(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】セラミクス複合体
(51)【国際特許分類】
C01F 17/34 20200101AFI20240426BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240426BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20240426BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240426BHJP
【FI】
C01F17/34
C09K11/08 G
C09K11/80
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2020056341
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真之介
(72)【発明者】
【氏名】森山 莉穂
(72)【発明者】
【氏名】豊田 慶
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-507535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/34
C01F 17/241
C09K 11/80
C09K 11/08
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子と、その表面に設けられた被覆層と、を有する複合粒子からなるセラミクス複合体であって、
前記蛍光体粒子の母体結晶構造と前記被覆層とは、同じガーネット構造を有し、
前記被覆層の厚みが、0.001μm以上、0.450μm以下であり、
前記蛍光体粒子の組成がY
3Al
2(AlO
4)
3:Ce
3+であり、
前記被覆層の組成がLu
3Al
2(AlO
4)
3である
、セラミクス複合体。
【請求項2】
蛍光体粒子と、その表面に設けられた被覆層と、を有する複合粒子からなるセラミクス複合体であって、
前記蛍光体粒子の母体結晶構造と前記被覆層とは、同じガーネット構造を有し、
前記被覆層の厚みが、0.001μm以上、0.450μm以下であり、
前記蛍光体粒子の組成がLu
3Al
2(AlO
4)
3:Ce
3+であり、
前記被覆層の組成がY
3Al
2(AlO
4)
3である
、セラミクス複合体。
【請求項3】
前記複合粒子の平均粒径が、6.5μm以上、10.0μm以下である、請求項1
又は2に記載のセラミクス複合体。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載のセラミクス複合体を光源として使用する、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)などの固体発光光源とともに、ディスプレイやプロジェクターなどの映像表示装置や照明装置などの光源に使用されるセラミクス複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LEDやLDなどの固体発光光源と蛍光体を組合せた発光装置が広く普及している。この発光装置は、一般的に青色領域の発光ピーク波長を有する固体発光光源と黄色領域の発光ピーク波長を有する蛍光体との組合せによって構成されているものであり、それぞれの発光波長の組み合わせからなる白色光を各用途に応じて使用している。
【0003】
この発光装置は従来の蛍光灯とは異なり、有害物質である水銀を有しておらず、また、熱に変換されるエネルギーも大幅に抑えられることから、環境負荷低減に寄与する優れたデバイスとして大きな注目を集めているとともに普及が加速している。
【0004】
しかしながら、従来の発光装置においては、固体発光光源から照射される光、あるいは、外部環境下における温度や湿度の変化などの影響を大きく受けることによって、蛍光体が劣化するため、結果として発光装置の寿命が短くなることがあった。
【0005】
この問題を解決するために、蛍光体粒子をコアにし、その蛍光体の表面上をシリカ層で被覆してシェルとした、コアシェル型複合蛍光体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、表面がシリカ層で被覆された金属酸化物系蛍光体微粒子からなる複合微粒子、及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、表面がシリカ層で被覆された金属酸化物系蛍光体微粒子からなる複合微粒子は、前記金属酸化物系蛍光体微粒子より熱伝導率が小さいSiO2からなるシリカ層をシェルとしている。そのため、前記金属酸化物系蛍光体微粒子の発光に伴い発生する熱を外部に伝達し難くなり、蛍光体の温度が上昇し、蛍光特性が低下する(温度消光)という課題を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、外部環境下における温度や湿度の変化などの影響を受けにくく、かつ温度消光を抑制する蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るセラミクス複合体は、蛍光体粒子と、その表面に設けられた被覆層と、を有する複合粒子からなるセラミクス複合体であって、
