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特許7479302ヘミアスタリン誘導体とその抗体薬物複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】ヘミアスタリン誘導体とその抗体薬物複合体
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/065 20060101AFI20240426BHJP
   C07K 5/078 20060101ALI20240426BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240426BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20240426BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240426BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20240426BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240426BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240426BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240426BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240426BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
C07K5/065
C07K5/078
C07K16/18
A61K38/05
A61K45/00
A61K38/21
A61K39/395 T
A61K39/395 L
A61K47/68
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020572264
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005291
(87)【国際公開番号】W WO2020166592
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019023961
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】坂 仁志
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 篤志
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-516063(JP,A)
【文献】特表2007-537136(JP,A)
【文献】特表2012-522513(JP,A)
【文献】特表2011-500725(JP,A)
【文献】特表2017-508741(JP,A)
【文献】国際公開第2014/057436(WO,A2)
【文献】特表2005-508877(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031614(WO,A1)
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2004年,Vol.47, No.19,p.4774-4786
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 5/00-19/00
A61K 38/06
A61K 45/00
A61K 38/21
A61K 39/395
A61K 47/68
A61P 35/00
A61P 35/02
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

[式中、
は、水素原子又はスルホニル基を表し、
Zは、式(Z-2)又は式(Z-3):
【化2】

(式中、
Wは、式(W-1):
【化3】

(式中、
Qは、式(Q-1)又は式(Q-2):
【化4】

で表される基を表す)
で表される基を表す
で表される基を表す]
で表される、化合物又はその塩。
【請求項2】
が、水素原子である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
以下の化合物から選択される、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【化5】
【請求項4】
式(2):
【化6】

[式中、
mAbは、抗体を表し、
qは、1~30の整数を表し、
Zは、式(Z-2)又は式(Z-3):
【化7】

(式中、
Wは、式(W-1):
【化8】

(式中、
Qは、式(Q-1)又は式(Q-2):
【化9】

で表される基を表す)
で表される基を表す
で表される基を表す]
で表される、抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【請求項5】
mAbが、ブレンツキシマブ、トラスツズマブ、イノツズマブ、ゲムツズマブ、グレムバツムマブ、ラベツズマブ、サシツズマブ、リファスツズマブ、インデュサツマブ、ポラツズマブ、ピナツズマブ、コルツキシマブ、インダツキシマブ、ミラツズマブ、ロバルピツズマブ、アネツマブ、チソツマブ、ロルボツズマブ(lorvotuzumab)、リツキシマブ、デパツキシズマブ、デニンツズマブ、エンホルツマブ、テルソツズマブ、バンドルツズマブ、ソフィツズマブ、ボルセツズマブ、ミルベツキシマブ(mirvetuximab)、ナラツキシマブ、カンツズマブ、ラプリツキシマブ、ビバツズマブ、バダスツキシマブ、ルパルツマブ、アプルツマブ、アバゴボマブ、アブシキシマブ、アビツズマブ、アブリルマブ、アクトクスマブ、アダリブマブ、アデカツムマブ、アデュカヌマブ、アファセビクマブ、アフェリモマブ、アラシズマブ、アレムツズマブ、アリロクマブ、アルツモマブ、アマツキシマブ、アナツモマブ、アニフロルマブ、アンルキンズマブ、アポリズマブ、アルシツモマブ、アスクリンバクマブ、アセリズマブ、アテゾリズマブ、アチヌマブ、アトロリムマブ、アベルマブ、アジンツキシズマブ、バピネズマブ、バシリキシマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベゲロマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベルチリムマブ、ベシレソマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ビシロマブ、ビマグルマブ、ビメキズマブ、ブレセルマブ、ブリナツモマブ、ブロンツベトマブ、ブロソズマブ、ボコシズマブ、ブラジクマブ、ブリアキヌマブ、ブロダルマブ、ブロルシズマブ、ブロンチクツズマブ、ブロスマブ、カビラリズマブ、カムレリズマブ、カプラシズマブ、カプロマブ、カルルマブ、カロツキシマブ、カツマクソマブ、セデリズマブ、セルトリズマブ、セツキシマブ、シタツズマブ、シキスツムマブ、クレノリキシマブ、クリバツズマブ、コドリツズマブ、コナツムマブ、コンシズマブ、コスフロビキシマブ、クレネズマブ、クリザンリズマブ、クロテデュマブ、ダセツズマブ、ダクリズマブ、ダロツズマブ、ダピロリズマブ、ダラツムマブ、デクトレクマブ、デムシズマブ、デノスマブ、デツモマブ、デザミズマブ、ジヌツキシマブ、ジリダブマブ、ドマグロズマブ、ドルリモマブ、ドロジツマブ、デュリゴツズマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、デュシギツマブ、デュボルツキシズマブ、エクロメキシマブ、エクリズマブ、エドバコマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エフングマブ、エルデルマブ、エレザヌマブ、エロツズマブ、エルシリモマブ、エマクツズマブ、エマパルマブ、エミベツズマブ、エミシズマブ、エナバツズマブ、エンリモマブ、エノブリツズマブ、エノキズマブ、エノチクマブ、エンシツキシマブ、エピツモマブ、エプラツズマブ、エプチネズマブ、エレヌマブ、エルリズマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、エトロリズマブ、エビナクマブ、エボロクマブ、エクスビビルマブ、ファラリモマブ、ファルレツズマブ、ファシヌマブ、フェルビズマブ、フェザキヌマブ、フィクラツズマブ、フィギツムマブ、フィリブマブ、フランボツマブ、フレチクマブ、フォントリズマブ、フォラルマブ、フォラビルマブ、フレマネズマブ、フレソリムマブ、フルネベトマブ、フルラヌマブ、フツキシマブ、ガルカネズマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ガンテネルマブ、ガチポツズマブ、ガビリモマブ、ゲディブマブ、ゲボキズマブ、ギルベトマブ、ギレンツキシマブ、ゴリムマブ、グセルクマブ、イバリズマブ、イブリツモマブ、イクルクマブ、イダルシズマブ、イファボツズマブ、イゴボマブ、イマルマブ、イムシロマブ、イムガツズマブ、インクラクマブ、イネビリズマブ、インフリキシマブ、イノリモマブ、インテツムマブ、イピリムマブ、イラツムマブ、イサツキシマブ、イトリズマブ、イキセキズマブ、ケリキシマブ、ラクノツズマブ、ランパリズマブ、ラナデルマブ、ランドグロズマブ、ラルカビキシマブ、レブリキズマブ、レマレソマブ、レンジルマブ、レルデリムマブ、レソファブマブ、レトリズマブ、レキサツムマブ、リビビルマブ、リファツズマブ、リゲリズマブ、リロトマブ、リンツズマブ、リリルマブ、ロデルシズマブ、ロキベトマブ、ルカツムマブ、ルリズマブ、ルムレツズマブ、ルチキズマブ、マパツムマブ、マルゲツキシマブ、マサリモマブ、マツズマブ、マブリリムマブ、メポリズマブ、メテリムマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モドツキシマブ、モガムリズマブ、モナリズマブ、モロリムマブ、モタビズマブ、モキセツモマブ、ムロモナブ、ナコロマブ、ナミルマブ、ナプツモマブ、ナルナツマブ、ナタリズマブ、ナビシキシズマブ、ナビブマブ、ネバクマブ、ネシツムマブ、ネモリズマブ、ネレリモマブ、ネスバクマブ、ニモツズマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オカラツズマブ、オクレリズマブ、オデュリモマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オレクルマブ、オレンダリズマブ、オロキズマブ、オマリズマブ、オナルツズマブ、オンツキシズマブ、オピシヌマブ、オポルツズマブ、オレゴボマブ、オルチクマブ(orticumab)、オテリキシズマブ、オトレルツズマブ、オキセルマブ、オザネズマブ、オゾラリズマブ、パギバキシマブ、パリビズマブ、パムレブルマブ、パニツムマブ、パノバクマブ、パルサツズマブ、パスコリズマブ、パソツキシズマブ、パテクリズマブ、パトリツマブ、ペンブロリズマブ、ペラキズマブ、ペルツズマブ、ペキセリズマブ、ピディリズマブ、プラクルマブ、プロザリズマブ、ポネズマブ、ポルガビキシマブ、プレザルマブ、プリリキシマブ、プリトキサキシマブ、プリツムマブ、クイリズマブ、ラコツモマブ、ラドレツマブ、ラフィビルマブ、ラルパンシズマブ、ラムシルマブ、ラネベトマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レファネズマブ、レガビルマブ、レムトルマブ、レスリズマブ、リロツムマブ、リヌクマブ、リサンキズマブ、リババズマブ、ロバツムマブ、ロレデュマブ、ロモソズマブ、ロンタリズマブ、ロスマンツズマブ、ロベリズマブ、ロザノリキシズマブ、ルプリズマブ、サマリズマブ、サリルマブ、サトラリズマブ、サツモマブ、セクキヌマブ、セリクレルマブ、セリバンツマブ、セトキサキシマブ、セビルマブ、シブロツズマブ、シファリムマブ、シルツキシマブ、シムツズマブ、シプリズマブ、シルクマブ、ソラネズマブ、ソリトマブ、ソンツズマブ、スタムルマブ、スレソマブ、スプタブマブ、スビズマブ、スブラトクスマブ、タバルマブ、タドシズマブ、タリズマブ、タムツベトマブ、タネズマブ、タプリツモマブ、タレクスツマブ、タボリキシズマブ、ファノレソマブ、ノフェツモマブ、ピンツモマブ、テフィバズマブ、テリモマブ、テリソツズマブ、テナツモマブ、テネリキシマブ、テプリズマブ、テプロツムマブ、テシドルマブ、テゼペルマブ、ティガツズマブ、ティルドラキズマブ、チミグツズマブ、チモルマブ、トシリズマブ、トムゾツキシマブ、トラリズマブ、トサトクスマブ、トシツモマブ、トベツマブ、トラロキヌマブ、トレガリズマブ、トレメリムマブ、トレボグルマブ、ツコツズマブ、ツビルマブ、ウブリツキシマブ、ウロクプルマブ、ウレルマブ、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ、ウトミルマブ、バンチクツマブ、バヌシズマブ、バパリキシマブ、バリサクマブ、バルリルマブ、バテリズマブ、ベドリズマブ、べルツズマブ、ベパリモマブ、ベセンクマブ、ビシリズマブ、ボバリリズマブ、ボロシキシマブ、ボンレロリズマブ、ボツムマブ、ブナキズマブ、タカツズマブ、ザルツムマブ、ザノリムマブ、ジラリムマブ、ゾリモマブ、カミダンルマブ、コフェツズマブ、ラジラツズマブ、ロンカスツキシマブ、テリソツズマブ、エナポタマブ、AMG595の抗体又は抗エンビジン抗体である、請求項4に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【請求項6】
mAbが、ブレンツキシマブである、請求項4に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【請求項7】
qが1~20の整数である、請求項4~6のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【請求項8】
qが1~10の整数である、請求項4~6のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【請求項9】
請求項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩を含有する、医薬組成物。
【請求項10】
請求項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩と、
抗がん性アルキル化剤、抗がん性代謝拮抗剤、抗がん性抗生物質、抗がん性白金配位化合物、抗がん性カンプトテシン誘導体、抗がん性チロシンキナーゼ阻害剤、抗がん性セリンスレオニンキナーゼ阻害剤、抗がん性リン脂質キナーゼ阻害剤、抗がん性モノクローナル抗体、インターフェロン、生物学的応答調節剤、ホルモン剤、免疫チェックポイント阻害剤、エピジェネティクス関連分子阻害剤、及びタンパク質翻訳後修飾阻害剤からなる群より選択される1種以上の抗がん性化合物又はその製薬学的に許容される塩と、を含む医薬組成物。
【請求項11】
抗がん性アルキル化剤、抗がん性代謝拮抗剤、抗がん性抗生物質、抗がん性白金配位化合物、抗がん性カンプトテシン誘導体、抗がん性チロシンキナーゼ阻害剤、抗がん性セリンスレオニンキナーゼ阻害剤、抗がん性リン脂質キナーゼ阻害剤、抗がん性モノクローナル抗体、インターフェロン、生物学的応答調節剤、ホルモン剤、免疫チェックポイント阻害剤、エピジェネティクス関連分子阻害剤、及びタンパク質翻訳後修飾阻害剤からなる群より選択される1種以上の抗がん性化合物又はその製薬学的に許容される塩と併用してがんを治療するための、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
乳がん、胃がん、肺がん、肝臓がん、子宮頸がん、大腸がん、直腸がん、結腸がん、神経膠腫、リンパ腫、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎がん、尿路上皮がん、皮膚がん、甲状腺がん、膀胱がん、頭頸部がん、子宮体がん、中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫及び白血病からなる群より選択されるがんの治療に用いられる、請求項9~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩を含有する、抗がん剤。
【請求項14】
がんが、乳がん、胃がん、肺がん、肝臓がん、子宮頸がん、大腸がん、直腸がん、結腸がん、神経膠腫、リンパ腫、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎がん、尿路上皮がん、皮膚がん、甲状腺がん、膀胱がん、頭頸部がん、子宮体がん、中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫又は白血病である、請求項13に記載の抗がん剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘミアスタリン誘導体とその抗体薬物複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘミアスタリンは、海綿から単離される、トリペプチド構造を有する天然化合物であり、細胞中での微小管脱重合及び有糸分裂停止に関与している(非特許文献1)。
【0003】
これまでに、いくつかのグループが、ヘミアスタリン誘導体の構造修飾を行い、がん等の疾患の治療のために、強力な細胞毒性及び抗有糸分裂作用を示すヘミアスタリン誘導体を見いだしてきた(特許文献1~5、非特許文献2~5)。しかし、これらのヘミアスタリン誘導体は、標的指向性がないため全身に送達され、正常細胞に対しても細胞毒性を示し、副作用を示すことが報告されている(非特許文献6)。
【0004】
抗体薬物複合体は、抗体と薬物を直接的に、又は適切なリンカーを介して、結合させた複合体である。そして、抗体薬物複合体は、標的細胞に発現している抗原に結合する抗体を介して薬物を標的細胞へ送達することにより、薬物の全身曝露を抑え、標的細胞への薬効を高める特徴を持つ。
【0005】
また、これまでに、いくつかのグループが、マレイミド基を有するヘミアスタリン誘導体と抗体等のシステイン残基とでチオスクシンイミドを形成した複合体を報告している(特許文献4、6~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2004/026293号
【文献】国際公開第96/33211号
【文献】米国特許第7579323号
【文献】国際公開第2014/144871号
【文献】国際公開第2003/082268号
【文献】国際公開第2015/095952号
【文献】国際公開第2015/095953号
【文献】国際公開第2014/057436号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Talpir,R. et al.,Tetrahedron Lett.,1994,35,4453-4456.
【文献】Zask,A. et. al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,2004,14,4353-4358.
【文献】Zask,A. et. al.,J.Med.Chem.,2004,47,4774-4786.
【文献】Yamashita,A. et. al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,2004,14,5317-5322.
【文献】Nieman, J. A. et. al.,J,Nat.Prod.,2003,66,183-199.
【文献】Rocha-Lima,C.M. et. al.,Cancer,2012,118,4262-4270.
【文献】Doronina,S.O. et. al.,Bioconjugate Chem.,2006,17,114-124.
