(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】空調機室内機用アルミニウム製フィン材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F28F 1/32 20060101AFI20240426BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240426BHJP
C09D 201/08 20060101ALI20240426BHJP
F24F 1/0067 20190101ALI20240426BHJP
F28F 13/18 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
F28F1/32 H
C09D175/04
C09D201/08
F24F1/0067
F28F13/18 B
(21)【出願番号】P 2021197968
(22)【出願日】2021-12-06
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】檀上 禎秀
(72)【発明者】
【氏名】尾留川 亨惟
(72)【発明者】
【氏名】角田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】館山 慶太
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172823(JP,A)
【文献】特開2015-200486(JP,A)
【文献】特開2008-224204(JP,A)
【文献】特開2013-190178(JP,A)
【文献】特開平10-36757(JP,A)
【文献】特開平7-102189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/00 - 1/44
F28F 11/00 - 19/06
C09D 1/00 - 201/10
F24F 1/0007 - 1/0355
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材の表面又は表面上に、リン酸クロメート皮膜と、
前記リン酸クロメート皮膜の表面又は表面上に、第1の組成物の乾固物からなる第1の皮膜と、
前記第1の皮膜の表面に、第2の組成物の乾固物からなる第2の皮膜と、を有し、
前記第1の組成物は、カチオン性ウレタン樹脂(A)と、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(1)を満たすように含み、
前記第2の組成物は、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、スルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)と、-[CH
2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(2)および(3)を満たすように含む、空調機室内機用アルミニウム製フィン材。
15≦MA/MB≦100 ・・・(1)
1≦MC/MD≦3 ・・・(2)
15≦(MC+MD)/MB≦100 ・・・(3)
上記式(1)~(3)において、MAはカチオン性ウレタン樹脂(A)の固形分質量、MBはアミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)の固形分質量であり、MCはスルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)の固形分質量、MDは-[CH
2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)の固形分質量である。
【請求項2】
前記第1の皮膜の付着量は0.01~8.0g/m
2である、請求項1に記載の空調機室内機用アルミニウム製フィン材。
【請求項3】
前記第2の皮膜の付着量は0.02~10g/m
2である、請求項1又は2に記載の空調機室内機用アルミニウム製フィン材。
【請求項4】
前記第2の皮膜の表面に潤滑皮膜を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の空調機室内機用アルミニウム製フィン材。
【請求項5】
前記潤滑皮膜の付着量は0.01~0.8g/m
2である、請求項4に記載の空調機室内機用アルミニウム製フィン材。
【請求項6】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材を用意する工程と、
前記基材の表面又は表面上に、リン酸クロメート皮膜を形成する工程と、
前記リン酸クロメート皮膜の表面又は表面上に、第1の組成物を塗布して乾燥させることにより第1の皮膜を形成する工程と、
前記第1の皮膜の表面に、第2の組成物を塗布して乾燥させることにより第2の皮膜を形成する工程と、を含み、
前記第1の組成物は、カチオン性ウレタン樹脂(A)と、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(1)を満たすように含み、
前記第2の組成物は、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、スルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)と、-[CH
