(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】掻上装置及び肩形成機
(51)【国際特許分類】
E01B 27/04 20060101AFI20240426BHJP
E01B 27/02 20060101ALI20240426BHJP
E01H 1/02 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
E01B27/04
E01B27/02
E01H1/02
(21)【出願番号】P 2020133998
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】597110995
【氏名又は名称】株式会社レールテック
(73)【特許権者】
【識別番号】512305534
【氏名又は名称】松井軌道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛
(72)【発明者】
【氏名】安井 利至
(72)【発明者】
【氏名】手塚 稔
(72)【発明者】
【氏名】松井 十三
(72)【発明者】
【氏名】座光寺 信行
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-017405(JP,U)
【文献】実開昭54-109209(JP,U)
【文献】特開平09-268508(JP,A)
【文献】特開2006-307437(JP,A)
【文献】特開2001-163023(JP,A)
【文献】特開2002-256503(JP,A)
【文献】実開平05-071202(JP,U)
【文献】特開平08-134809(JP,A)
【文献】実開昭50-150904(JP,U)
【文献】米国特許第04651198(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/04
E01B 27/02
E01H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト軌道の保守に用いられる掻上装置
と、
レール上を移動するための台車と、
前記台車に支持された車体と、
前記掻上装置を前記車体に支持する支持部とを備え、
前記掻上装置は、回転駆動される回転ブラシと、板面を有するバラスト止めとを備え、
前記回転ブラシは、使用時、道床法面に接し、道床法面のバラストを掻き上げる方向に回転し、
前記バラスト止めの板面は、使用時、前記回転ブラシに臨み、下端がまくらぎ端の上方に位置し、上にいくほど軌道外側に張り出していることを特徴とする
肩形成機。
【請求項2】
前記回転ブラシは、回転によって道床法面のバラストをまくらぎ端の方向に掻き上げ、
前記バラスト止めは、前記回転ブラシによって跳ね上がったバラストを、まくらぎ端から道床肩の間に落とすように構成されることを特徴とする請求項1に記載の
肩形成機。
【請求項3】
前記回転ブラシは、ブラシ台座と、前記ブラシ台座に放射状に取り付けられた複数のブラシ素材とを有し、
前記各ブラシ素材は、中空筒状であり、可撓性を有する樹脂材料から成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の
肩形成機。
【請求項4】
前記掻上装置は、複数の前記回転ブラシを有し、
前記複数の回転ブラシは、互いに前後にずらして配置され、
前記各回転ブラシは、使用時、上下及び左右位置が互いに異なることを特徴とする請求項
1に記載の肩形成機。
【請求項5】
前記掻上装置より後ろ側で前記車体に支持される形成装置をさらに備え、
前記形成装置は、所定形状の下端を有する板状であり、使用時、平面視でまくらぎ端から斜め外側後方に延出するように支持され、
前記所定形状は、前記形成装置の支持端から延出端に向けて次第に高くなっていることを特徴とする請求項
1に記載の肩形成機。
【請求項6】
前記形成装置は、使用時、該肩形成機の移動によって、道床肩の余剰バラストを道床法面に掻き出すことを特徴とする請求項
5に記載の肩形成機。
【請求項7】
