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  • 特許-二次電池用負極活物質および二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】二次電池用負極活物質および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240426BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240426BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240426BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/485
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020561285
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047480
(87)【国際公開番号】W WO2020129652
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018239311
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】内山 洋平
(72)【発明者】
【氏名】朝野 泰介
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/035290(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121321(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/145521(WO,A1)
【文献】特開2007-059213(JP,A)
【文献】特開2013-161705(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103400971(CN,A)
【文献】国際公開第2018/042361(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリケート相と、前記シリケート相内に分散しているシリコン粒子と、炭素相と、を含むシリケート複合粒子を備え、
前記シリケート相は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記炭素相の少なくとも一部が、前記シリコン粒子の表面の少なくとも一部を被覆し
前記シリケート複合粒子中の前記シリコン粒子の含有量は、30質量%以上、80質量%以下であり、
前記前記シリケート相は、Li Si を含む、二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記シリケート複合粒子の断面に占める前記炭素相の面積割合は、0.5%~10%である、請求項1に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記シリケート複合粒子の断面において、前記炭素相で被覆されている前記シリコン粒子の表面の割合は、30%~100%である、請求項1または2に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項4】
前記シリケート相は、更に、元素Mを含み、
前記Mは、Be、Mg、Al、B、Zr、Nb、Ta、La、V、Y、Ti、P、Bi、Zn、Sn、Pb、Sb、Co、Er、FおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項5】
正極、負極、電解質および前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを備え、
前記負極が、集電体と、負極活物質層と、を含み、
前記負極活物質層が、請求項1~のいずれか1項に記載の二次電池用負極活物質を含む、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として二次電池用負極活物質の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池等の二次電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。電池の高エネルギー密度化が求められる中、理論容量密度の高い負極活物質として、リチウムと合金化するケイ素(シリコン)を含む材料の利用が期待されている。
【0003】
特許文献1では、負極活物質に、Li2zSiO2+z(0<z<2)で表されるリチウムシリケート相と、リチウムシリケート相中に分散したシリコン粒子と、を含む複合材料を用いた非水電解質二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/035290号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムシリケート相とシリコン粒子との複合粒子は、ガラス状のリチウムシリケート粉末とシリコン粒子との混合物を高温かつ高圧雰囲気中で焼結させることにより製造される。複合粒子に含まれるシリコン粒子量は、リチウムシリケート粉末とシリコン粒子との混合割合により任意に制御し得るため、高容量の複合粒子を得ることができる。しかし、焼結の際、シリケートとシリコンとが反応し、シリコンが酸化され、期待した容量や充放電効率が得られないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上に鑑み、本発明の一側面は、シリケート相と、前記シリケート相内に分散しているシリコン粒子と、炭素相と、を含むシリケート複合粒子を備え、前記シリケート相は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記炭素相の少なくとも一部が、前記シリコン粒子の表面の少なくとも一部を被覆している、二次電池用負極活物質に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、焼結工程におけるシリコンの酸化が抑制され、容量や充放電効率が改善する。
