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  • 特許-位置決め支援装置及び位置決め方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】位置決め支援装置及び位置決め方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61N5/10 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020059934
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021154060
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】馬場 辰雄
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-010508(JP,A)
【文献】特開2014-171560(JP,A)
【文献】特開2007-289373(JP,A)
【文献】特開2014-161623(JP,A)
【文献】特開2018-114201(JP,A)
【文献】特開平11-197259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
A61B 6/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子捕捉療法の患者を目標位置及び目標体位で治療台上に載置する作業者による位置決め作業を支援する位置決め支援装置であって、
前記治療台上の前記患者の表面を投影面として、前記目標位置及び前記目標体位にある前記患者の前記表面を示す目標表面画像を投影する投影装置を備え、
前記目標位置及び前記目標体位は、
位置及び向きが変更不可能であるように照射室に固定され中性子線の照射野を規定するコリメータの開口を前記治療台上の前記患者に対して近づけた状態における該患者の位置及び体位であり、
前記患者に投影される前記目標表面画像のうち、前記位置決め作業において位置決めの基準となる前記患者の部位の画像の色は、他の部位の画像の色と異なる、位置決め支援装置。
【請求項2】
前記投影装置は、前記目標表面画像として二次元的な画像を投影する請求項1に記載の位置決め支援装置。
【請求項3】
前記投影装置は、
前記治療台が前記中性子捕捉療法の準備室内の所定の準備位置に配置されたときに当該治療台上の前記患者の表面に前記目標表面画像を投影する、請求項1又は2に記載の位置決め支援装置。
【請求項4】
位置決めの基準となる前記患者の部位の画像は、患者の体表に位置する身体部位の位置を示す画像を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の位置決め支援装置。
【請求項5】
前記投影装置は、
前記目標表面画像に重畳させて、前記患者の体内の情報を表す画像を更に投影可能である、請求項1~4の何れか1項に記載の位置決め支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め支援装置及び位置決め方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、がんの治療方法として患者に放射線を照射する放射線治療が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。放射線治療では、治療台上の事前に計画された位置に患者を載置する必要がある。一般的な患者の位置決め作業において、治療台上にレーザ光走査によりマーカー線が描写される。一方、患者の体表面にも所定の基準線が予め付されており、治療台上に誘導された患者の体表面の基準線が上記レーザ光によるマーカー線の位置に一致することをもって、患者が治療台上で正しい位置に載置されたことが確認される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】”放射線治療”、[online]、がん研有明病院、[令和2年3月3日検索]、インターネット〈URL:https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/treatment/radiation/index.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の位置決めでは、位置決め作業時間の短縮やヒューマンエラーの低減等を図るべく、より直感的に患者の位置決めがされることが好ましい。本発明は、放射線治療の治療台上における直感的な患者の位置決めを可能にする位置決め支援装置及び位置決め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の位置決め支援装置は、放射線治療の患者を目標位置及び目標体位で治療台上に載置する位置決め作業を支援する位置決め支援装置であって、治療台上の患者の表面を投影面として、目標位置及び目標体位にある患者の表面を示す目標表面画像を投影する投影装置を備える。
