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特許7479136偏光発光素子、偏光発光板、並びにそれを用いた表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】偏光発光素子、偏光発光板、並びにそれを用いた表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240426BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240426BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240426BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20240426BHJP
   G02F 1/13357 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
G02B5/30
C09K11/06
G02B5/20
G02F1/1335 510
G02F1/13357
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019209265
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2020091478
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2018219020
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155516
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 亜子佳
(72)【発明者】
【氏名】望月 典明
(72)【発明者】
【氏名】森田 陵太郎
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-174809(JP,A)
【文献】特開2007-264011(JP,A)
【文献】特開2001-174636(JP,A)
【文献】国際公開第2014/133110(WO,A1)
【文献】特開2001-264756(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0102588(US,A1)
【文献】特表2012-502322(JP,A)
【文献】特開2015-036733(JP,A)
【文献】特開2002-116325(JP,A)
【文献】特許第7287889(JP,B2)
【文献】山下芳男,非対称4,4’-ジアミノスチルベン-2,2’-ジスルホン酸ナトリウム水溶液のケイ光性と光安定性,有機合成化学,日本,有機合成化学協会,1972年,第30巻/第9号,818-822
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13357
G02B 5/20
G02F 1/1335
C09K 11/06
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近紫外~近紫外可視域の光を吸収し、該吸収した光を利用して発光する機能と、該発光した光を利用して可視域の波長を有する偏光した光を発光する機能と、を有する偏光発光素子であり、
前記偏光発光素子は、基材に偏光発光色素が吸着・配向し、
前記基材は、ポリビニルアルコール系樹脂及びその誘導体であり、
前記偏光発光色素は、少なくとも、式(1)で表される化合物又はその塩、式(5)で表される化合物又はその塩、及び式(6-1)で表される化合物又はその塩、からなる群から選択される化合物(b)を含む偏光発光素子。
【化1】
(上記式(1)において、L及びMは、各々独立に、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいカルボニルアミド基、置換基を有してもよいナフトトリアゾール基、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよいビニル基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいウレイド基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有しても良いカルボニル基を表す。)
【化2】
(上記式(5)において、jは、0~2の整数であって、R 、R 、R 、及びR はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数が1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アラルキロキシ基、アルケニロキシ基、炭素数1~4のアルキルスルホニル基、炭素数6~20のアリールスルホニル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、カルボキシアルキル基からなる群より選択される基である。)
【化3】
(上記式(6-1)中、Aは置換基を有してもよいクマリン骨格を表し、Xはスルホ基又はカルボキシ基を表し、nは1~3の整数を表す。)
【請求項2】
上記偏光発光素子が、少なくとも300~360nmの波長域の光を吸収し、少なくとも400~700nmの波長域に発光波長を有する光を発光する請求項1に記載の偏光発光素子。
【請求項3】
上記偏光発光素子が、少なくとも300~360nmの波長域の光を吸収し、少なくとも350~430nmの波長域に発光波長を有する光を発光する化合物(a)を含む請求項1または2に記載の偏光発光素子。
【請求項4】
上記化合物(b)が、少なくとも350~430nmの波長域の光を吸収し、少なくとも400~700nmの波長域に発光波長を有する光を発光する化合物である請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光発光素子。
【請求項5】
上記偏光発光素子が発する光が、直線偏光の光である請求項1~4のいずれか一項に記載の偏光発光素子。
【請求項6】
上記化合物(b)が、配向することによって吸収異方性を発現する化合物である請求項1~5のいずれか一項に記載の偏光発光素子。
【請求項7】
上記化合物(a)が、配向することによって吸収異方性を発現する化合物である請求項に記載の偏光発光素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の偏光発光素子を備える偏光発光板。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の偏光発光素子、または請求項に記載の偏光発光板を備える表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度で偏光を発光する偏光発光素子、偏光発光板、並びにそれを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過あるいは遮蔽の機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶とともに液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)等の表示装置の基本構成要素である。このLCDの適用分野は、市販初期の電卓、時計等の小型機器から、ノートパソコン、ワープロ、液晶プロジェクター、液晶テレビ、カーナビゲーション、屋内外の情報表示装置、計測機器等へと広がりつつある。また、偏光板は、偏光機能を有するレンズへの適用も可能であり、視認性を向上させたサングラスや、近年では、3Dテレビなどに対応する偏光メガネなどへの応用がなされており、ウェアラブル端末をはじめとする身近な情報端末への応用や、一部実用化もされつつある。偏光板の用途は多岐に渡り、その使用環境も、低温~高温、低湿度~高湿度、及び低光量~高光量の幅広い条件となっていることから、偏光性能が高くかつ耐久性に優れた偏光板が求められている。
【0003】
一般に、偏光板に含まれる偏光膜は、延伸配向したポリビニルアルコール又はその誘導体のフィルムにヨウ素や二色性染料を染色又は含有せしめるか、あるいは、ポリ塩化ビニルフィルムの脱塩酸又はポリビニルアルコール系フィルムの脱水によりポリエンを生成して配向せしめることにより製造される。製造された偏光板は、可視域に吸収を有するヨウ素や二色性染料を含むため、一般に透過率が低下する。例えば、市販されている一般的な偏光板の透過率は35~45%である。
【0004】
また、偏光板の偏光性能を示す指標の一つである「偏光度」において、100%の偏光度を出すには、2次元平面に、x軸およびy軸の光が存在した場合、一方の軸の光のみを吸収する必要がある。よって、一般的な偏光板では、一方の軸の光のみを吸収するために、ヨウ素や二色性染料を用いている。一方の軸の光のみを吸収した場合、100%の入射光量に対して、偏光板を透過する光量は、原理上、50%以下となってしまう。更に、ヨウ素や二色性染料の配向不良による偏光度の低下、フィルム媒体による光損失、フィルム表面の界面反射などが原因で、実際には50%よりさらに透過率が低下してしまい、その結果、従来の偏光板の透過率は35~45%と低くなってしまう。このような、一般的な偏光板の透過率が35~45%と低い問題に対して、可視域において、一定程度の透過率を保持しつつ、偏光機能を付与する技術として、紫外線用偏光板の技術が特許文献1に記載されている。しかし、この技術で得られる偏光板は黄色く着色してしまい、かつ、410nm付近の光に対してのみ偏光機能を示す偏光板しか提供できない。つまり、視認性の高い可視域の光に対して偏光機能を付与するものではない。
【0005】
可視域の光の透過率が低い偏光板、あるいは、偏光度の低い偏光板を、例えばディスプレイに用いると、ディスプレイ全体の輝度やコントラストが低下する。この問題を解決するため、従来の偏光板を用いずに偏光を得る方法が研究されており、方法の一つとして、偏光を発光する素子(偏光発光素子)が、特許文献2~6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2005/001527
【文献】特開2008-224854号公報
【文献】特許第5849255号公報
【文献】特許第5713360号公報
【文献】米国特許第3,276,316号