【0008】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係るシリケート複合粒子を模式的に示す断面図である。
図2】表面が部分的に炭素材料で被覆されたシリコン粒子の断面を拡大して示す概念図である。
図3】本開示の一実施形態に係る二次電池の一部切欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態に係る二次電池用負極活物質は、シリケート相と、シリケート相内に分散しているシリコン粒子と、炭素相とを含むシリケート複合粒子を備える。換言すると、シリケート複合粒子は、海島構造の海部であるシリケート相と、島部であるシリコン粒子とを有する。シリケート相に分散するシリコン粒子量の制御により高容量化が可能となる。シリコン粒子がシリケート相内に分散しているため、充放電時のシリケート複合粒子の膨張収縮が抑制される。シリケート複合粒子を用いることで、電池の高容量化とサイクル特性の向上を図ることができる。
【0011】
ここでは、炭素相の少なくとも一部は、シリコン粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。シリコン粒子の表面の少なくとも一部が炭素相で被覆されることで、シリケート複合粒子を得るための焼結工程におけるシリコンの酸化が抑制される。よって、シリケート複合粒子を用いる場合の容量や充放電効率が改善する。
【0012】
炭素相は、シリコン粒子の表面の少なくとも一部を覆う第1領域と、隣り合う一次粒子の界面の少なくとも一部に存在する第2領域とを含んでもよい。第2領域は、シリケート複合粒子のイオン導電性の低下を抑制するとともに、充放電時のシリコン粒子の膨張と収縮に伴うシリケート相に生じる応力の緩和に寄与する。
【0013】
シリケート複合粒子の断面に占める炭素相の面積割合:R1は、例えば0.5%~10%であればよく、2~6%でもよく、3~5%でもよい。中でもR1を3%以上とすることで、シリコンとシリケートとの反応によるシリコンの酸化を抑制する効果が顕著になる。また、R1を5%以下とする場合、シリケート複合粒子に占めるシリコン粒子の存在割合を大きくすることができ、特に高容量を得やすくなる。
【0014】
R1は、例えば、以下の手法により求められる。まず、シリケート複合粒子の断面画像を撮影する。例えば、電池を解体して、負極を取り出し、クロスセクションポリッシャ(CP)を用いて負極活物質層の断面を得ることでシリケート複合粒子の断面画像が得られる。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてシリケート複合粒子の断面を観察し、反射電子像から最大径が5μm以上のシリケート複合粒子を無作為に10個選出し、それぞれについてエネルギー分散型X線(EDX)による炭素のマッピング分析を行う。画像解析ソフトを用いて、その画像の炭素含有面積を算出する。観察倍率は2000~20000倍が望ましい。得られた粒子10個について、炭素含有面積の測定値の測定範囲の面積に対する割合を平均してR1を求める。
【0015】
なお、充放電の過程で、電解質の分解などにより、シリケート複合の表面に被膜が形成され得る。また、シリケート複合粒子の表面に導電層を備える場合がある。よって、EDXによるマッピング分析は、測定範囲に被膜や導電層が含まれないように、シリケート複合粒子の断面の周端縁から1μm以上内側の範囲に対して行われる。測定範囲の面積に対する炭素含有面積の割合がR1に相当する。
【0016】
EDXによるマッピング分析により、シリケート複合粒子の内部における炭素相の分布の状態も確認することができる。シリケート複合粒子の断面に占める第1領域の面積割合は、0.5%~10%であればよく、1~8%でもよく、2~6%でもよく、3~5%でもよい。第2領域は必須ではないが、シリケート複合粒子の断面に占める第2領域の面積割合は、例えば6%以下であればよく、0.05~6%でもよく、1~3%でもよい。なお、第1領域の面積割合は、第2領域の面積割合よりも大きくすることが望ましい。
【0017】
以下に、望ましい断面SEM-EDX分析の測定条件を示す。
<SEM-EDX測定条件>
加工装置:JEOL製、SM-09010(Cross Section Polisher)
加工条件:加速電圧6kV
電流値:140μA
真空度:1×10-3~2×10-3Pa
測定装置:電子顕微鏡HITACHI製SU-70
分析時加速電圧:10kV
フィールド:フリーモード
プローブ電流モード:Medium
プローブ電流範囲:High
アノード Ap.:3
OBJ Ap.:2
分析エリア:1μm四方
分析ソフト:EDAX Genesis
CPS:20500
Lsec:50
時定数:3.2
【0018】
シリコン粒子の表面は、全面的に炭素相で被覆されていてもよいが、シリコン粒子の表面が部分的に炭素相で被覆されていてもよい。シリケート複合粒子の断面において、炭素相で被覆されているシリコン粒子の表面の割合:R2は、例えば30%~100%であればよく、50%~70%でもよい。R2を50%以上とすることで、シリコンとシリケートとの反応によるシリコンの酸化を抑制する効果が特に顕著になる。また、R2を70%以下とする場合、シリケート複合粒子の反応抵抗を低減できるとともに、シリケート複合粒子に占めるシリコン粒子の存在割合を大きくしやすくなる。
【0019】
R2は、シリコン粒子の断面の輪郭線のうち、炭素相で覆われている部分の長さL1と、覆われていない部分の長さL2とを求め、R2=100×L1/(L1+L2)の式から求めることができる。R1を求めるときと同様に、任意の10個の最大径が5μm以上のシリケート複合粒子を選択し、各シリケート複合粒子の断面に観測される任意の10個のシリコン粒子について同様の測定を行い、10×10=100個の平均値としてR2を求めればよい。
