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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/028 20160101AFI20240426BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240426BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20240426BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240426BHJP
【FI】
H02P29/028
H02P27/06
H02P21/22
H02M7/48 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020191214
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022080186
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】柏▲崎▼ 貴司
(72)【発明者】
【氏名】赤間 貞洋
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康裕
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩幸
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123223(JP,A)
【文献】特開2008-211911(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171836(WO,A1)
【文献】特開2018-122612(JP,A)
【文献】特開平10-257604(JP,A)
【文献】特開2016-181948(JP,A)
【文献】特開2009-195026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/028
H02P 27/06
H02P 21/22
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部(11)から複数相の巻線(12a)を有するモータ(12)に供給される電力を、複数相の前記巻線のそれぞれに接続された複数相の変換回路(31)を有する電力変換部(30)により直流から交流に変換する電力変換装置(13)であって、
前記巻線に流れる電流をdq座標系におけるd軸電流(Id)とq軸電流(Iq)とに変換する座標変換部(42)と、
少なくとも1相の前記変換回路に異常が発生した場合に、前記電源部と前記電力変換部とを通電可能に接続した電源スイッチ(22)を開状態に移行させる開移行部(S106)と、
前記開移行部により前記電源スイッチが前記開状態に移行された状態で、前記電源スイッチと前記電力変換部との間に設けられたコンデンサ(21)のコンデンサ電圧(Vc)が前記電源部の電源電圧(V0)を超えて上昇するように、前記q軸電流のq軸電流指令値(Iq*)を設定する電圧上昇部(S302)と、
前記開移行部により前記電源スイッチが前記開状態に移行された状態で、前記電圧上昇部により設定された前記q軸電流指令値に応じて、残りの少なくとも2相の前記変換回路が前記巻線に電流を流すように前記電力変換部を制御する開制御部(S303~S305,S312~S314)と、
を備えている電力変換装置。
【請求項2】
前記開移行部は、前記モータの回転数(Nm)があらかじめ定められた開閾値(Nth)よりも大きい場合に、前記電源スイッチを前記開状態に移行させる、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記開閾値は、少なくとも1相の前記変換回路に異常が発生した場合に、残りの少なくとも2相の前記変換回路が前記電源スイッチが閉状態にある状況で前記モータを駆動可能な回転数である、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電圧上昇部は、前記コンデンサ電圧が前記電源電圧よりも大きいコンデンサ閾値(Vh)になるようにフィードバック制御により前記q軸電流指令値を設定する、請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記コンデンサ閾値は、前記電力変換部への印加電圧の上限値である、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記開移行部により前記電源スイッチが前記開状態に移行された場合に、前記モータの回転数(Nm)が減少するようにd軸電流のd軸電流指令値(Id*)を設定するd軸電流指令部(S301,S310)、を備えている請求項1~5のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記d軸電流指令部は、前記モータの回転数に加えて前記コンデンサ電圧に応じて前記d軸電流指令値を設定する、請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記モータの回転数(Nm)があらかじめ定められた閉閾値(Nth)まで減少した場合に、前記電源スイッチを閉状態に移行させる閉移行部(S318)、を備えている請求項1~7のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記モータの回転数が前記閉閾値まで減少した場合に、前記コンデンサ電圧が下降するように前記q軸電流指令値を設定する電圧下降部(S311)、を備え、
前記閉移行部は、前記電圧下降部により前記q軸電流指令値が設定されて前記コンデンサ電圧が前記電源電圧まで下降した場合に、前記電源スイッチを前記閉状態に移行させる、請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記電圧下降部は、前記コンデンサ電圧が前記電源電圧になるようにフィードバック制御により前記q軸電流指令値を設定する、請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
複数相の前記巻線に流れる電流の位相差(PD3)があらかじめ定められた基準値になるように前記電力変換部を制御する基準制御部(S113,S114)を備え、
前記開制御部は、残りの2相の前記変換回路が前記巻線に流す電流の位相差を異常時位相差(PD2)として、前記異常時位相差が前記基準値から変更値に変更されるように前記電力変換部を制御する、請求項1~10のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直流電力を交流電力に変換して3相モータに供給するインバータと、このインバータの制御を行う制御装置と、が搭載された車両について開示されている。インバータは、3相のそれぞれに設けられたアーム回路を有している。これらアーム回路においては、電源ライン側のスイッチング素子とアースライン側のスイッチング素子とが互いに直列に接続されている。各アーム回路における電源ライン側のスイッチング素子は互いに並列に接続され、各アーム回路におけるアースライン側のスイッチング素子は互いに並列に接続されている。
【0003】
制御装置は、インバータにおいてスイッチング素子の短絡が生じた場合に3相オン制御を行う。3相オン制御は、短絡が生じたスイッチング素子に並列に接続された全てのスイッチング素子をオン状態にする処理である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-195026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、制御装置により3相オン制御が行われると、3相オン制御によりオンされたスイッチング素子に電流が流れる。このため、モータの逆起電力がある程度大きいと、オン状態のスイッチング素子等に流れる電流が大きくなってインバータが発熱する、ということが懸念される。例えば、モータの高出力化を図ると、モータの逆起電力が増加してインバータが発熱しやすくなると考えられる。
【0006】
本開示の主な目的は、電力変換部について異常発生に伴う発熱を抑制できる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0008】
上記目的を達成するため、開示された1つの態様は、
電源部(11)から複数相の巻線(12a)を有するモータ(12)に供給される電力を、複数相の巻線のそれぞれに接続された複数相の変換回路(31)を有する電力変換部(30)により直流から交流に変換する電力変換装置(13)であって、
巻線に流れる電流をdq座標系におけるd軸電流(Id)とq軸電流(Iq)とに変換する座標変換部(42)と、
少なくとも1相の変換回路に異常が発生した場合に、電源部と電力変換部とを通電可能に接続した電源スイッチ(22)を開状態に移行させる開移行部(S106)と、
開移行部により電源スイッチが開状態に移行された状態で、電源スイッチと電力変換部との間に設けられたコンデンサ(21)のコンデンサ電圧(Vc)が電源部の電源電圧(V0)を超えて上昇するように、q軸電流のq軸電流指令値(Iq*)を設定する電圧上昇部(S302)と、
開移行部により電源スイッチが開状態に移行された状態で、電圧上昇部により設定されたq軸電流指令値に応じて、残りの少なくとも2相の変換回路が巻線に電流を流すように電力変換部を制御する開制御部(S303~S305,S312~S314)と、
を備えている電力変換装置である。
【0009】
少なくとも1相の変換回路に異常が発生し、残りの少なくとも2相の変換回路によりモータが駆動される場合、モータの駆動に用いられる電圧が電源電圧のままになっていると、モータの逆起電力を管理する上でモータの回転磁界が不適な態様になることが懸念される。この場合、モータの逆起電力を適正に管理することが困難になると考えられる。
【0010】
これに対して、上記態様によれば、少なくとも1相の変換回路に異常が発生し、残りの少なくとも2相の変換回路がモータを駆動する場合、コンデンサ電圧が電源電圧を超えて上昇するようにq軸電流指令値が設定される。しかも、この場合、電源スイッチが開状態に移行されているため、コンデンサ電圧が電源電圧を超えて上昇しやすくなっている。そして、電源電圧よりも大きくなったコンデンサ電圧が電力変換部によりモータの駆動に用いられることで、モータの回転磁界の態様を改善できる。このため、モータの逆起電力を管理しやすくなる。モータの逆起電力を適正に管理できると、モータの逆起電力により電力変換部に過電流が流れて電力変換部が発熱するということが生じにくくなる。したがって、電力変換部について異常発生に伴う発熱を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態における駆動システムの構成を示す図。
図2】制御装置の電気的な構成を示すブロック図。
図3】モータでの電流と磁界との関係を示す図。
図4】3相制御により生じる回転磁界について説明するための図。
図5】2相制御での位相差PD2が120度である場合の回転磁界について説明するための図。
図6】2相制御での位相差PD2が60度である場合の回転磁界について説明するための図。
図7】2相制御での位相差PD2が30度である場合の回転磁界について説明するための図。
図8】2相制御での位相差PD2が90度である場合の回転磁界について説明するための図。
図9】2相制御での位相差PD2が180度である場合の回転磁界について説明するための図。
図10】3相制御及び2相制御についてモータ回転数とトルクとの関係を示す図。
図11】インバータ制御処理の手順を示すフローチャート。
図12】閉処理の手順を示すフローチャート。
図13】開処理の手順を示すフローチャート。
図14】電流指令部の電気的な構成を示すブロック図。
図15】インバータ異常が発生した場合についてモータのトルクの変化態様を示す図。
図16】インバータ異常が発生した場合についてモータ回転数の変化態様を示す図。
図17】第2実施形態における駆動システムの構成を示す図。
図18】閉処理の手順を示すフローチャート。
図19】開処理の手順を示すフローチャート。
図20】第3実施形態における電流指令部の電気的な構成を示すブロック図。
図21】第4実施形態における電流指令部の電気的な構成を示すブロック図。
図22】別の駆動システムの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0013】
<第1実施形態>
図1に示す駆動システム10は、例えば電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)、燃料電池車などの車両に搭載されている。駆動システム10は、バッテリ11、モータ12、電力変換装置13を有している。駆動システム10は、モータ12を駆動して車両の駆動輪を駆動するシステムである。
【0014】
バッテリ11は、充放電可能な2次電池で構成された直流電圧源であり、電力変換装置13を介してモータ12に電力を供給する電源部に相当する。2次電池は、たとえばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池である。バッテリ11は、インバータ30に高電圧(たとえば数100V)を供給する。
【0015】
モータ12は、複数相の交流モータであり、例えば3相交流方式の回転電機である。モータ12は、3相としてU相、V相、W相を有している。モータ12は、車両の走行駆動源である電動機として機能する。モータ12は、回生時に発電機として機能する。モータ12は、電機子を形成する巻線12aと、界磁を形成する永久磁石とを有している。このモータ12では、永久磁石を含んで回転子が構成され、巻線12aを含んで固定子が構成されている。3相モータであるモータ12は、3相の巻線12aを有している。なお、3相の巻線12aが複数相の巻線に相当する。また、モータ12はモータジェネレータや電動モータと称されることがある。
【0016】
モータ12においては、U相、V相、W相のそれぞれの巻線12aが所定の角度だけずらして配置されている。例えば、図3に示すように、U相、V相、W相のそれぞれの巻線12aが120度ずつずらして配置されている。
【0017】
図1に示す電力変換装置13は、バッテリ11とモータ12との間で電力変換を行う。電力変換装置13は、平滑コンデンサ21、インバータ30、制御装置40を有している。
【0018】
平滑コンデンサ21は、バッテリ11から供給される直流電圧を平滑化する。平滑コンデンサ21は、高電位側の電力ラインであるPライン25と低電位側の電力ラインであるNライン26とに接続されている。Pライン25はバッテリ11の正極に接続され、Nライン26はバッテリ11の負極に接続されている。平滑コンデンサ21の正極は、バッテリ11とインバータ30との間において、Pライン25に接続されている。また、平滑コンデンサ21の負極は、バッテリ11とインバータ30との間において、Nライン26に接続されている。平滑コンデンサ21は、バッテリ11に並列に接続されている。電力変換装置13においては、Pライン25、Nライン26がバスバー等により形成されている。
【0019】
電力変換装置13において、平滑コンデンサ21とバッテリ11との間には開閉器22が設けられている。開閉器22は、平滑コンデンサ21とバッテリ11とを通電可能に接続しており、電源スイッチに相当する。開閉器22は、開状態と閉状態とに移行可能なスイッチやリレー等により形成されており、Pライン25及びNライン26のそれぞれに設けられている。Pライン25においては、バッテリ11の正極と平滑コンデンサ21の正極との間に開閉器22が設けられ、Nライン26においては、バッテリ11の負極と平滑コンデンサ21の負極との間に開閉器22が設けられている。開閉器22が閉状態になると、バッテリ11が平滑コンデンサ21及びインバータ30に電気的に接続される。開閉器22が開状態になると、バッテリ11が平滑コンデンサ21及びインバータ30から電気的に遮断される。
【0020】
開閉器22は、基本的に、イグニッションスイッチ等の車両スイッチがオン状態である場合に閉状態になっており、車両スイッチがオフ状態である場合に開状態になっている。例えば、車両が走行状態にある場合には開閉器22は基本的に閉状態になっている。なお、開閉器22はシステムメインリレーやSMRと称されることがある。また、開閉器22については、閉状態が導通状態と称されることがあり、開状態が遮断状態と称されることがある。さらに、開閉器22が閉状態にある場合、バッテリ11と平滑コンデンサ21とが導通された状態にあり、開閉器22が開状態にある場合、バッテリ11と平滑コンデンサ21との導通が遮断された状態にある。
【0021】
