(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池および非水電解液
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0525 20100101AFI20240426BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240426BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240426BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M10/0567
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2020559963
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047411
(87)【国際公開番号】W WO2020116509
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018229164
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲 淵龍
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-018926(JP,A)
【文献】特開2011-049152(JP,A)
【文献】特開2012-182130(JP,A)
【文献】特開2013-138012(JP,A)
【文献】特開2007-123097(JP,A)
【文献】特開2018-092778(JP,A)
【文献】特開平11-199213(JP,A)
【文献】特開2007-103214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 10/0567
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータおよび非水電解液を有し、
前記負極は、黒鉛を含み、
前記黒鉛のBET比表面積は0.1m
2/g以上3m
2/g以下であり、
前記非水電解液は、式(1):(R1R2R3Si-O)
m-M=(O)
n
で表されるシリル化合物を含み、
式(1)中、Mは、
Pであり、
nは、0
または1であり、
mは
、3であり、
R1~R3は、それぞれ独立して、
炭素数が1~5個のアルキル基、
炭素数が1~5個のフルオロアルキル基、
炭素数が2~5個のアルケニル基、
炭素数が2~5個のフルオロアルケニル基、
炭素数が6~10個のアリール基、
炭素数が6~10個のフルオロアリール基または水素原子であ
り、
前記非水電解液に含まれる前記シリル化合物の含有量が、0.1質量%以上2.5質量%以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記シリル化合物が、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)
およびリン酸トリス(トリメチルシリル
)よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記黒鉛のBET比表面積は2m
2/g以下である、請求項1
または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
式(1):(R1R2R3Si-O)
m-M=(O)
n
で表されるシリル化合物を
0.1質量%以上2.5質量%以下含む二次電池用非水電解液であって、
式(1)中、Mは、
Pであり、
nは、0
または1であり、
mは
、3であり、
R1~R3は、それぞれ独立して、
炭素数が1~5個のアルキル基、
炭素数が1~5個のフルオロアルキル基、
炭素数が2~5個のアルケニル基、
炭素数が2~5個のフルオロアルケニル基、
炭素数が6~10個のアリール基、
炭素数が6~10個のフルオロアリール基または水素原子である、BET比表面積が0.1m
2/g以上3m
2/g以下の黒鉛を含む負極を具備する二次電池用非水電解液。
【請求項5】
前記シリル化合物が、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)
およびリン酸トリス(トリメチルシリル
)よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項
4に記載の非水電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛を含む負極を具備する非水電解質二次電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。
【0003】
特許文献1は、負極に比表面積の小さい黒鉛を用いることにより、電池のサイクル特性を向上させることを提案している。黒鉛の比表面積を小さくすることで、黒鉛と非水電解液との副反応が抑制され、サイクル特性の向上に寄与すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
一方、黒鉛の比表面積が小さくなると、単位面積あたりのLiイオンの挿入、脱離量が増加すること等が原因で、黒鉛表面に形成される被膜が厚くなり、電池の内部抵抗が大きくなりやすい。
【0006】
