IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TPR株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-給電制御装置 図1
  • 特許-給電制御装置 図2
  • 特許-給電制御装置 図3
  • 特許-給電制御装置 図4
  • 特許-給電制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】給電制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/13 20160101AFI20240425BHJP
   B60K 5/00 20060101ALI20240425BHJP
   B62J 45/00 20200101ALI20240425BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20240425BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20240425BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20240425BHJP
   H02P 101/25 20150101ALN20240425BHJP
   H02P 101/45 20150101ALN20240425BHJP
【FI】
B60W20/13
B60K5/00 Z
B62J45/00
B60K6/46 ZHV
B60W10/02 900
H02P9/04 M
H02P101:25
H02P101:45
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023006090
(22)【出願日】2023-01-18
【審査請求日】2023-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河野 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】北村 隆敏
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037177(JP,A)
【文献】特開2013-005592(JP,A)
【文献】特開平07-255104(JP,A)
【文献】特開昭58-206446(JP,A)
【文献】特開2014-014202(JP,A)
【文献】特開2012-196105(JP,A)
【文献】特開2007-170181(JP,A)
【文献】特開2013-051772(JP,A)
【文献】特開2001-041073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60K 5/00
B62J 45/00
H02P 9/04
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車の駆動用バッテリに給電可能なエンジン駆動の移動体に搭載された給電制御装置であって、
前記移動体のエンジンによって駆動され発電する発電機と、
前記エンジンと前記発電機との間の動力伝達経路を断続可能なクラッチと、
前記発電機によって発電された電力を前記駆動用バッテリへ給電する給電部と、
前記給電部から前記駆動用バッテリへ給電が開始されたことを判断する給電開始判断部と、
前記給電開始判断部によって給電開始が判断されたとき前記クラッチを開放して前記エンジンの回転速度を上昇させるエンジン制御部と、
前記エンジン制御部によって前記エンジンの回転速度がクラッチ締結許容値より高くなったとき前記クラッチを滑らせながら徐々に締結させるクラッチ制御部と、
前記給電部を流れる電流値を検出する電流検出部と、を備え
前記給電開始判断部は、前記クラッチが締結された後に前記電流値が給電開始判断値より高くなったとき給電が開始されたと判断する、
ことを特徴とする給電制御装置。
【請求項2】
電気自動車の駆動用バッテリに給電可能なエンジン駆動の移動体に搭載された給電制御装置であって、
前記移動体のエンジンによって駆動され発電する発電機と、
前記エンジンと前記発電機との間の動力伝達経路を断続可能なクラッチと、
前記発電機によって発電された電力を前記駆動用バッテリへ給電する給電部と、
前記給電部から前記駆動用バッテリへ給電が開始されたことを判断する給電開始判断部と、
前記給電開始判断部によって給電開始が判断されたとき前記クラッチを開放して前記エンジンの回転速度を上昇させるエンジン制御部と、
