(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ピストンリング及びピストンリングの組合せ
(51)【国際特許分類】
F02F 5/00 20060101AFI20240425BHJP
F16J 9/20 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
F02F5/00 Q
F02F5/00 K
F02F5/00 P
F16J9/20
(21)【出願番号】P 2023507762
(86)(22)【出願日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2023003054
【審査請求日】2023-02-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】押見 圭一
(72)【発明者】
【氏名】石川 正博
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-009225(JP,A)
【文献】特開平06-173757(JP,A)
【文献】特開2019-190513(JP,A)
【文献】特開2009-275751(JP,A)
【文献】特開2021-001612(JP,A)
【文献】特表2006-521505(JP,A)
【文献】特開平07-158736(JP,A)
【文献】中国実用新案第214577421(CN,U)
【文献】実開昭63-006270(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F16J 9/00 ~ 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンに装着されるセカンドリングと、前記ピストンに装着されるトップリングと、を備えるピストンリングの組合せであって、
前記セカンドリングは、
内周面と、
外周面と、
前記内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、
互いに対向する一対の合口端部によって形成される合口部と、を備え、
所定の測定状態における前記セカンドリングのねじれ角度は、前記セカンドリングの周方向に沿って前記合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値であり、
前記ねじれ角度は、-10′よりも高く且つ0′未満、又は、0′よりも高く且つ10′未満であり、
前記トップリングは、内周面及び外周面と、前記内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、合口部と、を有し、
前記トップリングの前記本体部は、所定の呼び径を直径とする環状をなし、
前記トップリングの前記合口部の合口隙間S1と前記呼び径d1との比S1/d1が0.003以下である、ピストンリングの組合せ。
【請求項2】
前記ピストンのピストン外周面には、トップリング溝を含む複数のリング溝が形成されており、
前記トップリング溝には、1本の前記トップリングが嵌め込まれており、
前記比S1/d1が0.0025以下である、請求項1に記載のピストンリングの組合せ。
【請求項3】
内燃機関のピストンに装着されるセカンドリングと、前記ピストンに装着されるトップリングと、を備えるピストンリングの組合せであって、
前記セカンドリングは、
内周面と、
外周面と、
前記内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、
互いに対向する一対の合口端部によって形成される合口部と、を備え、
所定の測定状態における前記セカンドリングのねじれ角度は、前記セカンドリングの周方向に沿って前記合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値であり、
前記ねじれ角度は、
-10′よりも高く且つ0′未満、又は、0′よりも高く且つ
10′未満であり、
前記トップリングは、内周面及び外周面と、前記内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、合口部と、を有し、
前記トップリングの前記本体部は、所定の呼び径を直径とする環状をなし、
前記トップリングの前記合口部の合口隙間S1と前記呼び径d1との比S1/d1が0.003以下であり、
前記内燃機関は、筒内直接燃料噴射式のエンジンである、ピストンリングの組合せ。
【請求項4】
前記ピストンのピストン外周面には、トップリング溝を含む複数のリング溝が形成されており、
前記トップリング溝には、1本の前記トップリングが嵌め込まれており、
前記比S1/d1が0.0025以下である、請求項
3に記載のピストンリングの組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ピストンリング及びピストンリングの組合せに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関において、排出微粒子の粒子数を低減する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えば自動車等のガソリンエンジンにおいて、筒内直接燃料噴射式の普及が進んでいる。筒内直接燃料噴射式の内燃機関は、ポート噴射式の内燃機関に比べて、排出される粒子状物質の粒子数(PN)が多い傾向がある。一方で、粒子状物質を含む排気ガス規制の強化が各国で進められている。規制強化に対し、例えば自動車メーカーによってガソリン・パティキュレー卜フィルタ(GPF)を車両に搭載し、粒子状物質の回収浄化を行う対策は可能ではあるが、コストの増加を招くため、内燃機関において発生する粒子状物質の更なる低減が望まれている。
【0005】
本開示は、粒子状物質の発生を効果的に抑制することが可能となるピストンリング及びピストンリングの組合せを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、ピストンリングの側面シール性が、ねじれ角度が0′となる箇所を挟んで周方向の一定区間で低下し得ることを見出した。そこで、側面シール性の向上を図るようにピストンリングを構成することで、粒子状物質の発生を効果的に抑制できることを発見した。
【0007】
本開示の一態様に係るピストンリングは、内燃機関のピストンに装着されるピストンリングであって、内周面と、外周面と、内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、互いに対向する一対の合口端部によって形成される合口部と、を備える。所定の測定状態におけるピストンリングのねじれ角度は、ピストンリングの周方向に沿って合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値である。
【0008】
