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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/14 20060101AFI20240426BHJP
   C08L 25/04 20060101ALN20240426BHJP
   C08L 25/12 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
C08J9/14 CET
C08L25/04
C08L25/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020057065
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155552
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊二
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-213440(JP,A)
【文献】特開2018-184563(JP,A)
【文献】特開2003-301064(JP,A)
【文献】特開2003-342408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂を含有するスチレン系樹脂組成物の溶融物に発泡剤を添加し発泡性溶融物を調製する工程を有する、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法であって、
前記発泡剤が(A)塩化アルキル、並びに、(B)水および/またはアルコールを含有し、
前記(A)塩化アルキルと、前記(B)水および/またはアルコールとを分けて前記スチレン系樹脂に添加し溶融混練する工程を備え、
前記溶融混練する工程において、前記(A)塩化アルキルを前記溶融物に添加し、前記(A)塩化アルキルと前記溶融物が混合された後に前記(B)水および/またはアルコールを前記溶融物に添加する、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項2】
スチレン系樹脂100重量部に対して、前記(A)塩化アルキルを、2.0重量部以上7.0重量部以下、前記(B)水および/またはアルコールを、0.5重量部以上1.5重量部以下添加する、請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記(A)塩化アルキルが塩化エチルを含み、前記(B)水および/またはアルコールが水を含む、請求項1または請求項2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記発泡剤が、さらに(C)ハイドロフルオロオレフィン及び/又はハイドロクロロフルオロオレフィンを含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項5】
スチレン系樹脂100重量部に対して、前記(C)ハイドロフルオロオレフィンおよび/またはハイドロクロロオレフィンを、2.0重量部以上13.0重量部以下添加する、請求項4に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記スチレン系樹脂100重量%において、スチレン-アクリロニトリル共重合体が10重量%以上100重量%以下含有される、請求項1~5のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項7】
前記スチレン系樹脂押出発泡体が、前記スチレン系樹脂100重量部に対して熱線輻射抑制剤を0.5重量部以上5.0重量部以下含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項8】
前記スチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率が0.0244W/mK以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項9】
前記スチレン系樹脂押出発泡体の密度が20~60kg/mである、請求項1~8のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項10】
前記スチレン系樹脂押出発泡体の厚みが10mm以上150mm以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂押出発泡体は、一般に、押出機などを用いてスチレン系樹脂組成物を加熱溶融し、ついで発泡剤を高圧条件下にて添加し、所定の樹脂温度に冷却した後、これを低圧域に押し出すことにより連続的に製造される。
【0003】
スチレン系樹脂押出発泡体は、良好な施工性や断熱性から、例えば構造物の断熱材として用いられる。近年、住宅、建築物などの省エネルギー化の要求が高まり、従来以上の高断熱性発泡体の技術開発が望まれている。
【0004】
高断熱性発泡体を製造する手法としては、熱線輻射抑制剤として、グラファイトや酸化チタンを所定の範囲で添加する製造方法(例えば、特許文献1参照。)や、発泡剤として、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であるとともに、地球温暖化係数も小さい環境に優しいフッ素化されたオレフィン(ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィン)や、塩化メチル・塩化エチル等の塩化アルキルを使用するスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-221110号公報
【文献】特表2008-546892号公報
【文献】特開2019-189811号公報
【文献】特開2019-108416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一態様は、優れた断熱性を有し、かつ、異物がないスチレン系樹脂押出発泡体、及び当該スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、特定の発泡剤を分けて添加することにより、発泡体中の異物発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の態様を含む。
<1>スチレン系樹脂を含有するスチレン系樹脂組成物の溶融物に発泡剤を添加し発泡性溶融物を調製する工程を有する、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法であって、前記発泡剤が(A)塩化アルキル、並びに、(B)水および/またはアルコールを含有し、前記(A)塩化アルキルと、前記(B)水および/またはアルコールとを分けて前記スチレン系樹脂に添加し溶融混練する、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<2>スチレン系樹脂100重量部に対して、前記(A)塩化アルキルを、2.0重量部以上7.0重量部以下、前記(B)水および/またはアルコールを、0.5重量部以上1.5重量部以下添加する、<1>に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<3>前記(A)塩化アルキルが塩化エチルを含み、前記(B)水および/またはアルコールが水を含む、<1>または<2>に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<4>前記発泡剤が、さらに(C)ハイドロフルオロオレフィン及び/又はハイドロクロロフルオロオレフィンを含有する、<1>~<3>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<5>スチレン系樹脂100重量部に対して、前記(C)ハイドロフルオロオレフィンおよび/またはハイドロクロロオレフィンを、2.0重量部以上13.0重量部以下添加する、<4>に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<6>前記スチレン系樹脂100重量%において、スチレン-アクリロニトリル共重合体が10重量%以上100重量%以下含有される、<1>~<5>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<7>前記スチレン系樹脂押出発泡体が、前記スチレン系樹脂100重量部に対して熱線輻射抑制剤を0.5重量部以上5.0重量部以下含有する、<1>~<6>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<8>前記スチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率が0.0244W/mK以下である、<1>~<7>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<9>前記スチレン系樹脂押出発泡体の密度が20~60kg/mである、<1>~<8>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
