(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】混合粉粒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/26 20060101AFI20240426BHJP
C01G 49/08 20060101ALI20240426BHJP
H01M 8/02 20160101ALN20240426BHJP
【FI】
C04B35/26
C01G49/08 Z
H01M8/02
(21)【出願番号】P 2023020183
(22)【出願日】2023-02-13
【審査請求日】2024-02-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】712006374
【氏名又は名称】CONNEXX SYSTEMS株式会社
(72)【発明者】
【氏名】的場 智彦
(72)【発明者】
【氏名】塚本 壽
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第115504515(CN,A)
【文献】特開平06-339630(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102674477(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-0784167(KR,B1)
【文献】実開平7-009949(JP,U)
【文献】特開昭57-070442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/26
H01M 8/02
C01G 49/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四酸化三鉄の粉末とアルミナのゾルとを室温で1~10分間混合して混合物を作製する第1工程と、
前記混合物を4.0~6.0℃/分の速度で室温から250~550℃の焼成温度まで加熱する第2工程と、
加熱後の前記混合物を前記焼成温度で100~140分間焼成して焼成物を作製する第3工程と、
前記焼成物を4.0~6.0℃/分の速度で前記焼成温度から室温まで冷却する第4工程と、
冷却後の前記焼成物を室温で2~20分間粉砕して粉末状の粉砕物を作製する第5工程と、
前記粉砕物をプレスしてペレットに成形する第6工程と、を含み、
前記アルミナは、前記四酸化三鉄に含まれる鉄原子の数を変えずに前記四酸化三鉄を三酸化二鉄に換算した量に対して5.8~9.0重量%の量である混合粉粒体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成温度は、250~350℃であり、
前記アルミナは、7.0~9.0重量%の量である請求項1に記載の混合粉粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物を含む混合物から混合粉粒体を製造する方法に関し、特に、酸化鉄とアルミナゾルとの混合物から酸化還元反応速度が高い混合粉粒体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の二次電池として、鉄の酸化還元反応を利用したものが開示されている。例えば、特許文献1には、外部から充電電力を供給すると鉄の還元反応が発生して外部に酸素を排出し、充電電力を停止して外部から酸素を供給すると鉄の酸化反応が発生して外部に電力を供給する二次電池が開示されている。その二次電池用の鉄は、酸化還元反応が高い必要があるので、溶媒のエタノールに硝酸アルミニウムと酸化鉄を加え、撹拌しながら溶媒を加熱蒸発させた後、400~800℃で2時間程度焼成する方法で製造された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、環境負荷が高い物質である窒素酸化物が製造中に多量に発生する上に、溶媒のエタノールを蒸発させるのに3時間程度かかり、焼成後にボールミルで粉砕するのに24時間かかるという状況から製造リードタイムが長いので、量産時の在庫量が増えるという問題があった。
【0005】