2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(2)および(3)を満たすように含む、空調機室内機用アルミニウム製フィン材の製造方法。
15≦MA/MB≦100 ・・・(1)
1≦MC/MD≦3 ・・・(2)
15≦(MC+MD)/MB≦100 ・・・(3)
上記式(1)~(3)において、MAはカチオン性ウレタン樹脂(A)の固形分質量、MBはアミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)の固形分質量であり、MCはスルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)の固形分質量、MDは-[CH
2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)の固形分質量である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は空調機室内機用アルミニウム製フィン材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化の顕在化等により、空調機の高効率化等の性能向上の要請が高まりつつある。このような要請を反映して、空調機の熱交換器には、熱伝導性、加工性、耐食性などに優れるアルミニウム板(またはアルミニウム合金板)を用いて形成されたフィンが複数枚平行に設けられ、それらを伝熱管(例えば銅管等)が貫いた構成が一般的に採用されている。
【0003】
従来より、フィン間が結露水によって閉塞されると、熱交換器の熱交換機能がより低下する等の問題が知られており、例えば、結露水を抑制するために、フィン材表面において、親水性を長期間持続することが求められている。
【0004】
また、フィン表面は、様々な汚染物が付着すると、経時的な親水性の低下、およびフィンおよび伝熱管の腐食促進が起こるため、フィン材表面において耐汚染性が求められている。さらに、熱交換器のフィンはアルカリ性溶液に晒されることがあるため、フィン材表面には、耐アルカリ性も求められている。
【0005】
特許文献1は、フィン材表面の親水性が長期間持続し、高加工性を有するアルミニウム製フィン材を開示している。特許文献2は、親水性および加工性に加え、耐汚染性を有するアルミニウム製フィン材を開示している。特許文献3は、親水性に加え、耐アルカリ性を有するアルミニウム製フィン材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-190178
【文献】特開2015-200486
【文献】特開2017-172822
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、親水持続性、加工性、耐アルカリ性および耐汚染性のうち2つ又は3つを備えるアルミニウム製フィン材は開示されているものの、親水持続性、加工性、耐アルカリ性および耐汚染性の全てを兼ね備えるアルミニウム製フィン材はなかった。
【0008】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、十分な親水持続性、十分な加工性、十分な耐アルカリ性および十分な耐汚染性が得られる空調機室内機用アルミニウム製フィン材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1は、
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材の表面又は表面上に、リン酸クロメート皮膜と、
前記リン酸クロメート皮膜の表面又は表面上に、第1の組成物の乾固物からなる第1の皮膜と、
前記第1の皮膜の表面に、第2の組成物の乾固物からなる第2の皮膜と、を有し、
前記第1の組成物は、カチオン性ウレタン樹脂(A)と、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(1)を満たすように含み、
前記第2の組成物は、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、スルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)と、-[CH2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(2)および(3)を満たすように含む、空調機室内機用アルミニウム製フィン材である。
15≦MA/MB≦100 ・・・(1)
1≦MC/MD≦3 ・・・(2)
15≦(MC+MD)/MB≦100 ・・・(3)
上記式(1)~(3)において、MAはカチオン性ウレタン樹脂(A)の固形分質量、MBはアミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)の固形分質量であり、MCはスルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)の固形分質量、MDは-[CH2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)の固形分質量である。
【0010】
本発明の態様2は、
前記第1の皮膜の付着量は0.01~8.0g/m2である、態様1に記載の空調機室内機用アルミニウム製フィン材である。
【0011】
本発明の態様3は、
