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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20240426BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240426BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20240426BHJP
【FI】
H02P21/24
E02F9/20 Z
H02P21/22
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019035204
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020141477
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】平田 政貴
(72)【発明者】
【氏名】川島 宏治
(72)【発明者】
【氏名】水野 博之
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-196309(JP,A)
【文献】特開2018-046595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
E02F 9/20
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記電動機が相対的に速度の低い低速状態となることで、前記電動機の電圧が所定基準に対して相対的に小さくなった場合、前記電動機が出力するべき、トルク指令値に対応するトルクを維持させながら、前記電動機のd軸電流を相対的に大きくなるように、且つ、q軸電流を相対的に小さくなるように制御する、
作業機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電動機が前記低速状態となることで、前記電動機の電圧が前記所定基準に対して相対的に小さくなった場合、前記電動機のトルクと前記電動機のd軸電流及びq軸電流との関係に基づき、前記電動機の前記トルク指令値に対応するトルクを維持させながら、前記電動機のd軸電流を相対的に大きくなるように、且つ、q軸電流を相対的に小さくなるように制御する、
請求項に記載の作業機械。
【請求項3】
前記電動機は、IPMモータである、
請求項1又は2に記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油圧ポンプの駆動用等の電動機を備える作業機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-028962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動機の回転角を検出するセンサを搭載する代わりに、電動機の電流値及び電圧値から回転角を推定しながら電動機を制御するセンサレス制御技術が作業機械に適用される場合がある。この場合、電動機の電圧を検出するセンサを用いず、制御過程で生成される電圧指令値を電動機の実際の電圧値の代わりに利用して電動機の回転角が推定される場合がある。
【0005】
しかしながら、電動機の実際の電圧値と電圧指令値との間には、インバータのデッドタイムによる誤差(以下、「デッドタイム誤差」)が含まれる。特に、電動機の電圧が非常に小さい場合(つまり、電動機の低負荷時)において、デッドタイム誤差の影響が相対的に顕著になる。そのため、電動機の回転角の推定値が実際の回転角と相対的に大きくずれて、電動機を適切に制御できない可能性がある。
【0006】
そこで、上記課題に鑑み、電圧指令値を用いて電動機の回転角の推定を行うセンサレス制御技術が採用される場合に、インバータのデッドタイムの影響を抑制することが可能な作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態では、
電動機と、
前記電動機を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記電動機が相対的に速度の低い低速状態となることで、前記電動機の電圧が所定基準に対して相対的に小さくなった場合、前記電動機が出力するべき、トルク指令値に対応するトルクを維持させながら、前記電動機のd軸電流を相対的に大きくなるように、且つ、q軸電流を相対的に小さくなるように制御する、
