(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池のカソード及び前記カソードを含む全固体リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240426BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240426BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2019572599
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2018067753
(87)【国際公開番号】W WO2019007875
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-26
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カローラ・シュナイダース
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】須原 宏光
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0322639(US,A1)
【文献】特開2015-128013(JP,A)
【文献】特開2013-206598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、導電性材料、硫化物系固体電解質、バインダー及び溶媒が混合されたスラリーを基材に塗布することにより作成される全固体リチウムイオン電池のカソードであって、前記バインダーは、H-ANBRの総量に基づいて0%より多く0.9%以下の量の残存二重結合を含む水素化アクリレート-ニトリル-ブタジエンゴムであることを特徴とし、
前記溶媒は、シクロペンチルメチルエーテ
ル或いはシクロペンチルメチルエーテル
とケトン系溶媒との混合物を含み、
前記H-ANBRは、H-ANBRの総量に基づいて、20重量%~40重量%のアクリレート繰り返し単位の量を含む、全固体リチウムイオン電池のカソード。
【請求項2】
前記溶媒は、シクロペンチルメチルエーテ
ルであることを特徴とする、請求項1に記載のカソード。
【請求項3】
前記ケトン系溶媒がアセトン又はメチルエチルケトンであることを特徴とする、請求項1に記載のカソード。
【請求項4】
前記シクロペンチルメチルエーテル及び前記ケトン系溶媒が、9.9:1から8:2の重量比で存在することを特徴とする、請求項1又は3に記載のカソード。
【請求項5】
前記H-ANBRは、前記H-ANBRの総量に基づいて、15重量%~30重量%のニトリル繰り返し単位の量を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項6】
前記H-ANBRにおけるニトリル含有量は21重量%であり、アクリレート含有量は25重量%であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のカソード。
【請求項7】
前記H-ANBRにおける残存二重結合の量が0.9%であり、ニトリル含有量が21重量%であり、アクリレート含有量が25重量%であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のカソード。
【請求項8】
前記H-ANBRにおけるニトリル含有量が25重量%であり、アクリレート含有量が25重量%であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のカソード。
【請求項9】
カソードを含む全固体リチウムイオン電池であって、前記カソードは、活物質、導電性材料、硫化物系固体電解質、及びバインダーが混合されたスラリーを基材に塗布することにより作成され、前記バインダーは、0%より多く0.9%以下の量の残存二重結合を含む水素化アクリレート-ニトリル-ブタジエンゴムであることを特徴とし、
前記溶媒は、シクロペンチルメチルエーテ
ル或いはシクロペンチルメチルエーテル
とケトン系溶媒との混合物を含み、
