IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電池株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-液式鉛蓄電池 図1
  • 特許-液式鉛蓄電池 図2
  • 特許-液式鉛蓄電池 図3
  • 特許-液式鉛蓄電池 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】液式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20240425BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20240425BHJP
   H01M 4/74 20060101ALI20240425BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20240425BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20240425BHJP
【FI】
H01M10/06 Z
H01M4/68 A
H01M4/74 B
H01M4/14 Q
H01M50/533
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023054154
(22)【出願日】2023-03-29
【審査請求日】2024-02-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小出 和也
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/004120(WO,A1)
【文献】特開2022-004120(JP,A)
【文献】特開2021-163676(JP,A)
【文献】特開2009-170234(JP,A)
【文献】特開2014-164993(JP,A)
【文献】特開2003-338287(JP,A)
【文献】特開平08-329949(JP,A)
【文献】特開2002-198056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06
H01M 4/68
H01M 4/74
H01M 4/14
H01M 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置された合成樹脂製のセパレータと、を備える積層体を有し、
前記正極板は、格子状部を含む正極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、前記格子状部に保持された正極合剤と、を有し、
前記負極板は、格子状部を含む負極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、前記格子状部に保持された負極合剤と、を有し、
前記正極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から一方にずれた位置に配置され、前記負極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置され、
前記極板群は、さらに、複数枚の前記正極板および前記負極板の耳部をそれぞれ連結する正極ストラップおよび負極ストラップを有し、
前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品であり、
前記負極板の幅方向一端部を固定した自重撓み試験における撓み量h[mm]、前記負極板の固定されていない部分の前記幅方向の寸法L[mm]、前記負極板の固定されていない部分の質量W[g]が、0.0009≦h/(L×W)≦0.0048を満たす液式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記正極集電板は、カルシウム(Ca)の含有率が0.035質量%以上0.1質量%以下、錫(Sn)の含有率が0.4質量%以上2.2質量%以下で、残部が鉛および不可避的不純物からなる鉛合金で形成され、
前記正極集電板の厚さは0.7mm以上1.1mm以下である請求項1記載の液式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な鉛蓄電池である液式鉛蓄電池は、セル室を有する電槽と、セル室に収納された極板群と、セル室に注入された電解液と、を備えている。極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、を備える積層体を有する。
【0003】
