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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】歩行計測システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021004247
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022108984
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正樹
(72)【発明者】
【氏名】萬 礼応
(72)【発明者】
【氏名】是永 賢二
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137226(JP,A)
【文献】特開2014-176461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行する対象者の脚部位置を追跡する歩行計測システムであって、
水平方向に沿って走査するように検出波を出射し、該検出波の反射状態に基づいて該検出波を反射した物体との距離に関する距離情報を経時的に取得する距離情報取得部と、
前記距離情報取得部で取得された前記距離情報に少なくとも基づき、前記対象者の脚部の移動軌跡を取得するデータ解析部と、を備え、
前記データ解析部は、
前記距離情報に基づいて、前記脚部の位置候補である1又は複数の観測値を検出する脚検出部と、
過去の時刻の前記観測値に少なくとも基づいて、前記対象者の両脚部の予測位置を算出する予測位置算出部と、
前記観測値と前記両脚部の予測位置との対応付けを行う相関処理部と、を有し、
前記相関処理部は、
前記両脚部の予測位置を基準に拡がる第1ゲートを設定すると共に、過去の時刻の前記観測値に応じて前記両脚部の予測位置を基準に拡がる第2ゲートを設定し、
前記第1ゲートと前記第2ゲートとが重なる領域内に存在する前記観測値に対して、前記両脚部の予測位置を対応付けする、歩行計測システム。
【請求項2】
前記相関処理部は、直前の処理時刻において前記対象者の右脚部に対応付けられた前記観測値と前記対象者の左脚部に対応付けられた前記観測値との双方が存在する場合、前記右脚部の予測位置と前記左脚部の予測位置との間の位置を中心に拡がる前記第2ゲートを設定する、請求項1に記載の歩行計測システム。
【請求項3】
前記相関処理部は、直前の処理時刻において前記両脚部のうちの何れか一方に対応付けられた前記観測値のみが存在する場合、前記両脚部のうちの当該何れか一方の予測位置を中心に拡がる前記第2ゲートを設定する、請求項1又は2に記載の歩行計測システム。
【請求項4】
前記相関処理部は、直前の処理時刻において前記対象者の右脚部に対応付けられた前記観測値と前記対象者の左脚部に対応付けられた前記観測値との双方が存在しない場合、前記右脚部の予測位置と前記左脚部の予測位置との間の位置を中心に拡がる前記第2ゲートを設定する、請求項1~3の何れか一項に記載の歩行計測システム。
【請求項5】
前記第2ゲートは、楕円であって、その長軸と短軸の比率が8:5である、請求項1~4の何れか一項に記載の歩行計測システム。
【請求項6】
前記対象者の歩行試験に用いられるシステムであって、
前記歩行試験は、前記対象者が、椅子に着席した状態から前記椅子に対して離れて配置されたマーカに向かって歩行し、前記マーカをターンした後、前記椅子に戻って再び着席する試験であり、
前記第2ゲートは、前記椅子から前記マーカに向かう方向に長尺な形状である、請求項1~5の何れか一項に記載の歩行計測システム。
【請求項7】
前記第1ゲートは、前記対象者の右脚部の予測位置を基準に拡がるゲートと、前記対象者の左脚部の予測位置を基準に拡がるゲートと、を含む、請求項1~6の何れか一項に記載の歩行計測システム。
【請求項8】
前記第1ゲートの範囲は、可変であり、
前記第2ゲートの範囲は、固定である、請求項1~7の何れか一項に記載の歩行計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化に伴う健康増進及び介護予防事業の一環として、歩行訓練が福祉関連施設等で実施されている。歩行能力、動的バランス及び敏捷性等を総合した機能的移動能力を評価可能な運動試験の一つに、例えばTimed up and go(TUG)試験がある。TUG試験は、被験者(対象者)が椅子に座った状態から立ち上がり、例えば3m先のマーカをターンして再び椅子に座る試験である。
【0003】
近年、このような歩行試験において歩行する対象者の脚部位置を追跡するシステムとして、特許文献1に記載された歩行計測システムが開発されている。歩行計測システムは、水平方向に沿って走査するように検出波を出射し、該検出波の反射状態に基づいて物体との距離に関する距離情報を経時的に取得する距離情報取得部と、距離情報に少なくとも基づいて対象者の脚部の移動軌跡を取得するデータ解析部と、を備える。データ解析部では、距離情報から脚部の位置候補である観測値を検出し、当該観測値と脚部との対応付け(相関処理)を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-137226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した技術では、過去の時刻の観測値から対象者の両脚部の予測位置を算出し、予測位置を基準に拡がるゲートを設定する。設定したゲート内に存在する観測値に基づいて、対象者の脚部の移動軌跡を取得する。しかしこの場合、例えば対象者を介添する介添人等の他者の脚部位置を、誤って対象者の脚部位置として追跡してしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、対象者の脚部位置を精度よく追跡することが可能な歩行計測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歩行計測システムは、歩行する対象者の脚部位置を追跡する歩行計測システムであって、水平方向に沿って走査するように検出波を出射し、該検出波の反射状態に基づいて該検出波を反射した物体との距離に関する距離情報を経時的に取得する距離情報取得部と、距離情報取得部で取得された距離情報に少なくとも基づき、対象者の脚部の移動軌跡を取得するデータ解析部と、を備え、データ解析部は、距離情報に基づいて、脚部の位置候補である1又は複数の観測値を検出する脚検出部と、過去の時刻の観測値に少なくとも基づいて、対象者の両脚部の予測位置を算出する予測位置算出部と、観測値と両脚部の予測位置との対応付けを行う相関処理部と、を有し、相関処理部は、両脚部の予測位置を基準に拡がる第1ゲートを設定すると共に、過去の時刻の観測値に応じて両脚部の予測位置を基準に拡がる第2ゲートを設定し、第1ゲートと第2ゲートとが重なる領域内に存在する観測値に対して、両脚部の予測位置を対応付けする。
【0008】
この歩行計測システムでは、例えば介添人等の他者の脚部位置が観測値として誤検出された場合でも、当該観測値が両脚部の予測位置に対応付けされてしまうのを第1ゲートによって抑制することができるのに加えて、第2ゲートによっても抑制することができる。したがって、他者の脚部位置を対象者の脚部位置として誤追跡してしまうことを抑制することができ、対象者の脚部位置を精度よく追跡することが可能となる。
【0009】
本発明に係る歩行計測システムでは、相関処理部は、直前の処理時刻において対象者の右脚部に対応付けられた観測値と対象者の左脚部に対応付けられた観測値との双方が存在する場合、右脚部の予測位置と左脚部の予測位置との間の位置を中心に拡がる第2ゲートを設定してもよい。この場合、確度の高い両脚部の予測位置の間の位置を中心にして、第2ゲートを設定することができる。
【0010】
本発明に係る歩行計測システムでは、相関処理部は、直前の処理時刻において両脚部のうちの何れか一方に対応付けられた観測値のみが存在する場合、両脚部のうちの当該何れか一方の予測位置を基準に拡がる第2ゲートを設定してもよい。この場合、両脚部のうちの確度の高い当該何れか一方の予測位置を基準にして、第2ゲートを設定することができる。
【0011】
本発明に係る歩行計測システムでは、相関処理部は、直前の処理時刻において対象者の右脚部に対応付けられた観測値と対象者の左脚部に対応付けられた観測値との双方が存在しない場合、右脚部の予測位置と左脚部の予測位置との間の位置を中心に拡がる第2ゲートを設定してもよい。これにより、両脚部の予測位置の確度がともに高くないと想定し得る場合に、両脚部の予測位置の間の位置を中心にして、第2ゲートを設定することができる。
【0012】
本発明に係る歩行計測システムでは、第2ゲートは、楕円であって、その長軸と短軸の比率が8:5であってもよい。これにより、対象者に対して第2ゲートの短軸方向に他者が近接する場合に、対象者の脚部位置を精度よく追跡する上記効果が特に有効となる。
【0013】
本発明に係る歩行計測システムは、対象者の歩行試験に用いられるシステムであって、歩行試験は、対象者が、椅子に着席した状態から椅子に対して離れて配置されたマーカに向かって歩行し、マーカをターンした後、椅子に戻って再び着席する試験であり、第2ゲートは、椅子からマーカに向かう方向に長尺な形状であってもよい。この場合、第2ゲートをTUG試験に適した形状とすることができる。
【0014】
本発明に係る歩行計測システムでは、第1ゲートは、対象者の右脚部の予測位置を基準に拡がるゲートと、対象者の左脚部の予測位置を基準に拡がるゲートと、を含んでいてもよい。この場合、誤検出された観測値が両脚部の予測位置に対応付けされてしまうことを、2つの第1ゲートにより効果的に抑制することが可能となる。
【0015】
本発明に係る歩行計測システムでは、第1ゲートの範囲は、可変であり、第2ゲートの範囲は、固定であってもよい。この場合、可変の第1ゲートにより柔軟に観測値を限定すると共に、固定の第2ゲートで確実に観測値を限定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、対象者の脚部位置を精度よく追跡することが可能な歩行計測システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、一実施形態に係る歩行計測システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1の歩行計測システムが適用されたTUG試験を示す概略図である。
