(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】超高速応答を伴うグルコース誘発性インスリン送達のための電荷切り替え可能な高分子デポ
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20240426BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240426BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240426BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240426BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20240426BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
A61K38/28
A61P3/10
A61K47/32
A61K9/51
A61K9/50
A61K9/70 401
(21)【出願番号】P 2020545067
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(86)【国際出願番号】 US2018061953
(87)【国際公開番号】W WO2019104006
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-17
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517366013
【氏名又は名称】ノース カロライナ ステート ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】NORTH CAROLINA STATE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゼン グ
(72)【発明者】
【氏名】ジンキアン ワン
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101273961(CN,A)
【文献】特開2016-209372(JP,A)
【文献】国際公開第2017/069282(WO,A1)
【文献】Shiino, D. et al.,Amine containing phenylboronic acid gel for glucose-responsive insulin release under physiological pH,Journal of Controlled Release,1995年,Vol.37, No.3,p.269-276,doi:10.1016/0168-3659(95)00084-4
【文献】Wu, Z. et al.,Phenylboronic acid grafted chitosan as a glucose-sensitive vehicle for controlled insulin release,Journal of pharmaceutical sciences,2011年,Vol.100, No.6,p.2278-2286,doi:10.1002/jps.22463
【文献】Veiseh, O., Langer, R.,Diabetes: A smart insulin patch,Nature,2015年,Vol.524, No.7563,p.39-40,doi:10.1038/524039a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1型又は2型糖尿病を有する患者にインスリン又は
負に帯電したその生
物活性誘導体を送達するための医薬製剤であって、
(a)ペンダントアミノアルキル基及びペンダントハロフェニルボロン酸基を含むポリアクリルアミドポリマーである、正に帯電したポリマー、
及び
(b)インスリン又は
負に帯電したその生物活性誘導体
を含む組成物、
及び/又は該組成物を含むナノ粒子又はマイクロ粒子、
並びに薬学的に許容される担体、
を含む医薬製剤。
【請求項2】
前記ポリマーが下式(化1)の構造を有する、請求項1に記載の医薬製剤。
【化1】
(式中、x及びyはそれぞれ1より大きい整数であり、整数x及びyの合計は少なくとも10であり、かつ、yに対するxの比(x:y)は7:3と1:5の間であり、RはH又はアルキル基であり、R
1はプロトン化アミノアルキル基であり、かつR
2は、ハロフェニルボロン酸を含む基である)。
【請求項3】
R
1が-L-NH
3
+の構造(式中、LはC
1-C
6の直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキレン基である。)を有する、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
R
2が構造-L
1-NH-C(=O)-R
3(式中、L
1はC
1-C
6の直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキレン基であり、R
3はハロフェニルボロン酸基である。)を有する、請求項2又は3に記載の医薬製剤。
【請求項5】
yに対するxの比(x:y)が2:3である、請求項2~4のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記
組成物が、インスリン又は
負に帯電したその生物活性誘導体(b)に対する、正に帯電したポリマー(a)の重量比(a:b)として2:1~1:4を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
(b)に対する(a)の重量比(a:b)が1:1である、請求項6に記載の医薬製剤。
【請求項8】
1型又は2型糖尿病を有する患者にインスリン又はその生
物活性誘導体を送達するための皮膚パッチであって、
該皮膚パッチはマイクロニードルアレイを含み、
該マイクロニードルアレイはナノ粒子又はマイクロ粒子を含み、
該ナノ粒子又はマイクロ粒子は、
(a)ペンダントアミノアルキル基及びペンダントハロフェニルボロン酸基を含むポリアクリルアミドポリマーである、正に帯電したポリマー、
並びに
(b)インスリン又は
負に帯電したその生物活性誘導体
を含む組成物を含む、皮膚パッチ。
【請求項9】
前記ナノ粒子又はマイクロ粒子が、0.1μmから1000μmの間の直径を有する、請求項8に記載の皮膚パッチ。
【請求項10】
該マイクロニードルアレイは、複数のマイクロニードルを含み、該複数のマイクロニードルのそれぞれが20~1000μmの長さを有する、請求項8又は9に記載の皮膚パッチ。
【請求項11】
前記ポリマーが、下式(化2)の構造を有する、請求項1に記載の医薬製剤又は請求項8に記載の皮膚パッチ。
【化2】
(式中、x及びyはそれぞれ5より大きい整数であり、x:yが7:3と1:5との間の比率を持ち、RはH又はアルキル基であり、L及びL
1はそれぞれアルキレンであり、Xはハロである。)
【請求項12】
前記ポリマーが下式(化3)の構造を有する、請求項11に記載の医薬製剤又は皮膚パッチ。
【化3】
(式中、x及びyはそれぞれ5より大きい整数であり、x:yが7:3と1:5との間の比率を持ち、RはH又はアルキル基であり、L及びL
1はそれぞれC
1-C
5アルキレンから独立して選択されるアルキレンである。)
【請求項13】
L及び/又はL
1が-CH
2CH
2-である、請求項11又は12に記載の医薬製剤又は皮膚パッチ。
【請求項14】
RがHである、請求項11~13のいずれか一項に記載の医薬製剤又は皮膚パッチ。
【請求項15】
xとyの比(x:y)が2:3である、請求項11~14のいずれか一項に記載の医薬製剤又は皮膚パッチ。
【請求項16】
前記ポリマーが、1KDa~30KDaの分子量を有する、請求項11~15のいずれか一項に記載の医薬製剤又は皮膚パッチ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2017年11月21日に提出された米国仮特許出願第62/589,091号の優先権及び利益を主張する。その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
この発明は、インスリン及び/又はその他の負に帯電した治療薬のグルコース応答性送達のための組成物に関する。この組成物は、正に帯電したグルコース応答性ポリマー、又はポリマーと、インスリン又はその生理活性誘導体などの負に帯電した治療薬との複合体を含むことができる。本発明はさらに、この複合体の医薬組成物、マイクロニードル、及びマイクロニードルアレイに関し、さらにこの複合体の製法、それを必要とする患者にインスリンを送達する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
真性糖尿病は、血液中のグルコースの蓄積によって特徴付けられる代謝性疾患群である。Pickup et al., Diabetes-Metabolism Research 及び Reviews, 24, 604-610 (2008)及び Stumvoll et al., Lancet, 365, 1333-1346 (2005)を参照されたい。2014年の時点で、世界中で3億8,700万人が糖尿病に罹患しており、その数は2035年までに5億9,200万人になると推定されている。Mo et al., Chemical Society Reviews, 43, 3595-3629 (2014)及び Tabak et al., Lancet, 379, 2279-2290 (2012)を参照されたい。一般的に、インスリンの補充は、1型及び進んだ2型の糖尿病患者に必須と考えられている。Owens et al., Lancet, 358, 739 (2001); and Mo et al., Chemical Society Reviews, 43, 3595 (2014)を参照されたい。1型糖尿病の集中的なインスリン療法は、血糖コントロールの改善と長期的な合併症のリスクの低下に関連している。Control et al., N. Engl. J. Med., 329, 977 (1993); and Nathan, N. Engl. J. Med., 353, 2643 (2005)を参照されたい。しかし、頻繁なインスリンの投与及び急速投与は、注射又はインスリンの皮下注入のどちらを介しても、低血糖の危険性の増加、又は血中グルコースの危険な低レベルをもたらす可能性がある。低血糖は、行動障害及び認知障害によって特徴付けられ、治療しないと、発作、昏睡、さらには死にまで進行する可能性がある。Ohkubo et al., Diabetes Research and Clinical Practice, 28, 103 (1995)を参照されたい。電子的/機械的インスリン送達デバイス及びインスリン送達への化学的アプローチにおける治療の進歩にもかかわらず、閉ループインスリン送達システムにおいてさえ、低血糖症は依然として問題のままである。Veiseh et al., Nature Reviews Drug Discovery, 14, 45 (2015)を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、更なるインスリン送達システムやその関連組成物の必要性、特に、血糖の変化に応答して患者にインスリンを迅速に送達することができ、痛みがほとんど又は全くない「閉ループ」送達システムに対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで、本発明のいくつかの実施態様を列挙し、多くの場合、これらの実施態様の変形及び置換を列挙する。これらは、多数の様々な実施態様の単なる例示である。ある実施態様の1又はそれ以上の代表的な特徴の言及も同様に例示である。そのような実施態様は、典型的には、言及された機能の有無にかかわらず存在することができる。同様に、これらの特徴は、ここに記載されているかどうかにかかわらず、本発明の他の実施態様に適用することができる。過度の繰り返しを避けるために、ここでは、そのような機能のすべての可能な組み合わせを記載又は提案しない。
【0006】
いくつかの実施態様において、本発明は、(a)(i)アンモニウム基及び(ii)グルコース結合基を含む正に帯電したポリマー、及び(b)インスリン又はその生物活性誘導体(任意に、組換えヒトインスリン)を含む組成物を提供する。いくつかの実施態様において、前記グルコース結合基はアリールボロン酸基を含む。いくつかの実施態様において、前記アリールボロン酸基は、フェニルボロン酸基(任意に、ハロフェニルボロン酸基、さらに任意に、フルオロフェニルボロン酸基)である。いくつかの実施態様において、前記正に帯電したポリマーは、アンモニウム基を含む複数の側鎖とグルコース結合基を含む複数の側鎖とを含むポリアクリルアミド骨格を有する。
【0007】
いくつかの実施態様において、前記ポリマーは下式(化1)の構造を有する。
【化1】
(式中、x及びyはそれぞれ1より大きい整数であり、整数x及びyの合計は少なくとも約10であり、かつ、yに対するxの比は約7:3と約1:5の間であり、RはH又はアルキル基(任意に、C
1-C
6アルキル基)であり、R
1はプロトン化アミノアルキル基であり、かつR
2は、アリールボロン酸を含む基である)。
【0008】
いくつかの実施態様において、R1は-L-NH3
+の構造(式中、LはC1-C6の直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキレン基である(任意に、Lは-CH2CH2-である))を有する。いくつかの実施態様において、R2は構造-L1-NH-C(=O)-R3(式中、L1はC1-C6の直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキレン基であり(任意に、L1は-CH2CH2-であり)、R3はアリールボロン酸基である(任意に、R3はフェニルボロン酸基であり、さらに任意に、R3はフルオロフェニルボロン酸基又は他のハロフェニルボロン酸基である))を有する。いくつかの実施態様において、yに対するxの比は約2:3である。
いくつかの実施態様において、前記組成物は、インスリン又はその生物活性誘導体(b)に対する、正に帯電したポリマー(a)の重量比として約2:1~約1:4を有する。いくつかの実施態様において、(b)に対する(a)の重量比は約1:1である。
【0009】
いくつかの実施態様において、(a)(i)アンモニウム基及び(ii)グルコース結合基を含む正に帯電したポリマー、及び(b)インスリン又はその生物活性誘導体を含む組成物を含むナノ粒子又はマイクロ粒子が提供される。いくつかの実施態様において、前記ナノ粒子又はマイクロ粒子は、約0.1μmから約1000μmの間(任意に、約50μm)の直径を有する。
いくつかの実施態様において、(a)(i)アンモニウム基及び(ii)グルコース結合基を含む正に帯電したポリマー、及び(b)インスリン又はその生物活性誘導体を含む組成物を含むナノ粒子又はマイクロ粒子を含むマイクロニードルアレイ(任意に、該マイクロニードルアレイは、複数のマイクロニードルを含み、該複数のマイクロニードルのそれぞれが約20~約1000μmの長さを有し、さらに任意に、該複数のマイクロニードルのそれぞれが約600μmの長さを有する)が提供される。いくつかの実施態様において、このマイクロニードルアレイを含む皮膚パッチ(任意に、該パッチは、1又はそれ以上のバッキング層及び/又は皮膚適合性接着剤を含む)が提供される。
【0010】
いくつかの実施態様において、(a)(i)アンモニウム基及び(ii)グルコース結合基を含む正に帯電したポリマー、及び(b)インスリン又はその生物活性誘導体を含む組成物及び/又はこの組成物を含むナノ粒子又はマイクロ粒子、並びに薬学的に許容される担体を含む医薬製剤が提供される。
いくつかの実施態様において、(a)(i)アンモニウム基及び(ii)グルコース結合基を含む正に帯電したポリマー、及び(b)インスリン又はその生物活性誘導体を含む組成物を含む皮膚パッチ又は医薬製剤又はこの組成物を含むナノ粒子又はマイクロ粒子を患者に投与する段階を含む、それを必要とする患者にインスリン又はその生理活性誘導体を送達する方法が提供される。いくつかの実施態様において、前記患者は哺乳動物(任意に、ヒト)である。いくつかの実施態様において、前記患者は1型又は2型糖尿病を有する、。
【0011】
いくつかの実施態様において、前記投与する段階は、皮下注射を介して該医薬製剤を投与する段階を含む。いくつかの実施態様において、前記皮膚パッチ又は前記医薬製剤は、前記患者の血中グルコースレベルに直接対応する速度でインスリンを放出する。