前記掻上装置より後ろ側で前記車体に支持されるまくらぎ清掃部をさらに備え、
前記まくらぎ清掃部は、まくらぎの上面に平行な下端を有する板状であり、使用時、平面視でまくらぎ端から斜め内側前方に延出するように支持されることを特徴とする請求項
1に記載の肩形成機。
【請求項8】
前記まくらぎ清掃部は、使用時、該肩形成機の移動によって、軌間外のまくらぎ上にあるバラストを道床肩側に除去することを特徴とする請求項
7に記載の肩形成機。
【請求項9】
前記形成装置より前側で前記車体に支持される掻寄装置をさらに備え、
前記掻寄装置は、道床法面のバラストを掻き寄せるためのバックホウアタッチメントを有することを特徴とする請求項
5に記載の肩形成機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト軌道の保守に用いられる掻上装置、及びその掻上装置を有する肩形成機に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の線路は、軌道及びこれを支持するために必要な路盤、構造物を有する(非特許文献1参照)。軌道は、施工基面上の道床、軌きょうを有する。軌きょうは、レールとまくらぎとを、はしご状に組み立てたものである。道床は、レール又はまくらぎを支持する部分である。軌道には、バラスト軌道、スラブ軌道等がある。
【0003】
図9に示すように、バラスト軌道7は、道床73にバラスト(砕石)を用いた軌道である。バラストから成る道床73は、レール71が受ける列車荷重を、まくらぎ72を介して受け、路盤8に分散する。
【0004】
バラスト軌道は、列車荷重を繰り返し受けることによって徐々に変形する。このため、バラスト軌道は、保守によって変形の発生を許容範囲内に管理する必要がある。道床の断面形状を所定の形に整えることを道床整理という(非特許文献1参照)。
【0005】
従来から、バラスト道床整理機が知られている(特許文献1参照)。バラスト道床整理機は、道床ののり面の上に散在するバラストを、バラストレギュレータの羽根で、道床の平坦な面に掻き上げる(同文献の
図2、段落0009参照)。道床の平坦部に掻き出されたバラストは、バラストコンパクタの転圧パンによって転圧される(同文献の
図8、段落0010~0011参照)。このように、バラスト道床整理機は、羽根及び転圧パンで道床の断面形状を台形に整える。
【0006】
しかし、バラスト道床整理機は、レール上を移動しながら、バラストレギュレータの羽根でバラストを掻き上げるので、移動方向の反対方向にバラストから大きな抵抗を受ける。また、バラスト道床整理機は、レール上で停まった状態では、バラストを掻き上げることができない。さらに、バラストレギュレータの羽根が大きいため、線路に踏切障害物検知装置等の支障物がある所では、その前後でバラストの掻き上げができない区間が長くなる。
【0007】
羽根を用いずに道床整理を行う道床整正機が知られている(特許文献2参照)。道床整正機は、第1の回転ブラシおよび第2の回転ブラシを有し、第2の回転ブラシによって路肩法面部の余分なバラストを路肩平坦部にはね上げ、第1の回転ブラシによって路肩平坦部がならされる(同文献の第2頁右下欄参照)。このように、道床整正機は、第1及び第2の回転ブラシで道床の断面形状を台形に整える。
【0008】
上述したように、道床整理では、道床73の断面形状を台形に整える。道床法面75(のり面、法面部)が台形の斜辺(台形の脚)であり、平坦部78(平坦な面)が台形の上底である(
図9参照)。
【0009】
しかしながら、断面形状が台形に整えられた道床73は、道床法面75と平坦部78との成す角、すなわち道床肩74が崩れやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実開平5-71202号公報