【文献】特開平4-226162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2~4に記載される偏光発光素子は、特殊な金属、例えば、ユーロピウムをはじめとするランタノイドなど、希少価値が高い金属を用いるため製造コストが高く、また、製造が難しく大量生産には不向きである。さらに、これらの偏光発光素子は、偏光度が低いため、ディスプレイに使用することが難しく、また、直線偏光である光の発光を得ることが難しい。加えて、特定の波長の円偏光発光しか得られないため、用途が限定され、例え、ディスプレイに使用したとしても輝度とコントラストがいずれも低く、液晶セルの設計も難しいといった問題があった。そのため、偏光発光作用を示し、その偏光発光度が高く、また可視光域での透過率が高く、過酷な環境下における耐久性が求められる液晶ディスプレイ等にも応用可能な新たな偏光板、およびそれに用いる材料開発が強く望まれている。一方で、特許文献5あるいは6のように、紫外線を照射して偏光を発光する素子に関する特許が開示されている。しかしながら、その発光する素子の偏光度、および輝度は著しく低く、いわゆる偏光のコントラストが低いため、ディスプレイ等に用いるには十分でなく、加えて、その耐光性も低い。
【0008】
本発明は、高い偏光度を有する光を発光しながらも、高い偏光発光輝度を有し、かつ、過酷な環境下での高い耐久性が求められる液晶ディスプレイ等にも応用可能な偏光を発光する偏光発光素子、これを用いた偏光発光板、並びに表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる目的を達成すべく鋭意研究を進めた結果、近紫外~近紫外可視域の光を吸収し、該吸収した光を利用して発光する機能と、該発光した光を利用して可視域の波長を有する偏光した光を発光する機能と、を有する偏光発光素子、並びにそれを用いた偏光発光板が、高い輝度な偏光した光を発光することが可能であり、高い耐久性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、1)~10)に関する。
1)
近紫外~近紫外可視域の光を吸収し、該吸収した光を利用して発光する機能と、該発光した光を利用して可視域の波長を有する偏光した光を発光する機能と、を有することを特徴とする偏光発光素子。
2)
上記偏光発光素子が、少なくとも300~360nmの波長域の光を吸収し、少なくとも400~700nmの波長域に発光波長を有する光を発光する1)に記載の偏光発光素子。
3)
上記偏光発光素子が、少なくとも300~360nmの波長域の光を吸収し、少なくとも350~430nmの波長域に発光波長を有する光を発光する化合物(a)を含む1)または2)に記載の偏光発光素子。
4)
上記偏光発光素子が、少なくとも350~430nmの波長域の光を吸収し、少なくとも400~700nmの波長域に発光波長を有する光を発光する化合物(b)を含む1)~3)のいずれか一項に記載の偏光発光素子。
5)
上記偏光発光素子が発する光が、直線偏光の光である1)~4)のいずれか一項に記載の偏光発光素子。
6)
上記化合物(b)が、配向することによって吸収異方性を発現する化合物である4)または5)に記載の偏光発光素子。
7)
上記化合物(a)が、配向することによって吸収異方性を発現する化合物である3)~6)のいずれか一項に記載の偏光発光素子。
8)
上記化合物(b)が、スチルベン骨格、ビフェニル骨格、クマリン骨格、からなる群から選択されるいずれか骨格を少なくとも分子内に有することを特徴とする請求項4~7のいずれか一項に記載の偏光発光素子。
9)
1)~8)のいずれか一項に記載の偏光発光素子を備える偏光発光板。
10)
1)~8)のいずれか一項に記載の偏光発光素子、または9)に記載の偏光発光板を備える表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る偏光発光素子、及びそれを用いた偏光発光板は、入射された光を高効率に利用しながら、発光波長において高い偏光作用を発現させるとともに、高輝度な発光作用を発現し、かつ高い耐久性を付与させることができる。本発明によれば、自然界の光、あるいは人工の光を高効率に吸収し、偏光発光を提供しうる染料の吸収波長へ、該光の波長を波長変換することによって、高効率での発光を付与させることができ、可視光領域での高い透過率を有しながらも、高い発光輝度を有する偏光発光素子を提供することができる。さらに、一般的に、一定の光、例えば紫外線によってポリマーや色素は劣化することが知られているが、本発明では、その劣化を引き起こす光エネルギーを発光に利用するため、劣化の原因となるエネルギーを実質的に抑制し、素子自体に高い耐久性を付することができ、特に高い耐光性が求められる表示装置、例えば液晶ディスプレイ等の表示装置に好適に用いることができる偏光発光素子を提供するに至る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明は、近紫外~近紫外可視域の光を吸収し、該吸収した光を利用して発光する機能と、該発光した光を利用して可視域の波長を有する偏光した光を発光する機能と、を有する偏光発光素子、それを用いた偏光発光板、及びそれらいずれかを備える表示装置を得るものである。
【0013】
上記偏光発光素子は、少なくとも300~360nmの波長域の光を吸収し、少なくとも400~700nmの波長域に発光波長を有する光を発光する素子であることが好ましい。上記300~360nmの波長域の光は、一般に紫外域の光とされ、人間の目では感知できないことが知られている。また、上記偏光発光素子が発光する光の波長は特に限定されず、近紫外~近紫外可視域の光であっても良いが、400~700nmの波長域、少なくともその波長域の一部の光を発光することが好ましい。即ち、上記偏光発光素子が近紫外~近紫外可視域の光を発光し、該光を利用して、可視域の波長を有する偏光した光を発光することが上記偏光発光素子の好ましい形態である。なお、本願の偏光発光素子の機能として、300~360nmの波長域の光を吸収し、該光を用いて発光し、その発光した光をさらに吸収し、可視域の光である400~700nmにおいて偏光した光を発光させるが、本願の偏光発光素子の機能として、300~360nmの波長域の光を吸収し、該光を用いて発光した光を、さらに該発光光量をすべて吸収して400~700の波長の発光に利用された場合には、実質的に少なくとも300~360nmの波長域の光を吸収し、少なくとも400~700nmの波長域に発光波長を有する光を発光する素子であるように示されることになる。
【0014】
上記偏光発光素子は、近紫外~近紫外可視域の光を吸収し、該吸収した光を利用して発光する化合物(a)、化合物(a)の発光した光を吸収し、該吸収した光を利用して可視域の波長を有する偏光した光を発光する化合物(b)、をそれぞれ含んでいることが本願の好ましい形態として挙げられる。
【0015】
上記化合物(a)は、300~360nmに光の吸収機能を有し、かつ350~430nmの光を発光しうる物質であることが好ましい。上記化合物(a)としては、例えば、2-(2-ピリジルアミノ)エチルアミン二塩酸塩(300nmの光を吸収し、380nmの光を発光)、9,10-フェナントレンキノン(310nmの光を吸収し、365nmの光を発光)、ジフェニル-1-ペレニルホスフィン(352nmの光を吸収し、380nmの光を発光)などが使用できるが、特に限定されるものではない。特に近年では、量子ドット、いわゆるクオンタム・ドットの開発が進んでおり、量子ドット粒子でも同様の機能を与えることができることが知られている。例えば、大日本塗料株式会社製 金量子ドットAu5~8(励起波長330nm、発光波長405nm)、Au13(励起波長330nm、発光波長510nm)、Au25(励起波長360nm、発光波長670nm)、が挙げられるが、これら物質に限定されるものではなく、無機物質、有機物質問わず用いることができる。上記化合物(a)は単独、あるいは複数を組合せて用いることも可能である。そういった化合物(a)は、後述する化合物(b)が含有した素子へ化合物(a)を含有させるか、もしくは素子表面に付着することによって本願の好ましい偏光発光素子を得ることができる。
【0016】
上記化合物(b)は、紫外~可視光域の光を吸収し、配向、もしくは異方性を発現することによって偏光した可視光を発光しうる化合物であれば特に限定されない。化合物(b)として好ましくは、少なくとも350~430nmの波長域の光を吸収し、少なくとも400~700nmの波長域に発光波長を有する光を発光するものであり、少なくとも近紫外~近紫外可視域に光吸収作用を有し、その波長の光を波長変換して可視域の偏光を発光させることができる化合物であることが好ましい。より好ましくは、最も吸収の強い波長、即ち極大吸収波長を350~430nmに有し、極大発光発光波長を400~700nmに有することが良い。近紫外~近紫外可視域に光吸収作用を有することによって、可視域の波長の光を吸収せず、透過率の高い素子を提供することができる。つまり、透過率が高いにも関わらず、可視偏光を発光しうる素子を提供することを可能とする。
【0017】
上記化合物(b)が発する光は、直線偏光である光であることが良い。化合物(b)が直線偏光である光を発光する素子であることで、液晶ディスプレイなどの表示装置自由度が向上する利点がある。直線偏光とは、一定の軸の方向の波として表すこともできる光である。直線に偏光した光、即ち一軸に偏光した光を発光することにより、液晶ディスプレイなどの表示装置の設計が行いやすくなる。市販の液晶ディスプレイや偏光レンズの多くが直線偏光である光を提供しうるヨウ素系偏光板や染料系偏光板、即ち、1軸吸収性を有する二色性色素を用いた偏光板を利用していることからも直線偏光が産業的利用に好適であることは容易に考えうることができる。一方で、円偏光や楕円偏光を利用しようとすると、液晶セル、しいてはそこで用いる液晶の配向の設計が複雑になってしまうか、もしくは位相差板などの設計が著しく複雑になってしまい、産業的な利用は困難になってしまうため、偏光した光は直線偏光であることが好ましい。直線偏光である光を発光するには、上記化合物(b)を、上記素子中で同一方向に配向させることによって達成しうる。また、化合物(b)を用い、同一方向の偏光を発光することにより、その発光強度は増大し、化合物(b)が同濃度で水溶液中における状態で発光している時の発光強度よりも、より強い光を提供しうるに至る。
【0018】
上記化合物(b)は、化合物が配向することによって、光を吸収する帯域において、吸収異方性を有する化合物であることが好ましい。化合物(b)は、上記偏光発光素子中で同一方向に配向させることによって化合物(b)が本来持つ発光強度よりも、より強い光を提供しうるに至ることができる。その際、化合物(b)は、発光だけでなく、吸収異方性を有することが良い。該吸収異方性とは、一般的に二色比(以下、RDとも記載する)として示されることがあり、その二色比によって色素の配向度(以下、Order Parameterと記載する場合がある)を算出することができる。上記二色比とは、最も吸収の強い軸の吸収量と、最も吸収の低い軸の吸収量との比であり、二色比の値が5~80であれば直線偏光である光を発光することが可能であり、10以上が良く、20以上が好ましく、30以上がより好ましく、40以上が特に好ましい。また、上記配向度は、下記式(I)で与えられる数値であり、0.85以上1.00以下であることが好ましく、特に好ましくは0.90以上0.96以下である。二色比の測定は化合物(b)が含有した層、即ち偏光発光素子の測定において、界面反射がない状態で測定することが好ましい。上記化合物(b)は単独、あるいは複数を組合せて用いることも可能である。
