(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】光学系、眼底検査装置、眼底撮像装置、及び眼底検査システム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/14 20060101AFI20240426BHJP
A61B 3/12 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
A61B3/14
A61B3/12
(21)【出願番号】P 2020069116
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山根 宏大
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-226156(JP,A)
【文献】特開2008-039882(JP,A)
【文献】特開2006-006362(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0286018(US,A1)
【文献】特開2016-002381(JP,A)
【文献】特開2008-049165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼底の反射光を観察するための光学系であって、
光源からの出射光を眼に照射するための照射部と、
前記眼の眼底で反射した反射光を受光するための受光部と、
前記眼に照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、前記眼で反射して前記受光部に向かう反射光のうちの前記z偏光を遮光するための偏光制御部と
を備え
、
前記受光部は、眼底の反射光を撮影するためのカメラ、又は、眼底の反射光を観察するための接眼レンズである、
光学系。
【請求項2】
前記偏光制御部は、2つのz偏光子を有し、
一方は、前記光源が出射する出射光のみの光路中に配置され、前記出射光のうちの前記z偏光である第一のz偏光を透過する第一のz偏光子であり、
他方は、前記受光部に向かう光のみの光路中に配置され、前記第一のz偏光に直交する第二のz偏光を透過する第二のz偏光子である、
請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記光源は、前記z偏光である第一のz偏光を出射し、
前記偏光制御部は、
前記光源と、
前記受光部に向かう光のみの光路中に配置され、前記第一のz偏光に直交する第二のz偏光を透過するz偏光子と
を有する、請求項1に記載の光学系。
【請求項4】
前記第一のz偏光及び前記第二のz偏光の一方は、ラジアル偏光であり、他方は、アジマス偏光である、請求項2又は3に記載の光学系。
【請求項5】
前記第一のz偏光は、ラジアル偏光である、請求項4に記載の光学系。
【請求項6】
前記偏光制御部は、
前記光源が出射する出射光のみの光路中に配置され、前記出射光のうちの前記z偏光を透過する一方のz偏光子と、
前記眼に照射される光と前記眼からの前記反射光との両方の光路中に配置され、入射する光の位相を回転させる偏光回転部と、
前記受光部に向かう光のみの光路中に配置され、前記反射光のうちの前記z偏光を透過する他方のz偏光子と、
を有する、請求項1に記載の光学系。
【請求項7】
前記z偏光子は、
入射する光のうちの直線偏光を透過する直線偏光子と、
前記直線偏光子を通過した直線偏光を、前記光軸に対して軸対称な偏光に変換する1/2波長板ユニットと
を有し、
前記1/2波長板ユニットは、
平面視したときに前記光軸と重なる中心から放射状又は同心円状に延出する方向に沿って所定の角度ずつ軸方位が異なる複数の1/2波長板が1枚の板状に形成されている、請求項2から6のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項8】
前記z偏光子の少なくとも一方は、その光学的な中心部に、光を遮る遮光部を有する、請求項2から7のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項9】
前記z偏光子は、その光学的な中心部に、直線偏光を通過させる直線偏光子部を有する、
請求項2から7のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項10】
前記偏光制御部は、
入射する光のうち、任意の角度の直線偏光を反射し、当該任意の角度に直交する角度の直線偏光を透過する偏光ビームスプリッタ
を有する、請求項1に記載の光学系。
【請求項11】
前記偏光ビームスプリッタと前記眼との間の光路および前記偏光ビームスプリッタと前記受光部との間の光路の一方または両方の光路中において、前記偏光ビームスプリッタで反射した偏光の向きを補正する偏光補正素子をさらに有する、請求項10に記載の光学系。
【請求項12】
前記光源は、600nm以上、1700nm以下の波長の光を出射する近赤外照射装置である、請求項1から11のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の光学系を備え、前記受光部は
前記カメラである、眼底撮像装置。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか1項に記載の光学系を備え、前記受光部は
前記接眼レンズである、眼底検査装置。
【請求項15】
請求項14に記載の眼底検査装置を備えた、眼底検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼底撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の失明の主な原因には、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性および緑内障の3つが知られている。これらの疾病の早期発見には、眼底検査が有効である。眼底検査において用いられる眼底カメラには、眼に入射する光の光軸と眼底で反射した反射光の光軸とが一致した同軸落射照明の光学系が用いられる。したがって、眼底ではなく眼の表面において反射したような不要な光までが、眼底像を形成する光に混ざり、ゴーストフレアが生じるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決する技術として、特許文献1~3及び非特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1及び2には、照射光を分離することで照射光と反射光との光路の重なりを防ぐ方法が記載されている。特許文献3には、不要な光を結像してこれを遮蔽する方法が記載されている。非特許文献1には、直線偏光素子を用いて不要な光を遮光する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-28677号公報
