(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】成形品のバリ処理方法
(51)【国際特許分類】
B29C 37/02 20060101AFI20240426BHJP
B29C 49/72 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
B29C37/02
B29C49/72
(21)【出願番号】P 2019235318
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】前野 宏明
(72)【発明者】
【氏名】島田 憲吾
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-141501(JP,A)
【文献】特開昭50-159543(JP,A)
【文献】特開平05-185437(JP,A)
【文献】特開平05-154851(JP,A)
【文献】特開平02-158319(JP,A)
【文献】特開平08-047964(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002250(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 37/02
B29C 49/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームにより保持された成形品の表面を加熱トーチにより加熱してバリ処理を行うに際し、
一対の加熱トーチを設置し、一方の加熱トーチを設置面に対して垂直に設置するとともに、他方の加熱トーチを設置面に対して斜めに設置し、
成形品のうちロボットアームにより水平に保持可能な部分については、設置面に対して垂直に設置された加熱トーチ上でロボットアームにより成形品を設置面に対して水平方向に往復動させ、
成形品の処理対象となるバリ形成部分が傾斜した状態でしか姿勢制御できない場合は、設置面に対して斜めに設置された加熱トーチ上でロボットアームにより傾斜した成形品を
斜めに設置された加熱トーチに対して距離を一定に保って往復動させる
ことを特徴とする成形品のバリ処理方法。
【請求項2】
前記斜めに設置された加熱トーチは、設置面に対して30°~40°の角度をもって傾斜していることを特徴とする請求項1記載の成形品のバリ処理方法。
【請求項3】
前記成形品はブロー成形により成形された筒状体であることを特徴とする請求項1または2記載の成形品のバリ処理方法。
【請求項4】
前記筒状体は屈曲部を有することを特徴とする請求項3記載の成形品のバリ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品のバリ処理方法に関するものであり、特に、ロボットアームで保持された成形品を加熱トーチを用いてバリ処理を行う成形品のバリ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロー成形品においては、大バリ除去後に残るパーティングライン部のわずかなバリの処理方法として、これまで種々の方法が採用されている。例えば、成形品の形状、厚さ等に応じて、ナイフによる切除、超音波カッターによる切除、小型ガスバーナ等による溶融処理等である。
【0003】
これらの中で、加熱による溶融処理は、バリの除去と表面の平滑化を同時に行うことができ、好ましい方法と言える。
【0004】
例えば特許文献1には、マイクロフレームトーチと三次元駆動装置とからなるバリ取り装置が開示されており、三次元駆動装置を操作して、マイクロフレームトーチを成形品に沿い、かつ、成形品のバリの部分に高温の気体を噴出するように駆動することで、成形品のバリの部分を溶融させ、成形品とバリとを分断させることが記載されている。マイクロフレームトーチを用いたバリ処理によれば、成形品に残るバリが溶融し、その表面張力によって成形品に吸着し、バリ部分が平滑化される。すなわち、成形品とバリの分断と同時に、バリ取り仕上げも行われることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば気体の流路を構成するパイプ形状を有する成形品は、端部に締結されるホースとの機密性を確保するため、精度の高いバリ処理が要求されている。パイプ形状を有する成形品をブロー成形により形成すると、パイプの長手方向に沿って(パティングラインに沿って)、両側(180°反対側の位置)外周面にバリが形成される。端部へのホースの締結を考慮すると、精度の高いバリ処理が必要であり、加熱トーチによる溶融処理(例えば、空気流量・電力量を制御し常に一定の熱風を発生させる電熱式トーチを用いた溶融処理)は好ましいと言える。
【0007】
ここで、大小・形状様々なパイプ状ブロー成形品の端部バリ処理においては、常に一定の精度でバリ処理を行う必要がある。そのためには、加熱トーチと成形品の距離を一定に保ってバリ処理を行う必要がある。例えば一直線状のパイプ成形品であれば、加熱トーチ上を水平に移動させれば一定の精度でのバリ処理が可能である。
【0008】
これに対して、例えば屈曲したパイプ状ブロー成形品の場合、屈曲に応じて加熱トーチ上でパイプ状ブロー成形品の姿勢をコントロールする必要があり、単に水平移動させるだけでは一定の精度でのバリ処理は難しい。パイプ状ブロー成形品が加熱トーチに対して斜めになってしまうと、移動に伴い加熱トーチとパイプ状ブロー成形品の距離が変わってしまうからである。