本発明は、従来のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、環境負荷が高い物質を発生させずに量産時の在庫量を減らすことが可能な混合粉粒体の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記目的に加え、従来と同等またはそれ以上に酸化還元反応速度を高くすることが可能な混合粉粒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、まず、硝酸アルミニウムおよび溶媒のエタノールの代わりにアルミナゾルを使用した新たな製造工程を開発することによって、環境負荷が高い物質を発生させずに溶媒蒸発時間および焼成後の粉砕時間を短縮できることを見出した。
【0007】
また、本発明者は、焼成温度およびアルミナ重量比率をそれぞれ上下させ、その中から好ましい値を選定することによって、従来と同等またはそれ以上に酸化還元反応速度を高くできることを見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
即ち、本発明は、四酸化三鉄の粉末とアルミナのゾルとを室温で1~10分間混合して混合物を作製する第1工程と、混合物を4.0~6.0℃/分の速度で室温から250~550℃の焼成温度まで加熱する第2工程と、加熱後の混合物を焼成温度で100~140分間焼成して焼成物を作製する第3工程と、焼成物を4.0~6.0℃/分の速度で焼成温度から室温まで冷却する第4工程と、冷却後の焼成物を室温で2~20分間粉砕して粉末状の粉砕物を作製する第5工程と、粉砕物をプレスしてペレットに成形する第6工程と、を含み、アルミナは、四酸化三鉄に含まれる鉄原子の数を変えずに四酸化三鉄を三酸化二鉄に換算した量に対して5.8~9.0重量%の量である混合粉粒体の製造方法を提供するものである。
【0009】
ここで、上記においては、焼成温度は、250~350℃であり、アルミナは、7.0~9.0重量%の量であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環境負荷が高い物質を発生させずに量産時の在庫量を減らすことができる。
さらに、本発明によれば、上記効果に加え、従来と同等またはそれ以上に酸化還元反応速度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の混合粉粒体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】700℃昇温時のペレット破片の重量変化を示すグラフである。
【
図3】還元時のペレット破片の重量変化を示すグラフである。
【
図4】酸化時のペレット破片の重量変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を添付の図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。まず、本発明の混合粉粒体の製造方法について詳細に説明する。
図1は、本発明の混合粉粒体の製造方法を示すフローチャートである。
【0013】
本発明の混合粉粒体の製造方法は、四酸化三鉄(分子式:Fe3O4、分子量:231.53、いわゆる黒さびのこと)の粉末とアルミナ(分子式:Al2O3、分子量:101.96)のゾルとを室温で混合して混合物を作製し、混合物を250~550℃の焼成温度で焼成して焼成物を作製し、焼成物を室温で粉砕して粉末状の粉砕物を作製し、粉砕物をプレスしてペレットに成形する方法であって、アルミナは、四酸化三鉄に含まれる鉄原子の数を変えずに四酸化三鉄を三酸化二鉄(分子式:Fe2O3、分子量:159.69、いわゆる赤さびのこと)に換算した量に対して5.8~9.0重量%の量である。アルミナの重量比率が5.8重量%未満の場合には、酸化反応速度が低くなり、9.0重量%超の場合には、昇温後重量比率がかなり低くなるので、品質面で不安が生じる。ここで、室温とは、20~30℃を意味し、代表値としては25℃を意味する。
【0014】
具体的には、本発明の混合粉粒体の製造方法は、第1~第6工程を含んでも良い。その場合には、第1工程では、四酸化三鉄の粉末とアルミナのゾルとを室温で1~10分間混合して混合物を作製する。第2工程では、混合物を4.0~6.0℃/分の速度で室温から250~550℃の焼成温度まで加熱する。第3工程では、加熱後の混合物を焼成温度で100~140分間焼成して焼成物を作製する。第4工程では、焼成物を4.0~6.0℃/分の速度で焼成温度から室温まで冷却する。第5工程では、冷却後の焼成物を室温で2~20分間粉砕して粉末状の粉砕物を作製する。第6工程では、粉砕物をプレスしてペレットに成形する。
【0015】
次に、第1工程について詳細に説明する。
