(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】機械式減速機とそれを用いたギヤードモータ
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240426BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
F16H1/32 A
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2021513227
(86)(22)【出願日】2019-07-31
(86)【国際出願番号】 EP2019070668
(87)【国際公開番号】W WO2020052859
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-27
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512092737
【氏名又は名称】ヴァレオ システム デシュヤージュ
【氏名又は名称原語表記】VALEO SYSTEMES D’ESSUYAGE
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ、ラサール
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】小川 恭司
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-44789(JP,A)
【文献】特開2015-102216(JP,A)
【文献】特開2012-161239(JP,A)
【文献】特開2006-77980(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1798444(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28 - 1/48
H02K 7/00 - 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式減速機(1)であって、
- 入力軸(3)と、
- 前記入力軸(3)に回転可能に結合された太陽歯車(5)と、
- 前記入力軸(3)に対して相対的に回転可能であって、かつ、前記入力軸(3)と同軸の出力軸(74)を支持する遊星キャリア(7)であって、前記遊星キャリア(7)が、前記入力軸(3)に対して平行に延びる少なくとも1つの遊星軸(s1,s2,s3)を備えている、前記遊星キャリア(7)と、
- 前記遊星軸(s1,s2,s3)の周囲に配置され、前記遊星軸(s1,s2,s3)と同心の第1軸線方向部分(p1)と、偏心した少なくとも第2軸線方向部分(p2,p3)と、を有する少なくとも1つのカム(13)と、
を備え、
前記少なくとも1つの遊星軸(s1,s2,s3)が、遊星キャリア(7)に対して回転可能に取り付けられている構成、および/または、前記少なくとも1つのカム(13)が
、関連する遊星軸と一緒に回転するように当該遊星軸と一体となっている構成、を具備しており、
前記機械式減速機は、
- 少なくとも1つの遊星歯車(15)であって、その同心の第1軸線方向部分(p1)上で前記カム(13)
に結合され、前記太陽歯車(5)と噛み合うように構成された、前記少なくとも1つの遊星歯車(15)と、
- 前記入力軸(3)と同心に設けられ、内歯を有する周辺リング歯車(17)と、
- 前記周辺リング歯車(17)の内歯と噛み合うのに適した少なくとも1つの歯付きホイール(r1、r2)であって、前記歯付きホイール(r1,r2)の中心に対してオフセットされた少なくとも1つの貫通穴を備えており、前記カム(13)の回転により、前記歯付きホイール(r1、r2)が前記周辺リング歯車(17)と確実に噛み合うように前記カム(13)の第2軸線方向部分(p2,p3)と相互作用するように構成されており、前記歯付きホイール(r1、r2)の噛み合いが、前記入力軸(3)に対する前記遊星キャリア(7)の相対的な回転をもたらす、前記少なくとも1つの歯付きホイールと、
を備え、
前記周辺リング歯車(17)および前記少なくとも1つの歯付きホイール(r1,r2)の歯がインボリュート歯である、
機械式減速機(1)。
【請求項2】
2つの歯付きホイール(r1,r2)を備え、前記カム(13)が、前記2つの歯付きホイール(r1,r2)にそれぞれ関連する2つの偏心した第2軸線方向部分(p2,p3)を備え、その偏心が前記遊星軸(s1,s2,s3)に対して互いに直径方向に関して反対側に位置している、請求項1に記載の機械式減速機(1)。