前記第2の皮膜の付着量は0.02~10g/m2である、態様1又は2に記載の空調機室内機用アルミニウム製フィン材である。
【0012】
本発明の態様4は、
前記第2の皮膜の表面に潤滑皮膜を有する、態様1~3のいずれか1つに記載の空調機室内機用アルミニウム製フィン材である。
【0013】
本発明の態様5は、
前記潤滑皮膜の付着量は0.01~0.8g/m2である、態様4に記載の空調機室内機用アルミニウム製フィン材である。
【0014】
本発明の態様6は、
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材を用意する工程と、
前記基材の表面又は表面上に、リン酸クロメート皮膜を形成する工程と、
前記リン酸クロメート皮膜の表面又は表面上に、第1の組成物を塗布して乾燥させることにより第1の皮膜を形成する工程と、
前記第1の皮膜の表面に、第2の組成物を塗布して乾燥させることにより第2の皮膜を形成する工程と、を含み、
前記第1の組成物は、カチオン性ウレタン樹脂(A)と、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(1)を満たすように含み、
前記第2の組成物は、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、スルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)と、-[CH2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(2)および(3)を満たすように含む、空調機室内機用アルミニウム製フィン材の製造方法である。
15≦MA/MB≦100 ・・・(1)
1≦MC/MD≦3 ・・・(2)
15≦(MC+MD)/MB≦100 ・・・(3)
上記式(1)~(3)において、MAはカチオン性ウレタン樹脂(A)の固形分質量、MBはアミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)の固形分質量であり、MCはスルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)の固形分質量、MDは-[CH2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)の固形分質量である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、十分な親水持続性、十分な加工性、十分な耐アルカリ性および十分な耐汚染性が得られる空調機室内機用アルミニウム製フィン材およびその製造方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<空調機室内機用アルミニウム製フィン材>
本発明の一実施形態に係る空調機室内機用アルミニウム製フィン材(以下、「フィン材」とも称することがある)は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材と、基材の表面又は表面上に形成されたリン酸クロメート皮膜と、リン酸クロメート皮膜の表面又は表面上に形成された第1の皮膜と、第1の皮膜の表面に形成された第2の皮膜とを備える。
第1の皮膜は、第1の組成物の乾固物からなり、第1の組成物は、カチオン性のウレタン樹脂(A)と、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(1)を満たすように含み、第2の皮膜は、第2の組成物の乾固物からなり、第2の組成物は、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、スルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)と、-[CH2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、下記式(2)および(3)を満たすように含む。
15≦MA/MB≦100 ・・・(1)
1≦MC/MD≦3 ・・・(2)
15≦(MC+MD)/MB≦100 ・・・(3)
上記式(1)~(3)において、MAはカチオン性ウレタン樹脂(A)の固形分質量、MBはアミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)の固形分質量であり、MCはスルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)の固形分質量、MDは-[CH2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)の固形分質量である。
以上の構成により、十分な親水持続性、十分な加工性、十分な耐アルカリ性および十分な耐汚染性が得られる。さらには、十分な耐食性も同時に得られる。
なお、本明細書において、皮膜Aが皮膜Bの「表面上に」形成されることは、皮膜Aが皮膜Bの表面と非接触の状態で、皮膜Bの上方に形成されていることを意味し、例えば皮膜Aと皮膜Bとの間に別の皮膜等が形成されることを意味する。また、本明細書において、皮膜Aが皮膜Bの「表面に」形成されることは、皮膜Aが皮膜Bの表面と接触して形成されることを意味する。また、本明細書における「組成物の乾固物」とは、組成物を乾燥させて固化させたものであり、例えば組成物の少なくとも一部が反応したものも含み得る。
【0017】
(アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材)
基材を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金としては、特に限定されないが、熱伝導性及び加工性が優れることから、JIS H 4000:2006に規定されている1000系のアルミニウムを好適に用いることができる。より具体的には、合金番号1050、1070、1200のアルミニウムを好適に用いることができる。また、前記したリン酸クロメート皮膜と第1の皮膜と第2の皮膜は、JIS H 4000:2006に規定されている2000系~9000系のアルミニウム合金で形成された基材にも問題なく形成することができる。そのため、基材は、2000系~9000系のアルミニウム合金で形成したものであってもよい。
【0018】
基材は、例えば、フィン材としての強度、熱伝導性および加工性などを考慮して、厚さ0.08~0.3mm程度とするのが好ましい。なお、基材は、鋳造、熱間圧延、冷間圧延等の公知の方法で任意の厚さとすることができる。
【0019】
(リン酸クロメート皮膜)
リン酸クロメート皮膜は、基材の表面又は表面上に、公知のリン酸クロメート処理により形成される。リン酸クロメート皮膜が形成される基材の表面は、例えば基材の圧延面であり得る。リン酸クロメート皮膜の付着量は、Cr換算で1~100mg/m2とすることが好ましい。
【0020】
(第1の皮膜)
第1の皮膜は、リン酸クロメート皮膜の表面又は表面上に形成される。第1の皮膜は、第1の組成物から形成される。第1の組成物は、1種又は2種以上のカチオン性ウレタン樹脂(A)と、1種又は2種以上のアミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、上記式(1)を満たすように含む。
【0021】
本発明の実施形態に係るカチオン性ウレタン樹脂(A)に含まれるカチオン性官能基は、媒体中(例えば、水)でプラスチャージを持ってイオン解離する官能基を意味し、例えば、アミノ基、ピリジンやイミダゾールのような窒素を含有する複素環の四級塩、四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0022】
カチオン性ウレタン樹脂(A)におけるウレタン樹脂とは、一分子内に2個以上のイソシアネート基を有するジイソシアネートまたはポリイソシアネートと、一分子内に2個以上の水酸基を有するジオールまたはポリオールとの縮合重合物を意味する。
イソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI、水添キシリレンジイソシアネート等の脂環化合物、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメレチンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートを挙げることができ、脂環イソシアネート、脂肪族イソシアネート等の無黄変タイプを使用したものがより好適である。
ポリオール成分としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン等の直鎖脂肪族ポリオール;ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテルポリオール、ポリオキシプロピレンビスフェノールAエーテルポリオール、ポリオキシエチレントリメチロールプロパンエーテルポリオール、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテルポリオール、ポリオキシエチレンペンタエリスリトールエーテルポリオール等のポリエーテルポリオール;アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フマル酸、セバシン酸、ダイマー酸等の2塩基酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,4-CHDM、1,6-ヘキサンジオール等のポリオールとを縮合させたポリエステルポリオール;ポリマーポリオール;ポリカプロラクトンポリオール;ポリカーボネートジオール;ポリブタジエンポリオール;ネオペンチルグリコール;メチルペンタジオール等を挙げることができる。
これらの原料を用いて重合する際、ポリオール成分の一部として、N,N-ジエタノールアルキルアミン等のジオールアミンを用いて親水基を導入した自己乳化型のカチオンタイプを用いることができる。イソシアネートとポリオールの重合プレポリマーを水中に分散した後、ジオール、ジアミン等2個以上の活性水素をもつ低分子量化合物を鎖伸長剤として用いて、鎖伸長してより高分子化したものを用いることが可能である。また、アクリル変性、エポキシ変性、シリル変性等の変性ウレタン樹脂を使用することも可能である。
【0023】
本発明の実施形態に係るアミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)は、1個以上のアミノ基および1個以上のニトリル基を有する化合物であり、且つカチオン性ウレタン樹脂(A)とは異なるものであれば特に制限されない。例えば、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)の炭素原子数は2~12もしくは4~12であってもよく、又は12以上であってもよい。
【0024】
アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)としては、例えば、シアナミド、アミノアセトニトリル、3-アミノプロピオニトリル、ジシアンジアミド、3-アミノクロトノニトリル、4-アミノブタンニトリル、5-アミノペンタンニトリル、6-アミノ-2-シアノベンゾチアゾール、2-アミノ-1,1,3-トリシアノ-1-プロペン、2-アミノベンゾニトリル、3-アミノベンゾニトリル、4-アミノベンゾニトリル、2-アミノベンジルシアニド、4-アミノベンジルシアニド、2-アミノ-5-ブロモベンゾニトリル、2-アミノ-5-ニトロベンゾニトリル、4-アミノ-3-ブロモベンゾニトリル、2-アミノ-4-クロロベンゾニトリル、2-アミノ-5-クロロベンゾニトリル、2-アミノ-4,5-ジシアノ-1H-イミダゾール、4-(アミノメチル)ベンゾニトリル等を挙げることができるが、中でも、シアナミド、アミノアセトニトリル、3-アミノプロピオニトリル、4-アミノブタンニトリル、5-アミノペンタンニトリル、2-アミノベンゾニトリル、3-アミノベンゾニトリル、4-アミノベンゾニトリル等が好ましく、シアナミド、アミノアセトニトリル、3-アミノプロピオニトリル、4-アミノブタンニトリル、5-アミノペンタンニトリル等がより好ましい。なお、これらの化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
第1の組成物(並びに後述する第2の組成物および潤滑皮膜用組成物)は、主たる溶媒又は分散媒として、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上を含む。水は、例えば、イオン交換水、限外ろ過水又は蒸留水などの純水;井戸水;工業用水;などであり得る。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上の含有量は、第1の組成物(並びに後述する第2の組成物および潤滑皮膜用組成物)の固形分濃度との関係で適宜調整され得る。
【0026】
第1の組成物(及び後述する第2の組成物)は、塗装性、作業性及び/又は皮膜(塗膜)物性等を改善するために、各種の水系溶媒及び/又は塗料添加物を添加してもよい。例えば、水混和性有機溶剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、顔料、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等の各種の溶剤及び/又は添加剤を、単独で又は複数組み合わせて配合してもよい。
【0027】
第1の組成物(及び後述する第2の組成物)の固形分濃度については、本発明の目的が達成し得る限り特に制限はないが、例えば1~20質量%の範囲であることが好ましい。固形分濃度が1質量%以上とすることで目標とする皮膜量を得やすくなり、一方、20質量%以下にしておくことで、組成物の貯蔵安定性を保ちやすくなる。
【0028】
第1の皮膜の厚さ(皮膜付着量)は、0.01~8.0g/m2であることが好ましい。第1の皮膜の厚さを0.01g/m2以上とすることにより、フィン材の耐食性を確保しやすくなり、また第2の皮膜との密着性を確保しやすくなる。一方、第1の皮膜の厚さを8.0g/m2以下とすることで、フィン材の熱交換効率を確保しやすくなる。第1の皮膜の厚さは、より好ましくは0.03~5.0g/m2である。
【0029】
(第2の皮膜)
第2の皮膜は、第1の皮膜の表面に形成される。第2の皮膜は、第2の組成物から形成される。第2の組成物は、1種又は2種以上の上記アミノ基及びニトリル基を有する化合物(B)と、1種又は2種以上のスルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)と、1種又は2種以上の、-[CH2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを、上記式(2)および(3)を満たすように含む。
【0030】
本発明の実施形態に係るスルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)は、スルホン基及びカルボキシル基を有する単量体の重合体もしくはその塩であり得、またはカルボキシル基を有する単量体と、スルホン基を有する単量体との共重合体もしくはその塩であり得る。当該スルホン基及びカルボキシル基を含有する重合体またはその塩(C)としては、例えば、アクリル酸/スルホン酸共重合体又はその塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩等が挙げられる。
【0031】
本発明の実施形態に係る-[CH2-CH(OH)]-の繰り返し構造を有する重合体またはその塩(D)としては、ポリ酢酸ビニルの鹸化物、又は、酢酸ビニルと他のモノマーとの共重合物の鹸化物を用いることができる。この鹸化物は、部分鹸化物であってもよく、完全鹸化物であってもよい。酢酸ビニルと共重合されるコモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マイレン酸及びこれらの塩等のアニオン性コモノマー; スチレン、アクリロニトリル、ビニルエーテル、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、アクロイルモルホリン、酢酸ビニル等のノニオン性コモノマー;アミノエチル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルイミダゾール、N,N-ジメチルジアリルアミン等のカチオン性コモノマー;を挙げることができる。また、上記したポリビニルアルコールをジケテンと反応させることにより得られるアセトアセチル化ポリビニルアルコールを用いることもできる。