【文献】Erickson,H.K. et. al.,Cancer Res.,2006,66,4426-4433.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、標的細胞に対して特異的に細胞傷害を与える一方で、正常細胞への細胞毒性は抑えらえたヘミアスタリン誘導体の抗体薬物複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、ヘミアスタリン誘導体と抗体とで形成した式(2)で表される抗体薬物複合体が、強い抗腫瘍活性を有し、かつ、正常細胞への細胞毒性が弱いこと、及び式(1)で表されるヘミアスタリン誘導体が式(2)で表される抗体薬物複合体の合成中間体として有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[項1]
式(1):
【化1】
[式中、
は、水素原子又はスルホニル基を表し、
Zは、式(Z-1)、式(Z-2)又は式(Z-3):
【化2】
(式中、
Wは、式(W-1):
【化3】
(式中、
Qは、式(Q-1)又は式(Q-2):
【化4】
で表される基を表す)
で表される基を表し、
は、-(CH-COOHを表し、
uは1又は2を表す)
で表される基を表す]
で表される、化合物又はその塩。
【0011】
[項2]
が、水素原子である、項1に記載の化合物又はその塩。
【0012】
[項3]
以下の化合物から選択される、項1に記載の化合物又はその塩。
【化5】
【0013】
[項4]
式(2):
【化6】
[式中、
mAbは、抗体を表し、
qは、1~30の整数を表し、
Zは、式(Z-1)、式(Z-2)又は式(Z-3):
【化7】
(式中、
Wは、式(W-1):
【化8】
(式中、
Qは、式(Q-1)又は式(Q-2):
【化9】
で表される基を表す)
で表される基を表し、
は、-(CH-COOHを表し、
uは1又は2を表す)
で表される基を表す]
で表される、抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0014】
[項5]
mAbが、ブレンツキシマブ、トラスツズマブ、イノツズマブ、ゲムツズマブ、グレムバツムマブ、ラベツズマブ、サシツズマブ、リファスツズマブ、インデュサツマブ、ポラツズマブ、ピナツズマブ、コルツキシマブ、インダツキシマブ、ミラツズマブ、ロバルピツズマブ、アネツマブ、チソツマブ、ロルボツズマブ(lorvotuzumab)、リツキシマブ、デパツキシズマブ、デニンツズマブ、エンホルツマブ、テルソツズマブ、バンドルツズマブ、ソフィツズマブ、ボルセツズマブ、ミルベツキシマブ(mirvetuximab)、ナラツキシマブ、カンツズマブ、ラプリツキシマブ、ビバツズマブ、バダスツキシマブ、ルパルツマブ、アプルツマブ、アバゴボマブ、アブシキシマブ、アビツズマブ、アブリルマブ、アクトクスマブ、アダリブマブ、アデカツムマブ、アデュカヌマブ、アファセビクマブ、アフェリモマブ、アラシズマブ、アレムツズマブ、アリロクマブ、アルツモマブ、アマツキシマブ、アナツモマブ、アニフロルマブ、アンルキンズマブ、アポリズマブ、アルシツモマブ、アスクリンバクマブ、アセリズマブ、アテゾリズマブ、アチヌマブ、アトロリムマブ、アベルマブ、アジンツキシズマブ、バピネズマブ、バシリキシマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベゲロマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベルチリムマブ、ベシレソマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ビシロマブ、ビマグルマブ、ビメキズマブ、ブレセルマブ、ブリナツモマブ、ブロンツベトマブ、ブロソズマブ、ボコシズマブ、ブラジクマブ、ブリアキヌマブ、ブロダルマブ、ブロルシズマブ、ブロンチクツズマブ、ブロスマブ、カビラリズマブ、カムレリズマブ、カプラシズマブ、カプロマブ、カルルマブ、カロツキシマブ、カツマクソマブ、セデリズマブ、セルトリズマブ、セツキシマブ、シタツズマブ、シキスツムマブ、クレノリキシマブ、クリバツズマブ、コドリツズマブ、コナツムマブ、コンシズマブ、コスフロビキシマブ、クレネズマブ、クリザンリズマブ、クロテデュマブ、ダセツズマブ、ダクリズマブ、ダロツズマブ、ダピロリズマブ、ダラツムマブ、デクトレクマブ、デムシズマブ、デノスマブ、デツモマブ、デザミズマブ、ジヌツキシマブ、ジリダブマブ、ドマグロズマブ、ドルリモマブ、ドロジツマブ、デュリゴツズマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、デュシギツマブ、デュボルツキシズマブ、エクロメキシマブ、エクリズマブ、エドバコマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エフングマブ、エルデルマブ、エレザヌマブ、エロツズマブ、エルシリモマブ、エマクツズマブ、エマパルマブ、エミベツズマブ、エミシズマブ、エナバツズマブ、エンリモマブ、エノブリツズマブ、エノキズマブ、エノチクマブ、エンシツキシマブ、エピツモマブ、エプラツズマブ、エプチネズマブ、エレヌマブ、エルリズマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、エトロリズマブ、エビナクマブ、エボロクマブ、エクスビビルマブ、ファラリモマブ、ファルレツズマブ、ファシヌマブ、フェルビズマブ、フェザキヌマブ、フィクラツズマブ、フィギツムマブ、フィリブマブ、フランボツマブ、フレチクマブ、フォントリズマブ、フォラルマブ、フォラビルマブ、フレマネズマブ、フレソリムマブ、フルネベトマブ、フルラヌマブ、フツキシマブ、ガルカネズマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ガンテネルマブ、ガチポツズマブ、ガビリモマブ、ゲディブマブ、ゲボキズマブ、ギルベトマブ、ギレンツキシマブ、ゴリムマブ、グセルクマブ、イバリズマブ、イブリツモマブ、イクルクマブ、イダルシズマブ、イファボツズマブ、イゴボマブ、イマルマブ、イムシロマブ、イムガツズマブ、インクラクマブ、イネビリズマブ、インフリキシマブ、イノリモマブ、インテツムマブ、イピリムマブ、イラツムマブ、イサツキシマブ、イトリズマブ、イキセキズマブ、ケリキシマブ、ラクノツズマブ、ランパリズマブ、ラナデルマブ、ランドグロズマブ、ラルカビキシマブ、レブリキズマブ、レマレソマブ、レンジルマブ、レルデリムマブ、レソファブマブ、レトリズマブ、レキサツムマブ、リビビルマブ、リファツズマブ、リゲリズマブ、リロトマブ、リンツズマブ、リリルマブ、ロデルシズマブ、ロキベトマブ、、、ルカツムマブ、ルリズマブ、ルムレツズマブ、ルチキズマブ、マパツムマブ、マルゲツキシマブ、マサリモマブ、マツズマブ、マブリリムマブ、メポリズマブ、メテリムマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モドツキシマブ、モガムリズマブ、モナリズマブ、モロリムマブ、モタビズマブ、モキセツモマブ、ムロモナブ、ナコロマブ、ナミルマブ、ナプツモマブ、ナルナツマブ、ナタリズマブ、ナビシキシズマブ、ナビブマブ、ネバクマブ、ネシツムマブ、ネモリズマブ、ネレリモマブ、ネスバクマブ、ニモツズマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オカラツズマブ、オクレリズマブ、オデュリモマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オレクルマブ、オレンダリズマブ、オロキズマブ、オマリズマブ、オナルツズマブ、オンツキシズマブ、オピシヌマブ、オポルツズマブ、オレゴボマブ、オルチクマブ(orticumab)、オテリキシズマブ、オトレルツズマブ、オキセルマブ、オザネズマブ、オゾラリズマブ、パギバキシマブ、パリビズマブ、パムレブルマブ、パニツムマブ、パノバクマブ、パルサツズマブ、パスコリズマブ、パソツキシズマブ、パテクリズマブ、パトリツマブ、ペンブロリズマブ、ペラキズマブ、ペルツズマブ、ペキセリズマブ、ピディリズマブ、プラクルマブ、プロザリズマブ、ポネズマブ、ポルガビキシマブ、プレザルマブ、プリリキシマブ、プリトキサキシマブ、プリツムマブ、クイリズマブ、ラコツモマブ、ラドレツマブ、ラフィビルマブ、ラルパンシズマブ、ラムシルマブ、ラネベトマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レファネズマブ、レガビルマブ、レムトルマブ、レスリズマブ、リロツムマブ、リヌクマブ、リサンキズマブ、リババズマブ、ロバツムマブ、ロレデュマブ、ロモソズマブ、ロンタリズマブ、ロスマンツズマブ、ロベリズマブ、ロザノリキシズマブ、ルプリズマブ、サマリズマブ、サリルマブ、サトラリズマブ、サツモマブ、セクキヌマブ、セリクレルマブ、セリバンツマブ、セトキサキシマブ、セビルマブ、シブロツズマブ、シファリムマブ、シルツキシマブ、シムツズマブ、シプリズマブ、シルクマブ、ソラネズマブ、ソリトマブ、ソンツズマブ、スタムルマブ、スレソマブ、スプタブマブ、スビズマブ、スブラトクスマブ、タバルマブ、タドシズマブ、タリズマブ、タムツベトマブ、タネズマブ、タプリツモマブ、タレクスツマブ、タボリキシズマブ、ファノレソマブ、ノフェツモマブ、ピンツモマブ、テフィバズマブ、テリモマブ、テリソツズマブ、テナツモマブ、テネリキシマブ、テプリズマブ、テプロツムマブ、テシドルマブ、テゼペルマブ、ティガツズマブ、ティルドラキズマブ、チミグツズマブ、チモルマブ、トシリズマブ、トムゾツキシマブ、トラリズマブ、トサトクスマブ、トシツモマブ、トベツマブ、トラロキヌマブ、トレガリズマブ、トレメリムマブ、トレボグルマブ、ツコツズマブ、ツビルマブ、ウブリツキシマブ、ウロクプルマブ、ウレルマブ、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ、ウトミルマブ、バンチクツマブ、バヌシズマブ、バパリキシマブ、バリサクマブ、バルリルマブ、バテリズマブ、ベドリズマブ、べルツズマブ、ベパリモマブ、ベセンクマブ、ビシリズマブ、ボバリリズマブ、ボロシキシマブ、ボンレロリズマブ、ボツムマブ、ブナキズマブ、タカツズマブ、ザルツムマブ、ザノリムマブ、ジラリムマブ、ゾリモマブ、カミダンルマブ、コフェツズマブ、ラジラツズマブ、ロンカスツキシマブ、テリソツズマブ、エナポタマブ、AMG595の抗体又は抗エンビジン抗体である、項4に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0015】
[項6]
mAbが、ブレンツキシマブである、項4に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0016】
[項7]
qが1~20の整数である、項4~6のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0017】
[項8]
qが1~10の整数である、項4~6のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0018】
[項9]
項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩を含有する、医薬組成物。
【0019】
[項10]
項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩と、
抗がん性アルキル化剤、抗がん性代謝拮抗剤、抗がん性抗生物質、抗がん性白金配位化合物、抗がん性カンプトテシン誘導体、抗がん性チロシンキナーゼ阻害剤、抗がん性セリンスレオニンキナーゼ阻害剤、抗がん性リン脂質キナーゼ阻害剤、抗がん性モノクローナル抗体、インターフェロン、生物学的応答調節剤、ホルモン剤、免疫チェックポイント阻害剤、エピジェネティクス関連分子阻害剤、及びタンパク質翻訳後修飾阻害剤からなる群より選択される1種以上の抗がん性化合物又はその製薬学的に許容される塩と、を含む医薬組成物。
【0020】
[項11]
項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩を含有する、抗がん剤。
【0021】
[項12]
がんが、乳がん、胃がん、肺がん、肝臓がん、子宮頸がん、大腸がん、直腸がん、結腸がん、神経膠腫、リンパ腫、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎がん、尿路上皮がん、皮膚がん、甲状腺がん、膀胱がん、頭頸部がん、子宮体がん、中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫又は白血病である、項11に記載の抗がん剤。
【0022】
[項13]
治療が必要な患者に、項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩を投与することを含む、がんの治療方法。
【0023】
[項14]
抗がん剤を製造するための、項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩の使用。
【0024】
[項15]
抗がん剤を製造するための、項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩の使用。
【0025】
[項16]
がんの治療に使用するための、項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0026】
[項17]
抗がん性アルキル化剤、抗がん性代謝拮抗剤、抗がん性抗生物質、抗がん性白金配位化合物、抗がん性カンプトテシン誘導体、抗がん性チロシンキナーゼ阻害剤、抗がん性セリンスレオニンキナーゼ阻害剤、抗がん性リン脂質キナーゼ阻害剤、抗がん性モノクローナル抗体、インターフェロン、生物学的応答調節剤、ホルモン剤、免疫チェックポイント阻害剤、エピジェネティクス関連分子阻害剤、及びタンパク質翻訳後修飾阻害剤からなる群より選択される1種以上の抗がん性化合物又はその製薬学的に許容される塩と併用してがんを治療するための、項4~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0027】
本発明のヘミアスタリン誘導体と抗体とで形成した抗体薬物複合体は、抗原発現細胞に対して特異的に細胞傷害活性を示し、抗原発現細胞以外の正常細胞での細胞毒性が低いため、安全性に優れた抗がん剤と成り得る。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において、「アルキル基」とは、直鎖状、分枝鎖状又は環状の飽和炭化水素基を意味する。「アルキル基」として、好ましくは炭素原子数が1~6の飽和炭化水素基が挙げられる。「アルキル基」の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、1、1-ジメチルエチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、ペンチル基、3-メチルブチル基、2-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書において、「アルコキシ基」とは、「アルキル基」によって置換されたオキシ基を意味する。「アルコキシ基」として、好ましくは炭素原子数が1~6の飽和炭化水素によって置換されたオキシ基が挙げられる。「アルコキシ基」の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、1-メチルエトキシ基、ブトキシ基、1,1-ジメチルエトキシ基、1-メチルプロポキシ基、2-メチルプロポキシ基、ペンチロキシ基、3-メチルブトキシ基、2-メチルブトキシ基、2,2-ジメチルプロポキシ基、1-エチルプロポキシ基、1,1-ジメチルプロポキシ基、ヘキシロキシ基、4-メチルペンチロキシ基、3-メチルペンチロキシ基、2-メチルペンチロキシ基、1-メチルペンチロキシ基、3,3-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、1,2-ジメチルブトキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチロキシ基、シクロヘキシロキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書において、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。好ましくはフッ素原子又は塩素原子が挙げられ、より好ましくはフッ素原子が挙げられる。
【0031】
本明細書において、水素原子は1Hであっても、2H(D)であってもよい。すなわち、例えば、式(1)で表される化合物の1つ又は2つ以上の1Hを2H(D)に変換した重水素変換体も、式(1)で表される化合物に包含される。
【0032】
式(1)で表される化合物及びその塩(以下、「本発明のヘミアスタリン誘導体」と称することもある。)は、以下のとおりである。
【化10】
【0033】
式中、Rは、水素原子又はスルホニル基を表し、好ましくは水素原子である。
【0034】
式中、Zは、式(Z-1)、式(Z-2)又は式(Z-3):
【化11】
で表される基を表す。式(Z-1)において置換基Rが結合する炭素原子並びに式(Z-2)及び式(Z-3)においてカルボキシル基(-COOH)が結合する炭素原子の立体配置はS体であってもR体であってもよい。
【0035】
式(Z-1)において、Rは、-(CH-COOHを表す。ここで、uは、1又は2の整数である。uの1態様としては1が挙げられ、別の1態様としては2が挙げられる。
【0036】
式(Z-1)、式(Z-2)又は式(Z-3)において、Wは、式(W-1):
【化12】
で表される基を表す。
【0037】
式(W-1)において、Qは、式(Q-1)又は式(Q-2):
【化13】
で表される基を表す。Qの1態様としては、式(Q-1)で表される基が挙げられ、別の1態様としては、式(Q-2)で表される基が挙げられる。
【0038】
本発明のヘミアスタリン誘導体の1つの態様としては、以下の(1-A)が挙げられる。
(1-A)
式(1)において、
が、水素原子であり、
Zが、式(Z-1)、式(Z-2)又は式(Z-3)で表される基であり、
が、-(CH-COOHであり、
uが、1又は2の整数であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-1)で表される基である、
化合物又はその塩。
【0039】
本発明のヘミアスタリン誘導体の1つの態様としては、以下の(1-B)が挙げられる。
(1-B)
式(1)において、
が、水素原子であり、
Zが、式(Z-1)、式(Z-2)又は式(Z-3)で表される基であり、
が、-(CH-COOHであり、
uが、1又は2の整数であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-2)で表される基である、
化合物又はその塩。
【0040】
本発明のヘミアスタリン誘導体の1つの態様としては、以下の(1-C)が挙げられる。
(1-C)
式(1)において、
が、水素原子であり、
Zが、式(Z-1)で表される基であり、
が、-(CH-COOHであり、
uが、1又は2の整数であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-1)又は式(Q-2)で表される基である、
化合物又はその塩。
【0041】
本発明のヘミアスタリン誘導体の1つの態様としては、以下の(1-D)が挙げられる。
(1-D)
式(1)において、
が、水素原子であり、
Zが、式(Z-2)で表される基であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-1)又は式(Q-2)で表される基である、
化合物又はその塩。
【0042】
本発明のヘミアスタリン誘導体の1つの態様としては、以下の(1-E)が挙げられる。
(1-E)
式(1)において、
が、水素原子であり、
Zが、式(Z-3)で表される基であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-1)又は式(Q-2)で表される基である、
化合物又はその塩。
【0043】