【文献】特開昭56-401号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】JIS E 1001:2001「鉄道-線路用語」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題を解決するものであり、バラスト軌道の道床を、道床肩が崩れ難い形状に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の掻上装置は、バラスト軌道の保守に用いられる装置であって、回転駆動される回転ブラシと、板面を有するバラスト止めとを備え、前記回転ブラシは、使用時、道床法面に接し、道床法面のバラストを掻き上げる方向に回転し、前記バラスト止めの板面は、使用時、前記回転ブラシに臨み、下端がまくらぎ端の上方に位置し、上にいくほど軌道外側に張り出していることを特徴とする。
【0014】
この掻上装置において、前記回転ブラシは、回転によって道床法面のバラストをまくらぎ端の方向に掻き上げ、前記バラスト止めは、前記回転ブラシによって跳ね上がったバラストを、まくらぎ端から道床肩の間に落とすように構成されることが好ましい。
【0015】
この掻上装置において、前記回転ブラシは、ブラシ台座と、前記ブラシ台座に放射状に取り付けられた複数のブラシ素材とを有し、前記各ブラシ素材は、中空筒状であり、可撓性を有する樹脂材料から成ることが好ましい。
【0016】
本発明の肩形成機は、前記掻上装置と、レール上を移動するための台車と、前記台車に支持された車体と、前記掻上装置を前記車体に支持する支持部とを備えることを特徴とする。
【0017】
この肩形成機において、前記掻上装置は、複数の前記回転ブラシを有し、前記複数の回転ブラシは、互いに前後にずらして配置され、前記各回転ブラシは、使用時、上下及び左右位置が互いに異なってもよい。
【0018】
この肩形成機において、前記掻上装置より後ろ側で前記車体に支持される形成装置をさらに備え、前記形成装置は、所定形状の下端を有する板状であり、使用時、平面視でまくらぎ端から斜め外側後方に延出するように支持され、前記所定形状は、前記形成装置の支持端から延出端に向けて次第に高くなっていることが好ましい。
【0019】
この肩形成機において、前記形成装置は、使用時、該肩形成機の移動によって、道床肩の余剰バラストを道床法面に掻き出すことが好ましい。
【0020】
この肩形成機において、前記掻上装置より後ろ側で前記車体に支持されるまくらぎ清掃部をさらに備え、前記まくらぎ清掃部は、まくらぎの上面に平行な下端を有する板状であり、使用時、平面視でまくらぎ端から斜め内側前方に延出するように支持されることが好ましい。
【0021】
この肩形成機において、前記まくらぎ清掃部は、使用時、該肩形成機の移動によって、軌間外のまくらぎ上にあるバラストを道床肩側に除去することが好ましい。
【0022】
この肩形成機において、前記形成装置より前側で前記車体に支持される掻寄装置をさらに備え、前記掻寄装置は、道床法面のバラストを掻き寄せるためのバックホウアタッチメントを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の掻上装置及び肩形成機によれば、掻上装置の回転ブラシによって道床法面のバラストが掻き上げられるとともに、跳ね上がったバラストがバラスト止めの板面に当たって落ちるので、道床は、道床肩にバラストの余盛ができ、道床肩が崩れ難い形状になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る掻上装置の側面図。
【
図2】(a)は同掻上装置の回転ブラシの構成を示す斜視図、(b)は同回転ブラシの構成を中心軸の方向から見た図、(c)は同回転ブラシの構成を中心軸に垂直な方向から見た図。
【
図6】同肩形成機におけるまくらぎ清掃部の立面図。
【
図8】本発明の一実施形態の変形例に係る掻上装置の側面図。
【
図11】同掻上装置を用いた試験における回転ブラシの位置を示す立面図。
【
図12】(a)~(c)は同試験におけるまくらぎ上面高さからの掻き上げの測定結果を示す図。
【
図13】(a)~(c)は同試験におけるまくらぎ下面高さからの掻き上げの測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態に係る掻上装置及び肩形成機を
図1乃至
図8を参照して説明する。
