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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】探触子及びそれを用いる超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
A61B8/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020090443
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021184791
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 豊
(72)【発明者】
【氏名】梶山 新也
(72)【発明者】
【氏名】今川 健吾
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04852576(US,A)
【文献】特開2012-244448(JP,A)
【文献】国際公開第2012/139665(WO,A1)
【文献】特開平08-045460(JP,A)
【文献】米国特許第08847685(US,B2)
【文献】米国特許第05963094(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 ー 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断部位に超音波を送信し反射波である受信信号を受信する探触子であって、
前記探触子は、
複数の振動子と、
前記複数の振動子対応して設けられた複数の低雑音増幅回路であって、各低雑音増幅回路が、可変抵抗制御端子に入力される可変抵抗制御信号により抵抗値が変わる可変抵抗帰還部を有する複数の低雑音増幅回路と、
制御回路と
を備え、
前記制御回路は、
前記低雑音増幅回路の前記可変抵抗帰還部のバイアス電圧に相当するレプリカ電圧であって前記バイアス電圧の変動に伴って変動するレプリカ電圧を生成するレプリカ電圧生成回路と、
前記レプリカ電圧生成回路により生成された前記レプリカ電圧と、時間の経過と共に上昇または下降するTGC用制御信号と、を加算して加算信号を出力する加算回路と、
を有し、
前記複数の低雑音増幅回路が有する複数の可変抵抗制御端子に対して前記加算信号に基づく前記可変抵抗制御信号が入力され、これにより前記各低雑音増幅回路の利得可変制御されることを特徴とする探触子。
【請求項2】
請求項1に記載の探触子であって、
前記レプリカ電圧生成回路は、
前記複数の低雑音増幅回路とは別のレプリカ電圧生成用低雑音増幅回路と、
前記レプリカ電圧生成用低雑音増幅回路の入出力間に接続された帰還抵抗と、
を含む、
ことを特徴とする探触子。
【請求項3】
請求項2に記載の探触子であって、
前記レプリカ電圧生成回路は、前記複数の低雑音増幅回路が実装された半導体ダイに実装されている
ことを特徴とする探触子。
【請求項4】
請求項1に記載の探触子であって、
前記制御回路は、更に、フローティング電圧回路を有し、
前記フローティング電圧回路は、制御端子に入力される電気信号により抵抗値が変わる可変抵抗を有し、
前記可変抵抗の前記制御端子に前記電気信号として直流電気信号給電されこれにより前記可変抵抗に直流電流れてフローティング電圧生成され
前記フローティング電圧回路において、前記加算回路から出力された前記加算信号が有する電圧を基準として、前記フローティング電圧分レベルシフトを行った電圧を有する信号として前記可変抵抗制御信号が生成される、
ことを特徴とする探触子。
【請求項5】
請求項4に記載の探触子であって、
前記各低雑音増幅回路が有する前記可変抵抗帰還部は、第1のNチャネルまたはPチャネル電界効果トランジスタで構成され、
前記各低雑音増幅回路が有する前記可変抵抗帰還部の前記可変抵抗制御端子は、前記第1のNチャネルまたはPチャネル電界効果トランジスタのゲート端子であり、
前記フローティング電圧回路の前記可変抵抗は、ゲートとドレインを接続した第2のNチャネルまたはPチャネル電界効果トランジスタであり、これに直流電気信号を給電することにより、そのゲートソース間電圧として前記フローティング電圧が生成される、
ことを特徴とする探触子。
【請求項6】
請求項5に記載の探触子であって、
前記低雑音増幅回路は、反転入力端子及び非反転入力端子を有する演算増幅器であり、
前記第1のNチャネルまたはPチャネル電界効果トランジスタは、前記演算増幅器の出力から前記反転入力端子へ負帰還をかける前記可変抵抗帰還部であり、
前記演算増幅器の前記非反転入力端子には、基準電圧が供給されている
ことを特徴とする探触子。
【請求項7】
請求項1に記載の探触子であって、
前記低雑音増幅回路は、2つの電界効果トランジスタを並置した差動増幅回路であり、
前記各低雑音増幅回路の前記可変抵抗帰還部は、前記2つの電界効果トランジスタのソース間に接続した第3の電界効果トランジスタであり、当該第3の電界効果トランジスタのゲートに前記可変抵抗制御信号が入力される、
ことを特徴とする探触子。
【請求項8】
請求項1に記載の探触子であって、
前記低雑音増幅回路は、第1のPチャネル電界効果トランジスタと第1のNチャネル電界効果トランジスタを直列接続したインバータ回路であり、
前記各低雑音増幅回路の前記可変抵抗帰還部は、第2のNチャネル電界効果トランジスタと第2のPチャネル電界効果トランジスタを並列接続したものであり、
