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  • 特許-椅子座面用載置式着座補助具 図1
  • 特許-椅子座面用載置式着座補助具 図2
  • 特許-椅子座面用載置式着座補助具 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】椅子座面用載置式着座補助具
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/00 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
A47C7/00 C
A47C7/00 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018031406
(22)【出願日】2018-02-25
(65)【公開番号】P2019141539
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-02-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】512036487
【氏名又は名称】村上 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】村上 潤
【合議体】
【審判長】藤井 昇
【審判官】沼生 泰伸
【審判官】久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-216041(JP,A)
【文献】米国特許第05297848(US,A)
【文献】特開2015-126870(JP,A)
【文献】特表2007-503281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C7/00-7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面部クッション(2)と、該背面部クッション(2)の前方下端部(4)と後端部(7)を屈曲可能に連接せしめた底面部クッション(3)と、を備えた椅子座面用載置式着座補助具(1)であって、
該背面部クッション(2)は上端部(5)から下端部に向かって肉厚となることで前方下端部(4)が最も肉厚となっており、上端部(5)から下端部に向かって肉厚となることで該上端部(5)から前方下端部(4)にかけて形成される当接支持用斜面(6)を備え、
底面部クッション(3)はその後端部(7)から中央部(8)に向かって肉厚となることで形成される大腿部支持斜面(9)と、該中央部(8)から前端部(10)に向って前下りの膝下斜面(11)とを備え、
前記当接支持用斜面(6)の勾配は45°~80°であって、
さらに当接支持用斜面(6)に対して前記大腿部支持斜面(9)は側面視85°~110°の角度で連接していること、
を特徴とする、椅子座面用載置式着座補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子もしくは車椅子の座面上に載せ置いて用いる、快適安楽な着座姿勢を提供して長期に保持しうるための着座補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な椅子において、正しい着座姿勢とされる姿勢は、立位時の姿勢の胴体をそのままに保持しながら腰かける、背中をぴんと伸ばした姿勢であるという発想が従来からなされてきた。たしかに、立位時にはゆるやかにS字を描く背骨のラインの鉛直線上に頭部があり、体の重心が地面との接触面の鉛直線上に位置することから、正しいとされる背筋の伸びた姿勢は、重心の観点からは無理のない姿勢であるといえる。
【0003】
この立位の姿勢の前提として、人の体幹と下肢について説明すると、人の体幹と下肢とは骨盤を介して連結されている。すなわち、骨盤の上方は仙骨底により第5腰椎と、下方は寛骨臼により大腿骨頭と関節で連結されている。そして、骨盤をつくっている骨は仙骨、尾骨および左右の寛骨である。寛骨はさらに腸骨、恥骨、坐骨の3部から成っている。