【0019】
(式1)
Order Parameter=(RD-1)/(RD+2) 式(I)
【0020】
上記化合物(b)としては、スチルベン骨格、ビフェニル骨格、クマリン骨格、からなる群から選択されるいずれか骨格を少なくとも分子内に有し、その化合物(b)が配向してなることが好ましい。上記偏光発光素子の作製方法として、下記の一つの形態を例として示す。
【0021】
<基材>
上記偏光発光素子は、後述する偏光発光色素を吸着・配向するための高分子フィルムを基材として用いる。該高分子フィルムは、好ましくは、一般的な二色性を有する偏光発光色素、特にスチルベン骨格、ビフェニル骨格、クマリン骨格、からなる群から選択されるいずれか骨格を少なくとも分子内に有する色素を吸着しうる親水性高分子を製膜して得られる親水性高分子フィルムである。該親水性高分子は、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、デンプン系樹脂が好ましく、上記二色性を有する偏光発光色素の染色性、加工性及び架橋性などの観点からポリビニルアルコール系樹脂及びその誘導体であることが好ましい。上記ポリビニルアルコール系樹脂及びその誘導体としては、例えば、ポリビニルアルコール又はその誘導体、及びこれらのいずれかをエチレン、プロピレンのようなオレフィンや、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸のような不飽和カルボン酸等で変性したもの等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール又はその誘導体からなるフィルムが、二色性を有する偏光発光色素の吸着性及び配向性の点から、好適に用いられる。当該基材は、例えば、市販のポリビニルアルコール系樹脂又はその誘導体からなるフィルムを用いてもよく、ポリビニルアルコール系樹脂を製膜することにより作製してもよい。ポリビニルアルコール系樹脂の製膜方法は特に限定されるものではなく、例えば、含水ポリビニルアルコールを溶融押出する方法、流延製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法(ポリビニルアルコール水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去)、キャスト製膜法(ポリビニルアルコール水溶液を基盤上に流し、乾燥)、及びこれらの組み合わせによる方法等、公知の製膜方法を採用することができる。基材の厚さは通常10~100μm、好ましくは20~80μm程度である。
【0022】
<偏光発光素子の製造方法>
上記偏光発光素子の製造方法は、以下の製法に限定されるものではないが、主に、ポリビニルアルコールまたはその誘導体によってなるフィルムを用いた場合が好適であり、ポリビニルアルコールまたはその誘導体によってなるフィルムを用いた場合を例とした偏光発光素子の作製方法について述べる。上記偏光発光素子の作製方法は、基材を準備する工程、該基材を膨潤液に浸漬し、該基材を膨潤させる膨潤工程、膨潤させた該基材を、後述する偏光発光色素1種以上を少なくとも含む染色溶液に含浸させ、基材に偏光発光色素を吸着させる染色工程、偏光発光色素を吸着させた基材を、ホウ酸を含有する溶液に浸漬することにより偏光発光色素を基材中で架橋させる架橋工程、偏光発光色素を架橋させた基材を一定の方向に一軸延伸して偏光発光色素を一定の方向に配列させる延伸工程、必要に応じて、延伸させた基材を洗浄液で洗浄する洗浄工程および/または洗浄させた基材を乾燥させる乾燥工程を含んでいる。
【0023】
(膨潤工程)
上記膨潤工程について説明する。膨潤工程は、20~50℃の膨潤液に、上記基材を30秒~10分間浸漬させることにより行うことが好ましく、膨潤液は水であることが好ましい。膨潤液による基材の延伸倍率は、1.00~1.50倍に調整することが好ましく、1.10~1.35倍に調整することがより好ましい。
【0024】
(染色工程)
上記染色工程について説明する。上記膨潤工程を経て得られた基材に、後述する偏光発光色素1種以上を吸着させる。該染色工程は、後述する偏光発光色素を基材に吸着可能な方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、基材を、偏光発光色素を含む染色溶液に浸漬させる方法や、基材に偏光発光色素を含む染色溶液を塗布する方法等が挙げられるが、偏光発光色素を含む染色溶液に浸漬させる方法が好ましい。該染色溶液中の偏光発光色素の濃度は、基材中に偏光発光色素が十分に吸着されるのであれば特に限定されるものではないが、例えば、染色溶液中の偏光発光色素の濃度が、0.0001~1質量%であることが好ましく、0.0001~0.5質量%であることがより好ましい。染色工程における染色溶液の温度は、5~80℃が好ましく、20~50℃がより好ましく、40~50℃が特に好ましい。また、染色溶液に基材を浸漬する時間は、適宜調節可能であり、30秒~20分の間で調節するのが好ましく、1~10分の間がより好ましい。染色溶液に含まれる偏光発光色素は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記偏光発光色素は、色素構造の違い等によりその発光色が異なるため、基材に、上記偏光発光色素を2種以上含有させることにより、生じる発光色を様々な色になるように適宜調整することができる。また、必要に応じて、上記染色溶液は、後述する偏光発光色素以外に、1種以上の有機染料および/又は蛍光染料をさらに含んでいてもよい。
【0025】
(偏光発光色素)
上記偏光発光色素は、蛍光発光あるいは燐光発光を行うものが挙げられ、化合物(b)として用いることができる。その色素としては分子内にスチルベン骨格、ビフェニル骨格、クマリン骨格、からなる群から選択されるいずれか骨格を少なくとも有し、吸収した光を利用して発光する化合物又はその塩であることが好ましい例として挙げられる。蛍光発光あるいは燐光発光を行うものが好ましいものとして挙げられるが、上記偏光発光色素が蛍光発光機能を有しつつ、該色素が光の吸収波長において二色比を有することにより、より高い偏光した光を発光させることができる。特に、色素分子内にスチルベン骨格、ビフェニル骨格、クマリン骨格、からなる群から選択されるいずれか骨格を少なくとも有する偏光発光色素は、蛍光発光特性に優れ、かつ、配向させることにより、吸収波長において高い二色比を有する特性を兼ね備える。これらは、上記各骨格が有する特性に由来し、これら特性をさらに向上させたり、吸収波長や発光波長、耐光性、耐湿性、耐オゾンガス性等の各種堅牢性および溶解度等、各種特性を調整する目的により、上記各骨格に、さらに任意の置換基を導入することが可能である。置換基導入において、置換基の種類や置換位置の選択が好ましくない場合、従来の染料系偏光板のように、例え高い偏光度を実現できたとしても、発光光量が著しく低下してしまう等の問題を生じることがあるため、蛍光発光特性に優れ、かつ、高い二色比を有するためには、置換基の種類や置換位置の選択が特に重要となる。また、上記偏光発光色素は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用され得る。
【0026】
(b-1)スチルベン骨格を有する色素
上記スチルベン骨格を有する色素は、好ましくは、下記式(1)で表される化合物またはその塩である。
【0027】
【化1】
【0028】
上記式(1)において、L及びMは、各々独立に、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいカルボニルアミド基、置換基を有してもよいナフトトリアゾール基、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよいビニル基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいウレイド基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有しても良いカルボニル基を表すが、必ずしもこれらに限定されない。式(1)で表されるスチルベン骨格を有する色素は蛍光発光を有し、かつ、配向することにより二色性が得られることが知られているが、これは主にスチルベン骨格に由来するものであり、さらに任意の置換基が導入されていても良い。ただし、スチルベン骨格のL位置、および、M位置にアゾ基を有する場合、蛍光発光は著しく小さくなるため好適ではない。
【0029】
上記置換基を有してもよいアミノ基としては、例えば、非置換のアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-ブチルアミノ基、ターシャリブチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-ブチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、エチルヘキシルアミノ基等の置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、N-フェニル-N-ナフチルアミノ基等の置換基を有してもよいアリールアミノ基、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、n-ブチル-カルボニルアミノ基等の置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ビフェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等の置換基を有してもよいアリールカルボニルアミノ基、メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、プロピルスルホニルアミノ基、n-ブチル-スルホニルアミノ基等の炭素数1~20のアルキルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、ナフチルスルホニルアミノ基等の置換基を有してもよいアリールスルホニルアミノ等が挙げられ、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキルカルボニルアミノ基、置換基を有してもよいアリールカルボニルアミノ基、炭素数1~20のアルキルスルホニルアミノ基、置換基を有してもよいアリールスルホニルアミノ基であることが好ましい。また、上記置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキルアミノ基、置換基を有してもよいアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキルカルボニルアミノ基、置換基を有してもよいアリールカルボニルアミノ基、炭素数1~20のアルキルスルホニルアミノ基、置換基を有してもよいアリールスルホニルアミノ基における置換基としては、特に制限はないが、例えば、ニトロ基、シアノ基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、カルボキシアルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