【文献】特開平5-337087号公報
【文献】特開平9-28675号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】奈良先端科学技術大学院大学、科学技術振興機構、“ぶれない、まぶしくない、自撮りできる小型眼底カメラシステムを開発”、[online]、2018年6月18日、JST共同発表、[2020年1月14日検索]、インターネット(URL:https://www.jst.go.jp/pr/announce/20180618/index.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術は以下に示す問題がある。特許文献1及び2に記載されている方法では、照射光が広角になると照射光と反射光との光路の大部分が重なってしまい、ゴーストフレアの発生を防ぐことができない。特許文献3に記載されている方法では、照射光が広角になると像が大きくなるため必要な光も遮ってしまう。非特許文献1に記載されている方法では、例えば、偏光素子の光軸に平行又は直交する空間以外からの反射光は偏光方向とは異なる角度を有するため、偏光方向に回転が生じ、直線偏光素子では不要な光を遮光しきれない。
【0007】
したがって、例えば、照射光が広角の場合でも、不要な光を適切に遮光してゴーストフレアの発生を抑えた光学系を有する眼底検査装置が求められている。
【0008】
本発明の一態様は、不要な光を適切に遮光して、ゴーストフレアの発生を抑えた光学系、及び当該光学系を利用した各種装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光学系は、眼底の反射光を観察するための光学系であって、光源からの出射光を眼に照射するための照射部と、前記眼の眼底で反射した反射光を受光するための受光部と、前記眼に照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、前記眼で反射して前記受光部に向かう反射光のうちの前記z偏光を遮光するための偏光制御部とを備えている。
【0010】
本発明の一態様に係る眼底撮像装置は、上記光学系を備え、前記受光部は、前記眼底の反射光を撮影するためのカメラである。
【0011】
本発明の一態様に係る眼底検査装置は、上記光学系を備え、前記受光部は、前記眼底の反射光を観察するためのレンズである。
【0012】
本発明の一態様に係る眼底検査システムは、上記眼底検査装置を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、不要な光を適切に遮光して、ゴーストフレアの発生を抑えた光学系、及び当該光学系を利用した各種装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態1に係る光学系の一例を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態2に係る光学系の一例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態3に係る光学系の一例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態4に係る光学系の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る光学系100の一例を模式的に示す図である。光学系100は、
図1に示すように、眼Eの眼底の反射光を観察するための光学系である。光学系100は、同軸落射照明の光学系である。光学系100は、照射部と、受光部と、偏光制御部とを備えている。光学系100は、眼Eに照射される光の光軸と、眼Eからの反射光の光軸とが一致した同軸落射照明の光学系である。
【0017】
(構成例)
図1に示すように、光学系100は、光源11、レンズ12、第一のz偏光子13、ビームスプリッタ31、レンズ32、第二のz偏光子23、レンズ22、及びカメラ21から構成されている。また、カメラ21は、画像制御部41とデータの送受信可能にされている。画像制御部41は、画像記録部42及びモニタ43に接続されている。なお、
図1中、光源11が出射して眼Eに照射される出射光の光路を破線で示し、眼Eで反射してカメラ21に向かう反射光の光路を実線で示している。
【0018】
照射部は、光源11からの出射光を眼Eに照射するためのものである。受光部は、眼Eの眼底で反射した反射光を受光するためのものである。本実施形態において、受光部はカメラ21である。このように、光学系100の受光部をカメラ21とすることで、眼底撮像装置を実現することができる。
【0019】
偏光制御部は、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光するためのものである。本実施形態において、偏光制御部は第一のz偏光子13及び第二のz偏光子23の2つのz偏光子である。
【0020】
光学系100において、光源11の光軸上には、ビームスプリッタ31が配置されており、ビームスプリッタ31における当該光軸と直交する軸上には、カメラ21が配置されている。観察対象である被験者の眼Eは、カメラ21に対向する位置に配置される。ビームスプリッタ31よりも光源11側には、光源11側から、レンズ12及び第一のz偏光子13がこの順で配置されている。ビームスプリッタ31と眼Eとの間には、レンズ32が配置されている。ビームスプリッタ31よりもカメラ21側には、ビームスプリッタ31側から、第二のz偏光子23及びレンズ22がこの順で配置されている。
【0021】
光源11は、ストロボ光源でもよいし、熱電球、LD、LED等の連続光源であってもよい。また、光源11は、600nm以上、1700nm以下の波長の光を出射する近赤外照射装置であってもよい。光源11が600nm以上、1700nm以下の波長の近赤外線を照射するものであることによって、被験者にまぶしさを感じさせにくいため好ましい。近赤外照射装置は、例えば、近赤外LEDである。近赤外LEDは、小型軽量化の観点から有利である。この他にも、近赤外照射装置は、ハロゲンランプと特定波長の近赤外線を透過するファブリペロー型のバンドパスフィルターとによって構成されてもよいし、熱輻射光を効率よく取り出すメタサーフェス構造を適用した熱輻射セラミックヒータであってもよい。
【0022】
カメラ21は、例えば、CCD、CMOS、又はInGaAsのような固体撮像素子のカラーセンサ又はモノクロセンサである。カメラ21は、被験者の眼Eの眼底にある網膜で反射した光が結像した像を画像データに変換する。なお、本明細書において、眼底の撮像とは、眼底で反射した光の焦点を撮像素子に合わせて画像を形成することを意味する。