【0020】
シリケート相は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種と、Siと、Oとを含む酸化物相である。シリケート相におけるSiに対するOの原子比:O/Siは、例えば、2超3未満である。O/Siが2超3未満の場合、安定性やリチウムイオン伝導性の面で有利である。
【0021】
アルカリ金属は、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)などであればよい。中でも不可逆容量が小さく、初期の充放電効率が高いことから、アルカリ金属はリチウムを含むことが好ましい。例えばアルカリ金属の80モル%以上がリチウムであってもよい。すなわち、シリケート複合粒子は、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合粒子(以下、LSXとも称する。)であってもよい。
【0022】
アルカリ土類金属は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)などであればよい。アルカリ土類金属は、アルカリ性を呈するシリケート相からのアルカリ金属の溶出を抑制する作用を有する。よって、シリケート複合粒子を負極活物質として含むスラリーを調製する際にスラリー粘度が安定化しやすい。また、Caはシリケート相のビッカース硬度を向上させ、サイクル特性を更に向上させ得る点でも好ましい。シリケート相に含まれるO以外の元素の全量に対し、アルカリ土類元素の含有量は、例えば20モル%以下であり、15モル%以下であってもよく、10モル%以下であってもよい。
【0023】
シリケート相は、更に、元素Mを含んでもよい。ここで、Mは、例えば、Be、Mg、Al、B、Zr、Nb、Ta、La、V、Y、Ti、P、Bi、Zn、Sn、Pb、Sb、Co、Er、FおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種であり得る。中でもBは融点が低く、溶融状態のシリケートの流動性を向上させるのに有利である。また、Al、Zr、Nb、TaおよびLaは、シリケート相のイオン伝導性を保持したままでビッカース硬度を向上させ得る。シリケート相に含まれるO以外の元素の全量に対し、元素Mの含有量は、例えば10モル%以下であり、5モル%以下であってもよい。
【0024】
シリケート相に含まれるB、Na、KおよびAlの含有量はJIS R3105(1995)(ほうけい酸ガラスの分析方法)に準拠して定量分析し得る。Ca含有量はJIS R3101(1995)(ソーダ石灰ガラスの分析方法)に準拠して定量分析し得る。
【0025】
その他の含有元素は、シリケート相もしくはこれを含むシリケート複合粒子の試料を、加熱した酸溶液(フッ化水素酸、硝酸および硫酸の混酸)中で全溶解し、溶液残渣の炭素を濾過して得られた濾液を用いて分析し得る。例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で濾液を分析し、各元素のスペクトル強度を測定すればよい。続いて、市販されている元素の標準溶液を用いて検量線を作成し、シリケート相に含まれる各元素の含有量を算出する。
【0026】
放電状態におけるシリケート複合粒子中の各元素の定量は、SEM-EDX分析、オージェ電子分光分析(AES)、レーザアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)、X線光電子分光分析(XPS)などでも可能である。
【0027】
シリケート複合粒子中には、シリケート相とシリコン粒子とが存在するが、Si-NMRを用いることにより両者を区別して定量することができる。上記のようにICP-AESにより得られたSi含有量は、シリコン粒子を構成するSi量とシリケート相中のSi量との合計である。一方、シリコン粒子を構成するSi量は、別途、Si-NMRを用いて定量し得る。よって、ICP-AESにより得られたSi含有量からシリコン粒子を構成するSi量を差し引くことで、シリケート相中のSi量を定量し得る。なお、定量のために必要な標準物質には、Si含有量が既知のシリケート相とシリコン粒子とを所定割合で含む混合物を用いればよい。
【0028】
以下に、望ましいSi-NMRの測定条件を示す。
<Si-NMR測定条件>
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA‐400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec~3000sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
【0029】
高容量化およびサイクル特性の向上のためには、シリケート複合粒子中のシリコン粒子の含有量は、例えば30質量%以上、80質量%以下であればよい。シリコン粒子の含有量を30質量%以上とすることで、シリケート相が占める割合が小さくなり、初期の充放電効率が向上しやすくなる。シリコン粒子の含有量を80質量%以下とすることで、充放電時のシリケート複合粒子の膨張収縮の度合いを低減しやすくなる。
【0030】
シリケート相内に分散しているシリコン粒子は、ケイ素(Si)単体の粒子状の相を有し、単独または複数の結晶子で構成される。シリコン粒子の結晶子サイズは、30nm以下であることが好ましい。シリコン粒子の結晶子サイズが30nm以下である場合、充放電に伴うシリコン粒子の膨張収縮による体積変化量を小さくでき、サイクル特性が更に高められる。例えば、シリコン粒子の収縮時にシリコン粒子の周囲に空隙が形成されて当該粒子の周囲との接点が減少することによる当該粒子の孤立が抑制され、当該粒子の孤立による充放電効率の低下が抑制される。シリコン粒子の結晶子サイズの下限値は、特に限定されないが、例えば5nmである。
【0031】
