(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】痒みの予防又は改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4245 20060101AFI20240425BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240425BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
A61K31/4245
A61P17/04
A61P17/00
(21)【出願番号】P 2023201502
(22)【出願日】2023-11-29
【審査請求日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022191756
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 将史
(72)【発明者】
【氏名】三沢 憲佑
(72)【発明者】
【氏名】松本 朋大
(72)【発明者】
【氏名】滝口 輝澄
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 大樹
(72)【発明者】
【氏名】菅井 由也
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0290600(US,A1)
【文献】特開2021-165267(JP,A)
【文献】特表2015-533136(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002196(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/110428(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/151285(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/169169(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2033635(EP,A1)
【文献】国際公開第2017/111069(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オザニモド、その薬学的に許容される塩
又はエステルを有効成分とするC3a受容体拮抗剤。
【請求項2】
オザニモド、その薬学的に許容される塩
又はエステルを有効成分とする痒みの予防又は改善剤。
【請求項3】
痒みが難治性痒みである請求項2記載の痒みの予防又は改善剤。
【請求項4】
痒みがアトピー性皮膚炎における痒み、乾皮症における痒み、結節性痒疹における痒み、又は胆汁うっ滞に伴う掻痒症である請求項2又は3記載の痒みの予防又は改善剤。
【請求項5】
オザニモド、その薬学的に許容される塩
又はエステルを有効成分とする掻痒性皮膚疾患の予防又は改善剤。
【請求項6】
掻痒性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎、乾皮症又は結節性痒疹である請求項5記載の掻痒性皮膚疾患の予防又は改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C3a受容体拮抗剤、痒みの予防又は改善剤、並びに掻痒性皮膚疾患の予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
痒みはアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患だけでなく、腎不全などの内臓疾患においてもみられる病態である。痒みは皮膚の乾燥、日焼け、皮膚と衣類との擦れなどによっても惹起される。痒みによる掻き動作は皮膚を物理的に侵害し、さらなる症状悪化を引き起こすことから、痒みの解決は皮膚疾患の予防又は改善に寄与する。例えば、後肢の爪を切って、掻破動作による皮膚の物理的損傷を抑制したマウスでは、アトピー性皮膚炎による皮膚症状が予防・改善されることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
皮膚などの末梢組織における痒みの感覚は,末梢と脊髄後角をつなぐ求心性感覚神経により、脳に伝達される。求心性感覚神経の細胞体は後根神経節(DRG)に存在していて、細胞体から末梢組織と脊髄後角へ神経線維を伸長している。求心性感覚神経は、皮膚における感覚を受容し、脊髄後角の二次ニューロンに伝達する役割を持つ。
【0004】
痒みの起痒物質は対応する受容体との結合により痒みを惹起させる。起痒物質としては、ヒスタミン、セロトニン、クロロキンなど、痒み増強物質(感作物質)としてはIL-4やIL-13などのTh2サイトカインなどが報告されている。なかでも代表的な化学的起痒物質は主に肥満細胞から分泌されるヒスタミンである。最近では、ヒスタミンは基本的に一部の急性の痒みのみに関連し、多くの慢性的な痒みを伴う疾患におけるヒスタミンの関与は乏しいと考えられている(非特許文献2)。そのため、現在、抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)が痒みを抑える薬として多用されているが、抗ヒスタミン薬で十分な治療効果が得られる痒みはごく限られており、多くの痒み病態は抗ヒスタミン薬により寛解困難な難治性痒みである。ここでいう抗ヒスタミン薬とは、ジフェンヒドラミンなどのH1受容体拮抗薬を指す。例えば、抗ヒスタミン薬によるアトピー性皮膚炎及び乾皮症の治療は効果不十分であることが報告されており(非特許文献3~4)、アトピー性皮膚炎、乾皮症などの多くの皮膚疾患、さらに腎不全などの内科疾患に伴う痒みは難治性痒みといわれている。難治性痒みの多くはメカニズムが解明されていなく、メカニズムの解明と新たな標的となる分子の開発が求められている。
【0005】