前記第2のNチャネル電界効果トランジスタと前記第2のPチャネル電界効果トランジスタとの並列接続の一端は、前記第1のPチャネル電界効果トランジスタと前記第1のNチャネル電界効果トランジスタとの接続点に接続されており、前記並列接続の他端は、前記第1のPチャネル電界効果トランジスタのゲート及び前記第1のNチャネル電界効果トランジスタのゲートに接続されている
ことを特徴とする探触子。
【請求項9】
請求項8に記載の探触子であって、
前記TGC用制御信号は、第1のTGC用制御信号と第2のTGC用制御信号とを含み、
前記加算信号は、第1の加算信号と第2の加算信号とを含み、
前記可変抵抗制御信号は、第1の可変抵抗制御信号と第2の可変抵抗制御信号とを含み、
前記加算回路は、前記レプリカ電圧生成回路により生成された前記レプリカ電圧と、時間の経過と共に上昇または下降する前記第1のTGC用制御信号とを加算し、これにより前記第1の加算信号を出力し、
前記第1の加算信号の電圧を基準として、第3のNチャネル電界効果トランジスタのゲートソース間電圧分のレベルシフトを行った電圧を有する信号として前記第1の可変抵抗制御信号が生成され、
前記第1の可変抵抗制御信号が前記低雑音増幅回路の前記第2のNチャネル電界効果トランジスタのゲート端子に入力され
前記加算回路は、前記レプリカ電圧生成回路により生成された前記レプリカ電圧と、前記第1のTGC用制御信号とは時間の経過と共に傾斜が逆となる前記第2のTGC用制御信号とを加算し、これにより前記第2の加算信号を出力し、
前記第2の加算信号の電圧を基準として、第3のPチャネル電界効果トランジスタのゲートソース間電圧分のレベルシフトを行った電圧を有する信号として前記第2の可変抵抗制御信号が生成され、
前記第2の可変抵抗制御信号が前記低雑音増幅回路の前記第2のPチャネル電界効果トランジスタのゲート端子に入力される、
ことを特徴とする探触子。
【請求項10】
請求項9に記載の探触子であって、
容量を定電流で充電することにより時間の経過と共に上昇または下降する信号を生成する定電流生成回路と、
前記元信号と基準直流信号との差を入力し前記第1及び第2のTGC用制御信号を生成するシングル差動信号変換回路と、
を有することを特徴とする探触子。
【請求項11】
請求項10に記載の探触子であって、
前記シングル差動信号変換回路の利得を可変することにより、前記低雑音増幅回路の利得を可変可能であることを特徴とする探触子。
【請求項12】
請求項10に記載の探触子であって、
前記基準直流信号を可変することにより、前記低雑音増幅回路の利得を可変可能であることを特徴とする探触子。
【請求項13】
請求項1に記載の探触子であって、
容量を定電流で充電することにより前記TGC用制御信号を生成する制御信号生成回路を有することを特徴とする探触子。
【請求項14】
請求項13に記載の探触子であって、
前記制御信号生成回路は、前記容量を放電する機能、および/または電源電圧に固定する機能を備えることを特徴とする探触子。
【請求項15】
請求項1~14の何れか1項に記載の探触子と、
前記探触子の受信信号に基づいて診断に必要な情報を得る信号処理回路と、
を有する超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探触子及びそれを用いる超音波診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置向けの2D(Dimensional)アレイ探触子は、2次元に振動子を配置した2Dアレイ振動子と、2Dアレイ振動子を駆動する2DアレイIC(Integrated Circuit)から構成される。2Dアレイ探触子には、数千から1万素子の振動子アレイに対し、約200本の信号端子から送受信を可能とする2DアレイICが必須である。2DアレイICは、各振動子の駆動タイミングを制御し、超音波ビームの送受信方向を操作する。
【0003】
2Dアレイ振動子の個々の振動子と送受信回路(以下、「素子チャネル回路」或いはECh(Element Channel)回路と記す)は、1対1で接続する。また、ECh回路N個(Nは正の整数)を束ねたサブチャネル(以下、「サブチャネル」或いはSCh(Sub Channel)と記す)と送受信信号入出力ケーブルは、1対1で接続する。「束ねる」の意味は後で説明する。
【0004】
2Dアレイ振動子の個々の振動子から送受信される超音波ビームを任意の生体内診断部位に合焦させるためには、超音波の生体内速度が均一であるとすると、合焦点と2Dアレイ振動子の個々の振動子までの距離に比例した遅延時間をECh回路は付与しなければならない。合焦点に近い振動子ほど大きな遅延を与え、遠い振動子には小さな遅延時間を与える。
【0005】
受信時には1SCh内の全てのECh回路出力信号を加算する。これを整相加算と呼ぶ。この加算信号をケーブルから超音波診断装置に出力する。送信時は超音波診断装置から送信された信号を1SCh内の全てのECh回路に分岐し、各ECh回路で信号に遅延を与え、各振動子から出力する。これが、「束ねる」の意味である。
【0006】
この2Dアレイ探触子から受信された信号を処理し生成した超音波断層像の分解能は振動子1個の寸法に依存し、例えば200~300μm□の寸法が求められる。また、ECh回路の遅延回路が設定できる遅延時間分解能にも依存する。超音波断層像の視野角は、ECh回路の遅延回路が設定できる最大遅延時間に依存する。
【0007】
2Dアレイ探触子は、自ら超音波を送信し、その反射波を受信するというシステムであるため、体表に近い部位の画像取得時に骨などからの反射による強音圧の影響を受ける。2DアレイICの受信系、特に初段低雑音増幅回路(以下、LNA(Low Noise Amplifier)とも記す)を強音圧でも飽和しないようにレベル設計すると、利得が小さく、雑音特性が悪くなるので、深部画像の信号対雑音比SNRが劣化する。このため、2Dアレイ探触子ではない通常の超音波診断装置では、受信開始からの時刻経過に応じて利得を上げていくシステムが用いられており、これをタイムゲインコントロール(以下、「TGC」とも記載する)と呼ぶ。
