IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エキソステムテックの特許一覧

特許7479078光切断性タンパク質を含むエクソソーム及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】光切断性タンパク質を含むエクソソーム及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240426BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240426BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240426BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240426BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240426BHJP
   A61K 47/66 20170101ALI20240426BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240426BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240426BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240426BHJP
   C07K 14/435 20060101ALN20240426BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N5/10
C12P21/02 C
C12Q1/02
A61K47/66
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N15/12
C07K14/435
C07K14/705
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022548161
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 KR2021001634
(87)【国際公開番号】W WO2021162375
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】10-2020-0015696
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0015837
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517146460
【氏名又は名称】株式会社エキソステムテック
【氏名又は名称原語表記】EXOSTEMTECH CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ドン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジフン
(72)【発明者】
【氏名】ソル,ジェフン
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-520852(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107446052(CN,A)
【文献】WANG, Siyuan. et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences,2014年,Vol. 111, No. 23,pp. 8452-8457
【文献】KABERNIUK, Andrii A. et al.,Scientific Reports,2018年,Vol. 8,pp. 1-10
【文献】TURKOWYD, Bartosz. et al.,Angewandte Chemie International Edition,2017年,Vol. 56,pp. 11634-11639
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソソーム特異的マーカータンパク質としてCD9、光切断性タンパク質としてmMaple3、及び標的タンパク質を含む融合タンパク質が含有されたエクソソーム。
【請求項2】
前記mMaple3が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のエクソソーム。
【請求項3】
前記mMaple3が、配列番号2の塩基配列を含む遺伝子によってコーディングされる、請求項1に記載のエクソソーム。
【請求項4】
前記標的タンパク質が、細胞内に伝達しようとするタンパク質である、請求項1に記載のエクソソーム。
【請求項5】
前記標的タンパク質が、疾患治療用タンパク質または疾患診断用タンパク質である、請求項に記載のエクソソーム。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載のエクソソームを有効成分として含む、標的タンパク質の細胞内伝達用組成物。
【請求項7】
前記標的タンパク質が、細胞内に伝達しようとするタンパク質である、請求項に記載の標的タンパク質の細胞内伝達用組成物。
【請求項8】
前記標的タンパク質が、疾患治療用タンパク質または疾患診断用タンパク質である、請求項に記載の標的タンパク質の細胞内伝達用組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の融合タンパク質の製造方法であって、
(S1)CD9、mMaple3、及び標的タンパク質のcDNAをそれぞれ増幅させる段階と、
(S2)前記増幅されたCD9、mMaple3、及び標的タンパク質のcDNAを一つのcDNAに結合し、CD9、mMaple3、及び標的タンパク質を含む融合タンパク質をコーディングするcDNAを製造する段階と、
(S3)前記融合タンパク質をコーディングするcDNAをベクターに導入した後、細胞にトランスフェクションして融合タンパク質を発現させる段階と、を含む、融合タンパク質の製造方法。
【請求項10】
前記(S2)段階は、前記(S1)段階で増幅させたCD9及びmMaple3のcDNAを一つのcDNA(CD9-mMaple3)に結合させた後、前記CD9及びmMaple3が結合された一つのcDNA(CD9-mMaple3)及び標的タンパク質のcDNAを一つのcDNA(CD9-mMaple3-標的タンパク質)に結合させることによって行われる、請求項に記載の融合タンパク質の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のエクソソームの製造方法であって、
(S1)CD9、mMaple3、及び標的タンパク質のcDNAをそれぞれ増幅させる段階と、
(S2)前記増幅されたCD9、mMaple3、及び標的タンパク質のcDNAを一つのcDNAに結合し、CD9、mMaple3、及び標的タンパク質を含む融合タンパク質をコーディングするcDNAを製造する段階と、
(S3)前記融合タンパク質をコーディングするcDNAをエクソソーム産生細胞にトランスフェクションし、細胞培養培地からエクソソームを分離及び精製する段階と、を含む、エクソソームの製造方法。
【請求項12】