【請求項3】
前記周辺リング歯車(17)と前記少なくとも1つの歯付きホイール(r1,r2)との間の歯数の差が、少なくとも3歯である、請求項1または2に記載の機械式減速機(1)。
【請求項4】
前記周辺リング歯車(17)が68歯を有し、前記少なくとも1つの歯付きホイール(r1,r2)が65歯を有する、請求項3に記載の機械式減速機(1)。
【請求項5】
前記遊星キャリア(7)が、3つのカム(13)および3つの遊星歯車(15)をそれぞれ受けるように構成された3つの遊星軸(s1,s2,s3)を備える、請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の機械式減速機(1)。
【請求項6】
前記太陽歯車(5)が15歯を有し、前記少なくとも1つの遊星歯車(15)が45歯を有する、請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の機械式減速機(1)。
【請求項7】
前記遊星キャリア(7)は、
軸方向に関して前記少なくとも1つの歯付きホイール(r1,r2)および前記遊星歯車(5)の第1側に配置された第1部分(7a)と、
軸方向に関して前記少なくとも1つの歯付きホイール(r1,r2)および前記遊星歯車(5)の第2側に配置された第2部分(7b)と、
を備え、
前記第1部分(7a)および前記第2部分(7b)は、前記少なくとも1つの遊星軸(s1,s2,s3)によって互いに接続されている、請求項1から6のうちのいずれか一項に記載の機械式減速機(1)。
【請求項8】
前記遊星キャリアの前記第1部分(7a)および前記第2部分(7b)が、第1回転案内手段(9)および第2回転案内手段(11)、特にすべり軸受(9)および機械式転がり軸受(11)を介して、前記入力軸(3)に対して回転可能に取り付けられている、請求項7に記載の機械式減速機(1)。
【請求項9】
- 請求項1から8のうちのいずれか一項に記載の機械式減速機(1)と、
- 前記機械式減速機(1)の前記入力軸(3)を回転させるように構成された電動モータ(110)と、
を備えたギヤードモータ(100)。
【請求項10】
前記電動モータ(110)がブラシレス電動モータである、請求項9に記載のギヤードモータ(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のワイパーシステムにおいて、特に電気モータの出力部のところでギヤードモータを構成するために使用される機械式減速機ないし減速歯車装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
特に減速機は、回転速度を下げて高い回転伝達トルクを得るために使用される。
【0003】
従来技術において様々なタイプの減速機が知られている。減速機のタイプの選択は、一般的に、減速機が使用される用途に関連する様々な制約と関連している。
【0004】
自動車に搭載するのに適したギヤードモータの場合、自動車に容易に取り付けるために必要な小さな設置面積、特に小さな直径という大きな制約がある。また、ブラシレスモータの長さを短くする場合には、減速機をモータに列べて配置し、その直径をモータの直径よりも大きくしないで、所望の減速比を得ることが有効である。ワイパーシステムの場合、この減速比は通常1:70の領域である。
【0005】
小さなスペースで高い減速比を得るために、トロコイド型の機械式減速機を使用することが知られている。しかし、この減速機にはいくつかの欠点がある。特に、外側のローラー上を転がるように構成された偏心歯車のプロファイルは、ローラーと偏心歯車の寸法ごとに特別に定義されなければならないため、製造が複雑でコストがかかるという点、また、偏心歯車の遊星回転(これは固定軸の周りを回転しない)のために出力トルクを伝達することが難しいという点においてである。
【発明の概要】
【0006】
先行技術のこれらの欠点を少なくとも部分的に克服するために、本発明は、出力トルクの効率的な伝達を可能にしながら、小さな設置面積で高い減速比を有し、製造コストが抑制された機械式減速機を提供することを目的とするものである。
【0007】
この目的のため、本発明は、
機械式減速機であって、
- 入力軸と、
- 前記入力軸に回転可能に結合された太陽歯車と
- 前記入力軸に対して相対的に回転可能であって、かつ、前記入力軸と同軸の出力軸を支持する遊星キャリアであって、前記遊星キャリアが、前記入力軸に対して平行に延びる少なくとも1つの遊星軸を備えている、前記遊星キャリアと、
