(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/23 20100101AFI20240426BHJP
G01S 19/43 20100101ALI20240426BHJP
【FI】
G01S19/23
G01S19/43
(21)【出願番号】P 2020110709
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徳祥
(72)【発明者】
【氏名】武山 洪二郎
(72)【発明者】
【氏名】下岡 和也
(72)【発明者】
【氏名】武藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】宮島 朗
(72)【発明者】
【氏名】宝地 卓
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-167936(JP,A)
【文献】特開2014-048075(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0299728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
G01C 21/26-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出する関係算出部と、
前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する判定部と、
を含
み、
前記関係算出部は、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係を算出する手法として、
前記第1アンテナの搬送波位相測位の結果と前記第2アンテナの搬送波位相測位の結果との相対位置ベクトル1を、前記第1アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第1アンテナから前記第2アンテナへの相対位置ベクトル2又は前記第2アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第2アンテナから前記第1アンテナへの相対位置ベクトル2を算出し、
前記判定部は、前記相対位置ベクトル1と前記相対位置ベクトル2との差又は和を前記相対位置関係の差を示す値として、判定を行う、
異常判定装置。
【請求項2】
移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出する関係算出部と、
前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する判定部と、
を含み、
前記関係算出部は、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係を算出する手法として、
前記第1アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第1アンテナから前記第2アンテナへの相対位置ベクトル1を、前記第2アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第2アンテナから前記第1アンテナへの相対位置ベクトル2を算出し、
前記判定部は、前記相対位置ベクトル1と前記相対位置ベクトル2との和を前記相対位置関係の差を示す値として、判定を行う、
異常判定装置。
【請求項3】
移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出し、
前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する、
処理をコンピュータ
が実行する異常判定方法
であって、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係を算出する手法として、
前記第1アンテナの搬送波位相測位の結果と前記第2アンテナの搬送波位相測位の結果との相対位置ベクトル1を、前記第1アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第1アンテナから前記第2アンテナへの相対位置ベクトル2又は前記第2アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第2アンテナから前記第1アンテナへの相対位置ベクトル2を算出し、
前記判定として、前記相対位置ベクトル1と前記相対位置ベクトル2との差又は和を前記相対位置関係の差を示す値として、判定を行う、
異常判定方法。
【請求項4】
移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出し、
前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する、
処理をコンピュータが実行する異常判定方法であって、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係を算出する手法として、
