(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240426BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20240426BHJP
E04G 23/02 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N21/88 J
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2020032486
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】小池 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】落合 昂雄
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-074339(JP,A)
【文献】特開2014-189961(JP,A)
【文献】出水享,外6名,デジタル画像相関法のひずみ計測向上に関する基礎的研究,土木学会論文集A2(応用力学),日本,2012年,Vol.68,No.2,I 683-I 690
【文献】鈴木宏信,外4名,骨材のアルカリシリカ反応性の評価方法に関する研究,J.Soc.Mat.Sci.,日本,2003年,Vol.52,No.9,pp1061-1066
【文献】川端雄一郎,アルカリシリカ反応入門,コンクリート工学,日本,2014年,52巻,11号,p1018-1024
【文献】JIS A1146:2017 骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法),日本,日本産業標準調査会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/88
G01N 33/38
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記(A)~(D)工程を経て得た最大主ひずみの分布像において発現した点状を示す模様のモルタル部分(基質部)の最大主ひずみが、模様以外のモルタル部分(基質部)の最大主ひずみ(平均値)の2倍以上のひずみを示す場合に、判定対象の粗骨材はアルカリシリカ反応性を有すると判定する、粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法。
(A)判定対象である粗骨材、および、アルカリ総量がNa
2O換算でコンクリート1m
3当たり3.0kgを超えるアルカリを含むコンクリートの供試体を作製する、供試体の作製工程
(B)前記供試体のデジタル画像の取得対象面に
ランダムパターンを施した後、該対象面のデジタル画像を取得する、促進養生前のデジタル画像の取得工程
(C)前記供試体を高温高湿環境の下で促進養生した後、該対象面のデジタル画像を取得する、促進養生後のデジタル画像の取得工程
(D)前記デジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの経時変化を算出する、最大主ひずみの経時変化の算出工程
【請求項2】
前記促進養生の温度が30~50℃、および相対湿度が90~100%である、請求項1に記載の粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル画像を用いて作成した、コンクリートの最大主ひずみの分布に基づき、粗骨材のアルカリシリカ反応性を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリシリカ反応は、反応性骨材中のシリカと、コンクリート中のアルカリ金属イオンが、高いpH条件下で反応して生成するアルカリシリカゲルが吸水して膨張することにより、コンクリートにひび割れが生じる現象である。このアルカリシリカ反応に起因するひび割れは亀甲状を呈するため、乾燥収縮など他の劣化によるひび割れとは、ひび割れの形状で区別できる。そして、このアルカリシリカ反応は、コンクリートの耐久性を低下させる主因の一つとして知られている。
したがって、コンクリートの耐久性を確保するには、ひび割れの発生時期を予測して事前に補強等の対策をとる必要がある。
【0003】
骨材の潜在的なアルカリシリカ反応性を判定する方法は、JIS A 1145が規定する化学法と、JIS A 1146が規定するモルタルバー法が、一般的に用いられている。これらのうち、化学法は試料の溶解シリカ量とアルカリ濃度の減少量を化学分析によって求め、骨材が無害か否かを判定する方法である。また、モルタルバー法は、骨材を粉砕して粒度調整した試料を用いてモルタルバーを作製し、恒温高湿環境(40℃、相対湿95%)下で反応を促進させて長さ変化を測定し、材齢26週の膨張量によって骨材が無害か否かを判定する方法である。
しかし、前記モルタルバー法は、遅延性骨材の検出が困難であること、高温高湿環境下での養生であっても、判定までに6カ月もの長期間を要し、またペシマム現象は評価できない。
【0004】