作業機械が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上述の実施形態によれば、電圧指令値を用いて電動機の回転角の推定を行うセンサレス制御技術が採用される場合に、インバータのデッドタイムの影響を抑制することが可能な作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係るショベルの側面図である。
図2】一実施形態に係るショベルの構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図3】高速・高負荷状態及び低速・低負荷状態の双方における電動発電機の電流状態を説明する図である。
図4】インバータによる電動発電機に関する制御処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
[ショベルの概要]
まず、図1を参照して、作業機械の一例としてのショベルの概要を説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係るショベルの一例を示す側面図である。
【0014】
本実施形態に係るショベル(作業機械の一例)は、下部走行体1と、旋回機構2を介して旋回可能に下部走行体1に搭載される上部旋回体3と、作業装置としてのブーム4、アーム5、及びバケット6と、オペレータが搭乗するキャビン10を備える。
【0015】
下部走行体1は、例えば、左右一対のクローラを含み、それぞれのクローラが走行油圧モータ1A,1B(図2参照)で油圧駆動されることにより、自走する。
【0016】
上部旋回体3は、後述する旋回用電動機21(図2参照)により電気駆動されることにより、下部走行体1に対して旋回する。
【0017】
ブーム4は、上部旋回体3の前部中央に俯仰可能に枢着され、ブーム4の先端には、アーム5が上下回動可能に枢着され、アーム5の先端には、バケット6が上下回動可能に枢着される。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、それぞれ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9により油圧駆動される。
【0018】
キャビン10は、上部旋回体3の前部左側に搭載され、その内部には、オペレータが着座する操縦席や後述する操作装置26等が設けられる。
【0019】
[ショベルの構成]
次に、図1に加えて、図2を参照して、本実施形態に係るショベルの構成について説明する。
【0020】
図2は、本実施形態に係るショベルの駆動系を中心とする構成の一例を示すブロック図である。
【0021】
尚、図中にて、機械的動力ラインは二重線、高圧油圧ラインは太い実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御ラインは細い実線でそれぞれ示される。
【0022】
<ショベルの油圧駆動系>
本実施形態に係る油圧駆動系は、上述の如く、各種の被駆動要素を駆動する油圧アクチュエータが含まれる。油圧アクチュエータには、下部走行体1(つまり、左右のクローラ)、ブーム4、アーム5、及びバケット6のそれぞれを油圧駆動する走行油圧モータ1A,1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9等を含む。本実施形態に係るショベルの油圧駆動系は、エンジン11と、減速機13と、メインポンプ14と、コントロールバルブ17を含む。
【0023】
エンジン11は、油圧駆動系におけるメイン動力源であり、上部旋回体3の後部に搭載される。エンジン11は、後述するエンジンコントローラ(ECM:Engine Control Module)30Cの制御下で、所定の目標回転数で定回転する。エンジン11は、例えば、軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、減速機13を介してメインポンプ14、パイロットポンプ15を駆動する。また、エンジン11は、減速機13を介して電動発電機12を駆動し、電動発電機12に発電させる。
【0024】
減速機13は、例えば、上部旋回体3の後部に搭載され、エンジン11及び後述する電動発電機12が接続される2つの入力軸と、メインポンプ14及びパイロットポンプ15が直列に同軸接続される1つの出力軸を有する。減速機13は、エンジン11及び電動発電機12の動力を所定の減速比でメインポンプ14及びパイロットポンプ15に伝達することができる。また、減速機13は、エンジン11の動力を所定の減速比で、電動発電機12とメインポンプ14及びパイロットポンプ15とに分配して伝達することができる。
【0025】
