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特許7479210フェライト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法および自動車排気系部品
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  • 特許-フェライト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法および自動車排気系部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法および自動車排気系部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240426BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20240426BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240426BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240426BHJP
   F01N 13/08 20100101ALI20240426BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C22C38/60
C21D9/46 R
F01N13/08 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020100643
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021195575
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】林 篤剛
(72)【発明者】
【氏名】安部 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】神野 憲博
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-049606(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073094(WO,A1)
【文献】特開平06-049603(JP,A)
【文献】特開2017-172027(JP,A)
【文献】特開2020-066794(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0015078(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
F01N 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.020%以下、
N:0.020%以下、
Si:0.05%以上、1.60%以下、
Mn:0.01%以上、1.10%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0022%以下、
Cr:10.0%以上、15.0%以下、
Ni:0.01%以上、0.70%以下、
Cu:0.001%以上、0.80%以下、
Mo:0.01%以上、2.00%以下、
Ti:0.040%以下、
Nb:0.03%超、0.70%以下、
Al:0.70%超、3.00%以下、
V:0.01%以上、0.20%以下、
B:0.0001%以上、0.0050%以下、および
O:0.0050%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、下記式(i)~(iii)を満たすことを特徴とする、フェライト系ステンレス鋼板。
Al+1.7Si+0.8Mo+0.3DA-0.5≦6.0 ・・・式(i)
2.6Al+4.3Si+1.5Mo≧5.95 ・・・式(ii)
Al/O≧200 ・・・式(iii)
但し、式中の元素記号は、当該元素の含有量(質量%)、DAは板厚中心部における平均結晶粒径(mm)を意味する。
【請求項2】
更に、下記式(iv)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
900DA-1000DB≧-2.3 ・・・式(iv)
但し、式中のDAは板厚中心部における平均結晶粒径(mm)、DBは板表面における平均結晶粒径(mm)を意味する。
【請求項3】
質量%にて、Feの一部に代えて、
W:0.01%以上、0.50%以下、
Y:0.001%以上、0.20%以下、
REM:0.001%以上、0.20%以下、
Ca:0.0001%以上、0.0030%以下、
Zr:0.01%以上、0.30%以下、
Hf:0.001%以上、1.0%以下、
Sn:0.001%以上、1.0%以下、
Mg:0.0001%以上、0.0030%以下、
Co:0.01%以上、0.50%以下、
Sb:0.001%以上、0.50%以下、
Bi:0.001%以上、1.0%以下、
Ta:0.001%以上、1.0%以下、および
Ga:0.0001%以上、0.30%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
強制冷却部材により塩分付着が促進されている自動車排気系部材に使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
自動車排気系部材の周囲を断熱材で覆う断熱部材が適用されることにより塩分付着が促進されている自動車排気系部材に使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、最終焼鈍の昇温過程における鋼板の温度が750℃以上830℃未満に維持される時間が20秒以上である、または、最終焼鈍における雰囲気ガスの流速が0.08m/s以上であることを特徴とする、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板を用いた自動車排気系部材と、前記自動車排気系部材を強制冷却する強制冷却部材と、を備えた自動車排気系部品。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板を用いた自動車排気系部材と、前記自動車排気系部材の周囲を断熱材で覆う断熱部材と、を備えた自動車排気系部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法および自動車排気系部品に関するものである。本発明は、特に、高温強度や耐酸化性が必要な自動車排気系部材に使用することに最適な耐熱性ステンレス鋼において、特に加工性および耐高温塩害性に優れた塩分付着が促進される構造の自動車排気系用フェライト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法および自動車排気系部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気マニホールド、フロントパイプおよびセンターパイプなどの排気系部材は、エンジンから排出される高温の排気ガスを通すため、排気系部材を構成する材料には耐酸化性、高温強度、熱疲労特性など多様な特性が要求される。
【0003】
