヘッド1は、レーザビームLを出射し、前記レーザ切断ヘッド1に面するピース100の表面101上、または前記表面101の直下もしくは直上に位置する焦点Fにおいて、レーザビームLを集束可能である。
【0024】
前記レーザ切断ヘッド1は、前記レーザ発光装置からのレーザ光Lをコリメートするための少なくとも1つのコリメートレンズ3を含むコリメートグループ2と、前記コリメートグループ2からコリメートされて出射するレーザ光Lを焦点Fに集束するための少なくとも1つの集束レンズ6を含む集束グループ5と、を備える。
【0025】
支持・移動手段7は、前記レーザビームLの前記焦点Fを変化させるために、前記コリメートグループ2と前記集束グループ5の少なくとも一方、例えば図1に示される実施形態では集束グループ5のみを支持し、調整方向Xに沿って移動させる。前記支持・移動手段7は、調整方向Xに沿って前記集束グループ5を摺動可能に支持し案内するためのリニアガイド手段71を含み、レーザビームLの焦点Fの移動および/または前記ピース100上の焦点Fのサイズおよび/または形状の変化をもたらす調整方向Xと直交する方向のシフトおよび/または振動、を防止する。
【0026】
前記レーザ切断ヘッド1は、前記集束グループ5から集束されて出射する前記レーザビームLを受光し、受光された前記レーザビームLの集束された第1部分L1を所定の反射角(例えば約10°~約100°)で反射し、同じく受光された前記レーザビームLの集束された第2部分L2を前記焦点Fに伝送するための、少なくとも一つの光学素子8、を更に備える。前記光学素子8は、例えばビーム分離器、特にキューブ型ビームスプリッタ(CBS)、光学プリズムおよび半透明ミラーのうちから選択される。前記レーザ切断ヘッド1のケーシング手段15は、少なくとも前記コリメートグループ2、前記集束グループ5、前記支持・移動手段7、および前記光学素子8を収容するように適合された内部空間20、を形成する。
【0027】
前記内部空間20は、前記レーザ切断ヘッド1が配置される外部環境から閉じられ、気密に密閉されている。すなわち、前記ケーシング手段15は、前記コリメートレンズ3、前記集束レンズ5および前記光学素子8を汚染するかまたは前記支持・移動手段7の作動を妨げる恐れのある汚染物質や異物(特にレーザ切断によって発生するスラグや固体状およびガス状の残留物)が内部空間20へ侵入することを、防止する。
【0028】
この目的のために、実質的に円筒形状、平行六面体形状または複雑な幾何学的形状を有し得る前記ケーシング手段15は、光伝送手段4に連結され前記発光装置によって生じる前記レーザビームLが内部空間20へ入ることを可能にする入口開口部51、前記レーザビームLの集束された第1部分LIを外部環境に向けて伝送するための透明光学素子11によって気密に密閉された側面開口部53、切断ノズル30に配置され分離ガラス32によって気密に密閉された出口開口部52、を備えている。前記分離ガラス32は、前記レーザ切断ヘッド1の前記内部空間20を外部環境から分離するように適合されていることに加えて、コリメートされかつ集束されたレーザビームL(特に集束された前記第2部分L2)の、前記レーザ切断ヘッド1から外部環境への伝送を、可能にする。
【0029】
前記切断ノズル30は、前記ワークピース100を溶融することによって生じるスラグを除去することを意図したガスの吹き付けまたは噴射を集中させ、同時に、前記スラグが前記レーザ切断ヘッド1の内部に到達する可能性を減少させ、上記の結果がもたらされる。
【0030】
リニアガイド手段71および更なる回転防止手段も、前記ケーシング手段15の内部に収容されており、特にその内壁に固定されている。前記回転防止手段は、既知のタイプの手段であり、図には詳細に示されていないが、前記コリメートグループ2および前記集束グループ5の移動の際に前記支持・移動手段7が調整方向Xに平行な軸を中心に回転することを防止するように、配置されている。レンズ、特に前記コリメートレンズ3の回転により、実際、レーザビームLの焦点Fのシフトと、前記ピース100上のかかる焦点Fのサイズおよび/または形状における変動とが、引き起こされる可能性がある。前記レーザ切断ヘッド1はまた、既知のタイプの、更に詳しくは説明されない、例えばシャックハルトマン型波面センサである波面センサ9と、前記波面センサ9および前記支持・移動手段7(特に前記リニアガイド手段71)の両方に接続されている電子プロセッサ12と、を備える。