一方、オザニモドは、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体のサブタイプ1と5の経口アゴニストとして知られ(特許文献1)、リンパ球がリンパ節から排出する能力を低下させ、末梢血中の循環リンパ球の数を減少させる可能性があることが報告されている。日本においてオザニモドは多発性硬化症及び炎症性腸疾患の経口治療薬として検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hashimoto Y et al. Life Sciences. 2004 Dec 31;76(7):783-94
【文献】Ikoma A et al. Nature Reviews Neuroscience. 2006 Jul;7(7):535-47
【文献】J Am Acad Dermatol. 2014 Jul; 71(1): 116-132
【文献】Future Oncol. 2018 Oct;14(24):2531-2541
【文献】Lewis JE et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2015 Feb 2;6:3
【文献】Cero C et al Structure. 2014 Dec 2;22(12):1744-1753
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、先ずアセトン・エーテル混合物及び水処理で乾皮症様の皮膚症状を示すモデルマウス(以下、AEWモデルマウス)より後根神経節(DRG)を採取し、網羅的な遺伝子発現解析を実施したところ、発現変動を示す遺伝子としてVgfを同定した。さらにAEWモデルマウス及びアトピー性皮膚炎モデルマウス(以下、ADモデルマウス)のDRGにおけるVgf遺伝子の定量的発現解析を実施したところ、コントロールマウスと比較して両モデルマウスにおいて、DRG組織のVgf発現は有意に増加していた(参考例1)。Vgfは神経分泌因子VGF nerve growth factor inducible(以下、VGF)をコードする遺伝子である。VGFは生体内のプロテアーゼなどで分解を受け、いくつかの生理活性ペプチドを生じることが知られている(非特許文献5)。その一つであるTLQP-21を健常マウスの後頚部皮膚内に注射すると、マウスにおいて掻破行動が惹起され、TLQP-21は痒みを誘発することを見出した(参考例2)。このTLQP-21皮内投与による掻破行動は、肥満細胞欠損マウスにおいてもみられ、TLQP-21の痒みの誘発は肥満細胞非依存的な応答であることが示唆された(参考例3)。
TLQP-21は細胞膜上に存在するGPCR型受容体である補体因子C3a受容体に結合し、シグナルを惹起することが知られている(非特許文献6)。そこで、ADモデルマウス及びAEWモデルマウスの作製過程において、並行してC3a受容体に拮抗する化合物をマウスに継続的に投与すると掻破行動が有意に減少することを確認した。これによりC3a受容体は痒み抑制の標的となり、TLQP-21のC3a受容体への結合を阻害することによって痒みの抑制が可能であることが判明した(参考例4、5)。このC3a受容体シグナル伝達経路の阻害に基づく痒みの抑制は、従来の方法で有効でなかった痒み病態の解消へ向けた新技術として有用と考えられる。
【0009】
従って、本発明は、C3a受容体シグナル伝達経路を阻害することにより、痒みの予防又は改善に有用な新たな素材を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、C3a受容体シグナル伝達経路を阻害する有効な素材について探索したところ、オザニモドにC3a受容体拮抗作用があることを見出した。
これまでに、オザニモドのC3a受容体及び痒みに対する作用は何ら報告されていない。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の1)~3)に係るものである。
1)オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを有効成分とするC3a受容体拮抗剤。
2)オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを有効成分とする痒みの予防又は改善剤。
3)オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを有効成分とする掻痒性皮膚疾患の予防又は改善剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、C3a受容体シグナル伝達経路を阻害することで、痒み及び掻痒性皮膚疾患を予防又は改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】AEWモデルDRG組織のRNA-seq解析結果を示す。
【
図3】AEWモデルにおけるVgf発現量のリアルタイムPCR解析結果を示す。
【
図4】ADモデルにおけるVgf発現量のリアルタイムPCR解析結果を示す。
【
図5】TLQP-21投与後のC57BL/6Jマウスの掻痒回数を示す。
【
図6】TLQP-21投与後の肥満細胞欠損マウスの掻痒回数を示す。
【
図7】C3a受容体拮抗剤投与によるADモデルマウスにおける掻痒の改善効果を示す。
【
図8】C3a受容体拮抗剤投与によるAEWモデルマウスにおける掻痒の改善効果を示す。
【
図9】オザニモドによるADモデルマウスにおける掻痒の改善効果を示す。
【
図10】オザニモドによるANITモデルマウスにおける掻痒の改善効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において用いられるオザニモドは、下記式で表される、5-[3-[1-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-イル]-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-2-イソプロポキシベンゾニトリル(CAS レジストリ―番号:1306760-87-1)である。オザニモドには、光学異性体が存在するが、いずれの光学異性体であっても、光学異性体の混合物であってもよい。
【0015】
【0016】