図3図3は、図1の歩行計測システムのレーザレンジセンサを説明する平面図である。
図4図4(a)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。図4(b)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。図4(c)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。
図5図5(a)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。図5(b)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。
図6図6(a)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。図6(b)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。
図7図7(a)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。図7(b)は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。
図8図8は、歩行モデルを説明する図である。
図9図9は、脚部の予測位置を説明する図である。
図10図10は、第1ゲート及び第2ゲートを説明する図である。
図11図11は、第1ゲート及び第2ゲートを説明する他の図である。
図12図12は、図1の歩行計測システムにおける処理を示すフローチャートである。
図13図13(a)は、パーティクルフィルタを用いた対応付けを説明する図である。図13(b)は、パーティクルフィルタを用いた対応付けを説明する図である。図13(c)は、パーティクルフィルタを用いた対応付けを説明する図である。
図14図14(a)は、パーティクルフィルタを用いた対応付けを説明する図である。図14(b)は、パーティクルフィルタを用いた対応付けを説明する図である。図14(c)は、パーティクルフィルタを用いた対応付けを説明する図である。
図15図15は、比較例に係る歩行計測システム及び実施例に係る歩行計測システムによるTUG試験の追跡結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0019】
図1は、一実施形態に係る歩行計測システムの構成を示すブロック図である。図2は、図1の歩行計測システムが適用されたTUG試験を説明する概略図である。図1及び図2に示すように、歩行計測システム100は、椅子2と、マーカ3と、レーザレンジセンサ(Laser Range Sensor,距離情報取得部)10と、圧力センサ15と、電子制御装置20と、モニタ30と、ポール40と、を備える。歩行計測システム100は、歩行する被験者(対象者)1の脚部位置を追跡するシステムであって、定量的な歩行計測及び歩行能力評価を行うことができる。歩行計測システム100は、被験者1の歩行試験に用いられるシステムである。歩行計測システム100は、例えば歩行能力や動的バランス、敏捷性等を総合した機能的移動能力を評価する歩行試験の一つであるTUG試験に好適に適用することができる。
【0020】
TUG試験では、被験者1は、椅子2に座った状態から立ち上がり、所定距離(例えば3m)前方のコーン等のマーカ3に向かって歩行し、当該マーカ3をターンし、その後、椅子2まで戻って再び椅子2に着席する。TUG試験は、厚生労働省の体力測定マニュアルの一つである。TUG試験では、走らない最大歩行速度での歩行が求められる。マーカ3としては、ターン位置の目印となるものであれば、種々のマーカを用いることができる。TUG試験では、マーカ3とレーザレンジセンサ10との位置合わせを行うために、複数(ここでは2本)の基準部材としてのポール40が使用される。ポール40は、所定高さの円柱状外形を有する。所定高さは、レーザレンジセンサ10から出射されるレーザ光の高さ位置(レーザレンジセンサ10の光窓部の高さ)よりもポール40の上端が上方に位置する高さである。ポール40としては、その形状等は特に限定されず、種々のポールが使用される。歩行計測システム100は、このようなTUG試験における被験者1の両脚部の移動履歴及び歩行パラメータを計測して評価する。
【0021】
歩行計測システム100は、2本のポール40をレーザレンジセンサ10で検出することで、2本のポール40の中心同士を結ぶ直線を一軸に持つ平面座標系を定義することができ、マーカ3が設置される床面をこの平面座標系とすることができる。この場合、2本のポール40とマーカ3との位置関係を厳密に調整すれば(具体的には、2本のポール40を結ぶ線分の中点から、この線分の垂直線上の3mの位置にマーカ3を設置すれば)、レーザレンジセンサ10の設置位置及び/又は向きをラフに位置合わせをしたとしても、レーザレンジセンサ10とマーカ3との相対位置関係を厳密に把握することが可能となる。
【0022】
歩行計測システム100は、レーザレンジセンサ10で被験者1の両脚部をスキャンした際にみられる特徴的なパターンによって、脚部の位置候補である観測値としての脚部観測位置(以下、「観測値」又は「観測位置」ともいう)を取得し、カルマンフィルタを用いた追跡を行い、取得した両脚部の移動軌跡に基づき歩行パラメータを算出する。
【0023】
具体的には、歩行計測システム100では、被験者1の両脚部が接近する状況及び一時的に脚部がレーザレンジセンサ10から観測できない状況に対して、脚部の見失い及び誤識別を低減するために、5種類の観測パターンに基づき観測値を取得する。また、脚部の状態を考慮した有効領域(ゲート)を用いて、観測値と予測値との対応付けを行う。以下において、「脚部」を単に「脚」とも称し、「立脚部」を単に「立脚」とも称し、「遊脚部」を単に「遊脚」とも称する。「左脚部」を単に「左脚」とも称し、「右脚部」を単に「右脚」とも称する。「片脚部」を単に「片脚」とも称し、「両脚部」を単に「両脚」とも称する。
【0024】
実際の人の歩行(両脚の速度)は周期的に変化する。特に、TUG試験では、被験者1に走らない最大歩行速度で行うように指示を与えるため、両脚の速度変化が大きい。そこで、歩行計測システム100では、歩行位相を考慮した加減速モデルを歩行モデルとして適用する。人は、歩行する際に、片脚を軸足(立脚)としてもう一方の脚(遊脚)を振るといった周期的な運動を行う。「歩行位相」とは、人の歩行中の両脚の周期的な運動を立脚と遊脚との振りの状態に基づいて分類したものである(例えば図8参照)。
【0025】
また、歩行計測システム100では、パーティクルフィルタを利用し、観測値と予測値との対応付けをパーティクルフィルタで行い、各仮説(対応付け)に対する両脚部の状態量更新には、カルマンフィルタを用いる。その際に、歩行位相の遷移及び観測パターンの遷移を考慮して,各パーティクルの尤度としての重みを算出する。
【0026】
図3は、図1の歩行計測システム100のレーザレンジセンサ10を説明する平面図である。レーザレンジセンサ10は、両脚部の移動軌跡を取得するためのセンサである。レーザレンジセンサ10は、ある高さの二次元平面におけるセンサ周辺の物体までの距離である二次元平面距離情報(以下、単に「距離情報」ともいう)を取得する。図3に示すように、レーザレンジセンサ10は、水平方向に沿って走査するようにレーザ光(検出波)Lを出射すると共に、このレーザ光Lの反射状態に基づいて、レーザ光Lを反射した被験者1の脚部F(右脚部F及び左脚部F)との距離に関する二次元平面距離情報を経時的に取得する。
【0027】
具体的には、レーザレンジセンサ10では、レーザ光Lを出射すると共に、このレーザ光Lを回転ミラーで反射させることにより、測定領域においてレーザ光Lを扇状に水平方向に走査する。より具体的には、レーザレンジセンサ10は、被験者1と、被験者1の両側に設置されたポール40が測定領域に含まれるように、レーザ光Lを扇状に水平方向に走査する。そして、例えば被験者1の脚部Fで反射されたレーザ光Lの反射光を受光し、反射光の検出角度(走査角度)、及びレーザ光Lの出射から受光までの時間(伝播時間)を計測し、該脚部Fとの角度及び距離に係る情報を含む距離情報を検出する。
【0028】
レーザレンジセンサ10は、例えばTUG試験試行前もしくはTUG試験試行後に被験者1にレーザ光Lをスキャンし、被験者1の脚部Fの幅(脛部の直径に対応する長さ)に関する脚部情報を検出する。レーザレンジセンサ10は、検出した距離情報及び脚部情報を電子制御装置20へ出力する。
【0029】
レーザレンジセンサ10は、レーザ光Lを出射する光窓部の高さが調整可能に構成されている。レーザレンジセンサ10は、被験者1の脛部の高さ(つまり、足首から膝下までの高さ)に対応する高さ位置でレーザ光Lが出射されるように設置されている。レーザレンジセンサ10の光窓部の高さは、マーカ3でレーザ光Lが反射しないように、マーカ3の高さよりも高い位置とされている。レーザレンジセンサ10の光窓部の高さは、遊脚期に被験者1の脚部Fが離床した場合にも当該脚部Fを観測可能であること、及び、脚部Fの幅が最大となる平均高さを考慮して、例えば床面(地面)から0.15m~0.27m(ここでは、0.27m)とされている。
【0030】
レーザレンジセンサ10は、椅子2の座部下方に形成された空間内にて、レーザ光Lの出射方向がマーカ3側に向くように配置されている。レーザレンジセンサ10は、マーカ3に近づく(椅子2から遠ざかる)被験者1の後方側から、つまり、マーカ3から遠ざかる(椅子2に近づく)被験者1の前方側から、当該被験者1にレーザ光Lを照射する。レーザレンジセンサ10は、レーザ光Lの出射方向が床面に対して水平になるように設置されている。
【0031】
レーザレンジセンサ10としては、測距範囲が0.1~30m、測域角度が270deg、測距精度が±30mm、角度分解能が0.25deg、及びサンプリング周期が25ms/scanのセンサが用いられている。ちなみに、レーザレンジセンサ10は、そのタイプや仕様(スペック)について限定されるものではなく、例えば測定環境に応じて種々のものを用いることができる。なお、レーザレンジセンサ10は、例えばEMI(電磁ノイズ)の悪影響を抑制するために、筐体により囲まれていてもよい。