式(2)で表される抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩(以下、「本発明の抗体薬物複合体」と称することもある。)は、下に示すように、抗体分子由来の抗体部分と薬物分子由来の薬物部分が、リンカーを介して共有結合している複合体である。本明細書において、「抗体薬物複合体」を「ADC」という場合もある。
【化14】
【0044】
薬物部分の「Z」は、式(1)におけるZと同義である。
【0045】
qは、抗体薬物複合体分子における、薬物抗体比(Drug Antibody Ratio、又はDARともいう。)を示す。薬物抗体比qは、抗体薬物複合体1分子において、抗体分子1つ当たりの、すなわち、抗体薬物複合体1分子当たりの、薬物分子の数を意味する。なお、化学合成により得られる抗体薬物複合体は、異なる薬物抗体比qを有し得る複数の抗体薬物複合体分子の混合物である場合が多い。本明細書において、このような抗体薬物複合体の混合物における全体の薬物抗体比(すなわち、それぞれの抗体薬物複合体の薬物抗体比qの平均値)を、「平均薬物抗体比」又は「平均DAR」と呼ぶ。
【0046】
qは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30である。qの1態様としては、1~10の整数が挙げられ、別の1態様としては、11~20の整数が挙げられ、別の1態様としては、21~30の整数が挙げられ、別の1態様としては、1~8の整数が挙げられ、別の1態様としては、1~6の整数が挙げられ、別の1態様としては、1~4の整数が挙げられる。
【0047】
平均DARの1態様としては、1~30が挙げられ、別の1態様としては、1~10が挙げられ、別の1態様としては、21~30が挙げられ、別の1態様としては、21~30が挙げられる。別の1態様としては、1~8、1~2、2~3、3~4、4~5、6~7、7~8、8~9、9~10、5~15、15~25が挙げられる。平均DARは、紫外可視近赤外分光法、SDS-PAGE、質量分析、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)等の、平均DARの決定に通常用いられる方法によって決定することができる。疎水性相互作用カラムクロマトフィー(HIC)HPLC、逆相HPLC、電気泳動等の方法により、異なるDARを有する複数の抗体薬物複合体の混合物から、特定のDARの抗体薬物複合体の分離、精製及び特性決定を行うことができる
【0048】
mAbは「抗体」を示す。ここで、「抗体」は、少なくとも重鎖の可変ドメイン及び軽鎖の可変ドメインを含む抗体であればよく、完全抗体であっても、完全抗体の断片であって抗原認識部位を有する抗原結合断片であってもよい。完全抗体は、2つの全長の軽鎖と2つの全長の重鎖とを有し、それぞれの軽鎖と重鎖とはジスルフィド結合によって連結されている。完全抗体は、IgA、IgD、IgE、IgM及びIgGを含み、IgGは、サブタイプとして、IgG、IgG、IgG及びIgGを含む。また、抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。抗体部分と薬物部分とは、抗体中のリシン残基のε-アミノ基を介して結合している。
【0049】
抗体mAbは、標的細胞の表面に存在する抗原を認識し得る抗体であれば特に制限されない。標的細胞は、ヘミアスタリン誘導体による治療を必要とする細胞であればよく、がん細胞であることが好ましい。標的細胞の表面に存在する抗原は、正常細胞で発現されない又は発現量の少ない、標的細胞に特異的な抗原であることが好ましい。mAbの1態様としては、上記列挙された既知の抗体が挙げられ、別の一態様としては、ブレンツキシマブ、トラスツズマブ、イノツズマブ、ゲムツズマブ、グレムバツムマブ、ラベツズマブ、サシツズマブ、リファスツズマブ、インデュサツマブ、ポラツズマブ、ピナツズマブ、コルツキシマブ、インダツキシマブ、ミラツズマブ、ロバルピツズマブ、アネツマブ、チソツマブ、ロルボツズマブ(lorvotuzumab)、リツキシマブ、デパツキシズマブ、デニンツズマブ、エンホルツマブ、テルソツズマブ、バンドルツズマブ、ソフィツズマブ、ボルセツズマブ、ミルベツキシマブ(mirvetuximab)、ナラツキシマブ、カンツズマブ、ラプリツキシマブ、ビバツズマブ、バダスツキシマブ、ルパルツマブ、アプルツマブ、アバゴボマブ、アブシキシマブ、アビツズマブ、アブリルマブ、アクトクスマブ、アダリブマブ、アデカツムマブ、アデュカヌマブ、アファセビクマブ、アフェリモマブ、アラシズマブ、アレムツズマブ、アリロクマブ、アルツモマブ、アマツキシマブ、アナツモマブ、アニフロルマブ、アンルキンズマブ、アポリズマブ、アルシツモマブ、アスクリンバクマブ、アセリズマブ、アテゾリズマブ、アチヌマブ、アトロリムマブ、アベルマブ、アジンツキシズマブ、バピネズマブ、バシリキシマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベゲロマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベルチリムマブ、ベシレソマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ビシロマブ、ビマグルマブ、ビメキズマブ、ブレセルマブ、ブリナツモマブ、ブロンツベトマブ、ブロソズマブ、ボコシズマブ、ブラジクマブ、ブリアキヌマブ、ブロダルマブ、ブロルシズマブ、ブロンチクツズマブ、ブロスマブ、カビラリズマブ、カムレリズマブ、カプラシズマブ、カプロマブ、カルルマブ、カロツキシマブ、カツマクソマブ、セデリズマブ、セルトリズマブ、セツキシマブ、シタツズマブ、シキスツムマブ、クレノリキシマブ、クリバツズマブ、コドリツズマブ、コナツムマブ、コンシズマブ、コスフロビキシマブ、クレネズマブ、クリザンリズマブ、クロテデュマブ、ダセツズマブ、ダクリズマブ、ダロツズマブ、ダピロリズマブ、ダラツムマブ、デクトレクマブ、デムシズマブ、デノスマブ、デツモマブ、デザミズマブ、ジヌツキシマブ、ジリダブマブ、ドマグロズマブ、ドルリモマブ、ドロジツマブ、デュリゴツズマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、デュシギツマブ、デュボルツキシズマブ、エクロメキシマブ、エクリズマブ、エドバコマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エフングマブ、エルデルマブ、エレザヌマブ、エロツズマブ、エルシリモマブ、エマクツズマブ、エマパルマブ、エミベツズマブ、エミシズマブ、エナバツズマブ、エンリモマブ、エノブリツズマブ、エノキズマブ、エノチクマブ、エンシツキシマブ、エピツモマブ、エプラツズマブ、エプチネズマブ、エレヌマブ、エルリズマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、エトロリズマブ、エビナクマブ、エボロクマブ、エクスビビルマブ、ファラリモマブ、ファルレツズマブ、ファシヌマブ、フェルビズマブ、フェザキヌマブ、フィクラツズマブ、フィギツムマブ、フィリブマブ、フランボツマブ、フレチクマブ、フォントリズマブ、フォラルマブ、フォラビルマブ、フレマネズマブ、フレソリムマブ、フルネベトマブ、フルラヌマブ、フツキシマブ、ガルカネズマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ガンテネルマブ、ガチポツズマブ、ガビリモマブ、ゲディブマブ、ゲボキズマブ、ギルベトマブ、ギレンツキシマブ、ゴリムマブ、グセルクマブ、イバリズマブ、イブリツモマブ、イクルクマブ、イダルシズマブ、イファボツズマブ、イゴボマブ、イマルマブ、イムシロマブ、イムガツズマブ、インクラクマブ、イネビリズマブ、インフリキシマブ、イノリモマブ、インテツムマブ、イピリムマブ、イラツムマブ、イサツキシマブ、イトリズマブ、イキセキズマブ、ケリキシマブ、ラクノツズマブ、ランパリズマブ、ラナデルマブ、ランドグロズマブ、ラルカビキシマブ、レブリキズマブ、レマレソマブ、レンジルマブ、レルデリムマブ、レソファブマブ、レトリズマブ、レキサツムマブ、リビビルマブ、リファツズマブ、リゲリズマブ、リロトマブ、リンツズマブ、リリルマブ、ロデルシズマブ、ロキベトマブ、ルカツムマブ、ルリズマブ、ルムレツズマブ、ルチキズマブ、マパツムマブ、マルゲツキシマブ、マサリモマブ、マツズマブ、マブリリムマブ、メポリズマブ、メテリムマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モドツキシマブ、モガムリズマブ、モナリズマブ、モロリムマブ、モタビズマブ、モキセツモマブ、ムロモナブ、ナコロマブ、ナミルマブ、ナプツモマブ、ナルナツマブ、ナタリズマブ、ナビシキシズマブ、ナビブマブ、ネバクマブ、ネシツムマブ、ネモリズマブ、ネレリモマブ、ネスバクマブ、ニモツズマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オカラツズマブ、オクレリズマブ、オデュリモマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オレクルマブ、オレンダリズマブ、オロキズマブ、オマリズマブ、オナルツズマブ、オンツキシズマブ、オピシヌマブ、オポルツズマブ、オレゴボマブ、オルチクマブ(orticumab)、オテリキシズマブ、オトレルツズマブ、オキセルマブ、オザネズマブ、オゾラリズマブ、パギバキシマブ、パリビズマブ、パムレブルマブ、パニツムマブ、パノバクマブ、パルサツズマブ、パスコリズマブ、パソツキシズマブ、パテクリズマブ、パトリツマブ、ペンブロリズマブ、ペラキズマブ、ペルツズマブ、ペキセリズマブ、ピディリズマブ、プラクルマブ、プロザリズマブ、ポネズマブ、ポルガビキシマブ、プレザルマブ、プリリキシマブ、プリトキサキシマブ、プリツムマブ、クイリズマブ、ラコツモマブ、ラドレツマブ、ラフィビルマブ、ラルパンシズマブ、ラムシルマブ、ラネベトマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レファネズマブ、レガビルマブ、レムトルマブ、レスリズマブ、リロツムマブ、リヌクマブ、リサンキズマブ、リババズマブ、ロバツムマブ、ロレデュマブ、ロモソズマブ、ロンタリズマブ、ロスマンツズマブ、ロベリズマブ、ロザノリキシズマブ、ルプリズマブ、サマリズマブ、サリルマブ、サトラリズマブ、サツモマブ、セクキヌマブ、セリクレルマブ、セリバンツマブ、セトキサキシマブ、セビルマブ、シブロツズマブ、シファリムマブ、シルツキシマブ、シムツズマブ、シプリズマブ、シルクマブ、ソラネズマブ、ソリトマブ、ソンツズマブ、スタムルマブ、スレソマブ、スプタブマブ、スビズマブ、スブラトクスマブ、タバルマブ、タドシズマブ、タリズマブ、タムツベトマブ、タネズマブ、タプリツモマブ、タレクスツマブ、タボリキシズマブ、ファノレソマブ、ノフェツモマブ、ピンツモマブ、テフィバズマブ、テリモマブ、テリソツズマブ、テナツモマブ、テネリキシマブ、テプリズマブ、テプロツムマブ、テシドルマブ、テゼペルマブ、ティガツズマブ、ティルドラキズマブ、チミグツズマブ、チモルマブ、トシリズマブ、トムゾツキシマブ、トラリズマブ、トサトクスマブ、トシツモマブ、トベツマブ、トラロキヌマブ、トレガリズマブ、トレメリムマブ、トレボグルマブ、ツコツズマブ、ツビルマブ、ウブリツキシマブ、ウロクプルマブ、ウレルマブ、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ、ウトミルマブ、バンチクツマブ、バヌシズマブ、バパリキシマブ、バリサクマブ、バルリルマブ、バテリズマブ、ベドリズマブ、べルツズマブ、ベパリモマブ、ベセンクマブ、ビシリズマブ、ボバリリズマブ、ボロシキシマブ、ボンレロリズマブ、ボツムマブ、ブナキズマブ、タカツズマブ、ザルツムマブ、ザノリムマブ、ジラリムマブ、ゾリモマブ又は抗エンビジン抗体が挙げられ、別の1態様としては、ブレンツキシマブ、トラスツズマブ、イノツズマブ、ゲムツズマブ、ラベツズマブ、ポラツズマブ、コルツキシマブ、インダツキシマブ、アネツマブ、リツキシマブ、デニンツズマブ、ラプリツキシマブ、バダスツキシマブ、グレムバツムマブ、セツキシマブ、アレムツズマブ又はデパツキシズマブが挙げられ、別の1態様としてはブレンツキシマブ、トラスツズマブ、セツキシマブが挙げられ、別の1態様としてはブレンツキシマブ又はトラスツズマブが挙げられ、好ましくはブレンツキシマブが挙げられる。
【0050】
mAbとして、抗19A抗体、抗AXL抗体、抗BCMA抗体、抗C4.4a抗体、抗CA6抗体、抗CA9抗体、抗CA-125抗体、抗カドヘリン-6抗体、抗CD166抗体、抗CD19抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD25抗体、抗CD27抗体、抗CD30抗体、抗CD33抗体、抗CD37抗体、抗CD40抗体、抗CD41抗体、抗CD44v6抗体、抗CD51抗体、抗CD52抗体、抗CD56抗体、抗CD70抗体、抗CD74抗体、抗CD79抗体、抗CD79b抗体、抗CEACAM5抗体、抗c-Met抗体、抗DLL3抗体、抗DPEP3抗体、抗EGFR抗体、抗EGFRvIII抗体、抗ENPP3抗体、抗EpCAM抗体、抗EphA4抗体、抗FGFR2抗体、抗FGFR3抗体、抗FTL3抗体、抗葉酸受容体α抗体、抗グリピカン3抗体、抗gpNMB抗体、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗IL-3RA抗体、抗LAMP1抗体、抗LIV-1抗体、抗LRRC15抗体、抗Ly6E抗体、抗メソテリン抗体、抗MUC-16抗体、抗NaPi2b抗体、抗ネクチン-4抗体、抗CD352抗体、抗P-カドヘリン抗体、抗PMSA抗体、抗プロテインチロシンキナーゼ7抗体、抗SLITRK抗体、抗STEAP1抗体、抗CD138抗体、抗組織因子抗体、抗CD71抗体、抗TIM-1抗体、抗Trop2抗体、抗5T4抗体、抗B7-H3抗体、抗CD163マクロファージ受容体抗体、抗CD38抗体、抗CD48抗体、抗cKit抗体、抗グアニル酸シクラーゼC抗体、抗ガストリン放出ペプチド抗体、抗溶質輸送体抗体、抗腫瘍関係MUC-1抗体、抗GD2抗体、抗α4β7インテグリン抗体、又は抗エンビジン抗体が挙げられる。mAbの別の1態様として、抗CD19抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD30抗体、抗CD33抗体、抗CD52抗体、抗CD70抗体、抗CD79b抗体、抗CEACAM5抗体、抗EGFR抗体、抗EGFRvIII抗体、抗gpNMB抗体、抗HER2抗体、抗メソテリン抗体、抗CD138抗体、抗CD38抗体、又は抗GD2抗体が挙げられる。mAbの別の1態様として、抗CD19抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD30抗体、抗CD33抗体、抗CD52抗体、抗CD79b抗体、抗CEACAM5抗体、抗EGFR抗体、抗EGFRvIII抗体、抗gpNMB抗体、抗HER2抗体、抗メソテリン抗体、又は抗CD138抗体が挙げられる。
【0051】
「AMG595の抗体」とは、Mol. Cancer Ther., 2015, 14, 1614-1624に記載された方法で得られる抗EGFRvIII抗体を意味する。
【0052】
本発明の抗体薬物複合体の1つの態様としては、以下の(2-A)が挙げられる。
(2-A)
式(2)において、
mAbが、ブレンツキシマブ又はトラスツズマブであり、
qが、1~8の整数であり、
Zが、式(Z-1)、式(Z-2)又は式(Z-3)で表される基であり、
が、-(CH-COOHであり、
uが、1又は2の整数であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-1)で表される基である、
抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0053】
本発明の抗体薬物複合体の1つの態様としては、以下の(2-B)が挙げられる。
(2-B)
式(2)において、
mAbが、ブレンツキシマブ又はトラスツズマブであり、
qが、1~8の整数であり、
Zが、式(Z-1)、式(Z-2)又は式(Z-3)で表される基であり、
が、-(CH-COOHであり、
uが、1又は2の整数であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-2)で表される基である、
抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0054】
本発明の抗体薬物複合体の1つの態様としては、以下の(2-C)が挙げられる。
(2-C)
式(2)において、
mAbが、ブレンツキシマブ又はトラスツズマブであり、
qが、1~8の整数であり、
Zが、式(Z-1)で表される基であり、
が、-(CH-COOHであり、
uが、1又は2の整数であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-1)又は式(Q-2)で表される基である、
抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0055】
本発明の抗体薬物複合体の1つの態様としては、以下の(2-D)が挙げられる。
(2-D)
式(2)において、
mAbが、ブレンツキシマブ又はトラスツズマブであり、
qが、1~8の整数であり、
Zが、式(Z-2)で表される基であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-1)又は式(Q-2)で表される基である、
抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0056】
本発明の抗体薬物複合体の1つの態様としては、以下の(2-E)が挙げられる。
(2-E)
式(2)において、
mAbが、ブレンツキシマブ又はトラスツズマブであり、
qが、1~8の整数であり、
Zが、式(Z-3)で表される基であり、
Wが、式(W-1)で表される基であり、
Qが、式(Q-1)又は式(Q-2)で表される基である、
抗体薬物複合体又はその製薬学的に許容される塩。
【0057】
一般に、抗体薬物複合体の作製及び解析は、当業者に公知の任意の技術によって行うことができる。このような方法としては、例えば、Antibody-Drug Conjugates(Laurent Ducry編集、Humana Press刊行、2013年)等に記載の方法が挙げられる。
【0058】
抗体薬物複合体は、例えば、抗体中のリシン残基のε-アミノ基を、ヘミアスタリン誘導体と反応させることによって形成することができる。
【0059】
抗体薬物複合体は、標的細胞(抗原発現細胞)内で抗体が代謝され、抗体の一部(抗体断片)と薬物部分を含む構造が活性代謝物として放出されうる。例えば、非特許文献7では、抗体の代謝によって、細胞内で、抗体薬物複合体のCys-薬物部分が放出されることが記載されている。また、非特許文献8では、抗体の代謝によって、細胞内で、抗体薬物複合体のLys-薬物部分が放出されることが記載されている。
【0060】
抗体薬物複合体は、抗体-抗原反応を利用した細胞内への取り込みにより、特定の抗原発現細胞内に特異的に送達された後、上述の機構で活性代謝物を放出することで特定の細胞のみで薬効を発揮させることが推定される。抗体薬物複合体は、がん細胞特異的に取り込まれ得るため、がん細胞に対しては強い薬効を発揮すると期待できる。
【0061】
一方、抗体薬物複合体は、標的細胞に送達される前に、血液中に含まれるプロテアーゼ等によって分解され、血液中で活性代謝物を放出してしまうことがあると考えられる。その際、従来の抗体薬物複合体の場合は、血液中に放出された活性代謝物は、正常細胞にも作用する。そのため、意図していない全身暴露となり、副作用が起こりやすいことから、好ましくない。
【0062】
さらに、抗体薬物複合体が特定の抗原発現細胞内に特異的に送達された後、上述の機構で活性代謝物を放出した結果、細胞死等によって活性代謝物が細胞内から細胞外又は血液中へ放出されることがある。その際、従来の抗体薬物複合体の場合、血液中に放出された活性代謝物は、正常細胞にも作用する。そのため、意図していない全身暴露となり、副作用が起こりやすいことから、好ましくない。
【0063】
これに対し、本発明の抗体薬物複合体から放出される活性代謝物は、仮に非特許文献7又は非特許文献8で報告されるように、標的細胞に到達前又は到達後に血液中へ放出されても、正常細胞に作用しにくく、速やかに代謝及び排泄されるため、全身暴露による副作用が少ないことが期待できる。
【0064】