従来、自動車排気系部材には鋳鉄が使用されるのが一般的であったが、排ガス規制の強化、エンジン性能の向上、車体軽量化などの観点から、ステンレス鋼製の排気マニホールドが使用されるようになった。排気ガス温度は、車種によって異なり、近年では750~850℃程度が多いが、更に高温に達する場合もある。このような温度域で長時間使用される環境において高い高温強度、耐酸化性を有する材料が要望されている。
【0004】
ステンレス鋼の中でオーステナイト系ステンレス鋼は、耐熱性や加工性に優れているが、熱膨張係数が大きいために、これを排気マニホールドのように加熱・冷却を繰り返し受ける部材に適用した場合、熱疲労破壊が生じやすい。
【0005】
フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて熱膨張係数が小さいため、熱疲労特性に優れている。また、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、高価なNiをほとんど含有しないため材料コストも安く、汎用的に使用されている。但し、フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、高温強度が低いために、高温強度を向上させる技術が開発されてきた。さらに、耐酸化性、成形性、製造性、更なる低コスト化の観点からも様々な技術の開発がされてきた。
【0006】
開発されたフェライト系ステンレス鋼には、例えば、SUS430J1L(Nb含有鋼)、Nb-Si含有鋼、SUS444(Nb-Mo含有鋼)がある。これらは、Nbの含有、更に、Nb含有を基本に、Si、Moの含有によって高温強度を向上させるものであった。これに対し、特許文献1のようにAlの含有によって高温強度および耐酸化性を向上させる技術も開発された。
【0007】
一方、車体下部に位置するセンターパイプ等の部材は、排気系部材の中でも通過する排気ガス温度はやや低い部材であるが、路面凍結防止のため散布される融雪塩や海水に由来される塩分が付着し易く高温塩害が懸念される。高温塩害とは高温酸化環境において塩分が付着することで高温腐食が促進される現象である。これらの車体下部に位置する部品においては耐高温塩害性を重視した技術が開発されてきた。
【0008】
例えば、特許文献2には、Al、Mo、Wを含有し耐高温酸化性および耐高温塩害性を改善する技術が開示されている。また、特許文献3には、N、V、Alの含有量を調整し耐高温塩害腐食性を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-168457号公報
【文献】特開2004-18916号公報
【文献】特開2010-53421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、近年では排気系の設置部材の変化や新たな部品が付属されることで、排気マニホールドやフロントパイプのような排気系の中でも高温に位置する部材においても塩分が付着する場合が生じている。具体例を2つ挙げる。1つ目は、排ガスの高温化に対して、ファン設置や通気性の改善により排気系を強制空冷する場合である。一例を図1(A)に示す。図1は、自動車排気系部品の一例を模式的に示す図であり、(A)は強制冷却部材を備えた自動車排気系部品の模式図、(B)は断熱部材を備えた自動車排気系部品の模式図である。この自動車排気系部材1を強制空冷する強制冷却部材3は、自動車排気系部材1への塩分付着を促進する要因となる。強制冷却部材3は、主に近年普及が加速しているターボ搭載車において適用される場合がある。2つ目は、コンバーター等の排ガス浄化部品およびその前に排気ガスが通過する排気系の周囲を断熱材で覆う断熱部材を設け、排ガス温度を上げることで触媒反応を促進する場合である。一例を図1(B)に示す。自動車排気系部材1を被覆する断熱材7は、ウール状セラミックス等が使用され、保水しやすい。そのため、断熱材7で自動車排気系部材1を覆うことは、塩分も保持しやくなり、自動車排気系部材1への塩分付着を促進する。断熱材7の適用は、主に今後の普及が期待されるHCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition;予混合圧縮自動着火)で燃焼するエンジンの排気系に適用される場合がある。
【0011】
さらに、これらの強制冷却部材または断熱部材を使用することによって、通常の部材が曝される環境より湿度の高い環境となる。強制冷却部材により部品に水分を巻き上げる環境では、常に水分を排気系に吹き付けることとなる。断熱部材を使用する場合は、断熱材をカバーで覆うために、排気系とカバーとの間が水蒸気が籠る環境となる。そのため、高温塩害環境は、塩分付着とともに酸化環境に水蒸気酸化が伴う環境であり、従来とは異なる環境となる。
【0012】
つまり、強制冷却部材または断熱部材を適用する場合、排気マニホールドやフロントパイプ等の上流の部材には、耐高温塩害性を必要とするようになるだけでなく、従来とは異なる水蒸気酸化を伴う環境の耐高温塩害性が新たに必要となった。すなわち、強制冷却部材や断熱部材が適用される自動車排気系部材は、従来の自動車排気系部材とは異なる新たな用途として開発が必要となった。
【0013】
本発明者らは、水蒸気酸化を伴う高温塩害環境における耐高温塩害性には、フェライト系ステンレス鋼にAlを形成させることが重要であることを知見した。ステンレス鋼は、高温環境下において酸化速度の小さいCrまたはAlを形成し、酸化速度の大きいFeの酸化を抑制することで高温腐食に対する保護性を得る。AlはCrより酸化速度が小さく保護性に優れる。水蒸気酸化を伴う環境において、Crはボイドや欠陥が増えるなどのくつかの機構により保護性が低下するが、Alは、AlとOの結合力が強くボイドや欠陥が形成し難い。また、高温塩害環境下において、Crは塩分と反応し保護性が低下するが、Alは比較的影響が小さい。また、Alを形成する場合は、その保護性が低下した後もCrを形成する余地がある。その結果、Alの形成によりフェライト系ステンレス鋼の耐高温塩害性が向上する。
【0014】
フェライト系ステンレス鋼がAlを含有する場合、800℃以上ではAlを形成し易く、800℃未満ではAlが形成し難い。そのためAl含有型のフェライト系ステンレス鋼は、特に800℃未満における耐高温塩害性を考慮する必要がある。800℃未満においてAlが形成し難い理由は、母材内部から表面へのAlの拡散が低温ほどし難くなるためである。そのため、耐高温塩害性を向上するためには、素材成分バランスに加え、母材の拡散に影響する結晶粒径も制御することが重要である。この結晶粒径に関しては、特に母材表層部の結晶粒径の影響が大きいと考えられる。
【0015】
また、自動車排気系部品は、複雑な形状が多く、加工性も要求される。フェライト系ステンレス鋼がAlを含有する場合、常温(10~35℃)の0.2%耐力は上昇し、加工性が損なわれる。0.2%耐力には素材成分バランスに加え、結晶粒径も影響し、これらの制御が重要と考えられる。この結晶粒径に関しては、特に母材板厚中心部の結晶粒径の影響が大きいと考えられる。
【0016】
特許文献1はAl含有型のフェライト系ステンレス鋼であるが、耐高温塩害性、常温の0.2%耐力ともに詳細な検討は開示されていない。また、結晶粒径については母材表層部、板厚中心部ともに考慮されていない。
【0017】