前記第1アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第1アンテナから前記第2アンテナへの相対位置ベクトル1を、前記第2アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第2アンテナから前記第1アンテナへの相対位置ベクトル2を算出し、
前記判定として、前記相対位置ベクトル1と前記相対位置ベクトル2との和を前記相対位置関係の差を示す値として、判定を行う、
異常判定方法。
【請求項5】
移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出し、
前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する、
処理をコンピュータに実行させる異常判定プログラム
であって、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係を算出する手法として、
前記第1アンテナの搬送波位相測位の結果と前記第2アンテナの搬送波位相測位の結果との相対位置ベクトル1を、前記第1アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第1アンテナから前記第2アンテナへの相対位置ベクトル2又は前記第2アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第2アンテナから前記第1アンテナへの相対位置ベクトル2を算出し、
前記判定として、前記相対位置ベクトル1と前記相対位置ベクトル2との差又は和を前記相対位置関係の差を示す値として、判定を行う、
異常判定プログラム。
【請求項6】
移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出し、
前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する、
処理をコンピュータに実行させる異常判定プログラムであって、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係を算出する手法として、
前記第1アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第1アンテナから前記第2アンテナへの相対位置ベクトル1を、前記第2アンテナからの補正情報を用いた搬送波位相測位により前記第2アンテナから前記第1アンテナへの相対位置ベクトル2を算出し、
前記判定として、前記相対位置ベクトル1と前記相対位置ベクトル2との和を前記相対位置関係の差を示す値として、判定を行う、
異常判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星(以下、「衛星」と略記)から発信される信号を用いて位置推定を行う測位システムであるGNSS(Global Navigation Satellite System)による測位方式のうち、搬送波の位相に基づいて位置を推定する搬送波位相測位がある。搬送波位相測位は、搬送波の変調に基づいて位置を推定するコード測位に比して、高精度であることを特徴とする。
【0003】
搬送波位相測位の中でも、固定点に設置された基準局と移動受信機(車両)双方の搬送波位相観測値を使って基線解を求める相対測位の一種であるRTK-GNSS(Real Time Kinematic GNSS)は、位置推定の誤差をセンチメートル単位にまで抑制できるので、精密測量等で用いられている。
【0004】
非特許文献1には、RTK-GNSSによる位置推定の発明が開示されている。非特許文献1に記載のRTK-GNSSは、基準衛星からの情報に基づく測位計算結果であるフロート解から、通常Lambda法等の計算手法を用いて測位の精度を向上させたフィックス解を算出する。非特許文献1に記載のRTK-GNSSによる位置推定は、複数の衛星から情報を得ているが、衛星からの電波が山又は建物による反射等で生じるマルチパスの影響を完全に排除できていない。よって、その結果、測位誤差が大きくなり、不適切なフィックス解を出力するミスフィックスが生じるおそれがあった。
【0005】
このような搬送波位相測位の異常、すなわちミスフィックスを検出するための手法がある。
【0006】
例えば、測位システムにおいて移動体に設置した複数アンテナを用いることで、搬送波位相の異常を検出する手法がある(特許文献1参照)。この手法では、複数アンテナ間で検出される相対搬送波位相(RCP)と、推測航法による移動体の向きから予測される相対搬送波位相と比較することで、搬送波位相の異常を検出している。
【0007】
また、測位システムにおいて移動体に設置した複数アンテナを用いることで、搬送波位相の異常(いわゆるマルチパス)を検出する手法がある(特許文献2参照)。この手法では、複数アンテナ間で検出される搬送波位相差と、推測航法等による移動体の向き、及びアンテナ間の基線長から予測される搬送波位相差と比較し、所定の閾値以上異なる場合に、マルチパスを検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2016-539325号公報