<10>前記スチレン系樹脂押出発泡体の厚みが10mm以上150mm以下である、<1>~<9>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、優れた断熱性を有し、かつ、異物がないスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献、及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0010】
〔1.スチレン系樹脂押出発泡体〕
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法は、スチレン系樹脂を含有するスチレン系樹脂組成物の溶融物に発泡剤を添加し発泡性溶融物を調製する工程を有する、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法であって、前記発泡剤が(A)塩化アルキル、並びに、(B)水および/またはアルコールを含有し、前記(A)塩化アルキルと、前記(B)水および/またはアルコールとを分けて前記スチレン系樹脂に添加し溶融混練する。
【0011】
(1-1.スチレン系樹脂)
本発明の一実施形態で用いるスチレン系樹脂としては、特に限定はなく、(i)スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等のスチレン系単量体の単独重合体または2種以上の単量体の組み合わせからなる共重合体や、(ii)前記スチレン系単量体と、ジビニルベンゼン、ブタジエン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの共重合可能な他の単量体の1種または2種以上と、を共重合させた共重合体などが挙げられる。前記共重合可能な他の単量体は、製造されるスチレン系樹脂押出発泡体の圧縮強度等の物性を低下させない程度の量を用いることができる。また、本発明の一実施形態に用いるスチレン系樹脂は、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体に限られず、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体と、前記他の単量体の単独重合体または共重合体とのブレンド物であってもよい。例えば、本発明の一実施形態に用いるスチレン系樹脂は、前記スチレン系単量体の単独重合体もしくは共重合体と、ジエン系ゴム強化ポリスチレンまたはアクリル系ゴム強化ポリスチレンとのブレンド物であってもよい。更に、本発明の一実施形態で用いるスチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRという。)、成形加工時の溶融粘度、溶融張力などを調整する目的で、分岐構造を有するスチレン系樹脂であってもよい。これらは単独で使用してもよく、また、共重合成分、分子量や分子量分布、分岐構造、及び/又はMFRなどの異なる2種以上を混合して使用してもよい。
【0012】
本発明の一実施形態におけるスチレン系樹脂としては、MFRが0.1~50g/10分のものを用いることが、(i)押出発泡成形する際の成形加工性に優れる点、(ii)成形加工時の吐出量、得られたスチレン系樹脂押出発泡体の厚み、幅、見掛け密度、及び独立気泡率を所望の値に調整しやすい点、(iii)発泡性(発泡体の厚み、幅、見掛け密度、独立気泡率、及び、表面性などを所望の状況に調整しやすいこと)に優れる点、(iv)外観などに優れたスチレン系樹脂押出発泡体が得られる点、並びに、(v)特性(例えば、圧縮強度、曲げ強度または曲げたわみ量といった機械的強度や、靱性など)のバランスがとれた、スチレン系樹脂押出発泡体が得られる点から、好ましい。更に、スチレン系樹脂のMFRは、成形加工性および発泡性と、機械的強度及び靱性とのバランスの点から、0.3~30g/10分が更に好ましく、0.5~25g/10分が特に好ましい。なお、本発明の一実施形態において、MFRは、JIS K7210(1999年)のA法、及び、試験条件Hにより測定される。
【0013】
本発明の一実施形態においては、経済性、断熱性および耐熱性の面から、スチレン-アクリロニトリル共重合体を含有することが好ましい。
【0014】
本発明の一実施形態において、スチレン系樹脂としてスチレン-アクリロニトリル共重合体を使用する場合、スチレン系樹脂中に含まれるアクリロニトリル成分の含有量は、スチレン系樹脂100重量%において5重量%以上45重量%以下である。下限は7重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。一方、上限は、40重量%以下が好ましく、35重量%以下がより好ましい。スチレン系樹脂中に含まれるアクリロニトリル成分の含有量が5重量%未満では、アクリロニトリル成分の含有量が少なすぎるため、断熱性の向上効果があまり期待できない。スチレン系樹脂中に含まれるアクリロニトリル成分の含有量が45重量%より多い場合には、アクリロニトリル成分量が多すぎるために発泡時の樹脂の伸びが悪くなり、発泡を阻害するおそれがある。尚、本発明におけるスチレン系樹脂中に含まれるアクリロニトリル成分の含有量は、実施例で後述する方法にてIR分析により得られる含有量である。
【0015】
本発明の一実施形態における、スチレン-アクリロニトリル共重合体の含有量はスチレン系樹脂100重量%のうち10重量%~100重量%が好ましく、30重量%~100重量%がより好ましく、40重量%~100重量%が更に好ましい。スチレン-アクリロニトリル共重合体の含有量が10重量%未満の場合には、スチレン-アクリロニトリル共重合体の量が少なすぎるため、断熱性の向上効果があまり期待できない。
【0016】
本発明の一実施形態における、スチレン-アクリロニトリル共重合体中に含まれるアクリロニトリル成分量は、下限は10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましく、20重量%以上が特に好ましい。一方、上限は45重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、35重量%以下が特に好ましい。スチレン-アクリロニトリル共重合体に含まれるアクリロニトリル成分量が10重量%未満の場合には、アクリロニトリル成分量が少なすぎるため、断熱性の向上効果があまり期待できない。スチレン-アクリロニトリル共重合体のアクリロニトリル成分量が45重量%より多い場合には、スチレン成分量が少ないために発泡時の樹脂の伸びが悪くなり、発泡を阻害するおそれがある。
【0017】
(1-2.発泡剤)
本発明の一実施形態では、発泡剤として(A)塩化アルキル(以下、「発泡剤(A)」と称することがある。)と、(B)水及び/又はアルコール(以下、「発泡剤(B)」と称することがある。)とを使用する。
【0018】