前記(S2)段階は、前記(S1)段階で増幅させたCD9及びmMaple3のcDNAを一つのcDNA(CD9-mMaple3)に結合させた後、前記CD9及びmMaple3が結合された一つのcDNA(CD9-mMaple3)及び標的タンパク質のcDNAを一つのcDNA(CD9-mMaple3-標的タンパク質)に結合させることによって行われる、請求項11に記載のエクソソームの製造方法。
【請求項13】
前記(S3)段階でのエクソソームの分離は、TFF、超遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、及びエクソソーム単離キットからなる群より選択された一つの方法を用いる、請求項11に記載のエクソソームの製造方法。
【請求項14】
CD9、mMaple3、及び標的タンパク質を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームに光を照射する段階と、
前記光を照射したエクソソームをターゲット細胞に処理する段階と、を含む、試験管内標的タンパク質の細胞内伝達方法。
【請求項15】
前記エクソソームに光を照射する段階を通じてエクソソーム内のmMaple3が切断される、請求項14に記載の試験管内標的タンパク質の細胞内伝達方法。
【請求項16】
前記光が、401nm~480nmの波長を有する、請求項14に記載の試験管内標的タンパク質の細胞内伝達方法。
【請求項17】
(a)CD9、mMaple3、及びタンパク質候補薬物を含む融合タンパク質を含有するエクソソームに光を照射する段階と、
(b)前記光を照射したエクソソームを試験管内ターゲット細胞に処理する段階と、
(c)前記ターゲット細胞内でmMaple3が蛍光を発する場合、タンパク質候補薬物が細胞内に伝達されたと確認する段階と、を含む、細胞内伝達用タンパク質候補薬物の試験管内スクリーニング方法。
【請求項18】
前記(a)段階で光を照射する場合、エクソソーム内のmMaple3が切断される、請求項17に記載の細胞内伝達用タンパク質候補薬物のスクリーニング方法。
【請求項19】
前記光が、401nm~480nmの波長を有する、請求項17に記載の細胞内伝達用タンパク質候補薬物のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、光切断性タンパク質(photocleavable protein)を含むエクソソーム及びその用途に関し、より具体的には、標的タンパク質及び光切断性タンパク質であるmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソーム及びその用途に関する。
【0002】
本出願は、2020年2月10日付け出願の韓国特許出願第10-2020-0015696号及び2021年2月4日付け出願の韓国特許出願第10-2021-0015837号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【0003】
〔背景技術〕
現在の殆どのタンパク質治療法は細胞膜タンパク質をターゲットにする。しかし、多くの疾病の病原因子は主に細胞の内部に存在し、このような病原因子をターゲットにするためには治療学的タンパク質を細胞内に伝達する技術が必要である。
【0004】
そこで、近年、標的タンパク質を細胞内に直接流入させる方法が盛んに研究されている。そのうちの一つである脂質ナノ粒子を用いた治療学的タンパク質伝達技術は、脂質ナノ粒子が治療学的タンパク質から効果的に分離されないという問題があり、ウイルスの細胞内部浸透過程に主な役割をするタンパク質伝達体(PTD:protein transduction domain)を用いた伝達技術は、タンパク質伝達体が血液や腸液のような体液に露出する場合に分解されるという問題がある。
【0005】
したがって、細胞内部に存在する特定疾病の病原因子をターゲットにするためには、治療学的タンパク質を効果的に細胞内部に伝達する技術が必要な実情である。
【0006】
一方、エクソソーム(Exosome)は、脂質二重層から構成された小胞(vesicle)であって、細胞が細胞外に分泌する物質の構成体である。エクソソームは、細胞間コミュニケーション(cell-cell communication)及び細胞性免疫を媒介する機能的な役割を果たすため、細胞内の生体分子であるタンパク質、生理活性脂質及びRNA(miRNA)を輸送(運搬)する役割を果たすと知られている。このようなエクソソームは、アルツハイマーなどの神経疾患のバイオマーカーとしても研究されており、脳脊髄液と血液とを分離する血液脳関門(blood-brain barrier、BBB)を透過するほど選択的透過性が高いため、特定薬物のナノ担体(nanocarrier)のような薬物伝達システムの開発にも活用されている。
【0007】
治療学的タンパク質を伝達する技術に関連して、韓国特許公開第10-2018-0036134号公報には、光特異的結合タンパク質を用いてスーパーリプレッサーIκタンパク質を含むエックソソムの製造方法、及び該製造方法によって製造されたエックソソムを有効成分として含む炎症性疾患の予防及び治療用薬学的組成物が開示されている。また、特表第2019-528674号公報には、カーゴタンパク質を含むエクソソームの大量生成方法、エクソソームを調製するためのベクター、該方法によって調製されたカーゴタンパク質を含むエクソソーム、それによって調製されたエクソソームを使用することによってカーゴタンパク質をサイトゾルにロードする方法が開示されている。
【0008】
しかし、上記の文献は、エクソソーム内の融合タンパク質の構成として光特異的結合タンパク質を開示し、これはCIBN-CRY2システムとして光特異的結合タンパク質を二つ用いるため、細胞に発現時に二つのコンストラクトをコトランスフェクション(co-transfection)させねばならないため効率が低下し、エクソソームの生成中に488nmの光を細胞に照射し続けなければならず細胞に影響を及ぼすおそれがあり、エクソソームに含まれる輸送タンパク質量の損失が生ずる。また、エクソソーム形成後に光を照射しない条件でCIBNとCRY2との結合が維持されれば、輸送タンパク質が自由に移動できず、エクソソーム特異的タンパク質に縛られていることがあり得る。また、輸送タンパク質に融合させるCRY2の大きさが65kDaと大きいため、輸送タンパク質固有の機能に影響を及ぼし得、細胞への発現を確認するためにはEGFPのような蛍光タンパク質を別途に融合して使用しなければならず、光を照射しなかったときのCRY2-CIBN結合の解除如何を確認する方法がないという短所がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、従来公知されたCIBN-CRY2システムを用いたタンパク質伝達技術の短所を解消し、安全且つ効率的にタンパク質を細胞内に伝達可能な方法を開発しようとした。
【0010】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明者らは、光切断性タンパク質であるmMaple3が細胞内に伝達しようとする標的タンパク質に結合された融合タンパク質が含有されたエクソソームに光を照射する場合、前記mMaple3が切断されて安全且つ効率的にエクソソーム内の標的タンパク質をターゲット細胞内に伝達できることを確認し、それに基づいて本発明を完成した。
【0011】
本発明の目的は、標的タンパク質、光切断性タンパク質、及びエクソソーム特異的マーカータンパク質を含む融合タンパク質を含有するエクソソーム及びその用途を提供することである。