正極板は、格子状部を含む正極集電板と、格子状部に保持された正極合剤(正極活物質を含む合剤)と、を有し、格子状部の両板面に正極合剤からなる層が形成されている。負極板は、格子状部を含む負極集電板と、格子状部に保持された負極合剤(負極活物質を含む合剤)と、を有し、格子状部の両板面に負極合剤からなる層が形成されている。
正極板は、格子状部を含む正極集電板と、格子状部の電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、格子状部に保持された正極合剤(正極活物質を含む合剤)と、を有し、負極板は、格子状部を含む負極集電板と、格子状部の電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、格子状部に保持された負極合剤と、を有する。
【0004】
正極耳部は、格子状部の幅方向(電槽の上下方向と積層体の積層方向の両方に垂直な方向に沿わせる方向)の中心から一方にずれた位置に配置され、負極耳部は、格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置されている。極板群は、さらに、複数枚の正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結する正極ストラップおよび負極ストラップを有する。電解液としては希硫酸が使用されている。このような液式鉛蓄電池は自動車用バッテリーなどとして広く使用されている。
【0005】
自動車用の鉛蓄電池では、多くの場合、正極集電板として、鉛合金製の圧延板を、エキスパンド法や打ち抜き法で加工したもの(エキスパンド加工品、打ち抜き加工品)を用いている。その理由は、この方法では集電板が連続的に生産できることから、鋳造法と比較して生産性とコスト面で優れるためである。
しかし、正極集電板が鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品および打ち抜き加工品の場合、正極板に、腐食による格子状部の伸び(いわゆる「グロース」)が生じることが知られている。グロースは温度が高い程進行することが知られている。グロースが生じると、正極板が湾曲して、セパレータに応力が掛かり、セパレータを破損させる可能性がある。特に、正極板の幅方向においてストラップで連結されていない側の角部は大きく湾曲しやすい。
【0006】
そして、セパレータが破損すると、正極板が負極板と接触して、短絡が生じる可能性が高くなる。短絡が生じると、鉛蓄電池の容量が急激に低下して、早期寿命の要因となる。
上記理由による早期寿命を防止するために、セパレータの正極板側の面にリブを設けて、セパレータの破損を防止することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、セパレータを平均分子量が150万~220万のポリエチレン製とし、ベースシートの厚さを0.10mm以上0.22mm以下、リブの高さを0.4mm以上にすることが記載されている。
【0007】
一方、自動車用鉛蓄電池では、決められたサイズの電槽内に極板群を収納する必要があるため、積層体の厚さには上限がある。また、鉛蓄電池の性能向上のためには、積層体を構成する極板の枚数を増やすことで電極反応面積を増やし、合剤の電解液の保持量や電極反応の効率を上げることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-259522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
セパレータの厚さを薄くすれば、積層体を構成する極板の枚数を増やすことができるが、前述のように、正極板にグロースが生じて湾曲した場合には、セパレータが破損し易くなる。反対に、セパレータの厚さを厚くしたり高いリブを設けたりして、リブを含めたセパレータ全体を厚くすれば、セパレータは破損しにくくなるが、積層体を構成する極板の枚数を減少させることは、上述のように、電池性能の点では好ましくない。
本発明の課題は、セパレータの諸設計や積層体を構成する極板の枚数を規定値から変更することなく、正極板にグロースが生じて湾曲した場合のセパレータの破損を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、正極板にグロースが生じて湾曲した場合のセパレータの破損を抑制するための技術思想として、セパレータの諸設計や積層体を構成する極板の枚数ではなく、負極板の剛性に着目して、本発明を完成させた。
【0011】
前述した課題を解決するための本発明の第一態様は、以下の構成(1)~(3)を有する液式鉛蓄電池である。