【0006】
投影装置は、目標表面画像として二次元的な画像を投影することとしてもよい。投影装置は、治療台が放射線治療の準備室内の所定の準備位置に配置されたときに当該治療台上の患者の表面に目標表面画像を投影することとしてもよい。また、目標表面画像は、患者の体表に位置する身体部位の位置を示す画像を含むこととしてもよい。投影装置は、目標表面画像に重畳させて、患者の体内の情報を表す画像を更に投影可能であることとしてもよい。また、上記の放射線治療は中性子捕捉療法であってもよい。
【0007】
本発明の位置決め方法は、放射線治療の患者を目標位置及び目標体位で治療台上に載置する位置決め方法であって、治療台上の患者の表面を投影面として、目標位置及び目標体位にある患者の表面を示す目標表面画像を投影装置から投影する投影工程と、目標表面画像と患者とが一致するように患者の位置及び体位を誘導し調整する調整工程と、備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放射線治療の治療台上における直感的な患者の位置決めを可能にする位置決め支援装置及び位置決め方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の位置決め支援装置が適用される中性子線治療装置を示す図である。
図2図1の中性子線治療装置の中性子線出力部近傍を示す図である。
図3図1の中性子線治療装置の照射室と準備室とを示す斜視図である。
図4】位置決め支援装置を示すブロック図である。
図5】本実施形態の位置決め方法のフローチャートである。
図6】患者の表面に投影された体内情報画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「上流」「下流」の語は、出射する荷電粒子線及び中性子線の上流(加速器側)、下流(患者側)をそれぞれ意味している。
【0011】
図1は、本実施形態の位置決め支援装置及び位置決め方法が適用される中性子線治療装置1(放射線治療装置)を示す。中性子線治療装置1は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:BoronNCT)を用いたがん治療を行う装置であり、ホウ素10(10B)が投与された患者40に対し中性子線Nを照射する。中性子線治療装置1は、加速器10(例えば、サイクロトロン)を備え、加速器10は、荷電粒子(例えば、陽子)を加速して、荷電粒子線P(例えば、陽子線)を作り出し、出射する。ここでの加速器10は、例えば、ビーム半径40mm、60kW(=30MeV×2mA)の荷電粒子線Pを生成する能力を有している。
【0012】
加速器10から出射された荷電粒子線Pは、水平型ステアリング12、4方向スリット14、水平垂直型ステアリング16、四重極電磁石18,19,20、90度偏向電磁石22、四重極電磁石24、水平垂直型ステアリング26、四重極電磁石28、4方向スリット30、電流モニタ32、荷電粒子線走査部34を順次に通過し、中性子線出力部36に導かれる。中性子線出力部36では荷電粒子線PがターゲットTに照射されることで生成された中性子線Nを出射し、当該中性子線Nが治療台38上の患者40に照射される。
【0013】
水平型ステアリング12、水平垂直型ステアリング16,26は、例えば電磁石を用いて荷電粒子線Pのビーム軸調整を行うものである。同様に、四重極電磁石18,19,20,24,28は、例えば電磁石を用いて荷電粒子線Pのビームの発散を抑制するものである。4方向スリット14,30は、端のビームを切ることにより、荷電粒子線Pのビーム整形を行うものである。
【0014】
90度偏向電磁石22は、荷電粒子線Pの進行方向を90度偏向するものである。なお、90度偏向電磁石22には、切替部42が設けられており、切替部42によって荷電粒子線Pを正規の軌道から外してビームダンプ44に導くことが可能になっている。ビームダンプ44は、治療前などにおいて荷電粒子線Pの出力確認を行うことができる。
【0015】
電流モニタ32は、中性子線出力部36のターゲットTに照射される荷電粒子線Pの電流値(つまり、電荷,照射線量率)をリアルタイムで測定するものである。電流モニタ32は、荷電粒子線Pに影響を与えずに電流測定可能な非破壊型のDCCT(DC Current Transformer)が用いられている。この電流モニタ32には、所定のコントローラが接続されている。なお、「線量率」とは、単位時間当たりの線量を意味する(以下、同じ)。
【0016】
荷電粒子線走査部34は、荷電粒子線Pを走査し、ターゲットTに対する荷電粒子線Pの照射制御を行うものである。ここでの荷電粒子線走査部34は、例えば、荷電粒子線PのターゲットTに対する照射位置や、荷電粒子線Pのビーム径等を制御する。
【0017】
図2に示すように、中性子線出力部36は、荷電粒子線Pを通すビームダクト48の下流端部に配設されたターゲットTと、ターゲットTで発生した中性子線Nを減速させるモデレータ50と、これらを覆うように設けられた遮蔽体52と、遮蔽体52の下流端に取り付けられたコリメータ46と、を含んで構成されている。
【0018】