前記エンジン制御部によって前記エンジンの回転速度がクラッチ締結許容値より高くなったとき前記クラッチを滑らせながら徐々に締結させるクラッチ制御部と、を備え、
前記給電開始判断部は、前記クラッチが締結された後に前記発電機の回転速度が所定の発電機回転速度より低下したとき給電が開始されたと判断する、
ことを特徴とする給電制御装置。
【請求項3】
電気自動車の駆動用バッテリに給電可能なエンジン駆動の移動体に搭載された給電制御装置であって、
前記移動体のエンジンによって駆動され発電する発電機と、
前記エンジンと前記発電機との間の動力伝達経路を断続可能なクラッチと、
前記発電機によって発電された電力を前記駆動用バッテリへ給電する給電部と、
前記給電部から前記駆動用バッテリへ給電が開始されたことを判断する給電開始判断部と、
前記給電開始判断部によって給電開始が判断されたとき前記クラッチを開放して前記エンジンの回転速度を上昇させるエンジン制御部と、
前記エンジン制御部によって前記エンジンの回転速度がクラッチ締結許容値より高くなったとき前記クラッチを滑らせながら徐々に締結させるクラッチ制御部と、を備え、
前記給電開始判断部は、前記クラッチが締結された後に前記エンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度より低下したとき給電が開始されたと判断する
ことを特徴とする給電制御装置。
【請求項4】
前記移動体は自動二輪車である
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の給電制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の駆動用バッテリに給電可能なエンジン駆動の移動体に搭載された給電制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は、走行中に駆動用バッテリのバッテリ残量がゼロになる、いわゆる電欠状態になると、駆動用の電動モータを回転させることができないため自走することができなくなる。また、エンジンによって駆動輪を駆動する従来の車両と比べて、相対的に航続距離が短いため自走不能となる可能性が高い。
【0003】
このような事態に対応するため、電源車が電欠発生現場に赴いて電欠した車両に最低限給電するロードサービスなどがある。しかし、エンジンを搭載したトラックなどの四輪自動車が電源車として用いられている。よって、例えば高速道路上で電欠した車両を起点に渋滞が生じている場合には、渋滞の車列の隙間を走行する必要があり、電欠発生現場に到達することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-088106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、自動二輪車のエンジンによって発電した電力を、冷蔵庫や電子レンジなどの家庭用電気機器に給電することが開示されている。このような自動二輪車を電欠した車両のための電源車として利用すると、車体が小型であるため渋滞の車列の隙間を容易に走行できると考えられる。
【0006】
しかし、電欠した車両への給電には発電容量の大きな発電機が必要であるが、自動二輪車のような小型の移動体に本来搭載されている小型の発電機(オルタネータ)では電欠車両への給電には容量不足となる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、エンジンを搭載した移動体に本来搭載されている小型の発電機(オルタネータ)とは別に付加した発電機を利用して電欠車両へ十分な給電を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面の給電制御装置は、電気自動車の駆動用バッテリに給電可能なエンジン駆動の移動体に搭載された給電制御装置であって、移動体のエンジンによって駆動され発電する発電機と、エンジンと発電機との間の動力伝達経路を断続可能なクラッチと、発電機によって発電された電力を駆動用バッテリへ給電する給電部と、給電部から駆動用バッテリへ給電が開始されたことを判断する給電開始判断部と、給電開始判断部によって給電開始が判断されたときクラッチを開放してエンジンの回転速度を上昇させるエンジン制御部と、エンジン制御部によってエンジンの回転速度がクラッチ締結許容値より高くなったときクラッチを滑らせながら徐々に締結させるクラッチ制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的小さなエンジンを搭載する移動体に新たな発電機を付加して、電欠車両へ十分な給電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る給電制御装置の概要を示す構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る給電制御装置が搭載された自動二輪車の概要を示す側面図である。