第1工程は、ステップS10に示すように、四酸化三鉄の粉末とアルミナのゾルとを乳鉢に入れ、乳棒を使用して室温で1~10分間混合して混合物を作製する。混合時間が1分未満の場合には、混じり方が不均一になる心配があり、10分超の場合には、製造リードタイムが不必要に長くなる。なお、乳鉢および乳棒の代わりに、容器および混合装置を使用して混合しても良い。
【0016】
次に、第2工程について詳細に説明する。
第2工程は、ステップS12に示すように、混合物を電気炉に入れて、4.0~6.0℃/分の速度で室温から250~550℃の焼成温度まで加熱する。温度上昇速度が4.0℃/分未満の場合には、製造リードタイムが不必要に長くなり、6.0℃/分超の場合には、容器として使用するアルミナボート、るつぼなどに急激な温度変化に伴うひびや割れが生じる心配があり、アルミナゾルの分散媒である水が突沸して混合物が飛散する心配がある。また、焼成温度が250℃未満の場合には、昇温後重量比率がかなり低くなるので、品質面で不安が生じ、550℃超の場合には、加熱時間および冷却時間が延びるので、製造リードタイムが不必要に長くなる。
【0017】
次に、第3工程について詳細に説明する。
第3工程は、ステップS14に示すように、加熱後の混合物を焼成温度で100~140分間焼成して焼成物を作製する。焼成時間が100分未満の場合には、乾燥が不十分になって後工程に悪影響が出る心配があり、140分超の場合には、製造リードタイムが不必要に長くなる。
【0018】
次に、第4工程について詳細に説明する。
第4工程は、ステップS16に示すように、焼成物を電気炉に入れたまま、4.0~6.0℃/分の速度で焼成温度から室温まで冷却する。温度低下速度が4.0℃/分未満の場合には、製造リードタイムが不必要に長くなり、6.0℃/分超の場合には、容器として使用するアルミナボート、るつぼなどに急激な温度変化に伴うひびや割れが生じる心配がある。
【0019】
次に、第5工程について詳細に説明する。
第5工程は、ステップS18に示すように、冷却後の焼成物を乳鉢に入れ、乳棒を使用して室温で2~20分間粉砕して粉末状の粉砕物を作製する。粉砕時間が2分未満の場合には、粉末状にならない心配があり、20分超の場合には、製造リードタイムが不必要に長くなる。なお、乳鉢および乳棒の代わりに、容器および粉砕装置を使用して粉砕しても良い。
【0020】
次に、第6工程について詳細に説明する。
第6工程は、ステップS20に示すように、所定の量の粉砕物をプレス機を使用してプレスしてペレットに成形する。ペレットの形状は、特に制限的ではなく、多面体でも角柱でも円柱でも球でも良いが、プレス機の都合で円柱であるのが好ましい。ペレットの寸法は、特に制限的ではなく、プレス機の仕様によって任意に設定できる。
【0021】
このような構成とすることで、本発明の混合粉粒体の製造方法は、環境負荷が高い物質を発生させずに量産時の在庫量を減らすこと、および従来と同等またはそれ以上に酸化還元反応速度を高くすることができる。
【0022】
次に、焼成温度およびアルミナ重量比率の数値範囲について説明する。
焼成温度は、250~350℃であり、アルミナは、7.0~9.0重量%の量であるのが好ましい。焼成温度が250℃未満および350℃超の場合には、酸化反応速度が低くなる。また、アルミナの重量比率が7.0重量%未満および9.0重量%超の場合にも、酸化反応速度が低くなる。
【0023】
このような構成とすることで、本発明の混合粉粒体の製造方法は、従来と同等以上に酸化還元反応速度を高くすることができる。
本発明の混合粉粒体の製造方法は、基本的に以上のように構成される。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明についてより詳細に説明する。まず、混合物Aおよび実施例1~3の混合粉粒体の製造手順を説明する。表1に混合物A~Dの各アルミナ重量比率Ra[wt%]を示す。
(工程1)事前準備として、四酸化三鉄の粉末(石原産業製MT-Z)6.0399gをるつぼに入れ、40分間で200℃まで加熱し、200℃で120分間保持し、40分間で室温まで冷却した後、四酸化三鉄の粉末の重量を測定した。その重量が5.8567gになったので、5.8567gを6.0399gで除算して、水分除去後の四酸化三鉄の粉末の重量比率を算出したところ、96.967%になった。
【0025】
