IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-二次電池用の正極活物質、及び二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】二次電池用の正極活物質、及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240426BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240426BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021516044
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016666
(87)【国際公開番号】W WO2020218136
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019085367
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】黒田 孝亮
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/155988(WO,A1)
【文献】特開2008-84652(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115025(WO,A1)
【文献】特開2014-186937(JP,A)
【文献】特開2015-92455(JP,A)
【文献】国際公開第97/23918(WO,A1)
【文献】特開2003-59489(JP,A)
【文献】特開2013-182782(JP,A)
【文献】特開平10-236826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含む二次電池用の正極活物質において、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、
一般式Liα[LiMnCoMe(1-x-y-z)]O(式中、MeはNi、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種、0.5<α<1、0.05<x<0.25、0.4<y<0.7、0<z<0.25)で表される複合酸化物であって、O2構造、T2構造、O6構造から選択される少なくとも1つの結晶構造を有し、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の全体におけるCoのモル分率(Co1)に対する、当該酸化物の表面におけるCoのモル分率(Co2)の比率(Co2/Co1)が、1.2<(Co2/Co1)<6.0である、二次電池用の正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物の全体におけるMnのモル分率(Mn1)に対する、当該酸化物の表面におけるMnのモル分率(Mn2)の比率(Mn2/Mn1)が、0.5<(Mn2/Mn1)<1.0である、請求項1に記載の二次電池用の正極活物質。
【請求項3】
前記一般式におけるMeがNiであり、Niを2価、Mnを4価、Oを2価として計算したCoの価数が3価より小さい、請求項1又は2に記載の二次電池用の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物において、Coの濃度が高くなる領域の厚みは当該酸化物の表面から20nm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池用の正極活物質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池用の正極活物質を含む正極と、負極と、電解質とを備えた、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用の正極活物質、及び当該正極活物質を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池等の二次電池用の正極活物質として、リチウム遷移金属複合酸化物が広く使用されている。例えば、特許文献1には、O2構造で規定される結晶構造を有し、遷移金属層にLiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物が開示されている。また、O3構造で規定される結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物において、遷移金属層にLiを含有する複合酸化物も知られている。なお、遷移金属層にLiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物は、一般的にLiリッチな複合酸化物と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-204281号公報
【発明の概要】
【0004】
しかし、O3構造のLiリッチなリチウム遷移金属複合酸化物は、充放電中に遷移金属がマイグレーションしてLiの移動が阻害されるので、高容量を実現することは困難である。他方、特許文献1に開示されるような従来のO2構造のLiリッチなリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属のマイグレーションを抑制できるものの、充電時に酸素の脱離が発生すると考えられ、高容量化について未だ改良の余地がある。また、正極活物質は、充放電サイクル後における容量維持率が高く、サイクル特性に優れることが望ましい。
【0005】