開閉器22には、この開閉器22を開閉駆動させる駆動部が設けられている。開閉器22と制御装置40とは電気的に接続されている。制御装置40は、この駆動部の駆動制御を行うことで開閉器22に開動作や閉動作を行わせる。制御装置40は、Pライン25及びNライン26のそれぞれに設けられた各開閉器22をまとめて開閉させるように、開閉器22の開閉駆動を行う。
【0022】
本実施形態では、開閉器22が電力変換装置13に含まれているが、開閉器22は、電力変換装置13に含まれていなくてもよい。例えば、開閉器22は、電力変換装置13とバッテリ11との間に設けられていてもよい。また、開閉器22は、Pライン25だけに設けられていてもよい。すなわち、開閉器22は、Pライン25及びNライン26のうち少なくともPライン25に設けられていればよい。
【0023】
電力変換装置13には、バッテリ電圧センサ23及びコンデンサ電圧センサ24が設けられている。バッテリ電圧センサ23は、バッテリ11の電圧を検出するセンサであり、バッテリ11の電圧に応じた検出信号を制御装置40に対して出力する。バッテリ電圧センサ23は、バッテリ11と平滑コンデンサ21との間に設けられており、Pライン25及びNライン26のそれぞれに接続されている。コンデンサ電圧センサ24は、平滑コンデンサ21の電圧を検出するセンサであり、平滑コンデンサ21の電圧に応じた検出信号を制御装置40に対して出力する。コンデンサ電圧センサ24は、平滑コンデンサ21とインバータ30との間に設けられており、Pライン25及びNライン26のそれぞれに接続されている。
【0024】
インバータ30は、DC-AC変換回路である。インバータ30は、開閉器22を介してバッテリ11とモータ12とを接続している。インバータ30は、バッテリ11からモータ12に供給される電力を直流から交流に変換する電力変換を行う。インバータ30は、3相インバータであり、3相のそれぞれについて電力変換を行う。インバータ30は電力変換部に相当する。インバータ30は、制御装置40によるスイッチング制御に応じて直流電圧を交流電圧に変換し、モータ12に出力する。モータ12は、インバータ30からの交流電圧に応じて所定の回転トルクを発生するように動作する。インバータ30は、車両の回生制動時に、駆動輪からの回転力を受けてモータ12が発生した交流電圧を、制御装置40によるスイッチング制御に応じて直流電圧に変換し、バッテリ11や平滑コンデンサ21に対して出力する。インバータ30は、バッテリ11及び平滑コンデンサ21とモータ12との間で双方向の電力変換を行う。
【0025】
インバータ30は、3相の変換回路31を有している。変換回路31は、1相について電力変換を行う。変換回路31は、U相、V相、W相のそれぞれについて個別に設けられている。これら変換回路31は、モータ12に対して互いに並列に接続されている。変換回路31は、Hブリッジ回路である。インバータ30においては、3相分である3つのHブリッジ回路が並列に接続されている。
【0026】
変換回路31は、第1アーム回路32及び第2アーム回路35を有している。これらアーム回路32,35は、U相、V相、W相のそれぞれにおいて設けられている。第1アーム回路32は、巻線12aの一端に接続されており、第2アーム回路35は、巻線12aの他端に接続されている。第1アーム回路32と第2アーム回路35とは、巻線12aを介して接続されている。アーム回路32,35はいずれも、Pライン25とNライン26とにかけ渡されている。Pライン25は、バッテリ11の正極側と、第1アーム回路32の高電位側と、第2アーム回路35の高電位側とを接続している。Nライン26は、バッテリ11の負極側と、第1アーム回路32の低電位側と、第2アーム回路35の低電位側とを接続している。なお、第1アーム回路32が第1レグと称され、第2アーム回路35が第2レグと称されることがある。
【0027】
第1アーム回路32は、上アーム32a及び下アーム32bを有している。上アーム32aと下アーム32bは、上アーム32aをPライン25側として、Pライン25とNライン26との間で直列接続されている。上アーム32aと下アーム32bとの接続点は、モータ12における対応する相の巻線12aに出力ライン27aを介して接続されている。第1アーム回路32及び出力ライン27aは、モータ12のU相、V相、W相のそれぞれに対して設けられている。第1アーム回路32は、上アーム32a及び下アーム32bを3つずつ有している。
【0028】
アーム32a,32bは、アームスイッチ33及びダイオード34をそれぞれ有している。アームスイッチ33は半導体素子等のスイッチング素子により形成されている。このスイッチング素子は、ゲートを有するトランジスタであり、例えばIGBTやMOSFETである。本実施形態では、例えばアームスイッチ33がnチャネル型のIGBTにより形成されている。ダイオード34は、還流用のダイオードであり、アームスイッチ33に逆並列に接続されている。アーム32a,32bにおいては、ダイオード34のカソードがアームスイッチ33のコレクタに接続され、アノードがエミッタに接続されている。なお、アーム32a,32bにおいて、アームスイッチ33及びダイオード34が1つの半導体素子により構成されていてもよく、複数の半導体素子により形成されていてもよい。
【0029】
第2アーム回路35は、第1アーム回路32と同様の構成になっている。第2アーム回路35は、上アーム35a及び下アーム35bを有している。上アーム35aと下アーム35bは、上アーム35aをPライン25側として、Pライン25とNライン26との間で直列接続されている。上アーム35aと下アーム35bとの接続点は、モータ12における対応する相の巻線12aに出力ライン27bを介して接続されている。第2アーム回路35及び出力ライン27bは、モータ12のU相、V相、W相のそれぞれに対して設けられている。第2アーム回路35は、上アーム35a及び下アーム35bを3つずつ有している。
【0030】
第2アーム回路35のアーム35a,35bは、第1アーム回路32のアーム32a,32bと同様の構成になっている。アーム35a,35bは、アームスイッチ36及びダイオード37をそれぞれ有している。アームスイッチ36は半導体素子等のスイッチング素子により形成されている。このスイッチング素子は、アームスイッチ33と同様に、ゲートを有するトランジスタであり、例えばIGBTやMOSFETである。本実施形態では、例えばアームスイッチ36がnチャネル型のIGBTにより形成されている。ダイオード37は、還流用のダイオードであり、アームスイッチ36に逆並列に接続されている。アーム35a,35bにおいては、ダイオード37のカソードがアームスイッチ36のコレクタに接続され、アノードがエミッタに接続されている。なお、アーム35a,35bにおいて、アームスイッチ36及びダイオード37が1つの半導体素子により構成されていてもよく、複数の半導体素子により形成されていてもよい。
【0031】
インバータ30においては、3相分の変換回路31のそれぞれの第1アーム回路32を有する部分が第1インバータ部38になっている。インバータ30においては、3相分の変換回路31のそれぞれの第2アーム回路35を有する部分が第2インバータ部39になっている。第1インバータ部38と第2インバータ部39とは、モータ12の巻線12a、Pライン25及びNライン26を介して互いに接続されている。
【0032】
第1インバータ部38においては、3相分の第1アーム回路32のそれぞれの上アーム32aを有する部分が第1上アーム群38aになっている。第1インバータ部38においては、3相分の第1アーム回路32のそれぞれの下アーム32bを有する部分が第1下アーム群38bになっている。第2インバータ部39においては、3相分の第2アーム回路35のそれぞれの上アーム35aを有する部分が第2上アーム群39aになっている。第2インバータ部39においては、3相分の第2アーム回路35のそれぞれの下アーム35bを有する部分が第2下アーム群39bになっている。
【0033】
変換回路31においては、U相、V相、W相のそれぞれの巻線12aに複数ずつアームスイッチ33,36が接続されている。1相の巻線12aには、第1アーム回路32の2つのアームスイッチ33と、第2アーム回路35の2つのアームスイッチ36とが接続されている。アームスイッチ33,36は変換スイッチに相当する。1相の巻線12aには4つの変換スイッチが接続されている。また、第1アーム回路32のアームスイッチ33が第1スイッチに相当し、第2アーム回路35のアームスイッチ36が第2スイッチに相当する。
【0034】
平滑コンデンサ21は、U相、V相、W相のそれぞれの第1アーム回路32及び第2アーム回路35に対して並列に接続されている。平滑コンデンサ21は、アーム回路32,35のアームスイッチ33,36に対して通電可能に接続されている。平滑コンデンサ21はコンデンサに相当する。
【0035】
制御装置40は、例えばECUであり、インバータ30の駆動を制御する。ECUは、Electronic Control Unitの略称である。制御装置40は、例えばプロセッサ、メモリ、I/O、これらを接続するバスを備えるマイクロコンピュータ(以下、マイコン)を主体として構成される。制御装置40は、メモリに記憶された制御プログラムを実行することで、インバータ30の駆動に関する各種の処理を実行する。ここで言うところのメモリは、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。また、非遷移的実体的記憶媒体は、半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。
【0036】
制御装置40は、車両に搭載された統合ECUなどの上位ECUから入力される信号や、回転センサ29などの各種センサから入力される信号を用いて駆動指令を生成する。そして、制御装置40は、この駆動指令に応じてアームスイッチ33,36にオン駆動やオフ駆動を行わせる。アームスイッチ33,36は、オン状態とオフ状態とに移行可能になっており、オン駆動に伴ってオン状態に移行し、オフ駆動に伴ってオフ状態に移行する。アームスイッチ33,36については、オン状態が閉状態に相当し、オフ状態が開状態に相当する。
【0037】
制御装置40には、各種センサとして、バッテリ電圧センサ23、コンデンサ電圧センサ24、電流センサ28、回転センサ29が電気的に接続されている。なお、これらセンサ23,24,28,29は駆動システム10に含まれている。これらセンサ23,24,28,29のうち電圧センサ23,24及び電流センサ28は電力変換装置13に含まれている。
【0038】
電流センサ28は、モータ12に流れる電流を検出する電流検出部である。電流センサ28は、3相の巻線12aのそれぞれに流れる電流に応じた検出信号を制御装置40に対して出力する。電流センサ28は、例えば出力ライン27a,27bの少なくとも一方に対して設けられている。電流センサ28は、出力ライン27a,27bを流れる電流を検出することで巻線12aを流れる電流を検出する。電流センサ28は、巻線12aに流れる電流を所定のサンプリング周期で離散的にサンプリングし、離散信号を検出信号として出力する。なお、巻線12aに流れる電流は電機子電流と称されることがある。
【0039】
回転センサ29は、モータ12に設けられており、モータ12の回転数を検出する回転検出部である。回転センサ29は、モータ12の回転数に応じた検出信号を制御装置40に対して出力する。回転センサ29は、例えばエンコーダやレゾルバなどを含んで構成されている。
【0040】
図2に示す制御装置40は、インバータ30を介してモータ12のベクトル制御を行う。ベクトル制御では、U相、V相、W相により示される3相交流座標を、d軸及びq軸により示されるdq座標に変換する。dq座標は、例えば回転子のS極からN極に向かう方向をd軸とし、このd軸に直交する方向をq軸として、これらd軸及びq軸によって定義される回転座標である。
【0041】
制御装置40は、機能ブロックとして、電流指令部41、3相2相変換部42、d軸減算部43、q軸減算部44、電流制御部45、2相3相変換部46を有している。これら機能ブロックは、少なくとも1つのIC等によりハードウェア的に構成されていてもよく、プロセッサによるソフトウェアの実行とハードウェアとの組み合わせにより実行されていてもよい。
【0042】
3相2相変換部42には、電流センサ28により検出されたU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwが入力される。これら相電流Iu,Iv,Iwは、モータ12において各相の巻線12aを実際に流れる電流の検出値である。なお、制御装置40は、電流センサ28の検出信号を用いて各相電流Iu,Iv,Iwを取得する電流取得部を有している。この電流取得部は3相2相変換部42に含まれていてもよい。
【0043】
3相2相変換部42には、回転センサ29により検出されたモータ回転数Nmが入力される。このモータ回転数Nmは、モータ12の実際の回転数を示す検出値である。モータ回転数Nmは、例えば単位時間当たりのモータ12の回転数であり、回転速度を示す値である。
【0044】
3相2相変換部42は、3相交流座標系のU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwをdq座標に座標変換して、dq座標系のd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。d軸電流Idはdq座標においてd軸方向の成分であり、q軸電流Iqはdq座標においてq軸方向の成分である。3相2相変換部42は、各相電流Iu,Iv,Iwに加えてモータ回転数Nmを用いてd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。例えば、3相2相変換部42は、モータ回転数Nmを基準として、各相電流Iu,Iv,Iwをdq座標に変換してd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。d軸電流Id及びq軸電流Iqはd軸減算部43に入力される。
【0045】
なお、3相2相変換部42が座標変換部に相当する。また、d軸電流Id及びq軸電流Iqは、検出値である各相電流Iu,Iv,Iwを座標変換した実電流であるとして、実d軸電流や実q軸電流と称されることがある。さらに、d軸電流Idが界磁電流と称され、q軸電流が駆動電流と称されることがある。3相2相変換部42は、uvw/dq変換部と称されることがある。
【0046】
電流指令部41は、d軸電流Id及びq軸電流Iqのそれぞれについて目標にするべき値をd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*として設定する。電流指令部41により設定された指令値Id*,Iq*は、d軸電流指令値Id*がd軸減算部43に入力され、q軸電流指令値Iq*がq軸減算部44に入力される。電流指令部41には、モータ12が発生するべき回転トルクとしてトルク指令値が上位ECUからの信号として入力される。電流指令部41は、バッテリ11からモータ12への電力供給が行われている場合などに、トルク指令値に応じて指令値Id*,Iq*を設定する。
【0047】
d軸減算部43は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの偏差をd軸電流偏差として算出する。q軸減算部44は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの偏差をq軸電流偏差として算出する。これらd軸電流偏差及びq軸電流偏差は電流制御部45に入力される。
【0048】
電流制御部45は、dq座標系について、d軸電流偏差及びq軸電流偏差がゼロになるようにd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。電流制御部45は、d軸電流Idがd軸電流指令値Id*に一致するように且つq軸電流Iqがq軸電流指令値Iq*に一致するようにフィードバック制御を行ってd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。電流制御部45は、フィードバック制御として例えばPI制御を行う。d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は2相3相変換部46に入力される。
【0049】
2相3相変換部46は、dq座標系のd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を3相交流座標に座標変換して、3相座標系のU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*及びW相電圧指令値Vw*を算出する。これら電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、3相の巻線12aのそれぞれに出力するべき電圧値であり、駆動指令に含まれる情報である。これら電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を含む駆動指令がインバータ30に入力される。なお、2相3相変換部46はdq/uvw変換部と称されることがある。