図1に示すように、掻上装置1は、バラスト軌道7の保守に用いられる装置である。
【0026】
バラスト軌道7は、レール71、まくらぎ72及び道床73を有する。道床73は、バラストから成る。道床肩74は、道床法面75の頂部である。掻上装置1は、道床肩74に、バラストが盛り上がった余盛76(斜線で示す部分)を作るものである。
【0027】
掻上装置1は、回転ブラシ2と、バラスト止め3とを備える。回転ブラシ2は、回転駆動されるブラシである。バラスト止め3は、板面31を有する。回転ブラシ2は、使用時、道床法面75に接し、道床法面75のバラストを掻き上げる方向(
図1の矢印方向)に回転する。バラスト止め3の板面31は、使用時、回転ブラシ2に臨み、下端32がまくらぎ端77の上方に位置し、上にいくほど軌道外側に張り出している。
【0028】
回転ブラシ2は、回転によって道床法面75のバラストをまくらぎ端77の方向に掻き上げる。バラスト止め3は、回転ブラシ2によって跳ね上がったバラストを、まくらぎ端77から道床肩74の間に落とす。掻上装置1は、このように動作するように構成される。
【0029】
図2(a)に示すように、回転ブラシ2は、ブラシ台座21と、複数のブラシ素材22とを有する。
図2(b)に示すように、複数のブラシ素材22は、ブラシ台座21に放射状に取り付けられる。
図2(c)に示すように、各ブラシ素材22は、中空筒状であり、可撓性を有する樹脂材料から成る。
【0030】
図3に示すように、掻上装置1は、肩形成機10に搭載される。肩形成機10は、線路の保守作業に使用する機械である。
【0031】
肩形成機10は、掻上装置1と、台車11と、車体12と、支持部13とを備える。台車11は、肩形成機10がレール上を移動するための装置である。車体12は、台車11に支持される。支持部13は、掻上装置1を車体12に支持する部分である。
【0032】
図4に示すように、肩形成機10は、掻上装置1に加えて、形成装置4をさらに備える。形成装置4は、掻上装置1より後ろ側(
図4の右側)で車体12に支持される。なお、
図3では形成装置4の図示を省略している。
【0033】
図5に示すように、形成装置4は、所定形状の下端41を有する板状である。その所定形状は、形成装置4の支持端42から延出端43に向けて次第に高くなっている。形成装置4は、使用時、平面視でまくらぎ端77から斜め外側後方に延出するように支持される(
図4及び
図5参照)。
【0034】
形成装置4は、使用時、肩形成機10の移動によって、道床肩74の余剰バラストを道床法面75に掻き出す。なお、
図4において、肩形成機10の移動方向を白抜き矢印で示す。
【0035】
図6に示すように、肩形成機10は、掻上装置1に加えて、まくらぎ清掃部5をさらに備える。まくらぎ清掃部5は、掻上装置1より後ろ側で車体12に支持される。まくらぎ清掃部5は、まくらぎ72の上面に平行な下端51を有する板状である。
図7に示すように、まくらぎ清掃部5は、使用時、平面視でまくらぎ端77から斜め内側前方に延出するように支持される。
【0036】
まくらぎ清掃部5は、使用時、肩形成機10の移動によって、軌間外(レール71より外側)のまくらぎ72上にあるバラストを道床肩74側に除去する。なお、
図7において、肩形成機10の移動方向を白抜き矢印で示す。
【0037】
肩形成機10は、掻上装置1に加えて、掻寄装置6をさらに備える(
図3及び
図4参照)。掻寄装置6は、形成装置4より前側で車体12に支持される。掻寄装置6は、バラストを掻き寄せるためのバックホウアタッチメント61を有する。
【0038】
掻上装置1及び肩形成機10についてさらに詳述する(
図1参照)。バラスト軌道の保守にマルチプルタイタンパが用いられる。マルチプルタイタンパとは、道床バラストを連続してつき固める大型機械である(非特許文献1の番号513参照)。肩形成機10は、マルチプルタイタンパ作業によって崩れ落ちたパラストを掻上装置1で掻き上げて余盛76を作り、余盛76を有する道床肩74を形成する機械である。肩形成機10を用いることにより、現場における作業員の負担軽減及び作業人員の削減が図られる。
