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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240426BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20240426BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P21/22
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019117692
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021005922
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】ハディナタ アグネス
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
(72)【発明者】
【氏名】杉本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田口 義行
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/115240(WO,A1)
【文献】特開昭62-272891(JP,A)
【文献】特開2000-308400(JP,A)
【文献】特開2008-061477(JP,A)
【文献】特開2007-014080(JP,A)
【文献】特開平03-218291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42~ 7/98
H02P21/00~25/03
H02P25/04
H02P25/10~27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導モータを駆動するスイッチング素子を有する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
誘導モータに流れる電流のq軸の電流検出値およびd軸の電流検出値を算出する第一の座標変換部と、
q軸の電流検出値の絶対値からd軸の電流検出値を減算した電流の偏差を求める減算部と、
前記偏差を比例演算する比例演算部と、積分演算する積分演算部と、前記比例演算部および前記積分演算部の出力を加算し、q軸の電圧指令値の電圧修正値を求める第一の加算部を備える電圧指令修正演算部と、
前記制御部が第二の座標変換部に出力するq軸の電圧指令値に前記電圧修正値を加算した第2のq軸電圧指令値を求める第二の加算部と、
d軸の電圧指令値と第2のq軸電圧指令値と、位相演算値から3相交流の電圧指令値を前記電力変換器へ出力する第二の座標変換部とを備え、
q軸の電流検出値の絶対値にd軸の電流検出値が追従するようにq軸の電圧指令値を修正する制御を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
誘導モータを駆動するスイッチング素子を有する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
誘導モータに流れる電流のq軸の電流検出値およびd軸の電流検出値を算出する第一の座標変換部と、
q軸の電流検出値と第2のq軸の電圧指令値を乗算し有効電力を求める第一の乗算部と、
d軸の電流検出値と第2のq軸の電圧指令値を乗算し無効電力を求める第二の乗算部と、
前記有効電力の絶対値から前記無効電力の絶対値を減算し電力偏差を求める減算部と、
前記電力偏差の比例演算を行う比例演算部と、
前記電力偏差の積分演算を行う積分演算部と、
前記比例演算部および前記積分演算部の出力を加算しq軸の電圧指令値の電圧修正値を求める第一の加算部とを備える電圧指令修正演算部と、
前記制御部が第二の座標変換部に出力するq軸の電圧指令値に前記電圧修正値を加算した第2のq軸電圧指令値を求める第二の加算部と、
d軸の電圧指令値と第2のq軸電圧指令値と、位相演算値から3相交流の電圧指令値を前記電力変換器へ出力する第二の座標変換部とを備え、
q軸の電流検出値の絶対値にd軸の電流検出値が追従するようにq軸の電圧指令値を修正する制御を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