【0050】
次に、モータ12にて生じる回転磁界MFRについて説明する。
【0051】
図3に示すように、モータ12では、電流Iu,Iv,Iwにより磁界MFu,MFv,MFwが生じる。モータ12では、U相の巻線12aとV相の巻線12aとW相の巻線12aとが互いに120度ずらして配置されている。これにより、U相電流Iuにより生じるU相磁界MFuと、V相電流Ivによる生じるV相磁界MFvと、W相電流Iwにより生じるW相磁界MFwとは、互いに120度ずれた状態になる。図3等では、磁界MFu,MFv,MFwをベクトルとして矢印で図示する。
【0052】
制御装置40は、インバータ30に異常が発生していない場合、インバータ30の3相制御を行う。3相制御では、3相電流Iu,Iv,Iwの制御が行われる。3相制御では、図4に示すように、3相電流である電流Iu,Iv,Iwの位相差PD3が120度になるようにインバータ30の制御が行われる。この120度が基準値に相当する。電流Iu,Iv,Iwの位相差PD3が120度になると、磁界MFu,MFv,MFwの位相差も120度になる。磁界MFu,MFv,MFwを合成した合成磁界MFSは、電流Iu,Iv,Iwの位相に応じて向きが変化する。その一方で、合成磁界MFSの大きさは、電流Iu,Iv,Iwの位相が変化してもほぼ同じであり、変化しにくくなっている。電流Iu,Iv,Iwの位相変化に伴う合成磁界MFSの回転軌跡を回転磁界MFRと称すると、回転磁界MFRは円又はほぼ円の形状になる。なお、本実施形態では、円又はほぼ円の形状を円状と称する。
【0053】
駆動システム10では、回転磁界MFRが円状になっていると、制御装置40が電力変換装置13の制御を正常に行うことができる。例えば、制御装置40は、モータ12の逆起電力が大きくなりすぎないように制御することができる。また、制御装置40は、モータ12のトルクリプルが発生しないように制御することができる。このように、制御装置40による電力変換装置13の制御性を高めることができる。
【0054】
駆動システム10では、車両走行時などにバッテリ11からの電力供給によりモータ12が駆動回転している状態で、インバータ30の異常であるインバータ異常が発生した場合、インバータ異常に伴って2次的な異常が発生することが懸念される。例えば、インバータ異常としては、アームスイッチ33,36が意図せずにオンされる短絡異常や、アームスイッチ33,36が意図せずにオフされる開放異常がある。短絡異常が発生した場合、アームスイッチ33,36が意図せずにオン状態に移行し、意図せずにオン状態のまま保持されると考えられる。開放異常が発生した場合、アームスイッチ33,36が意図せずにオフ状態に移行し、意図せずにオフ状態のまま保持されると考えられる。本実施形態では、どちらかというと開放異常よりも短絡異常の方が発生しにくいスイッチング素子によりアームスイッチ33,36が形成されている。
【0055】
インバータ30において短絡異常や開放異常が発生した場合、アームスイッチ33,36が制御装置40の指令通りに動作しないという制御破綻が起きることが懸念される。制御破綻が起きると、駆動システム10において2次的な異常が発生しやすくなる。例えば、モータ12の逆起電力により電圧センサ23,24等の補機類や平滑コンデンサ21の過電圧が生じると、これら補機類や平滑コンデンサ21にて2次的な異常が発生しやすくなる。モータ12の逆起電力によりインバータ30に過電流が流れると、このインバータ30にて2次的な異常が発生しやすくなる。
【0056】
本実施形態では、インバータ30において1相の変換回路31に異常が発生した場合、残った2相の変換回路31が巻線12aに流す電流が制御装置40により制御される。制御装置40は、変換回路31に異常が発生していない残り2相について電流を制御するために2相制御を行う。2相制御は、インバータ異常が発生した場合に行われる異常時制御と称されることがある。2相制御では、残った2相の電流により2相の磁界が生じ、2相の磁界により合成磁界MFS及び回転磁界MFRが形成される。2相制御について、残った2相の電流の位相差PD2が成り行きで120度のままになっていると回転磁界MFRが楕円状になる、という知見が試験等により得られた。回転磁界MFRが楕円状になるということは、合成磁界MFSの大きさが位相によってばらつくということである。回転磁界MFRの扁平率が大きいほど、位相による合成磁界MFSの大きさのばらつきが大きくなる。なお、位相差PD2が異常時位相差に相当する。
【0057】
例えば、インバータ30のW相に異常が発生し、W相の巻線12aへの通電が停止された場合、2相制御では、残ったU相電流Iu及びV相電流Ivの制御が行われる。この2相制御では、図5に示すように、U相電流IuとV相電流Ivとの位相差PD2が120度のままになっていると、回転磁界MFRが楕円状になる。
【0058】
これに対して、2相制御での位相差PD2が変更された場合、回転磁界MFRの形状が変化する、という知見が試験等により得られた。この知見によれば、この場合の回転磁界MFRは、3相制御により生じる回転磁界MFRに比べて、どの位相についても小さくなる。W相の巻線12aへの通電が停止された場合を例示して、残ったU相電流IuとV相電流Ivとの位相差PD2と回転磁界MFRの形状との関係について説明する。
【0059】
図6に示すように、2相制御での位相差PD2を60度に変更した場合、3相制御と同様に、回転磁界MFRは円状になる。この場合、合成磁界MFSの大きさが位相によってばらつかずに揃っている。このように位相差PD2が60度である場合は、位相による合成磁界MFSの大きさのばらつきが、位相差PD2が120度である場合に比べて小さくなっている。一方で、回転磁界MFRの大きさは、3相制御による回転磁界MFRの大きさよりも小さくなっている。具体的には、1/√3になっている。
【0060】
図7に示すように、位相差PD2を30度に変更した場合、位相差PD2が120度のままである場合と同様に、回転磁界MFRは楕円状になる。位相差PD2が30度である場合の回転磁界MFRは、位相差PD2が120度のままである場合に比べて、扁平率が小さく、円に近い形状になっている。また、位相差PD2が30度である場合の回転磁界MFRは、3相制御により生じる回転磁界MFRに比べて、どの位相についても小さくなっている。
【0061】
図8に示すように、位相差PD2を90度に変更した場合、位相差PD2を30度に変更した場合と同様に、回転磁界MFRは楕円状になる。位相差PD2が90度である場合の回転磁界MFRは、位相差PD2が120度のままである場合、及び位相差PD2が30度である場合のいずれに比べても、扁平率が小さく、円に近い形状になっている。また、位相差PD2が90度である場合の回転磁界MFRは、3相制御により生じる回転磁界MFRに比べて、どの位相についても小さくなっている。
【0062】
図9に示すように、位相差PD2を180度に変更した場合、回転磁界MFRは1つの方向にだけ延びた形状になっている。位相差PD2が180度である場合、位相差PD2が120度のままになっている場合よりも回転磁界MFRの扁平率が更に大きくなっている。また、位相差PD2が180度である場合の回転磁界MFRは、3相制御により生じる回転磁界MFRに比べて、どの位相についても小さくなっている。
【0063】
本実施形態では、2相制御で位相差PD2が120度のままである場合に比べて、回転磁界MFRの扁平率が小さく円に近い形状になるように、制御装置40が位相差PD2を設定して2相制御を行う。例えば、制御装置40は、位相差PD2を60度に設定して位相差PD2が60度に変更されるように2相制御を行う。この60度が変更値に相当する。なお、回転磁界MFRの扁平率が小さくなることが、回転磁界MFRの態様が改善したことになる。
【0064】
ただし、上述したように、2相制御により生じる回転磁界MFRは、3相制御により生じる回転磁界MFRに比べて小さくなる。このため、モータ回転数Nmが高回転域にある場合には、2相制御により生じる回転磁界MFRの大きさが不足して、電力変換装置13がモータ12を駆動できず、モータ12において正トルクではなく負トルクが生じることが懸念される。
【0065】
高回転域は、モータ回転数Nmがあらかじめ定められた回転閾値Nthよりも大きい領域である。回転閾値Nthは、バッテリ11からの供給電力によりモータ12の2相制御が行われている状態で、モータ回転数Nmのうちモータ12の負トルクが生じない値である。本実施形態では、モータ12の負トルクが生じないモータ回転数Nmのうち最大値を回転閾値Nthにしている。このため、回転閾値Nthは、モータ12のトルクがゼロになっている場合のモータ回転数Nmである。モータ12については、トルクがゼロになっている状態をゼロトルクと称する。正トルクは力行トルクと称されることがあり、負トルクは回生トルクと称されることがある。
【0066】
図10に示すように、モータ12に対する3相制御が位相差PD3を120度として行われている場合は、回転閾値Nthより大きい高回転域においても、モータ12にて正トルクが生じている。一方、モータ12に対する2相制御が位相差PD2を60度として行われている場合は、回転閾値Nthよりも大きい高回転域において、モータ12では負トルクが生じやすい。この場合、モータ12の逆起電力により補機類や平滑コンデンサ21の過電圧が生じることが考えられる。また、この場合、モータ12の逆起電力によりインバータ30に過電流が流れてインバータ30が発熱することが考えられる。
【0067】
そこで、制御装置40は、モータ回転数Nmが高回転域にある場合には、3相制御の場合に比べて巻線12aへの印加電圧が高い値まで上昇するように電圧上昇制御を行う。この電圧上昇制御では、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0よりも高くなるようにインバータ30の制御が行われる。コンデンサ電圧Vcは平滑コンデンサ21の両端電圧である。バッテリ電圧V0はバッテリ11の電圧であり、電源電圧に相当する。
【0068】
制御装置40は、電圧上昇制御に加えて、無効電力制御及び電圧下降制御を行う。無効電力制御では、モータ回転数Nmが高回転域よりも小さくなるようにインバータ30の制御が行われる。電圧下降制御では、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0まで下降するようにインバータ30の制御が行われる。モータ回転数Nmが高回転域にある場合、制御装置40は、2相制御と共に電圧上昇制御、電圧下降制御及び無効電力制御を行う。なお、無効電力制御は、モータ回転数Nmを減少させる回転減少制御と称されることがある。
【0069】
制御装置40は、インバータ30の制御を行うためのインバータ制御処理を行う。3相制御、2相制御、電圧上昇制御、電圧下降制御及び無効電力制御は、インバータ制御処理により行われる。インバータ制御処理ついて、図11図13のフローチャートを参照しつつ説明する。制御装置40は、インバータ制御処理を所定周期で繰り返し実行する。制御装置40は、インバータ制御処理の各ステップを実行する機能を有している。
【0070】
図11において、ステップS101では、インバータ異常が発生したか否かを判定する。ここでは、制御装置40からの駆動指令に従ってインバータ30の駆動に異常があるか否かを判定する。例えば、電流センサ28などの各種センサの検出信号とインバータ30への駆動指令とを比較し、この比較結果を用いてインバータ30の駆動状態を判定する。
【0071】
インバータ異常が発生していない場合、通常処理としてステップS111~S114の処理を行う。通常処理のうちステップS113,S114が3相制御を行う3相制御処理である。通常処理において、ステップS111では、トルク指令値に応じてd軸電流指令値Id*を設定する。ステップS112では、トルク指令値に応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。なお、ステップS111,S112を実行する機能は電流指令部41に含まれている。
【0072】
Vu*=Vd*cos(θ)-Vq*sin(θ)…式1
Vv*=Vd*cos(θ-120°)-Vq*sin(θ-120°)…式2
Vw*=Vd*cos(θ+120°)-Vq*sin(θ+120°)…式3
3相制御処理において、ステップS113では3相電圧指令を行う。ここでは、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出する。この算出には、例えば式1~式3を用いる。式1~式3のθは、3相電流Iu,Iv,Iwと3相電圧Vu,Vv,Vwとの位相差である。式2及び式3では、基準値が120度であることを示している。
【0073】
ステップS114では、スイッチ駆動を行う。ここでは、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じた駆動指令を生成し、この駆動指令を含む指令信号をインバータ30に対して出力する。例えば、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*とキャリアとを比較し、U相、V相、W相のそれぞれについてパルス状の駆動指令を生成する。キャリアは、三角波や鋸波、矩形波などの搬送波である。これにより、U相、V相、W相のそれぞれにおいて変換回路31のアームスイッチ33,36を個別に駆動させる。なお、制御装置40におけるステップS113,S114を実行する機能が基準制御部に相当する。
【0074】
上記ステップS101について、インバータ異常が発生した場合、ステップS102に進む。ステップS102では、インバータ30において異常が発生した相を異常相と称し、3相のいずれの相が異常相であるのかを取得する。例えば、U相、V相、W相のそれぞれについて、ステップS101と同様に、各種センサの検出信号とインバータ30への駆動指令とを比較する。そして、その比較結果を用いて、U相、V相、W相のそれぞれについて、変換回路31の駆動に異常があるか否かを判定する。例えば、U相、V相、W相のそれぞれの変換回路31において、アームスイッチ33,36の短絡異常や開放異常が発生しているか否かを判定する。U相、V相、W相のうち、変換回路31にて異常が発生していると判断した相を異常相とする。なお、2つ以上の相について変換回路31に異常が発生ししていると判断した場合には、複数の相を異常相として取得する。
【0075】
異常相については、変換回路31が有する全てのアームスイッチ33,36について短絡異常及び開放異常のいずれが生じているのかを判定する。例えば、変換回路31が有する全てのアームスイッチ33,36を個別に駆動させ、その駆動結果を用いて、アームスイッチ33,36での異常の有無や種類を取得する。異常相の変換回路31が有するアームスイッチ33,36のうち、異常が発生していると判断したスイッチを異常スイッチとする。2つ以上のアームスイッチ33,36に異常が発生していると判断した場合には、異常スイッチが2つ以上あることになる。
【0076】
ステップS103では、2相制御を行うか否かを判定する。ここでは、インバータ30において異常相が2つ以上あるか否かを判定する。換言すれば、2相制御を実行可能であるか否かを判定する。異常相が2つ以上ある場合、2相制御を実行することができないとして、ステップS110に進む。また、異常相の変換回路31について、異常スイッチが複数あるか否かを判定する。これも、2相制御を実行可能であるか否かを判定することになる。異常スイッチが2つ以上ある場合についても、2相制御を実行することができないとして、ステップS110に進む。
【0077】
ステップS110では、退避処理を行う。この退避処理は、モータ12に対して3相制御及び2相制御のいずれも行わない処理である。退避処理として、例えばモータ12の駆動を停止する停止処理を行う。この停止処理では、全オフ処理やASC処理を行う。全オフ処理では、インバータ30が有する全てのアームスイッチ33,36に対してオフ指令を出力する。これにより、インバータ30において異常スイッチを除く全てのアームスイッチ33,36がオフ状態に移行する。
【0078】
ASC処理では、制御装置40がインバータ30に対してアクティブショートサーキットを行う。以下、アクティブショートサーキットをASCと称する。具体的には、上アーム群38a,39a及び下アーム群38b,39bのうち一方に対してオフ指令を出力し、他方に対してオン指令を出力する。これにより、上アーム群38a,39a及び下アーム群38b,39bのうち一方の全てのアームスイッチ33,36がオン状態に移行し、他方の全てのアームスイッチ33,36がオフ状態に移行する。この状態をASC状態と称する。
【0079】