【0030】
上記カルボキシアルキル基としては、例えば、メチルカルボキシ基、エチルカルボキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。上記置換基を有してもよいカルボニルアミド基としては、例えば、N-メチル-カルボニルアミド基(-CONHCH)、N-エチル-カルボニルアミド基(-CONHC)、N-フェニル-カルボニルアミド基(-CONHC)等が挙げられる。上記置換基を有してもよいナフトトリアゾール基としては、例えば、ベンゾトリアゾール基、ナフトトリアゾール基等が挙げられる。上記置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、ターシャリブチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の環状アルキル基等が挙げられる。上記置換基を有してもよいビニル基としては、例えば、ビニル基、メチルビニル基、エチルビニル基、ジビニル基、ペンタジエン基等が挙げられる。上記置換基を有してもよいアミド基としては、例えば、アセトアミド基(-NHCOCH)、ベンズアミド基(-NHCOC)等が挙げられる。上記置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基等が挙げられる。上記置換基を有しても良いカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n-ブチル-カルボニル基、フェニルカルボニル基等が挙げられる。上記置換基を有してもよいカルボニルアミド基、置換基を有してもよいナフトトリアゾール基、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよいビニル基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいウレイド基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有しても良いカルボニル基における置換基としては、特に制限はないが、上記置換基を有してもよいアミノ基の項で述べた置換基と同じで良い。
【0031】
上記式(1)で表されるスチルベン骨格を有する色素は、下記式(2)で表される色素もしくはその塩又は下記式(3)で表される色素もしくはその塩であることが特に好ましい。これら色素を用いることにより、より鮮明で高輝度、かつ鮮明な白色発光をする偏光発光素子を得ることができる。
【0032】
【化2】
【0033】
上記式(2)において、置換基Rは水素原子、塩素原子、臭素原子、又はフッ素原子等のハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、又は置換基を有してもよいアミノ基を表す。ハロゲン原子としては上記と同じで良い。置換基を有していても良いアルキル基としては、上記置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基の項で述べたものと同じで良い。置換基を有してもよいアルコキシ基は、好ましくはメトキシ基、又はエトキシ基等である。置換基を有してもよいアミノ基としては、上記と同じで良く、好ましくはメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、又はフェニルアミノ基等である。置換基Rは、ナフトトリアゾール環中のナフタレン環の任意の炭素に結合していてよいが、トリアゾール環と縮合している炭素を1位、及び2位とした場合、3位、5位、又は8位に結合していることが好ましい。nは0~3の整数であり、好ましくは1または2である。-(SOH)基は、ナフトトリアゾール環中のナフタレン環の任意の炭素に結合していてよい。-(SOH)基のナフタレン環における置換位置は、n=1である場合、トリアゾール環と縮合している炭素を1位、及び2位とした場合、4位、6位、又は7位であることが好ましく、n=2である場合、5位と7位、および6位と8位であることが好ましく、n=3である場合、3位と6位と8位の組み合わせであることが好ましい。また、Rが水素原子であり、nが1であることが特に好ましい。Xは、ニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基を表し、ニトロ基であることが好ましい。置換基を有してもよいアミノとしては、上記と同様でよく、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキルカルボニルアミノ基、置換基を有してもよいアリールカルボニルアミノ基、炭素数1~20のアルキルスルホニルアミノ基、又は置換基を有してもよいアリールスルホニルアミノ基であることが好ましい。
【0034】
上記式(3)におけるYは、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよいビニル基、または置換基を有してもよいアリール基を表し、置換基を有してもよいアリール基であることが好ましく、置換基を有してもよいナフチル基であることがさらに好ましく、置換基としてアミノ基とスルホ基が置換したナフチル基であることが特に好ましい。Zは、上記式(2)におけるXについて説明したのと同じ置換基を表し、ニトロ基であることが好ましい。
【0035】
上記式(1)で示される化合物として、例えば、Kayaphorシリーズ(日本化薬社製)、Whitex RP等のホワイテックスシリーズ(住友化学社製)等が挙げられる。また、下記に式(1)で示される化合物が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
【化3】
【0037】
(b-2)ビフェニル骨格を有する色素
上記ビフェニル骨格を有する色素は、好ましくは、下記式(4)で表される化合物又はその塩である。
【0038】
【化4】
【0039】
上記式(4)において、P及びQは、各々独立に、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいカルボニルアミド基、置換基を有してもよいナフトトリアゾール基、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよいビニル基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいウレイド基、又は置換基を有してもよいアリール基、置換基を有しても良いカルボニル基を表すが、必ずしもこれらに限定されない。置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいカルボニルアミド基、置換基を有してもよいナフトトリアゾール基、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよいビニル基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいアリール基および置換基を有しても良いカルボニル基はそれぞれ上記と同じで良い。ただし、上記式(4)におけるビフェニル骨格のP位置、および、/または、Q位置にアゾ基を有する場合、蛍光発光は著しく小さくなるため好適ではない。
【0040】
上記式(4)で表される化合物は、下記式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【0041】
【化5】
【0042】
上記式(5)において、jは、0~2の整数を示す。-(SOH)基の好ましい置換位置は、特に限定されないが、好ましくは、ビニル基を1位とした場合、2位、4位が好ましく、特に好ましくは2位である。
【0043】
上記式(5)において、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数が1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アラルキロキシ基、アルケニロキシ基、炭素数1~4のアルキルスルホニル基、炭素数6~20のアリールスルホニル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、カルボキシアルキル基からなる群より選択される基である。カルボキシアルキル基としては、上記と同じで良い。
【0044】
上記炭素数が1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、ターシャリブチル基、シクロブチル基等が挙げられる。上記炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、ターシャリブトキシ基、シクロブトキシ基等が挙げられる。上記アラルキロキシ基としては、炭素数7~18のアラルキロキシ基等が挙げられる。上記アルケニロキシ基としては、炭素数1~18のアルケニロキシ基等が挙げられる。上記炭素数1~4のアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、sec-ブチルスルホニル基、ターシャリブチルスルホニル基、シクロブチルスルホニル基等が挙げられる。上記炭素数6~20のアリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、ビフェニルスルホニル基等が挙げられる。
【0045】
上記式(5)において、R~Rの好ましい置換位置は、好ましくはビニル基を1位とした時、2位、4位が好ましい。
【0046】
上記式(5)で表される偏光発光色素の合成方法を以下に説明する。
【0047】
上記式(5)で表される偏光発光色素は公知の方法で作製できるが、例えば、4-ニトロベンズアルデヒド-2-スルホン酸をホスホネートと縮合させ、次いでニトロ基を還元することによって得られる。
【0048】
式(5)で表される化合物は、特開平4-226162号公報に記載されている化合物等を用いることができるが、具体的には下記の化合物などが例示される。
【0049】
【化6】
【0050】
(b-3)クマリン骨格を有する色素
上記クマリン骨格を有する色素は、下記式(6-1)で表される化合物又はその塩であることが好ましい。
【0051】
【化7】
【0052】
上記式(6-1)中、Aは置換基を有してもよいクマリン骨格を表し、Xはスルホ基又はカルボキシ基を表し、nは1~3の整数を表す。
【0053】
上記クマリン骨格を有する色素は、下記式(6-2)で表されることがさらに好ましい。
【0054】
【化8】
【0055】
上記式(6-2)中、基Rは炭素数1~10の炭化水素基を表し、Qは硫黄原子、酸素原子、窒素原子を表し、nは1~3の整数を表す。
【0056】
上記クマリン骨格を有する色素は、下記式(6-3)で表されることが特に好ましい。
【0057】
【化9】
【0058】