(1)セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備える。前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置された合成樹脂製のセパレータと、を備える積層体を有する。前記正極板は、格子状部を含む正極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、前記格子状部に保持された正極合剤(正極活物質を含む合剤)と、を有する。前記負極板は、格子状部を含む負極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、前記格子状部に保持された負極合剤(負極活物質を含む合剤)と、を有する。前記正極耳部は、前記格子状部の幅方向(前記電槽の上下方向と前記積層体の積層方向の両方に垂直な方向に沿わせる方向)の中心から一方にずれた位置に配置され、前記負極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置されている。前記極板群は、さらに、複数枚の前記正極板および前記負極板の耳部をそれぞれ連結する正極ストラップおよび負極ストラップを有する。
【0012】
(2)前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品である。
(3)前記負極板の幅方向の一端部を固定した自重撓み試験における撓み量h[mm]、前記負極板の固定されていない部分の幅方向の寸法L[mm]、前記負極板の固定されていない部分の質量W[g]が、0.0009≦h/(L×W)≦0.0048を満たす。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液式鉛蓄電池によれば、セパレータの諸設計や積層体を構成する極板の枚数を規定値から変更することなく、正極板にグロースが生じて変形した場合のセパレータ破損が抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の液式鉛蓄電池を説明する図であって、電槽から蓋を外した状態を示している。
図2】実施形態の液式鉛蓄電池の部分断面図である。
図3】実施形態の液式鉛蓄電池を構成する負極集電板を示す正面図である。
図4】自重撓み試験について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0016】
[電池全体の構成]
実施形態の液式鉛蓄電池は、図1に示すように、モノブロックタイプの電槽1と、六個の極板群3とを有する。電槽1の形状は直方体であり、電槽1は、底面をなす長方形の一対の長辺上に形成された一対の第一の壁11と、一対の短辺上に形成された一対の第二の壁12を有する。電槽1の内部は、第二の壁12と平行な五枚の隔壁13により、六個のセル室4に区画されている。
六個のセル室4には、それぞれ一つの極板群3が配置され、各セル室4内に電解液が注入されている。電解液は、比重が1.28以上1.30以下(20℃換算)の希硫酸である。なお、図1に示すように、セル室4の配列方向をX方向、これに垂直な方向をY方向とする。
【0017】
図2に示すように、各極板群3は積層体6を有する。積層体6は、交互に配置された複数枚の正極板10および負極板20と、正極板10と負極板20との間に配置されたセパレータ30とで構成されている。積層体6を構成する正極板10の枚数は、負極板20の枚数と同じでもよいし、負極板20の枚数より多くても良い。この例では、正極板10と負極板20で同じ枚数になっている。
【0018】
正極板10は、正極集電板と正極合剤(正極活物質を含む合剤)で構成され、正極集電板は、長方形の格子状部と格子状部をなす長方形の一辺から突出する耳部とを有し、格子状部に正極合剤が保持されている。図2においては、正極合剤が保持された状態の格子状部を符号101で、正極板10の耳部を符号120でそれぞれ示している。正極板10の耳部120は、格子状部の幅方向(図2の紙面に垂直な方向)の中心から一方にずれた位置に配置されている。正極板10については後に詳述する。
【0019】
負極板20は、負極集電板と負極合剤(負極活物質を含む合剤)で構成され、負極集電板は、長方形の格子状部と格子状部をなす長方形の一辺から突出する耳部とを有し、格子状部に負極合剤が保持されている。図2においては、負極合剤が保持された状態の格子状部を符号201で、負極板20の耳部を符号220でそれぞれ示している。負極板20の耳部220は、格子状部の幅方向(図2の紙面に垂直な方向)の中心から他方にずれた位置に配置されている。負極板20については後に詳述する。
【0020】
セパレータ30は、多孔質ポリエチレン製で、平板状のベースと、ベースの正極側の表面から襞状に突出するリブとを備えたリブ付きセパレータである。ベースの厚さは0.15mm~0.25mmで、リブの突出高さは0.4mm~0.6mmで、リブの幅は0.1mm~0.4mmで、リブの設置間隔は2mm~10mmである。
【0021】