【0009】
これに対処する方法としては、例えばパイプ状ブロー成形品を多軸のロボットアームで把持して、自在に姿勢制御することが考えられるが、それでも姿勢の自由度には限界があり、複雑な形状のパイプ状成形品について、確実に精度の高いバリ処理を実現するのは困難である。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、複雑な形状の成形品であっても確実に精度の高いバリ処理が可能な成形品のバリ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本発明の成形品のバリ処理方法は、ロボットアームにより保持された成形品の表面を加熱トーチにより加熱してバリ処理を行うに際し、一対の加熱トーチを設置し、一方の加熱トーチを設置面に対して垂直に設置するとともに、他方の加熱トーチを設置面に対して斜めに設置し、成形品のうちロボットアームにより水平に保持可能な部分については、設置面に対して垂直に設置された加熱トーチ上でロボットアームにより成形品を設置面に対して水平方向に往復動させ、成形品の処理対象となるバリ形成部分が傾斜した状態でしか姿勢制御できない場合は、設置面に対して斜めに設置された加熱トーチ上でロボットアームにより傾斜した成形品を斜めに設置された加熱トーチに対して距離を一定に保って往復動させることを特徴とする。
【0012】
本発明は、加熱トーチによりバリ取りを行うことを基本的な考えとするもので、バリの除去と同時にバリ取り仕上げも行われ、精度の高い端部処理が実現される。また、ロボットアームにより成形品を保持するとともに、非平行に配置された加熱トーチを複数設けることで、加熱トーチに対する成形品の姿勢制御の自由度が増し、複雑な形状の成形品であっても常に加熱トーチに対して水平に保持される形になり、確実に精度の高いバリ処理が実現される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複雑な形状の成形品であっても確実に精度の高いバリ処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】加熱トーチによるバリ処理を示す概略斜視図である。
【
図2】加熱トーチによるバリ処理を示す概略正面図である。
【
図3】加熱トーチの熱風吹出し口近傍を拡大して示す図である。
【
図4】2本の加熱トーチを平行に設置した状態を示す図である。
【
図5】2本の加熱トーチを非平行に設置した状態を示す図である。
【
図6】2本の加熱トーチを非平行に設置して成形品をバリ処理する工程を示すものであり、バリ処理前の状態を示す図である。
【
図7】2本の加熱トーチを非平行に設置して成形品をバリ処理する工程を示すものであり、垂直に設置された加熱トーチによるバリ処理を示す図である。
【
図8】2本の加熱トーチを非平行に設置して成形品をバリ処理する工程を示すものであり、傾斜して設置された加熱トーチによるバリ処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した成形品のバリ処理方法の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本実施形態においてバリ取り対象となる成形品は、
図1に示すようなパイプ状成形品1(筒状体)である。パイプ状成形品1は、ブロー成形により成形されるものであり、円筒状のパリソンを分割金型で挟み込んで成形されるため、長手方向(パーティングライン)に沿って両側(180°反対側の位置)外周面にバリ1aが形成される。
【0017】
パイプ状成形品1の場合、端部にホース等が締結されることが多く、寸法精度を確保するために、端部のバリ処理は必須である。そして、前記端部のバリ処理においては、バリ除去と表面仕上げが同時に行われる熱による溶融処理が効果的であり、本実施形態においても、
図1及び
図2に示すように、加熱トーチ2を用いて下方から熱風Hをパイプ状成形品1のバリ1aに吹き付け、これを溶融してバリ除去及び表面平滑化を行うようにしている。
【0018】
加熱トーチ2は、先端に熱風吹き出し口2Aを有する棒状体であり、これを垂直に設置して、パイプ状成形品1に対して下方から熱風Hを吹き付けることにより、バリ1aが溶融し、平坦化される。加熱トーチ2の熱風吹き出し口2Aの近傍には、
図3に示すように、電熱ヒーター2Bが内蔵されており、加熱トーチ2に供給される空気は、この電熱ヒータ2Bによって加熱され、熱風吹き出し口2Aから吹出される。
【0019】
加熱トーチ2の熱源としては、前記の電熱ヒータ2Bに限られず、バリ1aの溶融に必要な温度の熱風を供給し得るものであれば、任意の熱源を用いることができる。また、火炎等によりバリ1aを溶融するタイプの加熱トーチであってもよい。
【0020】
また、本実施形態では、加熱トーチ2の熱風吹き出し口2Aが幅広のスリット状とされている。このスリット状の熱風吹き出し口2Aをバリ1aの形成方向(パイプ状成形品1のパーティングラインの方向)に対して直交するように配置することで、熱風の吹き出し領域がバリ1aから不用意に外れることがなくなり、バリ1aを確実に加熱し溶融することができる。
【0021】
一方、前記バリ処理に際しては、パイプ状成形品1を何らかの把持手段で保持した状態で加熱トーチ2の熱風吹き出し口2Aに所定の距離をもって対向させるが、この時、パイプ状成形品1の姿勢制御の自由度が高いことが好ましい。特に、屈曲部を有するパイプ状成形品1の場合、姿勢制御が重要である。