メインポンプ14(油圧ポンプの一例)は、上部旋回体3の後部に搭載され、高圧油圧ライン16を通じてコントロールバルブ17に作動油を供給する。メインポンプ14は、エンジン11、或いは、エンジン11及び電動発電機12により駆動される。メインポンプ14は、例えば、可変容量式油圧ポンプであり、後述するショベルコントローラ30Aの制御下で、レギュレータ(不図示)が斜板の角度(傾転角)を制御する。これにより、メインポンプ14は、ピストンのストローク長を調整し、吐出流量(吐出圧)を制御することができる。
【0026】
コントロールバルブ17は、上部旋回体3の中央部に搭載され、オペレータによる操作装置26に対する操作に応じて、油圧駆動系の制御を行う油圧制御装置である。コントロールバルブ17は、上述の如く、高圧油圧ライン16を介してメインポンプ14と接続され、メインポンプ14から供給される作動油を、油圧アクチュエータとしての走行油圧モータ1A(右用),1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9に供給可能に構成される。具体的には、コントロールバルブ17は、メインポンプ14から油圧アクチュエータのそれぞれに供給される作動油の流量と流れる方向を制御する複数の油圧制御弁(方向切換弁)を含むバルブユニットである。
【0027】
<ショベルの電気駆動系>
本実施形態に係るショベルの電気駆動系は、電動発電機12と、電流センサ12s1と、電圧センサ12s2と、インバータ18Aを含む。また、本実施形態に係るショベルの電気駆動系は、旋回用電動機21と、電流センサ21sと、レゾルバ22と、メカニカルブレーキ23と、旋回減速機24と、インバータ18Bを含む。
【0028】
電動発電機12(電動機の一例)は、油圧駆動系に対するアシスト動力源であり、上部旋回体3の後部に搭載される。電動発電機12は、例えば、IPM(Interior Permanent Magnet)モータである。また、電動発電機12には、所定のセンサ、具体的には、回転軸の回転角を検出するセンサ(例えば、ロータリエンコーダやレゾルバ等)が未搭載である。電動発電機12は、インバータ18Aを介してキャパシタ19を含む蓄電系120や旋回用電動機21と接続される。電動発電機12は、インバータ18Aを介してキャパシタ19や旋回用電動機21から供給される三相交流電力で力行運転し、エンジン11をアシストする態様で、減速機13を介してメインポンプ14及びパイロットポンプ15を駆動する。また、電動発電機12は、エンジン11により駆動されることにより発電運転を行い、発電電力をキャパシタ19や旋回用電動機21に供給することができる。電動発電機12の力行運転と発電運転との切替制御は、後述するハイブリッドコントローラ(以下、「HBコントローラ」)30Bの制御下で、インバータ18Aにより実現されてよい。
【0029】
電流センサ12s1は、電動発電機12の三相(U相、V相、W相)のそれぞれの電流を検出する。電流センサ12s1は、例えば、電動発電機12とインバータ18Aの間の電力経路に設けられる。電流センサ12s1により検出される旋回用電動機21の三相それぞれの電流に対応する検出信号は、一対一の通信線やCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを通じて、直接的に、インバータ18Aに取り込まれる。また、当該検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、HBコントローラ30Bに取り込まれ、HBコントローラ30B経由で、インバータ18Aに入力されてもよい。
【0030】
インバータ18A(制御装置の一例)は、HBコントローラ30Bの制御下で、電動発電機12を駆動制御する。インバータ18Aは、例えば、直流電力を三相交流電力に変換したり、三相交流電力を直流電力に変換したりする変換回路と、変換回路をスイッチ駆動する駆動回路と、駆動回路の動作を規定する制御信号(例えば、PWM(Pulse Width Modulation)信号)を出力する制御回路を含む。
【0031】
具体的には、インバータ18Aの制御回路は、電流センサ12s1の検出信号(つまり、電動発電機12の電流測定値)と電動発電機12の電圧指令値Vcomとに基づき、逐次、電動発電機12の回転軸の回転角等を推定してよい。例えば、当該制御回路は、既知の拡張誘起電圧(EEFM:Extended Electromotive Force)モデルに基づき、電動発電機12の回転軸の回転角や回転速度等を推定する。また、当該制御回路は、電動発電機12の電圧指令値Vcomと、実際の電動発電機12の電圧値との間のデッドタイム誤差を補償する既知のデッドタイム補償を行いながら、電動発電機12の回転角や回転速度等を推定する。そして、当該制御回路は、逐次導出される回転角や回転速度の推定値に基づき、電動発電機12の動作状態を把握しながら、電動発電機12の駆動制御(以下、「センサレス制御」)を行ってよい。これにより、電動発電機12には、回転角や回転位置を検出するセンサ(例えば、ロータリエンコーダ等)が設けられる必要が無い。そのため、センサを削減することができ、ショベルのコストを抑制することができると共に、センサの汚れ等による検出不良を抑制することができる。また、センサレス制御において、電動発電機12の電圧測定値の代わりに、電圧指令値Vcomが用いられるため、更にセンサを削減することができ、ショベルのコストを抑制したり、センサの汚れによる検出不良等を抑制したりすることができる。