【0032】
第2の組成物は、塗膜中に潤滑性、塗装性及び又は外観等その他付加的な特性を付与するための薬剤を含有してもよい。潤滑性を付与する薬剤(潤滑成分)としては、インナーワックスがあり、例えば、ラノリンなどの動物ワックス、カルナバなどの植物ワックス、ポリエチレンワックスなどの合成ワックスや石油ワックスなど、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース又はそのアルカリ金属塩などが挙げられる。潤滑成分は、これらのうちの1種または2種以上を選択して用いることができる。第2の組成物に潤滑成分を含有させると、例えば、後述する潤滑皮膜を形成しなくてもプレス加工性を良好なものとすることが可能となる。
【0033】
第2の皮膜の厚さ(皮膜付着量)は、0.02~10g/m2であることが好ましい。第2の皮膜の厚さを0.02g/m2以上とすることにより、親水性をより確実に確保しやすくなる。一方、第2の皮膜の厚さを10g/m2以下とすることで、割れなどの欠陥を抑制しやすくなり、またフィン材の熱交換効率を確保しやすくなる。第2の皮膜の厚さは、より好ましくは0.1~2.0g/m2である。
【0034】
次に、本発明の他の実施形態に係る空調機室内機用アルミニウム製フィン材について説明する。
本発明の他の実施形態に係る空調機室内機用アルミニウム製フィン材は、上述したフィン材とは潤滑皮膜を備えている点で相違するが、その他の要素は同じである。以下では、同じ要素についての説明は省略し、相違する要素である潤滑皮膜について説明する。
【0035】
(潤滑皮膜)
潤滑皮膜は、第2の皮膜の表面に形成される。潤滑皮膜は、フィン材の摩擦係数を低下させ、熱交換器のフィンに加工する際のプレス成形性が向上する。また潤滑皮膜は親水性を有するためフィン材の親水性が向上し、親水性の長期間の維持等の機能が低下することはない。
【0036】
潤滑皮膜は、水に溶出する樹脂(E)、例えば、ポリエチレングリコール、変性ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩よりなる群から選択される1種以上の潤滑性樹脂と、水および水混和性有機溶媒からなる群のうち少なくとも一種以上とを含む、潤滑皮膜用組成物の乾固物からなる。潤滑性樹脂としては、ポリエチレングリコールとカルボキシメチルセルロースナトリウムとを併用することがより好ましい。ポリエチレングリコールとカルボキシメチルセルロースナトリウムの質量比は、ポリエチレングリコール:カルボキシメチルセルロースナトリウム=5:5ないし9:1程度が好ましい。潤滑皮膜は、エポキシ樹脂、カルボジイミド化合物、及びオキサゾリン基含有樹脂よりなる群から選択される1種以上をさらに含むことが好ましい。
【0037】
潤滑皮膜の厚さ(皮膜付着量)は、例えば、0.01~0.8g/m2とするのが好ましく、0.02~0.4g/m2とするのがより好ましい。潤滑皮膜の厚さをこの範囲とすると、プレス加工性を確実に向上させることができる。
【0038】
本発明の実施形態において、第1の皮膜および第2の皮膜は、少なくともポリマーを含み、且つ第1の皮膜中で、及び/又は第2の皮膜中で、及び/又は第1の皮膜と第2の皮膜との間で、少なくとも一部が反応し得ることから、それらの化学構造は非常に複雑となる。そのため、本発明の実施形態では、十分な親水持続性、十分な加工性、十分な耐アルカリ性および十分な耐汚染性を得るために、上記式(1)~(3)に記載の所定の比率を満たす必要があるところ、例えば、当該比率を満たさないものと比較して、どのように皮膜の化学構造等の構造が変化しているかを特定することは到底できない。また、構造が特定されなければ、それに応じて決まるその物質の特性も容易にはわからないため、特性で表現することも到底できない。
以上より、本発明の実施形態に係る空調機室内機用アルミニウム製フィン材は、その構造又は特性により直接特定することが不可能又はおよそ非実際的である事情が存在する。
【0039】
<空調機室内機用アルミニウム製フィン材の製造方法>
本発明の一実施形態に係るフィン材の製造方法は、
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材を用意して、
(a)アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面又は表面上にリン酸クロメート皮膜を形成する工程と、
(b)リン酸クロメート皮膜の表面又は表面上に、第1の組成物を塗布して乾燥させることにより第1の皮膜を形成する工程と、
(c)第1の皮膜の表面に、第2の組成物を塗布して乾燥させることにより第2の皮膜を形成する工程と、を含む。
以下各工程について詳述する。
【0040】
(a)リン酸クロメート皮膜を形成する工程
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材を用意した後、リン酸クロメート処理を施すことにより、基材の表面又は表面上にリン酸クロメート皮膜を形成する。ここで、リン酸クロメート処理は、基材の表面にリン酸クロメート処理液をスプレー等により塗布することで行ってもよい。また、基材の表面に他の皮膜等がある状態で、リン酸クロメート処理液を塗布してもよい。また、基材(または基材の表面に形成され得る酸化物)の表面にリン酸クロメート皮膜を形成する際、基材(または酸化物)の表面にアルカリ水溶液をスプレー等して、基材(または酸化物)の表面を予め脱脂するのが好ましい。脱脂により基材(または酸化物)とリン酸クロメート皮膜との密着性が向上する。
