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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】金属発泡体を含む固定触媒床
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/56 20240101AFI20240426BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20240426BHJP
   B01J 35/60 20240101ALI20240426BHJP
   C07C 29/17 20060101ALI20240426BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20240426BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
B01J35/56 301A
B01J23/755 Z
B01J35/60 A
C07C29/17
C07C31/20 B
C07B61/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019517219
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2017074491
(87)【国際公開番号】W WO2018060245
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-08-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】16191751.3
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヴィーラント
(72)【発明者】
【氏名】マイケ ロース
(72)【発明者】
【氏名】ルネ ポス
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513173(JP,A)
【文献】特表2004-517135(JP,A)
【文献】特公昭46-7579(JP,B1)
【文献】特表2012-524749(JP,A)
【文献】特表2002-541646(JP,A)
【文献】特表2014-516344(JP,A)
【文献】特開2013-177346(JP,A)
【文献】国際公開第2005/039764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 35/56
B01J 23/755
B01J 35/60
C07C 29/17
C07C 31/20
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相中の少なくとも1種の反応成分と少なくとも1種の気体成分との触媒反応のための触媒活性金属発泡体を含む固定床であって、
前記触媒活性金属発泡体は、500ミリリットル以下の体積を有し、少なくとも95重量%の程度まで金属で構成されており、充填床ではバルク体として配置されており、ニッケル、コバルト、鉄、銀、白金、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される1種以上の金属を含み、7~13重量%のAlをさらに含み、70100/gのBET表面積を有し、かつ3000ppm未満の酸素含有量を有する、
固定床。
【請求項2】
前記触媒活性金属発泡体は、前記固定床においてばら充填材として存在し、その際、このばら充填材の1Lの体積は、0.8kg以下の重量を有することを特徴とする、請求項1記載の固定床。
【請求項3】
前記触媒活性金属発泡体は、円筒体、リング形の物体、直方体、平行六面体または立方体の形であることを特徴とする、請求項1または2記載の固定床。
【請求項4】
前記触媒活性金属発泡体は、円筒形状を有することを特徴とする、請求項3記載の固定床。
【請求項5】
前記触媒活性金属発泡体は、100~5000μmの範囲のサイズを有する巨視的な細孔を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の固定床。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の固定床の存在下での、液相中の少なくとも1種の反応成分と、少なくとも1種の気体成分との触媒反応方法。