以上に鑑み、本発明の一側面は、正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータおよび非水電解液を有し、前記負極は、黒鉛を含み、前記黒鉛のBET比表面積は3m2/g以下であり、前記非水電解液は、式(1):(R1R2R3Si-O)m-M=(O)nで表されるシリル化合物を含み、式(1)中、Mは、P、BまたはSであり、nは、0、1または2であり、mは、2または3であり、R1~R3は、それぞれ独立して、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アリール基、フルオロアリール基または水素原子である、非水電解質二次電池に関する。
【0007】
また、本発明の別の側面は、式(1):(R1R2R3Si-O)m-M=(O)nで表されるシリル化合物を含み、式(1)中、Mは、P、BまたはSであり、nは、0、1または2であり、mは、2または3であり、R1~R3は、それぞれ独立して、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アリール基、フルオロアリール基または水素原子である、黒鉛を含む負極を具備する二次電池用非水電解液に関する。
【0008】
本発明によれば、比表面積の小さい黒鉛を用いる場合に、電池の内部抵抗の増加を抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在するセパレータおよび非水電解液を具備する。負極は、黒鉛を含み、黒鉛のBET比表面積は3m2/g以下である。このように黒鉛のBET比表面積が小さい場合、黒鉛と非水電解液との副反応が抑制されるため、サイクル特性は向上し得る。一方、黒鉛表面の単位面積あたりのLiイオンの挿入、脱離量が増加するため、黒鉛表面に形成される被膜は厚くなる。また、負極の抵抗は、正極での副反応により生成した物質(例えばLiF)が負極に泳動し、負極表面に堆積することでも上昇する。黒鉛のBET比表面積が小さい場合、正極から泳動して負極表面に堆積する物質の単位面積あたりの堆積量も増加する。これに対し、非水電解液に、式(1):(R1R2R3Si-O)m-M=(O)nで表されるシリル化合物を含ませることで、抵抗の上昇が抑制される。
【0011】
式(1)中、Mは、P、BまたはSであり、nは、0、1または2であり、mは、2または3であり、R1~R3は、それぞれ独立して、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アリール基、フルオロアリール基または水素原子である。
【0012】
式(1)で表されるシリル化合物(以下、シリル化合物Aとも称する。)は、正極表面で優先的に分解されて、正極表面を被覆するイオン伝導性の良好な被膜を形成すると考えられる。これにより、正極における非水電解液成分の酸化分解反応が抑制され、負極に泳動して黒鉛表面に堆積する物質量が減少し、負極抵抗の上昇が抑制されるものと考えられる。
【0013】
以下に、本開示の一態様に係る非水電解質二次電池について更に説明する。ただし、以下で説明する実施形態は例示であって、本開示はこれに限定されるものではない。
【0014】
非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解液と、セパレータと、電池ケースとを備える。例えば、正極および負極は、セパレータを介して巻回されて電極体を構成している。電極体と非水電解液は電池ケース内に収容される。なお、電極体は、正極と負極とがセパレータを介して積層された積層型の電極体であってもよく、他の態様の電極体が適用されてもよい。
【0015】
電極体および非水電解液を収容する電池ケースは、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、金属箔等のバリア層を有する樹脂シート(ラミネートシート)で形成された袋状ケースなどが例示できる。
【0016】
[正極]
正極は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極活物質層とを具備する。正極集電体には、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等の正極電位範囲で安定な金属箔等を用い得る。正極活物質層は、通常、正極合材で形成され、正極合材は、正極活物質、結着剤、導電剤等を含む。
【0017】
正極活物質層は、例えば、正極合材を含むスラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥後の塗膜を圧延することにより得られる。正極集電体の厚さは、例えば、10μm以上、100μm以下である。
【0018】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物が用いられる。リチウム含有遷移金属酸化物としては、岩塩型結晶構造を有する層状化合物(例えば空間群R3-mに属する化合物)、スピネル型もしくはペロブスカイト型結晶構造を有する化合物等が挙げられる。正極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
リチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-bO2、LiaCobM1-bOc、LiaNi1-bMbOc、LiaMn2O4、LiaMn2-bMbO4、LiMPO4、Li2MPO4F等が挙げられる。ここで、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、SbおよびBよりなる群から選択される少なくとも1種であり、a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、充放電により増減する。
【0020】