【0008】
TGC回路実現の背景技術として、特許文献1、特許文献2がある。
特許文献1記載の超音波診断装置は、送信信号が超音波プローブを介して被検体に超音波信号を送信する送信部と、被検体内で反射されて得られた受信信号を処理する受信部を備え、受信部は、送信信号の受信部への回り込みを防止する送受分離のための送受切換えスイッチ部と、受信信号を増幅する増幅部と、送受切換えスイッチ部と増幅部の間に配置され、受信信号を減衰させる減衰部とを備える。減衰部は、送信終了直後から大振幅の信号を受信する近距離からの反射信号を減衰させ、信号振幅の小さい遠距離から信号を減衰させないように、受信時間の経過と共に減衰量を大から小へ変化させる。(要約参照)
特許文献2には、超音波画像の受信回路において、トランスデューサ素子12に接続したプリアンプ14のバイアス電流を変化させることにより、或いは、プリアンプ12の後段に設けた差動出力アンプ22の帰還量を調節することにより、アンプのゲインを可変にすることが、開示されている。(図3,4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-188421号公報
【文献】米国特許第8226563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1記載の超音波診断装置は、増幅部の前段に減衰部を有するが、制御信号の生成は外部回路からの入力となる。ダイオードを用いるので可変減衰器の減衰度のばらつきが大きいという課題がある。
【0011】
特許文献2記載の超音波装置は、プリアンプでTGCを行い、バイアス電流の可変や、MOSFETを抵抗に使用した電流帰還型とすることにより利得可変機能を実現しているが、バイアス電流の可変では利得可変幅は小さく、電流値が小さいときに歪が大きくなる課題がある。また、MOSFETを抵抗に使用した電流帰還型とした場合、利得のプロセス依存性が大きい課題がある。
【0012】
2Dアレイ探触子に搭載するTGC回路は、数千から1万素子の振動子アレイ一つ一つにそれぞれ一つの独立な利得可変機能を有するLNAが必要である。特許文献1、特許文献2に記載の構成では、数千から1万個のLNAに必要な利得可変機能(30dB以上)を持たせながら、各LNAの利得のばらつきを最小にすることは困難である。そのため、2Dアレイ状(マトリクス状)に配置された多数のLNA群に利得制御信号を供給し、各LNAの面積を増加させることなくTGC制御するための構成を実現できない。
【0013】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、2Dアレイ探触子への搭載に適したTGC回路を実現した探触子及びそれを用いる超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための、本発明の「探触子」の一例を挙げるならば、
診断部位に超音波を送信し反射波である受信信号を受信する探触子であって、前記探触子は、複数の振動子と、前記複数の振動子のそれぞれに対応し、制御端子に入力される電気信号により抵抗値を可変可能な可変抵抗帰還部を有する複数の低雑音増幅回路と、制御回路とを備え、前記制御回路は、前記低雑音増幅回路の帰還部のバイアス電圧を生成するダミー回路と、前記ダミー回路によるバイアス電圧と、時間の経過と共に上昇または下降する制御信号との加算信号を出力する加算回路と、を有し、前記複数の低雑音増幅回路は、前記可変抵抗帰還部の制御端子に前記加算回路の出力を入力することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、2Dアレイ探触子への搭載に適したTGC回路を実現した探触子及びそれを用いる超音波診断装置を提供できる。
【0016】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1におけるLNA及びその周辺のブロック構成図である。
図2】実施例2におけるLNA及びその周辺のブロック構成図である。
図3】実施例3におけるLNA及びその周辺のブロック構成図である。
図4】実施例4におけるLNA及びその周辺のブロック構成図である。
図5】実施例5におけるLNA及びその周辺のブロック構成図である。
図6】実施例6におけるTGC制御信号生成回路のブロック構成図である。
図7】実施例7における2DアレイICにLNAを多数実装する場合の第1のブロック構成図である。
図8】実施例7における2DアレイICにLNAを多数実装する場合の第2のブロック構成図である。
図9】実施例8における超音波診断装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例につき、図面を用いて説明する。なお、実施例を説明するための各図において、同一の構成要素には同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【0019】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数または順序を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1におけるLNA及びその周辺のブロック構成図であり、TGC回路を構成する。図1において、符号L11~LMNは低雑音増幅回路LNAを表し、その内のAは増幅回路、VRは可変抵抗である。符号100はTGC制御回路を表し、レプリカ信号132を出力するLNAのダミー回路110、TGC制御信号120が入力し反転信号を出力する信号傾き反転回路121、加算回路150から構成されている。TGC制御回路100は、可変抵抗制御信号200を出力する。
