(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】繊維積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20240426BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20240426BHJP
D04H 3/016 20120101ALI20240426BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20240426BHJP
A45D 44/22 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
B32B5/26
D04H3/16
D04H3/016
A41D13/11 Z
A45D44/22 C
(21)【出願番号】P 2021516023
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016464
(87)【国際公開番号】W WO2020218092
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019084945
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307046545
【氏名又は名称】クラレクラフレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】友居 正典
(72)【発明者】
【氏名】松尾 章弘
(72)【発明者】
【氏名】落合 徹
(72)【発明者】
【氏名】白石 育久
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-121014(JP,A)
【文献】特開2002-356958(JP,A)
【文献】特開2003-082568(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143430(WO,A1)
【文献】特開2013-128743(JP,A)
【文献】特開2009-256856(JP,A)
【文献】国際公開第2010/064710(WO,A1)
【文献】特開2010-129486(JP,A)
【文献】特開2018-083990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/11
A45D 44/22
B32B 1/00-43/00
D04H 1/4374
D04H 3/16
D04H 3/016
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー繊維からなる平均繊維径10μm未満の極細繊維層と、前記極細繊維層に隣接し平均繊維径10~30μmの繊維からなる非極細繊維層とを有し、
前記極細繊維層と前記非極細繊維層との層間剥離強力が0.40N/5cm以上であり、
繊維積層体表面の凹凸差が、繊維積層体の厚さに対して40%以下であ
り、
前記非極細繊維層を構成する繊維が、親水性繊維及び疎水性繊維を含有する繊維積層体。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー繊維がポリウレタン系エラストマー繊維またはポリスチレン系エラストマー繊維である、請求項1に記載の繊維積層体。
【請求項3】
前記極細繊維層の目付が50g/m
2以下である、請求項1又は2に記載の繊維積層体。
【請求項4】
前記極細繊維層がメルトブローン不織布であり、前記非極細繊維層がスパンレース不織布である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の繊維積層体。
【請求項5】
保水率が700~1500質量%である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の繊維積層体。
【請求項6】
少なくとも一方向に伸長させたときの湿潤時の25%伸長回復率が60%以上である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の繊維積層体。
【請求項7】
液状成分を繊維積層体の質量に対して700質量%含浸させた繊維積層体の極細繊維層側の面をアクリル板上に置き、ASTM-D1894を参考として測定した湿潤摩擦力が0.5~3Nである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の繊維積層体。
【請求項8】
液状成分を含浸してなる、請求項1~
7のいずれか一項に記載の繊維積層体。
【請求項9】
請求項
8に記載の繊維積層体を用いてなるフェイスマスク。
【請求項10】
請求項
8に記載の繊維積層体を用いてなる液体含浸シート。
【請求項11】
前記非極細繊維層上に、溶融状態の熱可塑性エラストマー繊維を吹き付けて前記極細繊維層を形成する工程を有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の繊維積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細繊維層と非極細繊維層とを有する繊維積層体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体の肌(皮膚)などに貼付するシートして、化粧料などの液体を含浸したスキンケアシート(液体含浸生体被膜シート)が使用されている。フェイスマスクに代表されるスキンケアシートは、皮膚を簡便に高い湿潤状態に維持できることから、近年、多種多様な商品が開発されている。シートの材料としては、一般的には、繊維で構成される織布や不織布が用いられ、コストの面から不織布が広く用いられている。化粧料の不織布含浸シートとして多く用いられるのが、親水性の高いコットンに代表されるセルロース系の繊維を主成分としたスパンレース不織布である。しかし、セルロース系繊維のスパンレース不織布は、皮膚に対する刺激性や装着性が十分でなかった。
【0003】
それらを改良するため、密着感と保液性に優れた皮膚接触シートとしては保液層と密着層を積層した不織布積層体が知られている(特許文献1)。さらに皮膚のたるみを改善するためのリフトアップ効果を得るために熱可塑性のエラストマー繊維層を使用したシートが提案されている(特許文献2及び3)。特許文献2では、熱可塑性エラストマー繊維層と短繊維層との積層体に対して、セルロース系繊維層を水流絡合やニードルパンチにより一体化させた被覆シートが開示されている。また、特許文献3では、エラストマー長繊維を含む極細繊維層が、親水性短繊維層と部分的熱圧着によって積層された伸縮性積層シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/004834号
【文献】特開2010-155454号公報
【文献】特開2009-256856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、密着層が熱可塑性エラストマー繊維の場合、熱可塑性エラストマー繊維の収縮性に起因して密着層と保液層の層間剥離強力が十分ではなく、不織布積層体を使用前に伸長させたときに密着層と保液層とが剥離する可能性があった。また特許文献2の方法では、熱可塑性エラストマー層による伸縮性は得られるものの、熱可塑性エラストマー繊維層と短繊維層との積層体とセルロース系繊維層とを一体化するための水流絡合やニードルパンチが必要であり、熱可塑性エラストマー層自体は容易に短繊維層から剥離してしまう。さらに特許文献3に開示されている方法では、熱圧着により繊維層を複合し、圧着点の部分に凹みができるため、液体含浸シートとして使用する場合、使用開始時に、皮膚との密着面積が低下し十分な密着性が得られない可能性がある。
