(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート板、およびコンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/38 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
E04B5/38 A
(21)【出願番号】P 2020120173
(22)【出願日】2020-07-13
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】313017001
【氏名又は名称】日本カイザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二宮 一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 法喬
(72)【発明者】
【氏名】片山 博之
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-107498(JP,A)
【文献】特開平09-100503(JP,A)
【文献】特開2001-271494(JP,A)
【文献】実開平01-019752(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/32,5/36,5/38
E04B 1/16
E04C 2/30
E04G 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物を構築するためにあらかじめ製造されて用いられるプレキャストコンクリート板であって、
鉄筋が埋め込まれた鉄筋コンクリート板と、
上記鉄筋コンクリート板の側端部に打ち込まれた鋼材片と、
上記鋼材片
の垂直壁における、上記プレキャストコンクリート板を形成するための型枠
側の方向に突出した位置で、かつ、上記型枠を逃げる位置に取り付けられた高さ位置調整ナットと、
を有することを特徴とするプレキャストコンクリート板。
【請求項2】
請求項1のプレキャストコンクリート板であって、
上記鋼材片は、上記鉄筋コンクリート板の上面よりも高い突出部を有し、
上記高さ位置調整ナットは、上記鉄筋コンクリート板の側方端面より外方側、かつ、上面より上方に配置されていることを特徴とするプレキャストコンクリート板。
【請求項3】
請求項1のプレキャストコンクリート板であって、
上記鉄筋コンクリート板は、側端部に凹部を有し、
上記鋼材片、および高さ位置調整ナットは、上記凹部内に配置されていることを特徴とするプレキャストコンクリート板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうち何れか1項のプレキャストコンクリート板であって、
さらに、上記鋼材片における上記プレキャストコンクリート板の上面よりも高い位置に、上記プレキャストコンクリート板における水平方向位置調整ナットを有することを特徴とするプレキャストコンクリート板。
【請求項5】
請求項4のプレキャストコンクリート板を用いたコンクリート構造物の構築方法であって、
上記鉄筋コンクリート板における上記高さ位置調整ナット、および上記水平
方向位置調整ナットが設けられた端部を支持鉄骨上に載置し、上記高さ位置調整ナットに調整ボルトを螺合させて上記調整ボルトの先端を上記支持鉄骨に当接させることにより、上記プレキャストコンクリート板の上記端部の高さ位置を調整し、
上記水平
方向位置調整ナットに調整ボルトの先端部を螺合させるとともに、上記調整ボルトの他端部、または上記他端部に螺合させたナットを上記支持鉄骨に当接させることにより、上記プレキャストコンクリート板の水平
方向位置を調整した後、
上記プレキャストコンクリート板上に上方鉄筋を配置し、コンクリートを打設することを特徴とするコンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート板に関し、特に、鉄骨造構造物に用いられる鉄筋コンクリート造りのバルコニーや、庇、廊下等に用いられる片持ちスラブ用のプレキャストコンクリート板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造構造物に用いられる鉄筋コンクリート造りのバルコニー等は、プレキャストコンクリート板を用いた片持ちスラブによって構築されることがある。より詳しくは、例えば、プレキャストコンクリート板の根本側の縁部が鉄骨上に載置され、先端側部分は支保工に支持された状態で、上端筋等が配筋され、プレキャストコンクリート板上などにコンクリートが打設されることによって構築される。
【0003】
ここで、上記プレキャストコンクリート板の縁部が鉄骨上に載置される際には、高さ方向や出入り方向(根本側と先端側とを結ぶ方向)の位置を調整して位置合わせする必要がある。この位置合わせは、例えばプレキャストコンクリート板をわずかに吊り上げた状態で、根本側の縁部と鉄骨との間にライナープレートを挿入したり、レバーブロック(登録商標)などによってプレキャストコンクリート板を水平方向に移動させたりすることによって行うことができるが、その作業は、多くの場合、容易な作業ではない上、位置合わせの精度を高くすることも困難である。
【0004】