本開示の一態様に係るピストンリングでは、ピストンリングのねじれ角度は、ピストンリングの周方向に沿って合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値である。これにより、ねじれ角度が0′となる箇所を挟んでピストンリングの周方向の一定区間で側面シール性が低下することが抑制される。ピストンリングの周方向の全体に亘って側面シール性の向上を図ることができる。これにより、潤滑油及び未燃炭化水素の燃焼室への侵入が抑制されるため、粒子状物質の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0009】
一実施形態において、ねじれ角度は、-50′以上且つ0′未満、又は、0′よりも高く且つ50′以下であってもよい。
【0010】
一実施形態において、外周面は、ピストンの下死点側に向かうほど径方向外側に向かって張り出す断面形状のテーパ面を含み、ピストンリングは、下死点側において、ピストンリングの他側面とテーパ面との間に設けられた第1の切欠部と、ピストンリングの他側面とピストンリングの内周面との間に設けられた第2の切欠部と、を有していてもよい。
【0011】
一実施形態において、ピストンリングは、セカンドリングであってもよい。
【0012】
本開示の他の態様に係るピストンリングの組合せは、上述のピストンリングであるセカンドリングと、ピストンに装着されるトップリングと、を備えるピストンリングの組合せである。トップリングは、内周面及び外周面と、内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、合口部と、を有している。トップリングの本体部は、所定の呼び径を直径とする環状をなしている。トップリングの合口部の合口隙間S1と呼び径d1との比S1/d1が0.003以下である。
【0013】
本開示の他の態様に係るピストンリングの組合せによれば、上述のピストンリングであるセカンドリングによって、セカンドリングの周方向の全体に亘って側面シール性の向上を図ることができる。更に、トップリングの合口隙間の狭小化により、トップリングとセカンドリングとの間に存在する潤滑油及び未燃炭化水素がトップリングの合口隙間から燃焼室へ侵入することを抑制できる。これらにより、トップリングとセカンドリングとの間に存在する潤滑油及び未燃炭化水素が低減されるだけでなく、トップリングの合口隙間から燃焼室へ侵入する潤滑油及び未燃炭化水素も低減される。このような相乗的な効果により、粒子状物質の発生をより一層効果的に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の種々の態様に係るピストンリング及びピストンリングの組合せによれば、粒子状物質の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係るピストンリングの組合せを模式的に示す断面図である。
【
図2】(a)は、
図1のトップリングの平面図である。(b)は、
図2(a)のIIb-IIb線に沿っての断面図である。
【
図3】(a)は、
図1のセカンドリングの平面図である。(b)は、
図3(a)のIIIb-IIIb線に沿っての断面図である。
【
図4】
図3のセカンドリングのリング溝における姿勢を例示する断面図である。
【
図5】セカンドリングにおける測定角度位置とねじれ角度との関係を図示するグラフである。
【
図6】ねじれ角度の測定方法を説明するための断面図である。
【
図7】(a)は、トップリング及びセカンドリングの仕様とPNの比率との関係を図示するグラフである。(b)は、トップリング及びセカンドリングの他の仕様とPNの比率との関係を図示するグラフである。
【
図9】変形例に係るセカンドリングのリング溝における姿勢を例示する断面図である。
【
図10】他の変形例に係るセカンドリングのリング溝における姿勢を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。以下の説明において、「上側」はピストンの上死点側(エンジンの燃焼室側)に対応し、「下側」はピストンの下死点側(エンジンのクランク室側)に対応する。なお、
図1,
図4,
図9,及び
図10において、セカンドリングのリング溝における姿勢は、説明のために誇張して示されている。
図1,
図4,
図9,及び
図10のセカンドリングのねじれ角度は、見かけ上は、以下で説明するセカンドリングのねじれ角度よりも高く(ねじれが大きく)描かれている。
【0017】
本開示に係るピストンリングの組合せ100は、内燃機関のピストンに装着される複数のピストンリング1の組合せである。内燃機関は、例えば、自動車に搭載される筒内直接燃料噴射式のガソリンエンジンである。内燃機関では、燃焼の際に粒子状物質が発生し得る。粒子状物質は、燃料に由来する粒子状物質と、潤滑油に由来する粒子状物質と、を含む。ガソリンエンジンでは、燃料(未燃炭化水素)に由来する粒子状物質の方が、潤滑油に由来する粒子状物質よりも多い傾向がある。本開示に係るピストンリング及びピストンリングの組合せでは、燃焼室への潤滑油及び未燃炭化水素の侵入を低減することで、PNの低減を図る。
【0018】
図1は、一実施形態に係るピストンリングの組合せを模式的に示す断面図である。
図1の断面図は、複数のピストンリング1の軸方向に沿っての断面図である。
図1には、ピストンリング1がリング溝2にそれぞれ装着された状態で、ピストン3がシリンダ内に配置されている。ピストンリング1の軸方向は、ピストン3の往復動方向と同じ方向である。
【0019】
図1に示されるように、ピストン3のピストン外周面3aには、複数のリング溝2が形成されている。ここでの複数のリング溝2は、上側から順に、トップリング溝2a、セカンドリング溝2b、及びオイルリング溝2cである。複数のリング溝2には、複数のピストンリング1がそれぞれ組み付けられている。
【0020】
複数のピストンリング1は、トップリング溝2aに嵌め込まれるトップリング10、及び、セカンドリング溝2bに嵌め込まれるセカンドリング20を有している。複数のピストンリング1は、オイルリング溝2cに嵌め込まれるオイルリング30を有していてもよい。各ピストンリング1は、シリンダ内周面4に対して摺動することで、燃焼室側とクランク室側との間のガスシール機能、シリンダ内周面4に付着した潤滑油の掻き落とし機能、及び、潤滑油の油膜形成機能等を奏することができる。シリンダ内周面4は、シリンダボアの内壁面のことである。
【0021】
[トップリング]
図2(a)は、
図1のトップリングの平面図である。
図2(b)は、
図2(a)のIIb-IIb線に沿っての断面図である。
図1、
図2(a)及び
図2(b)に示されるように、トップリング10は、環状の本体部11と、本体部11の一部に形成された合口部11aとを有している。本体部11は、一対の側面(一側面)12及び側面(他側面)13と、内周面14及び外周面15とを有している。側面12,13は、内周面14に交差している。側面12,13は、例えば、内周面14に略直交している。以下の説明では、側面12と側面13とを結ぶ方向をトップリング10の幅方向とし、内周面14と外周面15とを結ぶ方向をトップリング10の厚さ方向とする。トップリング10の幅方向は、「上下方向」及び「軸方向」に相当する。これらの方向は、セカンドリング20についても同様である。
