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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】貼付型立体マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
A41D13/11 D
A41D13/11 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020209869
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096736
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】宮原 和久
(72)【発明者】
【氏名】山下 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】吉本 勝
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-020983(JP,A)
【文献】特開2005-095370(JP,A)
【文献】特開平08-113861(JP,A)
【文献】登録実用新案第3228313(JP,U)
【文献】特開2016-137104(JP,A)
【文献】特開2016-084444(JP,A)
【文献】国際公開第2016/025266(WO,A1)
【文献】特開2016-005491(JP,A)
【文献】特開2010-284373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻と口を覆うためのマスク本体部と、上記マスク本体部を直接顔面に貼付するための粘着部とを備えたマスクであって、
上記マスク本体部は、左右対称形状の二枚のポリウレタン弾性不織布が、顔面に貼付した状態で顔面の中央を上下に延びる仮想上の中心線Pに沿って延びる溶着部によって溶着され、それによって立体形状が付与されており、
上記粘着部は、上記マスク本体部の左右両側の縁部に沿って帯状に形成されており、
上記溶着部の、長手方向を横切る幅方向の寸法dが、0.1~1.5mmであり、
上記マスク本体部を構成するポリウレタン弾性不織布が、下記の特性(1)~(4)を備えたものであることを特徴とする貼付型立体マスク。
(1)目付:60~120g/m2
(2)縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)の引張強さ:ともに1000cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上
【請求項2】
上記ポリウレタン弾性不織布が、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものである請求項1記載の貼付型立体マスク。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上
【請求項3】
上記溶着部が、曲率半径75~125mmの円弧状である請求項1または2記載の貼付型立体マスク。
【請求項4】
上記粘着部が、幅10~25mmの帯状に形成されている請求項1~のいずれか一項に記載の貼付型立体マスク。
【請求項5】
上記粘着部の、少なくとも顔面に対する側の面が、アクリル系粘着剤からなる層で構成されている請求項1~のいずれか一項に記載の貼付型立体マスク。
【請求項6】
上記粘着部が多層構造の粘着部であり、その顔面に対する側の面がアクリル系粘着剤からなる層で構成され、そのポリウレタン弾性不織布に対する側の面が合成ゴム系粘着剤からなる層で構成されている請求項記載の貼付型立体マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔面に直接貼り付けて着用することができ、その着用感および密着性に優れた貼付型立体マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、感染症や花粉症等の防止のために、鼻と口を覆うマスクが広く用いられている。このようなマスクとしては、鼻と口を覆う略四角状のマスク本体部と、その左右の縁部から側方に延びる耳かけ部とを備えたものが主流であるが、長く着用していると耳かけ部の耳に当たる部分が痛くなるという理由や、美容院や理髪店、エステティックサロン等において耳かけ部が散髪やシャンプー等の施術時に邪魔になるという理由から、このような耳かけ部をなくして顔面に直接貼り付けて使用するタイプの使い捨てマスクが提案されている(以下の特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6446281号公報