シリコン粒子の結晶子サイズは、より好ましくは10nm以上、30nm以下であり、更に好ましくは15nm以上、25nm以下である。シリコン粒子の結晶子サイズが10nm以上である場合、シリコン粒子の表面積を小さく抑えることができるため、不可逆容量の生成を伴うシリコン粒子の劣化を生じ難い。シリコン粒子の結晶子サイズは、シリコン粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0032】
シリケート相は、例えば式:X2zSiO2+zで表される酸化物相を含む。ここで、Xはアルカリ金属であり、式中のzは、0<z<1の関係を満たせばよい。リチウムシリケート(LSX)相は、式:Li2zSiO2+z(0<z<1)で表される。安定性、作製容易性、リチウムイオン伝導性等の観点から、z=1/2がより好ましい。
【0033】
例えばLSX相の組成は、例えば、以下の方法により分析することができる。
まず、LSXの試料の質量を測定する。その後、以下のように、試料に含まれる炭素、リチウムおよび酸素の含有量を算出する。次に、試料の質量から炭素含有量を差し引き、残量に占めるリチウムおよび酸素含有量を算出し、リチウム(Li)と酸素(O)のモル比から2zと(2+z)の比が求められる。
【0034】
炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製のEMIA-520型)を用いて測定する。磁性ボードに試料を測り取り、助燃剤を加え、1350℃に加熱された燃焼炉(キャリアガス:酸素)に挿入し、燃焼時に発生した二酸化炭素ガス量を赤外線吸収により検出する。検量線は、例えば、Bureau of Analysed Sampe.Ltd製の炭素鋼(炭素含有量0.49%)を用いて作成し、試料の炭素含有量を算出する(高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法)。
【0035】
酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製のEGMA-830型)を用いて測定する。Niカプセルに試料を入れ、フラックスとなるSnペレットおよびNiペレットとともに、電力5.75kWで加熱された炭素坩堝に投入し、放出される一酸化炭素ガスを検出する。検量線は、標準試料Y23を用いて作成し、試料の酸素含有量を算出する(不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法)。
【0036】
リチウム含有量は、熱フッ硝酸(熱したフッ化水素酸と硝酸の混酸)で試料を全溶解し、溶解残渣の炭素をろ過して除去後、得られたろ液を誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)で分析して測定する。市販されているリチウムの標準溶液を用いて検量線を作成し、試料のリチウム含有量を算出する。
【0037】
LSXの試料の質量から、炭素含有量、酸素含有量およびリチウム含有量を差し引いた量が、シリコン粒子を構成するSi量とシリケート相中のSi量との合計である。Si-NMR測定によりシリコン粒子の含有量が求められ、LSX中にリチウムシリケートの形で存在するシリコンの含有量が求まる。
【0038】
シリケート複合粒子は、以下の手法により、電池から取り出すことができる。まず、電池を解体して負極を取り出し、負極を無水のエチルメチルカーボネートまたはジメチルカーボネートで洗浄し、電解液を除去する。次に、銅箔から負極合剤を剥がし取り、乳鉢で粉砕して試料粉を得る。次に、試料粉を乾燥雰囲気中で1時間乾燥し、弱く煮立てた6M塩酸に10分間浸漬して、結着剤等に含まれ得るNa、Li等のアルカリ金属を取り除く。次に、イオン交換水で試料粉を洗浄し、濾別して200℃で1時間乾燥する。その後、酸素雰囲気中、900℃で焼成して炭素成分を除去することで、シリケート複合粒子だけを単離することができる。
【0039】
シリケート複合粒子は、平均粒径1~25μm、更には4~15μmであることが好ましい。上記粒径範囲では、充放電に伴うシリケート複合粒子の体積変化による応力を緩和し易く、良好なサイクル特性を得易くなる。シリケート複合粒子の平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。測定装置には、例えば、株式会社堀場製作所(HORIBA)製「LA-750」を用いることができる。
【0040】
シリケート相は、溶融状態での流動性を考慮すると、焼結工程中にはアモルファス状態になっていることが好ましい。焼結工程後のシリケート複合粒子のX線回折パターンにおいて、単体Siの(111)面に帰属される回折ピークの積分値に対する、他の全てのそれぞれの回折ピークの積分値の比は、いずれも例えば0.5以下であり、0.3以下であってもよく、0.1以下であってもよく、0(ゼロ)でもよい。なお、単体Siの(111)面に帰属される回折ピークは2θ=28°付近に観測される。
【0041】
シリケート相は、電子伝導性に乏しいため、シリケート複合粒子の導電性も低くなりがちである。一方、シリケート複合粒子の表面を導電性材料で被覆して導電層を形成することで、シリケート複合粒子の導電性を飛躍的に高めることができる。導電性材料としては導電性炭素材料が好ましい。
【0042】
導電性材料により形成される導電層は、実質上シリケート複合粒子の平均粒径に影響しない程度に薄いことが好ましい。導電層の厚さは、導電性の確保とリチウムイオンの拡散性を考慮すると、1~200nmが好ましく、5~100nmがより好ましい。導電層の厚さは、SEMまたはTEMを用いた粒子の断面観察により計測できる。
【0043】
次に、シリケート複合粒子の製造方法について、詳述する。
<シリコン粒子の調製>
シリコン粒子は、化学気相成長法(CVD法)、熱プラズマ法、物理的粉砕法などにより得ることができる。以下の方法では、例えば平均粒径が10~200nmのシリコンナノ粒子を合成し得る。シリコン粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱法で測定される体積粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。