各極板群3は、さらに、正極ストラップ71および負極ストラップ72と、正極ストラップ71および負極ストラップ72からそれぞれ立ち上がる正極中間極柱71aおよび負極中間極柱72aを有する。正極ストラップ71および負極ストラップ72は、積層体6を構成する複数枚の正極板10の耳部120および負極板20の耳部220をそれぞれ、正極板10および負極板20の幅方向(セル室に入った時にY方向となる方向)の異なる位置で連結している。
セル配列方向の両端のセル室に配置される極板群3は、外部端子となる正極端子極柱8および負極端子極柱9をそれぞれ有する。正極端子極柱8および負極端子極柱9は、正極ストラップ71および負極ストラップ72に、それぞれ小片部71b,72bを介して形成されている。
【0022】
各極板群3は、積層体6の積層方向をX方向に沿わせ、且つ、正極板10および負極板20の板面をセル室4の上下方向に沿わせて、セル室4内に収容されている。
隣接するセル室4の正極中間極柱71aおよび負極中間極柱72aが抵抗溶接されて、隣接するセル間が電気的に直列に接続されている。また、図示されていない蓋を電槽1に固定することで、全てのセル室4の上方が塞がれている。正極端子極柱8および負極端子極柱9は蓋を貫通して、外部に露出している。
【0023】
[正極板および負極板について]
〔正極板および負極板の製造方法〕
正極合剤および負極合剤は、それぞれの格子状部の開口部内に充填されているとともに、格子状部の両板面にも層状に存在する。正極合剤および負極合剤は各集電板の格子状部に対して、例えば、以下のようにして形成される。
先ず、鉛粉に必要な添加剤(ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、導電性カーボン等)を添加し、乾式混合にて混ぜ合わせた後、水を添加して練り合わせて水練り物を得、この水練り物に硫酸を添加して練り合わせて正極用ペースト、負極用ペーストを作製する。この時、負極の添加剤として良く用いられるリグニンなどの有機防縮剤は水溶性のため、水と同時に添加してもよい。次に、得られた正極用ペースト、負極用ペーストを、各格子状部の開口部内に充填した後、予熱、熟成、乾燥工程を行って、化成前の正極板、化成前の負極板を得る。さらに、これらを用いて液式鉛蓄電池を組み立てた後に化成を行うことで、各格子状部に正極合剤、負極合剤が形成される。
【0024】
〔正極集電板〕
正極板10を構成する正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品である。正極集電板の厚さは0.7mm以上1.1mm以下である。また、正極集電板の格子状部をなす長方形は横方向の辺が縦方向の辺より長い。
〔負極集電板〕
負極板20を構成する負極集電板は、鉛合金(Pb-Ca-Sn系合金等)を用い連続鋳造法で形成されたものである。なお、負極板20を構成する負極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品あるいは打ち抜き加工品であってもよい。
【0025】
図3に示すように、負極集電板21は、長方形の格子状部210と耳部220とで構成されている。
図3に示すように、実施形態の負極集電板21において、格子状部210は、長方形の四辺をなす枠骨と、枠骨に接続されて枠骨より内側に存在する複数本の中骨と、を有する。また、枠骨をなす長方形は横方向の辺が縦方向の辺より長い。
枠骨は、格子状部210の上側に位置し横方向に延びる上枠骨211と、格子状部210の下側に位置し横方向に延びる下枠骨212と、格子状部210の左側に位置し縦方向に延びる左枠骨213と、格子状部210の右側に位置し縦方向に延びる右枠骨214と、を有する。
【0026】
耳部102は、上枠骨211の長手方向中心から右枠骨214側にずれた位置から上側に突出する。複数本の中骨は、上枠骨211と下枠骨212とを接続する16本の縦中骨216と、左枠骨213と右枠骨214とを接続する10本の横中骨217と、で構成されている。縦中骨216は、左枠骨213および右枠骨214と平行に延びている。横中骨217は、上枠骨211および下枠骨212と平行に延びている。上枠骨211、左枠骨213、および右枠骨214の断面積は、縦中骨216、および横中骨217の断面積より大きい。
負極集電板21の厚さは0.7mm以上1.1mm以下であることが好ましい。
【0027】
〔負極板〕
負極板20の幅方向(電槽の上下方向と積層体の積層方向の両方に垂直な方向に沿わせる方向、図1の紙面に垂直な方向)の寸法をL0[mm]とする。
図4に示す方法で自重撓み試験を行って、負極板20の撓み量h[mm]を測定する。つまり、架台81の上に置いた支持台82の上に、負極板20の幅方向の一端部(耳部220から遠い側)20aを置き、その上に重し83を置いて固定し、自重による撓み量hを測定する。