【0031】
図示の実施形態では前記ケーシング手段15の外側に配置されている前記波面センサ9は、前記ケーシング手段15の前記側面開口部53を密閉する前記透明光学素子11、を通過する前記レーザビームLの集束された前記第1部分L1を受光し、集束された前記第1部分L1の波面の位相測定を行い(前記第1部分L1は特に、集束された前記第1部分L1の伝搬方向PIを基準として前記波面センサ9の上流側に配置される各コリメート光学システム19、によってコリメートされる)、次いで、前記位相測定に基づいて再構成された波面を得、前記再構成された波面を前記電子プロセッサ12に送るように、適合されている。
【0032】
次に、前記電子プロセッサ12は、前記波面センサ9によって得られる前記再構成された波面と、基準波面との比較を実行し、その結果、かかる比較に基づいて、前記レーザビームLの集束した前記第1部分LIで生じる1つまたは複数の光学収差、を決定するように、構成される。
【0033】
前記ピース100に到達して加工するレーザビームLの集束した第2部分L2に対して、集束された前記第1部分L1は、前記透明光学素子11(側面開口部53を密閉し、前記集束された第1部分L1がそこを通過して前記波面センサ9に到達する)が原因となる更なる光学収差を生じさせることに、留意されたい。システム精度を向上させるために、前記更なる光学収差は、有利には、例えば前記レーザ切断ヘッド1の初期または定期的な較正によって、前記電子プロセッサ12に通知される。
【0034】
前記再構成された波面と比較される基準波面は、例えば、前記ピース100の高精度な加工が要求される場合には、光学収差のない理想的な波面であり得、例えば、前記ピース100の加工が、それほど厳しくない精度要件を満たす必要がある場合には、事前定義された光学収差の影響を受ける所定の波面であり得る。
【0035】
次に、前記電子プロセッサ12は、前記集束された第1部分L1のみで生じる更なる収差を考慮して、レーザビームL(特に集束された前記第2部分L2)の光学収差を低減し前記焦点Fを変化させるために、調整方向Xに沿って、前記コリメートグループ2および/または前記集束グループ5(特に図1に示される実施形態では前記集束グループのみ)を移動させるように、前記支持・移動手段7を操作することが、可能である。
【0036】
より詳細には、そして既に強調したことを参照すると、高精度加工の場合、すなわち光学収差のない理想的な基準波面を有する場合、前記電子プロセッサ12は、前記支持・移動手段7を操作し、結果としてレーザビームLの光学収差を最小化させ、特にゼロにして、前記焦点Fをそれに応じて変化させるように、構成され、一方、それほど厳しくない精度が要求される加工の場合、すなわち事前定義された光学収差の影響を受ける所定の基準波面の場合には、前記電子プロセッサ12は、前記レーザビームLの光学収差が、かかる事前定義された光学収差以下となるように前記支持・移動手段7を操作し、それに応じて前記焦点Fを変化させるように、構成されている。有利には、前記電子プロセッサ12は、既知のタイプの、図には示されていないアラーム装置、例えば、視覚的および/または音響的なアラーム装置を、制御することができる。前記電子プロセッサ12は、レーザビームLで生じる光学収差が、例えばユーザによって先験的に設定された所定の閾値を超えたことを検出すると、視覚および/または音響エラー信号を生じるアラーム装置に、起動信号を送信する。それによって、ユーザは、レーザビームLが正しい焦点Fに集中されないために、前記ピース100が、閾値を超える収差を生じる前記レーザビームLによって不可逆的に損傷を受け、よって、前記ピース100に害がもたらされる前に、前記ピース100の加工を停止することができる。