本発明の一実施形態で用いる(A)塩化アルキルとしては、特に制限はないが、塩化メチル、塩化エチルが気体状態の熱伝導率が低く、好ましい。これらの塩化アルキルは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明の一実施形態に係る(A)塩化アルキルの添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部~8.0重量部が好ましく、2.0重量部~7.0重量部がより好ましく、3.0重量部~6.0重量部が特に好ましい。塩化アルキルの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部より少ない場合には、塩化アルキルによる断熱性の向上効果があまり期待できない。一方、塩化アルキルの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して8.0重量部を超える場合には、塩化アルキルがスチレン系樹脂を大きく可塑化するため、得られたスチレン系樹脂押出発泡体の耐熱性が悪化したり、スチレン系押出発泡体の中に異物が生じるおそれがある。
【0020】
本発明の一実施形態で用いる(B)水及び/又はアルコールとしては、特に制限はないが、水が発泡体の難燃性の点から好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態で用いるアルコールとしては、特に制限はないが、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコールなどの炭素数1~4の飽和アルコール類が押出発泡体の厚み出し改善効果が高く、好ましい。それらの中でも、エタノール、プロピルアルコール、i-プロピルアルコールが、入手の容易性、及び価格の点からより好ましい
本発明の一実施形態に係る(B)水及び/又はアルコールの添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上2.0重量部以下が好ましく、0.5重量部以上1.8重量部以下がより好ましく、0.5重量部以上1.5重量部以下がさらに好ましい。(B)水及び/又はアルコールの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部より少ない場合には、水及び/又はアルコールによる厚み出し改善効果があまり期待できない。一方、(B)水及び/又はアルコールの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して2.0重量部を超える場合には、水及び/又はアルコールの量が多すぎるため、押出し機中で水及び/又はアルコールが樹脂に分散、溶解しきれなくなり、気孔が発生するなどして発泡体の外観が悪化する場合がある。
【0022】
本発明の一実施形態においては、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を添加することが好ましい。本発明の一実施形態において用いられる吸水性物質の具体例としては、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉-アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール-アクリル酸塩系共重合体、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸メチル-ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子の他、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)[例えば、日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている]などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末;スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩並びにこれらの有機化処理品;ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土、ベントナイトなどの多孔性物質等があげられる。吸水性物質の添加量は、(B)水及び/又はアルコールの添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.1~3重量部がより好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態では、押出発泡体の断熱性を向上させるため、発泡剤として(C)ハイドロフルオロオレフィン及び/又はハイドロクロロフルオロオレフィン(以下、「ハイドロフルオロオレフィン及び/又はハイドロクロロフルオロオレフィン」を「ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィン」と称することがある。)を使用することが好ましい。なお、これら(C)ハイドロ(クロロ)オレフィンは、発泡剤(A)及び発泡剤(B)とは別々に添加してもよく、発泡剤(A)及び/又は発泡剤(B)と一緒に添加してもよい。別々に添加する場合、(C)ハイドロ(クロロ)オレフィンを添加する順序は、発泡剤(A)及び発泡剤(B)の添加前後を問わず、発泡剤(A)及び発泡剤(B)の添加後であってもよいし、発泡剤(A)及び発泡剤(B)の添加前であってもよい。また、発泡剤(A)の添加と、発泡剤(B)の添加との間で添加してもよい。なお、後述する他の発泡剤の添加形態についても、同様である。
【0024】
本発明の一実施形態で用いるハイドロフルオロオレフィンとしては、特に制限はないが、テトラフルオロプロペンが、低い気体の熱伝導率及び安全性の観点から好ましい。具体的にはトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)、シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(シス-HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234yf)などが挙げられる。また、本発明で用いるハイドロクロロフルオロオレフィンとしては、特に制限はないが、ハイドロクロロトリフルオロプロペンが、低い気体の熱伝導率や安全性の観点から好ましい。具体的にはトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-HCFO-1233zd)などが挙げられる。これらのハイドロフルオロオレフィンおよびハイドロクロロフルオロオレフィンは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明の一実施形態に係るハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部~14.0重量部が好ましく、2.0重量部~13.0重量部がより好ましく、3.0重量部~12.0重量部が特に好ましい。ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部より少ない場合には、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンによる断熱性の向上効果があまり期待できない傾向にある。一方、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して14.0重量部を超える場合には、押出発泡時にハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンが樹脂溶融物から分離して、押出発泡体の表面にスポット孔(ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの局所的塊が、押出発泡体表面を突き破って外気へ放出された痕)が発生したり、独立気泡率が低下して断熱性を損なうおそれがある。
【0026】
本発明では、さらに、他の発泡剤を用いることにより、発泡体製造時の可塑化効果及び/又は助発泡効果が得られ、押出圧力を低減し、安定的に発泡体の製造が可能となる。
【0027】
他の発泡剤としては、例えば、プロパン、n-ブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタン、ネオペンタンなどの炭素数3~5の飽和炭化水素類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-i-ブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、エチル-n-プロピルケトン、エチル-n-ブチルケトンなどのケトン類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステルなどのカルボン酸エステル類などの有機発泡剤、二酸化炭素などの無機発泡剤、アゾ化合物、テトラゾールなどの化学発泡剤などを用いることができる。これら他の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
