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特許7478939香味改善剤及び香味改善効果を有する新規アセトキシ脂肪酸エチルエステル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】香味改善剤及び香味改善効果を有する新規アセトキシ脂肪酸エチルエステル
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20240426BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240426BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20240426BHJP
   C07C 69/72 20060101ALI20240426BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20240426BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20240426BHJP
   A23L 2/02 20060101ALN20240426BHJP
   A23F 5/24 20060101ALN20240426BHJP
   A21D 2/16 20060101ALN20240426BHJP
   A21D 13/80 20170101ALN20240426BHJP
【FI】
A23L27/20 D
A23L27/00 Z
C07C67/08
C07C69/72 CSP
A23L2/00 B
A23L2/52
A23L2/52 101
A23L2/02 A
A23F5/24
A23L2/02 B
A21D2/16
A21D13/80
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020168282
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060682
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】更家 亮
(72)【発明者】
【氏名】勝山 賢
(72)【発明者】
【氏名】羽入 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】山上 康寿
(72)【発明者】
【氏名】延廣 昭夫
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-173708(JP,A)
【文献】特開2006-20526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(Rは炭素数9~13のアルキル基を表す。)
で表されるアセトキシ脂肪酸エチルエステルから選択される1種以上のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを有効成分とする飲食品の香味改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の香味改善剤を添加してなる飲食品。
【請求項3】
請求項1に記載の香味改善剤を添加することにより、アセトキシ脂肪酸エチルエステルを1ppb~100ppm含有する請求項2に記載の飲食品。
【請求項4】
請求項1に記載の香味改善剤を添加することを特徴とする、飲食品の香味改善方法。
【請求項5】
請求項1に記載の香味改善剤を添加することにより、アセトキシ脂肪酸エチルエステルを1ppb~100ppm添加する、請求項4に記載の香味改善方法。
【請求項6】
一般式(1)
【化1】
(Rは炭素数10~13のアルキル基を表す。)
で表されるアセトキシ脂肪酸エチルエステル。
【請求項7】
一般式(2)
【化2】
(Rは炭素数10~13のアルキル基を表す。)
で表されるδ-ラクトンの酸触媒を用いたエタノールとのエステル交換反応により、一般式(3)
【化3】
(Rは炭素数10~13のアルキル基を表す。)
で表されるヒドロキシ脂肪酸エチルを得る工程と、当該ヒドロキシ脂肪酸エチルの無水酢酸を用いたアシル化により、請求項6に記載のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを得る工程からなる、請求項6に記載のアセトキシ脂肪酸エチルエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味改善剤及び香味改善効果を有する新規アセトキシ脂肪酸エチルエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の多様化に伴い様々な香味改善剤が要求されており、例えば、スピラントールによる飲食品の香味増強剤(特許文献1)、カフェオフランによる甘味、酸味及び果汁感付与(特許文献2)、エリスリトールおよび/またはソルビトールを有効成分とする柑橘類の酸味増強剤(特許文献3)等が提案されている。しかしながら、上記に挙げた提案は、呈味的に必ずしも満足できるものではなかった。