本開示の一態様である二次電池用の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む二次電池用の正極活物質において、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Liα[LiMnCoMe(1-x-y-z)]O(式中、MeはNi、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種、0.5<α<1、0.05<x<0.25、0.4<y<0.7、0<z<0.25)で表される複合酸化物であって、O2構造、T2構造、O6構造から選択される少なくとも1つの結晶構造を有し、前記リチウム遷移金属複合酸化物の全体におけるCoのモル分率(Co1)に対する、当該酸化物の表面におけるCoのモル分率(Co2)の比率(Co2/Co1)が、1.2<(Co2/Co1)<6.0である。
【0006】
本開示の一態様である二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極と、電解質とを備える。
【0007】
本開示の一態様である正極活物質によれば、高容量で、サイクル特性に優れた二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、O2構造、T2構造、O6構造から選択される少なくとも1つの結晶構造を有し、上記一般式で表されるリチウム遷移金属複合酸化物において、Coのモル分率を1.2<(Co2/Co1)<6.0とし、酸化物粒子の表面にCoを偏在させることで、高容量と良好なサイクル特性を両立することに成功した。酸化物粒子の表面に偏在したCoの効果により、酸素の脱離が抑えられ、容量が向上したと考えられる。
【0010】
以下、本開示に係る二次電池用の正極活物質、及び当該正極活物質を用いた二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体14が有底円筒形状の外装缶16に収容された円筒形電池を例示するが、外装体は円筒形の外装缶に限定されず、例えば角形の外装缶であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。また、電極体は複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層された積層型の電極体であってもよい。
【0011】
図1は、実施形態の一例である二次電池10の断面図である。図1に例示するように、二次電池10は、巻回型の電極体14と、電解質と、電極体14及び電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、電池の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0012】
電解質は、水系電解質であってもよいが、好ましくは非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む非水電解質である。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0013】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11よりも長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。
【0014】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0015】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0016】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0017】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に正極11を構成する正極活物質について詳説する。
【0018】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、結着材、及び導電材を含み、正極リード20が接続される部分を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0019】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0020】
正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物で構成される。リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Liα[LiMnCoMe(1-x-y-z)]O(式中、MeはNi、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種、0.5<α<1、0.05<x<0.25、0.4<y<0.7、0<z<0.25)で表される複合酸化物であって、O2構造、T2構造、O6構造から選択される少なくとも1つの結晶構造を有する。詳しくは後述するが、リチウム遷移金属複合酸化物の全体におけるCoのモル分率(Co1)に対する、当該酸化物の表面におけるCoのモル分率(Co2)の比率(Co2/Co1)は、1.2<(Co2/Co1)<6.0である。
【0021】
本実施形態では、正極活物質が上記リチウム遷移金属複合酸化物(以下、「複合酸化物A」とする)のみを含むものとして説明するが、正極活物質は、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物A以外の化合物を含んでいてもよい。
【0022】