測定された撓み量hと、負極板20の重し83が置かれていない部分(固定されていない部分)の幅方向の寸法L[mm]と、負極板20の重し83が置かれていない部分の質量W[g]が、0.0009≦h/(L×W)≦0.0048…(1)を満たしている。
(1)式の「h/(L×W)」は、撓み量hを負極板の質量Wと寸法Lで除算した値であるため、この指標は負極板の質量と寸法Lには依存しない。
【0028】
<負極板が(1)式を満たすようにするための方法>
負極板の機械的強度は、負極集電板の格子状部の機械的強度、負極合剤同士の結着力、および格子状部と負極合剤との密着性に依存する。
【0029】
≪方法1:負極集電板の格子状部の機械的強度≫
負極集電板の格子状部の機械的強度は、主に格子デザイン(中骨が単純な縦横格子か、縦中骨が垂直でなく傾斜しているか等)、例えば、外枠の有無や、中骨を「梁」や「リブ」と捉えて、延伸方向、断面形状、および本数を調節して配置することで制御可能である。
また、負極集電板の格子状部の機械的強度は、負極集電板を形成する鉛合金の組成(CaやSnの含有率)、鋳造後の合金の時効方法、負極集電板1枚あたりの質量(鉛量)、厚さおよび外形寸法によっても制御できる。
【0030】
≪方法2:負極合剤同士の結着力≫
負極合剤同士の結着力は、負極合剤に含まれる添加剤の種類および含有率によって変化する。負極用ペーストを作製する際に、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維を添加剤として入れることにより、負極合剤同士の結着力を上げて、負極板の機械的強度を上げることができる。一方、負極用ペーストを作製する際に、導電性カーボンを添加剤として入れると、ペースト中の粒子のまとまりが悪くなって、負極合剤同士の結着力が低下するため、負極板の機械的強度が下がる。
また、負極合剤そのものの密度、負極合剤の充填量および格子状部の板面に形成される層の厚さ、負極合剤の組成や結晶粒の状態(四塩基性硫酸鉛の含有率や結晶成長度等)を変化させることによっても、負極板の機械的強度は制御可能である。
【0031】
≪方法3:格子状部と負極合剤との密着性≫
格子状部と負極合剤との密着性は、例えば、負極集電板の製造時に使用する負極用ペーストの含水率を変化させることや、製造工程において、ペーストを充填した後の予熱工程および熟成工程の温湿度と時間を変化させることにより制御できる。また、熟成、乾燥工程後の負極板を、手または機械で折り曲げることにより、負極合剤層にクラックを生じさせること等でも制御できる。
さらに、化成時の電流値によって、鉛粒子の粒子サイズを変えることで、負極合剤と格子状部との密着性を制御できる。また、負極集電板の製造時の鋳造工程で、鋳型面の粗さ、梨地仕上げ、化学エッチング、サンドブラストなどの物理加工条件を変えることで、格子状部の表面の粗さを変化させることによっても制御できる。
【0032】
なお、負極集電板が鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品および打ち抜き加工品である場合に、密着性を制御する方法として、上述のクラックを生じさせる方法を採用する際には、密着性が低下し過ぎると不良品となってしまう恐れがある。よって、その場合には、負極用ペーストの含水率やペーストを充填した後の予熱工程および熟成工程の温湿度と時間を調整して、密着性が低下し過ぎないように注意する必要がある。
方法2と方法3は、負極集電板の格子状部に対する負極合剤の形成工程で負極板の機械的強度の制御を行う方法であるため、負極集電板の機械的強度を制御する方法1よりも負極板の機械的強度の制御がしやすい方法である。
【0033】
[作用、効果]
上記実施形態の液式鉛蓄電池の負極板20が(1)式を満たすこと(負極板20の機械的強度に関する指標「h/(L×W)」が0.0009以上0.0048以下であること)により、負極板20は正極板10の湾曲に追従して適度に変形し、正極板の湾曲による応力がセパレータ30に付与されにくくすることができる。これに伴い、正極板10のグロースに起因するセパレータの破損が防止されることにより、セパレータの破損に起因する短絡を抑制することができる。
【0034】
また、負極板20が正極板10の湾曲を許容可能に撓むことにより、セパレータの破損が抑制されるようになる。よって、厚さ方向の寸法が小さいセパレータを用いることが可能になるため、厚さ方向の寸法が大きいセパレータを用いた場合よりも、積層体6を構成する極板の枚数を増やすことが可能になる。これに伴い、液式鉛蓄電池の電池反応面積を増やし、負極合剤の電解液の保持量や電極反応の効率を上げることができる。