前記水素化アクリレート-ニトリル-ブタジエンゴムは、H-ANBRの総量に基づいて、20重量%~40重量%のアクリレート繰り返し単位の量を含む、全固体リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、活物質、導電性材料、硫化物系固体電解質、バインダー及び溶媒が混合されたスラリーを基材に塗布することにより作製される全固体リチウムイオン電池に関し、バインダーは、H-ANBRの総量に基づいて0%より多く5.5%以下の量の残存二重結合を含む水素化アクリレート-ニトリル-ブタジエンゴム(H-ANBR)であることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車及びエネルギー貯蔵システムなどの大型デバイスから、携帯電話、カムコーダー、及びラップトップコンピューターなどの小型デバイスに至るまで、二次電池がデバイスに広く使用されている。
【0003】
リチウム二次電池は、ニッケルマンガン電池又はニッケルカドミウム電池よりも単位面積当たりの容量が大きいため、リチウム二次電池が二次電池として使用されている。
【0004】
しかしながら、従来のリチウム二次電池は、容易に過熱する場合があり、約360Wh/kgの低エネルギー密度及び比較的低い電池出力を有しており、従って次世代の車両電池としては適していない。
【0005】
その結果、より大きな出力及びより高いエネルギー密度を有する全固体リチウムイオン電池が開発された。
【0006】
全固体リチウムイオン電池は、以下を含む:活物質、固体電解質、導電性材料、バインダーなどを含むカソード、アノード、及びカソードとアノードの間に導入された固体電解質。
【0007】
典型的な固体電解質は、酸化物系電解質及び硫化物系電解質である。硫化物系電解質は、酸化物系電解質よりもリチウムイオン導電性が高く、広い電圧範囲にわたり安定しているため、硫化物系固体電解質がより広く使用されている。
【0008】
カソードは、活物質として硫黄を含んでいてよく、硫化物系電解質を含み得る。関連する従来技術の例として、リチウム二次電池は、電極材料を結合するバインダーとして、ニトリル-ブタジエンゴム(以下「NBR」という)又は水素化ニトリル-ブタジエンゴム(以下「HNBR」という)を使用する。既存のリチウム二次電池は硫化物系化合物を使用していないため、NBRを使用することができる。
【0009】
活物質は、電池が放電されると還元され、電池が充電されると酸化される。これにより、活物質の体積が変化する。これにより、カソード材料間に界面抵抗が生じ、バインダーは界面抵抗を低減できる。
【0010】
これまで一部のリチウム二次電池で使用されていたNBRは、以下の式1を有する。
【化1】
【0011】
NBRは、アクリロニトリル繰り返し単位とブタジエン繰り返し単位から構成される。NBRは炭素鎖に二重結合を有する。従って、NBRは、全固体リチウムイオン電池の活物質及び硫化物系固体電解質などの硫化物系化合物に対して高い反応性を有する。NBRは、硫化物系化合物と反応すると硬化するため、カソード材料間の界面抵抗の減衰に失敗する。活物質の体積は、充電と放電のサイクルで交互に膨張と圧縮を受け続けるため、電極コーティングと電池に亀裂が形成される。
【0012】
これまで一部のリチウム二次電池で使用されていたHNBRは、式2に示される以下の式2を有する。
【化2】
【0013】
HNBRは、水素をNBRに付加して、その炭素鎖から二重結合を除去することにより得られる。従って、HNBRは化学的に安定であり、硫化物系化合物に対する反応性が比較的低い。
【0014】
全固体リチウムイオン電池は、硫化物系固体電解質を使用しているため、前記電解質はNBRと化学反応を起こす可能性がある。電池の通常の使用法に従って電池の充電と放電を繰り返すと、NBRが硬化する可能性がある。
【0015】
特許文献1は、活物質、導電性材料、硫化物系固体電解質及びバインダーが混合されたスラリーを基材に塗布することにより作製される全固体リチウムイオン電池のカソードを開示しており、この場合に、バインダーは、HNBRの総量に基づいて0%より多く5.5%以下の量の残存二重結合を含む水素化ニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)である。
【0016】
15~30重量%の低いアクリロニトリル(ACN)含有量を有するHNBRには、電池が使用される低温で、高い結晶化度(最高で14%までの結晶化度)を有し、従ってその特性を失うという欠点がある。更に、HNBRは導電性材料及び電極材料との接着性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】独国特許出願公開第102015225719A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の目的は、従来技術に関連する上記の問題を解決し、全固体リチウムイオン電池において硫化物系化合物に対する反応性が低く、沈殿物を形成することなく溶液になるバインダーを提供することである。本発明の更なる目的は、導電性材料に対して高い接着性を有するバインダーを提供することである。本発明の更なる目的は、活物質の優れた分散性も示し、従って均一な電極の作製を可能にするバインダーを提供することである(米国特許出願公開第2015/0030922A号明細書、米国特許出願公開第2015/0050554A号明細書)。