d軸の電圧指令値は零であり、
周波数指令値に比例したq軸の電圧指令値を出力するV/f制御演算部を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記誘導モータの周波数指令値に基づいて、前記比例演算と前記積分演算の制御ゲインを修正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記誘導モータの周波数指令値に基づいて、前記比例演算と前記積分演算の制御ゲインを修正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部のパラメータを記録する記録部を有し、
デジタル・オペレータやパーソナル・コンピュータあるいはタブレット、スマートフォン機器と接続し、
前記パラメータを設定もしくは変更することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記誘導モータの電流を検出する電流検出器を有することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導モータの高効率制御方法としては、特許文献1がある。特許文献1には、油圧ユニットにおいて、油圧ポンプの吐出圧力または誘導モータのトルクに応じてベクトル制御に係る励磁電流を強制的に変更し、吐出圧力またはトルクに対する供給電力の電流を最小にすることが記載されている。
【0003】
そして、ベクトル制御部は、トルク指令値に対応する必要トルクを満たす誘導モータの供給電流の最小値を決定すること、および圧力と電流に関するテーブルを設け、誘導モータへの供給電流が最小となるように励磁電流指令値を設定する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-78169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、トルク指令値や、励磁電流演算部からの励磁電流指令値に基づいて、誘導モータの供給電流の最小値を決定している。しかし、モータに流れる電流を検出し、検出電流に基づいて、電流を低減するように高効率の制御をすることが求められる。
【0006】
また、特許文献1では、油圧ユニットごとに圧力/電流テーブルを準備する必要があり、圧力/電流テーブルなどは持たない汎用インバータには適用できない問題があった。
【0007】
本発明の目的は、高効率な制御特性の電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい一例は、誘導モータを駆動するスイッチング素子を有する電力変換器と、前記電力変換器を制御する制御部とを有し、前記制御部は、誘導モータに流れる電流のq軸の電流検出値およびd軸の電流検出値を算出する第一の座標変換部と、前記偏差を比例演算する比例演算部と、積分演算する積分演算部と、前記比例演算部および前記積分演算部の出力を加算し、q軸の電圧指令値の電圧修正値を求める第一の加算部を備える電圧指令修正演算部と、前記制御部が第二の座標変換部に出力するq軸の電圧指令値に前記電圧修正値を加算した第2のq軸電圧指令値を求める第二の加算部と、d軸の電圧指令値と第2のq軸電圧指令値と、位相演算値から3相交流の電圧指令値を前記電力変換器へ出力する第二の座標変換部とを備え、q軸の電流検出値の絶対値にd軸の電流検出値が追従するようにq軸の電圧指令値を修正する制御を行う電力変換装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高効率な制御特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1における電力変換装置と誘導モータを含むシステム構成図。
図2】実施例1における電圧指令修正演算部の構成を示す図。
図3】誘導モータの電流ベクトルを示す図。
図4】電流制御特性を示す図。
図5】実施例1の電圧指令修正演算部の変形例を示す図。
図6】検証方法を説明する図。
図7】実施例2における電力変換装置と誘導モータを含むシステム構成図。
図8】実施例2における電圧指令修正演算部の構成を示す図。
図9】実施例3における電力変換装置と誘導モータを含むシステム構成図。
図10】実施例3における励磁電流指令演算部の構成を示す図。