【0032】
尚、インバータ18Aの駆動回路及び制御回路の少なくとも一方は、インバータ18Aの外部(例えば、HBコントローラ30B(制御装置の一例))に設けられてもよい。
【0033】
旋回用電動機21は、下部走行体1と上部旋回体3との間を接続する旋回機構2に設けられ、HBコントローラ30Bの制御下で、上部旋回体3を旋回駆動する力行運転、及び回生電力を発生させて上部旋回体3を旋回制動する回生運転を行う。旋回用電動機21は、インバータ18Bを介して蓄電系120に接続され、インバータ18Bを介してキャパシタ19や電動発電機12から供給される三相交流電力により駆動される。また、旋回用電動機21は、インバータ18Bを介して、回生電力をキャパシタ19や電動発電機12に供給する。これにより、回生電力で、キャパシタ19を充電したり、電動発電機12を駆動したりすることができる。旋回用電動機21の力行運転と回生運転との切替制御は、HBコントローラ30Bの制御下で、インバータ18Bにより実現されてよい。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。
【0034】
電流センサ21sは、旋回用電動機21の三相(U相、V相、W相)のそれぞれの電流を検出する。電流センサ21sは、例えば、旋回用電動機21とインバータ18Bの間の電力経路に設けられる。電流センサ21sにより検出される、旋回用電動機21の三相それぞれの電流に対応する検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、直接的に、インバータ18Bに取り込まれてよい。また、当該検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、HBコントローラ30Bに取り込まれ、HBコントローラ30B経由で、インバータ18Bに入力されてもよい。
【0035】
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転位置(回転角)等を検出する。レゾルバ22により検出された回転角に対応する検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワーク等を通じて、直接的に、インバータ18Bに取り込まれてよい。また、当該検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、HBコントローラ30Bに取り込まれ、HBコントローラ30B経由でインバータ18Bに入力されてもよい。
【0036】
メカニカルブレーキ23は、HBコントローラ30Bの制御下で、旋回用電動機21の回転軸21Aに対して、機械的に制動力を発生させる。これにより、メカニカルブレーキ23は、上部旋回体3の旋回制動を行ったり、上部旋回体3の停止状態を維持させたりすることができる。
【0037】
旋回減速機24は、旋回用電動機21の回転軸21Aと接続され、旋回用電動機21の出力(トルク)を所定の減速比で減速させることにより、トルクを増大させて、上部旋回体3を旋回駆動する。即ち、力行運転の際、旋回用電動機21は、旋回減速機24を介して、上部旋回体3を旋回駆動する。また、旋回減速機24は、上部旋回体3の慣性回転力を増速させて旋回用電動機21に伝達し、回生電力を発生させる。即ち、回生運転の際、旋回用電動機21は、旋回減速機24を介して伝達される上部旋回体3の慣性回転力により回生発電を行い、上部旋回体3を旋回制動する。
【0038】
インバータ18Bは、HBコントローラ30Bの制御下で、旋回用電動機21を駆動制御する。インバータ18Bは、例えば、直流電力を三相交流電力に変換したり、三相交流電力を直流電力に変換したりする変換回路と、変換回路をスイッチ駆動する駆動回路と、駆動回路の動作を規定する制御信号(例えば、PWM信号)を出力する制御回路を含む。
【0039】
具体的には、インバータ18Bの制御回路は、電流センサ21s及びレゾルバ22の検出信号に基づき、旋回用電動機21に関する速度フィードバック制御及びトルクフィードバック制御を行う。
【0040】