上記ステップS103について、2相制御を行う場合、ステップS104に進む。ステップS104では、回転センサ29の検出信号を用いてモータ回転数Nmを取得する。ステップS105では、モータ回転数Nmがあらかじめ定められた回転閾値Nthより大きいか否かを判定する。上述したように、回転閾値Nthは、モータ回転数Nmのうち、バッテリ電圧V0で2相制御が行われている状態でモータ12がゼロトルクになる値である。回転閾値Nthは、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40においてメモリ等の記憶部に記憶されている。
【0080】
モータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きくない場合、ステップS108に進み、開閉器22を閉状態にする。ここでは、開閉器22の駆動部に対して閉信号を出力する。これにより、開閉器22が開状態にある場合には開閉器22が閉状態に移行し、既に開閉器22が閉状態にある場合にはそのまま閉状態が保持される。いずれの場合でも、バッテリ11から開閉器22を介して電力変換装置13及びモータ12に電力が供給される。
【0081】
ステップS109では、閉処理を行う。閉処理については、図12に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0082】
図12に示すように、閉処理では、2相制御を行うための準備処理として、ステップS201,S202の処理を行う。準備処理において、ステップS201では、トルク指令値に応じてd軸電流指令値Id*を設定する。ステップS202では、トルク指令値に応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。なお、ステップS201,S202を実行する機能は電流指令部41に含まれている。
【0083】
閉処理では、ステップS203~S205が2相制御を行う2相制御処理である。ステップS203~S205では、3相のうち異常相を除く2相について電流の位相差PD2が120度から60度に変更されるようにインバータ30を制御する。制御装置40におけるステップS203~S205の処理を実行する機能が位相変更部に相当する。また、位相差PD2が120度から60度に変更されることが、位相差PD2が基準値から変更値に変更されることに相当する。
【0084】
Vu*=Vd*cos(θ-βu)-Vq*sin(θ-βu)…式4
Vv*=Vd*cos(θ-120°-βv)-Vq*sin(θ-120°-βv)…式5
Vw*=Vd*cos(θ+120°-βw)-Vq*sin(θ+120°-βw)…式6
2相制御処理において、ステップS203では2相電圧指令を行う。ここでは、3相制御と同様に、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出する。ただし、2相制御では、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の算出に例えば式4~式6を用いる。式4~式6のθは、式1~式3と同様に、3相電流Iu,Iv,Iwと3相電圧Vu,Vv,Vwとの位相差である。式5及び式6では、式2及び式3と同様に、基準値が120度であることを示している。
【0085】
式4~式6のβu,βv,βwは、2相制御において2相の電流の位相差PD2が60度になるように、2相の電圧の位相を変更するための値である。これらβu,βv,βwは、2相の電流について変更する位相が同じ値になるように設定される。例えば、インバータ30において異常相がU相である場合、V相電流Ivが30度だけ遅角し、W相電流Iwが30度だけ進角するように、βu,βv,βwを設定する。後述するように、異常相のU相についてはU相電流Iuが流れないように2相制御を行うため、U相電流Iuの位相は無視してβu,βv,βwを設定する。なお、U相電流Iuの位相が変わらないようにβu,βv,βwを設定してもよい。
【0086】
例えば、インバータ30において異常相がV相である場合、W相電流Iwが30度だけ遅角し、U相電流Iuが30度だけ進角するように、βu,βv,βwを設定する。異常相のV相電流Ivの位相は無視してβu,βv,βwを設定する。例えば、インバータ30において異常相がW相である場合、U相電流Iuが30度だけ遅角し、V相電流Ivが30度だけ進角するように、βu,βv,βwを設定する。異常相のW相電流Iwの位相は無視してβu,βv,βwを設定する。
【0087】
ステップS204では、スイッチ駆動を行う。ここでは、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じた駆動指令を生成する。例えば、3相制御と同様に、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*とキャリアとを比較し、U相、V相、W相のそれぞれについてパルス状の駆動指令を生成する。なお、3相制御とは異なり、駆動指令を含む指令信号をインバータ30に対して出力する処理は、次のステップS205にて行う。
【0088】
ステップS205では、異常相オフ駆動を行う。ここでは、インバータ30の異常相について、変換回路31において異常スイッチを除く全てのアームスイッチ33,36をオフ駆動させるための駆動指令を生成する。そして、異常相だけについて、ステップS204にて生成した駆動指令を本ステップS205にて生成した駆動指令に更新する。その後、U相、V相、W相のそれぞれについて駆動指令を含む指令信号をインバータ30に対して出力する。これにより、異常相の変換回路31では、異常スイッチを除く全てのアームスイッチ33,36がオフ状態に移行する。このため、異常相の変換回路31に接続された巻線12aへの通電がアームスイッチ33,36により遮断される。異常相でない2相の変換回路31については、駆動指令に応じてアームスイッチ33,36がオンオフされる。
【0089】
なお、制御装置40におけるステップS203の処理を実行する機能が電圧指令部に相当する。また、ステップS205の処理を実行する機能が遮断実行部及び変換開放部に相当する。
【0090】
上記ステップS105について、モータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きい場合、ステップS106に進み、開閉器22を開状態にする。ここでは、開閉器22の駆動部に対して開信号を出力する。これにより、開閉器22が閉状態にある場合には開閉器22が開状態に移行し、既に開閉器22が開状態にある場合にはそのまま開状態が保持される。いずれの場合でも、バッテリ11から電力変換装置13及びモータ12への電力供給が開閉器22により遮断される。なお、制御装置40におけるステップS106の処理を実行する機能が開移行部に相当する。また、回転閾値Nthが開閾値に相当する。
【0091】
ステップS107では、開処理を行う。開処理については、図13に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0092】
図13に示す開処理では、まず、ステップS301~S309の処理を行う。ステップS309では、モータ回転数Nmが回転閾値Nth以下であるか否かを判定する。そして、モータ回転数Nmが回転閾値Nth以下になるまでステップS301~S309の処理を繰り返し行う。
【0093】
ステップS106にて開閉器22を開状態にした後、1回目のステップS301~S305では、閉処理のステップS201~S205と同じ処理を行う。例えば、ステップS301では、閉処理のステップS201と同様に、トルク指令値に応じてd軸電流指令値Id*を設定する。ステップS302では、閉処理のステップS202と同様に、トルク指令値に応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。
【0094】
ステップS303~S305は、閉処理において2相制御を行う2相制御処理である。ステップS303~S305による2相制御処理は、後述する電圧上昇処理と共に実行される処理である。ステップS303~S305では、3相のうち異常相を除く2相について電流の位相差PD2が120度から60度に変更されるようにインバータ30を制御する。制御装置40におけるステップS303~S305の処理を実行する機能が、開処理での開制御部に相当する。
【0095】
ステップS303では、閉処理のステップS203と同様に2相電圧指令を行う。ステップS304では、閉処理のステップS204と同様にスイッチ駆動を行う。ステップS305では、閉処理のステップS205と同様に異常相オフ駆動を行う。
【0096】
ステップS306では、コンデンサモードを設定する。コンデンサモードは、電流指令値Id*,Iq*の設定にコンデンサ電圧Vcを用いる、というモードである。ステップS308と2回目以降のステップS302とが、コンデンサモードで電圧上昇制御を行う電圧上昇処理である。また、ステップS308と2回目以降のステップS301とが、コンデンサモードで無効電力制御を行う無効電力処理である。なお、ステップS306では、まだコンデンサモードが設定されていない場合には新たにコンデンサモードを設定する。既にコンデンサモードが設定されていた場合にはコンデンサモードを継続する。
【0097】
2回目以降のステップS302では、コンデンサ電圧Vcに応じてq軸電流指令値Iq*を設定するために電圧変更部53を用いる。2回目以降のステップS301では、コンデンサ電圧Vc及びモータ回転数Nmに応じてd軸電流指令値Id*を設定するために無効電力変更部を用いる。
【0098】
まず、電圧変更部53について説明する。図14に示すように、制御装置40は電圧変更部53を有している。電圧変更部53は、電流指令部41に含まれた機能ブロックであり、トルク指令値ではなくコンデンサ電圧Vcに応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。電圧変更部53は、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ指令値Vc*に一致するようにフィードバック制御によりq軸電流指令値Iq*を算出する。
【0099】
電圧変更部53は、コンデンサ減算部54及びコンデンサ制御部55を有している。コンデンサ減算部54には、記憶部から読み込まれたコンデンサ指令値Vc*と、コンデンサ電圧センサ24により検出されたコンデンサ電圧Vcとが入力される。コンデンサ減算部54は、コンデンサ指令値Vc*とコンデンサ電圧Vcとの偏差をコンデンサ偏差として算出する。このコンデンサ偏差はコンデンサ制御部55に入力される。
【0100】
コンデンサ制御部55は、コンデンサ偏差がゼロになるようにq軸電流指令値Iq*を算出する。コンデンサ制御部55は、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ指令値Vc*に一致するようにフィードバック制御を行ってq軸電流指令値Iq*を算出する。コンデンサ制御部55は、フィードバック制御として例えばPI制御を行う。コンデンサ制御部55により設定されたq軸電流指令値Iq*は、q軸減算部44に入力される。なお、コンデンサ減算部54及びコンデンサ制御部55は、電圧変更部53に含まれた機能ブロックである。
【0101】
次に、無効電力変更部について説明する。制御装置40は、図示しない無効電力変更部を有している。無効電力変更部は、電流指令部41に含まれた機能ブロックであり、トルク指令値ではなくコンデンサ電圧Vc及びモータ回転数Nmに応じてd軸電流指令値Id*を設定する。無効電力変更部は、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ指令値Vc*に一致するように且つモータ回転数Nmが回転閾値Nthに一致するように、フィードバック制御によりd軸電流指令値Id*を算出する。
【0102】
無効電力変更部では、例えば、コンデンサ偏差を算出し、且つモータ回転数Nmと回転閾値Nthとの偏差をモータ偏差として算出する。そして、コンデンサ偏差及びモータ偏差の両方がゼロになるようにd軸電流指令値Id*のフィードバック制御を行う。このフィードバック制御としては例えばPI制御が用いられる。そして、無効電力変更部で設定されたd軸電流指令値Id*はd軸減算部43に入力される。
【0103】
図13の説明に戻り、ステップS306にてコンデンサモードを設定した後、ステップS307では、各種情報を検出する。例えば、コンデンサ電圧センサ24の検出信号を用いてコンデンサ電圧Vcを取得する。また、回転センサ29の検出信号を用いてモータ回転数Nmを取得する。
【0104】
ステップS308では、コンデンサ指令値Vc*にあらかじめ定められたコンデンサ上限値Vhを代入する。コンデンサ上限値Vhは、例えば平滑コンデンサ21の最大許容電圧や定格電圧に応じて設定されている。コンデンサ上限値Vhは、インバータ30のインバータ上限値以下の値になっている。一方で、コンデンサ上限値Vhは、バッテリ電圧V0よりも大きい値になっている。インバータ上限値は、インバータ30に印加される電圧の上限値であり、例えばインバータ30の定格値や最大許容電圧に応じて設定されている。コンデンサ上限値Vhは、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40においてメモリ等の記憶部に記憶されている。
【0105】
なお、インバータ上限値をインバータ30の耐電圧値と称することもできる。インバータ30の耐電圧値としては、インバータ30において最も耐電圧値の低い部品や機器の耐電圧値が設定されている。例えば、インバータ30において最も耐電圧値の低い部品がアームスイッチ33,36であれば、アームスイッチ33,36の定格値や最大許容電圧に応じて耐電圧値が設定され、この耐電圧値に応じてコンデンサ上限値Vhが設定されている。
【0106】
上述したように、ステップS309では、モータ回転数Nmが回転閾値Nth以下であるか否かを判定する。モータ回転数Nmが回転閾値Nth以下でない場合、ステップS301に戻る。
【0107】
2回目以降のステップS302では、コンデンサ指令値Vc*にコンデンサ上限値Vhが代入された状態で、電圧変更部53によりq軸電流指令値Iq*を算出する。具体的には、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに一致するようにq軸電流指令値Iq*を算出する。なお、制御装置40における2回目以降のステップS302の処理を実行する機能が電圧上昇部に相当する。また、コンデンサ上限値Vhがコンデンサ閾値に相当する。
【0108】
2回目以降のステップS301では、コンデンサ指令値Vc*にコンデンサ上限値Vhが代入された状態で、無効電力変更部によりd軸電流指令値Id*を算出する。具体的には、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに一致するように、且つモータ回転数Nmが回転閾値Nthに一致するように、d軸電流指令値Id*を算出する。すなわち、コンデンサ電圧Vcが上昇するように且つモータ回転数Nmが減少するように、d軸電流指令値Id*を算出する。この算出にはフィードバック制御が用いられる。なお、制御装置40における2回目以降のステップS301の処理を実行する機能がd軸電流指令部に相当する。d軸電流指令部は無効電力制御部や回転減少部と称されることがある。
【0109】
一方、モータ回転数Nmが回転閾値Nth以下である場合、まず、ステップS310~S317の処理を行う。ステップS317では、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0以下であるか否かを判定する。そして、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0以下になるまでステップS310~S317の処理を繰り返し行う。
【0110】
ステップS309にてモータ回転数Nmが回転閾値Nth以下であると判定された後、1回目のステップS310~S314では、2回目以降のステップS301~S305と同じ処理を行う。例えば、ステップS310では、2回目以降のステップS301と同様に、コンデンサ電圧Vc及びモータ回転数Nmに応じてd軸電流指令値Id*を設定する。ステップS311では、2回目以降のステップS302と同様に、コンデンサ電圧Vcに応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。
【0111】
ステップS312~S314は、閉処理において2相制御を行う2相制御処理である。ステップS312~S314による2相制御処理は、後述する電圧下降処理と共に実行される処理である。ステップS312~S314では、3相のうち異常相を除く2相について電流の位相差PD2が120度から60度に変更されるようにインバータ30を制御する。制御装置40におけるステップS312~S314の処理を実行する機能が、開処理での開制御部に相当する。