また、特許文献1に記載の方法は、アルカリシリカ反応によるひび割れを経時的に追跡する方法であり、具体的には、コンクリート構造物に小口径のモニタリングホールを削孔し、該ホールの壁面を第1センサーによりスキャニングし、画像解析によりアルカリシリカ反応の1次診断を行い、追跡調査の必要性があれば、残存耐荷力の照査を行い、残存耐荷力が必要耐荷力以上であれば、さらに、アルカリシリカ反応の進行性を確認するため、前記ホールの壁面に第2センサーを設置して、ひび割れの進行性をモニタリングするなどの方法である。しかし、該方法は、コンクリート構造物を削孔しなければならず、また追跡作業が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は粗骨材のアルカリシリカ反応性を短期間で簡易に精度よく判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、前記目的にかなう判定方法を検討したところ、コンクリートの表面の最大主ひずみの分布に基づけば、粗骨材のアルカリシリカ反応性を、短期間で簡易に精度よく判定できることを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は下記の構成を有する粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法である。
【0008】
[1]少なくとも、下記(A)~(D)工程を経て得た最大主ひずみの分布像において発現した点状を示す模様のモルタル部分(基質部)の最大主ひずみが、模様以外のモルタル部分(基質部)の最大主ひずみ(平均値)の2倍以上のひずみを示す場合に、判定対象の粗骨材はアルカリシリカ反応性を有すると判定する、粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法。
(A)判定対象である粗骨材、および、アルカリ総量がNa2O換算でコンクリート1m3当たり3.0kgを超えるアルカリを含むコンクリートの供試体を作製する、供試体の作製工程
(B)前記供試体のデジタル画像の取得対象面にランダムパターンを施した後、該対象面のデジタル画像を取得する、促進養生前のデジタル画像の取得工程
(C)前記供試体を高温高湿環境の下で促進養生した後、該対象面のデジタル画像を取得する、促進養生後のデジタル画像の取得工程
(D)前記デジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの経時変化を算出する、最大主ひずみの経時変化の算出工程
[2]前記促進養生の温度が30~50℃、および相対湿度が90~100%である、前記[1]に記載の粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法は、粗骨材のアルカリシリカ反応性を短期間で簡易に精度よく判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で用いた供試体とランダムパターンを示す図である。なお、図中の数値の単位はmmである。
【
図2】実施例で用いたデジタル画像取得用スキャナーの写真である。
【
図3】左の写真は、材齢1週間で無害であると判定された粗骨材を含む供試体の最大主ひずみの分布の一例であり、右の写真は、材齢1週間で無害でないと判定された粗骨材(反応性骨材)を含む供試体の最大主ひずみの分布の一例である。
【
図4】左の写真および右の写真は、それぞれ材齢3週および材齢5週の最大主ひずみの分布の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法は、前記のとおり、少なくとも、(A)供試体の作製工程、(B)促進養生前のデジタル画像の取得工程、(C)促進養生後のデジタル画像の取得工程、および(D)最大主ひずみの経時変化の算出工程を経て得た最大主ひずみの分布像において、点状を示す模様が現れた場合に、判定対象の粗骨材はアルカリシリカ反応性を有すると判定する、粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法である。
以下、本発明について、前記の各工程に分けて詳細に説明する。
【0012】
(A)供試体の作製工程
該工程は、判定対象である粗骨材、および、アルカリ総量がNa
2O換算でコンクリート1m
3当たり3.0kgを超えるアルカリを含むコンクリートの供試体を作製する工程である。アルカリ総量がNa
2O換算でコンクリート1m
3当たり3.0kg以下では、アルカリシリカ反応は起き難い。なお、該アルカリ総量はNa
2O換算でコンクリート1m
3当たり、好ましくは4.0kg以上、より好ましくは5.0kg以上である。
本発明で用いる供試体の配合は、アルカリ総量以外は限定されず、一般的な配合でよい。また、本発明において、供試体中の粗骨材量は、最低でも数粒あればよい。また、粗骨材の粒度の調整、および粗骨材の粉砕等の加工は不要である。
該供試体は、例えば、
図1に示すように、平板状でよく、その寸法は、特に制限されないが、デジタル画像の取得の容易さ等を考慮すると、1辺は40mm以上、厚さは最大骨材寸法以上、好ましくは50mm以上である。
【0013】
(B)促進養生前のデジタル画像の取得工程および(C)促進養生後のデジタル画像の取得工程
前記(B)工程は、前記供試体のデジタル画像の取得対象面に模様(ランダムパターン)を施した後、該対象面のデジタル画像を取得する工程であり、前記(C)工程は、前記供試体を高温高湿環境下で養生した後、該対象面のデジタル画像を取得する工程である。
デジタル画像の取得対象面に施す模様とは、解析時の標点の役割を果たすものであり、取得対象面を塗装するか、または、供試体の表面を研磨して粗骨材を露出させて、該粗骨材の面を標点の代わりとしてもよい。また、前記促進養生は、アルカリシリカ反応を促進させるため、温度が30~50℃、および相対湿度が90~100%で養生するとよい。
ここで、促進養生の前の供試体のデジタル画像取得時に、画像の取得面に水分が付着していると、色のコントラストが小さくなり、また色むらが生じて、促進養生の後に取得した画像との相関性が著しく低下する場合がある。この相関性の低下を避けるため、好ましくは、デジタル画像の取得前に、供試体の撮影面に圧縮空気等を噴射して撮影面の水分を除去するか、または、撮影面から水分がなくなるまで静置して表面乾燥状態にするなどの前処理を行う。