【0003】
食品香料に用いるラクトンを使用した香味改善剤もあり、ワインラクトンによる焙煎嗜好飲料または焙煎嗜好飲料風味飲食品の余韻改善剤(特許文献4)、ワインラクトンによる果汁感、ボディ感付与(特許文献5)、フルフリルアルコールとγ-ブチロラクトンを併用による中盤から後半にかけての飲み応え・ボディ感付与(特許文献6)、フタライド類を有効成分とする甘味含有飲食品の甘味改善剤(特許文献7)、ジヒドロアクチニジオライドが食品の呈味を改善する作用(特許文献8)、3,4-ジメチル-5-プロピリデンフラン-2(5H)-オンからなる飲食品の呈味増強剤(特許文献9)等が提案されている。しかしながら、上記に挙げた提案は、ラクトンが強い風味特性を有するため、低濃度で使用した場合でもラクトン自体の風味が残り、風味的に必ずしも満足できるものではなかった。
【0004】
一方、炭素数8~12のδ-ラクトンの開環物については、5-アシロキシデカン酸アルキルによる乳風味付与剤(特許文献10)、5-ホルミルオキシアルカン酸エチルによる乳風味付与剤(特許文献11)、5-[(1-アルコキシ)エトキシ]アルカン酸アルキルによる乳風味付与剤(特許文献12)が提案されているが、炭素数14~18のδ-ラクトン開環物が飲食品の甘味、酸味、塩味、旨味、コク、余韻及び素材感のような香味を改善することは記載されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-296356号公報
【文献】特開2008-194015号公報
【文献】特開2018-139558号公報
【文献】特開2009-296951号公報
【文献】特開2010-083894号公報
【文献】WO2010/147222号公報
【文献】特開2011-103774号公報
【文献】特開2014-193146号公報
【文献】特開2019-037204号公報
【文献】特開2013-173708号公報
【文献】特開2014-031331号公報
【文献】特開2015-131773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、飲食品の香味を改善することができる香味改善剤、当該効果を有する新規化合物及び当該新規化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の炭素数のラクトン開環物であるアセトキシ脂肪酸エチルエステルが飲食品の香味改善に有用であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]一般式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
(Rは炭素数9~13のアルキル基を表す。)
で表されるアセトキシ脂肪酸エチルエステルから選択される1種以上のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを有効成分とする香味改善剤。
[2][1]に記載の香味改善剤を添加してなる飲食品。
[3][1]に記載の香味改善剤を添加することにより、アセトキシ脂肪酸エチルエステルを1ppb~100ppm含有する[2]に記載の飲食品。
[4][1]に記載の香味改善剤を添加することを特徴とする、飲食品の香味改善方法。
[5][1]に記載の香味改善剤を添加することにより、アセトキシ脂肪酸エチルエステルを1ppb~100ppm添加する、[4]に記載の香味改善方法。
[6]一般式(1)
【0011】
【化1】
【0012】
(Rは炭素数10~13のアルキル基を表す。)
で表されるアセトキシ脂肪酸エチルエステル。
[7]一般式(2)
【0013】
【化2】
【0014】
(Rは炭素数10~13のアルキル基を表す。)
で表されるδ-ラクトンの酸触媒を用いたエタノールとのエステル交換反応により、一般式(3)
【0015】
【化3】
【0016】
(Rは炭素数10~13のアルキル基を表す。)
で表されるヒドロキシ脂肪酸エチルを得る工程と、当該ヒドロキシ脂肪酸エチルの無水酢酸を用いたアシル化により、[6]に記載のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを得る工程からなる、[6]に記載のアセトキシ脂肪酸エチルエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の特定の炭素数のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを含有する香味改善剤は、飲食品が本来有する香味に悪影響を及ぼすことなく、飲食品の香味を改善することができる。また、本発明の製造方法により、当該効果を有する新規なアセトキシ脂肪酸エチルエステルを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の香味増強剤の有効成分として用いるアセトキシ脂肪酸エチルエステルは、一般式(1)