<ショベルの蓄電系>
本実施形態に係るショベルの蓄電系120は、キャパシタ19と、昇降圧コンバータ100と、DCバス110を含む。蓄電系120は、例えば、電気駆動系のインバータ18A,18Bと共に、上部旋回体3の右側前部に搭載される。
【0041】
キャパシタ19は、電動発電機12や旋回用電動機21に電力を供給すると共に、電動発電機12や旋回用電動機21の発電電力を充電する蓄電装置の一例である。また、キャパシタ19と昇降圧コンバータ100を含む負荷側のメイン回路との間を遮断するリレー(以下、「遮断リレー」)が設けられる。これにより、キャパシタ19は、ショベルの停止時やショベルの異常時(例えば、転倒等の事故発生時)に、HBコントローラ30Bによる制御下で、メイン回路と切り離される。そのため、オペレータの不在時の異常や、オペレータの在席時の異常に起因して、キャパシタ19に非常に大きな短絡電流が流れるような事態を抑制することができる。遮断リレーは、例えば、キャパシタ19と昇降圧コンバータ100との間の正極側及び負極側の双方の電力経路に設けられる。
【0042】
昇降圧コンバータ100は、キャパシタ19の電力を昇圧し、DCバス110に出力したり、DCバス110に供給される電力を降圧し、キャパシタ19に蓄電させたりする。昇降圧コンバータ100は、電動発電機12及び旋回用電動機21の運転状態に応じて、DCバス110の電圧値が一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作を切り替える。昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス110の電圧検出値、キャパシタ19の電圧検出値、及びキャパシタ19の電流検出値に基づき、HBコントローラ30Bにより実現されてよい。
【0043】
DCバス110は、インバータ18A,18Bと昇降圧コンバータ100との間に設けられ、キャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を制御する。
【0044】
<ショベルの操作系>
また、本実施形態に係るショベルの操作系は、パイロットポンプ15、操作装置26、圧力センサ29等を含む。
【0045】
パイロットポンプ15は、上部旋回体3の後部に搭載され、パイロットライン25を介して操作装置26にパイロット圧を供給する。パイロットポンプ15は、例えば、固定容量式油圧ポンプであり、エンジン11、或いはエンジン11及び電動発電機12により駆動される。
【0046】
操作装置26は、例えば、レバー26A,26Bと、ペダル26Cを含む。操作装置26は、キャビン10の操縦席付近に設けられ、オペレータがそれぞれの被駆動要素(例えば、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等)の操作を行うための操作入力手段である。換言すれば、操作装置26は、それぞれの被駆動要素を駆動する油圧アクチュエータ(例えば、走行油圧モータ1A,1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9等)や電動アクチュエータ(旋回用電動機21等)の操作を行うための操作入力手段である。操作装置26(レバー26A,26B、及びペダル26C)は、油圧ライン27を介して、コントロールバルブ17に接続される。これにより、コントロールバルブ17には、操作装置26における下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の操作状態に応じたパイロット信号(パイロット圧)が入力される。そのため、コントロールバルブ17は、操作装置26における操作状態に応じて、各油圧アクチュエータを駆動することができる。また、操作装置26は、油圧ライン28を介して圧力センサ29に接続される。
【0047】
尚、操作装置26は、電気式であってもよい。この場合、図において、圧力センサ29は、電気式の操作装置26に置換され、油圧パイロット式の操作装置26は、ショベルコントローラ30Aからの制御指令に応じて作動する比例弁に置換される。電気式の操作装置26は、その操作内容(例えば、操作方向及び操作量)に対応する電気信号を出力し、電気信号は、ショベルコントローラ30Aに取り込まれる。そして、ショベルコントローラ30Aは、操作装置26から入力される電気信号に対応する制御指令、つまり、操作装置26の操作内容に対応する制御指令を比例弁に出力する。これにより、コントロールバルブ17には、比例弁から操作装置26の操作内容に応じたパイロット圧が入力される。
【0048】