【0012】
しかし、本発明が成そうとする技術的課題は、上述した課題に制限されず、その他の課題は下記の説明から本発明が属する技術分野で通常の知識を持つ者に明確に理解できるであろう。
【0013】
〔課題を解決するための手段〕
上記の目的を達成するため、本発明は、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームを提供する。
【0014】
また、本発明は、前記エクソソームを有効成分として含む、標的タンパク質の細胞内伝達用組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームに光を照射する段階と、
前記光を照射したエクソソームをターゲット細胞に処理する段階と、を含む、試験管内(in vitro)標的タンパク質の細胞内伝達方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、(a)タンパク質候補薬物及びmMaple3を含む融合タンパク質を含有するエクソソームに光を照射する段階と、
(b)前記光を照射したエクソソームをターゲット細胞に処理する段階と、
(c)前記ターゲット細胞内でmMaple3が蛍光を発する場合、タンパク質候補薬物が細胞内に伝達されたと確認する段階と、を含む、細胞内伝達用タンパク質候補薬物のスクリーニング方法を提供する。
【0017】
本発明の一具現例において、前記融合タンパク質は、エクソソーム特異的マーカータンパク質をさらに含み得る。
【0018】
また、本発明は、下記の段階を含む、前記融合タンパク質の製造方法を提供する。
【0019】
(S1)標的タンパク質及びmMaple3のcDNAをそれぞれ増幅させる段階;
(S2)前記増幅された標的タンパク質及びmMaple3のcDNAを一つのcDNAに結合し、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質をコーディングするcDNAを製造する段階;
(S3)前記融合タンパク質をコーディングするcDNAをベクターに導入した後、細胞にトランスフェクションして融合タンパク質を発現させる段階。
【0020】
また、本発明は、下記の段階を含む、前記エクソソームの製造方法を提供する。
【0021】
(S1)標的タンパク質及びmMaple3のcDNAをそれぞれ増幅させる段階;
(S2)前記増幅された標的タンパク質及びmMaple3のcDNAを一つのcDNAに結合し、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質をコーディングするcDNAを製造する段階;
(S3)前記融合タンパク質をコーディングするcDNAをエクソソーム産生細胞にトランスフェクションし、細胞培養培地からエクソソームを分離及び精製する段階。
【0022】
本発明の一具現例において、前記(S2)で増幅された標的タンパク質及びmMaple3のcDNAを一つのcDNAに結合する前に、増幅されたmMaple3のcDNA及びエクソソーム特異的マーカータンパク質のcDNAを一つのcDNAに結合する段階を含み得る。
【0023】
本発明の他の具現例において、前記エクソソームの製造方法の(S3)におけるのエクソソームの分離は、TFF(tangential-flow filtration)、超遠心分離(ultracentrifugation)、サイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography)、及びエクソソーム単離キット(exosome isolation kit)からなる群より選択された一つの方法を用い得る。
【0024】
本発明のさらに他の具現例において、前記mMaple3は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得る。
【0025】
本発明のさらに他の具現例において、前記mMaple3は、配列番号2の塩基配列を含む遺伝子によってコーディングされ得る。
【0026】
本発明のさらに他の具現例において、前記標的タンパク質は、細胞内に伝達しようとするタンパク質であり得る。
【0027】
本発明のさらに他の具現例において、前記標的タンパク質は、疾患治療用タンパク質または疾患診断用タンパク質であり得る。
【0028】
本発明のさらに他の具現例において、前記エクソソーム特異的マーカータンパク質は、CD9、CD63、及びCD81からなる群より選択された一つ以上であり得る。
【0029】
本発明のさらに他の具現例において、前記エクソソームに光を照射する段階を通じてエクソソーム内のmMaple3が切断され得る。
【0030】
本発明のさらに他の具現例において、前記光は、401nm~480nmの波長を有し得る。
【0031】
また、本発明は、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームを含む組成物を個体に投与する方法を含む、標的タンパク質の細胞内伝達方法を提供する。
【0032】
また、本発明は、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームを含む組成物の、標的タンパク質を細胞内に伝達するための用途を提供する。
【0033】
また、本発明は、標的タンパク質の細胞内伝達用製剤を生産するための、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームの用途を提供する。
【0034】
〔発明の効果〕
本発明によるエクソソームは、青色蛍光タンパク質(TagBFP)、光切断性タンパク質(mMaple3)、及びエクソソーム特異的マーカータンパク質(CD9)を含む融合タンパク質が含有されており、前記エクソソームに405nmの光を照射する場合、光切断性タンパク質であるmMaple3が切断されてエクソソーム内の青色蛍光タンパク質をターゲット細胞内に伝達することができる。また、Cre融合タンパク質(Cre-mMaple3-CD9)が含有されたエクソソームに405nmの光を照射する場合、エクソソーム内のCreタンパク質を動物の臓器内に伝達することができる。したがって、本発明による光切断性タンパク質を含むエクソソームは、多様な治療学的タンパク質を細胞内で安全且つ効率的に伝達することで、タンパク質治療分野に有用に利用することができると期待される。
【0035】
〔図面の簡単な説明〕
図1]本発明の一具現例による標的タンパク質(青色蛍光タンパク質)と光切断性タンパク質とエクソソーム特異的マーカータンパク質とを結合させた融合タンパク質の構造及びその特徴を図式化した図である。
【0036】
図2]本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の製造過程及び細胞における発現を確認した結果を示した図である。
【0037】
図3a]CIBN-CRY2システムを簡単に図式化した図である。
【0038】
図3b]本発明の一具現例によるmMapleシステムを簡単に図式化した図である。
【0039】
図4a]本発明の一具現例によるHEK293T細胞内において、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の光照射による切断効果を共焦点顕微鏡で確認した結果である。
【0040】
図4b]図4aに示された蛍光の強度を測定して示したグラフである。
【0041】