【0022】
本体部11は、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。本体部11は、例えば複数の金属元素を含有する鋳鉄或いは鋼(スチール)を用い、十分な強度、耐熱性、及び弾性をもって形成されている。
【0023】
本体部11の表面には、表面改質が施されて硬質皮膜が形成されてもよい。硬質皮膜は、例えば、物理気相成長法(PVD法)を用いて形成される物理気相成長膜(PVD膜)である。これにより、硬質皮膜を十分な硬度で形成できる。硬質皮膜は、チタン(Ti)及びクロム(Cr)の少なくとも一種と、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素の少なくとも一種とを含むイオンプレーティング膜、若しくはダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜である。具体例としては、硬質皮膜は、窒化チタン膜、窒化クロム膜、炭窒化チタン膜、炭窒化クロム膜、酸窒化クロム膜、クロム膜、又はチタン膜である。この中でも、耐摩耗性及び耐スカッフ性を重視する場合には、窒化クロム膜を用いてもよい。なお、硬質皮膜は積層体であってもよく、例えば窒化クロム膜及びダイヤモンドライクカーボン膜等を含んでもよい。
【0024】
合口部11aは、本体部11の一部が分断された部分であり、互いに対向する一対の合口端部11b,11cによって形成されている。一対の合口端部11b,11cは、それぞれ本体部11の自由端となっている部分である。合口部11aの隙間(合口隙間S1)は、例えばトップリング10が加熱されて熱膨張したときに突き当たらないように設定されている。合口部11aは、トップリング10の使用時において、トップリング10とシリンダ内周面4との間の温度差に起因する本体部11の熱膨張分の逃げ部として機能する。合口部11aの合口形状は、特に限定されないが、例えばストレート合口とされていてもよい。
【0025】
本体部11の幅は、例えば0.6mm以上5.0mm以下である。本体部11の厚さは、例えば1.4mm以上7.7mm以下である。本体部11の呼び径d1は、例えば32.0mm以上190.0mm以下である。つまり、トップリング10の本体部11は、所定の呼び径d1を直径とする環状をなしている。トップリング10の合口部11aの合口隙間S1と呼び径d1との比S1/d1は、0.003以下である。合口隙間S1と呼び径d1との比S1/d1は、0.001よりも大きく0.003以下であってもよい。合口隙間S1と呼び径d1との比S1/d1は、0.001よりも大きく0.0025以下であってもよく、0.001よりも大きく0.0020以下であってもよい。本体部11の各寸法は、接触式又は非接触式の測定装置を用いて測定することができる。
【0026】
一般的なトップリングでは、合口隙間と呼び径との比が0.003よりも大きく設定されることが多い。これに対し、トップリング10では、合口隙間S1と呼び径d1との比S1/d1が0.003以下であることで、一般的なトップリングよりも合口隙間S1が狭められている。これにより、合口隙間S1を介して通過する潤滑油や未燃炭化水素などの量が低減される。
【0027】
以下の説明での各ピストンリング1の外周面に関する線の形状は、特に特定しない場合、当該ピストンリング1の断面視での線の形状を意味する。
【0028】
トップリング10の外周面15には、一例として、径方向外側に向かって凸状に湾曲する断面形状の湾曲面16が設けられている。湾曲面16は、例えば、側面12の径方向外側の端部と側面13の径方向外側の端部とを両端とする円弧面となっている。湾曲面16の上端部と側面12との間には、面取部が形成されていてもよい。湾曲面16の下端部と側面13との間には、面取部が形成されていてもよい。トップリング10の湾曲面16の径方向最外点である頂点17は、トップリング10の幅方向(軸方向)においてトップリング10の外周面15の中央部15Mに配置されている。頂点17は、外周面15のうち径方向外側に最も張り出している部分であり、シリンダ内周面4との摺接部となる点である。頂点17は、本体部11の周方向については、周方向全体に亘って延在することで円環状をなしている。トップリング10の外周面15は、頂点17を境に幅方向に対称な対称バレル形状となっている。
【0029】
なお、バレル形状は、ピストンリング1の径方向外側に向かって凸状に湾曲する湾曲面であって、ピストンリング1の径方向の最外部を含む湾曲面を意味する。バレル形状には、対称バレル形状及び偏心バレル形状が含まれる。対称バレル形状は、バレル形状であって、ピストンリング1の径方向の最外部(頂点)がピストンリング1の外周面の幅方向における中央に位置している湾曲面を意味する。偏心バレル形状は、バレル形状であって、ピストンリング1の径方向の最外部(頂点)がピストンリング1の外周面の幅方向における中央よりも上側(燃焼率寄り)又は下側(クランク室寄り)に位置している湾曲面を意味する。トップリング10についての偏心バレル形状では、頂点17がピストンリング1の外周面の幅方向における中央よりも下側に位置している。
【0030】
湾曲面16の円弧面の大きさは、頂点17から幅方向に一定距離離れた湾曲面16上の点と、頂点17の位置との間の、トップリング10の径方向におけるダレ量(落差の寸法)で規定することができる。頂点17から幅方向に一定距離離れた湾曲面16上の点は、例えば、頂点17からピストンの上死点側に0.2mm以上且つ1.8mm以下の距離離れた第1の点と、頂点17からピストンの下死点側に0.2mm以上且つ1.8mm以下の距離離れた第2の点と、であってもよい。湾曲面16のダレ量は、頂点17よりも上側の第1の点において、例えば2μm以上且つ10μm以下であってもよい。湾曲面16のダレ量は、頂点17よりも下側の第2の点において、例えば2μm以上且つ10μm以下であってもよい。トップリング10の外周面15が対称バレル形状である場合、湾曲面16のダレ量は、頂点17よりも上側の第1の点及び下側の第2の点それぞれにおいて、2μm以上且つ6μm以下であってもよい。つまり、トップリング10の湾曲面16は、トップリング10の頂点17からピストン3の上死点側に0.2mm以上且つ1.8mm以下離れると共に径方向内側に2μm以上且つ10μm以下の落差にて位置する第1の点18、及び、頂点17からピストン3の下死点側に0.2mm以上且つ1.8mm以下離れると共に径方向内側に2μm以上且つ10μm以下の落差にて位置する第2の点19、を通る円弧面をなしている。
【0031】
[セカンドリング]
図3(a)は、
図1のセカンドリングの平面図である。
図3(b)は、
図3(a)のIIIb-IIIb線に沿っての断面図である。
図4は、
図3のセカンドリングのリング溝における姿勢を例示する断面図である。
図1、
図3(a)、
図3(b)及び