上記式(6-3)中、基Rは炭素数1~10の炭化水素基を表し、2つの基Rがそれぞれエチル基であることが極めて好ましい。
【0059】
上記式(1)~(6-3)で表される化合物の塩は、無機陽イオン又は有機陽イオンと共に形成する塩である。無機陽イオンとしては、アルカリ金属、例えばリチウム、ナトリウム、及びカリウム等の陽イオン、並びに、アンモニウムイオン(NH )が挙げられる。有機陽イオンとしては、例えば、下記式(D)で表される有機アンモニウムが挙げられる。
【0060】
【化10】
【0061】
式(D)中、Z1からZ4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル、ヒドロキシアルキル、又はヒドロキシアルコキシアルキルを表わし、Z1からZ4の少なくともいずれか1つは水素原子以外の基である。
【0062】
1からZ4の具体例としては、メチル、エチル、ブチル、ペンチル、及びヘキシル等のC-Cアルキル、好ましくはC-Cアルキル;ヒドロキシメチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル、3-ヒドロキシブチル、及び2-ヒドロキシブチル等のヒドロキシC-Cアルキル、好ましくはヒドロキシC-Cアルキル;並びにヒドロキシエトキシメチル、2-ヒドロキシエトキシエチル、3-ヒドロキシエトキシプロピル、3-ヒドロキシエトキシブチル、及び2-ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシC-CアルコキシC-Cアルキル、好ましくはヒドロキシC-CアルコキシC-Cアルキル等が挙げられる。
【0063】
これらの無機陽イオン及び有機陽イオンうちより好ましいものとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、モノイソプロパノールアンモニウムイオン、ジイソプロパノールアンモニウムイオン、トリイソプロパノールアンモニウムイオン、及びアンモニウム等の陽イオンが挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン、アンモニウムイオン、及びナトリウムイオンがより好ましい。
【0064】
その他、上記偏光発光素子において使用可能な偏光発光色素としては、例えば、
C.I.Fluorescent Brighter 5,
C.I.Fluorescent Brighter 8,
C.I.Fluorescent Brighter 12,
C.I.Fluorescent Brighter 28,
C.I.Fluorescent Brighter 30,
C.I.Fluorescent Brighter 33,
C.I.Fluorescent Brighter 350,
C.I.Fluorescent Brighter 360,
C.I.Fluorescent Brighter 365,
などがあげられる。これらの蛍光染料は遊離酸であっても、あるいはアルカリ金属塩(例えばNa塩、K塩、Li塩)、アンモニウム塩又はアミン類の塩であってもよい。
【0065】
上記偏光発光色素の1種単独又は2種以上を組み合わせ、配向させることにより、偏光した光を発光する偏光発光素子が得られる。該偏光発光素子において、2種以上の偏光発光色素を用いる場合、それら偏光発光色素間の配合割合を調整することにより、様々な発光色になるよう調整することが可能となる。例えば、色度a値及びb値の絶対値がいずれも5以下となるように調整することにより、偏光発光素子が発光する偏光した光を白色にすることが可能となる。上記色度a値及びb値は、それぞれ偏光発光素子に光を入射させたときに、偏光発光素子から出射される光について測定した分光分布に基づき、JIS Z 8781-4:2013に従って求められる。JIS Z 8781-4:2013に定められる物体色の表示方法は、国際照明委員会(略称「CIE」)が定める物体色の表示方法に相当する。色度a値及びb値の測定は、通常、測定サンプルに自然光を照射して行われるが、本願の明細書及び特許請求の範囲においては、偏光発光素子に紫外光領域等の短波長の光を照射し、発光した光を測定することにより色度a値及びb値を確認できる。発光光のaの絶対値は、5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。また、発光光のbの絶対値は、5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。a値及びb値の絶対値が、それぞれ独立に5以下であれば、人間の目では白色として感知することができ、さらにそれぞれが共に5以下であれば、より好ましい白色発光として感知することができる。発光する偏光が白色であることにより、太陽光のような自然な光源、ペーパーホワイト端末等の光源として利用が可能であり、カラ-フィルターなどを用いるディスプレイに置いても応用が簡易であるという利点がある。発光強度については、光っていることが目に感知できればディスプレイに応用することは問題ない。特に、本願の特徴としては発光光が高い偏光度を持つこと、および、可視域の透過率が高いことが重要である。
【0066】
(その他の色素)
上記偏光発光素子は、スチルベン骨格、ビフェニル骨格、クマリン骨格、からなる群から選択されるいずれか骨格を少なくとも分子内に有する色素又はその塩を単独又は複数含むことに加えて、偏光発光機能を阻害しない範囲で、色調整等を目的として、必要に応じて他の有機染料又は他の蛍光染料を1種以上さらに含んでいてもよい。他の有機染料としては、偏光発光素子の色(色相)、もしくは発光色を生業しうるものではれば特に限定されないが、二色性の高いものが好ましく、かつ、スチルベン骨格、ビフェニル骨格、クマリン骨格、からなる群から選択されるいずれか骨格を少なくとも分子内に有する色素の紫外光領域の偏光性能に影響が少ない色素が好ましい。そういった他の有機染料としては、例えば、シー.アイ.ダイレクト.イエロー12、シー.アイ.ダイレクト.イエロー28、シー.アイ.ダイレクト.イエロー44、C.I.Direct Orange26、C.I.Direct Orange39、C.I.Direct Orange71、C.I.Direct Orange107、C.I.Direct Red2、C.I.Direct Red31、C.I.Direct Red79、C.I.Direct Red81、C.I.Direct Red247、C.I.Direct Blue69、C.I.Direct Blue78、C.I.Direct Green80、及びC.I.Direct Green59等が挙げられる。これらの有機染料は遊離酸であっても、あるいはアルカリ金属塩(例えばNa塩、K塩、Li塩)、アンモニウム塩又はアミン類の塩であってもよい。また、上記他の蛍光染料としては、一般的に開示されている蛍光染料も発光色を調整する目的で用いることも可能であり、特に限定はない。
【0067】
上記他の有機染料又は他の蛍光染料を併用する場合、所望とする偏光発光素子の色調整のために、配合する染料を選択し、配合比率等を調整することが可能である。調製目的により、他の有機染料又は他の蛍光染料の配合割合は特に限定されるものではないが、上記偏光発光色素100質量部に対して、これら他の有機染料又は他の蛍光染料の総量が0.01~10質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0068】
上記染色溶液は、上記の各染料に加え、必要に応じて更に染色助剤を含有してもよい。染色助剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム(芒硝)、無水硫酸ナトリウム及びトリポリリン酸ナトリウム等が挙げられ、好ましくは硫酸ナトリウムである。染色助剤の含有量は、使用される染料の染色性、上記浸漬時間や染色溶液の温度等によって任意に調整可能であるが、染色溶液中0.0001~10質量%であることが好ましく、0.0001~2質量%であることがより好ましい。
【0069】
上記染色工程後、該染色工程で基材の表面に付着した染色溶液を除去するために、任意に予備洗浄工程を経ることができる。予備洗浄工程を経ることによって、次に処理する液中に基材の表面に残存する染料が移行することを抑制することができる。予備洗浄工程では、洗浄液として一般的には水が用いられる。洗浄方法は、洗浄液に染色した基材を浸漬することが好ましく、一方で、洗浄液を当該基材に塗布することによって洗浄することもできる。洗浄時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~300秒であり、より好ましくは1~60秒である。予備洗浄工程における洗浄液の温度は、基材を構成する材料が溶解しない温度であることが必要となり、一般的には5~40℃で洗浄処理が施される。なお、予備洗浄工程を経ずとも、偏光発光素子の性能には特段大きな影響を及ぼさないため、予備洗浄工程は省略することも可能である。
【0070】
(架橋工程)
上記染色工程あるいは上記予備洗浄工程の後、基材に架橋剤を含有させることができる。基材に架橋剤を含有させる方法は、架橋剤を含む処理溶液に基材を浸漬させることが好ましく、一方で、当該処理溶液を基材に塗布又は塗工してもよい。処理溶液中の架橋剤としては、例えば、ホウ酸を含有する溶液を使用する。処理溶液中の溶媒は、特に限定されるものではないが、水が好ましい。処理溶液中のホウ酸の濃度は、0.1~15質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。処理溶液の温度は、30~80℃が好ましく、40~75℃がより好ましい。また、この架橋工程の処理時間は30秒~10分が好ましく、1~6分がより好ましい。本発明に係る偏光発光素子の製造方法が、この架橋工程を有することにより、得られる偏光素子の発光する光の偏光度は高く、表示体として高いコントラストを示す。このことは、従来技術において、耐水性又は光透過性を改善する目的で使用されていたホウ酸の機能からは全く予期し得ない優れた作用である。また、架橋工程においては、必要に応じて、カチオン系高分子化合物を含む水溶液で、フィックス処理をさらに併せて行ってもよい。該フィックス処理により、偏光発光素子中の染料固定化が可能となる。このとき、カチオン系高分子化合物として、例えば、カチオン、ジシアン系としてジシアンアミドとホルマリン重合縮合物、ポリアミン系としてジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物、ポリカチオン系としてエピクロロヒドリン・ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアモンニウムクロライド・二酸化イオン共重合物、ジアリルアミン塩重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチルアクリレート四級塩重合物等が使用される。
【0071】
(延伸工程)