【0044】
(a)化学気相成長法
化学気相成長法は、例えば気相中でシラン化合物を酸化または還元してシリコン粒子を生成させる方法である。反応温度は、例えば400℃以上、1300℃以下に設定すればよい。
【0045】
シラン化合物としては、シラン、ジシランのような水素化ケイ素、ハロゲン化シラン、アルコキシシランなどを用い得る。ハロゲン化シランとしては、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランなどを用い得る。アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシランなどを用い得る。
【0046】
例えば、気相中で水素化ケイ素を酸化性ガスと接触させると、シリコン粒子とシリコン酸化物粒子との複合物が得られる。すなわち、気相の雰囲気は、酸化性ガス雰囲気であればよい。複合物を例えばフッ化水素酸で洗浄することによりシリコン酸化物が除去され、シリコン粒子が得られる。
【0047】
ハロゲン化シラン、アルコキシシランなどを還元する場合は、例えば、アトマイズ法により微粒子化された溶融金属とシラン化合物とを接触させればよい。溶融金属としては、Na、K、Mg、Ca、Zn、Alなどを用い得る。アトマイズガスには、不活性ガス、ハロゲン化シラン、水素ガスなどを用いればよい。すなわち、気相の雰囲気は、不活性ガス、還元性ガス雰囲気であればよい。
【0048】
(b)熱プラズマ法
熱プラズマ法は、発生させた熱プラズマ中にシリコンの原料を導入して、高温のプラズマ中でシリコン粒子を生成させる方法である。熱プラズマは、アーク放電、高周波放電、マイクロ波放電、レーザー光照射などにより発生させればよい。中でも高周波(RF)による放電は無極放電であり、シリコン粒子に不純物が混入しにくい点で望ましい。
【0049】
原料には、例えばシリコン酸化物を用い得る。プラズマ中に原料を導入すると、瞬時に原子もしくはイオンの状態のケイ素と酸素が生成し、冷却途中でケイ素が結合し、固化してシリコン粒子が生成する。
【0050】
(c)物理的粉砕法
物理的粉砕法(メカニカルミリング法)は、シリコンの粗粒子をボールミル、ビーズミルなどの粉砕機で粉砕する方法である。粉砕機の内部は、例えば不活性ガス雰囲気とすればよい。
【0051】
<炭素相によるシリコン粒子の被覆>
シリコン粒子を炭素相で被覆する方法としては、化学気相成長法(CVD法)、スパッタリング、ALD(Atomic Layer Deposition: 原子層堆積)法、湿式混合法、乾式混合法などが挙げられる。中でも化学気相成長法、湿式混合法などが好ましい。
【0052】
(a)化学気相成長法
化学気相成長法では、炭化水素系ガス雰囲気中にシリコン粒子を導入し、加熱して、炭化水素系ガスの熱分解により生じる炭素材料を粒子表面に堆積させて炭素相を形成すればよい。炭化水素系ガス雰囲気の温度は、例えば500~1000℃であればよい。炭化水素系ガスとしては、アセチレン、メタンなどの鎖状炭化水素ガス、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素を用い得る。
【0053】
(b)湿式混合法
湿式混合法では、例えば、石炭ピッチ、石油ピッチ、タールなどの炭素前駆体を溶媒に溶解し、得られた溶液とシリコン粒子とを混合し、乾燥させればよい。その後、炭素前駆体で被覆されたシリコン粒子を、不活性ガス雰囲気中で、例えば600~1000℃で加熱し、炭素前駆体を炭化させて、炭素相を形成すればよい。
【0054】
炭素相は、例えば、結晶性の低い無定形炭素で構成されている。無定形炭素は、硬度が低く、充放電で体積変化するシリコン粒子に対する緩衝作用が大きい。無定形炭素は、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)でもよく、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)でもよい。
【0055】
<シリケート複合粒子の合成>
工程(i)
シリケートの原料には、Si原料と、アルカリ金属等の原料とを所定の割合で含む原料混合物を用いればよい。LSXを合成する場合、原料混合物には、Si原料とLi原料とを用いる。原料混合物を溶解し、融液を金属ロールに通してフレーク化すればシリケートが得られる。原料混合物を溶解せずに、融点以下の温度で焼成して固相反応によりシリケートを合成してもよい。
【0056】
Si原料には、酸化ケイ素(例えばSiO2)を用い得る。アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素Mの原料には、それぞれアルカリ金属、アルカリ土類金属、元素Mの炭酸塩、酸化物、水酸化物、水素化物、硝酸塩、硫酸塩などを用い得る。中でも炭酸塩、酸化物、水酸化物等が好ましい。
【0057】
工程(ii)
次に、シリケートに表面の少なくとも一部が炭素相で被覆されたシリコン粒子(以下、炭素被覆シリコン粒子とも称する。)を配合して両者を混合する。例えば、以下の工程(a)~(c)を経てシリケート複合粒子が作製される。
【0058】
工程(a)
まず、炭素被覆シリコン粒子とシリケートの粉末とを、例えば20:80~95:5の質量比で混合する。次に、ボールミルのような装置を用いて、炭素被覆シリコン粒子とシリケートの混合物を攪拌する。このとき、混合物に有機溶媒を添加し、湿式混合することが好ましい。所定量の有機溶媒を、粉砕初期に一度に粉砕容器に投入してもよく、粉砕過程で複数回に分けて間欠的に粉砕容器に投入してもよい。有機溶媒は、粉砕対象物の粉砕容器の内壁への付着を防ぐ役割を果たす。
【0059】
有機溶媒としては、アルコール、エーテル、脂肪酸、アルカン、シクロアルカン、珪酸エステル、金属アルコキシドなどを用いることができる。
【0060】
工程(b)