前記蛍光体粒子の母体結晶構造と前記被覆層とは、同じガーネット構造を有し、
前記被覆層の厚みが、0.001μm以上、0.450μm以下である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明に係るセラミクス複合体によれば、外部環境下における温度や湿度の変化などの影響を受けにくく、かつ温度消光の抑制を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る蛍光体粒子が被覆層により覆われた複合粒子からなるセラミクス複合体の断面構造を示した概略断面図である。
【
図2】蛍光体粒子の組成がY
3Al
2(AlO
4)
3:Ce
3+であり、被覆層がLu
3Al
2(AlO
4)
3である場合の蛍光体粒子の表面における原子層と被覆層の厚みとを表す模式拡大図である。
【
図3】実施の形態1に係るセラミクス複合体を光源として使用した発光装置の構造を示した概略図である。
【
図4】実施例1から実施例3および比較例1から比較例3の蛍光体粒子と被覆層との組成、被覆層の厚み、各種光学特性評価結果を示す表1である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の態様に係るセラミクス複合体は、蛍光体粒子と、その表面に設けられた被覆層と、を有する複合粒子からなるセラミクス複合体であって、
前記蛍光体粒子の母体結晶構造と前記被覆層とは、同じガーネット構造を有し、
前記被覆層の厚みが、0.001μm以上、0.450μm以下である。
【0013】
第2の態様に係るセラミクス複合体は、上記第1の態様において、前記蛍光体粒子の組成がY3Al2(AlO4)3:Ce3+であり、
前記被覆層の組成がLu3Al2(AlO4)3であってもよい。
【0014】
第3の態様に係るセラミクス複合体は、上記第1の態様において、前記蛍光体粒子の組成がLu3Al2(AlO4)3:Ce3+であり、
前記被覆層の組成がY3Al2(AlO4)3であってもよい。
【0015】
第4の態様に係るセラミクス複合体は、上記第1から第3のいずれかの態様において、前記複合粒子の平均粒径が、6.5μm以上、10.0μm以下であってもよい。
【0016】
第5の態様に係る発光装置は、上記第1から第4のいずれかの態様に係るセラミクス複合体を光源として使用する。
【0017】
以下、実施の形態におけるセラミクス複合体について添付図面を参照して詳述する。
【0018】
(実施の形態1)
実施の形態1におけるセラミクス複合体は、蛍光体粒子と、その表面に設けられた被覆層と、を有する複合粒子からなる。蛍光体粒子の母体結晶構造と被覆層とは、同じガーネット構造を有する。また、被覆層の厚みが、0.001μm以上、0.450μm以下である。
被覆層が蛍光体粒子と同じガーネット構造であるので、シリカ層と比較して熱伝導率が高く、外部環境下における温度や湿度の変化などの影響を受けにくく、かつ温度消光の抑制を図ることができる。
【0019】
以下に、このセラミクス複合体を構成する部材について説明する。
【0020】
<蛍光体粒子>
蛍光体粒子の母体結晶構造としては様々なものが挙げられるが、外的環境の変化に対する信頼性が高いという観点から化学式A3B2(CO4)3で表されるガーネット構造であることが好ましい。A、B、Cの部分にはそれぞれ配位可能な元素を配置することができるが、所望の蛍光ピーク波長を実現できることから、母体結晶の組成は、A部分にイットリウム(Y)元素、BおよびC部分にアルミニウム(Al)元素が配置されているY3Al2(AlO4)3、あるいは、A部分にルテチウム(Lu)元素、BおよびC部分にアルミニウム(Al)元素が配置されているLu3Al2(AlO4)3であることが好ましい。発光中心イオンとしては、例えば、Mn2+、Mn4+、Eu2+、Eu3+などが挙げられるが、母体結晶の組成を選択した理由同様に、所望の蛍光ピーク波長を実現できるという観点からCe3+を選択することが好ましい。
【0021】
<被覆層>
被覆層の結晶構造としては、前記蛍光体粒子と同様に様々なものが挙げられるが、特許文献1に記載されているシリカ層と比較して熱伝導率が高いという観点、また、蛍光体粒子の表面に被覆層を形成することが可能である観点から、ガーネット構造であることが好ましい。さらに、蛍光体粒子の表面に被覆層が形成されている事象を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することが可能であるという観点から、蛍光体粒子の組成がY3Al2(AlO4)3:Ce3+である場合には、被覆層はLu3Al2(AlO4)3、蛍光体粒子の組成がLu3Al2(AlO4)3:Ce3+である場合には、被覆層はY3Al2(AlO4)3であることが好ましい。