- 前記遊星軸の周囲に配置され、前記遊星軸と同心の第1軸線方向部分と、偏心した少なくとも第2軸線方向部分と、を有する少なくとも1つのカムと、
を備え、
前記少なくとも1つの遊星軸が、遊星キャリアに対して回転可能に取り付けられている構成、および/または、前記少なくとも1つのカムが関連する遊星軸に対して回転可能に取り付けられている構成、を具備しており、
前記機械式減速機は、
- 少なくとも1つの遊星歯車であって、その同心の第1軸線方向部分上で前記カムに回転可能に結合され、前記太陽歯車と噛み合うように構成された、前記少なくとも1つの遊星歯車と、
- 前記入力軸と同心に設けられ、内歯を有する周辺リング歯車と、
- 前記周辺リング歯車の内歯と噛み合うのに適した少なくとも1つの歯付きホイールであって、前記歯付きホイールの中心に対してオフセットされた少なくとも1つの貫通穴を備えており、前記カムの回転により、前記歯付きホイールが前記周辺リング歯車と確実に噛み合うように、従って前記周辺リング歯車に対して回転するように、前記カムの第2軸線方向部分と相互作用するように構成されており、前記歯付きホイールの噛み合いが、前記入力軸に対する前記遊星キャリアの相対的な回転をもたらす、前記少なくとも1つの歯付きホイールと、
を備え、
前記周辺リング歯車および前記少なくとも1つの歯付きホイールの歯が歯車の分野で知られているインボリュート歯である、
機械式減速機に関する。
【0008】
本発明の一態様によれば、2つの歯付きホイールを備え、前記カムが、前記2つの歯付きホイールにそれぞれ関連する2つの偏心した第2軸線方向部分を備え、その偏心が前記遊星軸に対して互いに直径方向に関して反対側に位置している。
【0009】
本発明の一態様によれば、前記周辺リング歯車と前記少なくとも1つの歯付きホイールとの間の歯数の差が、少なくとも3歯である。
【0010】
本発明の一態様によれば、前記周辺リング歯車が68歯を有し、前記少なくとも1つの歯付きホイールが65歯を有する。
【0011】
本発明の一態様によれば、前記遊星キャリアが、3つのカムおよび3つの遊星歯車をそれぞれ受けるように構成された3つの遊星軸を備える。
【0012】
本発明の一態様によれば、前記太陽歯車が15歯を有し、前記少なくとも1つの遊星歯車が45歯を有する。
【0013】
本発明の一態様によれば、前記遊星キャリアは、
軸方向に関して前記少なくとも1つの歯付きホイールおよび前記遊星歯車の第1側に配置された第1部分と、
軸方向に関して前記少なくとも1つの歯付きホイールおよび前記遊星歯車の第2側に配置された第2部分と、
を備え、
前記第1部分および前記第2部分は、前記少なくとも1つの遊星軸によって互いに接続されている。
【0014】
本発明の一態様によれば、前記遊星キャリアの前記第1部分および前記第2部分が、第1回転案内手段および第2回転案内手段を介して、前記入力軸に対して回転可能に取り付けられている。好ましくは、これらの回転案内手段の各々のタイプは、すべり軸受および機械式転がり軸受の間で選択される。特定の実施形態において、第1回転案内手段および第2回転案内手段はそれぞれ機械式転がり軸受およびすべり軸受である。
【0015】
本発明は、
- 上記の機械式減速機と、
- 前記機械式減速機の前記入力軸を回転させるように構成された電動モータと、
を備えたギヤードモータにも関する。
【0016】
本発明の一態様によれば、前記電動モータがブラシレス電動モータである。
【0017】
本発明のさらなる特徴および利点は、下記の添付図面を参照してなされる非限定的な実施例により明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態による機械式減速機の概略斜視断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による減速機の第1の側面の概略斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による減速機の第2の側面の概略斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態による減速機の一部を示す概略斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態によるギヤードモータの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
すべての図において、同じ要素には同じ参照番号が付けられている。
【0020】