(1-3.難燃剤)
本発明の一実施形態では、スチレン系樹脂押出発泡体において、難燃剤を添加することにより、得られるスチレン系樹脂押出発泡体に難燃性を付与することができる。
【0029】
難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく用いられる。本発明の一実施形態における臭素系難燃剤の具体的な例としては、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、及び臭素化スチレン-ブタジエンブロックコポリマーのような脂肪族臭素含有ポリマーが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0030】
これらのうち、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテルからなる混合臭素系難燃剤、臭素化スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、及びヘキサブロモシクロドデカンが、押出運転が良好であり、発泡体の耐熱性に悪影響を及ぼさない等の理由から、望ましく用いられる。これらの物質はそれ単体で用いても、または混合物として用いても良い。
【0031】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体における臭素系難燃剤の含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上8.0重量部以下が好ましく、スチレン系樹脂100重量部に対して1.5重量部以上7.0重量部以下がより好ましく、2.0重量部以上6.0重量部以下が更に好ましい。臭素系難燃剤の含有量が1.5重量部未満では、難燃性などの発泡体としての良好な諸特性が得られがたい傾向があり、一方、8.0重量部を超えると、発泡体製造時の安定性、表面性などを損なう場合がある。但し、難燃剤の含有量は、JIS A 9521 測定方法Aに規定される難燃性が得られるように、発泡剤添加量、発泡体の見掛け密度、難燃相乗効果を有する添加剤などの種類あるいは含有量などに応じて、適宜調整されることがより好ましい。
【0032】
本発明の一実施形態においては、スチレン系樹脂押出発泡体の難燃性能を向上させる目的で、ラジカル発生剤を併用することができる。前記ラジカル発生剤は、具体的には、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテン等が挙げられる。ジクミルパーオキサイドの様な過酸化物も用いられる。その中でも、樹脂加工温度条件にて、安定なものが好ましく、具体的には2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、及びポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼンが好ましく、前記ラジカル発生剤の好ましい添加量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.05~0.5重量部である。
【0033】
更に、難燃性能を向上させる目的で、言い換えれば難燃助剤として、熱安定性能を損なわない範囲で、リン酸エステル及びホスフィンオキシドのようなリン系難燃剤を併用することができる。リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリス(トリブチルブロモネオペンチル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、または縮合リン酸エステル等が挙げられ、特にトリフェニルホフェート、又はトリス(トリブチルブロモネオペンチル)ホスフェートが好ましい。又、ホスフィンオキシド型のリン系難燃剤としては、トリフェニルホスフィンオキシドが好ましい。これらリン酸エステル及びホスフィンオキシドは単独または2種以上併用しても良い。リン系難燃剤の好ましい添加量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1~2重量部である。
【0034】
(1-4.安定剤)
本発明の一実施形態においては、難燃剤の安定剤を使用することが出来る。特に限定されるものでは無いが、安定剤の具体的な例としては、(i)ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂のようなエポキシ化合物、(ii)ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等の多価アルコールと、酢酸、プロピオン酸等の一価のカルボン酸、又は、アジピン酸、グルタミン酸等の二価のカルボン酸との反応物であるエステルであって、その分子中に一個以上の水酸基を持つエステルの混合物であり、原料の多価アルコールを少量含有することもある、多価アルコールエステル、(iii)トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、及びオクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナートのようなフェノール系安定剤、(iv)3,9-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、及びテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト)のようなホスファイト系安定剤、などが発泡体の難燃性能を低下させることなく、かつ、発泡体の熱安定性を向上させることから、好適に用いられる。
【0035】
(1-5.熱線輻射抑制剤)
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、断熱性向上のため、熱線輻射抑制剤を添加してもよい。本発明の一実施形態としては、熱線輻射抑制剤としてグラファイトを使用できる。例えば、鱗(片)状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。これらの中でも、熱線輻射抑制効果が高い点から、主成分が鱗(片)状黒鉛のものを用いることが好ましい。グラファイトは、固定炭素分が80%以上のものが好ましく、85%以上のものがより好ましい。固定炭素分を上記範囲とすることで高い断熱性を有する発泡体が得られる。
【0036】
グラファイトの平均粒径は15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均粒径を上記範囲とすることで、グラファイトの比表面積が大きくなり、熱線輻射との衝突確率が高くなるため、熱線輻射抑制効果が高くなる。前記平均粒径は、ISO13320:2009,JIS Z8825:2013に準拠したMie理論に基づくレーザー回折散乱法により粒度分布を測定・解析し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になる時の粒径(レーザー回折散乱法による体積平均粒径)を意味する。
【0037】
本発明の一実施形態における熱線輻射抑制剤の含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上5.0重量部以下が好ましく、1.0重量部以上3.0重量部以下がより好ましい。含有量が0.5重量部未満では、十分な熱線輻射抑制効果が得られない。含有量が5.0重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られずコストメリットが無い。
【0038】