【0004】
そして、人が真っ直ぐに直立した姿勢(側面から見て脊柱がダブルS字状を描いた姿勢)のときには、骨盤は坐骨が一番下側に位置する状態で垂直に安定した形になる。そして、耳の穴、肩(肩峰)、大転子(股関節の付け根の骨)、膝のやや前方、外果(外くるぶし)が一直線になった状態が、背筋の伸びた美しい姿勢(側面から見て脊柱がダブルS字状を描いた姿勢)とされているのである。
【0005】
そして、立位と同様な発想に基づけば、着座時の姿勢も、体の重心から垂線を下ろした際、大腿部の裏面から座骨周辺が椅子の座面と接触する面や足底のあたりに垂線が位置するような姿勢を志向することとなる。事実、こうした背筋を伸ばしたような座り方を想定した椅子が多数存在している。座面や背もたれの位置、角度を工夫することで着座時にも直立姿勢のような背筋の伸びた状態を維持する椅子が製作されてきた。
【0006】
しかしながら、この姿勢のまま着座すれば、坐骨に大きな荷重がかかり、座面に接する臀部の一部に偏った荷重がかかることとなる。また長時間同じ姿勢を保持するには、筋力のバランスからすると、無理な姿勢となるがゆえに、かえって余計な筋力を要するものであった。そこで、従前理想的とされている立位姿勢を前提にした姿勢を着座時に再現するのではなく、異なる方向性を模索する必要性がある。
【0007】
そこで、本発明者は、人間工学的に直立時と着座時の姿勢の違いについて、骨格と筋肉の張力バランスを考察することで、これまでに着座時には弛緩した状態では、背中が丸くなるのが自然であることを見出している。
【0008】
まず、人は立位の直立姿勢をとっているとき、下腹部側の「腸腰筋群」と臀部側の「殿筋群」の二つの筋肉が拮抗筋として作用することから、股関節という不安定な関節を跨いでお互いに引っ張り合う張力によって骨盤は坐骨を真下に位置させた「立った位置」でしっかりと安定保持されている。すなわち、真っ直ぐ立っているときには、前後の拮抗筋の張力でバランスがはかられるので、さほど筋力を使うことなくとも、そのまま楽に姿勢を維持することができる。
【0009】
ところが、人が座位の姿勢をとり、股関節が90度近く曲がることとなると、一方では下腹部側の「腸腰筋群」は筋の付着部である腰椎と大腿骨の位置が近くなり、伸びていた筋肉が緩むので張力が弱まることとなる。他方、臀部側の「殿筋群」は骨盤から股関節を中心に大腿骨まで、外側を回り込むようにして引き延ばされるので、張力が強くかかることとなる。
【0010】
そこで、座位姿勢時に、骨盤を支えているこれらの腸腰筋群と殿筋群といった拮抗筋が張力のバランスをとろうとすると、立位では坐骨を下に位置させて垂直に「立った位置」にあった骨盤が、坐骨を前方に押し出すように傾倒し、「傾斜した位置」となる。すなわち、骨盤を垂直に立った位置で安定させていた立位姿勢での筋肉の張力が、座位姿勢では、股関節を中心に骨盤を傾倒させる筋肉の張力として作用するのである。
【0011】
すると、土台となる骨盤が傾倒しているので、その上方に位置する腰椎をはじめとする脊柱が、S字状に真っ直ぐ伸びた姿勢を維持するには、かえって余計な筋力を要することとなる。すなわち、骨盤や腰椎の位置が坐骨を下にして坐骨底面の向きが直立時のような水平の向きになると、かえって余計な筋力を要するのである。
【0012】
そこで、健常者でも身障者でも、あえて弛緩して座ったときには、骨盤が自然と傾倒し、それに応じて背中も丸くなる。以上のことから、着座姿勢は直立時の姿勢に近いものを理想とうするべきではなく、むしろ、骨盤が坐骨を少し前に倒したようにして坐骨底面の向きが「傾斜した位置」をとることのほうが安楽なのである。ずっこけたような、背中が丸く湾曲した姿勢のままに安楽に着座できるほうが余計な力が入っておらず、自然で楽だから長時間の着座でも疲れないのである。
【0013】