【0023】
カメラ21における画像データの変換は、画像制御部41によって制御される。画像制御部41は、画像記録部42及びモニタ43に接続されている。カメラ21において変換された画像データは、画像制御部41によって画像記録部42に記録され、または、モニタ43に表示される。画像記録部42は、画像データを、HDD、SSD、DVD-RAM等の不揮発性の記録媒体に書き込む又は読み出すものである。
【0024】
ビームスプリッタ31は、光源11から出射された出射光を、その光軸に直交する方向に反射すると共に、眼Eで反射してカメラ21に向かう反射光を透過する。すなわち、ビームスプリッタ31は、光源11が出射する出射光の光路と、眼Eで反射してカメラ21に向かう反射光の光路とを分岐させるものである。
【0025】
レンズ12、22、32は、光源11が出射する出射光又は眼Eで反射してカメラ21に向かう反射光の光束を適宜に広げ、また絞るように配置されている。
【0026】
z偏光子は、入射する光のうち、光軸に対して軸対称なz偏光を透過する偏光子である。光軸に対して軸対称なz偏光は、電場ベクトルが動径方向に分布しているラジアル偏光、又は、電場ベクトルが方位方向に分布しているアジマス偏光である。ラジアル偏光とアジマス偏光は、その偏光方向が互いに直交している。本明細書においては、ラジアル偏光を透過する偏光子をラジアル偏光子と称し、アジマス偏光を透過する偏光子をアジマス偏光子と称する。
【0027】
偏光制御部が有する2つのz偏光子の内の一方である第一のz偏光子13は、光源11が出射する出射光のみの光路中に配置されている。すなわち、第一のz偏光子13は、光源11からビームスプリッタ31までの光路中に配置される。光学系100において、第一のz偏光子13は、レンズ12とビームスプリッタ31との間に配置されている。第一のz偏光子13は、光源11とレンズ12との間に配置されていてもよい。
【0028】
偏光制御部が有する2つのz偏光子の内の他方である第二のz偏光子23は、カメラ21に向かう光のみの光路中に配置されている。すなわち、第二のz偏光子23は、ビームスプリッタ31からカメラ21までの光路中に配置される。光学系100において、第二のz偏光子23は、ビームスプリッタ31とレンズ22との間に配置されている。第二のz偏光子23は、レンズ22とカメラ21との間に配置されていてもよい。
【0029】
第一のz偏光子13は、光源11が出射する出射光のうちのz偏光である第一のz偏光を透過する偏光子である。第二のz偏光子23は、第一のz偏光に直交する第二のz偏光を透過する偏光子である。すなわち、第二のz偏光子23は、眼Eで反射してカメラ21に向かう光のうちの第二のz偏光を透過する。第一のz偏光と第二のz偏光とは、その偏光方向が互いに直交している。したがって、第一のz偏光がラジアル偏光である場合に第二のz偏光はアジマス偏光であり、第一のz偏光がアジマス偏光である場合に第二のz偏光はラジアル偏光である。
【0030】
(動作例)
ここで、第一のz偏光子13がラジアル偏光子であり、第二のz偏光子23がアジマス偏光子である場合を例として、光学系100における光の動きを説明する。光源11が出射した出射光は、レンズ12を通って光束が広げられ、第一のz偏光子13においてラジアル偏光が透過する。第一のz偏光子13を透過したラジアル偏光は、ビームスプリッタ31において眼Eの方向に反射し、レンズ32を通って光束が絞られ、眼Eに入射する。
【0031】
眼Eに入射して反射した反射光は、レンズ32を通って光束が広げられ、ビームスプリッタ31を透過して第二のz偏光子23に入射する。反射光は、第二のz偏光子23においてアジマス偏光が透過し、ラジアル偏光は遮光される。第二のz偏光子23を透過したアジマス偏光は、レンズ22を通って光束が絞られ、カメラ21において受光されて結像し、画像データに変換される。このように、光学系100においては、眼底からの反射光に基づいて眼底の画像データが得られる。
【0032】
眼Eに入射した光は、眼底に到達して眼底において反射するか、眼底に到達して後方拡散するか、又は、眼底に到達せず眼の表面において反射する。すなわち、眼Eにおいて反射した反射光には、眼底像を結像するために必要な眼底からの戻り光と共に、眼の表面において反射し、ゴーストフレアの原因となる不要光が含まれてしまう。
【0033】
眼Eに入射して眼底に到達したラジアル偏光は、眼底において反射して偏光状態が失われる。一方、眼底に到達することなく眼Eの表面で反射したラジアル偏光は、偏光状態が維持される。したがって、反射光に含まれる眼底からの戻り光はラジアル偏光ではなく、不要光はラジアル偏光である。この反射光が第二のz偏光子23に入射すると、ラジアル偏光である不要光は透過せずに遮光され、ラジアル偏光ではない眼底からの戻り光は、アジマス偏光となって透過する。その結果、カメラ21において受光される反射光には不要光が含まれず、ゴーストフレアが発生しない。
【0034】
このように、光学系100は、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光する偏光制御部として、第一のz偏光子13及び第二のz偏光子23を有している。これにより、眼Eにおいて反射した反射光に含まれる不要な光を適切に遮光して、ゴーストフレアの発生を抑えることができる。
【0035】
なお、光源11が出射する出射光のうちのz偏光である第一のz偏光は、ラジアル偏光であることが好ましい。すなわち、第一のz偏光子13はラジアル偏光子であり、第二のz偏光子23はアジマス偏光子であることが好ましい。P偏光であるラジアル偏光の方が、眼Eの表面における反射が少なく、光利用効率が高いためである。
【0036】
また、光源11とレンズ12との間には、ドーナツ型の開口部を有する遮光マスク及びコンデンサーレンズを配置してもよい。この場合、さらに、遮光マスク表面を光源位置として眼Eの瞳近傍と共役関係を有するように構成することが好ましい。また、眼Eの瞳近傍における像の大きさが、2mm以内となることが好ましく、1mm以内となることがより好ましい。これにより、眼Eに対する入射方向がばらつくことにより、偏光の回転にバラつきが出てしまうことを防ぐことができる。
【0037】
(変形例1)
また、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とする2つのz偏光子である第一のz偏光子13及び第二のz偏光子の少なくとも一方は、入射する光のうちの直線偏光を透過する直線偏光子と、前記直線偏光子を通過した直線偏光を、前記光軸に対して軸対称な偏光に変換する1/2波長板ユニットとを有するように構成してもよい。このように、z偏光子を、直線偏光子と1/2波長板ユニットとを組み合わせて構成してもよい。このような1/2波長板ユニットは、平面視したときに光軸と重なる中心から放射状又は同心円状に延出する方向に沿って所定の角度ずつ軸方位が異なる複数の1/2波長板を1枚の板状に形成することで実現できる。