前記熱線輻射抑制剤とは、近赤外または赤外領域の光を反射、散乱、及び吸収する特性を有する物質をいう。熱線輻射抑制剤を含有することにより、高い断熱性を有する発泡体となり得る。本発明で使用することができる熱線輻射抑制剤としては、グラファイトの他に、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化アンチモンなどの白色系粒子を使用することができる。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。白色系粒子の中でも、線輻射抑制効果が大きい点から、酸化チタン又は硫酸バリウムが好ましく、酸化チタンがより好ましい。白色系粒子の平均粒径については、特に限定されるものではないが、効果的に赤外線を反射し、また樹脂への発色性を考慮すれば、例えば、酸化チタンでは0.1μm~10μmが好ましく、0.15μm~5μmがより好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態における白色系粒子の含有量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上3.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以上2.5重量部以下がより好ましい。白色系粒子は、グラファイトと比較して熱線輻射抑制効果が小さく、白色系粒子の含有量が1.0重量部未満では、上記白色系粒子を含有しても熱線輻射抑制効果は殆どない。白色系粒子の含有量が3.0重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られない、一方で、発泡体の難燃性が悪化する傾向がある。
【0040】
本発明の一実施形態における熱線輻射抑制剤の合計含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上6.0重量部以下が好ましく、2.0重量部以上5.0重量部以下がより好ましい。熱線輻射抑制剤の合計含有量が1.0重量部未満では、断熱性が得られがたく、一方、熱線輻射抑制剤のような固体添加剤の含有量が増すほど、造核点が増えるために発泡体の気泡が微細化したり、樹脂自体の伸びが悪化したりすることで、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向にあるが、熱線輻射抑制剤の合計含有量が6.0重量部超では、特に、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すこと、が劣る傾向があり、更に、押出安定性を損なう傾向、及び難燃性が損なわれる傾向がある。
【0041】
(1-6.成形性改善剤)
本発明の一実施形態では、必要に応じて、成形性改善剤として、多価アルコール脂肪酸エステル及び/または、ポリエチレングリコールを添加してもよい。これらを使用することにより、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、押出発泡体の厚みを出すこと(つまり、押出発泡体の成形性を改善すること)が可能となる。
【0042】
本発明の一実施形態で用いる前記多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数10~24の高級脂肪酸と、エチレングリコール、グリセリン、1,2,4-ブタントリオール、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、エリスリトール、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとのエステルが挙げられる。これらの多価アルコール脂肪酸エステルは、単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0043】
これらの中でも、グリセリン脂肪酸エステル、特にグリセリンのモノ、ジ、トリ、または、テトラ脂肪酸エステルが、入手の容易性、価格などの点から望ましい。
【0044】
前記グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド、パルチミン酸モノグリセリド、パルチミン酸ジグリセリド、パルチミン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸テトラグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0045】
本発明で用いる前記グリセリン脂肪酸エステルの融点は150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましく、110℃であることが特に好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの融点が150℃以下の場合、例えば、押出発泡体製造時のドライブレンド工程などでのハンドリング性優れ、且つ、押出発泡成形時に液体として存在することで、押出発泡成形時のスチレン系樹脂に可塑化効果も付与できるため、十分なスチレン系樹脂押出発泡体の厚み出し効果を発揮できる。一方、融点が150℃超えの場合、押出発泡成形時に固体として存在し、押出発泡成形時のスチレン系樹脂に可塑化効果を付与できず、十分なスチレン系樹脂押出発泡体の厚み出し効果が発揮できないおそれがある。
【0046】
本発明の一実施形態で用いる前記多価アルコール脂肪酸エステルの含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して0.05重量部以上5.0重量部以下が好ましく、0.1重量部以上3.0重量部以下がより好ましく、0.5重量部以上2.0重量部未満が特に好ましい。多価アルコール脂肪酸エステルの含有量が0.05重量部未満では、押出発泡体の厚み出し効果が十分でない傾向がある。一方、5.0重量部超えでは、過剰な量のため、製造時の押出、発泡、成形安定性を損ねたり、押出発泡体の耐熱性などの諸特性を悪化させるおそれがある。
【0047】
本発明の一実施形態で用いる前記ポリエチレングリコールの平均分子量は、特に限定はないが、1000以上25000以下が好ましく、1500以上20000以下がより好ましく、3000以上15000以下が特に好ましい。これら平均分子量の異なるポリエチレングリコールは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良いポリエチレングリコールの分子量が1000以上25000以下であると、ポリエチレングリコールの凝固点が常温より高く、常温で固体状態となるため、使用する量によっては、例えば、押出発泡体製造時のドライブレンド工程などでのハンドリング性に優れ、押出発泡体内部から表面への、ポリエチレングリコールのブリードアウトもせず、且つ凝固点が押出発泡成形温度よりも低く、押出発泡成形時のスチレン系樹脂に可塑化効果も付与できるため、スチレン系樹脂押出発泡体への十分な表面性付与効果、及び十分な厚み出し効果を発揮できる。
【0048】
本発明の一実施形態におけるポリエチレングリコールの含有量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.05重量部以上5.0重量部以下が好ましく、0.1重量部以上3.0重量部以下がより好ましく、0.2重量部以上1.0重量部以下が特に好ましい。ポリエチレングリコールの含有量が0.05重量部未満では、表面性付与効果、及び厚み出し効果が十分でない傾向がある。一方、ポリエチレングリコールの含有量が5.0重量部超えでは、ポリエチレングリコールの含有量が過剰なため、製造時の押出性、発泡性、及び成形安定性を損ねたり、押出発泡体の耐熱性などの諸特性を悪化させたりする虞がある。
【0049】
尚、本発明の一実施形態において、成形性改善剤としてポリエチレングリコールと多価アルコール脂肪酸エステルを併用する場合は、スチレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレングリコールと多価アルコール脂肪酸エステルの合計量は、スチレン系樹脂100重量部に対して0.05重量部以上5.0重量部以下が好ましく、0.1重量部以上3.0重量部以下がより好ましく、0.2重量部以上2.0重量部以下が特に好ましい。含有量が0.05重量部未満では、表面性付与効果、及び厚み出し効果が十分でない傾向がある。一方、含有量が5.0重量部超えでは、含有量が過剰なため、製造時の押出性、発泡性、及び成形安定性を損ねたり、押出発泡体の耐熱性などの諸特性を悪化させる虞がある。