【0039】
肩形成機10は、道床肩の形成に直接かかわる装置として、本実施形態では、前から順に、掻寄装置6、掻上装置1、形成装置4を有する(
図4参照)。肩形成機10は、それら3つの装置以外に、まくらぎ清掃部5、油圧装置14、発電装置15、配電盤16等を有する。
【0040】
肩形成機10は、レール71上を車輪で移動できる保守用機械である(
図3参照)。掻上装置1は、使用時、回転ブラシ2が道床法面75に接する位置にあるので、肩形成機10の車両限界を超える(
図1参照)。車両限界とは、車両のどの部分も超えてはならない左右・上下の限界である(非特許文献1の番号114参照)。肩形成機10は、回送時、線路を走行するので、車両限界を遵守する必要がある(鉄道に関する技術上の基準を定める省令第六十四条参照)。掻上装置1は、肩形成機10の回送時、車両限界内に収容される。また、掻寄装置6、形成装置4及びまくらぎ清掃部5も、使用時、車両限界を超え、肩形成機10の回送時、車両限界内に収容される。
【0041】
掻寄装置6は、バラストをまくらぎ端に掻き寄せる装置であり、線路に支障物があるために掻上装置1が使用できない支障箇所で用いられる。掻寄装置6は、バックホウアタッチメント61及び上部旋回体62を有し、旋回可能に車体12上に搭載される。掻寄装置6は、使用しない時、前方に向けられ(
図4の実線)、使用時、左又は右方向(道床法面75がある方向)に向けられる(
図4の2点鎖線)。
【0042】
JIS(日本産業規格)によれば、バックホウの完成機は、作業装置、上部旋回体及び下部走行体から構成される(JIS A 8403-1「土工機械-油圧ショベル-第1部:用語及び仕様項目」参照)バックホウアタッチメントとは、ブーム、アーム、リンク機構及びホウバケットから成り、ホウバケットを手前に引きながら、主として地面より低い所を掘削する作業装置の一種である(同JIS参照)。
【0043】
掻寄装置6のバックホウアタッチメント61は、使用時、車体12より低い道床法面75のバラストをホウバケット611で掻き寄せる。なお、肩形成機10が台車11及び車体12を有するので、バックホウ単独の下部走行体は不要であるが、掻寄装置6として、小型のバックホウの完成機を車体12上に搭載しても構わない。
【0044】
掻上装置1は、道床法面75に崩れ落ちたバラストを、連続的にまくらぎ端77の方向に掻き上げる装置である(
図1参照)。単線区間のバラスト軌道に対応するため、掻上装置1は、肩形成機10の左右に各1台配置される(
図4参照)。掻上装置1は、使用時、支持部13によって軌道外側に張り出して下降し、道床法面75に接し、回送時、支持部13によって上昇して引き込まれ、車両限界内に収容される。なお、本実施形態では、掻上装置1のバラスト止め3は、常時車両限界内であり、掻上装置1の回転ブラシ2が支持部13によって支持される。
【0045】
本実施形態では、回転ブラシ2は、バラストを掻き上げる能力を高めるため、中心軸(回転中心軸)がレール長手方向に対して平行である。道床法面75の広い上下範囲のバラストを掻き上げるために、回転ブラシ2を道床法面75に沿って下降及び上昇させてもよい。
【0046】
本実施形態の変形例として、
図8に示すように、掻上装置1は、複数の回転ブラシ2を有してもよい。肩形成機10において、複数の回転ブラシ2a、2bは、互いに前後にずらして配置される。各回転ブラシ2a、2bは、使用時、上下及び左右位置が互いに異なる。複数の回転ブラシ2a、2bが互いに前後にずらして配置されることにより、回転ブラシ2a、2bの干渉が避けられる。各回転ブラシ2a、2bは、使用時、上下及び左右位置が互いに異なることにより、1つの回転ブラシ2よりも広い範囲のバラストを掻き上げることができる。なお、回転ブラシ2を3つ以上設けてもよい。
【0047】
回転ブラシ2のブラシ台座21は、円柱形状である(
図2(a)参照)。ブラシ台座21は、円柱形状であり、中心軸があるので、ブラシ軸とも呼ばれる。ブラシ素材22は、ブラシ台座21に植え立てるように取り付けられる。ブラシ素材22の基部は、ブラシ台座21の円筒面に螺旋状に配置される(