図4c]本発明の一具現例によるHEK293T細胞内において、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の光照射による切断効果をウェスタンブロットを通じて確認した結果である。
【0042】
図5]本発明の一具現例によるエクソソームの分離及び精製過程を図式化した図である。
【0043】
図6a]本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームの粒子径をNTA(nanoparticle tracking assay、ナノ粒子追跡解析)で測定した結果である。
【0044】
図6b]本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームの粒子径をDLS(dyanmic light scattering、動的光散乱)で測定した結果である。
【0045】
図6c]本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームの濃度をmicroBCA(micro-bicinchoninic acid、マイクロビシンコニン酸アッセイ)で測定した結果である。
【0046】
図6d]本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームのゼータ電位を測定した結果である。
【0047】
図6e]本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームを観察した低温電子顕微鏡(Cryo-TEM)のイメージである。
【0048】
図6f]本発明の一具現例によるエクソソームにおいて、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の光照射による切断効果をウェスタンブロットを通じて確認した結果である。
【0049】
図6g]本発明の一具現例によるエクソソームにおいて、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の光照射による切断効果、及びエクソソーム内の青色蛍光タンパク質含有如何を蛍光強度の測定を通じて確認した結果である。
【0050】
図7]本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームに対する、トリトンX-100、タンパク質分解酵素(プロテイナーゼK)、及び光処理の有無による標的タンパク質の分解如何を確認した結果である。
【0051】
図8a]本発明の一具現例によるエクソソーム内の青色蛍光タンパク質の細胞内伝達効果を確認した結果である。
【0052】
図8b]本発明の一具現例によるエクソソーム内の青色蛍光タンパク質の細胞内伝達効果を確認した結果である。
【0053】
図9]本発明の一具現例による融合タンパク質(Cre-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームを動物に投与する場合、エクソソーム内のCreタンパク質の動物臓器内の伝達効果を確認した結果である。
【0054】
〔発明を実施するための形態〕
本発明は、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームを提供する。
【0055】
また、本発明は、前記エクソソームを有効成分として含む、標的タンパク質の細胞内伝達用組成物を提供する。
【0056】
また、本発明は、下記の段階を含む、前記融合タンパク質の製造方法を提供する。
【0057】
(S1)標的タンパク質及びmMaple3のcDNAをそれぞれ増幅させる段階;
(S2)前記増幅された標的タンパク質及びmMaple3のcDNAを一つのcDNAに結合し、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質をコーディングするcDNAを製造する段階;
(S3)前記融合タンパク質をコーディングするcDNAをベクターに導入した後、細胞にトランスフェクションして融合タンパク質を発現させる段階。
【0058】
また、本発明は、下記の段階を含む、前記エクソソームの製造方法を提供する。
【0059】
(S1)標的タンパク質及びmMaple3のcDNAをそれぞれ増幅させる段階;
(S2)前記増幅された標的タンパク質及びmMaple3のcDNAを一つのcDNAに結合し、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質をコーディングするcDNAを製造する段階;
(S3)前記融合タンパク質をコーディングするcDNAをエクソソーム産生細胞にトランスフェクションし、細胞培養培地からエクソソームを分離及び精製する段階。
【0060】
本発明において、前記(S2)で増幅された標的タンパク質及びmMaple3のcDNAを一つのcDNAに結合する前に、増幅されたmMaple3のcDNA及びエクソソーム特異的マーカータンパク質のcDNAを一つのcDNAに結合する段階を含み得る。
【0061】
本発明において、前記(S3)は、前記融合タンパク質をコーディングするcDNAをエクソソーム産生細胞にトランスフェクションし、細胞培養培地をペニシリン/ストレプトマイシンを含むFBSフリーDMEM培地に交換した後、培地を回収し、回収した培地からエクソソームを分離及び精製する段階であり得る。
【0062】
本発明において、前記(S3)におけるエクソソームの分離は、TFF、超遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、及びエクソソーム単離キットからなる群より選択された一つの方法を用い得るが、これらに制限されない。
【0063】
本発明において、「融合タンパク質」は、二つ以上のタンパク質融合で生成されたタンパク質であって、標的タンパク質及びmMaple3を含み、エクソソーム特異的マーカータンパク質をさらに含み得る。前記融合タンパク質を構成する標的タンパク質、mMaple3、及びエクソソーム特異的マーカータンパク質は、一つに結合された形態であり得、例えば標的タンパク質-mMaple3-エクソソーム特異的マーカータンパク質の順であり得る。標的タンパク質のトラッキングが必要な場合は、エクソソーム特異的マーカータンパク質-mMaple3-標的タンパク質の順であり得るが、これらの結合順序に制限はない。
【0064】
本発明において、「標的タンパク質」は、光切断性タンパク質に結合された形態でエクソソーム内に存在するタンパク質であって、ターゲットにする細胞内または組織内に伝達しようとするタンパク質を意味する。前記標的タンパク質は、疾患治療用タンパク質または疾患診断用タンパク質であり得、その種類には制限がない。例えば、標的タンパク質として癌抑制タンパク質であるp53を癌細胞に伝達して癌治療効果を奏し得る。また、パーキン(parkin)タンパク質に発生する突然変異によって正常に機能できずに発生するパーキンソン病において、正常なパーキンタンパク質をニューロンに伝達することで、パーキンソン病の治療効果を奏し得る。さらに、次世代幹細胞治療法の研究において最も重要な過程である患者の体細胞を幹細胞に脱分化させる過程で必要なタンパク質である山中因子(Yamanaka factors)としてOct4、Sox2、c-Myc、及びKlf4タンパク質を効果的に患者の体細胞で伝達することで、現在幹細胞の脱分化のために使用されているウイルスなしに幹細胞への脱分化が可能である。また、標的タンパク質としてミオゲニン(myogenin)及びMyoDのような筋分化誘導タンパク質の伝達を通じて、進行性筋力低下、萎縮、及び筋繊維の壊死を特徴とする筋ジストロフィー(muscular dystrophy)などの退行性筋肉症に対する治療効果を奏し得る。また、神経退行性脳疾患のうちの一つである痴呆において、脳神経保護効果があると知られたNRF2及びBDNFタンパク質の伝達を通じて痴呆治療効果を奏し得、白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に分化させるPGC1α、PPAR-γのような褐色脂肪誘導因子の伝達を通じて代謝疾患の治療効果を奏し得る。本発明の一具現例では、青色蛍光タンパク質(blue fluorescent protein)であるTagBFPを用いてその細胞内伝達如何を確認し、Creタンパク質を用いてその動物臓器内への伝達如何を確認した。