図11】実施例4における電力変換装置と誘導モータを含む誘導モータ駆動システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1における電力変換装置と外部装置である誘導モータ1を含むシステム構成図である。誘導モータ1は、磁束軸(d軸)成分の励磁電流により発生する磁束と、磁束軸に直行するトルク軸(q軸)成分のトルク電流によりトルクを発生する。
【0013】
電力変換器2は、スイッチング素子としての半導体素子を備える。電力変換器2は、3相交流の電圧指令値vu *、vv *、vw *を入力し、3相交流の電圧指令値vu *、vv *、vw *に比例した電圧値を作成して出力する。電力変換器2の出力に基づいて、誘導モータ1の出力電圧値と出力周波数値は可変にできる。スイッチング素子としてIGBTを使うようにしてもよい。
【0014】
直流電源3は、電力変換器2に直流電圧を供給する。
【0015】
電流検出器4は、誘導モータ1の3相の交流電流iu、iv、iwの検出値であるiuc、ivc、iwcを出力する。電流検出器4は、誘導モータ1の3相の内の2相、例えば、u相とw相の線電流を検出し、v相の線電流は、交流条件(iu+iv+iw=0)から、iv=-(iu+iw)として求めてもよい。
【0016】
本実施例では、電流検出器4は、電力変換装置内に設けた例を示したが、電力変換装置の外部に設けてもよい。
【0017】
制御部は、以下に説明する座標変換部5、V/f制御演算部6、電圧指令修正演算部7、位相演算部8、加算部9、座標変換部10を備える。そして、制御部は、電力変換器2を制御する。
【0018】
制御部は、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSP(Digital Signal Processor)などの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成される。
【0019】
次に、電力変換器2を制御する制御部の各構成要素について、説明する。
座標変換部5は、3相の交流電流iu、iv、iwの交流電流検出値iuc、ivc、iwcと位相演算値θdcからd軸の電流検出値idcおよびq軸の電流検出値iqcを算出して出力する。
【0020】
V/f制御演算部6は、零の値であるd軸の電圧指令値vdc *と周波数指令値ωr *に比例したq軸の電圧指令値vqc *を出力する。
【0021】
電圧指令修正演算部7は、q軸の電流検出値iqcとd軸の電流検出値idcに基づいて演算したq軸の電圧修正値Δvqc *を出力する。
【0022】
位相演算部8は、周波数指令値ωr *を積分して位相演算値θdcを出力する。
【0023】
加算部9は、q軸の電圧指令値vqc *とq軸の電圧修正値Δvqc *を加算して第2のq軸の電圧指令値vqc **を出力する。
【0024】
座標変換部10は、d軸の電圧指令値vdc *とq軸の電圧指令値vqc **と、位相演算値θdcから3相交流の電圧指令値vu *、vv *、vw *を出力する。
【0025】
最初に、本実施例の特徴である電圧指令修正演算部7を用いた場合のV/f制御方式の基本動作について説明する。
【0026】
V/f制御演算部6では、零の値であるd軸の電圧指令値vdc *と周波数指令値ωr *と直流電圧EDCを用いて(数1)に従いq軸の電圧指令値vqc *を出力する。
【0027】
【数1】
ここで、ωr_maxは基底角周波数である。
【0028】
位相演算部8では(数2)に従い誘導モータ1の磁束軸の位相θdcを演算する。
【0029】
【数2】
【0030】
図2は、実施例1における電圧指令修正演算部7の機能ブロックを示す図である。
絶対値演算部71では、q軸の電流検出値iqcが入力されiqcの絶対値|iqc|を出力する。
【0031】
減算部72では、iqcの絶対値|iqc|とd軸の電流検出値idcが入力され電流偏差Δiを出力する。電流偏差Δiは比例ゲインKpの定数を持つ比例演算部73と、Kiの定数を持つ積分演算部74に入力され、それらの出力信号は加算部75に入力される。その結果(数3)に示す演算よりq軸の電圧指令値vqc *の修正値Δvqc *が演算される。ここでKp1は比例ゲイン、Ki1は積分ゲインである。
【0032】
【数3】
【0033】
本実施例が高効率となる原理について説明する。図3は、誘導モータ1の電流ベクトルを示す図である。励磁電流idにより発生する磁束の方向をd軸、それよりπ/2進んだ方向をトルク軸であるq軸とよび、モータ電流i1と励磁電流idとの位相角をθiとすると、励磁電流id、トルク電流iqは(4)式で与えられる。ここで、モータ電流i1は交流電流検出値iuc、ivc、iwcのいずれかのピーク値としてよい。