【0019】
一態様では、本発明は、バインダーと、バインダーを完全に溶解することができる溶媒を提供する。
【0020】
本発明の目的は、上記目的に限定されない。前記目的は、以下の説明からより容易に明らかになり、特許請求の範囲に記載された手段及びこれらの組み合わせにより実現される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記目的を達成するために以下の構成を含む。
【0022】
全固体リチウムイオン電池の本発明のカソードは、硫化物、導電性材料、硫化物系固体電解質及びバインダーが混合されたスラリーの塗布により作製されることができる。
【0023】
スラリーは、バインダーを溶解する溶媒を含む。溶媒は、シクロペンチルメチルエーテル(以下「CPME」という)、キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン)又はヘプタン、或いはシクロペンチルメチルエーテル(CPME)、キシレン又はヘプタンとケトン系溶媒の混合物を含む。好ましい実施形態では、ケトン系溶媒は、アセトン又はメチルエチルケトン(MEK)である。更に好ましい実施形態では、CPME及びケトン系溶媒は、9.9:1から8:2の重量比で混合される。
【0024】
上記目的は、0%より多く5.5%以下の量、好ましくは0%より多く0.9%以下の量の残存二重結合を含む水素化アクリレート-ニトリル-ジエンゴム(H-ANBR)を含んでなるバインダーによって達成される。
【0025】
上記目的は、活物質、導電性材料、硫化物系固体電解質及びバインダーが混合されたスラリーを基材に塗布することにより作製される全固体リチウムイオン電池のカソードによって達成され、この場合に、バインダーは、0%より多く5.5%以下、好ましくは0%より多く0.9%以下の量の残存二重結合を含む水素化アクリレート-ニトリル-ブタジエンゴム(H-ANBR)である。
【0026】
H-ANBRは、H-ANBRの総量に基づいて、好ましくは15~30重量%、特に好ましくは21~30重量%のニトリル含有量、及び好ましくは20~40重量%、特に好ましくは25~35重量%のアクリレート含有量を有する。
【0027】
H-ANBRの好ましい実施形態では、残存二重結合含有量は5.5%であり、ニトリル含有量は21重量%であり、アクリレート含有量は25重量%である。
【0028】
H-ANBRの更に好ましい実施形態では、残存二重結合の量は0.9%であり、ニトリル含有量は21重量%であり、アクリレート含有量は25重量%である。
【0029】
H-ANBRの更に好ましい実施形態では、残存二重結合の量は5.5%であり、ニトリル含有量は25重量%であり、アクリレート含有量は25重量%である。
【0030】
全固体リチウムイオン電池の本発明のカソードは、電池の充電及び放電中にバインダーの比較的低い度合いの硬化を示す。
【0031】
本発明によるカソードでは、バインダーは均一に分散される。
【0032】
本発明による全固体リチウムイオン電池は、改善された放電容量及び延長された寿命を示す。
【0033】
本発明の上記の特徴及び更なる特徴を以下に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の概念の様々な実施形態を詳細に参照し、その例を以下に説明する。本発明を例示的な実施形態に関連して説明するが、本説明は、本発明をこれらの例示的な実施形態に限定することを意図するものではないことを理解されたい。むしろ、本発明は、例示的な実施形態だけでなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨及び範囲内に含まれ得る様々な代替形態、変更形態、均等物、及び他の実施形態も網羅するものとする。
【0035】
全固体リチウムイオン電池の本発明のカソードは、H-ANBRバインダーを溶媒に溶解し、活物質、導電性材料、及び固体電解質を混合してスラリーを生成し、そのスラリーを基材に塗布することにより作製できる。スラリーは、分散剤を更に含み得る。
【0036】