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、高い層間剥離強力を有し保液量を維持しながら、肌への密着性とリフトアップ効果のある素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため詳細に検討を重ねた結果、(i)熱可塑性エラストマー繊維からなる極細繊維層と、非極細繊維層とを積層する場合、熱可塑性エラストマー繊維の伸縮性に起因して非極細繊維層との一体化が困難であることを新たな課題として見出し、この課題を改善するために、(ii)熱可塑性エラストマー繊維からなる極細繊維層と、非極細繊維層とを積層するに当たり、極細繊維層を構成する繊維の一部が、非極細繊維層の内部へ入り込むとともに、非極細繊維層との界面において極細繊維層を構成する繊維が実質的に溶融した状態で接触させると、極細繊維層と非極細繊維層との層間剥離強力を向上できること、さらに、(iii)このような層間剥離強力を有する繊維積層体では、一体化するためのエンボス加工による表面凹凸を積極的に形成しなくとも、繊維積層体としての一体性を達成でき、さらに、表面凹凸を平坦にすることで、肌への密着性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕熱可塑性エラストマー繊維からなる平均繊維径10μm未満の極細繊維層と、前記極細繊維層に隣接し平均繊維径10~30μmの繊維からなる非極細繊維層とを有し、前記極細繊維層と前記非極細繊維層との層間剥離強力が0.40N/5cm以上(好ましくは0.50N/5cm以上)であり、繊維積層体表面の凹凸差が、繊維積層体の厚さに対して40%以下である繊維積層体。
〔2〕前記熱可塑性エラストマー繊維がポリウレタン系エラストマー繊維またはポリスチレン系エラストマー繊維である、前記〔1〕に記載の繊維積層体。
〔3〕前記極細繊維層の目付が50g/m2以下(好ましくは20g/m2以下、より好ましくは3~20g/m2であり、さらに好ましくは5~20g/m2)である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の繊維積層体。
〔4〕前記非極細繊維層を構成する繊維が、親水性繊維及び疎水性繊維を含有する、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の繊維積層体。
〔5〕前記極細繊維層がメルトブローン不織布であり、前記非極細繊維層がスパンレース不織布である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の繊維積層体。
〔6〕保水率が700~1500質量%(好ましくは700~1300質量%、より好ましくは710~1000質量%)である、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の繊維積層体。
〔7〕少なくとも一方向に伸長させたときの湿潤時の25%伸長回復率が60%以上(好ましくは62%以上、より好ましくは63%以上)である、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の繊維積層体。
〔8〕液状成分を繊維積層体の質量に対して700質量%含浸させた繊維積層体の極細繊維層側の面をアクリル板上に置き、ASTM-D1894を参考として測定した湿潤摩擦力が0.5~3.0N(好ましくは、0.6~2.7N、より好ましくは0.7~2.5N、さらに好ましくは0.8~2.0N)である、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の繊維積層体。
〔9〕液状成分を含浸してなる、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の繊維積層体。
〔10〕前記〔9〕に記載の繊維積層体を用いてなるフェイスマスク。
〔11〕前記〔9〕に記載の繊維積層体を用いてなる液体含浸シート。
〔12〕前記非極細繊維層上に、溶融状態の熱可塑性エラストマー繊維を吹き付けて前記極細繊維層を形成する工程を有する、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の繊維積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱可塑性エラストマー繊維からなる極細繊維層を有する繊維積層体であっても、極細繊維層とこの極細繊維層に隣接する非極細繊維層との剥離強力に優れ、さらに熱可塑性エラストマー繊維と非極細繊維層が一体化するため、全体としての伸縮性及び密着性に優れるためリフトアップ効果を与えることが可能な繊維積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<繊維積層体>
本発明の繊維積層体は、熱可塑性エラストマー繊維からなる平均繊維径10μm未満の極細繊維層と、前記極細繊維層に隣接し平均繊維径10~30μmの繊維からなる非極細繊維層とを有し、前記極細繊維層と非極細繊維層との層間剥離強力が0.50N/5cm以上であり、繊維積層体表面の凹凸差が、繊維積層体の厚さに対して40%以下である。
【0011】
極細繊維層と非極細繊維層とは隣接しており、極細繊維層を形成する熱可塑性エラストマー繊維の一部は、非極細繊維層の内部に入り込みアンカーとして作用するのが好ましい。また、熱可塑性エラストマー繊維の一部は、非極細繊維層との界面において、非極細繊維の形状に合わせて変形している部位を有し、非極細繊維層に対して繊維レベルでの一体化が行われているのが好ましい。本発明の繊維積層体は、極細繊維層と非極細繊維層との一体化に優れるため、極細繊維層と非極細繊維層との間にバインダー層を配設しなくても、所定の層間剥離強力を達成することができる。
【0012】
本発明の繊維積層体では、上述の極細繊維層と非極細繊維層との二層構造が少なくとも含まれていればよく、例えば、非極細繊維層の両側に熱可塑性エラストマー極細繊維層が配設された三層構造であってもよい。さらに、本発明の繊維積層体には、他の層が配設されていてもよい。他の層としては、フィルム層、バインダー層、繊維層などが挙げられる。これらの層は、単独でまたは二種以上組み合わせて、繊維積層体の少なくとも一方の面に配設してもよい。
【0013】
本発明の繊維積層体は、熱可塑性エラストマーからなる極細繊維層を有するとともに、この極細繊維層と一体化した非極細繊維層を有しているため、繊維積層体としての一体性に優れ、繊維積層体を使用前に伸張させた場合でも、極細繊維層と非極細繊維層とが剥離するのを抑制することができる。また、本発明の繊維積層体は、熱可塑性エラストマー極細繊維層を有するとともに凹凸が少ないため、液状成分を含浸させた状態で伸長させながら皮膚に貼り付けることで、繊維積層体(好ましくは、極細繊維層)が皮膚に密着するとともに、非極細繊維層に保持された化粧液が良好に放出され、さらにはシートの収縮によるリフトアップ効果を与える。
【0014】
[非極細繊維層]
本発明に用いられる非極細繊維層は、平均繊維径10~30μmの繊維から構成される。非極細繊維層を構成する繊維の平均繊維径は、好ましくは10~25μm、さらに好ましくは10~20μmである。非極細繊維層を構成する繊維は、総じて、極細繊維層を構成する繊維より大きな繊維径を有している。非極細繊維層を構成する繊維の平均繊維径が10μm未満であると、嵩が出にくくなるため保液性が低下し、30μmを超えると、ウェブが硬くなり使用感が悪いシートとなる。なお、本明細書において平均繊維径とは、単繊維の数平均繊維径を意味する。
