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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】パイロット式電磁弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/40 20060101AFI20240426BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
F16K31/40 A
F16K31/06 305Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021178921
(22)【出願日】2021-11-01
(65)【公開番号】P2023067552
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津久井 良輔
(72)【発明者】
【氏名】藤田 尚敬
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-283985(JP,A)
【文献】実開平4-138177(JP,U)
【文献】特開2021-156393(JP,A)
【文献】特開2007-92826(JP,A)
【文献】特開2012-172839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/00-31/11,31/40
F16K 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口開口と出口開口とに連通する弁室を備えた弁本体と、
前記弁本体に対して相対移動可能であって、前記弁室内の弁座に対し着座または離間する主弁体と、
アクチュエータのプランジャにより駆動されるパイロット弁体と、
前記プランジャが摺動可能なガイドパイプと、
前記主弁体の移動を制限する環状のストッパと、を有し、
前記ストッパの外周は、前記弁本体の内周と前記ガイドパイプの内周とに嵌合しており、
前記弁本体と前記ガイドパイプと前記ストッパとが溶接により固定される、
ことを特徴とするパイロット式電磁弁。
【請求項2】
前記ストッパの内周面に対して、前記主弁体の外周面が摺動する、
ことを特徴とする請求項1に記載のパイロット式電磁弁。
【請求項3】
前記弁本体は、前記入口開口よりも前記ストッパ側に配置された係止部を有し、前記係止部と前記主弁体との間に、前記主弁体を開弁方向に付勢するバネ部材を配設した、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のパイロット式電磁弁。
【請求項4】
前記ストッパは、周壁と、前記周壁の端部に連設される環状壁とを有し、前記周壁の外周前記弁本体の内周に嵌合し、前記環状壁が前記弁本体の内周段部に当接する、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のパイロット式電磁弁。
【請求項5】
前記環状壁と前記主弁体との間に、前記主弁体を開弁方向に付勢するバネ部材を配設した、
ことを特徴とする請求項4に記載のパイロット式電磁弁。
【請求項6】
前記ストッパは、周壁と、前記周壁の端部に連設される環状壁とを有し、前記周壁の外周が前記弁本体の内周に嵌合し、前記環状壁が前記弁本体から突出して配置される、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のパイロット式電磁弁。
【請求項7】
前記環状壁の前記主弁体が当接する面に、径方向に延在する溝を形成した、
ことを特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載のパイロット式電磁弁。
【請求項8】
前記主弁体は金属製であり、前記弁座に着座可能である樹脂製の弁体を取り付けている、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のパイロット式電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロット式電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁式アクチュエータによりパイロット弁体を駆動し、このパイロット弁体に応動して主弁体を開閉動作させることによって、流体の流路を開閉するパイロット式電磁弁が知られている。