中でもLiaNibM1-bO2(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましく、高容量化の観点からは、0.85≦b≦1を満たすことがより好ましい。また、結晶構造の安定性の観点からは、Mとして、CoおよびAlを含むLiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.85≦b<1、0<c<0.15、0<d≦0.1、b+c+d=1)が好ましい。
【0021】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
結着剤としては、例えば、フッ素樹脂、ゴム材料等が挙げられる。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられ、ゴム材料としては、例えば、エチレン-プロピレン-イソプレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。結着剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘剤と併用されてもよい。
【0023】
[負極]
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体の表面に形成された負極活物質層とを具備する。負極集電体には、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などの負極電位範囲で安定な金属箔等を用い得る。負極活物質層は、通常、負極合材で形成され、負極合材は、負極活物質、結着剤等を含む。
【0024】
負極活物質層は、例えば、負極合材を含むスラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥後の塗膜を圧延することにより得られる。負極集電体の厚さは、例えば、5μm以上、40μm以下である。
【0025】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵および放出する材料であればよいが、少なくとも黒鉛を含む。ここでは、例えば発達した黒鉛型結晶構造を有し、X線回折測定(XRD)で得られる(002)面の平均面間隔d002が0.337nm未満である炭素材料を黒鉛という。黒鉛は粒子状であればよい。サイクル特性を向上させる観点からは、例えば、負極活物質の50質量%以上が黒鉛であればよく、75質量%以上が黒鉛であってもよい。黒鉛は、非晶質炭素と複合化されていてもよい。例えば、表層が非晶質炭素であり、内部が黒鉛である炭素粒子を用いてもよい。黒鉛と非晶質炭素とが複合化され、黒鉛と非晶質炭素とを分離できない形態の粒子の場合、そのような粒子の負極活物質中での含有量が上記条件を満たせばよい。ただし、黒鉛と非晶質炭素とが複合化された粒子の場合、粒子における黒鉛の質量割合は非晶質炭素よりも大きいことが望ましい。また、複数種の黒鉛を用いる場合には、黒鉛全体の負極活物質中での含有量、もしくは黒鉛全体と非晶質炭素との合計に対する黒鉛全体の質量割合が、上記条件を満たせばよい。
【0026】
黒鉛のBET比表面積は3m2/g以下であり、2m2/g以下が望ましい。このようにBET比表面積が小さい黒鉛を用いることで、黒鉛と非水電解液との副反応が抑制されるため、サイクル特性が向上し得る。黒鉛のBET比表面積は、1.8m2/g以下でもよく、1.5m2/g以下でもよい。BET比表面積の下限は、特に制限されないが、十分な出力特性を確保する観点からは、0.1m2/g以上がよく、0.4m2/g以上でもよい。なお、黒鉛と非晶質炭素とが複合化され、黒鉛と非晶質炭素とを分離できない形態の粒子の場合、そのような複合化された粒子のBET比表面積が、上記条件を満たせばよい。また、複数種の黒鉛を用いる場合には、黒鉛全体の平均のBET比表面積が、上記条件を満たせばよい。
【0027】
黒鉛のBET比表面積は、公知の方法で測定すればよく、例えば、比表面積測定装置(例えば、株式会社マウンテック製)を用いてBET法に基づいて測定される。例えば、電池から取り出した負極から分離した黒鉛を測定試料とすればよい。
【0028】
黒鉛の種類は、特に限定されないが、例えば塊状黒鉛、土状黒鉛、鱗片状黒鉛等の天然黒鉛、塊状もしくは球状の人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等を用いることができる。
【0029】
上記のようなBET比表面積を有する黒鉛は、例えば、黒鉛結晶のエッジ面の露出を抑制することにより得られる。黒鉛結晶のエッジ面の露出を抑える方法としては、例えば、黒鉛に衝撃を加えたり、剪断力を加えたりする方法が挙げられる。具体的には、黒鉛化された炭素材料、すなわち黒鉛の粗粒子を、不活性雰囲気中で粉砕する方法が挙げられる。粉砕装置としては、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル、ボールミル等を用い得る。
【0030】
黒鉛結晶のエッジ面の露出を抑えるために、黒鉛粒子の表面を石炭系または石油系のピッチでコートし、その後、熱処理を行い、露出していたエッジ面をピッチの炭化物によって被覆してもよい。
【0031】
黒鉛の製造工程において、黒鉛の前駆体(例えばコークスのような炭化物)に対し、黒鉛化処理を行う前に粉砕処理を行い、所定の粒度分布に調整してもよい。粉砕処理の際、炭化物をピッチのようなバインダと混合してもよい。粒度分布が調整された前駆体に黒鉛化処理を施すことでも黒鉛結晶のエッジ面の露出を抑制することができる。黒鉛化処理の温度は、例えば1800℃~3000℃であればよい。
【0032】