【文献】特開2008-298443号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】高須知二、「RTK-GPS 及びネットワーク型RTK-GPS測位技術」、GPS/GNSSシンポジウム2007、267―278頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
GNSSで搬送波位相情報を用いるのは、搬送波位相測位(干渉測位とも呼ばれる)が必要な場合である。従来のカーナビ等に用いられる測位手法はコード測位と呼ばれ、原理的に1~2mの測位精度が性能限界である。一方、搬送波位相測位は、測量等に用いられる手法であり、搬送波位相情報を用いることで精密な距離差を求めることができるため、2~3cmの測位精度が得られる手法である。
【0011】
従来技術は、測位システムにおいて移動体に設置した複数アンテナを用いることで、搬送波位相の異常(又はマルチパスの影響)を検出する手法である。よって、搬送波位相測位の計算の前の入力データの段階における異常を検出する手法といえる。そのため、搬送波位相の異常が全て正しく検出できれば良いが、異常の検出漏れがある場合、ミスフィックスの発生が必ずしも抑制できない。
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、測位における位置関係の誤差が大きな解を排除して測位精度を担保することができる異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る異常判定装置は、移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出する関係算出部と、前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する判定部と、を含んで構成されている。
【0014】
また、本発明に係る異常判定方法は、移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出し、前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する、処理をコンピュータに実行させる。
【0015】
また、本発明に係る異常判定プログラムは、移動体に衛星からの電波を受信する第1アンテナと第2アンテナとが設置されており、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの相対位置関係として、予め定めた搬送波位相測位を用いた手法を含む複数の異なる手法により、複数の相対位置関係を算出し、前記複数の相対位置関係の差を示す値を算出し、前記差を示す値が閾値を超える場合に、前記第1アンテナ又は前記第2アンテナの搬送波位相測位の解が異常であると判定する、処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラムによれば、測位における位置関係の誤差が大きな解を排除して測位精度を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】搬送波位相二重差による測位の一例を示した説明図である。
【
図2】第1実施形態に係る異常判定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】第1アンテナ及び第2アンテナの車両における位置関係の一例を示す図である。
【
図4】異常判定において比較対象とする相対位置ベクトルのイメージ図である。
【
図6】異常判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図7】第1実施形態の異常判定装置による異常判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】第1実施形態の変形例における異常判定装置の構成例である。
【
図9】第2実施形態のMB-RTKにより相対位置を求める場合の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態の異常判定装置の構成例である。
【
図11】第2実施形態の異常判定装置による異常判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】第3実施形態において、絶対位置の差を用いる態様のイメージ図である。
【
図13】第3実施形態の異常判定装置の構成例である。
【
図14】第3実施形態の相互に相対位置を求める場合の一例を示す図である。
【
図15】第3実施形態の変形例における異常判定装置の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
まず、本実施形態において用いる搬送波位相測位について、搬送波位相二重差による測位の原理について説明する。
【0020】
図1は、搬送波位相二重差による測位の一例を示した説明図である。
図1に示したように、地上には固定点に設置された基準局34と、移動体である車両36とが存在し、上空には衛星30と衛星32とが存在している。
図1におけるΦは、搬送波位相観測値である。以下、衛星30が発信した電波の搬送波位相観測値は「a」を、衛星32が発信した電波の搬送波位相観測値は「b」を各々添付する。また、基準局34が受信した電波の搬送波位相観測値は「u」を、車両36が受信した電波の搬送波位相観測値は「r」を各々添付する。