【0032】
圧力センサ15は、被験者1が椅子2から立ち上がる事象と、椅子2に着席する事象とを検出するセンサである。圧力センサ15は、椅子2の座面上に敷かれるように設けられている。圧力センサ15は、印加された圧力に関する圧力情報を検出し、当該圧力情報を電子制御装置20へ出力する。ここでの圧力センサ15の圧力情報は電圧値であり、当該電圧値は、マイコン基板を介してA/D変換されて電子制御装置20へ入力される。電子制御装置20は、立ち上がり事象とその時刻とを関連付けて記憶し、着席事象とその時刻とを関連付けて記憶する。
【0033】
電子制御装置20は、レーザレンジセンサ10で取得した距離情報に基づく演算を行って被験者1の脚部Fの位置及び速度を経時的に特定し、被験者1の歩行特性を取得する。電子制御装置20は、音(音声)及び表示の少なくとも何れかのスタート合図(後述)を、被験者1に対して出力する。スタート合図は、計測者の操作に応じて電子制御装置20から出力される。電子制御装置20は、スタート合図の時刻を記憶する。なお、スタート合図は、電子制御装置20とは別の機器又は計測者により実行してもよい。この場合、スタート合図の時刻は、電子制御装置20とは別の機器又は計測者により、電子制御装置20へ入力される。
【0034】
電子制御装置20としては、例えば、パーソナルコンピュータや専用制御用コンピュータが用いられ、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read OnlyMemory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。電子制御装置20は、機能的要素として、センサデータ取得部21と、記憶部22と、着席判定部23、データ解析部24と、を有している。
【0035】
センサデータ取得部21は、レーザレンジセンサ10で検出した距離情報と圧力センサ15で検出した圧力情報とを、同期して取得する。また、センサデータ取得部21は、電子制御装置20に記憶されたスタート合図の時刻に同期して距離情報を取得してもよい。センサデータ取得部21は、レーザレンジセンサ10で検出した脚部情報を取得する。センサデータ取得部21は、取得した距離情報、脚部情報及び圧力情報を記憶部22へ出力する。センサデータ取得部21は、取得した圧力情報を着席判定部23へ出力する。
【0036】
記憶部22は、センサデータ取得部21で取得した距離情報及び圧力情報を、処理時刻(サンプリング時刻)に関連付けて格納する。記憶部22は、センサデータ取得部21で取得した被験者1の脚部情報を格納する。着席判定部23は、センサデータ取得部21で取得した圧力センサ15の圧力情報に基づいて、被験者1が着席したか否かを判定する。例えば着席判定部23は、圧力センサ15からの電圧値が閾値よりも大きく立ち上がっている場合に、着席していると判定する。着席判定部23は、圧力センサ15からの電圧値が閾値以下の場合に、着席していないと判定する。着席判定部23は、判定結果を記憶部22に出力し、記憶部22は、当該判定結果を記憶する。
【0037】
データ解析部24は、TUG試験試行後において記憶部22に保存された保存データを解析することにより、被験者1の歩行パラメータを取得する。データ解析部24は、レーザレンジセンサ10で取得された距離情報に少なくとも基づき、パーティクルフィルタを用いて、被験者1の脚部Fの移動軌跡を取得する。データ解析部24は、脚検出部(観測値検出部)26、脚追跡部27、及び歩行パラメータ算出部28を有する。歩行パラメータとしては、一般的歩行パラメータ及びTUG試験に関する歩行パラメータがある。
【0038】
一般的歩行パラメータは、一般的な歩行試験において転倒リスクを評価するための歩行パラメータであって、着床位置、歩行速度[m/秒]、歩数[歩]、歩行率[歩/秒]、歩幅[m]、ストライド長[m]、歩隔[m]、及び、立脚時間(片脚立脚時間[s]及び両脚立脚時間[s]の少なくとも何れか)を含む。TUG試験に関する歩行パラメータは、TUG試験において転倒リスクを評価するためのパラメータであって、反応時間(立上がり時間)[秒]、TUG遂行時間[秒]、ターン方向、一歩目時間(一歩目の離床時間)[秒]、及び、マーカ3との最短距離[m]を含む。
【0039】
歩行パラメータは、次の5つのフェーズで区分して算出することができる。換言すると、歩行パラメータは、次の5つのフェーズ毎に算出される。このとき、歩幅、ストライド長、歩隔、片脚立脚時間、両脚立脚時間については、その平均、標準偏差及び変動係数がフェーズ毎に算出される。なお、歩行パラメータは、これらの5つのフェーズに区切って算出される場合に限定されず、全体(区切らない)で算出されてもよいし、前半及び後半(左右)の2つに区切って算出されてもよい。各フェーズの区分は、例えば被験者1の脚部Fの位置等に基づいて行うことができる。
(1)スターティングフェーズ(Starting phase)
(2)フォーワードフェーズ(Forward phase)
(3)ターニングフェーズ(Turning phase)
(4)リターンフェーズ(Return phase)
(5)シッティングダウンフェーズ(Sitting down phase)
【0040】
スターティングフェーズは、着席状態から歩行開始までのフェーズである。例えばスターティングフェーズは、椅子2から一定範囲を被験者1が抜けるまでのフェーズである。
フォーワードフェーズは、歩行開始から旋回動作手前までのフェーズである。例えばフォーワードフェーズは、被験者1が歩行動作を開始してからマーカ3を回る前までのフェーズである。ターニングフェーズは、旋回動作時のフェーズである。例えばターニングフェーズは、被験者1がマーカ3を回っている間のフェーズである。リターンフェーズは、旋回動作後から着席前までのフェーズである。例えばリターンフェーズは、被験者1がマーカ3を回った後から着席する前までのフェーズである。シッティングダウンフェーズは、椅子に戻って振り返って着席する際のフェーズである。例えばシッティングダウンフェーズは、椅子2から一定範囲を被験者1が一度抜けた後に再び当該一定範囲に入っているときのフェーズである。一定範囲は、例えば椅子2からマーカ3側に0.25mの範囲である。
【0041】
着床位置は、脚部Fが床面に着床した位置である。歩行率は、単位時間当たりの歩数である。片脚立脚時間は、同じ脚の着床(接床)から離床までの時間である。両脚立脚時間は、一方の脚の着床から他方の脚の離床までの時間である。歩幅は、一方の脚の着床位置(例えば踵位置)から他方の脚の着床位置までの距離である。ストライド長は、同じ脚についての隣接する着床位置間の距離である。歩隔は、前額面における(被験者1を正面から見た場合における)両脚の踵の間隔である。
【0042】
反応時間は、歩行試験の開始時刻(スタート合図の時刻)から被験者1が立ち上がる(臀部が椅子2の座面から離れる)までの時間である。TUG遂行時間は、TUG試験の遂行時間であり、歩行試験の開始時刻から終了まで(椅子2に着席した被験者1が動き出してから再び着席するまで)の時間である。一歩目時間は、歩行試験の開始時刻から被験者1が一歩目の脚部Fを上げる(離床する)までの時間である。マーカ3との最短距離は、マーカ3中心と脚部Fの移動軌跡との最短距離である。
【0043】
本実施形態において、データ解析部24は、レーザレンジセンサ10で取得された距離情報に基づいて、1又は複数の観測値を検出する。データ解析部24は、複数のパーティクル毎に、観測値、観測値無しとする観測結果のうちの何れかに対して、被験者1の両脚部の予測位置のそれぞれをランダムに対応付けし、両脚部の位置を時間に関連付けて取得する。これと共に、データ解析部24は、歩行位相の遷移、及び、両脚部が該当する観測パターンの遷移から重みを算出する。データ解析部24は、複数のパーティクルの中から重みに基づいて何れかの対応付けのパーティクルを選出し、選出した当該パーティクルにおける両脚部の予測位置に基づいて、被験者1の脚部Fの移動軌跡を取得する。以下、データ解析部24の処理について詳細に説明する。
【0044】
[脚検出]
図4図7は、観測値の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。図4(a)及び図6(a)は、SL(Single Leg)パターンの例を説明する図である。図4(b)及び図6(b)は、LT(twoLegs Together)パターンの例を説明する図である。図4(c)及び図7(a)は、FS_O(Forward Straddle Observable)パターンの例を説明する図である。図5(a)及び図7(b)は、FS_U(Forward Straddle Unobservable)パターンの例を説明する図である。図5(b)は、UO(Unobservable)パターンの例を説明する図である。
【0045】
脚検出部26は、予め設定された観測パターンを用いて、レーザレンジセンサ10が取得した二次元平面距離情報に基づき、被験者1の脚部Fの位置候補である観測値(観測値ベクトルy :=(x ,y ),(j=1…J))を検出する。具体的には、脚検出部26は、脚部Fの二次元平面距離情報が特徴的な形状となることに鑑み、二次元平面距離情報にエッジ検出処理を施して脚部FのエッジEの位置を検出する。脚検出部26は、複数の観測パターンを用いたパターン認識によって、当該エッジEの位置から観測値を検出する。このとき、脚検出部26は、被験者1の脚部Fの幅wに関する脚部情報を用い、脚部Fの幅wを既知とする。脚検出部26による脚検出について、以下に詳説する。なお、以下では、「観測値ベクトル」を単に「観測値」ともいう。
【0046】
被験者1がレーザレンジセンサ10の計測範囲内に存在し、レーザレンジセンサ10と被験者1の間に障害物がない場合には、レーザレンジセンサ10が取得する二次元平面距離情報は、図4(a)~図5(b)に示すような特徴的な形となる。脚検出部26は、5種類の観測パターンを考慮した脚検出手法により、観測値を算出する。
【0047】