黒鉛の体積平均粒子径(すなわちメジアン径)は、例えば、5μm以上、30μm以下であり、10μm以上、25μm以下であってもよい。体積平均粒子径とは、例えばレーザ回折散乱法で測定される黒鉛の体積基準の粒度分布において積算体積が50%となる粒子径を意味する。体積平均粒子径の測定は、例えばレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定すればよい。
【0033】
負極活物質は、黒鉛以外の材料、例えば、コークス、有機物焼成体等の炭素材料、チタン酸リチウム、シリケートとケイ素との複合物、SiO、SnO2、SnO、TiO2等の金属酸化物、ケイ素、金属リチウム等の金属、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-スズ合金、チタン-シリコン合金等のリチウム合金等を含有していてもよい。
【0034】
結着剤としては、正極の場合と同様に、例えば、フッ素樹脂、ゴム材料等が挙げられ、結着剤を増粘剤と併用してもよい。ゴム材料としては、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)もしくはその変性体等を用いてもよい。
【0035】
[非水電解液]
非水電解液は、通常、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含み、かつ式(1):(R1R2R3Si-O)m-M=(O)nで表されるシリル化合物(すなわち、シリル化合物A)を含む。R1~R3は、いずれもケイ素原子に結合している。M=(O)nは、Mに二重結合を介して結合する酸素を表している。R1~R3は、それぞれが互いに異なる基であってもよく、3つともが同じ基であってもよく、3つのうちの2つが同じ基であってもよい。
【0036】
式(1)中、Mは、P、BまたはSであり、nは、0、1または2であり、mは、2または3であり、R1~R3は、それぞれ独立して、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アリール基、フルオロアリール基または水素原子である。アルキル基およびフルオロアルキル基の炭素数は、例えば1~5(すなわちC1~C5)であればよい。アルケニル基およびフルオロアルケニル基の炭素数は、例えば2~5(すなわちC2~C5)であればよい。アリール基およびフルオロアリール基の炭素数は、例えば6~10(すなわちC6~C10)であればよい。フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基およびフルオロアリール基は、水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換された基であってもよく、全水素原子がフッ素原子に置換されたパーフルオロカーボン基であってもよい。
【0037】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。フルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、アリル基等が挙げられる。フルオロアルケニル基としては、トリフルオロビニル基、α-フルオロビニル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基等が挙げられる。フルオロアリール基としては、モノフルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、トリフルオロフェニル基等が挙げられる。例えば、R1R2R3Si-O-基は、R1~R3が全てメチル基またはトリフルオロメチル基であるトリメチルシリル基またはトリス(トリフルオロメチル)シリル基であってもよく、R1~R3が全てフェニル基または少なくとも1つのフッ素原子を有するフルオロフェニル基であるトリフェニルシリル基またはトリス(フルオロフェニル)シリル基であってもよい。
【0038】
MがPである場合、代表的なシリル化合物Aとして、n=0かつm=3の亜リン酸トリスシリル化合物、n=1かつm=3のリン酸トリスシリル化合物等が挙げられる。より具体的には、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)等が容易に入手し得る。
【0039】
MがBである場合、代表的なシリル化合物Aとして、n=0かつm=3のホウ酸トリスシリル化合物等が挙げられる。より具体的には、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)等が容易に入手し得る。
【0040】
MがSである場合、代表的なシリル化合物Aとして、n=2かつm=2の硫酸ビスシリル化合物等が挙げられる。より具体的には、硫酸ビス(トリメチルシリル)等が容易に入手し得る。
【0041】
シリル化合物Aは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、シリル化合物Aは、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)および硫酸ビス(トリメチルシリル)よりなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0042】
非水電解液に含まれるシリル化合物Aの含有量は、例えば2.5質量%以下であればよい。これにより、イオン伝導性の良好な被膜を正極表面の十分な領域に形成することができると考えられる。よって、正極における非水電解液の副反応が抑制され、負極に泳動して黒鉛表面に堆積する物質量が減少し、負極抵抗の上昇が抑制される。
【0043】