【0015】
非極細繊維層の形態は特に限定されず、織物、編み物、不織布、ウェブなどが挙げられる。中でも、生産性、シートの伸長性、取り扱い性の観点から、乾式不織布、紡糸直結型不織布(例えばスパンボンド不織布)などが好ましく用いられる。非極細繊維層は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0016】
乾式不織布を構成する繊維の繊維長は15~70mm程度、好ましくは20~65mm程度であってもよく、より好ましくは30~60mm程度であり、さらに好ましくは35~55mm程度であってもよい。このような繊維長により乾式不織布を、湿式不織布(通常、繊維長は10mm以下)と区別することが可能である。
【0017】
例えば、乾式不織布では、所定の繊維集合体から、カード法またはエアレイド法により、ウェブが形成される。得られたウェブは、次いで、実用的な強度を付与するために、繊維同士を結合させる。結合方法としては、化学的結合(例えば、ケミカルボンド法)、熱的結合(例えば、サーマルボンド法、スチームジェット法)、機械的結合(例えば、スパンレース法、ニードルパンチ法)を利用することができるが、簡便性の観点から、水流絡合処理により交絡させるスパンレース法を用いることが好ましい。
【0018】
スパンレース法の場合、前記短繊維、例えば、疎水性繊維と親水性繊維とを混綿し、例えば、カード機によるカーディングにて開繊して不織布ウェブを作製してもよい。この不織布ウェブは、ウェブを構成する繊維の配向割合によりカード機の進行方向に配列されたパラレルウェブ、パラレルウェブがクロスレイドされたクロスウェブ、ランダムに配列したランダムウェブ、あるいはパラレルウェブとランダムウェブとの中間程度に配列したセミランダムウェブのいずれであってもよいが、横方向で繊維の絡みが発生し、横方向への伸びが阻害されるため、使用時に肌への沿い性が低下する傾向のあるランダムウェブやクロスウェブよりも、積層シートの横方向の柔らかさと伸び性を確保できるパラレルウェブ、セミランダムウェブが好ましい。
【0019】
具体的には、不織布としては、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、エアレイド不織布、スチームジェット不織布、スパンボンド不織布などが挙げられる。これらのうち、保水率やシートの伸長性等の観点から、スパンレース不織布、スチームジェット不織布が好ましい。
【0020】
非極細繊維層は、美容成分又は薬効(効能)成分(例えば、保湿成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、冷却成分、紫外線防止成分、皮膚かゆみ抑制成分など)を含む液状成分を含浸するのに必要な濡れ性と保液するための空隙を有し、使用時の取り扱いにおいても液だれすることなく、体の所定の部位(例えば顔)を覆うまで保持し、貼付あるいは静置すると共に液状成分を少しずつ肌側に位置する極細繊維層の方向に移行させる役割を有することが好ましい。
【0021】
非極細繊維を構成する繊維は、用途に応じて選択できるが、保液性の観点から、親水性繊維を含むことが好ましい。親水性繊維を含有することで、繊維積層体に化粧料等の液状成分を含浸した際に液体を積層体内部まで容易に取り込むことが可能となり、さらに、積層体内部に取り込まれ多量の液状成分が使用時に液だれすることをより一層抑制できる。
【0022】
非極細繊維を構成する繊維は、保液性と放液性とのバランスに優れる点から、親水性繊維及び疎水性繊維を含有する混合体(混綿)がより好ましい。親水性繊維と疎水性繊維との割合(質量比)は、親水性繊維/疎水性繊維=99/1~1/99程度の範囲から選択でき、例えば、90/10~10/90程度である。親水性繊維の割合が少なすぎると、繊維積層体が液状成分と馴染みにくく、繊維積層体中で液量に斑が生じたり、繊維積層体の保液性が低下する傾向がある。一方で親水性繊維の割合が多すぎると、繊維積層体の液状成分の保持能力が高くなりすぎ、使用時に液状成分が肌側に放出され難くなる傾向がある。
【0023】
親水性繊維としては、親水性を有する限り、特に限定されず、合成繊維、天然繊維、天然の植物繊維や動物性のタンパク質繊維などを一旦溶解してから化学的に処理して繊維化した再生繊維などが選択できる。さらに、親水性繊維は、少なくとも表面が親水性樹脂で構成されていればよく、例えば、疎水性繊維の表面を親水化処理した繊維や、内部が疎水性樹脂で構成された複合繊維などであってもよい。
【0024】
合成繊維としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基などの親水性基(特に水酸基)を分子中に有する樹脂、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体などで構成された合成繊維が挙げられる。これらの合成繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの合成繊維のうち、モノマー単位に水酸基を有する親水性樹脂繊維が好ましく、特に、分子内に均一に水酸基を有する点から、エチレン-ビニルアルコール共重合体で構成された繊維が好ましい。
【0025】
エチレン-ビニルアルコール共重合体において、エチレン単位の含有量(共重合割合)は、例えば、10~60モル%、好ましくは20~55モル%、さらに好ましくは30~50モル%程度である。エチレン-ビニルアルコール共重合体のケン化度は、例えば、90~99.99モル%程度であり、好ましくは95~99.98モル%、さらに好ましくは96~99.97モル%程度である。粘度平均重合度は、例えば、200~2500、好ましくは300~2000、さらに好ましくは400~1500程度である。エチレン-ビニルアルコール共重合体などの湿熱接着性樹脂を用いると、スチームジェット法により嵩高で安定な非極細繊維層も形成できる。
【0026】
天然繊維としては、例えば、綿(又はコットン)、絹、麻、シルク、ウールなどが挙げられる。これらの天然繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、綿などが汎用される。
【0027】
再生繊維としては、例えば、ビスコースレーヨンなどのレーヨン、アセテート、リヨセル、キュプラ、ポリノジックなどのセルロース系繊維が挙げられる。これらの天然繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、レーヨン繊維やリヨセル繊維などが汎用される。
【0028】
表面が親水性樹脂で構成された繊維において、繊維の表面に親水性を付与する方法としては、繊維形成性樹脂と共に親水性樹脂を繊維化し、繊維表面の少なくとも一部を親水性樹脂で覆う方法であってもよい。親水性樹脂で繊維の表面を覆う方法で形成された複合繊維は、長時間に亘り使用しても親水性能の劣化が少ないので好ましい。また、繊維形成性樹脂と共に親水性樹脂を繊維化する方法は製造工程が短くなるとともに均一に高い親水性を付与できるので好ましい。特に、親水性が高い点から、繊維の全表面を親水性樹脂で鞘状に覆う繊維、すなわち、鞘部が親水性樹脂で構成された芯鞘型構造の複合繊維が好ましい。
【0029】