圧力センサ29は、上述の如く、油圧ライン28を介して操作装置26と接続され、操作装置26の二次側のパイロット圧、即ち、操作装置26における各動作要素の操作状態に対応するパイロット圧を検出する。圧力センサ29は、ショベルコントローラ30Aに接続され、操作装置26における下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の操作状態に応じた圧力信号(圧力検出値)は、ショベルコントローラ30Aに取り込まれる。
【0049】
<ショベルの制御系>
本実施形態に係るショベルの制御系は、制御装置30と、スタータモータ11stを含む。
【0050】
制御装置30は、ショベルコントローラ30Aと、HBコントローラ30Bと、エンジンコントローラ30Cを含む。
【0051】
ショベルコントローラ30A、HBコントローラ30B、及びエンジンコントローラ30C等は、それぞれの機能が任意のハードウェア、或いは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせにより実現されてよい。例えば、ショベルコントローラ30A、HBコントローラ30B、及びエンジンコントローラ30C等は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)等のメモリ装置(主記憶装置)と、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性の補助記憶装置と、I/O(Input-Output)インタフェース装置等を含むマイクロコンピュータを中心に構成されてよい。
【0052】
ショベルコントローラ30Aは、HBコントローラ30B及びエンジンコントローラ30Cを含む各種コントローラと連携し、ショベルに関する各種制御を行う。例えば、ショベルコントローラ30Aは、HBコントローラ30B及びエンジンコントローラ30C等の各種コントローラとの双方向通信に基づき、ショベル全体(ショベルに搭載される各種機器)の動作を統合的に制御してよい。
【0053】
HBコントローラ30Bは、ショベルコントローラ30Aから入力される各種情報(例えば、操作装置26の操作状態に対応する圧力センサ29の検出値等)に基づき、電気駆動系の駆動制御を行う。例えば、HBコントローラ30Bは、圧力センサ29により検出される、操作装置26の操作状態に対応する検出値に基づき、インバータ18Aを駆動し、電動発電機12の運転状態(力行運転及び発電運転)の切替制御を行う。また、例えば、HBコントローラ30Bは、圧力センサ29により検出される、操作装置26の操作状態に対応する検出値に基づき、インバータ18Bを駆動し、旋回用電動機21の運転状態(力行運転及び回生運転)の切替制御を行う。また、例えば、HBコントローラ30Bは、圧力センサ29により検出される、操作装置26の操作状態に対応する検出値に基づき、昇降圧コンバータ100を駆動し、昇降圧コンバータ100の昇圧運転と降圧運転、換言すれば、キャパシタ19の放電状態と充電状態との切替制御を行う。
【0054】
エンジンコントローラ30Cは、ショベルコントローラ30Aから入力される各種情報(例えば、エンジン11の設定回転数やエンジン11の設定回転数に対応するショベルの運転モード等を含む制御指令)に基づき、エンジン11の駆動制御を行う。具体的には、エンジンコントローラ30Cは、制御対象のスタータモータ11stやエンジン11の燃料噴射装置等のアクチュエータに制御指令を出力することで、エンジン11の駆動制御を実現する。
【0055】
スタータモータ11stは、図示しない補機バッテリ(例えば、鉛蓄電池)からの電力で作動し、エンジンコントローラ30Cの制御下で、エンジン11のクランクシャフトを強制的に回転させ、エンジン11を始動させる。具体的には、スタータモータ11stは、電動発電機12の場合ように、回転数や回転位置等に関する詳細な制御はなされず、電動発電機12よりも相対的に小さい助勢度でエンジン11をアシストすることで、エンジン11を始動させる。
【0056】
[電動発電機の制御方法の詳細]
次に、図3を参照して、インバータ18A(制御回路)による電動発電機12の制御方法の詳細について説明する。
【0057】
図3は、回転速度が相対的に高い高速状態や負荷が相対的に高い高負荷状態(以下、統括的に「高速・高負荷状態」)及び回転速度が相対的に低い低速状態や負荷が相対的に低い低負荷状態(以下、統括的に「低速・低負荷状態」)の双方における電動発電機12の電流状態を説明する図である。具体的には、図3は、電動発電機12の高速・高負荷状態及び低速・低負荷状態の双方におけるdq軸の電流ベクトル(以下、単に「電流ベクトル」)(グラフ310)、低速状態及び高速状態の双方における電動発電機12の各相(U相、V相、W相)の電流(以下、「相電流」)の時間変化(グラフ320)を示す図である。