なお、出荷された電池内から取り出された非水電解液に含まれるシリル化合物Aの含有量の下限は、特に限定されず、検出限界に近い微量でもよい。すなわち、シリル化合物Aの存在が確認できれば十分な作用効果が認められる。出荷された電池は、通常、出荷前の予備充放電もしくは初期充放電を経ている。そのような充放電の際、シリル化合物Aは、正極表面で優先的に分解し、被膜形成のために消費される。出荷された電池内から取り出された非水電解液に僅かでもシリル化合物Aが存在する場合、シリル化合物が完全に消費されずに残存していることを意味する。
【0044】
一方、非水電解液を調製もしくは製造する際には、被膜形成に消費されるシリル化合物Aの量を考慮して、十分量が出荷後の電池内に残存するようにシリル化合物Aの含有量が決定される。電池の製造に用いられる前の非水電解液もしくは初回充放電前の電池から取り出された非水電解液は、例えば、0.1質量%以上、2.5質量%以下のシリル化合物を含んでいることが望ましい。シリル化合物の含有量が0.1質量%以上であれば、正極表面に十分な被膜を形成することが可能である。
【0045】
非水電解液中のシリル化合物Aの含有量は、電池中の非水電解液全体を、例えばγ-ブチロラクトン(GBL)などを用いて抽出し、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、核磁気共鳴分光分析(NMR)、イオンクロマトグラフィー等を用いることにより測定し得る。
【0046】
非水電解液に用いる非水溶媒としては、例えば、エステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類等を用いることができる。これら化合物は、その水素原子の少なくとも1つがフッ素原子等のハロゲン原子で置換されたハロゲン置換体でもよい。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。非水電解液をゲル状にしたポリマー電解質もしくは固体電解質を用いてもよい。
【0047】
エステル類としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられる。カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等が挙げられる。
【0048】
エーテル類としては、環状エーテルもしくは鎖状エーテルを用い得る。環状エーテルとしては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0049】
ニトリル類としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、n-ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル等が挙げられる。
【0050】
ハロゲン置換体としては、4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ化環状炭酸エステル、フッ化鎖状炭酸エステル、メチル3,3,3-トリフルオロプロピオネート(FMP)等のフッ化鎖状カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0051】
電解質塩は、少なくともリチウム塩を含むことが望ましい。リチウム塩としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiC(C2F5SO2)、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、Li(P(C2O4)F2)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1≦x≦6、nは1または2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li[B(C2O4)2](LiBOB:リチウムビスオキサレートボレート)、Li[B(C2O4)F2]等のホウ酸塩、Li[P(C2O4)F4]、Li[P(C2O4)2F2]等のリン酸塩、LiN(FSO2)2、LiN(CmF2m+1SO2)(CnF2n+1SO2)(m、nは、0以上の整数)等のイミド塩等が挙げられる。リチウム塩は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。中でも、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(FSO2)2などがリチウム塩の主成分として適している。
【0052】
非水電解液に含まれるリチウム塩の含有量は、例えば、0.5mol/リットル以上、3mol/リットル以下であればよく、1mol/リットル以上、2mol/リットル以下であってもよい。
【0053】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間にはセパレータが介在している。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンであればよい。
【0054】
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の縦断面図である。
図1に示す電池100は、円筒型非水電解質二次電池の一例である。正極1および負極2は、セパレータ3を介して巻回され、電極体4を構成している。電極体4は、図示しない非水電解液とともに電池ケース5の内部に収納されている。電池ケース5の開口部は、ガスケット14を介して、封口ユニット10により封口されている。電池ケース5の開口部付近には内側に突出する環状の窪み部5aが形成されており、封口ユニット10を支持している。正極1は正極リード8を介してフィルタ13に接続され、負極2は負極リード9を介して電池ケース5の底部に接続されている。電極体4の上部には中央に貫通孔6aを有する上部絶縁板6が配置され、電極体4の底部側には下部絶縁板7が配置されている。封口ユニット10は、ガス抜き孔11aを有する端子板11と、金属箔である弁体12と、第1通気孔12aを有する弁基板21と、第2通気孔13aを有するフィルタ13との積層体である。弁基板21の中央部は、弁体12との溶接部21aである。弁体12と弁基板21との間には環状PTC素子22が介在している。