プレキャストコンクリート板の高さ方向の位置を調整する技術としては、例えばプレキャストコンクリートカーテンウォールの固定に関して、荷重受けナットが溶接されたアングルを荷重受けブロック部の下部に打ち込み、上記ナットにボルトをねじ込んで位置決めする技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように荷重受けナットが溶接されたアングルを荷重受けブロック部の下部に打ち込むようにしてプレキャストコンクリート板を製造する場合、コンクリートを流し込むための型枠は、上記荷重受ナットが干渉しないように逃げを設ける加工などを必要とし、型枠の構造が複雑化するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、施工時のプレキャストコンクリート板の位置決めを容易にしつつ、プレキャストコンクリート板の製造を容易にできるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、
コンクリート構造物を構築するためにあらかじめ製造されて用いられるプレキャストコンクリート板であって、
鉄筋が埋め込まれた鉄筋コンクリート板と、
上記鉄筋コンクリート板の側端部に打ち込まれた鋼材片と、
上記鋼材片における上記プレキャストコンクリート板を形成するための型枠を逃げる位置に設けられた高さ位置調整ナットと、
を有することを特徴としている。
【0009】
これにより、型枠は、特に高さ位置調整ナットの干渉を回避するための加工をしたりする必要がなく、簡潔な形状、構造に形成することができるので、プレキャストコンクリート板の製造を容易にできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、施工時のプレキャストコンクリート板の位置決めを容易にしつつ、プレキャストコンクリート板の製造を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】プレキャストコンクリート板の構成を示す側面図である。
【
図2】プレキャストコンクリート板の調整部材の構成を示す平面図である。
【
図3】プレキャストコンクリート板の調整部材の構成を示す正面図である。
【
図4】プレキャストコンクリート板の調整部材の構成を示す側面図である。
【
図5】プレキャストコンクリート板の縁部が載置される鉄骨の構成を示す斜視図である。
【
図6】プレキャストコンクリート板の位置調整の例を示す斜視図である。
【
図7】プレキャストコンクリート板の高さ位置調整の例を示す側面図である。
【
図8】プレキャストコンクリート板の出入り方向の位置調整の例を示す側面図である。
【
図9】変形例のプレキャストコンクリート板の調整部材の構成を示す側面図である。
【
図10】変形例のプレキャストコンクリート板の調整部材の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、またはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0013】
(コンクリート構造物の構成)
鉄骨造りのコンクリート構造物におけるバルコニー等は、例えば
図1に示すように、プレキャストコンクリート板201を用いた片持ちスラブによって構築される。より詳しくは、例えば、プレキャストコンクリート板201の根本側の縁部が鉄骨101上に載置され、先端側部分はサポート311と大引312とを有する支保工に支持された状態で、プレキャストコンクリート板201上に、上端筋401等が配筋され、コンクリート402が打設されることによって構築される。
【0014】
上記鉄骨101は、例えば上フランジ111a、下フランジ111b、およびウェブ111cを有するI形断面部材111を用いて構成されている。上記ウェブ111cには、プレキャストコンクリート板201の根本側の縁部が載置される水平支持プレート112が設けられ、リブ113によって補強されている。
【0015】
(プレキャストコンクリート板201の構成)
上記プレキャストコンクリート板201は、バルコニー等の現場での施工に先立って、プレキャスト工場で製作されて、現場に運び込まれる。このプレキャストコンクリート板201は、例えば、トラス筋210の一部が、鉄筋コンクリート板220に埋設されて成っている。上記鉄筋コンクリート板220は、格子状に配置された図示しない下端配力筋や、下端主筋がコンクリート板に埋め込まれて形成されている。また、上記トラス筋210は、より詳しくは、1本のトップ筋211と、上記トップ筋211に平行な2本の図示しないボトム筋のそれぞれとが、波形の2本のラチス筋212で接合されて構成され、上記2本のボトム筋と、ラチス筋212の下方部分とが、鉄筋コンクリート板220に埋設されるようになっている。なお、トップ筋211やボトム筋は、より強度や剛性を高めるために、さらに1本以上設けられるなどしてもよい。上記のようなトラス筋210は、現場打ちコンクリート硬化後に、その現場打ちコンクリートとの一体性を保つ機能を有するとともに、上記現場打ちコンクリートを打設するときの荷重に抗する機能を有している。
【0016】
上記プレキャストコンクリート板201の根本側の縁部には、プレキャストコンクリート板201の高さ位置、および水平方向位置(
図1における左右方向の出入り方向位置)を調整する位置調整部材501が設けられている。上記位置調整部材501は、例えば
図2~