【0019】
【化1】
【0020】
(Rは炭素数9~13のアルキル基を表す。)
で表される化合物である。
【0021】
これらのアセトキシ脂肪酸エチルエステルの合成方法は限定されないが、例えば、以下の方法で合成可能である。
【0022】
まず、一般式(2)で表されるラクトン類を基質とする、酸触媒を用いたエタノールとのエステル交換反応により、一般式(3)で表されるヒドロキシ脂肪酸エチルを得る。
【0023】
【化4】
【0024】
この反応で使用するラクトン類は公知の方法で合成することができ、また、市販品を用いることもできる。
【0025】
この反応で使用するエタノールの使用量は、基質であるラクトン類に対し当量以上であれば任意であるが、エステル交換反応が可逆反応であることから、平衡が目的物の方に偏るよう、大過剰量使用するのがよく、基質であるラクトン類に対して5~15当量が好ましい。
【0026】
この反応で使用する酸触媒は、エステル交換反応に利用できるものであれば何を用いてもよく、好ましい例として硫酸やp-トルエンスルホン酸一水和物が挙げられる。酸触媒の使用量は触媒量であれば任意であるが、基質であるラクトン類に対して0.01~0.03当量が好ましい。
【0027】
反応温度は使用するラクトン類や酸触媒に応じて任意に決定してよいが、20~40℃の間が好ましい。また、反応時間は反応の進行を薄層クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどでモニタリングしながら決定してよいが、3~4時間反応させるのが好ましい。
【0028】
次に、上記反応で得た一般式(3)で表されるヒドロキシ脂肪酸エチルの無水酢酸を用いたアシル化により、一般式(1)で表される本発明のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを得る。
【0029】
【化5】
【0030】
この反応で使用するヒドロキシ脂肪酸エチルは、上記反応で得た粗生成物を精製して使用することもできるが、粗生成物のまま使用してもよい。
【0031】
この反応で使用するアシル化剤は、アシル化に利用できるカルボン酸無水物やカルボン酸ハロゲン化物などであれば何を用いてもよく、好ましい例として無水酢酸が挙げられる。アシル化剤の使用量は基質であるラクトン類に対し当量以上であれば任意であるが、ヒドロキシ脂肪酸エチルに対して過剰量使用するのがよく、好ましくは2~3当量の範囲内がよい。
【0032】
この反応では、ピリジンを溶媒とすることができる。ピリジンの使用量は減らすこともでき、その場合は、基質であるヒドロキシ脂肪酸エチル同士の分子間反応を抑えるため、基質やアシル化剤に対し不活性な溶媒を併用するのがよく、好ましい例としてトルエンが挙げられる。
【0033】
反応温度は、使用するヒドロキシ脂肪酸エチルやアシル化剤に応じて任意に決定してよいが、室温で行うのが好ましい。また、反応時間は反応の進行を薄層クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどでモニタリングしながら決定してよいが、終夜反応させるのが好ましい。
【0034】
上記により得られた本発明のアセトキシ脂肪酸エチルエステルは、必要に応じてカラムクロマトフィ、減圧蒸留などの手段を用いて精製してよい。
【0035】
本発明の香味改善剤は、飲食品に添加することで、飲食品が本来有する香味に悪影響を及ぼすことなく、飲食品の香味を改善することができる。本発明における「飲食品の香味を改善する」とは、飲食品の甘味、酸味、塩味及び旨味の基本味、並びに、コク、余韻、素材感などの基本味の周辺の感覚からなる各要素の中から1種又は2種以上の要素を改善することを指す。なお、本発明における「改善する」には、飲食品の官能評価において好ましいと評価される限り、上記要素の1種又は2種以上を増強すること、付与すること及び抑制することのいずれも含まれる。
【0036】
本発明における飲食品のコクとは、中味から後味にかけて感じられる厚みのことを指し、濃厚感や複雑さも含む要素であり、飲食品の余韻とは、飲食品を飲み込んだ後に口中全体から喉の奥にかけてしばらく持続する風味のことを指す。また、飲食品の素材感とは、その飲食品の主たる特徴や特性を総合的に表す風味のことを指す。
【0037】
本発明の香味改善剤が適用される飲食品は、特に限定されず、例えば、飲食品としては、果実飲料、果汁入り飲料、野菜ジュース、発泡性飲料、濃縮ジュース、凍結ジュース、スポーツドリンク、栄養ドリンク、その他の機能性ドリンク、フレーバードティー、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳類などの飲料一般、ヨーグルト、ゼリー、ムース、デザート類、アイスクリーム、ラクトアイス、アイスミルク、シャーベットなどの冷菓並びに氷菓、ケーキ、クッキー、ビスケット、パイ、煎餅、その他の米菓などといった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子などの菓子類、パン、スナック