いくつかの実施態様において、(a)(i)アンモニウム基及び(ii)グルコース結合基を含む正に帯電したポリマー、及び(b)インスリン又はその生物活性誘導体を含む組成物を含む皮膚パッチ又は医薬製剤又はこの組成物を含むナノ粒子又はマイクロ粒子を患者に投与する段階を含む、それを必要とする患者の糖尿病を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、前記投与は1日1回行われる。
【0012】
いくつかの実施態様において、ペンダントアミノアルキル基(任意に、プロトン化アミノアルキル基)及びペンダントハロフェニルボロン酸基(任意に、ペンダントフルオロフェニルボロン酸基)を含むポリアクリルアミドポリマーを含む組成物提供される。いくつかの実施態様において、該組成物は下式(化2)の構造を有するポリマーを含む。
【化2】
(式中、x及びyはそれぞれ5より大きい整数であり、x:yが約7:3と約1:5との間の比率を持ち、RはH又はアルキル基(任意に、C
1-C
6アルキル基)であり、L及びL
1はそれぞれアルキレンであり、Xはハロ(任意に、フルオロ)である(任意に、-NH
2基はプロトン化されている)。)
【0013】
いくつかの実施態様において、前記ポリマーは下式(化3)の構造を有する。
【化3】
(式中、x及びyはそれぞれ5より大きい整数であり、x:yが約7:3と約1:5との間の比率を持ち、RはH又はアルキル基(任意に、C
1-C
6アルキル基)であり、L及びL
1はそれぞれC
1-C
5アルキレンから独立して選択されるアルキレンである(任意に、-NH
2基はプロトン化されている)。)
いくつかの実施態様において、L及び/又はL
1は-CH
2CH
2-である。いくつかの実施態様において、RはHである。いくつかの実施態様において、xとyの比は約2:3である。いくつかの実施態様において、前記ポリマーは、約1KDa~約30KDaの分子量を有する。
【0014】
従って、インスリンを送達するためのグルコース応答性組成物、ならびにこの組成物を調製し使用する方法を提供することが本発明の一つの目的である。
本発明によって全体的に又は部分的に達成される上述の本発明の目的及びその他の目的は、もっともよく説明されている添付図面及び実施例に関連して説明の記載が進むつれて、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本発明のグルコース応答性インスリン送達システムの概略図である。図の左において、正に帯電したポリマー(例えば、ポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))であって、そのいくつかのペンダントアミノ基がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされている(即ち、ポリ(EDAAx-FPBAy)))が負に帯電したインスリンと混合される。このポリマーとインスリンの混合物は、静電相互作用を介して自己集合して、インスリン-ポリマー複合体(図の中央)になる。グルコースへ曝露されると、例えば、低血糖状態において、このポリマーの正電荷の数は減少し、インスリン-ポリマー複合体が分解するにつれてインスリンが放出される(図の右)。
【
図1B】
図1Aのポリマーの構造のさらなる詳細を示す概略図であり、ポリマー側鎖のフルオロフェニルボロン酸基にグルコースが結合する前(図の中央)と後(図の右)の両方を示す。
【
図2A】Fインスリン(即ち、等重量のインスリンとポリマーとを含むポリマー-インスリン複合体)のグルコース結合能力を示すグラフである。このポリマーはポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))であって、そのペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされている(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)。このFインスリンは、100 mg/dL(白丸)、200 mg/dL(半白丸)又は400 mg/dL(黒丸)のグルコース溶液中でインキュベートされた。グルコース結合能力は、グルコース濃度(mg/dL)の減少を測定することによって評価された。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図2B】Bインスリン(即ち、等重量のインスリンとポリマーとを含むポリマー-インスリン複合体)のグルコース結合能力を示すグラフである。このポリマーはポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))であって、そのペンダントアミノ基の60%がフェニルボロン酸(PBA)基にグラフトされている(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)。このBインスリンは、100 mg/dL(白丸)、200 mg/dL(半白丸)又は400 mg/dL(黒丸)のグルコース溶液中でインキュベートされた。グルコース結合能力は、グルコース濃度(mg/dL)の減少を測定することによって評価された。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図2C】Nインスリン(即ち、等重量のインスリンとポリマーとを含むポリマー-インスリン複合体)のグルコース結合能力を示すグラフである。このポリマーはポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))である。このNインスリンは、100 mg/dL(白丸)、200 mg/dL(半白丸)又は400 mg/dL(黒丸)のグルコース溶液中でインキュベートされた。グルコース結合能力は、グルコース濃度(mg/dL)の減少を測定することによって評価された。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図2D】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))から調製されたナノ粒子の流体力学的サイズ分布(動的光散乱(DLS)によって決定される直径(nm)に対する粒子の数(%))を示すグラフである。挿入図は、そのナノ粒子の代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。そのナノ粒子TEM画像の右下にある黒いスケールバーは100nmを表す。
【
図2E】ペンダントアミノ基の60%がフェニルボロン酸(PBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)から調製されたナノ粒子の流体力学的サイズ分布(動的光散乱(DLS)によって決定される直径(nm)に対する粒子の数(%))を示すグラフである。挿入図は、そのナノ粒子の代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。そのナノ粒子TEM画像の右下にある黒いスケールバーは100nmを表す。
【
図2F】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)、白棒)及びペンダントアミノ基の60%がフェニルボロン酸(PBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)、黒棒)から調製されたナノ粒子のグルコース依存ゼータ(ζ)ポテンシャル(mV)のグラフである。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図3A】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))に対するインスリンの重量比が1:2の複合体のグルコース依存性インスリン放出(割合(%)対時間(分))を示すグラフである。インスリンの放出は、3つの異なるグルコース濃度(0mg/dL(白丸)、100mg/dL(半黒丸)、400mg/dL(黒丸))で測定した。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図3B】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))に対するインスリンの重量比が1:4の複合体のグルコース依存性インスリン放出(割合(%)対時間(分))を示すグラフである。インスリンの放出は、3つの異なるグルコース濃度(0mg/dL(白丸)、100mg/dL(半黒丸)、400mg/dL(黒丸))で測定した。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図3C】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))に対するインスリンの重量比が2:1の複合体のグルコース依存性インスリン放出(割合(%)対時間(分))を示すグラフである。インスリンの放出は、3つの異なるグルコース濃度(0mg/dL(白丸)、100mg/dL(半黒丸)、400mg/dL(黒丸))で測定した。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図3D】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))とインスリンとが等重量の複合体のグルコース依存性インスリン放出(割合(%)対時間(分))を示すグラフである。インスリンの放出は、4つの異なるグルコース濃度(0mg/dL(周囲が黒の白丸)、100mg/dL(半黒丸)、200mg/dL(白丸)、400mg/dL(黒丸))で測定した。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図3E】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))とインスリンとが等重量の複合体の上清中のグルコース依存性蛍光強度(任意の単位(a.u.)で測定)を時間(h)の関数として示すグラフである。複合体は、4つの異なるグルコース濃度(0mg/dL(周囲が黒の白丸)、100mg/dL(半黒丸)、200mg/dL(白丸)、400mg/dL(黒丸))のうちの一つに置かれた。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図3F】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))とインスリンとが等重量の複合体の累積インスリン放出プロファイルを示すグラフである。複合体は、4つの異なるグルコース濃度(0mg/dL、100mg/dL、200mg/dL、400mg/dL)のうちの一つの中で10分間インキュベートされた。累積インスリン放出はミリリットル当たりマイクログラム(μg/mL)で測定された。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図3G】ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))とインスリンとが等重量の複合体の、グルコース濃度を関数とした拍動性インスリン放出プロファイルを示すグラフである。複合体を、400mg/dLグルコース(黒棒)又は100mg/dLグルコース(白棒)を含む交互溶液中でインキュベートした。グルコース濃度は2分ごとに変更された。インスリン放出はミリリットル当たりマイクログラム(μg/mL)で測定された。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差(SD)を表す(n=3)。
【
図4A】1型糖尿病マウスモデルにおける血中グルコースレベル(mg/dL)を示すグラフであり、このマウスは、遊離インスリン(インスリン;白丸)、F-インスリン(即ち、等重量のインスリンとポリマーとを含むポリマー-インスリン複合体であって、このポリマーは、ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))である。;半黒丸)、又はB-インスリン(即ち、等重量のインスリンとポリマーとを含むポリマー-インスリン複合体であって、このポリマーはペンダントアミノ基の60%がフェニルボロン酸(PBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))である。;黒丸)で処理された。対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用した(周囲が黒の白丸)。インスリン投与量は、キログラムあたり80国際単位(IU/kg)に設定された。エラーバーは、5つの独立した実験の標準偏差(S.D.)を表す(n=5)。* B-インスリンと比較したF-インスリンの投与はP<0.05。
【
図4B】F-インスリン(即ち、等重量のインスリンとポリマーとを含むポリマー-インスリン複合体であって、このポリマーは、ペンダントアミノ基の60%がフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基にグラフトされているポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA))(即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6))である。;半黒丸)又は遊離インスリン(インスリン;白丸)による処理の後3時間までの糖尿病マウスモデルにおけるインビボ腹腔内耐糖能試験(IPGTT)の結果を示すグラフである。対照として健康なマウスを使用した(黒丸)。血糖値はデシリットルあたりミリグラム(mg/dL)で測定され、時間0(Fインスリン又は遊離インスリンの投与時間)から投与後160分まで示す。エラーバーは、5つの独立した実験の標準偏差(S.D.)を表す(n=5)。* 遊離インスリンと比較したFインスリンによる処理はP<0.05。
【
図4C】80IU/kgの用量でのFインスリンによる処理の4時間後の、腹腔内グルコース注射によって誘発されるインビボグルコース応答性インスリン放出を示すグラフである。データは、血糖値(mg/dL、黒丸)と血漿インスリンレベル(μIU/mL、白丸)の両方で提供される。エラーバーは、5つの独立した実験の標準偏差(S.D.)を表す(n=5)。
【
図4D】I型糖尿病のマウスモデルに、Fインスリン(半黒丸)又はBインスリン(黒丸)を含むゲルを皮下注射した後の血糖値(mg/dL)対時間(h)を示すグラフである。インスリンの投与量は、300IU/kgに設定した。対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)による処理を使用した。エラーバーは、5つの独立した実験の標準偏差(S.D.)を表す(n=5)。* B-インスリンと比較したF-インスリンによる処理はP<0.05。
【
図5A】遊離インスリン(1-インスリン(白丸)、2-インスリン(中央が黒の白丸)、又は3-インスリン(上半分が黒の白丸))、又はFインシュリン(1-複合体(白丸)、2-複合体(周囲が黒の白丸)又は3-複合体(下半分が黒の白丸))で処理された1型糖尿病ミニブタの血糖値(BLG、mg/dLで測定)を示すグラフである。インスリンの投与量は、1 IU/kgに設定した。各曲線は、遊離インスリン又はFインスリンの投与後、14時間(h)まで継続した1匹のブタの血糖値(BLG)を表す。
【
図5B】1 IU/kgの遊離インスリン(1-インスリン(白丸)、2-インスリン(中央が黒の白丸)、又は3-インスリン(上半分が黒の白丸))、又はFインシュリン(1-複合体(白丸)、2-複合体(周囲が黒の白丸)又は3-複合体(下半分が黒の白丸))による処理後4時間の1型糖尿病ミニブタの経口グルコース負荷試験の結果を示すグラフである。矢印はグルコースの投与を示す(0.5g/kg)。血糖値(BLG、mg/dLで測定)は、グルコース投与後最大250分まで追跡した。各曲線は、1匹のブタの血糖値(BLG)を表す。
【
図6】シリコーン型を使用して、本発明のインスリン-ポリマー複合体を含むグルコース応答性インスリン送達マイクロニードル(MN)アレイパッチを調製するための例示的なプロセスの概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を添付の図及び実施例を参照してより完全に説明するが、そこには代表的な実施態様が示されている。しかし、本明細書に開示された発明は、異なる形態で具体化することが可能で、本明細書に記載された実施態様に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施態様は、ここに開示が完全であり、実施態様の範囲を当業者に完全に伝えるように提供されるものである。