すなわち、活性代謝物は本発明の抗体薬物複合体の代謝から生成されることによって、がん細胞特異的に薬効を発揮し、かつ、正常細胞への影響が少なく安全性が高いことが期待される。
【0065】
本明細書において、特に区別する必要がある場合を除き、α-アミノ酸及び対応するアミノ酸残基の両方を表すのに、下記の3文字略語表記を用いることがある。また、α-アミノ酸の光学活性は、特に指定していない場合は、DL体、D体又はL体のいずれをも含み得るものとする。例えば、「グルタミン酸」又は「Glu」は、DL-グルタミン酸若しくはその残基、D-グルタミン酸若しくはその残基、又はL-グルタミン酸若しくはその残基を表している。
【0066】
「塩」は、本発明のヘミアスタリン誘導体の好適な塩及び医薬品原料として許容しうる塩であり、好ましくは慣用の無毒性塩である。「塩」としては、例えば、有機酸塩(例えば酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ギ酸塩又はp-トルエンスルホン酸塩等)及び無機酸塩(例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩又はリン酸塩等)のような酸付加塩、アミノ酸(例えばアルギニン、アスパラギン酸又はグルタミン酸等)との塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩又はカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩又はマグネシウム塩等)等の金属塩、アンモニウム塩、又は有機塩基塩(例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩又はN,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩等)等の他、適当な塩を当業者が適宜選択することができる。
【0067】
「製薬学的に許容される塩」としては、酸付加塩及び塩基付加塩が挙げられる。例えば、酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、又はクエン酸塩、シュウ酸塩、フタル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩等の無機塩基塩、又はトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6-ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン]、tert-ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジベンジルエチルアミン等の有機塩基塩が挙げられる。さらに、「製薬学的に許容される塩」としては、アルギニン、リシン、オルニチン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の、塩基性アミノ酸又は酸性アミノ酸との塩(アミノ酸塩)も挙げられる。
【0068】
本発明のヘミアスタリン誘導体又は抗体薬物複合体の塩を取得したいとき、目的の化合物が塩の形で得られる場合には、それをそのまま精製すればよく、また、遊離の形で得られる場合には、それを適当な有機溶媒に溶解若しくは懸濁させ、酸又は塩基を加えて通常の方法により塩を形成させればよい。
【0069】
本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体は、水和物及び/又は各種溶媒との溶媒和物(エタノール和物等)の形で存在することもあり、これらの水和物及び/又は溶媒和物も本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体に含まれる。さらに、本発明には、本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体のあらゆる様態の結晶形も含まれる。
【0070】
本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体の中には、光学活性中心に基づく光学異性体、分子内回転の束縛により生じた軸性又は面性キラリティーに基づくアトロプ異性体、その他のあらゆる立体異性体、互変異性体、及び幾何異性体等が存在し得るものがあるが、これらを含め、全ての可能な異性体は本発明の範囲に包含される。
【0071】
特に、光学異性体やアトロプ異性体は、ラセミ体として得ることができ、また光学活性の出発原料や中間体が用いられた場合には光学活性体として、それぞれ得ることができる。必要であれば、下記製造法の適切な段階で、対応する原料、中間体又は最終品のラセミ体を、光学活性カラムを用いた方法、分別結晶化法等の、公知の分離方法によって、物理的に又は化学的に光学対掌体に光学分割することができる。具体的には、例えばジアステレオマー法では、光学活性分割剤を用いる反応によってラセミ体から2種のジアステレオマーを形成する。この異なるジアステレオマーは一般に物理的性質が異なるため、分別結晶化等の公知の方法によって光学分割することができる。
【0072】
本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体の製造方法について以下に述べる。式(1)で表される本発明のヘミアスタリン誘導体は、例えば、下記の製造法A~Cにより製造することができる。
【0073】
製造法A
Zが式(Z-1)で表される基であり、Wが式(W-1)で表される基であり、Qが式(Q-1)で表される基であり、Rが水素原子である場合、式(1)で表される化合物は、例えば、下記の製法によって製造することができる。
【化15】
(式中、uは、項1に定義されるとおりであり、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、C1-6アルキル基又はベンジル基を表し、Pはアミノ基の保護基を意味する。)
【0074】
上記Pで表されるアミノ基の保護基としては、ProtectiveGroups in Organic Synthesis(Theodora W. Greene, PeterG. M. Wuts著、John Wiley & Sons, Inc.発行、1999年)に記載の保護基等を使用できる。
【0075】
化合物a1は、例えば、J. Med. Chem., 2007, 50, 4329-4339等に記載されている方法により製造できるか、又は市販品として購入できる。化合物a15は、例えば、Tetrahedron Lett., 1997, 38, 317-320等に記載されている方法により製造できるか、又は市販品として購入できる。
【0076】
[A-1工程]
化合物a2は、化合物a1を、適当な塩基存在下、適当な溶媒中で、種々のメチル化試薬を反応させることにより製造することができる。メチル化試薬としては、例えば、ハロゲン化メチル等が挙げられ、好ましくはヨウ化メチル、臭化メチル、塩化メチル等が挙げられる。塩基としては、好ましくはカリウムヘキサメチルジシラジドが挙げられる。溶媒としては、好ましくはテトラヒドロフランが挙げられる。反応時間は、通常5分~48時間であり、好ましくは10分~2時間である。反応温度は、通常-78℃~100℃であり、好ましくは-78℃~10℃である。本工程は、J. Nat. Prod. 2003, 66, 183-199等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0077】
[A-2工程]
化合物a3は、化合物a2より、上記A-1工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0078】
[A-3工程]
化合物a4は、化合物a3を、適当な溶媒中で、適当な還元剤と反応させることにより製造することができる。還元剤としては、通常の有機合成反応に用いられる還元剤から適宜選択されるが、好ましくは水素化ジイソブチルアルミニウムが挙げられる。溶媒としては、好ましくはジエチルエーテルが挙げられる。反応時間は、通常5分~48時間であり、好ましくは10分~24時間である。反応温度は、通常-78℃~100℃であり、好ましくは-78℃~50℃である。本工程は、J. Nat. Prod. 2003, 66, 183-199等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0079】
[A-4工程]
化合物a5は、化合物a4を、適当な溶媒中、適当な酸化剤を用いて酸化することにより製造することができる。酸化剤としては、通常の有機合成反応に用いられる酸化剤から適宜選択することができるが、好ましくは過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウムが挙げられる。溶媒としては、好ましくはジクロロメタンが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常-78℃~100℃であり、好ましくは、-78℃~50℃である。本工程は、J. Nat. Prod. 2003, 66, 183-199等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0080】
[A-5工程]
化合物a6は、化合物a5のアルデヒドを、適当な溶媒中、α-アミノシアノ化することにより製造することができる。溶媒としては、好ましくはトルエン及びジクロロメタンが挙げられる。反応時間は、通常5分~96時間であり、好ましくは24時間~72時間である。反応温度は、通常0℃~200℃であり、好ましくは0℃~100℃である。本工程は、Org. Lett. 2002, 4, 695-697等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0081】
[A-6工程]
化合物a7は、化合物a6を、適当な塩基存在下又は非存在下、適当な溶媒中で、適当な酸化剤を用いて製造することができる。酸化剤としては、通常の有機合成反応で用いられる酸化剤から適宜選択することができるが、好ましくは過酸化水素が挙げられる。塩基としては、好ましくは炭酸カリウムが挙げられる。溶媒としては、好ましくはメタノールが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常0℃~200℃であり、好ましくは0℃~60℃である。本工程は、J. Org. Chem. 2001, 66, 7355-7364等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0082】
[A-7工程]
化合物a8は、化合物a7を、適当な溶媒中、適当な触媒存在下で、還元剤を用いて還元することにより製造することができる。還元剤としては、通常の有機合成反応で用いられる還元剤から適宜選択することができるが、好ましくは水素、ギ酸アンモニウム等のギ酸の塩又はヒドラジンが挙げられる。触媒としては、パラジウム、ニッケル、ロジウム、コバルト、白金等の遷移金属、その塩若しくはその錯体又は上記遷移金属をポリマー等の担体に担持させたものが挙げられる。溶媒としては、好ましくはエタノール又はメタノールが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常0℃~200℃であり、好ましくは0℃~100℃である。本工程は、J. Org. Chem. 2001, 66, 7355-7364等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0083】
[A-8工程]
化合物a9は、化合物a8のアミノ基を保護基Pで保護することにより製造することができる。本工程は、Protective Groups in Organic Synthesis(TheodoraW. Greene, Peter G. M. Wuts著、John Wiley & Sons, Inc.発行、1999年)に記載されている方法等に準じて行うことができる。
【0084】
[A-9工程]
化合物a11は、化合物a9と種々のアシル化試薬(例えば、化合物a10)を、適当な塩基存在下又は非存在下、適当な溶媒中で、反応させることにより製造することができる。アシル化試薬としては、例えば、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物等が挙げられ、好ましくはジ-tertブチルジカルボネートが挙げられる。塩基としては、好ましくはジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。溶媒としては、好ましくはクロロホルムが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常0℃~200℃であり、好ましくは0℃~50℃である。
【0085】
[A-10工程]
化合物a12は、化合物a11を、適当な溶媒中、適当なアルカリ金属アルコキシド類と反応させることにより製造することができる。アルカリ金属アルコキシド類としては、通常の有機合成反応で用いられるアルカリ金属アルコキシド類から適宜選択することができるが、好ましくはリチウムメトキシド又はリチウムエトキシドが挙げられる。溶媒としては、好ましくはメタノール又はエタノールが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~6時間である。反応温度は、通常-78℃~200℃であり、好ましくは-78℃~50℃である。
【0086】
[A-11工程]
化合物a13は、化合物a12に、適当な塩基存在下、適当な溶媒中で、種々のメチル化試薬を反応させることにより製造することができる。メチル化試薬としては、例えば、ハロゲン化メチル等が挙げられ、好ましくはヨウ化メチル、臭化メチル、塩化メチル等が挙げられる。塩基としては、好ましくは水素化ナトリウムが挙げられる。溶媒としては、好ましくはテトラヒドロフランが挙げられる。反応時間は、通常5分~48時間であり、好ましくは10分~2時間である。反応温度は、通常-78℃~100℃であり、好ましくは-78℃~10℃である。
【0087】
[A-12工程]
化合物a14は、化合物a13のエステルを、適当な塩基存在下、適当な溶媒中で、加水分解することにより製造できる。塩基としては、好ましくは水酸化リチウムが挙げられる。溶媒としては、好ましくは水又はメタノールが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常0℃~200℃、好ましくは0℃~100℃である。
【0088】
[A-13工程]
化合物a16は、化合物a14と化合物a15を、適当な溶媒中、適当な塩基存在下で、種々の縮合剤を用いて、縮合することにより製造することができる。縮合剤としては、通常の有機合成反応に用いられる種々の縮合剤を使用することができるが、好ましくは(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド又はブロモトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。また、必要に応じて、縮合反応の効率を向上させるために、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等のカルボニル活性化試薬を共に用いることができる。塩基としては、好ましくはジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。溶媒としては、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミドが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常-78℃~200℃であり、好ましくは0℃~100℃である。本工程は、Tetrahedron Lett., 1997, 38, 317-320等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0089】
[A-14工程]
化合物a17は、化合物a16のエステルを、上記A-12工程に記載の方法に準じて加水分解することにより、製造することができる。本工程は、Tetrahedron Lett., 1997, 38, 317-320等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0090】
[A-15工程]
化合物a18は、化合物a17とN-ヒドロキシスクシンイミドを、適当な溶媒中、適当な塩基存在下で、種々の縮合剤を用いて反応させることにより製造することができる。縮合剤としては、通常の有機合成反応に用いられる種々の縮合剤を使用することができるが、好ましくは(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド又はブロモトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。また、必要に応じて、反応の効率を向上させるために、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等のカルボニル活性化試薬を共に用いることができる。塩基としては、好ましくはジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。溶媒としては、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミドが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常-78℃~200℃であり、好ましくは0℃~100℃である。
【0091】
[A-16工程]
化合物a19は、化合物a18を、適当な塩基存在下、適当な溶媒中で、アミノ酸又はペプチドのエステル体と反応させることにより製造することができる。塩基としては、好ましくはジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。溶媒としては、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミドが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常0℃~200℃であり、好ましくは0℃~100℃である。
【0092】
[A-17工程]
化合物a20は、化合物a19を、上記A-15工程に記載の方法に準じて縮合することにより、製造することができる。
【0093】
[A-18工程]
化合物A1は、化合物a20のアミノ基の保護基Pの脱保護及びエステル(-COOR)の加水分解により製造することができる。本工程は、Protective Groups in Organic Synthesis(TheodoraW. Greene, Peter G. M. Wuts著、John Wiley & Sons, Inc.発行、1999年)に記載されている方法等に準じて行うことができる。
【0094】
製造法B
Zが式(Z-1)で表される基であり、Wが式(W-1)で表される基であり、Qが式(Q-2)で表される基であり、Rが水素原子である場合、式(1)で表される化合物は、例えば、下記の製法によって製造することができる。
【化16】
(式中、uは、項1に定義されるとおりであり、R、R及びRは、C1-6アルキル基又はベンジル基を表し、Pはアミノ基の保護基を意味する。)
【0095】
化合物b1は、例えば、市販品として購入できる。化合物b11は、例えば、Tetrahedron Lett., 1997, 38, 317-320等に記載されている方法により製造できるか、又は市販品として購入できる。
【0096】
[B-1工程]
化合物b2は、化合物b1に、種々のルイス酸存在下、ベンゼンを反応させることにより製造することができる。ルイス酸としては、例えば、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化鉄、ハロゲン化チタン等が挙げられ、好ましくは塩化アルミニウム、塩化鉄等が挙げられる。反応時間は、通常5分~48時間であり、好ましくは30分~4時間である。反応温度は、通常-78℃~200℃であり、好ましくは50℃~150℃である。本工程は、J. Nat. Prod. 2003, 66, 183-199等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0097】
[B-2工程]