つまり、負極板の剛性を、液式鉛蓄電池の使用状態における正極板の湾曲を許容可能な値に設定して、使用状態でセパレータが破損しないようにすることにより、厚さ方向の寸法が小さいセパレータを用いることが可能になって、積層体6を構成する極板の枚数を増やすことが可能になる。
【0035】
よって、本実施形態の液式鉛蓄電池によれば、特に、グロースが発生しやすい高温地域での使用が見込まれる自動車向けの鉛蓄電池や薄い正極集電体を備える鉛蓄電池として、寿命性能の向上が期待できる。
これに対して、指標「h/(L×W)」が0.0009未満である点のみが上記実施形態の液式鉛蓄電池と異なる液式鉛蓄電池は、上記条件で使用した際に、負極板20が正極板10の湾曲に追従して変形しにくく、正極板の湾曲による応力がセパレータ30に付与され易い。その結果、セパレータの破損が防止されにくく、セパレータの破損に起因する短絡を抑制することが期待できない。
【0036】
また、指標「h/(L×W)」が0.0048を超えている点のみが上記実施形態の液式鉛蓄電池と異なる液式鉛蓄電池は、上記条件で使用した際に、負極板20の正極板10の湾曲に追従する変形量が大き過ぎるため、負極合剤同士の結着力や負極集電板と負極合剤との密着性が不十分になる。その結果、負極板の導電性が不十分になって、電位分布が悪化し、大電流を伴う放電特性が悪化する恐れがある。
【実施例
【0037】
[試験電池の作製]
実施形態の液式鉛蓄電池と同じ構造の液式鉛蓄電池として、以下に示す構成のサンプルNo.1~No.24の液式鉛蓄電池を二個ずつ作製した。
サンプルNo.1~No.12の液式鉛蓄電池は、B24サイズ、公称電圧12Vの液式鉛蓄電池であり、負極板の構成を変えた以外は全て同じ構成とした。
サンプルNo.13~No.24の液式鉛蓄電池は、D23サイズ、公称電圧12Vの液式鉛蓄電池であり、負極板の構成を変えた以外は全て同じ構成とした。
【0038】
〔No.1~No.12〕
<化成前の正極板の製造>
スラブ鋳造工程、圧延工程、打ち抜き工程をこの順に行って正極集電板を製造した。
先ず、以下の方法でスラブ鋳造工程を行った。
Caが0.06質量%、Snが1.6質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金のブロックを用意し、加熱により溶融して溶湯を得た。この溶湯を相対する2つの金属ロール間に流し込み、金属ロールによって溶湯を冷却することで、鉛合金スラブを得た。
【0039】
次に、得られた鉛合金スラブを、上下一対の圧延ロール間に通すことで、圧下率90%で圧延工程を行い、幅320mm×厚さ1.0mmの圧延シートを得た。
次に、得られた圧延シートをプレス成型機にかけて、厚さ方向に打ち抜くことにより、格子状部の上枠骨から上側に耳部が延びている形状の正極集電板を得た。格子状部の寸法は、耳部が伸びている方向の寸法(高さ)が110mm、これに垂直な方向の寸法(幅)が105mm、厚さが1.0mmである。耳部の寸法は幅が10mmで、高さが15mmである。耳部は格子状部の幅方向中心と端部との間から延びている。
得られた正極集電板の格子状部に、通常の方法で作製した正極用ペーストを充填し、通常の方法で熟成と乾燥を行って、化成前の正極板(正極充填板)を得た。
【0040】
<化成前の負極板の製造>
Caが0.09質量%、Snが0.4質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金を用いて、連続鋳造方式により、格子状部の上枠骨から上側に耳部が延びている形状の負極集電板を得た。格子状部の寸法は、耳部が伸びている方向の寸法(高さ)が100mm、これに垂直な方向の寸法(幅)が100mm、厚さが0.8mmである。耳部の寸法は幅が10mmで、高さが15mmである。耳部は格子状部の幅方向中心と端部との間から延びている。
また、得られた負極集電板の格子状部の中骨は、上枠骨に対して略垂直な縦中骨16本と、縦中骨に対して略垂直な横中骨7本で構成されている。
【0041】
得られた負極集電板の格子状部に、以下の方法で作製した負極用ペーストを55g充填した後、熟成前の熱処理を400℃または300℃で行った。次に、40℃、相対湿度90%で熟成した後、60℃で乾燥を行って、各サンプル用の負極充填板(化成前の負極板)を得た。
負極用ペーストの作製は、鉛粉に水と硫酸を添加して練り合わせて水練り物を得た後、この水練り物に導電性カーボンとしてアセチレンブラック(AB)またはケッチェンブラック(KB)を、鉛粉100質量部に対して0.2質量部となる割合で添加して練り合わせることにより行った。
【0042】
<化成前の極板群の作製>
セパレータとして、縦リブ付きの多孔性ポリエチレン製セパレータ(エンテックアジア(株)製340G)を選択し、縦リブ側が外側になるように袋状にした袋状セパレータを用意した。
この袋状セパレータに各サンプル用の負極充填板を一枚ずつ収納した。負極充填板入り袋状セパレータ7個と正極充填板6枚を交互に積層することで、各サンプル用の積層体を6個ずつ作製した。