図4に示されるように、セカンドリング20は、環状の本体部21と、本体部21の一部に形成された合口部21aとを有している。本体部21は、一対の側面(一側面)22及び側面(他側面)23と、内周面24及び外周面25とを有している。側面22,23は、内周面24に交差している。側面22,23は、例えば、内周面24に略直交している。
【0032】
本体部21は、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。本体部21は、例えば複数の金属元素を含有する鋳鉄或いは鋼(スチール)を用い、十分な強度、耐熱性、及び弾性をもって形成されている。本体部21の表面には、上述のトップリング10の本体部11と同様に、表面改質が施されて硬質皮膜が形成されてもよい。本体部21の幅は、例えば0.6mm以上5.0mm以下である。本体部21の厚さは、例えば1.4mm以上7.7mm以下である。本体部21の幅は、本体部11の幅と同等であってもよい。本体部21の厚さは、本体部11の厚さと同等であってもよい。本体部11の寸法、及び、本体部21の寸法は、上述の例に限定されない。
【0033】
合口部21aは、本体部21の一部が分断された部分である。合口部21aは、合口部11aと同様に、互いに対向する一対の合口端部21b,21cによって形成されている。合口部21aの合口形状は、特に限定されないが、例えばストレート合口とされていてもよい。
【0034】
セカンドリング20の外周面25は、一例として、テーパ面26を含んでいる。テーパ面26は、下側に向かうほどセカンドリング20の径方向外側に向かって張り出す断面形状の傾斜面である。テーパ面26は、幅方向に対して所定のテーパ角度で傾斜している。所定のテーパ角度は、例えば、1°以上且つ5°以下であってもよい。
【0035】
テーパ面26の上端部には、側面22の径方向外側の端部に連なる面取部26aが形成されている。テーパ面26の下端部には、切欠部(第1の切欠部)29が形成されている。切欠部29は、側面23とテーパ面26との間に設けられ、側面23とテーパ面26とが仮想的に交差する角部分を切り欠いた部分である。
【0036】
切欠部29は、本体部21の周方向の全体にわたって延在している。切欠部29は、例えば切削用、研削用、又は研磨用の治具等によって、側面23側且つ外周面25側の本体部21の一部を全周にわたって切り欠くことで形成される。また、切欠部29は、本体部21の上記一部を圧延もしくは絞り加工等で塑性加工することによって形成されてもよい。切欠部29は、外周面25側を向く第1面29xと、側面23を向く第2面29yとを有している。一例として、第1面29xは、内周面24と略平行に延在し、第2面29yは側面22,23と略平行に延在している。このため、第1面29xと第2面29yとがなす角は、略直角になっている。
【0037】
テーパ面26は、例えば、側面22の径方向外側の端部と第2面29yの径方向外側の端部とを直線状に結ぶように延在している。テーパ面26の下端部には、第2面29yの径方向外側の端部に連なる円弧面である下端ダレ部27が形成されている。テーパ面26の直線状の部分と下端ダレ部27との境界は、セカンドリング20の径方向において外周面25の最外部の頂点28である。頂点28は、外周面25のうち径方向外側に最も張り出している部分である。頂点28は、本体部21の周方向については、周方向全体に亘って延在することで円環状をなしている。頂点28は、幅方向において側面22と側面23との中間よりも下死点側に位置している。セカンドリング20とシリンダ内周面4との摺接部は、セカンドリング20のねじれに応じて頂点28から上側又は下側にずれた箇所となる。
【0038】
下端ダレ部27の円弧面の大きさは、頂点28から径方向内側に一定距離(例えば48mm)離れ且つ幅方向に平行な仮想的な直線が下端ダレ部27と交差する点の位置と、頂点28の位置との間の、セカンドリング20の径方向におけるラップダレ量(落差の寸法)で規定することができる。ラップダレ量は、例えば、2μm以下であってもよい。ラップダレ量は、0μmよりも大きく1μm以下であってもよい。
【0039】
セカンドリング20の本体部21は、側面23と内周面24とを接続するように幅方向に対して傾斜して延在するバランスカット面(第2の切欠部)21dを備えている。バランスカット面21dは、側面23と内周面24との間に設けられ、側面23と内周面24とが仮想的に交差する角部分を切り欠いた部分である。バランスカット面21dは、本体部21の周方向の全体に亘って延在している。セカンドリング20は、いわゆるバランススクレーパカット形状を呈している。セカンドリング20のねじれ角度について、詳しくは後述する。
【0040】
[オイルリング]
図1に示されるように、オイルリング30は、例えば、3ピースのオイルコントロールリングである。オイルリング30は、シリンダ内周面4に摺接する一対のサイドレール31,32と、一対のサイドレール31,32の間に配置されるスペーサエキスパンダ33とを有していてもよい。オイルリング30の外周面形状は、テーパ、対称バレル形状、及び、偏心バレル形状であってもよい。オイルリング30としては、公知の構成のオイルリングを用いることができる。オイルリング30は、例えば、2ピースのオイルコントロールリングであってもよい。
【0041】
[セカンドリングのねじれ角度]
所定の測定状態におけるセカンドリング20のねじれ角度は、セカンドリング20の周方向に沿って合口端部21b,21cの一方から他方までの全体に亘って同符号の値である。全体に亘って同符号の値とは、全体に亘って正のねじれ角度をとること、又は、全体に亘って負のねじれ角度をとることを含む。
図4に示されるように、正のねじれとは、内周面24に対して外周面25が上側に変位するようなねじれを意味する。負のねじれとは、
図4の例とは反対向きに、内周面24に対して外周面25が下側に変位するようなねじれを意味する。
【0042】
図5は、セカンドリングにおける測定角度位置とねじれ角度との関係を図示するグラフである。
図5には、実施形態(実施例)に係るセカンドリング20のねじれ角度が黒四角形のプロット及び実線で示されており、比較例に係るセカンドリングのねじれ角度が黒丸のプロット及び破線で示されている。
図5の横軸は、測定角度位置であり、縦軸は、ねじれ角度である。測定角度位置とは、ねじれ角度を測定した位置をセカンドリング20の周方向に沿っての角度で表した位置である。測定角度位置は、
図3の平面図において、合口部21aの周方向における中心位置を0°としてセカンドリング20の周方向に沿って反時計回りの角度で表されている。合口部21aの周方向における中心位置とは、合口部21aにおける