【文献】実用新案登録第3227455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記特許文献1には、図4に示すように、織布や不織布からなるマスク本体部11と、その左右の縁部にそれぞれ取り付けられる保持部12とを備えた立体マスクが開示されている。このものは、各保持部12の片面(顔面に対する側の面)に、斜線で示すように粘着層13が形成されており、未使用時には、その表面が剥離紙(図示せず)で覆われており、使用時には、これを剥がして顔面に貼付することにより、マスク本体部11を顔面に貼付することができるようになっている。
【0005】
そして、上記の各保持部12には、図示のように切欠き14が設けられており、各保持部12を顔面に貼付する際には、図5に示すように、上記切欠き14を閉じるようにして貼付すると、マスクに、顔面に沿う立体形状が付与されるようになっている。
【0006】
しかしながら、上記立体マスクは、マスク本体部11の左右に、別部材である保持部12をそれぞれ取り付けなければならず、手間とコストを要するという問題がある。また、マスク本体部11と保持部12との接合部が頬に当たり、口の開閉に伴って違和感を与えるという問題もある。さらに、マスク本体部11を構成する織布や不織布に伸縮性がないため、口の開閉に伴ってマスク本体部11全体が動いて保持部12が顔面から剥がれやすいという問題もある。
【0007】
一方、上記特許文献2には、図6に示すように、1枚のマスク生地からなり、その上部に切り込み20を設けてこれを接合することによって立体形状を付与した立体マスクが開示されている。この立体マスクには、その左右両側に、直接、帯状の粘着性部材21が取り付けられており、この粘着性部材21を利用して、立体マスクを顔面に貼付することができるようになっている。
【0008】
しかしながら、このものは、切り込み20の接合によって鼻にかかる部分のみに立体形状が付与され、他の部分は平たいシート状であるため、口元に生地が貼りつく感じになって窮屈感が避けられない。また、口の開閉に伴って生地が引っ張られるため、粘着性部材21が顔面から剥がれやすいという問題もある。
【0009】
なお、上記特許文献2において、マスク生地として、連続気泡を有するポリエチレン発泡シートを用いることが提案されているが、連続気泡を有する発泡シートは、生地表面に多数の気泡開口が分布形成されているため、生地の動きとともに、そのざらついた感触が顔面に擦れて着用感がよくないという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、顔面に直接貼付することができ、しかも顔面への着用感と密着性に優れた貼付型立体マスクの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は、鼻と口を覆うためのマスク本体部と、上記マスク本体部を直接顔面に貼付するための粘着部とを備えたマスクであって、上記マスク本体部は、左右対称形状の二枚のポリウレタン弾性不織布が、顔面に貼付した状態で顔面の中央を上下に延びる仮想上の中心線Pに沿って延びる溶着部によって溶着され、それによって立体形状が付与されており、上記粘着部は、上記マスク本体部の左右両側の縁部に沿って帯状に形成されており、上記マスク本体部を構成するポリウレタン弾性不織布が、下記の特性(1)~(4)を備えたものである貼付型立体マスクを第1の要旨とする。
(1)目付:60~120g/m2
(2)縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)の引張強さ:ともに1000cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上