(工程2)四酸化三鉄の粉末(石原産業製MT-Z)4.54g(Mf)とアルミナのゾル(日産化学製AS-200)2.76g(Ma)とを乳鉢に入れ、乳棒を使用して室温で約5分間混合して混合物Aを作製した。次に、四酸化三鉄の粉末に含まれる鉄原子の数を変えずに四酸化三鉄を三酸化二鉄に換算すると共に、水分除去後の三酸化二鉄の粉末の重量Wfを算出したところ、4.55gになった。次に、水分および安定化剤を除去後のアルミナの重量Waを算出したところ、0.290gになった。次に、水分および安定化剤を除去後のアルミナの重量比率Raを算出したところ、6.36wt%になった。
[数1] Wf=Mf/(231.53/3)×(159.69/2)×96.967%
[数2] Wa=Ma×10.5%
[数3] Ra=Wa/Wf
【0026】
【0027】
(工程3)実施例1用の混合物Aを55分間で室温から焼成温度300℃まで加熱し、実施例2用の混合物Aを75分間で室温から焼成温度400℃まで加熱し、実施例3用の混合物Aを95分間で室温から焼成温度500℃まで加熱した。
【0028】
(工程4)実施例1用の混合物Aを焼成温度300℃で120分間焼成して実施例1用の焼成物Aを作製し、実施例2用の混合物Aを焼成温度400℃で120分間焼成して実施例2用の焼成物Aを作製し、実施例3用の混合物Aを焼成温度500℃で120分間焼成して実施例3用の焼成物Aを作製した。
【0029】
(工程5)実施例1用の焼成物Aを60分間で焼成温度300℃から室温まで冷却し、実施例2用の焼成物Aを80分間で焼成温度400℃から室温まで冷却し、実施例3用の焼成物Aを100分間で焼成温度500℃から室温まで冷却した。
【0030】
(工程6)実施例1~3用の各焼成物Aを乳鉢に入れ、乳棒を使用して室温で約10分間粉砕して粉末状の粉砕物Aを作製した。
【0031】
(工程7)実施例1~3用の各粉砕物Aを1g計量し、プレス機(理研精機製P-1B)を使用して10MPaの圧力で1分間加圧した後、50MPaの圧力で1分間加圧してペレットに成形することによって、実施例1~3の混合粉粒体を作製した。
【0032】
(工程8)次に、混合物Bおよび実施例4~6、比較例1の混合粉粒体の製造手順を説明する。
工程2の四酸化三鉄の粉末の量Mfを4.89gに変更し、アルミナのゾルの量Maを3.61gに変更し、それ以外は工程2と同様にして混合物Bを作製した。また、工程2と同様に算出した三酸化二鉄の粉末の重量Wfは、4.91gになり、アルミナの重量Waは、0.379gになり、アルミナの重量比率Raは、7.73wt%になった。
【0033】
次に、工程3~7の混合物A、焼成物Aおよび粉砕物Aの代わりに混合物B、焼成物Bおよび粉砕物Bを使用し、実施例1の混合粉粒体と同じ焼成温度300℃で実施例4の混合粉粒体を作製し、実施例2の混合粉粒体と同じ焼成温度400℃で実施例5の混合粉粒体を作製し、実施例3の混合粉粒体と同じ焼成温度500℃で実施例6の混合粉粒体を作製した。
【0034】
次に、比較例1用の混合物Bを40分間で室温から焼成温度200℃まで加熱し、焼成温度200℃で120分間焼成して比較例1用の焼成物Bを作製し、比較例1用の焼成物Bを40分間で焼成温度200℃から室温まで冷却し、乳鉢に入れ、乳棒を使用して室温で約10分間粉砕して粉末状の粉砕物Bを作製し、比較例1用の粉砕物Bを1g計量し、プレス機を使用して10MPaで1分間加圧した後、50MPaの圧力で1分間加圧してペレットに成形することによって、比較例1の混合粉粒体を作製した。
【0035】
(工程9)次に、混合物Cおよび比較例2の混合粉粒体の製造手順を説明する。
工程2の四酸化三鉄の粉末の量Mfを4.76gに変更し、アルミナのゾルの量Maを2.33gに変更し、それ以外は工程2と同様にして混合物Cを作製した。また、工程2と同様に算出した三酸化二鉄の粉末の重量Wfは、4.78gになり、アルミナの重量Waは、0.245gになり、アルミナの重量比率Raは、5.12wt%になった。
【0036】
次に、混合物Cを75分間で室温から焼成温度400℃まで加熱し、焼成温度400℃で120分間焼成して焼成物Cを作製し、焼成物Cを80分間で焼成温度400℃から室温まで冷却し、乳鉢に入れ、乳棒を使用して室温で約10分間粉砕して粉末状の粉砕物Cを作製し、粉砕物Cを1g計量し、プレス機を使用して10MPaで1分間加圧した後、50MPaの圧力で1分間加圧してペレットに成形することによって、比較例2の混合粉粒体を作製した。
【0037】
(工程10)次に、混合物Dおよび比較例3の混合粉粒体の製造手順を説明する。
工程2の四酸化三鉄の粉末の量Mfを4.80gに変更し、アルミナのゾルの量Maを4.67gに変更し、それ以外は工程2と同様にして混合物Dを作製した。また、工程2と同様に算出した三酸化二鉄の粉末の重量Wfは、4.82gになり、アルミナの重量Waは、0.490gになり、アルミナの重量比率Raは、10.18wt%になった。