以下の実施形態は例である。本明細書では1つ以上の実施形態に言及しているが、これは必ずしも各言及が同じ実施形態に関するものであること、または特徴が単一の実施形態にのみ適用されること、を意味するものではない。異なる実施形態の単一の特徴は、他の実施形態を提供するために組み合わせたり、交換したりすることもできる。
【0021】
以下の説明では、特定の要素またはパラメータに、例えば、第1(の)要素または第2(の)要素などといった序列番号を付けることができる。この場合、序列番号付けは、単に、類似しているが同一ではない要素を区別して示すためのものであり、このような番号付けは、本明細書の範囲を逸脱することなく容易に入れ替えることができる。同様に、この序列番号付けは、任意の基準を考慮する際に、時系列的な順序を意味するものではない。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る機械式減速機1の一部を示す断面図である。
【0023】
機械式減速機1は、機械式減速機1の軸線に対応する軸線Xに沿って延びるように構成された入力軸3ないし主軸を備える。太陽歯車5は、軸線Xを中心に入力軸3に回転可能に結合されるように構成されている。
【0024】
また、減速機1は、軸線X周りに入力軸3に対して相対的に回転できるように構成された遊星キャリア7を備えている。
【0025】
遊星キャリア7は、例えば、第1回転案内手段(この場合は滑り軸受(プレーンベアリング)9)を介して入力軸3の周りに配置された第1部分7aと、第2回転案内手段(この場合は転がり軸受11)を介して入力軸3の周りに配置された第2部分7bとを備えている。しかし、案内手段の他の形式や構成も当然想定される。
図2は、遊星キャリア7の第1部分7aの側から見た機械式減速機1の斜視図であり、
図3は、遊星キャリア7の第2部分7bの側から見た機械式減速機1の斜視図である。
【0026】
第1部分7aおよび第2部分7bはそれぞれ、中央部の周りに星型に延びる、例えば3つの均等に配置されたアーム70を備えている。第1および第2部分7a,7bの各々の異なるアーム70は、例えば、互いに120°の角度を成して延びている。
【0027】
各アーム70は、貫通開口部であってもよい軸線方向開口部72を有し、この軸線方向開口部72は、軸の端部を受け入れるように構成されている。軸線方向開口部72は、例えば、アーム70の端部付近に位置しており、機械式減速機1の組立状態において、各軸線方向開口部72は軸線Xから等距離に位置するように意図されている。また、遊星キャリア7は、第1部分7aと第2部分7bとの間に延びるs1,s2,s3と表記される3本の遊星軸を備えている。より具体的には、遊星軸s1、s2、s3は、第1部分7aの一方のアーム70に設けられた軸線方向開口部72と、第2部分7bの一方のアーム70に設けられた軸線方向開口部72との間にそれぞれ延びており、3本の遊星軸s1、s2、s3が軸線Xと平行に延び、軸線Xから等距離に位置している。遊星軸s1、s2、s3は、遊星キャリア7に対して回転可能に取り付けられている。
【0028】
第2部分7bには、さらに、第2部分7bの中央部から軸方向に延びる入力軸3と同軸の出力軸74が設けられている。出力軸74は、例えば、遊星キャリア7の第2部分7bと一体的に形成されている。
【0029】
機械式減速機1は、さらに、3つの遊星軸s1、s2、s3の周囲にそれぞれ配置されるように構成された3つのカム13を備えている。
【0030】
遊星軸s1,s2,s3が、各アーム70に対して相対的に回転可能であれば、あるいはアーム70に対して相対的に回転可能とすることができるようになっていれば(この場合、遊星軸s1,s2,s3は、遊星キャリア7に対して固定することができる)、カム13は、それぞれの遊星軸に回転可能に結合することができる(この場合、カム13は、それぞれの遊星軸s1,s2,s3と一体的に形成することができる)。
【0031】
図4に示すように、カム13は参照符号p1で示される第1軸線方向部分を含んでおり、この第1軸線方向部分は、機械式減速機1の組立状態において、関連する遊星軸s1、s2またはs3と同心になるように意図されており、かつ、遊星歯車15(3つの遊星歯車15のうち2つが
図5に示されている)を受け入れるように構成されている。遊星歯車15は、関連するカム13に回転可能に結合されている。回転可能な結合は、例えば、軸線方向部分p1に非円形のプロファイルを使用し、遊星歯車15に、軸線方向部分p1のプロファイルを補完する形状を使用することで実現される。遊星歯車15は、機械式減速機1の組立状態において、太陽歯車5と噛み合うように構成されている。