化合物b3は、化合物b2を、適当な塩基存在下、適当な溶媒中で、種々のカルボン酸ハロゲン化物と反応させた後、アルカリ金属化4-アルキル-2-オキサゾリジノンを反応させることにより製造することができる。塩基としては、好ましくはトリエチルアミン又はジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。溶媒としては、好ましくはテトラヒドロフランが挙げられる。カルボン酸ハロゲン化物としては、例えば、カルボン酸塩化物等が挙げられ、好ましくはピバロイルクロライド等が挙げられる。アルカリ金属化4-アルキル-2-オキサゾリジノンとしては、4-アルキル-2-オキサゾリジノンリチウム、4-アルキル-2-オキサゾリジノンナトリウム等が挙げられ、好ましくは4-イソプロピル-2-オキサゾリジノンリチウムが挙げられる。反応時間は、通常5分~48時間であり、好ましくは10分~24時間である。反応温度は、通常-78℃~100℃であり、好ましくは-78℃~50℃である。本工程は、J. Nat. Prod. 2003, 66, 183-199等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0098】
[B-3工程]
化合物b4は、化合物b3を、適当な塩基存在下、適当な溶媒中で、種々のアジド化試薬と反応させることにより製造することができる。アジド化試薬としては、例えば、アジ化ナトリウム、トリメチルシリルアジド、ジフェニルリン酸アジド等が挙げられ、好ましくはトリメチルシリルアジドが挙げられる。塩基としては、好ましくはカリウムヘキサメチルジシラジドが挙げられる。溶媒としては、好ましくはテトラヒドロフランが挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常-78℃~200℃であり、好ましくは-78℃~75℃である。本工程は、J. Nat. Prod. 2003, 66, 183-199等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0099】
[B-4工程]
化合物b5は、化合物b4より、上記A-7工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0100】
[B-5工程]
化合物b6は、化合物b5より、上記A-8工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0101】
[B-6工程]
化合物b7は、化合物b6を、適当な塩基存在下、適当な溶媒中で、適当な酸化剤を用いることにより製造することができる。塩基としては、好ましくは水酸化リチウムが挙げられる。溶媒としては、好ましくはメタノール、テトラヒドロフラン又は水が挙げられる。酸化剤としては、通常の有機合成反応で用いられる酸化剤から適宜選択することができるが、好ましくは過酸化水素が挙げられる。反応時間は、通常5分~72時間であり、好ましくは30分~24時間である。反応温度は、通常0℃~200℃であり、好ましくは0℃~60℃である。本工程は、J. Nat. Prod. 2003, 66, 183-199等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0102】
[B-7工程]
化合物b8は、化合物b7に、適当な塩基存在下、適当な溶媒中で、種々のアルキル化試薬を反応させることにより製造することができる。アルキル化試薬としては、例えば、ハロゲン化アルキル等が挙げられ、好ましくはヨウ化アルキル、臭化アルキル、塩化アルキル等が挙げられる。塩基としては、好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが挙げられる。溶媒としては、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミドが挙げられる。反応時間は、通常5分~48時間であり、好ましくは10分~2時間である。反応温度は、通常-78℃~100℃であり、好ましくは-10℃~25℃である。本工程は、Protective Groups in Organic Synthesis(TheodoraW. Greene, Peter G. M. Wuts著、John Wiley & Sons, Inc.発行、1999年)に記載されている方法等に準じて行うことができる。
【0103】
[B-8工程]
化合物b9は、化合物b8より、上記A-11工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0104】
[B-9工程]
化合物b10は、化合物b9より、上記A-12工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0105】
[B-10工程]
化合物b12は、化合物b10と化合物b11より、上記A-13工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0106】
[B-11工程]
化合物b13は、化合物b12のエステルを、上記A-12工程に記載の方法に準じて加水分解することにより、製造することができる。
【0107】
[B-12工程]
化合物b14は、化合物b13より、上記A-15工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0108】
[B-13工程]
化合物b15は、化合物b14より、上記A-16工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0109】
[B-14工程]
化合物b16は、化合物b15より、上記A-17工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0110】
[B-15工程]
化合物B1は、化合物b16より、上記A-18工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0111】
製造法C
Zが式(Z-2)又は式(Z-3)で表される基であり、Wが式(W-1)で表される基であり、Rが水素原子である場合、式(1)で表される化合物は、例えば、下記の製法によって製造することができる。
【化17】
(式中、sは1又は2を表し、R及びPは上記と同義である。)
【0112】
化合物c1は、製造法Aの化合物a18又は製造法Bの化合物b14を表す。
【0113】
[C-1工程]
化合物c2は、化合物c1より、上記A-16工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0114】
[C-2工程]
化合物c3は、化合物c2より、上記A-17工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0115】
[C-3工程]
化合物C1は、化合物c3より、上記A-18工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0116】
製造法E
Zが式(Z-2)又は式(Z-3)で表される基であり、Wが式(W-1)で表される基であり、Rが水素原子である場合、式(1)で表される化合物は、例えば、下記の製法によって製造することができる。
【化18】
(式中、sは1又は2を表し、Rは上記と同義である。)
【0117】
化合物e1は、例えば、市販品として購入できる。
【0118】
[E-1工程]
化合物e2は、化合物e1より、上記A-15工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0119】
[E-2工程]
化合物e3は、化合物e2より、上記A-16工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0120】
[E-3工程]
化合物e4は、化合物e3より、上記A-17工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0121】
[E-4工程]
化合物E1は、化合物e4より、上記A-18工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0122】
製造法F
Zが式(Z-1)で表される基であり、Wが式(W-1)で表される基であり、Rが水素原子である場合、式(1)で表される化合物は、例えば、下記の製法によって製造することができる。
【化19】
(式中、uは、項1に定義されるとおりであり、Rは上記と同義である。)
【0123】
化合物f1は、例えば、市販品として購入できる。
【0124】
[F-1工程]
化合物f2は、化合物f1より、上記A-15工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0125】
[F-2工程]
化合物f3は、化合物f2より、上記A-16工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0126】
[F-3工程]
化合物f4は、化合物f3より、上記A-17工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0127】
[F-4工程]
化合物F1は、化合物f4より、上記A-18工程に記載の方法に準じて製造することができる。
【0128】
式(2)で表される本発明の抗体薬物複合体は、例えば、下記の製造法Dにより製造することができる。
【0129】
製造法D
【化20】
(式中、mAb、q、R及びZは、項1及び項4に定義されるとおりである。)
【0130】
[D-1工程]
化合物D1は、化合物d1と化合物d2を、適当な緩衝液中で、反応させることにより製造することができる。本工程は、Antibody-Drug Conjugates(Laurent Ducry編集、Humana Press刊行、2013年)等に記載されている方法等に準じて行うことができる。
【0131】
得られた化合物D1の薬物抗体比q又は平均抗体薬物比は、Antibody-Drug Conjugates(Laurent Ducry編集、Humana Press刊行、2013年)等に記載されている方法等に準じて解析することができる。
【0132】
上記に本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体の製造法を示している。しかし、これら以外の方法であっても、例えば、当業者に公知の方法を適宜組み合わせることによっても、本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体を製造することができる。
【0133】
上記の各製造法の各工程において使用される適当な塩基は、反応や原料化合物の種類等によって適宜選択されるべきであるが、例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の重炭酸アルカリ類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸アルカリ類;水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類;ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド等の有機金属塩基類;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)等の有機塩基類等が挙げられる。
【0134】
上記の各製造法の各工程において使用される適当な溶媒は、反応や原料化合物の種類等によって適時選択されるべきであるが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルケトン等のケトン類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;アセトニトリル等のニトリル類;蒸留水等が挙げられ、これらの溶媒は単独又は2種類以上を混合して用いることができる。また、反応の種類によっては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の有機塩基類を溶媒として用いてもよい。
【0135】
本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体は、当業者に公知の方法で分離、精製することができる。例えば、抽出、分配、再沈殿、カラムクロマトグラフィー(例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー若しくは分取液体クロマトグラフィー)又は再結晶等が挙げられる。
【0136】
再結晶溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;ヘキサン等の炭化水素系溶媒;ジメチルホルムアミドアセトニトリル等の非プロトン系溶媒;水;又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0137】
その他の精製方法としては、実験化学講座(日本化学会編、丸善)1巻等に記載されている方法等を用いることができる。また、本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体の分子構造の決定は、それぞれの原料化合物に由来する構造を参照して、核磁気共鳴法、赤外吸収法、円二色性スペクトル分析法等の分光学的手法、又は質量分析法により容易に行える。
【0138】
また、上記製造方法における中間体又は最終生成物は、その官能基を適宜変換すること、また特に、アミノ基、水酸基、カルボニル基、ハロゲン原子等を足がかりに種々の側鎖を伸張すること、及びその際に必要に応じて上記官能基の保護、脱保護を行うことによって、本発明に含まれる別の化合物へ導く事もできる。官能基の変換及び側鎖の伸張は、通常行われる一般的方法(例えば、Comprehensive Organic Transformations, R. C. Larock, John Wiley& Sons Inc.(1999)等を参照)によって行うことができる。
【0139】
本発明のヘミアスタリン誘導体及び抗体薬物複合体には、不斉が生じる場合又は不斉炭素を有する置換基を有する場合があり、そのような化合物にあっては光学異性体が存在する。光学異性体は通常の方法に従って製造することができる。製造方法としては、例えば、不斉点を有する原料を用いる方法又は途中の段階で不斉を導入する方法が挙げられる。例えば、光学異性体の場合、光学活性な原料を用いるか、製造工程の適当な段階で光学分割等を行うことで、光学異性体を得ることができる。光学分割法としては、例えば、本発明のヘミアスタリン誘導体が、塩基性官能基を有する場合には、不活性溶媒中(例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;トルエン等の炭化水素系溶媒;アセトニトリル等の非プロトン系溶媒;又は上記溶媒から選択される2種以上の混合溶媒)で、光学活性な酸(例えば、マンデル酸、N-ベンジルオキシアラニン、乳酸等のモノカルボン酸;酒石酸、o-ジイソプロピリデン酒石酸、リンゴ酸等のジカルボン酸;カンファースルホン酸、ブロモカンファースルホン酸等のスルホン酸等)を用いて、塩を形成させるジアステレオマー法が挙げられる。本発明のヘミアスタリン誘導体又はその合成中間体が、カルボキシル等の酸性官能基を有する場合には、光学活性なアミン(例えば、1-フェニルエチルアミン、キニン、キニジン、シンコニジン、シンコニン、ストリキニーネ等の有機アミン)を用いて、塩を形成させることにより、光学分割を行うこともできる。
【0140】
塩を形成させる温度としては、-50℃から溶媒の沸点までの範囲が挙げられ、好ましくは0℃から沸点までの範囲が挙げられ、より好ましくは室温から溶媒の沸点までの範囲が挙げられる。光学純度を向上させるためには、一旦、溶媒の沸点付近まで温度を上げることが望ましい。析出した塩を濾取する際、必要に応じて冷却し、収率を向上させることができる。光学活性な酸又はアミンの使用量は、基質に対し約0.5~約2.0当量の範囲が挙げられ、好ましくは1当量前後の範囲が挙げられる。必要に応じて、結晶を不活性溶媒中(例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;トルエン等の炭化水素系溶媒;アセトニトリル等の非プロトン系溶媒;又は上記溶媒から選択される2種以上の混合溶媒)で再結晶し、高純度の光学活性な塩を得ることもできる。また、必要に応じて、光学分割した塩を通常の方法で酸又は塩基で処理し、フリー体として得ることもできる。
【0141】
上記の各々の製造法における原料又は中間体のうち、特にあらためてその製造法を記載しなかったものについては、市販化合物であるか、又は市販化合物から当業者に公知の方法若しくはそれに準じた方法によって合成することができる。
【0142】
本発明の抗体薬物複合体及びこれを含む医薬組成物は、抗がん剤(例えば、乳がん、胃がん、肺がん、肝臓がん、子宮頸がん、大腸がん、直腸がん、結腸がん、神経膠腫、リンパ腫、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎がん、尿路上皮がん、皮膚がん、甲状腺がん、膀胱がん、頭頸部がん、子宮体がん、中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫、白血病等の治療薬)として有用である。
【0143】
本発明の抗体薬物複合体は、直接又は適当な剤形を用いて製剤にし、経口投与又は非経口投与により投与することができる。剤形は、例えば、液剤、懸濁剤、注射剤等が挙げられるがこれに限らない。これらの製剤は、薬学的に許容される添加剤を用いて、公知の方法で製造される。
【0144】
添加剤としては、目的に応じて、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、コーティング剤、溶解剤、溶解補助剤、増粘剤、分散剤、安定化剤、甘味剤、香料等を用いることができる。具体的には、例えば、乳糖、マンニトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、部分α化デンプン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、酸化チタン、タルク等が挙げられる。
【0145】
本発明の抗体薬物複合体と併用又は組み合わせることができる「抗がん性化合物」としては、例えば、抗がん性アルキル化剤、抗がん性代謝拮抗剤、抗がん性抗生物質、抗がん性白金配位化合物、抗がん性カンプトテシン誘導体、抗がん性チロシンキナーゼ阻害剤、抗がん性セリンスレオニンキナーゼ阻害剤、抗がん性リン脂質キナーゼ阻害剤、抗がん性モノクローナル抗体、インターフェロン、生物学的応答調節剤、ホルモン剤、免疫チェックポイント阻害剤、エピジェネティクス関連分子阻害剤、タンパク質翻訳後修飾阻害剤、及びその他抗腫瘍剤からなる群から選択される少なくとも1種以上の抗腫瘍剤が挙げられる。併用又は組み合わせることができる「抗がん性化合物」の具体例としては、例えば、アザシチジン、ボリノスタット、デシタビン、ロミデプシン、イダルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エノシタビン、シタラビン、ミトキサントロン、チオグアニン、エトポシド、イホスファミド、シクロフォスファミド、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、ラニムスチン、オールトランス型レチノイン酸、タミバロテン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、イリノテカン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、メトトレキサート、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、タモキシフェン、チオテパ、テガフール、フルオロウラシル、エベロリムス、テムシロリムス、ゲフィチニブ、エルロチニブ、イマチニブ、クリゾチニブ、オシメルチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、バンデタニブ、スニチニブ、アキシチニブ、パゾパニブ、レンバチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、イブルチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、トファシチニブ、バリシチニブ、ルキソリチニブ、オラパリブ、ソラフェニブ、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブ、パルボシクリブ、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、パニツムマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、モガムリズマブ、アレムツズマブ、オファツムマブ、イピリムマブ、ラムシルマブ、ブレンツキシマブ ベドチン、トラスツズマブ エムタンシン、ゲムツズマブ オゾガマイシン、イノツズマブ オゾガマイシン等が挙げられる。