【0022】
また、被覆層の厚みとしては0.001μm以上、0.450μm以下であることが望ましい。ここで被覆層の厚みとは、セラミクス複合体の断面をTEMにて観察した際に、化学式A3B2(CO4)3:Ce3+で表される蛍光体粒子の表面に存在するA部の元素から、化学式A3B2(CO4)3で表される被覆層の表面に存在するA部の元素までの最近接距離として表される。
【0023】
図1は、実施の形態1に係る蛍光体粒子2が被覆層3により覆われた複合粒子1からなるセラミクス複合体の断面構造を示した概略断面図である。
図2は、蛍光体粒子4の組成がY
3Al
2(AlO
4)
3:Ce
3+であり、被覆層5の組成がLu
3Al
2(AlO
4)
3である場合の蛍光体粒子の表面における原子層4と被覆層の厚み5とを表す模式拡大図である。
セラミクス複合体を構成する複合粒子1は、、蛍光体粒子2が被覆層3で覆われている。蛍光体粒子の表面における原子層4の上を厚さ5の被覆層3が覆っている。被覆層の厚み5が0.001μm未満の場合、外的環境の影響を受け、被覆層3が欠損し、蛍光体粒子の表面における原子層4に欠陥が生じることで、量子効率が低下するため、好ましくない。また、被覆層の厚み5が0.450μmより大きい場合、照射する励起光波長よりも大きいため、励起光が蛍光体粒子2まで到達しない可能性があるため、好ましくない。
【0024】
<セラミクス複合体>
セラミクス複合体の複合粒子1の平均粒径をD50(μm)とした場合に、6.5μm以上、10.0μm以下であることが好ましい。D50が6.5μm未満である場合、プレート状に成形する際に粒界が増えることで熱伝導性の低下がみられるため、好ましくない。また、D50が10.0μmより大きい場合、成形時に必要なエネルギー量が増加し成形が困難になるため、好ましくない。
【0025】
<発光装置>
図3は、セラミクス複合体8を光源として使用した発光装置10の構造を示した概略図である。この発光装置10は、励起光7を照射する励起光源6と、励起光7を受けて蛍光9を発光するプレート状に成形したセラミクス複合体8と、を備える。励起光源6は、励起波長として365nmのものや450nmのものが一般的に挙げられるが、実施の形態1におけるプレート状に成形したセラミクス複合体8を効率的に励起することができるという観点から450nmを選択することが好ましい。励起光源6は、プレート状に成形したセラミクス複合体8の直下に設置し、励起光7をプレート状に成形したセラミクス複合体8に照射されることで、セラミクス複合体8から蛍光9を放つ。
【0026】
以下、実施例および比較例に基づき、さらに具体的な説明をする。
セラミクス複合体1の作製には様々な合成法が知られているが、実施例および比較例に示す方法にて合成し、被覆層の厚みと光学特性とをそれぞれ評価した。
【0027】
<セラミクス複合体の合成>
(原料)
本合成にて使用した原料粉末を以下に示す。
・酸化イットリウム(Y2O3 信越化学工業株式会社製 純度:>99.99%)
・酸化アルミニウム(Al2O3 住友化学株式会社製 純度:≧99.99%)
・酸化ルテチウム(Lu2O3 信越化学工業株式会社製 純度:>99.99%)
・酸化セリウム(CeO2 信越化学工業株式会社製 純度:>99.99%)
・硝酸イットリウム六水和物(Y(NO3)3・6H2O 関東化学株式会社製 純度:>99.99%)
・硝酸ルテチウム四水和物(Lu(NO3)3・4H2O 関東化学株式会社製 純度:>99.95%)
・硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O 関東化学株式会社製 純度:>98.0%)
・クエン酸一水和物(C3H4(OH)(COOH)3・H2O 関東化学株式会社製 純度:>99.5%)
【0028】
(実施例1)
(蛍光体粒子の合成)
(1)まず、所定の比率にて秤量した酸化イットリウム粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化セリウム粉末をビーカー中に入れ、すべての原料粉末が浸る程度に純水を入れた。そのビーカー内に混合するためのスターラーを入れ、マグネチックスターラー上に設置し、300rpmにて撹拌することで、混合溶液を得た。
(2)その後、得られた混合溶液は、テフロン(登録商標)シートにて覆ったアルミ皿上に投入した。
【0029】
(3)次に、混合溶液の入ったアルミ皿を乾燥炉内に入れ、120℃、2時間、大気雰囲気下にて加熱することで、溶媒を除去し、凝集した白色粉末を得た。
(4)取り出した白色粉末をメノウ乳鉢内に入れ、メノウ乳棒を用いて180分間解砕することで前駆体粉末を得た。