【0112】
ステップS312では、ステップS303と同様に2相電圧指令を行う。ステップS313では、ステップS304と同様にスイッチ駆動を行う。ステップS314では、ステップS305と同様に異常相オフ駆動を行う。
【0113】
ステップS310~S317においては、既にステップS306によりコンデンサモードが設定された状態になっている。ステップS316と2回目以降のステップS311とが、コンデンサモードで電圧下降制御を行う電圧下降処理である。また、ステップS316と2回目以降のステップS310とが、コンデンサモードで無効電力制御を行う無効電力処理である。
【0114】
ステップS315では、ステップS307と同様に各種情報を取得する。ただし、ステップS315では、コンデンサ電圧Vc及びモータ回転数Nmに加えて、バッテリ電圧センサ23の検出信号を用いてバッテリ電圧V0を取得する。ステップS316では、コンデンサ指令値Vc*にバッテリ電圧V0を代入する。
【0115】
上述したように、ステップS317では、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0以下であるか否かを判定する。コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0以下である場合、ステップS310に戻る。
【0116】
2回目以降のステップS311では、コンデンサ指令値Vc*にバッテリ電圧V0が代入された状態で、電圧変更部53によりq軸電流指令値Iq*を算出する。具体的には、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0に一致するようにq軸電流指令値Iq*を算出する。なお、制御装置40における2回目以降のステップS311の処理を実行する機能が電圧下降部に相当する。
【0117】
2回目以降のステップS310では、コンデンサ指令値Vc*にバッテリ電圧V0が代入された状態で、無効電力変更部によりd軸電流指令値Id*を算出する。具体的には、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0に一致するように、且つモータ回転数Nmが回転閾値Nthに一致するように、d軸電流指令値Id*を算出する。すなわち、コンデンサ電圧Vcが下降するように且つモータ回転数Nmが減少するように、d軸電流指令値Id*を算出する。なお、制御装置40における2回目以降のステップS310の処理を実行する機能がd軸電流指令部に相当する。
【0118】
一方、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0である場合、ステップS318に進む。ステップS318では、モータ回転数Nm及びコンデンサ電圧Vcの両方が十分に低下したとして、開閉器22を開状態から閉状態に移行させる。ここでは、開閉器22の駆動部に対して閉信号を出力する。これにより、バッテリ11から電力変換装置13及びモータ12への電力供給が再び行われる。ステップS319では、ステップS306にて設定していたコンデンサモードを解除する。なお、制御装置40におけるステップS318の処理を実行する機能が閉移行部に相当する。また、回転閾値Nthが閉閾値に相当する。
【0119】
次に、インバータ異常が発生した場合のモータ12のトルクの変化態様について、図15を参照しつつ説明する。ここでは、インバータ異常として、制御装置40が2相制御を実行可能な態様の異常が発生した場合を想定する。
【0120】
図15に示すタイミングt1は、インバータ異常が発生したタイミングである。タイミングt1以前は、制御装置40により通常の3相制御が行われており、モータ12のトルクがトルク指令値に近い値に保たれている。インバータ異常が発生するタイミングt1の直前においては、モータ回転数Nmが回転閾値Nth以下になっている。このため、インバータ異常の発生に伴って制御装置40により閉処理で2相制御が開始されている。開閉器22は、タイミングt1以前及び以降のいずれにおいても閉状態になっている。
【0121】
タイミングt1にてインバータ異常が発生した後に、制御装置40により位相差PD2が成り行きの120度のままで2相制御が行われた場合、モータ12のトルクはトルク指令値を跨ぐように大きく変動している。一方、タイミングt1にてインバータ異常が発生した後に、制御装置40により位相差PD2が60度に変更されて2相制御が行われた場合、位相差PD2が120度の場合に比べて、トルクの変動が小さくなっている。この場合、モータ12のトルクは、3相制御でのトルクに比べると全体的に小さい値になっている。ただし、上述したようにモータ回転数Nmが回転閾値Nth以下になっているため、モータ12では正トルクが生じやすくなっている。
【0122】
次に、インバータ異常が発生した場合のモータ回転数Nmの変化態様について、図16を参照しつつ説明する。ここでは、図15と同様に、インバータ異常として、制御装置40が2相制御を実行可能な態様の異常が発生した場合を想定する。
【0123】
図16に示すタイミングt11は、インバータ異常が発生したタイミングである。タイミングt11以前は、制御装置40により通常の3相制御が行われている。インバータ異常が発生するタイミングt11の直前においては、モータ回転数Nmが回転閾値Nthよりも大きくなっている。また、コンデンサ電圧Vcはバッテリ電圧V0とほぼ同じになっている。このため、インバータ異常の発生に伴って、制御装置40により開処理で2相制御が開始され、開閉器22は閉状態から開状態に移行している。また、インバータ異常の発生に伴って、開処理では2相制御と共に無効電力制御が開始される。
【0124】
タイミングt11以降は、開処理において2相制御と共に電圧上昇制御が行われることにより、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに向けて上昇している。また、タイミングt11以降は、モータ回転数Nmが減少している。モータ回転数Nmの減少は、2相制御の開始に伴ってモータ12のトルクが減少したことに加えて、無効電力制御が実行されていることで生じている。モータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きく、且つコンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhより小さい状態では、モータ12にて負トルクが生じやすい。
【0125】
タイミングt11の後、タイミングt12では、上昇していたコンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに達している。タイミングt12以降も電圧上昇制御が継続されることにより、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに保たれている。一方で、タイミングt12以降も無効電力制御が継続されることなどにより、モータ回転数Nmは回転閾値Nthに向けて減少し続けている。コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhになっている状態では、モータ回転数Nmがある程度小さくなることでモータ12がゼロトルクになりやすい。
【0126】
タイミングt12の後、タイミングt13では、減少していたモータ回転数Nmが回転閾値Nthに達している。タイミングt13以降は、モータ回転数Nmが回転閾値Nthまで減少したことに伴って、開処理において電圧上昇制御に代えて電圧下降制御が行われる。これにより、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに向けて下降している。一方で、タイミングt13以降も無効電力制御が継続されることなどにより、モータ回転数Nmは回転閾値Nthに保たれている。モータ回転数Nmが回転閾値Nthになっている状態では、モータ12にて正トルクが生じやすくなっている。
【0127】
タイミングt13の後、タイミングt14では、減少していたコンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0に達している。それに伴って、開閉器22が開状態から閉状態に移行されている。タイミングt14以降は、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0まで減少したため、閉処理での2相制御が行われる。
【0128】
なお、タイミングt14の後、再びモータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きくなった場合は、制御装置40により開閉器22が再び開状態に移行される。そして、制御装置40により再び開処理での2相制御が開始される。再びモータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きくなる場合としては、例えば車両が下り坂を走行することなどが考えられる。
【0129】
<構成群A>
ここまで説明した本実施形態によれば、1相の変換回路31に異常が発生し、残った2相の変換回路31によりモータ12が駆動される場合、閉処理での2相制御において電流の位相差PD2が120度から60度に変更される。位相差PD2を120度から60度に変更することで、モータ12の回転磁界MFRの形状を円に近づけることができる。この場合、合成磁界MFSの大きさが位相によってばらつくということが生じにくくなり、モータ12の逆起電力が位相によってばらつくということが生じにくくなる。このため、特定の位相でモータ12の逆起電力が過剰に大きくなってインバータ30に過電流が流れ、それに伴ってインバータ30が発熱する、ということが生じにくくなる。したがって、インバータ30について異常発生に伴う発熱を抑制できる。
【0130】
駆動システム10においては、回転磁界MFRの形状を円に近づけることが、回転磁界MFRの態様を改善することになる。このため、2相制御において位相差PD2を変更することにより、回転磁界MFRの態様を改善できる。また、駆動システム10においては、モータ12の逆起電力が位相によってばらつかないようにすることが、モータ12の逆起電力を適正に管理することになる。このため、回転磁界MFRの態様を改善することにより、モータ12の逆起電力を適正に管理できる。
【0131】
本実施形態とは異なり、例えば、1相の変換回路31に異常が発生した場合に2相制御での位相差PD2が成り行きで120度のままに保たれる構成を想定する。この構成では、2相制御により生じる回転磁界MFRが楕円状になり、合成磁界MFSの大きさが位相によってばらつき、モータ12の逆起電力も位相によってばらつく。例えば、特定の位相で逆起電力が過剰に大きくなる場合には、この位相においてインバータ30に過電流が流れてインバータ30が発熱することが懸念される。
【0132】
駆動システム10においては、モータ12の逆起電力が位相によってばらつくことで、モータ12の逆起電力を適正に管理することが困難になる。そして、回転磁界MFRが楕円状になることは、モータ12の逆起電力を管理する上で不適な態様になることである。
【0133】
また、上記のように位相差PD2が120度のままに保たれる構成では、合成磁界MFSの大きさが位相によってばらつくことに起因して、トルクリプルが悪化することや、モータ12に対する制御装置40の制御性が悪化することなどが懸念される。これに対して、本実施形態によれば、上述したように、位相差PD2が変更されることで合成磁界MFSの大きさが位相によってばらつきにくくなっている。このため、トルクリプルや制御性の悪化を抑制できる。このようにトルクリプルや制御性の悪化を抑制することで、ドライバビリティを高めることができる。
【0134】
インバータ異常の発生に対して、2相制御ではなく退避処理でASCが行われた場合、モータ12と平滑コンデンサ21との通電が遮断された状態になる。このため、モータ12の逆起電力が平滑コンデンサ21に供給されることが規制される。ただし、モータ12の逆起電力による電流が、上アーム群38a,39a及び下アーム群38b,39bのうち、オン指令を受けた方のアームスイッチ33,36を流れる。ここで、モータ12の高出力化が図られると、モータ12にて発生する界磁磁束である鎖交磁束が増加する。このため、ASCが行われた状態では、オン状態になっているアームスイッチ33,36を流れる電流が鎖交磁束に比例して増加する。したがって、アームスイッチ33,36を流れる電流によりインバータ30において発生する熱が過剰に大きくなることが懸念される。この結果、インバータ30の冷却が発熱に追い付かなくなるという「熱成立しない状態」になってしまう。
【0135】
これに対して、本実施形態によれば、上述したように、位相差PD2を60度に変更した上で2相制御が行われる。このため、オン状態になっているアームスイッチ33,36に流れる電流が過剰に増加するということが抑制される。したがって、インバータ30が「熱成立しない状態」になることを抑制できる。
【0136】
本実施形態では、インバータ30において変換回路31がHブリッジ回路になっている。すなわち、インバータ30において、第1インバータ部38が巻線12aの一端に接続され、第2インバータ部39が巻線12aの他端に接続されている。この構成では、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwのそれぞれを制御装置40により個別に制御することができる。このため、1相の変換回路31に異常が発生した場合に、制御装置40が残り2相の変換回路31を対象として2相制御を行うことにより、モータ12を駆動できる。
【0137】
本実施形態とは異なり、例えば、Hブリッジ回路ではない変換回路が巻線12aの一端だけに接続され、巻線12aの他端によりY結線が形成された構成を想定する。この構成では、3相の電流の総和がゼロになるという制約があり、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを制御装置40により個別に制御するということが困難である。このため、インバータ30において1相の変換回路に異常が発生した場合、仮に、制御装置40が残り2相の変換回路を制御してモータ12を駆動したとしても、トルクリプルや制御性が悪化し、モータ12を適正に駆動することが困難である。
【0138】
本実施形態によれば、インバータ30の異常相について、変換回路31において異常スイッチを除く全てのアームスイッチ33,36がオフ駆動される。これにより、インバータ30の異常相について、変換回路31に接続された巻線12aへの通電が遮断される、という構成を実現できる。この構成では、変換回路31や巻線12aに電流が流れるということが生じにくくなっている。このように、制御装置40が2相制御を行う場合に、インバータ30の異常相に意図しない電流が流れにくくなっているため、2相制御によるモータ12の制御精度を高めることができる。
【0139】
本実施形態によれば、2相制御において位相差PD2が120度から60度に変更されると、回転磁界MFRが円状になる。この構成では、合成磁界MFSが位相によってばらつくということが生じにくくなる。このため、モータ12の逆起電力が位相によってばらつくことや、トルクリプルの悪化、制御性の悪化などを抑制できる。
【0140】
本実施形態によれば、制御装置40においては、2相制御において位相差PD2が60度になるように電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が設定されている。このため、1相の変換回路31に異常が発生した場合に、残り2相の変換回路31により電流の位相差PD2を60度にすることが可能になる。
【0141】
本実施形態によれば、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を設定する場合に3相制御と2相制御とで式1~式3と式4~式6とが2相3相変換部46にて使い分けられる。この場合、単に3相制御と2相制御とで演算式を使い分けることで、2相制御において位相差PD2を変更することが可能になるため、演算負荷を低減できる。本実施形態とは異なり、例えば、2相3相変換部46において、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を設定するための機能ブロックが3相制御と2相制御とで別々に設けられた構成では、これら機能ブロックを構築するための記憶容量が必要になってしまう。これに対して、本実施形態によれば、2相制御と3相制御とで演算式を使い分ければよく、演算のための機能ブロックを設ける必要がない。したがって、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の演算について、制御装置40の記憶容量を低減できる。
【0142】