図3の一点鎖線L上の位置に対応する。なお、測定角度位置は、合口部21aの周方向における中心位置を0°としてセカンドリング20の周方向に沿って時計回りの角度で表されてもよい。なお、一般的に、ピストンリングの品質管理等において、ねじれ角度は、180°の測定角度位置のねじれ角度で規定されることが多い。実施形態に係るセカンドリング20のねじれ角度は、0°、90°、270°及び360°の各測定角度位置でも規定されている。ここで、測定角度位置の説明における「0°位置」とは、反時計回りの角度で表す場合には、合口端部21bから周方向に沿って反時計回りに1mm離れた位置を意味する。この場合の「360°位置」とは、合口端部21cから周方向に沿って時計回りに1mm離れた位置を意味する。また、測定角度位置の説明における「0°位置」とは、時計回りの角度で表す場合には、合口端部21cから周方向に沿って時計回りに1mm離れた位置を意味する。この場合の「360°位置」とは、合口端部21bから周方向に沿って反時計回りに1mm離れた位置を意味する。つまり、合口部21aの空間部分(合口部21aの周方向における中心位置)ではねじれ角度を計測できないことから、
図5の横軸の0°及び360°については、便宜上、ねじれ角度を計測可能な「0°位置」及び「360°位置」を設定してねじれ角度が計測されている。なお、
図5の横軸の0°及び360°以外の測定角度位置については、
図5の横軸上の数値と一致する(例えば、「180°位置」は、
図5の横軸上でも180°で数値と実際の位置とが一致する)。
【0043】
所定の測定状態について、ねじれ角度の測定方法を説明する。
図6は、ねじれ角度の測定方法を説明するための断面図である。ねじれ角度の測定は、JISのツイスト検査方法(B8032-2 3.2.18)に準拠した方法で行うことができる。具体的には、
図6に示されるように、測定レベリング調整台41とリングゲージ42と測定器43とチャート紙を準備する。測定レベリング調整台41の上面の傾斜は、調整可能とされている。リングゲージ42の内径は、セカンドリング20の呼び径に等しいサイズである。測定レベリング調整台41の上面にチャート紙及びリングゲージ42を載置する。リングゲージ42の上面が水平となるように、測定レベリング調整台41を調整する。リングゲージ42に対して、下面側である側面23が上側となるようにセカンドリング20を嵌め込む。リングゲージ42に嵌め込まれたセカンドリング20では、合口端部21b,21cが互いに接近した状態となる。上面側である側面22は、測定レベリング調整台41の上面に対して浮いた状態とし、両方の側面22,23を拘束させないようにする。側面23の径方向外側の端部は、セカンドリング20の全周に亘ってリングゲージ42の上面と面一となるように配置される。
【0044】
このような状態において、側面23の平坦部分に測定器43の測定子44を当接させて、径方向内側から外側に向かって、内周側から外周側に至るまでを半径方向に測定する。測定子44としては、例えば、触針先端250μmR又は800μmRであり半径1.5mm(公差0.005mm)の球面形測定子を用いることができる。これにより、側面23の表面形状が測定されて、チャート紙上に記録される。測定倍率は、例えば、縦が1000倍又は2000倍、及び、横が50倍又は100倍としてもよい。測定倍率は、ねじれ角度大小に合わせて、チャート紙上で読み取りやすい範囲を選択してもよい。このような測定を、0°、90°、180°、270°及び360°の各測定角度位置について行う。表面形状は、リングゲージ42の上面を基準面とした側面23の表面の相対位置(例えば単位mm)に対応する。ねじれ角度は、下記式(1)に示されるように、この相対位置と測定長とを用いて、リングゲージ42の上面と側面23とのなす角度として算出することができる。
ねじれ角度=(180/π)×tan-1(b/a)・・・(1)
ただし、aは、セカンドリング20の径方向(上記基準面)に沿う測定子44の移動距離であり、bは、セカンドリング20の幅方向(上記基準面に対して垂直な方向)に沿う測定子44の移動距離である。つまり、断面視にて側面23の平坦部分を斜辺とする直角三角形を想定したとき、直角を挟む2辺の長さがa及びbに相当する。
【0045】
このようにして測定されたセカンドリング20のねじれ角度は、0′よりも高く且つ50′以下である。50′よりも高いと側面シール性が悪化する。セカンドリング20のねじれ角度は、0′よりも高く且つ35′以下であってもよい。セカンドリング20のねじれ角度は、0′よりも高く且つ20′以下であってもよい。ここでのセカンドリング20のねじれ角度は、一例として、
図5に示されるように、0′よりも高く且つ10′未満となっている。セカンドリング20のねじれ角度は、セカンドリング20の0°位置,360°位置の少なくともいずれか一方(ここでは0°位置)において5′以上であってもよい。セカンドリング20のねじれ角度は、セカンドリング20の周方向における合口部21aとは反対側の反対位置を180°位置としたときに、90°位置、180°位置、及び270°位置のそれぞれにおいて1′以上且つ10′未満であってもよい。90°位置、180°位置、及び270°位置のそれぞれにおいて5′以上且つ10′未満であってもよい。セカンドリング20のねじれ角度の上限値(ここでは180°位置の値)及び下限値(ここでは360°位置の値)の差分は、25′未満の範囲に属している。セカンドリング20のねじれ角度の上限値及び下限値の差分は、10′未満の範囲に属していてもよい。セカンドリング20のねじれ角度は、0°位置及び360°位置以外で絶対値が最大になってもよい。
図5の例では、セカンドリング20のねじれ角度は、180°位置で絶対値が最大となっている。
【0046】
このようなセカンドリング20では、セカンドリング20のねじれ角度が、セカンドリング20の周方向に沿って合口端部21b,21cの一方から他方までの全体に亘って正のねじれ角度であるため、セカンドリング溝2bにおいて内周面24に対して外周面25が上側に変位するように傾いた姿勢となる。
図4に示されるように、セカンドリング20の側面22は、セカンドリング溝2bの上側面2bxと接触する。セカンドリング20の側面23は、セカンドリング溝2bの下側面2byと接触する。ピストン外周面3aとシリンダ内周面4との空間は、セカンドリング20とセカンドリング溝2bとの側面同士での接触部分を介して、上部空間3bと下部空間3cとに隔てられる。これにより、下部空間3cから上部空間3bへと潤滑油がセカンドリング溝2b内を通過することを抑制するシール性(側面シール性)が向上する。また、セカンドリング20の側面23とセカンドリング溝2bの下側面2byとの接触箇所までの空間3dは、下部空間3cの潤滑油のオイル溜まりとしても機能する。下部空間3cの潤滑油の圧力上昇を抑制でき、より一層、潤滑油がセカンドリング溝2b内を通過することを抑制できる。
【0047】
一方で、
図5の比較例に係るセカンドリングのねじれ角度は、一方の合口端部において0′よりも高く、他方の合口端部において0′よりも低い。比較例に係るセカンドリングのねじれ角度は、合口端部の一方と他方とで異符号の値となっている。そのため、比較例に係るセカンドリングのねじれ角度は、周方向に沿ってある位置(
図5の例ではおよそ285°位置)で0′となる。このような比較例に係るセカンドリングにおいては、ねじれ角度が0′となる角度位置では、側面シール性が低下する。側面シール性の低下とは、セカンドリング20とセカンドリング溝2bとが側面同士で接触していないときに生じる隙間を通って、下部空間3cから上部空間3bへと潤滑油がセカンドリング溝2b内を通過してしまうことを意味する。