(5)この前駆体粉末をアルミナるつぼ中に入れ、電気炉にて1550℃、2h、大気雰囲気下の条件で本焼成を行った。得られた粉末は解砕し、蛍光体粒子を得た。
【0030】
(蛍光体粒子の表面に被覆層を有するセラミクス複合体の合成)
(i)一方、別のビーカーにおいて1Mの硝酸ルテチウム水溶液、1Mの硝酸アルミニウム水溶液および1Mのクエン酸水溶液を所定の比率にて秤量した溶液を入れ混合した。
(ii)そのビーカー内に得られた蛍光体粒子を入れ、300rpmにて撹拌することで、蛍光体粒子入りの混合溶液を得た。
(iii)その混合溶液を濾紙上に移し残存溶液を排除するために、真空ポンプを利用して5分間真空引きを実施した。
(iv)その後、濾紙上に残った蛍光体粉末を1200℃、2h、大気雰囲気下で加熱することにより、蛍光体粒子の表面に被覆層を有するセラミクス複合体を得た。
【0031】
(実施例2)
原料粉末として酸化イットリウムの代わりに酸化ルテチウムを使用したこと、混合溶液として1Mの硝酸ルテチウム水溶液の代わりに1Mの硝酸イットリウム水溶液を使用したこと、蛍光体粒子入りの混合溶液を濾紙上に移し残存溶液を排除するために、真空ポンプを利用して2分間真空引きを実施したこと以外は実施例1と同様にしてセラミクス複合体を作製した。
(実施例3)
蛍光体粒子入りの混合溶液を濾紙上に移し残存溶液を排除するために、真空ポンプを利用して1分間真空引きを実施したこと以外は実施例1と同様にしてセラミクス複合体を作製した。
【0032】
(比較例1)
蛍光体粒子入りの混合溶液を濾紙上に移し残存溶液を自重によって排除するために、真空ポンプは利用しなかったこと以外は実施例1と同様にしてセラミクス複合体を作製した。
(比較例2)
蛍光体粒子の表面に被覆層を付与する過程を経ないこと以外は実施例1と同様にしてセラミクス複合体を作製した。
(比較例3)
蛍光体粒子の表面に被覆層を付与する過程において、被覆層をシリカガラス(SiO2)としたこと以外は実施例1と同様にしてセラミクス複合体を作製した。
【0033】
<平均粒径の評価>
レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、セラミクス複合体の平均粒径(D50)を評価した。発明を実施するための形態の中で述べたように、粒子平均径をD50(μm)とした場合に、6.5μm≦D50≦10.0μmを満たす必要があるため、その条件を満たしている実施例および比較例のサンプルを用意した。
【0034】
<蛍光体粒子及び被覆層の結晶構造の同定>
蛍光体粒子の結晶構造は、X線回折装置を用いた粉末X線回折法によって同定した。なお、被覆層の結晶構造は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される格子像によって確認できる。また、蛍光体粒子及び被覆層の結晶構造は、TEMにおける局所的な電子線回折によって確認してもよい。
【0035】
<被覆層の厚みの測定>
セラミクス複合体において、蛍光体粒子の表面に設けられた被覆層の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することができる。具体的には、被覆層の厚みは、
図2に示すように、セラミクス複合体の断面をTEMにて観察した際に、化学式A
3B
2(CO
4)
3:Ce
3+で表される蛍光体粒子の表面に存在するA部の元素から、化学式A
3B
2(CO
4)
3で表される被覆層の表面に存在するA部の元素までの最近接距離として表される。
【0036】
<光学特性の評価>
作製したセラミクス複合体に関して、以下に示す3点について光学特性を評価した。
【0037】
(量子効率測定)
量子効率測定には分光蛍光光度計(日本分光株式会社製 型番:FP-6500)を用いた。
(1)まず、得られたセラミクス複合体をメーカー指定のサンプルセルに入れ、分光蛍光光度計内にあるサンプルホルダーにセットした。
(2)次に、ソフトウェア上で以下に示す測定条件を設定した。測定モード:Emission、励起バンド幅:5.0nm、蛍光バンド幅:5.0nm、ホトマル電圧:205V、励起波長:450nm、蛍光波長測定範囲:430nm~800nm。
(3)各実施例および比較例にて挙げたサンプルをそれぞれ測定し、量子効率を記録した。
搭載を目論む商品に適用する際、必要となる量子効率は85%以上であるので、この範囲内のサンプルについては判定を〇(良)、この範囲外のサンプルについては×(不可)と判定した。
【0038】
(蛍光強度維持率測定)
蛍光強度維持率測定には分光蛍光光度計(日本分光株式会社製 型番:FP-6500)を用いた。
(1)まず、分光蛍光光度計内に温度調整が可能なサンプルホルダーをセットした。次に、得られたセラミクス複合体をメーカー指定のサンプルセルに入れ、分光蛍光光度計内にセットした温度調整が可能なサンプルホルダーにセットした。
(2)次に、ソフトウェア上で以下に示す測定条件を設定した。測定モード:Emission、励起バンド幅:5.0nm、蛍光バンド幅:5.0nm、ホトマル電圧:205V、励起波長:450nm、蛍光波長測定範囲:430nm~800nm、サンプルホルダー温度:25℃および150℃。