本実施形態によれば、モータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きくない場合に閉処理での2相制御が行われる。このため、閉処理での2相制御について、モータ12を駆動するには回転磁界MFRの大きさが不足してモータ12の逆起電力が発生し、インバータ30に過電流が流れる、ということを回避できる。
【0143】
<構成群B>
本実施形態によれば、1相の変換回路31に異常が発生し、残った2相の変換回路31によりモータ12が駆動される場合、電圧上昇処理により、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0を超えて上昇するようにq軸電流指令値Iq*が設定される。しかも、この場合、既に開閉器22が開状態に移行されているため、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0を超えて上昇しやすくなっている。そして、バッテリ電圧V0よりも大きくなったコンデンサ電圧Vcがインバータ30を介してモータ12の駆動に用いられることで、回転磁界MFRの態様を改善できる。このため、モータ12の逆起電力を管理しやすくなる。モータ12の逆起電力を適正に管理できると、モータ12の逆起電力によりインバータ30に過電流が流れてインバータ30が発熱するということが生じにくくなる。したがって、インバータ30について異常発生に伴う発熱を抑制できる。
【0144】
バッテリ電圧V0がインバータ30によりモータ12の駆動に用いられている状況では、2相制御が行われている場合にモータ12にて正トルクが生じるモータ回転数Nmが、3相制御が行われている場合に比べて小さい回転数になる。すなわち、2相制御により駆動可能なモータ12の最高回転数は、3相制御により駆動可能なモータ12の最高回転数よりも小さくなっている。このため、モータ回転数Nmが高回転域にある場合、2相制御ではモータ12を駆動することができず、モータ12の逆起電力が生じやすくなってしまう。
【0145】
これに対して、本実施形態によれば、モータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きい場合に、開閉器22が開状態に移行されて電圧上昇処理が行われる。このため、モータ回転数Nmが回転閾値Nthよりも大きいことで、モータ12の駆動に用いられる電圧が不足してモータ12にて負トルクが生じる、ということを回避できる。換言すれば、モータ回転数Nmが回転閾値Nthよりも大きい高回転域にあるにもかかわらず、開閉器22を開状態に移行させる処理と、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0を超えて上昇させる処理とが行われない、ということを回避できる。したがって、モータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きいことでモータ12の逆起電力が生じるということを抑制できる。
【0146】
本実施形態によれば、回転閾値Nthは、閉処理での2相制御によりモータ12を駆動可能な回転数である。すなわち、回転閾値Nthは、開閉器22が閉状態にある状況でモータ12にて負トルクが生じない回転数である。このため、バッテリ電圧V0では2相制御でモータ12を駆動できないほどにモータ回転数Nmが大きいにもかかわらず、開閉器22を開状態に移行させる処理と、コンデンサ電圧Vcを対象とした電圧上昇処理とが行われない、ということを回避できる。したがって、2相制御でモータ12を駆動するにはバッテリ電圧V0が不足していることに起因してモータ12の逆起電力が生じるということを抑制できる。
【0147】
本実施形態によれば、開処理での電圧上昇処理において、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhまで上昇するようにq軸電流指令値Iq*が設定される。そして、制御装置40では、q軸電流Iqがq軸電流指令値Iq*に一致するようにベクトル制御が行われる。このため、コンデンサ電圧Vcをコンデンサ上限値Vhまでより確実に上昇させることができる。
【0148】
本実施形態によれば、コンデンサ上限値Vhは、インバータ30への印加電圧の上限値であるインバータ上限値である。このため、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0を超えて上昇することでインバータ30への過電圧が生じる、ということを回避できる。したがって、モータ12の逆起電力によりインバータ30の過電流が生じること、及びコンデンサ電圧Vcによるインバータ30への過電圧が生じること、の両方を抑制できる。また、コンデンサ電圧Vcがインバータ上限値よりも大きい値にならないことで、無効電力制御に必要な電流が低減される。このため、無効電力制御により生じるインバータ30での損失やモータ12での損失を低減できる。
【0149】
本実施形態によれば、開処理での無効電力処理では、モータ回転数Nmが減少するようにd軸電流指令値Id*が設定されている。このため、1相の変換回路31に異常が発生した場合に、モータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きい状況であれば、無効電力制御によりモータ回転数Nmを積極的に減少させることができる。この場合、モータ回転数Nmが減少して回転閾値Nthに達するまでに要する時間の短縮を図ることができる。
【0150】
本実施形態によれば、開処理での無効電力処理では、コンデンサ電圧Vcに応じてd軸電流指令値Id*が設定されている。このため、1相の変換回路31に異常が発生した場合に、無効電力制御によりコンデンサ電圧Vcの上昇及び下降の両方を積極的に行うことができる。例えば、コンデンサ電圧Vcを上昇させる場合には、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに達するまでに要する時間の短縮を図ることができる。また、コンデンサ電圧Vcを下降させる場合には、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0に達するまでに要する時間の短縮を図ることができる。
【0151】
本実施形態によれば、開処理においてモータ回転数Nmが回転閾値Nthまで減少した場合に、開閉器22が閉状態に移行されて開処理が終了する。このため、バッテリ電圧V0によりモータ12を適正に駆動できるほどにモータ回転数Nmが減少したにもかかわらず、開閉器22が閉状態に移行せず、バッテリ11からの電力によりモータ12の駆動を行うことができない、ということを回避できる。
【0152】
開処理が終了する場合に、コンデンサ電圧Vcとバッテリ電圧センサ23とが異なっていると、バッテリ11と平滑コンデンサ21とを循環する循環電流が発生しやすい。これに対して、本実施形態によれば、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0まで減少したことを条件に、開閉器22が閉状態に移行される。このため、バッテリ11と平滑コンデンサ21とを流れる循環電流の発生を抑制できる。
【0153】
本実施形態によれば、開処理での2相制御において電流の位相差PD2が120度から60度に変更される。これにより、閉処理での2相制御と同様に、モータ12の回転磁界MFRの形状を円に近づけることができる。したがって、開処理では、モータ回転数Nmを減少させる処理、コンデンサ電圧Vcを上昇させる処理、及びコンデンサ電圧Vcを下降させる処理と共に、インバータ30について異常発生に伴う発熱を抑制するように2相制御を行うことができる。
【0154】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、アームスイッチ33,36と巻線12aとが直接的に接続されていたが、第2実施形態では、アームスイッチ33,36の少なくとも一方と巻線12aとが巻線スイッチ59を介して接続されている。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0155】
図17に示すように、電力変換装置13は巻線スイッチ59を有している。巻線スイッチ59は、U相、V相、W相のそれぞれの変換回路31において第2アーム回路35のアームスイッチ36と巻線12aとを通電可能に接続している。第2アーム回路35のアームスイッチ36と巻線12aとは巻線スイッチ59を介して接続されている。一方で、第1アーム回路32のアームスイッチ33と巻線12aとは巻線スイッチ59を介さずに直接的に接続されている。
【0156】
巻線スイッチ59は、半導体素子等のスイッチング素子により形成されている。巻線スイッチ59は、開状態と閉状態とに移行可能なスイッチやリレー等により形成されており、出力ライン27bに設けられている。U相、V相、W相のそれぞれの変換回路31では、巻線スイッチ59が閉状態にある場合、アーム回路32,35と巻線12aと通電が可能になっている。一方、巻線スイッチ59が開状態にある場合、アーム回路32,35と巻線12aとの通電が遮断されている。
【0157】
なお、巻線スイッチ59は、U相、V相、W相のそれぞれの変換回路31において第1アーム回路32のアームスイッチ33と巻線12aとを通電可能に接続していてもよい。巻線スイッチ59は、アームスイッチ33,36の少なくとも一方と巻線12aとを接続していればよい。この構成では、巻線スイッチ59が出力ライン27aに設けられている。
【0158】
巻線スイッチ59には、この巻線スイッチ59を開閉駆動させる駆動部が設けられている。巻線スイッチ59と制御装置40とは電気的に接続されている。制御装置40は、この駆動部の駆動制御を行うことで巻線スイッチ59に開動作や閉動作を行わせる。制御装置40は、U相、V相、W相のそれぞれについて巻線スイッチ59を個別に開閉させることが可能になっている。
【0159】
制御装置40は、インバータ制御処理の閉処理において巻線スイッチ59の駆動制御を行う。ここでは、本実施形態の閉処理について、図18のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0160】
図18において、ステップS201~S205では、上記第1実施形態と同様の処理を行う。ステップS205の後、ステップS401では、通電遮断を行う。ここでは、インバータ30の異常相について巻線スイッチ59を開動作させる。インバータ30の異常相について、巻線スイッチ59が閉状態である場合には、この巻線スイッチ59が閉状態から開状態に移行する。一方、既に巻線スイッチ59が開状態になっている場合には、この巻線スイッチ59が開状態に保持される。いずれの場合でも、インバータ30の異常相について巻線12aへの通電が遮断される。なお、制御装置40におけるS401の処理を実行する機能は、位相変更部、遮断実行部及び巻線開放部に相当する。
【0161】
閉処理においては、インバータ30の異常相について巻線12aへの通電が巻線スイッチ59により遮断された状態で、2相制御として2回目以降のステップS203~S205が行われる。なお、ステップS401にて通電遮断が行われる場合には、ステップS205の異常相オフ駆動が行われなくてもよい。これは、異常相について変換回路31にて異常スイッチを除く全てのアームスイッチ33,36をオフ駆動させなくても、巻線12aへの通電が巻線スイッチ59により遮断されるためである。
【0162】
制御装置40は、閉処理と同様に、開処理において巻線スイッチ59の駆動制御を行う。ここでは、本実施形態の開処理について、図19のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0163】
図19において、ステップS301~S305では、上記第1実施形態と同様の処理を行う。ステップS305の後、ステップS501では、通電遮断を行う。また、ステップS306~S314では、上記第1実施形態と同様の処理を行い、ステップS314の後、ステップS502では、通電遮断を行う。これらステップS501,S502では、いずれも閉処理でのステップS401と同様に、インバータ30の異常相について、巻線スイッチ59を開動作させる。なお、制御装置40におけるS501,S502の処理を実行する機能は、位相変更部、遮断実行部及び巻線開放部に相当する。
【0164】
開処理においては、インバータ30の異常相について巻線12aへの通電が巻線スイッチ59により遮断された状態で、2相制御として2回目以降のステップS303~S305,S312~S314が行われる。なお、ステップS501,S502にて通電遮断が行われる場合には、ステップS305,S314の異常相オフ駆動が行われなくてもよい。これは、閉処理と同様に、異常相について変換回路31にて異常スイッチを除く全てのアームスイッチ33,36をオフ駆動させなくても、巻線12aへの通電が巻線スイッチ59により遮断されるためである。
【0165】
本実施形態によれば、閉処理及び開処理のいずれにおいても、異常相の変換回路31による巻線12aへの通電が巻線スイッチ59により遮断される。このため、インバータ異常の種類がアームスイッチ33,36の短絡異常だったとしても、異常スイッチを通じて意図せずに巻線12aに電流が流れるということを巻線スイッチ59により確実に回避できる。したがって、インバータ異常の発生に伴って2相制御が行われている場合に、異常相について意図せずに巻線12aに電流が流れることで制御破綻が起きる、ということを抑制できる。
【0166】
インバータ異常が発生した場合、異常相について全てのアームスイッチ33,36がオフ状態になっていても、ダイオード34,37を通じて巻線12aに循環電流が流れることが懸念される。この場合、2相制御で位相差PD2が120度から60度に変更されたとしても、異常相について循環電流が流れてモータ12の回転磁界MFRが円状になりにくい。すなわち、2相制御により生じる合成磁界MFSの大きさが位相によってばらつきやすい。
【0167】
これに対して、本実施形態によれば、異常相について巻線スイッチ59が開状態に移行されるため、ダイオード34,37と巻線12aとを流れる循環電流が遮断される。このため、異常相について循環電流が流れてモータ12の回転磁界MFRが円状にならないということを抑制できる。すなわち、2相制御により生じる合成磁界MFSの大きさが位相によってばらつくということを抑制できる。
【0168】
本実施形態では、どちらかというと短絡異常よりも開放異常の方が発生しにくいスイッチング素子によりアームスイッチ33,36が形成されている。このように、インバータ異常として開放異常よりも短絡異常が発生しやすい電力変換装置13においては、2相制御での制御破綻を抑制する上では、異常相について巻線12aへの通電を巻線スイッチ59により強制的に遮断することが好ましい。
【0169】
なお、本実施形態では、図11に示すインバータ制御処理のステップS103において、2相制御を行うか否かの判定として、第1アーム回路32及び第2アーム回路35のそれぞれに異常スイッチが1つずつ含まれているか否かの判定を行ってもよい。例えば、異常相について、アーム回路32,35のそれぞれに異常スイッチが1つずつ含まれている場合には、2相制御を行うとして、ステップS104に進み、ステップS107の開処理やステップS109の閉処理を行う。アーム回路32,35のそれぞれに異常スイッチが1つずつ含まれていても、上述したように、開処理及び閉処理において巻線スイッチ59を開動作させることで、これら異常スイッチを通じて意図せずに巻線12aに電流が流れることを回避できる。
【0170】
<第3実施形態>
上記第1実施形態では、電圧変更部53がコンデンサ電圧Vcに応じてq軸電流指令値Iq*を設定していた。これに対して、第3実施形態では、電圧変更部53がモータ12の状態に応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0171】
図20に示すように、制御装置40は、機能ブロックとしてモータ温度取得部61を有している。モータ温度取得部61は、上位ECUや各種センサから入力された信号を用いて、モータ12の温度であるモータ温度Tmを検出値として取得する。例えば、温度を検出するサーミスタ等の温度センサがモータ12の周囲に設けられており、モータ温度取得部61は、この温度センサからの検出信号を用いてモータ温度Tmを算出して取得する。なお、モータ温度取得部61は、検出値としての各相電流Iu,Iv,Iwや各相電圧Vu,Vv,Vwなどを用いてモータ温度Tmを推定して取得してもよい。また、モータ温度取得部61は、d軸電流Idやq軸電流Iq、d軸電圧Vd、q軸電圧Vqなどを用いてモータ温度Tmを推定して取得してもよい。
【0172】
上記第1実施形態と同様に、電圧変更部53は、図13に示す開処理において2回目以降のステップS302,S311にてq軸電流指令値Iq*を設定するための機能ブロックである。
【0173】