正極活物質(複合酸化物A)は、体積基準のメジアン径(D50)が、例えば3~30μm、好ましくは5~25μmの粒子である。体積基準のD50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒子径の小さい方から50%となる粒子径を意味し、中位径とも呼ばれる。D50は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0023】
複合酸化物Aは、O2構造、T2構造、O6構造から選択される少なくとも1つの結晶構造を有する。好ましくは、主たる結晶構造はO2構造である。例えば、複合酸化物Aの結晶構造の少なくとも50体積%、或いは実質的に全てがO2構造である。ここで、O2構造とは、リチウムが酸素八面体の中心に存在し、酸素と遷移金属の重なり方が単位格子あたり2種類存在する層状の結晶構造であって、空間群P6mcに属する。このような層状の結晶構造は、リチウム層、遷移金属層、及び酸素層を有する。複合酸化物Aの上記一般式において、リチウム層はLiαを含み、遷移金属層はLiMnCoMe(1-x-y-z)を含み、酸素層はOを含む。
【0024】
O2構造の複合酸化物Aを合成する際に、副生成物としてT2構造及びO6構造の複合酸化物が同時に合成される場合がある。複合酸化物Aは、上述のように、副生成物として合成されるT2構造及びO6構造の複合酸化物を含んでもよい。ここで、T2構造とは、リチウムが酸素四面体の中心に存在し、酸素と遷移金属の重なり方が単位格子あたり2種類存在する層状の結晶構造であって、空間群Cmcaに属する。O6構造とは、リチウムが酸素八面体の中心に存在し、酸素と遷移金属の重なり方が単位格子あたり6種類存在する層状の結晶構造であって、空間群R-3mに属する。
【0025】
複合酸化物Aにおいて、遷移金属層に含有されるLiは、遷移金属層に含有される金属元素の総モル数に対して5モル%超過25モル%未満であり、好ましくは8モル%超過20モル%未満である。当該Liの含有量が5モル%以下、又は25モル%以上である場合は、高容量を維持できない。また、Mnの含有量は、遷移金属層に含有される金属元素の総モル数に対して40モル%超過70モル%未満であり、好ましくは45モル%超過65モル%未満である。Coの含有量は、遷移金属層に含有される金属元素の総モル数に対して0モル%超過25モル%未満であり、好ましくは3モル%超過20モル%未満である。Mn、Coの含有量が当該範囲から外れると、高容量を維持できない。
【0026】
複合酸化物Aに含有されるLi、Mn、Co以外の金属元素Meとしては、Ni、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、Ni、Feが好ましい。Meの含有量は、遷移金属層に含有される金属元素の総モル数に対して3モル%超過20モル%未満が好ましい。なお、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物Aには上記以外の金属元素が含まれていてもよい。
【0027】
複合酸化物Aは、上述のように、粒子全体におけるCoのモル分率(Co1)に対する、複合酸化物Aの粒子表面におけるCoのモル分率(Co2)の比率(Co2/Co1)が、1.2<(Co2/Co1)<6.0の条件を満たす複合酸化物である。複合酸化物Aは、例えば、粒子表面のCoの含有率が、粒子中心部のCoの含有率の1.2倍超過6.0倍未満である。複合酸化物Aは、粒子中心部から表面に近づくにつれて次第にCoの濃度が高くなる濃度分布を有していてもよく、粒子表面及び表面近傍でCoの濃度が急峻に高くなる濃度分布を有していてもよい。また、Coの濃度が高くなる濃度分布領域の厚みは、粒子の表面方向から20nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。Coの濃度が他の領域よりも高くなる領域の厚みが複合酸化物Aの粒子表面から20nm未満である場合、充分な効果が得られない場合がある。
【0028】
複合酸化物Aにおいて、粒子内部よりも表面にCoを多く存在させることにより、酸素の脱離が抑えられ、容量が向上すると考えられる。なお、Co2/Co1が1.2以下であると、容量の向上効果が得られない。また、Co2/Co1が6.0以上となり、粒子表面に存在するCoが多くなり過ぎる、換言すると粒子内部に存在するCoが少なくなり過ぎる場合も、容量の向上効果が得られない。Co2/Co1が1.2超過6.0未満を満たすCoの濃度分布が形成される場合に、容量が特異的に向上する。
【0029】
本明細書において、Coのモル分率は、Liを除く金属元素の総モル数に対するCoのモル数の割合を意味する。即ち、Coのモル分率=Coのモル数/(Mn+Co+Meの総モル数)により算出される。複合酸化物Aの粒子全体の金属元素のモル数は誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定され、複合酸化物Aの粒子表面の金属元素のモル数はX線光電子分光分析(XPS)により測定される。
【0030】
Co2/Co1は、2.0超過6.0未満がより好ましく、2.5超過5.5未満が特に好ましい。また、複合酸化物Aに含有されるCoの価数(形式酸化数)は、3より小さいことが好ましい。この場合、電池の高容量化とサイクル特性の向上を図ることが容易になる。例えば、上記一般式におけるMeがNiであり、Niを2価、Mnを4価、Oを2価として計算したCoの価数は3価より小さい。Coの価数は、2.90未満がより好ましく、2.85未満が特に好ましい。
【0031】
複合酸化物Aは、さらに、その全体におけるMnのモル分率(Mn1)に対する、複合酸化物Aの表面におけるMnのモル分率(Mn2)の比率(Mn2/Mn1)が、0.3<(Mn2/Mn1)<1.0であることが好ましい。即ち、Mnは複合酸化物Aの粒子表面よりも粒子内部に多く存在する。この場合、電池の高容量化とサイクル特性の向上を図ることが容易になる。本明細書において、Mnのモル分率は、Liを除く金属元素の総モル数に対するMnのモル数の割合を意味し、Mnのモル分率=Mnのモル数/(Mn+Co+Meの総モル数)により算出される。