【0038】
例えば、z偏光子を、直線偏光子と、平面視したときに光軸と重なる中心から放射状に延出する方向に沿って所定の角度ずつ軸方位が異なる複数の1/2波長板を1枚の板状に形成した1/2波長板ユニットとで構成する。
【0039】
例えば、1/2波長板ユニットは、平面形状の中心を通る直交する二直線で区切られる領域に区分けされた第一から第四の四つの領域に対応する1/2波長板を有する。そして、第一領域の1/2波長板は、通過する光の振動方向を、例えば基準線に対して、上記中心を通り、かつ45°傾ける1/2波長板とする。そして、それぞれ、第二領域の1/2波長板は、中心を通り、かつ基準線から135°、第三領域の1/2波長板は、中心を通り、かつ基準線から225°、第四領域の1/2波長板は、中心を通り、かつ基準線から315°傾ける1/2波長板とする。
【0040】
当該1/2波長板ユニットは、第一領域からは基準線から45°傾いた直線偏光を出射し、第二領域からは基準線から135°傾いた直線偏光を出射し、第三領域からは基準線から225°傾いた直線偏光を出射し、第四領域からは基準線から315°傾いた直線偏光を出射する。このように、上記のz偏光子は、隣り合う領域の出射光に対して90°傾いた直線偏光を出射し、この出射光は、実施形態1におけるラジアル偏光と実質的には同様の作用を呈する。
【0041】
同様に、上記の第一領域の1/2波長板をそのままの向きで第二領域に配置し、上記の第二領域の1/2波長板をそのままの向きで第三領域に配置し、上記の第三領域の1/2波長板をそのままの向きで第四領域に配置し、そして上記の第四領域の1/2波長板をそのままの向きで第一領域に配置すると、実質的にアジマス偏光を出射するz偏光子が構成され得る。本発明の実施形態では、このようなz偏光子を用いてもよい。
【0042】
(変形例2)
さらに、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とする2つのz偏光子である第一のz偏光子13及び第二のz偏光子の少なくとも一方は、その光学的な中心部に、光を遮る遮光部を有してもよい。遮光部は、例えば、z偏光子において、入射する光の中心近傍に対応する部分を黒塗りにする、当該部分に反射膜を設ける等によって形成される。このような反射膜として、例えば、金属膜、誘電体膜等が挙げられる。また、z偏光子がワイヤーグリッド偏光子である場合、その光学的な中心部にワイヤーグリッドの溝を設けないことで、遮光部を形成してもよい。
【0043】
z偏光子において、入射する光の中心近傍に対応する部分は、軸対称となる偏光特性が他の部分と比較すると低い。また、このような光学系では、直反射が最も忌避される。そのため、このような特性の低い部分又は直反射が生じる可能性のある部分を、予め光を透過させない構成としておくことで、z偏光子の特性の低下を防ぐことができる。
【0044】
(変形例3)
さらに、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とする2つのz偏光子である第一のz偏光子13及び第二のz偏光子の少なくとも一方は、その光学的な中心部に、直線偏光を通過させる直線偏光子部を有していてもよい。眼Eに照射される光および眼Eからの反射光のうち、光軸上およびその近傍の光は、ほぼ光軸に平行な光である。このため、光軸に対して比較的大きな角度の向きを有する不要な光が直線偏光子を通過してしまう不都合が、実質的には生じない。加えて、互いに直交する偏光方向を有する直線偏光子の組み合わせによって、眼底の反射光のうちの光軸近傍の光を受光部も受光部で十分に受光することが可能となる。
【0045】
ここで、直線偏光子部とする中心部の範囲は、上記の光軸に対して角度を有する光による不具合が生じない範囲において、適宜に設定することが可能である。当該中心部の大きさは、コンピュータシミュレーションによって算出してもよいし、z偏光子に代えて直線偏光子を用いる実験によって上記の不具合が生じない範囲を実験的に特定してもよい。
【0046】
したがって、第一のz偏光子13及び第二のz偏光子の少なくとも一方は、ラジアル偏光子であり、かつ、その光学的な中心部に、縦方向の直線偏光を通過させる直線偏光子部を有していてもよい。また、第一のz偏光子13及び第二のz偏光子の少なくとも一方は、アジマス偏光子であり、かつ、その光学的な中心部に、横方向の直線偏光を通過させる直線偏光子部を有していてもよい。このような構成の偏光子であっても、入射する光を光軸に対して軸対称なz偏光とすることができる。
【0047】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0048】
図2は、本発明の実施形態2に係る光学系110の一例を模式的に示す図である。光学系110は、同軸落射照明の光学系である。光学系110は、
図2に示すように、偏光制御部として、光源14と第二のz偏光子23とを有している点において、
図1に示す実施形態1の光学系100と異なっている。したがって、本実施形態においては、実施形態1と異なる部分についてのみ詳細に説明し、他の詳細については省略する。
【0049】
(構成例)
図2に示すように、光学系110は、光源14、レンズ12、ビームスプリッタ31、レンズ32、第二のz偏光子23、及びレンズ22から構成されている。本実施形態において、受光部はレンズ22である。光学系110においては、レンズ22を接眼レンズとし、眼Eの眼底で反射した光の焦点を合わせて画像を形成することで、観察者が接眼レンズを通して眼底像を観察及び検査する。このように、光学系110の受光部をレンズ22とすることで、眼底検査装置を実現することができる。
【0050】
光学系110において、偏光制御部は、光源14と第二のz偏光子23とにより、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光する。すなわち、光学系110においては、実施形態1に係る光学系100における第一のz偏光子13に変えて、第一のz偏光を出射する光源14を用いている。
【0051】
光学系110において、光源14の光軸上には、ビームスプリッタ31が配置されており、ビームスプリッタ31における当該光軸と直交する軸上には、レンズ22を通して眼底像を観察する眼を位置させる。観察対象である被験者の眼Eは、レンズ22に対向する位置に配置される。ビームスプリッタ31よりも光源14側には、レンズ12が配置されている。ビームスプリッタ31と眼Eとの間には、レンズ32が配置されている。ビームスプリッタ31とレンズ22の間には、第二のz偏光子23が配置されている。