【0032】
カム13は、さらに、機械式減速機1の組立状態において関連する遊星軸s1、s2またはs3に対して偏心するように構成された第2軸線方向部分p2および第3軸線方向部分p3を含んでいる。第2軸線方向部分p2および第3軸線方向部分p3は、例えば円筒状である。第2軸線方向部分p2の偏心度合いと第3軸線方向部分p3の偏心度合いは同じであるが、それらの偏心方向は逆方向を向いている。つまり、カム13(遊星軸s1、s2またはs3に対応)の回転軸線は、第2軸線方向部分p2の円筒と第3軸線方向部分p3の円筒の中心を結ぶセグメントの中心に位置している。
【0033】
機械式減速機1は、さらに、周辺リング歯車(リングギア)17を備えており、この周辺リング歯車17は、内歯を備え、かつ、機械式減速機1の組立状態において、カム13の第2軸線方向部分p2および第3軸線方向部分p3の周囲に、軸線Xと同心に配置されるように意図されている。
【0034】
機械式減速機1は、さらに、第1歯付きホイールr1および第2歯付きホイールr2(特に
図1で見える)を備えている。第1および第2歯付きホイールr1、r2は、同一であり、周辺リング歯車17の内径よりも小さい直径を有している。
【0035】
第1歯付きホイールr1は3つの円形の貫通孔を備えており、これら貫通孔は(歯付きホイールr1の中心に対して)偏心しており、かつ、軸線Xと平行に延びている。第1歯付きホイールr1の貫通孔は、3つのカム13の第2軸線方向部分p2をそれぞれ受け入れるように構成されている。
【0036】
第2歯付きホイールr2は、さらに、3つの円形の貫通孔を備えており、これら貫通孔は(歯付きホイールr2の中心に対して)偏心しており、かつ、軸線Xと平行に延びている。第2歯付きホイールr2の貫通孔は、3つのカム13の第3軸線方向部分p3をそれぞれ受け入れるように構成されている。
【0037】
また、第1および第2歯付きホイールr1,r2は、周辺リング歯車17の内歯と噛み合うように構成されている。
【0038】
第1および第2歯付きホイールr1,r2は、さらに、入力軸3の通過および入力軸3を中心とした歯付きホイールr1,r2の偏心回転を可能にするように構成された、中心軸方向の貫通孔を有している。
【0039】
したがって、カム13は、歯付きホイールr1,r2と相互作用するように構成されており、カム13の回転により、歯付きホイールr1,r2と周辺リング歯車17との間に確実噛み合いがもたらされる。
【0040】
また、満足のゆくトルク伝達および機械式減速機1の様々な構成に対応できる製造方法を可能とするために、第1および第2歯付きホイールr1、r2の歯および周辺リング歯車17の歯は、標準的なインボリュート歯となっている。このような歯を用いることで、部品間の摺動がないことによって損失を抑制し、部品の摩耗を抑制しながら高トルクを伝達することが可能となる。また、これらの歯を用いることにより、歯付きホイールr1、r2が異なるサイズの周辺リング歯車17と一緒に使用される場合、あるいは周辺リング歯車17が異なるサイズの歯付きホイールr1、r2と一緒に使用される場合に、特定のプロファイルを再計算する必要はない。
【0041】
図5は、入力軸3、遊星キャリア7、(複数の)カム13、太陽歯車5、3つの遊星歯車15のうちの2つ、および2つの歯付きホイールのうちの1つ(ここではr2)からなるアセンブリを、組み立てられた状態で示している。
【0042】
<減速比>
機械式減速機1の減速比は、次式で与えられる。
【数1】
ここで、Z1は太陽歯車5の歯数、Z2は遊星歯車15の歯数、Z3は歯付き歯車r1、r2の歯数、Z4は周辺リング歯車17の歯数である。
【0043】
減速機の組み立てを容易にするために、太陽歯車5の歯数と遊星歯車15の歯数は、遊星歯車15の数の倍数であることが好ましく、本例では3の倍数である。
【0044】
また、質量のバランスを最適にとるために、歯付きホイールr1,r2の数は少なくとも2つであり、リング歯車17の歯数はこの歯付きホイールr1,r2の数の倍数、つまりこの場合は2の倍数となっている。
【0045】
また、歯付きホイールr1、r2と周辺リング歯車17の歯数の差は、周辺リング歯車17の歯や歯付きホイールr1、r2の歯にかかる応力を抑えるために、少なくとも3歯、例えば3~5歯、特に3歯となるように選択されている。
【0046】
減速比69を得るために、歯数15の太陽歯車5、歯数45の遊星歯車15、歯数65の歯車、歯数68のリング歯車17を選択することが可能である。
【0047】
<動作>