特許文献2には、Al、Mo、Wを含有し耐高温酸化性および耐高温塩害性を改善する技術が開示されている。しかし、特許文献2に開示された技術における耐高温塩害性には、水蒸気酸化も伴う環境は考慮されておらず、母材表層部の結晶粒径も考慮されていない。また、常温の0.2%耐力については詳細な検討は開示されておらず、板厚中心部の結晶粒径については考慮されていない。特許文献2に開示されたフェライト系ステンレス鋼は、Al、Mo、Wを多量に含み、特にW含有量は、質量%で2.0%超、5%以下であり、W含有量が極度に高く、常温の0.2%耐力が過剰に高く加工性を損なう可能性がある。
【0018】
特許文献3には、N、V、Alの含有量を調整し耐高温塩害腐食性を改善する技術が開示されている。しかし、特許文献3に開示された技術における耐高温塩害性には、水蒸気酸化も伴う環境は考慮されておらず、母材表層部の結晶粒径も考慮されていない。また、常温の0.2%耐力については詳細な検討は開示されておらず、板厚中心部の結晶粒径については考慮されていない。また、Al含有量に関しては、質量%で0.4%未満までの範囲でしか評価を行っておらず、上限は0.30%としている。また、特許文献3に係るフェライト系ステンレス鋼は、V濃度が質量%で0.30~0.60%であり、通常のフェライト系ステンレス鋼より極度に高く、製造性などを損なう可能性がある。
【0019】
上記のように自動車排気系に強制冷却部材または断熱部材を適用する場合、排気マニホールドやフロントパイプ等の上流の部材においても新たに耐高温塩害性を付与することが必要となるだけでなく、従来とは異なる水蒸気酸化を伴う環境の耐高温塩害性が必要となった。Al含有型のフェライト系ステンレス鋼においては耐高温塩害性が課題であり、このような環境における高温塩害は検討されていなかった。また、従来の高温塩害環境においても改善技術としてはW、V等を極度に多く含有する必要があった。また、Al含有により常温の0.2%耐力が上昇し加工性が低下することに対する検討が不十分であった。
【0020】
即ち、本発明の目的は、水蒸気酸化を伴う高温環境下における耐高温塩害性および加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法および自動車排気系部品を提供することにある。特に、Al含有型のフェライト系ステンレス鋼において、加工性および耐高温塩害性に優れた塩分付着が促進される構造の自動車排気系用フェライト系ステンレス鋼板および自動車排気系部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明者らは、フェライト系ステンレス鋼の耐高温塩害性および加工性に及ぼす各種成分、母材表層および板厚中心部の結晶粒径の影響を鋭意検討した。その結果、耐高温塩害性および加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を発明するに至った。なお、高温塩害は水蒸気酸化を伴う環境にも対応する。
【0022】
すなわち、上記課題を解決することを目的とした本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)質量%で、
C:0.020%以下、
N:0.020%以下、
Si:0.05%以上、1.60%以下、
Mn:0.01%以上、1.10%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0022%以下、
Cr:10.0%以上、15.0%以下、
Ni:0.01%以上、0.70%以下、
Cu:0.001%以上、0.80%以下、
Mo:0.01%以上、2.00%以下、
Ti:0.040%以下、
Nb:0.03%超、0.70%以下、
Al:0.70%超、3.00%以下、
V:0.01%以上、0.20%以下、
B:0.0001%以上、0.0050%以下、および
O:0.0050%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、下記式(i)~(iii)を満たすことを特徴とする、フェライト系ステンレス鋼板。
Al+1.7Si+0.8Mo+0.3DA-0.5≦6.0 ・・・式(i)
2.6Al+4.3Si+1.5Mo≧5.95 ・・・式(ii)
Al/O≧200 ・・・式(iii)
但し、式中の元素記号は、当該元素の含有量(質量%)、DAは板厚中心部における平均結晶粒径(mm)を意味する。
(2)更に、下記式(iv)を満たすことを特徴とする、(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
900DA-1000DB≧-2.3 ・・・式(iv)
但し、式中のDAは板厚中心部における平均結晶粒径(mm)、DBは板表面における平均結晶粒径(mm)を意味する。
(3)質量%にて、Feの一部に代えて、
W:0.01%以上、0.50%以下、
Y:0.001%以上、0.20%以下、
REM:0.001%以上、0.20%以下、
Ca:0.0001%以上、0.0030%以下、
Zr:0.01%以上、0.30%以下、
Hf:0.001%以上、1.0%以下、
Sn:0.001%以上、1.0%以下、
Mg:0.0001%以上、0.0030%以下、
Co:0.01%以上、0.50%以下、
Sb:0.001%以上、0.50%以下、
Bi:0.001%以上、1.0%以下、
Ta:0.001%以上、1.0%以下、および
Ga:0.0001%以上、0.30%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(4)強制冷却部材により塩分付着が促進される自動車排気系部材に使用される、(1)~(3)のいずれかひとつに記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(5)自動車排気系部材の周囲を断熱材で覆う断熱部材が適用されることにより塩分付着が促進される自動車排気系部材に使用される、(1)~(3)のいずれかひとつに記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(6)(1)~(5)のいずれかひとつに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、最終焼鈍の昇温過程の750℃以上、830℃未満の範囲における保持時間が20秒以上である、または、前記最終焼鈍における雰囲気ガスの流速が0.08m/s以上であることを特徴とする、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0023】
(7)(1)~(3)のいずれかひとつに記載のフェライト系ステンレス鋼板を用いた自動車排気系部材と、前記自動車排気系部材を強制冷却する強制冷却部材と、を備えた自動車排気系部品。
(8)(1)~(3)のいずれかひとつに記載のフェライト系ステンレス鋼板を用いた自動車排気系部材と、前記自動車排気系部材の周囲を断熱材で覆う断熱部材と、を備えた自動車排気系部品。
【0024】
また、上記本発明で、下限の規定をしないものについては、不可避的不純物レベルまで含むことを示す。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、水蒸気酸化を伴う高温環境下における耐高温塩害性および加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法および自動車排気系部品を提供することができる。特に、強制冷却部材や断熱部材が適用され塩分付着が促進される自動車排気系部材として使用される加工性および耐高温塩害性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】自動車排気系部品の一例を模式的に示す図であり、(A)は強制冷却部材を備えた自動車排気系部品の模式図、(B)は断熱部材を備えた自動車排気系部品の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