図3】本発明の実施形態に係る給電制御装置を用いて電気自動車に給電する際の手順を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る給電制御装置による給電開始時の処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係る給電制御装置による給電開始時の様子を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
[自動二輪車2の構成]
図1は、本実施形態に係る給電制御装置1の構成例を示す。図2は、給電制御装置1が搭載された自動二輪車2の外観を示している。
【0013】
[給電制御装置1の構成]
給電制御装置1は、エンジン11と、クランクシャフト12と、フライホイール13と、発電機14と、クラッチ15と、給電ユニット16と、コントローラ17とを備える。
【0014】
エンジン11は、自動二輪車2の走行駆動用のエンジンであり、自動二輪車2が走行するときは駆動輪31(図2)を駆動するためのトルクを発生させ、電気自動車に給電するときはクラッチ15の切り替え動作に応じて発電機14を駆動するためのトルクを発生させる。エンジン11の運転モードは作業者が切替スイッチ32(図2)を操作することで通常モードと給電モードとの間で切り替わる。エンジン11の気筒数や排気量に制限はなくあらゆるエンジンを採用可能であるが、本実施形態では自動二輪車に多く採用されている小型の単気筒250ccのエンジン11を例に挙げて説明する。
【0015】
クランクシャフト12は、クランクケース33(図2)に収納されており、エンジン11のピストン11aの往復運動に伴って図1の矢印の方向へ回転運動する棒状の部材であり、エンジン11が運転中は常に回転している。
【0016】
フライホイール13は、クランクシャフト12と同軸上に固定されクランクシャフト12とともに回転する。フライホイール13は、ある程度の重量を有する部材であり、エンジン11からクランクシャフト12に伝達された回転エネルギを蓄える。これにより、エンジン11から発電機14までの動力伝達経路の回転慣性モーメントが増大するので、エンジン11の負荷が急増した場合にエンジン11の回転速度の急低下を抑制することができる。
【0017】
発電機14は、ロータがクランクシャフト12と同軸上に配置された三相交流発電機であり、エンジン11の駆動力によってクランクシャフト12が回転することでロータが回転して電力を発電する。この発電機14は、自動二輪車2に搭載されてセルモータやスパークプラグに電力を供給するバッテリを充電するための、いわゆるオルタネータではなく、本実施形態の給電制御装置用に設けられるものである。
【0018】
クラッチ15は、クランクシャフト12をエンジン11側と発電機14側とに断続する位置に設けられる。すなわち、クラッチ15が締結状態であるときはエンジン11のトルクが発電機14に伝達され、クラッチ15が解放状態であるときはエンジン11のトルクは発電機14に伝達されない。
【0019】
給電部としての給電ユニット16は、発電機14と電気的に接続され、発電機14によって発電された電力を整流、変圧及び変換して電気自動車の駆動用バッテリ3へ給電する。
【0020】
給電開始判断部としてのコントローラ17は、自動二輪車2から電気自動車の駆動用バッテリ3への給電を行うときに、給電ユニット16の電流センサ71から送信される給電ユニット16内を流れる電流値に基づいてエンジン制御部18及びクラッチ制御部19に制御信号を送信する。なお、以下では、コントローラ17、エンジン制御部18及びクラッチ制御部19と、給電ユニット16とは、別体で設けられることとして説明するが、自動二輪車に搭載される際には、コントローラ17、エンジン制御部18及びクラッチ制御部19は給電ユニット16の内部に収装されていてもよいし、別体で搭載されていてもよい。
【0021】