動作時に、入力軸3が軸線Xを中心に回転すると、太陽歯車5が回転し、その結果、3つの遊星歯車15が回転する。遊星歯車15はそれぞれカム13に回転可能に連結されているので、カムはそれぞれの遊星軸s1,s2,s3を中心に回転する。カム13が遊星軸s1,s2,s3を中心に回転することで、第1および第2歯付きホイールr1、r2とリング歯車17との確実な噛み合いが発生する。機械式減速機1の組立状態では、第1歯付きホイールr1が第2歯付きホイールr2と径方向に対向して配置されているので、バランスの取れた移動質量を得ることができ、振動を低減することができる(特に、単一の歯付きホイールを備えた機械式減速機1と比較して)。
【0048】
また、周辺リング歯車17上での第1および第2歯付きホイールr1,r2が回転する結果として、カム13、遊星軸s1,s2,s3及び遊星キャリア7を備えたアセンブリが軸線Xを中心に回転する。遊星キャリア7上に出力軸74が配置されているので、入力軸3の回転速度と出力軸74の回転速度との間に上述のような減速比を有しつつ、出力軸74の回転が得られる。したがって、機械式減速機1は、特に歯付きホイールr1,r2、周辺リング歯車17、遊星キャリア7、カム13によって形成されるトロコイド式減速機として構成され、小さなスペースで高い減速比を得ることが可能であり、これに、特に太陽歯車5、遊星歯車15、遊星キャリア7によって形成される遊星段が結合されることで、出力軸74の中心出しされ案内された回転を得ることが可能である。
【0049】
本発明は、上述した図に示す実施形態に限定されるものではなく、3つとは異なる数の遊星歯車15と、2つとは異なる数の歯付きホイールr1,r2と、歯数の異なる歯車5,15、歯付きホイールr1,r2または周辺リング歯車17とを備えた実施形態にも及ぶものである。
【0050】
本発明は、上記のような機械式減速機1を備え、その入力軸3が電動モータによって駆動されるように構成されたギヤードモータ100にも関するものである。
【0051】
図6は、このようなギヤードモータ100の一実施形態を示す斜視断面図である。ギヤードモータ100は、保護ケーシング101を備えることができる。保護ケーシング101は、円筒形とすることができる。ギヤードモータ100は、入力軸3を案内するための第1軸受103と、出力軸74を案内するための第2軸受105とを備えることができる。第1軸受103および第2軸受105は、例えばボールベアリングなどの転がり軸受によって形成することができる。軸受103,105は、保護ケーシング101の専用の凹部に配置することができる。また、リング歯車17は、保護ケーシング101に固定することもできる。
【0052】
したがって、ギヤードモータ100は、入力軸3を回転させるように構成された電動モータ110を備えている。電動モータ110は、保護ケーシング101に固定可能なステータ112を備えている。ステータ112は、例えば、コイル118(
図6に概略的に示す)を形成するためにステータ巻線を受け入れるのに適した(複数の)アーム116を含むステータプレート114を備えている。
【0053】
電動モータ110はさらにロータ120を備えており、ロータ120は、入力軸3に回転可能に結合されるとともに、例えば、(複数の)コイル118と相互作用するのに適した(複数の)永久磁石122(あるいは代替的にコイルまたは電磁石)を含んでいる。これらのコイル118への給電により、永久磁石122との間の相互作用およびロータ120の回転が生じるようになっている。
【0054】
また、電動モータ110は、入力軸3に回転可能に結合された制御磁石124と、制御磁石124の位置、したがって入力軸3の角度位置を決定するように構成された、例えばホール効果センサなどの位置センサとを備えていてもよい。制御磁石124は、入力軸3の端部に配置することができ、センサは、制御磁石124に面して配置されたプリント回路基板126上に配置することができる。
【0055】
機械式減速機1の出力軸74にクランク130を取り付けて、出力軸74からの回転トルクを自動車のワイパー装置のリンケージに伝達することができる。
【0056】
このため、電動モータ110および機械式減速機1は、電動モータ110の直径に対応する直径、例えば100mm未満、特に80mmから90mmの直径を有する単一の保護ケーシング101内に配置することができる。軸線方向の長さが短縮されたブラシレス電動モータ110を使用することにより、設置面積が抑制され、したがって、自動車内に、特にワイパー装置を駆動するために、容易に設置することができるギヤードモータ100が得られる。