図2(c)参照)。この配置により、ブラシ台座21の中心軸に対する複数のブラシ素材22の偏角が分散するので、回転ブラシ2が回転中にバラストから受ける力の変動が小さくなる。
【0048】
一般的な回転ブラシのブラシ素材(毛材)は中実である。しかし、本実施形態では、ブラシ素材22は、樹脂製のホースであり、中空筒状である。ブラシ素材22の樹脂材料は、ポリアミド樹脂であり、可撓性を有する。可撓性を有するブラシ素材22は、バラストに当たると若干撓んで応力に耐え、バラストが離れると撓みが解消し、形状が復元する。中空筒状のブラシ素材22は、中実よりも軽いので、自重で撓み難く、中実よりも固有振動数が高いので、形状の復元が早い。
【0049】
バラスト止め3は、回転ブラシ2から飛来するバラストを受けるので、キャッチャーとも呼ばれる(
図1参照)。バラスト止め3は、例えば鉄板である。回転ブラシ2によって掻き上げられたバラストが軌きょう内に入らないように、バラスト止め3の下端32とまくらぎ端77との離隔が小さく設定される。バラスト止め3の板面31は、本実施形態では、斜め下向きの平面を有する。板面31を凹曲面としてもよい。回転ブラシ2によって跳ね上がったバラストは、バラスト止め3の板面31に当たり、まくらぎ端77から道床肩74の間に落ちる。これにより、道床肩74にバラストの余盛76ができるとともに、バラストが肩形成機10上の作業員等に当たることが防がれる。
【0050】
掻上装置1は、バラスト止め3以外に、バラスト飛散防止のためのカバー23を有する(
図1参照)。
【0051】
形成装置4は、掻上装置1によって余盛76が作られた後、前方に移動しながら余剰バラストを道床法面75に掻き出し、道床肩74の形状を仕上げる装置である(
図4参照)。平面視で、後方(レール長手方向に平行な方向)に対する形成装置4の角度αは、例えば65°である。本実施形態では、形成装置4の下端41の形状は直線である(
図5参照)。形成装置4の支持端42における下端41は、まくらぎ端77の近傍である。下端41は、支持端42から延出端43に向けて次第に高くなっており、例えば在来線(軌間1067mm)の場合、軌道断面視で、まくらぎ端77から水平に400mm離れた位置で、まくらぎ端77より約100mm高い。形成装置4の延出端43は、まくらぎ端77から水平に約500mmである。余盛76を有する道床肩74の形状は、掻上装置1でほぼ形成され、形成装置4は、道床法面75のバラストを掻き上げる必要がないので、バラストから受ける抵抗は小さい。
【0052】
まくらぎ清掃部5は、マルチプルタイタンパ作業によって軌間外のまくらぎ72上に散在するバラストを、前方に移動しながら道床肩74側に除去する板状部材である(
図6参照)。平面視で、前方(レール長手方向に平行な方向)に対するまくらぎ清掃部5の角度θは、例えば35°である。まくらぎ72上に散在するバラストは、ごく僅かであるので、まくらぎ清掃部5がバラストから受ける抵抗は小さい。
【0053】
肩形成機10の油圧装置14は、自走のための油圧モータ、及び各装置の動作用の油圧を発生する。発電装置15は、各装置の制御、照明等に必要な電力を供給する(
図3)。
【0054】
上記のように構成された肩形成機10を用いた作業について説明する。作業準備として、肩形成機10をマルチプルタイタンパで作業現場まで牽引する。現場到着後、マルチプルタイタンパから肩形成機10を切り離す。その後、肩形成機10は自走する。
【0055】
作業開始位置で、掻上装置1、形成装置4及びまくらぎ清掃部5を使用時の位置にセットする。掻上装置1の回転ブラシ2を回転しながら、肩形成機10を低速で前進させる。掻上装置1及び形成装置4によって余盛76を有する道床肩74が形成される。
【0056】
支障物がある場合、その手前で肩形成機10を停める。支障物は、掻上装置1の作業範囲内にある建植物やトラフ等である。掻上装置1を停止し、元の位置に戻す。そして、掻寄装置6を使用時の位置にセットし、支障箇所(支障物の周囲)で掻寄装置6を使用する。
【0057】
支障箇所での作業後、掻寄装置6を停止し、元の位置に戻す。