【0012】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記ポリウレタン弾性不織布が、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものである貼付型立体マスクを第2の要旨とする。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上
【0013】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記溶着部の、長手方向を横切る幅方向の寸法dが、0.1~1.5mmである貼付型立体マスクを第3の要旨とし、上記溶着部が、曲率半径75~125mmの円弧状である貼付型立体マスクを第4の要旨とする。
【0014】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、上記粘着部が、幅10~25mmの帯状に形成されている貼付型立体マスクを第5の要旨とし、上記粘着部の、少なくとも顔面に対する側の面が、アクリル系粘着剤からなる層で構成されている貼付型立体マスクを第6の要旨とする。また、そのなかでも、特に、上記粘着部が多層構造の粘着部であり、その顔面に対する側の面がアクリル系粘着剤からなる層で構成され、そのポリウレタン弾性不織布に対する側の面が合成ゴム系粘着剤からなる層で構成されている貼付型立体マスクを第7の要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
すなわち、本発明の貼付型立体マスク(以下、単に「マスク」ともいう)は、鼻と口を覆うためのマスク本体部が、左右対称形状の二枚のポリウレタン弾性不織布を、顔面に貼付した状態における仮想上の中心線Pに沿って溶着して立体的に仕立てたものであるため、鼻から口にかけて、特に、口の回りが窮屈になることなく顔面の凹凸に沿った形状になっている。
【0016】
しかも、上記ポリウレタン弾性不織布が、特定の物性を備えた特殊なものであるため、顔面への追従性に優れており、非常に優れた着用感を有している。そして、口の動きに追従して伸縮するマスク本体部の中央側の動きが、マスク本体部の周縁部にひびきにくいため、マスク本体部の左右両側の縁部に沿って帯状に形成された粘着部が顔面に対して動きにくく、顔面から剥がれにくいという利点を有する。このため、上記帯状の粘着部の幅を、従来に比べて大きくしても顔面から剥がれにくいものとなり、マスク本体部を、よりしっかりと保持することができる。
【0017】
なお、本発明のなかでも、特に、上記ポリウレタン弾性不織布の、(5)通気度、(6)最大熱吸収速度(Q-max)、の各特性が所定の範囲に設定されているものは、より呼吸がしやすく、蒸れにくいものとなり、着用感がさらに向上したものとなって好適である。
【0018】
また、本発明のなかでも、特に、上記溶着部の、長手方向を横切る幅方向の寸法dが、0.1~1.5mmであるものは、上記溶着部の幅方向の寸法dが、ごく小さいため、マスク正面の中心部において溶着部が目立たず、見栄えのよいものとなる。また、溶着部の存在によって着用感が損なわれることもなく、好適である。
【0019】
さらに、本発明のなかでも、特に、上記溶着部が、曲率半径75~125mmの円弧状であるものは、鼻から口元にかけて、とりわけ適度な自由度が確保された形となり、優れた着用感が得られるため、好適である。
【0020】
また、本発明のなかでも、特に、上記粘着部が、幅10~25mmの帯状に形成されているものは、マスク本体部の顔面への追従性が良好であることから、上記の範囲内であれば、いずれの幅であっても、上記粘着部が顔面から剥がれにくく、しっかりとマスク全体を保持することができ、好適である。特に、一般的な貼付型マスクの粘着部に比べて幅を大きくする(例えば20~25mmにする)ことができ、よりしっかりとマスク全体を保持することができる。
【0021】
そして、本発明のなかでも、特に、上記粘着部が、上記粘着部の、少なくとも顔面に対する側の面が、アクリル系粘着剤からなる層で構成されているものは、上記アクリル系粘着剤の顔面への刺激が少ないため着用感に優れ、より良好に使用することができる。また、そのなかでも、特に、上記粘着部が多層構造の粘着部であり、その顔面に対する側の面がアクリル系粘着剤からなる層で構成され、そのポリウレタン弾性不織布に対する側の面が合成ゴム系粘着剤からなる層で構成されているものは、顔面への刺激が少ない上、粘着部がマスク本体部に対して充分な接着力で接合するため、着用感に優れるだけでなく、取り扱い性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は本発明の一実施の形態のマスクを平たくたたんだ状態を示す平面図、(b)は上記マスクを左右に開いて立体的な形状にした状態を示す説明図である。