オザニモドの薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩;アルミニウム塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン塩、コリン塩、エチレンジアミン塩、メグルミン(N-メチルグルカミン)塩、ベネタミン(N-ベンジルフェネチルアミン)塩、ジエチルアミン塩、ピペラジン塩、トロメタミン(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)塩などの有機アミン塩、あるいは塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、酸性硫酸塩、燐酸塩、酸性燐酸塩、二水素燐酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩)、p-トルエンスルホン酸塩(トシル酸塩)などの酸付加塩が挙げられる。
【0017】
また、オザニモドは、プロドラッグにしてもよい。プロドラッグは、生体に投与された後、酵素の作用や代謝的加水分解などにより、医薬的に活性な化合物になる。プロドラッグは、当業者に周知の酸誘導体であればよく、例えば、オザニモドと適当なアルコールとの反応によって製造されるエステルや、オザニモドと適当なアミンとの反応によって製造されるアミドなどが挙げられるが特に限定されない。
【0018】
斯かるオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグは、溶媒和物(例えば、水和物など)であっても、無溶媒和物であってもよい。
【0019】
オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグは、公知の化合物であり、周知の方法により製造すること(前記特許文献1)或いは市販品を購入することにより入手することが可能である。
【0020】
後記実施例に示すように、オザニモドは、C3a受容体拮抗作用を示す(
図1)。また、オザニモドを投与したADモデルマウス及び胆汁うっ滞に伴う掻痒症モデルマウス(ANITモデルマウス)において掻破行動の有意な減少が認められた(
図9及び10)。
C3a受容体は、補体系活性化に伴い産生されるC3a及びTLQP-21の受容体である。C3a受容体シグナル伝達経路の阻害により、脳卒中による脳水腫、脳出血を抑制すること(PLoS One. 2017 Jul 10;12(7):e0180822)、IgG誘導性の関節炎を軽減すること(J Pharmacol Sci. 2010;112(1):56-63)が報告されている。
さらに、参考例2に示すように、VGFの分解により生じるTLQP-21を健常マウスの後頚部皮膚内に注射すると、マウスにおいて掻破行動が惹起された(
図5)。この結果から、TLQP-21は痒みを誘発することが明らかになった。TLQP-21皮内投与による掻破行動は、肥満細胞欠損マウスにおいてもみられたことから(
図6)、TLQP-21の痒みの誘発は肥満細胞非依存的な応答であることが示唆された。
前述したとおり、TLQP-21はC3a受容体に結合し、シグナルを惹起することが知られている。そして、C3aの受容体に拮抗することが公知の化合物1を、ADモデルマウス及びAEWモデルマウスの作製過程においてマウスに継続的に投与したところ、化合物1を投与したモデルマウスでは掻破行動の有意な減少が認められた(
図7及び
図8)。この掻破行動の減少は、痒みの鎮静を表わす。このことから、C3a受容体は痒み、特に難治性痒み抑制の標的となることが明らかになった。
従って、オザニモドにより、TLQP-21のC3a受容体への結合を拮抗的に阻害することによって、痒みの予防又は改善、並びに掻痒性皮膚疾患の予防又は改善が可能となる。
すなわち、オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグ(以下、「本発明の化合物」とも称する)は、C3a受容体拮抗剤、痒みの予防又は改善剤、掻痒性皮膚疾患の予防又は改善剤(以下、「C3a受容体拮抗剤など」とも称す)となり得、またこれらを製造するために使用することができる。また、本発明の化合物は、ヒトを含む動物に適用して、C3a受容体シグナル伝達経路の阻害、痒みの予防又は改善、掻痒性皮膚疾患の予防又は改善のために使用することができる。
【0021】
ここで「使用」は、ヒト又は非ヒト動物における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0022】
本明細書において、「C3a受容体拮抗作用」とは、TLQP-21のC3a受容体を介した作用を阻害することを意味し、例えばC3a受容体シグナル伝達経路を阻害することが包含される。
「痒み」は、主観的な感覚であり、その原因は特に限定されない。痒みの部位は、例えば、全身、頭皮、顔、背中、腕、手の甲、指、脚などの広い範囲又は特定の部位が挙げられる。
本発明においては、難治性痒みの予防又は改善に適する。
「難治性痒み」とは、抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)で痒みが解決されない痒みを意味する。難治性痒みとしては、例えば、アトピー性皮膚炎、乾皮症(老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む)、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎、掻痒症(例えば、慢性肝障害に伴う掻痒症、胆汁うっ滞に伴う掻痒症、慢性腎障害及びその透析治療〔血液透析又は腹膜透析〕に伴う掻痒症、老人性皮膚掻痒症、冬季掻痒症等)、悪性新生物などの疾患における痒みが挙げられる。なかでも、好ましくはアトピー性皮膚炎における痒み、乾皮症における痒み、結節性痒疹における痒み、又は胆汁うっ滞に伴う掻痒症である。
【0023】
「掻痒性皮膚疾患」とは、痒みを伴う皮膚疾患を意味する。例えば、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、乾皮症(老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む)、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎などが挙げられる。これらのうち、蕁麻疹を除く皮膚疾患は、難治性痒みを伴う皮膚疾患に該当する皮膚疾患である。本発明においては、前記難治性痒みを伴う皮膚疾患に適する。掻痒性皮膚疾患は、好ましくはアトピー性皮膚炎、乾皮症又は結節性痒疹である。