まず、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の鋼組成の限定理由について説明する。ここで、鋼組成についての「%」は質量%を意味する。
【0029】
(C:0.020%以下)
Cは、成形性と耐食性を劣化させ、高温強度の低下をもたらす元素であるため、C含有量は0.020%以下とする。また、過度なCの含有は、耐酸化性や耐粒界腐食性を低下させる。過度なCの含有による耐酸化性や耐粒界腐食性の低下を考慮すると、C含有量は0.015%以下とすることが好ましい。また、Cを低減することで耐高温塩害性が更に向上するため、上限を0.010%以下とすることがより好ましい。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、C含有量は0.0010%超とすることが好ましい。C含有量は、より好ましくは、0.0020%以上である。
【0030】
(N:0.020%以下)
Nは、Cと同様、成形性と耐食性を劣化させ、高温強度の低下をもたらす元素であるため、N含有量は0.020%以下とする。また、過度なNの含有は、耐酸化性や耐粒界腐食性を低下させる。過度なNの含有による耐酸化性や耐粒界腐食性の低下を考慮すると、N含有量は0.015%以下とすることが好ましい。N含有量は、より好ましくは、0.013%以下である。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、N含有量は0.0030%超とすることが好ましい。N含有量は、より好ましくは、0.0040%以上である。
【0031】
(Si:0.05%以上、1.60%以下)
Siは、脱酸剤として含有される元素であるとともに、耐高温塩害性を改善する元素でもある。Siは、高温でSi酸化物を形成し耐高温塩害性の向上に寄与するとともに、Si酸化物の形成がAlの形成を促進することでも耐高温塩害性を向上する。耐高温塩害性を発現するためには0.05%以上のSiの含有を必要とする。耐高温塩害性を更に向上するためには、Si含有量は0.30%以上とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは、0.50%以上である。しかし、過度なSiの含有は、常温の0.2%耐力を上昇させ加工性の低下を招くため、Si含有量は1.60%以下とする。加工性を更に向上するためには、Si含有量は1.20%以下とすることが好ましい。また、製造性を考慮すると、Si含有量は0.80%以下がより好ましい。
【0032】
(Mn:0.01%以上、1.10%以下)
Mnは、脱酸剤として含有される元素であり、Mn含有量は、0.01%以上とする。精錬コストを考慮すると、Mn含有量は0.10%以上がより好ましい。Mn含有量は、さらに好ましくは、0.15%以上である。しかし、過度なMnの含有は、Alの形成を遅延させ、耐高温塩害性の低下を招くため、Mn含有量は、1.10%以下とする。耐高温塩害性を更に向上するためには、Mn含有量を0.50%以下とすることが好ましい。また、均一伸び、熱間加工性や耐食性を考慮すると、Mn含有量は0.40%以下がより好ましい。Mn含有量は、さらに好ましくは、0.40%未満である。
【0033】
(P:0.040%以下)
Pは、製鋼精錬時に主として原料から混入する不純物であり、その含有量が高くなると、靭性や溶接性が低下するため、その含有量は少ないほど良い。そのため、P含有量は0.040%以下とする。また、製造性を考慮すると、P含有量は0.035%以下とすることが好ましい。また、Pを低減することで常温の0.2%耐力を更に低下させ加工性が向上するため、P含有量は0.030%以下とすることがより好ましい。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、P含有量は0.005%以上とすることが好ましい。P含有量は、より好ましくは、0.010%以上である。
【0034】
(S:0.0022%以下)
Sは、製鋼精錬時に主として原料から混入する不純物であり、耐食性を劣化させる。また、Sは、耐スケール剥離性を低下させることによって耐高温塩害性も低下させる。したがって、S含有量は、0.0022%以下とする。また、製造性を考慮すると、S含有量は0.0020%以下とすることが好ましい。耐高温塩害性を更に向上するためには、S含有量を0.0014%以下とすることがより好ましい。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、S含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。S含有量は、より好ましくは、0.0003%以上である。
【0035】
(Cr:10.0%以上、15.0%以下)
Crは、耐食性を向上する元素であるとともに、耐高温塩害性を改善する元素でもある。また、CrはAlの形成を促進する。そのため、Cr含有量は、10.0%以上とする。Cr含有量は、好ましくは、10.5%以上であり、より好ましくは、10.7%以上である。しかし、過度なCrの含有は、常温の0.2%耐力を上昇させ加工性の低下を招くため、Cr含有量は15.0%以下とする。靭性や原料コストを考慮すると、Cr含有量は14.0%未満とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは、12.0%未満である。
【0036】
(Ni:0.01%以上、0.70%以下)
Niは、耐食性を向上させる元素であり、Ni含有量は0.01%以上とする。Ni含有量は、好ましくは0.02%以上であり、より好ましくは、0.05%以上である。しかし、過度なNiの含有は成形性の低下を招くため、Ni含有量は0.70%以下とする。また、Niを低減することで常温の0.2%耐力を更に低下させ加工性が向上するため、Ni含有量は0.50%以下とすることが好ましい。原料コストを考慮すると、Ni含有量は0.40%以下がより好ましい。
【0037】
(Cu:0.001%以上、0.80%以下)
Cuは、耐食性を向上させる元素であり、Cu含有量は0.001%以上とする。耐酸化性、原料コスト、製造性を考慮すると、Cu含有量は、好ましくは0.005%以上である。Cu含有量は、より好ましくは、0.005%以上である。しかし、過度なCuの含有は熱間加工性の低下を招くため、Cu含有量は0.80%以下とする。また、Cuを低減することで常温の0.2%耐力を更に低下させ加工性が向上するため、Cu含有量は0.30%以下とすることが好ましい。耐酸化性、原料コスト、製造性を考慮すると、Cu含有量は、より好ましくは0.20%以下である。
【0038】
(Mo:0.01%以上、2.00%以下)