【0014】
(D)最大主ひずみの経時変化の算出工程
該工程は、前記デジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの経時変化を算出する工程である。
前記デジタル画像相関法は、ひずみによる変形の前後に取得したデジタル画像の輝度値の分布に基づいて、供試体上の各位置の移動量を算出し、ひずみに変換する方法である。
具体的には、以下の計算過程を経てひずみを算出する。
(i)変形前のデジタル画像において、任意の位置を中心とするサブセット内の輝度値の分布を求める。
(ii)変形後のデジタル画像の輝度値の分布と最も相関性が高い輝度値の分布を有する、変形前のデジタル画像のサブセットを探索し、その中心点を着目点が変位した後の位置として捉えて、着目点から該中心点へ変位した量を算出し、さらに該変位した量をひずみに変換する。なお、変形前後のサブセットの相関性は、下記(1)式の相関係数Rを用いて表す。
【数1】
【0015】
ただし、実際は、矩形に設定した変形前のサブセットに対し、変形後のデジタル画像そのものが変形しているため、サブセットが矩形にならない場合がある。この場合、これを補正するため、サブセット内部において変位勾配が一定と仮定して、変形前後の座標(x,y)および(x
*,y
*)には下記(2)式を用いる。
【数2】
以上の計算は、市販の画像解析用ソフトウエア(例えば、digital:Correlated solutions社製)を用いて行なうことができる。
【0016】
そして、前記点状の模様のモルタル部分(基質部)の最大主ひずみが、模様以外のモルタル部分(基質部)の最大主ひずみ(平均値)の2倍以上である場合に、判定対象の粗骨材は無害でないと判定する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1、使用材料
使用した材料を表1に示す。
【0018】
【0019】
2.供試体の作製
表2に示す配合のコンクリートを鋼製型枠に打設して、
図1に示す、縦400mm、横400mm、厚さ50mmの平板状の供試体を作製した。次に、デジタル画像相関法を用いて解析するため、
図1の写真に示すように、供試体の表面に市販のスプレー塗料を用いてランダムパターン(黒点と白点)を施した。
なお、表2に示す配合は、一般的なコンクリートの配合であるが、アルカリシリカ反応の促進のため、コンクリート1m
3当たりに含まれるアルカリ総量をNa
2O換算で8.6kgにした。ちなみに、アルカリ総量の規制値は、コンクリート1m
3当たりNa
2O換算で3.0kg以下である。
【0020】
【0021】
3.デジタル画像の取得
図2に示すデジタル画像取得用スキャナー(ラインセンサタイプの全視野ひずみ計測装置、解像度:1200dpi)を用いて、
図1に示す破線の四角枠内の、ランダムパターンを施した供試体の表面を走査してデジタル画像を取得した。なお、デジタル画像の取得時期は、まず、材齢28日で前養生を終了した時に供試体のデジタル画像を取得して、これを基調とし、その後、該供試体を40℃、相対湿度が95%の恒温恒湿槽に入れて促進養生し、材齢1週間毎にデジタル画像を取得した。ここで、前記「ランダムパターン」は、測定対象面の輝度値に変化をもたせるために、白と黒のスプレーを用いて描かれた斑模様である。
【0022】
4.最大主ひずみの算出
前記取得したデジタル画像を、画像解析用ソフトウェアdigital(Correlated solutions社製)を用いて解析し、供試体の表面の最大主ひずみ(収縮ひずみと圧縮ひずみ)の分布をデジタル画像相関法により算出した。具体的には、下記(i)および(ii)の計算過程を経て最大主ひずみの分布を得た。
(i)基長と1週間毎の促進養生の終了時の供試体のデジタル画像において、任意の位置を中心とするサブセット内の輝度値の分布を求めた。
(ii)1週間毎の促進養生の終了時の供試体のデジタル画像の輝度値の分布と、最も相関性が高い輝度値の分布を有するデジタル画像のサブセットを探索し、その中心点を着目点が移動(変位)した後の位置として捉えて、着目点から該中心点へ移動した距離(変位量)を算出し、さらに該移動した距離を最大主ひずみに変換した。
なお、供試体のデジタル画像におけるサブセットの相関性は、前記(1)式の相関係数Rを用いた。また、座標(x,y)および(x
*,y
*)は前記(2)式を用いた。
得られた最大主ひずみの分布を
図3と
図4に示す。
【0023】
5.アルカリシリカ反応性(無害か否か)の判定
図3の右の写真は、材齢1週間で無害でないと判定された粗骨材(反応性骨材)の最大主ひずみの分布の一例であり、最大主ひずみが点状の模様となっている。点状の模様の部分は、それ以外の部分より大きいプラス(膨張)の最大主ひずみ(概ね1000~1600μ程度)の部分である。また、
図3の左の写真は、材齢1週間で無害であると判定された粗骨材の最大主ひずみの分布の一例であり、最大主ひずみの点状の模様は存在しない。
また、
図4の左の写真および右の写真は、それぞれ材齢3週および材齢5週の最大主ひずみの分布の経時変化を示す。
図4の写真から、材齢が進むにつれて、発現した点状の模様を起点としてひび割れが進展し、最大主ひずみがさらに大きくなって行くことが分かる。
よって、本発明の粗骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法は、最大主ひずみの分布に点状の模様が発現し、該点状の模様がそれ以外の部分より大きいプラス(2倍以上)のひずみを示す場合に、無害でないと判定する。