【0050】
(1-7.その他添加剤)
本発明の一実施形態においては、さらに、必要に応じて、本発明の一実施形態に係る効果を阻害しない範囲で、例えば、シリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、炭酸カルシウムなどの無機化合物、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン、オレフィン系ワックス、ステアリルアミド系化合物などの加工助剤、フェノール系抗酸化剤、リン系安定剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類などの耐光性安定剤、タルクなどの気泡径調整剤、前記以外の難燃剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤、可塑剤などの添加剤がスチレン系樹脂に含有されてもよい。また、必要に応じ、本発明の一実施形態に係る効果を阻害しない範囲で、その他の樹脂をスチレン系樹脂と併用してもよい。
【0051】
(1-8.物性)
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率は特に限定はないが、例えば建築用断熱材、又は、保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性の観点から、平均温度23℃で測定した製造1週間後の熱伝導率が0.0284W/mK以下であることが好ましく、0.0244W/mK以下であることがより好ましく、0.0224W/mK以下であることが特に好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度は、例えば建築用断熱材、又は、保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性および、軽量性の観点から、20kg/m以上60kg/m以下であることが好ましく、より好ましくは25kg/m以上40kg/m以下である。
【0053】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の独立気泡率は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。独立気泡率が90%未満の場合には、発泡剤が押出発泡体から早期に散逸し、断熱性が低下する。
【0054】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径は、0.05mm以上0.5mm以下が好ましく、0.05mm以上0.4mm以下がより好ましく、0.05mm以上0.3mm以下が特に好ましい。一般に、平均気泡径が小さいほど、発泡体の気泡壁間距離が短くなるために、押出発泡の際に押出発泡体に形状付与する際の押出発泡体の気泡の可動域が狭く、変形が困難であり、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向にある。スチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径が0.05mmより小さいと、特に、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向が顕著なものとなる。一方、スチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径が0.5mm超えの場合、十分な断熱性が得られないおそれがある。
【0055】
尚、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の平均気泡径は、マイクロスコープ[(株)KEYENCE製、DIGITAL MICROSCOPE VHX-900]を用いて、次に記載の通り評価することができる。
【0056】
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の幅方向垂直断面を押出方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。同様に、幅方向3箇所の厚み方向中央部の押出方向垂直断面を幅方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の厚み方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所、各観察方向につき3本。)、その直線に接する気泡の個数aを測定した。測定した気泡の個数aから、次式(1)により観察箇所毎の厚み方向の平均気泡径Aを求めた。3箇所(各箇所2方向ずつ)の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径A(平均値)とした。
観察箇所毎の厚み方向の平均気泡径A(mm)=2×3/気泡の個数a
・・・(1)。
【0057】
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の押出方向垂直断面を幅方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の押出方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所につき3本。)、その直線に接する気泡の個数bを測定した。測定した気泡の個数bから、次式(2)により観察箇所毎の押出方向の平均気泡径Bを求めた。3箇所の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の押出方向の平均気泡径B(平均値)とした。
観察箇所毎の押出方向の平均気泡径B(mm)=2×3/気泡の個数b
・・・(2)。
【0058】
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の幅方向垂直断面を押出方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の幅方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所につき3本。)、その直線に接する気泡の個数cを測定した。測定した気泡の個数cから、次式(3)により観察箇所毎の幅方向の平均気泡径Cを求めた。3箇所の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向の平均気泡径C(平均値)とした。
観察箇所毎の幅方向の平均気泡径C(mm)=2×3/気泡の個数c
・・・(3)。
【0059】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の気泡変形率は、0.7以上2.0以下が好ましく、0.8以上1.5以下がより好ましく、0.8以上1.2以下が更に好ましい。気泡変形率が0.7よりも小さい場合、圧縮強度が低くなり、押出発泡体において、用途に適した強度を確保できないおそれがある。また、気泡が球状に戻ろうとするため、押出発泡体の寸法(形状)維持性に劣る傾向がある。一方、気泡変形率が2.0超えの場合、押出発泡体の厚み方向における気泡数が少なくなるため、気泡形状による断熱性向上効果が小さくなる。
【0060】
尚、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の気泡変形率は、前記した平均気泡径から、次式(4)により求めることができる。
気泡変形率(単位なし)=A(平均値)/{〔B(平均値)+C(平均値)〕/2}・・・(4)。
【0061】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体における厚みは、例えば建築用断熱材、又は保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性、曲げ強度及び圧縮強度の観点から、10mm以上150mm以下であることが好ましく、より好ましくは20mm以上130mm以下であり、特に好ましくは30mm以上120mm以下である。
【0062】
