(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】蹴込板の固定構造、蹴込板の施工方法、これらに用いられる蹴込板固定部材および蹴込板
(51)【国際特許分類】
E04F 11/02 20060101AFI20240426BHJP
E04F 11/09 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
E04F11/02 100
E04F11/09
(21)【出願番号】P 2020032336
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390030340
【氏名又は名称】株式会社ノダ
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 徹
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-007359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/00-11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蹴込板の上端部を踏板の裏面に形成された蹴込板嵌合溝に嵌合させた状態で固定してなる蹴込板の固定構造であって、
本体部と、本体部から前方に突出する前方突出部と、本体部から上方に突出する先細テーパー状の上方突出部と、本体部に所定の角度で形成される固定具挿通穴と、を少なくとも有してなる蹴込板固定部材を用い、
この蹴込板固定部材の前方突出部が蹴込板の後面に形成された凹溝に嵌合され、上方突出部の前面が凹溝より上方の蹴込板後面に密接し、本体部の上面が踏板の裏面に密接し、上方突出部が蹴込板の上端部の後面と蹴込板嵌合溝の後方溝側面との間に根元まで挿入された状態で、固定具挿通穴から蹴込板の上端部を貫通して踏板の前端部に打ち込まれる固定具および蹴込板嵌合溝内の接着剤で固定されてなることを特徴とする、蹴込板の固定構造。
【請求項2】
蹴込板の上端部を踏板の裏面に形成された蹴込板嵌合溝に嵌合させた状態で、固定具挿通穴に挿入した固定具および接着剤で踏板に固定する蹴込板の施工方法であって、
本体部と、本体部から前方に突出する前方突出部と、本体部から上方に突出する先細テーパー状の上方突出部と、本体部に所定の角度で形成される固定具挿通穴と、を少なくとも有してなる蹴込板固定部材を用い、
この蹴込板固定部材の前方突出部を蹴込板の後面に形成された凹溝に嵌合すると共に蹴込板の上端面に接着剤を塗布した後、
蹴込板の上端部を踏板の蹴込板嵌合溝に挿入して蹴込板上端面を蹴込板嵌合溝の溝底面に押し付けて接着し、このときに蹴込板固定部材の上方突出部を蹴込板の上端部の後面と蹴込板嵌合溝の後方溝側面との間に根元まで挿入し、
さらに、蹴込板固定部材の固定具挿通穴から固定具を挿入して蹴込板を踏板に固定することを特徴とする、蹴込板の施工方法。
【請求項3】
請求項1記載の蹴込板の固定構造または請求項2記載の蹴込板の施工方法に用いられる蹴込板固定部材。
【請求項4】
前記蹴込板固定部材が、さらに、本体部から後方に突出する後方突出部と、本体部から下方に突出する下方突出部とを有し、後方突出部の下面と下方突出部の後面とで入隅が形成されることを特徴とする、請求項3記載の蹴込板固定部材。
【請求項5】
前記蹴込板固定部材の固定具挿通穴が、後方突出部の下面と下方突出部の後面との入隅に開口することを特徴とする、請求項4記載の蹴込板固定部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蹴込板の固定構造、蹴込板の施工方法、これらに用いられる蹴込板固定部材および蹴込板に関する。
【背景技術】
【0002】
階段の蹴込板を上段の踏板に固定する際、従来は、
図9に示すような方法が採用されていた。すなわち、蹴込板20の上端面21には接着剤40が塗布充填される凹溝22が形成されると共に、上端面21に近い位置において後面23には固定具50(以下、「木ネジ50」とする。)を打ち込む位置決めとなる凹溝24が形成され、また、踏板30の前端面31(段鼻先端面)に近い位置において裏面32に蹴込板嵌合溝33が形成されており、蹴込板上端面21の凹溝22に接着剤40を塗布充填した状態で、蹴込板20の上端部を踏板30の蹴込板嵌合溝33に挿入してその溝底面33aおよび前方溝側面33bに押し付ける。これにより、蹴込板20の上端面21が蹴込板嵌合溝33の溝底面33a(および前方溝側面33b)に密着して接合される。さらに、蹴込板20の後面23の凹溝24から斜め上方に向けて木ネジ50を打ち込むことにより、蹴込板20が踏板30に所定の位置関係で結合された固定構造を得ようとするものであった。