図2】上記マスクに用いられるポリウレタン弾性不織布を、左右対称のマスク生地(右側生地と左側生地)として裁断した二枚のうちの、右側生地を示す平面図である。
図3】上記マスクの粘着部の詳細を示す模式的な拡大断面図である。
図4】従来の貼付型立体マスクの一例を示す平面図である。
図5】上記貼付型立体マスクを顔面に貼付した状態を示す説明図である。
図6】従来の貼付型立体マスクの他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明を実施するための形態について、図面にもとづいて詳細に説明する。
【0024】
図1(a)は、本発明の一実施形態であるマスクを平たくたたんだ状態を示す平面図であり、図1(b)は、上記マスクを左右に開いて正面からみた状態を示す説明図である。
【0025】
より詳しく説明すると、上記マスクは、鼻と口を覆うためのマスク本体部1と、上記マスク本体部1を顔面に直接貼付するためにその左右両側の縁部に沿って帯状に延びる粘着部2とを備えている。そして、上記マスク本体部1は、これを顔面に貼付した状態で顔面の中央を上下に延びる仮想上の中心線Pに沿って溶着される左右対称形状の二枚のポリウレタン弾性不織布(右側生地と左側生地)によって構成されている。なお、図1(a)に表れているのは、マスク本体部1の右側生地である。
【0026】
上記マスク本体部1において、左右対称形状の二枚の生地を溶着して形成される溶着部3は、上記図1(a)の平面形状からわかるとおり、上下端から中央(「上下」は顔面に装着したときの上下方向に従う、以下同じ)に向かって緩やかに膨出する円弧状になっている。
【0027】
そして、上記マスク本体部1の上縁部4は、その左右両端から中心線Pに向かって上り傾斜の直線になっており、上記マスク本体部1の下縁部5は、その左右両端から中心線Pに向かって下り傾斜の直線になっている。
【0028】
上記マスク本体部1は、このように、特殊な形状が付与されているため、これを左右に開くと、図1(b)に示すように、中央の、上下に延びる溶着部3が手前に膨出した、立体形状になっている。
【0029】
上記マスク本体部1は、例えばつぎのようにして得ることができる。すなわち、まず、後述する特定の物性と通気性を有し、目的に応じた所定のフィルター機能(例えは花粉防止、飛沫防止等の機能)を備えたポリウレタン弾性不織布を準備し、図2に示すような形状の、左右対称形の右側生地と左側生地とを二枚重ねて(あるいは一枚の生地から別々に)裁断もしくは溶断する。そして、得られた右側生地と左側生地とを二枚重ねた状態で、図1に示す溶着部3となる溶着予定部3’を溶着することにより、図1(a)、(b)に示す形状のマスク本体部1を得ることができる。
【0030】
上記マスク本体部1に用いられるポリウレタン弾性不織布は、ポリウレタン弾性繊維を用いた不織布である。ポリウレタン弾性繊維は、ポリプロピレン等の他の繊維に比べて柔軟であり、また、熱伝導率が高いため、マスク内で熱がこもりにくい、という利点を有する。
【0031】
なお、上記ポリウレタン弾性不織布は、全体がポリウレタン弾性繊維のみからなるものである必要はなく、その一部が他の繊維に置き換えられたものであっても差し支えない。ただし、マスクとしての伸縮性、柔軟性等を確保する必要から、他の繊維を用いる場合は、その割合を、繊維全体に対し10質量%以下に設定することが望ましい。
【0032】
そして、上記ポリウレタン弾性不織布に用いられるポリウレタン弾性繊維の太さは、特に限定するものではないが、花粉や飛沫に対する除去性能を考慮すると、微細な空隙を数多く形成できるように、繊維径もできるだけ小さいことが望ましく、全体の強度や伸縮性、通気性等を考慮すると、その平均繊維径は25μm以下、なかでも5~15μmであることが好ましく、8~13μmであることがさらに好ましい。
【0033】
さらに、上記ポリウレタン弾性不織布は、特に、下記の特性(1)~(4)を備えたものであることが、良好な着用感と充分な密着性を得る上で必要である。
(1)目付:60~120g/m2、とりわけ80~120g/m2、さらには90~110g/m2