【0021】
図1に示したように、2つの衛星30、32からの電波を各々用いて測位する場合、搬送波位相二重差Φ
ur
abを、以下のように定義できる。下記式中の上付文字「ab」は衛星30と衛星32との間、下付文字「ur」は観測点である基準局34と車両36との間で、各々差をとることを示している。
【0022】
また、搬送波位相二重差Φ
ur
abは、下記の観測方程式で表すことができる。
【0023】
上式中のρは衛星(衛星30又は衛星32)と受信機(基準局34又は車両36)との間の幾何学距離であり、cは光速、dtは受信機の時計誤差、dTは衛星の時計誤差、I は電離層遅延、Tは対流圏遅延、λは搬送波の波長、εΦは観測誤差を表す。Nは搬送波位相バイアスであり、搬送波位相測位ではフィックス解を算出する際に必要な値で、搬送波位相二重差による測位では整数値である。
【0024】
基準局34及び車両36の各受信機で観測値が同時測定されると仮定すると、dtは0となる。また、衛星30の送信時刻と衛星32の送信時刻とがほぼ同時で、かつ短時間内では衛星30、32の時計は十分安定であることを考慮すると、dTも0となる。その結果、上式は下記のように近似できる。
【0025】
さらに、基線(基準局34と車両36との距離)が十分に短い場合、観測値に含まれる電離層遅延及び対流圏遅延の大きさはほぼ同一になるので、上式のI
ur
ab及びT
ur
abは、各々0とみなすことができる。その結果、搬送波位相二重差Φ
ur
abは、下記の式(1)のように近似される。
【0026】
また、搬送波位相二重差による測位では、疑似距離二重差P
ur
abを、以下のように定義できる。前述の搬送波位相二重差Φ
ur
abと同様に、下記式中の上付文字「ab」は衛星30と衛星32との間、下付文字「ur」は観測点である基準局34と車両36との間で、各々差をとることを示している。
【0027】
また、疑似距離二重差P
ur
abは、下記の観測方程式で表すことができる。下記式中のε
Pは観測誤差を表す。
【0028】
上述のように、基準局34及び車両36の各受信機で観測値が同時測定されると仮定すると、dtは0となる。また、衛星30の送信時刻と衛星32の送信時刻とがほぼ同時で、かつ短時間内では衛星30、32の時計は十分安定であることを考慮すると、dTも0となる。その結果、上式は下記のように近似できる。
【0029】
さらに、基線が十分に短い場合、上述のように、観測値に含まれる電離層遅延及び対流圏遅延の大きさはほぼ同一になるので、上式のI
ur
ab及びT
ur
abは、各々0とみなすことができる。その結果、疑似距離二重差P
ur
abは、下記の式(2)のように近似される。
【0030】
上述の式(1)、(2)により、疑似距離二重差Pur
abを算出でき、疑似距離二重差Pur
abに基づいて基準局34から車両36の相対的な位置を推定できる。
【0031】
車両36の位置をru、搬送波位相バイアスをNiとすると、推定パラメータxは以下のようになる。
x=(ru
T N1
T N2
T)
【0032】
推定パラメータxを用いると、車両36の位置推定は、上記式(1)、(2)で示した搬送波位相二重差Φur
abの観測方程式及び疑似距離二重差Pur
abの観測方程式の各々は、下記のようになる。
y=h(x)+ε
【0033】
上記のyは二重差観測量ベクトルであり、一例として、下記の式のように定義される。
y=(Φ1
T Φ2
T P1
T P2
T)
【0034】
さらに観測誤差εの共分散行列Rを下記のように定義する。
R=E(εεT)
【0035】
以上の観測方程式及び誤差共分散行列を拡張カルマンフィルタ等を用いて観測値により逐次更新する。これにより、xの推定値及びxの共分散行列Pを推定でき、推定したx、Pに基づいて、基準局34に対する車両36の相対的な位置の実数推定値であるフロート解を算出する。
【0036】
フロート解の誤差は相互に大きな相関を持っており、係る相関が搬送波位相バイアスNの整数解の探索空間を拡大して探索効率を悪化させる。本実施の形態では、既知の手法であるLambda法を用いてフィックス解を算出する。
【0037】
Lambda法では、最初にZ変換(無相関化)と呼ぶ変換により上述の探索空間を縮小する。Z変換による処理後は、整数格子点探索と逆Z変換が行われ、フィックス解が算出される。
【0038】
算出されたフィックス解には信頼性の低い解も含まれる。搬送波位相バイアスNの整数値である整数バイアスを誤って解いた解をミスフィックス解と呼ぶが、通常ミスフィックス解では測位精度が大きく劣化するので、Ratioテスト等の既知の手法により整数バイアス解の信頼度の検定を行い信頼度の低い解を排除して、フィックス解を出力する。
【0039】
Ratioテストは、下記式(3)の左辺が検定閾値β(一例として、β=2~5の固定値)を超えるか否かの判定を行う。
【0040】
以上が搬送波位相二重差による測位の原理についての説明である。
【0041】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態に係る異常判定装置を詳細に説明する。以下において説明する各実施形態において共通した課題は、2本のアンテナによる搬送波位相測位の結果を用いて異常判定を行うことである。これにより異常を除去して精緻な測位を担保する。