次に、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用いて、得られた各サンプル用の六個の積層体の正極充填板および負極充填板に、それぞれストラップ、中間極柱、端子極柱を形成することで、各サンプル用の六個の極板群を得た。
【0043】
<電池の組み立て>
次に、得られた各サンプル用の六個の極板群を、ポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ入れた。
次に、通常の方法で、隣接するセル室間の中間極柱の抵抗溶接、電槽と蓋の熱溶着を行った。次に、比重が1.250(20℃換算値)である希硫酸からなる電解液を蓋の各注液孔から各セル室内へ注入した。次に、注液孔を塞いで未化成の液式鉛蓄電池を組み立てた。
その後、通常の方法で電槽化成を行うことで、正極充填板および負極充填板を正極板および負極板にして、液式鉛蓄電池を完成させた。
【0044】
〔No.13~No.24〕
<化成前の正極板の製造>
スラブ鋳造工程、圧延工程、打ち抜き工程をこの順に行って正極集電板を製造した。
先ず、以下の方法でスラブ鋳造工程を行った。
Caが0.06質量%、Snが1.6質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金のブロックを用意し、加熱により溶融して溶湯を得た。この溶湯を相対する2つの金属ロール間に流し込み、金属ロールによって溶湯を冷却することで、鉛合金スラブを得た。
【0045】
次に、得られた鉛合金スラブを、上下一対の圧延ロール間に通すことで、圧下率90%で圧延工程を行い、幅320mm×厚さ1.0mmの圧延シートを得た。
次に、得られた圧延シートをプレス成型機にかけて、厚さ方向に打ち抜くことにより、格子状部の上枠骨から上側に耳部が延びている形状の正極集電板を得た。格子状部の寸法は、耳部が伸びている方向の寸法(高さ)が116mm、これに垂直な方向の寸法(幅)が137mm、厚さが1.0mmである。耳部の寸法は幅が10mmで、高さが15mmである。耳部は格子状部の幅方向中心と端部との間から延びている。
得られた正極集電板の格子状部に、通常の方法で作製した正極用ペーストを充填し、通常の方法で熟成と乾燥を行って、化成前の正極板(正極充填板)を得た。
【0046】
<化成前の負極板の製造>
Caが0.09質量%、Snが0.4質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金を用いて、連続鋳造方式により、格子状部の上枠骨から上側に耳部が延びている形状の負極集電板を得た。格子状部の寸法は、耳部が伸びている方向の寸法(高さ)が115mm、これに垂直な方向の寸法(幅)が135mm、厚さが0.8mmである。耳部の寸法は幅が10mmで、高さが15mmである。耳部は格子状部の幅方向中心と端部との間から延びている。
【0047】
また、得られた負極集電板の格子状部の中骨は、上枠骨に対して略垂直な縦中骨16本と、縦中骨に対して略垂直な横中骨10本で構成されている。
得られた負極集電板の格子状部に、以下の方法で作製した負極用ペーストを75g充填した後、熟成前の熱処理を400℃または300℃で行った。次に、40℃、相対湿度90%で熟成した後、60℃で乾燥を行って、化成前の負極板(負極充填板)を得た。
負極用ペーストの作製は、鉛粉に水と硫酸を添加して練り合わせて水練り物を得た後、この水練り物に導電性カーボンとしてアセチレンブラック(AB)またはケッチェンブラック(KB)を、鉛粉100質量部に対して0.2質量部となる割合で添加して練り合わせることにより行った。
【0048】
<化成前の極板群の作製>
袋状セパレータの寸法をNo.12~No.24の負極充填板の寸法に合わせて変えた以外は、No.1~No.12と同様の方法で化成前の極板群を作製した。
<電池の組み立て>
使用する電槽の寸法をNo.12~No.24の極板群の寸法に合わせて変えた以外は、No.1~No.12と同様の方法で電池の組み立てを行った。
【0049】
[自重撓み量の測定]
得られた各サンプルの液式鉛蓄電池のうちの一個を解体して、負極板の自重撓み量hの測定を測定した。
具体的には、先ず、正極端子極柱を有する極板群が収納されたセル室(一番目のセル室)の二つ隣のセル室(三番目のセル室)から極板群を取り出して分解し、極板群の中央に配置された袋状セパレータに収納された負極板を取り出して水洗、乾燥させた。次に、水洗、乾燥させた負極板の質量W0[g]を測定した。
【0050】
次に、質量を測定した負極板の自重撓み量h[mm]を、上述した図4に示す方法で測定した。その際に、負極板20の幅方向の一端部(耳部220から遠い側)20aとして、負極板20の幅L0[mm]の15%に相当する長さLの部分を、支持台82の上に置き、その上に重し83を置いて固定した。なお、支持台82の高さから、変形した負極板20の先端の高さまでの距離(極板先端の垂れ具合)を測定し、自重撓み量hとした。