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許及びその他参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって、記載された化学式又は名称は、すべての活性な光学異性体及び立体異性体、並びにこのような複数の異性体及び混合物が存在するラセミ混合物を包含するものとする。
【0017】
本明細書では以下の略語を用いる:
℃ = 摂氏;% = パーセンテージ;μL = マイクロリットル;μm = マイクロメートル又はミクロン;a.u. = 任意の単位;BGL = 血糖値;Boc = t-ブトキシカルボニル;CD = 円偏光二色性;DI = 脱イオン化;dL = デシリットル;DLS = 動的光散乱;EDA = エチレンジアミン;EDAA = エチレンジアミンアクリルアミド;ELISA = 酵素結合免疫吸着アッセイ;FPBA = フルオロフェニルボロン酸;h = 時間;IPGTT = 腹腔内グルコース負荷試験;IU = 国際単位;kDa = キロダルトン;kg = キログラム;MBA = N、N'-メチレンビスアクリルアミド;mg = ミリグラム;m-HA = アクリレート修飾ヒアルロン酸;min = 分;mL = ミリリットル;mM = ミリモル;mmol = ミリモル;Mn = 数平均分子量;MN = マイクロニードル;N = 通常;nm = ナノメートル;NMR = 核磁気共鳴;PBA = フェニルボロン酸;PBS = リン酸緩衝生理食塩水;PEG = ポリ(エチレングリコール);RhB = ローダミンB;S.D. = 標準偏差;STZ = ストレプトゾトシン;TEM = 透過型電子顕微鏡;UV = 紫外線;wt = 重量
【0018】
I.定義
以下の用語は、当業者によってよく理解されると考えられるが、以下の定義は、本発明の説明を促進するために説明される。
【0019】
長年の特許法慣習に従って、特許請求の範囲を含む本明細書で使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その」は、使用される場合、「1又はそれ以上」を指す。従って、例えば、「1つ組成物」又は「一つのポリマー」への言及は、複数のそのような組成物又はポリマーを含む、などである。
別段示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される、サイズ、反応条件などの量を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されたい。従って、それに反して示されない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲において説明される数的パラメータは、本発明によって得ることが求められる所望される特性によって変動し得る近似値である。
【0020】
本明細書で使用される場合、値、又はサイズ(即ち、直径)、重量、時間、投与量、濃度、もしくはパーセンテージの量を指す時、「約」は、明記される値から、一例において±20%又は±10%、別の例において±5%、別の例において±1%、及び更に別の例において±0.1%の変動を網羅することが意図されるが、これは、そのような変動が開示される方法を実行するのに適切なものであるためである。
本明細書で使用される場合、実体を列挙する文脈で使用される時、「及び/又は」は、単独又は組み合わせで存在する実体を指す。従って、例えば、「A、B、C、及び/又はD」という語句は、A、B、C、及びDを個々に含むが、また、A、B、C、及びDの任意ならびに全ての組み合わせ及び部分組み合わせも含む。
【0021】
「を含む(including)」、「を含有する」、又は「によって特徴付けられる」と同義である「を含む(comprising)」は、包括的又は無制限であり、引用されない追加の要素又は方法ステップを除外しない。「を含む」は、特許請求の言語で使用される専門用語であり、名前を挙げた要素が存在するが、他の要素が追加されてもよく、依然として特許請求の範囲内の構築物又は方法を形成することを意味する。
本明細書で使用される場合、「からなる」という語句は、特許請求の範囲内に明記されないいかなる要素、ステップ、又は成分も除外する。「からなる」という語句が、前文の直後ではなく、特許請求の範囲の本文の条項に出現する場合、それは、その条項内に説明される要素のみを限定し、他の要素は特許請求の範囲全体からは除外されない。
本明細書で使用される場合、「から本質的になる」という語句は、特許請求の範囲を、明記される材料又はステップ、ならびに本発明の基本的及び新規の特徴(複数可)に実質的な影響を与えないものに限定する。
「を含む」、「からなる」、及び「から本質的になる」という用語に関して、これら3つの用語のうちの1つが本明細書で使用される場合、本発明は、その他の2つの用語のいずれかの使用を含み得る。
【0022】
本明細書で使用される場合、「アルキル」は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ブタジエニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、及びアレニル基を含む、直鎖(linear)(即ち、「直鎖(straight-chain)」)、分岐、又は環状、飽和、もしくは少なくとも部分的に及び場合によっては完全に不飽和(即ち、アルケニル及びアルキニル)の炭化水素鎖を含む、C1-20を指し得る。「分岐」は、メチル、エチル、又はプロピルなどの低級アルキル基が直鎖アルキル鎖に結合したアルキル基を指す。「低級アルキル」は、1~約8個の炭素原子、例えば、1、2、3、4、5、6、7、又は8個の炭素原子を有するアルキル基(即ち、C1-8アルキル)を指す。いくつかの実施態様において、「低級アルキル」は、C1-6又はC1-5のアルキルを指す。「高級アルキル」は、約10~約20個の炭素原子、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20個の炭素原子を有するアルキル基を指す。特定の実施形態において、「アルキル」は、C1-8直鎖アルキルを指す。他の実施形態において、「アルキル」は、特に、C1-8分岐鎖アルキルを指す。
【0023】
アルキル基は、任意で、同一であっても、異なってもよい1又はそれ以上のアルキル基置換基で置換され得る(「置換アルキル」)。「アルキル基置換基」は、アルキル、置換アルキル、ハロ、ニトロ、アミノ、アリールアミノ、アシル、ヒドロキシル、アリールオキシル、アルコキシル、アルキルチオ、アリールチオ、アラルキルオキシル、アラルキルチオ、カルボキシル、アルコキシカルボニル、オキソ、及びシクロアルキルを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、任意で、アルキル鎖に沿って、1又はそれ以上の酸素原子、硫黄原子、又は置換もしくは非置換窒素原子が挿入されてもよく、窒素置換基は、水素、低級アルキル(本明細書では「アルキルアミノアルキル」とも呼ばれる)、又はアリールである。
【0024】
従って、本明細書で使用される場合、「置換アルキル」は、本明細書で定義される、アルキル基の1又はそれ以上の原子又は官能基が別の原子又は官能基(例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン基、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基、及びメルカプト基を含む)で置換される、アルキル基を含む。
「アリール」は、本明細書では、ともに融合された、共有結合された、又は共通の基(メチレン部分もしくはエチレン部分などであるが、これらに限定されない)に連結された、芳香族単環もしくは芳香族多環であり得る、芳香族置換基を指すために使用される。共通の連結基はまた、ベンゾフェノンにおけるようにカルボニルであっても、ジフェニルエーテルにおけるように酸素であっても、ジフェニルアミンにおけるように窒素であってもよい。「アリール」は、ヘテロ環状芳香族化合物を特に網羅する。芳香族環(複数可)は、他の中でも、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン、及びベンゾフェノンを含み得る。特定の実施形態において、「アリール」は、5員炭化水素及び6員炭化水素芳香族環ならびにヘテロ環状芳香族環を含む、約5~約10個の炭素原子、例えば、5、6、7、8、9、又は10個の炭素原子を含む環状芳香族を意味する。
【0025】
アリール基は、任意で、同一であっても、異なってもよい1又はそれ以上のアリール基置換基で置換され得(「置換アリール」)、「アリール基置換基」は、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アリールオキシル、アラルキルオキシル、カルボキシル、アシル、ハロ、ニトロ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アラルコキシカルボニル、アシルオキシル、アシルアミノ、アロイルアミノ、カルバモイル、アルキルカルバモイル、ジアルキルカルバモイル、アリールチオ、アルキルチオ、アルキレン、ならびに-NR'R''(R'及びR''はそれぞれ独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、及びアラルキルであり得る)を含む。
従って、本明細書で使用される場合、「置換アリール」は、本明細書で定義される、アリール基の1又はそれ以上の原子又は官能基が別の原子又は官能基(例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン基、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基、及びメルカプト基を含む)で置換される、アリール基を含む。
アリール基の具体的な例としては、シクロペンタジエニル、フェニル、フラン、チオフェン、ピロール、ピラン、ピリジン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピラゾール、ピラジン、トリアジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、インドール、カルバゾールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
「アラルキル」は-アルキル-アリール基を指し、任意に、このアルキル部分及び/又はアリール部分は、1又はそれ以上のアルキル又はアリール置換基を有する。
【0026】
いくつかの実施態様において、用語「二価」は、他のアルキル、アラルキル、シクロアルキル又はアリール基のような他の2つの基に結合(例えば、共有結合)又は結合し得る基をいう。典型的には、この二価基上の2つの異なる部位(例えば、2つの異なる原子)が、他の分子上の基と結合することができる。例えば、この二価基はアルキレン基であってもよい。
【0027】
「アルキレン」は、約1~約20個の炭素原子、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖の二価脂肪族炭化水素基を指す。アルキレン基は、直鎖であっても、分岐鎖であっても、環状であってもよい。アルキレン基はまた、任意で、1又はそれ以上の「アルキル基置換基」で不飽和及び/又は置換され得る。任意で、アルキレン基に沿って、1又はそれ以上の酸素原子、硫黄原子、又は置換もしくは非置換窒素原子が挿入されてもよく(本明細書では「アルキルアミノアルキル」とも呼ばれる)、窒素置換基は、既述のようにアルキルである。例示的なアルキレン基としては、メチレン(-CH2-);エチレン(-CH2-CH2-);プロピレン(-(CH2)3-);シクロヘキシレン(-C6H10-);-CH=CH-CH=CH-;-CH=CH-CH2-;-(CH2)q-N(R)-(CH2)r-(式中、q及びrのそれぞれは独立して、0~約20、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20の整数であり、Rは、水素又は低級アルキルである);メチレンジオキシル(-O-CH2-O-);及びエチレンジオキシル(-O-(CH2)2-O-)が挙げられる。アルキレン基は、約2~約3個の炭素原子を有してもよく、6~20個の炭素原子を更に有してもよい。
【0028】
「アリーレン」は、二価のアリール基を表し、それは置換又は非置換であってもよい。
「アラルキレン」は、アルキレン基とアリーレン基の組み合わせから成る二価の基を指す(例えば、-アリーレン-アルキレン-、アルキレン-アリーレン-アルキレン-、アリーレン-アルキレン-アリーレン-など)。
「アシル」は、-C(=O)R基(式中、RはH、アルキル、アラルキル又はアリールであり、このアルキル、アラルキル、又はアリールは、任意にアルキル及び/又はアリールの置換基で置換されてもよい。)を指す。
「カルボキシレート」及び「カルボン酸」はそれぞれ、-C(=O)O-及び-C(=O)OHを指し得る。いくつかの実施形態において、「カルボキシレート」は、-C(=O)O-基又は-C(=O)OH基のいずれかを指し得る。
「アミド」は、-C(=O)-NR-基(式中、RはH、アルキル、アラルキル又はアリールである。)を指す。
【0029】
本明細書で使用する「アミノ」及び「アミン」は、-N(R)2基(式中、各Rは、独立して、H、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、又は置換アラルキルである。)を指す。「アミノアルキル」及び「アルキルアミノ」は、-R'-N(R)2基(式中、各Rは、H、アルキル、置換アルキル、アラルキル、置換アラルキル、アリール、又は置換アリールであり、R'はアルキレンである。)であってもよい。「アリールアミン」及び「アミノアリール」は、-R'-N(R)2基(式中、各Rは、H、アルキル、置換アルキル、アラルキル、置換アラルキル、アリール、又は置換アリールであり、R'はアリーレンである。)を指す。「一級アミン」は、-NH2基を含む基を指す。
【0030】
本明細書で使用される「アンモニウム」は、正に帯電した四置換窒素から形成される基、即ち、-R'+N(R)3基(式中、各Rは、独立して、H、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、又は置換アラルキルであり、R'は、アルキレン、アラルキレン又はアリーレンである。)を指す。いくつかの実施態様において、「アンモニウム」は、アミン基のプロトン化によって形成される正に帯電した基を指す。いくつかの実施態様において、「アンモニウム」は、正に帯電したプロトン化一級アミン基、即ち、-+NH3基を指す。
本明細書で使用される「ハロ」、「ハライド」又は「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードを指す。
「ヒドロキシル」又は「水酸基」は、-OH基を指す。
「アルコキシ」は、-OR基(式中、Rは、アルキル又は置換アルキルである。)を指す。
本明細書で使用される「ボロン酸」は、-B-(OH)2を有する基を指す。
「ボロン酸エステル」は、-B-(OR)2基(式中、Rは、独立して、アルキル、置換アルキル、アラルキル、置換アラルキル、アリール又は置換アリールである。)を指す。いくつかの実施態様において、2つのR基は一緒になって、アルキレン、アラルキレン、又はアリーレン基(例えば、エチレン)を形成する。
【0031】
本明細書で使用される「ナノ粒子」は、約1000nm未満である寸法(例えば、長さ、幅、直径など)を有する少なくとも1つの領域を有する構造体を指し、それは正に帯電したポリマー(例えば、アンモニウム基及びグルコース結合基を含む)及びインスリン又はその生理活性誘導体を含む。いくつかの実施態様において、この寸法はより小さい(例えば、約500nm未満、約250nm未満、約200nm未満、約150nm未満、約125nm未満、約100nm未満、約80nm未満。約70nm未満、約60nm未満、約50nm未満、約40nm未満、約30nm未満、又は約20nm未満)。
本明細書で使用される「マイクロ粒子」又は「ミクロ粒子」は、約1000μm未満かつ約0.1μmより大きい寸法(例えば、長さ、幅、直径など)を有する少なくとも1つの領域を有する構造体を指し、それは正に帯電したポリマー(例えば、アンモニウム基及びグルコース結合基を含む)及びインスリン又はその生理活性誘導体を含む。いくつかの実施態様において、この寸法はより小さい(例えば、約500μm、約250μm、約200μm、約150μm、約125μm、約100μm、約80μm。約70μm、約60μm、約50μm、約40μm、約30μm、又は約20μmm、又は約10μm)。
このナノ粒子は、如何なる3次元の形状を有してもよい。いくつかの実施態様において、この粒子はほぼ球状である。いくつかの実施態様において、この粒子は、円盤状、立方体、又は棒状である。いくつかの実施態様において、この粒子は不規則な形状である。