【請求項7】
前記方法は、少なくとも0.5mの全容積を有する反応器内で連続操作として実施されることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記触媒反応は、水素化であり、その際、水素は、気体成分であり、前記液相中の反応成分は、少なくとも1つの不飽和C-C結合および/または少なくとも1つの官能基を含むことを特徴とする、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
前記触媒反応は、アルケン、アルキン、不飽和アルコール、芳香族化合物、有機ニトロおよびニトロソ化合物、有機イソシアネート、有機シアン化物、アルデヒドならびにケトンからなる群から選択される少なくとも1種の物質の水素化であり、その際、水素は、前記気体成分として使用されることを特徴とする、請求項6から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記触媒反応は、糖類の群由来の物質の水素化であることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記触媒反応は、アルデヒドおよび/もしくはケトンを得るためのアルコールの脱水素、またはアルデヒドおよび/もしくはケトンの還元的アミノ化であることを特徴とする、請求項6または7記載の方法。
【請求項12】
前記触媒反応は、脂肪族アミンの合成または有機化合物の還元的アルキル化であることを特徴とする、請求項6または7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性金属発泡体の固定触媒床、およびこの固定触媒床が配置されている反応器内でのガス状反応物と液体反応物との混合物の触媒反応方法に関する。
【0002】
不均一系触媒プロセスは、工業的に非常に広く使用されている。このようなプロセスの例としては、アンモニア、メタノールおよびフィッシャートロプシュ合成、多数の酸化および水素化プロセスおよび他の多くの反応が挙げられる。このようなプロセスの多くは、2011年10月15日、DOI: 10.1002/14356007.o05_o03にオンラインで公開されたウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry)の”Heterogeneous Catalysis and Solid Catalysts, 3. Industrial Applications”と題された章に広く記載されている。
【0003】
このようなプロセスの多くは、様々な方法で構築および操作された固定床反応器で行われており、例えば、2012年7月15日、DOI: 10.1002/14356007.o05_o03にオンラインで公開された、ウルマン工業化学百科事典の”Catalytic Fixed-Bed Reactors”と題された章を参照されたい。
【0004】
特定の応用分野に合わせた新しい不均一系触媒の開発は、現代の産業および学術研究の重要な課題である。したがって、このような不均一系触媒は、例えば、2011年10月15日、DOI: 10.1002/14356007.o05_o02にオンラインで公開された、ウルマン工業化学百科事典の”Heterogeneous Catalysis and Solid Catalysts, 2. Development and Types of Solid Catalysts”と題された章により詳細に記載されているように、様々な形状、粒径および他の材料特性を有し得る。
【0005】
金属発泡体は当該技術分野ではよく知られており、通常、機能性または構造付与性材料として使用されており、同様に、2012年7月15日、DOI: 10.1002/14356007.c16_c01.pub2にオンラインで公開された、ウルマン工業化学百科事典の”Metallic Foams”と題された章を参照されたい。このように、ニッケル発泡体は、例えば電池の電極として、または濾過要素としての用途が見出されている。
【0006】
金属発泡体に基づく材料の触媒用途は非常に限られている。金属発泡体は、これまで通常、不均一系触媒による気相反応に使用されてきた。これらの用途には、特に、燃焼機関からの排気ガスの触媒後処理、煙道ガスの触媒精製、一酸化炭素と水蒸気から水素を生成するための水ガスシフト反応、またはメタンの水蒸気改質が含まれる。そのような用途では、それらの高い気孔率のために金属発泡体により貫流反応媒体中に蓄積される動圧は比較的低い。