上記架橋工程を経た後、延伸工程を実施する。延伸工程は、基材を一定の方向に一軸延伸することにより行われ、湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれであってもよい。延伸倍率は、3倍以上であることが好ましく、より好ましくは5~8倍である。
【0072】
上記湿式延伸法においては、水、水溶性有機溶剤又はその混合溶液中で基材を延伸することが好ましい。より好ましくは、架橋剤を少なくとも1種含有する溶液中に基材を浸漬しながら延伸処理を行う。架橋剤は、例えば、上記架橋剤工程におけるホウ酸を用いることができ、好ましくは、架橋工程で使用した処理溶液中で延伸処理を行うことができる。延伸温度は40~70℃であることが好ましく、45~60℃がより好ましい。延伸時間は通常30秒~20分であり、好ましくは2~7分である。湿式延伸工程は、一段階の延伸で実施しても、二段階以上の多段延伸で実施してもよい。なお、延伸処理は、任意に、染色工程の前に行ってもよく、この場合には、染色の時点で染料の配向も一緒に行うことができる。
【0073】
上記乾式延伸法において、延伸加熱媒体が空気媒体である場合には、空気媒体の温度が常温~180℃で基材を延伸するのが好ましい。また、湿度は20~95%RHの雰囲気中であることが好ましい。基材の加熱方法としては、例えば、ロール間ゾーン延伸法、ロール加熱延伸法、熱間圧延伸法及び赤外線加熱延伸法等が挙げられるが、これらの延伸方法に限定されるものではない。乾式延伸工程は、一段階の延伸で実施しても、二段階以上の多段延伸で実施してもよい。
【0074】
(洗浄工程)
上記延伸工程の際、基材の表面に架橋剤の析出又は異物が付着することがあるため、基材の表面を洗浄する洗浄工程を行うことができる。洗浄時間は1秒~5分が好ましい。洗浄方法は、基材を洗浄液に浸漬することが好ましく、一方で、洗浄液を基材に塗布又は塗工によって洗浄することもできる。洗浄液としては、水が好ましい。洗浄処理は一段階で実施しても、2段階以上の多段処理で実施してもよい。洗浄工程の洗浄溶の温度は、特に限定されるものではないが、通常、5~50℃、好ましくは10~40℃であり、常温であってよい。
【0075】
上記各工程で用いる溶液又は処理液の溶媒としては、上記水の他にも、例えば、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールまたはトリメチロールプロパン等のアルコール類、エチレンジアミンおよびジエチレントリアミン等のアミン類等が挙げられる。当該溶液又は処理液の溶媒は、これらに限定されるものではないが、最も好ましくは水である。また、これらの溶液又は処理液の溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0076】
(乾燥工程)
上記洗浄工程の後、基材の乾燥工程を行う。乾燥処理は、自然乾燥により行うことができるものの、より乾燥効率を高めるため、ロールによる圧縮やエアーナイフ又は吸水ロール等による表面の水分除去等により行うことが可能であり、さらには、送風乾燥を行うことも可能である。乾燥処理の温度は、20~100℃であることが好ましく、60~100℃であることがより好ましい。乾燥時間は、30秒~20分であることが好ましく、5~10分であることがより好ましい。
【0077】
以上の方法で、偏光発光素子を作製することができ、これに透明保護層をもうけることによって本願発明の偏光発光板を得ることができる。上記偏光発光素子は偏光発光を示し、かつ、紫外線領域において偏光機能を示す素子、即ち吸収異方性を示す素子である。特に本願で例示した化合物(b)となりうるスチルベン骨格、ビフェニル骨格、クマリン骨格、からなる群から選択されるいずれか骨格を少なくとも分子内に有する化合物は、高温や高湿熱環境下でも分解しないため、高い耐久性を有する。
【0078】
上記偏光発光素子は、紫外光領域等の非可視光領域の光の照射を受け、紫外光領域の光を吸収し、そのエネルギーを利用して可視光領域の偏光した光を発光する。偏光発光素子が発光する光が可視光領域の偏光した光であることから、可視光領域の光に対して偏光機能を有する一般的な偏光板を介して該偏光発光素子を観察した場合、その可視光領域に偏光機能を有する一般的な偏光板の軸の角度を変えることによって、偏光を発光した光を視認することができる。即ち、強い発光軸の光と、発光しない軸の光(または著しく発光が弱い軸)を視認することができる。偏光発光素子が発光する偏光した光の偏光度は、70%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上である。また、偏光発光素子は、可視光領域の光を吸収せずに透過させることが好ましい。偏光発光素子の可視光領域の光の透過率は、視感度補正された透過率において、60%以上であれば従来の液晶ディスプレイと比較して明らかに飛躍的な高透過な液晶ディスプレイが得られるが、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。本発明で得られた偏光発光素子は、高い偏光度を有することから、非発光状態において可視光領域で高い透明性を有するだけでなく、発光している状態でも、強く発光した軸の光を、一般的な偏光板を通して視認することによって、一軸の光を吸収することから、発光しない軸(又は発光が著しく弱い軸)において、見た目として透明度の高い偏光発光素子が得られるため好ましい。
【0079】
(偏光発光板)
偏光発光素子を備える偏光発光板も本願に含まれる。偏光発光板は、上記偏光発光素子対して、透明保護層等を有することで達成しうる。該透明保護層は、偏光発光素子の耐水性や取扱性等を向上させるために使用され、該透明保護層は、上記偏光発光素子が示す偏光機能に何ら影響を与えるものではない。
【0080】
上記透明保護層は、光学的透明性および機械的強度に優れる透明保護層であることが好ましい。また、透明保護層は、偏光発光素子の形状を維持できる層形状を有するフィルムであることが好ましく、透明性および機械的強度の他に、熱安定性、水分遮蔽性等にも優れるプラスチックフィルムであることが好ましい。このような保護膜を形成する材料としては、例えば、セルロースアセテート系フィルム、アクリル系フィルム、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン系共重合体のようなフッ素系フィルム、或いは、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂又はポリアミド系樹脂からなるフィルム等が挙げられ、好ましくはトリアセチルセルロース(TAC)フィルムやシクロオレフィン系フィルムが用いられる。透明保護層の厚さは、1μm~200μmの範囲が好ましく、10μm~150μmの範囲がより好ましく、40μm~100μmが特に好ましい。上記偏光発光板を製造する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、偏光発光素子に透明保護層を重ねて、公知の処方にてラミネートすることによって作製することができる。
【0081】
上記偏光発光板は、透明保護層と偏光発光素子との間に、透明保護層と偏光発光素子とを貼り合わせるための接着剤層をさらに備えていてもよい。該接着剤層を構成する接着剤は、特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール系接着剤、ウレタンエマルジョン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステルーイソシアネート系接着剤等が挙げられ、好ましくはポリビニルアルコール系接着剤が用いられる。透明保護層と偏光発光素子とを接着剤により貼り合せた後、適切な温度で乾燥又は熱処理を行うことにより上記偏光発光板を作製することができる。
【0082】
また、上記偏光発光板は、透明保護層の露出面に、反射防止層、防眩層、さらなる透明保護層等の公知の各種機能性層を適宜備えていてもよい。このような各種機能性を有する層を作製する場合、各種機能性を有する材料を透明保護層の露出面に塗工する方法が好ましく、各種機能性層又はフィルムを接着剤若しくは粘着剤を介して透明保護層の露出面に貼合せることも可能である。
【0083】
上記さらなる透明保護層としては、例えば、アクリル系、ポリシロキサン系等のハードコート層、ウレタン系の保護層等が挙げられる。また、単体透過率をより向上させるために、透明保護層の露出上に反射防止層を設けることもできる。反射防止層は、例えば、二酸化珪素、酸化チタン等の物質を、透明保護層上に蒸着又はスパッタリング処理するか、或いは、フッ素系物質を透明保護層上薄く塗布することにより形成することができる。
【0084】
以上の方法で偏光発光素子、またはそれを用いた偏光発光板の好ましい形態を提供することができる。
【0085】
本願では、さらに上記化合物(a)が発光異方性を有することが好ましい形態の1つである。化合物(a)が発光異方性を有することによって、その発光を一軸の偏光のみを発光させることができ、かつ、その発光軸における光が化合物(b)の吸収発光軸に一致することによって、化合物(a)が発光する光が、実質的に化合物(b)に高効率に光を提供しうることができる。その発光異方性は、化合物(b)と同様に化合物(a)の吸収異方性、つまりは化合物(a)の吸収異方性を有することで発現させることができる。その吸収異方性とは一般的に二色比として示されることがあり、その二色比によって化合物(a)の配向度も算出することができる。二色比とは、最も吸収の強い軸の吸収量と、最も吸収の低い軸の吸収量との比であり、二色比は2以上であれば直線偏光を発光しうるため、上限は特に限定されないが、70程度あれば十分に高い二色比を有する。二色比は5以上が良く、好ましくは10以上がよく、より好ましくは20以上が良く、さらに好ましくは30以上が良い。その配向度は、前述の式(I)で与えられる数値であり、0.25以上1.00以下であることで、さらに効率良い本願の偏光発光素子または表示装置を提供できるが、特に好ましくは0.50以上0.98以下であることが良く、より好ましくは0.75以上0.96以下が良く、さらに好ましくは0.85以上0.96以下が良い。
【0086】
上記偏光発光素子あるいは上記偏光発光板は、それぞれ単体で用いるだけでなく、一般的なディスプレイ、特に液晶ディスプレイ等の表示装置に用いることもできる。さらに、一般的な偏光板と本願偏光発光素子、またはその偏光発光板を用いることによって、これまでの吸収による偏光制御と、発光による偏光制御が可能となるため好ましい。
【0087】
本願の偏光発光素子、それを用いた偏光発光板は、液晶ディスプレイ向けの高効率の偏光バックライトとして有効に活用できるだけでなく、可視域での透明性が従来の偏光より高いため、高効率に発光しうるシースルーディスプレイや透明性を有する偏光光源に用いることができる。更に、自然光である300nm以上の紫外光を効率よく可視域の光として偏光発光しうる素子、光源または表示装置として活用することができる。つまり、本願の偏光発光素子、並びに、それを用いた偏光発光板は、特に屋外にて効率よく偏光の光を発光させることができる。または、本願のように偏光発光素子を用いることによって、高い耐光性を有する偏光発光板、それを用いた表示装置を提供しうるに至る。一般的に、一定の光、例えば紫外線によってポリマーや色素は劣化することが知られているが、本発明ではその劣化するための光エネルギーを逆に発光に利用するため、劣化の原因となるエネルギーを実質的に抑制し、偏光発光素子または表示装置自体に高い耐久性を付することができ、特に高い耐光性が求められる表示装置、例えば屋外液晶ディスプレイ等の表示装置に好適に用いることができる偏光発光素子、偏光発光板、または光学装置を提供するに至る。