【0003】
しかしながら、
図9に示すような従来技術による場合、蹴込板20の上端部を踏板30の蹴込板嵌合溝30に挿入する際の押し付けが十分に行われないと、蹴込板20の上端面21と踏板嵌合溝33の溝底面33aとの間や、蹴込板20の前面25と踏板嵌合溝33の前方溝側面33bとの間に隙間が生じ、接着剤40による接着力が低下し、階段を人が昇降する際に踏み鳴りを生ずる原因となる。
【0004】
また、木ネジ50の打ち込みが所定角度(たとえば45度)で行われないときも、踏板30に対する蹴込板20の固定が不十分となる。すなわち、木ネジ50が蹴込板20の上端面21から蹴込板嵌合溝33の溝底面33aに突き抜けるような深い打ち込み角度であると、蹴込板20の前面25と踏板嵌合溝33の前方溝側面33bとの間の固定が接着剤40の接着力のみに頼ることになり、また、木ネジ50が蹴込板20の前面25から蹴込板嵌合溝33の前方溝側面33bに突き抜けるような浅い打ち込み角度であると、蹴込板20の上端面21と踏板嵌合溝33の溝底面33aとの間の固定が接着剤40の接着力のみに頼ることになり、いずれの場合も固定強度が不足して、踏み鳴りの原因となる。
【0005】
特許文献1には、問題を解決するために蹴込板固定用ブロック1を用いることが提案されている。この蹴込板固定用ブロック1は、蹴込板30の上端部を踏板30の蹴込板嵌合溝30に嵌合した際に、踏板21の裏面および蹴込板23の後面に当接して配置されるブロック本体2と、蹴込板上端部の後面23と蹴込板嵌合溝30の後方溝側面33c(
図9(a))との間に生ずる隙間34(
図9(b))に挿入される楔片3とからなる。
【0006】
この特許文献1記載の蹴込板固定用ブロック1を用いることにより、「楔片の楔作用により、蹴込板の上縁が段板(=踏板)の裏面に形成された嵌合溝にしっかりと嵌め込まれることとなり、両者の相対移動が拘束されてきしみ音(=踏み鳴り)が低減される」(段落0017)という効果が得られる。
【0007】
また、ブロック本体2には釘の挿入孔10が形成されているので、「留付け具となる釘26の打ち込み角度や打ち込み位置が予め定められることとなり、かくして留付けの位置や角度が適正な位置あるいは角度からずれて段板21に割れやひびが発生するといった事態を未然に回避することができる」(段落0046)という効果も得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の蹴込板固定用ブロック1を用いて蹴込板23を段板21に固定する際には、蹴込板23の上縁を嵌合溝25に挿入して所定の位置関係(蹴込板23の上面および前面が嵌合溝25の底面および前面にそれぞれ密接した位置関係)に保持しながら、蹴込板固定用ブロック1の下面(設置用打撃面8)をハンマーなどで叩いて楔片3を前記隙間に打ち込む必要がある。すなわち、蹴込板を踏板に対して釘や接着剤などを用いて所定の位置関係で仮止めし、さらに、蹴込板固定用ブロックを蹴込板および踏板に対して釘や接着剤などを用いて所定の位置関係で固定するため、作業手間を要するという問題があった。
【0010】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、階段の蹴込板を上段の踏板に固定する際の作業をより簡単に行うことができ、踏み鳴りも防止することができる新規な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、蹴込板の上端部を踏板の裏面に形成された蹴込板嵌合溝に嵌合させた状態で固定してなる蹴込板の固定構造であって、本体部と、本体部から前方に突出する前方突出部と、本体部から上方に突出する先細テーパー状の上方突出部と、本体部に所定の角度で形成される固定具挿通穴と、を少なくとも有してなる蹴込板固定部材を用い、この蹴込板固定部材の前方突出部が蹴込板の後面に形成された凹溝に嵌合され、上方突出部の前面が凹溝より上方の蹴込板後面に密接し、本体部の上面