【0007】
従来技術で知られている多孔質金属発泡体は、それ自体触媒活性ではなく、不均一系触媒用途には不十分な幾何学的表面積を有するので、公知の用途では、触媒活性化用の追加コーティングが金属発泡体上に施されることが必要とされる。これにより、貫流する反応媒体に対して動圧が大幅に増加し、通常、不均一系触媒用途では著しい効率損失が生じる。
【0008】
独国特許出願公開第10245510号明細書(DE 10245510 A1)では、構造材料のマトリックス中に分散された酸化触媒を含み、かつすす粒子の除去および触媒後燃焼に使用できるデプスフィルターエレメントとして使用される発泡体を含む燃焼機関用の排気ガスフィルターが開示されている。
【0009】
AICHE Journal, 2015, 第61巻, 第12号, 4323頁~4331頁には、固定床反応器中でメタンを得るためのCOの気相水素化において直径16mmを有するチップとしてのNi-Al/Ni金属発泡体触媒の使用が開示されている。このニッケル発泡体は、不活性触媒支持体として使用されており、その表面上に活性Ni/Alコーティングが施されている。このようにして製造された触媒は、12.6重量%のNiOおよび4.2重量%のAlを含む。
【0010】
Catalysis Today, 2016, 第273巻, 221頁~233頁には、金属発泡体は、概して触媒用途には十分な面積を有していないとさらに記載されている。したがって、高表面積のウォッシュコートを適用し、続いて触媒活性成分を含浸させる必要がある。
【0011】
大規模な工業規模の化学的用途は、しばしば、液体、通常は有機化合物とガス状反応物との反応である。コーティングされた触媒金属発泡体は、通常、比較的高粘度の液体反応物が、コーティングによって狭められ、したがって細孔内の触媒活性中心と接触しない金属発泡体の細孔内に浸透することができないため、このような用途には適していない。今日、このような用途では、通常、例えば貴金属溶液の含浸によって予め触媒活性化された打錠または押出酸化物成形体が使用されている。これらの成形体の中には、高いBET表面積を示すものがある。しかしながら、これらの酸化物成形体の利用可能な幾何学的表面積は限られているので、典型的には数立方メートルの容積を有する反応器におけるこのような成形体の触媒効率は、反応物の触媒活性中心への不十分な物質移動によって制限される。
【0012】
ACS Catal. 2016, 第6巻, 5432~5440頁には、カーボンナノファイバー(CNF)でコーティングされたニッケル発泡体、および液相中の固定床反応器における亜硝酸塩の水素化におけるその使用が開示されている。ここに記載されている触媒は、比較的高い割合の炭素(27重量%)を有する。
【0013】
本発明の課題は、従来技術によるプロセスで遭遇するような巨視的物質移動の制限および固定触媒床上の高い動的圧力から生じる制限の両方を低減および/または克服しながら、固定触媒床上の三相系で効率的な触媒反応を可能にすること、およびそのための適切な触媒を提供することである。
【0014】
この課題は、液相中の少なくとも1種の反応成分と少なくとも1種の気体成分との触媒反応のための触媒活性金属発泡体を含む固定床によって達成され、ここで、触媒活性金属発泡体は、500ミリリットル以下の体積を有し、少なくとも95重量%の程度まで金属で構成されており、かつ充填床ではバルク体として配置されている。
【0015】
「金属発泡体」とは、高い気孔率と不規則な構造を有する固体材料の領域間の多数の相互接続を有する硬質金属発泡体を意味すると理解されるべきである。このような金属発泡体は、「発泡金属」とも呼ばれ、「金属発泡体」という用語は、より広く使われている。「金属発泡体」という用語は、技術文献で十分に確立されており、例えば、2012年7月15日, DOI: 10.1002/14356007.c16_c01.pub2にオンラインで公開された、ウルマン工業化学百科事典の”Metallic Foams”と題された章により詳細に説明されている。
【0016】
本発明の文脈における「触媒活性金属発泡体」は、金属発泡体中の細孔を狭めることができる追加のコーティングを含まない金属発泡体を意味すると理解されるべきである。本発明の文脈における触媒活性金属発泡体は、追加のコーティングなしでそれぞれの標的反応において触媒活性であるか、触媒活性であるかそうでないかのいずれかである。本発明による固定床は、追加の触媒活性コーティングも含まない。