【0041】
(b)第1の皮膜を形成する工程
工程(a)後、リン酸クロメート皮膜の表面又は表面上に、上述した第1の組成物を塗布した後、乾燥させることにより、第1の皮膜を形成する。第1の組成物の塗布方法は、例えば、ロールコーター等の従来公知の塗布方法で行うことができる。また、第1の皮膜形成時の乾燥条件は、塗布する第1の組成物中の樹脂等の性質によって適宜設定され得るが、通常100~300℃の温度(基材の到達温度)に加熱することで行われ得る。
【0042】
(c)第2の皮膜を形成する工程
工程(b)後、第1の皮膜の表面に、上述した第2の組成物を塗布した後、乾燥させて、第2の皮膜を形成することにより、本発明の一実施形態に係るフィン材が得られる。第2の組成物の塗布方法は、例えば、ロールコーター等の従来公知の塗布方法で行うことができる。また、第2の皮膜の形成時の乾燥条件は、塗布する第2の組成物中の樹脂等の性質によって適宜設定され得るが、通常100~300℃の温度(基材の到達温度)に加熱することで行われ得る。
【0043】
本発明の別の実施形態に係るフィン材の製造方法は、上記工程(a)~(c)後、さらに(d)第2の皮膜の表面に、上述した潤滑皮膜用組成物を塗布して乾燥させることにより潤滑皮膜を形成する工程を含む。以下工程(d)について詳述する。
【0044】
(d)潤滑皮膜を形成する工程
工程(c)後、第2の皮膜の表面に、上述した潤滑皮膜用組成物を塗布した後、乾燥させて、潤滑皮膜を形成する。潤滑皮膜用組成物の塗布方法は、ロールコーター等の従来公知の塗布方法で行うことができる。また、潤滑皮膜用組成物から潤滑皮膜を形成する際の乾燥条件は、塗布する潤滑皮膜用組成物中の樹脂等の性質によって適宜設定され得るが、通常100~200℃の範囲で行われる。
【0045】
なお、上述の製造方法で製造されたフィン材は、例えば基材の圧延面とは垂直方向に、銅管等からなる伝熱管を通すための貫通孔を成形加工して、フィンとするのがよい。フィンとする際の成形加工方法としては、例えば、ドローレス加工、ドロー加工等が用いられる。
ドローレス加工は、ドロー加工に比べて少ない工程で伝熱管を通す貫通孔を有するカラー部を成形加工できるもので、一般的に、ピアスバーリング工程、第1アイアニング工程、第2アイアニング工程、フレアリング工程の4工程でフィン材にカラー部を成形加工する方法である。
ドロー加工は、従来から行われている最も一般的な成形加工方法であり、第1ドローイング工程、第2ドローイング工程、第3ドローイング工程、第4ドローイング工程、ピアスバーリング工程、フレアリング工程の6工程でフィン材にカラー部を成形加工する方法である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0047】
まず、公知の方法で純アルミニウム系のA1200(JIS H4000:2014)からなる基材を用意した(厚さ0.1mm)。この基材をアルカリ性薬剤(日本ペイント製「サーフクリーナー(登録商標)360」)に浸漬することにより脱脂を5秒間行った。その後、基材をリン酸クロメート液に浸漬してリン酸クロメートの皮膜量がCr換算で25mg/m2になるように、基材表面にリン酸クロメート皮膜を形成した。その後、純水にて水洗を行った後水分を除去した。これを試験材として使用した。
【0048】
上記試験材の表面上に、第1の皮膜と第2の皮膜とをこの順に形成した。必要に応じて、第2の皮膜の表面に潤滑皮膜を形成した。各種皮膜は、第1の皮膜用の第1の組成物、第2の皮膜用の第2の組成物および潤滑皮膜用組成物を用いて形成した。各組成物は、下記の表1~5に示した成分を用いて、表6に示す組成となるように調製した。なお、第1の組成物、第2の組成物および潤滑皮膜用組成物は、後述するように全て純水が添加されているが、表6では純水の有無についての記載を省略している。また、表6において、「樹脂(A)」は表1に示す樹脂を指し、「化合物(B)」は表2に示す化合物を指し、「重合体(C)」は表3に示す重合体を指し、「重合体(D)は表4に示す重合体を指し、「樹脂(E)」は表5に示す樹脂を指す、また表6において、「MA」は表1に示す樹脂(A)の固形分質量であり、「MB」は表2に示す化合物(B)の固形分質量であり、「MC」は表3に示す重合体(C)の固形分質量であり、「MD」は表4に示す重合体(D)の固形分質量である。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
(第1の皮膜の形成方法)
表6に示す各第1の組成物を、No.5のバーコーターを用いて試験材の表面上に塗布し、その後、水洗することなくオーブンに入れて乾燥させることで、第1の組成物の乾固物からなる第1の皮膜を形成した。なお、皮膜の厚さが0.5g/m2になるように、純水(イオン交換水)を加えることにより各組成物の固形分濃度を5質量%に調整した上で、上記塗布を行った。乾燥温度は、試験材の表面到達温度が200℃となるように、オーブン内の温度とオーブン内に入れている時間を調節した。
【0056】
(第2の皮膜の形成方法)