脚検出部26は、まず、レーザレンジセンサ10で取得した右からi番目の距離情報をlとし、隣接するレーザレンジセンサ10の二次元平面距離情報が被験者1の脚部Fの幅wに対して、下記数式1を満たす場合、エッジe (h=B,F)を検出する。このとき、l>li+1の場合は、エッジe =i及びエッジe m+1=i+1とする。l<li+1の場合は、エッジe =i及びエッジe m+1=i+1とする。上添え字Bは、レーザレンジセンサ10に対して奥側のエッジEであることを示し、上添え字Fは、手前側のエッジEであることを示す。下添え字m(m=1,・・・,M)はm番目に検出したエッジEであることを示す。Mは、時刻(以下、「処理時刻」ともいう)kにおいて検出したエッジEの総数である。
【数1】
【0048】
そして、連続した4つのエッジe ,e n+1,e n+2,e n+3の位置関係及びエッジe n+1,e n+2間の幅wに基づいて、5種類の観測パターンに分類し、観測値yを算出する。ただし、n=1,・・・,M-3で、下添え字kは時刻kにおける観測位置であることを示す。
【0049】
図4(a)及び図6(a)に示すように、SLパターンとしての観測パターンO1は、脚部Fが単独でレーザレンジセンサ10から完全に観測できている場合の観測パターンである。観測パターンO1は、エッジEの組み合わせが(e ,e n+1,e n+2,e n+3)を満たすと共に、エッジE間の幅が0.5w<w≦1.5wを満たす。このとき、観測値yは、被験者1の脚部Fの幅wを考慮して、図4(a)に示すように求められる。例えば観測値y は、図示するように、(e n+1+e n+2)/2を通るラインと脚部Fの幅wの1/2とから求められる。
【0050】
図4(b)及び図6(b)に示すように、LTパターンとしての観測パターンO2は、脚部Fがそろってレーザレンジセンサ10から完全に観測できている場合の観測パターンである。観測パターンO2は、エッジEの組み合わせが(e ,e n+1,e n+2,e n+3),(e ,e n+1,e n+2,e n+3)又は(e ,e n+1,e n+2,e n+3)を満たすと共に、エッジE間の幅が1.5w<w<3.0wを満たす。このとき、観測値yは、被験者1の両脚が揃っていることを考慮して、図4(b)に示すように求められる。例えば観測値y j+1は、図示するように、(e n+1+3e n+2)/4を通るラインと脚部Fの幅wの1/2とから求められる。例えば観測値y は、図示するように、(3e n+1+e n+2)/4を通るラインと脚部Fの幅wの1/2とから求められる。
【0051】
図4(c)及び図7(a)に示すように、FS_Oパターンとしての観測パターンO3は、片方の脚部Fや杖等の影響によってパターンが段状になり、エッジEの位置間の幅が被験者1の脚部Fの幅wの1/2以上あり、且つ、脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から観測できている場合の観測パターンである。観測パターンO3は、エッジEの組み合わせが(e ,e n+1,e n+2,e n+3)又は(e ,e n+1,e n+2,e n+3)を満たすと共に、エッジE間の幅が0.5w≦w<1.5wを満たす。このとき、観測値yは、被験者1の脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から観測できることを考慮して、図4(c)に示すように求められる。例えば観測値y は、図示するように、(e n+1+e n+2)/2を通るラインと脚部Fの幅wの1/2とから求められる。
【0052】
図5(a)及び図7(b)に示すように、FS_Uパターンとしての観測パターンO4は、FS_Oパターンである観測パターンO3に対して、エッジE間の幅が被験者1の脚部Fの幅wの1/2より小さく、且つ、脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から直接観測できない場合の観測パターンである。観測パターンO3は、エッジEの組み合わせが(e ,e n+1,e n+2,e n+3)又は(e ,e n+1,e n+2,e n+3)を満たすと共に、エッジE間の幅が0.3w<w<0.5wを満たす。このとき、観測パターンO1~O3とは異なり脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10で直接観測できないため、観測値yは、図5(a)に示すように仮想的に算出される。例えば観測値y は、図示するように、e n+1を通るライン及びe n+2を通るラインと、脚部Fの幅wの1/2と、から求められる。図7(b)中の中抜きの正方形は、仮想のエッジを示す。
【0053】
図5(b)に示すように、UOパターンとしての観測パターンO5は、一方の脚部Fが他方の脚部Fに隠れる際やレーザレンジセンサ10よりも高く脚部Fを上げた際等における、観測できない場合の観測パターンである。
【0054】
なお、脚部Fがレーザレンジセンサ10から直接観測できない状況においても、FS_Uパターンである観測パターンO4を定義して仮想的に観測値yを求めることで、脚部Fの位置の計測精度の向上が期待される。観測値yの検出では、観測パターンO1~O4を満たさないエッジEの位置は脚部Fではないと判定することができる。また、不要な相関処理を避けるために、歩行路の領域に対して所定長広い領域を測定領域とし、測定領域外の観測値yとそれに対応するエッジEの位置とを除外する。
【0055】
観測値yの検出では、エッジEの位置間の中央ではなく、例えばエッジEの位置から脚部Fの幅wの1/2だけ内側に入った位置が、観測値yとして検出される。以上のように複数の観測パターンO1~O5に応じて脚部Fの観測値yを検出することにより、レーザレンジセンサ10から見て一方の脚部Fが重なって隠れた場合にも、脚部Fを好適に検出することが可能となる。
【0056】
[脚追跡]
脚追跡部27は、歩行位相を考慮した歩行モデルを用いた予測処理を行い、両脚部の位置及び速度を推定する。予測処理では、カルマンフィルタを用いている。
【0057】
図8は、歩行モデルを説明する図である。人は、歩行する際、一方の脚を軸足(立脚)としながら他方の脚(遊脚)を振って歩行を進める。両脚は、着床によって遊脚と立脚とを変えながら、加減速を伴う周期的に運動する。図8に示すように、そこで、脚追跡部27では、脚部Fの移動速度v及び加速度aの変化に着目して、静止時も含めた以下の6つの歩行位相を含む歩行モデルを適用する。
・位相0: 静止時で両脚が立脚
・位相1:左脚が遊脚(加速,振上げ動作),右脚が立脚
・位相2:左脚が遊脚(減速,着床に向けた動作),右脚が立脚
・位相3:左脚が立脚,右脚が遊脚(加速,振上げ動作)
・位相4: 左脚が立脚,右脚が遊脚(減速,着床に向けた動作)
・位相5:両脚が遊脚(歩行時には見られない)
【0058】
なお、TUG試験では被験者1に走らない最大歩行速度で行うように指示を与えることから、両脚の速度変化が大きい。そのため、加減速を行うモデルが歩行モデルとして適用されている。また、人の重心を追跡する場合には,状態変数に角度,角速度を含んだ非線形モデルが用いられることが多い一方、TUG試験においては、ターン動作時に両脚の移動方向が急激に変化することから、移動方向に対する指向性を持たない線形の移動モデルを適用することが望ましい。そこで、歩行モデルとしては、移動方向に対する指向性を持たない線形の移動モデルを適用する。
【0059】
脚追跡部27は、左右の各脚部Fに対して位置及び速度を状態量ベクトルとして状態方程式を設定し、各脚部Fに対して追跡処理を行う。脚追跡部27は、立脚、遊脚(加速)及び遊脚(減速)の3つの運動モデルを定義する。このような加減速を伴う歩行モデルを考慮した場合の各脚部Fの離散時間システム方程式は、下記数式2で与えられる。上付き添え字fは、f=L,Rでそれぞれ左脚及び右脚を示す。
【数2】
【0060】
状態量ベクトルは、下記数式3に示される。下記数式4は、それぞれ時刻kにおける被験者1の各脚部Fの位置及び速度である。
【数3】

【数4】
【0061】
ベクトルuf,m は、歩行位相に応じて与えられる未知の外部入力(加速度入力)であり、下記数式5に示す。上付き添え字mは、m番目の運動モデルを示す。モデル1を立脚(静止)の運動モデルとし、モデル2を遊脚(加速)の運動モデルとし、モデル3を遊脚(減速)の運動モデルとしている。立脚時の運動モデル1においては0、遊脚で加速する運動モデル2においては進行方向に対して正の値、遊脚で減速する運動モデル3においては進行方向に対して負の値として与える。加速度入力の大きさは、過去Nac時間ステップ分の遊脚中の加速ベクトル(下記数式6参照)のノルムの平均値として算出する。
【数5】

【数6】
【0062】
また、脚部Fの動きは移動方向を含め変動するため、運動モデルから変動を加速度外乱として、システム雑音(下記数式7参照)に含め、平均0及び共分散行列Qの正規性白色雑音で与えるものとする。状態方程式の状態遷移行列A、入力行列B 及び駆動行列Bは、それぞれ下記数式8となる。
【数7】

【数8】
【0063】
また、レーザレンジセンサ10を用いて取得した各脚部Fの観測値y を下記数式9とすると、観測方程式は、下記数式10で与えられる。ここで、Δy は平均0、共分散Rの正規性白色雑音であるとする。このとき、行列Cは、下記数式11となる。
【数9】

【数10】

【数11】
【0064】
図1に示されるように、脚追跡部27は、立脚遊脚判定部27a、歩行位相判定部27b、予測位置算出部27c、相関処理部27d、更新処理部27e、重み算出部27f、及び、リサンプリング部27gを有する。
【0065】
立脚遊脚判定部27aは、脚部Fの速度に基づいて、脚部Fが立脚(支持脚)及び遊脚の何れであるかを判定する立脚遊脚判定を行う。立脚遊脚判定部27aは、右脚において、下記数式12を満たす場合に立脚と判定する一方、下記数式13を満たす場合に遊脚と判定する。vst_thは立脚の速度閾値を示し、vsw_thは遊脚の速度閾値を示す。立脚遊脚判定部27aは、左脚においても同様に、つまり、右脚と左脚とを入れ替えた下記数式12及び下記数式13により、立脚遊脚判定を行う。
【数12】

【数13】
【0066】
歩行位相判定部27bは、両脚部の相対的な位置関係及び速度に基づいて歩行位相を判定し、歩行位相が位相0~5の何れであるかを特定する。具体的には、まず、両脚部とも立脚の場合、位相0と特定する。次に、左脚部が遊脚で右脚部が立脚の場合、左脚部の右脚部に対する位置ベクトルと左脚部の速度ベクトルの内積(下記数式14参照)が正の値をとるときには位相1と特定し、負の値をとるときには位相2と特定する。また、左脚部が立脚で右脚部が遊脚の場合、同様に、右脚部の左脚部に対する位置ベクトルと右脚部の速度ベクトルの内積が正の値をとるときには位相3と特定し、負の値をとるときには位相4と特定する。両脚部が遊脚の場合、位相5と特定する。歩行位相判定部27bで歩行位相が位相5と特定した場合、データ解析部24は、被験者1が走行していると判定する。