【0032】
用語「直径」は当該技術分野で認識され、本明細書では物理的直径又は流体力学的直径のいずれかを指すために使用される。本質的に球形の粒子の直径は、物理的又は流体力学的直径を意味することができる。本明細書で使用する非球形粒子の直径は、この粒子の表面上の2点間の最大直線距離を指すことができる。複数の粒子に関しては、粒子の直径は、典型的には、この複数の粒子の平均直径を指す。粒径は、動的光散乱(DLS)などの当技術分野における様々な技術を用いて測定することができるが、これに限定されるものではない。
本明細書で使用される「マイクロニードル」は、約1,000ミクロン(μm)未満の寸法を有する少なくとも1つの領域を有する針状構造を指す。いくつかの実施態様において、この「マイクロニードル」は、約1μm~約1,000μm(例えば、約1、5、10、25、50、75、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は約1,000μm)の寸法を有する構造体を指す。
【0033】
本明細書で使用される「高分子」は、高相対分子量の分子を指し、その構造は、低相対分子量の分子(例えば、モノマー及び/又はオリゴマー)に由来する単位の複数の繰り返しを含む。
「オリゴマー」は、中間相対分子量の分子を指し、その構造は、低相対分子量の分子に由来する少ない複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)の繰り返し単位を含む。
本明細書で使用される「モノマー」は、重合を行うことができる分子を指し、それによって構成単位(即ち、原子又は原子群)が高分子の必須構造に寄与することができる。
【0034】
用語「ポリマー」及び「ポリマー性」は、複数の反復構成単位(即ち、与えられた化学的基礎構造又はモノマー単位の複数のコピー)を有する化学構造を指す。本明細書中で使用される場合、ポリマーは、10以上の反復単位及び/又はこの反復単位がメチレン以外の基を有するグループを指すことができる。ポリマーは、重合可能なモノマーから形成することができる。この重合可能なモノマーは、反応して他の分子と結合を形成することができる1以上の反応性部分(例えば、シロキシエーテル、ヒドロキシル、アミン、ビニル基(即ち、炭素-炭素二重結合)、ハロゲン化物(即ち、Cl、Br、F、及びI)、
カルボン酸、エステル、活性化エステルなど)を有する分子を指す。一般に、各重合可能なモノマー分子は、2つ又はそれ以上の他の分子と結合することができる。いくつかの場合には、重合可能なモノマーは他の1つの分子のみに結合し、ポリマー材料の末端を形成する。いくつかのポリマーは、生物学的条件下(例えば、インビボ又は酵素存在下の特定のpH)で経年で分解することができるように、エステル又はアミドなどの生分解性結合を含む。
【0035】
「コポリマー」は、2種以上のモノマーから導かれたポリマーを指し、各種のモノマーは、異なる種類のモノマー単位を提供する。
本明細書で使用される「ランダムコポリマー」は、異なる種類のモノマー単位が任意の順序で配置されているコポリマーを指す。いくつかの実施態様において、このランダムコポリマーモノマー単位は、認識可能なパターンを持たない順序で配置される。あるモノマー単位と別のモノマー単位の比率は、多くの因子(例えば、さまざまに異なるモノマーの反応性やその他の重合条件(例えば、温度、出発物質の相対量、出発物質の添加順序、溶媒など))に依存する。
本明細書で使用される「ブロックコポリマー」は、ブロック(塊)(即ち、コポリマー全体の重合性サブセクション)を直線的な順序で含むコポリマーを指す。この 「ブロック」は、マクロ分子の隣接する複数の部分に存在しない少なくとも1つの特徴を有するコポリマーの部分を指す。従って、「ブロックコポリマー」は、隣接する複数のブロックが構成的に異なるコポリマーを指すことができる。即ち、各ブロックは、異なる特徴を有する複数のモノマー種に由来する複数の構成単位から成る、又は構成単位の異なる組み合わせ若しくは構成単位の異なる配列分布を有する複数の構成単位から成る。
例えば、PEGとポリセリンのジブロックコポリマーは、PEG-ブロック-ポリセリンと呼ばれることがある。このようなコポリマーは、総称して「ABブロックコポリマー」と呼ぶこともできる。同様に、トリブロックコポリマーは「ABA」と表すことができる。
このほかのタイプのブロックコポリマーも存在し、例えば、(AB)nタイプのマルチブロックコポリマー、3つの異なるブロックを有するABCブロックポリマー、3つ以上のアームを持つ中心点を持ち、そのそれぞれがブロックコポリマーの形(通常はABタイプのブロックコポリマー)である、スターブロックポリマーなどがある。
【0036】
「鎖」は、高分子、オリゴマー又はブロックの全体又は部分を指し、これらは2つの境界構成単位間の構成単位の線状又は分岐配列を含み、この2つの境界構成単位は、末端基、分岐点、又はそれらの組み合わせを含むことができる。
ポリマーの「主鎖」又は「バックボーン(骨格)」は線状の鎖を指し、この他のすべての鎖はペンダントと見なされる。
本明細書で使用される「側鎖」又は「ペンダント」は、ポリマー鎖のバックボーン(骨格)に結合している一価の化学部分を指す。この一価の化学部分は、オリゴマー鎖又はポリマー鎖を含むことができる。いくつかの実施態様において、この側鎖又はペンダントは、オリゴマー又はポリマーではない。
「末端基」は、巨大分子又はオリゴマーの末端を含む構成単位を指し、定義によれば、巨大分子又はオリゴマーの1つの構成単位のみに結合している。
多分散性(PDI)は、ポリマーサンプルの比率(Mw/Mn)を指す。ここで、Mwは、質量平均モル質量(一般に重量平均分子量とも呼ばれる)を指し、Mnは、数平均モル質量(一般に数平均分子量とも呼ばれる)を指す。
【0037】
本明細書で使用される「生体適合性」は、一般に、レシピエントに対して一般的に無毒であり、レシピエントに如何なる重大な有害効果をも引き起こさないような、物質及び代謝物又はこれらの分解産物に関して使用される。生体適合性ポリマーには、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸、ポロキサマーなどの合成ブロックコポリマー、及びグルコサミノグリカンなどの多糖類が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書で使用される「生分解性」は、一般に、患者により代謝、排除、又は排泄されることができるより小さな単位又は化学種に、生理学的条件下で分解又は侵食される物質に関して使用される。いくつかの実施態様において、分解に要する時間は、ポリマー組成及び形態による。適当な分解時間は数日から数週間である。例えば、いくつかの実施態様において、ポリマーは、7日間から24週間、任意に7日間から12週間、任意に7日間から6週間、又はさらに任意に7日間から3週間の期間で分解することができる。
【0038】
「親水性」は、水及び/又は水溶液に溶解又は優先的に溶解する基に関して使用されることができる。
「疎水性」は、水及び/又は水溶液に有意に溶解しない、及び/又は脂肪及び/又は非水溶液に優先的に溶解する基に関して使用される。
用語「両親媒性」は、親水基及び疎水基の両方を含む分子又はポリマーに関して使用される。
「コンジュゲート(結合体)」及び「結合された」は、イオン結合、配位結合又は共有結合などを介して互いに結合した少なくとも2つの異なる化学的部分又は分子(例えば、小分子、ポリマー、タンパク質、オリゴヌクレオチドなど)から成る組成物に関して使用される。典型的には、「コンジュゲート(結合体)」は、2つの実体が単結合又はリンケージ(結合)を介して結合されている状況を指す。いくつかの実施態様において、「コンジュゲート(結合体)」は、互いに共有結合している部分又は分子を指す。
いくつかの実施態様において、「複合体」は、配位結合、イオン結合、又は水素結合、ロンドン分散力、ファンデルワールス相互作用などの分子間力を介して互いに結合する少なくとも2つの異なる化学部分を含む組成物を指す。いくつかの実施態様において、この複合体という用語は、2つの実体が静電相互作用を介して互いに結合する組成物を指す。
【0039】
本明細書で使用される「インスリン」は、ヒト又は他の哺乳動物由来のインスリンを指す。いくつかの実施態様において、「インスリン」はヒトインスリンを指す。いくつかの実施態様において、「インスリン」は組換えヒトインスリンを指す。
インスリンに関して本明細書で使用される「生物活性誘導体」は、1以上のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基によって置換され又は欠失し、そのA鎖及び/又はB鎖が、そのN末端又はC末端に1以上のアミノ酸残基の付加することによって伸長されており、及び/又はそのインスリンが1又はそれ以上の化学的置換基の付加によって修飾されている、インスリン(例えば、ヒトインスリン又は他の哺乳動物インスリン)を指す。生理活性誘導体は、内因性ペプチド又はタンパク質とは異なる薬物動態を有することもできる。投与量は、既知の薬物動態に基づくヒトインスリン又はヒトグルカゴンに対するインスリン誘導体の薬物動態に基づいて、当業者が最適化することができる。
【0040】
本明細書で使用される「糖尿病治療剤」は、糖尿病若しくはその合併症(例えば、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、緑内障及び糖尿病性ケトアシドーシスなど、但しこれらに限定されない)又は高血糖症をもたらす別のグルコース代謝障害を治療する治療剤を指す。いくつかの実施態様において、この糖尿病治療剤は、インスリン又はその生物活性誘導体又は糖尿病の治療に使用するために当該分野で公知の非インスリンベースの治療剤である。糖尿病の治療に使用するのに適した非インスリンベースの治療剤として、インスリン増感剤、DPP IV阻害剤、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)及びその類縁体、スルホニル尿素などの(但し、これに限定されない)インスリン分泌促進薬、メグリチニド、胃抑制ポリペプチド(GIP)、インスリン受容体活性化剤、ビグアニド、チアゾリジンジオン、α-グルコシダーゼ阻害剤などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、糖尿病治療剤は、インスリン又はその生物活性誘導体である。
【0041】
「架橋剤」又は「架橋試薬」は、同じであっても異なっていてもよい少なくとも2つの反応性官能基(又は脱保護若しくは脱ブロックされて反応性官能基を提供することのできる基)を有する化合物を指す。いくつかの実施態様において、この2つの反応性官能基は、異なる化学反応性を有してもよい。例えば、この2つの反応性官能基が、他の分子上の異なるタイプの官能基に対して反応性(例えば、共有結合などの結合を形成する)であるか、又はこの2つの反応性官能基のうちの一方が、他方の反応性官能基よりも別の分子上の特定の官能基とより迅速に反応するようなものであってもよい。従って、この架橋剤は、2つの他の実体(例えば、分子、ポリマー、タンパク質、核酸、小胞、リポソーム、ナノ粒子、ミクロ粒子など)を連結(例えば、共有結合で)させ、
又は同じ実体(例えば、ポリマー)上の2つ基を連結させて、架橋結合組成物を形成するために使用されることができる。一般に、本明細書で使用する場合、「架橋された」は、2つの実体間の複数の結合又はリンク、又は同じ実体上の複数の基間の複数の追加の結合又はリンクを含む組成物に関する。
【0042】
本明細書で使用される「高血糖」は、健康な個体と比較して、より上昇した量のグルコースが患者の血漿中に循環する状態を指すことができる。高血糖は、空腹時血糖値の測定を含む当技術分野で公知の方法を用いて診断することができる。
本明細書で使用される「低血糖」は、患者の血漿中を循環するグルコースの量が減少した状態を指すことができる。低血糖症を示す可能性のあるグルコースの低下したレベルは、患者の年齢と健康状態によって異なる。糖尿病の成人の場合、血糖値が70mg/dL以下は低血糖と呼ばれる。非糖尿病成人の場合、血糖値が50mg/dL以下は低血糖と呼ばれる。低血糖は、市販の指先血糖モニター、連続血糖モニター、静脈血中グルコースレベルの測定法などを使用することを含む、当技術分野で公知の方法を使用して診断することができる。低血糖の症状には、ジッタ、かすみ目、発汗、蒼白、性格変化、頭痛、脱力感、空腹感、眠気、吐き気、めまい、集中困難、不整脈、混乱、発作、及び昏睡が含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
いくつかの実施態様において、低血糖は、血中を循環するインスリンのレベルが上昇した状態(即ち、高インスリン血症性低血糖)に関連することができる。いくつかの実施態様において、この高インスリン血症性低血糖症は、インスリン補充療法(例えば、インスリン注射)及び/又は別の糖尿病治療剤(例えば、スルホニル尿素又はメグリチニド)による1型又は2型糖尿病の治療の結果であることができる。従って、いくつかの実施態様において、低血糖は、インスリンの過剰な注射によって引き起こされる可能性がある。いくつかの実施態様において、低血糖は、内因性インスリンの過剰によって引き起こされる可能性がある。いくつかの実施態様において、高インスリン血症性低血糖症は、例えば、先天性高インスリン症、インスリノーマ(例えば、膵島細胞腺腫又は癌腫)、胃ダンピング症候群、自己免疫インスリン症候群、反応性低血糖症、又は非インスリノーマ膵臓低血糖症によって引き起こされることができる。いくつかの実施態様において、特定の薬物(例えば、スルホニル尿素、メグリチニド、アスピリン、ペンタミド、キニーネ、又はディスオペラミドなどであるがこれらに限定されない。)の使用が低血糖を引き起こす可能性がある。
【0044】
本明細書で使用される「インスリン抵抗性」は、正常量のインスリンが正常な生理学的応答又は分子応答を生成できない状態を指すことができる。いくつかの場合、内因的に産生されるか又は外因的に投与された、超生理学的量のインスリンが、インスリン抵抗性の全部又は一部を克服し、生物学的応答を生じさせることができる。
本明細書で使用される「メタボリックシンドローム」は、高インスリン血症、異常グルコース耐性、肥満、腹部又は上半身コンパートメントへの脂肪の再分布、高血圧、異常フィブリン分解、並びに高トリグリセリド、低密度リポタンパク質(HDL)-コレステロール及び高密度低密度リポタンパク質(LDL)粒子を特徴とする異常脂質血症などを含む(但し、これらに限定されない)形質の関連クラスターを指すことができる。メタボリックシンドロームの患者は、2型糖尿病及び/又は他の障害(例えば、アテローム性動脈硬化症)の発症のリスクがある。
本明細書で使用する用語「グルコース耐性」は、グルコース摂取が変動する場合に、患者が血漿グルコース及び/又は血漿インスリンのレベルを制御する能力を指すことができる。例えば、グルコース耐性は、血漿グルコースのレベルを約120分以内にグルコースの摂取前のレベルに戻す能力を包含する。
【0045】
本明細書で使用される「多糖」は、糖のポリマーである。「多糖」、「炭水化物」及び「オリゴ糖」は、互換的に使用することができる。このポリマーは、天然の糖(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、リボース、及びキシロース)及び/又は修飾された糖(例えば、2'-フルオロリボース、2'-デオキシリボース、及びヘキソース)を含むことができる。
本明細書で使用される「糖」は、糖のモノマーを指す。糖は、天然糖(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、リボース、及びキシロース)又は修飾糖(例えば、2'-フルオロリボース、2'-デオキシリボース、ヘキソースなど)であってもよい。
【0046】
II.一般的考察