【0003】
特許文献1には、コイルの通電時に、プランジャとともにパイロット弁体が引き上げられてパイロット弁座が開放され、それにより弁体の上面の圧力が漏洩通路を通じて二次口側の圧力と均衡化し、その結果、弁体が弁室内の圧力と弁バネの力とによって下方から押し上げられて弁座が開放されるパイロット式電磁弁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平02-283985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなパイロット式電磁弁においては、弁体が上昇し過ぎた場合にパイロット弁座が再びパイロット弁体に接触して作動が不安定となることを抑制すべく、弁体の上昇を制限する環状のストッパが弁本体に設けられている。
【0006】
ここで、特許文献1における従来の技術の欄には、治具などを用いて環状のストッパを弁本体内に押し込み、かかる状態を維持しながら溶接やロウ付け等により固着されることが開示されている。
【0007】
しかしながら、弁本体内部に挿入したストッパを、外部から溶接により弁本体に固定することは困難であり、また特許文献1における従来の技術の欄には、ストッパをどのようにして溶接するかについて開示がなされていない。一方、弁本体内部に挿入したストッパを弁本体にロウ付けする場合には、以下に述べる問題がある。
【0008】
まず、弁本体の外部からストッパまでロウ材を浸透させる必要があり、ロウ付け代が長くなり、手間がかかると共に材料代も増加する。また、ロウ付け時にはストッパおよびその他の部品を組み付けた弁本体を電気炉に投入して、例えば800℃前後の高温に加熱することによりロウ材を溶融させる必要があるが、このような高温に耐える素材を用いる必要があり、部品選択の自由度が制限される。さらに、ロウ付け後の後処理として、湯洗やバフ掛けなどの処理が必要になり、製造工程が増える。
【0009】
このような問題に対し、特許文献1においては、C字状のストッパを治具により弁本体に押し入れながら弾性変形させて縮径させ、さらに弁本体の奥側の内周に形成された溝の位置で、弾性変形から復帰させて拡径させ、該溝に嵌合させて取り付ける技術が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、ストッパを弁本体の内周に沿って押し込む際に、ストッパの開放端により擦られて内周が傷つくことがある。筒状である弁本体の内周はプランジャが摺動する面となるため、その内周が傷つくと、プランジャが往復移動する際に傷に引っかかることにより、いわゆる渋りなどの不具合を招くおそれがある。また、ストッパを係合させる溝は、弁本体の筒状部端部から比較的距離がある内部に形成する必要があるため、溝加工が困難である。
【0011】
本発明は、製造コストを抑えつつ、信頼性に優れたパイロット式電磁弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるパイロット式電磁弁は、
入口開口と出口開口とに連通する弁室を備えた弁本体と、
前記弁本体に対して相対移動可能であって、前記弁室内の弁座に対し着座または離間する主弁体と、
アクチュエータのプランジャにより駆動されるパイロット弁体と、
前記プランジャが摺動可能なガイドパイプと、
前記主弁体の移動を制限する環状のストッパと、を有し、
前記ストッパの外周は、前記弁本体の内周と前記ガイドパイプの内周とに嵌合しており、
前記弁本体と前記ガイドパイプと前記ストッパとが溶接により固定される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造コストを抑えつつ、信頼性に優れたパイロット式電磁弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1実施形態のパイロット式電磁弁を示す縦断面図である。
図2図2は、本実施形態のパイロット式電磁弁の組み付け時の状態を示す縦断面図である。
図3図3は、第2実施形態のパイロット式電磁弁を示す縦断面図である。
図4図4は、第3実施形態のパイロット式電磁弁を示す縦断面図である。
図5図5は、第4実施形態のパイロット式電磁弁を示す縦断面図である。
図6図6(a)は、本実施形態のストッパの縦断面図であり、図6(b)は、ストッパの下面図である。
図7図7は、第5実施形態のパイロット式電磁弁を示す縦断面図である。