芯鞘型複合繊維は、鞘部が親水性樹脂で構成されていれば特に限定されないが、芯部は、液状成分を含浸しても繊維形状を保持し、親水性能の劣化が抑制できる点から、後述する疎水性繊維を構成する疎水性樹脂で構成されているのが好ましい。さらに、疎水性樹脂のなかでも、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂が好ましい。なお、鞘部の親水性樹脂は、嵩高で安定な不織布を生産できる点などから、合成繊維を構成する樹脂、特に、エチレン-ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。芯鞘型複合繊維において、芯部と鞘部との割合(質量比)は、例えば、鞘部/芯部=90/10~10/90(例えば、60/40~10/90)、好ましくは80/20~15/85、さらに好ましくは60/40~20/80程度である。
【0030】
また、これらの親水性繊維のうち、レーヨンやリヨセルなどのセルロース系繊維は、化粧料などの液状成分を構成する水や水溶液、極性溶媒、これらのエマルジョンなどが繊維内部にまで浸透し吸収性が良く、保液性が高い点で特に好ましい。一方、エチレン-ビニルアルコール共重合体繊維(特に、鞘部がエチレン-ビニルアルコール共重合体で構成された芯鞘型複合繊維)は、保液性能についてはセルロース系繊維より低いものの、化粧料などの液状成分との馴染みが良く、かつ繊維自身が液状成分の液体を吸収せず、圧力などで容易に放出できる点で特に好ましい。従って、セルロース系繊維とエチレン-ビニルアルコール共重合体繊維とを、化粧料などの液状成分の粘度や量に応じて選択してもよく、さらに両者を混合することにより保液性と放出性とを制御してもよい。更には必要に応じて他の繊維を配合してもよい。
【0031】
非極細繊維層を構成する疎水性繊維又は非親水性樹脂(極性がそれほど高くなく、疎水性が比較的強い樹脂)は、非極細繊維層の形体の安定性を得るために用いられる。疎水性繊維は、非極細繊維層が湿潤状態にあっても繊維自体のヤング率の低下がほとんど無いことから、非極細繊維層の嵩やコシを維持する方向に働く。
【0032】
このような疎水性繊維としては、特に限定されないが、標準状態(20℃、65%RH)における公定水分率が2.0%未満の樹脂、例えば、一般的に不織布に使用されるポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂で構成された繊維などが挙げられる。これらの疎水性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、汎用性が高く、機械的特性などに優れる点から、ポリエステル繊維が好ましい。
【0033】
非極細繊維層を構成する繊維(親水性繊維及び疎水性繊維)の断面形状は、特に制限されず、例えば、丸形断面、異形断面(扁平状、楕円状断面など)、多角形断面、多葉形断面(3~14葉状断面)、中空断面、V字形断面、T字形断面、H字形断面、I字形(ドッグボーン形)断面、アレイ形断面などの各種断面形状であってもよい。これらのうち、丸型断面、楕円状断面などが好ましい。
【0034】
非極細繊維層の目付は、例えば、20~200g/m2、好ましくは25~150g/m2、さらに好ましくは30~120g/m2(特に30~100g/m2)程度である。非極細繊維層の目付が小さすぎると、保液性が低下したり、得られる繊維積層体の機械的強度が低下する傾向がある。また、目付が大きすぎると、液状成分が非極細繊維に多量に取り込まれ、皮膚まで到達しづらい傾向となる。
【0035】
非極細繊維層の厚さは、100~3000μm程度の範囲から選択でき、例えば、200~2000μm、好ましくは300~1500μm、さらに好ましくは400~1200μm(特に400~1000μm)程度である。
【0036】
保液性を確保するとともに、繊維積層体の強度を担保する観点から、非極細繊維層の密度は、0.05~0.25g/cm3程度の範囲から選択でき、例えば、0.08~0.20g/cm3、好ましくは0.10~0.18g/cm3、さらに好ましくは0.12~0.15g/cm3(特に0.13~0.15g/cm3)程度である。
【0037】
[極細繊維層]
本発明に用いられる極細繊維層は、平均繊維径10μm未満の熱可塑性エラストマー繊維からなる。伸縮性を有する熱可塑性エラストマー繊維を用いるとともに、熱可塑性エラストマー繊維の極細繊維層と非極細繊維層とが一体化することで、得られる繊維積層体も伸縮性に優れる。熱可塑性エラストマー繊維における単繊維の数平均繊維径は、好ましくは9μm以下であり、より好ましくは8μm以下である。熱可塑性エラストマー繊維の平均繊維径が10μm以上であると、非極細繊維層の内部に熱可塑性エラストマー繊維が入り込みにくくなる可能性や、極細繊維層と非極細繊維層との界面において熱可塑性エラストマー繊維が非極細繊維層に合わせた形状変化を起こしにくくなる可能性があるため、層間剥離強力を向上する上で不利である。また、極細繊維層が肌と接触する場合、肌との密着力が不十分となる。
【0038】
熱可塑性エラストマー繊維は特に限定されないが、例えば熱可塑性エラストマーを30質量%以上含む樹脂からなる繊維であり、好ましくは熱可塑性エラストマーを50質量%以上含む樹脂からなる繊維であり、より好ましくは熱可塑性エラストマーを80質量%以上含む樹脂からなる繊維であり、さらにより好ましくは熱可塑性エラストマー樹脂のみからなる繊維である。
【0039】
熱可塑性エラストマー繊維としては、例えば、ポリウレタン系エラストマー繊維、ポリスチレン系エラストマー繊維、ポリオレフィン系エラストマー繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリ塩化ビニル系エラストマー繊維およびポリアミド系エラストマー繊維等を挙げることができる。保液性及び伸縮性を向上できる観点から、ポリウレタン系エラストマー繊維やポリスチレン系エラストマー繊維、特にポリウレタン系エラストマー繊維が好ましい。
【0040】
ポリウレタン系エラストマー繊維を構成するポリウレタン系エラストマーは、低分子グリコールとジイソシアネート類とで構成されるハードセグメント、および高分子ジオールとジイソシアネートとで構成されるソフトセグメントから構成される。
低分子グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのC1-10ジオールなどが挙げられる。高分子ジオールとしては、ポリ(1,4-ブチレンアジペート)、ポリ(1,6-ヘキサンアジペート)、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリプロレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ジイソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0041】
ポリスチレン系エラストマー繊維を構成するポリスチレン系エラストマーとしては、SBS(スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体)、SIS(スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体)、SEBS(スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロック共重合体)などが挙げられる。
【0042】
ポリオレフィン系エラストマー繊維を構成するオレフィン系エラストマーは、ポリエチレンまたはポリプロピレンをハードセグメントをとし、SEBSやエチレン/プロピレン共重合体をソフトセグメントとして構成される。
【0043】
ポリエステル系エラストマー繊維を構成するポリエステル系エラストマーは、飽和ポリエステルをハードセグメントとし、脂肪族ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとして構成される。
【0044】