【0065】
本発明において、「標的タンパク質の細胞内伝達」とは、エクソソーム内の光切断性タンパク質に結合された形態で存在する標的タンパク質をエクソソームからターゲットにする細胞の内部に移送することを意味する。
【0066】
本発明において、「mMaple3」は光切断性タンパク質であり、前記「光切断性タンパク質」とは、特定波長の光(light)に露出したときに切断されるタンパク質を意味する。
【0067】
本発明において、前記mMaple3は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得、配列番号2の塩基配列を含む遺伝子によってコーディングされ得る。
【0068】
本発明において、「エクソソーム特異的マーカータンパク質」は、エクソソームの外膜に位置するタンパク質であって、例えばCD9、CD63、及びCD81からなる群より選択された一つ以上であり得、本発明の一具現例よれば、CD9であり得るが、これに制限されない。
【0069】
本発明において、前記CD9は、配列番号3のアミノ酸配列を含み得、配列番号4の塩基配列を含む遺伝子によってコーディングされ得る。
【0070】
本発明において、「エクソソーム(exosome)」は、細胞間信号伝達のため、タンパク質、DNA、RNAなどを捕集した状態で細胞外に分泌される脂質二重層から構成された膜構造の小胞(membrane vesicle)であって、ほぼ全体の真核生物の体液に存在する。エクソソームの粒子径は、10nm~400nm、10nm~350nm、10nm~300nm、10nm~250nm、10nm~200nm、10nm~150nm、50nm~350nm、50nm~300nm、50nm~250nm、50nm~200nm、50nm~150nm、100nm~300nm、100nm~200nm、または100nm~150nmであり得、多重小胞体が細胞膜と融合するとき、細胞から放出されるか又は細胞膜から直接放出される。
【0071】
前記エクソソームは、当業界に知られたエクソソーム抽出方法を用いて製造し得、抽出方法に制限はない。
【0072】
また、本発明は、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームに光を照射する段階と、
前記光を照射したエクソソームをターゲット細胞に処理する段階と、を含む、試験管内(in vitro)標的タンパク質の細胞内伝達方法を提供する。
【0073】
また、本発明は、(a)タンパク質候補薬物及びmMaple3を含む融合タンパク質を含有するエクソソームに光を照射する段階と、
(b)前記光を照射したエクソソームをターゲット細胞に処理する段階と、
(c)前記ターゲット細胞内でmMaple3が蛍光を発する場合、タンパク質候補薬物が細胞内に伝達されたと確認する段階と、を含む、細胞内伝達用タンパク質候補薬物のスクリーニング方法を提供する。
【0074】
本発明において、前記エクソソームに光を照射する段階を通じてエクソソーム内のmMaple3が切断され、このときの前記光は401nm~480nm、401nm~470nm、401nm~460nm、401nm~450nm、401nm~440nm、401nm~430nm、401nm~420nm、または401nm~410nmの波長を有し得る。400nm以下の光は紫外線(UV)であって、細胞やエクソソームに処理するときダメージを与えるおそれがあり、480nmを超過する波長の光も、細胞に処理するとき影響を与えるおそれがある。本発明において、前記光の波長は401nm~480nmの範囲であれば制限されないが、本発明の一具現例によれば、望ましくは405nmであり得る。
【0075】
本発明において、前記(c)段階でのmMaple3は、切断されていない場合は緑色蛍光を発し得、切断された場合、赤色蛍光を発し得る。
【0076】
また、本発明は、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームを含む組成物を個体に投与する方法を含む、標的タンパク質の細胞内伝達方法を提供する。
【0077】
本発明において、「個体」とは、前記標的タンパク質を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス、イヌ、ネコ、ウマ、及びウシなどの哺乳類を意味する。
【0078】
本発明において、「投与」とは、任意の適切な方法で個体に所定の本発明の組成物を提供することを意味する。
【0079】
また、本発明は、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームを含む組成物の、標的タンパク質を細胞内に伝達するための用途を提供する。
【0080】
また、本発明は、標的タンパク質の細胞内伝達用製剤を生産するための、標的タンパク質及びmMaple3を含む融合タンパク質が含有されたエクソソームの用途を提供する。
【0081】
本発明の一実施例では、青色蛍光タンパク質(TagBFP)、光切断性タンパク質(mMaple3)及びエクソソーム特異的マーカータンパク質(CD9)を結合させた融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を製造し、他の光切断性タンパク質の種類と比べて前記mMaple3を使用したときに得られる長所、及びCIBN-CRY2システムと比べたときにmMapleシステムが有する長所を確認した(実施例1参照)。
【0082】
本発明の他の実施例では、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)をHEK293T細胞に過剰発現させた後、405nmの光を照射したとき、405nmの光によってmMaple3が切断されたことをHEK293T細胞内で確認した(実施例2参照)。
【0083】
本発明のさらに他の実施例では、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を過剰発現させたHEK293T細胞の培地からエクソソームを分離及び精製し、405nmの光を照射したとき、405nmの光によってmMaple3が切断されたことをエクソソーム内で確認した(実施例3参照)。
【0084】
本発明のさらに他の実施例では、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)が含有されたエクソソームに対する、トリトンX-100、タンパク質分解酵素(プロテイナーゼK)、及び405nmの光処理の有無による標的タンパク質分解如何を確認した結果、トリトンX-100を処理して人為的にエクソソームの脂質二重層を透過可能にしない限り、標的タンパク質がタンパク質分解酵素によって分解されることはなく、405nmの光はエクソソームの脂質二重層に影響を与えないことを確認した(実施例4参照)。
