(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20240426BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20240426BHJP
C23C 16/38 20060101ALI20240426BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20240426BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
C30B29/38 A
C30B25/18
C23C16/38
C23C16/455
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020133281
(22)【出願日】2020-08-05
【審査請求日】2023-07-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発(中核拠点及び評価基盤領域)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 旭
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩
(72)【発明者】
【氏名】プリストフセク マーコス
(72)【発明者】
【氏名】新田 州吾
(72)【発明者】
【氏名】本田 善央
(72)【発明者】
【氏名】川原田 洋
(72)【発明者】
【氏名】小出 康夫
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-298626(JP,A)
【文献】特開平03-237096(JP,A)
【文献】特開2008-186936(JP,A)
【文献】特開2017-025412(JP,A)
【文献】特開2017-165639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/18
C23C 16/38
C23C 16/455
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(111)面を有する単結晶ダイヤモンド基板を反応室にセットする工程と、
ホウ素を含む有機金属化合物の第1原料ガスを前記反応室に供給する第1工程と、
窒素を含む第2原料ガスを前記反応室に供給する第2工程と、
を備え、
前記第1工程と第2工程とを交互に繰り返す、六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1原料ガスはトリエチルボランを含んでいる、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記第2原料ガスはアンモニアを含んでいる、請求項1または2に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項4】
水素を含むとともにアンモニアを含まない雰囲気中で前記単結晶ダイヤモンド基板の前記(111)面を1300℃以上に加熱する熱クリーニング工程をさらに備え、
前記熱クリーニング工程は、前記第1工程および前記第2工程の前に行われる、請求項1~3の何れか1項に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程と第2工程との繰り返し回数は、600回以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
単結晶ダイヤモンド基板上に六方晶窒化ホウ素(hBN)の2次元(2D)材料が配置されているヘテロ接合は、その界面に二次元正孔ガスを誘起させることが可能である。一方、AlGaN/GaNヘテロ接合では、その界面に二次元電子ガスを誘起させることができるので、この二つのヘテロ接合を用いることで、CMOSのような相補的な動作をするデバイスを作製することが可能となる。従って、単結晶ダイヤモンドと六方晶窒化ホウ素とのヘテロ接合構造は、次世代パワーエレクトロニクスの有望な材料である。なお、関連する技術が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単結晶ダイヤモンド基板上に、hBNを直接成長させる技術は、まだ報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法を開示する。この製造方法は、(111)面を有する単結晶ダイヤモンド基板を反応室にセットする工程を備える。製造方法は、ホウ素を含む有機金属化合物の第1原料ガスを反応室に供給する第1工程を備える。製造方法は、窒素を含む第2原料ガスを反応室に供給する第2工程を備える。第1工程と第2工程とを交互に繰り返す。