ポリ塩化ビニル系エラストマー繊維を構成するポリ塩化ビニル系エラストマーは、結晶ポリ塩化ビニルをハードセグメントとし、非晶ポリ塩化ビニルやアクリロニトリルをソフトセグメントとして構成される。
【0045】
ポリアミド系エラストマー繊維を構成するポリアミド系エラストマーは、ポリアミドをハードセグメントとし、非晶性でガラス転移温度の低いポリエーテルやポリエステルをソフトセグメントとして構成される。
【0046】
極細繊維層の目付は、例えば、50g/m2以下、好ましくは20g/m2以下、より好ましくは3~20g/m2であり、さらに好ましくは5~20g/m2程度であってもよい。極細繊維層の目付が小さすぎると、伸縮性が低下することでリフトアップ効果が低下する傾向がある。一方、目付が大きすぎると、液状成分の放出性が低下する傾向がある。
【0047】
極細繊維層の厚さは10~500μm程度の範囲から選択でき、例えば、30~500μm、好ましくは30~200μm、さらに好ましくは35~150μm(特に40~100μm)である。厚さが小さすぎると、極細繊維層を形成するための繊維量が不足し肌面に対して均一な極細繊維層を形成しづらくなる傾向がある。一方、厚さが大きすぎると、非極細繊維層から液状成分が浸透しづらくなる傾向がある。
【0048】
液状成分の放出性を確保するとともに、伸縮性(特に伸縮性および肌への密着性)を向上する観点から、極細繊維層の密度は、0.10~0.40g/cm3程度の範囲から選択でき、例えば、0.12~0.35g/cm3、好ましくは0.15~0.30g/cm3、さらに好ましくは0.18~0.28g/cm3(特に0.20~0.25g/cm3)程度である。
【0049】
極細繊維層は、平均繊維径を上記範囲とする極細繊維層を容易に得ることができる観点および非極細繊維層との一体性に優れる観点から、非極細繊維層上に、溶融状態の熱可塑性エラストマー繊維を吹き付けて(ダイレクトブローン法)得られる極細繊維層であってもよい。本明細書では、ダイレクトブローン不織布として、もメルトブローン不織布と称する場合がある。
【0050】
<繊維積層体の製造方法>
極細繊維層と非極細繊維層の積層方法は、成型の容易さと後加工による各繊維層への影響を小さくする観点から、非極細繊維層上に、溶融状態の熱可塑性エラストマー繊維を吹き付けて(ダイレクトブローン法)前記極細繊維層を形成する工程を有する。
【0051】
より詳細には、極細繊維層を形成する工程では、非極細繊維層を形成する非極細繊維シートに対して、変形性を有する状態で熱可塑性エラストマー繊維が吹き付けられる。そのため、非極細繊維シートを構成する繊維集合体と接触する際に、変形可能な熱可塑性エラストマー繊維の一部は、その変形性および吹き付けられる際の勢いを利用して、前記繊維集合体の内部まで入り込むことができる。さらに、変形可能な熱可塑性エラストマー繊維は、非極細繊維層と接触する際に、非極細繊維層内部に入り込まない場合であっても、非極細繊維層との界面において、非極細繊維層表面の繊維形状に沿って変形することが可能となる。
【0052】
前記溶融状態の熱可塑性エラストマー繊維を吹き付ける方法としては、メルトブローン法が好適な方法として挙げられる。メルトブローン法により熱可塑性エラストマー繊維が完全に固化する前に非極細繊維層上に捕集することで、層間が十分に接着した状態で繊維積層体を連続的に製造できる。
なお、本発明の繊維積層体を得ることができる範囲で、前記ダイレクトブローン法に加えて、他の積層方法を組み合わせてもよい。たとえば、他の積層方法とは、エアスルー法、スチームジェット法、カレンダー法、およびスパンレース法などが挙げられる。
【0053】
得られる繊維積層体の層間剥離強力を0.40N/5cm以上とするためには、後述する紡糸温度や、溶融状態の熱可塑性エラストマー繊維の紡糸位置から非極細繊維までの距離である捕集距離を調整することが特に重要である。本発明の効果を発揮するために好適な捕集距離については紡糸温度や吐出量等の紡糸条件、使用するエラストマー樹脂の種類、極細繊維の繊維径、環境温度等に依存する。
【0054】
例えば、極細繊維層を構成する繊維の材料としてポリウレタン系エラストマー樹脂を用いる場合は、メルトブローン法における紡糸温度は好ましくは240~270℃、より好ましくは240~265℃、さらに好ましくは240~260℃程度である。
【0055】
また、極細繊維層を構成する繊維の材料としてポリスチレン系エラストマー樹脂を用いる場合は、メルトブローン法における紡糸温度は好ましくは200~350℃、より好ましくは220~320℃、さらに好ましくは240~300℃程度である。
【0056】
メルトブローン法における溶融状態の熱可塑性エラストマー繊維の紡糸位置から非極細繊維までの距離である捕集距離は、熱可塑性エラストマー繊維を構成する樹脂の種類や、紡糸温度に応じて適宜変更することが可能であるが、好ましくは8~20cm、より好ましくは10~18cm、さらに好ましくは10~15cm程度である。この捕集距離は通常のメルトブローン法における捕集距離よりも短いものである。
【0057】
通常より短い捕集距離で、直接非極細繊維層に対してダイレクトブローンを行うことにより、紡糸ノズルから非極細繊維層に対して吐出される溶融状態の熱可塑性エラストマーは、吐出時の勢いを利用して、熱可塑性エラストマー繊維の一部が非極細繊維層の内部へ物理的に入り込むことができる。さらに、非極細繊維層との接触面(または界面)では、極細繊維状の熱可塑性エラストマーが軟化した状態で接触するために、非極細繊維の形状に合わせて自らの形状を変形させることが可能となり、その結果、極細繊維層と非極細繊維層との耐剥離強力を向上させることができる。
【0058】
これに対して、一般的には捕集距離を近づけすぎると接着力は向上するが、極細繊維層の繊維径が小さいために熱によって熱可塑性エラストマー繊維同士の融着が進みフィルム化しやすく、液状成分の放出性や密着力が低下する傾向がある。一方で、捕集距離を離しすぎると熱可塑性エラストマー繊維が捕集される前に冷却されることで繊維の固化が進行して、十分な層間剥離強力が得られない傾向がある。
【0059】
メルトブローン法における紡糸孔の間隔は、例えば、100~4000孔/m、好ましくは500~3000孔/m、さらに好ましくは1000~2500孔/m程度である。単孔吐出量は、例えば、0.01~1g/孔・分、好ましくは0.05~0.5g/孔・分、さらに好ましくは0.1~0.3g/孔・分程度である。
【0060】
メルトブローン法における高温エアーのエアー圧は0.01~1MPa程度の範囲から選択でき、例えば、0.05~0.8MPa、好ましくは0.1~0.6MPa、さらに好ましくは0.2~0.5MPa程度である。エアー温度は、例えば、紡糸温度近傍温度、例えば、紡糸温度よりも0~50℃高い温度、好ましくは紡糸温度よりも3~30℃高い温度、さらに好ましくは紡糸温度よりも5~20℃高い温度が好ましい。
【0061】
メルトブローン法におけるコンベア速度は、例えば、1~200m/分、好ましくは5~100m/分、さらに好ましくは10~80m/分程度である。エアー圧、コンベア速度、ノズル先端とコンベア(ネットコンベアなど)との距離(捕集距離)などを適宜調整することにより、得られる極細繊維層の目付、密度、柔軟性などを調整してもよい。
【0062】
<繊維積層体の物性>
繊維積層体の層間剥離強力は0.40N/5cm以上であり、好ましくは0.50N/5cm以上である。層間剥離強力が0.40N/5cm未満であると、使用前に伸張させたときに剥離する。また、使用中に極細繊維層と非極細繊維層が剥離し、液状成分を十分に皮膚側に放出できない虞がある。層間剥離強力の上限は特に制限されないが、一般的な方法で繊維層同士を積層させる場合には5N/5cmを超えると、いずれかの繊維層の破壊が起こることが多く、正確な数値の測定が困難となるため、層間剥離強力の上限は5N/5cm以下が好ましい。