自己調整されたグルコース応答性インスリン送達システムの開発に多大な努力が費やされてきた。Lu et al., Nat. Rev. Mater., 2017, 2, 1-17を参照されたい。これらのシステムの大部分は、グルコースとグルコースオキシダーゼ(GOx)(Ito et al., J. Control. Release, 1989, 10, 195-203; Gordijo et al., Adv. Funct. Mater., 2011, 21, 73-82; Podual et al., J. Control Release, 2000, 67, 9-17; and Podual et al., Annu. Rev. Biomed. Eng., 2000, 2, 9-29)、グルコース結合タンパク質(Brownlee and Cerami, Science, 1979, 206, 1190-1191; Brownlee and Cerami, Diabetes, 1983, 32, 499-504; Obaidat and Park, Pharm. Res., 1996, 13, 989-995; and Wang et al., Adv. Mater., 2017, 29, 1606617)又はフェニルボロン酸(PBA)(Dong et al., Langmuir, 2016, 32, 8743-8747; Chou et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2015, 112, 2401-2406; Matsumoto et al., Macromolecules, 2004, 37, 1502-1510; Shiino et al., J. Control Release, 1995, 37, 269-276; Matsumoto et al., Biomacromolecules, 2004, 5, 1038-1045; Kataoka et al., J. Am. Chem. Soc., 1998, 120, 12694-12695; and Brooks and Sumerlin, Chem. Rev., 2016, 116, 1375-1397)との相互作用の使用を含む。例えば、フェニルボロン酸(PBA)は、1,2-又は1,3-cis-ジオールに可逆的に結合し(Springsteen and Wang, Tetrahedron, 2002, 58, 5291-5300; and Yan et al., Tetrahedron, 2004, 60, 11205-11209)、水溶性の向上と、高血糖状態における担体の膨潤(Matsumoto et al., Angew. Chem. Int. Edit., 2012, 51, 2124-2128)、溶解(Kim et al., ACS Macro Letters, 2012, 1, 1194-1198)、又は粘度低下(Yao et al., Biomacromolecules, 2012, 13, 1837-1844; Ma et al., Biomacromolecules, 2102, 13, 3409-3417; and Yang et al., Soft Matter, 2013, 9, 8589-8599)を介してその後の積載物の放出をもたらすことができる。しかし、これらのシステムは、応答速度が遅い、インスリン積載効率が低い、生体適合性が低い、操作プロセスが複雑など、依然としていくつかの課題に直面している。Lu et al., Nat. Rev. Mater., 2017, 2, 1-17を参照されたい。
【0047】
本発明は、いくつかの実施態様において、例えば、高血糖をもたらす糖尿病又は別のグルコース代謝障害を制御するために、それを必要とする患者にインスリン(又はその生物活性誘導体)を送達するための組成物に関する。それはまた、糖尿病及び/又は高血糖及び/又はそれらの副作用を治療するために、他の負に帯電したタンパク質及び小分子治療剤(例えば、抗癌剤/抗炎症剤及び/又は他の薬物(本明細書に開示されるような糖尿病治療剤など))を送達するためにも有用である。特に、いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、それを必要とする患者へのグルコース感受性の「スマートな」閉ループインスリン送達法を提供し、それにより、より費用効果が高くより簡単な糖尿病の制御方法を提供し、糖尿病患者の健康と生活の質を改善し、糖尿病の治療の低血糖合併症を防ぐことができる。
【0048】
より具体的には、本発明は、負に帯電した治療薬(例えば、インスリン(又はその生物活性誘導体))と、グルコース感知部分と正に帯電した部分を含む電荷スイッチング可能なポリマーとの間に形成される静電相互作用駆動複合体に基づく。グルコース存在下で、このグルコース感知部分は、グルコースに迅速又は瞬間的に結合して、このポリマーに負電荷を導入し、それにより、このポリマー中の正電荷の量が減少し、それによりこの複合体から負に帯電した治療剤(例えば、複合体からのインスリン(又はその生理活性誘導体))を放出することができる。このポリマーの正に帯電した部分とグルコース感知部分との間の比率を合理的に調整することにより、この治療薬は、正常血糖下では複合体からゆっくりと放出され、高血糖下では迅速に(例えば、即座に)放出される。一例として、本発明のインスリン-ポリマー複合体を使用することにより、その複合体が1型糖尿病のマウスモデルとミニブタモデルの血糖値を厳密に調整して、グルコース負荷時に、インビボのグルコース応答性インスリン放出が達成された、
【0049】
本発明の例示的な実施態様を
図1A及び1Bに示す。
図1Bに示すように、正に帯電したポリマー(即ち、ポリ(エチレンジアミンアクリルアミド)(ポリ(EDAA)又はポリ(2-アミノエチルアクリルアミド))にはペンダントアミングループが組み込まれており、その一部は更にフルオロフェニルボロン酸(FPBA)基に結合している。pH7.4でグルコースを含まないリン酸緩衝液(PBS)において、このポリマーは正に帯電し(
図1A及び1Bを参照)、インスリンと安定したマイクロサイズの複雑な懸濁液を形成することができ(
図1Aを参照)、印象的なインスリン負荷(積載)効率は95%にも達する。グルコースが存在する場合、グルコースがこのポリマーのFPBA基に結合して、正電荷が徐々に減少し、その結果ポリマーとインスリンの間の静電相互作用が弱まる。高血糖状態では、ポリマーの正の電荷は高度にかつ迅速に反転するため、応答が速いインスリンの放出が促進される。
図1Aの右を参照されたい。しかし、このような電荷の反転は正常血糖状態では抑制され、従って、インスリン放出速度を低下させ、続いて低血糖のリスクを回避する。
【0050】
いくつかの実施態様において、本願発明の複合体は、治療薬(例えば、インスリン又はその生理活性誘導体)をポリマーと混合することによって迅速に形成される。この薬剤のほぼ100%(例えば、90、95、98、又は99%より高い)は、ポリマーと複合体化することができる。従って、さらに精製する必要はない。高血糖状態では、このポリマーはグルコースに急速に結合し、負の電荷を導入して、ポリマーの正の電荷を大幅に減少させることができる。このプロセスは非常に迅速であり、治療薬(インスリンなど)を放出して、血糖値の変化に対応することができる。本発明の複合体は、グルコースに結合後にグルコース依存性インスリン放出を達成するために、アリールボロン酸(例えばハロフェニルボロン酸)上の負電荷を使用する最初のものであると考えられる。グルコースレベルへの迅速かつシャープな反応は、インビトロ及びインビボの両方の研究で観察された。
【0051】
本発明によれば、送達システムは、高度に生体適合性である2つの構成要素(例えば、ポリマー及びインスリン)を含む。さらに、かなりの量の医薬アジュバントを含むことができる他のより複雑なグルコース応答性送達方法と比較すると、本発明の複合体中のポリマーの量は、その負荷(積載)量が高いので、比較的低レベルである。例えば、ポリマーとインスリンの複合体は、約50重量(wt)%のインスリンを含むことができるので、より複雑なグルコース応答性インスリン送達方法/システムに関連する潜在的な生体適合性の懸念を軽減する。
本発明は、より患者に優しい投与を提供することもできる。一例として、糖尿病患者は通常、速効型インスリンの3回の注射及び長時間作用型インスリンの1回の注射を投与される。しかし、本発明のグルコース応答性インスリン-ポリマー複合体を使用すれば、丸一日にわたって正常血糖を維持するために必要なのは1回の投与のみであった。従って、本発明の複合体は、(例えば、血糖値を効果的に制御するために)患者が必要とする注射の数を顕著に減らすことができ、投与の利便性を高め、患者にとって治療をより受け入れやすくする。
【0052】
いくつかの実施態様において、本発明は、(a)グルコース結合基を含む正に帯電したポリマー、及び(b)インスリン又はその生物活性誘導体を含む組成物を提供する。いくつかの実施態様において、この正に帯電したポリマーは、アンモニウム基(例えば、生物学的に適切なpH(例えば、約7.4又はそれ以下のpH)でのアミン基のプロトン化から形成されるアンモニウム基)を含む。この正に帯電したポリマー及びインスリン又はその生物活性誘導体は、静電相互作用を介して複合体を形成することができる。
【0053】
本明細書で使用される「グルコース結合基」は、グルコース又は別の近似ジオール(別の糖又は多糖など)に(例えば、共有結合、配位結合、又は非共有結合を介して)結合する基を指す。いくつかの実施態様において、このグルコース結合基は、グルコース又は別の糖又は多糖に可逆的に結合することができる。いくつかの実施態様において、このグルコース結合基は、グルコース又は別の糖若しくは多糖に結合すると、電荷又は電荷密度が変化することができる基である。適切なグルコース結合基には、単糖結合タンパク質(グルコース結合タンパク質(GBP)(ガラクトース/グルコース結合タンパク質としても知られている)及びその誘導体など)、グルコース輸送タンパク質(例えば、GLUT1-14)及びその誘導体、並びにボロン酸及びボロン酸エステルが含まれるが、これらに限定されない。例えば、サッカライドと芳香族ボロン酸との可逆的な錯化により、安定なボロン酸アニオンを生成することができる。いくつかの実施態様において、このグルコース結合基は、ボロン酸又はボロン酸エステルを含む。いくつかの実施態様において、このグルコース結合基は、アリールボロン酸又はアリールボロン酸エステル基を含む。このアリールボロン酸又はアリールボロン酸エステルのアリール部分は、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ピレニル基、ヘテロアリール基、又は置換芳香族基又はヘテロアリール基であってもよい。
いくつかの実施態様において、このアリールボロン酸基は、フェニルボロン酸基であり、これは、1又はそれ以上のアリール基の置換基(例えば、ハロ、アルキル、アルコキシなど)で置換されていてもよいし、又は非置換であってもよい。いくつかの実施態様において、このアリールボロン酸基はハロフェニルボロン酸基である。 いくつかの実施態様において、このフェニルボロン酸基はフルオロフェニルボロン酸基である。
【0054】
いくつかの実施態様において、このインスリン又はその生物活性誘導体は、ヒトインスリン、組換えヒトインスリン、非ヒト動物(例えば、ウシ、ブタ)由来のインスリン、又は他の任意のインスリンであってもよく、インスリン誘導体を含む。いくつかの実施態様において、このインスリンは、意図されるレシピエントと同じ種である(即ち、ヒトを治療する場合にはトインスリンである)。このインスリン又はその生理活性誘導体は、異なる複数のインスリン及び/又は誘導体の混合物を含んでもよい。このインスリン又はその生理活性誘導体は、速効型インスリン、急速効型インスリン類似体、中速型インスリン、及び/又は長時間作用型インスリンを含むことができる。いくつかの実施態様において、このインスリン又はその生理活性誘導体は、速効型又は急速効型インスリンである。いくつかの実施態様において、このインスリン又はその生物活性誘導体は、組換えヒトインスリンである。
速効型インスリンは1~20分以内に働き始め、約1時間後にピークに達し、3~5時間持続する。速効型インスリンは、全身循環に完全に吸収されるまで約2時間かかる。速効型インスリンには、通常の組換えヒトインスリン(Lillyが販売するHUMULIN(TM)、NovoNordiskが販売するNOVOLIN(TM)など)が含まれる。ウシインスリンとブタインスリンは、いくつかのアミノ酸がヒトインスリンとは異なるが、ヒトにおいても生理活性があり、速効型インスリンでもある。
【0055】
急速効型インスリンには、その吸収速度を高めるためにアミノ酸が修飾されたり又はその位置が変更されたインスリンが含まれる。急速効性の市販のインスリンアナログには3種類ある:即ち、リスプロインスリン(リジンプロリンインスリン、Eli LillyからHUMALOG(TM)として販売されている)、グルリジンインスリン(Sanofi-AventisからAPIDRA(TM)として販売されている)及びアスパルトインスリン(Novo NordiskからNOVOLOG(TM) として販売されている)。
中速型インスリンは、短時間作用型インスリンよりも寿命が長いが、動作を開始するのが遅く、最大強度に達するまでに時間がかかる。中速型インスリンは通常、注射後2~4時間以内に機能し始め、4~14時間の間にピークに達し、24時間まで有効である。中速型インスリンの種類には、NPH(ニュートラルプロタミンヘゲドルン)インスリン及びLENTE(TM)インスリンが含まれる。NPHインスリンには吸収速度を遅くするプロタミンが含まれているため、このインスリンは血流に到達するまでより長時間かかるが、ピークと寿命は長くなる。
【0056】
長時間作用型インスリンには、Eli LillyのHumulin(TM)U(Ultralente(TM)ヒトインスリン(組換えDNA由来)拡張亜鉛懸濁液)、インスリングラルギン(LANTUS(TM), Aventis)が含まれる。インスリングラルギンは、24時間までの持続時間を持つことができる組換えヒトインスリン類似体である。これは、21位のアスパラギンの代わりにグリシンを持ち、ベータ鎖のカルボキシ末端に2つのアルギニンが追加されている点で、ヒトインスリンとは異なる。LANTUS(TM)は、透明な水性液に溶解したインスリングラルギンから成る(100 IU, 3.6378mgのインスリングラルギン、30μgの亜鉛、2.7mgのm-クレゾール、20mgのグリセロール85%、及び1 mlの水)。いくつかの実施態様において、このインスリン又はその生物活性誘導体の一部又はすべてを、別の負に帯電した治療用タンパク質、ペプチド又は他の薬剤で置き換えることができる。いくつかの実施態様において、この組成物はまた、別の糖尿病治療薬を含むことができる。
【0057】
いくつかの実施態様において、正に帯電したポリマーは、ビニルコポリマー(例えば、ランダムビニルコポリマー)を含むが、他のポリマー主鎖(例えば、ポリアミド)を使用してもよい。いくつかの実施態様において、このコポリマーは複数の側鎖を有し、この側鎖の1又はそれ以上はアンモニウム基を含み、1又はそれ以上の側鎖はグルコース結合基を含む。いくつかの実施態様において、このポリマーは、N置換アクリルアミドを含むモノマー単位から形成することができる。いくつかの実施態様において、このモノマー単位のうちのいくつかは、アミノアルキル基で置換されたN置換アクリルアミドから誘導することができる。いくつかの実施態様において、このアミノアルキル基置換アクリルアミドは、塩化アクリロイル(又は別のハロゲン化アクリロイル、アクリル酸、又はこれらのエステル又は無水物)とジアミン(エチレンジアミン又はプロピレンジアミン(即ち、1,3-ジアミノプロパン又は1,2-ジアミノプロパン)又はモノ保護ジアミンなど)との反応生成物である。当技術分野においては適切なアミノ保護基(例えば、tert-ブトキシカルボニル又はBoc)が知られている。いくつかの実施態様において、このポリマーは、プロトン化アミン(例えば、プロトン化一級アミン)を含む側鎖を含むモノマー単位と、グルコース結合基(アリールボロン酸又はアリールボロン酸エステル部分など)を含む側鎖を含むモノマー単位とのコポリマーであってもよい。
【0058】
いくつかの実施態様において、このコポリマーは、アンモニウム基を含む複数の側鎖及びグルコース結合基を含む複数の側鎖を含むポリアクリルアミド骨格を有する。いくつかの実施態様において、このポリマーは式(化1)の構造を有する:
【化1】
(式中、x及びyはそれぞれ1より大きい整数であり、RはH又はアルキル基であり、R
1はプロトン化アミノアルキル基であり、かつR
2は、アリールボロン酸を含む基である)。
【0059】
いくつかの実施態様において、x及びyのそれぞれは、約10, 15, 20, 25, 30, 35, 40, 45, 50, 75, 又は100より大きい整数である。いくつかの実施態様において、x及びyは、それぞれ独立して、約50と約5,000との間の整数である(例えば、50, 75, 100, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800, 900, 1,000, 1,500, 2,000, 2,500, 3,000, 4,000又は5,000)。いくつかの実施態様において、x及びyは、約5,000, 10,000, 25,000又はそれ以上より大きい整数であってもよい。いくつかの実施態様において、整数x及びyの合計は少なくとも約10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 又は約100である。いくつかの実施態様において、x及びyの合計は約500, 1,000, 5,000, 10,000, 25,000, 50,000 又はそれ以上である。