【0006】
六方晶窒化ホウ素と単結晶ダイヤモンドの(100)面との界面に比して、六方晶窒化ホウ素と単結晶ダイヤモンドの(111)面との界面の方が、格子不整合を小さくすることができる。また、第1原料ガスの供給と第2原料ガスの供給を交互に繰り返すことで、第1原料ガスと第2原料ガスとの寄生反応を抑制することができる。これにより、単結晶ダイヤモンドの(111)面上に六方晶窒化ホウ素をエピタキシャル成長させることが可能となる。
【0007】
第1原料ガスはトリエチルボランを含んでいてもよい。
【0008】
第2原料ガスはアンモニアを含んでいてもよい。
【0009】
製造方法は、水素を含むとともにアンモニアを含まない雰囲気中で単結晶ダイヤモンド基板の(111)面を1300℃以上に加熱する熱クリーニング工程をさらに備えていてもよい。熱クリーニング工程は、第1工程および第2工程の前に行われてもよい。
【0010】
第1工程と第2工程との繰り返し回数は、600回以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】気相成長方法を説明するフローチャートである。
【
図3(a)】(111)面上に0回の成長サイクル数で成長させたhBNのAFM像である。
【
図3(b)】(111)面上に300回の成長サイクル数で成長させたhBNのAFM像である。
【
図3(c)】(111)面上に900回の成長サイクル数で成長させたhBNのAFM像である。
【
図3(d)】(111)面上に1800回の成長サイクル数で成長させたhBNのAFM像である。
【
図3(e)】(100)面上に0回の成長サイクル数で成長させたhBNのAFM像である。
【
図3(f)】(100)面上に300回の成長サイクル数で成長させたhBNのAFM像である。
【
図3(g)】(100)面上に900回の成長サイクル数で成長させたhBNのAFM像である。
【
図3(h)】(100)面上に1800回の成長サイクル数で成長させたhBNのAFM像である。
【
図4】サンプルSA1~SA3のXRD分析結果を示す図である。
【
図7】ダイヤモンド基板の(111)面のダングリングボンドの模式図である。
【
図8】ダイヤモンド基板の(100)面のダングリングボンドの模式図である。
【
図9】hBNの(0001)面の結晶構造を示す図である。
【
図10】ダイヤモンド基板の(111)面の結晶構造を示す図である。
【
図11】ダイヤモンド基板の(100)面の結晶構造を示す図である。
【
図12】ダイヤモンド基板の(111)面の熱クリーニング前のAFM画像である。
【
図13】ダイヤモンド基板の(111)面の混合雰囲気中での熱クリーニング後のAFM画像である。
【
図14】ダイヤモンド基板の(111)面のH
2雰囲気中での熱クリーニング後のAFM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<気相成長装置の構成>
図1に、本明細書の技術に係る気相成長装置1を側面から見た概略断面図を示す。気相成長装置1は、有機金属気相エピタキシ法(metalorganic vapor phase epitaxy:MOVPE)を実施するための装置構成の一例である。気相成長装置1は、反応容器10、サセプタ11、第1原料ガス供給管21、第2原料ガス供給管22、希釈ガス供給管23、ガス排気管24、ヒータ31を備えている。反応容器10は、水平型である。サセプタ11は、反応容器10内に格納されている。サセプタ11の基板保持面には、ダイヤモンド基板13が保持されている。ダイヤモンド基板13は、単結晶型IIaダイヤモンドである。IIaダイヤモンドは、窒素やホウ素などの不純物を一切含まないダイヤモンドである。ダイヤモンド基板13の表面13aは、(111)面または(100)面である。
【0013】
第1原料ガス供給管21は、第1原料ガスG1を反応容器10に供給する管である。第1原料ガスG1は、ホウ素を含む有機金属化合物のガスである。本実施形態では、第1原料ガスG1は、トリエチルボラン(Triethylborane)((CH3CH2)3B)である。なお本明細書では、トリエチルボランを「TEB」と略記する場合がある。第2原料ガス供給管22は、第2原料ガスG2を反応容器10に供給する管である。第2原料ガスG2は、窒素を含むガスである。本実施形態では、第2原料ガスG2は、アンモニア(NH3)である。希釈ガス供給管23は、希釈ガスG3を反応容器10に供給する管である。本実施形態では、希釈ガスG3は、水素(H2)である。