次に、混合物を、例えば不活性ガス雰囲気(例えばアルゴン、窒素などの雰囲気)中で加圧しながら450℃~1000℃で加熱し、焼結させる。焼結には、ホットプレス、放電プラズマ焼結など、不活性雰囲気下で加圧できる焼結装置を用い得る。焼結時、シリケートが溶融し、シリコン粒子間の隙間を埋めるように流動する。その結果、シリケート相を海部とし、シリコン粒子を島部とする緻密なブロック状の焼結体を得ることができる。
【0061】
得られた焼結体を粉砕すれば、シリケート複合粒子が得られる。粉砕条件を適宜選択することにより、所定の平均粒径のシリケート複合粒子を得ることができる。
【0062】
工程(iii)
次に、シリケート複合粒子の表面の少なくとも一部を導電性材料で被覆して導電層を形成してもよい。導電性材料は、電気化学的に安定であることが好ましく、導電性炭素材料が好ましい。導電性炭素材料でシリケート複合粒子の表面を被覆する方法としては、アセチレン、メタンなどの鎖状炭化水素ガスを原料に用いる化学気相成長法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂などをシリケート複合粒子と混合し、加熱して炭化させる方法などが例示できる。カーボンブラックをシリケート複合粒子の表面に付着させてもよい。
【0063】
工程(iv)
シリケート複合粒子(表面に導電層を有する場合を含む。)を酸で洗浄する工程を行ってもよい。例えば、酸性水溶液で複合粒子を洗浄することで、シリケート複合粒子の表面に存在し得る微量のアルカリ成分を溶解させ、除去することができる。酸性水溶液としては、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸などの無機酸の水溶液や、クエン酸、酢酸などの有機酸の水溶液を用いることができる。
【0064】
図1に、シリケート複合粒子20の一例の断面を模式的に示す。シリケート複合粒子20は、通常、複数の一次粒子24が凝集した二次粒子である母粒子23を備える。各一次粒子24は、シリケート相21と、シリケート相21内に分散しているシリコン粒子22とを備える。母粒子23は、シリケート相21と、そのマトリックス中に分散したシリコン粒子22とを具備する海島構造を有する。シリコン粒子22は、シリケート相21内に略均一に分散している。
【0065】
シリケート複合粒子の断面には、炭素相25が存在する。炭素相25には、シリコン粒子の表面の少なくとも一部を覆う第1領域25aと、隣り合う一次粒子24の界面の少なくとも一部に存在する第2領域25bとが含まれる。
【0066】
図2は、表面が部分的に第1領域25aで被覆されたシリコン粒子22の断面を拡大して示す概念図である。第1領域25aは、炭素被覆シリコン粒子とシリケート粉末との混合物を焼結させる際にシリケートとシリコンとの反応を抑制する。
【0067】
第2領域25bは、シリケート複合粒子の製造プロセスにおいて、炭素被覆シリコン粒子とシリケート粉末とを湿式混合する際に用いる有機溶媒の残渣を主成分とする。
【0068】
シリケート複合粒子20は、更に、母粒子23の表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料(導電層26)を備える。この場合、第2領域25bの母粒子23の表面側の端部が、導電層26に接していることが好ましい。これにより、母粒子23の表面から内部にかけて良好な導電ネットワークが形成される。
【0069】
シリケート相21およびシリコン粒子22は、いずれも微細粒子が集合することにより構成されている。シリケート相21は、シリコン粒子22よりも更に微細な粒子から構成され得る。この場合、シリケート複合粒子20のX線回折(XRD)パターンにおいて、単体Siの(111)面に帰属される回折ピークの積分値に対する、他の全ての回折ピークそれぞれの積分値の比は、例えばいずれも0.5以下になる。
【0070】
母粒子23は、シリケート相21、シリコン粒子22および炭素相25以外に、他の成分を含んでもよい。例えばシリケート複合粒子20は、結晶性または非晶質のSiO2などを少量含んでもよい。ただし、Si-NMRにより測定される母粒子23中に占めるSiO2含有量は、例えば7質量%未満が好ましい。また、母粒子23の強度向上の観点から、ZrO2などの酸化物もしくは炭化物などの補強材を、母粒子23に対して10重量%未満まで含ませてもよい。
【0071】
一次粒子24の平均粒径は、例えば0.2~10μmであり、2~8μmが好ましい。これにより、充放電に伴うシリケート複合粒子の体積変化による応力を更に緩和しやすく、良好なサイクル特性を得やすくなる。また、シリケート複合粒子の表面積が適度になるため、電解質との副反応による容量低下も抑制される。
【0072】
一次粒子24の平均粒径は、シリケート複合粒子の断面を、SEMを用いて観察することにより測定される。具体的には、任意の100個の一次粒子24の断面積の相当円(一次粒子の断面積と同じ面積を有する円)の直径を平均して求められる。
【0073】
シリコン粒子22の平均粒径は、初回充電前において500nm以下であり、200nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。シリコン粒子22を、このように適度に微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなり、構造安定性が向上する。シリコン粒子22の平均粒径は、シリケート複合粒子の断面をSEMまたはTEMを用いて観察することにより測定される。具体的には任意の100個のシリコン粒子22の最大径を平均して求められる。
【0074】
以下、本開示の実施形態に係る二次電池が備える、負極、正極、電解質およびセパレータについて説明する。
【0075】
[負極]