【0017】
本発明による触媒活性金属発泡体は、それらの寸法から正確に計算され得る体積を有する、外的に離散的に結合された均一形状の幾何学的物体である。本発明による触媒活性金属発泡体は、好ましくは、円筒体、リング形の物体、直方体、平行六面体または立方体の形である。このような物体の体積は、一般に、物体の測定可能な基準面積に、同様にその測定可能な高さを乗じることによって得られる。
【0018】
本発明の文脈における固定床または充填床は、空間に固定配置された集塊、すなわち、反応器および/または反応ゾーン内に空間的に固定された個々の物体、小片または粒子からなる1つ以上の物質のばら充填材として理解されるべきである。
【0019】
本発明による固定床は、また、触媒的に活性な金属発泡体に加えて、他のおそらく触媒的に不活性な成分、例えば充填材または流動遮断および/または乱流要素も含み得る。
【0020】
本発明による固定床は、好ましくは50重量%を上回る、特に好ましくは80重量%を上回る、非常に特に好ましくは95重量%を上回る程度まで触媒活性金属発泡体で構成されている。本発明の固定床が触媒活性金属発泡体からなる場合が非常に特に好ましい。
【0021】
本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体は、少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%、特に好ましくは少なくとも98重量%、非常に特に好ましくは少なくとも99重量%の程度まで金属で構成されている。
【0022】
「金属」とは、元素周期表のIA族(水素を除く)、IIA族、IB~VIIIB族(遷移金属)、IIIA族(ホウ素を除く)、IVA族(ここではSnおよびPb)、VA族(ここではBi)およびVIA族(ここではPo)の元素を意味すると理解されるべきである。
【0023】
本発明による固定床に存在する触媒活性金属発泡体は、好ましくは、ニッケル、コバルト、鉄、銀、白金、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される1種以上の金属を含む。本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体が、ニッケル、コバルトおよび鉄からなる群から選択される1種以上の金属を含む場合が特に好ましい。本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体が、65~98重量%、好ましくは70~95重量%、特に好ましくは80~90重量%のニッケルまたはコバルトを含む場合が非常に特に好ましい。
【0024】
本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体は、好ましくはさらに25重量%まで、特に好ましくは2~20重量%、非常に特に好ましくは4~15重量%のアルミニウムをさらに含む。ほとんどの用途の場合、7~13重量%のアルミニウムを含む実施形態が、特によく適している。
【0025】
本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体は、10重量%まで、好ましくは0.05~5重量%、特に好ましくは0.1~2重量%のモリブデン(Mo)および/または0~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、特に好ましくは1.5~3.5重量%の鉄およびクロムからなる群から選択される1種以上の元素をさらに含む。
【0026】
このような酸化構造の存在によって、本発明による触媒活性金属発泡体の触媒活性が、関連する標的反応において著しく低下し得るので、本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体は、金属酸化物化合物中に5重量%未満の酸素をさらに含む。本発明による触媒活性金属発泡体は、好ましくは3重量%未満、非常に特に好ましくは1重量%未満の酸化物を含む。特によく適した触媒活性金属発泡体の酸素含有量は、好ましくは7500ppm未満、特に好ましくは5000ppm未満、非常に特に好ましくは3000ppm未満である。
【0027】