エンジン制御部18は、コントローラ17からの信号に基づいてエンジン11の燃料噴射量を調整することでエンジン11の回転速度を変化させる。また、エンジン制御部18は、エンジン回転速度センサ20からエンジン11の回転速度に関する情報を受信して当該情報をコントローラ17へ送信する。エンジン制御部18は、通常の自動二輪車2に搭載されて、走行のためにエンジン11を制御するECU(エンジンコントロールユニット)とは別に、ECUとは独立して発電機14駆動のために燃料噴射量の調整を行う。これにより、既存のECUに改良を加えることなく低コストで給電制御装置1を自動二輪車2に搭載することができる。
【0022】
クラッチ制御部19は、コントローラ17からの信号に基づいてアクチュエータ21を作動させることでクラッチ15の締結力を変化させるとともに、アクチュエータ21からクラッチ15の締結状態に関する情報を受信して当該情報をコントローラ17へ送信する。
【0023】
給電ユニット16の詳細な構成について説明する。
【0024】
給電ユニット16は、発電機14から供給される三相交流電圧を直流電圧に変換する整流器51と、変換された直流電圧の大きさを安定化する平滑コンデンサ52と、安定化された直流電圧の脈流を低減する平滑リアクトル53と、から構成されるAC/DCコンバータ54によって交流電圧を直流電圧に変換する。
【0025】
AC/DCコンバータ54によって変換された直流電圧は、DC/DCコンバータ55によって昇圧され、再度平滑コンデンサ56で電圧の大きさを安定化した後、直流給電装置57に供給される、又はDC-ACコンバータ58によって交流電圧に変換されて交流給電装置59に供給される。
【0026】
直流給電装置57は、直流用給電プラグ61を有し、直流用給電プラグ61を電気自動車の駆動用バッテリ3の直流用ポート102に接続することで急速充電を行うことができる。直流給電装置57から供給される直流電圧は例えば50~400V程度に設定可能である。
【0027】
交流給電装置59は、交流用給電プラグ62を有し、交流用給電プラグ62を電気自動車の駆動用バッテリ3の交流用ポート103に接続することで普通充電を行うことができる。交流給電装置59から供給される交流電圧は例えば単相100Vや200Vなどの住宅用給電ユニットと同等の値に設定可能である。
【0028】
[給電処理]
図3は、本実施形態に係る給電制御装置1を用いて電気自動車に給電する際の手順を示すフローチャートである。
【0029】
電気自動車は、走行中に駆動用バッテリ3のバッテリ残量がゼロになる、いわゆる電欠状態になると、駆動用の電動モータを回転させることができないため自走することができなくなる。このような場合に、ロードサービスなどを介して救援要請を受けると、自動二輪車2が現場に急行する。
【0030】
ステップS1では、作業者が電欠状態にある電気自動車の充電ポートの近くに自動二輪車2を停車させ、直流用給電プラグ61を直流用ポート102に接続する。電欠状態で道路上に停車している電気自動車を一刻も早く移動させるためには急速充電を行う必要があるため、時間を要する交流電圧ではなく直流電圧を用いて給電を行う。
【0031】
ステップS2では、作業者が自動二輪車2のエンジン11を始動させる。作業者は通常時にエンジン11を始動するのと同様にイグニッションキーを回転させてエンジン11を始動し、その後、切替スイッチ32を手動で切り替えることで運転モードを通常モードから給電モードへと切り替える。なお、運転モードの切り替えはステップS1において直流用給電プラグ61が直流用ポート102に接続されたことで自動的に行われてもよい。エンジン11の回転速度は、アイドリング回転速度より高く、発電機14の回転速度が定格運転時に必要な回転速度となる定常回転速度、例えば3000rpmに調整される。
【0032】
ステップS3では、クラッチ15が締結される。これにより、エンジン11のトルクがクランクシャフト12を介して発電機14に伝達され、発電機14が発電を行う。クラッチ制御部19は、クラッチ15のアクチュエータ21に締結信号を送信してクラッチ15を締結させる。
【0033】
ステップS4では、給電開始時処理が行われる。
【0034】
ここで、給電開始時処理について図4を参照しながら説明する。図4は、本実施形態に係る給電制御装置1による給電開始時の処理を示すフローチャートである。
【0035】
ステップS41では、作業者が直流給電装置57の給電開始スイッチ(不図示)をON状態に切り替える。給電開始スイッチは、直流用給電プラグ61が直流用ポート102に適切に接続されることで自動的にON状態に切り替わるようにしてもよいし、手動で給電開始スイッチを切り替えるようにしてもよい。
【0036】