図8図8は、第6実施形態のパイロット式電磁弁を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るパイロット式電磁弁の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書では、パイロット弁体から吸引子に向かう方向を上方とし、その逆方向を下方とする。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のパイロット式電磁弁1を示す縦断面図であり、閉弁時の状態で示している。
図示例のパイロット式電磁弁1は、例えば冷却機等の冷凍サイクルに使用されるものであり、電磁式アクチュエータ20と組み合わされて使用される。
【0017】
パイロット式電磁弁1は、弁本体10と、弁本体10に摺動自在に嵌挿された主弁体15と、主弁体15に対して相対移動可能であって、電磁式アクチュエータ20のプランジャ30により駆動されるパイロット弁体35と、プランジャ30をガイドするガイドパイプ32と、を備える。パイロット式電磁弁1の軸線をLとする。
【0018】
金属(例えばステンレス)製である弁本体10は、その内部に弁室CAを備えてなり、側壁12と底壁13とを連設した有底円筒形状を有する。底壁13の中央上面には、側壁12と同軸に上方に突出する中空の内側円筒部13bが連設され、その内側に、弁本体10の外部と弁室CAとを連通する出口開口13aが形成される。内側円筒部13bの上端近傍は下部側よりも薄肉の形状となっており、内側円筒部13bの上端が弁座14を構成する。出口開口13aに連通するようにして、流出管OTが底壁13にロウ付けなどにより接続固定されている。
【0019】
弁本体10の側壁12は、底壁13側の厚肉部12aと、厚肉部12aよりも肉厚が薄いが内径が等しい薄肉部12bとを連設してなる。薄肉部12bの上端近傍内周には、段部12cが形成されている。
【0020】
厚肉部12aには入口開口12dが形成されており、入口開口12dに連通するようにして、流入管ITがロウ付けなどにより厚肉部12aに接続固定されている。流入管ITの軸線をOとする。
【0021】
金属(例えばステンレス)製である略円筒状の主弁体15は、大径部15aと、大径部15aより小径である小径部15bと、大径部15aより小径であるが小径部15bより大径の中径部15cとを同軸に連設してなる。
【0022】
中径部15cの下面には、樹脂製(例えばPTFE)から形成される環状体(弁体)16が当接している。中径部15cの下面中央から下方に向かって突出するカシメ円筒部15dが、環状体16の内側を貫通しており、カシメ円筒部15dの下端を径方向外側に向かってフランジ状に拡径するようにカシメることで、環状体16が主弁体15に保持される。環状体16の下面は、カシメ円筒部15dの径方向外側で、弁本体10の内側円筒部13bに対向する。図1の閉弁状態では、主弁体15の環状体16が弁座14に着座して、出口開口13aを閉じている。環状体16は、金属に比して柔軟な樹脂製であるため、弁座14に着座した際の密封性が高く、また長期間にわたって使用しても弁座14の摩耗などが生じにくい。環状体16の外径は、中径部15cの外径に等しいか、それ以下であると好ましい。
【0023】
主弁体15の中央には、軸線Lと同軸に、連通孔15eが上下に貫通して形成されている。連通孔15eの上端近傍には、それ以外の部位よりも縮径した縮径孔(パイロットポート)15fが形成されている。
【0024】
弁本体10の弁室CA内に主弁体15が組み付けられたとき、入口開口12dの上方にて側壁12の内周に対して大径部15aが摺動可能に嵌合する。このとき、側壁12と大径部15aとの間には、冷媒が通過可能なわずかな隙間が形成される。
【0025】
弁室CA内において、主弁体15と弁本体10との間に、コイルバネ17が配置されている。コイルバネ17の下端は、弁本体10の厚肉部12aと内側円筒部13bとの間の底壁13の上面に当接し、コイルバネ17の上端は、大径部15aの下面に当接し、コイルバネ17は軸線L方向に沿って弁本体10に対して主弁体15を上方に付勢している。
【0026】
図1において、電磁式アクチュエータ20は、樹脂モールドされた通電励磁用のコイルユニット22、このコイルユニット22を覆うように配在されたハウジング21、コイルユニット22の上部内周側に配在されてボルト28によりハウジング21に固定された有底円筒状ないし円柱状の吸引子25、吸引子25の下端に上端を対向させて配置されるプランジャ30を有する。