いくつかの実施態様において、yに対するxの比は、約7:3と約1:5との間(例えば、約7:3, 2:1, 5:3, 4:3, 1:1, 2:3, 1:2, 1:3, 1:4, 又は1:5)である。いくつかの実施態様において、yに対するxの比は約1:1から約1:3の間である。いくつかの実施態様において、yに対するxの比は約2:3である。
【0060】
いくつかの実施態様において、Rは、H(水素原子)又はC1-C6アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル(例えば、n-ペンチル又はネオ-ペンチル)又はヘキシルなど)である。いくつかの実施態様において、RはH又はメチルである。いくつかの実施態様において、RはHである。
いくつかの実施態様において、R1は、構造-L-NH3
+(式中、Lは、C1-C6の直鎖又は分枝の、置換又は非置換のアルキレン基である。)を有する。いくつかの実施態様において、Lはエチレン(即ち、-CH2CH2-)である。
いくつかの実施態様において、R2は、構造-L1-NH-C(=O)-R3(式中、L1は、C1~C6の直鎖又は分岐の置換又は非置換アルキレン基であり、R3は、アリールボロン酸基である。)を有する。いくつかの実施態様において、R3はフェニルボロン酸基である。いくつかの実施態様において、R3は、フルオロフェニルボロン酸基又は別のハロフェニルボロン酸基である。いくつかの実施態様において、LとL1は同じである。いくつかの実施態様において、L1は-CH2CH2-である。
【0061】
いくつかの実施態様において、組成物の正に帯電したポリマー対インスリン(又はその生物活性誘導体)の重量比は、約2:1~約1:4の間(例えば、約2:1、約1.5:1、約1:1、約1:1.5、約1:2、約1:3、又は約1:4)である。いくつかの実施態様において、組成物は、ポリマー及びインスリン(又は生物活性インスリン誘導体)をほぼ等量(重量)で含み、その比率は約1:1である。
いくつかの実施態様において、組成物は、このポリマー及びこのインスリン(又はその生物活性誘導体)を含むナノ粒子又はマイクロ粒子を形成する。いくつかの実施態様において、このナノ粒子又はマイクロ粒子は、ほぼ球状の形状を有する。いくつかの実施態様において、このナノ粒子又はマイクロ粒子は、不規則な形状を有する。いくつかの実施態様において、ナノ粒子又はマイクロ粒子の直径は、約0.1μm~約1,000μmである。いくつかの実施態様において、この粒子の直径は、約1μm~約200μmの間(例えば、約5, 10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100, 110, 120, 130, 140, 150, 160, 170, 180, 190, 又は約 200μm)である。いくつかの実施態様において、この粒子の直径は、約50μmである。
【0062】
いくつかの実施態様において、本発明の組成物(例えば、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子)を使用して、インスリン又はその生物活性誘導体を送達するためのマイクロニードル(MN)アレイを作ることができる。例えば、いくつかの実施態様において、本発明は、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子を含む複数のマイクロニードルを含むマイクロニードルアレイを提供し、これらの粒子は、正に帯電したポリマーとインスリンとの間の複合体を含み、この正に帯電したポリマーはグルコース結合基を含む。いくつかの実施態様において、このマイクロニードルアレイは、複数のマイクロニードルを含むことができ、この複数のマイクロニードルはそれぞれ、約20~約1,000μmの間(例えば、約20, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 350, 400, 450, 500, 550, 600, 650, 700, 750, 800, 850, 900, 950,又は約1000μm)の長さを有する。いくつかの実施態様において、この複数のマイクロニードルはそれぞれ、約500μmと約700μmの間の長さを有する。いくつかの実施態様において、各マイクロニードルは、ほぼ円錐形又はピラミッド形を有することができる。いくつかの実施態様において、これらのマイクロニードルの先端は、約100μm未満、約75μm未満、約50μm未満、約40μm未満、約30μm未満、又は約20μm未満であってもよい。いくつかの実施態様において、各マイクロニードルの先端は、約10μmであってもよい。
【0063】
このマイクロニードルアレイは、複数のマイクロニードルを含むことができ、これらのマイクロニードルの基部は、任意の適切な二次元パターンによって配置される。これらのマイクロニードルは、規則的な配列(例えば、正方形、長方形、円形、楕円形、又はその他の形状のパターン)であって個々のマイクロニードル間の距離が同じであるか、繰り返し変化する配列、又は不規則な配列(例えば、個々のマイクロニードル間の距離が認識できない繰り返しの方法で変化する。)で配置されてもよい。これらのマイクロニードルは、本発明の複合体(例えば、インスリン/ポリマー複合体のナノ粒子)を含む溶液を型に滴下する段階、及びこれに架橋可能な生体適合性ポリマー(例えば、架橋可能なポリアミノ酸(例えば、ポリグルタミン酸)、架橋可能な合成ブロックコポリマー、又は架橋可能な多糖(例えば、グルコサミノグリカン)、但し、これらに限定されない。)を含む溶液を加える段階により調製することができる。いくつかの実施態様において、この架橋可能な生体適合性ポリマーは、アクリレート修飾ヒアルロン酸(m-HA)である。そして、この型を乾燥させて、この架橋可能なポリマーを架橋させることができる(例えば、N、N'-メチレンビスアクリルアミド(MBA)又は別の架橋剤を使用して)。その後、マイクロニードルをこの型から取り外すことができる。
【0064】
図6は、本発明のマイクロニードルアレイを調製するための例示的なプロセスの概略図を示す。インスリン-ポリマー複合体を含む組成物(例えば、本発明のインスリン-ポリマー複合体から調製されたナノ粒子)を含む溶液を、複数のマイクロキャビティを含むシリコーン型に(例えば、マイクロピペットを使用して)滴下する。この溶液はまた、任意に、架橋可能な生体適合性ポリマー、架橋剤及び光開始剤を含んでもよい。この充填された型を遠心分離して、このマイクロキャビティから残存空気を除去する。この滴下と遠心分離の段階を、マイクロキャビティを満たすために、任意に、1回以上(例えば、1回、2回、3回、又はそれ以上)繰り返してもよい。次に、この充填された型を、(例えば、真空条件下で)乾燥する。乾燥後、架橋可能な生体適合性ポリマー溶液(例えば、m-HA溶液)(任意に、架橋剤又は架橋剤及び光開始剤を含む。)をこの型に滴下し、乾燥させて、充填されたマイクロキャビティの上にポリマー層を形成する。次に、その結果生じた乾燥MNパッチをこの型から取り外し、一定期間紫外線に曝して、ポリマーの架橋を開始する。
【0065】
いくつかの実施態様において、このマイクロニードルアレイを、皮膚パッチの一部として提供することができる。いくつかの実施態様において、このマイクロニードルアレイは、(例えば、マイクロニードルアレイを湿気又は物理的損傷(例えば、引っかき傷)から保護するために)1又はそれ以上のバッキング層を含んでもよい。いくつかの実施態様において、このマイクロニードルアレイは、アレイから外側に延びる(例えば、アレイの基部と同一平面の)、このアレイの皮膚への付着を助けるための皮膚適合性接着剤を含む層を含んでもよい。本発明のマイクロニードルアレイは、インスリン又はその生理活性誘導体をグルコース応答性又は依存性の様式で放出することができる。いくつかの実施態様において、このインスリン又は生物活性誘導体の放出速度は、アレイと接触するグルコースの濃度に直接依存する(例えば、アレイが高濃度のグルコースと接触している場合には、この放出速度は速い)。従って、いくつかの実施態様において、このマイクロニードルアレイは、閉ループインスリン送達システムである。
【0066】
いくつかの実施態様において、本発明は、正に帯電したポリマー(この正に帯電したポリマーは、グルコース結合基を含む)とインスリン又はその生物活性誘導体との複合体を含む組成物及び薬学的に許容される担体を含む医薬製剤を提供する。いくつかの実施態様において、この複合体は、ナノ粒子又はマイクロ粒子の形態である。いくつかの実施態様において、この担体は、薬学的に許容される液体又は生体適合性ポリマー(例えば、疎水性又は両親媒性ポリマーゲル)であってもよい。いくつかの実施態様において、この担体は、ポロキサマー(即ち、2つの親水性ポリ(エチレングリコール)(PEG)ブロックを両測に持つ中央疎水性ポリ(プロピレングリコール)(PPG))ブロックから成るトリブロックコポリマー、例えば、PF-127であるが、これに限定されない。)である。
本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」は、医薬投与に適合する、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。補足的な活性化合物をリポソーム医薬組成物に組み込むこともできる。本発明の組成物を凍結乾燥して、凍結乾燥物を生成することができ、これを水などの薬学的に許容される担体で再構成して、懸濁液又は溶液を再生することができる。
【0067】
医薬組成物は、その意図された投与経路に適合するように処方することができる。投与経路には、例えば、非経口、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、経鼻、光学、及び直腸の投与があるが、これらに限定されない。非経口、皮内、又は皮下の投与に使用される溶液又は懸濁液は、以下の成分を含むものであってもよい:無菌希釈剤(注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、その他の合成溶剤など);抗菌剤(ベンジルアルコールやメチルパラベンなど);抗酸化剤(アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなど);キレート剤(エチレンジアミン四酢酸など);緩衝液(酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩など)及び張性調整剤(塩化ナトリウムやデキストロースなど)。pHは、塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調整することができる。非経口製剤は、アンプル、使い捨て注射器、又はガラス若しくはプラスチック製の複数回投与用バイアルに封入することができる。
【0068】
いくつかの実施態様において、本発明は、本発明のポリマー複合体を含む皮膚パッチ又は医薬製剤を投与する段階を含む、それを必要とする患者にインスリン又はその生理活性誘導体を送達する方法を提供する。
いくつかの実施態様において、本発明に従って治療される「患者」はヒト患者であるが、本発明の方法は、この「患者」という用語に含まれることが意図される全ての脊椎動物種に対して有効であると理解されるべきである。
より詳細には、本発明が提供するのはヒトや以下の哺乳類のような哺乳類の治療法であり、それには、絶滅危惧種(シベリアトラなど)のため、経済的重要性のため(人間が消費するために農場で飼育された動物)及び/又は社会的重要性のため(ペットや動物園で飼育され鵜動物)に重要な哺乳類が含まれ、例えば、ヒト以外の肉食動物(ネコ、イヌなど)、ブタ類(ブタ、ブタ、イノシシ)、反芻動物(ウシ、ウシ、ヒツジ、キリン、鹿、ヤギ、バイソン、及びラクダなど)及び馬が含まれる。したがって、本発明の方法の実施態様には、家畜(ブタ及び豚)、反芻動物、ウマ、家禽などを含む家畜の治療法が含まれるが、これに限定されない。
【0069】
いくつかの実施態様において、患者は糖尿病である。この患者は1型又は2型の糖尿病を患うことがある。いくつかの実施態様において、この患者は代謝障害を有する。いくつかの実施態様において、この患者は哺乳動物である。いくつかの実施態様において、この患者はヒトである。
いくつかの実施態様において、この投与は、皮下注射を介してこの医薬製剤を投与する段階を含む。いくつかの実施態様において、この投与は1日1回行われる。いくつかの実施態様において、この医薬製剤又はパッチは、患者の血中グルコースレベルに直接対応する速度でインスリンを放出する(例えば、患者が正常血糖を有する場合、放出は遅いが、患者が高血糖を有する場合、放出は急速であるように)。したがって、本発明の複合体は、必要に応じて、数時間又は数日にわたってインスリンを放出するための貯蔵所として機能することができる。
【0070】
いくつかの実施態様において、本発明は、それを必要とする患者の糖尿病を治療する方法であって、本発明の複合体を含む医薬製剤又はこの複合体を含むマイクロニードルを含む皮膚パッチを患者に投与する段階を含む方法を提供する。この患者は1型又は2型の糖尿病を患うことがある。いくつかの実施態様において、この投与は、皮下注射を介してこの医薬製剤を投与する段階を含む。いくつかの実施態様において、この投与は1日1回行われる。いくつかの実施態様において、この投与は1日2回以上行ってもよい(例えば、1日あたり2又は3のパッチを適用することができる)。いくつかの実施態様において、この医薬製剤又はパッチは、患者の血中グルコースレベルに直接対応する速度でインスリンを放出する。
【0071】
いくつかの実施態様において、本発明は、インスリン又はその生物活性誘導体などの負に帯電した治療部分を有するグルコース応答性複合体を調製するために使用することができるポリマーを提供する。いくつかの実施態様において、このポリマーは、複数の側鎖を含み、その側鎖のいくつかは、生物学的に適切なpH(例えば、約7.4又はそれ以下)で正に帯電する基(例えば、アミン)を含み、その側鎖のいくつかは、グルコース及び/又は他の糖類に結合できる基を含む。いくつかの実施態様において、このポリマーは、生物学的に適切なpHで正に帯電することができる基を含むモノマー単位及びグルコース結合基を含むモノマー単位を含むコポリマー(例えば、ランダムコポリマー)である。
【0072】
いくつかの実施態様において、このポリマーは、N置換アクリルアミドを含むモノマー単位から形成することができる。いくつかの実施態様において、このモノマー単位のいくつかは、アミノアルキル基で置換されたN置換アクリルアミドから誘導することができる。いくつかの実施態様において、このアミノアルキル基置換アクリルアミドは、塩化アクリロイル(又は別のハロゲン化アクリロイル又はアクリル酸又はそのエステル又は無水物)と、エチレンジアミン若しくはプロピレンジアミン(即ち、1,3-ジアミノプロパン若しくは1,2-ジアミノプロパン)又はモノ保護ジアミンなどのジアミンとの間の反応生成物である。適切なアミノ保護基(例えば、tert-ブトキシカルボニル又はBoc)は当技術分野で知られている。いくつかの実施態様において、このポリマーは、プロトン化アミン(例えば、プロトン化一級アミン)を含む側鎖を含むモノマー単位と、アリールボロン酸又はアリールボロン酸エステル部分などのグルコース結合基を含む側鎖を含むモノマー単位のコポリマーであってもよい。いくつかの実施態様において、このコポリマーは、アミノ基含有側鎖の一部のみが試薬と反応してグルコース結合基に付着するような条件下で、アミノ基含有側鎖を含むポリマーをグルコース結合基を含む試薬と反応させることにより得ることができる。例えば、いくつかの実施態様において、この条件は、グルコース結合基含有試薬の量を変化させることにより、アミノ基含有側鎖が所望の割合(%)で残存するように変化させることができる。
【0073】
したがって、いくつかの実施態様において、本発明は、ペンダントアミノアルキル基及びペンダントアリールボロン酸又はアリールボロン酸エステル基を含むポリアクリルアミドポリマーを含む組成物を提供する。いくつかの実施態様において、このアリールボロン酸又はアリールボロン酸エステル基のアリール基は、1又はそれ以上のアリール基置換基(例えば、ハロ、アルキル、アルコキシなど)によって置換される。いくつかの実施態様において、このアリールボロン酸又はボロン酸エステル基は、ハロアリールボロン酸又はハロボロン酸エステル基である。いくつかの実施態様において、このポリマーは、ペンダントアミノアルキル基及びペンダントフルオロフェニルボロン酸基を含むポリアクリルアミドポリマーである。
【0074】
いくつかの実施態様において、このポリマーは、下式(化2)の構造を有する。
【化2】