が踏板の裏面に密接し、上方突出部が蹴込板の上端部の後面と蹴込板嵌合溝の後方溝側面との間に根元まで挿入された状態で、固定具挿通穴から蹴込板の上端部を貫通して踏板の前端部に打ち込まれる固定具および蹴込板嵌合溝内の接着剤で固定されてなることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る本発明は、蹴込板の上端部を踏板の裏面に形成された蹴込板嵌合溝に嵌合させた状態で、固定具挿通穴に挿入した固定具および接着剤で踏板に固定する蹴込板の施工方法であって、本体部と、本体部から前方に突出する前方突出部と、本体部から上方に突出する先細テーパー状の上方突出部と、本体部に所定の角度で形成される固定具挿通穴と、を少なくとも有してなる蹴込板固定部材を用い、この蹴込板固定部材の前方突出部を蹴込板の後面に形成された凹溝に嵌合すると共に蹴込板の上端面に接着剤を塗布した後、蹴込板の上端部を踏板の蹴込板嵌合溝に挿入して蹴込板上端面を蹴込板嵌合溝の溝底面に押し付けて接着し、このときに蹴込板固定部材の上方突出部を蹴込板の上端部の後面と蹴込板嵌合溝の後方溝側面との間に根元まで挿入し、さらに、蹴込板固定部材の固定具挿通穴から固定具を挿入して蹴込板を踏板に固定することを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る本発明は、請求項1記載の蹴込板の固定構造または請求項2記載の蹴込板の施工方法に用いられる蹴込板固定部材である。
【0014】
請求項4に係る本発明は、請求項3記載の蹴込板固定部材において、蹴込板固定部材が、さらに、本体部から後方に突出する後方突出部と、本体部から下方に突出する下方突出部とを有し、後方突出部の下面と下方突出部の後面とで入隅が形成されることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る本発明は、請求項4記載の蹴込板固定部材において、前記蹴込板固定部材の固定具挿通穴が、後方突出部の下面と下方突出部の後面との入隅に開口することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来技術とは異なる形状の蹴込板固定部材を用いて、容易に蹴込板を固定ないし施工することができ、施工後の踏み鳴りも防止することができる。
【0018】
すなわち、本発明の蹴込板固定部材は、前方突出部を蹴込板上端部の後面に形成した凹溝に嵌合させた状態で仮固定(または蹴込板の上端部に固定ないし一体化)され、このようにして蹴込板固定部材が取り付けられた蹴込板の上端部を踏板裏面の蹴込板嵌合溝に挿入していくと、蹴込板固定部材の上方突出部が、蹴込板上端部と蹴込板嵌合溝の後方溝側面に沿って蹴込板嵌合溝に入り込み、蹴込板固定部材の本体部の表面が踏板の裏面に密接すると同時に、上方突出部の根元が該隙間を密実に塞ぐ。蹴込板の上端面が蹴込板嵌合溝の溝底面に押し付けられると、蹴込板の上端面に塗布された接着剤が該上端面の全般に拡がり、さらにその余剰分が蹴込板固定部材の上方突出部と蹴込板嵌合溝の後方溝側面との間の隙間に流れ出して、これらを蹴込板嵌合溝の溝底面および後方溝側面に強固に接着固定する。これにより、木ネジなどの固定具による固定と相俟って、蹴込板を踏板に対して強固に固定することができ、階段歩行時の踏み鳴りを防止することができる。
【0019】
さらに、蹴込板上端部を踏板の蹴込板嵌合溝に完全に挿入したときに、蹴込板固定部材の上方突出部の根元が該隙間を密実に塞ぐことにより、蹴込板嵌合溝内に挿入された蹴込板上端部の前面が前方溝側面に密接するので、これらの間に接着剤が流れ出ることはなく、したがって、蹴込板の前面の露出部が接着剤で汚れることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態による蹴込板固定部材を示す断面図である。
【
図2】この蹴込板固定部材を用いた蹴込板の固定構造を示す断面図である。
【
図3】
図2の蹴込板の固定構造を各部材に分解して示す断面図である。
【
図4】この蹴込板固定部材を用いた蹴込板の施工方法の第一工程を示す断面図である。
【
図5】
図4の第一工程に続いて行う第二工程を示す断面図である。
【
図6】
図5の第二工程に続いて行う第三工程を示す断面図である。
【
図7】本発明の別の実施形態による蹴込板固定部材を示す。
図7(a)は、