Moは、高温強度、耐食性を改善する元素であるとともに、耐高温塩害性を改善する元素でもある。また、Moは、Alの保護性を高める。そのため、Mo含有量は0.01%以上とする。耐高温塩害性を更に向上するためには、Mo含有量は0.15%超とすることが好ましい。しかし、過度なMoの含有は常温の0.2%耐力を上昇させ加工性の低下を招くため、Mo含有量は2.00%以下とする。加工性を更に向上するためにはMo含有量は1.00%未満とすることが好ましい。また、製造性を考慮すると、Mo含有量は0.80%未満とすることがより好ましい。合金コストを考慮するとMo含有量はを0.25%未満とすることが更により好ましい。
【0039】
(Ti:0.040%以下)
Tiは、C、N、Sと結合して耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を向上させる元素である。しかし、過度なTiの含有は熱延板靭性の低下を招くため、Ti含有量は0.040%以下とする。また、表面疵の発生や製造性を考慮すると、Ti含有量は0.020%以下とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは、0.010%以下である。但し、過度なTiの低減は精錬コストの増加に繋がるため、Ti含有量は0.001%以上とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは、0.003%以上である。
【0040】
(Nb:0.03%超、0.70%以下)
Nbは、高温強度の向上および耐高温塩害性の改善に寄与する元素であり、Nb含有量は0.03%超とする。また、溶接部の粒界腐食性を考慮すると、Nb含有量は0.20%以上とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.25%以上である。しかし、Nbは、高価な元素であるため、含有したとしても0.70%以下とする。また、均一伸び、穴拡げ性、製造性を考慮すると、Nb含有量は0.50%以下が好ましい。Nb含有量は、より好ましくは、0.35%未満である。
【0041】
(Al:0.70%超、3.00%以下)
Alは、脱酸元素として含有されるとともに、高温強度、耐酸化性、耐高温塩害性を改善する元素であり、Al含有量は0.70%超とする。耐高温塩害性を更に向上するためには、Al含有量を1.05%超とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは1.55%超である。しかし、過度なAlの含有は常温の0.2%耐力を上昇させ加工性の低下を招くため、Al含有量は3.00%以下とする。加工性を更に向上するためには、Al含有量を2.50%以下とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは、2.30%以下である。
【0042】
(V:0.01%以上、0.20%以下)
Vは、高温強度を向上させる元素である。そのため、V含有量は0.01%以上とする。V含有量は、好ましくは、0.02%以上であり、より好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なVの含有は析出物の粗大化による高温強度の低下や熱疲労寿命の低下を招く。したがって、V含有量は0.20%以下とする。また、製造性を考慮すると、V含有量は0.15%未満とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは、0.10%以下である。
【0043】
(B:0.0001%以上、0.0050%以下)
Bは、高温強度や熱疲労特性を向上させる元素である。そのため、B含有量は0.0001%以上とする、B含有量は、好ましくは、0.0002%以上であり、より好ましくは、0.0003%以上である。しかし、過度なBの含有は熱間加工性の低下や鋼表面の表面性状の低下を招く。したがって、B含有量は0.0050%以下とする。また、製造性や成型性を考慮すると、B含有量はは0.0030%以下とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは、0.0015%以下である。
【0044】
(O:0.0050%以下)
Oは、不可避的に含まれる不純物であり、気泡や介在物による表面疵の原因となる。したがって、O含有量は、0.0050%以下とする。また、製造性を考慮すると、O含有量は0.0040%以下とすることが好ましい。O含有量は、より好ましくは、0.0035%以下である。但し、過度なOの低減は精錬コストの増加に繋がるため、O含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。O含有量は、より好ましくは、0.0005%以上である。ここで、O含有量は、鋼に固溶している酸素および鋼中に介在する酸化物の酸素を含む合計の含有量を意味する。
【0045】
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板では、上述した元素以外の残部は、Feおよび不純物である。しかしながら、上述した各元素以外の他の元素も、本実施形態の効果を損なわない範囲で含有させることができる。なお、ここで言う不純物とは、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0046】
次に、式(i)~(iv)について説明する。
【0047】
本発明者らは常温の0.2%耐力に及ぼす各種影響を検討する中で、Al、Si、Moに加え、母材板厚中心部の結晶粒径の影響が大きく、これらのバランスが重要であることを見出し、式(i)を得た。
Al+1.7Si+0.8Mo+0.3DA-0.5≦6.0 ・・・式(i)
但し、式中の元素記号は、当該元素の含有量(質量%)、DAは板厚中心部における平均結晶粒径(mm)を意味する。ここで、板厚中心部とは、板厚をtとしたときに2t/5から4t/5までの範囲をいう。
式(i)の左辺の値が6.0超であると、常温の0.2%耐力を上昇させ加工性の低下を招く。よって、Al含有量、Si含有量、Mo含有量およびDAが式(i)を満たす必要がある。Al、Si、Moの含有量が大きく、DAが小さいとコストの増加や製造性の低下を招く場合があるため、式(i)の左辺の値は5.8以下が好ましい。また、Al、Si、Moの含有量が小さく、DAが大きいと高温強度や耐酸化性の低下を招く場合があるため、式(i)の左辺の値は3.5以上が好ましい。
【0048】
また、耐高温塩害性向上にはAlの形成促進とその保護性の向上が重要である。本発明者らは、耐高温塩害性に及ぼす各種影響を検討する中で、Al、Si、Mo、Oのバランスが重要であることを見出し、式(ii)および式(iii)を得た。
2.6Al+4.3Si+1.5Mo≧5.95 ・・・式(ii)
Al/O≧200 ・・・式(iii)
但し、式中の元素記号は、当該元素の含有量(質量%)を意味する。Al、Si、Moの含有量が大きいとコストの増加や製造性の低下を招く場合があるため、式(ii)の左辺の値は9.90以下が好ましい。また、Al、Si、Moの含有量が小さいと高温強度や耐酸化性の低下を招く場合があるため、式(ii)の左辺の値は6.05以上が好ましい。Alの含有量が大きく、Oの含有量が小さいと溶接性の低下を招く場合があるため、Al/Oは3500以下が好ましい。また、Alの含有量が小さく、Oの含有量が大きいと製造性の低下を招く場合があるため、Al/Oは300以上が好ましい。
【0049】