本発明による触媒活性金属発泡体の金属および酸素含有量は、従来技術において既知であり、かつ当業者によく知られている元素分析の方法で測定することができ、例えば、金属含有量は、適切な湿式化学温浸プロセスの実行後に、発光分光分析(ICP-OES)によって測定され得る。酸素含有量は、例えば、LECO TCH 600分析装置を用いて得られたCOの赤外分光分析によって適切に測定される。本発明による触媒活性金属発泡体の酸素含有量を測定する前に、前記発泡体は、周囲の媒体からの酸素汚染を排除して特異的に失活させることが必要とされ得る。このことが特に当てはまるのが、それらの触媒活性のために空気中で自然発火性であり得、したがって使用前に保護媒体として水中で取り扱われる実施形態である。最初に、例えば、触媒活性発泡体の細孔内の残留水を吸収するための一定の能力を有するエタノールなどの乾燥有機溶媒で慎重に洗浄することによって、このような材料から水が穏やかに除去されるべきである。その後の排気で溶媒残留物や残留水分が除去される。不活性化は、真空下または保護用ガス流(窒素またはアルゴン)中で200℃までゆっくり加熱することにより行われ得る。
【0028】
本発明による固定床では、触媒活性金属発泡体は、ばら充填材として存在し、このばら充填材の1Lの体積は、好ましくは0.8kg以下の重量を有する。このばら充填材の1Lの体積は、特に好ましくは0.1~0.7kg、非常に特に好ましくは0.2~0.6kgの重量を有する。したがって、本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体は、好ましくは0.8kg/L以下、特に好ましくは0.1~0.7kg/L、非常に特に好ましくは0.2~0.6kg/Lのかさ密度を有する。
【0029】
かさ密度dSchは、固体の注入密度と呼ばれる場合もあり、固体の粒子/固体自体の間の空隙を満たす空気と、粒状であり得る固体との混合物の体積に対する質量の比である。当業者によって一般的に使用されているこのパラメータは、メスシリンダーおよび天秤を使用して、定義された固体のばら充填材の体積(V)に対する質量(M)を測定することによって決定され得る。
Sch=M/V
【0030】
かさ密度は、水で満たされた1Lの標準メスシリンダーに規定量のドロップウェット触媒をゆっくり加えることによって決定され得る。触媒の沈降が完了した後、触媒床の体積が、スケールから読み取られる。かさ密度dSchは、以下の式
Sch=M/V
(式中、Mは、乾燥質量に使用されている触媒の量であり、Vは、水中で認められた床の体積である)に従って計算される。活性化された触媒の乾燥質量は、水と触媒で満たされた一定容積の容器と、水だけで満たされた同容積の容器とを比較計量することで求めることができる。乾燥触媒の質量は、乾燥触媒の密度および乾燥触媒と水との間の密度の差の商から導かれる密度係数kによって乗じた2つの重量の差によって示される。密度係数は、技術文献および/またはラネー型触媒の製造業者および販売業者の取扱説明書から直接得ることができ、通常、約1.2である。触媒床の体積は、使用されるメスシリンダーの目盛りを読み取ることにより、当業者が直接得ることができる。この方法は、ラネー型触媒の粒径とは無関係である、すなわち、それらが粒状または発泡体材料の床であるか、あるいは水中での粉末触媒であるかどうかとは無関係である。
【0031】
本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体は、500ミリリットル(mL)以下の体積を有する。本発明による触媒活性金属発泡体の幾何学的形状およびサイズ、したがってその体積は制御可能であり、使用される反応器で支配的な条件に適合させて、反応媒体に対する最小逆圧での物質移動の最適条件を維持することができる。本発明による固定床の好ましい実施態様では、触媒活性金属発泡体は、200mL以下、特に好ましくは0.02~100mL、非常に特に好ましくは0.02~50mLの体積を有する。
【0032】
本発明による固定床に存在する触媒活性金属発泡体は、好ましくは円筒体、リング形の物体、直方体、平行六面体または立方体の形である。これらは好ましくは、少なくとも300mmの辺長、0.5~10mm、好ましくは1~5mmの厚さを有する金属発泡体シートから製造される。これらの金属発泡体シートから、例えば、好ましくは立方形または平行六面体形状を有し、最大辺長が50mm以下、好ましくは25mm以下、特に好ましくは10mm以下であるより小さな幾何学的物体を、レーザー切断/レーザービーム切断によって得ることが可能である。0.5~10mm、好ましくは1~5mmの辺長を有する立方体が、同じ方法で製造され得る。リング状の物体もこの製造方法で作製され得る。その外径は、好ましくは100mm未満、特に好ましくは50mm未満、非常に特に好ましくは20mm未満である。内径は、好ましくは2~80mmのリング幅が形成されるように選択されるべきである。