【0024】
また、本明細書において「予防」とは、個体における症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の症状の発症の危険性を低下させることをいう。
「改善」とは、症状又は状態の重症化の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0025】
本発明のC3a受容体拮抗剤などは、それ自体、C3a受容体シグナル伝達経路を阻害するため、痒みを予防又は改善するため、掻痒性皮膚疾患を予防又は改善するための医薬品、医薬部外品、化粧品、食品又は飼料であってもよく、或いは当該医薬品、医薬部外品、化粧品、食品又は飼料に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
【0026】
当該医薬品(医薬部外品を含む、以下同じ)は、本発明の化合物を、C3a受容体シグナル伝達経路を阻害するため、痒みを予防又は改善するため、掻痒性皮膚疾患を予防又は改善するための有効成分として含有する。さらに、該医薬品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて薬学的に許容される担体、又は他の有効成分、薬効成分などを含有していてもよい。
本発明の化合物を含む医薬品の投与形態は任意であり、経口投与又は非経口投与が挙げられる。経口投与の剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などが挙げられる。非経口投与のための剤形としては、皮膚外用、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、注射、坐剤、吸入、貼付などの各製剤が挙げられる。非経口投与の場合、好適な製剤形態は皮膚外用剤であり、具体的には、軟膏、乳化液、クリーム、乳液、ローション、ジェル、エアゾールなどの形態が挙げられる。
【0027】
当該化粧品は、本発明の化合物を、C3a受容体シグナル伝達経路を阻害するため、痒みを予防又は改善するため、掻痒性皮膚疾患を予防又は改善するための有効成分として含有する。さらに、該化粧品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて化粧料に許容される担体、又は他の有効成分、化粧成分などを含有していてもよい。
本発明の化合物を含む化粧品の好ましい例としては、顔、ボディ用の化粧料(例えば、ローション、ゲル、クリーム、パックなど)、メークアップ用化粧料、顔又はボディ用の洗浄料などが挙げられる。
【0028】
斯かる医薬品や化粧品の各製剤は、本発明の化合物を、必要に応じて薬学的に又は化粧料に許容される担体、上述した他の有効成分、薬効成分、化粧成分などと組み合わせて、常法に従って製造することができる。
当該薬学的に又は化粧料に許容される担体としては、例えば、賦形剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、可溶化剤、潤滑剤、滑走剤、溶解補助剤、滑沢剤、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、pH緩衝剤、等張化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、分散剤、キレート剤、増粘剤、安定化剤、pH調整剤、色素、香料などが挙げられる。
当該他の有効成分、薬効成分、化粧成分としては、例えば、植物抽出物、殺菌剤、保湿剤、抗炎症剤、抗菌剤、角質溶解剤、紫外線吸収剤、清涼剤、抗脂漏剤、洗浄剤、メークアップ成分などが挙げられる。
【0029】
当該食品は、本発明の化合物を、C3a受容体シグナル伝達経路を阻害するため、痒みを予防又は改善するため、掻痒性皮膚疾患を予防又は改善するための有効成分として含有する。
食品には、痒みの予防又は改善、或いは掻痒性皮膚疾患の予防又は改善を訴求とし、必要に応じてその旨の表示が許可又は届出された食品(特定保健用食品、機能性表示食品、特別用途食品など)が含まれる。表示の例としては、「肌の不快感(ムズムズ感)を改善する」などがある。機能表示が許可又は届出された食品は、一般の食品と区別することができる。
食品の形態は、固形、半固形又は液状(例えば飲料)であり得る。例としては、各種食品組成物(パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、冷凍食品、アイスクリーム類、あめ類、ふりかけ類、スープ類、乳製品、シェイク、飲料、調味料など)、更には、上述した経口投与製剤と同様の形態(顆粒剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、トローチ剤などの固形製剤)の栄養補給用組成物が挙げられる。
種々の形態の食品は、本発明の化合物を、任意の食品材料、若しくは他の有効成分、又は食品に許容される添加物(例えば、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、pH調整剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、固着剤、分散剤、流動性改善剤、湿潤剤、香科、調味料、風味調整剤)などと適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0030】
当該飼料は、本発明の化合物を、C3a受容体シグナル伝達経路を阻害するため、痒みを予防又は改善するため、掻痒性皮膚疾患を予防又は改善するための有効成分として含有する。
飼料の形態としては、好ましくはペレット状、フレーク状、マッシュ状又はリキッド状であり、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬などに用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウスなどに用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥などに用いるペットフードなどが挙げられる。