【0058】
グラフ310において、電流ベクトル312は、電動発電機12の高速・高負荷状態を表し、電流ベクトル313は、電動発電機12の低速・低負荷状態を表す。また、グラフ320において、時系列322は、電動発電機12の高速・高負荷状態における相電流の時間変化を表し、時系列323は、電動発電機12の低速・低負荷状態における相電流の時間変化を表す。
【0059】
電流ベクトル312,313のように、インバータ18A(制御回路)は、ある一定方向に規定される電流ベクトルの大きさ、つまり、d軸電流及びq軸電流の大きさを変化させる態様で、電動発電機12の駆動制御を行う。換言すれば、時系列322,323のように、インバータ18A(制御回路)は、通常、ある一定の位相で、相電流の振幅を変化させる態様で、電動発電機12の駆動制御を行う。以下、当該制御態様を、便宜的に「通常制御」と称する。
【0060】
電動発電機12の低速・低負荷状態に対応して、相電流、相電圧が相対的に小さくなると、一般的に、デッドタイム補償の効果が相対的に低くなる。例えば、グラフ320の領域321は、デッドタイム補償の効果が相対的に低く、通常のデッドタイム補償では、電圧指令値Vcomを用いるセンサレス制御としての精度を確保不可能な相電流の振幅に対応する。
【0061】
これに対して、本例では、グラフ310に示すように、インバータ18Aは、相電流、相電圧が領域321に入るレベルに到達すると、制御過程で生成するトルク指令値Tcomに対応する電動発電機12のトルクを維持しつつ、相電流、相電圧が相対的に大きくなるような電流ベクトルの方向を採用する。具体的には、インバータ18Aは、相電圧(最大値)が所定の閾値電圧Vth以上になるように(換言すれば、所定の閾値電圧Vthに対応するより大きな相電流が流れるように)所望のトルク、つまり、電動発電機12のトルク指令値Tcomに対応する等トルク線311沿いで、通常制御時の電流ベクトル(例えば、電流ベクトル313)を基準としてd軸電流を増加させ、且つ、q軸電流を減少させる(例えば、電流ベクトル314)。換言すれば、グラフ320に示すように、インバータ18Aは、所望のトルク(つまり、トルク指令値Tcom)を保持しつつ、相電圧(最大値)が所定の閾値電圧Vth以上になるように、通常制御時(時系列323)を基準として相電流の位相を変化させる(時系列324)。これにより、低速・低負荷時であっても、センサレス制御で要求されるデッドタイム補償の最低限以上の精度を確保することができる。そのため、例えば、低速・低負荷時において、複雑なデッドタイム補償のアルゴリズムを採用したり、インバータ18Aのハードウェアを改良してデッドタイム自体を短くしたり等せずとも、センサレス制御における電動発電機12の回転角度の推定精度の低下を抑制することができる。以下、当該制御態様を、便宜的に「低速・低負荷時制御」と称する。
【0062】
尚、等トルク線311は、電動発電機12がIPMモータの場合を表しており、電動発電機12がSPM(Surface Permanent Magnet)モータの場合、等トルク線311は、d軸に略平行になる。つまり、電動発電機12がSPMモータの場合、インバータ18Aは、通常制御から低速・低負荷時制御に移行する場合、通常制御時の電流ベクトルを基準として、d軸電流を大きくするだけでよい。
【0063】
例えば、キャパシタ19の充電量が所定の目標値にある程度近づくと、電動発電機12の印加電圧は相対的に低下し、そのトルク(つまり、電流)は0に近づく。この場合、上述の通常制御が継続されると、回転角度の推定誤差が相対的に大きくなることで、電動発電機12が所望のトルク(つまり、トルク指令値Tcomに対応するトルク)を出力できず、電動発電機12の速度に脈動が生じる可能性がある。その結果、電動発電機12がキャパシタ19の充電量を素早く目標値に到達させることができなかったり、電動発電機12から唸り音が発生したり等するような電動発電機12の不安定な状態が生じうる。これに対して、インバータ18Aは、キャパシタ19の充電量が目標値にある程度近づいてきた状況において、電動発電機12の印加電圧、つまり、電圧指令値Vcomが閾値電圧Vthを下回ると、電動発電機12の制御態様を通常制御から低速・低負荷時制御に切り替える。これにより、上述のような電動発電機12の不安定な状態の発生を抑制することができる。
【0064】
[電動発電機に関する制御処理]
次に、図4を参照して、インバータ18A(制御回路)による電動発電機12に関する制御処理について説明する。
【0065】