【0027】
プランジャ30の下端には、保持穴31が設けられている。この保持穴31にボールからなるパイロット弁体35が収容されている。パイロット弁体35は、その下面の一部を露出させた状態で、プランジャ30下端から筒状に突出したカシメ部31aを内側にカシメることで固定されている。
【0028】
プランジャ30の下方移動とともに、パイロット弁体35が閉弁方向に移動し、プランジャ30の上方移動と共に、パイロット弁体35が開弁方向に移動する。プランジャ30と主弁体15との間に、背圧室CDが形成される。
【0029】
プランジャ30の上端には、コイルばねからなる閉弁ばね26が挿入係止される縦穴(ばね室)30aと、縦穴30aの底部とプランジャ30の外部とを連通する横穴(均圧穴)30bが形成されている。
【0030】
コイルユニット22と吸引子25との間に、薄肉のガイドパイプ32が配置されている。ガイドパイプ32内に、プランジャ30が摺動自在に嵌挿されている。ガイドパイプ32の上端32aは、吸引子25の外周段差部にTIG溶接などによって固定されている。ガイドパイプ32の下端32bは、ハウジング21の下端から突出して、後述するように弁本体10の薄肉部12bに溶接されている。ガイドパイプ32の肉厚と内径は、薄肉部12bの上端の肉厚と内径に等しいと好ましい。
【0031】
弁本体10の段部12cには、金属(例えばステンレス)製の環状であるストッパ18が隙間なく嵌合配置されている。ストッパ18は、薄肉部12bの上端から上方に突出して配置されている。ストッパ18の軸線方向長さは、薄肉部12bの上端から段部12cまでの長さの約2倍であるが、それに限られない。
【0032】
(パイロット式電磁弁の組付)
図2は、本実施形態のパイロット式電磁弁1の組み付け時の状態を示す縦断面図であり、電磁式アクチュエータ20を組付ける前の状態を示す。予め流入管IT及び流出管OTを接続した弁本体10に、コイルバネ17及び主弁体15を組み付ける。このとき、コイルバネ17の弾性力により、弁本体10に対して主弁体15が上方に向かって付勢され、環状体16が弁座14から離間した状態となる。
【0033】
その後、薄肉部12b側からストッパ18を接近させ、ストッパ18の外周を薄肉部12bの内周に嵌合させつつ、ストッパ18の端部を段部12cに突き当てると、ストッパ18は、その上端側を薄肉部12bから上方に突き出した状態で段部12cに保持される。このとき、ストッパ18の下側を薄肉部12bに嵌め込むとともにストッパ18の上側をガイドパイプ32に嵌め込んだ状態とすることで、ガイドパイプ32と弁本体10の軸心を合わせることができる。
【0034】
この状態を保つようにストッパ18とガイドパイプ32を治具で押さえながら、薄肉部12とガイドパイプ32をTIG溶接する。互いに当接したガイドパイプ32の下端及び薄肉部12bの上端に対して(ガイドパイプ32の下端及び薄肉部12bの上端が当接した位置において)、外周側から周方向全体にわたって溶接(例えば、TIG溶接やレーザ溶接)を行うことで、全周に溶接部W(図1)を形成し、ガイドパイプ32と薄肉部12bとを連結(固着)する。このとき、ガイドパイプ32の下端及び薄肉部12bの上端の近傍におけるストッパ18の一部も溶接熱の伝達により溶融した後、固化し、ガイドパイプ32と薄肉部12bに固定されるため、振動が付与されてもストッパ18が段部12cに対して相対摺動することはない。
【0035】
その後、ガイドパイプ32内に、パイロット弁体35を保持したプランジャ30、閉弁ばね26(コイルバネ26)及び吸引子25を組付け、ガイドパイプ32と吸引子25をTIG溶接する。このとき、ストッパ18の径方向内側に、パイロット弁体35が位置する(図1参照)。さらに、ガイドパイプ32の上側周囲を、コイルユニット22を備えたハウジング21の内側に嵌挿し、ボルト28を用いてハウジング21を吸引子25に固定する。
【0036】
なお、ストッパ18を薄肉部12bに圧入させて組み立ててもよい。この場合、ストッパ18と薄肉部12bの内周との間に作用する該摩擦力は、コイルバネ17の弾性力に勝るため、ストッパ18に主弁体15を介してコイルバネ17の弾性力が伝達されても、ストッパ18が薄肉部12bから係脱することがなく、そのため弁本体10からの主弁体15の抜け出しが阻止される。これにより、例えば治具などを用いて主弁体15の抜け出しを抑制する必要がなくなり、組み立てや治具の管理などの手間が省ける。