【0038】
次に、混合物Dを75分間で室温から焼成温度400℃まで加熱し、焼成温度400℃で120分間焼成して焼成物Dを作製し、焼成物Dを80分間で焼成温度400℃から室温まで冷却し、乳鉢に入れ、乳棒を使用して室温で約10分間粉砕して粉末状の粉砕物Dを作製し、粉砕物Dを1g計量し、プレス機を使用して10MPaで1分間加圧した後、50MPaの圧力で1分間加圧してペレットに成形することによって、比較例3の混合粉粒体を作製した。
【0039】
<昇温後重量比率の評価>
次に、実施例1~6、比較例1~3の混合粉粒体の昇温後重量比率の評価手順を説明する。
図2は、700℃昇温時のペレット破片の重量変化を示すグラフである。また、表2(a)、(b)に700℃昇温時のペレット破片の重量変化[%]を示す。なお、昇温後重量比率の目標範囲は、700℃昇温時のペレット破片の重量比率が97.0%以上であることとした。
【0040】
まず、実施例1~6、比較例1~3の各ペレットをハンマーで砕き、15~25mg程度のペレットの破片を選び出してその重量Wsを測定し、その破片を示差熱天秤(NETZSCH製STA 2500 Regulus)に入れて、100ml/分の流量の圧縮空気を流しながら10℃/分の速度で室温から700℃まで加熱し、温度が700℃に到達した時のその破片の重量を測定し、その破片の重量を重量Wsで除算して重量比率R1を算出した。
図2は、横軸の温度が表2(a)、(b)のT0(℃)からT1(℃)まで上昇する間に、縦軸の重量比率が表2(a)、(b)のR0(%)からR1(%)まで減少することを示す。
【0041】
その結果、実施例1~6のペレットの破片の重量比率R1は、98.2%、99.1%、98.5%、97.5%、98.2%、98.2%になったので、すべて目標範囲内になった。また、比較例2のペレットの破片の重量比率R1は、100.0%になったので、目標範囲内になったが、比較例1、3のペレットの破片の重量比率R1は、95.5%、96.7%になったので、目標範囲から外れた。
【0042】
【0043】
<還元反応速度の評価>
次に、実施例1~6、比較例1~3の混合粉粒体の還元反応速度の評価手順を説明する。
図3は、還元時のペレット破片の重量変化を示すグラフである。また、表3(a)、(b)に8サイクル目の還元時の電流換算値[mA/g]を示す。なお、還元反応速度の目標範囲は、従来の方法で製造されたものの評価結果が約660mA/gであることを考慮して、8サイクル目の還元時の電流換算値が600mA/g以上であることとした。
【0044】
昇温後重量比率の評価において、示差熱天秤に入れた実施例1~6、比較例1~3の各ペレットの破片の温度が700℃に到達した状態で60分間保持し、次に、100ml/分の流量のアルゴンガスを流しながら700℃で5分間保持した。次に、以下のa~dの手順を7回繰り返した。
(手順a)各ペレットの破片を還元させるために、100ml/分の流量の水素ガス(7体積%)とアルゴンガス(93体積%)との混合ガスを流しながら700℃で60分間保持した。
(手順b)100ml/分の流量のアルゴンガスを流しながら700℃で5分間保持した。
(手順c)各ペレットの破片を酸化させるために、100ml/分の流量の圧縮空気を流しながら700℃で60分間保持した。
(手順d)100ml/分の流量のアルゴンガスを流しながら700℃で5分間保持した。
【0045】
次に、各ペレットの破片の重量を測定し、その重量を重量Wsで除算して重量比率Rr0を算出し、8回目の還元を行うために上記(手順a)を実行し、700℃で60分間保持した後の各ペレットの破片の重量を測定し、その重量を重量Wsで除算して重量比率Rr1を測定した。
図3は、横軸の反応時間が表3(a)、(b)のTr(分)の間に、縦軸の重量比率が表3(a)、(b)のRr0(%)からRr1(%)まで減少することを示す。次に、以下の数式4~9に重量比率Rr0、Rr1を代入して三酸化二鉄1g当たりの電流換算値Irを算出した。
【0046】
[数4] Wr=(Rr0-Rr1)×Ws
[数5] Mr=Wr/32
[数6] Er=Mr×4×96485
[数7] Cr=Er/(Tr×60)
[数8] Wf=Ws×100/(Ra+100)
[数9] Ir=Cr/Wf×1000
【0047】
【0048】