負極は、例えば、負極集電体と負極活物質層とを含む。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、表面の少なくとも一部が炭素相で被覆されたシリコン粒子を含むシリケート複合粒子を含む。負極活物質層は、負極集電体の表面に形成される。負極活物質層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。負極活物質層は、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極活物質層は、任意成分として、更に、結着剤、導電剤、増粘剤などを含むことができる。
【0076】
負極活物質は、更に、他の活物質材料を含んでもよい。他の活物質材料としては、例えば、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する炭素系活物質を含むことが好ましい。シリケート複合粒子は、充放電に伴って体積が膨張収縮するため、負極活物質に占めるその比率が大きくなると、充放電に伴って負極活物質と負極集電体との接触不良が生じやすい。一方、シリケート複合粒子と炭素系活物質とを併用することで、シリコン粒子の高容量を負極に付与しながら、優れたサイクル特性を達成することが可能になる。シリケート複合粒子と炭素系活物質との合計に占めるシリケート複合粒子の割合は、例えば1~30質量%もしくは3~15質量%が好ましい。これにより、高容量化とサイクル特性の向上を両立し易くなる。
【0077】
炭素系活物質としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)などが例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。炭素系活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
負極活物質中の炭素系活物質の含有量(すなわちシリケート複合粒子と炭素系活物質との合計に占める炭素系活物質の割合)は、70質量%以上、99質量%以下、もしくは、85質量%以上、97質量%以下であることが好ましい。これにより、高容量化とサイクル特性の向上を両立し易くなる。
【0079】
負極集電体としては、金属箔、メッシュ体、ネット体、パンチングシートなどが使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などが例示できる。負極集電体の厚さは、例えば1~50μmである。
【0080】
結着剤は、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ビニル樹脂、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)、ポリアクリル酸およびその誘導体などが例示できる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。導電剤としては、カーボンブラック、導電性繊維、フッ化カーボン、有機導電性材料などが例示できる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
分散媒としては、水、アルコール、エーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒などが例示できる。
【0082】
[正極]
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極活物質層とを具備する。正極活物質層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極活物質層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0083】
正極合剤は、必須成分として正極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電剤などを含むことができる。
【0084】
正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物を用いることができる。リチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-b2、LiaCob1-bc、LiaNi1-bbc、LiaMn24、LiaMn2-bb4、LiMePO4、Li2MePO4Fが挙げられる。ここで、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、およびBよりなる群から選択される少なくとも1種である。Meは、少なくとも遷移元素を含む(例えば、Mn、Fe、Co、Niよりなる群から選択される少なくとも1種を含む)。0≦a≦1.2、0≦b≦0.9、2.0≦c≦2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、放電状態の値であり、充放電により増減する。
【0085】
結着剤および導電剤としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を用いてもよい。
【0086】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0087】
[電解質]
電解質は、溶媒と、溶媒に溶解したリチウム塩を含む。電解質におけるリチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/Lである。電解質は、公知の添加剤を含有してもよい。
【0088】
溶媒は、水系溶媒もしくは非水溶媒を用いる。非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