図1と同形状の蹴込板固定部材をあらかじめ蹴込板の後面に接着固定して一体化したものを用いた実施形態を示し、
図7(b)は、蹴込板固定部材を別部材とすることに代えて、蹴込板の上端部が
図7(a)と同様の外形状を有するように蹴込板を切削加工したものを用いた実施形態を示す。
【
図8】本発明のさらに別の実施形態による蹴込板固定部材を示す。
図8(a)は、
図1とは異なる形状の蹴込板固定部材をあらかじめ蹴込板の後面に接着固定して一体化したものを用いた実施形態を示し、
図8(b)は、蹴込板固定部材を別部材とすることに代えて、蹴込板の上端部が
図8(a)と同様の外形状を有するように蹴込板を切削加工したものを用いた実施形態を示す。
【
図9】蹴込板を上段の踏板に固定する際に従来行われていた施工方法を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態による蹴込板固定部材が
図1に断面で示されている。この蹴込板固定部材10は、合成樹脂、金属、木材などであって、木ネジ、タッピングネジ、釘などの固定具50(以下、「木ネジ50」とする。)で固定可能な材料(固定具を打ち込んだりねじ込んだりしても破損しない材料)で形成され、断面方形状の本体部11と、本体部11から前方に突出する前方突出部12と、本体部11から上方に突出する上方突出部13と、本体部11から後方に突出する後方突出部14と、本体部11から下方に突出する下方突出部15とを有して一体に成形されている。さらに、後方突出部14と下方突出部15との入隅から本体部11を斜め(この実施形態では傾斜角度45度)に貫通する固定具挿通穴50(以下、「木ネジ挿通穴16」とする。)が形成されている。
【0022】
前方突出部12の上面12aと本体部11の上面11aと後方突出部14の上面14aは同一の水平面を与え、上方突出部13の前面13aと本体部11の前面11bと下方突出部15の前面15aは同一の垂直面を与える。また、後方突出部14の下面14bと下方突出部15の後面15bとで直角の入隅を形成し、木ネジ挿通穴16はこの入隅で開口している。なお、
図1において本体部11と前方突出部12、上方突出部13、後方突出部14および下方突出部15との間に描かれている点線は、いずれもこれら部分同士の境界線を概念的に示すものであって、上記したようにこれらは一体に成形されているので、実際には境界線は存在しない。
【0023】
蹴込板固定部材10は、長さ方向(
図1において紙面鉛直方向)に任意の寸法を有し、その全長に亘って
図1に示す断面形状を有する。比較的短尺(たとえば20~100mm)の蹴込板固定部材10の場合は、蹴込板20および踏板30の幅寸法に応じて複数個の蹴込板固定部材10を等間隔または適宜の間隔で使用することができ、あるいは、少なくとも2個の蹴込板固定部材10を蹴込板20および踏板30の両端近くに固定して、それ以外の箇所では蹴込板固定部材10を用いずに
図9に示す従来技術と同様に所定本数の木ネジ50のみで固定するようにしても良い。また、蹴込板20および踏板30の幅寸法に近い比較的長尺(たとえば100mmより大きく、蹴込板20と略同一の長さ)の蹴込板固定部材10の場合は、単一の蹴込板固定部材10を用いても良い。
【0024】
なお、木ネジ挿通穴16は、蹴込板固定部材10の長さに応じて1個以上形成される。一般的に釘打ち間隔は50~100mmであるから、木ネジ挿通穴16も同様の間隔で任意数だけ形成される。
【0025】
蹴込板固定部材10の各部の
図1に示す断面における寸法は、一例として、本体部11および後方突出部14の高さ(上下方向)寸法が5mm、本体部11および下方突出部15の幅(前後方向)寸法が5mm、前方突出部12の本体部11前面からの突出長(前後方向)および突出幅(上下方向)がそれぞれ1mmおよび3mm、上方突出部13の本体部11上面からの突出長(上下方向)が12mmであって、その根元部および先端部の幅(前後方向)がそれぞれ2mmおよび1mmの先細テーパー状である。
【0026】
この蹴込板固定部材10は、その構成および用法において特許文献1記載の蹴込板固定用ブロック1と近似しているが、特に前方突出部12を有する点において大きく異なり、したがってこの蹴込板固定部材10を用いて得られる蹴込板20の固定構造およびこの蹴込板固定部材10を用いて行う蹴込板20の施工方法も相違し、且つ、後述する効果ないし利点を発揮することができるものである。