【0146】
以上より、本発明の抗体薬物複合体及びこれを含む医薬組成物は、がんの治療に使用することができる。すなわち、本発明の1態様は、がんを患う対象に、抗体薬物複合体又はこれを含む医薬組成物を投与することを含む、がんの治療方法であるともいえる。がんを患う対象は、ヒト患者であってもよいし、ヒト以外の動物であってもよい。
【実施例
【0147】
以下に本発明を、参考例、実施例及び試験例により、さらに具体的に説明するが、本発明はもとよりこれに限定されるものではない。なお、以下の参考例及び実施例において示された化合物名は、必ずしもIUPAC命名法に従うものではない。
【0148】
参考例及び実施例の化合物は、反応後の処理等の方法により、TFA塩等の酸付加塩として得られることもある。
【0149】
明細書の記載を簡略化するために参考例、実施例及び実施例中の表において以下に示すような略号を用いることもある。置換基として用いられる略号として、Meはメチル基、Etはエチル基、Bocはtert-ブトキシカルボニル基、Phはフェニル基を意味する。TFAはトリフルオロ酢酸、THFはテトラヒドロフラン、DMSOはジメチルスルホキシド、HEPESは2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸、EDTAはエチレンジアミン四酢酸を意味する。NMRに用いられる記号としては、sは一重線、dは二重線、ddは二重線の二重線、tは三重線、qは四重線、mは多重線、brは幅広い、brsは幅広い一重線、brdは幅広い二重線、brmは幅広い多重線、Jは結合定数を意味する。
【0150】
高速液体クロマト質量分析計;LCMSの測定条件は、以下の通りであり、観察された質量分析の値[MS(m/z)]を[M+nH]n+/n、[M+Na]、[M-nH]n-/nで、保持時間をRt(min)で示す。なお、各実測値においては、測定に用いた測定条件をA~D又はF~Hで付記する。
【0151】
測定条件A
検出機器:島津 LCMS-IT-TOF
Column:Phenomenex Kinetex(1.7μm C18,50mm×2.10mm)
Solvent:A液:0.1% HCOOH/CHCN、B液:0.1% HCOOH/H
Gradient Condition:
0.0分;A/B=1:99
0.0-1.4分 Linear gradient from A 1% to 95%
1.4-1.6分;A/B=95:5
1.6-2.0分;A/B=1:99
Flow rate:1.2mL/分
UV:220/254nm
カラム温度:40℃
【0152】
測定条件B
検出機器:島津 LCMS-IT-TOF
Column:Phenomenex Kinetex(1.7μm C18,50mm×2.10mm)
Solvent:A液:0.1% HCOOH/CHCN、B液:0.1% HCOOH/H
Gradient Condition:
0.0分;A/B=10:90
0.0-1.4分 Linear gradient from A 10% to 90%
1.4-1.6分;A/B=90:10
1.6-2.0分;A/B=10:90
Flow rate:1.2mL/分
UV:220/254nm
カラム温度:40℃
【0153】
測定条件C
検出機器:島津 LCMS-IT-TOF
Column:Phenomenex Kinetex(1.7μm C8,50mm×2.10mm)
Solvent:A液:0.1 % HCOOH/CHCN、B液:0.1% HCOOH/H
Gradient Condition:
0.0分;A/B=1:99
0.0-1.4分 Linear gradient from A 1% to 95%
1.4-1.6分;A/B=95:5
1.6-2.0分;A/B=1:99
Flow rate:1.2mL/分
UV:220/254nm
カラム温度:40℃
【0154】
測定条件D
検出機器:島津 LCMS-IT-TOF
Column:Phenomenex Kinetex(1.7μm C8,50mm×2.10mm)
Solvent:A液:0.1% HCOOH/CHCN、B液:0.1% HCOOH/H
Gradient Condition:
0.0分;A/B=10:90
0.0-1.4分 Linear gradient from A 10% to 95%
1.4-1.6分;A/B=95:5
1.6-2.0分;A/B=10:90
Flow rate:1.2mL/分
UV:220/254nm
カラム温度:40℃
【0155】
測定条件E
検出機器:島津 LCMS-IT-TOF
Column:Phenomenex Kinetex(1.7μm C8,50mm×2.10mm)
Solvent:A液:0.1% HCOOH/CHCN、B液:0.1% HCOOH/H
Gradient Condition:
0.0分;A/B=10:90
0.0-1.4分 Linear gradient from A 10% to 90%
1.4-1.6分;A/B=90:10
1.6-2.0分;A/B=10:90
Flow rate:1.2mL/分
UV:220/254nm
カラム温度:40℃
【0156】
測定条件G
検出機器:島津 LCMS-IT-TOF
Column:Phenomenex Kinetex(1.7μm C8,50mm×2.10mm)
Solvent:A液:0.1% HCOOH/CHCN、B液:0.1% HCOOH/H
Gradient Condition:
0.0分;A/B=100:0
0.0-1.6分 Linear gradient from A 100% to 1%
1.6-2.0分;A/B=1:99
Flow rate:1.2mL/分
UV:220/254nm
カラム温度:40℃
【0157】
測定条件H
検出機器:島津 LCMS-2020
Column:Phenomenex Kinetex(1.7μm C18,50mm×2.10mm)
Solvent:A液:0.1% HCOOH/CHCN、B液:0.1% HCOOH/H
Gradient Condition:
0.0分;A/B=10:90
0.0-1.7分 Linear gradient from A 10% to 99%
1.7-1.9分;A/B=99:1
1.9-3.0分;A/B=10:90
Flow rate:0.5mL/分
UV:220/254nm
カラム温度:40℃
【0158】
高速液体クロマトグラフ;平均薬物抗体比(平均DAR)を求める測定条件は、以下の通りである。
【0159】
なお、平均薬物抗体比(平均DAR)を求める測定の前処理に、得られた抗体薬物複合体にPNGaseを添加し、脱グリコシド化反応を行った。本条件は、Antibody-Drug Conjugates(Laurent Ducry編集、Humana Press刊行、2013年)等に記載されている方法等に準じて行うことができる。
【0160】
測定条件F
質量分析装置:SynaptHDMS(ウォーターズ社)
液体クロマトグラフィー:Acquity M class(ウォーターズ社)
Column:Intrada WP-RP(カタログ番号WPR22、50mm×2mm、インタクト社)
Solvent:A液:0.1% HCOOH/0.025% TFA/CHCN、B液:0.1% HCOOH/0.025% TFA/H
Gradient Condition:
0.0-1.0分;A/B=5:95
1.0-9.0分 Linear gradient from A 5% to 60%
9.0-12.0分;A/B=60:40
12.0-15.0分;A/B=5:95
Flow rate:0.1mL/分
カラム温度:37℃
【0161】
参考例1
N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-{(3S,4E)-6-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-2、5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル}-N,3-ジメチル-L-バリンアミド
【化21】
【0162】
a)メチル 2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパノエートの製造
窒素雰囲気下、-78℃のインドール-3-酢酸メチルエステル(3.8g)のテトラヒドロフラン(87mL)溶液にカリウムヘキサメチルジシラジド(1mol/Lテトラヒドロフラン溶液、65.5mL)を滴下した後、0℃で2時間撹拌した。反応液を-78℃に冷却後、ヨウ化メチル(23g)を滴下した後、0℃で3時間撹拌した。反応終了後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することによりメチル 2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパノエート(3.95g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.60 (3H, d, J =7.1 Hz),3.67 (3H, s), 3.76 (3H, s), 4.02 (1H, q, J = 7.1 Hz), 7.00 (1H, s),7.12 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.23 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.29 (1H, d, J = 7.8 Hz),7.66(1H, d, J= 7.8Hz).
【0163】
b)メチル 2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパノエートの製造
窒素雰囲気下、-78℃のメチル 2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパノエート(3.94g)のテトラヒドロフラン(200mL)溶液にカリウムヘキサメチルジシラジド(1mol/Lテトラヒドロフラン溶液、27.7mL)を滴下した後、0℃で2時間撹拌した。反応液を-78℃に冷却後、ヨウ化メチル(15.4g)を滴下した後、0℃で3時間撹拌した。反応終了後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することによりメチル 2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパノエート(3.59g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.66 (6H, s), 3.61 (3H, s), 3.73 (3H, s), 6.91 (1H, s), 7.06 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.19 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.27 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.61 (1H, d, J = 7.9 Hz).
【0164】
c)2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-1-オールの製造
窒素雰囲気下、-78℃のメチル 2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパノエート(3.59g)のジエチルエーテル(169mL)及びジクロロメタン(47mL)溶液に水素化ジイソブチルアルミニウム(1mol/L n-ヘキサン溶液、38.8mL)を滴下した後、0℃で1時間撹拌した。反応終了後、水を加えた後、25℃の反応混合物を、飽和酒石酸カリウムナトリウム水溶液を加えた後、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することにより2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-1-オール(3.14g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.42 (6H, s), 3.74 (3H, s), 3.77 (2H, s), 6.87 (1H, s), 7.07 (1H, t, J = 7.9 Hz), 7.20 (1H, t, J = 7.9 Hz), 7.29(1H, d, J = 8.0 Hz), 7.75 (1H, d, J = 8.0 Hz).
【0165】
d)2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパナールの製造
窒素雰囲気下、2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-1-オール(3.14g)、過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウム(271mg)、N-メチルモルホリン-N-オキシド(3.26g)及びモレキュラーシーブ4A(7.7g)のジクロロメタン(110mL)混合溶液を、25℃で1時間撹拌した。反応終了後、セライトにて濾過後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することにより2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパナール(2.4g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.53 (6H, s), 3.77 (3H, s), 6.94 (1H, s), 7.07 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.22 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.30 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.53(1H, d, J = 8.0 Hz), 9.47 (1H, s).
【0166】
e)(2S)-2-{[(1R)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]アミノ}-3-メチル-3-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)ブタンニトリルの製造
窒素雰囲気下、2-メチル-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパナール(2.4g)及び(R)-(-)-2-フェニルグリシノール(1.63g)のトルエン(47mL)溶液を1.5時間加熱還流し、ディーン・スターク装置で水を留去した後、溶媒を留去した。窒素雰囲気下、残渣に0℃のジクロロメタン(69mL)を加えた後、トリメチルシリルシアニド(2.36g)を加え、25℃で96時間撹拌した。反応溶液にフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(1mol/Lテトラヒドロフラン溶液、1mL)を加え、さらに30分間撹拌した後、水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することにより(2S)-2-{[(1R)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]アミノ}-3-メチル-3-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)ブタンニトリル(2.74g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.64 (3H, s), 1.65 (3H, s), 3.49-3.55 (1H, m), 3.73 (1H, dd, J = 10.9, 4.2 Hz), 3.79 (1H, s), 3.80 (3H, s), 4.05 (1H, dd, J = 7.9, 3.6 Hz), 6.96-7.00 (2H, m), 7.11(2H, d, J = 8.0 Hz), 7.21-7.40 (6H, m).
【0167】
f)Nα-[(1R)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミドの製造
(2S)-2-{[(1R)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]アミノ}-3-メチル-3-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)ブタンニトリル(2.74g)、ジメチルスルホキシド(6.16g)及び炭酸カリウム(10.9g)のメタノール(50mL)及び水(2.1mL)懸濁液に30%過酸化水素水(8.94mL)を0℃で加えた後、45℃で1.5時間撹拌した。反応終了後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を、水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール)で精製することによりNα-[(1R)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミド(2.32g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.49 (3H, s), 1.51 (3H, s), 2.06-2.14 (1H, br), 2.37 (1H, dd, J = 6.0, 6.0 Hz), 3.44-3.50 (1H, m), 3.50-3.54 (1H, m), 3.56-3.63 (m, 2H), 3.75 (3H, s), 5.52 (1H, brs), 6.14 (1H, brs), 6.71-6.73 (2H, m), 6.81-6.85 (2H, m), 6.97-7.00 (2H, m), 7.10-7.18 (2H, m), 7.24-7.28 (2H, m).
【0168】
g)β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミドの製造
Nα-[(1R)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミド(2.32g)のメタノール(65mL)溶液に水酸化パラジウム/炭素(2.8g)を加え、水素雰囲気下、室温にて3時間攪拌した。セライトにて濾過後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール)で精製することによりβ,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミド(1.27g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6):1.24 (2H, brs), 1.28 (3H, s), 1.42 (3H, s), 3.68 (1H, s), 3.71 (3H, s), 6.93-7.00 (2H, m), 7.06 (1H, s), 7.11 (1H, t, J = 7.7 Hz), 7.29 (1H, brs), 7.36 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.88 (1H, d, J = 8.2Hz).