【0034】
【数4】
【0035】
(数4)において位相角θi =π/4のとき、同一トルクにおいてモータ電流i1は(数5)の関係で最小となる。
【0036】
【数5】
【0037】
誘導モータ1のトルクは(数6)で与えられる。
【0038】
【数6】
ここで、Mは相互インダクタンス、L2は二次インダクタンス、φ2dはd軸二次磁束、φ2qはq軸二次磁束である。
【0039】
ここでモータ制御における磁束の理想条件は(数7)であり、
【0040】
【数7】
【0041】
(数7)を(数6)に代入すると(数8)が得られる。
【0042】
【数8】
【0043】
さらに(数5)を(数8)に代入するとモータ電流が最小におけるトルク式である(数9)が得られる。
【0044】
【数9】
【0045】
本実施例では、力行/回生運転の両方に対応するため、トルク電流iqの絶対値を演算し、励磁電流idが追従するようにq軸の電圧指令値vqc *を修正している。
【0046】
図4は、実施例1と比較例の電流制御特性を示す図である。左図(a)はV/f制御で電圧指令修正演算部7を動作させてない状態、右図(b)は電圧指令修正演算部7を動作させている状態である。
【0047】
図4(a)と図4(b)ともにランプ状の負荷トルクを図中のA点から与え始め、図中のB点で定格トルクの大きさとなり、B点より右以降は定格トルクを与えたままの状態である。(a)の電流値を100%とすると(b)の電流値は88.6%であり約11.4%低減していることがわかる。本実施例の効果は明白である。
【0048】
本実施例は、制御部が、q軸の電流検出値iqcの絶対値にd軸の電流検出値idcが追従するようにq軸の電圧指令値vqc *を修正する制御をすることで、V/f制御の電流特性に比べ、電流値がより少なく高効率な電流特性を実現することができている。
【0049】
また、本実施例では、電圧指令修正演算部7において、比例演算と積分演算のゲイン(Kp、Ki)は固定値としているが、図5に示すように周波数指令値ωr *に応じて変化させてもよい。図5は、実施例1の変形例を示す図であり、周波数指令値ωr *に応じて比例演算と積分演算のゲイン(Kp、Ki)を変化させる電圧指令修正演算部7aの機能ブロックを示す図である。
【0050】
図5における電圧指令修正演算部7aは、図2における電圧指令修正演算部7の変形例である。また図5における7a1、7a2は図2の絶対値演算部71、減算部72と同一物である。
【0051】
図5に示すように、q軸の電流検出値iqcの絶対値|iqc|とd軸の電流検出値idcの偏差であるΔiは、周波数指令値ωr *の大きさに応じて変化する比例演算のゲインKp1を持つ比例演算部7a3と、周波数指令値ωr *の大きさに応じて変化する積分演算のゲインKi1を持つ積分演算部7a4に入力され、それらの出力値は加算部7a5で加算され、q軸の電圧指令値vqc *の修正値Δvqc **として出力される。
【0052】
図5において、周波数指令値ωr *の大きさに略比例して、Kp1、Ki1を変化させることで、q軸の電流検出値iqcの絶対値|iqc|にd軸の電流検出値idcが追従する作用は周波数に応じて変化する。つまり低速域から高速域において、高効率制御に係わるフィードバック・ループの安定性を向上することができ、より短時間でモータ電流値の最小化を実現することができる。
【0053】
図6は、本実施例を採用した場合の検証方法を説明する図である。誘導モータ1を駆動する電力変換装置20に電流検出器21を取り付け、誘導モータ1のシャフトにエンコーダ22を取り付ける。
【0054】
ベクトル電流成分の計算部23には、電流検出器21の出力である三相交流の電流検出値(iuc、ivc、iwc)とエンコーダの出力である位置θが入力され、ベクトル電流成分のd軸の電流検出値idc、q軸の電流検出値iqcを出力する。
【0055】
各部波形の観測部24では、図4(b)図中のようにd軸の電流検出値idcよりq軸の電流検出値iqcが大きい場合、d軸の電流検出値idcがq軸の電流検出値iqcに追従していれば、本実施例を採用していることが明白となる。
【実施例2】
【0056】