【0027】
図2は、この蹴込板固定部材10を用いて蹴込板20を上段の踏板30に固定して得られる固定構造を示す断面図であり、
図3は、この固定構造の分解断面図である。この蹴込板固定構造は、蹴込板20の上端面21には接着剤40を塗布するための凹溝22が形成されると共に、上端面21に近い位置において後面23には木ネジ50を打ち込む位置決めとなる凹溝24が形成され、また、踏板30の前端面31(段鼻先端面)に近い位置において裏面32に蹴込板嵌合溝33が形成されており、蹴込板20の上端面21が蹴込板嵌合溝33の溝底面33aに密接し、蹴込板20の前面25が蹴込板嵌合溝33の前方溝側面33bに密接した状態で、接着剤40により接合されると共に、後方突出部14の下面14bと下方突出部15の後面15bとの入隅から蹴込板固定部材10の木ネジ挿通穴16に打ち込まれた木ネジ50により固定されて、蹴込板20が踏板30に所定の位置関係で結合された固定構造となる。
【0028】
図2に示す固定構造は、
図9に示す従来技術と基本的に同様であり、同一の部材ないし要素には同一の符号が付されている。なお、
図2および
図3において符号36は、踏板30の前面に近い位置において表面35に形成された滑り止め用の凹溝である。また、
図2において黒く塗り潰されているのは、蹴込板20の上端部を踏板30の蹴込板嵌合溝33に挿入してその溝底面33aおよび前方溝側面33bに押し付けたときに、接着剤40が、蹴込板20の上端面21の全般に亘って拡がって蹴込板嵌合溝33の溝底面33aに接合させると共に、さらに蹴込板20の後面23と蹴込板嵌合溝33の後方溝側面33cとの間の隙間34(
図9(b))に流れ込んで蹴込板固定部材10の上方突出部13を接合させている状態を示している。
【0029】
蹴込板20は、MDF、合板、パーティクルボード、これらの複合材などの木質材料で形成された基材の少なくとも前面25および後面23における露出面に化粧シートや突板などが貼着され、あるいは塗装が施されたものを用いることができる。蹴込板20の長さ(左右方向)は、踏板30が左右側板(図示せず)に嵌合される左右端部の長さ分だけ踏板30の長さ(左右方向)より短く、その板厚は、踏板30の蹴込板嵌合溝33の溝幅より蹴込板固定部材10の上方突出部13の根元厚さ(前記寸法例では2mm)と略同一の寸法分だけ小さい。たとえば、蹴込板20は、高さ225mm、厚さ5.5~12mmを有するものとすることができる。
【0030】
また、蹴込板20の後面23に形成される凹溝24は、蹴込板固定部材10の上方突出部13を根元まで押し込んだとき(後方突出部14の上面が踏板30の裏面32に当接したとき)に、前方突出部12を嵌合・保持することができるような位置(たとえば凹溝24の上端が蹴込板20の上端面21から10~20mmとなる位置)に形成され、その溝深さおよび溝幅は前方突出部12の突出長(前後方向)および突出幅(上下方向)に応じて0.5~1.5mmおよび2.5~3.5mmの範囲内に形成され、前方突出部12が前記寸法例の場合は、溝深さ1mm、溝幅3mmの凹溝24とすることができる。
【0031】
なお、凹溝24は、蹴込板固定部材10の前方突出部12を嵌合することができるものであれば良く、単一の長尺の蹴込板固定部材10が用いられる実施形態の場合は、蹴込板20の略全長(左右方向)に亘って形成されるが、複数個の蹴込板固定部材10が等間隔または適宜の間隔で用いられる実施形態の場合は、その蹴込板固定部材10の位置および個数に応じて複数個の凹溝24を断続的に形成しても良い。
【0032】
踏板30は、MDF、合板、パーティクルボード、これらの複合材などの木質材料で形成された基材の少なくとも前端面31、表面35および裏面32における露出面に化粧シートや突板などが貼着され、あるいは塗装が施されたものを用いることができる。図示実施形態では、2枚のMDF37,39の間に合板38を挟んで積層してなる複合材を踏板30の基材としている。踏板30の長さ(左右方向)は、左右側板(図示せず)に嵌合される左右端部の長さ分だけ蹴込板20の長さ(左右方向)より大きく、たとえば895~1180mmであり、その前後方向の長さは、踏面の前後長さに応じてたとえば210~1180mmであり、その板厚は、たとえば30~36mmである。
【0033】