活物質としては、硫黄などの硫化物系活物質、又はリチウム-ニッケル-コバルト-マンガン酸化物(NCM)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物(NCA)、及びリチウム-コバルト酸化物(LCO)などの酸化物系活物質を使用できる。
【0037】
導電性材料は、カソードに導電性を付与する。全固体リチウムイオン電池の放電プロセス中に、電子が活物質と接触し、それが活物質を還元する。このため、電子はカソード内で自由に移動できなければならない。従って、電子の移動のためには、比較的高い導電率を有する導電材料が必要である。導電性材料としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末などを使用できる。
【0038】
固体電解質は、電極内でのリチウムイオンの移動を可能にする。固体電解質として、非晶質酸化物系固体電解質を使用できる。特定の実施形態では、高い放電容量のために硫化物系固体電解質が使用される。硫化物系固体電解質としては、Li2S、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-GeS2、Li2S-B2S5、Li2S-Al22S5などを使用できる。
【0039】
以下、「硫化物系化合物」という用語は、いくつかの実施形態では硫化物系固体電解質を指し、又は他の実施形態では硫化物系固体電解質及び硫黄などの活物質を指す。
【0040】
バインダーは、例えば、活物質、導電性材料、及び固体電解質などのカソード材料を互いに接合する。
【0041】
全固体リチウムイオン電池の本発明のカソードは、バインダーとして水素化アクリレート-ニトリル-ブタジエンゴム(以下「H-ANBR」という)を使用する。
【0042】
本発明に従って使用されるH-ANBRは、典型的には、式3に示される以下の式を有する。
【化3】
式中、Rは、水素、或いは、例えば、アルキル、好ましくはC
1~C
18-アルキル、特に好ましくはC
1~C
8アルキル、非常に特に好ましくはブチル、アルコキシアルキル、又はポリエチレングリコール基(-(CH
2-CH
2)
n-OR
2)又はヒドロキシアルキルなどのエステル化基を表し、
R
1は、水素、又はアルキル、好ましくは水素又はメチルを表す。
【0043】
以下の要素は、全固体リチウムイオン電池の本発明のカソードにH-ANBRを使用するために重要である。
1)残存二重結合の量
2)ニトリルモノマーの量
3)ターモノマーのタイプ
【0044】
残存二重結合(RDB)の量は、H-ANBRの炭素鎖に残存する二重結合の量を指す。以下、残存二重結合の量を「%」で表す。残存二重結合の量における「%」という用語は、二重結合が除去されていない繰り返し単位を、C=C二重結合の元々存在する繰り返し単位の総数(即ち、水素化ニトリルゴムのC-C結合とC=C結合の合計)で割った比を表す。
RDB(%)=[C=C]/([C=C]+[C-C])×100
【0045】
以下、ニトリル繰り返し単位の量は、ポリマーの総量に基づいて「重量%」で報告される。本発明によるバインダーのH-ANBRは、ニトリル繰り返し単位、ブタジエン繰り返し単位及びアクリレート繰り返し単位から構成される。
【0046】
二重結合の残存量が0%より多く5.5%以下の場合、H-ANBRは、硫化物系化合物に対して十分に低い反応性を有し、H-ANBRが硬化しないことを保証する。好ましい実施形態では、二重結合の残存量は0%より多く0.9%以下である。
【0047】
H-ANBRは、H-ANBRの総量に基づいて、15重量%~30重量%、好ましくは21重量%~30重量%のニトリル繰り返し単位の量と、20重量%~40重量%、好ましくは25重量%~35重量%のアクリレート繰り返し単位の量とを含むことが好ましい。ニトリル繰り返し単位の量が15重量%~30重量%であり、同時にアクリレートの量が20重量%~40重量%、好ましくは25重量%~35重量%である場合、H-ANBRは適切な溶媒に完全に溶解されることができ、なぜなら、溶媒の誘電率はニトリル繰り返し単位の量に応じて変わるからである。H-ANBRの溶解度は従って変動する。H-ANBRが溶媒に溶解しない場合、カソードが作製される時にH-ANBRは均一に分散しない。
【0048】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位を形成するニトリルモノマーとして、任意の公知のα,β-エチレン性不飽和ニトリルを使用できる。(C3~C5)-α,β-エチレン性不飽和ニトリル、例えば、アクリロニトリル、α-ハロアクリロニトリル、例えば、α-クロロアクリロニトリル及びα-ブロモアクリロニトリル、α-アルキルアクリロニトリル、例えば、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、又は2つ以上のα,β-エチレン性不飽和ニトリルの混合物が好ましい。アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル又はこれらの混合物が特に好ましい。アクリロニトリルが非常に特に好ましい。