ステップS42では、コントローラ17は、給電が開始されたか否かを判断する。例えば、コントローラ17は、電流センサ71によって検出された電流値が給電開始判断値より高くなったとき給電が開始されたと判断する。ステップS3においてクラッチ15が締結されると発電機14が回転して発電が開始される。このとき、発電機14によって発電された交流電圧が給電ユニット16に印加されているので、ステップS41において給電開始スイッチがON状態に切り替わると、定格運転時の定常電流値を大きく上回る始動電流としての突入電流が流れる。給電開始判断値はこのような突入電流が流れていることを検出可能な値に設定される。この処理は、給電が開始されたと判断されるまで繰り返し行われ、給電が開始されたと判断されるとステップS43へ移行する。
【0037】
なお、本ステップでは電流センサ71によって検出された電流値が給電開始判断値より高くなったとき給電が開始されたと判断しているが、これに代えて、発電機14の回転速度が所定の発電機回転速度より低くなったとき給電が開始されたと判断してもよい。さらに、上記方法に代えて、エンジン11の回転速度が所定のエンジン回転速度より低くなったとき給電が開始されたと判断してもよい。さらに、上記した電流センサ71の検出値による判断、発電機14の回転速度による判断及びエンジン11の回転速度による判断を適宜組み合わせて判断してもよい。
【0038】
ステップS43では、クラッチ15が解放される。クラッチ15の解放は、コントローラ17からクラッチ制御部19に解放信号が送信され、クラッチ制御部19がクラッチ15のアクチュエータ21を作動させることで行われる。給電ユニット16に突入電流が流れると発電機14の負荷が増大してエンジン11の回転速度が低下するため、発電機14の負荷増大による不具合やエンジン11のストールを防止するためクラッチ15を解放する。
【0039】
ステップS44では、コントローラ17は、エンジン11の回転速度を上昇させる。具体的には、コントローラ17からエンジン制御部18に制御信号が送信されると、エンジン制御部18はエンジン11のスロットルアクチュエータを制御し、燃料噴射量を増大させるとともに、吸入空気量を増大させる。これにより、エンジン11の回転速度が上昇する。ステップS43においてクラッチ15が解放されているので、エンジン11の負荷は低くエンジン11の回転速度は迅速に上昇する。このとき、クランクシャフト12のクラッチ15よりエンジン側に同軸上に配置されているフライホイール13の回転速度も上昇するため、回転エネルギを蓄えることでエンジン11からクラッチ15までの動力伝達経路の回転慣性モーメントが増大する。
【0040】
ステップS45では、コントローラ17はエンジン11の回転速度がクラッチ締結許容値より高いか否かを判断する。エンジン11の回転速度は、エンジン制御部18がエンジン回転速度センサ20から受信した信号に基づいてコントローラ17が判断する。エンジン11の回転速度がクラッチ締結許容値以下であるとき、処理がステップS44へ移行してさらにエンジン11の回転速度を上昇させる。エンジン11の回転速度がクラッチ締結許容値より高いと判断されると処理がステップS46へ移行する。クラッチ締結許容値は定常回転速度より高い、例えば4000rpmに設定される。
【0041】
ステップS46では、コントローラ17はクラッチ15の締結力を増大させる。コントローラ17からクラッチ制御部19に制御信号が送信され、クラッチ制御部19がクラッチ15のアクチュエータ21を作動させることでクラッチ15の締結力が増大する。このとき、クラッチ制御部19はクラッチ15が急激に締結しないよう徐々に締結力が増大していくように制御する。これにより、急締結によるエンジン11の負荷の急激な増大によってエンジン11がストールすることを防止できる。また、ステップS44においてエンジン制御部18がエンジン11の回転速度をクラッチ締結許容値より高くなるまで上昇させているので、クラッチ15の締結力の増大に際してエンジン11のトルクにフライホイール13に蓄えられた回転慣性モーメント分のトルクが付加される。よって、クラッチ15の締結力の増大によるエンジン11の負荷の増大をフライホイール13の回転エネルギによって吸収することができ、エンジン11がストールすることを防止することができる。
【0042】
ステップS47では、コントローラ17はクラッチ15が完全に締結状態となったか否かを判定する。クラッチ15の締結状態は、アクチュエータの作動状態に基づくクラッチ制御部19からの信号に基づいてコントローラ17が判断する。クラッチ15が完全に締結状態であると判断されるまで、処理がステップS46へ移行してさらにクラッチ15の締結力が増大される。クラッチ15が完全に締結状態であると判断されると、給電開始時の一連の処理が終了し、処理は図3のステップS5へ移行する。
【0043】