【0021】
M×N個のLNA(L11~LMN)は、すべて同じ回路定数で設計された回路であり、増幅回路Aに可変抵抗VRにより負帰還をかけたものである。同一の半導体ダイの上に実装されるので、それらの特性ばらつきは十分に小さい。LNAの利得は、増幅回路Aの利得が十分に大きいとき、負帰還をかけるために接続したVRの素子値により定まる。各入力端子I11~IMNへ入力された信号を利得分増幅し、それぞれの出力端子O11~OMNから出力する。可変抵抗VRは、矢印端子に入力される電圧により抵抗値を可変する。このとき、矢印端子へは電流の流入や流出はないものとする。矢印端子に入力される電圧を可変し、VRの値を可変すれば、LNAの利得はVRの素子値により定まるので、その利得を可変することができる。VRの抵抗値が小さければLNAの利得は低く、VRの抵抗値が大きければLNAの利得は大きい。
【0022】
TGC制御信号120は、時間の経過と共に上昇する信号である。TGC制御信号120は、後に実施例6で述べるTGC制御信号生成回路で生成される。TGC制御信号生成回路は探触子に内蔵してもよいし、TGC制御信号を探触子の外部からケーブルで供給するようにしてもよい。
【0023】
信号傾き反転回路121は、LNAのVRの矢印端子に入力する電圧が上昇すると抵抗値が上がるのであれば、TGC制御信号120を同一の傾き極性のまま出力する。逆に、VRの矢印端子に入力する電圧が下降すると抵抗値が上がるのであれば、TGC制御信号120とは逆極性である「時間の経過と共に下降する信号」に変換して出力する。
【0024】
LNAのダミー回路110は、増幅回路Aと抵抗Rで構成され、LNAの帰還部に接続される可変抵抗VRのバイアス電圧のレプリカ信号132を出力するものである。レプリカ信号132を得るためにLNAと同様、可変抵抗VRを使用してもよいが、ダミー回路は信号を増幅する機能は不要なので、図1では、矢印端子の不要な通常の抵抗Rを使用し、負帰還をかけた回路としている。ダミー回路110は、複数のLNAと同一の半導体ダイの上に実装される。可変抵抗VRの矢印端子の電圧と可変抵抗VRのバイアス電圧との差により可変抵抗VRの抵抗値が決まる。可変抵抗VRのバイアス電圧をVRB、矢印端子の電圧をVRCとすると、可変抵抗VRの抵抗値RVRは、
RVR∝1/(VRC-VRB)
となる。VRBはLNAを製造した半導体のプロセスばらつきや電源電圧、環境温度などの条件で変動するため、RVRもそれに従って変動することになる。そのため、LNAのダミー回路から可変抵抗VRのバイアス電圧のレプリカ信号132を生成し、これに信号傾き反転回路121の出力を加算した可変抵抗制御信号200を可変抵抗VRの矢印端子に供給する。これにより、前記理由からVRBが変動しても、レプリカ信号132もそれに伴って変動するため、RVRは固定値となる。これにより、TGCで必要となる時間の経過と共に上昇するばらつきの少ない利得特性を持つ動作をLNAに行わせることが可能となる。また、可変抵抗VRの矢印端子へは電流の流入や流出はないため、1本の可変抵抗制御信号200をM×N個のLNA(L11~LMN)の可変抵抗VRの矢印端子に電力を消費せずに供給できるため、すべてのLNAに同じ動作をさせることができる。
【0025】
M×N個のLNAは同一の半導体ダイの上にマトリクス状に実装されるが、その周辺に1つのTGC制御回路を自由度高く配置することができ、回路サイズの増大を抑えることができる。
【0026】
本実施例によれば、数千から1万素子の振動子アレイ一つ一つに、それぞれ一つの独立なばらつきの小さい利得可変機能を有するLNAを実現できる。そして、それらを多数2Dアレイ状に配置した上で、回路サイズと消費電力を抑えながらタイムゲインコントロールすることが可能となり、近傍・深部両診断画像のSNRを向上した2Dアレイ探触子を備えた超音波診断装置を提供することができる。
【実施例2】
【0027】
図2は、実施例2におけるLNA及びその周辺のブロック構成図であり、TGC回路を構成する。図2において、図1と同じ構成要素には、図1と同じ符号を付与し、説明を略す。
【0028】
図2において、符号130はフローティング電圧回路である。ここでは、LNAの可変抵抗VRは矢印端子に入力する電圧が上昇すると抵抗値が下がるものとして説明する。実施例1では、可変抵抗VRの抵抗値RVRは、矢印端子の電圧信号とバイアス電圧との差により決まると説明したが、可変抵抗VRによっては、その半導体製造プロセスに依存したばらつきを持っている。製造プロセスにより変化する変数をVRPとすると、
RVR∝1/(VRC-VRB-VRP)
と表現できる。このような可変抵抗VRを用いた場合、実施例1の手段ではRVRはVRC-VRBに対しては不感であっても、VRPによりRVRが変化してしまうため、LNAの利得誤差が生じる。これを補正するため、TGC制御回路100内にフローティング電圧回路130を設ける。フローティング電圧回路130は可変抵抗VRと同じ素子を用いた可変抵抗VR2を用い、可変抵抗VR2の上下に定電流源I1、I2を設ける。可変抵抗VR2の矢印端子は、「電圧が上昇すると抵抗値が下がる」ので、矢印端子以外の可変抵抗VR2の端子のうち電位の高いほうに接続する。電位の低いほうに接続すると抵抗値が大きくなりすぎて、定電流源I1、I2から電流を流すと可変抵抗VR2の端子間電圧が大きくなりすぎて動作困難である。定電流源I1とI2の電流値は同じとする。このとき加算回路150の出力に可変抵抗VR2の端子間電圧分のレベルシフトを付加した電圧が可変抵抗制御信号200となる。