【0049】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位の量は、H-ANBR中のモノマー単位の総量に基づいて、典型的には0.1重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、特に好ましくは15重量%~30重量%、非常に特に好ましくは21重量%~29重量%の範囲である。
【0050】
共役ジエン
共役ジエン単位を形成する共役ジエンは、いかなる性質のものでもよく、特に共役C4~C12ジエンであり得る。1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)又はこれらの混合物が好ましい。1,3-ブタジエン及びイソプレン又はこれらの混合物が特に好ましい。1,3-ブタジエンが非常に特に好ましい。
【0051】
共役ジエン単位の量は、H-ANBR中のモノマー単位の総量に基づいて、典型的には15重量%~79.9重量%、好ましくは20重量%~65重量%、特に好ましくは35重量%~55重量%の範囲である。
【0052】
アクリレートモノマー
アクリレート単位を形成するアクリレートモノマーは、モノマー分子中に少なくとも1つのエステル化されたカルボキシル基を有する共重合可能なモノマーを意味すると理解されるべきである。
【0053】
考えられるアクリレートモノマーは、例えば、α,β-不飽和モノカルボン酸のエステルである。α,β-不飽和モノカルボン酸の使用可能なエステルは、そのアルキルエステル及びアルコキシアルキルエステルである。α,β-不飽和モノカルボン酸のアルキルエステル、特にC1~C18アルキルエステルが好ましく、特にアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、特にC1~C18アルキルエステル、特に、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ドデシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート及び2-エチルヘキシルメタクリレートが好ましい。又、α,β-不飽和モノカルボン酸のアルコキシアルキルエステルが好ましく、特にアクリル酸又はメタクリル酸のアルコキシアルキルエステル、特にアクリル酸又はメタクリル酸のC2~C12-アルコキシアルキルエステルが好ましく、非常に特にメトキシメチルアクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、及びメトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。又、例えば、上記のものなどのアルキルエステルと、例えば、上記のものの形態のアルコキシアルキルエステルとの混合物を使用できる。又、そのヒドロキシアルキル基の炭素原子の数が1~12であるヒドロキシアルキルアクリレート及びヒドロキシアルキルメタクリレート、好ましくは2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及び3-ヒドロキシプロピルアクリレートを使用できる。同様に、例えば、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ含有エステルを使用できる。又、そのシアノアルキル基に2~12の炭素原子を有するシアノアルキルメタクリレート及びシアノアルキルアクリレート、好ましくはα-シアノエチルアクリレート、β-シアノエチルアクリレート及びシアノブチルメタクリレートを使用できる。又、フッ素置換ベンジル含有アクリレート又はメタクリレート、好ましくはフルオロベンジルアクリレート及びフルオロベンジルメタクリレートを使用できる。又、フルオロアルキル含有アクリレート及びメタクリレート、好ましくはトリフルオロエチルアクリレート及びテトラフルオロプロピルメタクリレートを使用できる。又、ジメチルアミノメチルアクリレート及びジエチルアミノエチルアクリレートなどのアミノ含有α,β-不飽和カルボン酸エステルを使用できる。
【0054】