類、チューインガム、ハードキャンディ、ソフトキャンディー、ゼリービーンズ、グミ、錠菓などを含む糖菓一般、クリーム、果実フレーバーソース、ジャムやマーマレード、甘味料、シロップ、カレールウ、シチュールウ、ハヤシライスのルウ、ハッシュドビーフのルウ、ソース、調味ソース、粉末調味料、液体調味料、ドレッシング、揚げ粉、パスタソース、グラタンソース、炊き込みご飯の素(パエリア、ビリヤニ、ピラフ等)、炒飯の素、麻婆豆腐の素、鍋の素、中華スープの素、コンソメスープの素等の調味料類、カップラーメン、カップ焼きそば、袋麺等の即席麺類、カップごはん等の即席米飯類、レトルト食品、冷凍食品(炒飯、ピラフ、餃子、焼売、から揚げ、ハンバーグ、フライ、コロッケ、グラタン、ピザ等)、缶詰等の調理食品や加工食品等が挙げられ、口腔衛生製品としては、口内清涼剤、うがい剤、歯磨きなどの医薬品部外品、シロップ剤などの医薬品を挙げることができるが、これらに限定はされない。
【0038】
本発明の香味改善剤に用いられるアセトキシ脂肪酸エチルエステルは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本発明の香味改善剤の飲食品への好適な添加量は、添加する飲食品によって異なるが、アセトキシ脂肪酸エチルエステル自体の香味が飲食品の本来有する香味に悪影響を及ぼさないよう又はアセトキシ脂肪酸エチルエステルの過剰添加により飲食品全体の香味がぼやけないよう、かつ、香味改善効果が得られるよう、有効成分であるアセトキシ脂肪酸エチルエステルが飲食品に対し1ppb~100ppm含まれるのが好ましく、10ppb~10ppm含まれるのがより好ましい。なお、本発明においてppt、ppb、ppm及び%とは、特に記載の無い限り質量比のことを示す。
【0040】
本発明の香味改善剤は、そのまま飲食品に添加して使用してもよいが、使用時の利便性のため適宜溶剤などで希釈されてもよい。希釈に用いる溶剤などは香料組成物に常用されるものであれば特に制限はない。また、あらかじめ香料組成物とすることもでき、香味に悪影響のない範囲であれば、香料以外の成分として常用される他の添加物や添加剤を加えた組成物としてもよい。さらに、本発明においては香料一般に適用される製剤化技術の適用も可能であり、粉末化、カプセル化など、状況により所望の形態に調製することもできる。なお、上記のように調製される香料組成物等の飲食品への添加量は、一般的に最大でも1%程度であることから、香味改善効果が得られるよう、いずれの形態でも、有効成分であるアセトキシ脂肪酸エチルエステルを100ppb以上含有するよう調製するのが好ましい。
【0041】
本発明の香味改善剤は、飲食品中に均等に混合することができれば、製造工程のどの時点で添加しても構わない。
【実施例
【0042】
[実施例1]5-アセトキシテトラデカン酸エチルの合成
窒素雰囲気下、試験管に、δ-テトラデカラクトン(1.5g、6.6mmol)、エタノール(3.0g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.02g、0.11mmol)を仕込み、30℃3時間攪拌した。水(12ml)を添加し、トルエン(10mL)にて抽出し、得られたトルエン層を水(10mL)で2回洗浄した。減圧濃縮することにより、無色油状の粗製物として、5-ヒドロキシテトラデカン酸エチル(1.8g)が得られた。
【0043】
窒素雰囲気下、試験管に、上記で得られた5-ヒドロキシテトラデカン酸エチル(1.8g、6.6mmol)、トルエン(10.0g)、ピリジン(0.2g)、無水酢酸(2.0g、19.6mmol)を仕込み、室温下終夜攪拌した。水(10ml)を添加し、トルエン(10mL)にて抽出し、得られたトルエン層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)、水(10mL×2回)で順次洗浄した。減圧濃縮することで得られた残渣(1.9g)をシリカゲルクロマトグラムと蒸留精製することにより、無色油状物である、5-アセトキシテトラデカン酸エチル(0.7g、2.2mmol)が得られた。δ-テトラデカラクトンからの収率は33%であった。
【0044】
[実施例2]5-アセトキシヘキサデカン酸エチルの合成
窒素雰囲気下、試験管に、δ-ヘキサデカラクトン(5.0g、19.7mmol)、エタノール(9.1g)、硫酸(0.06g、0.59mmol)を仕込み、20℃で6時間攪拌した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液(11mL)を添加し、酢酸エチル(20mL)にて抽出し、得られた酢酸エチル層を10%食塩水(11mL)で3回洗浄した。減圧濃縮することにより、無色油状の粗製物として、5-ヒドロキシヘキサデカン酸エチル(5.9g)が得られた。
【0045】