【0029】
このようにすることで、製造プロセスによりVRPが大きければ、RVRが大きくなるが可変抵抗VR2の端子間電圧も大きくなるのでVRPの影響は補正される。これにより、前記理由からVRBやVRPが変動しても、TGC制御回路100はそれに伴って変動する可変抵抗制御信号200を出力するため、RVRは固定値となり、TGCで必要となる時間の経過と共に上昇するばらつきの少ない利得特性を持つ動作をLNAに行わせることが可能となる。また、VRの矢印端子へは電流の流入や流出はないため、1本の可変抵抗制御信号200をM×N個のLNA(L11~LMN)の可変抵抗VRの矢印端子に電力を消費せずに供給できるため、すべてのLNAに同じ動作をさせることができる。
【0030】
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、可変抵抗VRの半導体製造プロセスに依存したばらつきを補正した超音波診断装置を提供できる。
【実施例3】
【0031】
図3は、実施例3におけるLNA及びその周辺のブロック構成図であり、TGC回路を構成する。図3において、図1~2と同じ構成要素は図1~2と同じ符号を付与し、説明を略すが、簡略化のため、L11のみ図示し、その他は積み上げた破線矩形で示す。
【0032】
図3において、符号VRM、VRM2はNチャネル電界効果トランジスタ、VREFは基準電圧である。LNA(L11~LMN)は、増幅回路Aとして演算増幅器(OPアンプ)を、演算増幅器の出力から反転入力端子へ負帰還をかける可変抵抗VRとしてはNチャネル電界効果トランジスタVRMを用いる。この回路は、電流信号入力で、これをRVR倍した電圧信号を出力する。また、非反転入力端子と反転入力端子は等電位となる。このため、電流信号入力がゼロであれば、VRMには電流が流れず、VRMは基準電圧VREFにバイアスされる。
【0033】
可変抵抗VR2としては、ダイオード接続したNチャネル電界効果トランジスタVRM2を用いる。このLNAの場合、VRMのバイアス電圧は基準電圧VREFそのものであるので、LNAのダミー回路110としては、基準電圧VREFを供給するだけでレプリカ信号132として用いることができる。
【0034】
このLNAの、図1、2の可変抵抗VRの矢印端子に相当する端子はVRMのゲートであり、電流の流入や流出はないため、1本の可変抵抗制御信号200をM×N個のLNA(L11~LMN)へ電力を消費せずに供給できる。このため、すべてのLNAに同じ動作をさせることができる。
【0035】
本実施例によれば、ダミー回路を設けることなく、実施例2の効果を奏することができる。
【実施例4】
【0036】
図4は、実施例4におけるLNA及びその周辺のブロック構成図であり、TGC回路を構成する。図4において、図1~2と同じ構成要素は図1~2と同じ符号を付与し、説明を略すが、簡略化のため、LNA(L11)のみ図示し、その他は積み上げた破線矩形で示す。
【0037】
図4において、Rxxx、RDxxxは抵抗を、Cxxxは容量を、Mxxx、MDxxxはNチャネル電界効果トランジスタを、Ixxx、IDxxxは電流源を表す。ここで、xxxは数字である。
【0038】
LNA(L11~LMN)において、増幅回路Aは差動増幅回路を、可変抵抗VRとしてはNチャネル電界効果トランジスタVRMを用いる。差動増幅回路を構成する2つのNチャネル電界効果トランジスタM111とM112のソース間にNチャネル電界効果トランジスタVRMを接続する。このようにソース間に抵抗素子を接続した差動増幅回路をソースデジェネレーションと呼ぶが、これにより利得を下げ、大きな振幅の入力信号も低歪で増幅できる。LNA(L11~LMN)はソース間の抵抗素子を電界効果トランジスタVRMに置き換えており、そのゲート電圧を変えることにより、利得を変える機能を持たせる。
【0039】
LNAのダミー回路110としては、差動増幅回路そのものを用いてもよいが、図4に示すように、抵抗RD1と、Nチャネル電界効果トランジスタMD1と、電流源ID1とを直列接続した、その半回路を用いてもレプリカ信号132を生成できる。Nチャネル電界効果トランジスタMD1のゲートには、抵抗RD2を介して基準電圧VREFが加えられている。
【0040】
このLNAの、図1、2の可変抵抗VRの矢印端子に相当する端子はNチャネル電界効果トランジスタVRMのゲートであり、電流の流入や流出はないため、1本の可変抵抗制御信号200をM×N個のLNA(L11~LMN)へ電力を消費せずに供給できる。このため、すべてのLNAに同じ動作をさせることができる。
【0041】
本実施例によれば、数千から1万素子の振動子アレイ一つ一つにそれぞれ一つの独立なばらつきの小さい利得可変機能を有するLNAを実現できる。そして、それらを多数2Dアレイ状に配置した上で、回路サイズと消費電力を抑えながらTGC制御することが可能となり、近傍・深部両診断画像のSNRを向上した2Dアレイ探触子を備えた超音波診断装置を提供できる。
【実施例5】
【0042】
図5は、実施例5におけるLNA及びその周辺のブロック構成図であり、TGC回路を構成する。図5において、図1~2と同じ構成要素は図1~2と同じ符号を付与し、説明を略すが、簡略化のため、LNA(L11)のみ図示し、その他は積み上げた破線矩形で示す。
【0043】
図5において、RTxxxは可変抵抗を、RAxxx、RDxxxは抵抗を、VRMN、VRMN2、MNxxx、MNDxxx、MNTxxxはNチャネル電界効果トランジスタを、VRMP、VRMP2、MPxxx、MPDxxx、MPTxxxはPチャネル電界効果トランジスタを、IFxxx、ITxxxは電流源を、VBは基準電圧を、表す。ここで、xxxは数字である。