【0032】
複合酸化物Aは、例えば、粒子表面のMnの含有率が、粒子中心部のMnの含有率の0.5倍超過1.0倍未満である。複合酸化物Aは、粒子中心部から表面に近づくにつれて次第にMnの濃度が低くなる濃度分布を有していてもよく、粒子表面及び表面近傍でCoの濃度が急峻に低くなる濃度分布を有していてもよい。Mn2/Mn1は、0.55超過0.85未満がより好ましく、0.60超過0.80未満が特に好ましい。
【0033】
複合酸化物Aに含有されるNi等の金属元素Meは、粒子表面に偏在していてもよいが、好ましくは粒子全体において略均一な濃度で存在する。
【0034】
複合酸化物Aは、例えば、少なくともMn、Coを含有するナトリウム遷移金属複合酸化物のNaをLiにイオン交換した後、さらにCoとの反応性が高いリチウム塩を加えて処理することにより合成できる。イオン交換方法としては、リチウム塩の溶融塩床をナトリウム遷移金属複合酸化物に加えて加熱する方法が挙げられる。なお、イオン交換が完全に進行せず、Naが一定量残存してもよい。リチウム塩には、硝酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム等から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、少なくとも1種のリチウム塩を含む溶液中にナトリウム遷移金属複合酸化物を浸漬してイオン交換を行ってもよい。イオン交換後に加えるCoとの反応性が高いリチウム塩としては、水酸化リチウム、ヨウ化リチウム、及び臭化リチウム等が挙げられる。これらの塩をイオン交換後に加えて加熱することで、Coを選択的に表面に偏在させることができる。イオン交換後にCoとの反応性が高いリチウム塩を加える工程は、イオン交換完了後にイオン交換に用いた溶融塩床に追加でCoとの反応性が高いリチウム塩を加えてもよく、イオン交換完了後に水で溶融塩床を取り除いてから実施してもよい。
【0035】
複合酸化物Aは、上記一般式で表される組成を有する母粒子の表面に、母粒子よりもCo含有率の高い微粒子を固着させることにより製造することもできる。微粒子の固着方法としては、メカノケミカル、表面コート等の従来公知の方法を適用できる。
【0036】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、例えば負極リード21が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0037】
負極合材層には、負極活物質として、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が含まれる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0038】
負極合材層に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0039】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
[正極活物質の合成]
NiSO、CoSO、及びMnSOを、13.5:13.5:73の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Ni,Co,Mn)(OH)を得た。次に、この前駆体物質、NaCO、及びLiOH・HOを、(Ni+Co+Mn):Na:Liが87:83:13の化学量論比となるように混合し、さらに追加のLiOH・HOを混合した後、この混合物を900℃で10時間保持して、ナトリウム複合酸化物を合成した。
【0042】
誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、商品名「iCAP6300」)を用いて、得られたナトリウム複合酸化物の組成を分析した。その結果、Na:Li:Mn:Co:Ni=0.756:0.133:0.633:0.117:0.117であった。
【0043】
次に、硝酸リチウムと塩化リチウムを88:12のモル比で混合した溶融塩床を、合成したナトリウム複合酸化物5gに対し5倍当量(25g)加えた。その後、当該混合物を280℃で2時間保持させ、ナトリウム複合酸化物のNaをLiにイオン交換して、リチウム過剰型のリチウム複合酸化物(LiMnO-LiMO固溶体)を作製した。
【0044】
次に、イオン交換が完了した当該混合物に対してヨウ化リチウムを、イオン交換により得られたリチウム複合酸化物に対し原子比で20%混合し、さらに280℃で1時間保持することにより、複合酸化物中のCoとヨウ化リチウムを反応させ、Coが粒子表面に偏在したリチウム遷移金属複合酸化物(正極活物質)を合成した。
【0045】
誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、商品名「iCAP6300」)を用いて、得られた複合酸化物の組成を分析した。その結果、Li:Mn:Co:Ni=1.13:0.724:0.137:0.139であった。また、X線光電子分光分析(XPS、線源:AlKα)を用いて、複合酸化物の表面における遷移金属組成を分析した。その結果、Mn:Co:Ni=0.553:0.289:0.158であった。
【0046】
[正極の作製]
合成した正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、92:5:3の質量比で混合し、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、正極合材スラリーを調製した。次に、この正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の表面に塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極芯体上に正極合材層が形成された正極を作製した。