(式中、x及びyはそれぞれ5より大きい整数であり、RはH又はアルキル基であり、L及びL
1はそれぞれアルキレンであり、Xはハロである。)
いくつかの実施態様において、x及びyのそれぞれは、約10, 15, 20, 25, 50, 75, 100, 250, 500, 750, 1000, 2500, 5000, 7500, 又は10000より大きい整数である。いくつかの実施態様において、比x:yは、約7:3と約1:5との間(例えば、約7:3, 2:1, 5:3, 4:3, 1:1, 2:3, 1:2, 1:3, 1:4, 又は約1:5)である。いくつかの実施態様において、x:yは約2:3である。
【0075】
いくつかの実施態様において、Rは、H(水素原子)又はC1-C6アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル(例えば、n-ペンチル又はネオ-ペンチル)又はヘキシルなど)である。いくつかの実施態様において、RはH又はメチルである。いくつかの実施態様において、RはHである。いくつかの実施態様において、L及びL1はそれぞれC1-C6アルキレンである。いくつかの実施態様において、L及びL1は、異なるアルキレン基である。いくつかの実施態様において、L及びL1は同じアルキレン基である。例えば、LとL1は両方ともエチレン又はプロピレンであってもよい。いくつかの実施態様において、Xは、フルオロ、クロロ又はブロモである。いくつかの実施態様において、Xはフルオロである。いくつかの実施態様において、この一級アミン基はプロトン化されている。
【0076】
いくつかの実施態様において、このポリマーは、下式(化3)の構造を有する。
【化3】
(式中、x及びyはそれぞれ5より大きい整数であり、RはH又はアルキル基であり、L及びL
1はそれぞれC
1-C
5アルキレンから独立して選択されるアルキレンである)。
いくつかの実施態様において、x及びyのそれぞれは、約10, 15, 20, 25, 50, 75, 100, 250, 500, 750, 1000, 2500, 5000, 7500, 又は10000より大きい整数である。いくつかの実施態様において、比x:yは、約7:3と約1:5との間(例えば、約7:3, 2:1, 5:3, 4:3, 1:1, 2:3, 1:2, 1:3, 1:4, 又は約1:5)である。いくつかの実施態様において、x:yは約2:3である。
【0077】
いくつかの実施態様において、Rは、H(水素原子)又はC1-C6アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル(例えば、n-ペンチル又はネオ-ペンチル)又はヘキシルなど)である。いくつかの実施態様において、RはH又はメチルである。いくつかの実施態様において、RはHである。いくつかの実施態様において、L及びL1は、異なるアルキレン基である。例えば、LとL1は両方ともエチレン又はプロピレンであってもよい。いくつかの実施態様において、LとL1はエチレン(-CH2-CH2-)である。いくつかの実施態様において、Xは、フルオロ、クロロ又はブロモである。いくつかの実施態様において、Xはフルオロである。いくつかの実施態様において、この一級アミン基はプロトン化されている。
【0078】
このポリマーは、約1キロダルトン(kDa)と約30KDaとの間の適切な分子量(例えば、質量平均分子量Mw)を有することができる。したがって、いくつかの実施態様において、このポリマーは、約1, 2.5, 5, 7.5, 10, 12.5, 15, 17.5, 20, 22.5, 25, 27.5 又は約30 kDaのMwを有する。いくつかの実施態様において、このポリマーは、より高いMw(例えば、約40, 50, 75, 又は100 kDa)を有することができる。
いくつかの実施態様において、このポリマーは、複数のアミノアルキルペンダント基を含むポリアクリルアミドポリマーを用意する段階、次に、この複数のアミノアルキルペンダント基の一部を、カルボキシアリールボロン酸、カルボキシアリールボロン酸エステル又はその活性化エステル(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)と反応させる段階により提供され、それにより、アミド結合を介して、その側鎖のいくつかにアリールボロン酸又はアリールボロン酸エステルが共有結合される。
いくつかの実施態様において、この複数のアミノアルキルペンダント基を含むポリアクリルアミドポリマーは、まずジアミンをモノ保護し、このモノ保護されたジアミンをアクリル酸又はハロゲン化アクリロイル(塩化メタアクリロイル、塩化アクリロイルなど)と反応させてアクリルアミドを形成することによって調製される。このアクリルアミドを(例えば、フリーラジカル重合により)重合して、保護されたアミノアルキル側鎖を含むポリアクリルアミドを形成し、これを脱保護して遊離アミンを形成することができる。
【実施例】
【0079】
以下の実施例は、本発明の様々な実施態様をさらに例証するために含まれている。しかし、当業者は、本開示に照らして、開示される特定の実施態様に多くの変更を加えることができ、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、同様又は類似の結果を得ることができることを理解すべきである
【0080】
実施例1
ポリ(EDAA-FPBA)及びポリ(EDAA-PBA)の合成
材料:エチレンジアミン、二炭酸ジ-tert-ブチル(Boc2O)、塩化アクリロイル、2、2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)、テトラヒドロフラン(THF)、トリフルオロ酢酸(TFA)、ジクロロメタン(CH2Cl2)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及びN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC-HCl)は、Sigma-Aldrich (St. Louis, Missouri, USA)から購入した。4-カルボキシ-3-フロロベンゼンボロン酸及び4-カルボキシ-ベンゼンボロン酸は、Fisher Scientific (Thermo Fisher Scientific, Waltham, Massachusetts, USA)から入手した。すべての溶媒は、標準の精製方法に従って処理された。特記しない限り、すべての反応は窒素(N2)雰囲気下で行われた。
合成:FPBAで修飾されたポリ(EDAA)(即ち、ポリ(EDAA-FPBA))の合成は、後記のスキーム1に示すように行われた。まず、エチレンジアミン(14 mL)をCHCl3(200 mL)に溶解し、この溶液を氷浴で冷却することにより、Boc-EDAを調製した。これに、CHCl3(50 mL)に溶解したBoc2O(4.1g)を3時間かけて滴下し、その反応液を室温で一晩撹拌した。濾過後、この溶液を飽和NaCl水溶液(3x50ml)を用いて洗浄し、無水MgSO4で乾燥させ、濾過し、蒸発させて、白色固体を得た。この固体をさらに精製することなく使用した。
【0081】
Boc-EDA(1.6 g、10 mmol)をH2O(50 mL)に溶解し、濾過して透明な溶液を得た。これにTHF(10 mL)に溶解した塩化アクリロイル(1.5 g、16 mmol)をすばやく加えた。次に、この溶液にNaHCO3(1.5g)をゆっくりと加え、に30分後に反応を停止させた。この混合物をCH2Cl2(3×50 mL)を使用して抽出し、無水MgSO4で乾燥させ、濾過した。溶媒を蒸発させた後、白色のBoc-EDAA(1.6 g、収率70%)を得た。1H-NMR (400 MHz, in CDCl3, δ): 6.54 (s, 1H), 6.22 (d, 1H), 6.1 (q, 1H), 5.6 (d, 1H), 3.4 (q, 2H), 3.3 (s, 2H), 1.42 (s, 9H).
Boc-EDAA(0.5g)と2、2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)(12mg)とを混合し、THF(2 mL)に溶解し、これを窒素(N2)で10分間パージした。60℃で一晩インキュベートした後、この反応混合物をTHF(10 mL)で希釈し、これを脱イオン水(DI水)に加え、DI水(3×4L)に対して透析した。最後に、この水を凍結乾燥し、白色固体を得た(0.45g、収率90%)。
【0082】
ポリ(Boc-EDAA)(0.3 g)をCH2Cl2(10mL)に溶解し、これにTFA(3 mL)を加えて2時間撹拌した。溶媒を蒸発させ、残渣をH2O(3×4リットル)に対して透析し、凍結乾燥して、ポリ(EDAA)を淡黄色固体として得た(0.2g、収率90%)。
DMF(100 mL)中で4-カルボキシフェニルボロン酸(2 g、12mmol)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、2g、17mmol)とを混合し、この混合物を氷浴で攪拌しながら冷却して、PBA-NHSを調製した。これにN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC、3 g、18 mmol)を加え、その反応物を室温で一晩撹拌した。この混合物をCH2Cl2(200 mL)に注ぎ、HCl(0.1 N、3x50 mL)及びNaHCO3(0.1 N、3x50 mL)を用いて順次洗浄し、無水MgSO4で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、純白色のPBA-NHSを得た(3g、収率90%)。1H-NMR (400 MHz, in CDCl3, δ): 8.43 (s, 2H), 8.02 (t, 4H), 2.88 (s, 4H).
【0083】
DMF(100 mL)中で4-カルボキシ-3-フルオロフェニルボロン酸(2g、12mmol)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、2g、17mmol)を混合し、氷浴で攪拌しながら冷却することにより、FPBA-NHSを調製した。これにN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド塩酸塩(3g、18mmol)を加え、その反応物を室温で一晩撹拌した。この混合物をCH2Cl2(200 mL)に注ぎ、HCl(0.1 N、3x50 mL)及びNaHCO3(0.1 N、3x50 mL)で順次洗浄し、無水MgSO4で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、純白色のFPBA-NHSを得た(2.7g、収率80%)。1H-NMR (400 MHz, in DMSO-d6, δ): 8.59 (s, 2H), 8.0 (t, 1H), 7.79 (q, 2H), 2.9 (s, 4H).
次のポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)の合成で例示するのと同様にして、FPBA修飾ポリ(EDAA)及びPBA修飾ポリ(EDAA)を調製した。ポリ(EDAA)(0.15 g)を脱イオン水(10 mL)に溶解した。これにDMSO(2 mL)に溶解したFPBA-NHS(220mg)を加えて、透明な溶液を得た。次に、これにNaHCO3の固体をゆっくり加えて、pHを約7.2に維持し、その反応物を30分間撹拌した。最後に、この混合物を脱イオン水(3×4L)に対して透析し、続いて凍結乾燥して白色固体(0.3g、収率80%)を得た。
【0084】
【0085】
合成の概要:tert-ブチル(2-アミノエチル)カーバメート(Boc-EDA)のフリーラジカル重合及びその後の脱保護により、ペンダントアミン基を持つポリマーを合成した。スキーム1を参照されたい。その化学構造は1H-NMRで特徴付けられ、その分子量はゲル浸透クロマトグラフィーの測定により約8.7 KDaであった。4-カルボキシ-3-フルオロフェニルボロン酸をN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)によって活性化し、これを用いて、ポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)及びポリ(EDAA0.7-FPBA0.3)を生成した。比較のため、4-カルボキシ-フェニルボロン酸を活性化し、これを用いて、ポリ(EDAA)を修飾して、ポリ(EDAA0.4-PBA0.6)を生成した。修飾後、ポリ(EDAA0.7-FPBA0.3)はpH 7.4の水溶液に可溶であったが、ポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)及びポリ(EDAA0.4-PBA0.6)の両方が溶解したのは弱酸性水溶液のみであった。
【0086】
実施例2
ローダミンB標識インスリンの合成
インスリン(100mg)の水溶液に、DMSO(1 mL)に溶解したローダミンBイソチオシアネート(1mg)を加えた。これにNaHCO3を加えてpHを8に調整し、その反応物を室温で一晩撹拌した。次に、この混合物を脱イオンH2O(3×4L)に対して透析し、凍結乾燥して、ローダミンB標識インスリンを得た。
【0087】
実施例3
ポリマーナノ粒子の合成
ポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)(1mg)を酸性化した脱イオン(DI)水(50μL)に溶解した。この溶液にリン酸緩衝液(10 mM、pH=7.4、1 mL)を急いで添加すると、ポリマーが沈殿し、安定したナノ粒子が形成された。同様の方法で、ポリ(EDAA0.4-PBA0.6)からナノ粒子溶液を作製した。
【0088】
実施例4
インスリン複合体の合成
インスリンとさまざまな比率のポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)から複数の複合体を調製した。本発明のポリマー/インスリン複合体の合成の例として、ポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)/インスリン複合体の調製を記載する。
インスリン(1mg)とポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)(1mg)、それぞれ酸性化水(50μL)に溶解し、これらを混合した。インスリンとポリマーとの間の静電相互作用により白い沈殿物が形成されて、ポリマー/インスリン複合体の形成を示すまで、これにNaOH(0.1N)を注意深く加え、pHを7.4に正確に調整した。この懸濁液にリン酸緩衝液(PBS)(1 mL)を加え、その溶液を遠心分離し、さらにPBSで数回洗浄した。最後に、この懸濁液をpH=7.4のPBS中で保存し、インビトロ及びインビボの実験に直接使用した。
この複合体の沈殿物は非常に安定しており、インスリンとポリマーの間の強い相互作用を示唆している。1つの理論に縛られることないが、このポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)の水不溶性は、ポリマーとインスリンの間に形成される複合体を安定させるために重要であることが提案される。
【0089】
実施例5
グルコース吸着とナノ粒子の特性評価
ナノ粒子の特性評価:ナノ粒子のサイズとζポテンシャルを、ゼータサイザー(Malvern Panalytical, Malvern, 英国)で測定した。ナノ粒子のζポテンシャルに対するグルコース濃度の影響を、ナノ粒子の溶液にさまざまな量のグルコースを加え、測定を行う前に2分間放置することにより測定した。注目すべきことに、グルコースが400mg/mLに添加されたときに、ポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)のナノ粒子は沈殿するので、測定の迅速な確認が重要であった。
グルコース吸着:インスリン(1mg)及びポリマー(1mg)から成るインスリン複合体を、リン酸緩衝液(PBS)7.4(1 mL)に懸濁し、これを複数の遠心チューブに分けて、それにグルコースを加えて異なるグルコース溶液(100又は400mg/dL)を得た。この溶液を37℃でインキュベートし、グルコース濃度をClarity GL2Plusグルコース計(Clarity Diagnostics, Boca Raton, Florida, USA)でモニターした。濃度は標準曲線を使用して較正した。
【0090】
まとめ:ポリマーのグルコース結合能を、さまざまなグルコース濃度(0、100 mg/dL(典型的な正常血糖レベル)200及び400mg/dL(典型的な高血糖レベル))でpH 7.4のPBS中で測定した。等重量のインスリンとポリマーから成る複数のポリマーインスリン複合体を調製した:即ち、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)複合インスリン(F-インスリン)、ポリ(EDAA