【0044】
LNA(L11~LMN)において、増幅回路AはNチャネル電界効果トランジスタMNxxxとPチャネル電界効果トランジスタMPxxxを直列接続したCMOSインバータ回路を、可変抵抗VRとしてはPチャネル電界効果トランジスタVRMPとNチャネル電界効果トランジスタVRMNを並列接続して用いる。これは、入力端子Ixxに信号を入力したときに、電源電圧以下の範囲で、出力端子Oxxがおよそ電源電圧×0.5の電位を中心に大きく変動するため電源電圧×0.5の電位より大きい電位でも小さい電位でもなるべく一定の帰還抵抗値を実現するためである。
【0045】
Pチャネル電界効果トランジスタは、ソースに対するゲート電位が大きくなるとドレインソース間抵抗値は大きく、ソースに対するゲート電位が小さくなるとドレインソース間抵抗値は小さくなる。逆に、Nチャネル電界効果トランジスタは、ソースに対するゲート電位が大きくなるとドレインソース間抵抗値は小さく、ソースに対するゲート電位が小さくなるとドレインソース間抵抗値は大きくなる。すなわち、信号傾き反転回路121でTGC制御信号120の傾きを変え、Nチャネル電界効果トランジスタVRMN、Pチャネル電界効果トランジスタVRMPのどちらも時間の経過と共に抵抗値が上昇するようにする。これは、MNTxxx、MPTxxx、ITxxxから成る、信号傾き反転回路121を構成するシングル差動変換回路で実現できる。
【0046】
Nチャネル電界効果トランジスタMNTxxx、Pチャネル電界効果トランジスタMPTxxx、電流源ITxxxから成るシングル差動変換回路において、電流源IT1とIT2は同一電流値、Nチャネル電界効果トランジスタMNT5とMNT6、Nチャネル電界効果トランジスタMNT7とMNT8、Nチャネル電界効果トランジスタMNT1~4とPチャネル電界効果トランジスタMPT1~4は同一サイズである。この回路では、TGC制御信号120が大きくなっていくと、MPT4とMNT4の節点から流出する電流IOUT+と、MPT1とMNT1の節点に流入する電流IOUT-が増えていく。IOUT+とIOUT-は同じ値であり、加算回路150内の抵抗RA1とRA2(RA1と同一値)の直列接続回路に入力される。加算回路150内の抵抗RA1とRA2の接続される節点には、レプリカ信号132が入力される。これは時間の経過と共に上昇するTGC制御信号120により、レプリカ信号132のレベルを中心にMPT4とMNT4の節点電位が上昇し、MPT1とMNT1の節点が下降する動作をする。つまり、抵抗RA1、RA2からなる簡単な回路で時間の経過と共に上昇、または下降する信号とレプリカ信号132との加算動作を実現できる。
【0047】
信号傾き反転回路121の可変抵抗RT1を可変し、時間の経過と共に抵抗値が上昇する速度を変換することができる。また、基準電圧VBを可変すると、TGC制御信号120と実際に抵抗値が上昇するタイミングを変えることもできる。すなわち、シングル差動変換回路の利得を可変することにより、或いは、基準電圧を可変することにより、LNAの利得を可変可能とすることができる。
【0048】
加算回路150の出力にNチャネル電界効果トランジスタVRMN、Pチャネル電界効果トランジスタVRMPに対応するフローティング電圧分のレベルシフトをフローティング電圧回路130で行い、ペアとなる可変抵抗制御信号200をLNA(L11~LMN)のNチャネル電界効果トランジスタVRMN、Pチャネル電界効果トランジスタVRMPのゲート端子に接続する。
【0049】
このLNAの、図1、2の可変抵抗VRの矢印端子に相当する端子はNチャネル電界効果トランジスタVRMN、Pチャネル電界効果トランジスタVRMPのゲートであり、電流の流入や流出はないため、1ペアの可変抵抗制御信号200をM×N個のLNA(L11~LMN)へ電力を消費せずに供給できる。このため、すべてのLNAに同じ動作をさせることができる。
【0050】
本実施例によれば、数千から1万素子の振動子アレイ一つ一つにそれぞれ一つの独立なばらつきの小さい利得可変機能を有するLNAを実現できる。そして、それらを多数2Dアレイ状に配置した上で、回路サイズと消費電力を抑えながらTGC制御することが可能となり、近傍・深部両診断画像のSNRを向上した2Dアレイ探触子を備えた超音波診断装置を提供できる。
【実施例6】
【0051】
図6は、実施例6におけるTGC制御信号120の生成回路を説明するブロック構成図である。図6において、充放電電流生成器300と容量CCHGがスイッチSWAを介して接続され、その接続点からTGC制御信号120が生成される。また、スイッチ(SWAとSWB)と容量接続制御信号302、遅延回路303を備え、TGC制御信号120の配線に容量CCHGを接続したり切り離したりすることができる。
【0052】
Ichgは電流源、Vrefは電源であって、MODECTL信号により、定電流を容量CCHGに流すモードと、TGC制御信号120を電源電位かグランド電位にするモードを有する。また、定電流を容量CCHGに流すモードでは、タイミング信号301により、定電流を容量CCHGに流すタイミングを決定する。また、電流源Ichgは定電流値を可変することができる。
【0053】
定電流を容量CCHGに流すモードにおいては、容量接続制御信号302によりスイッチSWAをオン、スイッチSWBをオフとし、タイミング信号301をTGC開始時刻から立ち上げることにより電流源Ichgが接続され、TGC開始時刻から定電流を容量CCHGに流す。これにより、時間の経過と共に上昇する信号をTGC制御信号120として生成することができる。