この点、本発明者は、こうした安楽な姿勢を形成しやすい着座補助具として、背凭部のある椅子に背もたれから吊り下げるようにして用いる着座補助具の座布を発明をしている(特許文献1、2参照。)。背もたれから吊り下がるものであることから、着座時に本人にフィットするようにあわせやすく、適切に所望の安楽な姿勢が誘導されるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2016-41358号公報
【文献】特開2017-70465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
着座時に弛緩しうるよう筋力のバランスを考慮して骨盤が傾斜するように座ろうとするときには、臀部が前方へと移動する、いわばずっこけた姿勢となることが望ましい。ところが、椅子の手前側に着座するようになるので、通常の榻背部(背もたれ部)を有する椅子にそのまま着座すると、かえって背面側の荷重までが座面側に大きくかかってしまうこととなる。そして、座面の一部に大きな荷重がかかることとなることは、長時間の使用に耐えない着座姿勢となることから、弛緩させた姿勢で長時間着座すること自体がそもそも困難であった。
【0016】
しかし、専用の椅子を予め用意しているとは限らないので、こうした姿勢をとったときに十分に姿勢を保持しうるよう補助的な器具が要請されている。そして、骨盤が傾斜した状態では、脊柱がS字状だった直立時とは異なる姿勢となるので、直立時とは変化したことによる荷重のかかり方となるので、その違いにみあった背面のサポートを付与することが要請されている。
【0017】
たしかに、特許文献1や特許文献2にて本発明者が先に提案した着座補助具は、着座状態では安楽な姿勢を提供しうるものであって、吊り下げられたハンモックのように着座補助具であることから、前後に軽く揺動させることで自然と安楽な姿勢を実現しうるものとなっている。そこで、一旦着座してしまえば安楽な姿勢を保持しやすいものとなっている。
【0018】
もっとも、その反面、背もたれから吊り下がることで座面が揺動しやすい器具であることから、着座してしまうとその姿勢を保持する作用が大きく、かえって立ち上がりにくいところがあった。たとえば、吊り下がる構造であるため、臀部がやや揺れることからふんばりにくく、ちょっとした姿勢変化をきっかけにして立ち上がろうとしても、若干立ち上がりにくいところがあった。すなわち、立ち上がるには、一旦頭部を前方に大きく前傾させるなどしたうえで、重心を前方に大きく移動させた反動を使って立ち上がるといった動作が必要であった。さらに、背もたれに吊り下げる前提であることから、背もたれの上方になにがしか吊り下げる支持固定手段を講じる必要があり、係止手段を設けて緊締するなどしなければならず、取り付け位置、取り付け方法にも制限があり、やや大がかりなものとなるほか、背もたれの形状やサイズにも影響されやすかった。
【0019】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、これまで発明者が志向してきた理想とする安楽な着座姿勢を実現保持しうる着座補助具でありながら、すなわち、臀部がやや前方に移動した位置で腰掛けて、体を背面に持たせかかったときに、背面側を全体的に支承することで偏りなく体圧を分散せしめ、坐骨近辺にかかる荷重も分散して局所的に集中しにくいものとすることで、着用者が弛緩した姿勢のままに長時間安楽に着座可能となる着座補助具でありながら、簡易な構造で載置できる、背もたれに固定する必要がない構造であって、さらに着座姿勢で椅子からの立ち上がり動作が容易となる椅子座面用の載置式の着座補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の課題を解決するための手段は、第1の手段では、背面部クッション(2)と、該背面部クッション(2)の前方下端部(4)と後端部(7)を屈曲可能に連接せしめた底面部クッション(3)と、を備えた椅子座面用載置式着座補助具(1)であって、該背面部クッション(2)は上端部(5)から下端部に向かって肉厚となることで上端部(5)から前方下端部(4)にかけて形成される当接支持用斜面(6)を備え、底面部クッション(3)はその後端部(7)から中央部(8)に向かって肉厚となることで形成される大腿部支持斜面(9)と、該中央部(8)から前端部(10)に向って肉厚がやや薄くなることで形成される前下りの膝下斜面(11)とを備え、前記当接支持用斜面(6)の勾配は45°~80°であって、さらに当接支持用斜面(6)に対して前記大腿部支持斜面(9)は側面視85°~110°の角度で連接していること、を特徴とする、椅子座面用載置式着座補助具である。