電圧変更部53は、モータ回転数Nm及びモータ温度Tmに応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。モータ回転数Nm及びモータ温度Tmは、モータ12の状態を示すモータ情報である。モータ温度取得部61により取得されたモータ温度Tmは電圧変更部53に入力される。電圧変更部53には、モータ温度Tmに加えてモータ回転数Nmが入力される。このモータ回転数Nmは、図13に示す開処理においてステップS307,S315にて取得された値である。電圧変更部53は、モータ回転数Nm及びモータ温度Tmからq軸電流指令値Iq*を設定するために、相関マップ63を用いてフィードフォワード制御を行う。
【0174】
相関マップ63は、モータ回転数Nmとモータ温度Tmとq軸電流Iqとコンデンサ電圧Vcとの相関関係を示す相関情報である。相関マップ63は、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40の記憶部に記憶されている。なお、相関マップ63には、少なくともモータ回転数Nmとモータ温度Tmとq軸電流Iqとをパラメータとしてこれらパラメータの相関関係が含まれていれより。すなわち、相関マップ63のパラメータにはコンデンサ電圧Vcが含まれていなくてもよい。相関マップ63は相関情報と称されることがある。
【0175】
相関マップ63としては、モータ回転数Nmやモータ温度Tmに対して、モータ12の逆起電力が発生する可能性が高いq軸電流Iqの情報を含むマップや、モータ12の逆起電力が発生しない可能性が高いq軸電流Iqの情報を含むマップなどがある。図13に示す開処理では、相関マップ63として、ステップS302とステップS311とでは異なるマップを用いる。例えば、ステップS302にて用いる相関マップ63には、コンデンサ電圧Vcを上昇させるためのq軸電流Iqに関する情報が含まれている。このため、ステップS302を含む電圧上昇処理が実行されることで、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに向けて上昇する。一方、ステップS311にて用いる相関マップ63には、コンデンサ電圧Vcを下降させるためのq軸電流Iqに関する情報が含まれている。このため、ステップS311を含む電圧下降処理が実行されることで、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0に向けて下降する。
【0176】
本実施形態によれば、電圧変更部53は、相関マップ63を用いてq軸電流指令値Iq*を設定するため、フィードバック制御を行う必要がない。このため、開処理の電圧上昇処理や電圧下降処理においてq軸電流指令値Iq*を設定する処理について応答性を高めることができる。これにより、コンデンサ電圧Vcを管理する上で、コンデンサ電圧Vcの増減やモータ回転数Nmの変化に対する制御装置40の応答性を高めることができる。
【0177】
本実施形態によれば、モータ回転数Nm及びモータ温度Tmに応じてq軸電流指令値Iq*が設定される。このため、モータ12の逆起電力がモータ回転数Nm及びモータ温度Tmの両方に応じて変化することを利用して、モータ12の逆起電力を適正に管理できる。
【0178】
<第4実施形態>
上記第1実施形態では、電圧変更部53がフィードバック制御によりq軸電流指令値Iq*を設定していた。上記第3実施形態では、電圧変更部53がフィードフォワード制御によりq軸電流指令値Iq*を設定していた。これに対して、第4実施形態では、電圧変更部53がフィードバック制御及びフィードフォワード制御の両方によりq軸電流指令値Iq*を設定する。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第2実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1、第3実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0179】
図21に示すように、電圧変更部53は、第1実施形態と同様に、コンデンサ制御部55がフィードバック制御によりq軸電流指令値Iq*を設定する。このようにフィードバック制御により設定されたq軸電流指令値Iq*を第1指令値と称する。また、電圧変更部53は、第3実施形態と同様に、相関マップ63を用いてフィードフォワード制御によりq軸電流指令値Iq*を設定する。このようにフィードフォワード制御により設定されたq軸電流指令値Iq*を第2指令値と称する。
【0180】
電圧変更部53は総合設定部65を有している。総合設定部65には、フィードバック制御により設定された第1指令値と、フィードフォワード制御により設定された第2指令値とが入力される。総合設定部65は、第1指令値及び第2指令値の両方を用いてq軸電流指令値Iq*を設定する。総合設定部65が設定したq軸電流指令値Iq*は、第1指令値及び第2指令値から総合的に設定された総合指令値であり、d軸減算部43に入力される。
【0181】
総合設定部65は、例えば、第1指令値と第2指令値との平均値を算出し、この平均値をq軸電流指令値Iq*として設定する。なお、総合設定部65は、第1指令値及び第2指令値のうち一方を優先的に用いてq軸電流指令値Iq*を設定してもよい。例えば、総合設定部65は、コンデンサ電圧Vcについて管理精度と応答性とのいずれを優先するのかを判定し、管理精度を優先すると判断した場合にフィードバック制御により算出された第1指令値をq軸電流指令値Iq*としてそのまま設定する。一方、総合設定部65は、応答性を優先すると判断した場合にフィードフォワード制御により算出された第2指令値をq軸電流指令値Iq*としてそのまま設定する。
【0182】
<他の実施形態>
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品、要素の組み合わせに限定されず、種々変形して実施することが可能である。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品、要素が省略されたものを包含する。開示は、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0183】
<構成群A>
上記各実施形態において、2相制御等の異常時制御において位相差が変更される変更値は60度でなくてもよい。位相差の変更値は、位相差PD2が120度のままになっている場合に比べて、モータ12の回転磁界MFRが円に近い形状になる値であればよい。例えば、2相制御においては、位相差PD2が120度の場合に比べて回転磁界MFRが円に近い形状になる変更値として、例えば30度や90度などが挙げられる。例えば図7に示すように、位相差PD2が30度に設定された場合、回転磁界MFRは、位相差PD2が120度の場合よりも円に近い形状になる。また、図8に示すように、位相差PD2が90度に設定された場合、回転磁界MFRは、位相差PD2が120度の場合よりも円に近い形状になる。位相差PD2を30度や90度に変更する場合には、位相差PD2が30度や90度になるように式4~式6のβu,βv,βwを設定すればよい。なお、回転磁界MFRが円状になる位相差PD2としては、60度に加えて、60度から若干増減した値も挙げられる。
【0184】
上記各実施形態において、2相制御等の異常時制御では、少なくとも2相の電流について変更する位相が同じ値にならなくてもよい。例えば、2相制御であれば、位相差PD2を120度から60度に変更する場合、2相の電流について変更する位相が30度ずつにならなくてもよい。例えば、2相の電流の一方について変更する位相を60度として、他方については位相を変更しなくてもよい。
【0185】
上記各実施形態において、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を設定する場合に、3相制御と2相制御とで共通の演算式が用いられてもよい。例えば、3相制御と2相制御とのいずれにおいても式4~式6が用いられる構成とする。3相制御において式4~式6を用いる場合には、βu,βv,βwにゼロを代入して電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が算出される。2相制御においては、上記第1実施形態と同様に、式4~式6を用いて電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が算出される。
【0186】
上記各実施形態において、2相3相変換部46が、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出するための機能ブロックとして、3相制御にて用いる機能ブロックと、2相制御にて用いる機能ブロックとを別々に有していてもよい。また、2相3相変換部46は、式1~式6などの演算式に代えて又は加えてマップなどの相関情報や関数などを用いて、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出してもよい。
【0187】
上記各実施形態において、2相制御等の異常時制御では、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*のうち異常相についての電圧指令値を算出しなくてもよい。例えば、異常相については電圧指令値にゼロを代入してもよい。また、異常相については、電圧指令値を算出した後に、駆動指令を生成しなくてもよい。例えば、常にゼロの信号を駆動指令としてもよい。
【0188】
上記各実施形態において、モータ回転数Nmに関係なく閉処理での2相制御が行われてもよい。例えば、モータ回転数Nmが回転閾値Nthより大きい場合及び大きくない場合の両方において、閉処理にて2相制御が行われてもよい。すなわち、開処理が行われなくてもよい。
【0189】
上記各実施形態において、閉処理の2相制御では、電流指令値Id*,Iq*の設定に用いる指令トルクが変更されてもよい。例えば、電流指令部41は、バッテリ電圧V0によるモータ12の駆動で生じるトルクの最大値が指令トルクより小さいか否かを判定する。そして、最大値が指令トルクより小さい場合、その最大値を指令トルクに代入して指令トルクを変更する。これにより、閉処理の2相制御において、モータ12にて生じるトルクが指令トルクに到達することができない状況を解消できる。
【0190】
上記各実施形態において、モータ12は、複数相の交流モータであれば、4相以上の交流モータでもよい。モータ12が4相以上の交流モータである場合、電力変換装置13には4相以上のインバータ30が設けられる。このインバータ30においては、4相以上のそれぞれの相に対応する変換回路31が設けられている。インバータ制御処理においては、1相以上の変換回路31に異常が発生した場合に、異常が発生していない変換回路31が2相以上残っていれば、これら2相以上の変換回路31を対象として異常時制御が行われてもよい。例えば、4相モータを駆動する電力変換装置13において、1相の変換回路31に異常が発生した場合、残った3相の変換回路31を対象とした3相制御が行われる。
【0191】
2相以上の変換回路を対象とした異常時制御においては、残った2相以上の電流の位相差が成り行きの値になっている場合に比べて、モータ12の回転磁界MFRが円に近い形状になるように残った2相以上の電流の位相差が変更される。例えば、モータ12及びインバータ30のそれぞれが4相である駆動システムにおいて、1相の変換回路31に異常が発生した場合、残った3相の変換回路31により異常時制御が行われる場合を想定する。この異常時制御では、残った3相の電流の位相差が成り行きの値になっている場合に比べて、モータ12の回転磁界MFRが円に近い形状になるように残った3相の電流の位相差が変更される。
【0192】
<構成群B>
上記各実施形態において、開処理の電圧上昇処理では、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0を超えて上昇するようにq軸電流指令値Iq*が設定されていればよい。例えば、コンデンサ上限値Vhが平滑コンデンサ21の最大許容電圧や定格電圧に関係なく設定されていてもよい。また、コンデンサ電圧Vcがあらかじめ定められた所定電圧値に一致するようにq軸電流指令値Iq*が設定されてもよい。同様に、開処理の無効電力処理では、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0を超えて上昇するようにd軸電流指令値Id*が設定されていればよい。
【0193】
上記各実施形態において、開処理を行うか否かの判定基準になる回転閾値Nthは、モータ12にて生じるトルクに関係なく、あらかじめ定められた値でもよい。また、回転閾値Nthは、コンデンサ電圧Vcやモータ温度Tmなどに応じて設定されていてもよい。
【0194】
上記各実施形態において、開処理を行うか否かの判定を行うパラメータとして、モータ回転数Nmではなく、モータ12のトルクや、コンデンサ電圧Vc、モータ温度Tmなどが用いられてもよい。例えば、バッテリ電圧V0によるモータ12の駆動で生じるトルクの最大値が指令トルクより小さいか否かを判定する。そして、最大値が指令トルクよりも小さい場合には、閉処理ではなく開処理を行う。
【0195】
上記各実施形態において、開処理の2相制御では、位相差PD2を変更する処理が行われなくてもよい。例えば、開処理のステップS303,S312では、位相差PD2が成り行きの120度のままになるように2相電圧指令が行われてもよい。例えば、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の設定に、3相制御と同様に式1~式3が用いられてもよい。
【0196】
上記各実施形態において、d軸電流指令値Id*を設定するステップS301,S310の処理のうち、2回目以降の処理だけでなく、全ての処理がd軸電流指令部に相当するように開処理が行われてもよい。例えば、ステップS301について、ステップS306~S308と同じ処理がステップS301よりも前の段階で行われる構成とする。このステップS301では、2回目以降の処理と同様に、1回目の処理で、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに一致するようにd軸電流指令値Id*が算出される。
【0197】
q軸電流指令値Iq*を設定するステップS302の処理のうち、2回目以降の処理だけでなく、全ての処理が電圧上昇部に相当するように開処理が行われてもよい。例えば、ステップS306~S308と同じ処理がステップS302よりも前の段階で行われる構成とする。このステップS302では、2回目以降の処理と同様に、1回目の処理で、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ上限値Vhに一致するようにq軸電流指令値Iq*が算出される。
【0198】
q軸電流指令値Iq*を設定するステップS311の処理のうち、2回目以降の処理だけでなく、全ての処理が電圧下降部に相当するように開処理が行われてもよい。例えば、ステップS315,S316と同じ処理がステップS311よりも前の段階で行われる構成とする。このステップS311では、2回目以降の処理と同様に、1回目の処理で、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0に一致するようにq軸電流指令値Iq*が算出される。
【0199】
上記各実施形態において、コンデンサ上限値Vhは、インバータ30の耐電圧や駆動システム10の耐電圧値に応じて設定されていてもよい。駆動システム10については、それぞれの定格値や最大許容電圧に応じて、駆動システム10への印加電圧の上限値が耐電圧値として設定されている。駆動システム10において最も耐電圧の低い部品や機器の耐電圧値が駆動システム10の耐電圧値として設定されている。
【0200】
上記各実施形態において、開処理では、d軸電流指令値Id*がモータ回転数Nm及びコンデンサ電圧Vcのいずれにも関係なく、指令トルクに応じて設定されてもよい。また、開処理では、d軸電流指令値Id*がモータ回転数Nm及びコンデンサ電圧Vcのうちモータ回転数Nmだけに応じて設定されてもよい。例えば、開処理のステップS301,S310において、コンデンサ電圧Vcには関係なく、モータ回転数Nmが回転閾値Nthに一致するようにd軸電流指令値Id*が設定されてもよい。
【0201】
上記各実施形態において、開閉器22を開閉するための判定基準である開閾値と閉閾値とは、いずれも回転閾値Nthになっているのではなく、異なる値になっていてもよい。例えば、開閾値が閉閾値より大きい値に設定されていてもよい。この構成では、インバータ異常の発生に伴って開処理を開始した時のモータ回転数Nmよりも、開処理を終了して閉処理を開始する時のモータ回転数Nmの方が小さくなる。このため、モータ回転数Nmが大きいことに起因してモータ12にて逆起電力が発生する、ということを確実に抑制できる。
【0202】