【0169】
h)Nα-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミドの製造
β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミド(1.27g)、炭酸水素ナトリウム(522mg)、ジ-tert-ブチルジカルボネート(1.35g)、テトラヒドロフラン(13mL)、クロロホルム(13mL)及び水(6.5mL)の混合液を25℃にて16時間攪拌した。反応終了後、水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール)で精製することによりNα-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミド(1.80g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.33 (3H, s), 1.47 (9H, s),1.50 (3H, s), 3.73 (3H, d, J = 1.3 Hz), 4.51 (1H, brs), 4.86 (1H, brs), 5.02 (1H, brd, J = 8.2 Hz), 5.59 (1H, brd, J = 6.4 Hz), 6.83 (1H, d, J = 1.8 Hz), 7.15 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.21-7.25 (1H, m), 7.30 (1H, d, J = 8.2 Hz), 8.05 (1H, brd, J = 7.3 Hz).
LC-MS:346 (M+H)+ (1.211 min, 測定条件A).
【0170】
i)N,N,Nα-トリス(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミドの製造
Nα-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミド(1.79g)、ジ-tert-ブチルジカルボネート(2.8g)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.68g)、4-ジメチルアミノピリジン(0.19g)及びクロロホルム(20mL)の混合液を25℃にて2.5時間撹拌した。反応終了後、水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することによりN,N,Nα-トリス(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミド(1.99g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.08-1.58 (33H, m), 3.70 (3H, s), 4.67-4.90 (0.2H, m), 5.25-5.45 (0.8H, m), 6.00-6.03 (1H, m), 6.81-6.87 (1H, m), 7.04-7.09 (1H, m), 7.13-7.18 (1H. m), 7,21-7,27 (1H, m), 7.91-7.94 (1H, m).
LC-MS:546 (M+H)+ (1.630 min, 測定条件A)
【0171】
j)メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンエートの製造
窒素雰囲気下、N,N,Nα-トリス(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンアミド(2.29g)のメタノール溶液(21mL)に、リチウムメトキシド(176mg)を0℃で加えた後、25℃にて2時間撹拌した。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することによりメチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンエート(927mg)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): 1.17-1.59 (15H, m), 3.45 and 3.58 (3H, 2brs), 3.71 (3H, s), 4.56-4.73 (1.2H, m), 5.06 (0.8H, brd, J = 7.3 Hz), 6.81-6.82 (1H, m), 7.05-7.10 (1H, m), 7.16-7.21 (1H, m), 7.24-7.29 (1H, m), 7.73-7.80 (1H, m).
LC-MS: 361 (M+H)+ (1.379 min, 測定条件A).
【0172】
k)メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトファナートの製造
窒素雰囲気下、メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β,1-トリメチル-L-トリプトファンエート(927mg)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(13mL)に、60%含有水素化ナトリウム(168mg)を0℃で加えた後、25℃にて15分撹拌した。反応懸濁液を0℃にした後、ヨウ化メチル(1.1g)を加え、その後、25℃にて1時間撹拌した。反応終了後、水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することによりメチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトファナート(915mg)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.42 (9H, s), 1.52 and 1.64 (6H, 2s), 2.80 and 2.86 (3H, 2s), 3.46 (3H, s), 3.71 (3H, s), 5.27 and 5.52 (1H, 2s), 6.85 (1H, s), 7.07-7.27 (3H, m), 7.78 and 7.92 (1H, 2d, J = 7.88 Hz).
LC-MS: 397 (M+Na)+ (1.406 min, 測定条件B)
【0173】
l)N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトファンの製造
メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトファナート(639mg)の水(11mL)-メタノール(44mL)溶液に、1mol/L水酸化リチウム(13.5mL)を加え、60℃にて24時間撹拌した。反応終了後、1mol/Lシュウ酸水溶液を加え、反応溶液をpH4にした後、水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール)で精製することによりN-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトファン(610mg)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.43 (9H, s), 1.53 (3H, s), 1.63 (3H, s), 2.76 and 2.89 (3H, 2s), 3.71 (3H, s), 5.36 and 5.44 (1H, 2s), 6.85 and 6.87 (1H, 2s), 7.02-7.11 (1H, m), 7.18 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.24-7.27 (1H, m), 7.81 and 7.96 (1H, 2d, J = 7.9 Hz).
LC-MS: 361 (M+H)+, 359 (M-H)-(1.300 min, 測定条件A).
【0174】
m)N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-[(3S,4E)-6-エトキシ-2,5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミドの製造
N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトファン(500mg)、エチル(2E,4S)-2,5-ジメチル-4-[メチル(3-メチル-L-バリル)アミノ]ヘキサ-2-エノエート(520mg)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(399mg)、1-ヒドロキシ-1H-ベンゾトリアゾール・1水和物(425mg)及びN,N-ジメチルホルムアミド(5mL)の混合液を、25℃にて16時間撹拌した。反応終了後、水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することによりN-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-[(3S,4E)-6-エトキシ-2,5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(759mg)を得た。
LC-MS: 655 (M+H)+ (1.714 min, 測定条件A)
【0175】
n)N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-[(3S,4E)-5-カルボキシ-2-メチルヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミドの製造
N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-[(3S,4E)-6-エトキシ-2,5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(127mg)の水(1.55mL)-メタノール(4.65mL)溶液に、1mol/L水酸化リチウム(1.65mL)を加え、25℃にて24時間撹拌した。反応終了後、1mol/Lシュウ酸水溶液を加え、反応溶液をpH4にした後、水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール)で精製することによりN-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-[(3S,4E)-5-カルボキシ-2-メチルヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(93mg)を得た。
LC-MS: 627 (M+H)+ (1.508 min, 測定条件A)
【0176】
o)N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-{(3S,4E)-6-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-2、5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル}-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(参考例1)の製造
N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-[(3S,4E)-5-カルボキシ-2-メチルヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(185mg)、N-ヒドロキシスクシンイミド(97mg)、ブロモトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(391mg)、4-ジメチルアミノピリジン(102mg)、N、N-ジイソプロピルエチルアミン(108mg)及びN,N-ジメチルホルムアミド(2.8mL)の混合液を、25℃にて4時間撹拌した。反応終了後、水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール)で精製することによりN-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β,1-テトラメチル-L-トリプトフイル-N-{(3S,4E)-6-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-2、5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル}-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(166mg)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):8.27 and 7.96 (1H, 2d, J = 7.9 Hz), 7.16-7.04 (4H,m), 6.88 (1H, d, J = 9.1 Hz), 6.17 and 6.09 (1H, 2d, J = 8.5 Hz), 5.96 and 5.66 (1H, 2s), 5.07 (1H, t, J = 9.3 Hz), 4.45 and 3.87 (1H, 2d, J = 8.6 Hz), 3.74 and 3.73 (3H, 2s), 2.99 (3H, s), 2.95 (3H, s), 2.83 (4H, brs), 1.97 (3H, s), 1.92-1.86 (1H, m), 1.57-1.42 (14H, m), 0.89 (3H, d, J = 6.1 Hz), 0.83-0.80 (3H, m), 0.48 and 0.41 (9H, 2s).
LC-MS: 724 (M+H)+ (1.573 min, 測定条件A)
【0177】
参考例2
N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-{(3S,4E)-6-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-2、5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル}-N,3-ジメチル-L-バリンアミド
【化22】
【0178】
a)3-メチル-3-フェニルブタン酸の製造
3-メチル-2-ブテン酸(15g)のベンゼン(100mL)溶液に、10℃にて塩化アルミニウム(24.1g)を加え、30分撹拌した後、40℃で1時間撹拌した。0℃に冷却後、氷水を加え、tert-ブチルメチルエーテルで抽出し、ある程度濃縮し、有機層を飽和炭酸水素化ナトリウム水溶液で抽出した。水層を濃塩酸でpH2にし、tert-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去し、3-メチル-3-フェニルブタン酸(26.3g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.46 (6H, s), 2.65 (2H, s), 7.20 (1H, t, J = 7.2 Hz), 7.31 (1H, t, J = 7.2 Hz), 7.37 (2H, d, J = 7.2 Hz).
【0179】
b)(4S)-3-(3-メチル-3-フェニルブタノイル)-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-2-オンの製造
3-メチル-3-フェニルブタン酸(17.2g)のTHF溶液(900mL)に、-78℃でトリエチルアミン(23.7mL)及びピバロイルクロリド(15.3mL)を加えた。0℃に昇温して1時間撹拌した。別途、(S)-イソプロピルオキサゾリジノン(19.5g)のTHF溶液(760mL)に、-78℃でn-ブチルリチウム(1.64mol/Lヘキサン溶液89.8mL)を加え、30分撹拌し、リチウム塩を調製した。先の反応液を-78℃にし、リチウム塩を滴下し、1時間撹拌した後、0℃に昇温し、さらに30分撹拌した後、水を加え、tert-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:tert-ブチルメチルエーテル)で精製し、(4S)-3-(3-メチル-3-フェニルブタノイル)-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-2-オン(27.0g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):0.723 (3H, d, J = 6.8 Hz), 0.80 (3H, d, J = 6.8 Hz), 1.49 (s, 6H), 2.13-2.18 (m, 1H), 3.36 (s, 3H), 3.99-4.09 (m, 2H), 4.20-4.23 (m, 1H), 7.16-7.20 (m, 1H), 7.28-7.32 (m, 2H), 7.38-7.40 (m, 2H).
【0180】
c)(4S)-3-[(2S)-2-アジド-3-メチル-3-フェニルブタノイル]-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-2-オンの製造
(4S)-3-(3-メチル-3-フェニルブタノイル)-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-2-オン(27.0g)のTHF懸濁液(560mL)を-78℃に冷却し、カリウムヘキサメチルジシラジド(1.06mol/Lテトラヒドロフラン溶液、99.5mL)を加え、1.5時間撹拌した。-78℃の2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルアザイド(40g)のTHF溶液(330mL)を加え、10分後、酢酸(24.5mL)を加え、40℃に昇温し、1時間撹拌した。飽和食塩水を加え、tert-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:クロロホルム)にて精製し、(4S)-3-[(2S)-2-アジド-3-メチル-3-フェニルブタノイル]-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-2-オン(16.4g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):0.80 (3H, d, J = 6.8 Hz),0.84 (3H, d, J = 7.2 Hz), 1.54 (3H, s), 1.56 (3H, s), 2.28-2.33 (1H, m), 3.54-3.59 (1H, m), 3.87-3.90 (1H, m), 3.95-3.98 (1H, m), 5.66 (1H, s), 7.23-7.420 (5H, m).
【0181】
d)tert-ブチル{(2S)-3-メチル-1-オキソ-1-[(4S)-2-オキソ-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-3-イル]-3-フェニルブタン-2-イル}カルバメートの製造
(4S)-3-[(2S)-2-アジド-3-メチル-3-フェニルブタノイル]-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-2-オン(16.4g)の酢酸エチル溶液(1200mL)に、ジ-tert-ブチルジカルボネート(24.0g)及び10%Pd-C(11.6g、50%ウェット)を加え、水素雰囲気下、2時間撹拌した。セライトろ過し、酢酸エチルで洗浄した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:tert-ブチルメチルエーテル)にて精製し、tert-ブチル{(2S)-3-メチル-1-オキソ-1-[(4S)-2-オキソ-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-3-イル]-3-フェニルブタン-2-イル}カルバメート(16.1g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):0.77 (3H, d, J = 6.8 Hz), 0.82 (3H, d, J = 6.8 Hz), 1.42 (3H, s), 1.43 (9H, s), 1.48 (3H, s), 2.20-2.29 (1H, m), 3.45 (1H, t, J = 8.8 Hz), 3.80-3.83 (1H, m), 3.89-3.92 (1H, dd, J =2.0 Hz, J = 8.4 Hz), 5.16 (1H, brs), 6.13 (1H, d, J = 9.6 Hz), 7.21-7.26 (1H,m), 7.29-7.33 (2H, m), 7.42 (2H, d, J = 7.2 Hz).
【0182】
e)N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β-ジメチル-L-フェニルアラニンの製造
tert-ブチル{(2S)-3-メチル-1-オキソ-1-[(4S)-2-オキソ-4-(プロパン-2-イル)-1,3-オキサゾリジン-3-イル]-3-フェニルブタン-2-イル}カルバメート(16.1g)のTHF(468mL)及び水(117mL)溶液に、0℃にて30%過酸化水素水(32.5mL)及び水酸化リチウム水溶液(1mol/L,119mL)を加え、25℃に昇温し、3時間撹拌した。0℃にて硫酸水素ナトリウム水溶液(1.5mol/L,470mL)を加え、25℃に昇温し、1時間撹拌した。クエン酸水溶液(1mol/L)でpH3にし、tert-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β-ジメチル-L-フェニルアラニン(14.2g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.38 (9H, s), 1.44 (3H, s), 1.46 (3H, s), 4.56 (1H, brd, J = 11.6 Hz), 4.94 (1H, brd, J = 14.4 Hz), 7.21-7.38 (5H, m).
【0183】
f)メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β-ジメチル-L-フェニルアラニンエステルの製造
N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β-ジメチル-L-フェニルアラニン(14.2g)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(84mL)に、炭酸ナトリウム(8.44g)及びヨウ化メチル(9.91mL)を加え、25℃で15時間撹拌した。0℃に冷却後、冷水を加え、tert-ブチルメチルエーテルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:tert-ブチルメチルエーテル)で精製し、メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β-ジメチル-L-フェニルアラニンエステル(11.1g)を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):1.36 (9H, s), 1.37 (3H, s),1.41 (3H, s), 3.48 (3H, brs), 4.49 (1H, brd, J = 9.8 Hz), 4.98 (1H, brd, J =9.1 Hz), 7.18-7.22 (1H, m), 7.27-7.33 (4H, m).