【0033】
本発明による固定床中の触媒活性金属発泡体は、円筒形状を有してよく、該円筒形状は、金属発泡体シートを巻き取ることによって生成されている。25~500ミリリットルの体積を有する円筒形の触媒活性金属発泡体から構成された本発明による固定床は、数立方メートルの全容積を有する大規模な工業規模の固定床反応器に特に適している。円筒形の金属発泡体は、同様に、少なくとも300mmの辺長と、0.5~10mm、好ましくは1~5mmの厚さとを有する金属発泡体シートから製造され得る。この目的のために、金属発泡体シートは、所望の目標直径を有する円筒形の「ロール」が形成されるまでそれらの長辺に沿って巻き取られ、次いで例えばレーザー切断/レーザービーム切断によって所望の長さにされる。物質移動を改善し、使用時に触媒活性金属発泡体を通って流れる反応媒体の乱流を増加させるために、得られる円筒形の金属発泡体で層流路が最小になるように、巻き取る前に金属発泡体シートは、波形シート金属と同様に波形にされ得る。
【0034】
本発明による固定床に存在する触媒活性金属発泡体は、巨視的な発泡体構造を有する。多くの空隙を含む多孔質の金属発泡体構造は、例えば液化金属へのガスの作用とそれに続く冷却によって形成され得る。そのような構造を達成するためのさらなる選択肢は、金属を塗布するためのテンプレートとして有機発泡体構造を使用し、その後焼却によって有機テンプレートを除去することである。本発明による金属発泡体中に存在する巨視的な細孔は、好ましくは100~5000μm、特に好ましくは200~2500μm、特に好ましくは400~1200μmの範囲のサイズを有する。巨視的な細孔のサイズは、例えば、“The Guide 2000 of Technical Foams”,book 4,part 4,33頁~41頁に記載された方法を用いて測定され得る。巨視的な細孔のサイズは、選択された細孔の孔径を光学的に測定することによって測定され得る。この測定が、少なくとも100個の異なる細孔について繰り返され、そこから分析結果として平均細孔径が算出される。
【0035】
本発明による固定床中に存在する触媒活性金属発泡体は、好ましくは1~200m/g、特に好ましくは10~120m/g、非常に特に好ましくは70~100m/gのBET表面積を有する。簡単にするためにBET表面積とも呼ばれる比表面積は、J. Am. Chem. Soc. 1938, 第60巻, 309頁~319頁に記載されるようにブルナウアー-エメット-テラー法に従ってDIN9277に準拠して窒素吸着により測定される。
【0036】
本発明による固定床に存在する触媒活性金属発泡体は、例えば、少なくとも二元金属合金からの少なくとも1種の金属の化学浸出によって得られる。
【0037】
ラネー触媒としても知られる「ラネー型」活性化ニッケルまたはコバルト触媒は、本発明による固定床における触媒活性金属発泡体としての使用に特に適している。したがって、このような触媒活性金属発泡体の好ましい製造は、触媒活性化ニッケル発泡体の例を参照して以下に記載される。説明された製造工程は、プロセスパラメータの適切な適応と共に、ここに明示的に記載されていない他の金属発泡体に適用され得る。
【0038】
触媒活性ニッケル発泡体を製造するために、市販のニッケル発泡体が、接着促進剤で処理され、アルミニウム粉末でコーティングされている。金属と有機物との間の接着力を向上させる任意の接着促進剤が使用され得る。例えば、ポリエチレンイミン溶液が適している。
【0039】
ニッケル発泡体は、これらのプロセス工程で延性を保持しており、例えば、円筒体の製造に適した方法で成形され得る。その後の酸素を排除した熱処理で、最初に水分および接着促進剤の有機化学残留物が、特に除去される。次に、アルミニウムが、ニッケル発泡体に溶解し、金属間相を形成する。気孔構造(形状、気孔率、寸法)を含む得られたニッケル/アルミニウム合金発泡体の空間構造は、このプロセス工程でも元の特性が完全に保持されている使用済みニッケル発泡体の空間構造に対応する。したがって、得られたニッケル/アルミニウム合金発泡体は、細孔の狭いコーティングを全く含まない。
【0040】