【0063】
繊維積層体の表面の凹凸差は小さい方が好ましい。より詳しくは繊維積層体の全体の厚さに対する凹凸差の比は40%以下であることが重要であり、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下であってもよい。凹凸差の比が40%を超えると、皮膚との接着点が少なくなってしまうため密着力が低下し、リフトアップ効果を十分に得られない。凹凸差の比は低いほどよく、下限は特に限定されないが、例えば1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、より好ましくは10%程度であってもよい。
【0064】
繊維積層体の厚さは0.1~4mm程度の範囲から選択でき、例えば、0.15~3mm、好ましくは0.2~2mm、さらに好ましくは0.25~1.5mm(特に0.3~1mm)である。厚さが小さすぎると、保液性が低下する傾向がある。一方、厚さが大きくなりすぎると保液量が多くなりすぎることで重くなり密着性が低下する傾向がある。
【0065】
繊維積層体の目付は、例えば、21~250g/m2、好ましくは25~200g/m2、さらに好ましくは30~150g/m2(特に30~130g/m2)程度であってもよい。
【0066】
繊維積層体の破断強力は、例えば、繊維積層体製造時の縦方向(MD方向)において、例えば、120~220N/5cm、好ましくは130~200N/5cm、さらに好ましくは140~190N/5cm程度であってもよい。また、繊維積層体製造時の横方向(CD方向)において、例えば、18~45N/5cm、好ましくは19~40N/5cm、さらに好ましくは20~38N/5cm程度であってもよい。
【0067】
繊維積層体の破断伸度は、例えば、繊維積層体製造時の縦方向(MD方向)において、例えば、15~40%、好ましくは18~35%、さらに好ましくは20~33%程度であってもよい。また、繊維積層体製造時の横方向(CD方向)において、例えば、140~180%、好ましくは143~175%、さらに好ましくは145~170%程度であってもよい。
【0068】
本発明の繊維積層体の保水率は、好ましくは700~1500質量%、より好ましくは700~1300質量%、さらに好ましくは710~1000質量%程度である。保水率が低すぎると液状成分を十分に保持できず液だれを起こしたり、使用時間が短くなり十分な効果を発揮することが出来ない傾向がある。一方、保水率が高すぎると液状成分の放出性が低下する傾向がある。
【0069】
本発明の繊維積層体は、肌への密着性に優れており、例えば、化粧料(化粧水)(カネボウ化粧品(株)製「フレッシェル エッセンスローションNA」)をシート質量に対して700質量%含浸させて、ASTM-D1894を参考にして測定した摩擦力(密着性)が、例えば、0.5N~3.0Nであってもよく、好ましくは、0.6~2.7N、より好ましくは0.7~2.5N、さらに好ましくは0.8~2.0N程度である。
【0070】
また、本発明の繊維積層体は、液体含浸量が極めて少ない場合であっても、肌への密着性に優れるとともに、層間の一体性を保持することが可能であり、化粧料(化粧水)(カネボウ化粧品(株)製「フレッシェル エッセンスローションNA」)をシート質量に対して300質量%含浸させて、ASTM-D1894を参考にして測定した摩擦力(密着性)は、例えば、1.0N~4.0Nであり、好ましくは、1.1~3.7N、より好ましくは1.2~3.5N程度である。
また、前記300質量%含浸時には、極細繊維層と非極細繊維層との間での剥離が発生しやすいが、本発明の繊維積層体では、極細繊維層と非極細繊維層との一体性に優れるため、前記摩擦試験に際して層間剥離を起こさないのが好ましい。
【0071】
繊維積層体の湿潤時の25%伸長回復率は、好ましくは60%以上、より好ましくは62%以上、さらに好ましくは63%以上程度である。伸長回復率が低い場合は十分なリフトアップ効果を得られない傾向がある。伸長回復率の上限は特に限定されず高ければ高いほどよいが、例えば95%以下であり、90%以下程度であってもよい。
【0072】
<繊維積層体の用途>
本発明の繊維積層体は、熱可塑性エラストマー繊維の伸縮性を利用できる各種用途に用いることができ、そのままドライの状態で使用してもよい。例えば、ドライの状態で使用して、液状成分を吸収させるための用途では、例えば、本発明の繊維積層体は、対人用途としては、ナプキンやおむつなどの表面材、おむつライナー、汗取りシート(例えば、汗パッド、特に脇汗パッド)などの体液吸収用シート(又は皮膚洗浄用シート)などにも用いることができるし、非対人用途としては、結露吸収シートなどとして、液体吸収シートや液体吸着マットとして用いることもできる。
【0073】
または、本発明の繊維積層体に対して、液状成分を適用してウェットの状態で液体含浸シートとして使用してもよい。液体含浸シートは、ウェットティッシュなどとして汎用の用途に用いることもできるが、本発明の繊維積層体は、皮膚に対する密着性及びフィット性に加えて、保液性に優れるため、対人用途としては、美容成分や薬効成分などの液状成分を含浸させた液体含浸シートとして、皮膚に密着させる用途、例えば、フェイスマスク、メイク除去シート又はクレンジングシート、身体洗浄用シート(汗拭きシート、油取りシートなど)、冷却シート、薬用又は治療用シート(かゆみ抑制シート、絆創膏、湿布など)などの各種スキンケアシートに用いるのが好ましい。また、非対人用途としては、水や薬液を含浸させた対物ワイパー、農業用シート、生物用培地パッド等、人体以外に使用する用途にも好適に利用可能である。
【実施例】
【0074】
以下に、本発明を実施例などによりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。なお、以下の実施例及び比較例における各物性値は、下記の方法により測定または評価した。
【0075】
[繊維の平均繊維径]
走査型電子顕微鏡を用いて繊維構造を観察した。電子顕微鏡写真より無作為に選択した100本の繊維径を測定し、単繊維の数平均繊維径を求め、繊維の平均繊維径とした。
【0076】
[目付(g/m2)]
JIS L 1913を参考にして、温度20℃、湿度65%の標準状態にサンプルを24時間放置後、幅方向30cm×長さ方向30cmの試料を採取し、天秤を用いて重量(g)を測定後、1m×1mあたりの重量に換算し目付とした。
【0077】
[厚さ(μm)]
JIS L 1913を参考にして、厚さ測定器にて12g/cm2の荷重をかけたときの厚さを計測し、厚さとした。
【0078】
[破断強力・破断伸度]
精密万能試験機((株)島津製作所製「オートグラフAGS-D型」)を用いて、JIS L 1913を参考に破断強力と破断伸度の測定を行った。すなわち、繊維積層体製造時の縦方向(MD方向)及び横方向(CD方向)に対して50mm幅、200mm長の試験片を採取した。つかみ部分の幅を10cmに設定したのち、それぞれの試験片の端部をつかみ部分で固定し、300mm/minの速度で破断するまで引っ張り、破断時の試験力の平均値を破断強力とし、移動した距離をつかみ部分の幅10cmで除した値の百分率を伸度とした。
【0079】
[層間剥離強力]
精密万能試験機((株)島津製作所製「オートグラフAGS-D型」)を用いて、JIS L 1085を参考に剥離強力の測定を行った。すなわち、不織布製造時の縦方向に対して50mm幅、200mm長の試験片を採取し、極細繊維層側にクラフトテープを接着させる。その後に試験片端部の極細繊維層と非極細繊維層の層間を剥離させる。剥離させたそれぞれの端部のつかみ部分の幅を5cmに設定したのち、つかみ部分で固定し、200mm/minの速度で引っ張り、その際の試験力の平均値を剥離強力とした。