窒素雰囲気下、試験管に、上記で得られた5-ヒドロキシヘキサデカン酸エチル(5.9g、19.6mmol)、トルエン(12.0g)、ピリジン(2.0g)、無水酢酸(4.0g、39.3mmol)を仕込み、室温下終夜攪拌する。水(15mL)を添加し、トルエン(10mL)にて抽出し、得られたトルエン層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(15mL)、水(15mL×2回)で順次洗浄した。減圧濃縮することで得られた残渣(6.8g)をシリカゲルクロマトグラムと蒸留精製することにより、無色油状物である、5-アセトキシヘキサデカン酸エチル(4.5g、13.1mmol)が得られた。δ-ヘキサデカラクトンからの収率は66%であった。
【0046】
得られた5-アセトキシヘキサデカン酸エチルの物性は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz、CDCl):δppm 0.88(t,3H,J=6.9Hz),1.24-1.32(m,21H),1.52-1.69(m,6H),2.04(s,3H)2.30(t,2H,J=7.6Hz),4.12(q,2H,J=7.2Hz),4.87(quin,1H,J=6.1Hz)
13C-NMR(400MHz、CDCl):δppm 14.06,14.18,20.64,21.18,22.63,25.23,29.29,29.44,29.47,29.51,29.57,29.58,31.85,33.31,33.93,33.95,60.22,73.72,170.82,173.32
【0047】
[実施例3]5-アセトキシオクタデカン酸エチルの合成
窒素雰囲気下、試験管に、δ-オクタデカラクトン(3.8g、13.4mmol)、エタノール(6.2g)、硫酸(0.11g、1.09mmol)を仕込み、30℃6時間攪拌した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液(7mL)を添加し、酢酸エチル(10mL)にて抽出し、得られた酢酸エチル層を水(6mL)で3回洗浄した。減圧濃縮することにより、無色油状の粗製物として、5-ヒドロキシオクタデカン酸エチル(4.3g)が得られた。
【0048】
窒素雰囲気下、試験管に、上記で得られた5-ヒドロキシオクタデカン酸エチル(4.3g、13.4mmol)、トルエン(10.7g)、ピリジン(2.0g)、無水酢酸(2.8g、27.4mmol)を仕込み、室温下終夜攪拌した。水(10ml)を添加し、トルエン(10mL)にて抽出し、得られたトルエン層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)、水(10mL×2回)で順次洗浄した。減圧濃縮することで得られた残渣(3.4g)をシリカゲルクロマトグラムと蒸留精製することにより、無色油状物である、5-アセトキシヘキサデカン酸エチル(1.0g、2.7mmol)が得られた。δ-オクタデカラクトンからの収率は21%であった。
【0049】
得られた5-アセトキシオクタデカン酸エチルの物性は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz、CDCl):δppm 0.88(t,3H,J=6.8Hz),1.24-1.27(m,25H),1.52-1.69(m,6H),2.04(s,3H)2.30(t,2H,J=7.4Hz),4.13(q,2H,J=7.2Hz),4.88(quin,1H,J=6.1Hz)
13C-NMR(400MHz、CDCl):δppm 14.06,14.18,20.64,21.18,22.64,25.23,29.31,29.45,29.47,29.52,29.59,29.63,31.86,33.31,33.95,60.22,73.72,170.82,173.32
【0050】
[参考例]
本発明の香味増強剤の有効成分である5-アセトキシテトラデカン酸エチル(以下、化合物1と記載する場合あり)、5-アセトキシヘキサデカン酸エチル(以下、化合物2と記載する場合あり)及び5-アセトキシオクタデカン酸エチル(以下、化合物3と記載する場合あり)について、化合物自体の呈味及び香気の評価を行ったところ、全ての化合物が弱い苦味を呈し、香気は表1に記載のとおりであった。以降の実施例において、使用するアセトキシ脂肪酸エチルエステルの添加濃度は、化合物自体の呈味及び香気が問題とならないよう、また、化合物の過剰添加により飲食品全体の香味がぼやけないよう100ppm以下とした。
【0051】
【表1】
【0052】
[実施例4]本発明の化合物を添加したピーチ果汁入り飲料の評価
表1に記載の化合物をエタノールで100ppmに希釈した溶液(以下、「化合物溶液」とする)を表2に記載のピーチ果汁入り飲料ベースに0.01%添加し(飲食品中の化合物の添加濃度は0.01ppm)、無添加の飲料ベースと比較した官能評価を行った。評価は表3に記載の7段階評価とし、訓練された社内パネル4名で行った。結果を表4に示した。官能評価の結果、全ての化合物について、甘味、コク及び余韻が改善され、さらにピーチらしい果汁感が付与され、全体的な香味が改善された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