又、例えば、α,β-不飽和ジカルボン酸のジエステル、例えば、アルキルジエステルの形態のもの、好ましくはC1~C10-アルキルジエステル、特にエチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、又はn-ヘキシルジエステル、シクロアルキルジエステル、好ましくはC5~C12-シクロアルキルジエステル、特に好ましくはC6~C12-シクロアルキルジエステル、アルキルシクロアルキルジエステル、好ましくはC6~C12-アルキルシクロアルキルジエステル、特に好ましくはC7~C10-アルキルシクロアルキルジエステル、アリールジエステル、好ましくはC6~C14-アリールジエステルの形態のものを使用でき、又、これらのそれぞれは混合エステルであり得る。
【0055】
α,β-不飽和ジカルボン酸ジエステルの例には以下のものが含まれる。
・ マレイン酸ジアルキル、好ましくはマレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、及びマレイン酸ジ-n-ブチル、
・ マレイン酸ジシクロアルキル、好ましくはマレイン酸ジシクロペンチル、マレイン酸ジシクロヘキシル、及びマレイン酸ジシクロヘプチル、
・ マレイン酸ジアルキルシクロアルキル、好ましくはマレイン酸ジメチルシクロペンチル及びマレイン酸ジエチルシクロヘキシル、
・ マレイン酸ジアリール、好ましくはマレイン酸ジフェニル、
・ マレイン酸ジベンジル、好ましくはマレイン酸ジベンジル、
・ フマル酸ジアルキル、好ましくはフマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、及びフマル酸ジ-n-ブチル、
・ フマル酸ジシクロアルキル、好ましくはフマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシル、及びフマル酸ジシクロヘプチル、
・ フマル酸ジアルキルシクロアルキル、好ましくはフマル酸ジメチルシクロペンチル及びフマル酸ジエチルシクロヘキシル、
・ フマル酸ジアリール、好ましくはフマル酸ジフェニル、
・ フマル酸ジベンジル、好ましくはフマル酸ジベンジル、
・ シトラコン酸ジアルキル、好ましくはシトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、シトラコン酸ジプロピル、及びシトラコン酸ジ-n-ブチル、
・ シトラコン酸ジシクロアルキル、好ましくはシトラコン酸ジシクロペンチル、シトラコン酸ジシクロヘキシル、及びシトラコン酸ジシクロヘプチル、
・ シトラコン酸ジアルキルシクロアルキル、好ましくはシトラコン酸ジメチルシクロペンチル及びシトラコン酸ジエチルシクロヘキシル、
・ シトラコン酸ジアリール、好ましくはシトラコン酸ジフェニル、
・ シトラコン酸ジベンジル、好ましくはシトラコン酸ジベンジル、
・ イタコン酸ジアルキル、好ましくはイタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジプロピル、及びイタコン酸ジ-n-ブチル、
・ イタコン酸ジシクロアルキル、好ましくはイタコン酸ジシクロペンチル、イタコン酸ジシクロヘキシル及びイタコン酸ジシクロヘプチル、
・ イタコン酸ジアルキルシクロアルキル、好ましくはイタコン酸ジメチルシクロペンチル及びイタコン酸ジエチルシクロヘキシル、
・ イタコン酸ジアリール、好ましくはイタコン酸ジフェニル、
・ イタコン酸ジベンジル、好ましくはイタコン酸ジベンジル、及び
・ メサコン酸ジアルキル、好ましくはメサコン酸ジエチル
【0056】
好適なアクリレートモノマーには、一般式(I)
【化4】
(式中、Rは、水素、或いは分岐又は非分岐C
1~C
20-アルキル、好ましくは、メチル、エチル、ブチル又はエチルヘキシルであり、nは、1~8、好ましくは2~8、特に好ましくは2~5、非常に特に好ましくは3であり、R
1は、水素又はCH
3-である)
のPEGアクリレートが更に含まれる。
本発明の文脈において、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」及び「メタクリレート」を意味すると理解される。一般式(I)のR
1基がCH