【数14】
【0067】
ここで、本実施形態の脚追跡部27では、Rao-Blackwellizedパーティクルフィルタ(以下、単に「パーティクルフィルタ」ともいう)を用いて、歩行位相及び脚部Fの観測パターンの遷移を考慮した、複数時刻にわたる対応付けの仮説に基づく両脚追跡手法を採用している。複数物体の追跡においては、追跡対象と時刻kにおいてセンサで取得した観測値yとの対応付けc(cは対応付けのインデックスを示す)及び追跡対象の状態量xを推定する必要がある。対応付け及び追跡対象の状態は、パーティクルフィルタのみでも求められ得るが、対応付けの組合せ毎に状態量に関してパーティクルを多数生成する必要があり、計算量が大きい。そのため、パーティクルフィルタでは、下記数式15により、追跡対象の状態量と対応付けを求める。なお、例えばパーティクル数は100としてもよい。
【数15】
【0068】
パーティクルフィルタでは、p(c1:k|ベクトルy1:k)において、ある観測が得られた際に、対応付けのみをパーティクルフィルタで算出する。次に、p(ベクトルx|c1:k,ベクトルy1:k)において、対応付けられた観測値yに従いカルマンフィルタで状態量を更新する。状態量の更新処理はカルマンフィルタで行うため、それぞれの対応付けの組合せ毎に多数のパーティクルを生成する必要がない。脚追跡部27では、歩行位相及び観測パターンの状態遷移確率に基づき、各パーティクルの尤度として重みを算出することで、例えば高齢者等の被験者1の旋回動作を含む歩行における両脚追跡性能を向上する。
【0069】
予測位置算出部27cは、カルマンフィルタを用いて両脚部の位置を予測することで、両脚部の予測位置を算出する。予測位置算出部27cは、複数のパーティクル毎に、過去の時刻の両脚部の位置に基づいて、時刻kにおける各脚部Fの予測位置である脚部予測位置(以下、単に「予測位置」ともいう,図9の「×」を参照)を算出する。上付きの(n),(n=1,…,N)はn番目のパーティクルであることを示す。各脚部Fの予測位置ベクトルy^f,(n) k/k-1は、上記数式(2)で示した状態方程式により、下記数式16で与えられる。ベクトルx^f,(n) k/k-1は、n番目のパーティクルの時刻kにおける事前状態推定値を示す。ベクトルx^f,(n) k-1/k-1は、n番目のパーティクルの時刻k-1における事後状態推定値である。なお、図9中では、「◇」は観測値yを示し、ラインは脚部Fの移動軌跡を示し、ライン上における「□」及び「■」は左脚部及び右脚部の位置をそれぞれ示す(以降の図において同様)。なお、以下では、「予測位置ベクトル」を単に「予測位置」ともいう。
【数16】
【0070】
相関処理部27dは、両脚部の予測位置と観測値yとの対応付けを行う。相関処理部27dは、両脚部の予測位置と観測値yとの対応付けをパーティクル毎にランダムに行う。ただし、相関処理部27dは、対応付けを行う観測値yを限定するために、予測位置にゲートGA(図10参照)を設定し、「(i)ゲートGA内に含まれる1又は複数の観測値y」と、観測値yに誤検出が含まれる場合も考慮して「(ii)観測値y 無しとする観測結果(観測値yが無い場合)」と、の何れかに対して両脚部の予測位置のそれぞれをランダムに対応付けする。
【0071】
本実施形態では、ゲートGAは、第1ゲートGA1及び第2ゲートGA2を含む。すなわち、相関処理部27dは、両脚部の予測位置を基準に拡がる第1ゲートGA1を設定すると共に、過去の時刻の観測値に応じて両脚部の予測位置を基準に拡がる第2ゲートGA2を設定する。相関処理部27dは、上記(i)の場合、第1ゲートGA1と第2ゲートGA2とが重なる領域内に存在する観測値yに対して両脚部の予測位置を対応付けする。
【0072】
第1ゲートGA1は、被験者1の右脚部Fの予測位置を基準に拡がるゲートと、被験者1の左脚部Fの予測位置を基準に拡がるゲートと、を含む。ここでの第1ゲートGA1は、両脚部の各予測位置(図10の実線の「×」参照)を中心として拡がる2つの円形領域である。第1ゲートGA1の範囲は、可変である。例えば脚部Fが遊脚状態と判定されたときの第1ゲートGA1の範囲を、脚部Fが立脚状態と判定されたときの第1ゲートGA1の範囲に比べて広くなるように変化させてもよい。例えば第1ゲートGA1の範囲を、脚部Fの速度vが大きいほど広くなるように変化させてもよい。
【0073】
第2ゲートGA2は、椅子2からマーカ3に向かう方向に長尺な形状である。第2ゲートGA2は、椅子2からマーカ3に向かう方向を長軸方向とする楕円である。第2ゲートGA2の楕円は、被験者1の横側に介添人がいることが多いことを考慮し、その長軸と短軸の比率が8:5である。第2ゲートGA2の範囲は、固定である。第2ゲートGA2の範囲は、一般的な人の歩幅に基づいて予め定められた所定範囲である。
【0074】
例えば、椅子2からマーカ3に向かう水平方向をx座標とし、椅子2からマーカ3に向かう水平方向と直交する水平方向をy座標とした場合、第2ゲートGA2の楕円は、((x-x)/a)+((y-y)/b)<1で表すことができる。このとき、中心座標は、(xc,yc)である。aは、定数であって、例えば0.8である。bは、定数であって、例えば0.5である。
【0075】
第2ゲートGA2の設定について、具体的に説明する。相関処理部27dは、過去の時刻の両脚部の観測値yそれぞれの有無に応じて、両脚部の予測位置を基準に拡がる第2ゲートGA2を設定する。図10に示されるように、相関処理部27dは、直前の処理時刻において被験者1の右脚部Fに対応付けられた観測値yと被験者1の左脚部Fに対応付けられた観測値yとの双方が存在する場合、現在の処理時刻において、右脚部Fの予測位置と左脚部Fの予測位置との間の位置を中心に拡がる第2ゲートGA2を設定する。図示するように、ここでの第2ゲートGA2の中心は、右脚部Fの予測位置と左脚部Fの予測位置との間の中間位置である(図中の点線の「×」参照))。直前の処理時刻とは、現在の処理時刻の1つ前の処理時刻である。例えば、現在の処理時刻は時刻kであり、直前の処理時刻は時刻k-1である。
【0076】
相関処理部27dは、図11に示されるように、直前の処理時刻において両脚部のうちの何れか一方に対応付けられた観測値yのみが存在する場合、現在の処理時刻においては、両脚部のうちの当該何れか一方の予測位置を中心に拡がる第2ゲートGA2を設定する。
【0077】
相関処理部27dは、直前の処理時刻において被験者1の右脚部Fに対応付けられた観測値yと被験者1の左脚部Fに対応付けられた観測値yとの双方が存在しない場合、現在の処理時刻においては、右脚部Fの予測位置と左脚部Fの予測位置との間の位置を中心に拡がる第2ゲートGA2を設定する。ここでの第2ゲートGA2の中心は、右脚部Fの予測位置と左脚部Fの予測位置との間の中間位置である。
【0078】
観測値yが第1ゲートGA1に含まれているか否か、及び、観測値yが第2ゲートGA2に含まれるか否かは、下記数式17を利用して判定する。d(n)2 f,jは、マハラノビス距離であり、下記数式18で与えられる。Sf,(n) は、観測予測誤差(y -y^f,(n) k/k-1)の共分散行列である。Gは、第1ゲートGA1及び第2ゲートGA2のそれぞれに対応する。Gは、観測値yが二次元ベクトルでカルマンフィルタを用いる本実施形態の場合、自由度2のカイ二乗(χ)分布に基づいて決定される。
【数17】

【数18】
【0079】
更新処理部27eは、複数のパーティクル毎に、相関処理部27dによる対応付けの後、脚部Fの状態量を更新する。具体的には、更新処理部27eは、複数のパーティクル毎に、相関処理部27dにより対応付けを行った観測値yを用いて、カルマンフィルタの更新処理(例えば、共分散行列等の状態量の更新)を行う。ただし、更新処理部27eは、対応付けを行った観測値yがない場合(例えば、UOパターンとしての観測パターンO5の場合)、事前状態推定値及び事前共分散行列をそれぞれ事後状態推定値及び事後共分散行列とする。これにより、複数のパーティクル毎に、両脚部の位置及び速度が推定される。また、更新処理部27eは、複数のパーティクル毎に、推定された両脚部の位置及び速度の情報に基づき、歩行位相判定部27bにより歩行位相を判定する。
【0080】
重み算出部27fは、複数のパーティクル毎に、更新処理部27eによる更新の後、被験者1の歩行状態の遷移から重みw(n) を算出する。具体的には、重み算出部27fは、各パーティクルの重みw(n) を、各脚の一時刻前からの歩行位相(位相0~5)及び脚部Fの観測パターン(観測パターンO1~O5)の遷移確率から、下記数式19のように算出(更新)する。
【数19】
【0081】
上記数式19における第二項目は、各脚部Fのカルマンフィルタの観測値yの尤度及び観測パターンO1~O5の状態遷移確率の積で算出される。本実施形態では、一時刻前の観測パターンO1~O5からの遷移確率行列を下記数式20のように定義した。下記数式20の横の並びは、左から順に、遷移前(1時刻前)の観測パターンO1~O5(SLパターン,LTパターン,FS_Oパターン,FS_Uパターン,UOパターン)のそれぞれに対応する。下記数式20の縦の列の値は、上から順に、遷移前の観測パターンから観測パターンO1~O5へ遷移する確率を示す。下記数式20で表されるように、重みw(n) を算出するための観測パターンO1~O5の遷移は、次の特徴を有する。1時刻前に脚が単独で観測される状態である観測パターンO1の場合は、次の時刻でも観測パターンO1である確率が高くなるように設定されており、逆に、もう片方の脚でほとんど隠れてしまう観測パターンO4に遷移することはないように設定されている。1時刻前に両脚が揃っている状態である観測パターンO2の場合は、次の時刻でも観測パターンO2である確率と脚が単独で観測される状態である観測パターンO1に遷移する確率とが高くなるように設計されている。1時刻前に両脚がずれて段状に観測される状態である観測パターンO3の場合は、次の時刻でも観測パターンO3である確率と脚が単独で観測される観測パターンO1あるいはもう片方の脚にほとんど隠れてしまう状態である観測パターンO4に遷移する確率とが高くなるように設計されている。1時刻前がもう片方の脚にほとんど隠れてしまう観測パターンO4の場合は、次の時刻でも同じ観測パターンO4である確率と、もう片方の脚の後方から外れて観測が可能になる観測パターンO3あるいは片方の脚に完全に隠れてしまう観測パターンO5になる確率とが高くなるように設定されている。一時刻前に脚が観測できていない観測パターンO5の場合は、次の時刻でも観測パターンO5である確率が高く、他の観測パターンにはほぼ同程度の確率で遷移するように設定されている。