【0021】
着座補助具を吊り下げるのではなく、固定部材を特段用いることなしに座面に載せ置けるものとしたこと、背面の傾きに対して座骨が当接する大腿部支持斜面をほぼ直交させるように配することで、ずっこけた姿勢でも前方にずり出さない姿勢となっていること、膝下を低くしたことで立位に変化する荷重移動が容易となり立ち上がりやすくなっていること、が特徴である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の着座補助具を椅子もしくは車椅子に設置すると、着座する健常者もしくは身障者は、骨盤を坐骨を前方に押し出すように傾倒させて坐る安楽な弛緩した姿勢をとることが簡易にできるので、着座姿勢を長期に維持できることとなる。そして、背面部から座面後方にかけて外装体が着座者の背中から腰部にかけてを包み込むように当接するので、着座者の荷重を広く分散でき、局所に荷重が集中することを避けることができるので、長時間着座をしても疲れにくいものとなる。
【0023】
骨盤を坐骨を前方に傾倒させた状態(弛緩した姿勢)で着座するとき、本発明の着座補助具の座面部上平面の傾斜面が傾倒させた坐骨を下から正対するように受けとめる。すると、座面のクッションは、傾斜面が斜めになった坐骨(坐骨底面の向き)に対応して正体するように当接して支持することができるので、ずっこけたような楽な姿勢のままで坐骨の下から適切に十分に荷重を支承することができる。その際、背面側を包むように伸縮性の素材がサポートするので、坐骨の下で受けとめるクッション材の一点に荷重が集中することはなく、さらに体圧が適度に分散されることになる。そして、座面の傾斜面を坐骨部を支えることで機能を十分に果すので、座面を膝下まで長く延長する必要はなく、コンパクトなものとすることができる。
【0024】
また、 着座補助具は椅子等の座面に載せ置くことから、着座補助具を背もたれに吊り下げ固定支持する器具が必要なく、固定する手間もないので、背面の背もたれの形状を選ばないものとなり、適用の幅が拡がりやすいものとなる。
【0025】
背中がやや丸まって骨盤が傾倒した姿勢で着座するものであるところ、着座者の背面下方が接する当接支持用斜面(6)は、90°直立した垂直な面ではなく、45°~80°に傾いているので、骨盤の傾倒や背中の湾曲に対応してこれに沿わせることが容易にできる。そして、当接支持用斜面(6)に対して臀部や大腿部を支持する大腿部支持斜面(9)は、85°~110°の位置で交差することとなっているので、傾倒した骨盤に対して、ほぼ直角な面を底側から受け止めるようになる。
【0026】
すると、やや斜めの姿勢でずっこけた体勢で座っても、相対的に座骨の下からほぼ直角に受け止めることができるので、斜めの姿勢でも前方に体が滑っていくことなく、安楽な体勢をそのまま保持しうることが可能となるのである。
つまり、当接支持用斜面の傾きに対して85°~110°、望ましくは90°~105°で交差する大腿部支持斜面を設けることで、ずっこけた姿勢の背中の傾きと直交するような底面を座面とすることができ、前方にずれださずに安定して座ることができる。
さらに、膝下斜面が前方に向かって低く傾斜しているので、膝が浮き上がりにくく、両足の踵をつけて立ち上がる際に腰を浮かせずとも立ち上がり動作の踏ん張りがききやすいものとなる。膝下が前方に向かって低くカットされていると、股関節の位置から大腿骨が水平方向に延びていきやすく、上腿部が膝まで略水平を維持しやすいものとなり、立ち上がる際の荷重移動がスムーズとなるので、立ち上がり動作をコンパクトにすることができ、それだけ無理なく立ちあがることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の一形態の着座補助具を側面視した図である。