ターゲットTは、荷電粒子線Pの照射を受けて中性子線Nを発生させるものである。ここでのターゲットTは、例えば、ベリリウム(Be)により形成され、直径160mmの円板状を成している。モデレータ50は、ターゲットTから出射される中性子線Nを減速させ、エネルギーが低減された治療用中性子線Nとするものである。モデレータ50は、例えば異なる複数の材料から成る積層構造とされている。モデレータ50の材料は、荷電粒子線Pのエネルギー等の諸条件によって適宜選択される。
【0019】
遮蔽体52は、中性子線N、及び当該中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等が外部へ放出されないよう遮蔽するものであり、照射室3の床に取り付けられている。コリメータ46は、治療用中性子線Nの出力口となる円形の開口46aを備え、治療用中性子線Nの照射野を規定する。なお、コリメータ46は、治療台38に取り付けられていてもよい。
【0020】
中性子線出力部36においては、荷電粒子線走査部34で走査された荷電粒子線PがターゲットTに照射され、これにより中性子線が発生する。発生した中性子線は、モデレータ50で減速されて治療用中性子線Nとなる。そして、モデレータ50から出射された治療用中性子線Nが、コリメータ46の開口46aを通過して治療台38上の患者40へ照射される。治療用中性子線Nのビームには、ガンマ線、速中性子線、熱外中性子線、及び熱中性子線が含まれている。このうちの熱中性子線が、主に、患者40体内の腫瘍中に取り込まれたホウ素10と核反応し、有効な治療効果を発揮する。なお、治療用中性子線Nのビームに含まれる熱外中性子線の一部も、患者40の体内で減速されて上記治療効果を発揮する熱中性子線となる。熱中性子線は、0.5eV以下のエネルギーの中性子線である。
【0021】
図3は、中性子線治療装置1が構築された建物の照射室3と準備室5とを示す模式図である。照射室3は、患者40に中性子線が照射される治療が実行される部屋であり、上述の中性子線出力部36は照射室3に設置されている。照射室3においては、治療位置P1に治療台38が設置され、当該治療台38上の患者40に対して中性子線Nが照射される。準備室5は、治療の準備を行う部屋である。図3に示されるように、中性子線治療装置1を用いた中性子捕捉療法では、患者40を治療台38に載置し拘束する等の準備作業を準備室5の室内で実施する。準備室5での準備作業には、準備位置P2に治療台38が設置された状態で、事前に計画された患者40の位置及び体位を治療台38上で再現し拘束する位置決め作業が含まれる。そして、治療台38に対する患者の拘束の状態を維持したまま治療台38ごと患者40を照射室3の治療位置P1へ移動させ、照射室3の室内において、中性子線出力部36から患者40に中性子線が照射される。
【0022】
なお、上記準備作業は、上記のように準備室5で実行されてもよいが、照射室3で直接実行されてもよい。但し、照射室3の放射線量は比較的高く、準備室5は照射室3から遮蔽壁で遮蔽されているので、準備室5の放射線量は照射室3に比較して低い。従って、準備室5で準備作業を行えば、照射室3で準備作業を行う場合に比較して、準備作業中における患者40の被曝が低減される。以下では、準備室5で準備作業を実行する場合を例として説明する。
【0023】
ここで、コリメータ46の開口46aから照射された中性子線は開口46aから遠ざかるほど拡散しフラックスが低下するので、患者40の腫瘍の位置を可能な限り開口46aに近づける必要がある。その一方で、中性子線治療装置1における中性子線の出口(コリメータ46の取付口)と照射方向は、照射室3内で変更することはできない。このため、治療中の患者40は、腫瘍を開口46aに近づけるべく肩や首を捻るなどの立体的な複雑な体位を取る場合がある。特に、患者40の頭頸部に中性子線を照射する場合には、体位が複雑になる傾向にある。そして、準備室5における患者40の位置決め作業は、このような患者40の肩の角度や首の角度等を含む複雑な体位を治療台38上で再現する必要がある。そこで、複雑な患者40の体位の位置決め作業を支援すべく、本実施形態の位置決め支援装置61が使用され、本実施形態の位置決め方法が実行される。
【0024】
本実施形態の本実施形態の位置決め支援装置61及び位置決め方法は、治療台38上における患者40の位置決め作業に適用される。図4に示されるように、位置決め支援装置61は、所定の投影面に画像光63aを投光し当該投影面上に画像を形成する投影装置63と、投影装置63を制御する制御部65とを備えている。制御部65は、例えばコンピュータで構成される。投影装置63は、例えば準備室5の壁又は天井に設置され、準備室5における治療台38の設置位置に向けて画像光63aを投光する。なお、投影装置63は複数存在してもよい。また、投影装置63は治療台38に固定されてもよい。
【0025】