【0055】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1、2>
[負極の作製]
コークスとピッチとを粉砕混合した後、得られた混合物を1000℃で焼成し、次に3000℃で黒鉛化した。得られた黒鉛の粗粒子をN2雰囲気中でボールミルにより粉砕し、分級して、黒鉛粒子a1を得た。
【0057】
黒鉛粒子a1のBET比表面積を、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、Macsorb(登録商標)HM model-1201)を用いて測定した。黒鉛粒子a1のBET比表面積(下記表1では「BET」とのみ表記する。)は、1.4m2/gであった。
【0058】
黒鉛粒子a1の体積平均粒子径を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000)を用いて測定した。黒鉛粒子a1の体積平均粒子径(下記表1では「D50」と表記する。)は、16.1μmであった。
【0059】
負極活物質である黒鉛粒子a1を100質量部と、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、結着剤であるスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)1質量部と、所定量の水とを混合し、負極合材を含むスラリーを調製した。次に、負極集電体である厚さ10μmの銅箔の両面にスラリーを塗布し、塗膜を乾燥後、圧延して、銅箔の両面に厚さ80μmの負極活物質層を形成した。
【0060】
[正極の作製]
正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物であるLiNi0.8Co0.15Mn0.05O2100質量部と、導電剤であるアセチレンブラック1質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン0.9質量部と、所定量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを混合し、正極合材を含むスラリーを調製した。次に、正極集電体である厚さ15μmのアルミニウム箔の両面にスラリーを塗布し、塗膜を乾燥後、圧延して、アルミニウム箔の両面に厚さ70μmの正極活物質層を形成した。
【0061】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、30:30:40の体積比(室温)で含む非水溶媒に、リチウム塩としてLiPF6を溶解し、さらに、実施例1ではシリル化合物Aとして亜リン酸トリス(トリメチルシリル)を溶解し、実施例2ではリン酸トリス(トリメチルシリル)を溶解して、非水電解液を調製した。非水電解液におけるLiPF6の濃度は1.3モル/Lとし、シリル化合物Aの含有量は0.3質量%とした。
【0062】
[非水電解質二次電池の作製]
ここでは、
図1に示すような構造を具備する定格容量3200mAhの18650型の円筒形の非水電解質二次電池を作製した。正極および負極をそれぞれ所定の寸法にカットした後、正極にアルミニウムリードを、負極にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリエチレン製のセパレータを介して正極と負極とを巻回して電極体を作製した。電極体を、外径18mm、高さ65mmの有底円筒形状の電池ケースに収容し、所定の非水電解液を注入した後、ガスケットおよび封口体により電池ケースの開口部を封口して、実施例1、2の電池A1、A2をそれぞれ作製した。
【0063】
【0064】
<比較例1>
シリル化合物Aを用いなかったこと以外は、実施例1と同様に非水電解質を調製し、実施例1と同様に、比較例1の電池B1を作製した。
【0065】
<比較例2>
実施例1で得られた黒鉛の粗粒子を、大気雰囲気中でローラーミルにより粉砕し、分級して、黒鉛粒子b1を得た。黒鉛粒子a1と同様の方法で黒鉛粒子b1のBET比表面積および体積平均粒子径を測定したところ、BET比表面積は3.9m2/gであり、体積平均粒子径は22μmであった。
【0066】
黒鉛粒子a1に代えて黒鉛粒子b1を用いたこと以外は、比較例1と同様にして(すなわち、シリル化合物Aを用いずに)、比較例2の電池B2を作製した。
【0067】
<比較例3>
黒鉛粒子a1に代えて黒鉛粒子b1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして(すなわち、シリル化合物Aとして亜リン酸トリス(トリメチルシリル)を用いて)、比較例3の電池B3を作製した。
【0068】
[電池中の非水電解液の分析]
完成後の各電池について、初期充放電を行った。すなわち、25℃の温度環境において、0.3Itの電流で電圧が4.1Vになるまで定電流充電を行い、引き続き、4.1Vの定電圧で電流が0.02Itになるまで定電圧充電した。その後、0.3Itの電流で電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。なお、1Itは、定格容量を1時間で放電するときの電流値である。
【0069】