踏板30の裏面32に形成される蹴込板嵌合溝33は、その前方溝側面33bが踏板30の前端面31から20~40mmの位置に形成され、溝幅(前方溝側面33bと後方溝側面33cとの間隔)は、蹴込板20の厚さに蹴込板固定部材10の上方突出部13の根元厚さを足した合計厚さと略同一寸法(たとえば11mm)であり、その深さは、蹴込板20の上端面21から凹溝24の上縁までの長さと略同一である。また、蹴込板嵌合溝33の長さ(左右方向)は、蹴込板20の上端部をその全長に亘って嵌合することができる寸法であれば良く、たとえば210~1180mmである。既述したように蹴込板30は踏板30より若干短く形成されるが、蹴込板嵌合溝33については蹴込板30の全長に亘って形成しても良い。
【0034】
図2に示す固定構造には、
図1に示す蹴込板固定部材10が用いられており、この点において
図9に示す従来技術と大きく異なっている。蹴込板固定部材10は、前方突出部12が蹴込板20の凹溝24に嵌合され、上方突出部13が踏板30の蹴込板嵌合溝33内においてその根元まで蹴込板20の後面23と蹴込板嵌合溝33の後方溝側面33cとの間の隙間34(
図9(b))に入り込んでおり、且つ、上方突出部13の前面13a、本体部11の前面11bおよび下方突出部15の前面15aがいずれも蹴込板20の後面23に密接し、本体部11の上面11aと後方突出部14の上面14aとが踏板30の裏面32に密接した状態で設けられている。木ネジ50は、蹴込板固定部材10の後方突出部14と下方突出部15との入隅から木ネジ挿通穴16を通って蹴込板20の上端部から踏板30の前端部に打ち込まれている。
【0035】
次に、
図1に示す蹴込板固定部材10を用いて蹴込板20を施工して
図2に示す固定構造を得る方法について、
図4ないし
図6を参照して説明する。
【0036】
まず、
図4に示すように、蹴込板20の凹溝24に蹴込板固定部材10の前方突出部12を嵌合させることにより、蹴込板固定部材10を蹴込板20に対して仮固定する。前方突出部12は凹溝24と略同一形状および略同一寸法に形成されているので、その上下において上方突出部13の前面13aおよび下方突出部15の前面15aが蹴込板20の後面23に密接することとも相俟って、嵌合状態が維持され、容易には離脱せずに仮固定されるが、必要に応じて両面テープや接着剤などを用いて固定しても良い。また、蹴込板固定部材10を若干の弾性変形可能な合成樹脂や金属などの材料から、凹溝24より僅かに大きい寸法を有するように形成し、これを凹溝24に押し込むようにして仮固定しても良い。
【0037】
このようにして蹴込板固定部材10が仮固定された蹴込板20の上端面21の接着剤塗布溝22に接着剤40を塗布する。接着剤40の塗布量は、蹴込板20の上端部を踏板30の蹴込板嵌合溝33に挿入して上端面21を蹴込板嵌合溝33の溝底面33aに押し付けたときに、接着剤40が上端面21の全般に拡がり、さらにその若干の余剰分が蹴込板固定部材10の上方突出部13と蹴込板嵌合溝33の後方溝側面33cとの間の隙間に流れ出るような量とする。蹴込板嵌合溝33内に挿入された蹴込板20の前面25は前方溝側面33bに密接するので、これらの間に接着剤40が流れ出ることはなく、したがって、蹴込板20の前面25の露出部が流れ出た接着剤40で汚れることを防止することができる。
【0038】
なお、上記においては、蹴込板後面23の凹溝24に蹴込板固定部材10の前方突出部12を嵌合させた(蹴込板固定部材10を蹴込板20に仮固定した)後に、蹴込板上端面21の接着剤塗布溝22に接着剤40を塗布するものとして説明したが、反対に、接着剤塗布溝22に接着剤40を塗布した後に、蹴込板固定部材10を蹴込板20に仮固定する工程順で行っても良い。
【0039】
この状態で蹴込板20の上端部を踏板30の蹴込板嵌合溝33に挿入していく。このとき、
図5に示すように、蹴込板20の上端面21を蹴込板嵌合溝33の溝底面33aに押し付けると同時に、蹴込板固定部材10の上方突出部13の先細テーパー面13bを、蹴込板嵌合溝33の後方溝側面33cと踏板裏面32との角に沿わせながら、蹴込板固定部材10越しに蹴込板20を前方に押し込んで、蹴込板嵌合溝33内において蹴込板20の前面25を前方溝側面33bに押し付けてこれらの間に隙間が生じないようにする。
【0040】