【0047】
[非水電解液の調製]
フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(FMP)とを、1:3の質量比で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解して、非水電解液を調製した。
【0048】
[二次電池の作製]
上記正極及びLi金属製の対極にリード線をそれぞれ取り付け、ポリオレフィン製のセパレータを介して正極と対極を対向配置することにより、電極体を作製した。この電極体及び上記非水電解液を、アルミニウムラミネートフィルムで構成された外装体内に封入して、試験セルを作製した。
【0049】
<実施例2>
正極活物質の合成において、ヨウ化リチウムの添加量を原子比で30%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極及び試験セルを作製した。
【0050】
<実施例3>
正極活物質の合成において、ヨウ化リチウムの添加量を原子比で50%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極及び試験セルを作製した。
【0051】
<実施例4>
正極活物質の合成において、ヨウ化リチウムの代わりに水酸化リチウムを原子比で500%添加したこと以外は、実施例1と同様にして正極及び試験セルを作製した。
【0052】
<比較例1>
正極活物質の合成において、NiSO、及びMnSOを50:50の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Ni,Mn)(OH)を得た。次に、この前駆体物質、LiOH・HOを(Ni+Mn):Liが1.00:1.08の化学量論比となるように混合し、この混合物を900℃で10時間保持して複合酸化物を合成した。正極活物質として、当該複合酸化物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして正極及び試験セルを作製した。
【0053】
<比較例2>
正極活物質の合成において、前駆体物質に対してCo粒子を化学量論比で10%添加し、乳鉢で表面に複合化させた後、LiOH・HOを(Ni+Co+Mn):Liが1.00:1.08の化学量論比となるように混合し、この混合物を900℃で10時間保持して複合酸化物を合成した。正極活物質として、当該複合酸化物を用いたこと以外は、比較例1と同様にして正極及び試験セルを作製した。
【0054】
<比較例3>
正極活物質の合成において、ヨウ化リチウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極及び試験セルを作製した。
【0055】
[正極活物質の評価]
合成した各正極活物質についてXRD測定を実施し、結晶構造の同定を実施した。その結果、比較例1,2の正極活物質は空間群R-3mに帰属されるO3構造が、比較例3、実施例1~4の正極活物質は空間群P6mcに帰属されるO2構造が主となる構造であった。次に、ICPを用いて合成した各正極活物質の組成を分析し、Liを除く金属元素の総モル数に対する各金属元素のモル数を算出し、各材料のCo1、Mn1を求めた。さらにXPSを用いて各正極活物質の表面組成を分析し、Liを除く金属元素の総モル数に対する各金属元素のモル数を算出し、各材料のCo2、Mn2を求めた。また、Arイオンのエッチングを施してからのXPS測定により、粒子表面から観測したCo偏在領域の厚みを測定したところ、比較例1,3の正極活物質を除くいずれの材料でもCoの濃度が他の領域よりも高くなる偏在領域の厚みは粒子表面から100nm以上であった。
【0056】
各正極活物質のCoの形式酸化数は滴定により算出した。具体的には、まず各材料にヨウ化カリウムと硫酸を加えて超音波洗浄機で振とうした後、暗所に静置して溶解させ、ヨウ素を遊離させた。次に、上記の通り調整した溶液に対してチオ硫酸ナトリウムを滴定し、反応必要量から遊離したヨウ素の量を求めた。各金属元素がヨウ化カリウムにより2価まで還元されたと仮定し、遊離したヨウ素の量から各材料におけるOを2価とした際の金属形式酸化数を算出し、Niは2価、Mnは4価と仮定してCoの形式酸化数を算出した。以上のように求めたCo2/Co1、Mn2/Mn1、Coの形式酸化数は表1の通りであった。
【0057】
[正極容量及び容量維持率(サイクル特性)の評価]
実施例及び比較例の各試験セルを、25℃の温度環境において以下の条件で充放電し、正極容量(1サイクル目の放電容量)及び充放電サイクル後の容量維持率を求めた。
【0058】
<充放電条件>
0.05Cの定電流で4.7Vまで充電を行った後、0.05Cの定電流で2.5Vまで放電を行った。この充放電を10サイクル行い、下記式にて容量維持率を算出した。
【0059】
容量維持率(%)=10サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量×100
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、実施例の正極はいずれも、比較例の正極と比べて、高容量であり、サイクル特性に優れる(容量維持率が高い)。実施例の正極活物質を用いることにより、高容量と良好なサイクル特性を両立した二次電池を提供できる。
【符号の説明】
【0062】
10 二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
16 外装缶
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 溝入部
23 内部端子板
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
図1