飼料は、本発明の化合物を、他の飼料材料、例えば、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤などと適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0031】
上記製剤中の本発明の化合物の含有量は、製剤の形態などに応じて異なるため一概には言えないが、例えば製剤の総量を基準として、オザニモド換算で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下である。また、0.01~1.2質量%が好ましく、0.05~0.6質量%がより好ましい。
【0032】
本発明の化合物の投与量又は使用量は、本発明の効果を達成できる量であり得る。当該投与量又は使用量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態、又はその他の要因に従って変動し得るが、錠剤やカプセル剤などの経口の場合には、成人(60kg)1人当たり1回、オザニモドとして、好ましくは0.01mg以上、より好ましくは0.1mg以上であり、また、好ましくは100mg以下、より好ましくは10mg以下である。また、0.01mg~100mgが好ましく、0.1mg~10mgがより好ましい。本発明では斯かる量を1日に1回~複数回に分けて、1日間以上、好ましくは7日間以上、より好ましくは14日間以上、よりさらに好ましくは42日間以上、反復・継続して投与又は使用し得る。
【0033】
本発明のC3a受容体拮抗剤などを投与又は使用する対象としては、C3a受容体シグナル伝達経路の阻害、痒みの予防又は改善、掻痒性皮膚疾患の予防又は改善を必要とする又は所望するヒトや非ヒト動物が挙げられる。具体的には、難治性痒みを有する又は掻痒性皮膚疾患を患っているヒトや非ヒト動物が挙げられる。非ヒト動物としては、類人猿、その他霊長類、ネコ目動物などの非ヒト哺乳動物などが挙げられる。
また、本発明のC3a受容体拮抗剤などを投与又は使用する部位としては、皮膚外用剤などの非経口の場合には、痒みを感じる部位であれば特に限定されない。
【0034】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の態様をさらに開示する。
【0035】
<1>オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを有効成分とするC3a受容体拮抗剤。
【0036】
<2>オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを有効成分とする痒みの予防又は改善剤。
【0037】
<3>オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを有効成分とする掻痒性皮膚疾患の予防又は改善剤。
【0038】
<4>痒みが、好ましくは難治性痒みであり、より好ましくはアトピー性皮膚炎、乾皮症(老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む)、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎、掻痒症(例えば、慢性肝障害に伴う掻痒症、胆汁うっ滞に伴う掻痒症、慢性腎障害及びその透析治療〔血液透析又は腹膜透析〕に伴う掻痒症、老人性皮膚掻痒症、冬季掻痒症など)、悪性新生物などの疾患における痒みであり、更に好ましくはアトピー性皮膚炎における痒み、乾皮症における痒み、結節性痒疹における痒み、又は胆汁うっ滞に伴う掻痒症である<2>記載の痒みの予防又は改善剤。
<5>掻痒性皮膚疾患が、好ましくは蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、乾皮症(老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む)、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎であり、より好ましくはアトピー性皮膚炎、乾皮症又は結節性痒疹である<3>記載の掻痒性皮膚疾患の予防又は改善剤。
<6>製剤中のオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグの含有量が、製剤の総量を基準として、オザニモド換算で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下であり、また、好ましくは0.01~1.2質量%、より好ましくは0.05~0.6質量%である<1>~<5>のいずれかに記載の剤。
<7>医薬品製剤である<1>~<6>のいずれかに記載の剤。
<8>オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグの投与量又は使用量が、経口の場合には、成人(60kg)1人当たり1回、オザニモドとして、好ましくは0.01mg以上、より好ましくは0.1mg以上であり、また、好ましくは100mg以下、より好ましくは10mg以下であり、また、好ましくは0.01mg~100mg、より好ましくは0.1mg~10mgである<1>~<7>のいずれかに記載の剤。
【0039】
<9>C3a受容体拮抗剤を製造するためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグの使用。
<10>C3a受容体拮抗に使用するためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグ。
<11>C3a受容体拮抗のためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグの非治療的使用。
<12>オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを対象に投与又は適用する、C3a受容体拮抗方法。
【0040】
<13>痒みの予防又は改善剤を製造するためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグの使用。
<14>痒みの予防又は改善に使用するためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグ。