【0042】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態に係る異常判定装置100の構成の一例を示すブロック図である。異常判定装置100は上述の車両36に搭載されているとする。異常判定装置100は、第1GNSS受信機110Aと、第2GNSS受信機110Bと、第1測位導出部112Aと、第2測位導出部112Bと、関係算出部114と、判定部116とを含む。
【0043】
ここで、第1GNSS受信機110A、及び第2GNSS受信機110Bは同様の構成により実現され、共通する機能についてはGNSS受信機110として説明する。また第1測位導出部112A、及び第2測位導出部112Bは同様の構成により実現され、共通する機能については測位導出部112として説明する。
【0044】
GNSS受信機110は、衛星からの電波を受信する。GNSS受信機110は、衛星からの電波を受信するアンテナ及び受信回路である。第1GNSS受信機110Aは第1アンテナを含み、第2GNSS受信機110Bは第2アンテナを含む。
【0045】
図3は、第1アンテナ及び第2アンテナの車両36における位置関係の一例を示す図である。
図3に示すように第1アンテナ及び第2アンテナは車両36の前方及び後方にある程度の距離を離した配置で設置されている。また、本実施形態においては第1アンテナ及び第2アンテナの設置位置を既知としており、各アンテナの設置位置からアンテナ間距離も既知であるとする。
【0046】
ここで2本のアンテナを用いた異常判定の原理的な説明をする。
図4は、異常判定において比較対象とする相対位置ベクトルのイメージ図である。
図4に示すように、1.車両上の既知のアンテナ配置に基づく相対位置ベクトル1、及び2.各アンテナの測位計算結果に基づく相対位置ベクトル2を比較することを考える。この場合、仮に測位結果がミスフィックスであったとすれば、相対位置ベクトル1と相対位置ベクトル2とが乖離していると想定される。よって両者の差(この場合、相対位置ベクトル1と相対位置ベクトル2との差)が大きい場合にミスフィックスの可能性が高いため、すなわち測位結果が異常であると判定する。
【0047】
次に測位導出部112について説明する。
図5は、測位導出部112の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、測位導出部112は、補正情報取得部1002と、衛星判定選択部1004と、搬送波位相測位計算部1006とを含む。測位導出部112は、GNSS受信機110から電波を受信して測位処理を行い、導出したフィックス解をアンテナの自己位置の測位結果として出力する。以下、フィックス解及び測位結果は同義である。また、本実施形態では、第1GNSS受信機110A及び第2GNSS受信機110Bで同時に行った観測を組として扱う。同時に観測された情報に基づき測位導出部112(112A,112B)による測位結果を導出し、第1アンテナの第1測位結果(第1位置)、及び第2アンテナの第2測位結果(第2位置)の組を出力する。以下、第1アンテナの位置を第1位置、第2アンテナの位置を第2位置と表す。
【0048】
補正情報取得部1002は、基準局からの補正情報を取得する。衛星判定選択部1004は、マルチパスやその他誤差要因の影響が大きい衛星を排除して衛星を選択する構成である。一例として、衛星判定選択部1004は、衛星からの電波が地形又は建物等で反射して生じたマルチパスとみなされる電波について、当該電波を発信した衛星は測位から排除し、それ以外の衛星を選択する。マルチパスとみなされる電波とは、例えば、GNSS受信機110で電波を受信した衛星に対する仰角が所定の仰角値よりも小さい場合又は受信した電波のSN比が所定値よりも小さい場合の電波である。
【0049】
搬送波位相測位計算部1006は、衛星判定選択部1004で選択した衛星からの電波と基準局からの補正情報とを用いて測位の解であるフィックス解を算出し、フィックス解を出力する。フィックス解は上述した原理の導出によりフロート解を算出し、フロート解を用いてフィックス解を算出すればよい。以上が測位導出部112の説明である。
【0050】
測位導出部112で測位した、第1アンテナ及び第2アンテナに対応するフィックス解の組が出力される。当該組に対応するフィックス解とは、つまり第1アンテナの搬送波位相測位の第1測位結果、及び第2アンテナの搬送波位相測位の第2測位結果である。また、フィックス解は測位結果における位置を示す。すなわち、第1アンテナについて測位された第1位置、第2アンテナについて測位された第2位置である。本実施形態では、第2アンテナは異常判定用として扱い、第1アンテナのフィックス解を最終的な出力として出力可否を判定する。
【0051】
関係算出部114は、移動体上のアンテナ配置に基づいて相対位置ベクトル1を、第1アンテナの搬送波位相測位結果及び第2アンテナの搬送波位相測位結果に基づいて相対位置ベクトル2を算出する。相対位置ベクトル1は車両上のアンテナ配置に基づいて取得する。車両の向きが不明の場合、ベクトルの向きは未知だがベクトルの大きさは既知である。
【0052】