【0052】
光源14は、z偏光である第一のz偏光を出射する。光源14として、例えば、レーザー光源をアレイ化してz偏光を出射するように構成した光源、光をz偏光状態にして出射するように構成した光源、光の角度依存をミラーで最大化してz偏光を出射するように構成した光源等を用いることができる。
【0053】
(動作例)
ここで、光源14がラジアル偏光を出射する光源であり、第二のz偏光子23がアジマス偏光子である場合を例として、光学系110における光の動きを説明する。光源14が出射したラジアル偏光は、レンズ12を通って光束が広げられ、ビームスプリッタ31において眼Eの方向に反射する。ビームスプリッタ31を反射したラジアル偏光は、レンズ32を通って光束が絞られ、眼Eに入射する。
【0054】
眼Eに入射して反射した反射光は、レンズ32を通って光束が広げられ、ビームスプリッタ31を透過して第二のz偏光子23に入射する。反射光は、第二のz偏光子23においてアジマス偏光が透過し、ラジアル偏光は遮光される。第二のz偏光子23を透過したアジマス偏光は、レンズ22において結像し、結像した画像を観察者がレンズ22を通して観察及び検査する。
【0055】
光源14から出射されて眼底に到達したラジアル偏光は、眼底において反射して偏光状態が失われる。一方、眼底に到達することなく眼Eの表面で反射したラジアル偏光は、偏光状態が維持される。したがって、反射光に含まれる眼底からの戻り光はラジアル偏光ではなく、不要光はラジアル偏光である。この反射光が第二のz偏光子23に入射すると、ラジアル偏光である不要光は透過せずに遮光され、ラジアル偏光ではない眼底からの戻り光は、アジマス偏光となって透過する。その結果、レンズ22において受光される反射光には不要光が含まれず、ゴーストフレアが発生しない。
【0056】
このように、光学系110は、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光する偏光制御部として、光源14及び第二のz偏光子23を有している。これにより、眼Eにおいて反射した反射光に含まれる不要な光を適切に遮光して、ゴーストフレアの発生を抑えることができる。
【0057】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0058】
図3は、本発明の実施形態3に係る光学系120の一例を模式的に示す図である。光学系120は、同軸落射照明の光学系である。光学系120は、
図3に示すように、偏光制御部として、偏光ビームスプリッタ33を有している点において、
図1に示す実施形態1の光学系100と異なっている。したがって、本実施形態においては、実施形態1と異なる部分についてのみ詳細に説明し、他の詳細については省略する。
【0059】
(構成例)
図3に示すように、光学系120は、光源11、レンズ12、偏光ビームスプリッタ33、偏光補正素子34、レンズ32、レンズ22、及びカメラ21から構成されている。光学系120において、偏光制御部は、偏光ビームスプリッタ33により、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光する。すなわち、光学系120においては、実施形態1に係る光学系100における第一のz偏光子13及び第二のz偏光子23に変えて、偏光ビームスプリッタ33を用いている。偏光ビームスプリッタ33は、入射する光のうち、任意の角度の直線偏光を反射し、当該任意の角度の直線偏光に直交する直線偏光を透過する。
【0060】
光学系120において、光源11の光軸上には、偏光ビームスプリッタ33が配置されており、偏光ビームスプリッタ33における当該光軸と直交する軸上には、カメラ21が配置されている。観察対象である被験者の眼Eは、カメラ21に対向する位置に配置される。偏光ビームスプリッタ33よりも光源11側には、レンズ12が配置されている。偏光ビームスプリッタ33と眼Eとの間には、偏光ビームスプリッタ33側から、偏光補正素子34及びレンズ32がこの順で配置されている。偏光ビームスプリッタ33とカメラ21との間には、レンズ22が配置されている。
【0061】
偏光ビームスプリッタ33は、例えば、透明体中に所定の角度で傾く誘電体膜を有している。偏光ビームスプリッタ33は、入射する光のうち、任意の角度の直線偏光成分を反射し、当該任意の角度と直交する角度の直線偏光成分を透過する。したがって、偏光ビームスプリッタ33は、例えば、入射光のうち、ラジアル偏光の成分を反射し、ラジアル偏光に直交する向きの偏光を透過する。この場合、偏光ビームスプリッタ33を透過する光は、実質的には、入射光のうちのアジマス偏光の成分となる。あるいは、偏光ビームスプリッタ33は、例えば、入射光のうち、アジマス偏光の成分を反射し、アジマス偏光に直交する向きの偏光を透過する。この場合では、偏光ビームスプリッタ33を透過する光は、実質的には、入射光のうちのアジマス偏光の成分となる。これにより、偏光ビームスプリッタ33は、ラジアル偏光及びアジマス偏光のうちの一方のz偏光を眼Eに入射させる。すなわち、偏光ビームスプリッタ33は、入射する光のうちのz偏光である第一のz偏光及び第二のz偏光の一方を眼Eに入射させ、それ以外の光を透過する。
【0062】
偏光補正素子34は、偏光ビームスプリッタ33において反射したz偏光の向きを補正する。偏光補正素子34は、偏光ビームスプリッタ33と眼Eとの間の光路、及び、偏光ビームスプリッタ33とカメラ21との間の光路の一方又は両方の光路中に設けられてもよい。偏光ビームスプリッタ33の反射光としての偏光を利用する場合では、当該反射によって偏光方向に回転方向の成分が含まれることがある。偏光補正素子34は、このような偏光の反射によって発生した、偏光中の回転方向の成分の影響を解消する。偏光補正素子34は、例えば、反射によって回転方向の成分を含んだ偏光の向きを補正し、偏光される前の向きに戻すものである。偏光補正素子34としては、偏光ビームスプリッタ33において反射した光に生じる向きの変更に応じた波長板を用いることができる。あるいは、偏光補正素子34は、上記の発生した回転方向の成分のみを遮るものであってもよい。
【0063】
(動作例)
ここで、偏光ビームスプリッタ33は、ラジアル偏光を反射し、ラジアル偏光以外の光を透過するものである場合を例として、光学系120における光の動きを説明する。光源11が出射した光は、レンズ12を通って光束が広げられ、偏光ビームスプリッタ33に入射する。偏光ビームスプリッタ33においては、入射した光のうち、ラジアル偏光が眼Eに向い、ラジアル偏光以外の光は透過される。偏光ビームスプリッタ33から眼E側に向かうラジアル偏光は、偏光補正素子34を通過してその向きが補正され、レンズ32を通って光束が絞られて、眼Eに入射する。
【0064】