【数20】
【0082】
上記数式19における第三項目は、歩行位相の状態遷移確率に関する。本実施形態では、一時刻前の位相0~5からの遷移確率行列を下記数式21のように定義した。下記数式21の横の並びは、左から順に、遷移前(1時刻前)の位相0~5のそれぞれに対応する。下記数式21の縦の列の値は、上から順に、遷移前の位相から遷移後の位相0~5へ遷移する確率を示す。下記数式21で表されるように、重みw(n) を算出するための位相0~5の遷移は、次の特徴を有する。1時刻前に静止状態である位相0の場合は、次の時刻でも位相0である確率と左右いずれかの脚で歩き始める際の位相1および3に遷移する確率とが高くなるように設定されている。1時刻前に左脚が遊脚で加速している位相1の場合は、次の時刻でも位相1である確率と減速する位相2に遷移する確率とが高くなるように設定されている。1時刻前に左脚が遊脚で減速している位相2の場合は、次の時刻でも位相2である確率と右脚が遊脚で加速し始める位相3あるいはそのまま静止してしまう位相0に遷移する確率とが高くなるように設定されている。右脚が遊脚である位相3,4に関しても、位相1,2と同様の遷移を考慮した設計を行っている。また、位相0~4の場合には、次の時刻で歩行時には現れない位相5へ遷移する確率は非常に小さく設計されている。また、1時刻前が位相5の場合には、次の時刻で位相0~4へ同等の確率で遷移するように設計している。
【数21】
【0083】
本実施形態では、重み算出部27fは、被験者1の歩行試験のフェーズがスターティングフェーズである場合、更新処理部27eによる更新の後、複数のパーティクルの中から、右脚部Fの推定位置が左脚部Fの推定位置よりも左側にある(換言すると、左脚部Fの推定位置が右脚部Fの推定位置よりも右側にある)一部を選択する。つまり、重み算出部27fは、スターティングフェーズにおいて左右の脚部Fが入れ替わって誤推定されたであろう一部のパーティクルを選択する。そして、重み算出部27fは、選択した一部のパーティクルについての重みw(n) を小さくする(例えば1/10にする)。具体的には、重み算出部27fは、選択した一部のパーティクルについて、上記数式19の右辺に0よりも大きく1よりも小さい係数(例えば1/10)をかけたものを用いて、重みw(n) を算出(更新)する。
【0084】
なお、右脚部Fの推定位置が左脚部Fの推定位置よりも左側にあるか否かは、y座標系において右端を0として左側を正とする場合、どちらの推定位置のy座標が大きいかに基づいて判定することができる。
【0085】
リサンプリング部27gは、重みw(n) に基づいて淘汰及び複製されるように複数のパーティクルをリサンプリングする。例えばリサンプリング部27gは、重みw(n) が小さいほど淘汰され且つ重みw(n) が大きいほど複製されるように、複数のパーティクルをリサンプリングする。具体的には、リサンプリング部27gは、各パーティクルの重みw(n) を正規化し、下記数式22により有効サンプルサイズを算出する。リサンプリング部27gは、Neff が閾値より小さい場合に、リサンプリングを行う。例えばリサンプリング部27gは、等間隔リサンプリングを行う。なお、リサンプリング部27gで実施されるリサンプリングの具体的手法は特に限定されず、公知の種々のリサンプリング手法を用いてもよい。
【数22】
【0086】
脚追跡部27は、複数のパーティクルにおいて全時刻における両脚部の位置及び速度が推定された後であって最終的な重みw(n) の更新及びリサンプリングがなされた後、複数のパーティクルの中から重みw(n) に基づいて何れかの対応付けのパーティクルを選出する。ここでは、脚追跡部27は、複数のパーティクルの中から重みw(n) が最も大きい何れか一つを選出する。脚追跡部27は、選出した当該パーティクルにおける両脚部の位置及び速度に基づいて、被験者1の脚部Fの移動軌跡を取得する。
【0087】
[歩行パラメータの算出]
歩行パラメータ算出部28は、取得した両脚部の移動軌跡から、歩行パラメータを算出する。歩行パラメータ算出部28は、立脚時間算出部28aと、着床位置算出部28bと、歩幅、歩隔及びストライド長算出部28cと、一歩目時間算出部28dと、反応時間算出部28eと、TUG遂行時間算出部28fと、を有する。
【0088】
立脚時間算出部28aは、片脚立脚時間及び両脚立脚時間を求める。本実施形態では、片脚立脚時間及び両脚立脚時間を求めるために、両脚の踵と中足骨部とに圧力センサを取り付けて行った被験者実験の解析結果に基づいて、接床時刻及び離床時刻を移動軌跡の取得後に厳密に算出する。
【0089】
着床位置算出部28bは、歩幅,ストライド長,歩隔を算出するために、まず着床位置を求める。着床位置算出部28bは、レーザレンジセンサ10が脛の高さの脚部Fの移動軌跡を取得することから、直接、脚部Fの位置を計測することは困難である。そこで、着床位置算出部28bは、立脚中に脚部Fの速さが最小となった時刻に脚部Fが床面に対して垂直になることを考慮し、その時刻の脚部Fの位置を着床位置として算出する。
【0090】
歩幅、歩隔及びストライド長算出部28cは、算出した着床位置に基づいて、歩幅と歩隔とストライド長とを算出する。一歩目時間算出部28dは、スタート合図の時刻から一歩目の脚部Fが離床した時刻までの時間差を、一歩目時間として算出する。反応時間算出部28eは、椅子2の上に設置した圧力センサ15からの電圧値が、座っている状態から変動した時刻(閾値以下へ下がった時刻)を、反応時刻として算出する。反応時間算出部28eは、スタート合図の時刻から反応時刻までの時間差を、反応時間として算出する。
【0091】
TUG遂行時間算出部28fは、被験者1が再び椅子2に着席すると圧力センサ15の電圧値が変動することを利用し、当該電圧値の立上がり時刻を終了時刻とする。つまり、圧力センサ15で検出した圧力情報に基づいて、被験者1の椅子2への着席を検出する。TUG遂行時間算出部28fは、スタート合図から終了時刻までの時間差を、TUG試験の試験遂行時間として算出する。
【0092】
また、歩行パラメータ算出部28は、両脚部の移動軌跡とマーカ3の中心位置とに基づいて、マーカ3との最短距離を算出する。歩行パラメータ算出部28は、取得した両脚部の移動軌跡から、その他の一般的歩行パラメータを算出する。
【0093】
モニタ30は、データ解析部24で解析した解析結果を出力する出力部である。モニタ30は、データ解析部24で解析した解析結果を表示し、被験者1にフィードバックする。モニタ30は、センサデータ取得部21で取得された、又は、記憶部22に記憶された距離情報、脚部情報及び圧力情報を出力することもできる。なお、モニタ30は、表示に代えて又は加えて音声等を出力する構成としてもよい。また、モニタ30に代えて若しくは加えて、演算結果等を紙媒体にプリント出力するプリンタを備えていてもよい。モニタ30は、電子制御装置20と一体的に設けられていてもよく、例えばパーソナルコンピュータや専用制御用コンピュータ等の表示部であってもよい。
【0094】
[歩行計測システム100による歩行計測]
次に、本実施形態の歩行計測システム100を用いてTUG試験における歩行特性を計測する場合について、図12に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0095】
図12に示すように、TUG試験における計測の処理は、キャリブレーションフェーズ(試行前のキャリブレーション)と、計測フェーズ(TUG試験の試行中の計測)と、解析フェーズ(試行後のデータ解析)と、の3つのフェーズに分けられる。キャリブレーションフェーズでは、2本のポール40を用いてレーザレンジセンサ10の位置合わせ、及び、被験者1の脚部Fの幅wの計測が行われる。キャリブレーション終了後、例えば電子制御装置20から音で被験者1にスタート合図(TUG試験開始の指示)が通知され、計測フェーズに移行する。計測フェーズでは、レーザレンジセンサ10の距離情報と圧力センサ15の圧力情報とが同期されて取得及び保存される。そして、圧力情報から被験者1の着席が検出された後、解析フェーズに移行する。解析フェーズでは、データ解析部24において、保存したデータを基に両脚部の位置の追跡が行われて移動軌跡が取得され、取得された移動軌跡に基づいて歩行パラメータが算出される。以下に具体的に説明する。
【0096】
まず、被験者1に動作を開始させる前に、キャリブレーションが実行される。キャリブレーションでは、レーザレンジセンサ10によるスキャンが実行される。すなわち、レーザレンジセンサ10から、水平方向に沿って走査するようにレーザ光Lが出射され、レーザ光Lの反射状態に基づいて距離情報が取得される(ステップS1)。これにより、被験者1の脚部F及び2つのポール40の位置が観測される。
【0097】
観測された脚部Fのエッジ位置間の幅から、被験者1の脚部Fの幅(脚部情報)wが検出される(ステップS2)。検出された脚部情報は記憶部22に保存される。レーザレンジセンサ10で2つのポール40の位置関係を求めることで、レーザレンジセンサ10がマーカ3に対して適切な位置及び方向で設置されているか否かが計測者等によって確認され、必要に応じてレーザレンジセンサ10の位置合わせが実施される(ステップS3)。なお、前述したように2本のポール40とマーカ3との相対位置関係を厳密にさえすれば、レーザレンジセンサ10の設置精度は粗くても構わない。
【0098】
キャリブレーションが終了するまで、上記ステップS1~ステップS3における一連の処理が繰り返し実施される(ステップS4)。キャリブレーションが終了してから何秒か経過後、自動的に(又は、計測者による手動で)スタート合図が被験者1に通知され、TUG試験が開始される(ステップS5)。
【0099】