尚、スチレン系樹脂押出発泡体では、本発明の実施例、及び比較例に記載したように、押出発泡成形して形状を付与した後に、厚み方向と垂直な平面の両表面を厚み方向に片側5mm程度の深さでカットして製品厚みとする場合があるが、別途記載がない限り、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体における厚みとは押出発泡成形して形状を付与したままのカットしていない厚みのことである。
【0063】
かくして、本発明の一実施形態により、優れた断熱性及び難燃性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得ることができる。
【0064】
〔2.スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法は、スチレン系樹脂を含む樹脂組成物を加熱溶融し、発泡剤を添加して発泡性溶融物を調製する溶融工程と、上記溶融工程にて得られた発泡性溶融物をダイスリット部から低圧域に押し出して発泡させる発泡工程とを有するものであって、前記発泡剤が(A)塩化アルキル並びに(B)水及び/又はアルコールを含み、かつ、(A)塩化アルキルと(B)水及び/又はアルコールとは分けて添加されることを特徴とする。
【0065】
塩化アルキルは、比較的発泡力に富み、得られる押出発泡体の密度を小さくでき、かつ、スチレン系樹脂に対するガス透過性が高く押出発泡体から早期に逸散し断熱性能および難燃性能の早期安定化を図れるため、スチレン系樹脂押出発泡体の発泡剤として一般的に使用されている。しかし、塩化アルキルの添加量によって、スチレン系樹脂や添加剤のマスターバッチ由来の異物が発生する課題を本発明者らは新たに発見した。そこで、塩化アルキルの作用機構を、同様の作用機構を奏する他の発泡剤で補強することが考えられた。このような発泡剤として水やアルコールが候補に考えられたものの、塩化アルキルと併用する場合、腐食性ガスを発生し装置の劣化を促す虞があり、また、添加量によっては、塩化アルキル単独の場合と同様に、異物が発生する虞があり、使用し難い。しかし、塩化アルキルと、水および/またはアルコールとを分けて添加する形態にすると、添加量の制限が緩和され、押出発泡体の密度等の所望の物性を維持したまま、押出発泡体中の異物発生が抑制される。これは、塩化アルキルと、水および/またはアルコールとが分けて溶融物に溶解されることによって、発泡性溶融物を均一に溶融混練することが可能となり未溶融物が残存することが解消されることであるためと推測する。なお、〔1.スチレン系樹脂押出発泡体〕にて既に説明した構成については援用し、ここではその説明を省略する。
【0066】
スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法としては、一例として、以下の方法が挙げられる。まず、スチレン系樹脂と、必要に応じて上述の各種添加剤とを、ダイスリット部を有する押出機の加熱溶融部に供給する(換言すれば、樹脂組成物を押出機の加熱溶融部に供給する)。このとき、任意の段階(例えば、樹脂組成物を加熱融解している途中、又は、樹脂組成物を加熱融解した後)で高圧条件下にて発泡剤を樹脂組成物に配合することができる。ただし、上記発泡剤(A)と発泡剤(B)は分けて添加される。これにより、溶融混練部において、装置からエネルギーが均一に樹脂組成物に加えられ、未溶融物を含まない(異物を含まない)流動ゲルとなる。分けて添加する順序は特に問わないが、発泡剤(A)が発泡剤(B)よりも上流側で添加されることが好ましく、具体的な方法としては、発泡剤(A)を上記樹脂組成物が加熱融解した直後に添加し、上記発泡剤(B)を上記発泡剤(A)と上記樹脂組成物が混合された後に添加する方法が、製造の安定性の点から好ましい。以上が溶融工程となる。
【0067】
その後、溶融工程にて得られた発泡性溶融物を、押出発泡に適する温度に冷却した後、ダイスリット部を通して該流動ゲルを低圧領域(例えば、大気圧の領域)に押出発泡することにより、スチレン系樹脂押出発泡体を形成する。以上が発泡工程となる。
【0068】
溶融工程において、スチレン系樹脂に各種添加剤を配合する方法としては、例えば、スチレン系樹脂に対して各種添加剤を添加してドライブレンドにより混合する方法;押出機の途中に設けた供給部より溶融したスチレン系樹脂に各種添加剤を添加する方法;あらかじめ押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いてスチレン系樹脂へ高濃度の各種添加剤を含有させたマスターバッチを作製し、当該マスターバッチとスチレン系樹脂とをドライブレンドにより混合する方法;スチレン系樹脂とは別の供給設備により各種添加剤を押出機に供給する方法等が挙げられる。
【0069】
上記加熱溶融部における加熱温度は、使用されるスチレン系樹脂が溶融する温度以上である。加熱温度は、添加剤等の影響による樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度(例えば150℃~260℃程度)が好ましい。加熱溶融部における溶融混練時間は、単位時間当たりのスチレン系樹脂の押出量、及び/又は、加熱溶融部として用い、且つ、溶融混練部として用いられる押出機の種類により異なるので一義的に規定することはできず、スチレン系樹脂と発泡剤及び添加剤とが均一に分散混合されるに要する時間として適宜設定され得る。
【0070】
溶融混練部としては、通常の押出発泡に用いられる機構を特に制限されずに用いることができ、例えばスクリュー型の押出機等が挙げられる。
【0071】
発泡剤を添加又は注入する際の圧力は、特に制限されず、押出機などの内圧力よりも高い圧力であればよい。
【0072】
発泡工程において、押出発泡する方法としては、例えば、押出成形用に使用される開口部が直線のスリット形状を有するダイスリット部を通じて、上述の流動ゲルを高圧領域から低圧領域へ開放する方法が挙げられる。このようにして押出発泡体が得られる。なお、ダイスリット部の形状については特に限定されず、本技術分野における種々のダイスリット部を使用できる。
【0073】
スチレン系樹脂押出発泡体は、板状発泡体、即ち押出発泡板として成形されてもよい。例えば、上述のように得られた押出発泡体をスリットダイと密着又は接して設置された成形金型、及び、該成形金型の下流側に隣接して設置された成形ロール等を用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形することができる。成形金型の流動面形状調整、及び金型温度調整によって、所望の発泡体の断面形状、発泡体の表面性、発泡体品質が得られる。
【実施例
【0074】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
〔原料〕
実施例及び比較例において使用した原料は、次の通りである。
○基材樹脂
・スチレン-アクリロニトリル共重合体 [デンカ(株)製、デンカAS GR-AT-5S;アクリロニトリル成分量25重量%、MFR8.0g/10分]
・ポリスチレン [PSジャパン(株)製、680;MFR7.0g/10分]
○熱線輻射抑制剤
・グラファイト [(株)丸豊鋳材製作所製、M-885;鱗片状黒鉛、平均粒径5.5μm、固定炭素分89%]
○難燃剤
・テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテルの混合臭素系難燃剤[第一工業製薬(株)製、GR-125P]
○難燃助剤
・トリフェニルホスフィンオキシド [住友商事ケミカル]
○安定剤
・ビスフェノール-A-グリシジルエーテル [(株)ADEKA製、EP-13]
・ジペンタエリスリトール-アジピン酸反応混合物 [味の素ファインテクノ(株)製、プレンライザーST210]
・トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート [Songwon Japan(株)製、ソンノックス2450FF]
○その他添加剤
・タルク [林化成(株)製、タルカンパウダーPK-Z]
・ステアリン酸カルシウム [堺化学工業(株)製、SC-P]
・ベントナイト [(株)ホージュン製、ベンゲルブライト11K]
・シリカ [エボニックデグサジャパン(株)製、カープレックスBS-304F]
・エチレンビスステアリン酸アミド [日油(株)製、アルフローH-50S]
・ステアリン酸モノグリセリド [理研ビタミン(株)製、リケマールS-100P]
○発泡剤
(A)
・塩化エチル [日本特殊化学工業(株)製]
(B)
・水 [大阪府摂津市水道水]