【0048】
本発明者らは、ねじれ角度を全体として平均的に0′に近付けようとする比較例に係るセカンドリングのような従来の設計思想とは異なり、あえて所定のねじれ角度を与えるという逆転の発想で、セカンドリング20とセカンドリング溝2bとを側面同士で接触させて側面シール性の向上を図っている。側面シール性の向上により、例えば、燃焼室への潤滑油及び未燃炭化水素の侵入が抑制されるため、PNの低減を期待することができる。また、セカンドリング20による側面シール性の向上に加えて、トップリング10による合口隙間S1の狭小化により、燃焼室に潤滑油及び未燃炭化水素が入り込むことが相乗的に低減される。トップリング10及びセカンドリング20を備えるピストンリングの組合せ100によれば、粒子状物質の発生をより一層効果的に抑制することができる。なお、ねじれ角度は、線材の形状やピストンリングの成形工程での成形条件、側面研磨工程での研磨条件などを適宜変化させることで制御することができる。
【0049】
ここで、「潤滑油に由来する粒子状物質」には、例えば、「燃焼室に侵入した潤滑油自体が燃焼することで生じる粒子状物質」と、「燃焼室に侵入した潤滑油に溶け込んでいる燃料が燃焼することで生じる粒子状物質」と、が含まれる。潤滑油に燃料が溶け込んでいると、PNが増加する傾向がある。「燃料に由来する粒子状物質」には、例えば、「燃焼室に噴射された燃料自体が燃焼する際に生じる粒子状物質」と、「潤滑油に溶け込んだ燃料が揮発し、その燃料が未燃炭化水素として燃焼室に進入して加熱されることで生じる粒子状物質」と、が含まれる。よって、側面シール性の向上により、例えば、燃焼室に未燃炭化水素が侵入することが抑制されるため、燃焼室に侵入した未燃炭化水素が加熱されることで生じるPNの低減を期待することができる。なお、「潤滑油に由来する粒子状物質」及び「燃料に由来する粒子状物質」には、その他のメカニズムによって発生する粒子状物質が含まれてもよく、負圧がかかった場合やブローバイガスの挙動も粒子状物質の発生に関係があると考えられる。
【0050】
図7(a)は、トップリング及びセカンドリングの仕様とPNの比率との関係を図示するグラフである。
図7(b)は、トップリング及びセカンドリングの他の仕様とPNの比率との関係を図示するグラフである。
図7(a)及び
図7(b)には、それぞれ2つの仕様のトップリング及びセカンドリングを備えるピストンリングの組合せに対するPNの比率が示されている。
図7(a)及び
図7(b)の比率の基となるPNは、WLTCモード(世界統一試験サイクル)での燃費排気ガス試験の結果である。燃費排気ガス試験の試験条件は、内燃機関として、水冷式直列4気筒の筒内直接燃料噴射式のターボ付きガソリンエンジンを用い、潤滑油としてSAE0W-20のエンジンオイルを用いた。ピストンリングの組合せの仕様は、上述のトップリング10(S1/d1:0.0025)、合口隙間がトップリング10よりも大きい従来のトップリング(S1/d1:0.0034)、上述のセカンドリング20(
図5の実線で示される実施例に係るセカンドリング)、及び、合口端部の一方と他方とでねじれ角度が異符号の値である従来のセカンドリング(
図5の破線で示される比較例に係るセカンドリング)、のうちの所定の組み合わせである。具体的には、
図7(a)の左から順に、比較例1が従来のトップリング及び従来のセカンドリングに対応し、実施例1が従来のトップリング及び上述のセカンドリング20に対応している。
図7(b)の左から順に、比較例2が上述のトップリング10及び従来のセカンドリングに対応し、実施例2が上述のトップリング10及び上述のセカンドリング20に対応している。
【0051】
図7(a)に示されるように、実施例1では、上述のセカンドリング20によって側面シール性が向上し、比較例1に対してPNが10%低減している。
図7(b)に示されるように、実施例2では、上述のトップリング10及び上述のセカンドリング20の相乗効果によって、比較例2に対してPNが30%低減し、比較例1に対してPNが43%低減している。
【0052】
相乗的な効果に関して、具体的には、トップリング及びセカンドリングのいずれか一方だけで潤滑油及び未燃炭化水素の通過の抑制を図るよりも、他方においても潤滑油及び未燃炭化水素の通過の抑制を図る方が、全体としてより効果的に、潤滑油及び未燃炭化水素の燃焼室への侵入の抑制することができる。例えばトップリング10の合口隙間の狭小化のみを採用する場合、セカンドリングでねじれ角度が0′となる箇所を挟んで周方向の一定区間で側面シール性が低下し得る。セカンドリング20の側面シール性の向上を採用する場合と比べて、潤滑油及び未燃炭化水素がトップリング10側に上がりやすいままである。そのため、トップリング10の合口隙間の狭小化だけでなく、セカンドリングについても対策を行う方が、潤滑油及び未燃炭化水素の燃焼室への侵入を更に抑制できる余地があると考えられる。一方、セカンドリング20の側面シール性の向上のみを採用する場合、セカンドリング20とセカンドリング溝2bとの間を通過する潤滑油及び未燃炭化水素は低減される。しかし、トップリングとセカンドリング20との間に存在する潤滑油及び未燃炭化水素は、トップリング10の合口隙間の狭小化を採用する場合と比べて、燃焼室へ侵入しやすいままである。そのため、セカンドリング20の側面シール性の向上だけでなく、トップリングについても対策を行う方が、潤滑油及び未燃炭化水素の燃焼室への侵入を更に抑制できる余地があると考えられる。トップリング及びセカンドリングの両方について本開示の構成を採用することで、セカンドリング20とセカンドリング溝2bとの間を通過する潤滑油及び未燃炭化水素が低減されるため、トップリング10とセカンドリング20との間に存在する潤滑油及び未燃炭化水素がトップリング10の合口隙間から燃焼室へ侵入することを、より効果的に抑制しやすくなる。このような相乗的な効果により、
図7(b)の実施例2では、トップリング10及びセカンドリング20による効果をそれぞれ独立に単純に加算したPNの改善度合いよりも大きなPNの改善度合いが得られていると考えられる。
【0053】
以上説明したように、セカンドリング20によれば、セカンドリング20のねじれ角度は、セカンドリング20の周方向に沿って合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値である。これにより、ねじれ角度が0′となる箇所を挟んでセカンドリング20の周方向の一定区間で側面シール性が低下することが抑制される。セカンドリング20の周方向の全体に亘って側面シール性の向上を図ることができる。これにより、潤滑油及び未燃炭化水素の燃焼室への侵入が抑制されるため、粒子状物質の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0054】