図4は、インバータ18A(制御回路)による電動発電機12に関する制御処理の一例を概略的に示すフローチャートである。具体的には、図4は、上述の通常制御と低速・低負荷時制御とを切り替えるための制御処理の具体例である。本フローチャートによる処理は、例えば、ショベルの起動(具体的には、起動後の初期処理が完了した後)から停止までの間で、所定の制御周期ごとに繰り返し実行されてよい。
【0066】
ステップS102にて、インバータ18A(制御回路)は、制御過程で生成した電圧指令値Vcomが所定の閾値電圧Vth以上であるか否かを判定する。インバータ18Aは、電圧指令値Vcomが所定の閾値電圧Vth以上である場合、ステップS104に進み、それ以外の場合(つまり、電圧指令値Vcomが所定の閾値電圧Vthを下回る場合)、ステップS106に進む。
【0067】
ステップS104にて、インバータ18Aは、電動発電機12の制御態様を通常制御に設定し、今回の処理を終了する。
【0068】
一方、ステップS106にて、インバータ18Aは、電動発電機12の制御態様を低速・低負荷時制御に設定し、今回の処理を終了する。
【0069】
[本実施形態の作用]
次に、本実施形態に係るショベル(インバータ18A)の作用について説明する。
【0070】
本実施形態では、インバータ18Aの制御回路は、相対的に速度が低い低速状態の場合であっても、電動発電機12の電圧が相対的に高くなるように制御する。また、インバータ18Aの制御回路の制御下で、電動発電機12は、相対的に速度が低い低速状態の場合と、相対的に速度が高い高速状態の場合とで、電流位相が異なるように動作する。
【0071】
これにより、インバータ18Aの制御回路は、電動発電機12の電圧が低くなり過ぎないようにすることができる。そのため、インバータ18Aの制御回路は、インバータ18Aの変換回路のデッドタイムの影響を抑制することができる。インバータ18Aの変換回路のデッドタイムの影響は、上述の如く、電動発電機12の相電流、相電圧が相対的に低い、低速・低負荷状態の場合に大きくなるからである。
【0072】
また、本実施形態では、インバータ18Aの制御回路は、電動発電機12の電圧が所定の閾値電圧Vth以上になるように、電動発電機12の電流を制御してよい。
【0073】
これにより、インバータ18Aの制御回路は、具体的に、電動発電機12の電圧が所定の閾値電圧Vth以下にならないようにすることができる。
【0074】
また、本実施形態では、インバータ18Aの制御回路は、電動発電機12の電圧が閾値電圧Vthを下回った場合、電動発電機12のd軸電流を相対的に大きくなるように制御してよい。
【0075】
これにより、インバータ18Aの制御回路は、トルクへの影響を抑制しつつ、電動発電機12の電圧をある程度高く保持させることができる。
【0076】
また、本実施形態では、インバータ18Aの制御回路は、電動発電機12の電圧が所定の閾値電圧Vthを下回った場合、電動発電機12が出力するべきトルク(つまり、トルク指令値Tcomに対応するトルク)を維持させながら、電動発電機12のd軸電流を相対的に大きくなるように制御してよい。
【0077】
これにより、インバータ18Aの制御回路は、具体的に、トルクへの影響を防止しつつ、電動発電機12の電圧をある程度高く保持させることができる。
【0078】
また、本実施形態では、インバータ18Aの制御回路は、電動発電機12の電圧が所定の閾値電圧Vthを下回った場合、電動発電機12のd軸電流を相対的に大きくなるように、且つ、q軸電流を相対的に小さくなるように制御してよい。
【0079】
これにより、インバータ18Aは、電動発電機12がIPMモータである場合に、具体的に、トルクへの影響を防止しつつ、電動発電機12の電圧をある程度高く保持させることができる。
【0080】
[変形・変更]
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0081】
また、上述した実施形態及び変形例において、ショベルの代わりに、任意の電動機(例えば、油圧駆動系の動力源としての電動機を備える任意の作業機械(産業用車両、フォークリフト、クレーン等)が採用されてもよい。
【0082】
また、上述した実施形態及び変形例における電動発電機12の制御方法(つまり、低速・低負荷時制御、及び通常制御との切替方法等)は、電圧測定値を代用して電圧指令値が用いられるセンサレス制御が実装される、任意の電動機に適用されてもよい。例えば、ハイブリッド車両に搭載される駆動用モータを対象として、上述の制御方法が採用されてもよい。
【符号の説明】
【0083】
11 エンジン
12 電動発電機(電動機)
12s1 電流センサ
14 メインポンプ
18A インバータ(制御装置)
30 制御装置
30A ショベルコントローラ
30B ハイブリッドコントローラ
30C エンジンコントローラ
図1
図2
図3
図4