図4に示すように、鋼材片511に高さ位置調整ナット512と水平方向位置調整ナット513とが溶接されて構成されている。より詳しくは、鋼材片511は、垂直壁と、下側水平壁と、上側水平壁とから成る断面コの字形状を有し、高さ位置調整ナット512は、上記垂直壁に設けられるとともに、水平方向位置調整ナット513は、上記上側水平壁に設けられている。鋼材片511の内方側には、例えばアンカー筋514が溶接されている。なお、鋼材片511としては、垂直壁と上側水平壁とを有するアングル材などが用いられてもよい。
【0017】
上記位置調整部材501は、プレキャストコンクリート板201がプレキャスト工場で製作される際に、例えば
図2~
図4に示すように底板601aと側壁601bとが設けられた型枠601内に配置されてコンクリートが打設されることにより、鉄筋コンクリート板220の側端部に打ち込まれている。ここで、鋼材片511の垂直壁は、型枠601の側壁よりも高く形成され、高さ位置調整ナット512は、鋼材片511の垂直壁における、型枠601の側壁の上縁よりも上方の外方側、すなわち、鉄筋コンクリート板220の側方端面より外方側、かつ、上面より上方に配置され、型枠601を逃げる位置に溶接されている。このため、例えば鋼材片511の垂直壁の外面が、型枠601の側壁601bの内面に沿って、すなわち鉄筋コンクリート板220の側端面と面一になるように配置される場合でも、型枠601は、特に高さ位置調整ナット512の干渉を回避するための加工をしたりする必要がなく、簡潔な形状、構造に形成することができる。
【0018】
(プレキャストコンクリート板201の位置調整)
上記のようなプレキャストコンクリート板201は、前記
図1に示したように鉄骨101および支保工上に複数敷き込みされた際に、互いに目違いや目開きが生じないように、高さ位置や出入り方向位置が以下のようにして調整される。
【0019】
まず、例えば、
図5に示すように、鉄骨101のI形断面部材111の上フランジ111aに、出入り方向の位置決め(仮決め)のための当たり止めプレート121がクランプ122によって固定される。また、鉄骨101の水平支持プレート112に切欠部123aを有する反力受けプレート123が溶接により立設されている。上記水平支持プレート112上に、
図6に示すようにプレキャストコンクリート板201の根本側の縁部が載置された後、
図7に示すように、高さ位置調整ナット512に高さ位置調整ボルト521がねじ込まれることにより、高さ位置調整ボルトの下端が鉄骨101の水平支持プレート112に当接し、プレキャストコンクリート板201の高さ調整が行われる(ここで、
図7では、便宜上、水平方向位置調整ナット513等は省略されて描かれている。)。また、
図8に示すように、水平方向位置調整ボルト522が水平方向位置調整ナット513にねじ込まれ、ダブルナット523によって固定されるとともに、鉄骨101の水平支持プレート112に立設された反力受けプレート123が挟持プレート124・124の間に挟み込まれ、さらにその両面側に位置決めナット524・524が取り付けられる(ここで、
図8では、便宜上、高さ位置調整ナット512等は省略されて描かれている。)。そこで、当たり止めプレート121(
図5)が取り外された後に、位置決めナット524・524の一方が締め付けられ、他方が緩められることにより、水平方向位置調整ボルト522が、
図8における左方向に押し出され、または右方向に引き込まれることにより、プレキャストコンクリート板201の水平方向の位置調整が行われる。
【0020】
上記のようにプレキャストコンクリート板201の位置調整が行われた後、プレキャストコンクリート板201上に、上端筋401等が配筋され、コンクリート402が打設されることによって、片持ちスラブによるバルコニー等が構築される。
【0021】
(変形例)
高さ位置調整ナット512は、型枠601を逃げる位置に設けられるようにするためには、上記のように鉄筋コンクリート板220の側方端面より外方側、かつ、上面より上方に配置されるのに限らず、例えば
図9、
図10に示すように、鉄筋コンクリート板220が側端部に凹部を有し、鋼材片511、および高さ位置調整ナット512が、上記凹部内に配置されるようにしてもよい。ここで、上記のような凹部は、プレキャストコンクリート板201の位置決め後に打設されるコンクリートによって埋められることになる。上記のように高さ位置調整ナット512等が、鉄筋コンクリート板220の製造時に型枠に干渉しないようにセットバックされることにより、やはり、型枠は、特に高さ位置調整ナット512の干渉を回避するための加工をしたりする必要がなく、簡潔な形状、構造に形成することができる。
【符号の説明】
【0022】
101 鉄骨
111 I形断面部材
111a 上フランジ
111b 下フランジ
111c ウェブ
112 水平支持プレート
113 リブ
121 当たり止めプレート
122 クランプ
123 反力受けプレート
123a 切欠部
124 挟持プレート
201 プレキャストコンクリート板
210 トラス筋
211 トップ筋
212 ラチス筋
220 鉄筋コンクリート板
311 サポート
312 大引
401 上端筋
402 コンクリート
501 位置調整部材
511 鋼材片
512 高さ位置調整ナット
513 水平方向位置調整ナット
514 アンカー筋
521 高さ位置調整ボルト
522 水平方向位置調整ボルト
523 ダブルナット
524 位置決めナット
601 型枠
601a 底板
601b 側壁