【0037】
ストッパ18の圧入後、ガイドパイプ32を弁本体10の上方から接近させ、ガイドパイプ32の内周を、薄肉部12bから突き出たストッパ18の外周に嵌合させ、ストッパ18をガイドとして用いてガイドパイプ32を下降させて、その下端32bを薄肉部12bの上端に当接させる。これにより、ガイドパイプ32と弁本体10の軸心合わせを行う。その後、溶接によりガイドパイプ32と薄肉部12bを連結し、あわせてストッパ18を固定(固着)する。以下、組み付け工程の説明を省略する。
【0038】
本実施形態によれば、ガイドパイプ32と弁本体10の突き合わせた端部を周溶接するため、溶接長が短くて済み、組み立て時間を短縮できる。また、ガイドパイプ32と弁本体10の突き合わせた端部のみが溶接熱で加熱されるため、主弁体15はほとんど加熱されず、樹脂で形成した環状体16を変性させることがないため、素材選択の自由度が高まる。さらに、ロウ付けに比べて、後処理が容易であり、パイロット式電磁弁1の組み立て工数の削減を図れる。
【0039】
(パイロット式電磁弁の動作)
パイロット式電磁弁1の動作について説明する。ここで、流入管IT内の圧力は、流出管OT内の圧力よりも高いものとする。図1に示す閉弁状態では、閉弁ばね26の弾性力によりプランジャ30と共に下方に付勢されるパイロット弁体35が、連通孔15eの縮径孔15fの上端を閉止する。このため、主弁体15を挟んで背圧室CD内の圧力と出口開口13aの圧力との間に圧力差が生じて、コイルバネ17の弾性力に抗して主弁体15は下方に押され、環状体16が弁座14に着座する。
【0040】
閉弁状態では、流入管ITから入口開口12dを介して弁室CAに導入された流体は、主弁体15の大径部15aと弁本体10の側壁12との間を通って、背圧室CDに導入される。このため、背圧室CD内の圧力と出口開口13aの圧力との圧力差が維持されるため、環状体16が弁座14に着座した状態が維持される。また、背圧室CDに導入された流体は、図1を参照して、プランジャ30の外周面とガイドパイプ32の内周面との間、横穴30b及び縦穴30aを通って、吸引子25とプランジャ30との間に形成される間隙空間CEにも導かれる。
【0041】
閉弁状態のパイロット式電磁弁1において、不図示の電源からコイルユニット22に通電されると、吸引子25にプランジャ30が引き寄せられて吸着し、これによりパイロット弁体35が開弁方向に上昇する。このとき、背圧室CDと間隙空間CEの内圧は等しいため、プランジャ30の動作を妨げることがない。
【0042】
パイロット弁体35の上昇によって、主弁体15の縮径孔15fが開放されると、背圧室CD内の流体が連通孔15e(パイロットポートを含む)を介して出口開口13aへと流出する。これにより、背圧室CD内の圧力が低下するため、背圧室CD内の圧力と出口開口13aの圧力との圧力差が減少し、弁室CAとの圧力差により主弁体15が上昇する。上昇した主弁体15の上端は、ストッパ18の下端に当接して、圧力差により付勢された状態で安定して保持される。
【0043】
コイルユニット22の通電が停止されると、閉弁ばね26の弾性力によりプランジャ30と共にパイロット弁体35が下降して、連通孔15eの縮径孔15fの上端を閉止する。すると、背圧室CD内の圧力が上昇するため、コイルバネ17の弾性力に抗して主弁体15が下方に付勢され、環状体16が弁座14に着座する。
【0044】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態のパイロット式電磁弁1Aを示す縦断面図であり、閉弁時の状態で示している。第2実施形態において、電磁式アクチュエータ20は第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0045】
本実施形態においては、弁本体10Aの側壁12A、主弁体15A及びストッパ18Aの形状が異なる。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
金属(例えばステンレス)製である略円筒状の主弁体15Aは、摺動部15Agと、大径部15Aaと、小径部15Abと、中径部15Acとを、この順序で同軸に連設してなる。摺動部15Agの外径は、大径部15Aaの外径よりも小さい。主弁体15Aの下面には、上述の実施形態と同様に、環状体16がカシメにより取り付けられている。
【0047】