【0022】
そこで、本実施形態においては、姿勢制御の自由度が高い多軸のロボットアーム(例えば6軸ロボットアーム)(図示は省略する)でパイプ状成形品1を把持し、その姿勢制御を行うこととする。ただし、パイプ状成形品1が複雑な形状である場合等において、前記6軸ロボットアームでも姿勢制御が不十分である場合がある。
【0023】
このような事態に対処するため、本実施形態においては、さらに加熱トーチ2を複数(ここでは2本)設置し、姿勢制御に対する自由度をさらに向上させることとする。
図4及び
図5は、2本の加熱トーチ21,22の設置状態を示すものである。
図4に示す例では、2本の加熱トーチ21,22が平行に設置されており、
図5に示す例では、2本の加熱トーチ21,22が非平行に設置されている。すなわち、
図5に示す例では、加熱トーチ21は略垂直に設置されており、加熱トーチ22は斜めに傾斜した状態で設置されている。
【0024】
ここで、
図4に示すように2本の加熱トーチ21,22を平行に設置した場合、加熱トーチ21に対する姿勢の自由度と加熱トーチ22に対する姿勢の自由度はほとんど同じである。2本の加熱トーチ21,22を設置しても姿勢制御の自由度の増加という効果はほとんど得ることができない。すなわち、鉛直方向のみの加熱トーチしか設置されていなかった場合、バリ処理が適切に行えない可能性がある。その理由は、バリ処理を行うパイプ状成形品1は、製品毎に大きさも異なり、屈曲した形状をもっており、このため製品を把持したロボットが、加熱トーチに対し適切な方向と角度をなして進入しようとした際、ロボットの可動範囲の制約から適切な姿勢を取ることができず、バリ処理精度が下がるおそれがある。
【0025】
一方、
図5に示すように2本の加熱トーチ21,22を非平行に設置した場合、例えば垂直な加熱トーチ21では対応できない姿勢であっても、傾斜した加熱トーチ22で対応可能となる場合があり、姿勢制御に対する自由度が増す。すなわち、設置角度の異なる加熱トーチを2本用いることで、ロボットの制約を緩和し、バリ処理精度を維持したまま作業が行える。この他にも、2本のトーチを適宜使い分けることで、ロボットの姿勢変更に要する時間を短縮し、生産効率の上昇に寄与するという利点も有する。
【0026】
このような観点から、本実施形態では、パイプ状成形品1を姿勢制御の自由度が高い多軸のロボットアーム(例えば6軸ロボットアーム)で保持し、2本の加熱トーチ21,22を非平行に設置してバリ処理を行うこととする。
【0027】
加熱トーチ21,22はパイプ状成形品1を保持するロボットの可動範囲内に設置されており、1本(加熱トーチ21)は鉛直上向きに、もう1本(加熱トーチ22)は水平面に対し30°~40°の角度αをなして、それぞれ設置されている。2本のトーチ間距離は300mm~400mm、水平面からの高さはそれぞれ600mm~800mmである。
【0028】
図6から
図8は、2本の加熱トーチ21,22を非平行に設置してパイプ状成形品1のバリ1aをバリ処理する工程を示すものである。
【0029】
先ず、
図6は、バリ取り前の待機状態を示すものであり、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図である。待機状態では、パイプ状成形品1は各加熱トーチ21,22上から外れた位置においてロボットアームにより保持された状態で待機している。加熱トーチ21や加熱トーチ22はロボットの可動範囲に設置されている。
【0030】
図7は、パイプ状成形品1の水平に姿勢制御される部分のバリ処理状態を示すものであり、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図である。パイプ状成形品1のうちロボットアームにより水平に保持可能な部分については、パイプ状成形品1のバリ1aが垂直に設置された加熱トーチ21の中心線上に一致する様にロボットアームを動作させ、加熱トーチ21上で水平方向に往復動させながら、加熱トーチ21より吹き出す熱風によりバリ1aを溶かしてバリ処理を行う。バリ処理しなければならない範囲に応じて、熱風の当たる範囲で部分をパイプ状成形品1のパーティングラインを往復させることで、確実に処理を行える。
【0031】
図8は、パイプ状成形品1の斜め部分のバリ処理状態を示すものであり、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図である。処理対象となるバリ1a形成部分が傾斜した状態でしか姿勢制御できない場合は、傾斜して設置された加熱トーチ22を使用する。傾斜したパイプ状成形品1は、斜めに設置された加熱トーチ22に対して距離を一定に保って往復動させることができ、斜め部分についても精度の高いバリ処理が可能である。
【0032】
すなわち、本実施形態の成形品のバリ処理方法では、パイプ状成形品1の形状に応じ、2本の加熱トーチ21,22を使い分けることで、常に精度の高いバリ処理が行われるようにしている。その結果、複雑な形状の成形品であっても確実に精度の高いバリ処理が可能である。
【0033】
以上、本発明を適用した実施形態についてを説明してきたが、本発明が前述の実施形態に限られるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 パイプ状成形品
1a バリ
2、21,22 加熱トーチ
2A 熱風吹出し口
2B 電熱ヒータ
H 熱風