0.4-PBA
0.6)複合インスリン(B-インスリン)、及びポリ(EDAA)複合インスリン(N-インスリン)。グルコース濃度は、標準曲線によりPBS溶液中で較正した。F-インスリン溶液にグルコースを添加した後、10分以内に、100及び400mg/dLグルコース溶液において、グルコース濃度はそれぞれ10及び30mg/dL減少した。
図2Aを参照されたい。驚いたことに、F-インスリンによるグルコースのさらなる吸着が、400mg/dLグルコース溶液で、120分以内に総量で50mg/dLのグルコース濃度の減少が観察され、FPBA部分の90%以上がグルコースに結合していたことが示唆される。これは、いずれの理論にも束縛されることなく、隣接するアミン基から生じる増強されたジオール捕捉能力によるものである。
Ren et al., Angew. Chem. Int. Edit., 2009, 48, 6704-6707; and
Liang and Liu, Chem. Commun., 2011, 47, 2255-2257を参照されたい。B-インスリンの溶液でははるかに低いグルコース結合が観察されたが(
図2B)、N-インスリンの溶液では無視できるほどのグルコース結合しか観察されなかった(
図2C)。
【0091】
グルコース結合がポリマーの正電荷の低減をもたらすかどうかを調べるために、pH 7.4のリン酸緩衝液(PBS)に、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)又はポリ(EDAA
0.4-PBA
0.6)の濃縮酸性水溶液を滴下することにより、ポリマーナノ粒子を調製した。ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)とポリ(EDAA
0.4-PBA
0.6)の両方とも、動的光散乱(DLS)と透過型電子顕微鏡(TEM)の測定により、安定した球状ナノ粒子を形成した。
図2Dと2Eを参照されたい。
図2Fに示すように、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)ナノ粒子の元のζ電位は、グルコースが存在しない場合は+40 mVであったが、100mg/dLのグルコース溶液では徐々に+22 mVに減少し、400mg/dLグルコース溶液では+8 mVまでさらに減少した。このプロセスの間溶液のpHは7.4に維持されたので、このζ電位の変化は、pHの変化によるものではなく、FPBA部分のグルコース結合に起因するものであることが示唆される。これらの粒子は、グルコース濃度が400mg/dLに達した約5分後に凝集し始めた。いずれの理論にも拘束されないが、この観察は、ナノ粒子間の静電反発力が弱まっているためであると考えられる。対照的に、ポリ(EDAA
0.4-PBA
0.6)ナノ粒子のζ電位はほぼ一定のレベルで維持されていた。
【0092】
実施例6
インビトロインスリン放出
インスリン放出の測定方法:簡単に述べると、インスリン(1mg)が様々に異なる比率で様々に異なるポリマーに積載された複合体を、リン酸緩衝液(PBS)(pH=7.4、1 mL)を含む複数の遠心分離管に分けて、これに様々な量のグルコースを添加して異なる濃度(0、100、200、400mg/dL)を作成した。その後、これらの遠心分離管を37℃でインキュベートし、振動した。一定の時間間隔で、水溶液(50μL)を回収し、遠心分離して上澄み溶液(20μL)を得て、これをクーマシーブルー(200μL)で染色し、595nmにおける吸光度をマルチモードプレートリーダー(Tecan Group Ltd., Mannedorf, スイス)で測定した。インスリン濃度は標準曲線によって較正した。
【0093】
結果:グルコースの変化により複合体からのインスリン放出を評価した。インスリンの放出速度は、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)とインスリンとの重量比を変えることにより調整できる。
図3A~3Dをを参照されたい。すべての複合体について、インスリン放出速度は、0、100又は200mg/dLのグルコース溶液よりも、400mg/dLのグルコース溶液において有意に速かった。さらに、等量のインスリンとポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)から調製された複合体(F-インスリン)は、最も効果的なグルコース依存性インスリン放出動態を示し、400mg/dLグルコースにおいてインスリンの80%以上が3時間で放出された。これは100mg/dLグルコースにおけるインスリン放出よりも約2倍高い。
図3Dを参照されたい。対照的に、N-インスリン及びB-インスリンからのインスリン放出は比較的遅かった。対照として、インスリンを含まないポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)の懸濁液も400mg/dLのグルコース溶液で処理したが、クーマシーブルーと混合した後、上清の吸光度は観察されなかったため、インスリン測定におけるポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)からの潜在的な干渉に関する懸念がなくなった。グルコース応答性インスリン放出をさらに検証するために、インスリンをローダミンB(RhBインスリン)で標識し、ポリ(EDAA
0.4-FPBA
0.6)と複合化した。対照群からの遅いインスリン放出とは対照的に、高血糖状態のF-インスリンから有意に増強されたインスリン放出が実証された(
図3E)。
【0094】
さらに、グルコース濃度が徐々に増加すると(0から400mg/dL)、グルコース溶液中の複合体からのインスリン放出率は着実に増加し、インスリン放出速度の最大4倍の増強が達成され、F-インスリンのグルコース応答速度が超高速であることを示す。
図3Fを参照されたい。グルコース変動に対するこの高速速度は、リアルタイムで血糖値(BGL)を効果的に調整できる可能性を示す。さらに、グルコース濃度が100~400mg/dLの交互のグルコース溶液中で、数サイクルにわたって複合体をインキュベートする際に、インスリンのパルス状の放出プロファイルが達成された。
図3Gを参照されたい。注目すべきことに、F-インスリンの速い応答速度に基づいて、この時間間隔は2分に設定された。一方、複合体から放出されたインスリンとネイティブインスリンの、同じ濃度(0.5mg/mL)における、遠紫外円偏光二色性(CD)スペクトルを比較したところ、これらは近似していることが分かった。これは、放出されたインスリンがαヘリックスの二次構造及び生物活性を維持していることを示す。
【0095】
実施例7
糖尿病のマウスモデルにおけるインビボ研究
ストレプトゾトシン(STZ)で誘発された糖尿病マウスを使用した複合体のグルコース制御研究:複数の糖尿病マウスが異なるグループ(n=5)に分けられ、これらは遊離インスリン若しくはインスリンを搭載した複合体(即ち、F-インスリン;等重量のポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)とインスリン)を種々の投与量(30又は80 IU/kg)で、又は複合体(F-インスリン)とPF-127ゲルの併用を投与量300 IU/kgで、皮下注射された。その血糖値を、Clarity GL2Plusグルコースメーター(Clarity Diagnostics, Boca Raton, Florida, USA)でモニターした。血糖値が安定するまで研究を続けた。PF-127は水溶液中50%の濃度で使用され、複合体はゲルに懸濁された。注射前に、より高い流動性で皮下注射を容易にするために、このゲルを4℃に維持した。50μLの血液を採取して血中インスリン濃度を測定し、血漿を単離し、-20℃で保存し、ヒトインスリンELISAキットを使用して製造元のプロトコル(Invitrogen, Carlsbad, California, USA)に従って測定した。
【0096】
炎症の評価:PF-127ゲルの皮下注射によって引き起こされる炎症は、生体適合性の代用として測定された。背中の毛を取り除いた後、糖尿病のマウスにインスリン複合体(F-インスリン; 300 IU/kg)を積載したPF-127(100μL)を皮下注射した。注射後3又は7日目に、マウスを麻酔し、治療部位の皮膚片を回収して4%ホルムアルデヒドで固定し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色を使用して処理した。その画像を、顕微鏡(オリンパス株式会社)を使用して撮影した。
血漿インスリンレベルの測定:一定時間間隔でマウスの尾静脈から50μLの血液を回収することにより、生体内の血漿インスリンレベルをモニターした。血漿を単離し、評価するまで-20℃で保存した。血漿インスリン濃度を、Human Insulin ELISAキット(Invitrogen, Carlsbad, California, USA)を使用して、製造元のプロトコルに従って、測定した。
統計分析:治療群と対照群の血糖値の差を、対応のないスチューデントt検定を用いて計算した。両側のP値が0.05未満の場合、差は有意であると見なされる。
【0097】
結果:インスリンポリマー複合体のインビボの治療効果を、ストレプトゾトシン(STZ)によって誘発された1型糖尿病マウスモデルで評価した。この糖尿病マウスを、用量80 IU/kgのF-インスリン、B-インスリン、又はネイティブインスリンのいずれか、又は対照としてリン酸緩衝液(PBS)で処理した4つのグループに分けた。すべての治療群の血糖値(BGL)は200mg/dL未満に減少し、複合インスリンの活性の保持を示した。
図4Aを参照されたい。さらに、F-インスリンは血糖値(BGL)を8時間以上正常範囲(<200mg/dL)に維持することが示され、遊離インスリン及びB-インスリンの同3時間よりもはるかに長かった。また、F-インスリンを投与したマウスでは無視できる程度の低血糖しか観察されなかった。
【0098】
次に、F-インスリン複合体による高血糖条件下でのインスリンの優れた放出速度をさらに評価した。F-インスリン注射後約30分で、7500μIU/mLの血中インスリン濃度の急上昇が観察され、これは血糖値(BGL)の急低下と一致する。1.5時間で、血中インスリン濃度は750μIU/mLに急低下し、さらに治療後4時間で22μIU/mLに低下した。これは、低血糖を回避しながら正常血糖を維持するのに十分である。比較として、B-インスリンで治療したマウスの血中インスリンレベルは、注射後30分でフランクピークを示した。これは、主に緩く吸着したインスリンのバースト放出が原因であると考えられる。しかし、血液循環からインスリンが迅速に排除されること(Cresto et al., Acta Physiol. Lat. Am., 1977, 27, 7-15を参照されたい。)及びB-インスリンからのインスリン放出が遅いことから、血漿インスリンの基礎レベルを維持することができなかった。
【0099】
F-インスリンをインスリン投与量80IU/kgで治療した3時間後に、インビボのグルコース応答に関連する腹腔内グルコース負荷試験(IPGTT)を行った。腹腔内グルコース注射後、すべてのグループで血中グルコースのピークが観察された(
図4B)が、健康なマウスとF-インスリン処理マウスは、短期間で正常血糖を再確立した。この試験(IPGTT)は、F-インスリンによる処理の4時間後にも実施され、血糖値(BGL)の急激な上昇が観察された。
図4Cを参照されたい。驚くべきことに、血中インスリンレベルは、時間の経過とともに30μIU/mLから250μIU/mLに急速に増加し(
図4C)、その後徐々に39μIU/mLに減少した。グルコースを考える際に、このような急速なグルコース応答性インスリン放出動態は正常血糖を維持するために有用である。
【0100】
更に、グルコース感受性F-インスリンが血糖値(BGL)を長期にわたって調節する可能性を示すために、グルコース感受性FインスリンがBGLを長期にわたって調節する可能性をさらに示すために、インスリン複合体をその場で形成された吸収性ゲル(PLURONIC(TM)F-127ゲル, BASF Corporation, Florham Park, New Jersey, USA、PF-127)とともに皮下注入した。インスリン投与量を増した(300 IU/kg)同様の実験グループが設定された。すべてのインスリン複合体は血糖値(BGL)に調節効果を示した;F-インスリンは血中グルコースを正常範囲内に調節することが判明し、それは30時間以上続いた。
図4Dを参照されたい。一方、B-インスリンを積載したゲルで処理したマウスの血糖値(BGL)は、投与後の初期にはゆっくりと減少し、全実験プロセス中、軽度の高血糖状態を維持した。これらの結果は、初期状態の速放性インスリンと正常血糖時の徐放性の両方におけるグルコース応答性の重要性を確認するものである。さらに、ヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色結果ltsは、わずかな好中球浸潤がF-インスリン負荷PF-127ゲルの投与後3日目に観察されたが、7日目までに治癒したことを示した。ヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色の結果によれば、F-インスリン積載PF-127ゲルの投与後3日目にわずかな好中球浸潤が観察されたが、それは7日目までに治った。
【0101】
以上をまとめると、電荷切り替え駆動メカニズムに基づいて、超高速インスリン放出動態を備えた皮下注射可能なグルコース応答性インスリン-ポリマー複合体が開発された。簡単で高積載(高負荷)効率プロセスによって作られたこの複合体は、グルコースなしでpH 7.4のリン酸緩衝液(PBS)中で安定であり、通常のグルコースレベルでは基底のインスリンを放出するが、高血糖状態では即座にインスリンを放出した。頭頂間溝のグルコース注射後に、インビボのグルコース応答性インスリンの迅速な放出が示された。さらに、ゲルマトリックスの同時注入により、血糖値(BGL)の持続的な長期制御を実現することができる。さらに、この方法は、特定の生理学的合図に高速で応答する生体応答性薬物送達のための幅広いプラットフォームを提供する。
【0102】
実施例8
糖尿病のミニブタモデルにおけるインビボ研究
ストレプトゾトシン(STZ)で誘発された糖尿病ミニブタを使用した複合体のグルコース制御研究:ゲッティンゲンミニブタ(生後6ヶ月)にストレプトゾトシン(STZ、150mg/kg)を注射して、糖尿病ミニブタモデルを確立した。3匹の糖尿病ブタを、遊離インスリン(1 IU/kg)の皮下注射で処理し、別の3匹の糖尿病ブタを、複合インスリン(即ち、インスリンと等重量のポリ(EDAA0.4-FPBA0.6)、F-インスリン)の皮下注射で処理した(用量1 IU/kg)。すべてのブタは処理前に一晩絶食した。処理中は通常2食が提供された。6頭のブタすべての血糖値を、連続グルコースモニタリング法(Dexcom G4(R) continuous glucose monitor; Dexcom, San Diego, California, USA)を使用して継続的にモニタ-した。
【0103】
糖尿病ブタの経口グルコース負荷試験:3匹の糖尿病ブタを、一晩の絶食後に、遊離インスリン又は複合体(即ち、F-インスリン)の2用量(1 IU/kg)の皮下注射で処理し、処理の4時間後にグルコース(0.5 g/kg)が与えられた。血中グルコースレベルを、連続グルコースモニタリング法(Dexcom G4(R) continuous glucose monitor; Dexcom, San Diego, California, USA)を使用して継続的にモニタ-した。
結果:糖尿病マウスで得られた結果と同様に、F-インスリンは、遊離インスリンと比較して、1型糖尿病ブタで長期の血糖値(BGL)調節効果を示した。
図5Aを参照されたい。更に、インスリン用量1 IU/kgで経口グルコース負荷試験を実施した。ブタをインスリン相当量1 IU/kgの複合体で処理した場合、2時間以内にすべてのグループでグルコースの急激な上昇が現れ、複合体で処理したグループとインスリンで処理したグループの間に差は観察されなかった。
図5Bを参照されたい。しかし、その後の午後の食事(グルコースの経口投与の2時間後)では、遊離インスリンで処理したブタの血糖値(BGL)が急激に増加したが、複合体で処理したミニブタでは血糖値(BGL)の比較的遅い増加しか観察されなかった。
【0104】
本発明の様々な詳細は、本発明の範囲から逸脱することなく変更されることができることは理解されよう。さらに、上記の説明は、例示のみを目的としたものであり、限定を目的としたものではない。