眼Eに入射して反射した反射光は、レンズ32を通って光束が広げられ、偏光補正素子34を通過して偏光ビームスプリッタ33に入射する。偏光ビームスプリッタ33においては、入射した光のうち、ラジアル偏光は反射して、ラジアル偏光以外の光を透過する。すなわち、偏光ビームスプリッタ33において、ラジアル偏光は遮光され、ラジアル偏光以外の光は透過する。偏光ビームスプリッタ33を透過したラジアル偏光以外の光は、レンズ22を通って光束が絞られ、カメラ21において受光されて結像し、画像データに変換される。
【0065】
偏光ビームスプリッタ33から眼Eに向い、眼底に到達したラジアル偏光は、眼底において反射して偏光状態が失われる。一方、眼底に到達することなく眼Eの表面で反射したラジアル偏光は、偏光状態が維持される。したがって、反射光に含まれる眼底からの戻り光はラジアル偏光ではなく、不要光はラジアル偏光である。この反射光が偏光ビームスプリッタ33に入射すると、ラジアル偏光である不要光は透過せずに遮光され、ラジアル偏光ではない眼底からの戻り光は透過する。その結果、カメラ21において受光される反射光には不要光が含まれず、ゴーストフレアが発生しない。
【0066】
このように、光学系120は、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光する偏光制御部として、偏光ビームスプリッタ33を有している。これにより、眼Eにおいて反射した反射光に含まれる不要な光を適切に遮光して、ゴーストフレアの発生を抑えることができる。
【0067】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0068】
図4は、本発明の実施形態4に係る光学系130の一例を模式的に示す図である。光学系130は、同軸落射照明の光学系である。光学系130は、
図4に示すように、偏光制御部として、2つの第一のz偏光子である第一のz偏光子13及び第一のz偏光子24、並びに1/4波長板(偏光回転部)36を有している点において、
図1に示す実施形態1の光学系100と異なっている。したがって、本実施形態においては、実施形態1と異なる部分についてのみ詳細に説明し、他の詳細については省略する。
【0069】
(構成例)
図4に示すように、光学系130は、光源11、レンズ12、第一のz偏光子13、ビームスプリッタ31、レンズ32、1/4波長板36、第一のz偏光子24、レンズ22、及びカメラから構成されている。
【0070】
光学系130においては、2つの第一のz偏光子と1/4波長板36とによって、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光する。すなわち、光学系130は、実施形態1に係る光学系100における第一のz偏光子13及び第二のz偏光子23に変えて、2つの第一のz偏光子である第一のz偏光子13及び第一のz偏光子24、並びに1/4波長板36を偏光制御部として有している。
【0071】
光学系130において、光源11の光軸上には、ビームスプリッタ31が配置されており、ビームスプリッタ31における当該光軸と直交する軸上には、カメラ21が配置されている。観察対象である被験者の眼Eは、カメラ21に対向する位置に配置される。ビームスプリッタ31よりも光源11側には、光源11側から、レンズ12及び第一のz偏光子13がこの順で配置されている。ビームスプリッタ31と眼Eとの間には、ビームスプリッタ31側から、レンズ32及び1/4波長板36がこの順で配置されている。ビームスプリッタ31とカメラ21との間には、ビームスプリッタ31側から、第一のz偏光子24及びレンズ22がこの順で配置されている。
【0072】
第一のz偏光子13は、光源11が出射する出射光のみの光路中に配置され、出射光のうちのz偏光を透過する一方のz偏光子である。第一のz偏光子24は、カメラ21に向かう光のみの光路中に配置され、反射光のうちのz偏光を透過する他方のz偏光子である。すなわち、第一のz偏光子13と第一のz偏光子24とは、配置される光路が異なるのみで、機能は同一である。したがって、第一のz偏光子13がラジアル偏光子である場合、第一のz偏光子24もラジアル偏光子であり、第一のz偏光子13がアジマス偏光子である場合、第一のz偏光子24もアジマス偏光子である。
【0073】
1/4波長板36は、眼Eに照射される光と眼Eからの反射光との両方の光路中に配置される。すなわち、1/4波長板36には、眼Eに入射する光と眼Eから反射する光との両方が入射する。1/4波長板36は、入射する光にλ/4の位相差を与えるものであり、入射する光の偏光方向に応じて遅相軸をアレイもしくは分布させたものである。
【0074】
(動作例)
ここで、第一のz偏光子13及び第一のz偏光子24がラジアル偏光子である場合を例として、光学系130における光の動きを説明する。光源11が出射した光は、レンズ12を通って光束が広げられ、第一のz偏光子13においてラジアル偏光が透過する。第一のz偏光子13を透過したラジアル偏光は、ビームスプリッタ31において眼Eの方向に反射し、レンズ32を通って光束が絞られ、1/4波長板36に入射する。1/4波長板36に入射したラジアル偏光は、円偏光となり、眼Eに入射する。
【0075】
眼Eに入射して眼底に到達した円偏光の照明光は、眼底において反射して偏光状態が失われる。一方、眼底に到達することなく眼Eの表面で反射した円偏光の照明光は、偏光状態が維持される。眼において反射した光は、再度1/4波長板36に入射する。1/4波長板36に入射した光は所定の方向の円偏光となる(ここで、説明のため、この所定の方向の円偏光を、カメラの向く方向を正にとって右回り円偏光とする。以下、明示しない限りこれに準じる)。したがって、眼Eの表面で反射した円偏光の照明光は、位相がさらに回転し、アジマス偏光となる。すなわち、眼Eの表面で反射した不要光は、1/4波長板36を通過することで、アジマス偏光となる。
【0076】
このように、1/4波長板36は、それに入射する光の位相を回転させ、光源側から1/4波長板36に入射するz偏光の方位角に対して90°回転した方位角のz偏光を、受光部(カメラ21)側へ出射している。すなわち、1/4波長板36は、入射する光の位相を回転させる偏光回転部として機能している。一方、眼底に到達して反射した光は偏光状態が失われているので、1/4波長板36を通過しても偏光状態が様々であり、その全てがアジマス偏光になるわけではない。なお、本実施形態においては、偏光回転部は入射する光の方位角を90°回転させるが、受光部側に出射する光の回転角度はこれに限定されない。
【0077】