その結果、実施例1~6のペレットの破片の三酸化二鉄1g当たりの電流換算値Irは、680mA/g、687mA/g、689mA/g、789mA/g、626mA/g、737mA/gになったので、すべて目標範囲内になった。また、比較例1~3のペレットの破片の三酸化二鉄1g当たりの電流換算値Irは、635mA/g、817mA/g、840mA/gになったので、すべて目標範囲内になった。
【0049】
<酸化反応速度の評価>
次に、実施例1~6、比較例1~3の混合粉粒体の酸化反応速度の評価手順を説明する。
図4は、酸化時のペレット破片の重量変化を示すグラフである。また、表4(a)、(b)に8サイクル目の酸化時の電流換算値[mA/g]を示す。なお、酸化反応速度の目標範囲は、従来の方法で製造されたものの評価結果が約3500mA/gであることを考慮して、8サイクル目の酸化時の電流換算値が3200mA/g以上であることとした。
【0050】
還元反応速度の評価において、示差熱天秤に入れた実施例1~6、比較例1~3の各ペレットの破片の8回目の還元を行った後に上記(手順b)を実行し、次に、各ペレットの破片の重量を測定し、その重量を重量Wsで除算して重量比率Ro0を算出し、8回目の酸化を行うために上記(手順c)を実行し、700℃で60分間保持した後の各ペレットの破片の重量を測定し、その重量を重量Wsで除算して重量比率Ro1を測定した。
図4は、横軸の反応時間が表4(a)、(b)のTo(分)の間に、縦軸の重量比率が表4(a)、(b)のRo0(%)からRo1(%)まで増加することを示す。次に、以下の数式10~15に重量比率Ro0、Ro1を代入して三酸化二鉄1g当たりの電流換算値Ioを算出した。
【0051】
[数10] Wo=(Ro1-Ro0)×Ws
[数11] Mo=Wo/32
[数12] Eo=Mo×4×96485
[数13] Co=Eo/(To×60)
[数14] Wf=Ws×100/(Ra+100)
[数15] Io=Co/Wf×1000
【0052】
【0053】
その結果、実施例1~6のペレットの破片の三酸化二鉄1g当たりの電流換算値Ioは、3,751mA/g、3,600mA/g、3,651mA/g、5,071mA/g、4,228mA/g、4,769mA/gになったので、すべて目標範囲内になった。それらの中で、実施例4のペレットの破片が突出して優れた結果になった。また、比較例1、3のペレットの破片の三酸化二鉄1g当たりの電流換算値Ioは、3,780mA/g、3,989mA/gになったので、目標範囲内になったが、比較例2のペレットの破片の三酸化二鉄1g当たりの電流換算値Ioは、1,542mA/gになったので、目標範囲から外れた。
【0054】
これらの結果から、実施例1~6の混合粉粒体の製造方法は、従来と同等またはそれ以上に酸化還元反応速度を高くすることができるのは明らかである。また、実施例4の混合粉粒体の製造方法は、従来と同等以上に酸化還元反応速度を高くすることができるのは明らかである。
【0055】
以上、本発明の混合粉粒体の製造方法について実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は上記記載に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしても良いのはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の混合粉粒体の製造方法は、環境負荷が高い物質を発生させずに量産時の在庫量を減らすことができるという効果に加え、従来と同等またはそれ以上に酸化還元反応速度を高くすることができるという効果もあるので、産業上有用である。
【要約】
【課題】環境負荷が高い物質を発生させずに量産時の在庫量を減らすことが可能な混合粉粒体の製造方法を提供する。
【解決手段】混合粉粒体の製造方法は、第1~第6工程を含む。第1工程では、四酸化三鉄の粉末とアルミナのゾルとを室温で1~10分間混合して混合物を作製する。第2工程では、混合物を4.0~6.0℃/分の速度で室温から250~550℃の焼成温度まで加熱する。第3工程では、加熱後の混合物を焼成温度で100~140分間焼成して焼成物を作製する。第4工程では、焼成物を4.0~6.0℃/分の速度で焼成温度から室温まで冷却する。第5工程では、冷却後の焼成物を室温で2~20分間粉砕して粉末状の粉砕物を作製する。第6工程では、粉砕物をプレスしてペレットに成形する。アルミナは、四酸化三鉄に含まれる鉄原子の数を変えずに四酸化三鉄を三酸化二鉄に換算した量に対して5.8~9.0重量%の量である。
【選択図】
図1