TUG試験の試行中においては、レーザレンジセンサ10によるスキャンが実行され、センサデータ取得部21により、被験者1の脚部Fの距離に関する距離情報が経時的に取得される(ステップS6)。センサデータ取得部21により、圧力センサ15から圧力情報が取得される(ステップS7)。着席判定部23により、当該圧力情報に基づいて被験者1が起立したか否かが判定される(ステップS8)。被験者1が起立していないと判定された場合、上記ステップS6の処理へ戻る。被験者1が起立していると判定された場合、着席判定部23により、当該圧力情報に基づいて被験者1が着席したか否かが判定される(ステップS9)。着席していないと判定された場合、未だTUG試験の途中であり、上記ステップS6の処理へ戻る。被験者1が着席したと判定された場合、TUG試験が終了したとして、以下のデータ解析が実行される。
【0100】
データ解析では、脚位置の追跡プロセスが行われ、パーティクルフィルタにおける複数のパーティクルの初期化が行われる(ステップS10)。時刻kにおいて、保存された距離情報に基づき脚検出部26により観測値yが検出される(ステップS11)。時刻kにおいて、各パーティクル毎に、予測位置算出部27cにより予測位置が算出される(ステップS12)。時刻kにおいて、各パーティクル毎に、相関処理部27dによりランダムに対応付けが行われる(ステップS13)。時刻kにおいて、各パーティクル毎に、更新処理部27eにより状態量が更新される(ステップS14)。これにより、時刻kにおける両脚部の位置及び速度が推定される。時刻kにおいて、各パーティクル毎に、重み算出部27fにより重みw(n) が算出される(ステップS15)。時刻kにおいて、リサンプリング部27gによりリサンプリングが行われる(ステップS16)。
【0101】
続いて、記憶部22に記憶された保存データ(時刻に関連付けられて保存された距離情報)の全てについて、上記データ解析に係る各処理が終了したかを判定するデータ終了判定が行われる(ステップS17)。上記ステップS17でNoの場合、次の時刻の上記ステップS11の処理へ以降する。一方、上記ステップS17でYesの場合、脚位置の追跡プロセスが終了したと判断される。
【0102】
その後、脚追跡部27は、複数のパーティクルの中から重みw(n) が最も大きい何れか一つを選出する。脚追跡部27は、選出した当該パーティクルにおける両脚部の位置及び速度に基づいて、TUG試験における被験者1の両脚部の移動軌跡を取得する。そして、歩行パラメータ算出部28により、取得した両脚部の移動軌跡から歩行パラメータが算出される(ステップS18)。保存データ解析の解析結果及び/又は歩行パラメータがモニタ30に出力される(ステップS19)。
【0103】
以上、歩行計測システム100では、例えば介添人等の他者の脚部位置が観測値yとして誤検出された場合でも、当該観測値yが両脚部の予測位置に対応付けされてしまうのを第1ゲートGA1によって抑制することができるのに加えて、第2ゲートGA2によっても抑制することができる。したがって、他者の脚部位置を被験者1の脚部位置として誤追跡してしまうことを抑制することができ、被験者1の脚部位置を精度よく追跡することが可能となる。
【0104】
歩行計測システム100では、相関処理部27dは、直前の処理時刻において被験者1の右脚部Fに対応付けられた観測値yと被験者1の左脚部Fに対応付けられた観測値yとの双方が存在する場合、右脚部Fの予測位置と左脚部Fの予測位置との間の位置を中心に拡がる第2ゲートGA2を設定する。この場合、確度の高い両脚部の予測位置の間の位置を中心にして、第2ゲートGA2を設定することができる。
【0105】
歩行計測システム100では、相関処理部27dは、直前の処理時刻において両脚部のうちの何れか一方に対応付けられた観測値yのみが存在する場合、両脚部のうちの当該何れか一方の予測位置を基準に拡がる第2ゲートGA2を設定する。この場合、両脚部のうちの確度の高い当該何れか一方の予測位置を基準にして、第2ゲートGA2を設定することができる。
【0106】
歩行計測システム100では、相関処理部27dは、直前の処理時刻において右脚部Fに対応付けられた観測値yと左脚部Fに対応付けられた観測値yとの双方が存在しない場合、右脚部Fの予測位置と左脚部Fの予測位置との間の位置を中心に拡がる第2ゲートGA2を設定する。これにより、両脚部の予測位置の確度がともに高くないと想定し得る場合においては、両脚部の予測位置の間の位置を中心にして、第2ゲートGA2を設定することができる。
【0107】
歩行計測システム100では、第2ゲートGA2は、楕円であって、その長軸と短軸の比率が8:5である。これにより、被験者1に対して第2ゲートGA2の短軸方向に近接する他者が存在し易い場合に、被験者1の脚部位置を精度よく追跡する上記効果が特に有効となる。
【0108】
歩行計測システム100は、被験者1のTUG試験に用いられるシステムであり、第2ゲートGA2は、椅子2からマーカ3に向かう方向に長尺な形状である。この場合、第2ゲートGA2をTUG試験に適した形状とすることができる。
【0109】
歩行計測システム100では、第1ゲートGA1は、被験者1の右脚部Fの予測位置を基準に拡がるゲートと、被験者1の左脚部Fの予測位置を基準に拡がるゲートと、を含んでいる。この場合、誤検出された観測値yが両脚部の予測位置に対応付けされてしまうことを、2つの第1ゲートGA1により効果的に抑制することが可能となる。
【0110】
歩行計測システム100では、第1ゲートGA1の範囲は可変であり、第2ゲートGA2の範囲は、固定である。この場合、可変の第1ゲートGA1により柔軟に観測値yを限定すると共に、固定の第2ゲートGA2で確実に観測値yを限定することができる。
【0111】
歩行計測システム100では、スターティングフェーズにおいて左右の脚部Fが入れ替わって誤推定されたであろう一部のパーティクルについて、その重みw(n) を小さくする。これにより、スターティングフェーズにおいて左右の脚部Fが実際とは入れ替わって追跡されてしまう誤追跡を、抑制することができる。スターティングフェーズにおける被験者1の脚部Fの挙動は特徴的であり、左右の脚部Fが入れ替わる誤追跡はスターティングフェーズで特に生じ易いことから、スターティングフェーズの当該誤追跡を抑制できる作用効果は有効である。
【0112】
歩行計測システム100では、複数のパーティクル毎に、被験者1の両脚部の予測位置それぞれを観測値に対応付けする。これにより、複数の対応付けの可能性を持つことができる。そして、複数のパーティクルの中から重みw(n) に基づき何れかの対応付けのパーティクルを選出して両脚部の予測位置を決定し、移動軌跡を取得する。この重みw(n) は、歩行する被験者1の脚部Fに見出される特有の特徴、すなわち、歩行位相及び観測パターンの遷移から算出される。よって、複数の対応付けの可能性のうち被験者1にとって尤もらしい何れかに基づいて、移動軌跡を取得することが可能となる。したがって、誤った対応付けに基づき移動軌跡を取得してしまうことを抑制することができ、被験者1の脚部位置を精度よく追跡することが可能となる。誤追跡を低減することが可能となる。
【0113】
歩行計測システム100では、歩行位相の遷移に基づき重みw(n) を算出する。この場合、歩行位相が周期的に変化することを考慮して、各パーティクルの重みw(n) を算出することができる。
【0114】
歩行計測システム100では、両脚部が該当する観測パターンの遷移に基づき、重みw(n) を算出する。この場合、両脚部の観測パターンが周期的に変化することを考慮して、各パーティクルの重みw(n) を算出することができる。
【0115】
歩行計測システム100では、データ解析部24は、脚検出部26、予測位置算出部27c及び相関処理部27dを有する。脚検出部26は、距離情報から観測値yを検出する。予測位置算出部27cは、複数のパーティクル毎に、両脚部の予測位置を、過去の時刻の両脚部の位置に基づいて算出する。相関処理部27dは、複数のパーティクル毎に、予測位置を基準にゲートGAを設定し、ゲートGA内に存在する観測値y及び観測値y無しとする観測結果のうちの何れかに対して、被験者1の両脚部の予測位置のそれぞれをランダムに対応付けする。この場合、予測位置を基準に設定したゲートGAを利用して、各パーティクルにおける対応付けを行うができる。
【0116】
歩行計測システム100では、データ解析部24は、更新処理部27e及び重み算出部27fを有する。更新処理部27eでは、複数のパーティクル毎に、相関処理部27dによる対応付けの後、脚部Fの状態量を更新する。重み算出部27fは、複数のパーティクル毎に、更新処理部27eによる更新の後、歩行位相及び観測パターンの遷移から重みw(n) を算出する。この場合、パーティクルフィルタを用いた脚部位置の追跡において、各パーティクルの重みw(n) を具体的に算出することができる。
【0117】
歩行計測システム100では、予測位置算出部27cは、カルマンフィルタを用いて両脚部の位置を予測することで、両脚部の予測位置を算出する。更新処理部27eは、カルマンフィルタの更新処理を行う。この場合、カルマンフィルタを利用して、被験者1の脚部位置を精度よく追跡することができる。
【0118】
歩行計測システム100では、データ解析部24は、リサンプリング部27gを有する。リサンプリング部27gは、重みw(n) に基づき淘汰及び複製されるように、複数のパーティクルをリサンプリングする。この場合、パーティクルフィルタを用いた脚部位置の追跡において、必要なパーティクルの数を抑えることができる。少ないパーティクル数で対応付けの仮説の保持と状態量の推定とが可能となる。
【0119】
図13及び図14は、パーティクルフィルタを用いた対応付けを説明する図である。図13(a)は時刻kの第1パーティクルPT1における対応付けの結果を示し、図13(b)は時刻kの第2パーティクルPT2における対応付けの結果を示し、図13(c)は時刻kの第3パーティクルPT3における対応付けの結果を示す。図14(a)は時刻k+1の第1パーティクルPT1における対応付けの結果を示し、図14(b)は時刻k+1の第2パーティクルPT2における対応付けの結果を示し、図14(c)は時刻k+1の第3パーティクルPT3における対応付けの結果を示す。
【0120】
図13(a)~図13(c)の例では、誤検出の観測値y と観測値y とが検出されている。第1パーティクルP1では、左脚の予測位置が観測値y に対応付けされ、右脚の予測位置が観測値y に対応付けられている。第2パーティクルP2では、左脚の予測位置が観測値y に対応付けされ、右脚の予測位置が観測値y に対応付けられている。第3パーティクルP3では、左脚の予測位置が観測値無しとする観測結果に対応付けられ、右脚の予測位置が観測値y に対応付けられている。第3パーティクルでは、左脚の予測位置に対応付けされる観測値が無いことから、左脚の予測位置が左脚の位置として取得される。このような例では、重みw(1) >重みw(2) >重みw(3) となる。