【0088】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本発明をなんら限定するものではない。また、下記に記載されている「%」及び「部」は、特に言及されない限り質量基準である。なお、各実施例及び比較例で使用した化合物の各構造式において、スルホ基等の酸性官能基は、遊離酸の形態で記載した。
【0089】
[実施例1]
(合成例1)
市販品の4-アミノ-4’-ニトロスチルベン-2,2’-ジスルホン酸35.2部を水300部に加え撹拌し、35%塩酸を用いてpH0.5とした。得られた溶液に40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.9部を加え、10℃で1時間撹拌し、続いて6-アミノナフタレン-2-スルホン酸17.2部を加え、15%炭酸ナトリウム水溶液でpH4.0に調製後4時間撹拌した。得られた反応液に塩化ナトリウム60部を加え、析出固体をろ過分離、さらにアセトン100部にて洗浄、乾燥し、下記式(7)に記載した化合物62.3部を得た。
【0090】
【化11】
【0091】
上記で得た式(7)62.3部を水300部に加え攪拌し、25%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.0とした。得られた溶液に28%アンモニア水20部、及び硫酸銅五水和物9.0部を加え、90℃で2時間撹拌した。得られた反応液に塩化ナトリウム25部を加え、析出固体をろ過分離、さらにアセトン100部にて洗浄することにより、下記式(8)の化合物のウェットケーキ40.0部を得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより、下記式(8)の化合物(λmax:376nm)20.0部を得た。
【0092】
【化12】
【0093】
(偏光発光素子Aの作製)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製 VF-PS#7500)を40℃の温水に3分間浸漬して、フィルムを膨潤させた。膨潤して得られたフィルムを、化合物例5-1に記載の化合物(b)、4,4’-ビス-(スルホスチリル)ビフェニル二ナトリウム水溶液(BASF社製 Tinopal NFW Liquid)1.0重量部、合成例1で得られた化合物(8)を0.3重量部、芒硝を1.0重量部、水1500重量部を含有する45℃の水溶液に、さらに化合物(a)として2-(2-ピリジルアミノ)エチルアミン二塩酸塩(富士フィルム和光純薬社製)0.3重量部を加え、4分間浸漬して含有させた。得られたフィルムを3%ホウ酸水溶液中50℃で5倍に5分間で延伸した。延伸して得られたフィルムを、緊張状態を保ったまま常温の水で20秒間水洗し、その後乾燥して、偏光発光素子Aを得た。偏光発光素子Aの上記式(I)より計算されるOrder Parameterにおいて、化合物(a)に基づく318nmのOrder Parameterは0.72であり、化合物(b)群に基づく377nmのOrder Parameterは0.90であった。なお、化合物(a)の吸収の最も大きい波長は318nmであり、かつ最も高い波長の発光が405nmであり、その発光帯域は405nm±30nmであった。また、化合物(b)群に基づく吸収の最も大きい波長は377nmであり、かつ最も高い波長の発光、即ち極大発光波長が465nmである偏光を発光する特性を有していた。
【0094】
次に、紫外線吸収剤を含有しないトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製 ZRD-60)を1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液で、35℃で10分間処理し、水洗し、次いで、70℃で10分乾燥させた。アルカリ処理して得られたトリアセチルセルロースフィルムを、上記で得た偏光発光素子Aの両面に水 100重量部、ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビポバール社製 NH-26) 4重量部よりなる接着剤を介してラミネートし、70℃で10分乾燥させ、偏光発光素子Aと同等の光学性能を有する偏光発光板Aを得た。得られた偏光発光板Aに375nmハンドライトタイプ ブラックライト(日亜化学工業社製「PW-UV943H-04」)を用いて紫外線を照射したところ、白色の発光をし、かつ、さらに偏光板を介して該発光を確認したところ、偏光発光素子Aの加工の時の延伸軸方向に白色の偏光発光することが確認でき、一方で非延伸軸においては偏光発光しないことを確認した。つまり偏光発光板Aは直線偏光を発光する素子であった。得られた偏光発光板Aをガラスに貼合し、測定サンプルとした。なお、偏光発光板Aの発光帯域は表2に示すように可視全域に偏光発光波長を有していた。
【0095】
[実施例2]
(合成例2)
市販品の4-ジアミノ-スチルベン-2,2’-ジスルホン酸35.2部を水300部に加え撹拌し、4-メトキシ-ベンゾイルクロライド 35部を、1時間程度かけて少しずつ加えた後、60℃で1時間撹拌し、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して、固形分を濾過し、70℃で乾燥することで、本願化合物(a)である下記式(9)で示される化合物44.5部を得た。
【0096】
【化13】
【0097】
(合成例3)
市販品の3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン 3.3部を98%硫酸 45部と30%発煙硫酸 10部の混合溶液に加え、25℃で24時間撹拌した。得られた反応液を水 300部に添加し、析出した固体をろ過により分離し、更にアセトン 100部にて洗浄することにより、ウェットケーキ 10.0部を得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより下記式(10)で表される本願化合物(b)に相当する水溶性クマリン系二色性染料 3.0部を合成した。
【0098】
【化14】
【0099】
(偏光発光素子Bの作製)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製 VF-PS#7500)を40℃の温水に3分間浸漬して、フィルムを膨潤させた。膨潤して得られたフィルムを、化合物(a)として合成例2で得られた式(9)の化合物 0.9重量部、化合物(b)として合成例3で得られた式(10)の化合物を0.7重量部、芒硝を1.0重量部、水1500重量部を含有する45℃の水溶液に4分間浸漬して含有させた。得られたフィルムを3%ホウ酸水溶液中50℃で5倍に5分間で延伸した。延伸して得られたフィルムを、緊張状態を保ったまま常温の水で20秒間水洗し、その後乾燥して、偏光発光素子Bを得た。偏光発光素子Bの上記式(I)より計算されるOrder Parameterにおいて、化合物(a)である式(9)に基づく348nmのOrder Parameterは0.85であり、化合物(b)である式(10)に基づく450nmのOrder Parameterは0.78であった。なお、化合物(a)である式(9)に基づく吸収の最も大きい波長は348nmであり、その吸収帯域は310~390nm、かつ最も高い発光の波長が426nmであり、その発光帯域は380~500nmであった。また、化合物(b)である式(10)に基づく吸収の最も大きい波長は450nmであり、光の吸収帯域は360~500nmであり、かつ最も高い波長の発光、即ち極大発光波長が512nmである偏光を発光する特性を有していた。
【0100】
次に、紫外線吸収剤を含有しないトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製 ZRD-60)を1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液で、35℃で10分間処理し、水洗し、次いで、70℃で10分乾燥させた。アルカリ処理して得られたトリアセチルセルロースフィルムを、上記で得た偏光発光素子Bの両面に水 100重量部、ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビポバール社製 NH-26) 4重量部よりなる接着剤を介してラミネートし、70℃で10分乾燥させ、偏光発光素子Bと同等の光学特性を有する偏光発光板Bを得た。得られた偏光発光板Bに375nmハンドライトタイプ ブラックライト(日亜化学工業社製「PW-UV943H-04」)を用いて紫外線を照射しながら偏光板を介して該発光を確認したところ、偏光発光素子Bの加工の時の延伸軸方向に偏光発光が確認でき、一方で非延伸軸においては偏光発光しないことを確認した。つまり偏光発光板Bは直線偏光を発光する素子であった。得られた偏光発光板Bをガラスに貼合し、測定サンプルとした。なお、偏光発光板Bの発光帯域は表2に示す偏光を発光する光学特性を有していた。
【0101】
[実施例3]
(合成例4)
市販品の3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン 3.3部を98%硫酸 45部と30%発煙硫酸 10部の混合溶液に加え、25℃で24時間撹拌した。得られた反応液を水 300部に添加し、析出した固体をろ過により分離し、更にアセトン 100部にて洗浄することにより、ウェットケーキ 10.0部を得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより下記式(11)で表される本発明に係る水溶性クマリン系二色性染料 3.0部を合成した。
【0102】
【化15】
【0103】
(偏光発光素子Cの作製)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製 VF-PS#7500)を40℃の温水に3分間浸漬して、フィルムを膨潤させた。膨潤して得られたフィルムを、化合物(a)として合成例2で得られた式(9)の化合物 0.9重量部、化合物(b)として合成例4で得られた式(11)の化合物を0.85重量部、芒硝を1.0重量部、水1500重量部を含有する45℃の水溶液に4分間浸漬して含有させた。得られたフィルムを3%ホウ酸水溶液中50℃で5倍に5分間で延伸した。延伸して得られたフィルムを、緊張状態を保ったまま常温の水で20秒間水洗し、その後乾燥して、偏光発光素子Cを得た。偏光発光素子Cの上記式(I)より計算されるOrder Parameterにおいて、化合物(a)である式(9)に基づく348nmのOrder Parameterは0.85であり、化合物(b)である式(11)に基づく447nmのOrder Parameterは0.75であった。なお、化合物(a)である式(9)に基づく吸収の最も大きい波長は348nmであり、その吸収帯域は310~390nm、かつ最も高い発光の波長が426nmであり、その発光帯域は380~500nmであった。また、化合物(b)である式(11)に基づく吸収の最も大きい波長は447nmであり、光の吸収帯域は360~500nmであり、かつ最も高い波長の発光、即ち極大発光波長が510nmである偏光を発光する特性を有していた。