測定された撓み量hと、負極板20の重し83が置かれていない部分(固定されていない部分)の幅方向の寸法L[mm]と、負極板20の重し83が置かれていない部分の質量W[g](=0.15×W0)とを用いて、指標「h/(L×W)」を算出した。
なお、撓み量の測定は、負極板20の一面とその反対側の面の両方で測定し、撓み量が大きい方の数値を採用した。
【0051】
[電池特性の評価]
<セパレータ破れ有無の確認、密着性の確認>
得られた各サンプルの液式鉛蓄電池の残りの一個を用いて、JIS D5301に記載の軽負荷寿命試験を行った。ただし、基板の腐食速度を上げる、つまり、正極板をグロースし易い状態とするため、試験温度は41℃ではなく75℃とし、放電時間も240秒から1/2である120秒に変更した。
具体的には、75℃水槽環境下において、2分間の25Aの放電、10分間のCC―CV充電(14.8V、最大充電電流25A)を繰り返し、480サイクル毎に56時間放置する。放置後、No.1~12では310A、No.13~24では590Aで30秒間連続放電を行い、30秒目電圧を調べる。これを1セットとして、8セット繰り返した後の30秒目電圧を「電池性能」として記録した。また、この記録後に電池を解体し、全てのセパレータの状態を目視により調査した。
【0052】
<判定基準>
上記8セット後の30秒目電圧が7.2V以上であれば、所定の基準(型式80D23Lの要求サイクル数である3800サイクル)を満たすため、電池性能は良好であると判断できる。
セパレータの状態を目視により調査した結果、破れているものが一枚でもある場合には、不合格と判断する。破れの程度がひどいものは、微小短絡を起こしていると考えられる。
8セット後の30秒目電圧が7.2V以上であり、セパレータの状態も良好であった場合は、総合評価を合格(〇)とし、これらの少なくともいずれかが不良であった場合は総合評価を不合格(×)と判断した。
これらの結果を負極板の構成、製造条件とともに表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果から、今回の負極板の構成および試験条件では、負極板の指標「h/(L×W)」が0.0009以上0.0048以下を満たす、つまり、「{h/(L×W)}×1000」が0.9以上4.8以下を満たすことで、総合評価が合格となり、これを満たさない場合には総合評価が不合格になることが分かる。
また、指標「h/(L×W)」が0.0048を超えるNo.1,No.2,No.13,No.14、No.17,No.18では、セパレータに破れは生じなかったが、8セット後の30秒目電圧が7.2V未満であり、0.0009未満であるNo.7,No.11,No.12,No.23では、セパレータに破れが生じていた。
【0055】
特に、No.23では、8セット目に到達する前に短絡の挙動が見られたため、8セット繰り返した後の30秒目電圧は測定できなかった。これは、セパレータに破れが生じて微小短絡が生じたためであると考えられる。
また、No.11では、8セット後の30秒目電圧が7.2V未満であった。
以上のことから分かるように、今回の負極板の構成および試験条件では、負極板の指標「h/(L×W)」が0.0009以上0.0048以下を満たすことにより、所定の電池性能を保持しつつ、正極板にグロースが生じて湾曲した場合のセパレータの破損を防止することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 正極板
101 正極合剤が保持された状態の格子状部
120 正極集電板の耳部
20 負極板
201 負極合剤が保持された状態の格子状部
21 負極集電板
210 負極集電板の格子状部
211 上枠骨
212 下枠骨
213 左枠骨
214 右枠骨
216 縦中骨
217 横中骨
220 負極集電板の耳部
30 セパレータ
1 電槽
4 セル室
3 極板群
6 積層体
71 正極ストラップ
8 正極端子極柱
72 負極ストラップ
9 負極端子極柱
【要約】
【課題】セパレータの諸設計や積層体を構成する極板の枚数を規定値から変更することなく、正極板にグロースが生じて湾曲した場合のセパレータの破損を防止する。
【解決手段】負極板20の幅方向の一端部20aを固定した自重撓み試験における撓み量h[mm]、負極板20の固定されていない部分の幅方向の寸法L[mm]、負極板20の固定されていない部分の質量W[g]が、0.0009≦h/(L×W)≦0.0048を満たす。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4