【0085】
本発明の一実験例では、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)が含有されたエクソソームに405nmの光を照射し、それをHEK293T細胞に処理したとき、エクソソーム内の青色蛍光タンパク質が細胞内に伝達されることを確認した(実験例1参照)。
【0086】
本発明のさらに他の実験例では、Cre融合タンパク質(Cre-mMaple3-CD9)が含有されたエクソソームに405nmの光を照射し、それをCreタンパク質が伝達されるとき赤色蛍光タンパク質(tdTomato)が発現される遺伝子組換えマウスに投与した場合、エクソソーム内のCreタンパク質がマウスの臓器内に伝達されることを確認した(実験例2参照)。
【0087】
以下、本発明の理解を助けるために望ましい実施例及び実験例を提示する。しかし、下記の実施例及び実験例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものであるだけで、下記の実施例及び実験例によって本発明の内容が限定されることはない。
【0088】
実施例1.融合タンパク質の製造及び光切断性タンパク質の特徴比較
1-1.融合タンパク質の製造
青色蛍光タンパク質(TagBFP)、光切断性タンパク質(mMaple3)及びエクソソーム特異的マーカータンパク質(CD9)を結合させた融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)をコーディングするcDNAを製造し、製造したcDNAから翻訳される融合タンパク質の構造及びその特徴を図1に図式化して示し、前記TagBFP、mMaple3、及びCD9のそれぞれのアミノ酸配列、並びにそれをコーディングする遺伝子配列を下記の表1に示した。
【0089】
【表1】
【0090】
具体的には、まず、TagBFP、mMaple3、CD9をコーディングするcDNAを製造し、それぞれPCRを通じて増幅させ、増幅させたmMaple3及びCD9のcDNAをPCRを通じて一つのcDNA(mMaple3-CD9)に結合した。次いで、mMaple3-CD9のcDNAとTagBFPのcDNAとをPCRを通じて一つのcDNA(TagBFP-mMaple3-CD9)に結合することで、融合タンパク質をコーディングするcDNAを製作した。本発明で使用したプライマーは下記の表2に示した。
【0091】
【表2】
【0092】
その後、哺乳類細胞で前記融合タンパク質が発現されるように、融合タンパク質をコーディングするcDNAをpCMV14ベクターにEcoR1とXba1制限酵素を用いてクローニングした。前記pCMV14-TagBFP-mMaple3-CD9をHEK293T細胞にPEI(ポリエチレンイミン)を用いてトランスフェクションさせたとき、図2に示したように融合タンパク質の発現が確認された。
【0093】
1-2.光切断性タンパク質の種類による特徴の比較
Dendra2、mEos2、tdEos、mKikGR、及びKaedeなどの多様な種類の光切断性タンパク質(PAFP)及びmMaple3の特性を、従来文献(S.Wang、et al、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.111、8452-8457(2014))を参考して比較することで、上記の他の光切断性タンパク質と比べてmMaple3が有する長所を確認した。
【0094】
その結果、下記の表3に示したように、オリゴマー化傾向及び凝集力において、多くの光切断性タンパク質は通常オリゴマーを形成しようとする傾向が強い一方、mMaple3はモノマーを維持しようとする傾向が強く、凝集力が弱いことを確認した。
【0095】
切断のための光の波長を示すSwitchλ結果に関連し、KikGR及びKaedeは切断のために400nm以下の光を必要とするが、400nm以下はUV(紫外線)であって、細胞やエクソソームに処理時にダメージを与えるおそれがある。一方、400nm以上の光を照射する場合は、細胞に発現後に切断させるか又はエクソソームに含ませて切断させるときより安全であり、mMaple3は400nm以上の光で切断されることを確認した。
【0096】
細胞内で発現される光切断性タンパク質の中には、蛍光を測定するまで完全にフォールディングされていない光切断性タンパク質が存在し得、完全にフォールディングされた光切断性タンパク質の中でも一部のみが光によって切断されて蛍光を発するが、mMaple3の場合、細胞当り蛍光で感知されるPAFP(photoactivatable fluorescent protein、光活性化可能な蛍光タンパク質)の数/実際PAFPの発現量を示す細胞当り局所化数(No. of localizations)の値が高く、他の光切断性タンパク質に比べて切断されて蛍光を発する効率が著しく優れることを確認できた。
【0097】
また、殆どの光切断性タンパク質が酸性敏感度を有する一方、mMaple3の場合、報告された酸性敏感度がなかった。
【0098】
【表3】
【0099】
1-3.CIBN-CRY2システムとmMapleシステムとの比較
図3aに示したCIBN-CRY2システムは、二つの光特異的結合タンパク質を用いるため、常に二つのコンストラクトを使用しなければならず、この場合、細胞に発現時に二つのコンストラクトをコトランスフェクション(co-transfection)させねばならないため効率が低下する。例えば、トランスフェクション効率が80%である場合、二つのコンストラクトがすべて一細胞にトランスフェクションされる確率は64%になる。一方、図3bに示したmMapleシステムは、一つのコンストラクトを用いるため、より良い効率で細胞に発現させることが可能である。
【0100】
そして、CIBN-CRY2システムは、エクソソームの生成中に488nmの光を細胞に照射し続けなければならず細胞に影響を及ぼすおそれがあり、光によるCIBNとCRY2との結合効率が100%になることはないため、エクソソームに含まれる輸送タンパク質量の損失が生ずる短所があるが、mMapleシステムは、最初から輸送タンパク質が光切断性タンパク質とエクソソーム特異的マーカーに融合されているため、細胞がエクソソームを形成するときに損失される輸送タンパク質がなく、細胞に直接光を照射しなくても良いため安全である。
【0101】
また、CIBN-CRY2システムは、エクソソーム形成後に光を照射しない条件でCIBNとCRY2との結合が維持され得、このような場合には輸送タンパク質が自由に移動できず、エクソソーム特異的タンパク質に縛られていることがあり得る一方、mMapleシステムでは、エクソソームを形成した後にエクソソームに光照射することで光切断性タンパク質を切断するが、このとき切断効率が非常に高く、切断効率が高ければその分自由に移動可能な輸送タンパク質がエクソソームに多く発生するということを意味する。
【0102】