【0058】
肩形成機10が支障箇所を通過した後、掻上装置1を使用時の位置にセットし、使用を再開する。
【0059】
肩形成機10による作業が終了すると、掻上装置1、形成装置4、まくらぎ清掃部5及び掻寄装置6を車両限界内に収容し、肩形成機10を回送する。
【0060】
以上、本実施形態に係る掻上装置1及び肩形成機10によれば、掻上装置1の回転ブラシ2によって道床法面75のバラストが掻き上げられるとともに、跳ね上がったバラストがバラスト止め3の板面31に当たって落ちるので、道床73は、道床肩74にバラストの余盛76ができ、道床肩74が崩れ難い形状になる。
【0061】
回転ブラシ2のブラシ素材は、可撓性を有する樹脂材料から成るので、バラストに当たると撓んで応力に耐え、中空筒状であるので、撓みの解消が早く、自重で撓み難い。
【0062】
肩形成機10が掻上装置1より後ろ側に形成装置4を備えるので、掻上装置1で道床肩74に余盛76が作られた後、形成装置4によって道床肩74の形状が仕上げられる。
【0063】
肩形成機10がまくらぎ清掃部5を備えるので、軌間外のまくらぎ72上のバラストが道床肩74側に除去される。
【0064】
肩形成機10が掻寄装置6を備えるので、線路に支障物があるために掻上装置1が使用できない支障箇所で、道床法面75のバラストを掻き寄せて、道床肩74に余盛76を作ることができる。
【実施例1】
【0065】
図10の写真に示すように、掻上装置1を試作した。試作した掻上装置1を用いて、試験線(試験専用の線路)で試験を実施した。試験線の道床73は、まくらぎ端77から軌道外側に600mmの位置に道床肩74がある(
図9参照)。試験の初期状態として、その道床肩74を道床法面75に崩した状態にした。そして、掻上装置1で道床法面75のバラストを掻き上げた(
図1参照)。
【0066】
掻上装置1の回転ブラシ2の中心軸の向きの影響を試験した。回転ブラシ2の中心軸をレール長手方向に対して平行に設定した。その結果、掻上装置1は、バラストを道床肩74まで掻き上げることができた。
【0067】
(比較例1)
回転ブラシ2の中心軸をレール長手方向に対して斜めに傾け、回転ブラシ2を道床法面75に接触させた。その結果、バラストが道床肩74まで掻き上がらずに道床法面75に崩れ落ち、掻上装置1は、十分な掻き上げ性能を得られなかった。
【0068】
実施例1及び比較例1に基づいて、以後の試験では、回転ブラシ2の中心軸をレール長手方向に対して平行にした。
【実施例2】
【0069】
回転ブラシ2の長さ(中心軸方向の長さ)の影響を試験した。回転ブラシ2の長さを、800mm、400mm、320mmとした(
図2(b)参照)。その結果、いずれの回転ブラシ2を有する掻上装置1も、バラストを道床肩74まで掻き上げることができた。
【0070】
(比較例2)
回転ブラシ2の長さを、実施例2よりも短い230mmとした。その結果、バラストが道床肩74まで掻き上がらず、道床法面75に崩れ落ちるバラストが多かった。
【実施例3】
【0071】
回転ブラシ2の回転速度の影響を試験した。回転ブラシ2の回転速度を60rpmとした。その結果、掻上装置1は、バラストを道床肩74まで掻き上げる能力があり、バラストの蓄積位置が安定した。
【0072】
(比較例3)
回転ブラシの回転速度を実施例3より速い90rpmにした。その結果、掻上装置1は、バラストを道床肩74まで掻き上げる能力は十分あるが、バラストの勢いが強く、バラスト止め3によるバラストの飛散と騒音の発生があった。
【0073】
逆に、回転ブラシ2の回転速度を実施例3より遅い50rpmにした。その結果、バラストは、道床肩74まで掻き上げられず、道床法面75に崩れ落ちるバラストが多かった。
【実施例4】
【0074】
回転ブラシ2の高さ方向の位置の影響を試験した。
図11に示すように、回転ブラシ2の道床法面75に接する箇所の中央の高さをまくらぎ72の上面と同じ高さH1にした。掻上装置1をレール長手方向に移動しながら掻き上げを施工し、移動距離5m、10m、15mの各地点で、道床肩74近くの道床73の形状を測定した。その測定結果を
図12(a)~(c)に示す。