上記各実施形態において、開処理においては、コンデンサ電圧Vcとバッテリ電圧V0とが同じになっていない状態で開閉器22が閉状態に移行されてもよい。例えば、コンデンサ電圧Vcがバッテリ電圧V0より所定値だけ小さくなった場合に開閉器22が閉状態に移行される構成とする。この構成では、開閉器22が閉状態に切り替えられた場合に、バッテリ電圧V0が小さいことに起因してモータ12にて逆起電力が発生する、ということを確実に抑制できる。
【0203】
上記各実施形態において、電流指令値Id*,Iq*は、フィードフォワード制御により算出されてもよい。また、電流指令値Id*,Iq*は、マップ等の相関情報や関数などにより算出されてもよい。
【0204】
上記各実施形態において、電源スイッチと電力変換部との間に設けられたコンデンサとしては、平滑コンデンサ21の他にYコンデンサなどが挙げられる。電力変換装置13がYコンデンサを有する構成としては、例えば、Yコンデンサが開閉器22とインバータ30との間においてPライン25やNライン26に接続された構成が挙げられる。
【0205】
<共通>
上記各実施形態において、複数相の巻線12aのそれぞれに流れる電流を個別に制御可能であれば、変換回路31は複数相のそれぞれについて個別に設けられていなくてもよい。例えば、インバータ30が有する複数相の変換回路31について、アーム回路32,35のうち一方が少なくとも2相で共通化されていてもよい。図22に示すように、3相分の変換回路31について、アーム回路32,35のうち第2アーム回路35がU相、V相、W相で共通化された構成としてもよい。この構成では、第1アーム回路32がU相、V相、W相のそれぞれについて個別に設けられている。このため、第1アーム回路32は、インバータ30に3つ含まれているのに対して、第2アーム回路35は、インバータ30に1つだけ設けられている。
【0206】
この構成でも、第1アーム回路32のアームスイッチ33に異常が発生した場合に、2相制御を行うことが可能である。例えば、U相、V相、W相のうち1相について第1アーム回路32のアームスイッチ33に異常が発生した場合、制御装置40が、残った2相の第1アーム回路32のアームスイッチ33を制御対象として2相制御を行う。この場合、第1アーム回路32のアームスイッチ33のオンオフに合わせて、第2アーム回路35のアームスイッチ36がオンオフされることが好ましい。
【0207】
アーム回路32,35のうち一方が少なくとも2相で共通化された構成では、共通化によって減った分のアーム回路32,35についてコスト負担を低減できる。例えば、3相分の変換回路31について、アーム回路32,35のうち一方が3相で共通化された構成では、共通化によって減った2相分のアーム回路32,35についてコスト負担を低減できる。
【0208】
上記第1実施形態において、開処理での2回目以降のステップS302,S311では、q軸電流指令値Iq*があらかじめ定められた特定値に設定されてもよい。特定値は、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40の記憶部に記憶されている。例えば、ステップS302を含む電圧上昇処理では、特定値が、モータ回転数Nmなどのモータ12の運転状態に関係なく、モータ12が回生する値に設定される。すなわち、特定値は、コンデンサ電圧Vcが上昇する値に設定される。一方、ステップS311を含む電圧下降処理では、特定値が、モータ12の運転状態に関係なく、モータ12が力行する値に設定される。すなわち、特定値は、コンデンサ電圧Vcが下降する値に設定される。
【0209】
上記各実施形態において、変換回路31において発生する異常としては、アームスイッチ33,36の短絡異常や開放異常の他に、アームスイッチ33,36に接続された配線の断線や短絡などが挙げられる。
【0210】
上記各実施形態において、電流センサ28は、巻線12aを流れる電流を3相の全てについて検出していなくてもよい。例えば、電流センサ28が3相のうち2相について検出信号を出力し、制御装置40の電流算出部が検出信号に対応した2相について各相電流を算出し、残り1相の各相電流については2相の各相電流から推定してもよい。
【0211】
上記各実施形態において、制御装置40は、少なくとも1つのコンピュータを含む制御システムによって提供される。制御システムは、ハードウェアである少なくとも1つのプロセッサ(ハードウェアプロセッサ)を含む。ハードウェアプロセッサは、下記(i)、(ii)、又は(iii)により提供することができる。
【0212】
(i)ハードウェアプロセッサは、ハードウェア論理回路である場合がある。この場合、コンピュータは、プログラムされた多数の論理ユニット(ゲート回路)を含むデジタル回路によって提供される。デジタル回路は、プログラム及びデータの少なくとも一方を格納したメモリを備える場合がある。コンピュータは、アナログ回路によって提供される場合がある。コンピュータは、デジタル回路とアナログ回路との組み合わせによって提供される場合がある。
【0213】
(ii)ハードウェアプロセッサは、少なくとも1つのメモリに格納されたプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサコアである場合がある。この場合、コンピュータは、少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサコアとによって提供される。プロセッサコアは、例えばCPUと称される。メモリは、記憶媒体とも称される。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラム及びデータの少なくとも一方」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。
【0214】
(iii)ハードウェアプロセッサは、上記(i)と上記(ii)との組み合わせである場合がある。(i)と(ii)とは、異なるチップの上、又は共通のチップの上に配置される。
【0215】
すなわち、制御装置40が提供する手段及び機能の少なくとも一方は、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又はそれらの組み合わせにより提供することができる。
【0216】
上記各実施形態では、モータ12において、界磁を形成する永久磁石を含んで固定子が構成されていてもよく、電機子を形成する巻線12aを含んで回転子が構成されていてもよい。
【0217】
上記各実施形態において、電力変換装置13が搭載された車両としては、乗用車やバス、建設作業車、農業機械車両などがある。また、車両は移動体の1つであり、電力変換装置13が搭載される移動体としては、車両の他に電車や飛行機などある。電力変換装置13としては、インバータ装置やコンバータ装置などがある。このコンバータ装置としては、交流入力直流出力の電源装置、直流入力直流出力の電源装置、交流入力交流出力の電源装置などがある。
【0218】
<構成群Aの特徴>
本明細書にて開示された構成には、下記のように構成群Aの特徴が含まれている。
【0219】
[特徴A1]
電源部(11)から複数相の巻線(12a)を有するモータ(12)に供給される電力を、複数相の巻線のそれぞれに接続された複数相の変換回路(31)を有する電力変換部(30)により、直流から交流に変換する電力変換装置(13)であって、
複数相の巻線に流れる電流の位相差(PD3)が基準値になるように電力変換部を制御する基準制御部(S113,S114)と、
少なくとも1相の変換回路に異常が発生した場合に、残りの少なくとも2相の変換回路が巻線に流す電流の位相差を異常時位相差(PD2)として、異常時位相差が基準値から変更値に変更されるように電力変換部を制御する位相変更部(S203~S205,S401,S501,S502)と、
を備えている電力変換装置。
【0220】
[特徴A2]
位相変更部は、
異常が発生した変換回路に接続された巻線への通電を遮断する遮断実行部(S205,S401,S501,S502)を有している、特徴A1に記載の電力変換装置。
【0221】
[特徴A3]
位相変更部により異常時位相差が基準値から変更値に変更された場合、異常時位相差が基準値のままである場合に比べて、残りの少なくとも2相の変換回路が巻線に流す電流による回転磁界(MFR)が円に近い形状になる、特徴A1又はA2に記載の電力変換装置。
【0222】
[特徴A4]
変更値は、残りの少なくとも2相の変換回路が巻線に流す電流による回転磁界(MFR)が円状になる値である、特徴A1~A3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0223】
[特徴A5]
モータは、3相の巻線を有する3相モータであり、
電力変換部は、3相の変換回路を有しており、
基準制御部は、基準値を120度として電力変換部を制御し、
位相変更部は、1相の変換回路に異常が発生した場合に、変更値を60度として電力変換部を制御する、特徴A1~A4のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0224】
[特徴A6]
位相変更部は、
異常時位相差が基準値から変更値に変更されるように、巻線への印加電圧の指令値である電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を設定する電圧指令部(S203)、を有している特徴A1~A5のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0225】
[特徴A7]
位相変更部は、
変換回路において巻線の一端に接続された第1スイッチ(33)と巻線の他端に接続された第2スイッチ(36)とのうち一方に異常が発生した場合に、変換回路に異常が発生したとして電力変換部を制御する、特徴A1~A6のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0226】
[特徴A8]
位相変更部は、
異常が発生した変換回路について、第1スイッチ及び第2スイッチの少なくとも一方と巻線とを接続する巻線スイッチ(59)を開状態に移行させる巻線開放部(S401,S501,S502)、を有している特徴A7に記載の電力変換装置。
【0227】
[特徴A9]
位相変更部は、
変換回路において巻線に接続された複数の変換スイッチ(33,36)の少なくとも1つに異常が発生した場合に、残りの変換スイッチの全てを開状態に移行させる変換開放部(S205)、を有している特徴A1~A8のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0228】
[特徴A10]
位相変更部は、モータの回転数(Nm)があらかじめ定められた回転閾値(Nth)以下である場合に、異常時位相差が基準値から変更値に変更されるように電力変換部を制御する、特徴A1~A9のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0229】
<構成群Bの特徴>
本明細書にて開示された構成には、下記のように構成群Bの特徴が含まれている。
【0230】
[特徴B1]
電源部(11)から複数相の巻線(12a)を有するモータ(12)に供給される電力を、複数相の巻線のそれぞれに接続された複数相の変換回路(31)を有する電力変換部(30)により直流から交流に変換する電力変換装置(13)であって、
巻線に流れる電流をdq座標系におけるd軸電流(Id)とq軸電流(Iq)とに変換する座標変換部(42)と、
少なくとも1相の変換回路に異常が発生した場合に、電源部と電力変換部とを通電可能に接続した電源スイッチ(22)を開状態に移行させる開移行部(S106)と、
開移行部により電源スイッチが開状態に移行された状態で、電源スイッチと電力変換部との間に設けられたコンデンサ(21)のコンデンサ電圧(Vc)が電源部の電源電圧(V0)を超えて上昇するように、q軸電流のq軸電流指令値(Iq*)を設定する電圧上昇部(S302)と、
開移行部により電源スイッチが開状態に移行された状態で、電圧上昇部により設定されたq軸電流指令値に応じて、残りの少なくとも2相の変換回路が巻線に電流を流すように電力変換部を制御する開制御部(S303~S305,S312~S314)と、
を備えている電力変換装置。
【0231】
[特徴B2]
開移行部は、モータの回転数(Nm)があらかじめ定められた開閾値(Nth)よりも大きい場合に、電源スイッチを開状態に移行させる、特徴B1に記載の電力変換装置。
【0232】
[特徴B3]
開閾値は、少なくとも1相の変換回路に異常が発生した場合に、残りの少なくとも2相の変換回路が電源スイッチが閉状態にある状況でモータを駆動可能な回転数である、特徴B2に記載の電力変換装置。
【0233】
[特徴B4]
電圧上昇部は、コンデンサ電圧が電源電圧よりも大きいコンデンサ閾値(Vh)になるようにフィードバック制御によりq軸電流指令値を設定する、特徴B1~B3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0234】
[特徴B5]
コンデンサ閾値は、電力変換部への印加電圧の上限値である、特徴B4に記載の電力変換装置。
【0235】
[特徴B6]
開移行部により電源スイッチが開状態に移行された場合に、モータの回転数(Nm)が減少するようにd軸電流のd軸電流指令値(Id*)を設定するd軸電流指令部(S301,S310)、を備えている特徴B1~B5のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0236】
[特徴B7]
d軸電流指令部は、モータの回転数に加えてコンデンサ電圧に応じてd軸電流指令値を設定する、特徴B6に記載の電力変換装置。
【0237】
[特徴B8]
モータの回転数(Nm)があらかじめ定められた閉閾値(Nth)まで減少した場合に、電源スイッチを閉状態に移行させる閉移行部(S318)、を備えている特徴B1~B7のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【0238】
[特徴B9]
モータの回転数が閉閾値まで減少した場合に、コンデンサ電圧が下降するようにq軸電流指令値を設定する電圧下降部(S311)、を備え、
閉移行部は、電圧下降部によりq軸電流指令値が設定されてコンデンサ電圧が電源電圧まで下降した場合に、電源スイッチを閉状態に移行させる、特徴B8に記載の電力変換装置。
【0239】
[特徴B10]
電圧下降部は、コンデンサ電圧が電源電圧になるようにフィードバック制御によりq軸電流指令値を設定する、特徴B9に記載の電力変換装置。
【0240】
[特徴B11]
複数相の巻線に流れる電流の位相差(PD3)が基準値になるように電力変換部を制御する基準制御部(S113,S114)を備え、
開制御部は、残りの2相の変換回路が巻線に流す電流の位相差を異常時位相差(PD2)として、異常時位相差が基準値から変更値に変更されるように電力変換部を制御する、特徴B1~B10のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【符号の説明】
【0241】
<構成群A>
11…電源部としてのバッテリ、12…モータ、12a…巻線、13…電力変換装置、30…電力変換部としてのインバータ、31…変換回路、33…第1スイッチ及び変換スイッチとしてのアームスイッチ、36…第2スイッチ及び変換スイッチとしてのアームスイッチ、59…巻線スイッチ、PD2…異常時位相差としての位相差、PD3…位相差、MFR…回転磁界、Vu*…U相電圧指令値、Vv*…V相電圧指令値、Vw*…W相電圧指令値、S113,S114…基準制御部、S203…位相変更部及び電圧指令部、S204…位相変更部、S205…位相変更部、遮断実行部及び変換開放部、S401,S501,S502…位相変更部、遮断実行部及び巻線開放部。
【0242】
<構成群B>
11…電源部としてのバッテリ、12…モータ、12a…巻線、13…電力変換装置、21…コンデンサとしての平滑コンデンサ、22…電源スイッチとしての開閉器、30…電力変換部としてのインバータ、31…変換回路、42…座標変換部としての3相2相変換部、Id…d軸電流、Id*…d軸電流指令値、Iq…q軸電流、Iq*…q軸電流指令値、Nm…回転数としてのモータ回転数、Nth…開閾値及び閉閾値としての回転閾値、PD2…異常時位相差としての位相差、PD3…位相差、V0…電源電圧としてのバッテリ電圧、Vc…コンデンサ電圧、Vh…コンデンサ閾値としてのコンデンサ上限値、S106…開移行部、S113,S114…基準制御部、S301…d軸電流指令部、S302…電圧上昇部、S303~S305…開制御部、S310…d軸電流指令部、S311…電圧下降部、S312~S314…開制御部、S318…閉移行部、S501,S502…位相変更部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
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図22