図2】本発明の実施の一形態の着座補助具の斜視図である。
図3】本発明の実施の一形態の着座補助具を折り畳んだ図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態の着座補助具を椅子に適用した場合を例にとって、図を適宜参照しながら説明する。
なお、椅子であっても、車椅子であっても適用でき、基本的に背もたれのある座面の椅子であればこれに載置して用いることができる。なお、本発明の着座補助具(1)は、着座者(21)の着座姿勢が、骨盤を直立時のように坐骨が真っ直ぐ下にくる位置で坐るのではなく、坐骨が斜めになるように骨盤がやや傾いた姿勢で着座するような弛緩した姿勢で使用しうるものである。そして、着座時には、坐骨の傾斜(坐骨底面の向き)と正対するように大腿部支持斜面(9)に座骨をのせるようにして座ることができるので、本発明の着座補助具(1)の背面部と座面部とでしっかりとサポートされた状態で着座者(21)の身体が安楽に保持され、快適に体圧分散して長時間着座しうるようになっている。
【0029】
図1に本発明の実施の一形態の側面図を示す。左が底面部クッション(3)で、右が背面部クッション(2)であり、左が前方、右が背面側となるので、着座者は顔を図では左に向けて座ることとなる。以下の説明で前方とは、着座する方向に準じて脚先側が前方、臀部背面側を後方あるいは背面という。なお、図3には、図2の着座補助具(1)を折り畳んだ様子が図示されているが、あくまで図2の着座補助具(1)は本発明の一例であって、座布の内部これらのクッション構造が収納されている着座補助具などであってもよく、この図面の形状のみに限定はされない。ただし、以下の説明では、一番シンプルなクッション構造のみを図示した図を用いて説明する。
【0030】
さて、本発明の着座補助具(1)は幅30~45cmのクッションを2つ組み合わせてある。(以下では38cm幅を例に示す。)背面部クッション(2)も底面部クッション(3)も、発泡ウレタンフォームやポリエチレンフォーム、さらには低反発弾性フォームなどが適宜適用できる。背面部と底面部とで硬度を変えたりしてもよく、同一素材には限られない。
なお、ポリエチレンフォームは、たとえば、密度が20~40kg/m3で硬さが100~130Nぐらいのものなどを選択すると、硬度が高いものとなる。

また、背面部クッション(2)はたとえば側面視直角三角形をしており、下端部(12)の前方下端部(4)側が鋭角になっており、背面側が直角(直角には限られないが、この説明では直角のもので説明する。)である。
前方下端部(4)と対向する位置に、底面部クッション(3)の後端部(7)を位置させて、底面部クッション(3)と背面部クッション(2)とは、がわとなる布帛で覆うなどして外装体に包むことで連接している。外装の布帛は、特に限定はないが、いわゆるB面ニットと呼称されるような密集起毛されたループが外表面に露出されたニット生地を用いると、座面との滑り止めとなって好適である。
【0031】
背面部クッション(3)は、膝下を前方とするとき、前端部が高さ15~25mm程度、中央部(8)が25~35mm程度、後端部(7)が1~2mm程度の高さであって、上面前方が日だ下斜面(11)で、前方が低くなるように傾いており、中央部(8)を境に後方は、大腿部支持斜面(9)が後端部(7)が低くなるように傾いている斜面となっている。
【0032】
図1に示すように、背面部クッション(2)の直角三角形は、高さ(背面の高さ)(a)が100~300mm、底辺の長さ(b)がたとえば40~200mmであり、底面部クッション(3)は、(c)の長さが100~220mm、(d)の長さは着座者の膝裏までの長さ程度としてある。直角三角形の前方下端部(4)の角の角度(α)は45°~80°であり、この角度の分だけ、当接支持用斜面(6)は後方に傾いている。なお、(a)はおよそ骨盤の高さまであればよい。また、(c)の長さは、およそ着座者の座骨が当接する位置からみて、さらに前方に30mmほど加えた長さを目安とすることもできる。