図7は、実施例2における電力変換装置と誘導モータ1を含むシステムの構成を示す図である。実施例1では、トルク電流iqの絶対値を演算し、励磁電流idを追従させる方式としたが、本実施例は有効電力の絶対値|Pc|に無効電力の絶対値|Qc|を追従させる方式である。
【0057】
図7において、誘導モータ1、電力変換器2、電流検出器4、座標変換部5、V/f制御演算部6、位相演算部8、加算部9、座標変換部10は図1と同一物である。制御部に含まれる電圧指令修正演算部7bは、有効電力演算値の絶対値|Pc|と無効電力演算値の絶対値|Qc|に基づいて、q軸の電圧指令値v qc ** の修正値Δvqc ***を出力する。
【0058】
図8は、電圧指令修正演算部7bの構成を示す。7b3は比例演算部を示す。7b4は積分演算部を示す。7b5は加算部75を示す。乗算部7b6には、q軸の電圧指令値vqc **とq軸の電流検出値iqcが入力され、それらの乗算値である有効電力演算値Pcを出力する。絶対値演算部7b7には、乗算部7b6の出力である有効電力演算値Pcが入力されPcの絶対値|Pc|を出力する。
【0059】
乗算部7b8には、q軸の電圧指令値vqc **とd軸の電流検出値idcが入力され、それらの乗算値である無効電力演算値Qcを出力する。絶対値演算部7b9には、乗算部7b8の出力である無効電力演算値Qcが入力されQcの絶対値|Qc|を出力する。
【0060】
減算部7b2では、Pcの絶対値|Pc|とQcの絶対値|Qc|が入力され電力偏差Δpを出力する。電力偏差Δpは比例ゲインKpの定数を持つ比例演算部7b3と、Kiの定数を持つ積分演算部7b4に入力され、それらの出力信号は加算部7b5に入力される。(数10)に示す演算よりq軸の電圧指令値vqc *の修正値Δvqc ***が演算される。
【0061】
【数10】
ここでKp2は比例ゲイン、Ki2は積分ゲインである。
【0062】
ここで本実施例が高効率となる原理について説明する。d軸の電圧指令値vdc *=0のとき制御軸上で演算される有効電力Pcは(数11)で与えられる。
【0063】
【数11】
【0064】
有効電力Pcの絶対値は(数12)である。
【0065】
【数12】
【0066】
また制御軸上で演算される無効電力Qcは(数13)で与えられる。
【0067】
【数13】
【0068】
無効電力Qcの絶対値は(数14)である。
【0069】
【数14】
【0070】
|Pc|と|Q|を用いてq軸の電圧指令値vqc *を修正する。(数12)=(数14)となるように制御すると次式が与えられる。
【0071】
【数15】
【0072】
その結果、実施例1は直接的であったが、実施例2では間接的にidc(d軸の電流検出値)=iqc(q軸の電流検出値)とすることで高効率な運転を実現できる。
【0073】
実施例2において、図5の例と同様に、周波数指令値ωr *の大きさに略比例して、比例演算のゲインKp1、積分演算のゲインKi1を変化させることで、低速域から高速域において、高効率制御に係わるフィードバック・ループの安定性を向上することができ、より短時間でモータ電流値の最小化を実現することができる。
【実施例3】
【0074】
図9は、実施例3における電力変換装置と誘導モータを含むシステム構成図である。実施例1および実施例2では、誘導モータ1をV/f制御する方式であったが、実施例3は、速度制御と電流制御およびベクトル制御の演算をする方式である。
【0075】
図9において誘導モータ1、電力変換器2、直流電源3、電流検出器4、座標変換部5、位相演算部8、座標変換部10は、図1と同一物である。
【0076】
制御部は、座標変換部5、位相演算部8、座標変換部10、フィードバック制御演算部11、励磁電流指令演算部12、周波数推定演算部13を備える。そして、制御部は、電力変換器2を制御する。
【0077】
フィードバック制御演算部11は、第2の励磁電流指令id **、d軸の電流検出値idc、q軸の電流検出値iqcと、推定周波数ωr ^および出力周波数ω1 *を入力する。フィードバック制御演算部11の内部では、速度制御と電流制御およびベクトル制御のフィードバック制御を演算する。推定周波数ωr ^は速度推定値として用いられる。
【0078】
第2の励磁電流指令である第2のd軸の電流指令値id **は可変値となり、誘導モータ1内部に可変するd軸の二次磁束φ2dを発生させる。
速度制御は、周波数指令値ωr *に推定周波数ωr ^が追従するように、比例制御と積分制御により(数16)に従いトルク電流指令であるq軸の電流指令値iq *を演算する。