ストッパ18Aは、金属(例えばステンレス)製である。薄肉部12Abの上端から突出するストッパ18Aの軸線方向長さは、薄肉部12Abの上端から段部12Acまでの長さの3倍程度であると好ましい。ストッパ18Aは、上述した実施形態と同様に、弁本体10Aの薄肉部12Abの内周に嵌合し、段部12Acに端部を突き当てるようにして弁本体10Aに取り付けられ、組み付け時にガイドパイプ32をガイドする機能を有する。ガイドパイプ32の下端及び薄肉部12Abが溶接されて溶接部Wが形成され、このときストッパ18Aも同時に固定される。ただし、ストッパ18Aの加熱は外周の一部に留まるため、ストッパ18Aの内周の円筒度は確保される。
【0048】
本実施形態では、主弁体15Aの摺動部15Agの外径と、ストッパ18Aの内径との隙間は、主弁体15Aの大径部15Aaの外径と、側壁12Aの内径との隙間より小さい。したがって、主弁体15Aが軸線方向に移動するときは、摺動部15Agの外周面とストッパ18Aの内周面との間で摺動が行われる。開弁時に、上昇した主弁体15Aの大径部15Aaと摺動部15Agとの間の段部が、ストッパ18Aの下面に当接する。なお、流入管ITから入口開口12Adを介して弁室CAに導入された流体は、主弁体15Aの大径部15Aaと側壁12Aとの間、及び摺動部15Agとストッパ18Aとの間を通って、背圧室CDに導入される。
【0049】
上述した第1実施形態においては、主弁体15が側壁12に対して摺動するため、側壁12の大径部15aが摺動する範囲全体にわたって、摺動に適した表面粗さなどを付与する加工が必要になる。これに対し、本実施形態によれば、摺動部15Agの外周面とストッパ18Aの内周面との間で摺動が行われることから、ストッパ18Aの内周面という限られた範囲のみに必要な加工を施せばよいため、コスト低減を図れる。
【0050】
[第3実施形態]
図4は、第3実施形態のパイロット式電磁弁1Bを示す縦断面図であり、閉弁時の状態で示している。第3実施形態において、電磁式アクチュエータ20は第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0051】
本実施形態においては、弁本体10Bの側壁12B、主弁体15B、及びコイルバネ17Bの構成が異なる。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0052】
側壁12Bは、底壁13側の厚肉部12Baと、薄肉部12Bbとを連設してなる。入口開口12Bdの内方端より上方である側壁12Bの内周において、環状に突出した環状突出部(係止部)12Bhが形成されている。
【0053】
金属(例えばステンレス)製である略円筒状の主弁体15Bは、側壁12Bの内周と摺動可能な大径部15Baと、大径部よりも軸線方向距離が長い小径部15Bbと、中径部15Bcとを、この順序で同軸に連設してなる。主弁体15Bの下面には、上述の実施形態と同様に、環状体16がカシメにより取り付けられている。
【0054】
弁室CA内において、主弁体15Bと弁本体10Bとの間に、コイルバネ(バネ部材ともいう)17Bが配置されている。コイルバネ17Bの下端は、弁本体10Bの環状突出部12Bhの上面に当接し、コイルバネ17Bの上端は、大径部15Baの下面に当接し、コイルバネ17Bは軸線L方向に沿って弁本体10Bに対して主弁体15Bを上方に付勢している。
【0055】
本実施形態によれば、コイルバネ17Bが入口開口12Bdの内方端より上方に配置されるため、冷媒が流入管ITから弁室CAに流入する際に、コイルバネ17Bと干渉して振動を生じさせることがなく、このため振動に起因する異音などを抑制できる。また、主弁体15Bの中径部15Bcや環状体16が、コイルバネ17Bと軸線方向にシフトして配置されるため、これら同士の干渉が生じることなく、弁本体10Bの小径化を図れるとともに、主弁体15Bの軸線方向移動をスムーズに行える。
【0056】
[第4実施形態]
図5は、第4実施形態のパイロット式電磁弁1Cを示す縦断面図であり、閉弁時の状態で示している。第4実施形態において、電磁式アクチュエータ20は第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0057】
本実施形態においては、ストッパ18Cの構成が異なる。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0058】