1/4波長板36を通過した反射光は、レンズ32を通って光束が広げられ、ビームスプリッタを通過し、第一のz偏光子24に入射する。反射光のうち、眼底に到達して反射した戻り光は第一のz偏光子24を透過するが、アジマス偏光となった不要光は第一のz偏光子24を透過せずに遮光される。第一のz偏光子24を通過した戻り光はレンズ22を通って光束が絞られ、カメラ21において受光されて結像し、画像データに変換される。すなわち、眼の表面で反射した不要光は第一のz偏光子24で遮光されてカメラ21まで到達せず、眼底からの戻り光のみがカメラ21において受光される。
【0078】
このように、光学系130は、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光する偏光制御部として、2つの第一のz偏光子である第一のz偏光子13及び第一のz偏光子24、並びに1/4波長板36を有している。これにより、眼Eにおいて反射した反射光に含まれる不要な光を適切に遮光して、ゴーストフレアの発生を抑えることができる。
【0079】
(実施形態4の変形例)
また、1/4波長板36に代えて、45°旋光子を偏光回転部として用いてもよい。45°旋光子を用いる場合、1/4波長板36を用いる場合と同様に、2つの第一のz偏光子と45°旋光子とによって、眼Eに照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、眼Eで反射して受光部に向かう反射光のうちのz偏光を遮光する。すなわち、実施形態4の変形例の光学系は、2つの第一のz偏光子及び45°旋光子を偏光制御部として有している。45°旋光子は、入射する光の偏光状態は変えずにその方位角を45°回転させる。
【0080】
ここで、2つの第一のz偏光子の両方がラジアル偏光子である場合を例として、45°旋光子を有する実施形態4の変形例の光学系における光の動きを説明する。この場合、45°旋光子には第一のz偏光子13を透過したラジアル偏光が入射する。45°旋光子に入射したラジアル偏光は、45°回転したラジアル偏光となり、眼Eに入射する。
【0081】
眼Eに入射して眼底に到達した45°回転したラジアル偏光は、眼底において反射して偏光状態が失われる。一方、眼底に到達することなく眼Eの表面で反射した45°回転したラジアル偏光は、偏光状態が維持される。眼において反射した光は、再度45°旋光子に入射する。45°旋光子に入射した光は45°回転した光となるので、眼Eの表面で反射した45°回転したラジアル偏光は、さらに45°回転し、アジマス偏光となる。すなわち、眼Eの表面で反射した不要光は、45°旋光子を通過することで、アジマス偏光となる。一方、眼底に到達して反射した光は偏光状態が失われているので、45°旋光子を通過しても45°回転するのみでアジマス偏光にはならない。
【0082】
このように、45°旋光子は、それに入射する偏光の方位角を回転させ、光源側から45°旋光子に入射するz偏光の方位角に対して90°回転した方位角のz偏光を、受光部側へ出射している。すなわち、45°旋光子は、入射する光の位相を回転させる偏光回転部として機能している。なお、本変形例においては、偏光回転部は入射する光の方位角を90°回転させるが、受光部側に出射する光の回転角度はこれに限定されない。
【0083】
45°旋光子を通過した反射光は、第一のz偏光子24に入射する。反射光のうち、眼底に到達して反射した戻り光は第一のz偏光子24を透過するが、アジマス偏光となった不要光は第一のz偏光子24を透過せずに遮光される。
【0084】
このように、実施形態4の変形例の光学系によれば、眼Eにおいて反射した反射光に含まれる不要な光を適切に遮光して、ゴーストフレアの発生を抑えることができる。
【0085】
〔光学系の利用〕
上述した実施形態1から4のいずれかの光学系は、眼底の反射光を観察することで眼底像を得る種々の装置において利用することができる。
【0086】
上述した実施形態1から4のいずれかの光学系を備え、受光部は、眼底の反射光を撮影するためのカメラである、眼底撮像装置は、本発明の範疇に含まれる。また、上述した実施形態1から4のいずれかの光学系を備え、受光部は、眼底の反射光を観察するためのレンズである、眼底検査装置も、本発明の範疇に含まれる。さらにこのような眼底検査装置を、眼の疾患の診断装置や手術装置等と組み合わせた眼底検査システムについても、本発明の範疇に含まれる。
【0087】
例えば、受光部としてのカメラが撮像した画像を用いて眼底の検査を行うシステムは、撮像した眼底の画像を判定する機能的構成を有していればよい。このような検査システムは、必要に応じて当該画像のデータを含む情報を入出力する通信装置を有していてよい。当該システムにおける眼底の画像の判定は、例えば、下記の画像判定モデルによって実施することが可能である。
【0088】
〔画像判定モデルについて〕
画像判定モデルには、画像データ中の特定の部位に関する情報の入力に対応して、画像データの適否に関する情報を出力するモデルを用いることが可能である。当該画像判定モデルは、一種でもそれ以上でもよい。
【0089】
当該画像判定モデルは、教師データを参照させて学習させることができる。当該教師データは、被験者の眼底の画像データと、当該画像データに対応する画像中の部位に関する少なくとも一つの情報とを含む。
【0090】
当該画像判定モデルの学習は、例えば以下のようにして実施することが可能である。すなわち、眼底の画像データを十分数用意し、当該画像中の特定の部位(例えば視神経乳頭、静脈血管など)の状態(例えばサイズなど)を計測する。当該計測によるデータを十分数取得し、ニューラルネットワークに学習させ、画像データごとにパスの重みを決定する。このようにして、画像判定モデルを作成する。
【0091】
画像判定モデルおよびそれを学習させる方法は、所期の結果が得られる範囲において適宜に選ぶことができる。画像判定モデルの例には、ニューラルネットワークおよびサポートベクターマシンが含まれる。ニューラルネットワークの例には、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)および全結合型ニューラルネットワークが含まれる。当該画像判定モデルを学習させるためのアルゴリズムの例には、バックプロパゲーションおよびID3が含まれる。
【0092】
なお、画像判定モデルは、機械学習によるモデル以外であってもよい。例えば、画像判定モデルは、上記の画像データを目的変数とし、画像データの適否に関する情報を説明変数とする回帰モデルであってもよい。
【0093】
本実施形態における眼底検査システムは、視力検査などの眼に対する他の検査と並行することが可能である。眼底の撮像は、例えば音声ガイドなどのガイダンス機能により、被験者自身によって実施することも可能である。この場合、眼底の撮像および眼底の画像診断のためのオペレータが不要なので、眼底検査にかかるコストを大幅に削減できることが期待される。また、本実施形態によれば眼底撮像の普及が期待されるため、眼疾の予防がより促進され、その結果、眼疾によって失明する患者の低減が期待される。