【0037】
工作機械と連動した使用が開始されると、前記レーザ切断ヘッド1は、ピース100のレーザ切断を制御するための本発明による方法を、実行することができる。当該方法は、以下のステップ:
前記工作機械に連動した前記レーザ切断ヘッド1によって前記ピース100のレーザ切断を行うステップ;
前記レーザ切断ヘッド1に、レーザ発光装置からのレーザビームLを供給するステップ;
前記レーザビームLを、前記コリメートグループ2によってコリメートし、前記集束グループ5によって焦点Fで集束させるステップ;
前記光学素子8を介して、前記集束グループ5から集束されて出射する前記レーザビームLの少なくとも前記集束された第1部分LIを、反射するステップ;
前記波面センサ9を介して、前記集束された第1部分L1の波面の位相測定を行うステップ;
前記波面センサ9を介して、前記位相測定に基づいて再構成された波面を得るステップ;
前記電子プロセッサ12によって、前記再構成された波面と前記基準波面との比較を行うステップ;
前記電子プロセッサ12によって、前記比較に基づいて、前記レーザビームLで生じる一つまたは複数の光学収差を、決定するステップ;
前記焦点Fを変化させるために、前記レーザビームLで生じる光学収差を、特に再び前記電子プロセッサ12によって、低減させるステップ、を含む。
【0038】
これまで示されたことによれば、高精度の加工が要求される場合、すなわち基準波面が光学収差のない理想的な波面である場合、前記低減させるステップは、前述の1つまたは複数の光学収差を最小化、特にゼロにすることを含む。あるいは、あまり厳しくない精度要件の加工が要求され、したがって前記基準波面が事前定義された光学収差の影響を受ける所定の波面である場合、本発明に係る方法は、前記光学収差を、事前定義された光学収差以下となるように低減させるステップを含む。有利には、前記光学収差が、ユーザによって先験的に設定された所定の閾値を超えるとき、本発明による方法は、前記電子プロセッサ12によって制御されるアラーム装置を介して、エラー信号を発するステップ、を含む。
【0039】
有利には、前記光学収差が、ユーザによって先験的に設定された所定の閾値を超えるとき、本発明による方法は、前記電子プロセッサ12によって制御されるアラーム装置を介してエラー信号を発するステップ、を含む。
【0040】
更に有利には、本発明による方法は、例えば一度工作機械のスイッチを入れたときに、または前記ピース100の加工中に定期的に、前記レーザ切断ヘッド1を較正するステップを、更に含み得る。それによって、特に、集束された前記第1部分LIで生じる、透明光学素子11によってもたらされる更なる光学収差を検出することが、可能となる。
【0041】
したがって、本発明のレーザ切断ヘッド1は、レーザ出力が極めて高く、前記レーザ切断ヘッド1が取り付けられた工作機械が激しく長時間使用される状況下でも、切断精度および再現性を確保することができる。
【0042】
前記電子プロセッサ12に接続される前記波面センサ9のおかげで、実際に、例えば「熱フォーカスシフト」による焦点のシフト、球面収差、コマ収差、および非点収差を含む複数の光学収差(特に工作機械を長時間および極めて高いレーザ出力で使用した場合に、これらは、切断ヘッドから出射する前記レーザビームLに影響を与え、すべての光学素子の温度上昇をもたらし、レンズの屈折率とその形状との両方に変化をもたらし、結果として焦点Fのシフトを引き起こす恐れがある)を測定することが可能になる。前記波面の測定に基づいて、前記電子プロセッサ12は、次に、光学システムの構造を変化させることができ、特に、前記コリメート光学グループ2および/または前記集束光学グループ5の前記支持・移動手段7を操作して、前記レーザビームLで生じる光学収差を容易かつ効果的に低減させ、したがって、焦点Fを変化させて、前記レーザビームLが、前記ピース100の表面101上またはその直下もしくは直上の所望の点に配置および集中されるようになる。