【0054】
TGC制御信号120は、充放電電流生成器300を動作させるための電源電圧で飽和し、LNAは最大利得となる。つまり、ここがTGC終了時刻となる。受信が終了し、次のTGC動作を行う場合は、容量CCHGの電荷を放電する。電荷の放電は、容量接続制御信号302により、遅延回路303を用いてスイッチSWAをオフにし、容量CCHGから電流源Ichgを切り離してから、スイッチSWBをオンにし、容量CCHGをグランド電位に接続することによって行う。このようにすることで、放電電流の流れる経路を容量CCHGの近傍のループに限定することができる。
【0055】
パルスドプラなどタイムゲインコントロールTGCを使用しない診断モードである場合、充放電電流生成器300の電流出力はオフとし、TGC制御信号120として電源電位かグランド電位を出力するモードに切替える。
【実施例7】
【0056】
図7は、実施例7において、2DアレイICに実施例1~5で説明したLNAを多数実装する場合の第1のブロック構成図である。図7において、図1図2図6と同様の構成部分には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0057】
図7において、ICは2DアレイIC、探触子は2Dアレイ探触子、TD1~8は振動子、SW1~8は送受切替スイッチ、L1~8はLNA、D1~8は遅延回路、ADD1~2は加算回路、CBUF1~2はバッファ回路であり、さらにケーブルと本体装置を備える。
【0058】
図7において、2Dアレイ探触子では、左側に示す振動子TD1~8のように、振動子がマトリクス状に配置されている。図7では、長軸方向に4個、短軸方向に2個、計8個の配列となっている。振動子TD1~8のそれぞれに対して、2DアレイICに実装された独立の送受信回路が1経路づつ対応する。
【0059】
図7では、図示しない送信回路と、送受切替スイッチSW、LNA、遅延回路Dが独立した送受信回路に対応する。
【0060】
例えば振動子TD1により超音波から電気信号に変換された信号は、図示しない送信回路からの大振幅信号からLNAを保護するための送受切替スイッチSW1(受信時なのでオンとなり低インピーダンスで接続される)を経てLNA(L1)へ入力される。このLNA(L1)により、前記実施例1~5で説明したTGC手段により飽和を回避しながら可能な限りSNRを劣化させずに増幅し、遅延回路D1に入力される。遅延回路D1を通過し、所望の時間遅延され、加算回路ADD1へ入力される。
【0061】
振動子TD2~4により超音波から電気信号に変換された信号も同様にそれぞれのLNA(L2~4)、遅延回路D2~4を通過し、加算回路ADD1へ入力される。加算回路ADD1はこれら信号を加算し、バッファ回路CBUF1で電力増幅され、ケーブルを駆動し、本体装置へ送られる。
【0062】
送信時は、図示しない加算回路ADD1は同じ送信信号を遅延回路D1~D4へ分岐する。分岐された信号は遅延回路D1~D4で所望の時間遅延され、図示しない送信回路を経てそれぞれに接続される振動子TD1~4を駆動する。送信時は、送信回路からの大振幅信号からLNA(L)を保護するための送受切替スイッチSWはオフとなり、高インピーダンスでLNA(L)と接続する。高耐圧トランジスタを用いて構成される送信回路と振動子の間には特にスイッチは設けない。振動子TD5~8による電気信号も同様に処理される。
【0063】
遅延回路D1~D8に設定される遅延時間は、例えば、ある目標となる合焦点から、振動子群の中心までの距離を計算し、最も短い距離に配置される送受信回路が最も遅い時刻に送受信するように設定する。すなわち2DアレイICを用いて擬似的なレンズ動作を行う。
【0064】
TGC制御信号120はタイムゲインコントロールTGCを開始したい時刻から徐々に上昇する信号である。TGC制御信号120はTGC制御回路100により可変抵抗制御信号200となり、LNA(L)内の増幅回路Aの帰還部に接続される可変抵抗VRの矢印端子へ入力されるが、8経路の送受信回路で共用する。つまり、8個のLNAを1本の配線でTGC制御することが可能となる。
【0065】
図8に、実施例7の第2のブロック構成図を示す。図8において、BUF1~2はバッファ回路であり、TGC制御信号120はTGC制御回路100により可変抵抗制御信号200となり、LNA(L)内の増幅回路Aの帰還部に接続される可変抵抗VRの矢印端子へ入力されるが、バッファ回路BUF1によりLNA(L1、2、5、6)へ、BUF2によりLNA(L3、4、7、8)へバッファリングされて接続される。これにより長距離布線の影響を軽減する役割を持つ。
【0066】
図8では、左側の振動子配列の長軸方向に布線する配線を4経路の送受信回路で共用する。図8では8個の振動子であるが、例えば長軸方向に64個、短軸方向に32個、合計2048個のLNAをTGC制御する場合は、図8に倣い、32個のBUFを並べることにより、長軸方向64個の差動電圧のみを共用するだけで2048個のLNAを1つの制御可変抵抗制御信号200によりTGC制御することが可能となる。
【0067】
バッファ回路BUF1~2は、図5の例でいえば、信号傾き反転回路121内のMNT1~4とMPT1~4をカレントミラー回路で並列化し、その電流出力を別途個別に設けたLNAのダミー回路110、加算回路150、フローティング電圧回路130に入力することにより容易に実現できる。
【実施例8】
【0068】