ステップS5では、定格運転が行われる。具体的には、電気自動車の駆動用バッテリ3へ給電される電流が予め定められた定常電流となるように発電機14の目標回転速度が設定される。さらに、発電機14が当該目標回転速度となるようにエンジン11の回転速度が定常回転速度に維持される。この後、電気自動車の駆動用バッテリ3への給電量が予め設定される所定の給電量となるまで給電が継続され、応急充電措置が完了する。所定の給電量は、例えば最寄りの充電ステーションを備えるサービスエリアまで自走するのに十分な充電量となるように設定される。
【0044】
図5は、本実施形態に係る給電制御装置1による給電開始時の様子を示すタイムチャートである。
【0045】
図5では、横軸が時間であり、縦軸がエンジン11の回転速度、クラッチ15の締結状態、発電機14の回転速度及び電流センサ71の検出値をそれぞれ示している。また、縦軸は紙面上方へ行くほどエンジン11の回転速度、発電機14の回転速度及び電流センサ71の検出値が高くなり、クラッチ15の締結力が大きくなることを示している。
【0046】
時刻t0において、自動二輪車2が電欠状態にある電気自動車の充電ポートの近くに停車し、直流用給電プラグ61が直流用ポート102に接続される(ステップS1)。この状態では、エンジン11の回転速度、発電機14の回転速度及び電流センサ71の検出値はゼロであり、クラッチ15は解放状態である。
【0047】
時刻t1において、エンジン11が始動されると(ステップS2)、給電制御装置1が定格運転を行うのに必要なエンジン11の回転速度である定常回転速度Re2までエンジン11の回転速度が上昇する。
【0048】
時刻t2において、クラッチ15が完全に締結状態になると(ステップS3)、エンジン11のトルクが発電機14に伝達され発電機14の回転速度が定格運転を行うのに必要な定常回転速度Rg3まで上昇する。エンジン11の回転速度は発電機14を回転させる負荷に応じて低下し、定常回転速度Re2より僅かに低い状態となる。
【0049】
時刻t3において、直流給電装置57の給電開始スイッチがON状態に切り替わると(ステップS41)、給電ユニット16に突入電流が流れ、電流センサ71の検出値が始動電流値I3となる(ステップS42)。これにより、発電機14の負荷が急激に増大して回転速度がRg2まで低下する。発電機14の負荷の増大に伴って、発電機14を駆動するエンジン11の回転速度もRe1まで低下する。エンジン11の回転速度Re1はアイドリング回転速度より低く、エンジン11は失速してやや回転不足の状態となる。
【0050】
時刻t4において、クラッチ15が完全に開放状態になると(ステップS43)、発電機14の回転負荷がなくなるためエンジン11の回転速度は再度定常回転速度Re2まで上昇する(ステップS44)。エンジン11のトルクが供給されなくなることにより発電機14は惰性回転して回転速度が徐々に低下していく。給電制御装置1の始動電流である突入電流は消失し、発電機14の回転速度の低下に伴って電流センサ71の検出値も低下する。
【0051】
時刻t5において、エンジン11の回転速度が急激に上昇する。これは、フライホイール13に回転エネルギを蓄えて回転慣性モーメントを増大させることで、後に行われるクラッチ締結時のエンジン11の失速を防ぐために行われる。エンジン回転速度はエネルギ付与回転速度Re4まで上昇する(ステップS45:YES)。発電機14の回転速度は引き続き惰性回転して回転速度が惰性回転速度Rg1まで低下する。
【0052】
時刻t6において、クラッチ15の締結力を徐々に増大させていき半クラッチ状態を継続する(ステップS46)。このとき、エンジン11の回転速度は発電機14の回転負荷の増大によって徐々に低下していくが、時刻t5においてエネルギ付与回転速度Re4まで上昇させてフライホイール13が回転エネルギを蓄えているので、定格運転時の定常回転速度Re2を下回ることはない。発電機14はクラッチ15の締結力の増大に伴ってエンジントルクによって回転駆動され回転速度が上昇していく。これに伴って、電流センサ71の検出値も上昇していく。
【0053】
時刻t7において、クラッチ15の締結力が完全締結状態となる(ステップS47:YES)。このとき、エンジン11の回転速度は定格運転時の定常回転速度Re2より高い始動時回転速度Re3まで低下する。発電機14はエンジン11の回転速度と同期して回転し、回転速度は始動時回転速度Rg4まで上昇する。これに伴って、電流センサ71の検出値は始動電流値I3まで上昇する。
【0054】