なお、蹴込板20を前方に押し込むことについては、それほど意識しなくても良い。蹴込板20の上端部を蹴込板嵌合溝33に挿入していくと、その上方移動につれて、仮固定された蹴込板固定部材10の上方突出部13の先細テーパー面13bが蹴込板嵌合溝33の後方溝側面33cと踏板裏面32との角に沿って徐々に前方に移動し、蹴込板20の上端面21が蹴込板嵌合溝33の溝底面33aに密接すると同時に、上方突出部13の根元が蹴込板嵌合溝33にはまり込んで、蹴込板20の前面25が蹴込板嵌合溝33の前方溝側面33bに密接する。
【0041】
そうすると、既述したように、また
図6に示すように、接着剤40が上端面21の全般に拡がり、さらにその若干の余剰分が蹴込板固定部材10の上方突出部13と蹴込板嵌合溝33の後方溝側面33cとの間の隙間に流れ出るので、蹴込板嵌合溝33内に挿入された蹴込板20の上端面21が溝底面33aに密接して接着され、仮固定された蹴込板固定部材10の上方突出部13と後方溝側面33cとの間の隙間を塞ぐようにしてこれら同士を接着する。
【0042】
この状態で、木ネジ50を、蹴込板固定部材10の後方突出部14と下方突出部15との入隅から、木ネジ挿通穴16を通して、蹴込板20の上端部から踏板30の前端部に打ち込むことにより、
図2に示す固定構造が得られる。
【0043】
なお、木ネジ50の打ち込み角度が急すぎると、蹴込板20を踏板30にしっかり固定することができず、蹴込板20の上端部に割れが生じやすくなり、反対に打ち込み角度が緩すぎると、踏板30に対する蹴込板20の固定は十分に行えるものの、踏板30の裏面32などに木ネジ50による膨らみが生じやすくなる。本発明者による実験の結果、木ネジ50の打ち込み角度は約45度とすることが好ましく、蹴込板固定部材10において木ネジ挿通穴16を約45度の角度で形成することにより、木ネジ50を常に最適な打ち込み角度で打ち込むことができ、蹴込板20を強固に固定すると共に踏板裏面32の変状を確実に防止することができる。
【0044】
本発明は上記の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって定められる発明の範囲内において多種多様に変形ないし変更して実施することができる。たとえば、各部についての寸法は例示であり、本発明の効果を損なわない限りにおいて変更可能である。また、蹴込板固定部材10の各部の形状は、上記した作用効果を発揮することができるものであれば変更可能であり、たとえば本体部11は断面方形状に限らず、踏板裏面32に密接する面と蹴込板後面23に密接する面を有するものであれば、断面三角形状などに形成されたものであっても良い。また、上記の実施形態では、固定具挿通穴(木ネジ挿通穴)50を本体部11を貫通させて形成しているが、後方突出部下面14bと下方突出部後面15bとの入隅から固定具(木ネジ)50を打ち込むときの挿入角度を決めることができるものであれば、非貫通の挿入穴として形成しても良い。
【0045】
また、上記の実施形態では、蹴込板固定部材10の前方突出部12を蹴込板後面23の凹溝24に嵌合することにより蹴込板固定部材10を蹴込板20に対して仮固定するものとして説明したが、
図7(a)に示すように、蹴込板固定部材10の前方突出部12を蹴込板後面23の凹溝24に嵌合させた状態で接着剤などにより蹴込板固定部材10を蹴込板20に一体に固定しても良い。あるいは、
図7(b)に示すように、蹴込板固定部材10を別部材とすることに代えて、蹴込板20の上端部が
図7(a)と同様の外形状を有するように蹴込板20を切削加工した蹴込板20としても良い。
【0046】
また、
図1に示す蹴込板固定部材10から実質的に後方突出部14および下方突出部15を省略した形状の蹴込板固定部材10を用いて、これを仮固定または接着剤などによる固定一体化しても良く(
図8(a))、あるいは、蹴込板20の上端部が
図8(a)と同様の外形状を有するように蹴込板20を切削加工した蹴込板20としても良い(
図8(b))。
【符号の説明】
【0047】
10 蹴込板固定部材
11 本体部
12 前方突出部
13 上方突出部
14 後方突出部
15 下方突出部
16 木ネジ挿通穴(固定具挿通穴)
20 蹴込板
21 上端面
22 接着剤塗布溝
23 後面
24 凹溝
25 前面
30 踏板
31 前端面(段鼻先端面)
32 裏面
33 蹴込板嵌合溝
34 隙間
35 表面
36 滑り止め凹溝
37 MDF
38 合板
39 MDF
40 接着剤
50 木ネジ(固定具)