<15>痒みの予防又は改善のためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグの非治療的使用。
<16>オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを対象に投与又は適用する、痒みの予防又は改善方法。
<17>痒みが、好ましくは難治性痒みであり、より好ましくはアトピー性皮膚炎、乾皮症(老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む)、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎、掻痒症(例えば、慢性肝障害に伴う掻痒症、胆汁うっ滞に伴う掻痒症、慢性腎障害及びその透析治療〔血液透析又は腹膜透析〕に伴う掻痒症、老人性皮膚掻痒症、冬季掻痒症など)、悪性新生物などの疾患における痒みであり、更に好ましくはアトピー性皮膚炎における痒み、乾皮症における痒み、結節性痒疹における痒み、又は胆汁うっ滞に伴う掻痒症である<13>記載の使用、<14>記載のオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグ、<15>記載の非治療的使用、あるいは<16>記載の方法。
【0041】
<18>掻痒性皮膚疾患の予防又は改善剤を製造するためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグの使用。
<19>掻痒性皮膚疾患の予防又は改善に使用するためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグ。
<20>掻痒性皮膚疾患の予防又は改善のためのオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグの非治療的使用。
<21>オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを対象に投与又は適用する、掻痒性皮膚疾患の予防又は改善方法。
<22>掻痒性皮膚疾患が、好ましくは蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、乾皮症(老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む)、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎であり、より好ましくはアトピー性皮膚炎、乾皮症又は結節性痒疹である<18>記載の使用、<19>記載のオザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグ、<20>記載の非治療的使用、<21>記載の方法。
【実施例】
【0042】
実施例1 オザニモドのC3a受容体拮抗作用
1.C3a受容体リガンド
マウスTLQP-21(Tocris Bioscience社、配列:TLQPPASSRRRHFHHALPPAR、以下同じ)及びヒトC3aリコンビナントタンパク質(R&D systems社)を使用した。溶媒はHBSS(Gibco社)とした。
【0043】
2.評価サンプル
C3a受容体拮抗剤(アンタゴニスト)として、既報(Rowley, J. A. et al. Journal of Medicinal Chemistry, 2020;63(2):529-541)に基づいて合成した化合物1(L-アルギニン, N2-[[5-(ジフェニルメチル)-2-チエニル]カルボニル])とオザニモド(Cayman Chemical社)を使用した。下記の評価に際して、化合物1及びオザニモドはDMSOで溶解し、適宜HBSSで希釈した。
【0044】
3.C3a受容体応答評価用細胞
以下に従って評価に必要な発現ベクターを導入した、ヒト胎児腎細胞293(Human Embryonic Kidney cells 293:HEK293)を使用した。無血清DMEM培地に対し、ヒトC3a受容体発現ベクター(OriGene社)、GNA16発現ベクター、PEI-MAX(PolyScience社)溶液を順次添加して良く混和させた後に室温で20分間放置し、トランスフェクション溶液を調製した。6ウェル細胞培養プレートに播種したHEK293に、調製したトランスフェクション溶液を添加し、24時間以上培養してHEK293に発現ベクターを導入した。培養後、培地を除去し、PBSで1回洗浄し、0.05%Trypsin/EDTA(Gibco社)で細胞を剥離し、以下のCa2+-flux assayに供した。なお、ヒトGNA16発現ベクターは、米国生物工学情報センターが提供する塩基配列データベース(GenBank)によって参照されるヒトGNA16のcDNA配列(Accession No. M63904.1)と相同な配列を、プラスミドベクターpIRESneo3(Clontech社製)に挿入することで作製した。
【0045】
4.Ca
2+-flux assay
BioCoat(登録商標) Poly-D-Lysine 96-well Black Flat Bottom Microplate(CORNING社)に、前記のC3a受容体応答評価用細胞を播種した。C3a受容体刺激時の細胞内Ca
2+濃度の測定は、Calcium Kit-Fluo4(DOJINDO社)を用いた。キットのマニュアルに従って調製したLoading bufferを添加し、37℃で1時間静置することでCa
2+蛍光指示薬Fluo-4を細胞内へ取り込ませた。HBSSで1回洗浄後、C3a受容体アンタゴニストである化合物1又はオザニモドを溶解したRecording bufferを添加した。尚、コントロール(Control)にはRecording bufferを添加した。15分経過後にC3a受容体リガンド溶液(マウスTLQP-21溶液又はヒトC3aリコンビナントタンパク質溶液)を添加してC3a受容体刺激を行い、刺激に伴うCa