位置決め支援装置61を用いた位置決め方法について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。まず、位置決め作業の準備として、事前に撮影した患者40のX線CT画像に基づいて患者40の腫瘍の位置が認識される。次に、患者40の腫瘍の位置に基づいて、治療中に患者40が配置されるべき治療台38上での位置、及び治療中に患者40が治療台38上で取るべき体位が計画される。このように計画された位置及び体位は、患者40の位置決め作業における位置決めの目標であり、以下では、それぞれ単に、「目標位置」、「目標体位」と呼ぶ。次に、上記の目標位置及び目標体位を取った場合の患者40の3次元データが取得される(S101)。この3次元データの取得は、実物の患者40を3次元スキャンすることや、実物の患者40をCT撮影すること等によって実行されてもよい。
【0026】
次に、上記3次元データに基づき、治療台38上で目標位置及び目標体位にある場合の患者40の表面40aのモデルのデータが作成される。そして、当該モデルの画像を治療台38上の実物の患者40の表面40aに表示するための画像データ65aが作成され、患者データ67の一部として保存される(S103)。なお、上記のような表面40aのモデルの作成や画像データ65aの作成は、公知のプロジェクションマッピングの手法を用いて、制御部65の演算によって実行されてもよい。画像データ65aには、位置合わせの目印のために、患者40の体表に位置する身体部位40bの画像が含まれてもよい。このような身体部位40bとしては、人間が首や肩を捻っても変位し難いような部位(例えば、輪郭、耳孔、眼窩等)が選択される。また、画像データ65aには、上記身体部位40bの位置を示すマーク等の画像が含まれてもよい。
【0027】
位置決め作業では、治療台38が準備室5における所定の準備位置P2に固定されることで、準備室5の壁に固定された投影装置63と治療台38との相対的な位置関係が固定される。この治療台38上に患者40が載置され、患者位置決めの作業者は、治療台38上で患者40の位置及び体位を誘導し、目標位置及び目標体位に概ね近い状態とする。その一方で、位置決め支援装置61では、制御部65が、患者データ67に含まれる上記画像データ65aを読込んで、当該画像データ65aを投影装置63に送信する。そして、投影装置63は、画像データ65aに基づく画像光63aを治療台38上の患者40に向けて投光する。そうすると、患者40の表面40aを投影面として、患者40が目標位置及び目標体位にある場合の当該患者40の表面40aを示す二次元的な目標表面画像63bが、患者40の表面40aに表示される(S105:投影工程)。なお、目標表面画像63bが「二次元的」である、とは、目標表面画像63bが平面的に描写される画像(例えば、患者40の身体部位40bの写真又は絵等)であることを言う。例えば、位置決め用のマーカー線を示す一次元的な直線の画像が患者40の表面40aに投影されるような場合、このような直線の画像は上記の「二次元的」な目標表面画像63bには含まれない。上記のように、複雑な凹凸形状をなす患者40の表面40aを投影面として目標表面画像63bを投影するために、前述のとおり、プロジェクションマッピングの手法を用いて画像データ65aが作成される。
【0028】
ここでは、照射室3内の治療位置P1に設置された治療台38上の患者40の目標位置及び目標体位のモデルに対し、当該モデルを照射室3の治療位置P1と準備室5の準備位置P2との位置差に対応して座標移動したモデルの目標表面画像63bが、投影装置63によって表示される。
【0029】
なお、表示された目標表面画像63bを撮影するカメラが準備室5内に存在し、カメラの撮影画像に基づいて投影装置63の画像光63aがフィードバック制御されることで、目標表面画像63bの歪み補正がなされてもよい。また、このような目標表面画像63bの歪み補正に用いるために、患者40にマーカーが付されてもよい。
【0030】
ここで、画像データ65aの投影面である患者40の表面40aとは、患者40の体表面であってもよく、患者40が着用している衣類等の表面であってもよい。或いは、画像光63aの収差を低減するために、画像を投影し易い平滑な表面を有するシェル状の装身具を患者40が装着してもよく、この場合の上記装身具の表面が患者40の表面40aであってもよい。
【0031】
次に作業者は、上記目標表面画像63bと治療台38上の実物の患者40とが重なるように、患者40の位置及び体位を誘導し調整する。この調整では、例えば、目標表面画像63bに含まれる患者40の身体部位40bの画像(例えば、輪郭、耳孔、眼窩の画像)と、実物の患者40の身体部位40b(例えば、輪郭、耳孔、眼窩)と、の位置が一致するように、患者40が誘導される(S107:調整工程)。そして、上記のように画像と実物とが重なったことをもって、患者40が治療台38上で目標位置及び目標体位にあることが確認される。なお、上記のような調整を容易にするために、位置決めの基準となる耳孔、眼窩等の画像が、色分けや輪郭線表示によって強調表示されてもよい。
【0032】
なお、患者40の表面40aを示す上記の目標表面画像63bだけでなく、患者40の体内の情報を表す体内情報画像64が、目標表面画像63bに重畳され患者40の表面40aに投影装置63から投影されてもよい。患者40の体内の情報の例として、例えば、患者40のPET画像から得られる薬剤集積分布、治療計画から予想される中性子線量分布、治療計画から予想されるガンマ線照射分布等が挙げられる。このような情報が体内情報画像64として患者40の表面40aに表示されることで、患者40の位置及び体位の誤差が許容範囲であるか否かを、医師や放射線技師が視覚的に確認可能である。