上述したように、耐高温塩害性向上にはAlの形成促進とその保護性の向上が重要である。本発明者らは、上記式(ii)および上記式(iii)が満たされることで、耐高温塩害性が向上する理由を以下のように考えている。Alは、Alの形成促進とその保護性の向上の両方に寄与すると考えている。Siは母材中に大量に含まれるFe、Crの酸化を抑制することでAlの形成を促進していると考えている。MoはAlの結晶粒界に固溶することでAlの保護性を向上していると考えている。また、AlとOのバランスでOの割合が大きいほど母材内でAlが内部酸化しやすくなり、母材表面でのAl形成が阻害されているのではないかと考えている。
【0050】
また、母材板厚中心部の結晶粒径と板厚表面の結晶粒径のバランスにより耐高温塩害性が更に向上することも見出し、好ましい条件として式(iv)を得た。
900DA-1000DB≧-2.3 ・・・式(iv)
但し、DAは板厚中心部における平均結晶粒径(mm)、DBは板表面における平均結晶粒径(mm)を意味する。式(iv)の左辺の値は、より好ましくは、0.0以上である。但し、DAが大きく、DBが小さいと成型性の低下を招く場合があるため、式(iv)の左辺の値は60以下が好ましい。
【0051】
本発明者らは、母材表面の結晶粒径が板厚中心部より細かくなることが母材表面と板厚中心部との間に位置する表層部のAlの拡散およびAlの形成を促進しているのではないかと考えている。
【0052】
但し、製造性、表面品質などを考慮すると、板厚中心部および板表面における平均結晶粒径は、いずれも0.005~0.150mmとすることが好ましい。より好ましくは0.015~0.065mmである。
【0053】
板厚中心部および板表面の平均結晶粒径の測定については、板表面の組織観察を行いJISG0551:2013の切断法に準拠して結晶粒度を任意に5点測定して平均値を求め、平均結晶粒径を算出する。
【0054】
さらに本発明では、必要に応じて選択的に、W、Y、REM、Ca、Zr、Hf、Sn、Mg、Co、Sb、Bi、Ta、Gaの1種または2種以上を含有することにより、特性を更に向上させることができる。以下に、これらの元素について説明する。なお、これらの元素は、含有されなくてもよいため、これらの元素それぞれの含有量の下限は0%である。
【0055】
(W:0.01%以上、0.50%以下)
Wは、高温強度を改善する元素であり、必要に応じて0.01%以上含有することが好ましい。また、Wは、耐食性を向上する元素でもあるため、W含有量は0.05%以上がより好ましい。しかし、高価な元素であるため含有したとしても0.50%以下とすることが好ましい。また、靭性、製造性を考慮すると、W含有量は0.40%以下がより好ましい。
【0056】
(Y:0.001%以上、0.20%以下)
Yは、鋼の清浄度を向上し、耐銹性、熱間加工性を向上するとともに、耐酸化性も改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。Y含有量はより好ましくは、0.003%以上である。しかし、過度のYの含有は原料コストの上昇と製造性の低下を招く場合があるため、Y含有量を0.20%以下とすることが好ましい。Y含有量は、より好ましくは、0.10%以下である。
【0057】
(REM:0.001%以上、0.20%以下)
REM(Rare earth metal;希土類元素)は、鋼の清浄度を向上し、耐銹性、熱間加工性を向上するとともに、耐酸化性も改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。REM含有量は、より好ましくは、0.003%以上である。しかし、過度なREMの含有は、原料コストの上昇と製造性の低下を招く場合があるため、REM含有量を0.20%以下とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは、0.10%以下である。REMは、スカンジウム(Sc)とランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。REMとして、上記元素のうちの1種を単独で含有しても良いし、2種以上を含有しても良い。REMとして上記元素のうち2種以上を含有する場合、REM含有量は、それらの元素の合計含有量である。
【0058】
(Ca:0.0001%以上、0.0030%以下)
Caは、脱硫を促進する元素であり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは、0.0002%以上である。しかし、過度なCaの含有は水溶性の介在物であるCaSの生成による耐食性の低下を招く場合があるため、Ca含有量を0.0030%以下とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは、0.0020%以下である。
【0059】
(Zr:0.01%以上、0.30%以下)
Zrは、耐食性、耐粒界腐食性、高温強度、耐酸化性を向上する元素であり、必要に応じて0.01%以上含有することが好ましい。Zr含有量は、より好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なZrの含有は製造性の低下を招く場合があるため、Zr含有量を0.30%以下とすることが好ましい。Zr含有量は、より好ましくは、0.20%以下である。
【0060】
(Hf:0.001%以上、1.0%以下)
Hfは、耐食性、耐粒界腐食性、高温強度、耐酸化性を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。Hf含有量は、より好ましくは、0.003%以上である。しかし、過度なHfの含有は製造性の低下を招く場合があるため、Hf含有量を1.0%以下とすることが好ましい。Hf含有量は、より好ましくは、0.5%以下である。
【0061】
(Sn:0.001%以上、1.0%以下)
Snは、耐食性と高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは、0.003%以上である。しかし、過度のSnの含有は靭性、製造性の低下を招く場合があるため、Sn含有量を1.0%以下とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは、0.5%以下である。
【0062】
(Mg:0.0001%以上、0.0030%以下)
Mgは、脱酸元素として含有させる場合がある他、成型性を向上する元素でもあり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは、0.0003%以上である。しかし、過度なMgの含有は耐食性、溶接性、表面品質の低下を招く場合があるため、Mg含有量を0.0030%以下とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは、0.020%以下である。
【0063】
(Co:0.01%以上、0.50%以下)
Coは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.01%以上含有することが好ましい。Co含有量は、より好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なCoの含有は靭性の低下を招く場合があるため、Co含有量を0.50%以下とすることが好ましい。製造性や加工性を考慮すると、Co含有量を0.3%未満とすることがより好ましい。
【0064】
(Sb:0.001%以上、0.50%以下)