判定部116は、関係算出部114で算出した相対位置ベクトル1と相対位置ベクトル2との差を算出し、差が閾値以上であるか否かを判定する。ここで算出する差は相対位置ベクトル1と相対位置ベクトル2とのノルム差である。差が閾値以上であると判定された場合には、ミスフィックスとして測位結果を出力しない。差が閾値以下であると判定された場合には、第1測位解(第1アンテナのフィックス解)を測位結果として出力する。
【0053】
図6は、異常判定装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。
図6に示すように、異常判定装置100は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0054】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、異常判定プログラムが格納されている。
【0055】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0056】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0057】
表示部16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能してもよい。
【0058】
通信インタフェース17は、端末等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。以上が、異常判定装置100のハードウェア構成の説明である。なお、以降の各実施形態においてもハードウェア構成は同様であるため説明は省略する。
【0059】
次に、本発明の実施形態に係る異常判定装置100の作用について説明する。
【0060】
図7は、異常判定装置100による異常判定処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から異常判定プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、異常判定処理が行なわれる。異常判定処理では、CPU11が異常判定装置100の各部として処理を実行する。
【0061】
ステップS100では、第1GNSS受信機110A及び第2GNSS受信機110Bのそれぞれが、衛星の電波の観測結果を取得する。
【0062】
ステップS102では、それぞれのフィックス解として、第1測位導出部112Aが、第1アンテナの搬送波位相測位の第1測位結果、第2測位導出部112Bが、第2アンテナの搬送波位相測位の第2測位結果を導出する。衛星の選択は、衛星判定選択部1004が、衛星からの電波が地形又は建物等で反射して生じたマルチパスとみなされる電波及びその他誤差要因の影響が大きいとみなされる電波について、当該電波を発信した衛星は測位から排除し、それ以外の衛星を選択する。フィックス解は、搬送波位相測位計算部1006が、衛星判定選択部1004で選択した衛星からの電波と基準局からの補正情報とを用いて算出する。
【0063】
ステップS104では、関係算出部114が、第1アンテナの第1測位結果(第1位置)、及び第2アンテナの第2測位結果(第2位置)の組に基づいて相対位置ベクトル2を算出する。なお、関係算出部114において、相対位置ベクトル1は車両上のアンテナ配置に基づいて取得している。相対位置ベクトル1は当該ステップで取得してもよいし、予め取得しておいてもよい。
【0064】
ステップS106では、判定部116が、相対位置ベクトル1と相対位置ベクトル2との差を算出する。
【0065】
ステップS108では、判定部116が、ステップS106で算出した差が閾値以上であるか否かを判定し、差が閾値以上でない場合にはステップS110で第1測位結果を測位結果として出力し、差が閾値以上である場合は測位結果を出力しないで処理を終了する。
【0066】
以上説明したように、第1実施形態に係る異常判定装置によれば、測位における位置関係の誤差が大きな解を排除して測位精度を担保することができる。
【0067】
[第1実施形態の変形例]
次に第1実施形態の変形例について説明する。第1実施形態の手法の変形として、MB(Moving Baseline)-RTKの補正情報を用いる場合について説明する。MB-RTKは、補正情報を用いて相対位置を求めるための搬送波位相測位の手法である。なお、第1実施形態と同様の構成及び作用となる箇所については同一符号を付して説明を省略する。
図8に示すように第1実施形態の変形例の構成は、第1実施形態の構成に対して、第1GNSS受信機110A側からMB-RTKの基準局側としての補正情報を第2測位導出部112Bに出力し、位置を推定する点が異なっている。
【0068】
第1GNSS受信機110Aは、観測結果を出力しつつ、MB-RTKの基準局側としての補正情報を第2測位導出部112Bに出力する。
【0069】
第2測位導出部112Bは、MB-RTKの補正情報に基づいて第1アンテナの位置から見た第2アンテナの相対位置を算出する。
図9は、MB-RTKにより相対位置を求める場合の一例を示す図である。
図9に示すように、第1アンテナの位置から見た第2アンテナの相対位置を推定するため、相対位置ベクトル2が直接求められる。
【0070】
関係算出部114は、第2測位導出部112Bから得られる第1アンテナの位置から見た第2アンテナの相対位置を相対位置ベクトル2とする。
【0071】