リチウム塩としては、例えば、塩素含有酸のリチウム塩(LiClO4、LiAlCl4、LiB10Cl10など)、フッ素含有酸のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2など)、フッ素含有酸イミドのリチウム塩(LiN(SOF)、LiN(CF3SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiN(C25SO22など)、リチウムハライド(LiCl、LiBr、LiIなど)などが使用できる。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間にはセパレータを介在させる。セパレータは、イオン透過度が高くて適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質には、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが用いられる。
【0091】
二次電池の構造の一例としては、正極、負極およびセパレータを捲回してなる電極群と電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。捲回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層された積層型の電極群も用いられる。また、他の形態の電極群が適用されてもよい。二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0092】
図3は、本開示の一実施形態に係る角形の二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および電解質(図示せず)と、電池ケース4の開口部を封口する封口板5とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在するセパレータとを有する。負極、正極およびセパレータは、平板状の巻芯を中心にして捲回され、巻芯を抜き取ることにより電極群1が形成される。封口板5は、封栓8で塞がれた注液口と、ガスケット7で封口板5から絶縁された負極端子6とを有する。
【0093】
負極の負極集電体には、負極リード3の一端が溶接などにより取り付けられている。正極の正極集電体には、正極リード2の一端が溶接などにより取り付けられている。負極リード3の他端は、負極端子6に電気的に接続される。正極リード2の他端は、封口板5に電気的に接続される。電極群1の上部には、電極群1と封口板5とを隔離するとともに負極リード3と電池ケース4とを隔離する樹脂製の枠体が配置されている。
【0094】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
《実施例1》
[ナノシリコン粒子の調製]
シリコンの粗粒子(3N、平均粒径10μm)を遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、ポットにSUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで平均粒径が150nmになるまで粉砕し、ナノシリコン粒子を調製した。
【0096】
[炭素相によるシリコン粒子の被覆]
化学気相成長法によりナノシリコン粒子の表面に炭素材料を堆積させた。具体的には、アセチレンガス雰囲気中にナノシリコン粒子を導入し、700℃で加熱して、アセチレンガスを熱分解させてナノシリコン粒子の表面に堆積させ、炭素相を形成した。ナノシリコン粒子100質量部に対する炭素材料量は10質量部とした。
【0097】
[シリケート複合粒子の調製]
二酸化ケイ素と炭酸リチウムとを原子比:Si/Liが1.05となるように混合し、混合物を950℃空気中で10時間焼成することにより、式:LiSi(z=0.5)で表わされるリチウムシリケートを得た。得られたリチウムシリケートは平均粒径10μmになるように粉砕した。
【0098】
平均粒径10μmのリチウムシリケート(LiSi)と、炭素被覆シリコンとを、70:30の質量比で混合した。混合物を遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、ポットにSUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで混合物を50時間攪拌した。
【0099】
次に、不活性雰囲気中で粉末状の混合物を取り出し、不活性雰囲気中、ホットプレス機による圧力を印加した状態で、800℃で4時間焼成して、混合物の燒結体(LSX)を得た。
【0100】
その後、LSXを粉砕し、40μmのメッシュに通した後、得られたLSX粒子を石炭ピッチ(JFEケミカル株式会社製、MCP250)と混合し、混合物を不活性雰囲気で、800℃で焼成し、LSX粒子の表面を導電性炭素で被覆して導電層を形成した。導電層の被覆量は、LSX粒子と導電層との総質量に対して5質量%とした。その後、篩を用いて、導電層を有する平均粒径5μmのLSX粒子を得た。
【0101】
LSX粒子のXRD分析によりSi(111)面に帰属される回折ピークからシェラーの式で算出したシリコン粒子の結晶子サイズは15nmであった。
【0102】
リチウムシリケート相の組成を上記方法(高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES))により分析したところ、Si/Li比は1.0であり、Si-NMRにより測定されるLi2Si25の含有量は70質量%(シリコン粒子の含有量は30質量%)であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本開示によれば、高容量かつ良好なサイクル特性を有する二次電池を提供することができる。本開示に係る二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源に有用である。
【0104】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0105】
1:電極群、2:正極リード、3:負極リード、4:電池ケース、5:封口板、6:負極端子、7:ガスケット、8:封栓、20:LSX粒子、21:リチウムシリケート相、22:シリコン粒子、23:母粒子、24:一次粒子、25:炭素相、25a:第1領域、25b:第2領域、26:導電層
図1
図2
図3