図12(a)は移動距離5mの地点での測定結果、
図12(b)は移動距離10mの地点での測定結果、
図12(c)は移動距離15mの地点での測定結果を示す。横軸は、まくらぎ端から軌道外側向きの水平位置(mm)である。縦軸は、まくらぎ端の上面に対する高さ(mm)である。グラフの点線は掻き上げ施工前の測定値、一点鎖線は目標値、実線は掻き上げ施工後の測定値である。掻き上げ施工後、バラストがまくらぎ端から400mmの水平範囲に蓄積し、まくらぎ端から水平に400mm離れた位置に約100mmの高さの余盛ができた。掻き上げ施工後の測定値は、目標値に近かった。
【0075】
(比較例4)
回転ブラシ2の道床法面75に接する箇所の中央の高さをまくらぎ72の下面と同じ高さH2にした(
図11参照)。掻上装置1をレール長手方向に移動しながら掻き上げを施工し、移動距離5m、10m、15mの各地点で、道床肩74近くの道床73の形状を測定した。その測定結果を
図13(a)~(c)に示す。
図13(a)は移動距離5mの地点での測定結果、
図13(b)は移動距離10mの地点での測定結果、
図13(c)は移動距離15mの地点での測定結果を示す。横軸、縦軸、グラフの線種は、
図12と同様である。掻き上げ施工後、バラストがまくらぎ端から水平に0mmから600mmまで離れた範囲に蓄積し、まくらぎ端から水平に400mm離れた位置に約100mmの高さの余盛ができた。しかし、まくらぎ端から水平に400mm~600mm離れた範囲に道床肩の頂点ができ、この範囲が目標値より高かった。
【実施例5】
【0076】
掻上装置1によるバラストの掻き上げによって、道床法面75に断面視でくぼみができた。そこで、道床法面75のくぼみの解消方法を見つけるための試験をした。その結果、回転ブラシ2の高さ及び水平位置を変えて、2回掻き上げを行うことにより、くぼみが解消することが分かった。1回目は、掻上装置1で道床肩74にバラストを掻き上げる。これにより、道床法面75にくぼみができる。2回目は、回転ブラシ2を低速回転させて、バラストを掻き上げて、くぼみを埋める。これにより、道床法面75の断面形状が、いっそう目標値に近くなる。
【実施例6】
【0077】
回転ブラシ2のブラシ径(直径)の影響を試験した(
図2(b)参照)。ブラシ径を780mmとした。その結果、道床厚が小さい場合、掻上装置1による1回の掻き上げで目標値に近い断面形状の道床73ができた。道床厚が大きい場合、回転ブラシ2の高さ及び水平位置を変えて、2回の掻き上げで目標値に近い断面形状の道床73ができた。次に、ブラシ素材22の長さを変えることによってブラシ径を変えた。回転ブラシ2のブラシ径を700mmにしても結果は同様であった。
【0078】
(比較例6)
回転ブラシ2のブラシ径を実施例6よりも小さい600mmにした。その結果、道床厚が小さい場合、回転ブラシ2の高さ及び水平位置を変えて、2回の掻き上げで目標値に近い断面形状の道床73ができた。道床厚が大きい場合、回転ブラシ2の高さ及び水平位置を変えて、3回の掻き上げで目標値に近い断面形状の道床73ができた。
【0079】
実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6より、掻上装置1及び肩形成機10の詳細設計に有用なデータが得られた。
【0080】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、掻上装置1の回転ブラシ2をベルトコンベヤのように構成してもよい。そのような回転ブラシ2は、閉じた帯状のブラシ台座と、ブラシ台座に取り付けられたブラシ素材22とを有し、使用時、下面が道床法面75に接し、道床法面75のバラストを掻き上げる方向に回転される。
【符号の説明】
【0081】
1 掻上装置
2、2a、2b 回転ブラシ
21 ブラシ台座
22 ブラシ素材
3 バラスト止め
31 板面
32 下端
10 肩形成機
11 台車
12 車体
13 支持部
4 形成装置
41 下端
42 支持端
43 延出端
5 まくらぎ清掃部
51 下端
6 掻寄装置
61 バックホウアタッチメント