・エタノール [富士フイルム和光純薬(株)製、エタノール 試薬特級]
(C)
・HFO-1234ze [ハネウェルジャパン(株)製]
・HCFO-1233zd [ハネウェルジャパン(株)製]・
その他発泡剤
・イソブタン [三井化学(株)製]
【0076】
〔測定方法〕
実施例及び比較例では、下記の測定方法にしたがって、各種パラメータを、測定及び評価した。
【0077】
(1)スチレン系樹脂押出発泡体の厚み(カット前)
後述する[押出発泡体の作製]にて得られた厚み60mm×幅1000mmである断面形状の押出発泡板において、ノギス[(株)ミツトヨ製、M型標準ノギスN30]を用いて、幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の厚み、計3点を測定した。3点の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の厚みとした。
【0078】
(2)見掛け密度(kg/m
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の重量を測定すると共に、長さ寸法、幅寸法、厚み寸法を測定した。
【0079】
測定された重量及び各寸法から、以下の式に基づいてスチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度を求めた。次いで、見掛け密度の単位を、kg/mに換算した。
見掛け密度(g/cm)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm)。
【0080】
(3)独立気泡率
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所、及び、幅方向の他端から逆端方向に150mmの場所の計3箇所から、厚さ40mm×長さ(押出方向)25mm×幅25mmの試験片を切り出した。当該試験片を用い、ASTM-D2856-70の手順Cに従って測定し、以下の式にて各試験片の独立気泡率を求め、3箇所における独立気泡率の平均値を、スチレン系樹脂押出発泡体の独立気泡率とした。
独立気泡率(%)=(V1-W/ρ)×100/(V2-W/ρ)
ここで、V1(cm)は、空気比較式比重計[東京サイエンス(株)製、空気比較式比重計、型式1000型]を用いて測定した試験片の真の体積(独立気泡でない部分の容積が除かれる。)である。V2(cm)は、ノギス[(株)ミツトヨ製、M型標準ノギスN30]を用いて測定した試験片の外側寸法より算出した、見掛けの体積である。W(g)は、試験片の全重量である。また、ρ(g/cm)は、押出し発泡体を構成するスチレン系樹脂の密度であり、1.05(g/cm)とした。
【0081】
(4)平均気泡径、及び気泡変形率
得られたスチレン系樹脂押出発泡体について、前述の通りマイクロスコープ[(株)KEYENCE製、DIGITAL MICROSCOPE VHX-900]を用いて、平均気泡径を測定し、測定した平均気泡径から気泡変形率を求めた。
【0082】
(5)熱伝導率
JIS A 9521に準じて、厚さ50mm×長さ(押出方向)300mm×幅300mmにてスチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を用い、熱伝導率測定装置[英弘精機(株)、HC-074]を用いて、平均温度23℃での熱伝導率を測定した。具体的に、スチレン系樹脂押出発泡体の製造後、上記寸法の試験片を切り出し、当該試験片をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、-10%R.H.)の条件下に静置した後、スチレン系樹脂押出発泡体の製造から1週間(7日間経過)後に、熱伝導率の測定を行った
【0083】
(6)JIS燃焼性
JIS A 9521に準じて、厚さ10mm×長さ200mm×幅25mmの試験片を用い、以下の基準で燃焼性を評価した。製造されたスチレン系樹脂押出発泡体を、前記寸法の試験片に切削し、当該試験片を、JIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、-10%R.H.)の条件下に静置した。スチレン系樹脂押出発泡体を製造してから1週間後(7日間経過後)に、試験片を用いて燃焼性を評価した。
○:「3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を超えて燃焼しない」との基準を満たす。
×:上記基準を満たさない。
【0084】
(7)異物
得られたスチレン系樹脂押出発泡体から厚み50mm×幅910mm×長さ1820mmの発泡板を切り出し、さらに、厚み10mm×幅910mm×長さ約300mmの試験片30枚に切り出した。当該試験片の表面を目視し、以下の基準で異物を評価した。
○:φ2mm以上の異物(未発泡部)が観察されない
×:φ2mm以上の異物(未発泡部)が観察される
【0085】
〔実施例及び比較例〕
実施例及び比較例について、グラファイトは、以下の手法に従って作製したマスターバッチにより添加した。
【0086】
[グラファイトマスターバッチの作製]
バンバリーミキサーに、基材樹脂であるポリスチレン[PSジャパン(株)製、680;MFR7.0g/10分]100重量部、並びに、基材樹脂100重量部に対して、グラファイト[(株)丸豊鋳材製作所製、M-885]102重量部、及びエチレンビスステアリン酸アミド[日油(株)製、アルフローH-50S]2.0重量部を投入して、5kgf/cmの荷重をかけた状態で加熱冷却を行わずに20分間溶融混練した。この際、樹脂温度を測定したところ190℃であった。ルーダーに供給して先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出量250kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチを得た。
【0087】
(実施例1)
[樹脂混合物の作製]
表1に示す材料(発泡剤以外の材料)を、表1に示す配合にてドライブレンドして、樹脂混合物を得た。
【0088】
[押出発泡体の作製]
得られた樹脂組成物を、口径150mmの単軸押出機(第一押出機)、口径200mmの単軸押出機(第二押出機)、及び冷却機を直列に連結した押出機へ、約600kg/hrで供給した。
【0089】
第一押出機に供給した樹脂組成物を、250℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、樹脂組成物を得、表1に示す発泡剤のうち、(A)塩化エチルと(C)HFO-1234zeを第一押出機の先端付近で樹脂組成物中に圧入した。さらに、(B)水を第2押出機中央部分で樹脂組成物中に圧入した。
【0090】
その後、第一押出機に連結された第二押出機及び冷却機中にて、樹脂組成物の温度を表1に示す樹脂温度に冷却し、冷却機先端に設けた、表1に示す厚さの長方形断面の口金(スリットダイ)より、表1に示す発泡圧力にて大気中へ押出発泡させた後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚み60mm×幅1000mmである断面形状の押出発泡板を得た。得られた発泡体の評価結果を表1に示す。
【0091】
(実施例2~11)
表1に示す製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の物性を表1に示す。
【0092】
(比較例1~3)
表2に示す製造条件を変更した(発泡剤を全て第一押出機の先端付近で圧入した)以外は、実施例1と同様の操作により、押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の物性を表2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
表1に示すように、実施例1~11では、発泡体中に異物が確認されなかった。一方、表2に示すように、比較例1~4では、異物が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の一態様に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、例えば、断熱材、吸音材、真空断熱材の芯材、緩衝材、充填材に利用することができる。