2+の流入を細胞内蛍光強度(Ex:480nm、Em:540nm)として経時的に測定し、C3a受容体リガンド溶液に代えてHBSSを添加した測定値(ブランク)を減算した値を測定値とした。尚、化合物1溶液及びオザニモド、マウスTLQP-21、ヒトC3aリコンビナントタンパク質溶液は、蛍光強度測定時の終濃度が、それぞれ1μM及び10μM、 1μM、300nMとなるように適宜希釈して濃度を調整して添加した。C3a受容体応答評価用細胞へのC3a受容体アンタゴニスト溶液及びC3a受容体リガンド溶液の添加、並びに蛍光強度の測定は、自動分注機能を備えた蛍光プレートリーダー(FDSS/μCELL、浜松ホトニクス社)を用いて、C3a受容体リガンド溶液添加後3分間経時的に実施した。コントロールにおいて測定された蛍光強度の積分値を100%とした際、オザニモドにおける蛍光強度の積算値(%)を算出した結果を
図1に示す。
【0046】
図1に示すように、コントロールで測定されたC3a受容体リガンドによるC3a受容体刺激による蛍光強度が、化合物1又はオザニモドの添加により抑制されており、オザニモドがC3a受容体拮抗剤としての作用を有することが示された。
【0047】
参考例1 網羅的遺伝子発現解析
1.実験動物
動物は雄性C57BL/6Jマウス及び雄性NC/Ngaマウスを使用した。
乾皮症モデル(AEWモデル):毛刈りしたC57BL/6Jマウス皮膚にアセトン及びジエチルエーテルの1:1(v/v)混合液を浸み込ませた脱脂綿を当て、15秒間静置した。その後直ちに水を浸み込ませた脱脂綿を30秒間当てた。この処置を2回/日(朝・夕)で7日間繰り返し実施することでAEWモデルマウスを作製した。対照として、水を浸み込ませた脱脂綿のみを30秒当てたコントロールマウスを作製した。各群n=7を本解析に使用した。
【0048】
アトピー性皮膚炎モデル(ADモデル):NC/Ngaマウスにハツカネズミケモチダニ(M.musculi)を寄生させ、自然発症的に皮膚炎を生じさせることでADモデルとした。コントロールマウスとして、ダニ寄生のないSPFで飼育された同系統のマウスを使用した。各群n=8を本解析に使用した。
【0049】
2.total RNAの精製
マウス頸椎より後根神経節を摘出した。摘出した組織はポリトロンホモジナイザーによりホモジナイズし、QIAGEN社のRNeasy Mini Kitを用いてtotal RNAを精製した。
【0050】
3.遺伝子発現解析
RNA-seq:AEWモデルマウス及びそのコントロールマウスから精製したtotalRNAを用いた。逆転写にはSuperScript VILO(Thermo fisher scientific社)を使用し、以降の処理は、Thermo fisher scientific社のIon AmpliSeq標準プロトコルに則った。シーケンスはIon S5 systemを使用した。結果を
図2に示す。
図2に示すように、AEWモデルにおいて、一定シーケンス量当たりのVgf発現は、コントロールマウスと比較してStudent’s t-testによりp<0.05で、有意に増加していた。
【0051】
リアルタイムPCR:AEWモデルマウス、ADモデルマウス及びそれらのコントロールマウスから精製したtotal RNAを用い、Vgfを目的遺伝子として特異的なTaqMan GeneExpression Assaysを用いたReal-Time PCR SystemによりVgf遺伝子の定量的PCR解析を行った。内部標準として、Rplp0を使用した。
図3及び
図4に、コントロールマウスのVgf遺伝子発現量を1としたVgf遺伝子の相対的発現量を示す。
【0052】
図3に示すように、AEWモデルマウスにおいてDRG組織のVgf発現量は、コントロールマウスと比較して有意に増加していた。また、
図4に示すように、ADモデルマウスにおいてもDRG組織のVgf発現量は、コントロールマウスと比較して有意に増加していた。
【0053】
参考例2 TLQP-21による掻痒発現
1.実験動物
マウスは雄性C57BL/6Jマウスを使用した。
【0054】
2.メディエーター候補分子の投与
マウスTLQP-21(Tocris Bioscience社)は15nmol/20μL、30nmol/20μLとなるように調製した。溶媒は生理食塩水とした。これを毛刈りしたC57BL/6Jマウスの後頚部皮内に20μL投与した。注射後のマウスは直ちに掻破行動測定を開始し、開始後30分間の測定値を解析した。
【0055】
3.掻破行動の測定
TLQP-21投与後の掻破行動の測定にはMicroAct(ニューロサイエンス社)を使用した。結果を
図5に示す。連続した一回の掻き動作の合計値をEventsと表記し、その中の掻き動作回数の合計値をBeatsとして表記した。
【0056】
図5に示すように、TLQP-21投与後にマウスの掻破行動の増加が、EventsとBeatsの有意な増加として観察された。掻破行動の発現は30分以内の即時的反応であった。
【0057】
参考例3 肥満細胞欠損マウスにおけるTLQP-21依存的掻痒発現
1.実験動物
マウスは肥満細胞欠損マウスとしてWBB6F1/Kit-Kit
W
/Kit
W-v
系統、野生型対照マウスとしてWBB6F1+/+系統を使用した。いずれも雄性マウスを使用した。
【0058】
2.メディエーター分子の投与
マウスTLQP-21(Tocris Bioscience社)は20nmol/20μLとなるように調製した。溶媒は生理食塩水とした。これを毛刈りしたWBB6F1/Kit-Kit
W
/Kit
W-v
系統およびWBB6F1+/+系統の後頚部皮内に20μL投与した。注射後のマウスは直ちに掻破行動測定を開始し、開始後30分間の測定値を解析した。
【0059】
3.掻破行動の測定
TLQP-21投与後の掻破行動の測定にはMicroAct(ニューロサイエンス社)を使用した。結果を
図6に示す。連続した一回の掻き動作の合計値をEventsと表記した。
【0060】
図6に示すように、肥満細胞欠損マウス、野生型対照マウスのいずれの系統においてもTLQP-21投与によるマウスの掻破行動の増加が観察された。
【0061】
参考例4 C3a受容体拮抗剤によるADモデルマウスの痒み改善
1.実験動物
7週齢の雌性NC/Ngaマウスを使用した。
ADモデルマウスの作製:頸背部の剃毛を行い、イソフルラン麻酔下でダニアレルゲン配合軟膏:ビオスタAD(ビオスタ社)を頸背部及び耳介部に100mg塗布し、初回感作を行った。1回目のダニアレルゲン配合軟膏塗布から4日後、イソフルラン麻酔下で頸背部及び耳介部に150μLの4%(w/v)SDS水溶液及びダニアレルゲン配合軟膏を100mg塗布した。以後、3~4日に1回の頻度で同様の作業を4回行い、AD様皮膚炎を誘導した。