【0043】
図2に示される、本発明による前記レーザ切断ヘッド1の第1実施形態の1つの変形例では、前記切断ノズル30に配置される前記出口開口部52は、前記集束グループ5から集束されて出射するレーザビームLを受光し、受光された前記レーザビームLの集束された第1部分L1を、ある反射角(例えば約10°~約100°)で反射し、受光された前記レーザビームLの集束された第2部分L2を前記焦点Fに伝送できる光学素子38、によって気密に密閉されている。前記光学素子38は、例えばビーム分離器であり、特にキューブ型ビームスプリッタ(CBS)、光学プリズムおよび半透明ミラーの中から選択される。
【0044】
前記光学素子38は、前記レーザ切断ヘッド1の前記内部空間20を外部環境から分離するように適合された分離ガラスとして配置される。このことにより、前記レーザ切断ヘッド1は、より少ない光学部品を必要とし、コンパクトな形状、特に限られた寸法および低減された重量を有し、したがって、特に厳しい寸法および取り扱い要件を有する工作機械と連動させるように、適合される。この変形例はまた、経済的であり、製造が容易である。
【0045】
図3は、本発明によるレーザ切断ヘッド1の第2実施形態を示し、この実施形態も、機械ピース100(例えば、板金)を切断および/またはパンチングするための、切断工作機械および/またはパンチング工作機械にそれぞれ連動させることができる。
【0046】
この第2の実施形態では、前記レーザ切断ヘッド1は、上述したものと同様の構成要素であり、同じ参照符号で示されており、すなわち、レーザ発光装置からのレーザビームLをコリメートするためのコリメートグループ2と、前記コリメートグループ2から出射したレーザビームLを焦点Fに集束するための集束グループ5と、前記集束グループ5から集束されて出射するレーザビームLを受光し、集束された第1部分L1を反射するための少なくとも一つの光学素子8と、電子プロセッサ12と、を備える。前記コリメートグループ2、前記集束グループ5および前記光学素子8は、前記ケーシング手段15の前記内部空間20に収容されている。特に、固定手段70は、前記コリメートグループ2および前記集束グループ5を支持し、それらを前記ケーシング手段15に対して固定された位置に保持する。
【0047】
図示しない1つの変形例では、前記集束されたレーザビームLを受光し、前記集束された第1部分L1を反射し、前記集束された第2部分L2を伝送する光学素子は、前記レーザ切断ヘッド1の前記内部空間20を外部環境から分離することを意図した分離ガラスとしても機能し、前記レーザ切断ヘッド1のコンパクトな形状、特に制限された寸法、軽量化および低コストという前述の利点を伴う。
【0048】
この第2の実施形態におけるレーザ切断ヘッド1は、調整可能な形状を有する少なくとも1つの適応光学デバイス10を備える。
【0049】
周知のように、前記適応光学デバイス10は、その変形可能性を実現するような厚さを有する適応光学素子16と、前記適応光学素子16の少なくとも一つの変形可能な表面17の形状をモデル化するために、前記適応光学素子16および前記電子プロセッサ12に接続され、図では示されない、圧電または電磁または電気機械アクチュエータから構成される適切な支持体と、を備える。このように、前記電子プロセッサ12は、前記適応光学素子16を支持する前記圧電または電磁アクチュエータを制御することによって、前記適応光学デバイス10の形状を調整することが可能である。
【0050】
前記適応光学デバイス10は、前記コリメートグループ2から前記集束グループ5に向かう前記レーザビームLの伝搬方向Pを基準として、前記集束グループ5の上流側、好ましくは、コリメートグループ2の下流側に、配置される。具体的には、図3を参照すると、前記発光装置によって発生し、前記光伝送手段4によって前記レーザ切断ヘッドに伝送されるレーザビームLは、前記コリメートグループ2からコリメートされて出射し、前記適応光学素子16の変形可能表面17に当たり、前記変形可能表面17によって前記伝播方向Pに沿って前記集束グループ5に向かって反射される。この第2実施形態によるレーザ切断ヘッド1は、前記レーザビームLの前記集束された第1部分LIを受光し、前記集束された第1部分LIの波面の位相測定を行い、この位相測定に基づいて再構成された波面を得、前記再構成された波面を前記電子プロセッサ12に伝送するように適合された少なくとも一つの波面センサ9、を備え得る。