ピストンリングの組合せ100によれば、上述のセカンドリング20によって、セカンドリング20の周方向の全体に亘って側面シール性の向上を図ることができる。更に、トップリング10の合口隙間の狭小化により、トップリング10とセカンドリング20との間に存在する潤滑油及び未燃炭化水素がトップリング10の合口隙間から燃焼室へ侵入することを抑制できる。これらにより、トップリング10とセカンドリング20との間に存在する潤滑油及び未燃炭化水素が低減されるだけでなく、トップリング10の合口隙間から燃焼室へ侵入する潤滑油及び未燃炭化水素も低減される。このような相乗的な効果により、粒子状物質の発生をより一層効果的に抑制することが可能となる。
【0055】
[変形例]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではない。本開示は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0056】
上記実施形態では、トップリング10は頂点17を境に幅方向に対称な対称バレル形状となっていたが、偏心バレル形状であってもよい。例えば、
図8は、変形例に係るトップリングの断面図である。
図8のトップリング10Aの外周面15Aには、一例として、径方向外側に向かって凸状に湾曲する断面形状の湾曲面16Aが設けられている。湾曲面16Aは、例えば、幅方向において側面12と側面13との中間よりも下死点側に中心が位置する円弧面の一部である。つまり、トップリング10Aの外周面15Aは、径方向外側に向かって突出しており、トップリング10Aの外周面15Aの径方向最外点である頂点17Aは、トップリング10Aの幅方向(軸方向)においてトップリング10Aの外周面15Aの中央部15Mよりもピストンの下死点側に配置されている。トップリング10Aの外周面15Aは、バレル形状であって、トップリング10Aの径方向の最外部(頂点17A)がトップリング10Aの外周面15Aの幅方向における中央部15Mよりも下側(クランク室寄り)に位置している湾曲面(偏心バレル形状)となっている。トップリング10Aの湾曲面16Aのダレ量は、トップリング10の湾曲面16のダレ量と同様に規定されている。つまり、トップリング10Aの湾曲面16Aは、トップリング10Aの頂点17Aからピストン3の上死点側に0.5mm以上且つ3.9mm以下の距離離れると共に径方向内側に2μm以上且つ50μm以下の落差にて位置する第1の点18A、及び、頂点17Aからピストン3の下死点側に0.15mm以上且つ0.6mm以下の距離離れると共に径方向内側に10μm以内の落差にて位置する第2の点19A、を通る円弧面をなしている。
【0057】
上記実施形態では、セカンドリング20のテーパ面26の下端部には、切欠部29が設けられていたが、切欠部29が省かれていてもよい。例えば、下端ダレ部27の径方向内側の端部が切欠部29を介することなく側面23の径方向外側の端部に直接連なっていてもよい。
【0058】
上記実施形態では、セカンドリング20のねじれ角度は、全体に亘って正のねじれ角度をとったが、
図9の例のように、セカンドリング20Aのねじれ角度は、全体に亘って負のねじれ角度をとってもよい。
図9に示されるセカンドリング20Aは、セカンドリング20Aの側面23と内周面24とを接続するように幅方向に対して傾斜して延在するバランスカット面21eを有している。バランスカット面21eは、
図4に示されるセカンドリング20のバランスカット面21dと比べて、セカンドリング20Aの断面のうち側面23と内周面24とが仮想的に交差する角部を切り欠く量(断面積の低減量)が大きくなっている。このようなバランスカット面21eにより、セカンドリング20Aは、全体に亘って断面視でセカンドリング20とは反対向きにねじれる。この場合、セカンドリング20Aのねじれ角度は、-50′以上且つ0′未満であってもよい。-50′よりも低いと側面シール性が悪化する。セカンドリング20Aのねじれ角度は、-35′以上且つ0′未満であってもよい。セカンドリング20Aのねじれ角度は、-20′以上且つ0′未満であってもよい。セカンドリング20Aのねじれ角度は、-10′よりも高く且つ0′未満であってもよい。セカンドリング20Aのねじれ角度は、セカンドリング20Aの0°位置,360°位置の少なくともいずれか一方において-5′以下であってもよい。セカンドリング20Aのねじれ角度は、セカンドリング20Aの周方向における合口部とは反対側の反対位置を180°位置としたときに、90°位置、180°位置、及び270°位置のそれぞれにおいて-10′よりも高く且つ-1′以下であってもよく、-10′よりも高く且つ-5′以下であってもよい。一例として、セカンドリングにおける測定角度位置とねじれ角度が、0°位置で-9.0′、90°位置で-6.6′、180°位置で-4.3′、270°位置で-1.9′、360°位置で-7.9′、である全体に亘って負のねじれセカンドリング(負ねじれセカンドリング)がある。この負ねじれセカンドリングと合口隙間がトップリング10よりも大きい従来のトップリング(S1/d1:0.0034)との組合せを実施例3として、上述の
図7(a)及び
図7(b)での説明と同様にしてWLTCモード(世界統一試験サイクル)での燃費排気ガス試験を行った結果、比較例1に対してPNが9%低減している。また、この負ねじれセカンドリングと上述のトップリング10(S1/d1:0.0025)との組合せを実施例4として上記燃費排気ガス試験を行った結果、比較例1に対してPNが40%低減している。
【0059】
別の例として、
図10は、別の変形例に係るセカンドリングの断面図である。
図10に示されるように、セカンドリング20Bの外周面25Bでは、切欠部29Bの第2面29zは、本体部21の側面23に対して非平行となっている。第2面29zは、セカンドリング20Bの径方向外側に向かうにつれて側面23側に近付くように傾斜している。第2面29zと外周面25Bとがなす下端ダレ部27Bは、例えば、セカンドリング20の下端ダレ部27と同様に構成されている。セカンドリング20Bは、いわゆるバランスナピア形状を呈している。
【0060】
上記実施形態では、セカンドリング20,20A,20Bは、バランスカット面を有していたが、バランスカット面は省かれてもよい。
【0061】
上記実施形態では、
図4に示されるように、セカンドリング20の側面22は、セカンドリング溝2bの上側面2bxと接触し、且つ、セカンドリング20の側面23は、セカンドリング溝2bの下側面2byと接触したが、この例に限定されない。つまり、セカンドリング20の側面22がセカンドリング溝2bの上側面2bxと接触する状態、及び、セカンドリング20の側面23がセカンドリング溝2bの下側面2byと接触する状態、の少なくともいずれか一方の状態が発生すればよい。
【0062】
上記実施形態では、