熱処理は、好ましくは、500℃~1000℃、特に好ましくは600℃~750℃の範囲の温度で実施される。熱処理は、破壊的な酸化物相や層の形成を防ぐために、無酸素不活性ガスの雰囲気下で行われる。
【0041】
例えば、レーザー切断/レーザービーム切断による材料の粉砕および/または分離が、未だ熱処理前の成形工程で行われていなければ、熱処理後に行われてもよい。
【0042】
本発明による触媒活性ニッケル発泡体は、このようにして得られたニッケル/アルミニウム成形体から、その中に存在するアルミニウムの少なくとも一部を浸出することによって製造される。したがって、塩基性水溶液、好ましくはアルカリ金属水酸化物溶液が使用され、その際、アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化リチウムからなる群から選択される。水酸化ナトリウム水溶液が特に好ましい。このプロセス工程で使用されるアルカリ金属水酸化物水溶液の濃度は、概して0.1~60重量%である。アルミニウムの浸出は、好ましくは5~50重量%、特に好ましくは5~35重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて20℃~100℃、好ましくは40℃~85℃、特に好ましくは50℃~80℃の温度で行われる。本明細書で使用されるべき浸出時間、すなわち、水酸化ナトリウム溶液とアルミニウム変性ニッケル金属発泡体との反応時間は、2~240分の間であり得る。
【0043】
本発明による固定床中に存在する上記の触媒活性金属発泡体では、最初に使用された金属発泡体の巨視的な発泡体構造が保持されている。上記の例では、Ni/Al合金からのアルミニウムの少なくとも部分的な浸出は、気孔率の高い、触媒活性のニッケル構造が生成される表面近くの領域で行われる。このようにして得られた触媒活性ニッケル発泡体のBET表面積は、好ましくは、活性化前に使用された金属発泡体のBET表面積よりも大きい。
【0044】
本発明はさらに、触媒活性金属発泡体を含む、本発明による固定床の存在下での、液相中の少なくとも1種の反応成分と、少なくとも1種の気体成分との触媒反応方法であって、触媒活性金属発泡体は、500ミリリットル以下の体積を有し、かつ少なくとも95重量%の程度まで金属で構成されている、触媒反応方法を提供する。
【0045】
本発明による上記固定床は、液相中の少なくとも1種の反応成分と少なくとも1種の気体成分との触媒反応に使用される。このような三相反応は、不連続(バッチ)または連続操作として行われ得る。本発明による方法は、好ましくは連続操作として行われる。本発明による方法では、運転中に本発明による固定床の空間的固定を可能にする全ての種類の反応器が使用され得る。したがって、例えば撹拌槽型反応器、固定床反応器、または当業者に知られている他の装置が使用され得る。
【0046】
本発明による方法が、撹拌槽型反応器内で実施される場合、本発明による固定床は好ましくは保持装置内にある。前記装置は、好ましくは、撹拌機シャフトに近接して配置されており、その際、その配置は、保持装置に導入された固定床を通る反応混合物の流れを撹拌機が発生させるように行われる。
【0047】
この反応による方法は、好ましくは、固定床反応器内で、例えばトリクルベッド反応器もしくは液体充填反応器内または当該技術分野で公知の別の固定床反応器型内で連続操作として実施される。全ての適切な反応器型は、「貫流」モードで操作されてよく、その際、反応物(供給物)が反応器に導入される間、生成物混合物が、本発明による固定床での反応後に除去される。あるいは、生成物混合物の一部は、反応器から反応領域に戻され得る(再循環流)。このような再循環方式(リサイクルモード)では、再循環流に対する供給物の重量比は、0.025~0.25、好ましくは0.05~0.15、特に好ましくは0.05~0.1である。
【0048】
本発明による方法は、好ましくは、少なくとも0.5mの全容積を有する反応器、特に好ましくは1~500m、極めて特に好ましくは5~100mの全容積を有する反応器内で連続操作として実施される。
【0049】
本発明による方法による触媒反応は、好ましくは、液相中に反応成分として存在し、少なくとも1つの不飽和C-C結合および/または少なくとも1つの官能基を含む少なくとも1種の物質の水素化である。水素は、気体成分として使用されている。
【0050】