さらに、CIBN-CRY2システムは、輸送タンパク質に融合させるCRY2の大きさが65kDaと大きいため、輸送タンパク質固有の機能に影響を及ぼし得、細胞への発現を確認するためにはEGFPのような蛍光タンパク質を別途に融合して使用しなければならず、光を照射しなかったときのCRY2-CIBN結合の解除如何を確認する方法がないという短所がある。一方、mMapleシステムは、切断後に輸送タンパク質に付いている光切断性タンパク質破片の大きさがわずか10kDaに過ぎないため、輸送タンパク質固有の機能に影響を及ぼす可能性が非常に低く、光切断性タンパク質自体が蛍光タンパク質であるため、細胞への発現を緑色蛍光で確認可能であり、エクソソームに光を処理した後の光切断性タンパク質の切断如何も赤色蛍光で確認可能である。
【0103】
上記のように、本発明による光切断性タンパク質mMaple3が融合タンパク質に含まれる場合、他の種類の光切断性タンパク質及びCIBN-CRY2システムの光特異的結合タンパク質が含まれる場合に比べ、実施例1-2及び1-3で上述したような長所を示した。そこで、本発明の光切断性タンパク質mMaple3を含む融合タンパク質を用いて細胞内へのタンパク質伝達効果を実験を通じて確認した。
【0104】
実施例2.融合タンパク質の切断確認
HEK293T細胞を播種し、24時間後に実施例1-1の方法でTagBFP-mMaple3-CD9のcDNAをPEIを用いてトランスフェクションさせてHEK293T細胞に過剰発現させた後、405nmの光を照射して光による切断効果を、HEK293T細胞内で共焦点顕微鏡及びウェスタンブロットで確認した。
【0105】
共焦点顕微鏡の観察実験結果は、図4aからトランスフェクション24時間後に共焦点顕微鏡(LSM700)を用いて融合タンパク質の発現如何を青色蛍光(TagBFP)と緑色蛍光(mMaple3)で確認し、405nmの光を1分、5分、及び10分間照射した後、融合タンパク質の切断如何を減少した緑色蛍光(切断前mMaple3)の強度と増加した赤色蛍光(切断後mMaple3)の強度で確認した。前記蛍光の強度を測定して図4bに示した。
【0106】
その結果、図4a及び図4bに示したように、405nmの光を照射する前にはmMaple3自体の緑色蛍光が現れ、405nmの光照射後に赤色蛍光が現れることから、mMaple3タンパク質が切断されたことを確認することができ、405nmの光照射時間が長くなるほど、光切断性タンパク質(mMaple3)が切断されて緑色蛍光が減少し、赤色蛍光が増加することを確認できた。
【0107】
また、ウェスタンブロットを用いてトランスフェクション24時間後に405nmの光を細胞に5分間照射し、T-perバッファーを用いてタンパク質を抽出し、抽出したタンパク質を電気泳動で分離した後、融合タンパク質の発現及び405nmの光による融合タンパク質の切断如何を確認した。その結果、図4cに示したように、405nmの光照射時間が経過するほど、切断されていない融合タンパク質の量が減少する一方、切断された融合タンパク質切片の量は増加することが観察され、HEK293T細胞におけるmMaple3タンパク質の切断効果が確認できた。
【0108】
実施例3.エクソソームの分離及び精製
実施例2で融合タンパク質を過剰発現させたHEK293T細胞の培地から接線流濾過(tangential fluid filtration)システムを通じてエクソソームを分離及び精製した。
【0109】
具体的には、HEK293T細胞を播種し、24時間後にTagBFP-mMaple3-CD9のcDNAをPEIを用いてトランスフェクションさせ、トランスフェクション24時間後に細胞培養培地をFBSフリーDMEM(1%PS(ペニシリン/ストレプトマイシン))培地に交換した。培地交換の24時間後、1次的に培地を回収し、FBSフリーDMEM(1%PS)培地をさらに入れて後、24時間後2次的に培地を回収した。1次、2次で回収した培地からエクソソームをTFF方法で分離及び精製した。エクソソームの分離及び精製過程は、図5に図式化して示した。
【0110】
このような方法でエクソソームを分離及び精製した後、前記融合タンパク質を含有するエクソソームの濃度及び粒子径をNTA、DLS及びmicroBCAで測定した。
【0111】
NTA測定の結果、図6aに示したように、エクソソームの平均粒子径は132nmであった。DLS測定の結果、図6bに示したように、エクソソームの平均粒子径は117.7±10.28nmであった。microBCA測定の結果、図6cに示したように、融合タンパク質含有エクソソームのタンパク質濃度は1487mg/mLであり、エクソソーム1個当りの含有タンパク質量は39.13ngであることが確認された。
【0112】
また、エクソソームのゼータ電位を測定した結果、図6dに示したように、平均-19.3±0.8mVと確認され、エクソソームの低温電子顕微鏡(Cryo-TEM)のイメージ観察データを図6eに示した(スケールバー:100nm)。
【0113】
さらに、前記エクソソームにおける405nm光による融合タンパク質の切断効果をウェスタンブロットで確認した結果、図6fに示したように、405nmの光を照射してから時間が経過につれて、切断されていない融合タンパク質の量は減少する一方、切断された融合タンパク質切片の量は増加することが観察され、エクソソームでのmMaple3タンパク質の切断効果を確認した。
【0114】
405nm光による融合タンパク質の切断効果及びエクソソーム内の青色蛍光タンパク質含有如何をもう一度確認するため、エクソソームから青色蛍光、緑色蛍光、赤色蛍光の強度をBioTek社製のマイクロプレートリーダーで測定した結果、図6gに示したように、青色蛍光の強度は405nm光の照射前と照射後とに差がないことを確認し、緑色蛍光の強度は405nm光の照射後に大幅に減少する一方、赤色蛍光の強度は増加することを観察することで、エクソソームにおける融合タンパク質の切断効果及びエクソソーム内の青色蛍光タンパク質含有如何を確認した。
【0115】
実施例4.エクソソームにおける標的タンパク質の位置確認
実施例3で分離した、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)が含有されたエクソソーム(+mMaple3エクソソーム)で標的タンパク質(TagBFP)の位置を確認するため、プロテアーゼ消化分析(protease digestion assay)を行った。
【0116】
具体的には、エクソソームの脂質二重層を透過可能にするトリトンX-100及びタンパク質分解酵素(プロテイナーゼk)の処理有無による標的タンパク質の分解如何を確認した。
【0117】
その結果、図7に示したように、トリトンX-100を用いて人為的にエクソソームの脂質二重層を透過可能にしない限り、標的タンパク質(TagBFP)をはじめとするエクソソームの内部に存在するタンパク質(ALIX)がタンパク質分解酵素(プロテイナーゼk)によって分解されず、よく保護されていることが分かる。一方、エクソソームの外部にドメインを持っているタンパク質(LAMP2)は、トリトンX-100の処理如何と関係なく、タンパク質分解酵素によって分解されることを確認した。また、405nmの光はこのようなエクソソームの脂質二重層に影響を与えないことを確認した。
【0118】
実験例1.エクソソーム内タンパク質の細胞への伝達確認
実施例3で分離した、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)が含有されたエクソソーム(+mMaple3エクソソーム)、及び対照群として、HEK293T細胞培養液から分離及び精製した特定タンパク質を含有しないエクソソーム(+ネガティブエクソソーム)に対し、405nmの光を照射してHEK293T細胞に処理した。
【0119】