【0014】
反応容器10には、ガス排気管24が接続されている。六方晶窒化ホウ素の気相成長に使用された原料ガスは、ガス排気管24を介してベントラインへ排出される。なお本明細書では、六方晶窒化ホウ素を「hBN」と略記する場合がある。
【0015】
反応容器10の外周には、サセプタ11を取り囲むようにヒータ31が配置されている。ヒータ31は、ホットウォール方式によりダイヤモンド基板13を加熱する装置である。これにより、ダイヤモンド基板13をhBN結晶成長に十分な温度(1380℃)に維持することができる。
【0016】
<気相成長方法>
図2のフローチャートを用いて、気相成長方法を説明する。ステップS1において、ダイヤモンド基板13をサセプタ11にセットする。
【0017】
ステップS2において、熱クリーニング工程を行う。熱クリーニング工程は、水素を含むとともにアンモニアを含まない雰囲気中で、ダイヤモンド基板13の表面13aを1300℃以上に加熱する工程である。本実施形態では、希釈ガスG3のみを反応容器10に供給することで、純粋なH2雰囲気中で熱クリーニング工程を実施した。また熱クリーニング工程は、1380℃で10分間実施した。
【0018】
ステップS3~S5において、パルスモードMOVPE法が行われる。パルスモードMOVPE法は、ボロン原料である第1原料ガスG1と窒素原料である第2原料ガスG2とを、反応容器10に交互に供給する成長方法である。具体的に説明する。
【0019】
ステップS3では、第1原料ガスG1(TEB)および希釈ガスG3(H2)が、反応容器10に供給される。2秒の供給時間が経過すると、ステップS4へ即座に移行する。ステップS4では、第2原料ガスG2(NH3)および希釈ガスG3(H2)が、反応容器10に供給される。2秒の供給時間が経過すると、ステップS5へ即座に移行する。
【0020】
ステップS5において、あらかじめ定められた成長サイクル数だけ、ステップS3およびS4が繰り返されたか否かが判断される。成長サイクル数の好適な範囲については、後述する。否定判断される場合(S5:NO)には即座にステップS3へ戻り、次サイクルが開始される。肯定判断される場合(S5:YES)には、フローを終了する。
【0021】
ステップS3~S5によるhBNの成長中は、反応容器10の圧力は3.32kPaとし、温度は1380℃を維持した。第1原料ガスG1の流速は、15[μmol/分]の一定値とした。公称V/III比は「3000」を使用した。パルスモードMOVPE法を用いることにより、気相中のTEBとNH3との間の寄生反応を抑制することができる。よって、hBNの成長を阻害することがない。
【0022】
<表面粗さ観察結果>
ダイヤモンド基板13の(111)面上および(100)面上に成長させたhBNの表面形態学的特性を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観測し比較した。
図3(a)~
図3(d)は、それぞれ0、300、900、1800回の成長サイクル数で、(111)面上に成長させたhBNのAFM像である。
図3(e)~
図3(h)は、それぞれ0、300、900、1800回の成長サイクル数で、(100)面上に成長させたhBNのAFM像である。観察領域は2マイクロメートル四方である。観察はタッピングモードで行った。AFM装置は、NanoNavi IIs(SII Nano-Technology社製)を用いた。なお、hBNの成長後の膜厚は、成長サイクル数に必ずしも比例しない。
【0023】
図3(a)~
図3(d)を用いて、ダイヤモンド基板13の(111)面上の観察結果について説明する。
図3(a)に示すように、hBNが成長していない(111)面上は、ダイヤモンドのストライプ形状が観察される。
図3(b)に示すように、300回の成長サイクル数では、ダイヤモンド基板13の表面には複数のhBNの成長核(複数の明るい点)が観察される。しかし、ダイヤモンドのストライプ状の初期形状が依然として観察可能である。よって、hBN膜は、ダイヤモンド基板13の表面全体にわたってまだ形成されていないことが分かる。
【0024】
図3(c)に示すように、900回の成長サイクル数では、hBN膜が表面全体に成長するため、ダイヤモンド基板13のストライプ状の初期形状が観察されない。ダイヤモンド基板13は、