(3)各実施例および比較例にて挙げたサンプルをそれぞれサンプルホルダー温度が25℃および150℃の状態で蛍光強度を記録した。
(4)その後、サンプルホルダーが25℃時に測定した蛍光強度と比較してサンプルホルダーが150℃時に測定した蛍光強度の割合を求め、蛍光強度維持率とした。
搭載を目論む商品に適用する際、必要となる蛍光強度維持率は80%以上であるので、この範囲内のサンプルについては〇(良)、この範囲外のサンプルについては×(不可)と判定した。
【0039】
(信頼性試験後量子効率測定)
信頼性試験としては得られたセラミクス複合体に対して、熱衝撃試験(-40℃/85℃×200サイクル(IEC61215基準))を実施し、その後、量子効率測定を実施した。
搭載を目論む商品に適用する際、必要となる量子効率は85%以上であるので、この範囲内のサンプルについては判定を〇(良)、この範囲外のサンプルについては×(不可)と判定した。
【0040】
(総合判定)
総合判定として各実施例および比較例において、光学特性評価の判定がすべて〇(良)のものについては総合判定を〇(良)、各判定結果のうち1つでも×があるものについては総合判定を×(不可)とした。
【0041】
図4は、実施例1から実施例3および比較例1から比較例3の蛍光体粒子と被覆層との組成、被覆層の厚み、各種光学特性評価結果を示す表1である。
【0042】
実施例1および実施例3、比較例1は、蛍光体粒子の組成がY3Al5O12:Ce3+であり、被覆層の組成がLu3Al5O12であって、被覆層厚みが異なるものである。実施例2は、蛍光体粒子の組成がLu3Al5O12:Ce3+であり、被覆層の組成がY3Al5O12のものである。比較例2は、蛍光体粒子の組成がY3Al5O12:Ce3+であり、被覆層がないものである。比較例3は、蛍光体粒子の組成がY3Al5O12:Ce3+であり、被覆層の組成がSiO2のものである。
【0043】
実施例1から実施例3の結果を見ると、各種光学特性評価結果において、量子効率、蛍光強度維持率、信頼性試験後量子効率ともに〇(良)である。実施例1から実施例3に示すようなセラミクス複合体の蛍光体粒子と被覆相との組合せにて、被覆層の厚みを0.001μm以上、0.450μm以下に制御すると外部環境の変化による蛍光体粒子表面の欠陥発生を抑制できるととともに、熱伝導率がSiO2より大きい被覆層で被覆されることで温度消光が抑制できると考えられる。
【0044】
比較例1においては、他のサンプルと比較して、量子効率および信頼性試験後量子効率が低いことが分かる。これは被覆層の厚みが励起光波長以上であり、蛍光体粒子に励起光が照射される前に、被覆層において励起光の吸収、および蛍光体粒子からの発光の吸収が発生したためと考えられる。
【0045】
比較例2においては、他のサンプルと比較して、信頼性試験後量子効率が低いことが分かる。これは蛍光体粒子の表面に被覆層がないことにより、信頼性試験後において、蛍光体粒子の表面における欠陥が増加したことが、量子効率の低下につながったものと考えられる。
【0046】
比較例3においては、他のサンプルと比較して、蛍光強度維持率が低いことが分かる。これは蛍光体粒子よりも熱伝導率の低いSiO2によって被覆されていることで、蛍光体粒子から発生した熱が外部に伝達しにくくなり、温度消光を引き起こしていることが考えられる。したがって、被覆層の熱伝導率はSiO2の熱伝導率より高いことが望ましいと分かる。
【0047】
これらをまとめると、実施例1から実施例3については各光学特性評価結果の判定がすべて〇(良)であるため、総合判定は〇(良)である。一方、比較例1においては、量子効率および、信頼性試験後量子効率の判定が×(不可)のため、総合評価は×(不可)となる。比較例2においては、信頼性試験後量子効率の判定が×(不可)のため、総合評価は×(不可)となる。比較例3においては、蛍光強度維持率の判定が×(不可)のため、総合評価は×(不可)となる。
【0048】
上記の実施例に示すように、本開示によれば、外部環境下における温度や湿度の変化などの影響を受けにくく、かつ温度消光の抑制を図ることができるセラミクス複合体を提供することが可能となる。
【0049】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係るセラミクス複合体によれば、外部環境の変化に影響を受けにくく、温度消光が抑制されたセラミクス複合体を提供することが可能となり、高輝度照明やプロジェクターなどに展開することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 複合粒子(セラミクス複合体)
2 蛍光体粒子
3 被覆層
4 蛍光体粒子の表面における原子層
5 被覆層の厚み
6 励起光源
7 励起光
8 プレート状に成形したセラミクス複合体
9 蛍光
10 発光装置