(2)縦方向(MD方向、以下同じ)、横方向(CD方向、以下同じ)の引張強さ:ともに1000cN/20mm以上
とりわけ縦方向の引張強さが1600cN/20mm以上、さらには1800cN/20mm以上
とりわけ横方向の引張強さが1200cN/20mm以上、さらには1600cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上、とりわけ350~520%
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上、とりわけ92~100%
【0034】
なお、上記「引張強さ」、「引張伸度」は、JIS L1913:2010 6.3.1に準じて測定される値であり、上記「100%伸長回復率」は、JIS L1096:2010 8.16.2に準じて測定される値である。
【0035】
また、上記ポリウレタン弾性不織布は、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものであることが、より優れた着用感を得る上で好適である。なお、通気度の上限については、要求されるフィルター性能等によって適宜に設定される。また、最大熱吸収速度(Q-max)とは、触ったときに冷たく感じる程度の指標であり、値が大きければ大きいほど冷感が強く得られ、好適である。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上、とりわけ75cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上、とりわけ0.10以上
【0036】
なお、上記「通気度」は、JIS L1913:2010 6.8.1 フラジール法に準じて測定される値であり、上記「最大熱吸収速度(Q-max)」は、JIS L1927:2020に準じて測定される値である。
【0037】
このような特性を備えたポリウレタン弾性不織布としては、特に、メルトブロー法によって得られるものが最適である。この方法をより詳しく説明すると、例えば特公昭41-7883号公報に記載された紡糸装置を用い、その紡糸口金から、熱可塑性ポリウレタン弾性体を溶融吐出し、そのノズル両側から加速気体流を噴射させてフィラメントを細化させる。そして、細化されたフィラメントを、例えば移動するコンベアネット等の補集装置上で、気体流と分離して積層し、互いの接触点同士で接合しながら冷却固化することにより得る方法である。もちろん、上記補集装置上での冷却固化後に、ローラー等を用いて加熱加圧して接合させたものであってもよい。このようにして得られるポリウレタン弾性不織布は、ポリウレタン弾性繊維の細い連続フィラメントがランダムに積層した構造をしているため、優れた通気性と緻密なフィルター機能、高い伸縮性、柔軟性を備えている。
【0038】
また、上記ポリウレタン弾性不織布として、抗菌性、殺菌性あるいは抗ウイルス性を付与したものを用いることができる。抗菌性もしくは抗ウイルス性を付与したものは、雑菌の繁殖もしくはウイルスの増殖が抑制され、衛生的である。そして、殺菌性を付与したものは、外部からの菌の侵入を阻止することができるため、特殊な用途に用いることができる。
【0039】
さらに、上記ポリウレタン弾性不織布として、導電性を付与したものを用いることができる。導電性を付与すると、マスクに静電気が溜まらなくなるため、埃や塵を寄せ付けず、より衛生的なものとなる。
【0040】
つぎに、上記マスク本体部1を顔面に直接貼付するための粘着部2について説明する。上記粘着部2は、上記マスク本体部1の左右両側の縁部に沿って、上下方向に帯状に延びる配置で形成されている。なお、上記粘着部2の左右の縁部が上記マスク本体部1の左右の縁部ぎりぎりに重なると、顔面からこれを剥がしにくくなるため、粘着部2の左右の縁部は、マスク本体部1の左右の縁部よりも少し内側に入った位置になるよう考慮されている。
【0041】
上記のように、粘着部2の左右の縁部がマスク本体部1の左右の縁部よりも内側に入り込んだ配置にする場合、その入り込み幅(マスク本体部1の左右の縁部と粘着部2の左右の縁部との間の幅)は、1~10mmに設定することが好ましく、より好ましくは2~5mmである。すなわち、上記入り込み幅が大きすぎると、マスク本体部1の左右の縁部のうち、顔面に貼付されていない部分(いわゆる「アソビ」の部分)が広くなってペラペラとめくれやすくなり、見栄えが悪くなるおそれがある。また、上記入り込み幅が小さすぎると、マスク本体部1を顔面から剥がしにくくなり好ましくない。