図3(c)に白い矢印で示された少数のピンホールでのみ露出している。観察領域(2マイクロメートル四方)における二乗平均粗さ(RMS)は、1.64nmであった。
【0025】
図3(d)に示すように、1800回の成長サイクル数では、ダイヤモンド基板13の表面がhBNで完全に覆われ、観測されるピンホールは存在しない。hBN表面は、いくつかの大きな突起(
図3(d)の明るい斑点)を有する、典型的なしわに支配されている。
【0026】
一方、
図3(e)~
図3(h)を用いて、ダイヤモンド基板13の(100)面上の観察結果について説明する。
図3(e)に示すように、hBNが成長していない(100)面上では、ダイヤモンドのストライプ形状が観察される。300回の成長サイクル数では、(111)面上の表面状態(
図3(b))に比して、(100)面上の表面状態(
図3(f))の方が、より孤立しているとともに不規則な状態で、hBNの成長核が形成されている。これは、(111)面でのRMS粗さ(
図3(b):0.40nm)に比して、(100)面でのRMS粗さ(
図3(f):0.92nm)が2倍以上であることからも分かる。
【0027】
従って、hBNの成長核が横方向に成長し互いに合体する現象が、(111)面よりも(100)面の方が発生しにくくなる。その結果、900回の成長サイクル数では、(111)面上の表面状態(
図3(c))に比して、(100)面上の表面状態(
図3(g))の方が、より大きなアイランド形状のhBNの成長核が形成される。そして、(111)面でのRMS粗さ(
図3(c):1.64nm)に比して、(100)面でのRMS粗さ(
図3(g):2.57nm)の方が、依然として大きくなる。
【0028】
1800回の成長サイクル数においても、(111)面上の表面状態(
図3(d))に比して、(100)面上の表面状態(
図3(h))の方が、より大きなアイランド形状のhBNの成長核が形成される。
【0029】
以上より、ダイヤモンド基板13の(100)面よりも(111)面を用いる方が、hBNの成長面の平坦性を高めることができることが分かる。また、ダイヤモンド基板13の表面全体にhBN膜を成長させるためには、おおよそ600回以上の成長サイクル数が必要であることが分かる。
【0030】
<結晶構造のXRD分析結果>
成長させたhBN膜の配向性を評価するために、X線回折(XRD)による分析を行った。
図4に、サンプルSA1~SA3の2θ-ω走査結果を示す。サンプルSA1~SA3は、いずれも1800回の成長サイクル数で成長させたhBNである。サンプルSA1は、純粋なH
2雰囲気中で熱クリーニングを行った(111)面上に成長させたhBNである。サンプルSA2は、純粋なH
2雰囲気中で熱クリーニングを行った(100)面上に成長させたhBNである。サンプルSA3は、H
2とNH
3の混合雰囲気中で熱クリーニングを行った(111)面上に成長させたhBNの測定結果である。
【0031】
サンプルSA1では、反射ピークは、2θ-ω走査において26.5°の近傍で検出される(領域R1参照)。これは、hBNバルク結晶の格子定数に対応する26.7°のピーク位置に近い。一方、サンプルSA2では、反射ピークは検出されない(領域R2参照)。以上より、(111)面上に成長したhBNのみが良好に秩序化された結晶構造を有することが分かる。
【0032】
<結晶構造のSTEM観察結果>
サンプルSA1およびSA2の結晶構造を、断面走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて観察した。
図5は、(111)面に成長したhBN膜(サンプルSA1)である。
図6は、(100)面に成長したhBN膜(サンプルSA2)である。両サンプルにおいて、成長したhBN膜厚は約20nmである。これにより、hBNの成長速度は、ダイヤモンド基板13の面方位によって著しく影響されないことが分かる。
【0033】
図5から分かるように、(111)面上には、界面に平行に、層状のhBNが配向している。すなわち、ダイヤモンド(111)面上の2D-hBN成長は、傾斜することや双晶のアイランドを形成することなく、層毎に進行することが分かる。
【0034】
一方、
図6から分かるように、(100)面上に成長したhBNは、異なる角度で傾斜した多くの小さなhBNドメインを有している。すなわち、(111)面上のhBNに比して、(100)面上のhBNは、結晶配向が不規則である。以上のSTEM観察結果は、