時刻t8において、給電制御装置1が定格運転を開始する(ステップS5)。エンジン11の回転速度は定常回転速度Re2まで低下して継続運転され、発電機14の回転速度はエンジン11の回転速度の低下に伴い定常回転速度Rg3となる。これにより、電流センサ71の検出値は定常電流値I2となる。その後、電気自動車の駆動用バッテリ3への給電量が十分な値となるまで定格運転が継続される。
【0055】
[効果のまとめ]
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
上述したように、給電制御装置1は、
電気自動車の駆動用バッテリに給電可能なエンジン駆動の移動体の給電制御装置1であって、
移動体のエンジン11によって駆動され発電する発電機14と、
エンジン11と発電機14との間の動力伝達経路を断続可能なクラッチ15と、
発電機14によって発電された電力を駆動用バッテリ3へ給電する給電ユニット16と、
給電ユニット16から駆動用バッテリ3へ給電が開始されたことを判断するコントローラ17と、
コントローラ17によって給電開始が判断されたときクラッチ15を開放してエンジン11の回転速度を上昇させるエンジン制御部18と、
エンジン制御部18によってエンジンの回転速度がクラッチ締結許容値より高くなったときクラッチ15を滑らせながら徐々に締結させるクラッチ制御部19と、
を備える。
【0056】
すなわち自動二輪車2の直流給電装置57の給電開始スイッチがON状態に切り替わり、電気自動車の駆動用バッテリ3に給電が開始されたとき、一旦クラッチを解放するので、給電用の電気回路に突入電流が流れることによって生じる負荷の増大による発電機14の不具合を防止することができる。また、クラッチ解放後にエンジン11の回転速度を上昇させるので、エンジン11からクラッチ15までの動力伝達経路にある回転部材、特にフライホイール13の回転エネルギを増大させておくことができる。
【0057】
そしてその後、クラッチ15を半クラッチの状態で滑らせながら徐々に締結することで、エンジン11のトルクに回転慣性モーメント分のトルクが付加されるので、エンジン11の失速を抑制してストールを防止することができる。よって、比較的小さなエンジン11を搭載する自動二輪車2の小型の発電機14を利用して給電する場合であっても、発電機14が容量不足となることなく電欠車両へ十分な給電を行うことができる。
【0058】
例えば、モータの定格出力が85kWの電気自動車に本実施形態の自動二輪車2を用いて給電した場合、気温20℃で10分間給電すると電気自動車は約5km走行することができる。
【0059】
給電ユニット16を流れる電流値を検出する電流センサ71をさらに備え、
コントローラ17は、クラッチ15が締結された後に電流値が給電開始判断値より高くなったとき給電が開始されたと判断することができる。
【0060】
すなわちクラッチ15が締結されると発電機14が回転して発電が開始され、発電機14によって発電された交流電圧が給電ユニット16に印加される。給電開始スイッチがON状態に切り替わると、定格運転時の定常電流値を大きく上回る始動電流としての突入電流が流れる。この突入電流が電流センサ71によって検出された時点で給電が開始されたと判断することで、給電開始スイッチなどによって判断する場合と比べて、より精度よく確実に給電開始時点を判断することができる。よって、給電ユニット16に突入電流が流れるとすぐにクラッチ15を解放することで発電機14の負荷増大による不具合やエンジン11のストールを防止することができる。
【0061】
さらに、本実施形態では電流センサ71によって検出された電流値が給電開始判断値より高くなったとき給電が開始されたと判断しているが、これに代えて、発電機14の回転速度が所定の発電機回転速度より低くなったとき給電が開始されたと判断してもよい。この場合、突入電流によって発電機14の負荷が急激に増大し始めるタイミングで給電開始を判断することができるので、より精度よく発電機14の不具合を防止することができる。また、電流センサ71を新たに設ける必要がないのでコストを低減することができる。
【0062】
さらに、上記方法に代えて、エンジン11の回転速度が所定のエンジン回転速度より低くなったとき給電が開始されたと判断してもよい。この場合、突入電流によって発電機14の負荷の増大に伴ってエンジン11の負荷が急激に増大し始めるタイミングで給電開始を判断することができるので、突入電流によるエンジン11のストールをより精度よく防止することできる。同様に、電流センサ71を新たに設ける必要がないのでコストを低減することができる。
【0063】