【0079】
【数16】
ここで、Kspは速度制御の比例ゲイン、Ksiは速度制御の積分ゲインである。
【0080】
ベクトル制御は、第2の励磁電流指令であるd軸の電流指令値id **とq軸の電流指令値iq *と、誘導モータ1の電気回路定数(R1、Lσ、M、L2)、d軸の二次磁束指令値φ2d *および出力周波数ω *を用いて、(数17)に従い電圧指令値vdc *、vqc *を演算する。
【0081】
【数17】
ここで、Tacrは電流制御遅れ相当の時定数、R1は一次抵抗値、Lσは漏れインダクタンス値、Mは相互インダクタンス値、L2は二次側インダクタンス値である。
【0082】
電流制御は、第2のd軸の電流指令値id **およびq軸の電流指令値iq *に、各成分であるd軸の電流検出値idc、q軸の電流検出値iqcが追従するよう比例制御と積分制御により(数18)に従い、d軸の電圧補正値Δvdcとq軸の電圧補正値Δvqcを演算する。
【0083】
【数18】
【0084】
ここで、Kpdはd軸の電流制御の比例ゲイン、Kidはd軸の電流制御の積分ゲイン、Kpqはq軸の電流制御の比例ゲイン、Kiqはq軸の電流制御の積分ゲインである。
さらに(数19)に従い、d軸の電圧指令値vdc **とq軸の電圧指令値vqc **を演算する。
【0085】
【数19】
【0086】
図10は、励磁電流指令演算部12の機能ブロック図を示す。
絶対値演算部121では、q軸の電流指令値iq *が入力されiq *の絶対値|iq *|を出力する。加算部122では、第1のd軸の電流指令値id *と修正電流指令Δid *が加算され第2のd軸の電流指令値id **を出力する。
【0087】
減算部123では、iq *の絶対値|iq *|と第2のd軸の電流指令値id **が入力され電流指令偏差Δi*を出力する。電流指令偏差Δi*は比例ゲインKp3の定数を持つ比例演算部124と、Ki3の定数を持つ積分演算部125に入力され、それらの出力信号は加算部126に入力される。
【0088】
加算部122では(数20)に示す演算より、第2のd軸の電流指令値id **が出力される。
【0089】
【数20】
【0090】
周波数推定演算部13では、(数21)により誘導モータ1の速度推定値(推定周波数)ωr ^と出力周波数ω1 *を演算する。
【0091】
【数21】
【0092】
ここで、R*:一次抵抗値と二次抵抗の一次側換算の加算値、Tobs:オブザーバ時定数、T2:二次時定数値である。
【0093】
V/f制御の代わりに、速度制御と電流制御およびベクトル制御を演算するような本実施例でも、第2のd軸の電流指令値id **をq軸の電流指令値iq *の絶対値に追従するように制御する。
【0094】
そのような制御をすることで、高効率な運転を実現することができる。なお、本実施例では速度推定値(推定周波数)ωr ^を演算しているが、誘導モータ1にエンコーダを取り付けて、速度検出値ωrを検出するようにしてもよい。
【0095】
実施例3において、図5の例と同様に、周波数指令値ωr *の大きさに略比例して、比例演算のゲインKp1、積分演算のゲインKi1を変化させることで、低速域から高速域において、高効率制御に係わるフィードバック・ループの安定性を向上することができ、より短時間でモータ電流値の最小化を実現することができる。
【実施例4】
【0096】
図11は、実施例4における電力変換装置と誘導モータ1を含む誘導モータ駆動システムの構成図である。
本実施例は、誘導モータ駆動システムに本実施例を適用したものである。
【0097】
図11において、構成要素の誘導モータ1、座標変換部5、V/f制御演算部6、電圧指令修正演算部7、位相演算部8、加算部9、座標変換部10は、図1と同一物である。
【0098】
図1の構成要素である誘導モータ1は、電力変換装置20により駆動される。電力変換装置20には、図1の座標変換部5、V/f制御演算部6、電圧指令修正演算部7、位相演算部8、加算部9、座標変換部10はソフトウェア20a、図1の電力変換器2、直流電源3、電流検出器4はハードウェアとして実装されている。
【0099】
またデジタル・オペレータ20b、パーソナル・コンピュータ28、タブレット29、スマートフォン30などの上位装置により、ソフトウェア20aの所定の比例ゲイン25と所定の積分ゲイン26を設定・変更することができる。
【0100】