【0033】
そして、背面部クッション(2)の当接支持用斜面(直角三角形の斜辺)(6)と、底面部クッション(3)の大腿部支持斜面(9)とは、直角三角形の斜辺の傾き(α)に対して85°~110°ぐらいになるように、望ましくは90°~105°となるように、形成されている。すなわち、図1の角(β)は、85°~110°となっている。
なお、外装体は、たとえばループ状に密集起毛されたB面のニット素材を用いることとしているが、ダブルラッセル生地を縫製して2つのクッションを連接するように包むこととしてもよい。
【0034】
(使用方法について)
本発明の座面補助具(1)は、椅子又は車椅子の座面に載せ置いて用いることから、特段、吊り下げる等の支持手段を必要とはしないが、もちろん、落下防止等のために、補助紐で適宜座面や背もたれに拘束することは妨げない。図1であれば、左を座面前方、右を背もたれ側に向けて載せ置くこととなる。
【0035】
着座者(21)の姿勢は、直立時と同様に坐骨を下向きとした骨盤の向きではなく、弛緩させて着座した状態で腰掛けることで、やや背中が丸まったような姿勢をとることとなる。すなわち、腰が骨盤が坐骨を斜め前方に傾けたものであるから、着座補助具(1)の底面部クッション(3)の大腿部支持斜面(9)と正対するように座骨をこの斜面(9)の上に当接さえるようにして着座する。すると、底面部クッション(3)が着座者21の荷重を正面から受け止めるので、前方に荷重が抜けてしまうことがなく、椅子からずり落ちずに姿勢を保持しうることとなる。そして、坐骨部を下から正対するように大腿部支持斜面(9)で支承すれば十分なので、そこから先の足先に向かっては、特段に大きくサポートせずとも身体は安定するものとなる。
【0036】
そして、本発明の着座補助具1に着座したときには、従来の発明者の特許文献1、2のようなハンモックのように吊り下がるものとは異なり、膝下が低くカットされている結果スムーズに立ち上がることができるようになっているので、立ち上がり動作の負担が低いものとなっている。
【0037】
(着座姿勢から立ち上がる際の姿勢変化の様子の測定)
さて、特許文献1や2に記載の吊り下げタイプの着座補助具(比較例1)と、本発明の実施例の着座補助具(実施例1)とで、着座状態からの立ち上がりがどのように異なるのか、側面から男女の被験者について立ち上がる様子を写真に記録し、胴体や頭部の移動する様子の違いを対比した。また、後頭部に加速度計を取り付けて着座姿勢から立ち上がり着座して立ち上がるといった動作を繰り返し、加速度計の違いを観察した。
立ち上がり時の姿勢変化については、車椅子の座面に本発明の実施品を載せ置き、被験者1(男性)と被験者2(女性)が順次立ち上がる様子を側面からの写真で記録し、耳孔の位置の変位をプロットすることで着座補助具による差異を観察した。
【0038】
着座時の耳孔の位置をx:0,y:0とするとき、比較例1の吊り下げ式座布に着座して安楽な姿勢状態から立ち上がろうとすると、まず、胴体の胸部を膝上あたりまで傾け、頭部を前方にかなり倒すように沈めたのち、立ち上がることがわかった。
【0039】
(比較例1 被験者1)
すなわち、従前の吊り下げ式の場合は、被験者1では、i)x:0,Y:0の着座位置から、ii)前方にx:102.5cm,y:-25cm移動して前傾した後、膝に手をおいて立ち上がるまでに、iii)x:112.5cm,y:-5cm、iv)x:110cm,y:25cmのあたりを耳孔が通ってから、v)x:85cm,y:55cmの位置で立ち上がって静止した。
【0040】
(実施例1 被験者1)
着座時i)x:0cm,y:0cm、ii)x:45cm,y:0cm、iii)x:90cm、y:17.5cm、iv)x:90cm、y:37.5cm,v)X:75cm,y:55cmとなった。
すなわち、前傾動作が20cmほど小さく沈みこみもみられなかったので、胴体を少し傾けただけですっと上方に立ちあがるようなコンパクトな負荷のかからない動作ができている。
【0041】
(比較例2 被験者1)