充電と放電との間の休止期間は10分とし、上記充放電条件で充放電を5サイクル繰り返した。その後、電池を取り出して分解し、非水電解液の成分をNMRおよびGC-MSにより分析した。分析の結果、各実施例では、シリル化合物Aの存在が確認された。
【0070】
非水電解液の分析に用いたGCの測定条件は以下の通りである。
【0071】
<ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)>
使用機器: 株式会社島津製作所製 GC-2010 Plus
カラム: J&W社製 HP-1(1μm×0.32mm×60m)
カラム温度: 50℃→90℃(15min hold、昇温速度5℃/min)
→250℃(8min hold、昇温速度10℃/min)
スプリット比:1/50
線速度: 30.0cm/sec
注入口温度: 270℃
検出器: FID 290℃(sens.10^1)
注入量: 1μL
非水電解液の分析に用いたNMRの測定条件は以下の通りである。
【0072】
<核磁気共鳴分析(NMR)>
使用機器: JEOL RESONANCE社製 ECX-400
測定溶媒: アセトン-d6
観測核: 19F
観測周波数: 372.503MHz
パルス幅: 2.2μsec
シグナル取込時間:3.5sec
繰返し時間: 20sec
積算回数: 64回
また、電池A1、A2およびB1~B3について、以下の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
[初期DCIR]
25℃の温度環境において、電池を0.3Itの電流で電圧が4.1Vになるまで定電流充電し、その後、4.1Vの定電圧で電流が0.05Itになるまで定電圧充電した。その後、0.3Itの定電流で100分間放電し、充電状態(すなわちSOC)を50%にした。
【0074】
次に、SOC50%の電池に対して、0A、0.1A、0.5Aおよび1.0Aの電流値で10秒間放電したときの電圧データを取得した。印加した放電電流値と10秒後の電圧値との関係を最小二乗法で直線に近似したときの傾きの絶対値から直流抵抗値(DCIR)を算出した。
【0075】
[充放電サイクル試験]
45℃の環境温度において、電池を0.5Itの定電流で電圧が4.1Vになるまで定電流充電し、引き続き、4.1Vの定電圧で電流が0.02Itになるまで定電圧充電した。その後、0.5Itの定電流で電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。この充放電を100サイクル行った。
【0076】
(DCIR上昇率)
100サイクル後の電池について、25℃の温度環境で、0.3Itの電流で電圧が4.1Vになるまで定電流充電し、その後、4.1Vの定電圧で電流が0.05Itになるまで定電圧充電した。その後、上記と同様に、電池の充電状態(SOC)を50%にし、SOC50%の電池に対して、0A、0.1A、0.5Aおよび1.0Aの電流値で10秒間放電したときの電圧データを取得し、電池のサイクル後DCIRを算出した。
【0077】
各電池の初期DCIRに対する100サイクル後のDCIRの比率をDCIR上昇率として、以下の式により算出した。
【0078】
DCIR上昇率(%)=(100サイクル目のDCIR/1サイクル目のDCIR)×100
(容量維持率)
上記の充放電サイクルにおいて、1サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量とを確認し、以下の式により容量維持率を求めた。
【0079】
容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
表1に示す通り、BET比表面積が3m2/g以下(すなわち1.4m2/g)である黒鉛粒子a1を用いた電池A1、A2およびB1では、BET比表面積が3m2/gを超える(すなわち3.9m2/g)黒鉛粒子b1を用いた電池B2、B3と比較して、容量維持率が高い値を示した。しかし、電池B1では、DCIR上昇率が非常に高くなっている。これは、黒鉛表面に形成される被膜が厚くなり、分極が大きくなったためと考えられる。一方、非水電解液にシリル化合物Aを含ませた電池A1、A2は、電池B1に比べて、DCIR上昇率が相当に小さくなっており、負極の抵抗上昇が抑制されていることを示している。これは、正極における副反応が抑制されたことで、泳動により負極に達する物質の黒鉛表面への堆積量が減少したことによるものと考えられる。
【0080】
なお、非水電解液にシリル化合物Aを含ませた電池B3においては、黒鉛粒子b1を用いていることからDCIR上昇率は最も小さく抑制されているものの、容量維持率は低く、シリル化合物Aを含まない電池B2と同程度以下である。
【0081】
以上のように、容量維持率の向上とDCIRの低減を両立するには、BET比表面積の小さい黒鉛を用い、かつシリル化合物Aを用いることが有効であり、両者が相乗効果を奏していることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示に係る非水電解質二次電池は、電力貯蔵システム、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源に有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電極体
5 電池ケース
5a 窪み部
6 上部絶縁板
6a 貫通孔
7 下部絶縁板
8 正極リード
9 負極リード
10 封口ユニット
11 端子板
11a ガス抜き孔
12 弁体
12a 第1通気孔
13 フィルタ
13a 第2通気孔
14 ガスケット
21 弁基板
21a 溶接部
22 PTC素子
100 電池