【0062】
2.サンプル調製及び投与方法
C3a受容体拮抗剤(アンタゴニスト)として、前記実施例1でC3a受容体拮抗作用が確認された化合物1を使用した。化合物1を20%ポリエチレングリコール400を含む生理食塩水で溶解し、200μLを頸背部に皮下投与した。コントロール群には前記溶媒のみを同量投与した。C3a受容体拮抗剤(アンタゴニスト)溶液の濃度は、0.5mg/mLと設定した。サンプル投与は2回目のダニアレルゲン配合軟膏塗布日から開始し、週3回実施した。
【0063】
3.掻破行動の測定
最後のダニアレルゲン配合軟膏塗布から4日後、サンプルの最終投与後に3時間の掻破行動測定を行った。掻破行動の測定にはMicroAct(ニューロサイエンス社)を使用した。結果を
図7に示す。
【0064】
図7に示すように、C3a受容体拮抗作用が確認された化合物1をダニアレルゲンの塗布と並行して投与したADモデルマウスでは、溶媒のみを投与したADモデルマウスと比較して掻破行動の有意な減少が認められた。
【0065】
参考例5 C3a受容体拮抗剤によるAEWモデルマウスの痒み改善
1.実験動物
動物は雄性C57BL/6Jマウスを使用した。
AEWモデルの作製:頸背部の剃毛を行い、アセトン及びジエチルエーテルの1:1(v/v)混合液を浸み込ませた脱脂綿を当て、15秒間静置した。その後直ちに水を浸み込ませた脱脂綿を30秒間当てた。この処置を2回/日(朝・夕)で7日間繰り返し実施した。
【0066】
2.サンプル調製及び投与方法
C3a受容体拮抗剤(アンタゴニスト)として、前記実施例1でC3a受容体拮抗作用が確認された化合物1を使用した。化合物1を20%ポリエチレングリコール400を含む生理食塩水で溶解し、200μLを頸背部に皮下投与した。コントロール群には前記溶媒のみを同量投与した。C3a受容体拮抗剤(アンタゴニスト)溶液の濃度は、0.5mg/mLと設定した。サンプル投与は1回目のAEW処置後から開始し、1日1回の頻度で8日間実施した。
【0067】
3.掻破行動の測定
最後のAEW処置から16時間後、サンプルの最終投与後に3時間の掻破行動測定を行った。掻破行動の測定にはMicroAct(ニューロサイエンス社)を使用した。結果を
図8に示す。
【0068】
図8に示すように、C3a受容体拮抗作用が確認された化合物1をAEW処置と並行して投与したAEWモデルマウスでは、溶媒のみを投与したAEWモデルマウスと比較して掻破行動の有意な減少が認められた。
【0069】
実施例2 オザニモドによるADモデルマウスの痒み改善
1.実験動物
NC/Ngaマウスにハツカネズミケモチダニ(M.musculi)を寄生させ、自然発症的に皮膚炎を生じさせることでADモデルとした。皮膚炎を発症した14週齢の雄を使用した。1週間の馴化飼育後に頸背部の剃毛と掻破行動の測定を行い、掻破行動回数が均等になるように8匹ずつ2群に群分けを行った。
【0070】
2.評価サンプルの調製
オザニモド(Selleck Biotech社)を使用した。また、カルボキシメチルセルロース(丸石製薬株式会社)を注射用水で0.5%に調製したものを溶媒として使用した。秤量したオザニモドは、メノウ乳棒を用いて軽く押し潰した後に溶媒滴下と混合を繰り返して懸濁液(3mg/mL)とした。調製は投与当日に行い、投与までの間、常温で保管した。
【0071】
3.評価サンプルの投与
体重を測定して投与量(10mL/kg)を算出し、マウス用胃ゾンデ及びディスポーザブル注射筒で調製した評価サンプルを経口投与した。
【0072】
4.掻破行動の測定
掻破行動の測定にはMicroAct(ニューロサイエンス社)を使用した。掻破行動回数は連続した1回の掻き動作の合計値(Events)とし、測定時間は22時間とした。オザニモド投与日前日(投与前)と投与当日(投与後)に測定を行い、投与前後の掻破行動回数を比較することでオザニモドの止痒効果を評価した。結果を
図9に示す。
【0073】
図9に示すように、オザニモド投与後にADモデルマウスにおける掻破行動の有意な減少が認められた。
【0074】
実施例3 オザニモドによる胆汁うっ滞に伴う掻痒症モデルマウス(ANITモデルマウス)の痒み改善
1.実験動物
毛刈りした雄性C57BL/6Jマウスを使用した。8週齢のC57BL/6Jマウスに、オリーブ油(富士フィルム和光純薬)に溶解したα-イソチオシアネート(α-naphthyl isothiocyanate:ANIT)を、マウス用胃ゾンデ及びディスポーザブル注射筒で1日1回、10日間経口投与した。投与の際は事前に体重測定を行い、25mg/10mL/kgとなるように投与した(ANITモデル)。ANITを連日経口投与したマウスは胆汁うっ滞様症状を呈し、掻破行動が増加することが報告されている(eLife, 2019 8: e44116.)。
【0075】
2.評価サンプルの調製
オザニモド(Selleck Biotech社)を使用した。また、カルボキシメチルセルロース(丸石製薬株式会社)を注射用水で0.5%に調製したものを溶媒として使用した。秤量したオザニモドは、メノウ乳棒を用いて軽く押し潰した後に溶媒滴下と混合を繰り返して懸濁液(3mg/mL)とした。調製は投与当日に行い、投与までの間、常温で保管した。
【0076】
3.評価サンプルの投与
体重を測定して投与量(10mL/kg)を算出し、マウス用胃ゾンデ及びディスポーザブル注射筒で調製した評価サンプルを経口投与した。
【0077】
4.掻破行動の測定
掻破行動の測定にはMicroAct(ニューロサイエンス社)を使用した。掻破行動回数は連続した1回の掻き動作の合計値(Events)とし、測定時間は22時間とした。オザニモド投与日前日(投与前)と投与当日(投与後)に測定を行い、投与前後の掻破行動回数を比較することでオザニモドの止痒効果を評価した。結果を
図10に示す。
【0078】
図10に示すように、オザニモド投与後にANITモデルマウスにおける掻破行動の有意な減少が認められた。
【要約】
【課題】C3a受容体シグナル伝達経路を阻害することにより、痒みの予防又は改善に有用な新たな素材の提供。
【解決手段】オザニモド、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグを有効成分とするC3a受容体拮抗剤。
【選択図】なし