3-である場合、メタクリレートとなる。本発明の文脈において、「ポリエチレングリコール」/略語「PEG」という用語は、1つのエチレングリコール繰り返し単位を有するモノエチレングリコール部位(PEG-1、n=1)、及び2~8のエチレングリコール繰り返し単位を有するポリエチレングリコール部位(PEG-2~PEG-8、n=2~8)の両方を意味すると理解される。「PEGアクリレート」という用語は、PEG-X-(M)Aとも略され、「X」はエチレングリコール繰り返し単位の数を表し、「MA」はメタクリレートを表し、「A」はアクリレートを表す。本発明との関連において、一般式(I)のPEGアクリレート由来のアクリレート単位は、「PEGアクリレート単位」といわれる。好ましいPEGアクリレートは、ブチルジエチレングリコールメタクリレート(BDGMA)である。これらのPEGアクリレートは、例えば、商標名Sartomer(登録商標)でArkemaから、商標名Visiomer(登録商標)でEvonikから、又はSigma Aldrichから市販されている。
【0057】
また、例えば、アルキルモノエステル、好ましくはC1~C10-アルキルモノエステル、特に、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、又はn-ヘキシルモノエステル、シクロアルキルモノエステル、好ましくはC5~C12-シクロアルキルモノエステル、特に好ましくはC6~C12-シクロアルキルモノエステル、アルキルシクロアルキルモノエステル、好ましくはC6~C12-アルキルシクロアルキルモノエステル、特に好ましくはC7~C10-アルキルシクロアルキルモノエステル、アリールモノエステル、好ましくはC6~C14-アリールモノエステルの形態で、α,β-不飽和ジカルボン酸のモノエステルを使用できる。
【0058】
α,β-不飽和ジカルボン酸モノエステルの例には以下のものが含まれる。
・ マレイン酸モノアルキル、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、及びマレイン酸モノ-n-ブチル、
・ マレイン酸モノシクロアルキル、好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル及びマレイン酸モノシクロヘプチル、
・ マレイン酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル及びマレイン酸モノエチルシクロヘキシル、
・ マレイン酸モノアリール、好ましくはマレイン酸モノフェニル、
・ マレイン酸モノベンジル、好ましくはマレイン酸モノベンジル、
・ フマル酸モノアルキル、好ましくはフマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、及びフマル酸モノ-n-ブチル、
・ フマル酸モノシクロアルキル、好ましくはフマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル及びフマル酸モノシクロヘプチル、
・ フマル酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくはフマル酸モノメチルシクロペンチル及びフマル酸モノエチルシクロヘキシル、
・ フマル酸モノアリール、好ましくはフマル酸モノフェニル、
・ フマル酸モノベンジル、好ましくはフマル酸モノベンジル、
・ シトラコン酸モノアルキル、好ましくはシトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル及びシトラコン酸モノ-n-ブチル、
・ シトラコン酸モノシクロアルキル、好ましくはシトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル及びシトラコン酸モノシクロヘプチル、
・ シトラコン酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくはシトラコン酸モノメチルシクロペンチル及びシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル、
・ シトラコン酸モノアリール、好ましくはシトラコン酸モノフェニル、
・ シトラコン酸モノベンジル、好ましくはシトラコン酸モノベンジル、
・ イタコン酸モノアルキル、好ましくはイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル及びイタコン酸モノ-n-ブチル、
・ イタコン酸モノシクロアルキル、好ましくはイタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル及びイタコン酸モノシクロヘプチル、
・ イタコン酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくはイタコン酸モノメチルシクロペンチル及びイタコン酸モノエチルシクロヘキシル、
・ イタコン酸モノアリール、好ましくはイタコン酸モノフェニル、