【0033】
上記の患者40の体内の情報は、予め準備され患者データ67の一部として保存され、公知のプロジェクションマッピングの手法を用いた制御部65の演算によって、投影装置63用の画像データに変換されればよい。そして、前述の薬剤集積分布、中性子線量分布、ガンマ線線量分布等が、医師や放射線技師の視点から見て実物の患者40の体内での分布として見えるように、体内情報画像64が患者40の表面40aに表示される。図6に示されるように、体内情報画像64として、例えば、薬剤集積分布、中性子線量分布、ガンマ線線量分布等のコンター図が患者40の表面40aに表示されてもよい。
【0034】
上記のように患者40の位置決めが完了した後、作業者は、治療台38に対する相対的な患者40の位置及び体位を維持したまま、治療台38及び患者40を照射室3に搬送し、治療台38を照射室3内の所定の治療位置P1に固定する(図3参照)。その後、中性子線出力部36からの中性子線が治療台38上の患者40に照射され、ホウ素中性子捕捉療法による治療が行われる。
【0035】
以上説明したような本実施形態の位置決め支援装置61及び位置決め方法によれば、作業者は、患者40の表面40aの画像と、実物の患者40の表面40aとを一致させるように、患者40の位置及び体位を誘導すればよい。従って、患者40を誘導すべき目標位置及び目標体位が視覚的に判りやすく、作業者は、容易に直感的に患者40の位置決めを行うことができる。そして、このような直感的な位置決めが実行されることにより、位置決め作業時間の短縮やヒューマンエラーの低減を図ることができる。
【0036】
位置決め作業時間が短縮されることで、ひいては中性子線治療装置1のスループットが向上する。また医療スタッフの作業負荷が軽減され、人的コスト削減が図られる。また、X線投影装置を用いた患者40の位置決めに比較して、患者40の被曝量が低減される。
【0037】
なお、他の手法として、上記のような目標表面画像63bを、位置決め作業者が装着したヘッドマウントディスプレイで仮想的に患者40の表面40aに表示する手法も考えられる。しかしながら、この場合、作業者の人数分のヘッドマウントディスプレイが必要になる。これに対して、本実施形態の位置決め支援装置61及び位置決め方法では、作業者が増加しても投影装置63を増加させる必要がほとんどない点で好ましい。また、ヘッドマウントディスプレイの着脱や装置配線の取扱いの手間が作業者の負担になるが、位置決め支援装置61の投影装置63は主に部屋等に固定されるのでこのような問題は発生し難い。
【0038】
ここで、ホウ素中性子捕捉療法は、患者40の患部近傍に中性子線を照射し、照射範囲内の腫瘍細胞に取り込まれたホウ素10と中性子線とを反応させることで、腫瘍細胞に集中してダメージを付与する方式の治療法である。従って、ホウ素中性子捕捉療法では、陽子線治療等の他の放射線治療に比較すれば、患者40の位置決めの要求精度は低い。
【0039】
例えば仮に、陽子線治療に本実施形態の位置決め支援装置61及び位置決め方法が適用された場合には、位置決め後の患者40のCT撮影を照射室3において更に実行し、位置決め支援装置61による患者40の位置決め精度が十分であるか否かを最終確認せざるを得ないと考えられる。
【0040】
これに対し、本実施形態の位置決め支援装置61及び位置決め方法による患者40の位置決め精度は、ホウ素中性子捕捉療法には十分とされる可能性も高い。従って、本実施形態の位置決め支援装置61及び位置決め方法がホウ素中性子捕捉療法に適用された場合には、上記のような最終確認のためのCT撮影を省略することも可能になる。また、上記のような最終確認に用いられるCT装置は、座位姿勢の患者40に対応出来ない場合もあるところ、最終確認のためのCT撮影が不要であれば、座位姿勢の患者40を取扱うことができないといった問題は発生しない。よって、実施形態の位置決め支援装置61及び位置決め方法は、ホウ素中性子捕捉療法に好適に適用可能である。
【0041】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、実施例の変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。例えば、上述の実施形態では、仰臥位・腹臥位用の治療台38を例示しているが、治療台38は座位用のものであってもよい。また、上述の実施形態では、準備室5で患者40の位置決め作業が実行されたが、前述したように、照射室3内の実際に中性子線が照射される位置において、治療台38上の患者40の位置決めが直接実行されてもよい。この場合、例えば照射室3の壁又は天井に投影装置63が固定されればよい。
【符号の説明】
【0042】
5…準備室、38…治療台、40…患者、40a…表面(投影面)、40b…身体部位、61…位置決め支援装置、63…投影装置、63b…目標表面画像、P2…準備位置、64…体内情報画像。
図1
図2
図3
図4
図5
図6