【0104】
次に、紫外線吸収剤を含有しないトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製 ZRD-60)を1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液で、35℃で10分間処理し、水洗し、次いで、70℃で10分乾燥させた。アルカリ処理して得られたトリアセチルセルロースフィルムを、上記で得た偏光発光素子Cの両面に水 100重量部、ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビポバール社製 NH-26) 4重量部よりなる接着剤を介してラミネートし、70℃で10分乾燥させ、偏光発光素子Cと同等の光学特性を有する偏光発光板Cを得た。得られた偏光発光板Cに375nmハンドライトタイプ ブラックライト(日亜化学工業社製「PW-UV943H-04」)を用いて紫外線を照射しながら偏光板を介して該発光を確認したところ、偏光発光素子Cの加工の時の延伸軸方向に偏光発光が確認でき、一方で非延伸軸においては偏光発光しないことを確認した。つまり偏光発光板Cは直線偏光を発光する素子であった。得られた偏光発光板をガラスに貼合し、測定サンプルとした。なお、偏光発光板Cの発光帯域は表2に示す偏光を発光する光学特性を有していた。
【0105】
[比較例1]
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製 VF-PS#7500)を40℃の温水に3分間浸漬して、フィルムを膨潤させた。膨潤して得られたフィルムを、化合物例5-1に記載の4,4’-ビス-(スルホスチリル)ビフェニル二ナトリウム水溶液(BASF社製 Tinopal NFW Liquid)1.0重量部、合成例1で得られた化合物(8)を0.3重量部、芒硝を1.0重量部、水1500重量部を含有する45℃の水溶液に、4分間浸漬して含有させた。得られたフィルムを3%ホウ酸水溶液中50℃で5倍に5分間で延伸した。延伸して得られたフィルムを、緊張状態を保ったまま常温の水で20秒間水洗し、その後乾燥して、比較例1の測定サンプルを得た。比較例1のシステムの上記式(I)より計算されるOrder Parameterは、0.91であり、吸収の最も大きい波長は377nmであり、その吸収帯域は350nm~410nmであり、465nmに極大発光波長を有する偏光発光色素が得られていた。また、得られた測定サンプルは、直線偏光の光を発光することが分かった。
【0106】
(比較例2)
実施例2において膨潤して得られたフィルムを、化合物(a)として合成例2で得られた式(9)の化合物を用いずに、化合物(b)である合成例3で得られた式(10)の化合物を0.7重量部、芒硝を1.0重量部、水1500重量部を含有する45℃の水溶液に4分間浸漬して含有させた以外は同様にして、比較例2の測定サンプルを作製した。化合物(b)である式(10)に基づく447nmのOrder Parameterは0.54であった。
【0107】
(比較例3)
実施例2において膨潤して得られたフィルムを、化合物(a)として合成例2で得られた式(9)の化合物を用いずに、化合物(b)である合成例4で得られた式(11)の化合物を0.85重量部、芒硝を1.0重量部、水1500重量部を含有する45℃の水溶液に4分間浸漬して含有させた以外は同様にして、比較例2の測定サンプルを作製した。化合物(b)である式(11)に基づく447nmのOrder Parameterは0.52であった。
【0108】
得られた各測定サンプルを、下記のように評価した。
【0109】
[評価]
(h-1)単体透過率Ts、平行位透過率Tp、及び直交位透過率Tc
各測定サンプルの単体透過率Ts、平行位透過率Tp、及び直交位透過率Tcを、分光光度計(日立製作所社製「U-4100」)を用いて測定した。ここで、単体透過率Tsは、測定サンプルを1枚で測定した際の各波長の透過率である。平行位透過率Tpは、2枚の測定サンプルをその吸収軸方向が平行となるように重ね合せて測定した各波長の分光透過率である。直交位透過率Tcは、2枚の測定サンプルをその吸収軸が直交するように重ね合せて測定した分光透過率である。測定は、220~780nmの波長にわたって行った。
【0110】
(h-2)偏光度ρ
各測定サンプルの偏光度ρを、以下の式(II)に、平行透過率Tp及び直交透過率Tcを代入して求めた。
【0111】
(式2)
ρ={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100 …式(II)
【0112】
(h-3)視感度に補正された単体透過率Ys、及び視感度補正された偏光度ρy
各測定サンプルの単体透過率Ys(%)は、可視域における400~700nmの波長領域で、所定波長間隔dλ(ここでは5nm)おきに求めた上記単体透過率Ts(%)について、JIS Z 8722:2009に従って視感度に補正した透過率である。具体的には、単体透過率Ts(%)を式(V)に代入して算出した。なお、下記式(V)中、Pλは標準光(C光源)の分光分布を表し、yλは2度視野等色関数を表す。各サンプルにおける視感度補正された偏光度ρy(%)は、U-4100によって測定した際に、機器によって算出して得られた値を用いた。
【0113】
(式3)
【0114】
実施例1~3、および比較例1~3で得られた測定サンプルのそれぞれにおける375nmの単体透過率(Ts 375(%))、375nmの偏光度(ρ 375(%))、視感度に補正した透過率(Ys(%))、および、視感度に補正した偏光度(ρy(%))を表1に示す。得られたそれぞれの測定サンプルにおける紫外域、および、可視域の偏光機能が分かる。
【0115】
[表1]
【0116】
表1で示されるように実施例1~3で示される測定サンプルは、高い視感度補正単体透過率(Ys)を有していることが分かる。また375nmの単体透過率(Ts 375)および偏光度(ρ 375)の値から、本願化合物は375nmで光を偏光に変換する機能を有しながら照射した光に対して50%強の光を吸収していることを示す結果が得られていることが分かる。一方、比較例2および比較例3の375nmの偏光度は、実施例2および3と比べ顕著に低い値を示した。
【0117】
(h-4)発光した光の偏光の測定
光源として、348nmにおいて最も出力が強く、かつ335~380nmの範囲の光を照射する紫外線LED (THORLABOS社製 M340L4)を用い、光源に紫外線透過・可視カットフィルター(五鈴精工硝子社製「IUV-340」)を設置し可視光をカットした。その上で、各実施例または比較例で得られた測定サンプル、可視域及び紫外に偏光を有する偏光板(ポラテクノ社製「SKN-18043P」、厚さ180μm、Ysは43%)とを順に設置し、測定サンプルが発光している偏光発光を、分光放射照度計(ウシオ電機社製「USR-40」)を用いて測定した。すなわち、光源からの光が、紫外線透過・可視カットフィルター、測定サンプル、可視域及び紫外に偏光を有する偏光板の順に通過し、分光放射照度計に入射するように配置して測定した。その際に、測定サンプルの発光が最大になる軸と、紫外・可視偏光板の吸収軸方向が平行となるように重ね合せて測定した各波長の分光発光量をLw(弱発光軸)、測定サンプルの発光が最大になる軸と、可視域及び紫外に偏光を有する偏光板(ポラテクノ社製「SKN-18043P」)の吸収軸方向が直交となるように重ね合せて測定した各波長の分光発光量をLs(強発光軸)として、Lw及びLsを測定した。測定サンプルと一般的な偏光板との吸収軸が平行な場合と、直交の場合との可視域で発光された光のエネルギー量を確認することで、可視域である400nm~700nmにおいて偏光した発光した光の評価を行った。
【0118】
表2に実施例1~3、及び比較例1~3にて得られた測定サンプルの460nm、550nm、610nm、670nmの各波長におけるLs及びLwを示す。
【0119】
[表2]
【0120】
表2に示されるように、実施例1は、460nm、550nm及び610nmの各波長において比較例1よりもLsが高いことから、発光輝度が上昇し、視認性が向上していることが分かる。また、実施例1は比較例1より、460nm、550nm及び610nmにおいて、LsとLwとの差が大きく、偏光発光におけるコントラスト、即ち得られた偏光発光素子、並びにそれから得られた偏光発光板の発光する光の偏光度が上昇していることが分かる。一方、実施例2および実施例3においても460nmと550nmの各波長において比較例2および3のLsが高く、さらには、LsとLwとの差が大きくなっていた。このことから、その偏光した輝度向上には、化合物(a)が含有することが重要であり、かつ、その化合物(a)が配向してなされることによって、化合物(b)が本来有する偏光発光に伴う輝度、および発光した偏光の偏光度、即ち高コントラストよりもさらに高輝度、高偏光度な偏光を発光する偏光発光素子が得ることができることが示された。以上のことから、本願によって偏光発光素子、及びそれによって得られる偏光発光板は、発光輝度が上昇し、得られる偏光のコントラストも上昇させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上のことから、本願の偏光発光素子、並びに偏光発光板は、偏光発光光源、レンズまたは表示装置などの光学装置、特に液晶表示装置に用いることで、発光波長に高い偏光作用を発現しながら高輝度な発光作用を発現し、かつ高い耐久性を付与させることができる。本発明によれば、自然界の光を効率良く発光へ利用できるようになる。また、これまで色素が吸収していない光を高効率に可視域の光を発光させるために利用高効率で発光を付与させることができ、可視光領域での高い透過率を有しながらも、高い発光輝度を有する偏光発光素子を提供することができる。さらに、一般的に、一定の光、例えば紫外線によってポリマーや色素は劣化することが知られているが、本発明ではその劣化するための光エネルギーを逆に発光に利用するため、劣化の原因となるエネルギーを実質的に抑制し、素子自体に高い耐久性を付することができ、特に高い耐光性が求められる表示装置、例えば液晶ディスプレイ等の表示装置に好適に用いることができる偏光発光素子、または光学装置を提供するに至る。また、透明で、かつ紫外線で偏光を発光させるフィルムがえられることから、本発明はセキュリティ性や意匠性等、様々な利点を活かした応用も可能となる。