次に、車椅子に実施例1のクッションに代えて、比較例2として、膝下に傾斜を設けず、膝下まで大腿部支持斜面の傾斜をそのまま延長したクッションに着座した場合を対比した。
着座時i)x:0cm,y:0cm、ii)x:90cm,y:-25cm、iii)x:110cm、y:-15cm、iv)x:110cm、y:20cm,v)X:75cm,y:55cmとなった。
このように、膝下斜面を設けないと、骨盤から股関節が水平に延びずに斜め上方に脚が
向いてしまうこととなるので、深く腰掛けすぎてしまうこととなり、立ち上がるために胴体をより前傾させて反動を利用する必要が生じてしまっている。
【0042】
(比較例1 被験者2)
次に、被験者2の女性でも実験を行った。
着座時i)x:0cm,y:0cm、ii)x:65cm,y:-10cm、iii)x:100cm、y:20cm、iv)x:95cm、y:40cm,v)X:75cm,y:55cmとなった。
【0043】
(実施例1 被験者2)
着座時i)x:0cm,y:0cm、ii)x:47.5cm,y:5cm、iii)x:67.5cm、y:10cm、iv)x:75cm、y:40cm,v)X:75cm,y:55cmとなった。
比較例1の吊り下げ式の場合よりも、実験例1を用いたほうが、被験者2でも、立ち上がる際に胴体を前傾させる深さが浅く、移動距離が小さくコンパクトに立ち上がれていることがわかった。
【0044】
次に、車椅子ではなく、椅子の上に実施例1と同様の着座補助具のクッションを置き(実施例2とする。)、比較として椅子に前方膝下に膝下に向かって下がる膝下斜面を設けず、大腿部支持斜面の傾斜のまま膝下を高くしたクッション(比較例3)を用意して、これらについての立ち上がり姿勢を比較した。
【0045】
(比較例3 被験者1)
着座時i)x:0cm,y:0cm、ii)x:80cm,y:-10cm、iii)x:90cm、y:7.5cm、iv)x:90cm、y:20cm,v)X:75cm,y:50cmとなった。
(実施例2 被験者2)
着座時i)x:0cm,y:0cm、ii)x:72.5cm,y:0cm、iii)x:85cm、y:10cm、iv)x:80cm、y:30cm,v)X:67.5cm,y:50cmとなった。
若干であるが、膝下斜面のない比較例3では、実施例2に比して、椅子からの立ち上がりにおいて、10cmほど前方に体を倒し、10cmほど深く体を低めてから立ち上がる必要が生じた。
【0046】
被験者を代えて、椅子について同様に膝下斜面の有無での比較実験を行った。
(比較例3 被験者2)
着座時i)x:0cm,y:0cm、ii)x:75cm,y:-15cm、iii)x:85cm、y:10cm、iv)x:85cm、y:22.5cm,v)X:60cm,y:45cmとなった。
(実施例2 被験者2)
着座時i)x:0cm,y:0cm、ii)x:57.5cm,y:-2.5cm、iii)x:65cm、y:22.5cm、iv)x:62.5cm、y:27.5cm,v)X:50cm,y:45cmとなった。
被験者2においても、前傾や体の沈み込みは、膝下斜面があるものよりないもののほうが大きかった。
【0047】
以上のことから、本発明品を用いて着座すると、吊り下げ式の着座補助具よりも立ち上がり時の動作負荷が格段に小さく、立ち上がり容易であるといえる。健常者であれば、立ち上がることはいずれの着座補助具でも可能であるが、体が弱った老人や身障者であれば、身体に負荷が小さいほうが、また介護者にとっても楽に立ち上がれる椅子のほうが介添えが容易となる。また、膝下を低くカットすることで、股関節から脚が真っ直ぐ水平に位置する程度で着座可能とすると、安楽なずっこけた姿勢であっても、素早く立ち上がれることから、安楽姿勢から容易に負荷少なく立ち上がれるものであることがわかった。
【符号の説明】
【0048】
1 着座補助具
2 背面部クッション
3 底面部クッション
4 前方下端部
5 上端部
6 当接支持用斜面
7 後端部
8 中央部
9 大腿部支持斜面
10 前端部
11 膝下斜面
12 下端部
21 着座者
図1
図2
図3