【0094】
このようなシステムは、当該システムを実行させるプログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備える制御部によって実施することが可能である。上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して、別の場所のコンピュータに供給されてもよい。なお、上記のシステムは、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。あるいは、上記制御部は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよい。
【0095】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る光学系は、眼底の反射光を観察するための光学系であって、光源からの出射光を眼に照射するための照射部と、前記眼の眼底で反射した反射光を受光するための受光部と、前記眼に照射される光を光軸に対して軸対称なz偏光とし、前記眼で反射して前記受光部に向かう反射光のうちの前記z偏光を遮光するための偏光制御部とを備えている。これにより、不要な光を適切に遮光してゴーストフレアの発生を抑え、眼底の反射光を好適に観察することができる。
【0096】
本発明の態様2に係る光学系において、前記偏光制御部は、2つのz偏光子を有し、一方は、前記光源が出射する出射光のみの光路中に配置され、前記出射光のうちの前記z偏光である第一のz偏光を透過する第一のz偏光子であり、他方は、前記受光部に向かう光のみの光路中に配置され、前記第一のz偏光に直交する第二のz偏光を透過する第二のz偏光子であってもよい。これにより、偏光制御部の他の形態を提供することができる。
【0097】
本発明の態様3に係る光学系において、前記光源は、前記z偏光である第一のz偏光を出射し、前記偏光制御部は、前記光源と、前記受光部に向かう光のみの光路中に配置され、前記第一のz偏光に直交する第二のz偏光を透過するz偏光子とを有してもよい。これにより、不要な光を適切に遮光してゴーストフレアの発生を抑え、眼底の反射光を好適に観察することができる。これにより、偏光制御部の他の形態を提供することができる。
【0098】
本発明の態様4に係る光学系において、前記第一のz偏光及び前記第二のz偏光の一方は、ラジアル偏光であり、他方は、アジマス偏光であってもよい。これにより、偏光制御部の他の形態を提供することができる。
【0099】
本発明の態様5に係る光学系において、前記第一のz偏光は、ラジアル偏光であってもよい。これにより、不要な光を適切に遮光してゴーストフレアの発生を抑え、眼底の反射光を好適に観察することができる。また、光の利用効率に優れた光学系を実現できる。
【0100】
本発明の態様6に係る光学系において、記偏光制御部は、前記光源が出射する出射光のみの光路中に配置され、前記出射光のうちの前記z偏光を透過する一方のz偏光子と、前記眼に照射される光と前記眼からの前記反射光との両方の光路中に配置される、入射する光の位相を回転させる偏光回転部と、前記受光部に向かう光のみの光路中に配置され、前記反射光のうちの前記z偏光を透過する他方のz偏光子と、を有してもよい。これにより、偏光制御部の他の形態を提供することができる。
【0101】
本発明の態様7に係る光学系において、前記z偏光子は、入射する光のうちの直線偏光を透過する直線偏光子と、前記直線偏光子を通過した直線偏光を、前記光軸に対して軸対称な偏光に変換する1/2波長板ユニットとを有し、前記1/2波長板ユニットは、平面視したときに前記光軸と重なる中心から放射状又は同心円状に延出する方向に沿って所定の角度ずつ軸方位が異なる複数の1/2波長板が1枚の板状に形成されていてもよい。これにより、z偏光を透過するz偏光子の他の態様を提供することができる。
【0102】
本発明の態様8に係る光学系において、前記z偏光子の少なくとも一方は、その光学的な中心部に、光を遮る遮光部を有してもよい。z偏光子の特性の低い部分又は直反射が生じる可能性のある部分を、予め光を透過させない構成としておくことで、z偏光子の特性の低下を防ぐことができる。
【0103】
本発明の態様9に係る光学系において、前記z偏光子は、その光学的な中心部に、直線偏光を通過させる直線偏光子部を有してもよい。これにより、z偏光子の他の形態を提供することができる。
【0104】
本発明の態様10に係る光学系において、前記偏光制御部は、入射する光のうち、任意の角度の直線偏光を反射し、当該任意の角度に直交する角度の直線偏光を透過する偏光ビームスプリッタを有していてもよい。これにより、偏光制御部の他の形態を提供することができる。
【0105】
本発明の態様11に係る光学系は、前記偏光ビームスプリッタと前記眼との間の光路および前記偏光ビームスプリッタと前記受光部との間の光路の一方または両方の光路中において、前記偏光ビームスプリッタで反射した偏光の向きを補正する偏光補正素子をさらに有してもよい。これにより、偏光ビームスプリッタ33において反射した光に生じる向きの変更を補正することができる。
【0106】
本発明の態様12に係る光学系において、前記光源は、600nm以上、1700nm以下の波長の光を出射する近赤外照射装置であってもよい。これにより、被験者にまぶしさを感じさせにくいため好ましい。
【0107】
本発明の態様13に係る眼底撮像装置は、態様1から12のいずれかに記載の光学系を備え、前記受光部は、前記眼底の反射光を撮影するためのカメラである。これにより、不要な光を適切に遮光してゴーストフレアの発生を抑え、眼底の反射光を好適に観察することが可能な眼底撮像装置を実現できる。
【0108】
本発明の態様14に係る眼底検査装置は、態様1から12のいずれかに記載の光学系を備え、前記受光部は、前記眼底の反射光を観察するためのレンズである。これにより、不要な光を適切に遮光してゴーストフレアの発生を抑え、眼底の反射光を好適に観察することが可能な眼底検査装置を実現できる。
【0109】
本発明の態様15に係る眼底検査システムは、態様14に記載の眼底検査装置を備えている。これにより、不要な光を適切に遮光してゴーストフレアの発生を抑え、眼底の反射光を好適に観察することが可能な眼底検査システムを実現できる。
【0110】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0111】
11、14 光源(照射部)
13、24 第一のz偏光子(偏光制御部)
21 カメラ(受光部)
22 レンズ(受光部)
23 第二のz偏光子(偏光制御部)
33 偏光ビームスプリッタ(偏光制御部)
34 偏光補正素子
36 1/4波長板(偏光回転部、偏光制御部)
100、110、120、130 光学系