作用については、第2測位導出部112B及び関係算出部114について変形例の処理に置き換えればよい。
【0072】
以上説明したように、第1実施形態の変形例に係る異常判定装置によれば、補正情報を用いて、測位における位置関係の誤差が大きな解を排除して測位精度を担保することができる。
【0073】
[第2実施形態]
第2実施形態は推測航法等による姿勢情報も加えて判定に用いる場合の例である。なお、第1実施形態と同様の構成及び作用となる箇所については同一符号を付して説明を省略する。
図10に示すように第2実施形態の構成は、各種センサによる姿勢推定を行う点が第1実施形態と異なっている。
【0074】
異常判定装置200は、第1実施形態の構成に加えて、各種センサ210と、姿勢推定装置212とを更に含んでいる。
【0075】
各種センサ210は、車速センサ、ヨーレートセンサ等の複合センサである。
【0076】
姿勢推定部212は、各種センサ210の検出結果を用いて車両36の車体の姿勢情報として方位、ピッチ角、及びロール角等を推定する。
【0077】
関係算出部114は、アンテナ配置情報に姿勢情報を加えることで、相対位置ベクトル1の方位角やピッチ角を算出できる。推測航法等による方位を用いることで相対位置ベクトル1の方位を求めることができる。また、推測航法等によるピッチ角及びロール角を用いることで相対位置ベクトル1のピッチ角を求めることができる。相対位置ベクトル2は第1実施形態と同様に算出する。
【0078】
判定部116は、関係算出部114で算出した相対位置ベクトル1、及び相対位置ベクトル2から相対位置関係の差を示す値を算出し、差を示す値が閾値以上であるか否かを判定する。差を示す値としては、大きさの差、方位角の差、ピッチ角の差、ベクトル差等を用いることができる。ベクトル差は距離(ユークリッド距離、マハラノビス距離等)で算出すればよい。それぞれの項目ごとに閾値を定めておき、閾値以上である項目がある場合に差を示す値が閾値以上と判定するようにしてもよい。また、項目の組み合わせに条件を定めておき、条件に従って閾値以上であるか否かを判定するようにしてもよい。例えば、大きさの差が閾値以上であり、かつ、方位差が閾値以上であれば、最終的な判定として差を示す値が閾値以上と判定する等である。
【0079】
作用については、
図11に示すように姿勢情報の推定するステップ200を加えて、関係算出部114及び判定部116の処理について本実施形態の処理に置き換えればよい。
【0080】
以上説明したように、第2実施形態に係る異常判定装置によれば、推測航法等を用いて、測位における位置関係の誤差が大きな解を排除して測位精度を担保することができる。
【0081】
[第3実施形態]
第3実施形態はアンテナ間の距離を既知とせずに異常判定を行う場合の例である。なお、第1実施形態と同様の構成及び作用となる箇所については同一符号を付して説明を省略する。
図12に示すように、第3実施形態では絶対位置の差を用いる。
図13は、第3実施形態の構成の一例を示す図である。
図13に示すように、異常判定装置300の第2GNSS受信機110B側からMB-RTKの基準局側としての補正情報を第1測位導出部112Aに出力する点が第1実施形態と異なっている。
【0082】
なお、第1測位導出部112Aにより測位した第1位置についてのフィックス解を、判定される対象として用いる。
【0083】
第2GNSS受信機110Bは、観測結果を出力しつつ、MB-RTKの基準局側としての補正情報を第1測位導出部112Aに出力する。
【0084】
第1測位導出部112Aは、基準局からの補正情報に基づくRTK-GNSSによって第1アンテナ位置1のフィックス解を測位しつつ、MB-RTKの補正情報に基づいて第2アンテナから見た第1アンテナの相対位置を導出する。第2測位導出部112Bは、基準局からの補正情報に基づくRTK-GNSSによって第2位置のフィックス解を導出して、補正情報を含めて第1測位導出部112Aへ出力する。第1測位導出部112Aは、は、MB-RTKの補正情報に基づく第2位置と相対位置から第1アンテナ位置2を導出する。
【0085】
関係算出部114は、相対位置ベクトル1を第1アンテナ位置1から第2位置とし、第2アンテナから見た第1アンテナの相対位置を相対位置ベクトル2とした場合、相対位置ベクトル2の起点が第2アンテナの測位結果となることから、第1アンテナ位置2は相対位置ベクトル1と相対位置ベクトル2との和の位置になる。そのため、判定部116は、第1アンテナ位置1と第1アンテナ位置2との絶対位置の差で判定すればよい。
【0086】
作用については、第1実施形態で
図7について説明した処理を、第1測位導出部112A及び関係算出部114について第3実施形態の処理に置き換えればよい。
【0087】
以上説明したように、第3実施形態に係る異常判定装置によれば、測位における絶対位置の位置関係の誤差が大きな解を排除して測位精度を担保することができる。
【0088】
[第3実施形態の変形例]
次に第3実施形態の変形例について説明する。なお、第3実施形態と同様の構成及び作用となる箇所については同一符号を付して説明を省略する。
図14に示すように、第3実施形態の変形例では相互の相対位置ベクトルを用いる。