【0080】
[保水率]
JIS L 1913.6.9.2を参考に測定を行った。すなわち繊維積層体のサンプルを5cm×5cm試験片を採取した後に試験片を精秤する。その試験片を30秒間水中に沈めた後に静かに水中より引き上げ、1分間水を垂らした後再び精秤し、前後の質量の差を保水量とした。保水量から水に浸漬する前の試験片の質量を除した値を百分率で表したものを保水率とした。
【0081】
[密着性]
精密万能試験機((株)島津製作所製「オートグラフAGS-D型」)を用いて、ASTM-D1894を参考に摩擦力を測定した。繊維積層体のサンプルをMD方向(繊維積層体製造時の縦方向、流れ方向)4.0cm×CD方向(繊維積層体製造時の幅方向)11.0cmに切り出し、CD方向において、つかみ部分を1cm、接地部分を10cmとした。さらに、フェイスマスクを想定して、化粧料を含浸させたサンプルを取り出して両手の指先でもみながら均等に拡散させ、化粧料を下記に示す2種類の質量%となるように調整した。特定量の化粧料を含浸したサンプルのつかみ部分をクリップで把持した方向に引っ張る試験を行った。詳細は、摩擦力を測定するためのテーブル上にアクリル板を固定し、肌側使用面を下にして中央にサンプルを載置した。さらに、サンプルをPEフィルムで保護してから錘を乗せ、MD4.0cm×CD10.0cmの範囲に10g/cm2の荷重を均等に10秒間与えた後、錘とPEフィルムを取り除きサンプルをアクリル板と密着させた。その後にロードセルを備えた試験機を用いて、プーリーを介してクリップに結び付けたポリアミド糸を20mm/minの速度で水平に引っ張ることにより、摩擦力を測定した。この時の試験力のピーク値を密着性と定義した。なお、密着性は、下記に示す2種類の条件で測定した。
(1)サンプル質量に対し化粧料を300質量%含浸し、フェィスマスク使用後半の環境を模した条件での密着性の値を得た。
(2)サンプル質量に対し化粧料を700質量%含浸し、フェィスマスク使用開始直後の環境を模した条件での密着性の値を得た。
【0082】
なお、化粧料は、水及び親水性材料を主成分とする水性化粧料であり、水、グリセリン、エタノール、ジプロピレングリコール、マルチトール、PEG-75、ラフィノース、フェニルトリメチコン、カルボマーK、ポリソルベート20、パーフルオロアルキルジメチコンポリオール、1,3-ブチレングリコール、キュウリエキス、PEG-60水添ヒマシ油、キサンタンガム、アロエペラエキス-1、エデト酸塩、フェノキシエタノール、パラベンを含有する組成物である。
【0083】
[厚さに対する繊維積層体表面の凹凸差]
剃刀(フェザー安全剃刀(株)製「フェザー剃刃S片刃」)を用いて、得られた繊維積層体のサンプルの面に対して垂直に、サンプルのMD方向に対して45度に切断した。このサンプルを、デジタル顕微鏡[(株)キーエンス(KEYENCE)製デジタルマイクロスコープ(DIGITALMICROSCOPE)VHX-900]を用いて断面を100倍の倍率で10カ所撮影した。撮影時には断面が横方向に続くように視野に収めた。各画像において、最も厚い部分と最も薄い部分の厚さを測定した後に、最も厚い部分と最も薄い部分の平均値をそれぞれ算出し、その平均値をそれぞれ、TAおよびTBとした。そして、下記式(1)を用いて最も厚い部分と最も薄い部分の厚さの差を最も厚い部分で除したパーセント値を、繊維積層体の厚さに対する繊維積層体表面の凹凸差とした。
(TA-TB)/TA×100 (1)
TA:最も厚い部分の平均値、TB:最も薄い部分の平均値
【0084】
[湿潤時の25%伸長回復率]
JIS L 1913(一般短繊維不織布)6.3.2(湿潤時の引張強さ及び伸び率試験)に記載の方法に準拠して測定した。具体的には、サンプルを20℃±2℃の水中に自重で沈降するまで置くか、又は1時間以上水中に沈めておいた後、浸漬液から取り出して速やかに25%伸長回復率を測定した。
【0085】
繊維積層体の原料として、以下の原料をそれぞれ準備した。
[レーヨン繊維]:再生セルロース繊維、オーミケンシ(株)製「ホープ」、平均繊維径12.6μm、繊維長40mm
[ポリエステル繊維]:ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、東レ(TORAY)(株)製、平均繊維径12.8μm、繊維長51mm
[ポリウレタン樹脂(PU)]:溶融粘度D-65935定温法にて1.0×103~5.0×103Pa・s/200℃
[スチレン系熱可塑性エラストマー]:(クラレプラスチックス(株)製「アーネストン(登録商標)」CJ101)
[ポリプロピレン樹脂(PP)]:MFR(230℃、2.16kg)=1100g/10分
【0086】
[非極細繊維層の作製]
レーヨン繊維を40質量部、ポリエステル繊維を60質量部の割合で用いて均一に混綿した後、目付55g/m2のセミランダムカードウェブを常法により作製し、このカードウェブを開口率25%、穴径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置して速度50m/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して交絡処理を行って、交絡した繊維ウェブ(不織布)を製造した。この交絡処理に当たっては、穴径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を4.0MPaとして行った。さらに、穴径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用して、いずれも高圧水流の水圧5MPaの条件下で行った。さらに120℃で乾燥して、非極細繊維層として厚さ0.40mm及び目付が約51~55g/m2のスパンレース不織布を得た。
【0087】
(実施例1)
ポリウレタン樹脂を用いて、一般的なメルトブローン製造設備を使用し、紡糸温度243℃、エアー温度253℃、エアー圧力0.4MPa、単孔吐出量0.2g/孔・分、口金における紡糸孔数400個(1列配置)にてメルトブローン紡糸を行い、回転するネットコンベア上に前記非極細繊維層を通して、捕集距離を10cmとして捕集し、ポリウレタン繊維の平均繊維径が5.51μm、目付5g/m2の極細繊維層を前記非極細繊維層上に製造し、厚さ0.42mm及び目付58.0g/m2の繊維積層体を巻き取った。
【0088】
得られた繊維積層体の層間剥離強力は1.44N/5cmであり、湿潤時の25%伸長回復率は63.4%であり、使用時に剥離せず良好なリフトアップ効果が得られると評価した。さらに、得られた繊維積層体に化粧料を含浸させ、密着性を測定したところ、700質量%含浸時の密着性は0.89Nとなり、高い密着性を有していた。さらに、300質量%含浸時の密着性は1.66Nとなり、700質量%含浸時よりも高い密着性を有していた。
【0089】
(実施例2)
極細繊維層の目付を10g/m2にした以外は実施例1と同様の方法により、ポリウレタン繊維の平均繊維径が5.46μmであり、厚さ0.46mm及び目付65.6g/m2の繊維積層体を得た。得られた繊維積層体の層間剥離強力は1.06N/5cmであり、湿潤時の25%伸長回復率は72.2%であり、使用時に剥離せず良好なリフトアップ効果が得られると評価した。さらに、得られた繊維積層体に化粧料を含浸させ、密着性を測定したところ、700質量%含浸時の密着性は0.63Nとなり、十分な密着性を有していた。さらに、300質量%含浸時の密着性は1.29Nとなり、700質量%含浸時よりも高い密着性を有していた。
【0090】
(実施例3)