【0121】
図14(a)~図14(c)の例では、観測値yk+1 と観測値yk+1 とが検出されている。第1パーティクルP1では、左脚の予測位置が観測値yk+1 に対応付けされ、右脚の予測位置が観測値yk+1 に対応付けられている。第2パーティクルP2では、左脚の予測位置が観測値yk+1 に対応付けされ、右脚の予測位置が観測値yk+1 に対応付けられている。第3パーティクルP3では、左脚の予測位置が観測値yk+1 に対応付けられ、右脚の予測位置が観測値yk+1 に対応付けられている。このような例では、重みw(3) k+1>>重みw(2) k+1>重みw(1) k+1となる。その結果、リサンプリングにより、例えば第1パーティクルPT1は淘汰されると共に、第3パーティクルPT3は複製されることとなる。
【0122】
図15は、比較例に係る歩行計測システム及び実施例に係る歩行計測システム100によるTUG試験の追跡結果を示す図である。試験結果において、実施例は、歩行計測システム100に対応する。比較例1は、パーティクルフィルタを用いた対応付けを実施せず、且つ、第2ゲートGA2を設定しない以外は、歩行計測システム100と同様なシステムに対応する。比較例2は、スターティングフェーズで左右の脚部Fが入れ替わって誤推定された一部のパーティクルについての重みw(n) を小さくする上記処理を実施せず、且つ、第2ゲートGA2を設定しない以外は、歩行計測システム100と同様なシステムに対応する。
【0123】
試験対象となる被験者1の人数は138名である。図中の誤追跡内容における「左右の脚部の入れ替わり」とは、被験者1の左脚部Fを右脚部Fとして追跡、及び/又は、右脚部Fを左脚部Fとして追跡した状況が発生した場合である。図中の誤追跡内容における「介添人の脚部を誤追跡」とは、介添人の脚部を誤って被験者1の脚部Fであるとして追跡した状況が発生した場合である。
【0124】
図15に示されるように、実施例では、比較例1,2に比べて、全体の追跡成功率が向上している。これにより、被験者1の脚部位置を精度よく追跡可能となるという歩行計測システム100の作用効果を確認することができる。
【0125】
また、実施例では、比較例1,2に比べて、介添人の脚部を誤追跡してしまった数が低減している。これにより、介添人(他者)の脚部位置を被験者1の脚部位置として誤追跡してしまうことを抑制できるという歩行計測システム100の作用効果を確認することができる。特に実施例では、介添人の脚部を誤追跡してしまった数がフェーズによらずに低減していることから、当該作用効果は、スターティングフェーズにおいて重みw(n) を小さくする上記処理よりも、第2ゲートGA2を設定したことが寄与していることがわかる。
【0126】
また、実施例では、比較例2に比べて、スターティングフェーズでの左右の脚部Fの入れ替わりの数が大きく低減している。これにより、スターティングフェーズで左右の脚部Fが実際とは入れ替わって追跡されてしまう誤追跡を抑制できるという歩行計測システム100の作用効果を確認することができる。当該作用効果は、スターティングフェーズでもたらされることから、スターティングフェーズにおいて重みw(n) を小さくする上記処理が特に寄与していることがわかる。
【0127】
歩行計測システム100では、小型で二次元平面の距離情報が取得可能なレーザレンジセンサ10と圧力センサ15と用いて、TUG試験の計測における誤識別の少ない両脚部の位置の追跡及び計測精度の向上を実現できる。歩行計測システム100では、歩行試験の試行中にリアルタイムで解析するのではなく、歩行試験が終了した後にデータ解析部24により解析(後解析)する。これにより、厳密な移動軌跡及び歩行パラメータの算出が可能となる。なお、歩行計測システム100では、歩行試験を試行しながらデータ解析部24で歩行特性を解析することも勿論可能である。
【0128】
[変形例]
以上、本発明の一態様について説明したが、本発明の一態様は上記実施形態に限られず、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
【0129】
上記実施形態では、被験者1の歩行位相の遷移及び観測パターンの遷移から重みw(n) を算出したが、これの何れか一方のみから重みw(n) を算出してもよい。上記実施形態では、重みw(n) を算出する上記数式19は、観測パターンの遷移に係る第二項目と歩行位相の遷移に係る第三項目との積で表されているが、第二項目と第三項目との和又は差で表されていてもよい。上記実施形態において、歩行状態の遷移としては歩行位相の遷移及び観測パターンの遷移に限られず、その他の両脚部の位置に基づく歩行状態の遷移であってもよい。
【0130】
上記実施形態では、リサンプリング部27gにより複数のパーティクルをリサンプリングしたが、場合によっては、リサンプリング部27gは無くてもよい。上記実施形態では、重みw(n) が最も大きいパーティクルにおける両脚部の位置及び速度から脚部Fの移動軌跡を取得したが、これに限定されない。例えば重みw(n) が所定以上のパーティクルの何れかから移動軌跡を取得してもよい。要は、重みw(n) に基づいて何れかの対応付けのパーティクルを選出し、選出した当該パーティクルから移動軌跡を取得すればよい。
【0131】
上記実施形態では、歩行計測システム100をTUG試験おける歩行特性の計測に適用したが、これに限定されず、例えばMTST(Multi-target stepping test)及びその他の種々の歩行訓練等における歩行特性の計測に歩行計測システム100を適用することができる。
【0132】
上記実施形態では、第1ゲートGA1及び第2ゲートGA2の形状、大きさ及び中心位置等は、特に限定されない。第1ゲートGA1及び第2ゲートGA2の形状、大きさ及び中心位置等としては、種々の要因に応じて、種々の形状、大きさ及び中心位置を採用してもよい。上記実施形態では、第1ゲートGA1の大きさを可変としたが、第1ゲートGA1の大きさは固定であってもよい。上記実施形態では、第2ゲートGA2の大きさを固定としたが、第2ゲートGA2の大きさは可変であってもよい。
【0133】
例えば、第2ゲートGA2の形状は、MTSTにおける歩行特性の計測に歩行計測システム100を適用する場合には、MTSTの特徴に鑑みて真円であってもよい。また例えば、第2ゲートGA2の形状は、被験者1の進行方向に長尺な形状であってもよく、この場合には、被験者1がマーカ3をターンする際には、第2ゲートGA2の長尺方向がターンに応じて180°回転するように変化する。また例えば、第2ゲートGA2の形状、大きさ及び中心位置の少なくとも何れかは、歩行試験の各フェーズごとに異なっていてもよい。
【0134】
上記実施形態では、直前の処理時刻の観測値yに応じて両脚部の予測位置を基準に拡がる第2ゲートGA2を設定したが、直前の処理時刻の観測値yに限定されず、過去の観測値yに応じて拡がる第2ゲートGA2を設定すればよい。上記実施形態では、データ解析部24によりパーティクルフィルタを用いて被験者1の脚部Fの移動軌跡を取得したが、パーティクルフィルタを用いずに(つまり、パーティクルフィルタを用いた対応付けを実施せずに)被験者1の脚部Fの移動軌跡を取得してもよい。
【0135】
上記実施形態では、距離情報取得部としてレーザレンジセンサ10を用いたが、床面から所定高さの位置における距離情報を取得可能なものであれば、種々のセンサや装置を用いることができる。例えば、上述の二次元平面距離情報を取得可能とされた赤外線センサ等を、距離情報取得部として用いてもよい。上記実施形態は、レーザレンジセンサ10を1つ備えるが、複数備えていてもよい。上記実施形態では、基準部材としてポール40を用いたが、これに限定されない。基準部材としては、マーカ3に対するレーザレンジセンサ10の位置合わせを行い得る部材であれば、種々の部材を用いてもよい。
【0136】
上記実施形態では、マーカ3に近づく(椅子2から遠ざかる)被験者1の後方側からレーザ光Lが照射されるようにレーザレンジセンサ10を配置したが、マーカ3に近づく被験者1の前方側からレーザ光Lが照射されるようにレーザレンジセンサ10を配置してもよい。場合によっては、マーカ3に近づく被験者1の側方側からレーザ光Lが照射されるようにレーザレンジセンサ10を配置してもよい。上記実施形態では、椅子2の下部にレーザレンジセンサ10を配置したが、レーザレンジセンサ10の配置位置は限定されず、被験者1に対するレーザ光Lの照射態様に応じてレーザレンジセンサ10を配置すればよい。
【0137】
上記実施形態では、被験者1の椅子2からの立上がり(動出し)及び椅子2への着席を圧力センサ15の圧力情報により判別したが、圧力センサ15による判別に加えて又は圧力センサ15を省略し、レーザレンジセンサ10の検出結果に基づいて当該立上がり及び当該着席を判別してもよい。上記実施形態では、圧力情報に基づいて被験者1の立上がり及び着席を検出したが、圧力情報に基づいて立上がりのみを検出してもよいし、圧力情報に基づいて着席のみを検出してもよい。
【0138】
なお、本発明は、上記歩行計測システム100により実施される歩行計測方法として捉えることができる。本発明は、当該歩行計測方法(上記歩行計測システム100の各処理)をコンピュータに実行させる歩行計測プログラムとして捉えることができる。
【0139】
上記実施形態及び変形例における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成の一部は、本発明の一態様の要旨を逸脱しない範囲で適宜に省略可能である。
【符号の説明】
【0140】
1…被験者(対象者)、10…レーザレンジセンサ(距離情報取得部)、24…データ解析部、26…脚検出部(観測値検出部)、27c…予測位置算出部、27d…相関処理部、27e…更新処理部、27f…重み算出部、27g…リサンプリング部、100…歩行計測システム、F…脚部、GA1…第1ゲート、GA2…第2ゲート、L…レーザ光(検出波)。
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