上記第1の皮膜の表面に、表6に示す各第2の組成物を、No.5のバーコーターを用いて塗布し、その後、水洗することなくオーブンに入れて乾燥させることで、第2の組成物の乾固物からなる第2の皮膜を形成した。なお、皮膜の厚さが0.5g/m2になるように、純水(イオン交換水)を加えることにより各組成物の固形分濃度を5質量%に調整した上で、上記塗布を行った。乾燥温度は、試験材の表面到達温度が200℃となるように、オーブン内の温度とオーブン内に入れている時間を調節した。
【0057】
(潤滑皮膜の形成方法)
第2の皮膜の表面に、表6に示す各潤滑皮膜用組成物を、No.5のバーコーターを用いて塗布し、その後、水洗することなくオーブンに入れて乾燥させることで、潤滑皮膜用組成物の乾固物からなる潤滑皮膜を形成した。なお、皮膜量が0.1g/m2になるように、純水(イオン交換水)を加えることにより各組成物の固形分濃度を1質量%に調整した上で、上記塗布を行った。乾燥温度は、試験材の表面到達温度が100℃となるように、オーブン内の温度とオーブン内に入れている時間を調節した。
上記により、実施例1~18および比較例1~16の皮膜付試験材を作製した。なお、表6の実施例1~15および比較例1~16において、潤滑皮膜用組成物の欄には「-」が記載されているが、これは、実施例1~15および比較例1~16の皮膜付試験材には、潤滑皮膜が形成されていないことを意味する。
【0058】
実施例1~18および比較例1~16の各皮膜付試験材に対して、以下に示す性能評価を行った。なお、以下の評価結果が、「◎」、「〇」及び「△」のものを実用レベルであると判定した。
【0059】
(耐食性)
各皮膜付試験材に対して、JIS Z 2371:2000に示された試験方法で、480時間の塩水噴霧を行い、表面の腐食の程度を確認し、規定のレイティングナンバ(Rating Number、以下R.N.と略す)で腐食の程度を測定し、下記の<評価基準>にしたがって耐食性を評価した。
<評価基準>
◎:特に良好 :R.N.9.8以上
○:良好 :R.N.9.5以上9.8未満
△:十分 :R.N.9.3以上9.5未満
×:不良 :R.N.9.3未満
【0060】
(親水持続性)
各皮膜付試験材を容器の中に浸すように固定し、該容器中に純水(イオン交換水)を8時間注入し続けた後、各皮膜付試験材を80℃で16時間乾燥する工程を1サイクルとして、このサイクルを5サイクル行った。該容器は、13Lのものを用い、純水の注入速度は1L/分とした。その後、各皮膜付試験材を室温に戻して、表面に約1μLの純水(イオン交換水)を滴下し、接触角測定器(協和界面科学社製:DM-300型)を用いて接触角を測定した。下記の<評価基準>にしたがって親水持続性を判定した。
<評価基準>
◎:特に良好 :接触角が20°未満
〇:良好 :接触角が20°以上40°未満
△:十分 :接触角が40°以上60°未満
×:不良 :接触角が60°以上
【0061】
(耐汚染性)
各皮膜付試験材を容器の中に浸すように固定し、該容器中に水道水を16時間注入し続けた後、パラフィン、パルミチン酸、ステアリン酸、ジオクチルフタレート(DOP)およびステアリルアルコールを各2g入れた容量10Lのステンレス容器に各皮膜付試験材を封入し、100℃で8時間加熱する操作を1サイクルとし、このサイクルを計5サイクル繰り返した。なお、水道水を注入した容器は13Lのものを用い、水道水の注入速度は1L/分とした。また、各皮膜付試験材をステンレス容器に封入するとき、各皮膜付試験材がパラフィン等の各液に触れないようにした。その後、各皮膜付試験材を室温に戻した後、表面に約1μLの純水(イオン交換水)を滴下し、接触角測定器(協和界面科学社製:DM-300型)を用いて接触角を測定した。測定結果を、下記の<評価基準>にしたがって耐汚染性を評価した。
<評価基準>
○:良好 :接触角が40°未満
△:十分 :接触角が40°以上、60°未満
×:不良 :接触角が60°以上
【0062】
(耐アルカリ性)
面積が0.01m2の各皮膜付試験材を、アルカリ液に15分間浸漬した後、流水で5分間水洗してアルカリ液を除去し、室温で自然乾燥させる操作を1サイクルとし、このサイクルを計15サイクル繰り返した。尚、アルカリ液としては水酸化ナトリウムでpH12に調整したものを使用した。その後、目視で試験材の表面を観察し、皮膜の剥がれおよび膨潤を確認した。確認結果を、下記の<評価基準>にしたがって耐アルカリ性を評価した。
<評価基準>
◎:特に良好 :皮膜の剥がれおよび膨潤の程度が10%未満の面積率
○:良好 :皮膜の剥がれおよび膨潤の程度が10%以上30%未満の面積率
△:十分 :皮膜の剥がれおよび膨潤の程度が30%以上50%未満の面積率
×:不良 :皮膜の剥がれおよび膨潤の程度が50%以上の面積率
【0063】
(加工性)
加工時の第1の皮膜の割れはフィン材性能(特に耐食性)に大きく影響し得ることから、加工性評価として、加工試験時の第1の皮膜の割れの有無を確認した。具体的には、りん酸クロメート皮膜の表面に第1の皮膜のみを形成した試験材について、JIS K 5600-5-1:1999に示された方法で加工性試験を行い、折り曲げ部の凸部を電子顕微鏡(日本電子社製:JCM-6000)にて1000倍の倍率で観察し皮膜の状態を確認した。上記試験で用いたマンドレルは直径2mmのものを用いた。加工性試験後、下記の<評価基準>に従って加工性を評価した。
<評価基準>
〇:良好 :皮膜の割れが確認できない
△:十分 :皮膜の割れが少し確認できる
×:不良 :皮膜の割れが確認できる
【0064】
上記性能評価の結果を表7に示す。
【0065】