図4のXRD分析結果を裏付けるものである。
【0035】
<結晶面での成長モデル(ダングリングボンド)>
図7および
図8に、ダイヤモンド基板13の(111)面および(100)面の各々のダングリングボンドの模式図を示す。
図7に示すように、(111)面では、表面上の各炭素原子について、1つのダングリングボンドがほぼ垂直に存在している。一方、
図8に示すように、(100)面では、傾斜したダングリングボンドが、(111)面よりも高密度に存在している。これによりhBNの成長の初期段階において、(100)面では(111)面に比して、成長核がより無秩序に生成されると考えられる。その結果、(100)面よりも(111)面を用いる方が、hBNの成長面の平坦性を高めることが可能になる。
【0036】
<結晶面での成長モデル(格子不整合)>
図9に、hBNの(0001)面の結晶構造を示す。
図10に、ダイヤモンド基板13の(111)面の結晶構造を示す。
図11に、ダイヤモンド基板13の(100)面の結晶構造を示す。
図9に示すhBNの面内格子定数(0.2504nm)と、
図10に示すダイヤモンドの(111)面の表面の炭素原子の距離(0.2522nm)とを比較すると、0.7%程度の小さな格子不整合である。
【0037】
一方、
図9に示すhBNの面内格子定数(0.2504nm)と、
図11に示すダイヤモンドの(100)面の表面の炭素原子の距離(0.3567nm)とを比較すると、約29.8%の大きな格子不整合である。この大きな格子不整合は、ダイヤモンド基板13の(100)面上にhBNが無秩序に成長する原因の一つであると考えられる。
【0038】
<熱クリーニング>
図12~
図14に、ダイヤモンド基板13の(111)面のAFM画像をそれぞれ示す。
図12は、熱クリーニング(ステップS2)の実施前の表面である。
図13は、H
2およびNH
3の混合雰囲気中での熱クリーニングの実施後の表面である。
図14は、純粋なH
2雰囲気中での熱クリーニングの実施後の表面である。
【0039】
図12に示すように、熱クリーニング前の(111)面は、0.22nmのRMS粗さを有している。
図13に示すように、混合雰囲気中での熱クリーニングの実施後では、(111)面の表面に多数の小さなピットが形成される。RMS粗さは0.22nmであり、熱クリーニングの実施前と同等の粗さである。
【0040】
一方、
図14に示すように、H
2雰囲気中での熱クリーニングの実施後では、(111)面のRMS粗さは0.10nmである。これにより、H
2雰囲気中での1300℃以上の熱クリーニングにより、表面粗さが半分以下になるまで表面を平坦化することができることが分かる。
【0041】
前述した
図4のXRD分析結果では、H
2雰囲気中で熱クリーニングを行った(111)面上のhBN(サンプルSA1)では、反射ピークが検出されている(領域R1参照)。一方、H
2とNH
3の混合雰囲気中で熱クリーニングを行った(111)面上のhBN(サンプルSA3)では、反射ピークが検出されない(領域R3参照)。すなわち、サンプルSA3上に成長したhBNは、結晶配向が不規則であることが分かる。これは、混合雰囲気中での熱クリーニングは、表面に多数のピットが形成され、表面粗さが大きくなってしまうことに起因する。
【0042】
以上より、熱クリーニング(ステップS2)は、H2を含むとともにNH3を含まない雰囲気中で、1300℃以上で行うことが好ましいことが分かる。
【0043】
<変形例>
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0044】
ホウ素を含む有機金属の第1原料ガスは、TEBに限られない。例えば、トリメチルボラン、トリイソブチルボラン、三塩化ホウ素(BCl3)、ジボランなどであってもよい。窒素を含む第2原料ガスは、NH3に限られない。例えば、ヒドラジン、ジアゼン、ジメチルヒドラジンなどであってもよい。
【0045】
熱クリーニングは、純粋なH2雰囲気中に限られない。例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスが含まれていてもよい。
【0046】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0047】
1:気相成長装置 10:反応容器 11:サセプタ 13:ダイヤモンド基板 13a:表面 21:第1原料ガス供給管 22:第2原料ガス供給管 23:希釈ガス供給管 G1:第1原料ガス G2:第2原料ガス G3:希釈ガス