【0051】
前記電子プロセッサ12は、前記再構成された波面と基準波面との比較を実行し、かかる比較に基づいて、前記集束された第1部分L1のみで生じる更なる光学収差を除く、前記レーザビームLで生じる1つまたは複数の光学収差を決定し、前記圧電アクチュエータまたは前記電磁アクチュエータを制御して前記適応光学素子10の形状を調整し、前記光学収差を低減させ、前記焦点Fを変化させるように、構成されている。
【0052】
既に示されたこと同様に、高精度加工の場合、前記基準波面は、光学収差のない理想的な波面であり、前記電子プロセッサ12は、前記レーザビームLの光学収差を最小化、特にゼロ化し、それによって前記焦点Fを変化させるために、前記適応光学デバイス10の形状を調整するように、構成されている。あまり厳しくない精度要求の加工の場合、前記基準波面は、事前定義された光学収差の影響を受けた所定の波面であり、前記電子プロセッサ12は、前記レーザビームLの光学収差がかかる事前定義された光学収差以下となるように、適応光学デバイス10の形状を調整して前記焦点Fを変化させるように、構成されている。
【0053】
図示しない別の実施形態において、本発明によるレーザ切断ヘッド1は、前記コリメートグループ2および前記集束グループ5のうちの少なくとも1つを支持し調整方向Xに沿って移動させる支持・移動手段7と、適応光学デバイス10との両方を備え得、これらの構成要素は前記内部空間20に収容される。この場合、前記支持・移動手段7、および前記適応光学デバイス10のアクチュエータは、前記電子プロセッサ12に接続されている。前記電子プロセッサは、前記レーザビームLの光学収差を低減させ、前記焦点Fを変化させるために、前記光学グループの前記支持・移動手段7を操作することと、前記適応光学デバイス10の圧電アクチュエータまたは電磁アクチュエータを制御することの両方を、同時にまたは交互に行うことが可能である。
【0054】
図に示されるものの代わりに、前記波面センサ9は、前記ケーシング手段15の前記側面開口部53に配置されて気密に密閉してもよいし、前記レーザ切断ヘッド1の前記内部空間20の内部に配置されてもよく、この2番目の場合には、前記側面開口部53、および前記側面開口部を気密に密閉する透明光学素子11は、不要である。
【0055】
説明した更なる実施形態および変形例のいずれか1つによる、またはそれらの可能な組み合わせによるレーザ切断ヘッド1は、工作機械と連動して使用されるとき、既に示した内容に従って、ピース100のレーザ切断を制御するための本発明の方法のステップを実施することも、可能である。
【0056】
有利には、本発明のレーザ切断ヘッド1は、前記ケーシング手段15のそれぞれの壁に外部から固定される冷却ユニットと、前記支持・移動手段7または前記固定手段70からの熱、ならびに前記コリメート光学グループ2および前記集束光学グループ5からの熱(レーザビームLがそれらのグループを通過するときに発生する)を、熱伝導によって除去するために、前記支持・移動手段7または前記固定手段70を、前記ケーシング手段15の前記壁に接続する熱伝導手段と、を含んでもよい。この目的のために、前記支持・移動手段7、前記固定手段70、および前記ケーシング手段15の少なくともそれぞれの壁は、高い熱伝導率を有する材料で作製されている。
【0057】
図に示されていない本発明のレーザ切断ヘッド1のバージョンでは、前記コリメートレンズ3および前記集束レンズ6は、前記レンズを包んで冷却するように、前記レーザ切断ヘッド1の内部で、制御された温度で気体(通常は窒素)を導入することを含む、公知のタイプの冷却システムにより、冷却される。
図1
図2
図3