図6(a)は、ストッパ18Cの縦断面図であり、図6(b)は、ストッパ18Cの下面図である。ストッパ18Cは、金属(例えばステンレス)製の板材をプレス成形することにより形成されており、円筒状の周壁18Caと、周壁18Caの下端に連設された環状壁18Cbとを有する。このため、本実施形態のストッパ18Cは、比較的安価なコストで製造できる。
【0059】
環状壁18Cbの下面(主弁体15が当接する面)には、不図示のプレス成形型により賦形された単一もしくは複数(ここでは4つ)の径方向に延在する断面三角形状の溝18Ccが、周方向に等間隔に形成されている。溝18Ccの断面形状や数は、限定されない。
【0060】
図5を参照して、ストッパ18Cは、周壁18Caの外周が弁本体10の薄肉部12bの内周に嵌合し、環状壁18Cbが段部12cに当接するようにして、弁本体10に取り付けられる。周壁18Caの一部は薄肉部12bの上端から突出して、組み付け時にガイドパイプ32をガイドする機能を有する。ガイドパイプ32の下端及び薄肉部12bが溶接されて溶接部Wが形成され、このときストッパ18Cも同時に固定される。
【0061】
開弁時に上昇した主弁体15の上端が、ストッパ18Cの環状壁18Cbの下面に当接する。ここで、環状壁18Cbの下面が平面であると、主弁体15の上端に対して冷媒を介在させつつ密着したときに、両者の分離が容易に行われず、それにより閉弁動作が阻害されるおそれがある。これに対し本実施形態によれば、主弁体15の上端と環状壁18Cbの下面とが当接したときに、両者間で冷媒の出入を許容する溝18Ccを環状壁18Cbに形成しているため、主弁体15の上端と環状壁18Cbとの分離を容易に行うことができる。なお、環状壁18Cbに溝18Ccを設ける代わりに、主弁体15の上端面に同様な溝を設けてもよい。
【0062】
[第5実施形態]
図7は、第5実施形態のパイロット式電磁弁1Dを示す縦断面図であり、閉弁時の状態で示している。第5実施形態において、電磁式アクチュエータ20は第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0063】
本実施形態においては、主弁体15D及びストッパ18Dの構成が異なる。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0064】
金属(例えばステンレス)製である略円筒状の主弁体15Dは、大径部15Daと、小径部15Dbと、中径部15Dcとを、この順序で同軸に連設してなる。大径部15Daの上部は、ストッパ18Dとの干渉を回避するため、縮径した小寸大径部15Dfとなっている。主弁体15Dの下面には、上述の実施形態と同様に、環状体16がカシメにより取り付けられている。
【0065】
ストッパ18Dは、金属(例えばステンレス)製の板材をプレス成形することにより形成されており、円筒状の周壁18Daと、周壁18Daの上端に連設された環状壁18Dbとを有する。このため、本実施形態のストッパ18Dは、比較的安価なコストで製造できる。周壁18Daの内径は、主弁体15Dが摺動する側壁12の内径と等しいと好ましい。
【0066】
環状壁18Dbの下面(主弁体15Dが当接する面)には、不図示のプレス成形型により賦形された単一もしくは複数(すべてを図示しないが、ここでは4つ)の径方向に延在する断面三角形状の溝18Dcが、周方向に等間隔に形成されている。溝18Dcの断面形状や数は、限定されない。
【0067】
ストッパ18Dは、周壁18Daの外周が弁本体10の薄肉部12bの内周に嵌合し、周壁18Daの下端が段部12cに当接するようにして、弁本体10に取り付けられる。これにより周壁18Daの一部は薄肉部12bの上端から突出して、組み付け時にガイドパイプ32をガイドする機能を有する。ガイドパイプ32の下端及び薄肉部12bが溶接されて溶接部Wが形成され、このときストッパ18Dも同時に固定される。
【0068】
開弁時に上昇した主弁体15の上端が、薄肉部12bの上端から突出したストッパ18Dの環状壁18Dbの下面に当接する。本実施形態によれば、環状壁18Dbを薄肉部12bの上端から上方にシフトして配置しているため、弁本体10の軸線L方向に沿った全長を短くすることができる。
【0069】
[第6実施形態]
図8は、第6実施形態のパイロット式電磁弁1Eを示す縦断面図であり、閉弁時の状態で示している。第6実施形態において、電磁式アクチュエータ20は第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0070】