図9は、実施例8における超音波診断装置の構成図である。図9において、U10,U11は2Dアレイ探触子、U20,U21はケーブル、U30,U31はコネクタボックス、U40はプローブセレクタ、U41はプローブ切替スイッチ、U120,U121は増幅器、U51はデジタルアナログ変換器、U320は送受切替スイッチ、U54はアナログデジタル変換器、U60は信号処理回路、U70は操作パネル、U80はディスプレイ、U90は本体装置、U1100,U1101は2DアレイIC、U200,U201は整合層、U210,U211は音響レンズ、U1000,U1001はキャスターである。
【0069】
これまでに説明したTGC回路を搭載する2DアレイICは、U1100,U1101に対応している。本体装置U90には2つのコネクタボックスU30,U31があり、ケーブルU20,U21を介して2つの2Dアレイ探触子U10,U11が接続されるが、2本に限定されることはない。また、コネクタボックスU30,U31には従来の1Dアレイ探触子等も接続可能である。また、ドプラ専用などの特殊な探触子を接続するためのコネクタボックス接続端子を設けた装置もある。本体装置U90はキャスターU1000,U1001により床面上を自在に移動可能である。
【0070】
回路的にはプローブセレクタU40、プローブ切替スイッチU41で2Dアレイ探触子U10と2Dアレイ探触子U11を切り替えて使用する。
【0071】
2Dアレイ探触子U10,U11の内部には2DアレイIC(U1100,U1101)がそれぞれ内蔵される。2DアレイIC(U1100)の外部端子接続部が実装される面には図示しない2Dアレイ振動子が接続されている。先に説明したように2Dアレイ探触子には、数千から1万素子の振動子がアレイ状に実装されたものである。2Dアレイ振動子には効率よく超音波の送受信が可能なように2Dアレイ振動子と生体の音響インピーダンスを整合する整合層U200、超音波ビームを収束させる音響レンズU210が実装される。2DアレイIC(U1101)にも同様に2Dアレイ振動子、整合層U201、音響レンズU211が実装される。
【0072】
増幅器U121は送信信号の増幅を、送受切替スイッチU320は送信信号の受信系への回り込みを防ぐ役割を、増幅器U120は受信信号の増幅を行う。信号処理回路U60は論理回路であり、増幅器U120の信号をアナログデジタル変換器U54を介してデジタル信号として入力し、信号処理を行う。また、信号処理を行った信号をデジタルアナログ変換器U51を介して増幅器U121へ入力し、2Dアレイ探触子U10,U11へプローブセレクタU40、コネクタボックスU30,U31、ケーブルU20,U21を経て信号を送信する。
【0073】
患者の体内のどの部位を見るかなど本体装置U90の様々な操作は操作パネルU70から行う。また、本体装置U90は様々な診断モードを備えており、診断モードの切替も操作パネルU70から行う。診断モードにはB(Brightness)、PW(Pulsed Wave Doppler)、DFM(Color Flow Mapping)、STCW(Steerable CW Doppler)モードなどがある。Bモードは組織から反射された超音波の受信振幅強度を明るさに対応付けて表示するモード、PWモードは、超音波をある深さに向けて繰り返し送信し、この部位から反射した信号の繰り返し送信毎の周波数偏移を測定することにより、血流速を求めるモード、CFMはカラードプラとも呼ばれ、超音波送信毎の受信信号の自己相関を求めることにより血流速を可視化するモードである。STCWモードも血流速を測定するモードであるが、これは速い血流速測定に適している。PWモードでは特定の位置の血流速がわかり、Bモード画像に重ねて表示できる。CFMモードでは超音波の受信ビーム上の多数のポイントにおける位置の平均速度がわかり、逆流などの発見に用いられる。
【0074】
信号処理回路U60は、アナログデジタル変換器U54からの信号を処理し、上記様々なモードの診断画像を得る。この画像はディスプレイU80に表示する。
【0075】
本実施例におけるTGC回路は2DアレイICに限らず、1Dなど通常の超音波探触子による超音波信号の受信に用いることが可能である。また、探触子ではなく装置側へ実装しても同等のTGC機能を実現できる。
【0076】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0077】
L11~LMN…低雑音増幅回路LNA
A…増幅回路
VR,VR2…可変抵抗
R…抵抗
100…TGC制御回路
110…LNAのダミー回路
120…TGC制御信号
121…信号傾き反転回路
132…レプリカ信号
150…加算回路
200…可変抵抗制御信号
130…フローティング電圧回路
VRM,VRM2…Nチャネル電界効果トランジスタ
VREF…基準電圧
300…充放電電流生成器
CCHG…容量
SWA,SWB…スイッチ
302…容量接続制御信号
303…遅延回路
301…タイミング信号
TD1~8…振動子
SW1~8…送受切替スイッチ
L1~8…LNA
D1~8…遅延回路
ADD1~2…加算回路
CBUF1~2…バッファ回路
BUF1~2…バッファ回路
U10,U11…2Dアレイ探触子
U20,U21…ケーブル
U30,U31…コネクタボックス
U40…プローブセレクタ
U41…プローブ切替スイッチ
U120,U121…増幅器
U51…デジタルアナログ変換器
U320…送受切替スイッチ
U54…アナログデジタル変換器
U60…信号処理回路
U70…操作パネル
U80…ディスプレイ
U90…本体装置
U1100,U1101…2DアレイIC
U200,U201…整合層
U210,U211…音響レンズ
U1000,U1001…キャスター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9