[実施例5]本発明の化合物を添加したオレンジ果汁入り飲料の評価
化合物溶液を表5に記載のオレンジ果汁入り飲料ベースに0.01%添加し(飲食品中の化合物の添加濃度は0.01ppm)、無添加の飲料ベースと比較した官能評価を行った。評価は実施例4と同様の基準で行い、訓練された社内パネル4名で行った。結果を表6に示した。官能評価の結果、全ての化合物について、甘味、コク及び余韻が改善され、さらにオレンジらしい果汁感が付与され、全体的な香味が改善された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
[実施例6]本発明の化合物を添加した市販レモンジュースの評価
化合物溶液を市販のレモンジュースに0.01%添加し(飲食品中の化合物の添加濃度は0.01ppm)、無添加のジュースと比較した官能評価を行った。評価は実施例4と同様の基準で行い、訓練された社内パネル2名で行った。結果を表7に示した。官能評価の結果、全ての化合物について、甘味、酸味、コク及び余韻が改善され、さらにレモンらしい果汁感が付与され、全体的な香味が改善された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0060】
【表7】
【0061】
[実施例7]本発明の化合物を添加したコーヒー飲料の評価
化合物溶液を市販の無糖ブラックコーヒーに砂糖を5%添加したコーヒー飲料ベースに0.01%添加し(飲食品中の化合物の添加濃度は0.01ppm)、無添加のコーヒー飲料ベースと比較した官能評価を行った。評価は実施例4と同様の基準で行い、訓練された社内パネル6名で行った。結果を表8に示した。官能評価の結果、いずれの化合物についても、甘味、コク及び余韻の内、いずれか1種以上を改善し、さらに、化合物1及び化合物3については、焙煎したてのコーヒー、挽きたてのコーヒー、淹れたてのコーヒーなどを想起させるコーヒー感も付与し、全体的な香味が改善された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0062】
【表8】
【0063】
[実施例8]本発明の化合物を添加したクッキーの評価
表1に記載の化合物を1%添加した表9に記載のバターフレーバーを表10に記載のクッキー生地に0.1%配合し(飲食品中の化合物の添加濃度は10ppm)、このクッキー生地を予め下部150℃、上部180℃に温めておいたオーブンに入れ7分間焼成してクッキーを調製し、バターフレーバー無添加のクッキーと比較した官能評価を行った。評価は実施例4と同様の基準で行い、訓練された社内パネル4名で行った。結果を表11に示した。官能評価の結果、いずれの化合物についても、甘味、コク及び余韻が改善され、さらに濃厚なバター感も付与し、全体的な香味が改善された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0064】
【表9】
【0065】
【表10】
【0066】
【表11】
【0067】
[実施例9]本発明の化合物を添加したグルタミン酸ナトリウム配合食塩水の評価
化合物溶液を表12に記載のグルタミン酸ナトリウム配合食塩水に0.01%添加し(飲食品中の化合物の添加濃度は0.01ppm)、無添加のものと比較した官能評価を行った。評価は実施例4と同様の基準で行い、訓練された社内パネル3名で行った。結果を表13に示した。官能評価の結果、いずれの化合物についても、塩味、旨味、コク及び余韻の内、いずれか1種以上を改善した。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0068】
【表12】
【0069】
【表13】
【0070】
[実施例10]本発明の化合物を添加した市販めんつゆの評価
化合物溶液を市販のめんつゆに0.01%添加し(飲食品中の化合物の添加濃度は0.01ppm)、無添加のめんつゆと比較した官能評価を行った。評価は実施例4と同様の基準で行い、訓練された社内パネル3名で行った。結果を表14に示した。官能評価の結果、全ての化合物について、塩味、旨味、コク及び余韻が改善され、化合物2及び化合物3については、醤油の先味と和風だしの中味の効いた香味(つゆ感)を増強した。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0071】
【表14】
【0072】
[実施例11]本発明の化合物を添加した市販カレーの評価
化合物溶液を市販のカレールウを用いて調製したカレーに0.01%添加し(飲食品中の化合物の添加濃度は0.01ppm)、無添加のカレーと比較した官能評価を行った。評価は実施例4と同様の基準で行い、訓練された社内パネル1名で行った。結果を表15に示した。官能評価の結果、すべての化合物について、コク及び余韻が改善され、調理食品特有のよく煮込んだ甘さのある香味(カレー感)も増強した。さらに化合物1については、香辛料の刺激的な香味を想起させるスパイス感も付与された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0073】
【表15】