Sbは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは、0.005%以上である。しかし、過度なSbの含有は溶接性、靭性の低下を招く場合があるため、Sb含有量を0.50%以下とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは、0.40%以下である。
【0065】
(Bi:0.001%以上、1.0%以下)
Biは、冷間圧延時に発生するローピングを抑制し、製造性を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。Bi含有量は、より好ましくは、0.003%以上である。しかし、過度なBiの含有は熱間加工性の低下を招く場合があるため、Bi含有量を1.0%以下とすることが好ましい。Bi含有量は、より好ましくは、0.5%以下である。
【0066】
(Ta:0.001%以上、1.0%以下)
Taは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。Ta含有量は、より好ましくは、0.003%以上である。しかし、過度なTaの含有は靭性、製造性の低下を招く場合があるため、Ta含有量を1.0%以下とすることが好ましい。Ta含有量は、より好ましくは、0.5%以下である。
【0067】
(Ga:0.0001%以上、0.30%以下)
Gaは、耐食性と耐水素脆化特性を向上する元素であり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。Ga含有量は、より好ましくは、0.0003%以上である。しかし、過度なGaの含有は製造性の低下を招く場合があるため、Ga含有量を0.30%以下とすることが好ましい。Ga含有量は、より好ましくは、0.20%以下である。
【0068】
次に、本発明にかかるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法について説明する。本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板は、いかなる方法で製造されてもよいが、例えば、以下の製造方法で製造することができる。
【0069】
本発明のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法については、フェライト系ステンレス鋼板を製造する一般的な工程を採用できる。一般に、転炉または電気炉で溶鋼とし、AOD炉やVOD炉などで精練して、連続鋳造法または造塊法で鋼片とした後、熱間圧延-熱延板の焼鈍-酸洗-冷間圧延-仕上げ焼鈍-酸洗の工程を経て製造される。必要に応じて、熱延板の焼鈍を省略してもよいし、冷間圧延-仕上げ焼鈍-酸洗を繰り返し行ってもよい。これら各工程の条件は一般的条件で良く、例えば熱延加熱温度1000~1300℃、熱延板焼鈍温度900~1200℃、冷延板焼鈍温度800~1200℃等で行うことができる。但し、本発明は製造条件を特徴とするものではなく、その製造条件は限定されるものではない。そのため、熱延条件、熱延板厚、熱延板焼鈍の有無、冷延条件、熱延板および冷延板焼鈍温度、雰囲気などは適宜選択することができる。また、仕上酸洗前の処理は一般的な処理を行って良く、例えば、ショットブラストや研削ブラシなどの機械的処理や、溶融ソルト処理や中性塩電解処理などの化学的処理を行うことができる。また、冷延・焼鈍後に調質圧延やテンションレベラーを付与しても構わない。更に、製品板厚についても、要求部材厚に応じて選択すれば良い。また、この鋼板を素材として電気抵抗溶接、TIG溶接、レーザー溶接などの通常の排気系部材用ステンレス鋼管の製造方法によって溶接管として製造しても良い。
【0070】
但し、耐高温塩害性を更に向上するために式(iv)を満たすためには、最終焼鈍の昇温過程において、鋼板の温度が750℃以上830℃未満に維持される時間が20秒以上である、または、最終焼鈍における雰囲気ガスの流速が0.08m/s以上である。また、式(iv)の左辺の値を0.0以上としてより好ましくするためには、最終焼鈍の昇温過程において、鋼板の温度が750℃以上830℃未満に維持される時間が20秒以上であり、かつ最終焼鈍における雰囲気ガスの流速が0.08m/s以上である。これは、昇温過程で母材表面または表層部に形成されるAlを含む酸化物が母材表層部の再結晶粒の成長を抑制するためである。750℃未満では酸化の進行が遅く、830℃以上では再結晶が進んでしまうため、この間の温度でどれだけAlが酸化するかが重要である。ここで、雰囲気ガスとは焼鈍時の炉内の雰囲気を形成するガスであり、炉内に流すガス、炉内でバーナー燃焼等を行う場合に発生する燃焼ガス、または炉内に意図せずとも存在する空気等である。なお、焼鈍時の最高温度において還元雰囲気となる雰囲気ガスであっても極僅かに酸素や水蒸気等、Alの酸化源となるガス種が含まれ、750℃以上830℃未満の昇温過程においては板表面を酸化し得る。最終焼鈍における雰囲気ガスの流速は、板表面への酸化源となる酸素や水蒸気等の分子の衝突頻度に寄与するため酸化反応に影響を及ぼしている。ここで、最終焼鈍とは、鋼板または鋼管の製造工程で最終的に行った仕上げ焼鈍である。つまり、鋼板の最終焼鈍は鋼板の製造工程で最終的に行った焼鈍である。鋼管の最終焼鈍は、鋼管の製造工程で最終的に行った焼鈍、または、その焼鈍が無い場合は、鋼板の造管工程で最終的に行った焼鈍となる。また、連続焼鈍ラインの場合、雰囲気ガスの流速は通板速度と炉内ガス流速の差となり、炉内にガスが流れがない場合は雰囲気ガスの流速は通板速度となる。但し、最終焼鈍の昇温過程における鋼板の温度が750℃以上830℃未満に維持される時間は長すぎると生産性の低下を招くため、上限は100秒以下が好ましい。また、雰囲気ガスの流速は大きすぎると炉内の温度制御が難しくなるため、上限は10m/s以下が好ましい。
【0071】
本発明に係る自動車排気系部品は、上述したフェライト系ステンレス鋼板を用いた自動車排気系部材と、自動車排気系部材を強制冷却する強制冷却部材と、を備える。本発明の自動車排気系部品は、例えば、図1(A)に示すように、上記本発明のフェライト系ステンレス鋼板を用いた自動車排気系部材1と、それを強制冷却する強制冷却部材3とを備えている。図1(A)においては、冷却ファン4の送風口5からの冷却空気流11が自動車排気系部材1(排気マニホールド2)を強制空冷する。このような、排気マニホールド2やフロントパイプのような排気系の中でも高温に位置する自動車排気系部材1を強制空冷する強制冷却部材3は、自動車排気系部材1への塩分付着を促進する要因となる。このような自動車排気系部品において、自動車排気系部材1の材料上記本発明のフェライト系ステンレス鋼板を用いることにより、十分な耐高温塩害性が付与されることとなる。このように、上述したフェライト系ステンレス鋼板は、強制冷却部材により塩分付着が促進される自動車排気系部材に使用される。なお、図1(A)に示した自動車排気系部品は、あくまでも、本発明の自動車排気系部品の一例であり、本発明の自動車排気系部品が、図1(A)に示した態様に限られないことは言うまでもない。
【0072】