本実施例を誘導モータ駆動システムに適用すれば、V/f制御や速度センサレスベクトル制御において高効率な運転を実現することができる。また所定のパラメータである比例ゲイン25、所定のパラメータである積分ゲイン26はプログラマブル・ロジック・コントローラ、コンピュータと接続するローカル・エリア・ネットワーク、制御装置のフィールドバス上で設定してもよい。
【0101】
さらに本実施例では実施例1を用いて開示してあるが、実施例2もしくは実施例3を用いても良い。ここまでの実施例1および実施例2はV/f制御をする方式であった。
【0102】
実施例3においては、第2のd軸の電流指令値id **、q軸の電流指令値iq *とd軸の電流検出値idc、q軸の電流検出値iqcから電圧補正値Δvdc、Δvqcを作成し、この電圧補正値とベクトル制御の電圧指令値を加算する(数19)に示す演算を行った。
【0103】
その他の手法としては、第2のd軸の電流指令値id **、q軸の電流指令値iq *と電流検出値idc、iqcからベクトル制御演算に使用する(数22)に示す中間的な電流指令値id ***、iq **を作成する。そして、出力周波数値ω1 *および誘導モータ1の電気回路定数を用いて(数23)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0104】
【数22】
【0105】
ここで、Kpd1はd軸の電流制御の比例ゲイン、Kid1はd軸の電流制御の積分ゲイン、Kpq1はq軸の電流制御の比例ゲイン、Kiq1はq軸の電流制御の積分ゲイン、Tdはd軸の電気時定数(Lσ/R)、Tqはq軸の電気時定数(Lσ/R)である。
【0106】
【数23】
【0107】
あるいは第2のd軸の電流指令値id **、q軸の電流指令値iq *にd軸の電流検出値idc、q軸の電流検出値iqcから、ベクトル制御演算に使用するd軸の比例演算成分の電圧修正値Δvd_p *、d軸の積分演算成分の電圧修正値Δvd_i *、q軸の比例演算成分の電圧修正値Δvq_p *、q軸の積分演算成分の電圧修正値Δvq_i *を(数24)により作成する。そして、出力周波数値ω1 *および誘導モータ1の電気回路定数を用いた(数25)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0108】
【数24】
【0109】
ここで、Kpd2はd軸の電流制御の比例ゲイン、Kid2はd軸の電流制御の積分ゲイン、Kpq2はq軸の電流制御の比例ゲイン、Kiq2はq軸の電流制御の積分ゲインである。
【0110】
【数25】
【0111】
また第2のd軸の電流指令値id **およびq軸の電流検出値iqcの一次遅れ信号iqctdおよび周波数指令値ωr *および誘導モータ1の電気回路定数を用いて(数26)に示す出力周波数指令値ω1 **と(数27)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0112】
【数26】
【0113】
【数27】
【0114】
ここで、iqctdはiqcを一次遅れフィルタに通した信号である。
ここまでの実施例1から実施例3においては、周波数推定演算部13では(数21)に従い推定周波数ωr ^(速度推定値)、出力周波数ω1 *を演算していたが、q軸電流制御で電流制御と速度推定を併用する方式でも良い。(数28)に示すように速度推定値ωr ^^を演算する。
【0115】
【数28】
【0116】
ここで、Kpq3は電流制御の比例ゲイン、Kiq3は電流制御の積分ゲインである。
さらに、実施例3におけるフィードバック制御演算部11において、(数21)あるいは(数28)に従い速度推定値を演算していたが、誘導モータ1にエンコーダを取りつけ、エンコーダ信号から速度検出値を演算する方式でも良い。
【0117】
なお実施例1から実施例4において、電力変換器2を構成するスイッチング素子としては、Si(シリコン)半導体素子であっても、SiC(シリコンカーバイト)やGaN(ガリュームナイトライド)などのワイドバンドギャップ半導体素子であってもよい。
【符号の説明】
【0118】
1…誘導モータ、2…電力変換器、3…直流電源、4…電流検出器、5…座標変換部、6…V/f制御演算部、7…電圧指令修正演算部、8…位相演算部、9…加算部、10…座標変換部、11…フィードバック制御演算部、12…励磁電流指令演算部、13…周波数推定演算部、20…電力変換装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11