極細繊維層を製造する際の捕集距離を15cmにした以外は実施例2と同様の方法により、ポリウレタン繊維の平均繊維径が4.93μmであり、厚さ0.45mm及び目付65.2g/m2の繊維積層体を得た。得られた繊維積層体の層間剥離強力は0.50N/5cmであり、湿潤時の25%伸長回復率は75.6%であり、使用時に剥離せず良好なリフトアップ効果が得られると評価した。さらに、得られた繊維積層体に化粧料を含浸させ、密着性を測定したところ、700質量%含浸時の密着性は0.67Nとなり、十分な密着性を有していた。さらに、300質量%含浸時の密着性は1.18Nとなり、700質量%含浸時よりも高い密着性を有していた。
【0091】
(実施例4)
極細繊維層を製造する際の紡糸温度を260℃にした以外は実施例2と同様の方法により、ポリウレタン繊維の平均繊維径が1.99μmであり、厚さ0.45mm及び目付64.7g/m2の繊維積層体を得た。得られた繊維積層体の層間剥離強力は0.95N/5cmであり、湿潤時の25%伸長回復率は73.6%であり、使用時に剥離せず良好なリフトアップ効果が得られると評価した。さらに、得られた繊維積層体に化粧料を含浸させ、密着性を測定したところ、700質量%含浸時の密着性は1.09Nとなり、良好な密着性を有していた。さらに、300質量%含浸時の密着性は1.37Nとなり、700質量%含浸時よりも高い密着性を有していた。
【0092】
(実施例5)
スチレン系エラストマーを用いて、一般的なメルトブローン製造設備を使用し、紡糸温度250℃、エアー温度260℃、エアー圧力0.4MPa、単孔吐出量0.2g/孔・分、口金における紡糸孔数400個(1列配置)にてメルトブローン紡糸を行い、回転するネットコンベア上に前記非極細繊維層を通して、捕集距離を10cmとして捕集し、スチレン系エラストマー繊維の平均繊維径が6.61μm、目付10g/m2の極細繊維層を前記非極細繊維層上に製造し、厚さ0.46mm及び目付61.2g/m2の繊維積層体を巻き取った。
【0093】
得られた繊維積層体の層間剥離強力は0.50N/5cmであり、湿潤時の25%伸長回復率は48.8%であり、リフトアップの点では他の実施例より劣るものの、化粧料700質量%含浸時の密着性は1.00Nとなり、使用時に剥離せず、極めて高い密着性を有していた。さらに、300質量%含浸時の密着性は1.20Nとなり、700質量%含浸時よりも高い密着性を有していた。
【0094】
(比較例1)
ポリプロピレン樹脂(MFR=1100g/10分)100質量部を用いて、一般的なメルトブローン製造設備を使用し、紡糸温度285℃、エアー温度275℃、エアー圧力0.4MPa、単孔吐出量0.2g/孔・分、口金における紡糸孔数400個(1列配置)にてメルトブローン紡糸を行い、回転するネットコンベアを支持体として捕集し、目付5g/m2のメルトブローン不織布からなる極細繊維層を製造し、巻き取った。
次にレーヨン繊維を40質量部、ポリエステル繊維を60質量部の割合で用いて均一に混綿した後、目付60g/m2のセミランダムカードウェブを常法により作製し、このカードウェブを開口率25%、穴径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置して速度50m/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して交絡処理を行って、非極細繊維層を製造した。この交絡処理に当たっては、穴径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を4.0MPaとして行った。先に製造した目付5g/m2の極細繊維層を巻き出し装置から巻き出し、非極細繊維層と重ね合わせ、さらに細かい網目を有する全体に平坦な支持体に載置して連続的に移送すると共に高圧水流を噴射して交絡処理を行って、2つの不織布を構成する繊維を交絡させることによって複合させた。この交絡処理は、穴径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用して、いずれも高圧水流の水圧5MPaの条件下で行った。さらに130℃で乾燥して、厚さ0.40mm及び目付64.0g/m2の繊維積層体を得た。
【0095】
得られた繊維積層体の層間剥離強力は0.99N/5cmであり、十分な剥離力が得られたが、熱可塑性エラストマー繊維を用いていないため、湿潤時の25%伸長回復率は38.8%であり、リフトアップ効果が不十分であった。また、化粧液300質量%含浸時の密着性も、実施例より劣っていた。
【0096】
(比較例2)
比較例1の方法で製造した極細繊維層と非極細繊維層とを、圧着面積3.3%の熱エンボスロールを用いて部分的熱圧着により積層し、厚さ0.42mm及び目付57.8g/m2の繊維積層体を得た。得られた繊維積層体の層間剥離強力は0.22N/5cmと低く、湿潤時の25%伸長回復率は41.6%とリフトアップ効果が不十分であり、さらに化粧液を300質量%含浸させて密着性を測定した際に剥離した。また、エンボス加工に由来して凹凸差が大きいため、700質量%含浸時の密着性も、実施例より劣っていた。さらに、エンボス加工以外の積層を行っていないため、繊維積層体の破断強度は、縦方向および横方向の双方において、実施例の半分以下であった。
【0097】
(比較例3)
極細繊維層を製造する際の捕集距離を25cmにした以外は実施例2と同様にして、極細繊維層を非極細繊維層上に作製し、さらに圧着面積3.3%の熱エンボスロールを用いて部分的熱圧着を行って、ポリウレタン繊維の平均繊維径が5.44μmであり、厚さ0.38mm及び目付66.3g/m2の繊維積層体を製造した。得られた繊維積層体の層間剥離強力は1.57N/5cmであり、層間は強固に接着していたが、化粧液を700質量%含浸させた際の密着力は0.37Nで、密着性が不十分であり、使用時に剥離する可能性がある繊維積層体となった。また、エンボス加工に由来して凹凸差が大きいため、700質量%含浸時の密着性も、実施例より劣っていた。さらに、ダイレクトブローンを行っていても、捕集距離が離れているためダイレクトブローンによる効果を得ることができず、たとえエンボス加工を行ったとしても、繊維積層体の破断強度は、縦方向および横方向の双方において、実施例よりも低い値であった。
【0098】
(比較例4)
極細繊維層を製造する際の捕集距離を25cmにした以外は実施例2と同様の方法により、ポリウレタン繊維の平均繊維径が5.44μmであり、厚さ0.44mm及び目付65.8g/m2の繊維積層体を得た。得られた繊維積層体の層間剥離強力は0.09N/5cmと低く、化粧液を300質量%含浸させて密着性を測定した際に剥離した。
【0099】
(比較例5)
極細繊維層を製造する際の捕集距離を5cmにした以外は実施例1と同様の方法により、繊維積層体の製造を試みたが、捕集距離が近すぎたため、極細繊維が融着してフィルム化したため、極細繊維層を有する繊維積層体を製造することが出来なかった。得られた積層体に化粧料を含浸させ、密着性を測定したところ、極細繊維層のフィルム化により、700質量%含浸時の密着性は0.18N、300質量%含浸時の密着性は0.08Nと低い値となり、密着性が不十分であった。
【0100】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の繊維積層体は、繊維積層体としての十分な機械的強度及び伸度を確保しながら、保液性及び剥離強力に優れ、さらに伸縮性及び密着性に優れるためリフトアップ効果を与えることが可能であるため、液状成分を吸収させて使用するための用途、例えば、ナプキンやおむつなどの表面材、おむつライナーなどの体液吸収用シートや、ウェットティッシュなどの皮膚洗浄用シート、フェイスマスクなどの液体含浸シートなどとして好適に利用することができる。