【0042】
上記粘着部2は、図3に模式的に示すように、シート状の支持体6を挟んで片側にアクリル系粘着剤層7と合成ゴム系粘着剤層8が積層された三層構造になっており、上記合成ゴム系粘着剤層8が、マスク本体部1の内側面に取り付けられ、上記アクリル系粘着剤層7が顔面に貼付される側の面になっている。なお、上記アクリル系粘着剤層7の表面は、未使用状態では剥離紙(図示せず)で保護されており、使用時に剥がして粘着部2を顔面に貼付するようになっている。
【0043】
上記粘着部2としては、市販の両面粘着テープを利用してもよいし、マスク本体部1の内側面に、粘着部2を直接塗布形成してもよい。粘着部2を直接塗布形成する場合は、通常、塗布形成された粘着部2の表面を、剥離紙で保護しておき、使用時にこれを剥がして用いるようにする。作業効率を考慮すると、両面粘着テープを利用することが好適である。
【0044】
このように構成されたマスクは、左右の粘着部2によって顔面に直接貼付することができ、耳にかける部分がないため、耳が痛くなることがない。そして、美容院等においてシャンプーや散髪等の施術を受ける際も、耳にかける部分が邪魔にならない、という利点を有する。
【0045】
そして、上記マスクは、左右対称形の二枚の生地を、手前に膨出した特殊な輪郭形状の溶着部3によって溶着して立体的に仕立てたものであるため、鼻から口にかけて、特に、口の回りが窮屈になることなく顔面の凹凸に沿った形状になっており、着用感に優れたものである。
【0046】
しかも、マスク本体部の生地として用いるポリウレタン弾性不織布が、特定の物性を備えた特殊なものであるため、顔面への追従性に優れているため、着用感に優れるのみならず、口の動きに追従して伸縮するマスク本体部1の中央側の動きが、マスク本体部1の周縁部にひびきにくくなっている。したがって、マスク本体部1の左右両側の粘着部2が顔面に対して動きにくく、顔面から剥がれにくいという利点を有する。このため、上記帯状の粘着部2の幅を、従来に比べて大きくしても顔面から剥がれにくいものとなり、マスク本体部1を、よりしっかりと保持することができる。
【0047】
そして、上記粘着部2が、支持体6を挟んでアクリル系粘着剤層7と合成ゴム系粘着剤層8が積層された三層構造になっており、上記合成ゴム系粘着剤層8が、マスク本体部1の内側面に取り付けられ、上記アクリル系粘着剤層7が顔面に貼付される面になっているため、顔面への刺激が少なく、かつマスク本体部1には充分な接着力で粘着部2が取り付けられており、安心して使用することができる、という利点を有している。
【0048】
なお、本発明のマスクは、耳にかける部分がなく、顔面に直接貼付して用いるものであることから、マスク全体が左右に引っ張られることがない。したがって、従来の耳かけタイプのマスクのように、鼻から口にかけて上下に延びる溶着部3に剛性をもたせてリブとして機能させなくても着用感が損なわれることがない。すなわち、上記溶着部3の、長手方向を横切る幅方向の寸法d[図2を参照]を、幅広く設定する必要がない。したがって、その幅寸法dは、例えば2mm以下、なかでも、0.1~1.5mmに設定することが好適である。このように、溶着部3の幅寸法をごく狭くすることにより、マスク中央において溶着部3が目立たず、見栄えのよい外観となる。また、溶着部3がごわつくことがないため、より優れた着用感を得ることができる。
【0049】
そして、上記溶着部3は、マスク本体部1の中心部が手前に膨出した立体形状となるように、図1に示す中心線Pに沿って手前に突出した形状になっていることが必要である。好ましくは、上記の例のように緩やかな円弧状であることが好ましく、その円弧状の曲率半径R(溶着部3の端縁の曲率半径、図1を参照)は、通常、75~125mm、なかでも、90~110mmに設定することが好ましい。すなわち、溶着部3を適度な曲率半径の円弧状とすることによって、鼻から口にかけての立体的な膨出形状をコントロールして、優れた着用感と密着性を得ることができる。
【0050】
なお、上記溶着部3は、着用感や見栄えを大きく損なうことがなければ、その一部を直線にして角張った膨出形状にしたり、曲率半径の異なる複数の円弧形状を組み合わせた膨出形状にしたりすることができる。ただし、直線部分を組み合わせる場合、直線部分が長くなると、鼻から口元にかけての窮屈感が増すため、直線とする部分の長さを、溶着部3の全長の1/3以下の長さに限定することが好ましい。