図15に示すように第3実施形態の変形例の構成は、第3実施形態の構成に対して、相互に補正情報を用いて測位結果の導出を行う。すなわち、第1GNSS受信機110A側からMB-RTKの基準局側としての補正情報を第2測位導出部112Bに出力すると共に、第2GNSS受信機110B側からMB-RTKの基準局側としての補正情報を第1測位導出部112Aに出力する。
【0089】
なお、第1測位導出部112Aにより測位した第1位置についてのフィックス解を、判定される対象として用いる。
【0090】
第1GNSS受信機110Aは、観測結果を出力しつつ、MB-RTKの基準局側としての補正情報を第2測位導出部112Bに出力する。
【0091】
第2GNSS受信機110Bは、観測結果を出力しつつ、MB-RTKの基準局側としての補正情報を第1測位導出部112Aに出力する。
【0092】
第1測位導出部112Aは、基準局からの補正情報に基づくRTK-GNSSによって第1アンテナ位置のフィックス解を測位しつつ、MB-RTKの補正情報に基づいて第2アンテナから見た第1アンテナの相対位置ベクトル1を導出する。この時、第2アンテナ側は必ずしもRTK―GNSSを行う必要はなくコード測位でも動作可能である。
【0093】
第2測位導出部112Bは、MB-RTKの補正情報に基づいて第1アンテナから見た第2アンテナの相対位置ベクトル2を導出する。
【0094】
関係算出部114は、第1アンテナから見た第2アンテナの相対位置ベクトル1と第2アンテナから見た第1アンテナの相対位置ベクトル2を2種類の相対位置関係として出力する。
【0095】
判定部116は、関係算出部114から出力された相対位置ベクトル1と相対位置ベクトル2との和が閾値以上であるか否かを判定する。閾値以下である場合は、第1アンテナ位置のフィックス解を測位結果として出力する。閾値以上である場合は、ミスフィックスとして判定して測位結果を出力しない。
【0096】
作用については、第1実施形態で
図7について説明した処理を、第1測位導出部112A、第2測位導出部112B、関係算出部114、及び判定部116について第3実施形態の変形例の処理に置き換えればよい。
【0097】
以上説明したように、第3実施形態の変形例に係る異常判定装置によれば、測位における相互の相対位置ベクトルの和を用いて、位置関係の誤差が大きな解を排除して測位精度を担保することができる。
【0098】
[実験例]
以上、説明した各実施形態に係る実験例について説明する。
図16は、実験結果の一例を示す図である。
図16の上段のグラフは、1m近い測位誤差をもつミスフィックスが発生していることを示している。中段のグラフは、本発明の第1実施形態の手法を用いてミスフィックス判定を行った場合の一例である。判定閾値は3cmとした。グラフの正しいフィックス解の左上部に存在していた大きな測位誤差をもつミスフィックスが排除されていることがわかる。下段のグラフは、本発明の第2実施形態の手法を更に用いてミスフィックス判定を行った場合の一例である。推測航法による車体の方位を使用した水平面の相対位置ベクトル差の大きさを用いて判定を行い、判定閾値は3cmとした。正しいフィックス解の周辺にあった比較的小さな測位誤差のミスフィックスも一部排除され、測位誤差が改善されていることがわかる。
【0099】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0100】
例えば、車両の前方及び後方にアンテナを配置する場合を例に説明したが、アンテナの配置はこれに限定されるものではなく、左右、斜め等の配置であってもよい。
【0101】
また、3つ以上のアンテナを使用する場合、2つずつのアンテナの各組で上記判定処理を行えばよい。また、各判定処理を複数組み合わせてもよい。
【0102】
また測位結果の導出、位置関係を示す値の算出、及び判定の各処理について各実施形態を組み合わせてもよい。
【0103】
また、第2実施形態における各種センサにおいて、方位を、地磁気センサ、地図とのマッチング等により求めるようにしてもよい。
【0104】
また、位置関係を示す値を用いる場合を例に説明したが、これにGNSSドップラーによる速度ベクトルの差分を用いることもできる。この場合、車体の回転運動成分を慣性センサによる推測航法(ヨーレート等)で取得し、相対速度ベクトル差を求めるようにすればよい。
【0105】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した異常判定処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、異常判定処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0106】
また、上記各実施形態では、異常判定処理のプログラムがROMまたはストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0107】
100、200、300 異常判定装置
110 GNSS受信機
110A 第1GNSS受信機
110B 第2GNSS受信機
112 測位導出部
112A 第1測位導出部
112B 第2測位導出部
114 関係算出部
116 判定部
210 各種センサ
212 姿勢推定部
1002 補正情報取得部
1004 衛星判定選択部
1006 搬送波位相測位計算部