本実施形態においては、主弁体15E、ストッパ18E,及びコイルバネ17Eの構成が異なる。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0071】
金属(例えばステンレス)製である略円筒状の主弁体15Eは、大径部15Eaと、小径部15Ebと、中径部15Ecとを、この順序で同軸に連設してなる。大径部15Eaの上部は、ストッパ18Eとの干渉を回避するため、縮径した小寸大径部15Efとなっている。小寸大径部15Efの上端には、径方向外方に突出するフランジ部15Egが形成されている。主弁体15Eの下面には、上述の実施形態と同様に、環状体16がカシメにより取り付けられている。
【0072】
ストッパ18Eは、金属(例えばステンレス)製の板材をプレス成形することにより形成されており、円筒状の周壁18Eaと、周壁18Eaの下端に連設された環状壁18Ebとを有する。本実施形態のストッパ18Eは、第4実施形態のストッパ18Cと同様な形状を有し、比較的安価なコストで製造できる。環状壁18Ebの内径は、小寸大径部15Efの外径より大きい。
【0073】
環状壁18Ebの下面には、不図示のプレス成形型により賦形された単一もしくは複数(すべてを図示しないが、ここでは4つ)の径方向に延在する断面三角形状の溝18Ecが、周方向に等間隔に形成されている。溝18Ecの断面形状や数は、限定されない。
【0074】
ストッパ18Eは、周壁18Eaの外周が弁本体10の薄肉部12bの内周に嵌合し、周壁18Eaの下端が段部12cに当接するようにして、弁本体10に取り付けられる。これにより周壁18Eaの一部は薄肉部12bの上端から突出して、組み付け時にガイドパイプ32をガイドする機能を有する。ガイドパイプ32の下端及び薄肉部12bが溶接されて溶接部Wが形成され、このときストッパ18Eも同時に固定される。
【0075】
弁室CA内において、主弁体15Eとストッパ18Eとの間に、コイルバネ17Eが配置されている。コイルバネ17Eは、上端側の径が下端側の径より小さいテーパー形状のコイルバネであると好ましい。コイルバネ17Eの下端は、ストッパ18Eの環状壁18Ebの上面に当接し、コイルバネ17Eの上端は、主弁体15Eのフランジ部15Egの下面に当接し、コイルバネ17Eは軸線L方向に沿って弁本体10に対して主弁体15Eを上方に付勢している。
【0076】
組付けられた状態で、主弁体15Eの小寸大径部15Efより下方の大径部15Eaは、ストッパ18Eの環状壁18Ebよりも下方にあり、フランジ部15Egは、環状壁18Ebよりも上方にある。したがって開弁時に、上昇した主弁体15の大径部15Eaと小寸大径部15Efとの間の段部が、ストッパ18Eの環状壁18Ebの下面に当接する。本実施形態によれば、環状壁18Ebを薄肉部12bの上端から上方にシフトして配置しているため、弁本体10の軸線L方向に沿った全長を短くすることができる。
【0077】
本実施形態によれば、コイルバネ17Eが入口開口12dの内方端より上方に配置されるため、冷媒が流入管ITから弁室CAに流入する際に、コイルバネ17Eと干渉して振動を生じさせることがなく、このため振動に起因する異音などを抑制できる。また、主弁体15Eの中径部15Ecや環状体16が、コイルバネ17Eと軸線方向にシフトして配置されるため、これら同士の干渉が生じることなく、弁本体10の小径化を図れるとともに、主弁体15Eの軸線方向移動をスムーズに行える。
【0078】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。例えば、アクチュエータとして、電磁式アクチュエータ20に替えて、ネジ昇降機構を有するモータ式アクチュエータを用いてもよいし、また、ノーマルオープン式の電磁式アクチュエータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1,1A,1B,1C,1D,1E パイロット式電磁弁
10,10A,10B 弁本体
14 弁座
15,15A,15B,15D,15E 主弁体
16 環状体
17,17B,17E コイルバネ
18,18A,18C,18D,18E ストッパ
20 電磁式アクチュエータ
22 コイルユニット
30 プランジャ
35 パイロット弁体
CA 弁室
CD 背圧室

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8