図5の例のように、セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から180°位置に向かうにつれて単調増加であり、180°位置から360°位置に向かうにつれて単調減少であり、180°位置で最大の正の値となってもよい。セカンドリング20のねじれ角度は、180°位置で最大の正の値となっていたが、セカンドリングのねじれ角度は、その他の種々の増減傾向を有することができる。例えば、セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から360°位置に向かうにつれて単調増加であり、360°位置で最大の正の値となってもよい。セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から360°位置に向かうにつれて単調減少であり、0°位置で最大の正の値となってもよい。セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から90°位置に向かうにつれて単調増加であり、90°位置から360°位置に向かうにつれて単調減少であり、90°位置で最大の正の値となってもよい。セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から270°位置に向かうにつれて単調減少であり、270°位置から360°位置に向かうにつれて単調増加であり、270°位置で最小の正の値となってもよい。セカンドリングのねじれ角度は、0°位置及び360°位置で最大の正の値となってもよい。
【0063】
或いは、セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から360°位置に向かうにつれて単調減少であり、360°位置で最小の負の値となってもよい。セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から360°位置に向かうにつれて単調増加であり、0°位置で最小の負の値となってもよい。セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から90°位置に向かうにつれて単調減少であり、90°位置から360°位置に向かうにつれて単調増加であり、90°位置で最小の負の値となってもよい。セカンドリングのねじれ角度は、0°位置から270°位置に向かうにつれて単調増加であり、270°位置から360°位置に向かうにつれて単調減少であり、270°位置で最大の負の値となってもよい。セカンドリングのねじれ角度は、0°位置及び360°位置で最小の負の値となってもよい。
【0064】
上記実施形態では、トップリング10の側面12,13は、内周面14に略直交していたが、この例に限定されない。セカンドリング20の側面22,23は、内周面24に略直交していたが、この例に限定されない。
【0065】
上記実施形態では、所定の測定状態におけるねじれ角度が周方向に沿って合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値であるピストンリングとして、セカンドリング20,20A,20Bを例示したが、これらの例に限定されない。所定の測定状態におけるねじれ角度が周方向に沿って合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値であるピストンリングは、トップリングであってもよいし、トップリング及びセカンドリングの両方であってもよい。
図1ではピストンリング1を3本用いた場合のピストンリングの組合せを示しているが、これに限定されず、ピストンリングを4本以上用いた場合のピストンリングの組合せであってもよい。つまり、所定の測定状態におけるねじれ角度が周方向に沿って合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値であるピストンリングは、ピストンリングを4本以上用いた場合のサードリングであってもよいし、セカンドリング及びサードリングの両方であってもよい。
【0066】
上記実施形態では、内燃機関は、例えば、自動車に搭載される筒内直接燃料噴射式のガソリンエンジンであったが、この例に限定されない。内燃機関は、ピストンリングが装着されるピストンを用いるレシプロ式の内燃機関であればよく、ディーゼルエンジンであってもよい。
【0067】
なお、以下、本開示の種々の態様の構成要件を記載する。
<発明1>
内燃機関のピストンに装着されるピストンリングであって、
内周面と、
外周面と、
前記内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、
互いに対向する一対の合口端部によって形成される合口部と、を備え、
所定の測定状態における前記ピストンリングのねじれ角度は、前記ピストンリングの周方向に沿って前記合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値である、ピストンリング。
<発明2>
前記ねじれ角度は、-50′以上且つ0′未満、又は、0′よりも高く且つ50′以下である、発明1に記載のピストンリング。
<発明3>
前記外周面は、前記ピストンの下死点側に向かうほど径方向外側に向かって張り出す断面形状のテーパ面を含み、
前記下死点側において、前記ピストンリングの前記他側面と前記テーパ面との間に設けられた第1の切欠部と、前記ピストンリングの前記他側面と前記ピストンリングの前記内周面との間に設けられた第2の切欠部と、を有する、発明1又は2に記載のピストンリング。
<発明4>
前記ピストンリングは、セカンドリングである、発明1~3の何れか一つに記載のピストンリング。
<発明5>
発明4に記載のピストンリングであるセカンドリングと、前記ピストンに装着されるトップリングと、を備えるピストンリングの組合せであって、
前記トップリングは、内周面及び外周面と、前記内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、合口部と、を有し、
前記トップリングの前記本体部は、所定の呼び径を直径とする環状をなし、
前記トップリングの前記合口部の合口隙間S1と前記呼び径d1との比S1/d1が0.003以下である、ピストンリングの組合せ。
【符号の説明】
【0068】
1…ピストンリング、3…ピストン、10,10A…トップリング(ピストンリング)、20,20A,20B…セカンドリング(ピストンリング)、11,21…本体部、11a,21a…合口部、11b,11c,21b,21c…合口端部、12,22…側面(一側面)、13,23…側面(他側面)、14,24…内周面、15,15A,25,25B…外周面、15M…中央部、16,16A…湾曲面、17,17A,28…頂点、18,18A…第1の点、19,19A…第2の点、21d…バランスカット面(第2の切欠部)、26…テーパ面、29,29B…切欠部(第1の切欠部)、100…ピストンリングの組合せ。
【要約】
ピストンリングは、内燃機関のピストンに装着されるピストンリングである。ピストンリングは、内周面と、外周面と、内周面に交差する一側面及び他側面とを有する本体部と、互いに対向する一対の合口端部によって形成される合口部と、を備える。所定の測定状態におけるピストンリングのねじれ角度は、ピストンリングの周方向に沿って合口端部の一方から他方までの全体に亘って同符号の値である。