・ イタコン酸モノベンジル、好ましくはイタコン酸モノベンジル、
・ メサコン酸モノアルキル、好ましくはメサコン酸モノエチルが挙げられる。
【0059】
H-ANBR中のアクリレート単位の割合は、その水素化カルボキシル化ニトリルゴムラテックス中のモノマー単位の総量に基づいて、20重量%~40重量%、好ましくは25重量%~35重量%の範囲にある。
【0060】
H-ANBRが0%より多く5.5%以下の残存二重結合量を有する場合、そのH-ANBRは硫化物系化合物に対する反応性が低いため、そのH-ANBRは、全固体リチウムイオン電池の充電及び放電中に硬化しない。従って、活物質などのカソード材料間の界面抵抗を十分に減らすことができるため、電池の容量は、多数回の充電及び放電操作にわたり保持され、寿命が増す。
【0061】
以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、本発明に限定的な影響を与えるものではない。
【0063】
実施例1~3並びに比較例1及び2
以下の表1に報告されるRDB含有量、ブチルアクリレート含有量、及びニトリル含有量を有するH-ANBRを製造した。様々なニトリル含有量を有する3つのタイプのHNBR、及びアクリレート含有量なしのものを比較例(CE)1及び2として用いた。
【0064】
【0065】
可溶性の評価
全固体リチウムイオン電池の本発明のカソードは、バインダーを溶解する溶媒を含む。
【0066】
溶媒は、生産環境などに応じて適宜選択することができる。しかしながら、高極性溶媒は、硫化物系固体電解質を溶解できるため、非極性又は弱極性の溶媒を主に使用することができる。従って、シクロペンチルメチルエーテル、キシレン、又はヘプタン、好ましくはシクロペンチルメチルエーテルを本発明において溶媒として使用することができる。
【0067】
バインダーを溶解するために、補助溶媒としてケトン系溶媒をCPME、キシレン、又はヘプタンと混合することにより得られる混合溶媒を使用することも可能である。
【0068】
使用可能なケトン系の溶媒には、アセトン又はメチルエチルケトン(MEK)が含まれる。
【0069】
ケトン系溶媒は高い極性を有し、この溶媒は硫化物系化合物を溶かすことができる。従って、混合溶媒は、CPME、キシレン又はヘプタン、及びケトン系溶媒を9.9:1~8:2の重量比で混合することにより使用される。
【0070】
混合溶媒中のCPMEとケトン系溶媒の重量比が9.9:1~8:2の場合、硫化物系化合物は溶解されない。
【0071】
実施例1~3並びに比較例1及び2のバインダーを、CPMEとアセトンの9:1の比の混合物に1.5重量%の量で入れた。結果を以下の表2に示す。
【0072】
【0073】
実施例1~3で使用したH-ANBRバインダーは、CPMEに、及びCPMEとアセトンの混合物に完全に溶解した。対照的に、比較例1及び2の材料は、純粋なCPMEにも、CPMEとアセトンの混合物にも溶解しなかった。
【0074】
15~30重量%のニトリル含有量を有するH-ANBRは、溶媒としての純粋なCPMEに完全に溶解されることができる。
【0075】
全固体リチウムイオン電池の作製
作製例1:
実施例2のH-ANBRを混合溶媒に完全に溶かし、続いて硫黄(活物質)、ケッチェンブラック(導電性材料)、硫化物系固体電解質、及び分散剤を混合することにより、スラリーを作成した。
【0076】
スラリーを集電体に塗布することによりカソードを作製した。存在するそれぞれの成分の重量比を下の表3に示す。
【0077】
【0078】
全固体リチウムイオン電池は、カソードの上側に固体電解質層を形成し、固体電解質層の上側にアノードを形成することにより作製した。
【0079】
作製例1で作製された全固体リチウムイオン電池の放電容量の測定から、作製例1について高い放電容量レベルが測定されたことが明らかである。
【0080】
本発明のバインダーは、0%より多く5.5%以下の量の残存二重結合を含むH-ANBRであり、従って硫化物系化合物に対して低い反応性を示す。従って、電池の充電及び放電中のバインダーの硬化(硬くなること)の度合いは低い。
【0081】
本発明のバインダーは、15~30重量%、好ましくは21~30重量%のニトリル含有量、及び20~40重量%、好ましくは25~35重量%のアクリレート含有量を有するH-ANBRであり、従って、CPMEとケトン系溶媒を9:1~8:2の比で混合して得られる混合溶媒に完全に溶解する。従って、バインダーはカソードに均一に分散されることができる。
【0082】
均一に分散されたバインダーは、カソード材料間の界面抵抗を効果的に低減する。これにより、電池の容量と寿命が増す。