水素化に使用されかつ液相に存在する反応成分は、好ましくは、アルケン、アルキン、不飽和アルコール、芳香族化合物、有機ニトロおよびニトロソ化合物、有機イソシアネート、有機シアン化物、アルデヒドおよびケトンからなる群から選択される少なくとも1種の物質である。本発明による方法における触媒反応は、特に、糖類の群由来の物質の水素化であってもよく、ここで、水素化のための糖は、任意で水溶液中で本発明による固定床に供給される。
【0051】
本発明の触媒活性金属発泡体の固定床は、アルデヒドおよび/またはケトンを得るためのアルコールの脱水素、またはアルデヒドおよび/またはケトンの還元的アミノ化にさらに適している。本発明による固定床は、脂肪族アミンの合成または有機化合物の還元的アルキル化にも使用され得る。
【0052】
本発明による固定床のさらなる応用分野は、オストワルド法の原理によってエチレンオキシドまたはアンモニア酸化をもたらすためのエテンの酸化などの気相での不均一触媒反応である。
【0053】
本発明を、以下、実施例を参照してさらに詳細に説明する。本発明によるばら充填材固定床の製造および使用を、例として、ブタンジオールを得るための1,4-ブタンジオールの水素化で示す。
【0054】
実施例1
ロール状で市販されている厚さ1.9mm、幅300mmおよび平均孔径580μmのニッケル発泡体を市販の接着促進剤溶液でスプレーし、アルミニウム粉末で被覆し、無酸素下にて約700℃で熱処理した。冷却後、このようにして得られた材料をレーザーで切断して、辺長が2mm×2mmで厚さが1.9mmの正方形片にした。
【0055】
触媒活性化を達成するために、得られたばら充填材を、ばら充填材固定床に配置し、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を、80℃~90℃にて70分間ポンプで通し、続いて、ばら充填材固定床を通してポンプで排出した後の洗浄液のpHが10未満になるまで水で洗浄することにより湿式化学後処理を行った。
【0056】
比較例
1,4-ブタンジオールを得るための1,4-ブタンジオール(BYD)の大規模な工業的水素化では、例えば独国特許出願公開第2004611号明細書(DE 2004611 A)に開示されているように、ペレットタイプの活性化ニッケル触媒を使用する。かかる触媒を、比較材料として製造した。この目的のために、ニッケルおよびアルミニウムを溶融することにより、50重量%のニッケルおよび50重量%のアルミニウムからなる合金を製造し、これを機械的に粉砕し、ふるいにかけて、平均粒径2mmの粒子画分を得た。ばら充填材固定床において、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を60℃にて60分間ポンプで通し、続いて得られた洗浄液のpHが10未満になるまで水で洗浄することにより、この合金ペレット画分を触媒活性化した。
【0057】
実施例2
実施例1からの本発明の触媒活性金属発泡体および比較例からの従来技術の触媒を、ブチン-1,4-ジオール(BYD)を水素化して1,4-ブタンジオールを得るためのそれらの水素化活性について連続式固定床プラントで試験した。この目的のために、本発明の触媒活性化金属発泡体と比較例からの従来技術のペレット触媒との双方を、内径12mm、長さ175mmおよび有効容積18mlの管状反応器にそれぞれ装入した。装入された触媒固定床の容積は10mlであった。管状反応器を、加熱のためにGCオーブン内に配置した。反応器の上流にはガラス球で満たされた管が配置されており、これは反応器への入口部分として、反応物を加熱し、そして予備混合する役割を果たした。
【0058】
275バールの水素圧で、50重量%の水、20重量%のブチン-1,4-ジオールおよび30重量%の1,4-ブタンジオールからなる液体供給流を、反応器に連続的に供給し、その際、希釈水酸化ナトリウム溶液の添加によりpH7.3~7.5が確保されていた。選択した運転モードでは、液空間速度(LHSV)は、2.75h-1であった。反応器を120℃に加熱した。
【0059】
数日間にわたる反応器の連続運転中に、反応生成物の試料を取り出し、それらの組成を定期的にガスクロマトグラフィーにより分析した。これらの連続試験の結果を第1表にまとめる。
【表1】
【0060】
触媒活性ニッケル発泡体の本発明の固定床では、従来技術の固定床よりも高い触媒活性が達成されたことが分かった。本発明の触媒活性ニッケル発泡体の固定床は、さらに著しく改善された動作可能時間を示した、すなわち、従来技術の触媒固定床よりもかなり長い間、より高い活性レベルで連続的に運転することができた。