【0184】
g)メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニンエステルの製造
参考例1-k)と同様の手法で、メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-β,β-ジメチル-L-フェニルアラニンエステル(307mg)からメチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニンエステル(245mg)を得た。
LC-MS: 344 (M+Na)+ (1.589 min, 測定条件C)
【0185】
h)N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニンの製造
参考例1-l)と同様の手法で、メチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニンエステル(235mg)からN-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニン(195mg)を得た。
LC-MS: 330 (M+Na)+ (1.420 min, 測定条件C)
【0186】
i)N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-[(3S,4E)-6-エトキシ-2,5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミドの製造
参考例1-m)と同様の手法で、N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニン(195mg)からN-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-[(3S,4E)-6-エトキシ-2,5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(307mg)を得た。
LC-MS: 624 (M+Na)+ (1.797 min, 測定条件C)
【0187】
j)N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-[(3S,4E)-5-カルボキシ-2-メチルヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミドの製造
参考例1-n)と同様の手法で、N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-[(3S,4E)-6-エトキシ-2,5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(307mg)からN-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-[(3S,4E)-5-カルボキシ-2-メチルヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(286mg)を得た。
LC-MS: 596 (M+Na)+, 572 (M-H)-(1.596 min, 測定条件C)
【0188】
k)N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-{(3S,4E)-6-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-2、5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル}-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(参考例2)の製造
参考例1-o)と同様の手法で、N-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-[(3S,4E)-5-カルボキシ-2-メチルヘキサ-4-エン-3-イル]-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(286mg)からN-(tert-ブトキシカルボニル)-N,β,β-トリメチル-L-フェニルアラニル-N-{(3S,4E)-6-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-2、5-ジメチル-6-オキソヘキサ-4-エン-3-イル}-N,3-ジメチル-L-バリンアミド(227mg)を得た。
LC-MS: 693 (M+Na)+ (1.658 min, 測定条件C)
【0189】
参考例3
tert-ブチル(6S,9S,12S,13E,17R)-9-tert-ブチル-17-{3-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-3-オキソプロピル}-2,2,5,11,14-ペンタメチル-6-[2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-2-イル]-4,7,10,15-テトラオキソ-12-(プロパン-2-イル)-3-オキサ-5,8,11,16-テトラアザオクタデカ-13-エン-18-カルボン酸エステル
【化23】
【0190】
a)(6S,9S,12S,13E,17R)-17-(tert-ブトキシカルボニル)-9-tert-ブチル-2,2,5,11,14-ペンタメチル-6-[2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-2-イル]-4、7,10,15-テトラオキソ-12-(プロパン-2-イル)-3-オキサ-5,8,11,16-テトラアザイコサ-13-エン-20-カルボン酸の製造
参考例1(30mg)、D-グルタミン酸 α-tert-ブチルエステル塩酸塩(10.7mg)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(49.7mg)及びN,N-ジメチルホルムアミド(1.0mL)の混合液を、25℃にて3時間撹拌した。反応終了後、水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール)で精製することにより(6S,9S,12S,13E,17R)-17-(tert-ブトキシカルボニル)-9-tert-ブチル-2,2,5,11,14-ペンタメチル-6-[2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-2-イル]-4、7,10,15-テトラオキソ-12-(プロパン-2-イル)-3-オキサ-5,8,11,16-テトラアザイコサ-13-エン-20-カルボン酸(14.2mg)を得た。
LC-MS 834 (M+Na)+ (1.574 min, 測定条件E)
【0191】
b)tert-ブチル(6S,9S,12S,13E,17R)-9-tert-ブチル-17-{3-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-3-オキソプロピル}-2,2,5,11,14-ペンタメチル-6-[2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-2-イル]-4,7,10,15-テトラオキソ-12-(プロパン-2-イル)-3-オキサ-5,8,11,16-テトラアザオクタデカ-13-エン-18-カルボン酸エステル(参考例3)の製造
参考例1-o)と同様の手法で、(6S,9S,12S,13E,17R)-17-(tert-ブトキシカルボニル)-9-tert-ブチル-2,2,5,11,14-ペンタメチル-6-[2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-2-イル]-4、7,10,15-テトラオキソ-12-(プロパン-2-イル)-3-オキサ-5,8,11,16-テトラアザイコサ-13-エン-20-カルボン酸(90.2mg)からtert-ブチル(6S,9S,12S,13E,17R)-9-tert-ブチル-17-{3-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-3-オキソプロピル}-2,2,5,11,14-ペンタメチル-6-[2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)プロパン-2-イル]-4,7,10,15-テトラオキソ-12-(プロパン-2-イル)-3-オキサ-5,8,11,16-テトラアザオクタデカ-13-エン-18-カルボン酸エステル(51.8mg)を得た。
LC-MS: 931 (M+Na)+ (1.662 min, 測定条件E)
【0192】
参考例4~19
参考例1及び参考例2を原料化合物として用い、参考例3の工程a)と同様に反応及び処理をし、下表に示す化合物を得た。
【0193】
【表1】
【0194】
参考例20
参考例11を原料化合物として用い、参考例3の工程b)と同様に反応及び処理をし、下表に示す化合物を得た。
【0195】
【表2】
【0196】
参考例21~23
参考例20と同様に反応及び処理をし、下表に示す化合物を得た。
【表3】
【0197】
参考例25
タルトブリンを原料化合物として用い、参考例1の工程o)と同様に反応及び処理をし、下表に示す化合物を得た。
【表4】
【0198】
参考例26~29
参考例25を原料化合物として用い、参考例3の工程a)と同様に反応及び処理をし、下表に示す化合物を得た。
【0199】
【表5】
【0200】
参考例30~32
参考例26、参考例27及び参考例28を原料化合物として用い、参考例3の工程b)と同様に反応及び処理をし、下表に示す化合物を得た。
【0201】
【表6】
【0202】
参考例33
【化24】
tert-ブチル(3S,6S,9S,10E,14R)-6-tert-ブチル-14-{[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]カルボニル}-8,11-ジメチル-4,7,12-トリオキソ-3-(2-フェニルプロパン-2-イル)-9-(プロパン-2-イル)-2,5,8,13-テトラアザヘプタデカ-10-エン-17-カルボン酸エステル(参考例33)の製造
参考例28(173mg)、N-ヒドロキシスクシンイミド(30.2mg)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(50.3mg)、テトラヒドロフラン(5mL)及びアセトニトリル(5mL)の混合液を25℃にて3日間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;ヘキサン:酢酸エチル)で精製することによりtert-ブチル(3S,6S,9S,10E,14R)-6-tert-ブチル-14-{[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]カルボニル}-8,11-ジメチル-4,7,12-トリオキソ-3-(2-フェニルプロパン-2-イル)-9-(プロパン-2-イル)-2,5,8,13-テトラアザヘプタデカ-10-エン-17-カルボン酸エステル(86.9mg)を得た。
LC-MS:756(M+H)(0.348min,測定条件H)
【0203】
実施例1
(3S,6S,9S,10E,14R)-6-tert-ブチル-14-{3-[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]-3-オキソプロピル}-8,11-ジメチル-4,7,12-トリオキソ-3-{2-フェニルプロパン-2-イル)-9-(プロパン-2-イル)-2,5,8,13-テトラアザペンタデカ-10-エン-15-カルボン酸
【化25】
参考例20(24.9mg)のクロロホルム溶液(1.0mL)にトリフルオロ酢酸(0.2mL)を加えて、25℃で72時間撹拌した。反応終了後、反応液を減圧濃縮することにより実施例1(15.6mg)をトリフルオロ酢酸塩として得た。
LC-MS:700(M+H)(1.140min,測定条件D)
【0204】
実施例2~8
実施例1と同様に反応及び処理をし、下表に示す化合物を得た。
【0205】
【表7】
【0206】
以下の実施例ADCにおいて用いたブレンツキシマブは、購入可能であるか、又は特許第4303964号明細書に従って製造することができる。
【0207】
実施例ADC1
ブレンツキシマブ-実施例1複合体(平均DAR:1.1)
【化26】
ブレンツキシマブ(500μg)のリン酸緩衝生理水溶液(19.5μL、pH7.4)に、50mmol/Lのリン酸カリウム、50mmol/LのHEPES及び2mmol/LのEDTAの混合緩衝液(7.17μL、pH8.0)及びDMSO(5μL)を加えた後、実施例1の10mmol/L DMSO溶液(13.3μL)を修飾化剤として加え、完全に混合し、25℃にて4時間インキュベートした。その後、リン酸緩衝生理水溶液(pH7.4)で予備平衡させたPD-10脱塩カラムで精製した後、遠心濃縮することで、実施例ADC1(257μg)を得た。
【0208】
得られたADCの平均DARは、LC-MSよって測定した。また、平均DARは、紫外可視吸収分光法(UV-Vis)、還元性又は非還元性SDS-PAGE、HPLC-HIC、SEC、RP-HPLC、LC-MS等によって、定性的又は定量的に測定することができる。これらの方法は、Antibody Drug Conjugates,Methods in Molecular Biology vol.1045,2013.pp267-284.L.Ducry,Ed.に記載される。
【0209】
LC-MS解析(測定条件F)により求めた実施例ADC1の平均DARは、1.1であった。
【0210】
実施例ADC2
ブレンツキシマブ-実施例1複合体(平均DAR:3.5)
【化27】
ブレンツキシマブ(500μg)の50mmol/Lのリン酸カリウム、50mmol/LのNaCl及び2mmol/LのEDTAの混合緩衝液(45μL、pH6.5)及びDMSO(5μL)を加えた後、実施例1の10mmol/L DMSO溶液(13.3μL)を修飾化剤として加え、完全に混合し、25℃にて14時間インキュベートした。その後、リン酸緩衝生理水溶液(pH7.4)で予備平衡させたPD-10脱塩カラムで精製した後、遠心濃縮し、測定条件Fで平均DARを解析することで、実施例ADC2(285μg)を得た。
【0211】
実施例ADC3
ブレンツキシマブ-実施例7複合体(平均DAR:1.2)
【化28】
ブレンツキシマブ(450μg)の50mmol/Lのリン酸カリウム、50mmol/LのNaCl及び2mmol/LのEDTAの混合緩衝液(45μL、pH6.5)及びDMSO(5μL)を加えた後、実施例7の10mmol/L DMSO溶液(6μL)を修飾化剤として加え、完全に混合し、25℃にて14時間インキュベートした。その後、リン酸緩衝生理水溶液(pH7.4)で予備平衡させたPD-10脱塩カラムで精製した後、遠心濃縮し、測定条件Fで平均DARを解析することで、実施例ADC3(305μg)を得た。
【0212】
実施例ADC4~9
対応する抗体と修飾化剤(実施例の化合物)を用いて実施例ADC2と同様に反応及び処理をし、下表に示すADCを得た。
【0213】
【表8】
【0214】
実施例ADC9~12
対応する抗体と修飾化剤(実施例の化合物)を用いて実施例ADC3と同様に反応及び処理をし、下表に示すADCを得た。
【0215】
【表9】
【0216】
以下に、本発明の抗体薬物複合体の特定の実施例に係る薬理試験結果を示し、その薬理作用を説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
【0217】
試験例1:細胞傷害性試験(1)
CD30抗原発現細胞株で、ヒトリンパ腫細胞株であるKarpas-299細胞(European Collection of Authenticated Cell Cultures、以下、ECACC)を、10%のウシ胎児血清(MP Biomedicals)を含むRPMI1640(GIBCO)(以下、この試験において、「培地A」という)で培養した。Karpas-299細胞を培地Aで2×10cells/mLになるように調製し、96穴細胞培養用マイクロプレートに50μLずつ添加した。培地Aで濃度を16μg/mLに調製したブレンツキシマブ、実施例ADC1又は実施例ADC2を、マイクロプレートに50μLずつ添加し、37℃、5%CO下で、4日間培養した。培養後、マイクロプレートをインキュベーターから取り出し、室温で10分間静置した。各ウェルに50μLのCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を添加し、撹拌した。この混合物を暗所で20分インキュベートし、マイクロプレートルミノメーターを用いて発光を計測することにより、化合物未添加処理した際に残存した細胞数に対する、ブレンツキシマブ、実施例ADC1又は実施例ADC2で処置した際に残存した細胞数の百分率を求めた。下表10にその結果を示す。
【0218】
【表10】
【0219】
試験例1に示す通り、実施例ADCを用いた場合は、その抗体部分であるブレンツキシマブを用いた場合と比較して、より顕著な細胞数の減少が確認された。このことから、本発明のADCは、薬剤をコンジュゲートしない抗体と比べて、DAR依存的に、より強い細胞傷害性を示すことが明らかとなった。
【0220】
試験例1の結果から、式(1)で表される実施例の化合物は、抗体リシン残基とのコンジュゲートし式(2)で表される複合体を形成することで、細胞傷害性試験において、抗体よりも強い活性を示すことが分かった。
【0221】
試験例2:細胞傷害性試験(2)
CD30抗原発現細胞株で、ヒトリンパ腫細胞株であるKarpas-299細胞(European Collection of Authenticated Cell Cultures、以下、ECACC)を、10%のウシ胎児血清(MP Biomedicals)を含むRPMI1640(GIBCO)(以下、この試験において、「培地A」という)で培養した。Karpas-299細胞を培地Aで2×10cells/mLになるように調製し、96穴細胞培養用マイクロプレートに50μLずつ添加した。培地Aで濃度を0.25μMに調製した化合物を、マイクロプレートに50μLずつ添加し、37℃、5%CO下で、4日間培養した。培養後、マイクロプレートをインキュベーターから取り出し、室温で10分間静置した。各ウェルに50μLのCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を添加し、撹拌した。この混合物を暗所で20分インキュベートし、マイクロプレートルミノメーターを用いて発光を計測することにより、化合物未添加処理した際に残存した細胞数に対する、化合物で処置した際に残存した細胞数の百分率を求めた。下表11にその結果を示す。
【0222】
【表11】
【0223】
上表11の比較例化合物とは、国際公開第2014/057436号に開示されている化合物から合成される抗体薬物複合体が、標的細胞内において非特許文献7に記載されているメカニズムの代謝を受けることによって生成される、下記の化合物を表す。
【化29】
【0224】
上表11の実施例ADC1代謝物とは、実施例ADC1が、標的細胞内において非特許文献8に記載されているメカニズムの代謝を受けることによって生成される、下記の化合物を表す。
【化30】
【0225】
試験例2に示す通り、比較例化合物は強い細胞傷害性を示したのに対し、実施例ADC1代謝物は、細胞傷害活性が弱いことが示された。
【0226】
試験例3:ブタチューブリンを用いた微小管重合阻害活性評価
Cytoskeleton社より購入したチューブリン重合阻害アッセイキット(カタログ番号:BK006P)を用い、キットに付属するプロトコールに従って、化合物の重合阻害活性を評価した。96穴マイクロプレートに、評価対象の化合物の80mM PIPES pH6.9、2mM MgCl、0.5mM EGTA、及び5%DMSO緩衝液を、10μLずつ添加し、これらに3mg/mLのブタチューブリン 80mM PIPES pH6.9、2mM MgCl、0.5mM EGTA、1mM GTP、及び10.2%glycerol溶液を100μLずつ添加した。チューブリンが重合する様子を経時的に調べるため、340nmの吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて、37℃にて測定した。チューブリンの重合が進むにつれて、340nmの吸光度は上昇する。
【0227】
チューブリン重合阻害活性は、アッセイ開始60分後における、重合したチューブリンの割合によって評価した。具体的には、化合物を加えていないウェルにおける重合したチューブリンの吸光度で、化合物を加えたウェルにおける重合したチューブリンの吸光度を除し、その値を100倍することで、微小管重合率(%)を算出した。下表12にその結果を示す。
【0228】
【表12】
【0229】
上記の結果は、9.1μMで実施した時の結果である。
【0230】
微小管重合率が低い値であるほど、化合物が微小管の重合を強く阻害していることを示す。
【0231】
試験例3の結果から、比較例化合物と実施例ADC1代謝物は同等の微小管重合阻害活性を示す。
【0232】
試験例1~3の結果から、本発明のADCは、抗原発現細胞内で代謝物を生成し、細胞傷害性を示す。そして、本発明のADCより生成された代謝物は、細胞死等により細胞外へ放出され全身暴露が生じても、細胞傷害性が弱いので、副作用が低いと考えられる。
【0233】
試験例4:細胞傷害性試験(3)
CD30抗原発現細胞株で、ヒトリンパ腫細胞株であるKarpas-299細胞(European Collection of Authenticated Cell Cultures、以下、ECACC)を、10%のウシ胎児血清(MP Biomedicals)を含むRPMI1640(GIBCO)(以下、この試験において、「培地A」という)で培養した。Karpas-299細胞を培地Aで2×10cells/mLになるように調製し、96穴細胞培養用マイクロプレートに50μLずつ添加した。培地Aで濃度を16μg/mLに調製した実施例ADCを、マイクロプレートに50μLずつ添加し、37℃、5%CO下で、4日間培養した。培養後、マイクロプレートをインキュベーターから取り出し、室温で10分間静置した。各ウェルに50μLのCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を添加し、撹拌した。この混合物を暗所で20分インキュベートし、マイクロプレートルミノメーターを用いて発光を計測することにより、化合物未添加処理した際に残存した細胞数に対する、実施例ADCで処置した際に残存した細胞数の百分率を求めた。下表13にその結果を示す。
【0234】
【表13】
【0235】
試験例5:ADCの細胞障害性試験
試験例1又は試験例4に記載の方法に準じ、ADCの活性を評価し、その結果を下表14に示した。
【表14】
【産業上の利用可能性】
【0236】
以上で説明したように、本発明の抗体薬物複合体は、抗原発現細胞に対し選択的に細胞傷害活性を示す、安全性に優れた抗がん剤となることが期待される。