本発明に係る自動車排気系部品はまた、上述したフェライト系ステンレス鋼板を用いた自動車排気系部材と、自動車排気系部材の周囲を断熱材で覆う断熱部材と、を備える。本発明の自動車排気系部品は、例えば、図1(B)に示すように、上記本発明のフェライト系ステンレス鋼板を用いた自動車排気系部材1と、その周囲を断熱材7で覆う断熱部材6とを備えている。図1(B)に示す断熱部材6においては、自動車排気系部材1(排気マニホールド2)の外周を断熱材7で覆い、断熱材カバー8で断熱材7を保護している。断熱材7はウール状セラミックス等が使用され、保水しやすい。そのため断熱材7で自動車排気系部材1を覆うことは塩分も保持しやくなり、自動車排気系部材1への塩分付着を促進する。このような自動車排気系部品において、自動車排気系部材1の材料に上記本発明のフェライト系ステンレス鋼板を用いることにより、十分な耐高温塩害性が付与されることとなる。このように、上述したフェライト系ステンレス鋼板は、自動車排気系部材の周囲を断熱材で覆う断熱部材が適用されることにより塩分付着が促進される自動車排気系部材に使用される。なお、図1(B)に示した自動車排気系部品は、あくまでも、本発明の自動車排気系部品の一例であり、本発明の自動車排気系部品が、図1(B)に示した態様に限られないことは言うまでもない。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0074】
表1、2に示す成分組成を有する供試材(本発明例A~S,比較例a~q)を真空溶解炉で溶製して150kgインゴットに鋳造し、インゴットを熱間圧延して5.0mm厚の熱延鋼板とした。その後、熱延鋼板を酸洗し、2.0mm厚まで冷間圧延し、再結晶組織となる850~1100℃で最終焼鈍後、酸洗を施して製品板とした。なお、最終焼鈍の昇温過程における鋼板の温度が750℃以上830℃未満に維持される時間および最終焼鈍における雰囲気ガスの流速は本発明範囲内で実施した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
得られた製品板に対して、板厚中心部の平均結晶粒径の測定、加工性評価、耐高温塩害性評価を実施した。
板厚中心部の平均結晶粒径の測定については、板幅中央における圧延方向と平行な方向の断面の組織観察を行いJISG0551:2013の切断法に準拠して結晶粒度を任意に5点測定して平均値を求め、平均結晶粒径を算出した。
【0078】
加工性の評価については、圧延方向と平行な方向にJIS13号B試験片を採取し、JISZ2241:2011に準拠して常温の0.2%耐力を求めた。常温の0.2%耐力が400MPa超のものを「×(不良)」、390MPa超400MPa以下のものを「●(可)」、380MPa超390MPa以下のものを「〇(良好)」、380MPa以下のものを「◎(更に良好)」とした。
【0079】
耐高温塩害性評価については、製品板から幅20mm×長さ50mmの試験片を作製し高温塩害試験にて評価した。高温塩害試験としては、試験片を加熱、冷却、塩水浸漬、乾燥のサイクルを20サイクル実施した後の腐食減量を評価した。加熱条件は、温度を750℃、保持時間を130分とした。冷却条件は、温度を常温、保持時間を30分とした。塩水浸漬条件は、塩水として飽和NaCl水溶液を用い、水溶液温度を常温、浸漬時間を30分とした。すなわち、塩水には、26質量%NaCl水溶液を用いた。乾燥条件は、塩水から取り出した後、温度を50℃、保持時間を30分とした。加熱、冷却、乾燥の雰囲気は露点40~50℃の空気とした。高温塩害試験前と高温塩害試験で生成した腐食生成物を除去した後の試験片の重量差を測定し、これを高温塩害試験前の試験片表面積当りの値としたものを腐食減量とした。高温塩害試験後の試験片表面の腐食生成物の除去としては、試験片を沸騰した15質量%くえん酸2水素アンモニウム水溶液に20分浸漬し、水洗した後ブラッシングをすることを数回繰り返すことで実施した。このようにして得られた高温塩害試験の腐食減量を用いて、耐高温塩害性を評価した。腐食減量が150mg/cm超のものを「×(不良)」、125mg/cm超150mg/cm以下のものを「●(可)」、100mg/cm超125mg/cm以下のものを「〇(良好)」、100mg/cm以下のものを「◎(更に良好)」とした。
【0080】
表3に本発明例A~S、比較例a~qの板厚中心部の平均結晶粒径、式(i)~(iii)の左辺の値、加工性および耐高温塩害性の評価結果を示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表1~3から明らかなように、本発明で規定する成分組成であり、式(i)~(iii)を満足する鋼板は、比較例の鋼板に比べて加工性および耐高温塩害性に優れていることがわかる。
【0083】
さらに、上述の通り、加工性を更に向上するためのSi、P、Ni、Cu、Mo、Alの好ましいまたはより好ましい範囲があり、耐高温塩害性を更に向上するためのC、Si、Mn、S、Mo、Alの好ましいまたはより好ましい範囲がある。より多くの元素がこれらの範囲内にある鋼板ほど加工性または耐高温塩害性の評価が更に良くなっていることがわかる。
【0084】
また、表4に、本発明範囲内の組成の素材鋼B、D、Eに対して、種々の製造条件で鋼板を製造した。最終焼鈍における昇温過程の鋼板の温度が750℃以上、830℃未満である時間、雰囲気ガスの流速および焼鈍温度を表4に示す。また、雰囲気ガスは空気とした。母材板厚中心部および表面の平均結晶粒径の測定した結果、式(iv)の左辺の値、耐高温塩害性評価を実施した結果を示す。
なお、板表面の平均結晶粒径の測定については、板表面の組織観察を行いJISG0551:2013の切断法に準拠して結晶粒度を任意に5点測定して平均値を求め、平均結晶粒径を算出した。板表面の組織のコントラストを現出するために、研磨、酸洗、電解研磨、エッチングを適宜実施するが、その際の板厚減少量は元の板厚の5%以内とした。
【0085】
【表4】
【0086】
表4から明らかなように、式(iv)を満足すれば、耐高温塩害性が向上し、更に式(iv)の左辺(900DA-1000DB)の値が0.0以上であれば、耐高温塩害性の評価が更に良くなっていることがわかる。
【0087】
なお、耐高温塩害試験の加熱温度を650℃、700℃、800℃等で実施した場合や、塩水を飽和CaCl水溶液にした場合や、雰囲気を乾燥大気にした場合においても本発明鋼の耐高温塩害性の序列は同じであった。これより、本発明例は様々な高温塩害環境で優れた耐高温塩害性を示すと考えられる。
【0088】
これらから明らかなように、本発明で規定する個別の成分組成を有し、式(i)~(iii)を満足する鋼は耐高温塩害性に優れていることがわかる。さらに個別の成分組成が種々の好ましいまたはより好ましい範囲を満足する鋼や式(iv)を満足する鋼は加工性または耐高温塩害性を更に向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、加工性および耐高温塩害性を必要とする排気マニホールドやフロントパイプといった用途に加工性および耐高温塩害性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供することができる。具体的な用途としては強制冷却部材により塩分付着が促進されている自動車排気系部品や、自動車排気系の周囲を断熱材で覆う断熱部材が適用されることにより塩分付着が促進されている自動車排気系部品である。これらの部品を可能とすることで、これら部品が適用されるターボ搭載車やHCCI(予混合圧縮自動着火)燃焼するエンジン車の普及を促進し、自動車の燃費改善および環境負荷の低減に寄与できる。
【符号の説明】
【0090】
1 自動車排気系部材
2 排気マニホールド
3 強制冷却部材
4 冷却ファン
5 送風口
6 断熱部材
7 断熱材
8 断熱材カバー
10 排気ガス
11 冷却空気流
図1