具体的には、HEK293T細胞を播種し、24時間後にTagBFP-mMaple3-CD9融合タンパク質含有エクソソームを5×10粒子/mLの濃度で処理し、エクソソーム処理の24時間後、前記HEK293T細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定させた後、cytation(登録商標)5細胞イメージング機械で青色蛍光タンパク質の伝達如何を確認した。
【0120】
その結果、図8aに示したように、mMaple3を含むエクソソームを処理したとき、細胞内に青色蛍光(TagBFP)が現れることを観察し、エクソソームに光を照射することによって緑色蛍光(FLmMaple3)が減少し赤色蛍光(CLmMaple3)が増加したことを確認した。
【0121】
また、前記エクソソームを同じ方法でHeLa細胞に処理した後、細胞内青色蛍光タンパク質の伝達如何を確認した結果、図8bに示したように、HeLa細胞においても、青色蛍光が現れることを確認し、エクソソームに光を照射したとき、緑色蛍光が減少し赤色蛍光が増加したことを確認した。
【0122】
このことから、TagBFP-mMaple3-CD9が含有されたエクソソームで405nmの光処理によってmMaple3が切断され、青色蛍光タンパク質(TagBFP)が細胞内に伝達されたことを確認することができた。
【0123】
実験例2.エクソソーム内タンパク質の動物臓器への伝達確認
実施例3のような方法で分離した、Cre融合タンパク質(Cre-mMaple3-CD9)が含有されたエクソソームに405nmの光を処理し、Creタンパク質が伝達されるときに赤色蛍光タンパク質(tdTomato)が発現される遺伝子組換えマウスに投与した。
【0124】
具体的には、遺伝子組換えマウスにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)または光を処理したエクソソーム(Cre:MAPLEX)500μgを尻尾血管に投与した後、1、6、24時間後に赤色蛍光の強度をIVIS小型動物イメージング機械で測定した。
【0125】
その結果、図9に示したように、光を処理したエクソソームを投与したマウスの肝で赤色蛍光の強度が増加したことを確認した。このことから、Cre-mMaple3-CD9が含有されたエクソソームで405nmの光処理によってmMaple3が切断され、Creタンパク質が臓器内に効果的に伝達されることを確認することができた。
【0126】
上述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明が属する技術分野で通常の知識を持つ者は本発明の技術的思想又は必須な特徴を変更することなく他の具体的な形態で容易に変形可能であることを理解できるであろう。したがって、上述した実施例はすべての面で例示的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【0127】
〔産業上の利用可能性〕
本発明による光切断性タンパク質を含むエクソソームは、多様な治療学的タンパク質を細胞内に安全且つ効率的に伝達することで、タンパク質治療分野に有用に利用できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0128】
図1】本発明の一具現例による標的タンパク質(青色蛍光タンパク質)と光切断性タンパク質とエクソソーム特異的マーカータンパク質とを結合させた融合タンパク質の構造及びその特徴を図式化した図である。
図2】本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の製造過程及び細胞における発現を確認した結果を示した図である。
図3a】CIBN-CRY2システムを簡単に図式化した図である。
図3b】本発明の一具現例によるmMapleシステムを簡単に図式化した図である。
図4a】本発明の一具現例によるHEK293T細胞内において、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の光照射による切断効果を共焦点顕微鏡で確認した結果である。
図4b図4aに示された蛍光の強度を測定して示したグラフである。
図4c】本発明の一具現例によるHEK293T細胞内において、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の光照射による切断効果をウェスタンブロットを通じて確認した結果である。
図5】本発明の一具現例によるエクソソームの分離及び精製過程を図式化した図である。
図6a】本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームの粒子径をNTA(nanoparticle tracking assay、ナノ粒子追跡解析)で測定した結果である。
図6b】本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームの粒子径をDLS(dyanmic light scattering、動的光散乱)で測定した結果である。
図6c】本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームの濃度をmicroBCA(micro-bicinchoninic acid、マイクロビシンコニン酸アッセイ)で測定した結果である。
図6d】本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームのゼータ電位を測定した結果である。
図6e】本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームを観察した低温電子顕微鏡(Cryo-TEM)のイメージである。
図6f】本発明の一具現例によるエクソソームにおいて、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の光照射による切断効果をウェスタンブロットを通じて確認した結果である。
図6g】本発明の一具現例によるエクソソームにおいて、融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)の光照射による切断効果、及びエクソソーム内の青色蛍光タンパク質含有如何を蛍光強度の測定を通じて確認した結果である。
図7】本発明の一具現例による融合タンパク質(TagBFP-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームに対する、トリトンX-100、タンパク質分解酵素(プロテイナーゼK)、及び光処理の有無による標的タンパク質の分解如何を確認した結果である。
図8a】本発明の一具現例によるエクソソーム内の青色蛍光タンパク質の細胞内伝達効果を確認した結果である。
図8b】本発明の一具現例によるエクソソーム内の青色蛍光タンパク質の細胞内伝達効果を確認した結果である。
図9】本発明の一具現例による融合タンパク質(Cre-mMaple3-CD9)を含有したエクソソームを動物に投与する場合、エクソソーム内のCreタンパク質の動物臓器内の伝達効果を確認した結果である。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図5
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図6f
図6g
図7
図8a
図8b
図9
【配列表】
0007479078000001.app