【0051】
また、上記マスク本体部1において、左右の生地を裁断もしくは溶断する際、図2に示すように、材料となるポリウレタン弾性不織布の横方向(CD方向、図2において矢印Xで示す)が、マスク本体部1の左右方向、すなわちマスク本体部1の左右の端縁に対して垂直方向になるように揃えると、一般的に横方向に比べてコシの強い縦方向(MD方向)がマスクの上下方向となるため、上下に膨出した立体部分が潰れにくく、口元の自由度がより確保されることとなり、好適である。
【0052】
そして、上記マスク本体部1の上縁部4と下縁部5のなす角度θ(図2を参照)は、20~60°であることが好ましく、なかでも、25~55°であることがより好ましい。すなわち、上記角度θが上記の範囲内であると、マスク本体部1の上縁部4と下縁部5が、生地の縦横方向に対して適度に傾斜するため、顔面に対して、より優れた追従性を発揮するからである。
【0053】
さらに、上記の例では、マスク本体部1に設ける粘着部2として、支持体6を挟んでアクリル系粘着剤層7と合成ゴム系粘着剤層8が積層された三層構造のものを用いたが、粘着部2は必ずしもこの構成のものである必要はなく、単層の粘着層であっても二層、あるいは四層以上の多層であっても差し支えない。しかし、少なくとも顔面に貼付する側の面の粘着剤層が顔面に対して低刺激性のものであることが好ましく、そのような粘着剤層となる粘着剤として、例えば、アクリル系粘着剤や、シリコーン系粘着剤が好適に用いられる。とりわけ、コストの面でアクリル系粘着剤が好適である。また、マスク本体部1に取り付ける側の面に対して充分な粘着力(接着力を含む)を発揮するものであることが好ましく、マスク本体部1に取り付ける側の粘着剤層として、例えば、上記の例のように、合成ゴム系粘着剤からなる層を、上記アクリル系粘着剤等と組み合わせて用いることが好適である。
【0054】
このような粘着性能を備えた両面粘着テープとして、例えば、アクリル系粘着剤/合成ゴム系粘着剤積層タイプ(両面2110R、ニチバンメディカル社製)、アクリル系粘着剤/合成ゴム系粘着剤積層タイプ(1577、スリーエム社製)等の市販品をあげることができる。また、すでに述べたとおり、これらの両面粘着テープの層構造に準じた構成の粘着層を、マスク本体部1の内側面に直接形成して、粘着部2とすることもできる。そして、いずれの構成においても、粘着部2の、顔面に貼付する側の粘着面は、剥離紙によって保護された状態で提供されるようになっている。
【0055】
なお、本発明において、粘着部2の幅W[図1(a)を参照]は、特に限定するものではないが、生地に追従性があり、マスク本体部1の周囲が無理に引っ張られることがないため、従来の、貼付型立体マスクにおける粘着部よりも、この幅Wを大きくしても剥がれにくいものとなる。したがって、上記幅Wは、通常5~15mm程度であるが、本発明では、10~25mm、なかでも、18~22mmに設定することが好適である。
【0056】
また、上記粘着部2の端縁は、すでに述べたように、顔面からの剥がしやすさを考慮して、マスク本体部1の端縁から数ミリ内側に入り込んでいることが好ましい。通常、マスク本体部1の左右の端縁の長さをL1とし、粘着部2の端縁の長さをL2とすると[図1(a)を参照]、L2/L1は、0.7~0.95、好ましくは0.75~0.9程度に設定される。なお、粘着部2の上下の端縁は、マスク本体部1の上端部4と下端部5の傾きに合わせて傾斜させてもよいし、図示のように水平にしてもよい。
【0057】
そして、上記粘着部2は、上記の例では、左右に1本ずつ上下方向に帯状に延びる配置としたが、厳密な「帯状」である必要はなく、緩やかな湾曲波状がついているものや、「く」の字状に屈曲したものであっても差し支えない。また、粘着部2を構成する粘着層が、ドット状やストライプ状等のように、粘着剤層形成領域において断続的に形成され、途中に隙間があるものであってもよい。ただし、そのような粘着層が、帯状で一続きの剥離紙で被覆された、一続きの帯状の粘着部2となっていることが望ましい。すなわち、上下方向に複数の剥離紙で分割された粘着部2では、第1の剥離紙、第2の剥離紙、と順次剥離紙を剥がしていく手間を要するため、その間に、先に露出した粘着部分が、顔面ではなくマスク本体部1側に貼り付いて、顔面に貼付できなくなるおそれがあり、好ましくないからである。