さらに、電欠状態にある電気自動車の駆動用バッテリ3へ給電する移動体として自動二輪車2を採用しているので、電気自動車が例えば高速道路上で電欠状態にあって当該電気自動車を起点に渋滞が生じている場合であっても、車体がコンパクトであるため渋滞の車列の隙間を走行して電欠発生現場に迅速に到着することができる。
【0064】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0065】
例えば、上記実施形態では、移動体として自動二輪車2を採用した場合について説明した。しかし、移動体は三輪のトライクや四輪の全地形対応車(ATV)及びマイクロカーなど車輪の数に関わらずエンジン11によって駆動されて走行するものであればいずれであってもよい。また、移動体は車輪を有さないスノーモービルや水上を航行する水上オートバイ、空中を飛行するドローンなど、エンジン11によって駆動されて移動するものであればいずれであってもよい。
【0066】
さらに、上記実施形態では、自動二輪車2に搭載される単気筒250ccエンジン11を例に挙げて説明したが、エンジン11は火花点火式のエンジンでもよいし、圧縮自己着火式のエンジンであってもよい。エンジン11の冷却方式は、空冷、水冷及び油冷のいずれであってもよい。エンジン11の燃料は石油由来のガソリン及び軽油に限らず、天然ガス、バイオ燃料、水素、合成燃料などであってもよい。
【0067】
さらに、上記実施形態では、走行駆動用としてエンジン11のみを搭載した自動二輪車2を例に挙げて説明したが、電動モータをエンジン11とともに駆動用に利用するハイブリッド型の駆動システムを備えていてもよい。
【0068】
さらに、上記実施形態では、給電ユニット16から電気自動車の駆動用バッテリ3へ給電する電力は急速充電が可能な直流を例に挙げて説明したが、必要に応じて交流を用いてもよい。この場合には、図3のステップS1において作業者が交流用給電プラグ62を交流用ポート103に接続すればよい。
【0069】
さらに、上記実施形態では、クラッチ制御部19がアクチュエータ21を介してクラッチ15の締結力を制御しているが、アクチュエータ21はエンジン11の負荷に応じて動作する電動油圧式アクチュエータ及び油圧を用いないモータアクチュエータのいずれであってもよい。また、クラッチ15の締結解放を手動によって切り替える構造としてもよい。
また、上記実施形態では、回転エネルギを蓄えるフライホイール13は、自動二輪車2に搭載されているものを用いたが、より回転エネルギを蓄えるために増設してもよい。
また、自動二輪車2には給電を補うために補助的な専用バッテリ、キャパシタ等を追加装備してもよい。
【0070】
さらに、上記実施形態では、電欠状態の電気自動車が約5km自走できる分だけ給電しているが、具体的な距離は、電欠状態にある位置から最寄りの充電ステーションまでの距離をカーナビゲーションシステムなどによって演算し、余裕をもって到着可能な距離を自走できるだけの電力を給電するようにしてもよい。また、電気自動車のドライバが給電に要する費用に応じて給電量を選択可能としてもよい。さらに、電欠状態の電気自動車への救援要請は、ドライバから電話やメールなどの通信手段を用いて行うようにしてもよいし、電気自動車が電欠状態となった時に現在位置を自動的にロードサービスなどに送信する機能を有していてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 給電制御装置
2 自動二輪車(移動体)
3 駆動用バッテリ
11 エンジン
12 クランクシャフト
13 フライホイール
14 発電機
15 クラッチ
16 給電ユニット(給電部)
17 コントローラ(給電開始判断部)
18 エンジン制御部
19 クラッチ制御部
20 エンジン回転速度センサ
21 アクチュエータ
71 電流センサ

【要約】
【課題】小型の発電機を利用しながら電欠車両へ十分な給電を行う。
【解決手段】電気自動車の駆動用バッテリに給電可能なエンジン駆動の移動体に搭載された給電制御装置1は、エンジン11によって駆動され発電する発電機14と、エンジン11と発電機14との間の動力伝達経路を断続可能なクラッチ15と、発電機14によって発電された電力を駆動用バッテリ3へ給電する給電部と、給電部から駆動用バッテリ3へ給電が開始されたことを判断する給電開始判断部と、給電開始判断部によって給電開始が判断されたときクラッチ15を開放してエンジン11の回転速度を上昇させるエンジン制御部18と、エンジン制御部18によってエンジン11の回転速度がクラッチ締結許容値より高くなったときクラッチ15を滑らせながら徐々に締結させるクラッチ制御部19と、を備える。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5