【実施例
【0058】
つぎに、本発明を実施例と比較例にもとづいて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
まず、マスク本体部に用いるマスク生地として、物性の異なる6種類のポリウレタン弾性不織布A~Eを準備した。各不織布の物性は以下の表1に示すとおりである。
なお、不織布A~Eのポリウレタン弾性不織布は、ジフェニルメタンジイソシアネートと、ポリオールと、1,4-ブタンジオールからなる熱可塑性ポリウレタン弾性体をメルトブロー法で不織布としたものである。
【0060】
【表1】
【0061】
なお、上記表1において、「花粉防止性能(除去率)」は、一般社団法人日本衛生材料工業連合会 全国マスク工業会において、「花粉粒子捕集(ろ過)効率試験方法」として規定されている方法に準拠して求めた値である。
【0062】
[実施例1~11、比較例1、2]
上記不織布A~Eを用いて、基本的な形状が図1(a)、(b)に示す形状であり、後記の表2~表4に示す特徴を備えた13種類のマスク(実施例1~11品、比較例1、2品)を作製した。すなわち、前述の記載に従い、高周波ウェルダーを用いて、まずマスク本体部となる生地形状(図2を参照)を溶断し、つぎに、左右対称形状の左側生地と右側生地とを二枚重ねた状態で、溶着予定部(図2の3’)の溶着を行ってマスク本体部を得た。そして、下記の2種類の両面粘着テープのいずれかを、下記の表2~表4に従って選択し、上記マスク本体部に取り付けることにより、目的するマスクを作製した。
【0063】
<両面粘着テープ>
・テープ1:両面2110R、ニチバンメディカル社製(幅15mm、20mm、25mmの3種類)
・テープ2:1577、スリーエム社製(幅20mm)
【0064】
[比較例3]
マスク生地として、ポリウレタン弾性不織布ではなく、前記特許文献2(実用新案登録第3227455号公報)に記載されたポリエチレン発泡シートである、オプセルLC-150(三和化工社製)に準じたポリエチレン発泡シート(自社試作品)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、マスクを作製した。
【0065】
[比較例4]
マスク生地として、ポリウレタン弾性不織布ではなく、使い捨てマスクの素材として汎用されているポリプロピレン不織布(ストラテック[登録商標]RW2050、出光ユニテック社製)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、マスクを作製した。
【0066】
これらの実施例品、比較例品に対して、下記の各項目に関し、下記の手順に従って評価を行い、その結果を、後記の表2~表4に併せて示す。
【0067】
[着用感等]
モニター11名に、各マスクを、午後1時から夕方6時までの5時間着用させ、顔面へのフィット感、口開閉時の口元の自由度、顔面からの剥がれにくさ(密着性)、の3項目について、◎…非常に良好、○…良好、△…ふつう、×…不良、の4段階で評価させ、最も多い評価をその評価とした。同人数の評価が並んだ場合には、その並んだ評価について、全員で再評価を行った。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
上記の結果から、実施例品は、いずれも、良好な着用感と密着性を備えていることがわかる。一方、比較例1品は、生地の目付が低く、薄すぎて生地に張りがないため、せっかく立体形状が付与されていても、口元に生地が貼りついた感じになって着用感が不良であった。また、比較例2品は、生地の目付が高く、生地が嵩張って顔面への追従性が不充分となり、着用感、密着性が不良であった。さらに、比較例3品、比較例4品も、着用感、密着性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、優れた着用感と密着性とを兼ね備えており、使い勝手のよい貼付型立体マスクとして、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 マスク本体部
2 粘着部
3 溶着部
P 中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6